弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,Aに対し,250万円及びこれに対する平成21年5月1
5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せ
よ。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを8分し,その3を原告の負担とし,その余を被
告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,Aに対し,400万円及びこれに対する平成21年5月15日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
本件は,うきは市(以下「市」という。)の住民である原告が,市長の職に
あったAが,江南地区地域振興会に対して,公益上必要のない補助金250万
円を支出し(以下「本件補助金支出」といい,同支出に係る金員を「本件補助
金」という。),また,本来市が負担すべきでない財団法人江南福祉会の管理
人に対する移転補償費150万円の支出を阻止すべき指揮監督上の義務に違反
したため,同移転補償費が支出され(以下「本件移転補償費支出」といい,同
支出に係る金員を「本件移転補償費」という。また,本件補助金支出と本件移
転補償費支出を併せて「本件各公金支出」という。),市に合計400万円相
当の損害が生じたとして,被告に対して,地方自治法242条の2第1項4号
に基づき,Aに対し,市に対する不法行為に基づく損害賠償として400万円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年5月15日から支払済
みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することを求めた事案であ
る。
1法令等の定め
(1)地方自治法(以下「法」という。)の定め
232条の2
普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助
をすることができる。
(2)うきは市補助金等交付規則(平成17年うきは市規則第37号,以下「本件
補助金等規則)の定め(甲56)
1条(目的)
この規則は,法令に特別の定めのあるもののほか,補助金等の交付の申請,
決定等に関する事項その他補助金等に係る予算の執行に関する基本的事項を
定めることにより,補助金等に係る予算執行の適正化を図ることを目的とす
る。
2条(定義)
この規則において「補助金等」とは,市が市以外の者に対して交付する次に
掲げるものをいう。
1項
1号
補助金及び交付金(市長が別に定める交付金を除く。)
2項
この規則において「補助事業等」とは,補助金の交付の対象となる事務又
は事業をいう。
3項
この規則において「補助事業者等」とは,補助事業等を行う者をいう。
9条(補助事業等の遂行)
補助事業者等は,法令の定め並びに補助金等の交付の決定の内容及びこれに
付した条件その他法令に基づく市長の処分に従い,善良な管理者の注意をもっ
て補助事業等を行わなければならず,いやしくも補助金等の他の用途への使用
をしてはならない。
(3)うきは市まちづくり交付金交付要綱(平成20年うきは市告示第57号,以
下「本件交付金要綱」という。)の定め(甲20)
1条(趣旨)
この告示は,市内の法人その他の団体が行なうまちづくり事業に対して交付
する交付金に関して,必要な事項を定める。
2条(交付対象)
交付金の交付対象は,まちづくり事業を行う法人その他の団体(以下「実施
主体」という。)で市長が認めたものとする。
3条(交付対象事業)
交付金は,前条に規定する実施主体が行う次に掲げる事業で3年以内に完了
するものに要する経費について交付する。
(1)地域の振興に関する事業
(2)住民の福祉に関する事業
(3)その他,市長が認める事業
5条(交付申請)
交付金の申請をしようとする実施主体は,交付金交付申請書に事業実施計画
書を添えて市長に提出しなければならない。
(4)うきは市地区公民館活動補助金交付要綱(平成19年うきは市教育委員会告
示第13号,以下「本件公民館補助金要綱」という。)の定め(甲47)
2条(補助金を受けることができる者)
補助金の交付を受けることができる者は,うきは市地区公民館長会(以下「館
長会」という。)とする。
3条(補助金の対象となる事業)
補助金は,館長会が行う次に掲げる事業を対象として,これに要する経費に
ついて交付する。
1号
うきは市の地区公民館運営に伴う活動
2前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア原告は,市の住民である。
