弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人杉島勇、同杉島元、同山崎幸三の上告理由第一について
 一 地方自治法(以下「法」という。)二四二条二項本文は、普通地方公共団体
の執行機関・職員の財務会計上の行為は、たとえそれが違法・不当なものであつた
としても、いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことが
法的安定性を損ない好ましくないとして、監査請求の期間を定めた。しかし、当該
行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ、一年を経過してからはじめ
て明らかになつた場合等にも右の趣旨を貫くことが相当でないことはいうまでもな
い。そこで、同項但書は、「正当な理由」があるときは、例外として、当該行為の
あつた日又は終わった日から一年を経過した後であつても、普通地方公共団体の住
民が監査請求をすることができるとしたのである。したがつて、右のように当該行
為が秘密裡にされた場合、同項但書にいう「正当な理由」の有無は、特段の事情の
ない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもつて調査したときに客観的
にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができた
と解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによつて判断すべきもの
といわなければならない。
 二(一) 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 (1) 被上告人は、a町で税理士を開業する住民であつて、町の予算の執行状況
について一般の住民に先んじてその内容を知りうる公職にある者ではない。
 (2) a町長である上告人A1は、府営D地区かんがい排水事業の用地買収の補
償金として、昭和五五年四月一九日上告人A2に対し八八五万九二二六円を、同月
二六日上告人A3に対し五二万〇七七四円をそれぞれ支払つた(以下「本件支出」
という。)。
 しかし、本件支出は、予算外収入の金員でされた予算外支出であつたため、関係
者以外には秘密とされ、一般の住民はもちろん町議会もこれを知らなかつた。
 (3) 町議会議員Eは、本件支出を単独で調査し、昭和五九年六月二七日、同年
第二回a町議会定例会(会期・昭和五九年六月二五日から同年七月九日まで)にお
いて、町長(上告人A1)に対し、関連質問として、本件支出及びその前提となる
町長の同意(町長が昭和五五年三月a町内で住宅地開発事業をしていた企業三社に
対し当該事業計画区域から流出する雨水を河川に流人させることについてした同意。
以下「本件同意」という。)と予算外収入との事実関係を突然質したので、町長(
上告人A1)はその事実関係を説明して陳謝した。
 そこで、町議会は、法一〇〇条に基づく調査を行うため特別委員会の設置を議決
した。
 (4) 新聞、テレビ、ラジオは、町議会におけるE議員の右の質疑について報道
しなかつた。
 しかし、昭和五九年一〇月a町の住民に全戸配布された広報誌「a町議会だより
第二五号」は、「六月定例議会 用地買収費 予算計上せず処理 議会、百条調査
権を発動」という大見出し及び「予算不法執行に再び町長陳謝する」という小見出
しを掲げて、右の質疑を報じた。
 (5) 右町議会定例会の会議録は、昭和六〇年二月五日ころに至つても調製され
なかつた。
 (6) 法一〇〇条に基づく調査のため設置された用地買収事業調査特別委員会は、
約七回にわたり審議を遂げ、町議会議長に対し、昭和六〇年三月二九日付報告書を
提出した。しかし、同委員会は、全委員の了解のもとに、資料についてはその公開
を制限し、複写を禁止したうえ、その委員長の判断により事実上住民の傍聴を制限
したため、一般の住民に対しては非公開の形で運営された。
 (7) 被上告人は、前記(3)の質疑のされた町議会定例会を傍聴しなかつたし、
事前にその質疑のあることも知らなかつた。しかし、被上告人は、昭和五九年一〇
月中旬配布を受けた「a町議会だより第二五号」を見て、本件同意及び予算外収入
の存在並びに用地買収事業調査特別委員会の設置を知つたので、同委員会が事件の
真相を解明するものと期待していた(したがつて、被上告人は、昭和六〇年二月六
日に至るまで町議会議員から右の町議会定例会及び同委員会の質疑応答の内容を聞
いたことはない。)ところ、昭和六〇年二月六日の新聞記事によつてはじめて本件
支出の概要を知り、同月七日、知人の町議会議員から同委員会の審議内容を聞き、
資料の提供をうけた。
 (8) 被上告人はa町監査委員に対し昭和六〇年三月八日本件支出について監査
請求をした(以下「本件監査請求」という。)ところ、a町監査委員は被上告人に
対し同年四月三〇日本件支出は違法ではあるが無効とするにはあたらない旨の通知
をした。
 そこで、被上告人は同年五月二九日第一審裁判所に本件訴えを提起した。
 (二) そして、本件の訴訟記録によれば、右の「a町議会だより第二五号」には、
その記事として、「議会は、五十四年度施行のDかんがい排水事業の用地買収執行
について追求したところ、F・G・Hの開発業者より、千三百十八万円を受領し、
その内三百八十万円は五十四年度会計に計上してあるが、残る九百三十八万円を予
算計上」しなかつたこと、及び、「昭和五十四年度のD地区かんがい排水事業に関
連する用地買収費の九百三十八万円が計上されていない事が明らかになり、町長は
又も陳謝した。」ことを記載してあることが明らかである。
 三 前記一の説示に徴すると、右二の事実関係のもとにおいては、被上告人らa
町の住民にとつて、遅くとも「a町議会だより第二五号」が配布された昭和五九年
一〇月中旬までには、町長である上告人A1が府営D地区かんがい排水事業の用地
買収の補償金として町の公金九三八万円を違法又は不当に支出したことが明らかに
なつた筈であり、被上告人らa町の住民がこの時から相当な期間内に監査請求をし
たかどうかによつて法二四二条二項但書にいう「正当な理由」の有無を判断すべき
ところ、被上告人は右の時から四か月余を経過した昭和六〇年三月八日になつては
じめて本件監査請求をしたのであるから、本件監査請求が本件支出のあつた日から
一年を経過した後にされたことについて同項但書にいう「正当な理由」があるとい
うことはできない。
 なお、町議会が法一〇〇条に基づく調査を行うため用地買収事業調査特別委員会
を設置し、同委員会が本件支出の調査を進めていたとしても、そのことは監査請求
ないし住民訴訟の提起とはなんらかかわりがないから、被上告人が同委員会の調査
の動向を見守つていた故をもつて、本件監査請求について法二四二条二項但書にい
う「正当な理由」があるということはできない。
 また、a町監査委員が本件監査請求について誤つて法二四二条二項但書にいう「
正当な理由」があるとしてこれを受理し、監査を行つたとしても、そのことによつ
て、監査請求の期間を徒過した本件監査請求ひいては本件訴えが適法となるもので
はないことも当然である。
 四 以上によれば、本件訴えは、適法な監査請求を経ていないから、不適法な訴
えとして、これを却下すべきものである。そうすると、これと異なる見解に立つて、
本件訴えを却下した第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻した原審
の判断は、法律の解釈適用を誤つたものといわざるを得ず、その違法が判決に影響
を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、右に判示したところと結論を同じくする第一審判決は結局正当というべき
であるから、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、
八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香       保   一
            裁判官    奧   野   久   之

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