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判決言渡平成19年11月13日
平成19年(行ケ)第10098号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年10月30日
判決
原告ホーファーリサーチリミテッド
訴訟代理人弁理士丸山敏之
同宮野孝雄
同北住公一
同長塚俊也
同久徳高寛
被告株式会社東洋新薬
訴訟代理人弁理士南條博道
同田中尊夫
主文
1特許庁が無効2005−80364号事件について平成18年11
月10日にした審決のうち「特許第3533392号の請求項2に係
る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨。
第2事案の概要
被告が特許権者である後記特許に関し,原告が請求項1,2につき特許無効
審判請求をしたところ,特許庁は,請求項1に係る発明についての特許を無効
とし,請求項2に係る発明についての請求を不成立とする審決をした。本件は,
審判請求人である原告が,上記審決のうち請求不成立とされた部分についての
取消しを求めた事案である。なお,被告からは上記審決の取消訴訟は提起され
ていない。
争点は,請求項2に係る発明が進歩性を有するか,及び,同発明が特許法
(以下「法」という。)36条6項1号の要件(いわゆるサポート要件)を満
たすか,である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
被告は,名称を「皮膚外用剤」とする発明につき平成15年3月27日特
許出願をし,平成16年3月12日特許庁から特許第3533392号とし
て設定登録を受けた(請求項の数は2。以下「本件特許」という。甲1)。
これに対し原告から,平成17年12月27日付けで,請求項1,2につ
き特許無効審判請求がなされ,同請求は無効2005−80364号事件と
して特許庁に係属した。被告は,同事件の審理の中で,請求項1を変更し請
求項2を削除する等を内容とする訂正請求(以下「本件訂正請求」とい
う。)をしたが,特許庁は,平成18年11月10日,請求項1の訂正は特
許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるということはできない
から訂正請求は認められないとした上「特許第3533392号の請求項1
に係る発明についての特許を無効とする。特許第3533392号の請求項
2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」旨の審決をし,その
謄本は平成18年11月22日原告に送達された。なお,出訴期間として9
0日が附加された。
(2)発明の内容
ア設定登録時(平成16年3月12日)のもの(以下,請求項1,2の順
に「本件発明1」「本件発明2」という。)
【請求項1】プロアントシアニジンおよび平均分子量が3,000以上7,
000以下のタンパク質分解ペプチドを含有する皮膚外用剤であって,
該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部
に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含
有する,皮膚外用剤。
【請求項2】前記ペプチドがコラーゲン由来のペプチドである,請求項1
または2に記載の皮膚外用剤。
イ本件訂正請求に係るもの(請求項2は削除)
【請求項1】松樹皮抽出物および平均分子量が3,000以上7,000
以下のコラーゲンペプチドを含有する,皮膚外用剤であって,該松樹皮
抽出物はカテキン類を5重量%以上および2∼4量体のプロアントシア
ニジンを20重量%以上含有し,かつ,5量体以上のプロアントシアニ
ジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以
上の割合で含有し,そして,プロアントシアニジンが0.001重量%
∼2重量%含有され,コラ−ゲンペプチドが0.0001重量%∼5重
量%含有される,皮膚外用剤。
(3)審決の内容
(ア)審決の内容は別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,①
本件訂正請求は,特許請求の範囲の減縮等を目的とするものではないか
ら,訂正は認められない,②本件発明1は下記甲2発明及び甲11発明
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,法29条2項
により特許を受けることができない,しかし,③本件発明2に関しては,
下記無効理由1ないし3は認められない,としたものである。

無効理由1:本件発明2は,下記引用文献2∼8または22及び23に
各記載の発明に加え,下記引用文献9,11,12,13,
15,16,17から容易に発明することができた。
無効理由2:本件発明2は,下記引用文献9∼12記載の発明から容易
に発明することができた。
無効理由3:本件特許明細書の記載は,法36条6項1号の要件を満た
していない。

引用文献2:特開平6−336423号公報(甲2。以下そこに記載
された発明を「甲2発明」という。)
引用文献3:WO02/089758号公報(国際公開日2002
年〔平成14年〕11月14日,甲3。以下そこに記載
された発明を「甲3発明」という。)
引用文献4:特表2004−529162号公報(甲3に対応する公表
公報。甲4)
引用文献5:特開2002−51734号公報(公開日平成14年2
月19日,甲5)
引用文献6:WO00/64883号公報(国際公開日2000年
〔平成12年〕11月2日,甲6)
引用文献7:AnnE.HagermanandLarryG.Butlur,"TheSpecificity
ofProanthocyanidin‐ProteinInteractions,"
TheJournalofBiologicalChemistry,Vol.256,No.9
pp.4494-4497,1981(「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロ
ジカル・ケミストリー「プロアントシアニジン−タンパ
クの相互作用の特異性」ハーゲルマン,バトラー著(2
56巻9号4494∼4497頁)発行日1981
年〔昭和56年〕5月10日。甲7)
引用文献8:LawrenceJ.PorterandJudithWoodruffe,
"Haemanalysis:TheRelativeAstringencyof
ProanthocyanidinPolymers"PHYTOCHEMISTRY,
Vol.23,No.6pp.1255∼1256,1984(雑誌
「PHYTOCHEMISTRY」23巻6号「ヘム分析:高分子プ
ロアントシアニジンの相対的収斂性」原稿受理日19
83年〔昭和58年〕10月28日発行日1984
年〔昭和59年〕5月14日著者ローレンスジェイ
ポーター,ジュディシュウードルフ。甲8)
引用文献9:米国特許5,578,307号明細書(甲9。以下そこ
に記載された発明を「甲9発明」という。)
引用文献10:米国特許6,426,080号明細書(発行日199
6年〔平成8年〕11月26日,甲10。以下そこに
記載された発明を「甲10発明」という。)
引用文献11:特開平9−59124号公報(甲11。以下そこに記
載された発明を「甲11発明」という。)
引用文献12:特開2000−309521号公報(甲12)
引用文献13:特開2003−70424号公報(公開日平成15年
3月11日,甲13)
引用文献14:本件特許出願に係る平成15年9月10日付け被告の
意見書(甲14)
引用文献15:特開昭62−297398号公報(甲15)
引用文献16:特開平1−216913号公報(甲16)
引用文献17:WO96/00561号公報(国際公開日1996年
〔平成8年〕1月11日,甲17)
引用文献18:平成12年12月15日付ヘルスライフビジネス(新
聞)12頁(甲18)
引用文献19:平成13年2月1日付ヘルスライフビジネス(新聞)
1頁(甲19)
引用文献20:特開2001−106634号公報(甲20)
引用文献21:特開平11−75708号(甲21)
引用文献22:特開2000−229834号(甲22)
引用文献23:「ピクノジェノールモイスチュアライザー」の容器と
包装箱の写真(撮影日平成16年9月10日,撮影
者A。甲23)
(イ)無効理由1についての審決の判断
a審決の無効理由1に対する判断のうち,甲2を主引例とするもの
(a)審決は,原告主張の無効理由1に対し,本件発明2と甲2発明と
の一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
(一致点)「プロアントシアニジンおよびコラーゲン由来のペプチド
を含有する皮膚外用剤」である点
(相違点1)甲2発明には,コラーゲン由来のペプチドの平均分子量
が3,000以上7,000以下であることが規定されていない点
(相違点2)甲2発明には,プロアントシアニジンが,5量体以上の
プロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシ
アニジンを1重量部以上の割合で含有するものであることが規定さ
れていない点
(b)その上で,審決は相違点1に関し,甲5,7,9,11ないし1
3,15,16の記載をみても,平均分子量が3,000∼7,0
00の加水分解コラーゲンを使用することについては具体的に記載
されておらず,保湿性に優れた効果を示す範囲として平均分子量3,
000以上7,000以下のコラーゲンペプチドを使用することが
示唆されていると認められないとし,相違点2に関し,甲6,8,
17から容易想到とはいえないと判断した。
b審決の無効理由1に対する判断のうち,甲3を主引例とするもの
(a)審決は,原告主張の無効理由1に対し,本件発明2と甲3発明と
の一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
(一致点)「プロアントシアニジンオリゴマー及びコラーゲン由来の
ペプチドを含有する皮膚外用剤」である点
(相違点A)甲3には,コラーゲン由来のペプチドの平均分子量が3,
000以上7,000以下であることが規定されていない点
(相違点B)甲3には,プロアントシアニジンが,5量体以上のプロ
アントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニ
ジンを1重量部以上の割合で含有するものであることが規定されて
いない点
(b)そして,相違点A,Bはそれぞれ上記の相違点1,2と同じで
あるから,その判断も同様であり,甲22,23からも容易に発明
できたとはいえないとした。
cその上で,審決は,本件明細書の図1(判決注:審決に表3とある
のは図1の誤記であると認められる)に示される血流改善効果は,当
業者が予測し得る範囲を超えたものと認められるから,本件発明2は
甲2∼8に記載された発明に基づいて,又は甲22,23に記載され
た発明に基づいて容易に発明できたといえないとした。
(ウ)無効理由2についての審決の判断
審決は本件発明2と甲9発明との一致点及び相違点を以下のとおり認
定した。
(一致点)加水分解コラーゲン及びプロアントシアニジンを含む皮膚外
用剤である点
(相違点1)甲9発明には平均分子量3,000以上7,000以下の
加水分解コラーゲンを用いることが記載されていない点
(相違点2)甲9発明にはプロアントシアニジンが,5量体以上のプロ
アントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジ
ンを1重量部以上の割合で含有するものであることについて記載され
ていない点
その上で,審決は,本件発明2は甲9ないし12に記載された発明に
基づき当業者が容易に発明できたものとはいえないとした。
(エ)無効理由3についての審決の判断
本件明細書の表1の記載及び5量体以上のプロアントシアニジン1重
量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンが1重量部以上の割合
で含有されている場合は凝集沈殿や懸濁を防止できる旨の記載があるこ
とを合わせて考えると,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に
対し,2∼4量体のプロアントシアニジンが1重量部の割合で含有され
ている場合においても相当の効果が奏されるものと推認でき,原告主張
の無効理由3は認められないとした。
(4)審決の取消事由
しかしながら,上記の審決の要点のうち,①,②は正当であるが,③の
本件特許の請求項2に係る発明(本件発明2)についての無効審判請求を不
成立とした部分には,以下のとおりの取消事由があるから,違法として取り
消されるべきである。
ア取消事由1
(ア)審決は,以下に述べるように,本件明細書(甲1)の特許請求の範囲
に記載されていない「ほぼ中性」なる事項を本件発明2の発明特定事項
として本件発明2と甲5及び甲13記載の発明や公知技術との対比を行
った。このように,特許請求の範囲に記載されていない事項を発明特定
事項とした審決の認定は,結論に影響を与える違法なものである。
(イ)皮膚外用剤が「ほぼ中性」であることが本件発明2の発明特定事項の
1つであるならば,その前提として,「ほぼ中性」なる旨又は本件発明
2の皮膚外用剤の(ほぼ中性であることを示す)pHが本件明細書の特
許請求の範囲に記載されている必要がある。
ところが審決の「5.本件発明」(審決6頁11行)では,本件明細
書の特許請求の範囲の記載に基づいて本件発明2が特定されているが,
明細書の特許請求の範囲に「ほぼ中性」なる文言は記載されていない。
それにもかかわらず審決は,本件発明2の皮膚外用剤が「ほぼ中性」
であると認定した(11頁下4行)。さらに,審決は,pHの差異に基
づいて,甲5と甲13の開示が,本件発明2を教示又は示唆するもので
はないと認定している(審決11頁下7行∼12頁3行,12頁下1行
∼13頁9行)。
本件明細書の特許請求の範囲にpHに関する記載はないのであるから,
本件発明2の皮膚外用剤は,酸性,弱酸性,中性,弱アルカリ性及びア
ルカリ性の何れであってもよい。ゆえに,甲5,甲13の開示が酸性条
件下や弱酸性条件下の沈殿に関していることが,本件発明2の進歩性の
有無の判断において甲5や甲13の開示内容を考慮しない理由になるこ
とはありえない。
(ウ)加えて,本件明細書(甲1)の段落【0047】には,一般的にアル
カリ性である石鹸なども本件発明2の皮膚外用剤に含まれると規定され
ているのであるから,本件発明2の皮膚外用剤が「ほぼ中性」であると
認定することは到底不可能である。また,甲51∼53に示すように,
「ほぼ中性」ではない皮膚外用剤も多数存在しているのであって(甲51
の請求項1〔pH3.3∼5.6〕,甲52の請求項2〔pH3.5∼4
.5〕,甲53の請求項1〔pH5∼7〕),皮膚外用剤であれば一義的
に「ぼぼ中性」であると解することも到底不可能である。
(エ)このように,本件発明2の皮膚外用剤を「ほぼ中性」と認める理由は
(又は,皮膚外用剤であるならば一義的に「ほぼ中性」とする理由は),
全く存しない。また,本件発明2の皮膚外用剤と全く同一の構成を有す
る飲料が,甲28(特許第3556659号公報)に開示されている
(甲28の特許は,被告を特許権者とするものであり,本件特許と同じ
出願日に出願された)。甲28の特許に関する無効審判の審決(無効2
005−80322号,甲29)は,当該飲料のpHについて,実施例
の飲料(本件発明2の実施例の皮膚外用剤と同じ構成を有する)に含ま
れる松樹皮抽出物が有機酸を含有することが甲20(特開2001−1
06634号公報)の段落【0011】に記載されていることを根拠と
して,「ほぼ中性」ではなく,「ある程度酸性」になっていると認定し
ている(13頁下2行∼14頁3行)。甲29の上記審決が,実施例の
飲料に含まれる成分に基づいて「ある程度酸性」なる認定をしている一
方で,本件審決は,根拠を全く示すことなく「ほぼ中性」なる認定をし
ている。
このように,本件発明2の皮膚外用剤のpHに関する審決の認定は,
本件審決よりも先にされた甲29の上記審決の認定と矛盾しているので
あるが,明細書に開示された実施例が含有する成分を根拠としてなされ
た甲29の審決の認定の方が,特許庁の見解として適切且つ妥当である。
(オ)また審決は,甲5(引用文献5)について,「ほぼ中性である皮膚外
用剤において,平均分子量3000∼7000のコラーゲン加水分解物
がプロアントシアニジン存在下で沈殿を生ずるか否かについて教示する
ものではない」と述べているが(11頁下4行∼下2行),皮膚外用剤
のpHに関する記載がない本件明細書及びpHに関する事項を発明特定
事項として含んでいない本件発明2が,「ほぼ中性である皮膚外用剤に
おいて,平均分子量3000∼7000のコラーゲン加水分解物がプロ
アントシアニジン存在下で沈殿を生ずるか否かについて」教示をするも
のではない。
このように審決は,本件発明2の皮膚外用剤が「ほぼ中性」であると
いう根拠なき誤った認定をすることで,甲5及び甲13の開示を不当に
排除し,さらには,本件明細書の開示についても誤った認定をしている。
イ取消事由2
(ア)審決は,本件発明2の発明特定事項「該プロアントシアニジンは,5
量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロア
ントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」に関して,本件発明
1に関する進歩性の有無の判断では,甲2に記載された発明から容易想
到と認定しておきながら,請求項1の従属項たる本件発明2(請求項
2)に関する進歩性の有無の判断では,当該認定を踏まえることなく,
原告提出の証拠に開示や示唆がないと認定している。
また,審決は,本件発明2の発明特定事項「平均分子量が3,000
以上7,000以下のタンパク質分解ペプチドを含有する」に関して,
本件発明1に関する進歩性の有無の判断では,甲11に記載された発明
から容易想到と認定しておきながら,本件発明2に関する進歩性の有無
の判断では,当該認定を踏まえることなく,原告提出の証拠に開示や示
唆がないと認定している。
審決のこれらの認定は,論理的整合性を欠くものであって結論に影響
を与える違法なものである。
(イ)審決は,本件発明1に関する進歩性の有無の判断において,甲2の段
落【0008】の記載を引用し,「引用例1には,『特に2∼4量体の
プロアントシアニジンを好適に使用することができる』と記載されてい
る(上記(ア−3))から,効果にすぐれた2∼4量体を多く含むもの
が好適であることは,当業者が容易に理解できることであり,その比率
について5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量
体のプロアントシアニジンを1重量部以上とすることは当業者が容易に
推考できることであって」(10頁1行∼6行)として,本件発明1の
発明特定事項であり本件発明2の発明特定事項でもある該プロアントシ
アニジンは,「5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2
∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上」(10頁6行∼8
行)の割合で含有すること(以下「発明特定事項1」という。)につい
て,甲2(引用例1)及び甲11(引用例2)の記載に基づいて容易想
到と認定した。
(ウ)しかし,本件発明2における発明特定事項1の検討は,審決の14頁
及び15頁の「エ.次に相違点2について検討する」でなされているが,
本件発明1に関して発明特定事項1の容易想到性を検討する際に参酌し
た甲2の段落【0008】の記載に,審決は全く言及していない。
さらに,審決の「エ.次に相違点2について検討する」では,審判請
求書(甲42)における原告の主張の概要が述べられているが,審判請
求書の「甲第2号証には,皮膚外用剤に含有されるプロアントシアニジ
ンを2∼4量体のプロアントシアニジンとすることが好ましいことが開
示されており,甲第3号証には,2量体のプロアントシアニジンの使用
が好ましいことが開示されている。」との原告の主張(甲42,26頁
2行∼5行)が看過され,審決は誤った判断をした。
(エ)本件発明1と本件発明2との差異は,本件発明2において,本件発明
1が有するペプチドがコラーゲン由来のペプチドと限定されていること
のみである。容易想到と認定された発明特定事項1が,皮膚外用剤に含
まれるペプチドをコラーゲン由来のペプチドに限定することで想到困難
になることなどありえない。本件発明2における進歩性の有無の判断に
おいても,甲2から容易想到であるとした本件発明1における認定は,
そのまま引き継がれるべきである。
(オ)また審決は,本件発明1に関する進歩性の有無の判断において,甲1
1(引用例2)の記載に基づいて保湿性に優れる分子量の範囲に包含さ
れる平均分子量3,000以上7,000以下のタンパク質分解ペプチ
