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平成27年3月20日判決言渡
平成24年(行ウ)第70号裁決取消等請求事件
主文
1被告日本年金機構が平成22年8月10日付けで原告に対してし
た,原告の厚生年金保険及び健康保険の被保険者の資格の確認の請求
を却下する旨の処分を取り消す。
2被告日本年金機構は,原告が平成21年4月6日から平成22年3
月26日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であったことの確
認をせよ。
3本件訴えのうち原告の被告国に対する請求に係る部分を却下する。
4訴訟費用は,原告に生じた費用の3分の2と被告日本年金機構に生
じた費用を被告日本年金機構の負担とし,原告に生じたその余の費用
と被告国に生じた費用を原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告日本年金機構に対する請求
主文1項及び2項に同旨
2被告国に対する請求
社会保険審査会が原告に対して平成23年8月31日付けでした,原告の再
審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。
第2事案の概要等
原告は,株式会社P1(以下「P1」という。)との間で契約期間を平成
21年4月6日から平成22年3月26日までとするALT(外国語指導助
手)雇用契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し,P1に英語指導
助手業務を委託した愛知県Z市(以下「Z市」という。)の設置する
Z市立P2小学校(以下「本件小学校」という。)における英語指導助手業
務に従事していたところ,平成21年8月4日,千代田社会保険事務所長
(当時)に対し,原告が厚生年金保険及び健康保険の被保険者であることの
確認の請求(以下「本件確認請求」という。)をしたが,平成22年8月1
0日付けで,原告は厚生省保険局保険課長,社会保険庁医療保険部健康保険
課長及び同部厚生年金課長の連名による都道府県民生主管部(局)保健課
(部)長宛て昭和55年6月6日付け内かん(以下「昭和55年内かん」と
いう。)が健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきである
とする短時間就労者には当たらないなどとして,これを却下する旨の処分
(以下「本件却下処分」という。)を受け平成22年10月8日,本件却下
処分を不服として関東信越厚生局社会保険審査官に対して審査請求をした
が,平成23年1月28日付けで同審査請求を棄却する旨の決定を受け,同
年3月24日,同決定を不服として,社会保険審査会に対して再審査請求を
したが,同年8月31日付けで同再審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本
件再審査裁決」という。)を受けた。
本件は,原告が,一定の短時間就労者を厚生年金保険及び健康保険の被保
険者から除外する昭和55年内かんは違法であるし,仮に昭和55年内かん
が違法ではないとしても,原告は昭和55年内かんが健康保険及び厚生年金
保険の被保険者として取り扱うべきであるとする短時間就労者に当たるなど
と主張して,被告日本年金機構に対し本件却下処分の取消し並びに原告が平
成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保険及び健康保険
の被保険者であったことの確認の義務付け(以下,本件訴えのうちこの義務
付けの請求に係る部分を「本件義務付けの訴え」という。)を,被告国に対
し本件再審査裁決の取消しをそれぞれ求める事案である。
1関係法令の定め
別紙1「関係法令の定め」記載のとおりである(同別紙で定める略称は,以
下においても用いる。)。
2前提事実
証拠(各認定事実の後に掲げる。)及び弁論の全趣旨(これらを掲げない
事実は,当事者間に争いがない。)によれば,以下の各事実が認められる。
