弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主    文
  1 本件控訴に基づき,原判決中被控訴人Cに関する部分を次のとおり変更す
る。
   (一) 控訴人は被控訴人Cに対し,1706万3652円及びこれに対する
平成4年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
   (二) 同被控訴人のその余の請求を棄却する。
   (三) 訴訟費用は上記当事者間では第1,2審を通じこれを2分し,その1
を控訴人の,その余を同被控訴人の負担とする。
  2(一) 控訴人のその余の被控訴人に対する控訴をいずれも棄却する。
   (二) 上記当事者間では控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
(一) 原判決中控訴人敗訴部分をいずれも取り消す。
  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
 2 被控訴人ら
(一) 本件控訴をいずれも棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
本件事案の概要は後記2のとおり当審における控訴人の主張を付加し,1の
とおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」
のとおりである(但し被控訴人ら関係部分のみ)から,これを引用する。
 1 原判決7頁7行目の「損害賠償」の次に「(民法709条ないし同法715
条)」を,同10行目の「翌日から」の次に「支払済みまで」を,同10頁9行目
の次に改行の上「亡Dは,平成12年3月1日妻である被控訴人Cに上記損害賠償
請求権を死因贈与し,Dが平成12年5月29日死亡したため,被控訴人Cがこれ
を取得した。」をそれぞれ加え,同27頁8行目の「要がある。」を「必要があ
る。」と改める。
 2 当審における控訴人の主張
(一) ワラントの商品特性について
    原判決は,ワラントの権利行使期間の残存期間が短くなると,マイナスパ
リティとなったとき回復できず,ワラントが無価値になるおそれが強いと認定した
が,その間に株価が急騰する可能性が絶無とはいえず,投資者の中にはそのような
可能性に期待して値下がりしているワラントを購入する者も存在するから,取引の
需要はあるのであり,事実誤認である。原判決は,転売差益の取得を目的としてワ
ラント取引を行う場合について,ワラントの商品特性をいたずらに複雑なものと認
定し,その結果説明義務の解釈を誤った。
(二) 説明義務について
   (1) 原判決は,説明義務を信義則上の義務であるとしたが,そうであるな
ら,顧客にもワラント取引の危険性につき的確な認識形成をするため努力すべき信
義則上の義務があり,ワラントの商品内容やその危険性について一通りの説明があ
った場合には,十分な理解ができないと思った顧客は,そのことを証券会社に告げ
て注意を喚起すべきである。しかるに原判決は証券会社に一方的に義務を負担さ
せ,その範囲も多岐にわたる。しかしながら被控訴人らのように転売差益を得る目
的でワラント取引をする場合,投資目的を達成するため重要なのはワラント価格の
将来における値上がり可能性であり,これに関連するワラントの商品特性は,①そ
の価格は基本的に株価に連動し,かつそれより値動きが大きいこと,②行使期間を
過ぎると無価値となることの2点であるから,証券会社はこの点について顧客が理
解できるよう説明する義務があるが,それで足りるというべきである。原判決は,
ワラントの行使価格を株価が上回るときに初めて権利を行使する意味があり,行使
期間内に株価が行使価格を上回る見込みが残っていると人が判断するときに限っ
て,これを売買することができること,及び行使期間前でも行使価格を株価が上回
る見込みが薄い場合,行使期間が残り少なくなるにつれて売却が困難になる可能性
が高くなることがワラントの投資判断のポイントであるとしたが,上記(一)のとお
りワラントの商品特性に関する理解を誤っている。
 (2) 説明の程度方法について
     原判決は,ワラントの仕組みを図示したうえ,具体例をもって説明した
り,シミレーションを記載した説明書などを用いなければ,その仕組みや特徴を理
解することは困難であるとして,電話での勧誘を事実上禁止するが,①証券取引は
時々刻々と価格が変化する商品を対象とし,売買のタイミングが極めて重要である