ドを使用することは容易であって,その効果も予測の範囲内であるとし
て,本件発明1の発明特定事項「平均分子量が3,000以上7,00
0以下のタンパク質分解ペプチドを含有すること」(以下「発明特定事
項2」という。)が容易想到であると認定した(審決9頁下6∼下2
行)。
本件発明1の発明特定事項2は,本件発明2の発明特定事項でもある
から,本件発明2に関する進歩性の有無の判断において,保湿性に優れ
る分子量の範囲として発明特定事項2を想到することは(甲11に基づ
いて)容易であるとした本件発明1に関する認定が,当然に考慮される
べきである。そして,本件発明2に関する進歩性の有無の判断において
は,この認定を前提として検討されるべきである。
(カ)本件発明2における上記発明特定事項2及び発明特定事項「前記ペプ
チドがコラーゲン由来のペプチドである」(以下「発明特定事項3」と
いう。)の検討は,審決の「ウ.以下,相違点1について検討する」
(審決11∼14頁)でなされているが,本件発明1に関して,保湿性
に優れる分子量の範囲として「平均分子量が3,000以上7,000
以下のタンパク質分解ペプチドを含有する」を想到するのは容易と既に
認定されていることが看過されている。
なお,コラーゲン由来のペプチドが一般に保湿性に優れているのは周
知の事実であるから(「フレグランスジャーナル」69号昭和59年
11月25日発行〔甲36〕,114頁右欄18行∼20行),発明特
定事項2に加えて発明特定事項3を想到すること,つまり,本件発明1
の「タンパク質分解ペプチド」として「コラーゲン由来のペプチド」を
用いて本件発明2を想到することは,当業者であれば容易に行えたもの
である。
ウ取消事由3
(ア)審決は,本件発明2の発明特定事項「該プロアントシアニジンは,5
量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロア
ントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」に関して,甲3及び
甲9に開示があるにもかかわらず,開示がないと認定した。しかし,審
決のこのような認定の誤りは,以下に述べるとおり,結論に影響を与え
る違法なものである。
(イ)本件発明2の上記発明特定事項は,2∼4量体のプロアントシアニジ
ンの含有量の下限のみを規定しているのであって,2∼4量体のプロア
ントシアニジンの含有量の上限については何ら規定していない。発明特
定事項1は,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼
4量体のプロアントシアニジンの量が無限大である状態を論理的に含む
のであって,本件発明2において,2∼4量体のプロアントシアニジン
は幾ら多くてもかまわない。
数値限定の意味を考えると,発明特定事項1は,皮膚外用剤が有する
プロアントシアニジンが,2,3若しくは4量体のプロアントシアニジ
ンのみ,又は2∼4量体のプロアントシアニジンのみで構成される状況
と実質的に同一であることは明らかである。
(ウ)甲3には,植物抽出物としてプロアントシアニジンA2ダイマー,つ
まり,2量体のプロアントシアニジンを用いることが開示されており
(例えば,甲3又は甲4の請求項2),甲9には,植物抽出物としてオ
リゴメリックプロシアニジン(プロシアニジンは,プロアントシアニジ
ンの配糖体であり,概念的にプロアントシアニジンに含まれる),つま
り,2∼4量体のプロアントシアニジンを用いることが開示されている
のだから(甲9,3頁3欄29行∼34行),発明特定事項1は,甲3
及び甲9に開示又は示唆されていると当然に認定されるべきであって審
決の認定は誤っている。
(エ)審決は,甲10について,発明特定事項1を記載したものではないと
認定しているが(審決18頁下4行∼下2行),甲10に開示されたケ
プラコ樹脂から抽出された生産物は,少なくとも90重量%のプロアン
トシアニジンオリゴマーを含んでいるのであるから(甲10,7頁12
欄29行∼54行),発明特定事項1は,甲10に開示又は示唆されて
いると認定されるべきである。
エ取消事由4
(ア)審決は,(ウ−4)(13,14頁)において,発明特定事項「平均
分子量が3,000以上7,000以下のタンパク質分解ペプチドを含
有する」(発明特定事項2)及び発明特定事項「前記ペプチドがコラー
ゲン由来のペプチドである」(発明特定事項3)が,甲9,11,12,
15,16に開示又は示唆されていないと認定した。
(イ)しかし,甲9には,オリゴメリックプロシアニジンに加えて,平均分
子量が3,000である加水分解コラーゲンを含有する皮膚外用剤が開
示されており(請求項1及び2,EXAMPLE3),甲9に開示され
た平均分子量が3,000である加水分解コラーゲンが,発明特定事項
2及び3に相当することは明らかである。平均分子量が3,000であ
る加水分解コラーゲンが甲9に開示されていることを認めているにもか
かわらず,甲9が発明特定事項2及び3を開示又は示唆してないと認定
した審決は論理的に矛盾している。
また,甲12には,平均分子量が280∼20000であるコラーゲ
ンペプチドを含有する皮膚外用剤が開示されており(請求項1及び2),
280∼20000に「3,000以上7,000以下」は数値的に含
まれるのであるから,甲12に開示された平均分子量が280∼200
00であるコラーゲンペプチドが,発明特定事項2及び3に相当するこ
とは明らかである。
甲15には,平均分子量が1000∼20000である加水分解コラ
ーゲンを含有する皮膚外用剤(皮膚洗浄剤)が開示されており(請求項
2),1000∼20000に「3,000以上7,000以下」は数
値的に含まれるのであるから,甲15に開示された平均分子量が100
0∼20000である加水分解コラーゲンが,発明特定事項2及び3に
相当することは明らかである。
甲16には,平均分子量が5000∼25000である加水分解コラ
ーゲンを含有する皮膚外用剤(シャンプー)が開示されており(請求項
2),5000∼25000と「3,000以上7,000以下」とは
数値的に一部重複するのであるから,甲16に開示された平均分子量が
5000∼25000である加水分解コラーゲンが,発明特定事項2及
び3に相当することは明らかである。
(ウ)審決は,これらの証拠に関して,「平均分子量3,000∼7,00
0の加水分解コラーゲンを使用されることについては具体的に記載され
ておらず」と述べているが(14頁23行∼25行),甲9には,平均
分子量3,000である加水分解コラーゲンを使う具体例が開示されて
おり(EXAMPLE3),審決の認定は誤っている。
審決は,加水分解コラーゲンの保湿性に着目して甲9等に開示された
発明と本件発明2との比較検討を行っているが,明細書の特許請求の範
囲の記載を見る限り,本件発明2の「コラーゲン由来のペプチド」を保
湿剤と同視して解釈すべき理由はなく,保湿効果以外の目的でコラーゲ
ン加水分解物又はコラーゲンペプチドを使用した皮膚外用剤に関する発
明が,本件発明2の進歩性の有無の判断において,従来技術から排除さ
れることはありえない。
そして,甲12や甲15等の開示内容を見れば,幅広い平均分子量範
囲に渡ってコラーゲン加水分解物又はコラーゲンペプチドが皮膚外用剤
に使用されていたこと,又は,少なくとも平均分子量が3,000以上
7,000以下であるコラーゲン加水分解物又はコラーゲンペプチドが,
その効果の期待の下,皮膚外用剤に使用できると当業者が当然に考えて
いたことは明らかであって,発明特定事項2及び3が,甲9,11,1
2,15,16に開示されていることに議論の余地はない。
(エ)審決は,前記甲36の111頁左欄8行∼12行には,平均分子量7
00∼800のコラーゲン酵素法加水分解ペプタイドが保湿性に優れて
いることが記載されているから,保湿剤として平均分子量3,000∼
7,000のコラーゲン加水分解物を使用することに動機付けがないと
認定している(15頁18∼23行)。
しかし,上記甲36の114頁の右下にある図6を見ると,平均分子
量が600,2000,5000及び10000であるコラーゲン酵素
法加水分解ペプタイドの保湿効果に際立った差はない。図6に記載の平
均分子量2000,5000又は10000のコラーゲン酵素法加水分
解ペプタイドを排して,図6に記載の平均分子量600のコラーゲン酵
素法加水分解ペプタイドを,皮膚外用剤の保湿剤として選択せざるを得
ないほど,平均分子量600のコラーゲン酵素法加水分解ペプタイドの
保湿効果が劇的に優れているわけではない。
図6に記載の平均分子量2000,5000及び10000のコラー
ゲン酵素法加水分解ペプタイドも,保湿剤としての機能を発揮するのに
必要な保湿効果を示している。また,そもそも,上記甲36の114頁
右欄18行∼20行には「コラーゲン加水分解ペプタイドは一般に優れ
た保湿性を有し」と記載されている。
このように,甲36の111頁左欄8行∼12行に,平均分子量70
0∼800のコラーゲン加水分解物が保湿性に優れていることが記載さ
れていたとしても,本件特許の出願時(平成15年3月27日)におい
て,平均分子量700∼800のコラーゲン加水分解物のみが保湿剤と
して使用され,その他の範囲の平均分子量を有するコラーゲン加水分解
物が,その保湿効果を否定されて皮膚外用剤に使用できないと考えられ
ていた訳ではない。甲36の記載内容を踏まえれば,平均分子量3,0
00∼7,000のコラーゲン加水分解物を保湿剤として使用すること
に十分な動機付けはあるのであって,審決の認定は誤っている。
オ取消事由5
(ア)審決は,本件発明2の進歩性の有無の判断において,甲5及び甲7の
開示内容に関して誤った認定をし,その結果,以下に述べるとおり,本
件発明2の進歩性の判断を誤った。
(イ)審決は,甲5では,酸性条件下でコラーゲンペプチドの平均分子量が
4,000以下である場合に沈殿・懸濁が抑制されているから,甲5は,
コラーゲン由来のペプチドの平均分子量が3,000以上7,000以下
である場合について,プロアントシアニジンとコラーゲン由来のペプチ
ドが「ほぼ中性」条件下で沈殿するか否かを教示するものではないと認
定している(11頁下7行∼下2行)。
また審決は,タンニン類とタンパク質の沈殿が,タンパク質の平均分
子量が小さいほど少なくなることが技術常識であるとしても,甲7の開
示内容からは,コラーゲン由来のペプチドの平均分子量が3,000以
上7,000以下である場合について,プロアントシアニジンとコラーゲ
ン由来のペプチドが沈殿するか否かは判断できないとした(12頁22
行∼25行)。
(ウ)しかし,審決において問題にされているのは,本件発明2の進歩性の
有無であって,新規性ではない。したがって,甲5及び甲7と本件発明
2との関係においては,コラーゲン由来のペプチドの平均分子量が3,
000以上7,000以下である場合に,プロアントシアニジンとコラー
ゲン由来のペプチドが沈殿しないことが甲5及び甲7に明示されている
か否かということではなく,又は,このような場合にプロアントシアニ
ジンとコラーゲン由来のペプチドが沈殿しないことが甲5又は甲7の記
載のみから判断できるか否かということではない。
(エ)被告も意見書(甲14)で述べているように,タンパク質の平均分子
量が小さくなるほど,タンニン類とタンパク質の沈殿が少なくなること
は当業者の技術常識であり(甲14,3頁末行∼4頁2行),さらには,
甲5がタンパク質がコラーゲン由来のペプチドである場合について,甲
7がタンニン類がプロアントシアジニンである場合について,当該技術
常識の妥当性を示している。故に,プロアントシアジニンとコラーゲン
由来のペプチドを含む皮膚外用剤において,これらの反応による沈殿を
抑制するために,所定のpH条件下でコラーゲン由来のペプチドの平均
分子量を小さく調整することは,本件特許の出願時の技術常識と,甲5
及び甲7の開示内容とに基づいて当業者であれば容易に行えたものであ
る。
一方,上述したように,本件発明2の発明特定事項「該プロアントシ
アニジンは,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼
4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」に関
しては,甲3及び甲9に開示又は示唆があり,さらには,本件発明1の
進歩性の有無の判断において,甲2から容易想到であると審決自体が認
定している(審決9頁下9行∼下2行)。
したがって,「5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,
2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」
プロアントシアニジンと,コラーゲン由来のペプチドとを含む皮膚外用
剤において,これらの反応による沈殿を抑制するために,コラーゲン由
来のペプチドの平均分子量を変化させて,所定のpH条件下で沈殿を生
じない平均分子量を特定すること,即ち本件発明2の皮膚外用剤を得る
ことは,本件特許の出願時の技術常識と,原告提出の証拠の開示内容と
に基づいて,当業者であれば明らかに容易に行えたものである。
このように,審決は,甲5及び甲7の開示内容につき認定を誤った結
果本件発明の進歩性の判断を誤ったものである。
カ取消事由6
(ア)本件発明2が,明細書に記載された発明の解決課題,実施例及び実験
結果に無関係な皮膚外用剤を含んでいることが明細書の記載から自明で
あるにも拘わらず,審決は,本件発明2の進歩性の有無の判断において
明細書に開示された実験結果を考慮しているが,以下に述べるとおり,
誤りである。
(イ)審決の11頁下4行∼下1行では,「ほぼ中性である皮膚外用剤にお
いて,平均分子量3,000∼7,000のコラーゲン加水分解物がプ
ロアントシアニジン存在下で沈殿を生ずるか否かについて教示するもの
ではない。」と,明細書(甲1)の段落【0056】の表1に示された
実験結果を踏まえた認定がなされている。
また,審決の14頁25行∼27行では,「保湿性に優れた効果を示
す範囲として,平均分子量3,000以上7,000以下のコラーゲン
ペプチドを使用することが示唆されていると認めることはできない」と,
明細書(甲1)の段落【0062】の表3に示された実験結果を踏まえ
た認定がなされている。
さらに,審決の17頁下10行∼下6行では,「本件明細書の表3に
示される血流改善効果は,当業者が予測しうる範囲を超えたものと認め
ることができるから,本件発明2が,甲第2号証乃至甲第8号証に記載
された発明に基づいて,又は甲第22号証及び甲第23号証に記載され
た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると
することはできない。」と,本件明細書(甲1)に添付の図1に示され
た実験結果を踏まえた認定がなされている(「本件明細書の表3」は,
「本件明細書に添付された図1」の誤記である)。
本件明細書の段落【0047】には,本件発明の皮膚外用剤には,
「石鹸,ファンデーション,白粉,口紅,リップグロス,頬紅,アイシ
ャドー」が含まれると述べられており,本件明細書の特許請求の範囲を
見ると,皮膚外用剤が液状である旨が,又は,皮膚外用剤がプロアント
シアニジンとタンパク質ペプチドを含有する溶液である旨が記載されて
いない。故に,本件発明の皮膚外用剤には,段落【0047】に例示さ
れたような粉状や固形の皮膚外用剤も含まれると解釈するのが相当であ
る。
(ウ)しかし,本件明細書の段落【0004】,【0006】,【0007
】の記載から認められる本件発明1,2の解決課題は,最終製品である
液状の皮膚外用剤における凝集・沈殿・懸濁の抑制である。そして,最
終製品である粉状又は固形の皮膚外用剤においては,凝集・沈殿・懸濁
の問題はそもそも起こり得ない。また,段落【0051】以降に開示さ
れている本件発明1,2の実施例は,液状の皮膚外用剤であって,本件
明細書には,粉状又は固形の皮膚外用剤の実施例に関して,その製造方
法や効果の検証結果などは開示されていない。
このように,本件明細書に記載された解決課題,実施例及び実験結果
に無関係な粉状や固形の皮膚外用剤が,本件発明2の技術的範囲に明ら
かに含まれているにもかかわらず,本件明細書の表1,表3及び図1に
開示された液状の皮膚外用剤に関する実験結果が,本件発明2の進歩性
の有無の判断に考慮されるのは明らかに不当である。本件明細書の特許
請求の範囲の記載は,本件発明2の進歩性の有無の判断において本件明
細書及び添付図面に開示された実験結果を参酌するに値しない。
(エ)この点,被告は粉状や固形の皮膚外用剤であっても,本件発明2によ
れば,製造段階における凝集・沈殿・懸濁が抑制される旨を審判にて主
張している。しかしながら,本件明細書の特許請求の範囲に記載されて
いるのはあくまで最終製品の皮膚外用剤であり,プロアントシアニジン
とコラーゲン由来のペプチドの両方を含有する粉状又は固形の如何なる
皮膚外用剤についても,製造段階において凝集・沈殿・懸濁が問題にな
ると考えることは到底不可能であるから,被告の主張は誤っている。
キ取消事由7
(ア)本件発明2が,本件明細書に記載された作用効果を奏さない皮膚外用
剤を含んでいることが,本件特許の出願時の技術常識から自明であるに
もかかわらず,審決は本件発明の進歩性の有無の判断において,本件明
細書に開示された実験結果を考慮している。
すなわち,甲5の段落【0010】には,「コラーゲン反応成分とし
ては,酸性多糖類やタンニン類が挙げられる。酸性多糖類は,カラギー
ナン,ジェランガム,アラビアガム,キサンタンガム,ペクチンを包含
し,食品中でマイナスの電荷を持つ物質である。また,タンニン類を多
く含む食品素材としては,グレープ,ブルーベリー,ラズベリー,クラ
ンベリーを包含する果汁や,緑茶,紅茶を包含する茶系エキス類,赤ワ
イン等が挙げられる。これらの食品素材は,飲食品に1種類だけ,ある
いは,複数種類含まれる。なお,コラーゲンとコラーゲン反応成分との
反応は,環境条件の違いによって,起こったり起こらなかったりする。
例えば,pH値によって,反応の有無や程度が変わる場合がある。した
がって,本発明におけるコラーゲン反応成分とは,飲食品に配合された
状態の環境で,前記したコラーゲンと反応を起こす成分を意味する。」
と記載されている。
また,甲5の段落【0014】には,「…〔pH値〕コラーゲン反応
成分は,特定のpH環境において,コラーゲンと反応することが多い。
したがって,飲食品の製造過程で,コラーゲンとコラーゲン反応成分と
が反応を起こし易いpH範囲になることがなければ,本発明の低分子コ
ラーゲンペプチドを使用しなくても問題にはならない。通常のコラーゲ
ンに比べて本発明の低分子コラーゲンペプチドを用いることが有用にな
るpH範囲として,コラーゲンの等電点よりも低いpH値の場合がある。
コラーゲンを等電点よりも低いpH値におくことで,コラーゲン反応成
分との反応性が発現する。」と記載されている。
さらに,甲5の段落【0015】には,「コラーゲンの等電点は,コ
ラーゲンの製造方法によって若干異なるが,多くの場合,pH=4.5
∼9.5の範囲である。但し,本発明の低分子コラーゲンペプチドの場
合,等電点よりも低いpH範囲であっても,コラーゲン反応成分との間
で反応を起こすことはない。したがって,本発明の低分子コラーゲンペ
プチドを用いることの有用性は,従来技術ではコラーゲンを添加するこ
とが出来なかったコラーゲン反応成分を含む酸性飲食品に対しても,コ
ラーゲンを添加できるようになり,配合原料に何ら制限を受けることな
く,幅広いコラーゲン強化飲食品を提供できる点にある」と記載されて
いる。
また,甲13の段落【0002】∼【0005】,【0014】にも,
タンパク質の凝集のpH依存性を踏まえた記載がある。
(イ)甲7には,タンパク質が,その等電点付近のpHにおいて,プロアン
トシアニジンと最も効率的に沈殿することが述べられており(4494
頁左欄14行∼16行),タンパク質とプロアントシアニジンの沈殿の
pH依存性を示す実験結果が示されている(4495頁TABLE
I)。TABLEIを見ると,例外はあるものの実験に用いられたタン
パク質について,50%の阻止能を示すのに必要なモル数は,pHがタ
ンパク質の等電点(pI)に近い方が小さくなっており,等電点から離
れた高pH領域では,等電点付近のpH領域よりも沈殿が生じ難いとい
う結果が示されている。
また,甲57(AndersBennick「INTERACTIONOFPLANTPOLYPHENOLS
WITHSALIVARYPROTEINS」CritRevOralBiolMed13:184∼19
6頁〔2002〕)にも,一般的に,タンニン類とタンパク質の沈殿は
pHに依存しており,タンパク質の等電点付近で特に顕著であると述べ
られている(187頁右欄下3行∼下1行)。さらに甲57には,タン
ニン類のフェノール性水酸基がイオン化されるpHでは,タンニン類と
タンパク質の相互作用が観測されなかったことが記載されている(18
7頁右欄11行∼15行)。プロアントシアニジンがフェノール性水酸