(1)原告が本件小学校における英語指導助手業務に従事するに至った経緯等
ア原告は,1981年(昭和56年)▲月▲日にアメリカ合衆国におい
て出生した同国の国籍を有する外国人の男性である(甲1)。
イ原告は,平成16年7月22日に本邦に上陸した後,教育等の在留資格
をもって本邦に滞在し,英会話学校において就労するなどしていた(甲
1,40の1,40の2)。
原告は,平成17年11月に株式会社P3(以下「P3」という。)に
雇用された後,P3に英語指導助手業務を委託していた愛知県Y市及び
X市の設置する小学校における英語指導助手業務に従事し,平成20年
4月1日から平成21年3月24日までは,P3に英語指導助手業務を委
託していたZ市の設置する本件小学校における英語指導助手業務に従事
していた(甲40の1,40の2,47,50の1,50の2,原告本
人,弁論の全趣旨)。
ウ原告は,平成21年3月14日,P1との間で,本件労働契約(ALT
(外国語指導助手)雇用契約)を締結した。
P1は,教育事業等を目的とする株式会社であり,厚年法6条1項及び
健保法3条3項所定の適用事業所に当たる。
本件労働契約に係る契約書(以下「本件労働契約書」という。甲2の
1,2の2,乙A20)には,以下のような内容の条項があった。
(ア)本件労働契約の契約期間は,平成21年4月6日から平成22年3月
26日までとする(本件労働契約1条)。
(イ)P1は,言語教師として原告を雇用する(本件労働契約2条)。
(ウ)原告に割り当てられる顧客は,別途,割当表によって指定される(本
件労働契約3条)。
(エ)原告は,月曜日から金曜日までの午前8時から午後5時まで,昼食時
間と休憩時間を除き,1日5.9時間,1週間29.5時間の労働をす
る(本件労働契約4条)。
(オ)原告は,①P1の代理という立場で,期待されているサービスを提供
すること及び②P1の顧客に対する契約上の義務を十分に満たすやり方
で,顧客に対してP1を代表することに同意する(本件労働契約5条1
項及び4項)。
(カ)P1は,月額24万5000円の賃金を原告に支払う(本件労働契約
6条1項)。
エ(ア)Z市とP1とは,平成21年3月14日,英語指導助手業務委託契
約(以下「本件委託契約」という。)を締結した。
本件委託契約に係る契約書(甲3の1,48)には,以下のような内
容の条項があった(甲3の1,48,弁論の全趣旨)。
aZ市は英語指導助手業務をP1に委託し,P1はこれを受託する
(本件委託契約1条)。
b本件委託契約の契約期間は,平成21年4月1日から平成22年3
月24日までとする(本件委託契約2条1項)。
cP1は,Z市の定める「英語指導助手業務仕様書」(以下「本件
仕様書」という。甲3の2)に基づき,英語指導助手業務を誠実に履
行する(本件委託契約3条)。
dP1は,業務記録を作成し,Z市に提出する(本件委託契約7
条)。
(イ)また,本件仕様書には,以下のような内容の記載があった(甲3の
2,弁論の全趣旨)。
a小学校及び中学校に英語指導助手12名を配置し,英語を使うこと
を楽しみ,積極的に英語でコミュニケーションを図ろうとする子供
や,異文化を理解し,日本文化を尊重しようとする子供の育成を目的
とした指導業務を委託内容とする(本件仕様書の3のいわゆる柱書
き)。
b英語指導助手の配置日は,月曜日から金曜日までとする。英語指導
助手の配置時間は,午前8時30分から午後4時30分までとする。
業務開始時刻及び業務終了時刻については,委託者と受託者との調整
の上,受託者から委託者に通知する(本件仕様書の3(1))。
c①英語教育,英語活動及び国際理解教育等の業務内容に基づき実施
すること,②給食及び学校行事等において指導し,日常的に児童生徒
と関わりを持つように努めること,③各教科,総合的な学習の時間及
び特別活動等の授業においても学習指導し,自国及び世界の文化,歴
史及び生活等について紹介すること,④市ALT活用部会及び市英語
部会の授業研究会並びに市ALT研修会等の会において指導するこ
と,⑤学校教諭に対する語学研修を実施すること並びに⑥月例業務実
施報告書を作成して委託者に提出することを英語指導助手の主要業務