イ被告は,法148条,138条の2等に基づいて,市の執行機関として,
予算その他の事務を執行する等の責任を負っている者である。
ウAは,本件各公金支出があった当時,市長として法148条,138条の
2等に基づいて,市の執行機関として,予算その他の事務を執行する等の責
任を負っていた者である。
エ財団法人江南福祉会(以下「福祉会」という。)は,昭和41年に設立さ
れた市のB町C地域を活動対象とする団体で,平成19年7月31日に解散
したものであるが,解散に伴って,同団体が有する土地・建物等の残余財産
を市に寄附したものである。
オ江南地区地域振興会(以下「振興会」という。)は,福祉会の役員がその
役員となって,平成19年11月29日に設立された団体で,本件交付金要
綱に基づいて補助金250万円の交付を受けたものである。
カうきは市C公民館は,平成19年4月1日,市が,社会教育法21条,2
4条に基づいて設立した公民館である。
(2)本件補助金支出の経緯
ア市は,平成18年7月20日,福祉会が所有している建物(C福祉会館,
以下「本件公民館建物」という。)を,市が設置するC校区の地区公民館の
建物として活用したいとして,同建物の譲渡を打診した(甲28)。
イ福祉会は,同年9月28日,市の上記アの打診に対して,福祉会が所有す
る土地及び建物を,市に,有償で譲渡したい旨回答した(甲29)。
ウ市は,平成19年3月8日,上記イの回答を受け,本件公民館建物の購入
費として1200万円を平成19年度当初予算として計上するとともに,同
月28日,市の公民館条例を一部改正し,同年4月1日から,C公民館を設
置することとした(甲1,21,27,45,55)。
そして,市は,同年4月1日,C公民館の建物として使用するため,本件
公民館建物につき,貸借期間を同日から福祉会が同建物を市に譲渡するまで
の間と定め,福祉会と使用貸借契約を締結し,その引渡しを受けた(甲22)。
エ福祉会は,上記イのとおり,本件公民館建物を有償で譲渡しようとしてい
たが,そのために必要な福岡県知事の承認を得ることが困難となったため,
本件公民館建物については,福祉会の寄附行為25条(甲5の別添資料参照)
に基づいて,市に寄附することとなった(甲44,弁論の全趣旨)。
オ福祉会は,福岡県知事に対して,同年6月15日,同月8日に開催された
理事会において,福祉会の解散及び福祉会の残余財産すべてを市に対して寄
附することが承認されたとして,同解散及び寄附についての許可を申請した
(甲5)。
カ福岡県知事は,同年7月11日,福祉会の上記オの申請を許可した(甲6)。
キ市と福祉会は,同年11月5日,市が福祉会から福祉会の残余財産の一部
である本件公民館建物及び同建物の敷地など土地2筆の寄附を受ける内容
の契約を締結した(甲7)。
ク同年11月28日,市の議会運営委員会が開催され(甲30),上記エの
事情から,市から福祉会に支払われなかった本件公民館建物の建物費用12
00万円を市が補助金という形で振興会に支払う旨の話がなされ,翌日,市
の行政指導のもと,振興会が設立された。
ケ市は,同年12月6日,上記ウの本件公民館建物購入費用として計上した
1200万円全額を振興会に対する補助金として当初の予算の組替えを行
った(甲26)。
振興会は,上記補助金1200万円について,基金として積み立て,複数
年度で事業を実施していきたいとの意向を有していたが,予算執行の段階
で,補助金の交付は,年度内の事業の執行が基本であり,基金積立ては適切
でないと市が判断したため,支払方法について,別途考慮することとなった。
コ平成20年3月31日,本件交付金要綱が制定され,振興会は,本件交付
金要綱に基づいて,交付金交付申請書(甲8)にC地区まちづくり事業計画
書(甲9)を添えて,Aに提出した。
サこれに対して,Aは,同日,本件交付金要綱に基づいて振興会に対して2
50万円の補助金を支出することを決定し(甲10),同年4月24日,本
件補助金支出がなされた(甲11)。
(3)本件移転補償費支出について
ア福祉会が解散する前,福祉会においては,本件公民館建物等の管理人業務
を行っていたD(以下「本件管理人」という。)が,後に市が寄附を受けた
福祉会所有の土地上に存在する建物(以下「本件管理人棟」という。)に居
住していたが,C公民館においては,管理人を必要としなかったため,本件
管理人に,本件管理人棟から退去してもらう必要があった。
イ市と福祉会は,平成20年6月20日,本件管理人棟の寄附を受ける内容
の契約を締結した(甲12)。
ウ市は,同年7月1日,本件管理人との間で,市が本件管理人に対して,本