基(ベンゼン環などの芳香族環に結合した水酸基(OH))を有するこ
とについては,例えば,甲20の段落【0010】及び図1に示されて
いる。
(ウ)上記によれば,本件発明2の解決課題の対象であるプロアントシア
ニジンとタンパク質の凝集・沈殿・懸濁が,タンパク質の等電点との関
係でpH依存性を有していること,つまり,プロアントシアニジンとタ
ンパク質の反応による沈殿の量は,プロアントシアニジンとタンパク質
が溶解している溶液のpHとタンパク質の等電点とに依存することは,
本件特許の出願時において当業者の技術常識であったことが分かる。
それにもかかわらず,本件明細書は,皮膚外用剤のpHとコラーゲン由
来のペプチドの等電点とについて何ら開示していない。加えて,本件明
細書の表1に開示された実験結果は,皮膚外用剤がいかなるpHであっ
ても,又は,ペプチドの等電点が如何なる値であっても,目視により確
認されない程度に沈殿・懸濁が抑制されることを証明するものではない。
また,pHとペプチドの等電点が特許請求の範囲に記載されていないか
らといって,本件発明2によれば,いかなるpH,又はいかなる等電点
であっても,目視により確認されない程度に凝集・沈殿・懸濁が生じな
いと考えることは不可能である。
つまり本件発明2の構成を有する皮膚外用剤であっても,pHやペプ
チドの等電点次第では,目視により確認されない程度に凝集・沈殿・懸
濁が抑制されないのである。
さらに,上記に示した技術常識によれば,コラーゲンペプチドの等電
点から離れた高pH領域では,沈殿・懸濁は低下し,又は,問題になる
程度には生じないのであって,さらに,プロアントシアニジンのフェノ
ール性水酸基がイオン化されるpHでは,プロアントシアニジンとコラ
ーゲンペプチドの反応が生じない。故に,皮膚外用剤がそのようなpH
であるならば,本件発明2のようにプロアントシアニジンにおける組成
の操作や,コラーゲンペプチドの平均分子量の操作を行うことなく,沈
殿・懸濁は,目視により確認されない程度に抑制されるか,起こらない
のである。
(エ)このように,本件特許の出願時の技術常識に基づけば,本件明細書に
記載された発明の作用効果を奏さない皮膚外用剤を本件発明2が含んで
いることは明らかである。それにもかかわらず,審決は本件発明2の進
歩性の有無の判断において,本件明細書に開示された実験結果に従来技
術を超えた効果があると認定して,本件発明2に係る特許を維持する結
論を下している。その結果,pHやペプチドの等電点に関係した本件発
明2とは異なる作用で(目視で確認される程度に)沈殿等が生じない皮
膚外用剤や,本件発明2の構成を有するにもかかわらず本件発明2の効
果を生じない皮膚外用剤を権利範囲に含む本件発明2の特許を維持する
との判断がされており,審決は誤りである。
ク取消事由8
(ア)本件特許の出願時の技術常識を参酌すれば,本件発明2の数値限定に
技術的価値が皆無であるにもかかわらず,審決は本件発明2の数値限定
を根拠として進歩性を認めた。
まず甲5発明は,甲5の特許請求の範囲に補正がなされたことで特許
査定されており,最終的に,請求項1の最後の部分は,「前記低分子コ
ラーゲンペプチドが,平均分子量4000以下であり,前記飲食品が,
前記低分子コラーゲンペプチドの等電点よりも低いpH値を有するコラ
ーゲン添加飲食品。」(甲58の請求項1)となっている。
つまり,甲58に係る特許発明では,発明の詳細な説明において,コ
ラーゲンペプチドの等電点の関係でいかなるpH範囲でコラーゲン添加
飲食品における凝集・沈殿・懸濁が問題になるかが技術常識に基づいて
明確に説明されており,そのような説明の下,特許請求の範囲において
pHが特定されることで,「平均分子量4000以下」という数値の技
術的価値及び意義が明確にされると共に,「平均分子量4000以下」
のコラーゲンペプチドを用いることによる凝集・沈殿・懸濁の抑制効果
の保証が,特許請求の範囲において,つまり甲58に係る特許発明にお
いてなされている。
本件発明2は,pHや等電点に関する事項を発明特定事項として含ん
でいないのであるから,本件発明2の「5量体以上のプロアントシアニ
ジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以
上の割合」及び「平均分子量が3,000以上7,000以下」なる数
値限定は,任意のpHや,コラーゲン由来のペプチドの任意の等電点に
おいて本件発明2の作用効果が得られることを保証するものでなくてな
らない。
しかし,プロアントシアニジンとコラーゲン由来のペプチドを含む本
件発明2のような皮膚外用剤においては,ペプチドの等電点との関係に
おけるpHの変化に応じて凝集・沈殿・懸濁の程度が変化することは,
本件特許出願時における技術常識であって,本件明細書に開示された実
験結果は,任意のpH又は任意の等電点における本件発明2の効果を証
明するものではない。従って,本件発明2の「5量体以上のプロアント
シアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重
量部以上の割合」及び「平均分子量が3,000以上7,000以下」
なる数値限定は,任意のpHや等電点において,凝集・沈殿・懸濁の抑
制効果を与える数値範囲を示すものではないことは明らかであって,本
件特許の出願時の技術常識を踏まえるならば,本件発明2の数値限定に
技術的価値を認めることはできない。
なお審決の論理は,本件発明2の皮膚外用剤は「ほぼ中性」であって,
上記数値限定は,「ほぼ中性」のpH領域における凝集・沈殿・懸濁の
抑制効果を与える点で技術的価値があるというものと理解するが,取消
事由1で述べたように,本件発明2の皮膚外用剤を「ほぼ中性」と認め
るべき理由は皆無であり,特許請求の範囲の記載を無視して,本件発明
2の皮膚外用剤を「ほぼ中性」と認定することは明らかに違法である。
(イ)審決は,コラーゲン由来のペプチドの「平均分子量が3,000以上
7,000以下」であると沈殿・懸濁が抑制され,保湿効果が高まると
の認定の下,本件発明2と原告提出の証拠に記載された発明との対比を
行い,原告の主張を排除している(11頁下4行∼2行,12頁23行
∼24行,13頁12行∼14行,14頁25行∼27行)。
上述したように,コラーゲン由来のペプチドの「平均分子量が3,0
00以上7,000以下」であっても,pHやペプチドの等電点次第で
本件発明2の作用効果が得られないことが,本件特許の出願時の技術常
識から明らかである以上,「平均分子量が3,000以上7,000以
下」なる数値範囲に技術的価値は全くないのであって,コラーゲン由来
のペプチドの「平均分子量が3,000以上7,000以下」であると
沈殿・懸濁が抑制され,保湿効果が高まるとの認定に基づいて従来技術
との対比を行い,結論を下した審決は違法であり取り消されるべきであ
る。
ケ取消事由9
(ア)審決は,比較対象となる従来技術について検討することなく,また具
体的根拠を全く示すことなく,本件明細書及び添付図面に開示された実
験結果に基づいて,本件発明2に従来技術を超えた効果があると認定し
た。しかし,当該実験結果からは,本件発明2に従来技術を超えた顕著
な効果があると認定することはできない。
(イ)審決は明示はしていないが,本件明細書(甲1)の段落【0062】
の表3に示された実験結果を根拠として,甲9等について,「保湿性に
優れた効果を示す範囲として,平均分子量3,000以上7,000以下
のコラーゲンペプチドを使用することが示唆されていると認めることが
できない。」(14頁25行∼27行)と認定している。また審決は,
本件明細書に添付の図1に示された実験結果を根拠として,「本件明細
書の表3に示される血流改善効果は,当業者が予測しうる範囲を超えた
ものと認めることができる」(17頁下10行∼下9行,上記のとおり
「本件明細書の表3」は,「本件明細書に添付の図1」の誤記)と認定
した。
しかし,表3及び図1に示された実験結果において比較例に当たる化
粧水5∼8では,5量体以上のプロアントシアニジンが多く含まれるよ
うに,本件特許の出願時に公知の松樹皮抽出物であるフラバンジェノー
ルから調製した(出願時に公知ではない)組成物が用いられている(本
件明細書〔甲1〕段落【0051】及び【0059】の表2の一列目)。
出願時に公知のフラバンジェノールを用いた本件発明2の実施例である
化粧水2及び3よりも,比較例の化粧水5∼8を作製する方が困難であ
って,比較例の化粧水5∼8が従来技術に該当するか否かは自明ではな
い。
なお同様に,本件明細書の段落【0056】の表1における2段目の
比較例(松樹皮抽出物〔2∼4量体:0.03重量%,5量体以上0.0
4重量%〕)についても,従来技術に該当するか否かは自明ではない。
審決の言う「保湿性に優れた」とは,本件発明2の皮膚外用剤の保湿
性が,(プロアントシアニジンを沈殿を生じないように含むことで)コ
ラーゲン由来のぺプチドのみを含有する皮膚外用剤よりも増加している
ことを意味しているのか,単に,実験結果において,沈殿が生じた皮膚
外用剤よりも沈殿が生じなかった皮膚外用剤の方が保湿性が高いことを
意味しているのか全く不明である。また,前記甲36が示すようにコラ
ーゲン由来のぺプチドは一般に保湿性に優れているのであるから,本件
発明2の保湿性について単に「保湿性に優れた」と認定するだけは,従
来技術との比較において全く意味がない。
沈殿が生じる場合より沈殿が生じない場合の方が皮膚外用剤の保湿性
が高いことは,(沈殿による損失が少ないのだから)当業者にとって自
明である。また,表3の実験結果からは,プロアントシアニジンとコラ
ーゲン由来のペプチドとを沈殿を生じないように含むことで,本件発明
2の皮膚外用剤が,コラーゲン由来のぺプチドのみを含む皮膚外用剤よ
りも高い保湿性を有すると認めることは到底不可能である。故に,表3
の実験結果からは,本件発明2の皮膚外用剤が,従来技術を超えた優れ
た保湿性を有すると認めることはできない。
(ウ)血流改善効果についても,審決は「当業者が予測しうる範囲を超え
た」と認めているが(17頁下10行∼下9行),保湿性と同様に,
(コラーゲン由来のぺプチドを沈殿を生じないように含むことで)プロ
アントシアニジンのみを含有する皮膚外用剤よりも増加していることを
意味しているのか,単に,実験結果において,沈殿が生じた皮膚外用剤
よりも沈殿が生じなかった皮膚外用剤の方が血流改善効果が高いことを
意味しているのか全く不明である。
沈殿が生じる場合より沈殿が生じない場合の方が皮膚外用剤の血流改
善効果が高いことは,当業者にとって自明なことである。また,図1の
実験結果からは,プロアントシアニジンとコラーゲン由来のペプチドと
を沈殿を生じないように含むことで,本件発明2の皮膚外用剤が,プロ
アントシアニジンのみを含む皮膚外用剤よりも高い血流改善効果を有す
ると認めることは到底できない。故に,図1の実験結果からは,当業者
が予測しうる範囲を超えた血流改善効果を有するものと認めることはで
きない。
(エ)表3及び図1に示された実験に使用されたコラーゲン由来のペプチド
の平均分子量は,1000,3000,5000,10000であるか
ら(本件明細書の表2),表3及び図1は,コラーゲン由来のペプチド
の平均分子量が5,000より大きく7,000以下である場合について,
本件発明2の皮膚外用剤の保湿効果及び血流改善効果を実験的に示して
いない。つまり,本件明細書及び添付図面は,本件発明2の皮膚外用剤
が,優れた保湿性と血流改善効果を有することを実験的に証明していな
い。故に,表3及び図1の実験結果からは,本件発明2の皮膚外用剤が,
優れた保湿性と,当業者が予測しうる範囲を超えた血流改善効果とを有
するものと認めることはできない。
(オ)本件明細書(甲1)の段落【0054】の記載から明らかなように,
本件明細書に開示されている実験では,製造業者が異なる様々な商品の
コラーゲンペプチドが使用されている。故に,表1の実験結果が,沈殿
・懸濁の平均分子量依存性を明確に示しているか否かは自明ではない。
ちなみに,甲5では,沈殿・懸濁に関する実験において,同じゼラチン
から作製された平均分子量が異なるコラーゲンペプチドが使用されてお
り(甲5段落【0016】),沈殿・懸濁の平均分子量依存性が明確に
示されている。
(カ)このように,審決は,比較対象となる従来技術について何ら検討する
ことなく,また具体的根拠を全く示すことなく,本件明細書及び添付図
面に開示された実験結果に基づいて,本件発明2に従来技術を超えた効
果があると認定しているのであるが,本件明細書及び添付図面に開示さ
れた実験結果からは,本件発明2に従来技術を超えた顕著な効果がある
と認定することはできない。本件明細書及び添付図面に開示された実験
結果に関する審決の認定は誤っており,取り消されるべきである。
コ取消事由10
(ア)本件明細書及び図面に開示された実験結果からは,本件発明2の発明
特定事項たる数値範囲の全てについて,本件発明2の皮膚外用剤がその
効果を奏すると認めることは不可能であり,次に述べるように法36条
6項1号の要件を満たさないから,その判断を誤った審決は違法として
取り消されるべきである。
(イ)本件発明2の発明特定事項「プロアントシアニジンが,5量体以上の
プロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニ
ジンを1重量部以上の割合に含有する」は,プロアントシアニジンに含
有する5量体以上のプロアントシアニジンX重量部と,2∼4量体のプ
ロアントシアニジンY重量部について,Y/X≧1の関係があることを
規定している。
また,本件明細書の段落【0056】の表1の1段目に示された実施
例の皮膚外用剤では,「2∼4量体:0.04重量%,5量体以上0.0
1重量%」とあるから,X=0.01,Y=0.04となる。また,表1
の1段目の実験結果では,平均分子量が7,000以下のコラーゲンペプ
チドについて沈殿・懸濁が抑制されている。これらのことから,表1の
1段目の実験結果により,Y/X=4の場合において,本件発明2によ
り沈殿・懸濁が抑制されることが証明されている。
また,表1の3段目に示された皮膚外用剤では,「2∼4量体:0.1
重量%」とあるから,X=δ(δ→0),Y=0.1に相当すると考える
と,表1の3段目の実験結果では,平均分子量が7,000以下のコラー
ゲンペプチドについて沈殿・懸濁が抑制されていることから,Y/X=
∞の場合において,本件発明2により沈殿・懸濁が抑制されることが,
表1の3段目に示された実験結果によって一応証明されていると考える
ことができる。
つまり,表1の1段目及び3段目に示された実験結果によって,Y/
X≧4の数値範囲において,本件発明2により沈殿・懸濁が抑制される
ことが一応証明されていると考えることができる。
本件明細書(甲1)の表1には,Y/X=1の場合に関する実験結果
は開示されていないにも拘わらず,本件発明2は,Y/X≧4の数値範
囲に加えて,4>Y/X≧1の数値範囲を含むものである。故に,本件
明細書の特許請求の範囲の記載が法36条6項1号の要請,つまり「明
細書のサポート要件」を満たすためには,4>Y/X≧1の数値範囲に
おいても,本件発明2により沈殿・懸濁が抑制されることが,表1に開
示された実験結果と出願時の技術常識とに基づいて理解できる必要があ

(ウ)一方,本件明細書の表1の2段目に示された皮膚外用剤では,「2
∼4量体:0.03重量%,5量体以上0.04重量%」とあるから,X
=0.04,Y=0.03となる。そして,平均分子量が3,000以上7
,000以下のコラーゲンペプチドについて沈殿・懸濁が確認されている
ことから,表1の2段目に示された皮膚外用剤に関する実験結果から,
Y/X=0.75である皮膚外用剤は,沈殿・懸濁の抑制効果を奏さない
ことが理解できる。
4と0.75という2つの値のうち,どちらが1に近いかは明らかで
あって,表1の1段目と2段目に示された実験結果に基づくならば,Y
/X=1である場合において,本件発明2の皮膚外用剤は,沈殿・懸濁
の抑制効果を奏さないと考えるのが合理的,技術的,常識的である。加
えて,本件明細書(甲1)には,Y/X=1である場合について,又は
4>Y/X≧1の数値範囲について,本件発明2が沈殿・懸濁の抑制効
果を有することを,表1の実験結果と技術常識に基づいて説明した記載
はない。
故に,本件明細書及び添付図面に開示された実験結果と,本件特許の
出願時の技術常識とに基づいて,特許請求の範囲に規定されたY/X≧
1なる数値範囲の全てについて,本件発明2の皮膚外用剤が効果を奏す
ると認定することは到底不可能であって,本件明細書の特許請求の範囲
の記載は,「明細書のサポート要件」を明らかに満たしていない。
(エ)また,以下に述べるように,本件明細書の表3及び図1に示された実
験結果からは,本件発明2がY/X≧1の数値範囲の全てにおいて,優
れた保湿効果と予測困難な血流改善効果を有すると認定することもでき
ない。
本件明細書(甲1)の段落【0059】の表2を見ると,化粧水1∼
4にはフラバンジェノールが使用されている。段落【0051】を見る
と,フラバンジェノールでは,2∼4量体40重量%,5量体8.7重量
%であって,X=8.7,Y=40となる。つまり,化粧水1∼4につい
て,Y/X=40/8.7=4.6であることから,段落【0059】の
表3では,Y/X=4.6である場合について,本件発明2の皮膚外用
剤に関する保湿効果について実験的に示されていると理解される。
しかしながら,段落【0059】の表3には,表1の3段目の実験結
果のような,Y/X=∞に相当する実験結果はない。故に,本件明細書
は,Y/X=4.6である場合についてのみ,本件発明2の皮膚外用剤
の保湿効果を実験的に示しているだけであって,本件明細書からは,Y
/X≧1の数値範囲の全てにおいて,本件発明2が(優れた)保湿効果
を奏するものと理解することはできない。
また,上述したように,実験に使用されたコラーゲン由来のペプチド
の平均分子量は,1000,3000,5000,10000であるか
ら(本件明細書の表2),本件明細書は,コラーゲン由来のペプチドの
平均分子量が5,000より大きく7,000以下である場合について,
本件発明2の皮膚外用剤の保湿効果を実験的に示していない。
図1の血流改善効果に関する実験結果についても同様である。
本件明細書には,表3及び図1の実験結果をY/X≧1の数値範囲の
全てに拡張できることに関する説明はなく,本件明細書及び添付図面の
記載に基づいて,本件発明2がY/X≧1の数値範囲の全てにおいて優
れた保湿効果と予測困難な血流改善効果を有すると認めることは不可能
である。
よって,本件明細書の特許請求の範囲の記載は,明細書のサポート要
件を満たしていない。
また本件発明2がその作用効果を奏さない粉状や固形の皮膚外用剤を
含むこと,そして,本件明細書に開示された実験結果が任意のpH又は
任意の(ペプチドの)等電点において本件発明2が作用効果を奏するこ
とを保証するものではなく,特許請求の範囲にpH又は等電点が記載さ
れないことによって(又は,任意のpH及び等電点における効果を本件
明細書が証明していないことによって)本件発明2の技術的範囲が不当
に拡大されていることは,上記においても既に原告が説明したとおりで
ある。これらの点からも,本件明細書の特許請求の範囲の記載が,明細
書のサポート要件を満たしていないことが明らかである。
2請求原因事実に対する被告の認否
請求原因ないしの各事実は認めるが,同は争う。
3被告の主張
(1)取消事由1に対し
ア審決11頁下4行目に記載の「ほぼ中性」なる事項は,本件発明2の発
明特定事項ではなく,審決も発明特定事項とは認定していない。この点は,
審決6頁11行∼21行の「5.本件発明」の項において認定した本件発
明2にも,「ほぼ中性」なる用語はない。つまり,「ほぼ中性」は発明特
定事項ではないことが明らかである。したがって,原告の主張は前提が誤
りである。
イ上記「ほぼ中性」は,本件発明2に記載の「皮膚外用剤」が有する一般
的な性状の一つ,すなわち,皮膚外用剤が,当業者の技術常識として,ほ
ぼ中性付近のpHを有することを説明するために使用したものにすぎない。
「皮膚外用剤」が「ほぼ中性」であることは,甲39(「化粧品辞典」6
76頁,平成15年12月15日発行,丸善株式会社)の「健常皮膚表面
のpHは通常5∼7の弱酸性を維持している」との記載から当然に導き出
されるものである。このことは,被告が無効審判の口頭審理陳述要領書
(甲48)で主張したとおりである。
上記甲48の7頁20行∼26行には,「皮膚のpHは,5∼7である
ことが一般的に知られており,皮膚外用剤は,通常,この皮膚のpH付近,
実質的には中性∼pH6.5程度に設定されるのである。皮膚外用剤をp
H5未満に調整する場合,皮膚のピーリングがおこる。他方,アルカリ側
に調整する場合,皮膚(あるいは目,粘膜など)に対する刺激が問題とな
り,さらには外部からの菌,埃などによる皮膚のバリア機能が損なわれ
る。」と記載されている。このように,皮膚外用剤は,一般に中性∼pH
6.5の「ほぼ中性」に設定されるのである。後述するように,審決では,
甲5及び甲13との対比をより明確にするために「皮膚外用剤」の性状と