ことから,電話での勧誘や注文は避けることのできない取引形態であり,原判決の
判断は証券取引の実態を無視するものであり,②転売差益の取得を目的とするワラ
ント取引の投資判断においては前記(1)①②の特性を理解したうえ株価の値上がりが
どの程度期待できるかを判断することは必要であるところ,これら商品特性は転換
社債の転換権と類似した現象が認められるから,これらの取引経験のある投資者に
対してその仕組みを電話で説明することは十分可能である。また株価の動向による
当該ワラントの価格の変動の仕組みを個別に説明する義務があるとまでは認めがた
い。
     原判決は,投資者自ら投資判断に必要な情報を収集し,自らの判断と責
任において証券取引を行うのが原則であるとし,自己責任の原則を認めながら,広
範囲で過度の説明義務を証券会社に要求するもので,投資者は実際上必要な情報を
収集する必要がなくなることになり,原判決の判断は矛盾している。
(三) 被控訴人Aについて
 (1)説明義務違反について
     原判決は,被控訴人Aはワラントの商品内容やその危険性に関する説明
を理解できるだけの能力と取引経験を有し,Eの説明内容がその供述のとおりであ
ることを認めながら,電話による勧誘であることや,ワラントの価格の予測が非常
に困難であり,株価が行使価格を下回ったまま行使期限が近づくと売却が困難にな
る可能性が高いことについて説明していないことを理由に説明義務違反を認めた
が,前記のとおり,説明義務違反の基準自体が失当である。
   (2) 被控訴人Aは,平成2年2月下旬から株式相場が急落し,一旦は値下が
り幅の半分近くまで回復したものの,同年8月初め頃から再び急落したため,当時
保有していた3銘柄のワラント(F,G,H)も値下がりしたが,ワラントが行使
期限を過ぎると無価値になることを認識しながら,行使期限までに2,3年残って
いることから,様子をみることとしたもので,このようなワラントの取引状況から
すれば,被控訴人Aは前記(二)(1)①②のワラントの特性を十分理解しながらワラン
ト取引を行っていたというべきである。なお右取引状況からすれば,本件各ワラン
トが行使期限を経過して無価値となったのは,被控訴人Aが,更なる値上がりや価
格の回復を期待してこれらのワラントを売却しなかったところ,その思惑が外れた
ことに原因があるもので,購入時の投資勧誘とは相当因果関係がない。
 (3) 過失相殺について
     控訴人担当者はワラントの値動きの大きいことや外国証券で為替の影響
があることは説明しており,他方被控訴人Aの投資経験や同人に対する説明の内
容,ワラントの取引状況などに照らせば,大部分は同被控訴人の責任であるという
べきである。原判決は平成元年10月以降に購入した3銘柄(G,H,I)のワラ
ントによる損失について,被控訴人Aの過失割合を5割ないし7割に区別したが,
そのように区別する合理的理由もない。
(四) 被控訴人Bについて
 (1) 説明義務違反について
     被控訴人Bは仕手性が強い株式や業績が悪化している株式などの取引経
験が豊富であり,Kは,前記(二)(1)①②の点につき電話で被控訴人Bに説明し,そ
の後書面を交付してさらに理解を深めさせている。被控訴人Bの上記取引経験から
すれば,同被控訴人は自らの投資判断に必要な情報を収集してワラントの売却時期
を判断する能力は十分に有していた。
 (2) 過失相殺について
     原判決は,被控訴人Bの過失は大きいとしながら,過失割合を4割の限
度でしか認めていないが,同被控訴人の投資経験や,同被控訴人に対する説明内
容,同被控訴人が妻Lを介してワラントの取引説明書を受領したのは本件Mワラン
トの受渡日である平成2年7月19日であるから約定後同被控訴人はすぐにワラン
ト取引について検討する機会が与えられていたことなどに照らすと,同被控訴人の
過失はもっと大きいというべきである。
(五) 被控訴人Cについて
(1) 適合性違反について
     Dは医師としての現場から身を引き,取引にあたっては妻の被控訴人C
を通して取引に当たっていたものの,同被控訴人はDと相談して取引判断をしてい
たところ,Dは通常の会話やその判断力に支障はなく,従前の取引経験のほか時間
的余裕もあり,これまで以上に慎重に取引できたものである。
 (2) 説明義務違反について
     Jは,ワラント取引にあたり,電話で10分ないし20分をかけて,権
利行使期間を経過すると無価値になること,株式に比してハイリスクハイリターン
であること,外貨建てなので為替相場が影響することなどを説明しており,取引当