件管理人棟からの移転補償費として150万円を支払うことを内容とする
移転補償契約を締結した(乙11)。
エ市の副市長は,同月11日,上記ウの契約に係る移転補償費150万円の
支出を決定し(甲13),同月24日,同決定に基づいて支出命令が出され
(甲14),同月31日,本件移転補償費支出がなされた(甲15)。
オその後,本件管理人棟は取り壊され,同建物の跡地に,C公民館の建物が
増築された(甲49,乙3,4)。
(4)住民監査請求等
ア原告は,平成21年2月5日,市の監査委員に対し,本件各公金支出は違
法であるとして,被告においてAに対し損害賠償として400万を請求する
などの措置を求める住民監査請求をした(甲25)が,同請求は,同年3月
30日付けで,棄却された(甲26)。
イ原告は,同年4月24日,本件訴えを提起した。
3争点
(1)本件補助金支出について
(原告の主張)
福祉会は,当初,市に対して,本件公民館建物を1200万円で有償譲渡す
る予定だったが,これに対する福岡県知事の許可を得ることができなかったた
め,同建物を寄附することとなった。
このため,市は,本件公民館建物購入のための予算として計上した1200
万円を,補助金という形で受け取らせるための架空の団体として振興会を設立
させた上,同団体に対して250万円を交付しているが,これは公益上必要な
い補助金の支出であり,法232条の2に違反するものである。
実際に,振興会は,事業実施の意思がなかったため,本件補助金を何ら事業
に用いることはなく,C公民館に全額を不適切に助成している。これは本件補
助金等規則が禁止している補助金の流用に当たるものであり,違法である。
(被告の主張)
一般に,補助金支出が違法であるというためには,同支出をした行政の判断
が,その裁量を逸脱・濫用したものと判断すべき程度に不合理なものであるこ
とが必要であるところ,本件補助金支出は,以下のとおり,そのような裁量逸
脱・濫用はなく,適法である。
ア手続の適法性
本件補助金支出は,平成20年3月31日に制定され公示された本件交付
金要綱に基づいてなされた振興会の交付申請に基づき,交付決定され,支出
されたものであり,その手続は,適法かつ適正である。
イ対象団体の性格等
振興会は,被告のC地区に居住する住民を対象に,地域の振興を促し,豊
かで温もりに満ちた地域づくりを目的とした地域の振興に関する事業,住民
の福祉に関する事業,住民の親睦融和を図るための事業,その他目的達成に
必要な事業を行う団体であり,解散した福祉会の活動を引き継ぐものであ
る。
Aは,福祉会が,長年,C地区の福祉及び振興の活動を行い,地域に多大
な貢献をしたことに鑑み,福祉会の活動を引き継ぐ振興会が,うきは市まち
づくり交付金の事業団体として適切であると考えたため,本件補助金支出を
行ったものであり,そこに何ら不適切な点はない。
ウ交付に至る経緯
市の大半の公民館が国庫補助金等を利用して公設されたのに対し,C公民
館は,C地区住民らが組織した福祉会から,被告が寄附を受けて設けられた
経緯があり,福祉会と目的を同じくし,同一の事業を行う振興会が補助金の
交付を受けるのは妥当である。
エ補助金交付の目的・効果
本件補助金支出により,振興会がC公民館と連携して事業を行い,結果と
してC地区の振興に関する事業を行うことができたのであり,これが本件補
助金支出の目的・効果である。
なお,原告は,振興会がC公民館に対し,本件補助金支出に係る250万
円を全額納入し,毎年50万円を公民館活動費として繰り入れ,独自の事業
を実施していないことを問題とするが,これは本件補助金支出当時の事情で
はなく,その後の事情を問題とするものであり,失当である。
オ地方財政に及ぼす影響
本件補助金支出に係る補助金は250万円であり,極めて多額というわけ
ではない。また,市は,振興会の拠出により設立維持された本件公民館建物
の寄附を受けており,同建物は少なくとも1200万円の価値がある。
これらの事情からすれば,本件補助金支出が市の財政に悪い影響を与える
とは認められない。
(2)本件移転補償費支出に違法性が認められるか(争点2)
(原告の主張)
本件管理人の本件管理人棟からの退去については,福祉会が責任をもって行
うこととなっていて,また,市と福祉会が締結した本件管理人棟の寄付契約に
おいても,同契約締結後,本件管理人棟につき,権利を主張する第三者がある
とき,福祉会の責任において処理するものとするとされていたのであるから,
市は,本件管理人に対して何ら移転補償金等を支払う義務がなかったにもかか
わらず,本件管理人と移転補償契約を締結し,本件移転補償費支出を行ったも
のであり,同支出は違法である。
なお,本件移転補償費支出に係る支出負担行為を行ったのはAではなく,当