とする(本件仕様書の3(2))。
オ原告の本件小学校における英語指導助手業務への従事
原告は,本件労働契約に基づき,本件委託契約をもってP1に英語指導
助手業務を委託したZ市の設置する本件小学校に英語指導助手として配
置され,本件小学校における英語指導助手業務に従事した(弁論の全趣
旨)。
(2)昭和55年内かんの内容
昭和55年内かん(乙1)は,厚生省保険局保険課長,社会保険庁医療保
険部健康保険課長及び同部厚生年金課長の連名による都道府県民生主管部
(局)保健課(部)長宛ての文書であり,その体裁は,「拝啓時下益々御
清祥のこととお慶び申し上げます。」という書き出しから始まり,「敬具」
という結語で終わるというものであった(乙1)。
本件内かんには,「短時間就労者(いわゆるパートタイマー)にかかる健
康保険及び厚生年金保険の被保険者資格の取扱いについては,各都道府県,
社会保険事務所において,当該地方の実情等を勘案し,各個別に取扱基準を
定めるなどによりその運用が行われているところです。もとより,健康保険
及び厚生年金保険が適用されるべきか否かは,健康保険法及び厚生年金保険
法の趣旨から当該就労者が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかによ
り判断すべきものですが,短時間就労者が当該事業所と常用的使用関係にあ
るかどうかについては,今後の適用に当たり次の点に留意すべきであると考
えます。」と記載された上で,「1常用的使用関係にあるか否かは,当該
就労者の労働日数,労働時間,就労形態,職務内容等を総合的に勘案して認
定すべきものであること。」,「2その場合,1日又は1週の所定労働時
間及び1月の所定労働日数が当該事業所において同種の業務に従事する通常
の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就
労者については,原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取
り扱うべきものであること。」及び「32に該当する者以外の者であって
も1の趣旨に従い,被保険者として取り扱うことが適当な場合があると考え
られるので,その認定に当たっては,当該就労者の就労の形態等個々具体的
事例に即して判断すべきものであること。」の3点が掲げられていた。
(3)本件訴えの提起に至る経緯
ア原告は,平成21年8月4日,千代田社会保険事務所長に対し,原告が
厚生年金保険及び健康保険の被保険者であることの確認の請求(本件確認
請求。甲4)をした。
イ被告日本年金機構は,平成22年8月10日付けで,原告は昭和55年
内かんが健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきである
とする短時間就労者には当たらないなどとして,本件確認請求を却下する
旨の本件却下処分(甲5の1,5の2)をした。
ウ原告は,平成22年10月8日,本件却下処分を不服として関東信越厚
生局社会保険審査官に対して審査請求(甲6)をしたが,同審査官は,平
成23年1月28日付けで同審査請求を棄却する旨の決定(甲8)をし
た。
エ原告は,平成23年3月24日,前記ウの決定を不服として社会保険審
査会に対して再審査請求(甲9)をしたが,同審査会は,同年8月31日
付けで同再審査請求を棄却する旨の本件再審査裁決(甲12)をした。
オ原告は,平成24年2月10日,国を被告として,本件訴えのうち本件
義務付けの訴えと本件再審査裁決の取消しを求める部分を提起した(顕著
な事実)。
その後,原告は,同月18日,本件訴えのうち本件却下処分の取消しを
求める部分を上記の訴えに追加して提起し,さらに,同年3月4日,本件
訴えのうち本件義務付けの訴えと本件却下処分の取消しを求める部分につ
いて,被告を日本年金機構に訂正した(顕著な事実)。
3争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
本件では,主として,原告が平成21年4月6日から平成22年3月26