初に被控訴人Cを通じて説明書を交付し,確認書も徴求しているほか,個々の取引
の都度被控訴人Cを介して報告していたのであるから,説明義務違反はない。
 (3) 過失相殺について
     以上の事情などからすれば,Dの過失割合を2割とした原判決は失当で
ある。
第3 争点に対する判断
1 当裁判所は,被控訴人Cの本件請求は本判決主文掲記の限度で理由があり,
その余の被控訴人らの本件請求は原判決主文掲記の限度で理由があると判断する
が,その理由は,後記(八)のとおり当審における控訴人の主張に対する判断をし,
(一)ないし(七)のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第
三 争点に対する判断」のとおりであるから,これを引用する。
(一) 原判決108頁1行目の「回復することができず、」から6行目末尾ま
でを「株価上昇可能性が少なくなって,ワラントの売却が困難となるおそれがあ
る。ワラントの価格(理論価格)は基本的には株価に連動して変動するが,その変
動率はギアリング効果により株価の変動率より格段に大きく,株式の値動きに比し
数倍の幅で上下することがある。また現実のワラントの市場価格は,理論価格と株
価上昇の期待度,株価の変動率の大きさ,需要と供給などの要因によってプレミア
ム価格を形成し,変動する。さらに外貨建てワラントの場合,店頭市場における相
対取引により取引がされ,為替レートの影響を受けることもあってその価格形成過
程を把握することは困難となる。」と改める。
(二) 同113頁7行目の「説明をする」の次に「信義則上の」を加え,同頁
9行目から117頁2行目までを次のとおり改める。「前記前提事実二の3,及び
前記認定事実のとおり,ワラントは一定の条件で発行会社の株式を引き受けること
ができる権利であり,権利行使期間が経過すると無価値となるが,権利行使期間が
経過する前でも,ことに株価が権利行使価格を下回り,かつ残存期間が短くなった
ワラントは売却が困難となるおそれがあり,価格変動が株式より大きく,ハイリス
ク・ハイリターンな金融商品であり,また外貨建てワラントの場合,為替レートの
影響を受けるほか,証券会社との相対取引によるものであることからすれば,証券
会社の従業員が顧客にワラントを勧誘するに当たっては,顧客の投資経験や知識,
投資目的に応じて,ワラントの危険性について的確な認識を形成できるようするた
め,少なくとも①ワラントの意義,及び価格の変動率が株価に連動するが,株価の
変動率より格段に大きいこと,②権利行使期間の意味,すなわち権利行使期間が経
過するとワラントは無価値となること,のみならず,権利行使期間が経過する前で
も,ことに株価が権利行使価格を下回り,かつ残存期間が短くなったワラントは売
却が困難となるおそれが大きいこと,③外貨建てワラントの場合は上記特質を説明
する義務があるというべきであり,従業員がこの説明義務を怠り,違法な勧誘によ
り顧客に取引を行わせ,その結果顧客が損害を被った場合には,証券会社は民法7
15条によりその損害を賠償する責任を負うものというべきである。」
(三) 同123頁3行目の「原告は,」から6行目末尾までを「被控訴人A
は,Eから勧誘される前から,ワラントやワラント債などについてはある程度の知
識を有していた。」と,同127頁6行目の「同年」を「平成元年」とそれぞれ改
め,同135頁3行目の「信用できないことは」の次に「前記のとおり被控訴人A
は新聞記事でワラントについてある程度の知識を有していたことや」を加え,同5
行目から同137頁10行目までを次のとおり改める。
   「以上によれば,Eは概ねその供述する内容の説明を被控訴人Aにしたと認
められるが,取引開始当初ワラントの説明書を同被控訴人に交付しておらず(同時
点では後記公正慣習規則により予め顧客に取引説明書を交付し,これを使用して説
明することが義務付けられていなかったが,その意義からすれば説明にあたって通
常必要とされるものである。),また15分程度の短時間電話により説明をしたの
みであることからすると,同被控訴人がワラント取引の特色,特に高いリスクを伴
う投機性の強さについて正しく理解し,自主的判断に基づいてワラント取引を行う
か否かを決することができるような説明がなされかについては疑問が残る。ワラン
トの説明方法としてその仕組みを図解したり,シミュレーションを記載した説明書
を用いて説明することが不可欠であるとまでは解することはできず,一般的に電話
による勧誘でも十分理解できるような説明がされれば違法ではないというべきであ