して周知の事項である「ほぼ中性」を使用したにすぎない。
ウまた,審決11頁下7行∼12頁3行の記載は,甲5のタンニンを含む
紅茶(pH3.6)とコラーゲン加水分解物との関係及び甲13がコンド
ロイチン硫酸とタンパク質との関係で,弱酸性領域で濁りや沈殿について
しか示唆しておらず,特定の平均分子量のコラーゲン加水分解物とプロア
ントシアニジンとを含有する皮膚外用剤が,濁りや沈殿を生じるか否かに
ついてなんら示唆するものはないと判断したのであって,「ほぼ中性」は,
皮膚外用剤が当業者の常識として,対比した甲各号証とは異なるpHを有
することを念のために記載したにすぎない。
したがって,審決は,pHのみに基づいて結論を出したわけではなく,
用いる溶液の種類,含まれるプロアントシアニジンの種類,含まれるタン
パク質の種類などを全て考慮した上でなされたのであるから,原告の取消
事由1の主張は誤りである。
エ甲5が「プロアントシアニジンと平均分子量3000∼7000のコラ
ーゲン加水分解物との沈殿の関係を教示するものでもない」と判断する根
拠について,審決は「甲第5号証においては,平均分子量4328の例5
では30日後に白濁がみられ,平均分子量5589の例6では1日後から
白濁が生じ,平均分子量6913では1日後で完全に白濁しているのであ
るから(6頁表4),「4,000以下」と「7,000以下」とで特段
の技術的価値は認められないとの請求人の主張を採用することはできな
い。」(13頁10行∼14行)と述べている。このように,甲5は「紅
茶中のタンニン類とコラーゲン加水分解物との組み合わせ」である一方,
本件発明2は,「プロアントシアニジンとコラーゲン由来のペプチドとの
組み合わせ」であり,両者は成分が異なる組み合わせであるから,沈殿す
るか否かについて同じ議論ができないことを述べている。
しかも,甲5は,pH3.6という特殊条件下における紅茶の試験結果
なのであるから,そもそも一般的に「ほぼ中性」の皮膚外用剤に用いるこ
とは当業者には容易でない。
したがって,甲5が,ほぼ中性である皮膚外用剤において,平均分子量
3,000∼7,000のコラーゲン加水分解物がプロアントシアニジン
存在下で沈殿を生ずるか否かについて教示するものではないとした審決の
判断は妥当である。
オなお,甲13については,記載どおり,特定の平均分子量のコラーゲン
加水分解物とプロアントシアニジンとの関係が教示されていないのであっ
て,pHの差異に基づいて認定しているのではないことは明らかである。
カ原告は,本件明細書の特許請求の範囲にpHに関する記載はないのであ
るから,本件発明2の皮膚外用剤は,酸性,弱酸性,中性,弱アルカリ性
及びアルカリ性の何れであってもよいと主張するが,本件発明2は「皮膚
外用剤」なのであるから,当業者の技術常識に照らせば,「ほぼ中性」で
あることは明らかである。
なるほど原告が指摘するように本件明細書(甲1)の段落番号【004
7】は,石鹸を例示している。しかし,「アルカリ性」であることは記載
していない。乙1(「化粧品事典」560∼561頁,平成15年12月
15日発行,丸善株式会社)の「石けん」の項目には,「(石鹸の)欠点
はアルカリ性であること,…などである。この欠点を改善したものに弱酸
性石けん,…などがある。」と記載されている。このように,皮膚に外用
される石鹸は,前記甲48の記載(皮膚のpHは5∼7であること,皮膚
外用剤は,通常,この皮膚のpH付近,実質的には中性∼pH6.5程度
に設定されるのであること)を考慮して製造される。
原告が提出した甲51ないし53(順に,特開2001−270828
号,特開2001−72569号公報,特開平11−29466号公報)
は,いずれも特定のpHの範囲を構成要件とする皮膚外用剤,すなわち従
来の皮膚外用剤に対して,pHの範囲に特徴があるものとして記載された
ものであるから,これらが一般的な皮膚外用剤のpHと解されるものでは
ない。なお,甲52で規定するpHは「加水分解エラスチン溶液」のpH
であり,皮膚外用剤のpHではない(請求項2)。
したがって,皮膚外用剤が「ほぼ中性」であると認定できないとする原
告の主張は成り立たない。
キ原告は,本件発明2の皮膚外用剤のpHに関する審決の認定は,本件審
決より先に下された甲28の特許に関する無効審判の審決(甲29)の認
定と矛盾しており,甲29の審決の認定が妥当であると主張している。
しかし,皮膚外用剤がほぼ中性であることは当業者の周知事項であるこ
とは上述のとおりである。また,審決17頁19行∼21行に記載される
ように,甲28に係る発明は飲料に関する発明であって,皮膚外用剤であ
る本件発明2とは事案を異にするものであるから,本件発明2についての
判断を左右するものではない。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,審決は本件発明2の発明特定事項「プロアントシアニジンは,
5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロア
ントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」に関して,本件発明1
に関する進歩性の有無の判断では,甲2発明から容易想到と認定しておき
ながら,本件発明2に関する進歩性の有無の判断では,当該認定を踏まえ
ることなく,原告提出の証拠に開示や示唆はないと認定し,また本件発明
2の発明特定事項「平均分子量が3,000以上7,000以下のタンパ
ク質分解ペプチドを含有する」に関しても,本件発明1に関する進歩性の
判断では,甲11発明から容易想到と認定しておきながら,本件発明2に
関する進歩性の有無の判断では,原告提出の証拠に開示や示唆はないと認
定したのは,論理的整合性に欠け,違法であると主張する。
本件発明1に関する進歩性の有無の判断においては,発明特定事項であ
る「プロアントシアニジン」および「タンパク質分解ペプチド」の組み合
わせについて検討を行った結果,甲2及び11に基づいて,審決は容易想
到と判断した。
一方,本件発明2においては,発明特定事項の一つである「タンパク質
分解ペプチド」を「コラーゲン由来のペプチド」に限定したのであるから,
「プロアントシアニジン」および「コラーゲン由来のペプチド」の組み合
わせについて,改めて検討しなければならない。そこで,審決は「5量体
以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシ
アニジンを1重量部以上の割合で含有するプロアントシアニジン」と,
「平均分子量が3000以上7000以下であるコラーゲン由来のペプチ
ド」との組み合わせについて改めて検討しているのである。発明特定事項
が変われば,発明自体が異なるのであるから,引用する文献及びその引用
する内容が異なるのは,極めて当然のことであって,本件発明2が甲2及
び甲11から容易であるからといって,発明特定事項の異なる本件発明2
が甲2及び甲11から直ちに容易であるとは言えないのは,当然である。
したがって,本件発明2の判断において,本件発明1の判断との整合性
がないとする原告の主張は誤りである。
イまた原告は,本件発明2の発明特定事項「平均分子量が3,000以上
7,000以下のコラーゲン由来のペプチド」の容易性の判断においても,
同様に甲11の記載に基づいて容易想到とされるべきとし,コラーゲン由
来のペプチドが一般に保湿性に優れているのは周知の事実であるから,本
件発明1の「タンパク質分解ペプチド」として「コラーゲン由来のペプチ
ド」を用いることは容易であると主張している。
しかし,上記記載の通り,本件発明2は,本件発明1とは発明自体が異
なるのであるから,審決においては,発明特定事項である「5量体以上の
プロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジ
ンを1重量部以上の割合で含有するプロアントシアニジン」と,「平均分
子量が3000以上7000以下であるコラーゲン由来のペプチド」との
組み合わせについて改めて検討している。
ところで,本件発明1の発明特定事項「平均分子量が3,000以上7,
000以下のタンパク質分解ペプチドを含有する」についての審決の判断
は,甲11には,平均分子量が5,830あるいは7,210のケラチン
加水分解物を配合した化粧料は,平均分子量2,070のケラチンペプチ
ドや平均分子量1,888のコラーゲンペプチドを用いた比較例に比べて
肌のしっとり感が持続し,これは保湿性に優れた膜を形成するためと考え
られること,平均分子量10,000以下のものが取り扱い上好ましいこ
とが記載されているから,甲2の皮膚外用剤におけるタンパク質分解ペプ
チドとして甲11の記載事項に基づいて,保湿性に優れ,取り扱い上好ま
しいとされる分子量の範囲に包含される平均分子量3,000以上7,0
00以下のものを使用することは当業者が容易に想到しうる事項であって,
かかる範囲の分子量のものを用いることによる効果も予測の範囲内のこと
と認められるとしており,その容易性の判断は,皮膚外用剤に用いられる
タンパク質の効果である「保湿性」に照らせば,甲11に「平均分子量が
5,830あるいは7,210のケラチン加水分解物」が記載されている
から,その上位概念である「タンパク質分解ペプチド」の当該平均分子量
範囲を用いることは容易と判断されているのである。
したがって,上記のような本件発明1の判断を踏まえれば,甲11には,
上記平均分子量の「ケラチン加水分解物」しか開示されておらず,異なる
タンパク質である「コラーゲン由来のペプチド」の本件発明2の平均分子
量範囲のものは開示も示唆もされていない。
そこで,本件発明2については,改めて,特定範囲の平均分子量を有す
るコラーゲン由来のペプチドとプロアントシアニジンとの関係を検討し,
判断がなされている。
審決の11頁5行∼13行は,本件発明2と甲2発明(引用例)とを比
較し,相違点1,2を認定しており,これらの認定は,正しくなされてい
る。
そして甲11について,審決13頁(ウ−4)(13頁下3行∼14頁
3行)には,「甲第11号証には,上記のとおり平均分子量5,830や
7,210の加水分解ケラチンを使用する例は記載されているが,平均分
子量が1,888の加水分解コラーゲンペプチド粉末を用いた例は,平均
分子量が5,830や7,210の加水分解ケラチンを用いた実施例に比
較して効果が劣る例として記載されているのであって,甲第11号証は,
分子量3,000以上7,000以下のコラーゲン加水分解物を使用する
ことは何ら示唆しない」と結論している。
しかも,「コラーゲン由来のペプチド」については,審決15頁18行
∼22行から明らかなように,コラーゲン加水分解物単独では,平均分子
量700∼800のものが保湿力に優れていることが一般に知られている
から平均分子量がこれよりもはるかに高いコラーゲン由来のペプチドを用
いる本件発明2が容易でないことを支持している。
したがって,この点を考慮すれば,甲11を適用しても本件発明2は容
易でないとする審決は極めて妥当である。
(3)取消事由3に対し
ア原告は,本件発明2の発明特定事項「プロアントシアニジンは,5量体
以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシ
アニジンを1重量部以上の割合で含有する」との点に関し,甲3及び甲9
に開示があるにもかかわらず,開示がないと認定し,このような認定は誤
りであると主張する。
イ甲3については,審決は本件発明2と甲3との相違点「コラーゲン由来
のペプチドの平均分子量が3,000以上7,000以下であること」
(相違点A)及び「プロアントシアニジンが,5量体以上のプロアントシ
アニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部
以上の割合で含有する」点(相違点B)として,甲3の開示を検討し,明
らかに差異があると判断している。
ウ甲9についても同様であり,審決18頁13行∼19行では,本件発明
2と甲9発明との相違点として,上記相違点AおよびBを挙げ,「甲第9
号証におけるコラーゲン等は構造材料の一つであって,…配合する目的が
異なっている」(19頁2行∼4行),「甲第9号証においてコラーゲン加
水分解物として,平均分子量3,000以上7,000以下のコラーゲン
加水分解物を使用することも記載されていない。」(19頁10行∼12
行)と判断している。すなわち,本件発明2と甲9発明の内容は明らかに
差異があると判断しているのである。
エなお原告は,甲9には,植物抽出物としてオリゴメリックプロシアニジ
ン,つまり,2∼4量体のプロアントシアニジンを用いることが開示され
ている,及び甲10に開示されたケプラコ樹脂から抽出された生産物は,
少なくとも90重量%のプロアントシアニジンオリゴマーを含んでいると
主張し,あたかも「オリゴメリックプロシアニジン」または「プロアント
シアニジンオリゴマー」が,「2∼4量体のプロアントシアニジン」を意
味すると誤認するような記載があるので反論する。
「オリゴメリックプロシアニジン」は,「オリゴマーのプロシアニジ
ン」を意味している。ところで,「オリゴマーのプロシアニジン」又は
「プロアントシアニジンオリゴマー」の「オリゴマー」とは,一般には,
2∼20の低重合体を示す(乙2〔大木道則ほか「化学大辞典」株式会社
東京化学同人,1996年4月1日発行〕の「オリゴマー」の項を参照)。
したがって,甲9及び甲10において,特に「オリゴマー」が2∼4量体
であることを示していない限り,2∼20量体と解するのが一般的である。
したがって,甲9の「オリゴメリックプロシアニジン」または甲10の
「プロアントシアニジンオリゴマー」は単に2∼20量体を示すにすぎな
い点を理解すべきである。
なお,本件発明2に記載の「オリゴメリック・プロアントシアニジン
(OPC)」においては,本件明細書(甲1)の段落番号【0013】に
おいて「重合度が2∼4の縮重合体を,本明細書ではOPC(オリゴメリ
ック・プロアントシアニジン)という。」と明確に定義付けをしている。
オ上記によれば,審決は,本件発明2と甲3及び甲9発明の内容とを比較
した上で,本件発明2が甲3及び甲9から容易想到ではないと判断してお
り,原告主張の取消事由3は理由がない。
(4)取消事由4に対し
ア原告は,審決は,本件発明2の進歩性の有無の判断において,発明特定
事項「平均分子量が3,000以上7,000以下のタンパク質分解ペプ
チドを含有する」及び発明特定事項「前記ペプチドがコラーゲン由来のペ
プチドである」について,証拠に開示や示唆があるにも拘わらず,開示や
示唆がないとしたのは誤りであると主張する。
しかし審決は,原告の主張する発明特定事項「前記ペプチドがコラーゲ
ン由来のペプチドである」,すなわち「平均分子量が3,000以上7,
000以下のコラーゲン由来のペプチド」について,審決(ウ−4)に示
すように,提出された証拠について詳細に検討しており,その判断に誤り
はない。
なお,原告が主張する発明特定事項「平均分子量が3,000以上7,
000以下のタンパク質分解ペプチドを含有する」は,本件発明2の発明
特定事項「平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲン由来
のペプチド」とは異なるから,後者についての開示の有無を議論すれば十
分である。
イ甲9において,原告は「オリゴメリックプロシアニジンに加えて平均分
子量が3,000である加水分解コラーゲンを含有する皮膚外用剤が開示
されている(請求項1及び2,EXAMPLE3)」ことを指摘し,さら
に,平均分子量が3,000である加水分解コラーゲンが甲9に開示され
ていることを認めているにもかかわらず,甲9が発明特定事項を開示また
は示唆していないと認定した審決は,論理的に矛盾している旨主張する。
しかし甲9には,分子量13,000∼18,000の加水分解コラー
ゲンや平均分子量3,000の加水分解物と,植物抽出物を含む皮膚外用
剤の例,すなわち平均分子量3,000という点と,13,000∼18,
000の範囲しか記載がない。したがって,甲9が平均分子量3,000
以上7,000以下のものを使用する例は記載されていないとする審決の
判断は妥当である。
ウ甲12には,平均分子量20000以上のものに比べて,Gly-X-Y含量が
30∼85重量%のもの(平均分子量約3000)が好ましく,Gly-X-Y含
量が85∼100重量%のもの(平均分子量約300)が好ましいことが
記載され,甲12には,平均分子量がより小さいコラーゲンペプチドを用
いることを示唆しているが,審決の判断のとおり,甲12には,平均分子
量300と2000との間のものについては何ら記載されていない。また,
保湿性に優れた効果を示す範囲として「平均分子量が3,000以上7,
000以下のコラーゲン由来のペプチド」を使用することも示唆されてい
ない。したがって,甲12に関する審決の判断は妥当である。
エ甲15には,実施例として平均分子量10000の例が記載されている
にすぎない。「平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲン
由来のペプチド」を使用することについて具体的に記載されてもいないし,
保湿性に優れた効果を示す範囲として「平均分子量が3,000以上7,
000以下のコラーゲン由来のペプチド」を使用することが示唆されても
いない。
オ甲16についても「好ましくは10000∼25000の高分子コラー
ゲンを配合するとリンス効果が向上し髪のまとまりがよくなる。」と記載
されているのであって,「平均分子量が3,000以上7,000以下の
コラーゲン由来のペプチド」を使用することについて具体的に記載されて
もいないし,保湿性に優れた効果を示す範囲として「平均分子量が3,0
00以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチド」を使用することが
示唆されてもいない。
カ原告は,さらに甲12や甲15等の開示内容を見れば,幅広い平均分子
量に渡ってコラーゲン加水分解物又はコラーゲンペプチドが皮膚外用剤に
使用されていたこと,又は,少なくとも,平均分子量が3,000以上7,
000以下であるコラーゲン加水分解物又はコラーゲンペプチドが,その
効果の期待の下,皮膚外用剤に使用できると当業者が当然に考えているこ
とは明らかであるとも主張するが,上述したように,甲9,11,12,
15,16については,具体的に検討され,その結果,「平均分子量が3,
000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチド」を使用すること
が示唆されていると認めることはできないと判断されている。さらに審決
15頁18行∼23行では,審判乙5(前記甲36)によれば,平均分子
量700∼800のものが保湿力に優れていることが記載されていると認
定されており,「平均分子量が3,000以上7,000以下であるコラ
ーゲン由来のペプチド」の組み合わせにより保湿効果が優れることは,予
測されない。
したがって,「3,000以上7,000以下であるコラーゲン加水分
解物等が,その効果の期待の下,皮膚外用剤に使用できると当業者が当然
に考えている」との原告の主張は成り立たない。
キなお,原告は,前記甲36の記載内容から,平均分子量3,000∼7,
000のコラーゲン加水分解物を保湿剤として使用することに十分な動機
付けがあるのだから,審決の認定は誤っているとも主張する。
しかし,上述のように甲36には平均分子量700∼800のものが保
湿力に優れていることを記載されているから,甲36の記載に基づいて,
保湿剤として「平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲン
由来のペプチド」を用いることは容易でないとした審決は妥当である。
ク以上のように,審決は本件発明2の進歩性の有無の判断において,本件
発明2の発明特定事項「平均分子量が3,000以上7,000以下のコ
ラーゲン由来のペプチド」について,審判において提出された証拠に基づ
いて具体的にかつ詳細に検討し,この範囲について,提出された証拠には
開示も示唆もないとする判断がなされており,原告主張の取消事由4は理
由がない。
(5)取消事由5に対し
ア原告は,審決は甲5及び甲7の開示内容に関して誤った認定をし,その
結果本件発明の進歩性の判断を誤ったと主張する。
原告はまた,タンパク質の平均分子量が小さくなるほどタンニン類とタ
ンパク質の沈殿が少なくなることは当業者の技術常識であり,さらには,
甲5がタンパク質がコラーゲン由来のペプチドである場合について,甲7
がタンニン類がプロアントシアニジンである場合について,当該技術常識
の妥当性を示しており,プロアントシアニジンとコラーゲン由来のペプチ
ドを含む皮膚外用剤において,これらの反応による沈殿を抑制するために,
所定のpH条件下でコラーゲン由来のペプチドの平均分子量を小さく調整
することは,出願時の技術常識と,甲5及び甲7の開示内容とに基づいて
当業者であれば容易に行えたと主張する。
ところで審決は11頁31行∼36行において「甲第5号証は,pH3.