時の市の副市長であるが,Aは,上記市と本件管理人との移転補償契約の締結
の決済を行っており,本件移転補償費支出に関与している。
(被告の主張)
確かに,市と福祉会が締結した本件管理人棟に関する寄付契約においては,
原告が主張するように,同契約締結後,本件管理人棟につき,権利を主張する
第三者があるとき,福祉会の責任において処理するものとするとの条項がある
が,本件管理人は,同条項でいう第三者ではなく,同契約においては,本件管
理人棟について,市に所有権を移転したときに,現状のまま引渡しがあったと
するとされているのであるから,市は,本件管理人が居住した状況で本件管理
人棟の寄附を受けたにすぎない。
しかし,C公民館においては,管理人を必要としなかったため,本件管理人
を継続して本件管理人棟には住まわせず,同建物から退去してもらうため移転
補償費を支払うこととなった。
上記移転補償費の額の算定の際には,市の顧問弁護士と相談の上,本件管理
人が35年間本件公民館建物の管理を行ってきており,その間,管理報酬とし
て年間30万円を支払ってきたことや,同人が収入のない夫や引きこもりの息
子と暮らしている等の事情を考慮して,引っ越し費用として60万円,当面の
生活補償として上記管理報酬3年分にあたる90万円を支払うのが相当と考
えて,合計150万円を支出したものである。
よって,本件移転補償費支出に裁量逸脱・濫用があったとはいえない。
なお,本件移転補償費支出は,市の副市長の専決となっていることから,A
の関与は認められず,この点においてもにAに損害賠償を求める余地はない。
第3当裁判所の判断
1本件補助金支出について
(1)法232条の2は「普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合におい
ては,寄附又は補助をすることができる」と規定しているところ,その決定は,
事柄の性質上,当該地方公共団体の経済的事情や各種の行政施策の在り方等の
諸般の事情を総合的に考慮した上での社会的,政策的,経済的判断を要するも
のであるから,公益上の必要性がある場合に当たるか否か,及びその交付金額
の決定に当たっては,当該地方公共団体の財務会計職員に一定の裁量権があ
り,当該財務会計職員による上記判断に裁量権の逸脱又は濫用がある場合に限
り,当該金員の交付は違法と評価されることになるものと解するのが相当であ
る。
(2)本件補助金支出は,本件交付金要綱に基づいて支出されたものであるとこ
ろ,同要綱によれば,同要綱に基づく交付金は,実際に事業を行う実施主体が
行う事業に要する経費について交付するとされている(2条,3条)。
しかし,振興会は,本件補助金支出に係る交付金の全額をC公民館に支出し
たことが認められ(E証言,弁論の全趣旨),本件補助金の対象となる平成1
9年度から3年間,C公民館に事業を委託するほかは,自らが実施主体となっ
て何らかの事業を行う予定が全くなかったことが認められる(E証言)。そし
て,上記C公民館に対する事業の委託とは,何らかの具体的事業を計画等した
上で,その実施をC公民館に委託するといった内容ではなく,振興会が単に抽
象的な意向をC公民館に伝えるのみであることが認められる(E証言,弁論の
全趣旨)から,C公民館が実施した事業をもって実質的に振興会が実施したと
評価することも到底困難である。
したがって,振興会がその設立後,何ら事業等を行っていないという上記事
情及び振興会が本件補助金を申請する際に提出した事業計画書が極めて抽象
的な内容で何ら具体的事業計画を記載したものではなかったこと(甲9)並び
に前記前提事実を総合すると,振興会は,市が当初予定していた,福祉会から
の本件公民館建物の有償買取りができなくなったことから,同建物の代金とし
て支払う予定であった1200万円を補助金という形で受け取らせるために
設立された,当初から本件交付金要綱に沿って事業等を行う意思がなかった団
体であると認められ,そのような振興会に対する本件補助金支出は,Aがその
補助金支出権限を逸脱・濫用して行ったもので,違法なものといわざるを得な
い。
(3)被告は,福祉会が,長年,C地区の福祉及び振興の活動を行い,地域に多大
な貢献をしたことからすれば,福祉会の活動を引き継ぐ振興会は,うきは市ま
ちづくり交付金の事業団体として適切であると考えたなどと主張するが,福祉
会の活動を引き継ぐ団体は,福祉会も認めているとおり(甲5の別紙1参照),
C公民館であり,だからこそ,本件公民館建物は,C公民館を運営する市に寄
附されたものである。よって,振興会が福祉会の役員によって組織されたこと
などをもって,何ら活動実績を有しない振興会が福祉会を引き継ぐものという
