弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
2前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
3控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人大田原俊輔の上告受理申立て理由について
1本件は,上告人が,被上告人に対し,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸
借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前の
もの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部
分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利得返還請求権に
基づき,その支払を求める事案である。被上告人は,上記不当利得返還請求権の一
部については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が完成したと主張し
てこれを争っている。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(平成18年法律第115号に
より法律の題名が貸金業法と改められた。)3条所定の登録を受けた貸金業者であ
る。
(2)上告人は,昭和59年12月12日,被上告人との間で,継続的に金銭の
借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約(以下「本件基本契
約」という。)を締結した。
上告人と被上告人は,同日から平成18年6月8日までの間,本件基本契約に基
づき,第1審判決別紙計算書の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,継
続的な金銭消費貸借取引を行った(以下「本件取引」という。)。
(3)本件取引における弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行わ
れることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対
して行われるものであり,本件基本契約は,利息制限法1条1項所定の利息の制限
額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,これをその後に発生する
新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含む
ものであった。
(4)上告人は,平成19年2月2日に本件訴えを提起した。過払金充当合意に
基づき,本件取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当した結果は,第
1審判決別紙計算書記載のとおりであり,同日における過払金は404万9856
円,同日までに発生した民法704条所定の利息は130万1687円である。
(5)被上告人は,平成9年2月2日以前の弁済によって発生した過払金に係る
不当利得返還請求権については,過払金の発生時から10年が経過し,消滅時効が
完成していると主張して,これを援用した。
3原審は,前記事実関係の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請
求を320万5334円及びうち245万4000円に対する平成19年2月3日
から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で認容すべきものとした。
消滅時効は,権利を行使することができる時から進行するものであり,過払金に
係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)は,発生時点にお
いて行使することができる権利である。上告人は,本件取引の継続中であっても,
自ら弁済を停止し,取引履歴の開示を請求するなどして,本件取引により発生した
過払金返還請求権を行使することが可能であったから,権利の行使につき法律上の
障害は存在しない。
したがって,平成9年2月2日以前の弁済により発生した過払金に係る過払金返
還請求権については,発生から10年間の経過により,消滅時効が完成した。平成
9年2月3日以降の弁済により発生した過払金は,原判決別紙計算書記載のとおり
245万4000円であり,これに対する平成19年2月2日までに発生した民法
704条所定の利息は75万1334円である。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記のような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる
限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金返還請求権を行使するこ
とは通常想定されていないものというべきである。したがって,一般に,過払金充
当合意には,借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなっ
た時点,すなわち,基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で
過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が
発生してもその都度その返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生
する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解す
るのが相当である。そうすると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な
金銭消費貸借取引においては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害とな
るというべきであり,これにより過払金返還請求権の行使が妨げられていると解す
るのが相当である。
借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方
的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存
在する過払金を請求することができるが,それをもって過払金発生時からその返還
請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生すればそ
の返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終
了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反するこ
ととなるから,そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)第84
4号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成
17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事224号
479頁参照)。
したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引
においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請
求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,
同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成20
年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・裁判所時報1476号2
頁参照)。
5これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件基本契約は過払金
充当合意を含むものであり,本件において前記特段の事情があったことはうかがわ
れないから,本件取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は本件取引が終
了した時点から進行するというべきである。そして,前記事実関係によれば,本件
取引がされていたのは昭和59年12月12日から平成18年6月8日までであっ
たというのであるから,上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起されたこ
とは明らかであり,上記消滅時効は完成していない。これと異なる原審の判断に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原
判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。以上説示したところによれば,上記消滅
時効の成立を否定し上告人の請求を認容した第1審判決の結論は正当であるから,
同部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官今井功裁判官中川了滋)

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