6という酸性条件下でタンニン類を含む紅茶における試験結果から,平均
分子量4000以下のコラーゲン加水分解物が濁りや沈殿を生じなかった
ことを示す」と認定している。他方,審決12頁14行∼25行では,
「甲第7号証には『プロアントシアニジンに対するプロテイン及びポリペ
プチドの相対的親和性は,ポリマーの大きさに影響される。プロリンリッ
チなタンパク質を除いて(9),分子量が20,000未満であるような
実験されたタンパク質の全ては,タンニンに対する親和性が低い。』と記
載されており,また,TableIIは,合成ポリプロリンの分子量とプ
ロアントシアニジンとの親和性の関係を示すものであって,分子量9,0
00と2,100との間で親和性に2桁の差があることが示されているが,
3,000∼7,000の間のどの分子量を境にその差が生ずるのか明ら
かでない。したがって,タンパク質の分子量が小さいほどプロアントシア
ニジンとの親和性が小さくなることが周知であるとしても,甲第7号証か
ら,平均分子量が3,000以上7,000以下の加水分解コラーゲンが
プロアントシアニジンと沈殿を生ずるか否かを判断することはできな
い。」と認定した。凝集沈殿においては,成分の組み合わせが異なれば,
同じ議論ができないことは明らかであり,甲5には「紅茶中のタンニン類
と平均分子量4000以下のコラーゲン加水分解物との組み合わせ」が開
示され,甲7には,「プロアントシアニジンと合成ポリプロリンとの組み
合わせ」が開示されているのみである。しかも甲7はどの分子量で沈殿す
るか明らかでないのであるから,審決の判断は妥当である。
したがって,甲5及び甲7を考慮しても,本件発明2は容易でないこと
は明らかであるから,審決に誤りはない。
(6)取消事由6に対し
ア原告は,本件発明2が,本件明細書に記載された発明の解決課題,実施
例及び実験結果に無関係な皮膚外用剤を含んでいることが本件明細書の記
載から自明であるにもかかわらず,審決は本件明細書に開示された実験結
果を考慮しているのが違法であると主張している。
本件発明2は,特許請求の範囲の記載から明らかなように,「皮膚外用
剤」であって,その代表例として,本件明細書の表3及び図1に「化粧
水」の実施例が開示され,本件発明2の皮膚外用剤が保湿効果及び血流改
善効果に優れることを示している。そしてこのような優れた保湿効果及び
血流改善効果が得られる現象の裏づけとして,表1に示されるような凝集
沈殿結果が示されているのである。したがって,本件発明2は,実施例で
サポートされており,不備はない。
イさらに,本件発明2には,本件明細書に記載のとおり,粉状や固形の皮
膚外用剤を含むが,これに関しても,製造過程などにおいて沈殿・懸濁・
凝集が問題となり,最終製品において保湿性などの効果に影響を与えるの
である。したがって,本件発明2の皮膚外用剤が固形や粉状の皮膚外用剤
を含むことに不備はない。その上,液状の皮膚外用剤の結果は,上記のと
おり,固形あるいは粉状の皮膚外用剤に適用できるのであるから,当然の
ごとく,進歩性の判断に考慮されるべきものである。そもそも,発明の効
果は,進歩性の判断に欠くことができないものであることはいうまでもな
い。
ウしたがって,本件発明2の皮膚外用剤は,本件明細書にサポートされて
おり,かつ粉状や固形の皮膚外用剤を含むことに不備はなく,液状の皮膚
外用剤の実施例の効果を進歩性の有無の判断の考慮材料とすることに何ら
誤りはないから,原告の主張は理由がない。
(7)取消事由7に対し
ア原告は本件発明2が,本件明細書に記載された作用効果を奏さない皮膚
外用剤を含んでいることが本件特許の出願時の技術常識から自明であるに
もかかわらず,審決は本件発明2の進歩性の有無の判断において,本件明
細書に開示された実験結果を考慮していると指摘し,このような審決の判
断は違法であると主張している。
原告は,甲5,7,13,57について,pHの問題を絡めて種々述べ
ているが,甲5,7,13との比較検討は既に被告主張のとおりである。
前記甲57は,一般的にタンニンとタンパク質とが結合し,沈殿を生じ得
ることを記載しているにすぎないから,本件発明2の特定のプロアントシ
アニジンと特定範囲の平均分子量を有するコラーゲン加水分解ペプチドに
ついては具体的に開示も示唆もなく,特定のプロアントシアニジンと特定
範囲の平均分子量を有するコラーゲン加水分解ペプチドとを使用すること
に動機付けはない。
このように,本件発明2と,甲5,7,13,57とは適切に比較対照
されており,その結論に瑕疵はないから,審決に違法性はない。
イまた原告は,本件発明2とは異なる作用で沈殿等が生じない皮膚外用剤
や,本件発明2の構成を有するにもかかわらずその効果を生じない皮膚外
用剤を権利範囲に含むと主張する。
しかし,この点については,すでに述べたとおり,本件皮膚外用剤は,
本件明細書にその実施例が記載されている。さらに,審決19頁下8行∼
20頁28行において,その効果が適正に判断されており,実験結果に従
来技術を超えた効果が認められるのである。
(8)取消事由8に対し
ア原告は,本件特許の出願時の技術常識を参酌すれば,本件発明2の数値
限定に技術的価値が皆無であるにもかかわらず,審決は本件発明2の数値
限定を根拠として,本件発明2に進歩性を認めたとし,審決は誤りである
旨主張する。
しかし,既に述べたように,本件発明2は,「皮膚外用剤」なのである
から,当業者の技術常識から考慮すれば,pHは皮膚外用剤として使用で
きる範囲でありほぼ中性(実質的には中性∼pH6.5程度)に設定され
る。当業者はあえてpHを示さずとも,いかなるpHでもよいと理解する
ことはない。したがって,本件発明2の数値限定が任意のpHで作用効果
を奏することを保証しなければならないとする原告の主張は前提において
誤りである。
イ本件発明2は,審決17頁25行∼26行の「ケそして,本件明細書の
表3に示される血流改善効果(被告注:表3に示される保湿効果および図
1に示される血流改善効果の誤記と思われる)は,当業者が予測しうる範
囲を超えたものと認めることができる」との判断から明らかなように,本
件明細書の記載が十分に検討され,発明特定事項の意義が認められたもの
である。例えば,本件明細書(甲1)の表3では,本件発明2の構成要件
を満たす皮膚外用剤(化粧水2および3)が,「5量体以上のプロアント
シアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量
部以上の割合」を満たさない皮膚外用剤(化粧水5∼8)又は「平均分子
量が3,000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチド」を満た
さない皮膚外用剤(化粧水1および4)に比べて優れた保湿効果を有して
いることが示されている。
したがって,本件発明2の発明特定事項「5量体以上のプロアントシア
ニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以
上の割合」及び「平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲ
ン由来のペプチド」は,本件明細書の記載および実施例を考慮すると,こ
れらの組み合わせに意義があることは明らかであり,本件発明2に進歩性
を認めるとした審決の判断は妥当であって,原告の主張は理由がない。
(9)取消事由9に対し
ア原告は,審決は比較対象となる従来技術について何ら検討することなく,
また具体的根拠を全く示すことなく,本件明細書及び添付図面に開示され
た実験結果に基づいて,本件発明2に従来技術を超えた効果があると認定
したが,当該実験結果からは,本件発明2に従来技術を超えた顕著な効果
があると認定することはできないと指摘し,審決の認定は違法であると主
張している。
イしかし,例えば,プロアントシアニジンを目的として得られる植物由来
の抽出物などは,5量体以上のプロアントシアニジンが2∼4量体のプロ
アントシアニジンより多く含まれる組成物であることが一般的である。乙
3は,本件特許出願前に製造したフランス海岸松樹皮抽出物「ピクノジェ
ノール(登録商標)」の分析値を記載した原告による陳述書である。これ
によれば,2002年(平成14年)10月14日に製造したピクノジェ
ノール(C450)中のプロアントシアニジン量は72%であり,200
3年(平成15年)1月22日に製造したピクノジェノール(D470)
のプロアントシアニジン量は68.8%であり,そしてこれらのピクノジ
ェノールは,ピクノジェノール(PYE630,オリゴメリックプロア
ントシアニジン〔2量体,3量体,4量体〕29.458重量%及びプロ
アントシアニジン76.514重量%を含む)と同じ化学成分であること
が陳述されている。したがって,PYE630の分析値を代表して計算す
れば,2∼4量体のプロアントシアニジンが29.458重量%であり,
5量体以上のプロアントシアニジンが47.056重量%(76.514
−29.458)であり,「5量体以上のプロアントシアニジンが2∼4
量体のプロアントシアニジンより多く含まれる組成物」であることが明ら
かである。
したがって,5量体以上のプロアントシアニジンが多く含まれるような
組成物は,出願時に公知の組成物であるので,原告の「化粧水5∼8が従
来技術に該当するかは自明でない」との主張は誤っている。
ウまた本件発明2の保湿効果は,本件明細書の表3において,本件特許請
求の範囲の発明特定事項「5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に
対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含むプ
ロアントシアニジン」と「平均分子量が3,000以上7,000以下の
コラーゲン由来のペプチド」とを含む皮膚外用剤(化粧水2及び3)が,
従来の単にプロアントシアニジンとタンパク質とを含む皮膚外用剤(化粧
水1及び4∼8)に比べて優れていること示すことで明確にされている。
さらに審決15頁18行∼23行で,乙5(前記甲36)に,コラーゲ
ン由来のペプチド単独では,平均分子量700∼800のものが保湿力に
優れていることの記載があると正しく認定されていることを考慮すれば,
本件発明2は,コラーゲン由来のペプチド単独では,平均分子量700∼
800より保湿力が劣ると思われる「平均分子量が3,000以上7,0
00以下」のものを組み合わせることによって保湿性が優れているのであ
るから,この効果は,コラーゲン単独で知られていた保湿効果では予測も
できない効果であることが理解される。
したがって,本件発明2は,従来技術を超えた優れた保湿性を有すると
認めることができないとする原告の主張は成り立たない。
エまた,上記と同様の理由で,本件発明2は,当業者が予測し得る範囲を
超えた血流改善効果を有する。すなわち,審決17頁25行∼29行から
明らかなように,本件発明2の効果(血流改善効果)は,本件明細書の図
1において,本件発明2の「5量体以上のプロアントシアニジン1重量部
に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含む
プロアントシアニジン」と「平均分子量が3,000以上7,000以下
のコラーゲン由来のペプチド」とを含む皮膚外用剤(化粧水2及び3)が,
従来の単にプロアントシアニジンとタンパク質とを含む皮膚外用剤(化粧
水1及び4∼8)に比べて優れていること示すことで明確にされている。
したがって,本件発明2は,当業者が予測し得る範囲を超えた血流改善
効果を有すると認めることはできないとの原告の主張は成り立たない。
オさらに本件発明2の効果の裏付けとして行った凝集沈殿実験結果である
表1の「平均分子量が7,000までは沈殿がない」ことを鑑みれば,表
3の「進歩性を有する優れた効果」は,沈殿が生じない平均分子量が7,
000程度まで得られることは容易に推測でき,示唆されていると判断さ
れている。つまり,他の実施例と比較した結果,本件発明特定事項の要件
を満たすプロアントシアニジンと分子量7000のコラーゲンの加水分解
ペプチドとの組み合わせにおいて,相当の効果を奏することが推認できる
と極めて妥当な判断がなされている。
そして審決17頁25行∼29行では,表3に示される保湿効果及び図
1に示される血流改善効果は,当業者が予測し得る範囲を超えたものと認
められている。すなわち,平均分子量が3000および5000のコラー
ゲン由来ペプチドを用いた場合(化粧水2及び3)に進歩性を有する優れ
た効果が得られることが認められている。この判断においては,実施例お
よび比較例の結果を妥当に判断したものであって,審決に違法性はない。
カ本件明細書表3および図1には,用いたコラーゲン由来のペプチドが種
々の製造業者から得られたことが記載されている。すなわち,製造業者が
異なる様々な種類のコラーゲン由来のペプチドが用いられている。これら
の製造業者が異なるコラーゲン由来のペプチドを用いても,平均分子量3,
000∼7,000の範囲で本件発明2の進歩性を有する効果が得られて
いるのであるから,むしろ同じ種類のコラーゲン由来のペプチドを用いて
実験を行うよりも客観的に分子量依存性があることがいえる。したがって,
原告の主張は誤りである。
以上のように,原告の主張はいずれも成り立たない。審決は,本件明細
書及び添付図面に開示された実験結果を詳細に検討することにより,本件
発明2に従来技術を超えた顕著な効果があると認められるとの結論に至っ
たものであり,審決に違法性はない。
(10)取消事由10に対し
ア原告は本件発明2が明細書のサポート要件を満たしていない旨主張する。
しかし審決は,「(3)「第3の根拠」について」(19頁15行∼2
1頁1行)において,サポート要件について具体的に検討し,判断がなさ
れており,審決に違法性はない。
本件発明2については,明細書の発明の詳細な説明に明確に記載されて
おり,その発明特定事項「プロアントシアニジンが5量体以上のプロアン
トシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジンを1重
量部以上の割合で含む」について,本件明細書(甲1)には,以下の記載
がある。
「プロアントシアニジンとしては,重合度の低い縮重合体が多く含まれる
ものが好ましく用いられる。…重合度が2∼4の縮重合体(2∼4量体)
が特に好ましい。この重合度が2∼4の縮重合体を,本明細書ではOPC
(オリゴメリック・プロアントシアニジン;oligomeric
proanthocyanidin)という。」【0013】
「特に,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,OPCを1
重量部以上の割合で含有するプロアントシアニジンが好ましい。5量体以
上のプロアントシアニジンが含有されているにもかかわらず,凝集沈殿が
起こらない理由は明らかではないが,上記所定の比率以上でOPCを含有
する場合は,プロアントシアニジンとタンパク質との凝集沈殿や懸濁を防
止することができる。」【0031】
そして,本件明細書(甲1)の表1を見ると,比較例に相当する2段目
の例(松樹皮抽出物〔2∼4量体0.03重量%,5量体以上0.04重
量%〕)は,平均分子量3,000∼7,000のコラーゲンペプチドに
対して沈殿,懸濁とも顕著(+)で,効果がないのに対し,本件発明2の
実施例に相当する1段目の例(松樹皮抽出物〔2∼4量体0.04重量%,
5量体以上0.01重量%〕)は,平均分子量3,000∼7,000の
コラーゲンペプチドに対して沈殿がなく(−),平均分子量7,000で
懸濁がわずかに見られる(±)という効果を示すことが記載されている。
すなわち,本件明細書には,本件発明2の「プロアントシアニジン」と
得られる効果との関係が,特許出願時において,当業者に理解できる程度
に記載されているし,本件発明2の「プロアントシアニジン」の範囲内で
あれば,所望の効果(性能)が得られることの具体例も開示している。
審決においてはこれらの点が考慮され判断されている。具体的には,審
決19頁28行∼21頁1行に記載のとおりである。したがって,サポー
ト要件についても十分に検討され,これを満たすと判断した審決に違法性
はない。
イなお,本件においては,審決19頁28行∼21頁1行に記載の中で,
プロアントシアニジンのOPCと5量体以上のプロアントシアニジンとの
比率について言及し,その比率の意義を実験結果を通して確認している。
よって,審決の結論に至る判断に瑕疵はなく,審決には違法はない。
ウまた原告は,コラーゲンの平均分子量が5,000より大きく7,00
0以下である場合の効果を実験的に示していない旨主張しているが,この
点についても既に取消事由9における被告の反論のとおりである。
エ以上のとおりであり,本件発明2の発明特定事項は,明細書の発明の詳
細な説明に記載されているので,原告主張の取消事由10は理由がない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
ただし,上記(2)の発明の内容のうち,訂正前の【請求項2】が「前記ペプチ
ドがコラーゲン由来である,請求項1または2に記載の皮膚外用剤」とあるの
は,当該請求項が2であることから,「前記ペプチドがコラーゲン由来である,
請求項1記載の皮膚外用剤」の誤記と認める(下線は判決付記。当事者双方に
争いがない。)。
そこで,本件発明2が上記誤記訂正後のものであることを前提にして,以下
検討する。
2取消事由1について
(1)原告は,審決が本件発明2を「ほぼ中性である皮膚外用剤」であるとの前
提のもとに甲5との対比等を行い(11頁下4行目),またそれを前提に甲
13の開示内容について判断しているところ,本件発明2の皮膚外用剤につ
きほぼ中性であるとの特定もされておらず,また皮膚外用剤が一般にほぼ中
性であるともいえないから審決の認定は誤りであり,甲5,13には本件発
明2の内容の一部が開示されているから,審決は取り消されるべきである旨
主張する。
(2)ア甲5(特開2002−51734号公報,発明の名称「コラーゲン添加
飲食品」,出願人新田ゼラチン株式会社,公開日平成14年2月19
。日)には以下の記載がある
特許請求の範囲】【
【請求項1】コラーゲンに対して反応性を有するコラーゲン反応成分を含有し,酸性
乳成分を含まない飲食品に対して,コラーゲンを低分子化処理した低分子コラー