るが,電話による説明では,面接の場合と異なり相手方が説明内容を理解したかを
確認するのに限界があり,相手方としてもその場で十分な質問をすることが実際上
困難であることは明らかであるから,殊に初めて顧客にワラント取引を勧誘する場
合,勧誘者としては顧客が同方法によっても説明を理解しえたかについて面接の場
合に比してより一層配慮する必要があるというべきところ,Eにおいてかような配
慮をしたことを証拠上窺うことはできず,却って上記所要時間からすると一方的な
説明をしたにすぎないと認められる。また説明内容としても,Eが,権利行使期間
が経過する前でも,ことに株価が権利行使価格を下回り,かつ残存期間が短くなっ
たワラントは売却が困難となるおそれが大きいことについて説明していない(証人
Eは反対尋問でこの点についても被控訴人Aに説明したかのような供述もするが,
主尋問ではそのような供述をしておらず,また同供述もしたと思うといった曖昧な
もので措信できない。)のであって,後日被控訴人Aに送付されたパンフレット
(乙2)にも上記の点について記載はない。以上の事実によれば,Eの説明は不十
分といわざるを得ず,同人の勧誘はワラントを勧誘するにあたっての注意義務に違
反したもので,違法なものといわざるを得ず,控訴人は同被控訴人に対して民法7
15条によりその損害を賠償する責任があるというべきである。」
(四) 同144頁5行目から6行目にかけての括弧書き内「甲B一〇の1」を
「甲B10」と,同154頁8行目の括弧書き内「乙七」を「乙12」とそれぞれ
改め,同159頁末行の「右からすると,」から同160頁7行目末尾までを次の
とおり改める。
   「以上によれば,Kの供述は被控訴人Bらの供述と対比して信用することが
でき,これによればKは一応電話でワラントの内容について説明しているが,自主
規制とはいえ,公正慣習規則9号(平成元年4月19日日本証券業協会理事会決
議)によって遵守が義務付けられている説明書の事前交付の手続を怠っており,ま
た10分程度の短時間の会話により説明をしたのみである(証人K)ことからする
と,それまでワラント取引の知識も経験もない同被控訴人がワラント取引の特色,
特に高いリスクを伴う投機性の強さについて正しく理解し,自主的判断に基づいて
ワラント取引を行うか否かを決することができるような説明がなされたことについ
ては疑問が残る。そして前記被控訴人Aの場合と同様,勧誘者としては顧客が電話
による説明によってワラントの危険性を理解しえたかについて面接の場合に比して
より一層配慮する必要があるというべきところ,Kにおいてかような配慮をしたこ
とを証拠上窺うことはできない(現にLは,転換社債や投資信託の取引について
は,同人限りで判断していたが,前記電話の説明に対しては十分理解できず,被控
訴人Bに直接説明するよう求めている《証人K,同L》。)し,Kは,さらに権利
行使期間が経過する前でも,ことに株価が権利行使価格を下回り,かつ残存期間が
短くなったワラントは売却が困難となるおそれが大きいことについて説明していな
い(証人K)。以上の事実によれば,Kの説明は不十分といわざるを得ず,同人の
勧誘はワラントを勧誘するにあたっての注意義務に違反したもので,違法なものと
いわざるを得ず,控訴人は同被控訴人に対して民法715条によりその損害を賠償
する責任があるというべきである。」
(五) 同174頁末行の「として、」を「といって,」と改め,同177頁3
行目冒頭から同178頁5行目末尾までを次のとおり改める。
   「しかし,この事前の説明について,Jが特別に具体的な記憶があるとは証
拠上窺えないし,何らかの記録に基づく証言でもないことや,これまでワラント取
引をしたこともなく,その知識を有しない被控訴人Cが短時間の電話による説明で
何ら質問をする必要がない程にワラントの特質について理解したとは考え難いこ
と,前記のとおりDと面会したことがある旨のJの供述は信用できないことなどの
諸点に照らすと,Jの前記供述の信用性にも疑問が残り,仮に電話をしたとしても
その供述する内容の説明をしたとの点はすぐには採用できない。またJの供述によ
っても,同人は被控訴人Cに,権利行使期間が経過する前でも,ことに株価が権利
行使価格を下回り,かつ残存期間が短くなったワラントは売却が困難となるおそれ
が大きいことについて説明していない(証人J)。」
  (六) 同185頁7行目の「右に述べたことからすると、」から同186頁2
行目までを次のとおり改める。
   「以上の事実によれば,Jは,被控訴人Cに対し,ワラントの説明書を取引