日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であったと認められるか否かを
めぐって,①本件却下処分の適法性(争点1)が争われているほか,②本件
義務付けの訴えの適法性(争点2)及び③本件再審査請求の適法性(争点
3)も争われている。
これらに関する当事者の主張の要旨は,別紙2「争点に関する当事者の主
張の要旨」記載のとおりである(同別紙で定める略称は,以下においても用
いる。)。
第3当裁判所の判断
1本件却下処分の適法性(争点1)について
(1)本件労働契約に基づく原告の労働時間について
原告が本件労働契約に基づいてP1に使用されていた平成21年4月6日
から平成22年3月26日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であっ
たか否かについて判断する前提として,この間における本件労働契約に基づ
く原告の労働時間について検討する。
アまず,原告の労働時間に関する原告の供述(陳述書の記載を含む。)の
内容は,おおむね以下のとおりである(甲40の1,40の2,50の
1,50の2,原告本人)。
(ア)本件労働契約には,月曜日から金曜日までの午前8時から午後5時ま
で,昼食時間と休憩時間を除き,1日5.9時間,1週間29.5時間
の労働をする旨が定められていたが,本件労働契約に基づく原告の実際
の労働時間は,これよりも長かった。
(イ)原告は,P3と労働契約を締結して本件小学校に配置されていたとき
に,本件小学校の校長から,朝礼に出席するために午前8時20分まで
に出勤するように言われていたことから,P1と本件労働契約を締結し
て本件小学校に配置されるようになってからも,引き続き午前8時20
分に出勤し,朝礼に出席していた。
朝礼では,本件小学校のP4教務主任から,その日の予定や行事につ
いての説明がされていた。
(ウ)原告は,本件小学校に出勤して,職員室の机に座ると,すぐに授業に
用いる教材であるプリントやフラッシュカードの確認をしていた。
フラッシュカードは,絵と簡単な英文が書かれたカードで,全部で数
百枚程度あり,原告は,1回の授業で,8枚から12枚程度のフラッシ
ュカードを用いていた。
(エ)原告は,職員室と同じ棟にある国際教室で授業を行っていた。職員室
と国際教室との間の移動は,途中で他の教諭や生徒から呼び止められて
話し掛けられたりするため,10分程度を要した。国際教室には,授業
に必要な教材をそろえて,授業の開始時刻の前までに到着していた。
原告は,授業と授業の合間の時間には,黒板を消したり,フラッシュ
カードの整理をしたりしていた。次の授業まで時間が空くときには,職
員室に戻って,次の授業の準備をしたり,翌日又は翌週の授業の準備を
したりしていた。
(オ)原告は,午後零時25分から午後1時15分までの昼食の時間に,職
員室で弁当を受け取ってから,担当するクラスの教室に行き,そこで担
任の教諭や生徒と共に弁当を食べながら会話をしていた。
(カ)原告は,昼食後の午後1時15分から午後1時50分まで,2年生の
生徒と一緒に国際教室の掃除をしていた。この国際教室の掃除は,P3
と労働契約を締結して本件小学校に配置されていたときに,P4教務主
任から指示されて始めたもので,P1と本件労働契約を締結して本件小
学校に配置されるようになってからも,引き続き行われていた。
原告は,この時間に掃除をしきれなかったときには,授業の準備のた
めの時間に掃除の続きをすることもあった。
(キ)原告は,P3と労働契約を締結して本件小学校に配置されていたとき
に,本件小学校の校長から,午後4時30分まで本件小学校にいるよう
に言われていたことから,P1と本件労働契約を締結して本件小学校に
配置されるようになってからも,引き続き午後4時30分まで本件小学
校に残って,翌日又は翌週の授業の準備をしたり,担任の教諭と授業の
打合せをしたりしていた。
業務実施報告書には,退勤時刻を記載する欄がなかったが,原告は,
平成21年4月17日の備考欄には午後4時30分に退勤した旨を記載
し,同月22日の同欄には午後5時30分に退勤した旨を記載し,同年
5月15日の同欄には早退した旨を記載していた。こうした記載のない