ゲンペプチドを添加しているコラーゲン添加飲食品。
【請求項2】前記低分子コラーゲンペプチドが,平均分子量4000以下である請求
項1に記載のコラーゲン添加飲食品。
【0029】水70重量部に対して砂糖6重量部,異性化糖液糖8重量部,コラーゲ
ンペプチド1重量部,紅茶エキス(紅茶濃縮エキストフクトM−1:三井農林社
製,タンニン含有量4000mg/100ml以上)2重量部,香料0.1重量
部を加えた。レモン果汁を加えてpH3.6に調整した。さらに,全量が100
重量部になるように水を添加した。プレート殺菌機を用い95℃15秒の加熱殺
菌を行い,無色透明の飲料用耐熱ガラス瓶にホットパックしたあと冷却して,瓶
入りの紅茶飲料を得た。コントロールとして,コラーゲンペプチド無添加区(記
号B)についても,同様にして製造した。
【0030】<評価試験>上記のようにして製造された各紅茶飲料を,37℃で保管
し,製造後1日間および30日間経過後に目視で濁りや沈殿の発生状態を評価し
た。その結果を,表4:紅茶飲料の評価に示す。
【0031】評価基準:◎透明性あり。沈殿物の発生なし。
○わずかに濁りあり。沈殿物の発生なし。
△やや白濁。沈殿物が少し発生。
×完全に白濁。沈殿物発生多い。
<考察>上記表4の結果から,平均分子量が
4000以下のコラーゲンペプチドを添加した紅茶飲料は,濁りや沈殿がほとん
ど発生せず,透明性に優れた良好な品質の紅茶飲料が得られた。勿論,コラーゲ
ンペプチドが添加されていることによる各種の機能向上も達成できた。
【0032】
【発明の効果】本発明にかかるコラーゲン添加飲食品は,通常のコラーゲンを添加し
た場合にはコラーゲンと反応を起こして飲食品の品質性能を損なうコラーゲン反
応成分を含有していても,コラーゲンとして,十分に低分子化処理を行った低分
子コラーゲンペプチドを添加していることで,コラーゲン反応成分との有害な反
応が生じない。その結果,飲食品の品質性能を損なったり,飲食品に配合する材
料に大きな制約を受けたりすることなく,コラーゲン添加による各種の機能向上
などの利点を享受することができる。コラーゲン添加による利点を,より幅広い
飲食品に対しても付与することができ,コラーゲン添加飲食品の用途および需要
の拡大に貢献することができる。
イ上記記載によれば,甲5には,レモン果汁を加えてpH3.6に調整し
た条件下において,平均分子量4000以下のコラーゲンペプチドを添加
したタンニンを含む紅茶飲料に関して沈殿や濁りを生じなかったとする点
が開示されているにすぎない。このことは,上記甲5に以下の記載がある
ことからも裏付けられるというべきである。
【0010】…なお,コラーゲンとコラーゲン反応成分との反応は,環境条件の違い
によって,起こったり起こらなかったりする。例えば,pH値によって,反応の
有無や程度が変わる場合がある。したがって,本発明におけるコラーゲン反応成
分とは,飲食品に配合された状態の環境で,前記したコラーゲンと反応を起こす
成分を意味する。
【0014】…〔pH値〕コラーゲン反応成分は,特定のpH環境において,コラー
ゲンと反応することが多い。したがって,飲食品の製造過程で,コラーゲンとコ
ラーゲン反応成分とが反応を起こし易いpH範囲になることがなければ,本発明
の低分子コラーゲンペプチドを使用しなくても問題にはならない。通常のコラー
ゲンに比べて本発明の低分子コラーゲンペプチドを用いることが有用になるpH
範囲として,コラーゲンの等電点よりも低いpH値の場合がある。コラーゲンを
等電点よりも低いpH値におくことで,コラーゲン反応成分との反応性が発現す
る。
【0015】コラーゲンの等電点は,コラーゲンの製造方法によって若干異なるが,
多くの場合,pH=4.5∼9.5の範囲である。…
ウまた,甲39(日本化粧品技術者会編「化粧品事典」丸善株式会社平
成15年12月15日発行〔平成17年4月25日第3刷発行〕676
頁)には,以下の記載がある。
「健常皮膚表面のpHは通常5∼7の弱酸性を維持している.皮膚表面のpHバラン
スを弱酸性に維持することによって,細菌,ウイルス,真菌などの発育を阻止する働
きを助けていると考えられている.女性の皮膚pHは,男性に比べて平均で0.5程
度,高値を示すことが報告され,また部位差も認められている.アトピー性皮膚炎,
魚鱗癬(ぎょりんせん),脂漏性皮膚炎などの疾患皮膚のpHは高い値を示し,pH
バランスの乱れが関係していることが示唆されている.角層剥離(→角化)に重要な
役割をもつ角層プロテアーゼには,弱酸性で活性化するものがある.したがって,適
正なpHバランスは,酵素バランスを整えるための一つの条件といえる.…」
上記甲39は,本件特許出願時〔平成15年3月27日〕以後に発行さ
れた文献であるが,発行時期やその記載内容からすれば,本件特許出願時
の一般的な技術常識を示す文献と認められるところ,上記記載によれば,
健康な皮膚のpHが5∼7の範囲にあることは技術常識と認められる。そ
うであれば,特殊用途のない一般的な皮膚外用剤の備えるべきpHとして
は,上記と同じpH5∼7の範囲が最適であることは,当業者(その発明
の属する技術の分野における通常の知識を有する者)には自明であるとい
える。
エそして上記内容を踏まえて検討すると,審決は上記イのとおり,甲5の
記載がpH3.6の条件下における平均分子量4000以下のコラーゲン
ペプチドを添加したタンニンを含む紅茶飲料であることを踏まえて本件発
明2及び甲2発明の皮膚外用剤において,平均分子量3000∼7000
のコラーゲン加水分解物がプロアントシアニジン存在下で沈殿を生じるか
否かにつき教示するものではないと認定したものであって,審決のこの点
に関する認定に誤りはない。
オなお,原告の指摘する甲13(特開2003−70424号公報,発明
の名称「タンパク質安定化剤」,出願人三栄源エフ・エフ・アイ株式会社,
公開日平成15年3月11日)には以下の記載がある。
【請求項1】コンドロイチン硫酸またはその塩を含むことを特徴とするタンパク質
安定化剤。
【請求項2】請求項1記載のタンパク質安定化剤を含むことを特徴とするタンパク
質含有組成物。
【請求項3】pH4.5∼6.3の弱酸性域においてタンパク質凝集が抑制されてなるこ
とを特徴とする請求項2記載のタンパク質含有組成物。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記従来の課題を解決すべく鋭意研
究を重ねていたところ,コンドロイチン硫酸またはその塩を用いることによって
pH4.5∼6.3の弱酸性領域のタンパク質凝集が有意に抑制でき,タンパク質を良
好に分散安定化できることを見出した。また,コンドロイチン硫酸を高濃度に含
有しているフカヒレエキスでも同様の効果が認められた。このように,コンドロ
イチン硫酸またはその塩,並びにこれらを含むフカヒレエキスを使用することに
よって弱酸性領域においてタンパク質を良好に分散安定化できることから,本発
明者らは,従来の安定化剤では困難であったかかる弱酸性領域におけるタンパク
含有酸性製品の開発が可能であること,さらに食品に応用した場合に特に嗜好性
に優れた食品が調製できることを確認した。本発明は,かかる知見に基づいて開
発されたものである。
上記記載によれば,甲13は,pH4.5∼6.3の弱酸性領域のタン
パク質凝集がコンドロイチン硫酸又はその塩を用いることによって有意に
抑制できるとの内容を開示しているにすぎず,審決も同旨を認定しており,
審決の認定には誤りはなく,皮膚外用剤に関する本件発明2と直接関連づ
けることもできないというべきである。
また,甲51,52,53,59(順に特開2001−270828号
公報,特開2001−72569号公報,特開平11−29466号公報,
特開2000−26234号公報)についても,それぞれ尋常性座瘡治療
外用剤及びその外用剤を配合した化粧料(甲51),魚皮由来の加水分解
エラスチン溶液等を配合した皮膚外用剤(甲52),尿素,クロタミトン
及び水を含有する水性皮膚外用剤(甲53),ピーリング化粧料(皮膚の
老廃物等を除去する目的の化粧料,甲59)であり,直接本件発明2及び
甲2発明の皮膚外用剤と比較することはできず,またこれら化粧料等の性
質を皮膚外用剤が一般に有するものとすることもできない。
以上の検討によれば,原告の取消事由1は理由がない。
3取消事由2について
(1)原告は,審決は本件発明1の進歩性判断に関しては,「該プロアントシア
ニジンは,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体
のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」(下記相違点
2)との点,及び「平均分子量が3,000以上7,000以下のタンパク
質分解ペプチドを含有する」(下記相違点1)との点に関して,それぞれ甲
2(審決の引用例1),甲11(審決の引用例2)に記載された発明から容
易想到と認定しておきながら,本件発明2に関する進歩性の有無の判断では,
当該認定を踏まえることなく,原告提出の証拠に開示や示唆がないと認定し
ており,これは論理的整合性を欠くとともに結論に影響を与えるものである
から,審決は取り消されるべきであると主張する。
(2)ア審決は,本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点を以下のとおり認
定した(9頁10行∼18行)。
(一致点)「プロアントシアニジンおよびタンパク質分解ペプチドを含有
する皮膚外用剤」である点。
(相違点1)甲2発明には,タンパク質分解ペプチドの平均分子量が3,
000以上7,000以下であることが規定されていない点。
(相違点2)甲2発明には,プロアントシアニジンが,5量体以上のプロ
アントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジン
を1重量部以上の割合で含有するものであることが規定されていない点。
イその上で審決は,相違点1に関し,甲11には,平均分子量が5,83
0あるいは7,210のケラチン加水分解物を配合した化粧料は,平均分
子量2,070のケラチンペプチドや平均分子量1,888のコラーゲン
ペプチドを用いた比較例に比べて肌のしっとり感が持続し,これは保湿性
に優れた膜を形成するためと考えられること,平均分子量10,000以
下のものが取り扱い上好ましいことが記載されているから,甲2の皮膚化
粧料におけるタンパク質分解ペプチドとして,甲11の記載に基づき,保
湿性に優れ取り扱い上好ましいとされる分子量の範囲に包含される平均分
子量3,000以上7,000以下のものを使用することは当業者におい
て容易に想到しうる事項であり,その効果も予測の範囲内であるとした。
また,相違点2に関しては,甲2の記載から,効果にすぐれた2∼4量
体をより多く含むものが好適であることは当業者が容易に理解でき,その
比率について5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4
量体のプロアントシアニジンを1重量部以上とすることは当業者において
容易に推考でき,そのことによる効果が格別顕著なものということはでき
ないと判断した。
ウ一方,審決の本件発明2に関する判断は上記第3,1,(3),(ウ)記載の
とおりである。
エところで審決が本件発明1と甲2発明との相違点2について,容易想到
と判断した根拠である記載(審決10頁2行目,甲2の段落【0008
】)は,下記のとおりである。
【0008】従って,本発明のプロアントシアニジンとしては,前記構成単位の2
∼10量体,さらにはそれ以上の高分子プロシアニジン,プロデルフィニジン,プ
ロペラルゴニジン等のプロアントシアニジンおよびそれらの立体異性がすべて含ま
れるが,このうち,溶解性等の優れている…フラバン−3−オールまたはフラバン
−3,4−ジオールを構成単位とした2∼10量体,特に2∼4量体のプロアントシ
アニジンを好適に使用することができる(特開昭61−16982号公報参照)。
上記記載は,特段タンパク質の種類によらないことを前提としており,
また2∼10量体,特に2∼4量体のプロアントシアニジンを好適に使用
することができるとの上記記載内容からすれば,本件発明2と甲2発明と
の相違点2に関しても,上記イと同様,効果にすぐれた2∼4量体をより
多く含むものが好適であることは当業者において容易に理解でき,また5
量体以上のプロアントシアニジンの比率について,これの1重量部に対し
2∼4量体のものを1重量部以上とすることも当業者にとり容易に推考で
きる技術常識に属するものと判断される。
そうすると,本件発明2と甲2発明との相違点2に関しては,甲2自体
の記載内容及び技術常識からして,当業者にとり容易想到と判断されるべ
きである。そして,甲2発明との相違点1に関しては,原告主張によれば
後記取消事由4において検討すべきこととなるから,その点と合わせ初め
て審決を取り消すべき理由となりうるので,併せて下記5(取消事由4)
で検討する。
4取消事由3について
(1)原告は,審決は,本件発明2のうち「該プロアントシアニジンが5量体以
上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニ
ジンを1重量部以上の割合で含有する」との点について,甲3,9,10に
開示ないし示唆されているにもかかわらず,これを認定しなかった審決の認
定は誤りであり,取り消されるべきであると主張する。
(2)ア甲3(WO02/089758号国際公開日2002年〔平成14
年〕11月14日,国際出願番号PCT/EP02/04861,発明の
名称「オリゴメリックプロアントシアニジンの使用」)には以下の記載が
ある。
(ア)34,35頁
「1.皮膚トリートメント組成物のためのオリゴメリックプロシアニジン(OP
C)の使用。
2.用いる活性成分が,OPCのA2ダイマーであることを特徴とする請求項1に
記載の使用。
3.用いる活性成分が,プロアントシアニジンA2であることを特徴とする請求項
1又は2に記載の使用。
4.用いる活性成分が,有効量のOPC,好ましくはOPCのA2ダイマー,とり
わけプロアントシアニジンA2を有する植物抽出物であることを特徴とする請
求項1∼3のいずれかに記載の使用。
5.緑茶,松樹皮,ブドウの種子,レイシの果皮及びキンロバイ,並びにそれらの
混合物よりなる群から選ばれる植物抽出物を利用することを特徴とする請求項
4に記載の使用。…
12.敏感肌を保護するための活性成分としてのオリゴメリックプロシアニジンの
使用。
13.ざ瘡及び酒さに対する活性成分としてのオリゴメリックプロシアニジンの使
用。
14.セリュライトに対する活性成分としてのオリゴメリックプロシアニジンの使
用。」
(イ)33頁
「化粧品製剤(水,防腐剤の添加で100%)の実験例−(続く)」
として,「NutrilanI−50加水分解コラーゲン」,â
「松樹皮抽出物」及び「ブドウ種子抽出物」を含む「保温エマルジョ
ン」である化粧品製剤「B」の記載がある。
上記記載によれば,甲3には,本件発明2の「プロアントシアニジンが,
5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロア
ントシアニジンを1重量部以上の割合で含有するものである」ことに関す
る記載がなく,審決がこの点を本件発明2と甲3発明との相違点Bとして
認定したことに誤りはない。
イ甲9(米国特許第5,578,307号,特許公報発行日1996年
〔平成8年〕11月26日)には以下の記載がある。
a10頁18欄50∼58行
「37.植物抽出物を含む加工物を含む化粧品であって,前記加工物では,主とし
て親水性の高分子の構造材料で構成されたマトリックス内に植物抽出物が分散され
ており,前記親水性の高分子は,コラーゲン,ゼラチン,分解ゼラチン,コラーゲ
ン加水分解物,ゼラチン誘導体,エラスチン加水分解物,植物性タンパク質,植物
性タンパク質加水分解物,及びそれらの混合物からなる群から選択され,前記加工
物は,植物抽出物を0.1乃至98重量%含む化粧品。」
b3頁3欄29∼34行
「植物抽出物,又は,それから得られる抽出物若しくは物質の例を以下に述べる:
フラボノイド及びそれらのアグリコン:ルチン,ケルセチン,…サンザシ抽出物
(例えば,オリゴメリックプロシアニジン),…」
上記記載によっても,甲9のオリゴメリックプロシアニジンが何量体な
のかはその記載自体からは不明であるし,仮にそれが原告主張のとおり2
∼4量体であったとしても,本件発明2のプロアントシアニジンは5量体
以上のものを必ず含むことが明らかであるから,甲9のオリゴメリックプ
ロシアニジンに関する記載をもって本件発明2に係る「プロアントシアニ
ジンが,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体
のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有するものである」こ
とに関する記載があるとはいえないから,審決がこの点を甲9発明との相
違点2として認定したことに誤りはない。
ウ甲10(米国特許第6,426,080号特許公報発行日2002年
〔平成14年〕7月30日,発明の名称「フリーラジカルに対する保護因
子が高い化粧活性物質調合剤」)には以下の記載がある。
「ラジカル保護因子がある化粧活性物質調合剤において,
(a)ケブラコ樹皮から抽出され,その結果酵素加水分解された生産物であって,少
なくとも90重量%のプロアントシアニジンオリゴマーと,最大で10重量%の
没食子酸とを含んでおり,(a)の量は,化粧活性物質調合剤の0.1乃至10
wt.%の範囲であって,(a)は,2wt%の抽出生産物が凝縮したマイクロ
カプセルとして存在している生産物と
(b)抽出して得られたカイコ抽出物であって,…の範囲であるカイコ抽出物と,
(中略)
を含む化粧活性物質調合剤。」
上記記載によれば,甲10にはプロアントシアニジンオリゴマーを含む
化粧活性物質調合剤が記載されているが,そこにおけるプロアントシアニ
ジンオリゴマーが何量体なのかは不明であるし,仮に原告主張のように2
∼4量体であったとしても,本件発明2に係る5量体以上のプロアントシ
アニジンに関する記載があるとはいえないことは上記と同じであるから,
甲10発明にその点の開示があるとはいえず,審決の認定に誤りはない。
(3)上記の検討によれば,原告の取消事由3に関する主張は採用すること
