弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A外四名の弁護人小沢茂、同青柳盛雄、同森長英三郎、同牧野芳男、同藤
井英夫、同林百郎、同岡林辰雄の上告趣意第一点について。
 昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかゝわりなく憲法外において法的効力
を有するものであることは、昭和二四年(れ)第六八五号同二八年四月八日言渡当
裁判所大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第二点に対する判断の示すところ
であつて論旨は理由がない。
 同第二点及び第四点について。
 所論マツクアーサーの書簡は連合国最高司令官の要求を表示したものであり、い
わゆる国鉄従業員が右書簡にいう公務員に包含せられ従つて右政令第二〇一号の公
務員にあたることは、前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第三点に対す
る判断の示すところである。又マツクアーサー書簡は公務員の争議権を制限調整す
る法的措置が時を移さず着手さるべきことを要求していたのであるから、政府が本
件政令を制定したのは、右要求を実施するため特に必要あつたものと解するのを相
当とする。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 本件政令第二〇一号が憲法二五条及び同二八条に違反しないことは、前記大法廷
判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第四点に対する判断の示すところであるから論
旨は理由がない。
 同第五点について。
 本件政令第二〇一号が公務員のいわゆる職場離脱を処罰するからといつて同政令
が国民に憲法一八条にいわゆる奴隷的拘束を加え又は、その意に反して苦役を科す
るものであるということはできないこと前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告
趣意第五点に対する判断の示すところであつて論旨は理由がない。
 同第六点について。
 被告人等が処罰されるのは被告人等が所論のような見解を抱いていたといら理由
によるのではなく、被告人等は、職場離脱をしてでもその主張を貫徹しようと共謀
し、これに基き被告人A、同C、同Dにおいて職場を離脱して、国の業務運営を阻
害する争議手段をとつたがためであるから、原判決が憲法一九条及び二一条に違反
するという論旨は理由がない(前記大法廷判決中弁護人小沢茂の上告趣意第七点に
対する判断参照)。
 同第七点にいて。
 前記政令第二〇一号が失効する前に同令二条一項に違反した行為については、右
政令失効後なお処罰を免れないもので、所論のように刑の廃止があつたものとはい
えないことは前記大法廷判決中弁護人小沢茂の上告趣意第四点に対する判断に徴し
明らかであるから論旨は理由がない。
 被告人A外四名の弁護人布施辰治の上告趣意について。
 昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかゝわりなく、憲法外において法的効
力を有することは、前記本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第一点において判示し
たとおりであり、右勅令の要件を充して制定された昭和二三年政令第二〇一号も亦
同様法的効力を有すること当然である。そして右政令第二〇一号が右勅令の要件を
充していることも亦右弁護人小沢茂外六名の上告趣意第二点及び第四点について判
示したとおりであるから、論旨はいずれも理由がない。
 被告人Aの上告趣意第一点について。
 わが国はポツダム宣言を受諾し、降伏文書に調印し連合国に対して無条件降伏を
した結果、わが国は、ポツダム宣言を実施するため連合国最高司令官が要求するこ
とあるべき一切の指令を発し、且つ一切の措置をとることを約した(降伏文書六項)、
(前記大法廷判決中、弁護人森長英三郎の上告趣意第二点に対する判示参照)。そ
して所論昭和二三年政令第二〇一号は、右降伏文書上の義務に従い右ポツダム宣言
を実施するため連合国最高司令官のなした要求に基き、昭和二〇年勅令第五四二号
により制定されたものである。従つてわが国としては右政令が、ポツダム宣言に違
反するものということはできないのであつて、右政令は同宣言に違反するとの所論
は採用できない。又所論極東委員会一六原則なるものは、連合国の日本管理に関す
る基本方針を決定する極東委員会が日本の労働運動に対する政策として決定し一九
四六年一二月六日附で連合国最高司令官に指令したものでわが国に対し与えられた
ものではないから、右政令の関知するところではない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかゝわりなく法的効力を有すること、
前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第二点に対する判断の示すところで
ある。そして右勅令が日本国憲法施行後も憲法外において法的効力を有する以上こ
れに基いて発せられた右政令第二〇一号も、同様法的効力を有し、昭和二二年法律
第七二号第一条によりその効力に消長を来たすことはない。又所謂マツクアーサー
の書簡が要求であり、右政令第二〇一号は右要求に従つて制定されたもので有効で
あること、及び右政令が憲法二八条に違反するものでないことは前記大法廷判決中
弁護入森長英三郎の上告趣意第三点及び第四点についての判断の示すとおりである
から所論はいずれも理由がない。
 同第三点及び第四点について。
 原判決の確定した事実によれば、被告人等の所為は国の業務運営能率を阻害する
危険性ある争議行為であつて、右事実は原判決挙示の証拠で認められる。そして右