ことはできないし,そもそも,福祉会は,C公民館が福祉会の後継組織として
活動していく目処がたったことを解散理由としているのであるから(甲5,弁
論の全趣旨),C公民館以外に,福祉会を引き継ぐ団体が必要であるとも思え
ない。
また,被告は,C公民館は,市が福祉会からC地区住民の拠出によって建て
られた本件公民館建物等の寄附を受けたことによって設けられたものである
から,C地区住民で構成されている振興会に本件補助金支出を行ったことは妥
当であるなどと主張するが,被告が主張するような事情があったとしても,市
は,本件公民館要綱等の規定に従って,直接C公民館に補助金を支出すること
などができたのであり,同事情をもって,振興会に本件補助金支出をしたこと
を正当化することはできない。
(4)以上のとおり,本件補助金支出は客観的に違法であるところ,振興会は,市
の関与のもと設立された団体であること(争いなし),上記のとおり,振興会
が本件補助金を申請する際に提出した事業計画書には,何ら具体的事業計画が
記載されておらず,また,振興会がどういった団体なのかについての具体的記
載がなかったことからすれば,市の長であったAも,振興会が本件補助金を用
いた事業を行う意思を有していない補助金を受け取るための団体であること
を認識し,または,容易に認識し得たのに,本件補助金支出を行ったものと認
められ,Aは市に対して本件補助金相当額を市に賠償する不法行為責任がある
というべきである。
2本件移転補償費支出について
(1)市と福祉会が,平成20年6月20日に締結した,本件管理人棟に関する
寄付契約の契約書(甲12)によれば,同日に,本件管理人棟の所有権が福
祉会から市に移転すること,また,同建物は現状のまま引き渡すことにする
との記載があることが認められる。また,市と本件管理人が,同年7月1日
に締結した移転補償契約の契約書(乙11)によれば,本件管理人は同月7
日までに本件管理人棟から移転すること,市が本件管理人に対して補償金と
して150万円を支払うとの記載があることが認められる。
以上のことから,被告は,市が,本件管理人が居住している状態で本件管
理人棟を譲り受けたため,市が本件管理人に移転補償費を支払ったなどと主
張する。しかし,乙14によれば,本件管理人は,同年5月11日に,既に
本件管理人棟から退去し,上記寄付契約が締結された時点では,本件管理人
棟に居住していなかったことが認められ,本件管理人棟に本件管理人が居住
している状態で,市が福祉会から寄附を受けたため,市が本件管理人に移転
補償費を支払うことになったとする被告の主張は,その限りでは失当である。
(2)しかし,前記前提事実のとおり,本件管理人棟の敷地については,平成1
9年11月5日時点で,既に市に寄附されていたのであるから,市には同土
地をC公民館の施設等として有効に利用する必要が認められ,実際に本件管
理人が本件管理人棟から退去後,C公民館の建物が増築されていることが認
められる。
そうすると,同土地の所有者である市が,同土地上の建物である本件管理
人棟に居住している本件管理人と立ち退き交渉をした上,同人に本件管理人
棟から退去してもらうため,一定の移転補償費を支払うこと自体は不当なも
のとはいえない。そして,市と本件管理人との移転補償契約は,平成20年
7月1日に締結されているが,150万円の移転補償費の支払の提案自体は,
本件管理人が本件管理人棟を退去する前になされ,本件移転補償費は,本件
管理人の退去後に支払われているものの,本件管理人に本件管理人棟から退
去してもらうために支払われたものと認められる(乙14,弁論の全趣旨)。
また,本件移転補償費150万円には,市が負担する必要がない本件管理
人の3年分の管理報酬90万円が含まれているなど,その算定根拠に疑問が
ないではないが,仮に,前記移転補償費の決定がされなかった場合は,本件
管理人の立ち退き交渉が難航し,市に,本件管理人に対する訴えの提起等を
する必要が生じるなど相当な労力及び費用が生じることが予想されたのであ
るから,全体として150万円を支払って,本件管理人棟から移転してもら
うという市の判断が,裁量を逸脱したものとはいい難い。
よって,本件移転補償費支出については,違法性が認められない。
3結論
したがって,原告の請求は主文掲記の限度で理由があるから,これを認容し,
その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所第6民事部
裁判官前田郁勝
裁判官林漢瑛
裁判長裁判官太田雅也は,転補につき,署名押印できない。
裁判官前田郁勝

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