ができない。
5取消事由4について
(1)上記3のとおり,取消事由2についての検討において,本件発明2と甲2
発明との相違点2については,当業者にとり容易想到とすべきことは前述の
とおりである。
そして,原告は,審決が(ウ−4)として甲2発明との相違点1(上記第
3,1,(3),(イ))であるコラーゲン由来のペプチドの平均分子量が3,
000以上7,000以下であることについて,原告が提出した甲9,11,
12,15,16には記載も示唆もされていないとした(14頁23行∼2
7行)のは誤りであり,甲36(審判乙6)も踏まえれば平均分子量が3,
000以上7,000以下のコラーゲン加水分解物を保湿剤として使用する
ことに動機付けはあることから審決の相違点1の判断は誤りである旨主張す
るので,以下検討する。
(2)甲9には,上記4,(2),イ記載のほか,平均分子量3,000である加
水分解コラーゲンにつき,原告の指摘する以下の記載がある。
「例3エキナシアの錠剤,単位投薬形態
オリジナルのエキナシアチンキ2.16kg
コラーゲンの加水分解物,平均分子量3000g/mol0.50kg
蒸留水0.50kg
コラーゲン加水分解物が室温で水に溶解され,その溶液は,オリジナルのチンキと
混合される。エタノールは,一段式真空蒸発装置にて,5000Pa(50mba
r)の真空下及び40℃で,エタノール/水混合液から除去される。
エキナシア含有溶液が,図2に示す投与装置を用いて,…液体窒素に加えられるこ
とで,錠剤が得られる。これらの錠剤は…乾燥される。
乾燥後,直径5mmのエキナシアの錠剤が得られる。毎日3×1個の錠剤が,風邪の
予防薬としての投与量に対応する。」(8頁13欄51行∼14欄9行)
しかし,以上から明らかなとおり,上記記載は甲9発明に含まれる風邪薬
に関する実施例であり,本件発明2の皮膚外用剤に関するものではないから,
上記記載をもって本件発明2のコラーゲン由来のペプチドの平均分子量が3,
000以上7,000以下であることについて記載ないし示唆があると認め
ることはできない。その他,甲9にコラーゲン由来のペプチドの平均分子量
に関する記載があると認めることもできない。
(3)次に,甲12につき検討する。甲12(特開2000−309521号公
報,発明の名称「皮膚外用剤」,出願人株式会社資生堂,公開日平成12
年11月7日)には,以下の記載がある(下線は判決で付記)。
【請求項1】コラーゲン又はゼラチンのコラゲナーゼによる分解物を有効成分とする
皮膚外用剤。
【請求項2】コラーゲン又はゼラチンのコラゲナーゼによる分解物に,そのアミノ酸
配列が,(Gly−X−Y)n(式中,Glyは,グリシン残基を表し,X,Yは,
グリシン残基を除くアミノ酸残基を表し,互いにX,Yは同一であっても,異なって
もよく,nは,正の整数を表す)で表され,かつ,平均分子量が280∼20000
であるペプチドが含まれている,請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】コラーゲン又はゼラチンのコラゲナーゼによる分解物中の,Gly−X
−Y(式中,Glyは,グリシン残基を表し,X,Yは,グリシン残基を除くアミノ
酸残基を表し,互いにX,Yは同一であっても,異なってもよい)で表されるトリペ
プチドの含量が,前記分解物中において30∼100重量%である,請求項2記載の
皮膚外用剤。
【請求項4】皮膚外用剤が,抗老化用皮膚外用剤である,請求項1ないし3のいずれ
かの請求項記載の皮膚外用剤。
【請求項5】皮膚外用剤が,しわ抑制用皮膚外用剤である,請求項1ないし3のいず
れかの請求項記載の皮膚外用剤。
【請求項6】皮膚外用剤が,細胞増殖促進効果が認められる皮膚外用剤である,請求
項1ないし3のいずれかの請求項記載の皮膚外用剤。
【請求項7】皮膚外用剤が,コラーゲン産生促進作用が認められる皮膚外用剤である,
請求項1ないし3のいずれかの請求項記載の皮膚外用剤。
【請求項8】皮膚外用剤が,コラーゲン糖化抑制が認められる皮膚外用剤である,請
求項1ないし3のいずれかの請求項記載の皮膚外用剤。
【0010】本発明皮膚外用剤は,具体的には,①皮膚における抗老化効果(作用)
〔本明細書中で「抗老化効果(作用)」と記載する場合には,この「皮膚における抗
老化効果(作用)」のことを意味するものとする〕が認められる皮膚外用剤(この態
様の本発明皮膚外用剤を,特に,本発明抗老化用皮膚外用剤という),②しわ抑制効
果,すなわち,肌上のしわの発生を予防し,しわを抑制し得る効果が認められる皮膚
外用剤(この態様の本発明皮膚外用剤を,特に,本発明しわ抑制用皮膚外用剤とい
う),③細胞増殖促進作用が認められる皮膚外用剤(この態様の本発明皮膚外用剤を,
特に,本発明細胞増殖促進皮膚外用剤という),④コラーゲン産生促進作用が認めら
れる皮膚外用剤(この態様の本発明皮膚外用剤を,特に,本発明コラーゲン産生促進
皮膚外用剤という),⑤コラーゲンの糖化抑制作用が認められる皮膚外用剤(この態
様の本発明皮膚外用剤を,特に,本発明コラーゲン糖化抑制皮膚外用剤という)とし
ての態様をとり得る。
【0020】なお,特有アミノ酸配列のペプチドを含むコラゲナーゼ分解物の平均分
子量は,280∼20000であることが,皮膚における抗老化作用や細胞増殖促進
作用を,本発明皮膚外用剤において発現させ得るという点と,コラーゲン等に由来す
る抗原性を排除し,皮膚に対する安全性をより高度に保つことが可能であるという点
において好ましい。この平均分子量の最低値である280は,上述した正の整数nが
1であるトリペプチドを想定した分子量であり,前述したように,可能な限り280
付近の小さい値をとることが好ましい。
【0031】〔試験例〕
1.試料の調製高純度ゼラチン50gを,1000mlの20mMTris-HCl緩衝液(pH
7.4)/0.1MNaClに加温しながら溶解後,50℃に冷却した。酵素分解用の固定化酵
素として,100mgのコラゲナーゼ酵素(ワシントン社製,高純度品)を50gのキ
トパール(富士紡績社製)に2架橋試薬を用いて結合させて調製した。この固定化酵
素を,2連式のカラム式バイオリアクターに充填し,20mMTris-HCl緩衝液(pH
7.4)/0.1MNaClで平衡化を行った。上記工程を経て準備した高純度のゼラチンを,
上記工程で調製した,縦型2連式のコラゲナーゼ酵素固定化カラムにアプライし,カ
ラム法による酵素分解を行った。
【0032】最終カラムから出てきた酵素反応終了液を分取し,0.45μmのフィルター
でろ過した。このろ液をゲル濾過法,あるいは逆相クロマトグラフィー法により,分
画し,それぞれ,平均分子量が20000以上のもの,Gly-X-Y(Glyは,グリシン残
基,X,Yは,アミノ酸残基を表し,X,Yは,同一であっても異なってもよい。以下,
同様である)含量が30∼85重量%のもの(平均分子量約3000),Gly-X-Y含
量が85∼100重量%のもの(平均分子量約300)の調製を行った。分取後,凍
結乾燥処理を,それぞれの分取物に施した。
【0033】ここで得られた分取物(後述するコラーゲン由来の分取物を含む)を,
以下に述べる試験例ないし実施例において用いた。
【0037】第1表から,Gly-X-Y含量が30重量%以上の分取物の細胞増殖促進効果
は,対照と比べて高いことがわかった。また,Gly-X-Y含量が85∼100重量%で
あると,より一層,細胞増殖促進活性が向上することが明らかになった。
【0038】なお,前述の例におけるゼラチンの代わりに,市販のコラーゲンを,同
例において用いたコラゲナーゼ酵素で酵素分解した後,これを,上記と同様の処理を
行って,Gly-X-Y含量が30∼85重量%の分取物(平均分子量約3000)及び同
85∼100重量%の分取物(平均分子量約300)の調製を行い,上記と同様の細
胞増殖促進試験を行った。その結果,これらのコラーゲン由来の分取物は,両者共,
対照よりも優れた細胞増殖促進活性を有していた。また,また,Gly-X-Y含量が85
∼100重量%であると,より一層,細胞増殖促進活性が向上することも,前述のゼ
ラチンに由来する分取物についての結果と同様であった。
【0039】この結果により,本発明皮膚外用剤の有効成分であるコラゲナーゼ分解
物は,優れた細胞増殖促進作用を有し,これにより,真皮の減少を抑制し,皮膚のし
わやたるみに対して優れた効果を発揮し得ることが明らかになった。
【0047】第3表から,Gly-X-Y含量が30重量%以上の分取物には,優れたコラー
ゲンの糖化抑制作用が認められることが明らかになった。また,Gly-X-Y含量が85
∼100重量%であると,より一層,コラーゲンの糖化抑制作用に一層優れることが
明らかになった。
【0048】この結果により,本発明皮膚外用剤の有効成分であるコラゲナーゼ分解
物は,優れたコラーゲン糖化抑制作用を有し,これにより,皮膚のしわやたるみに対
して優れた効果を発揮し得ることが明らかになった。このように,コラゲナーゼ分解
物には,特に,真皮層における主要な線維構造を構成するコラーゲンを,量的(コラ
ーゲンの産生促進活性)・質的(コラーゲンの糖化による変性抑制作用)に維持・増
強し得る作用が認められ,皮膚外用剤の有効成分として用いることにより,皮膚構造
にかかわる老化現象(典型的には,しわやたるみ)の予防・改善に有効であることが
明らかになった。
【0056】以下,上述の実施例1を含めて,種々の剤形の本発明皮膚外用剤の処方
例を実施例として記載する。なお,実施例1以外の実施例についても,上述の実使用
試験を行ったところ,いずれの実施例においても,非常に優れた皮膚の抗老化効果や
しわ抑制効果が認められた。
上記記載によれば,甲12には,実施例1において,平均分子量3000
のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤に皮膚の抗老化効果,しわ抑止効
果が認められたことが記載されている。
そうすると,平均分子量7000以下との記載はないものの,上記のとお
り甲12に平均分子量3000のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤に
おいて,皮膚の抗老化等の効果が認められたことからすれば,審決が,甲2
発明と本件発明2との相違点1に関し,甲12に記載ないし示唆がないと認
定した点(14頁23行∼27行9行)については誤りである。
なお,審決は,上記に関し,保湿性に優れた効果を示す範囲として平均分
子量3000以上7000以下のコラーゲンペプチドを使用することが示唆
されていないことをその理由としているが,化粧品等の皮膚外用剤において,
相違点に係る構成が容易想到というための動機付けとして,保湿性の観点で
なければならないということはなく,上記甲12のように抗老化効果,しわ
抑制効果等の観点であっても差し支えないから,上記認定を左右するもので
はない。
加えて,原告は,甲36(審判乙5,「コラーゲン酵素法加水分解ペプタ
イドについて」宮川豊行,フレグランスジャーナル69号,昭和59年1
1月25日発行)を引用し,コラーゲンペプチドの保湿効果の観点での動機
付けもあると主張しているところ,甲36には以下の記載がある(下線は判
決で付記)。
「…コラーゲン酵素法加水分解ペプタイドは分子量分布が非常に狭く,化粧品やヘ
アケア製品に用いられて最大の保湿性を発揮するとして最も効果的と考えれている
分子量700∼800付近…」(111頁本文左欄7行∼10行,審決15頁18
∼20行で引用している箇所)
「これに対しコラーゲン加水分解ペプタイドは数平均分子量が小さいほど吸湿量が
大きく,脱湿特性は量的にも小さく分子量による差はあまりみられない。吸湿量−
脱湿量の値が大きいほど保湿性が良いことになるが,コラーゲン加水分解ペプタイ
ドは一般に優れた保湿性を有し,分子量の低いものほど高い保湿性を有することが
示されている。
コラーゲン酵素法加水分解ペプタイドで確認試験を行った結果はこの図6に示さ
れる数平均分子量600のカーブを上回る高い保湿性を示し,酵素分解ポリペプタ
イドの優位性が明らかとなった。」(114頁右欄14∼24行)
そして,甲36の「図6コラーゲン由来のペプタイドの吸・脱湿特
性」(114頁右下欄)には,数平均分子量600,2,000,5,00
0及び10,000の4種のコラーゲンペプチドの,経過時間5日までの吸
湿特性「20℃相対湿度(RH)58%」での「吸湿量%」と,脱湿特性
「20℃相対湿度(RH)20%」での「脱湿量%」が示されているとこ
ろ,吸湿量,脱湿量ともにほぼ1日で平衡になり,吸湿量は最も多い平均
分子量600のもので16%程度,最も少ない平均分子量10,000のも
ので13%程度と読み取れ,脱湿量は,平均分子量600のもので4%程
度,平均分子量10,000のもので2%程度と読み取れる。
上記によれば,甲36においては,要するに,平均分子量600のもの
と平均分子量10,000のものとの違いは,「吸湿量」でみて16%と1
3%の違い,「吸湿量−脱湿量」でみて12%と11%の違い,というこ
とになり,このことを,上記「コラーゲン加水分解ペプタイドは一般に優
れた保湿性を有し,分子量の低いものほど高い保湿性を有する」と表現し
ているとみられる。そうすると,甲36の上記記載によれば,平均分子量
3,000∼7,000の範囲を含むコラーゲンペプチドが保湿性を目的と
して皮膚外用剤に配合されることが技術常識であることが推認できる。よ
って,甲36を適用する動機付けはあるということができる。
(4)なお念のため,原告の主張する甲15,16の記載を参酌する。
ア甲15(特開昭62−297398号公報,発明の名称「クリーム状皮
膚洗浄剤組成物」,出願人ライオン株式会社,公開日昭和62年12月
24日)には以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
1.N-アシル酸性アミノ酸塩を主成分とするクリーム状皮膚洗浄剤組成物にお
いて,組成物全量に基づきN-アシル酸性アミノ酸塩(A)10∼50重量%,加水分
解タンパク(B)0.5∼10重量%及びHLB4∼12のポリオキシエチレン硬化ヒ
マシ油脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤(C)1∼10重量%を含み,かつ(B)
+(C)/(A)の重量比が1/10∼5/10の範囲であることを特徴とする組成物。
2.加水分解タンパクが平均分子量1000∼20000のコラーゲンタンパ
クの加水分解物である特許請求の範囲第1項記載の組成物。」(1頁左下欄4行
∼15行)
「…このようにN-アシル酸性アミノ酸塩を主成分とするクリーム状皮膚洗浄剤は,
安全性の点で優れている反面,安定性,特に低温における安定性を欠くという欠
点がある。」(1頁右下欄下3行∼2頁左上欄1行)
「…本発明組成物において安定化のために添加される加水分解タンパク(B)は,
天然に存在する種々のタンパク質,例えばコラーゲン,ケラチン,エラスチン,
カゼイン,卵白,大豆タンパクなどを酸,アルカリ又は酸素によつて部分加水分
解して得られるポリペプチドで,一般式…で示される化学構造を有している。本
発明組成物において用いるには,平均分子量1000∼20000の範囲のもの
が好ましい。」(2頁左下欄下2行∼右下欄下7行)
そして,甲15の3頁以下の実施例では,実施例1として,平均分子量
10000の加水分解コラーゲンが,実施例2で平均分子量が示されない
加水分解コラーゲンが,実施例3で平均分子量2000の加水分解コラー
ゲンがそれぞれ用いられ,5頁以下の処方例では,処方A及びEで平均分
子量10000の加水分解コラーゲンが,処方Bで平均分子量2000の
加水分解コラーゲンが,処方Cで平均分子量1000の加水分解ケラチン
が,処方Dで平均分子量20000の加水分解カゼインがそれぞれ用いら
れていることが分かる。
しかし,甲15の上記記載によっても本件発明2に係る平均分子量が3
,000以上7,000以下のコラーゲン由来のペプチドは具体的に記載さ
れていない。
イまた,甲16(特開平1−216913号公報,発明の名称「シャンプ
ー剤」,出願人サンスター株式会社,公開日平成元年8月30日)には
以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
(1)(a)下式…で表されるスルホコハク酸誘導体0.1∼20重量%,および
(b)第4級窒素含有水溶性ポリマー0.01∼2重量%
を含有し,かつ(a)と(b)との比b/aが0.005∼10であることを特徴とする
シャンプー剤。
(2)平均分子量5000∼25,000の加水分解コラーゲンを配合した前記
第1項のシャンプー剤」(1頁左下欄4行∼右上欄3行)
「本発明のシャンプー組成物は,さらに平均分子量5000∼25000,好ま
しくは10000∼25000の高分子量加水分解コラーゲンを配合することに
よりリンス効果が向上し…」(3頁右下欄2行∼5行)
また,甲16の4頁以下の実施例には,平均分子量10000及び25
000の加水分解コラーゲンを配合したシャンプー剤が記載されている。
甲16の上記記載によっても,平均分子量が3,000以上7,000以
下のコラーゲン由来のペプチドは具体的に記載されていないといえる。
(5)よって,結論として,原告主張の取消事由4に関し,本件発明2と甲2発
明との相違点1に関しても,当業者にとって甲12の記載,甲36の技術常
識から当業者にとり容易想到であると判断すべきである。
そうすると,審決は甲2発明と本件発明2との相違点1,2のいずれにつ
いての判断も誤ったことになり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明
らかである。
(6)なお,本件発明2との相違点1,2のいずれもが当業者にとり容易想到で
あるとしても,それらの組み合わせにより,本件発明2が当業者に予測のつ
かない顕著な効果を奏するとまで認めるべき証拠もない。この点は,後記6
(取消事由9についての判断)で説示するとおりである。
6取消事由9について
(1)原告は,本件明細書で比較対象とされた比較例は従来技術には当たらない
ものであってこれをもとに本件発明2が従来技術を超える効果があると認定
した審決は誤りであり,本件明細書に開示された実験結果によって発明の効
果を認めることはできないと主張する。原告の主張は,法36条6項1号の