開始にあたり事前に交付せず,またワラントの特質について十分な説明もせず,専
ら当該発行株式会社の将来性などから来る株価上昇の見込みを材料として勧誘した
ものといわざるを得ず,Jの勧誘はワラントを勧誘するにあたっての注意義務に違
反したもので,違法なものといわざるを得ず,控訴人は同被控訴人に対して民法7
15条によりその損害を賠償する責任があるというべきである。」
  (七) 同189頁1行目の「右事情を総合勘案すると」を「右事情に,Dの学
歴及び職歴などを加え総合勘案すると」と,同2行目及び4行目の「2割」を「3
割」と,同5行目の「一七七二万九八八八円」を「1551万3652円」と,同
9行目の「一七七万円」を「155万円」と,同末行の「一九四九万九八八八円」
を「1706万3652円」とそれぞれ改める。
(八) 当審における当事者の主張に対する判断
(1) ワラントの商品特性について
     控訴人は,ワラントの権利行使期間の残存期間が短く,マイナスパリテ
ィの場合でも,その間に株価が急騰する可能性が絶無とはいえず,投資者の中には
そのような可能性に期待して値下がりしているワラントを購入する者も存在するか
ら,取引の需要はある旨主張する。確かに権利行使期間の残存期間が短いワラント
でもワラント価格の上昇が期待できるときは,同ワラントを安価で購入したうえで
短期間に転売し高い利益を得ることも可能であり,当該株式会社の経営状況などの
諸事情次第で取引需要がある(乙114,148)としても,これにより高い利益
を得るには高度の投資判断を必要とし,一般的に権利行使期間が迫るとワラントの
売却が困難となるおそれのあることは否定できないから,この点はワラントの特質
として投資判断の上で重要な意味を持つものというべきであって,控訴人の上記主
張は採用できない。
   (2) 説明義務について
     控訴人は,①説明義務が信義則上の義務である以上,顧客にもワラント
取引の危険性につき的確な認識形成をするため努力すべき信義則上の義務があり,
ワラントの商品内容やその危険性について一通りの説明があった場合には,十分な
理解ができないと思った顧客は,そのことを証券会社に告げて注意を喚起すべきで
ある,②被控訴人らのように転売差益を得る目的でワラント取引をする場合,投資
目的にとり将来の値上がり可能性こそが重要であり,これに関連するワラントの商
品特性は,(ア)その価格は基本的に株価に連動し,かつそれより値動きが大きいこ
と,(イ)権利行使期間を過ぎると無価値となることの2点であるから,証券会社は
この点について顧客が理解できるよう説明する義務があるが,それで足りるという
べきであると主張する。
     しかしながら,①については,証券会社の従業員が説明義務を履行した
といえることを前提として妥当する事柄であるから,同主張は一般論として採用で
きず,②については,前記のとおり(イ)の権利行使期間の意味として,(イ)の点の
ほか一般的に権利行使期間が迫るとワラントの売却が困難となるおそれのあること
についても説明義務があるというべきである。また外貨建てワラントの場合,証券
会社との相対取引となること及び為替レートの影響を受けることについても投資判
断に当たって重要な要素となるというべきであるから説明義務の内容となると解す
べきであり,控訴人の上記主張は採用できない。 
     また控訴人は,説明の程度方法について,①証券取引は時々刻々と価格
が変化する商品を対象とし,売買のタイミングが極めて重要であることから,電話
での勧誘や注文は避けることのできない取引形態であり,原判決の判断は証券取引
の実態を無視するものであり,②ワラントの商品構成は転換社債の転換権と類似し
ているから,転換社債の取引経験のある投資者に対してその仕組みを電話で説明す
ることは十分可能であると主張する。
     しかしながら,①の点はワラント取引を継続している場合には当てはま
るとしても,取引開始に当たって説明をする際電話による勧誘が避けることができ
ないものであるとは到底いえず,また②の点については,顧客の職業,投資経験や
知識などによっては,電話による説明で理解可能な場合もあり得るとしても,常に
そのようにいえるものでもなく,電話による短時間の説明しかされなかったこと
は,他の事情と相まって十分な理解が得られる説明がされたか否かについて影響を
及ぼすものというべきであって,控訴人の上記主張は採用できない。 
   (3) 被控訴人Aについて
  ①説明義務違反について