日については,原告は,午後4時30分を過ぎてから退勤していた。
(ク)原告は,平成21年10月19日に,所属している労働組合の組合員
らとともに愛知労働局を訪れ,本件委託契約が労働者派遣法に違反する
偽装請負である旨の申告をしたところ,P1の担当者から,同月22日
にP5株式会社(P5)○駅の近くの建物にある会議室で開催されるミ
ーティングに参加するよう指示されたので,それに参加した。このミー
ティングでは,P1の担当者から,本件委託契約について説明がされ
た。
さらに,同月29日,原告が本件小学校に出勤すると,P1から送信
された本件FAX文書(甲43の1)が原告の机の上に置かれていた。
本件FAX文書には,「あなたは,先生方と打合せをしてはいけませ
ん。」,「学校では朝礼(朝のミーティング)に出席しないでくださ
い。」等と記載されていた。
そこで,原告は,これからは午前8時20分からの朝礼には出席しな
くてよいと考え,以後,午後8時30分までに出勤するようになった。
また,原告は,本件FAX文書を受け取った後も,昼食の時間には担任
の教諭や生徒と共に弁当を食べながら会話をし,午後1時15分から午
後1時50分までは2年生の生徒と一緒に国際教室の掃除をし,午後4
時30分まで本件小学校に残って,翌日又は翌週の授業の準備をするな
どしていたが,担任の教諭との授業の打合せはしなくなった。
(ケ)原告は,本件小学校に滞在している間に何もすることがないという時
間はなく,休憩を取ることもできず,月曜日から金曜日まで,午前8時
30分から午後4時30分まで労働をしていた。
イ原告が本件小学校に滞在していた時間について
(ア)原告が本件小学校における英語指導助手業務に従事していた時間につ
いては,タイムカードによって管理がされていたなどの事情はなく(甲
40の1,40の2),これを直接的に裏付ける客観的な証拠はない。
もっとも,業務実施報告書(甲26)は,原告が本件小学校に出勤する
たびにその日に実施した業務の内容を記入し,本件小学校のP6教頭ら
がそれを1か月ごとに確認した上で押印していたと認められる(甲40
の1,40の2,50の1,50の2,原告本人)ところ,これをみる
と,本件小学校に出勤した日には,「O」(授業)以外に「P」(準
備)や「A」(その他の活動)も含まれているものの,いずれにしても
1時限から6時限を超えて本件小学校に滞在していたことを示す記載が
あり,これについて逐一P6教頭らが確認したことを示す押印がされて
いるのであって,P6教頭が作成したZ市ALT勤務報告書(甲3
0)も,平成21年5月に関するものではあるが,上記業務実施報告書
の記載と多くの部分で一致している。そして,原告の前記アの供述の内
容は,上記の各報告書の記載と矛盾なく,おおむね整合しているという
ことができる。このことに加え,原告の上記供述の内容が具体的かつ詳
細であり,証人尋問の際の被告日本年金機構訴訟代理人による反対尋問
によっても揺らぐことなく一貫しており,不自然ないし不合理な点は特
段見当たらないことに照らすと,本件小学校に滞在していた時間に関す
る原告の上記供述は信用性が高いというべきである。
(イ)これに対し,被告日本年金機構は,原告が本件労働契約に定められた
労働時間を超えて労働をしていたのであれば,P1に対して時間外手当
を請求したり,本件労働契約の内容の変更を要求したりして当然である
のに,原告はそのような行動をしていないとして,午前8時20分又は
午前8時30分に出勤し,午後4時30分に退勤していたとする原告の
供述は不自然である旨を主張する。しかし,原告は,本件労働契約書に
残業代についての定めがなかったことから,残業代を請求しても支払っ
てもらえないだろうと考えていた(原告本人)というのであるから,原
告がP1に対して時間外手当を請求したり,本件労働契約の内容の変更
を要求したりしなかったことをもって,午前8時20分又は午前8時3
0分に出勤し,午後4時30分に退勤していたとする原告の供述が不自
然であるということはできない。
(ウ)以上によれば,原告が本件小学校に滞在していた時間は,おおむね月