要件(「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであ
ること」。原告のいうサポート要件)を満たさない旨の主張と解されるから,
以下この点について判断する。
(2)本件明細書(甲1)には,以下の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,プロアントシアニジンを含有する皮膚外用剤
に関し,さらに詳細には,優れた肌質の改善効果を有する皮膚外用剤に関する。
【0002】
【従来の技術】プロアントシアニジンは,…縮合型タンニンであり,古くから肌の
収斂性を高め,整肌効果を目的として使用されていた。近年,プロアントシアニ
ジンは,抗酸化作用や美白効果などの種々の活性を有することから,食品や化粧
品への応用が図られている…
【0004】しかし,プロアントシアニジンはタンパク質との結合能力が極めて高
いため,プロアントシアニジンの抽出方法や植物種などによっては,タンパク質
と結合して凝集沈殿や懸濁を生じる。そのため,製剤化が困難なだけでなく,コ
ラーゲンやプロアントシアニジンが沈殿し,それぞれの有する生体への効果が非
常に低下するという問題から,製剤や化粧品への応用範囲が限られていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,プロアントシアニジンによる生体への
効果が損なわれず,さらにプロアントシアニジンが有するタンパク質の収斂性に
関する問題を解決した皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は,驚くべきことに,2∼4量体のプロ
アントシアニジンと一定の分子量のペプチドとを組み合わせることによって,タ
ンパク質の凝集沈殿が起こらず,その結果,それぞれの効果が相殺されずに得ら
れることを見出して,本発明を完成した。
【0008】すなわち,本発明は,プロアントシアニジンおよび平均分子量7,0
00以下のタンパク質分解ペプチドを含有する,皮膚外用剤を提供し,該プロア
ントシアニジンは,2∼4量体のプロアントシアニジンを含有する。
【0009】好ましい実施態様において,上記プロアントシアニジンは,5量体以
上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4量体のプロアントシアニジン
を1重量部以上の割合で含有する。
【0010】さらに好ましい実施態様では,上記ペプチドは,コラーゲン由来のペ
プチドである。
【0013】…プロアントシアニジンとしては,重合度の低い縮重合体が多く含ま
れるものが好ましく用いられる。重合度の低い縮重合体としては,重合度が2∼
30の縮重合体(2∼30量体)が好ましく,重合度が2∼10の縮重合体(2
∼10量体)がより好ましく,重合度が2∼4の縮重合体(2∼4量体)が特に
好ましい。この重合度が2∼4の縮重合体を,本明細書ではOPC(オリゴメリ
ック・プロアントシアニジン;oligomericproanthocyanidin)という。プロアン
トシアニジンは,ポリフェノール類の一種で,植物が作り出す強力な抗酸化物質
であり,植物の葉,樹皮,果物の皮もしくは種の部分に集中的に含まれている。

【0032】上記植物抽出物には,プロアントシアニジン,特にOPCとともにカ
テキン(catechin)類が上記原料植物抽出物中に5重量%以上含まれていること
が好ましい。カテキン類とは,ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称であ
る。カテキン類としては,(+)−カテキン,(−)−エピカテキン,(+)−
ガロカテキン,(−)−エピガロカテキン,エピガロカテキンガレート,エピカ
テキンガレートなどが知られている。上記松樹皮のような原料植物由来の抽出物
からは,狭義のカテキンといわれている(+)−カテキンの他,ガロカテキン,
アフゼレキン,ならびに(+)−カテキンまたはガロカテキンの3−ガロイル誘
導体が単離されている。カテキン類には,発癌抑制作用,動脈硬化予防作用,脂
肪代謝異常の抑制作用,血圧上昇抑制作用,血小板凝集抑制作用,抗アレルギー
作用,抗ウイルス作用,抗菌作用,虫歯予防作用,口臭防止作用,腸内細菌叢正
常化作用,活性酸素やフリーラジカルの消去作用,抗酸化作用などがあることが
知られている。カテキン類には,血糖の上昇を抑制する抗糖尿病効果があること
が知られている。カテキン類は,OPCの存在下で水溶性が増すと同時に,OP
Cを活性化する性質があり,OPCとともに摂取することによって,OPCの作
用を増強する。
【0033】カテキン類は,上記原料植物抽出物に含まれていても,タンパク質と
反応せず,そしてOPCの溶解性や機能を向上させるため,プロアントシアニジ
ン1重量部に対し,0.1重量部以上含有されていることが好ましい。より好ま
しくは,OPCを20重量%以上含有する原料植物抽出物に,カテキン類が5重
量%以上含有されるように調製される。例えば,松樹皮抽出物のカテキン類含量
が5重量%未満の場合,5重量%以上となるようにカテキン類を添加してもよい。
カテキン類を5重量%以上含有し,かつOPCを20重量%以上含有する松樹皮
抽出物を用いることが最も好ましい。
【0034】プロアントシアニジン,特にOPCは,上述のように抗酸化物質であ
るため,美白効果,しわの防止効果,およびアトピー性皮膚炎などに対する抗炎
症効果が特に高く,さらに縮合型タンニンとしての効果,すなわち肌の引き締め
効果によるたるみの防止などの効果も得られる。
【0035】さらにOPCは,抗酸化作用のほか,ビタミンCの保護効果もあるた
め,肌におけるコラーゲン産生能を増強し,優れた肌質改善効果をも有する。
【0036】本発明の皮膚外用剤は,プロアントシアニジンを,好ましくは組成物
中に乾燥重量換算で0.00001重量%∼5重量%,より好ましくは0.00
1重量%∼2重量%,さらに好ましくは0.01重量%∼1重量%含有する。
【0044】また,プロアントシアニジンの安定性を高める目的で,酸化防止剤を
添加しても良い。これにより,肌のタンパク質や油脂類の酸化を防止し,肌質を
改善および保護する効果を得ることができる。
【0047】本発明の皮膚外用剤は,通常用いられる方法により,プロアントシア
ニジンおよびタンパク質分解ペプチドと他の成分とを混合して調製することがで
き,医薬品,医薬部外品,化粧品,トイレタリー用品として使用できる。例えば,
化粧水,化粧クリーム,乳液,クリーム,パック,ヘアトニック,ヘアクリーム,
シャンプー,ヘアリンス,トリートメント,ボディシャンプー,洗顔剤,石鹸,
ファンデーション,白粉,口紅,リップグロス,頬紅,アイシャドー,整髪料,
育毛剤,水性軟膏,油性軟膏,目薬,アイウォッシュ,歯磨剤,マウスウォッシ
ュ,シップ,ゲルなどが挙げられる。また,シップやゲルのような担体や架橋剤
に保持・吸収させ,局部へ貼付するなどの方法により,局所的な長時間投与を行
うこともできる。
【0049】本発明の皮膚外用剤は,適切な量を適用した場合,肌質の改善効果お
よび血流改善効果を有する。特に,OPCが乾燥重量換算で20重量%以上含有
される抽出物をプロアントシアニジンとして用いた場合,特に優れた効果が得ら
れる。
【0050】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を説明するが,本発明がこの実施例により
制限されないことはいうまでもない。
【0051】(プロアントシアニジンの調製)松樹皮抽出物(2∼4量体:40重
量%,5量体以上:8.7重量%,カテキン:5.1重量%,商標名:フラバン
ジェノール,株式会社東洋新薬)20gを,SephadexLH−20(フ
ァルマシアバイオテク株式会社製)に供して分離し,乾燥粉末重量で7.6gの
2∼4量体および1.6gの5量体以上のプロアントシアニジンを回収した。得
られた5量体以上のプロアントシアニジン1gを,上記の松樹皮抽出物の粉末2
gと混合し,5量体以上のプロアントシアニジンを多く含む松樹皮抽出物(2∼
4量体:27重量%,5量体以上:39重量%,カテキン1.7重量%)を調製
した。これらの松樹皮抽出物を,最終濃度が0.2重量%となるように水溶液へ
溶解した。
【0052】なお,SephadexLH−20による分離は,以下の条件で2回
行った。まず,水で膨潤させたSephadexLH−20をカラム体積で5
00mLとなるように50×500mmのカラムに充填し,500mLのエタノ
ールで洗浄した。上記松樹皮抽出物10gを200mLのエタノールに溶解し,
これをカラムに通液して吸着させた後,100∼80%(v/v)エタノール−
水混合溶媒でグラジエント溶出し,100mLずつ分取した。各画分について,
シリカゲルクロマトグラフィー(TLC)により,2∼4量体のOPCの各標品
(2量体:プロアントシアニジンB−2(Rf値:0.6),3量体:プロアン
トシアニジンC−1(Rf値:0.4),4量体:シンナムタンニンA2(Rf
値:0.2))を指標として,OPCの溶出を検出した。TLCの条件は,以下
のとおりである:TLC:シリカゲルプレート(Merck&Co.,Inc.製)
展開溶媒:ベンゼン/ギ酸エチル/ギ酸(2/7/1)
検出試薬:硫酸およびアニスアルデヒド硫酸サンプル量:各10μL
【0053】OPCが検出された画分を集め,凍結乾燥して粉末を得た。次いで,
OPCが検出されなくなったカラムに,50%(v/v)水−アセトン混合溶媒
1000mLを通液し,5量体以上のプロアントシアニジンを溶出させ,回収し
た画分を凍結乾燥させて粉末を得た。
【0057】表1からわかるように,5量体以上のプロアントシアニジンと分子
量のコラーゲンペプチドまたはコラーゲンとの混合液では,いずれも懸濁または
沈殿が観察された。これに対して,2∼4量体のプロアントシアニジンと分子量
7,000以下のコラーゲンペプチドまたはアミノ酸との混合液では,ほとんど
懸濁が見られなかった。2∼4量体のプロアントシアニジンを5量体以上のプロ
アントシアニジンよりも多く含む松樹皮抽出物では沈殿が見られなかった。また,
平均分子量300,000のコラーゲンを用いた場合は,ゲル化した固形分が析
出した。このように,2∼4量体のプロアントシアニジン(OPC)またはプロ
アントシアニジンとしてOPCを多く含む松樹脂抽出物は,分子量7,000以
下のコラーゲンペプチドと懸濁または沈殿を生じず,混合物溶液として安定であ
ることがわかった。
【0058】(実施例2:血流改善効果および保湿効果の評価)上記松樹皮抽出
物の最終濃度が0.01重量%およびコラーゲンペプチドの最終濃度が0.01
重量%となるように,表2に記載の組み合わせで化粧水1∼8を調製した。
【0059】
【表2】
【0060】20∼50歳の健常人10人を被験者とした。まず,各被験者の左
右前腕部各4箇所ずつ計8箇所に2.0cm平方のマーキングをし,血流計(レ
ーザー血流画像化装置PIMII;SwedenPermied社)を用いて皮
下の血流量を測定し,その平均値をaとした。測定後,調製した化粧水1∼8を
0.1mlずつ各マーキング部位に塗布し,塗布後0.5時間,1時間,1.5
時間,および2時間後に皮下の血流量を測定し,その平均値をbとした。得られ
た各時間における血流量の平均値から,下記の式を用いて血流改善率を算出した
:血流改善率(%)=100×(b−a)/a結果を図1に示す。
【0061】また,塗布2時間後に,化粧水塗布部位の電気伝導率(単位:μm
ho(マイクロモー))を,高周波伝導度測定装置(SKICON−200,I
BS社)を用いて測定し,その平均値を算出して保湿性を評価した。結果を表3
に示す。なお,電気伝導率は,水分量を反映する。
【0062】
【表3】
【0063】図1からわかるように,平均分子量が1,000,3,000,5,
000,または10,000のコラーゲンペプチドと2∼4量体の割合が多いプ
ロアントシアニジンを含有する松樹皮抽出物とを含有する化粧水を用いた場合に,
高い血流改善効果が得られた。
【0064】表3より,平均分子量が1,000,3,000,5,000,ま
たは10,000のコラーゲンペプチドと2∼4量体の割合が多いプロアントシ
アニジンを含有する松樹皮抽出物とを含有する化粧水は,他の化粧水に比べて,
電気伝導率が高く,比較的高い保湿性があった。また,平均分子量が1,000
のコラーゲンペプチドを用いた場合は,5量体以上の割合が多いプロアントシア
ニジンを含む松樹皮抽出物との混合物であっても,比較的高い保湿効果が得られ
た。
【0065】
【発明の効果】本発明の皮膚外用剤は,従来のプロアントシアニジンとタンパク
質分解ペプチドとの組み合わせによって得られるよりも,さらに優れた血流改善
効果および保湿効果を有する。本発明の皮膚外用剤は,プロアントシアニジンと
タンパク質分解ペプチドとの凝集沈殿が生じにくいため,それぞれの有するその
他の作用・効果も損なわれることなく発揮され得る。
【図1】
(3)上記記載によれば,本件明細書には,その実施例2に,コラーゲンペプチ
ドであって平均分子量1,000,3,000,5,000又は10,000の
もののいずれか0.01重量%と,松樹皮抽出物であって2∼4量体の比が
4又は0.75のもののいずれか0.01重量%(ただし,松樹皮抽出物は
2∼4量体及び5量体以上であるプロアントシアニジン以外の成分も含むの
で,プロアントシアニジンの含有量は前者では2∼4量体0.004重量%
と5量体以上0.001重量%になり,後者では2∼4量体0.003重量
%と5量体以上0.004重量%になる。)を含む8通りの組み合わせの化
粧水について,皮膚に塗布し0.5時間,1時間,1.5時間及び2時間後
の皮下の血流量を測定し,また,皮膚に塗布し2時間後の電気伝導率により
保湿性を評価したことが記載されている(コラーゲンペプチドの平均分子量
3000又は5000のものと,2∼4量体の比が4のものの組み合わせが
実施例であり,他は比較例である。)。
その結果は,どの平均分子量のコラーゲンペプチドと組み合わせて用いた
場合でも,2∼4量体の比が4のものは,該比が0.75のものと比べて,
血流改善効果等において優れている。特に,図1によれば,2時間後の血流
改善率は,コラーゲンペプチドの平均分子量が3,000のとき,2∼4量体
の比が4のもの(化粧水2)は180%程度の増加であるのに対し,該比が
0.75のもの(化粧水6)は50%程度の増加に留まり,コラーゲンペプ
チドの平均分子量が5,000のときは,160%程度(化粧水3)に対しほ
ぼ0%(化粧水7),というように,前者が顕著に優れており,コラーゲン
ペプチドの平均分子量が7,000のものについては,データは示されていな
いものの,コラーゲンペプチドの平均分子量が10,000のときの40%に
対しほぼ0%との結果から,前者が相応に優れることが推定される。保湿効
果の点でも,前者が優れているといえる。
(4)しかし,上記につき本件明細書の記載を子細にみると,段落【0051】
(プロアントシアニジンの調整)によれば,上記実施例に用いられる前提と
して調製されたプロアントシアニジンは,2∼4量体のプロアントシアニジ
ンが5量体以上のプロアントシアニジンより多く含まれる松樹皮抽出物につ
いては,商標名:フランバンジェノール,株式会社東洋新薬(被告)の製品
そのままであり,これを水溶液へ溶解する等して保湿効果,血流改善効果等
のみられたとする化粧水2,3としている。そして,これと比較する5量体
以上のプロアントシアニジンを2∼4量体のプロアントシアニジンより多く
含む松樹皮抽出物は,上記既製品を機械で分離し,5量体以上のプロアント
シアニジンを回収して,これを上記製品と混合して得られたものであり,こ
れが化粧水6,7等として用いられている。
そして,上記比較対象となる2∼4量体以上のプロアントシアニジンを多
く含む松樹皮抽出物では,成分が2∼4量体のプロアントシアニジンが40
重量%,5量体以上が8.7重量%,カテキンが5.1重量%であり,5量
体以上のプロアントシアニジンを多く含む松樹皮抽出物では2∼4量体のプ
ロアントシアニジンが27重量%,5量体以上が39重量%,カテキンが1.
7重量%である。上記フランバンジェノールが他の成分も当然含むことをひ
とまずおくとしても,カテキンの含有量が異なっていることが指摘できる。
そして,カテキンに関し,上記(2)段落【0032】【0033】のとおり,
2∼4量体のプロアントシアニジンの作用を増強する働きをし,しかもカテ
キン類は5重量%以上含有することが望ましいとされていることからすれば,
本件明細書に開示された内容(上記化粧水2,3が化粧水6,7等に比べ保
湿効果,血流改善効果がある等)からは,本件発明2における「該プロアン
トシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2∼4
量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」との点につ
き,本件明細書の発明の詳細な説明にこれを十分裏付ける記載がないという
ほかなく,いわゆる原告のいうサポート要件を欠くというべきである。
そうすると,原告の取消事由9の主張にも理由があることになる。
(5)また,上記のような比較方法を前提とし,本件発明2が甲2発明との相違
点1,2につき容易想到であることからすると,化粧水2,3につき血流改
善等に効果がみられるとの点は,その比較対象となった化粧水6,7等につ
いて,これらが当業者の認識する従来技術に属する製品であるとは到底認め
られないから,本件発明2に従来技術から当業者には予測もつかない顕著な
効果があると認めることもできないというべきである。
7結語
以上の検討によれば,原告主張の取消事由2及び4,9は理由があり,これ
が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がある
から認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官田中孝一

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修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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