政令第二〇一号違反の罪が成立するためには、必ずしも業務運営の能率を阻害する
という具体的結果の発生することを要せずただ右能率を阻害する危険性があれば足
りること、前記大法廷判決中弁護人福田力之助の上告趣意第四点に対する判断の示
すところである。論旨は理由がない。
 被告人Cの上告趣意第一点乃至第三点について。
 昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかゝわりなく法的効力を有すること、
前記政令第二〇一号が憲法二一条、二八条に違反しないことは前記大法廷判決中弁
護人森長英三郎の上告趣意第二点、第四点、弁護人小沢茂の上告趣意第七点につい
ての判断の示すところである。
 又所論マツクアーサーの書簡がいわゆる連合国最高司令官の要求であること、右
政令第二〇一号がとりあえず団体交渉権禁止の点だけを規定し、労働条件改善につ
いては別途の措置を講ずるものとしたとしても同政令がマツクアーサー書簡の要求
を充さないものとはいえないことは、前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣
意第三点に対する判断の示すところである。更に、右政令第二〇一号は所論極東委
員会の労働一六原則と何等関知するものでないことは、被告人Aの上告趣意第一点
につき説明したとおりである。
 論旨はいずれも理由がない。
 同第四点及び第五点について。
 所論の理由ないことは被告人Aの上告趣意第三点及び第四点に対し説明したとお
りである。
 被告人Eの上告趣意第一点の(一)及び第二点の(一)について。
 論旨いずれも理由のないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意の各論点、
同弁護人布施辰治の上告趣意の各論点、及び被告人Aの上告趣意第一点に対する各
判断において説明したとおりである。
 同第一点の(二)について。
 所論検事の聴取書の被告人の供述が拷問その他の強制によるものであることを窺
わしめるような証跡はないから論旨は理由がない。
 同第二点の(二)(三)について。
 被告人等の所為が右政令第二〇一号にいう争議行為であることは、被告人Aの上
告趣意第三点及び第四点について説明したとおりでおり、その余の所論は、要する
に原判決の事実認定を非難するに止まり上告適法の理由とならない。
 被告人Dの上告趣意第一点について。
 右政令第二〇一号がポツダム宣言、極東委員会の日本労働組合一六原則に反する
との論旨の理由ないこと、マツクアーサー書簡が連合国最高司令官の要求であるこ
と、昭和二〇年勅令第五四二号が憲法外において法的効力を有し、従つて右政令第
二〇一号も同様法的効力を有すること、右政令第二〇一号が憲法二八条に違反しな
いことは、いずれも被告人Aの上告趣意第一点及び第二点に説明したとおりであつ
て論旨はすべて理由がない。
 同第二点及び第三点について。
 被告人等の所為が争議行為でないとの所論、又国の業務運営能率を阻害したこと
はないとの所論の理由ないことは、被告人Aの上告趣意第三点、第四点について判
示したとおりであり、被告人等を右政令第二〇一号違反として処罰することが思想
を処罰するものでないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第六点において
判示したとおりである。論旨はいずれも理由がない。
 被告人Fの上告趣意第一点について。
 論旨の理由ないことは被告人Aの上告趣意第一点及び第二点に判示したとおりで
ある。
 同第二点乃至第四点について。
 マツクアーサー元帥の書簡が連合国最高司令官の要求であることは本件弁護人小
沢茂外六名の上告趣意第二点及び第四点につき判示したとおりである。又右政令第
二〇一号が憲法二八条に違反しないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第
三点に対する判断の示すとおりであるから、右政令が憲法九七条、九八条に違反す
ることもなく、原判決が憲法七六条に反することもない。論旨は理由がない。
 同第五点について。
 鉄道職員はマツクアーサー書簡にいわゆる公務員のうちには包含されないとの所
論、被告人等の所為は争議行為ではないとの所論、国鉄職員の福祉施設をしないで、
争議権を制限したのは違法であるとの所論、被告人等の行為は、国の業務運営の能
率を阻害しないとの所論いずれも理由ないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告
趣意第二点及び第四点に対する判断、被告人Aの上告趣意第三点及び第四点に対す
る判断、被告人Cの上告趣意第一点乃至第三点に対する判断に示したとおりであり、
その余の所論は、原判決の事実認定を非難するか又は何等理由なき独自の見解を主
張するに止まり上告適法の理由とならない。
 よつて、旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官栗山茂の、弁護人小沢茂外六名の上告趣意第一点及び第三点
(これらと同旨の他の各上告趣意についても同じ)に対する意見及び裁判官真野毅
の反対意見を除き、裁判官全員一致の意見である。
 裁判官栗山茂の意見及び裁判官真野毅の反対意見は前記大法廷判決記載のとおり
である。
 裁判長裁判官塚崎直義、裁判官長谷川太一郎、同澤田竹治郎、同穂積重遠は合議
に干与しない。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二八年六月三日
     最高裁判所大法廷
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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