      控訴人は,被控訴人Aは,平成2年8月初め頃から当時保有していた
3銘柄のワラント(F,G,H)が値下がりしたが,ワラントが行使期間を過ぎる
と無価値になることを認識しながら,行使期間までに2,3年残っていることか
ら,様子をみることとしたもので,このようなワラントの取引状況からすれば,同
被控訴人はワラントの特性を十分理解しながらワラント取引を行っていたというべ
きであり,本件各ワラントが行使期間を経過して無価値となったのは,同被控訴人
が,更なる値上がりや価格の回復を期待してこれらのワラントを売却しなかったと
ころ,その思惑が外れたことに原因があるもので,購入時の投資勧誘とは相当因果
関係がないと主張する。
      しかしながら,被控訴人Aが行使期間が経過するまでにワラントの価
格が回復することを期待して様子を見ていた(被控訴人A本人)ことは,行使期間
を経過すればワラントが無価値になることを理解していたことになっても,前記の
権利行使期間が迫るとワラントの売却が困難となるおそれのあることについても理
解していたことにはならず,むしろその点の無理解によるものであるとみることも
でき,控訴人の主張は採用できない。
  ② 過失相殺について
      控訴人は,被控訴人Aに対し,ワラントの値動きの大きいことや外国
証券であることから為替レートの影響を受けることは説明しており,他方同被控訴
人の投資経験や同被控訴人に対する説明の内容,ワラントの取引状況などに照らせ
ば,大部分は同被控訴人の責任であるというべきであるし,原判決は平成元年10
月以降に購入した3銘柄(G,H,I)のワラントによる損失について,被控訴人
Aの過失割合を5割ないし7割に区別したが,その合理的理由がないと主張する。
      しかしながら,引用にかかる原判決138頁4行目から140頁8行
目までのとおりであり,また番号5の取引については,平成2年3,4月ころ被控
訴人Aが新聞によりワラントの危険性が大きく報道されたことを知った以後の取引
であることからすれば,それ以前の取引との間に同被控訴人の落ち度が異なること
は明白であり,過失相殺割合を異にしても不合理とはいえない。
(4) 被控訴人Bについて
     控訴人は,被控訴人Bの過失は大きいとしながら,過失割合を4割の限
度でしか認めておらず,同被控訴人の投資経験や,同被控訴人に対する説明内容,
同被控訴人が妻Lを介してワラントの取引説明書を受領したのは本件Mワラントの
受渡日である平成2年7月19日であるから約定後同被控訴人はすぐにワラント取
引について検討する機会が与えられていたことなどに照らすと,同被控訴人の過失
は大きいというべきであると主張する。
     しかしながら,引用にかかる原判決161頁5行目から163頁7行目
までのとおりであって,控訴人の上記主張は採用できない。
 (5) 被控訴人Cについて
    控訴人は,Dは医師として現場からは身を引き,取引にあたっては妻の
被控訴人Cを通して取引に当たっているものの,同被控訴人はDと相談して取引判
断をしており,Dの通常の会話や判断力に支障があったのでなく,従前の取引経験
のほか時間的余裕もでき,これまで以上に慎重に取引できたものであるから適合性
違反とはならないと主張する。
しかしながら,引用にかかる原判決164頁5行目から同174頁6行
目までのとおりであるほか,被控訴人Cが証券会社従業員の説明を受けてDにその
内容を告げて判断する取引形態であったから,同被控訴人が受けた説明を正しく理
解したうえでDに説明する必要があるところ,被控訴人Cの知識経験からするとD
に対し適切な情報を正確に提供するのは困難な状況にあったといわざるを得ない
し,Dが社会的に引退したことにより時間的余裕が十分にあったかどうかは,適合
性の有無の判断に影響を及ぼす事項であるとはいい得ないから,控訴人の上記主張
は採用できない。
 2 以上によれば,被控訴人Cの本件請求は本判決主文の限度で,その余の被控
訴人らの本件請求は原判決主文の限度で理由があるから認容すべく,その余は理由
がないから棄却すべきである。よって被控訴人Cについてはこれと一部異なる原判
決を主文のとおり変更し,その余の被控訴人については本件控訴を棄却することと
し,主文のとおり判決する。
 大阪高等裁判所第4民事部
      裁判長裁判官 武 田 多喜子  
         裁判官 松 本   久
         裁判官 小 林 秀 和

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