弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人の控訴趣意は、被告人はA方からは現金一万六千円を窃取したことはない
というのであるけれども、原判決は被告人はA方から薬品、約束手形四通、小切手
帳二冊及び株券二十枚外雑品等約八点を竊取した事実を認定しているのであつて、
現金を竊取したことは認定していないのであるから、所論は原判決の事実誤認を非
難することにもならないし、その他適法な控訴理由として採用することはできな
い。
 弁護人木下三四彦の控訴趣意第一点は、原審における第一回公判期日は昭和二十
六年四月十七日であるに拘わらず、被告人に対する召喚状は同月十四日に送達され
たものであるから、右は刑事訴訟法第二百七十五条刑事訴訟規則第百七十九条第二
項に規定する猶予期間を存しないものであつて、原審の審判は訴訟手続に違反し、
憲法に違反するものであるというのである。
 よつて記録を調査するに、原審第一回公判期日及び被告人に対する召喚状の送達
が弁護人の主張の通りであ<要旨>つて、その間法定の五日間の猶予期間を存しない
ことは、まことに所論の通りである。しかしながら刑事訴訟規則第百七十九
条第三項には、被告人に異議がないときは、右の猶予期間を置かないことができる
旨規定されており、しかも被告人に異議のないことについては予め明示されなくて
も、その公判期日において被告人が異議を申立てることをしないで審理を受けた場
合でもよいものと解すべきであり(大審院昭和四年七月四日判決、刑事判例集八巻
三九四頁参照)、又右訴訟規則の規定及びこれに対する右のような解釈は憲法に違
反するものではないと解するのであるが、今本件につき原審第一回公判調書を検討
するに被告人は右の点について何等異議を申し述べた形跡は認められないし、一件
記録を通じてもそのことは認められないのであるから、結局本件においては法定の
猶予期間を置かなくてもそれは手続の違法とはならないものである。
 次に同弁護人控訴趣意第二点は、原判決の量刑が不当であるというのであるけれ
ども、記録に現われた事実によれば被告人には原判決にも説明の通り竊盗の前科が
あるし、その他の情状を見るときは原判決の量刑は決して重きにすぎるものとは思
われない。
 よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却
し、当審の訴訟費用の負担については同法第百八十一条第一項を適用の上主文の通
り判決する。
 (裁判長判事 竹村義徹 判事 河野力 判事 長友文士)

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