曜日から金曜日までの午前8時30分(平成21年10月29日に本件
FAX文書が送信されるまでは,午前8時20分)から午後4時30分
までであったと認められる。
ウ本件労働契約に基づく原告の労働時間について
(ア)ところで,被告日本年金機構は,P1は,SLプランによって原告に
対する業務の指示をしていたのであるから,原告が,SLプランによる
業務の指示があった時間以外に本件小学校に滞在して何らかの作業をし
ていたとしても,それは本件労働契約に基づく労働時間には含まれない
というべきであるとして,例えば,午後1時15分から午後1時50分
まで2年生の生徒と一緒に国際教室の掃除をしていた時間等は,原告の
労働時間には含まれない旨等を主張する。
(イ)しかしながら,本件委託契約においては,英語指導助手の配置日を月
曜日から金曜日までとし,配置時間を午前8時30分から午後4時30
分までとする旨が定められた上で,英語指導助手の業務開始時刻及び業
務終了時刻については,Z市とP1との調整の上で,P1からZ市
に通知する旨が定められていたところ(前記前提事実(1)エ(イ)b),前
記ア(ア)の原告の供述に加え,P1がZ市に原告の本件小学校におけ
る英語指導助手業務に係る出退勤の時刻を通知していたことをうかがわ
せる証拠ないし事情等は見当たらないこと(乙A21,A22参照)か
らすると,P1は,原告が担当する授業等が記載されたSLプランを原
告に送付しただけで,現実に原告の出退勤の時刻を管理することはして
おらず(P1が原告の出退勤の時刻等を厳格に管理していなかったこと
は,被告日本年金機構も争っていない(別紙2・第1の1(2)イ
(イ))。),原告の配置時間である午前8時30分から午後4時30分
までの間に,原告をいつ出退勤させ,どのような業務に従事させるか等
については,本件小学校の校長らの現場における判断に委ね,その判断
を黙認していたことがうかがわれるところである。
そして,原告とP1との間の本件労働契約には,原告は,P1の代理
という立場で,期待されているサービスを提供することや,P1の顧客
に対する契約上の義務を十分に満たすやり方で,顧客に対してP1を代
表することに同意する旨が定められ(本件労働契約5条1項及び4項。
前記前提事実(1)ウ(オ)),Z市とP1との間の本件委託契約に係る本
件仕様書には,給食及び学校行事等において指導し,日常的に児童生徒
と関わりを持つように努めることが英語指導助手の主要業務と記載され
ていたこと(本件仕様書本件仕様書の3(2)。前記前提事実(1)エ(イ)
c)などにも照らすと,原告が本件小学校の指示ないし意向に応じて,
本件小学校に出勤してから退勤するまでの間に行っていた事務等につい
て,これが本件労働契約に基づく原告の義務に含まれないものであった
とは解し難いといわざるを得ない。
その上で,前記アのとおり,原告は,午前8時30分(平成21年1
0月29日に本件FAX文書が送信されるまでは,午前8時20分)に
本件小学校に出勤してから午後4時30分に本件小学校を退勤するまで
の間,本件小学校の建物ないし敷地にとどまり,常に授業の準備をする
などして,ほとんど休憩を取ることもできなかったものと認められるか
ら,この間,原告は,使用者であるP1の指揮命令下におかれたものと
評価することができるというべきである。
なお,原告が午後1時15分から午後1時50分まで2年生の生徒と
一緒に国際教室の掃除をしていたのは,原告がP3と労働契約を締結し
て本件小学校に配置されていたとき以来のP4教務主任の指示によるも
のと認められるところ(前記ア(カ)),以上に述べたところによれば,
原告がP4教務主任の指示に従って午後1時15分から午後1時50分
まで2年生の生徒と一緒に国際教室の掃除をしていたことも,本件労働
契約に基づく原告の義務に含まれないものであったとはいえないことは
明らかである。
(ウ)以上によれば,被告日本年金機構の前記(ア)の主張は,採用すること
ができず,本件労働契約に基づく原告の労働時間は,おおむね月曜日か
ら金曜日までの午前8時30分(平成21年10月29日に本件FAX
文書が送信されるまでは,午前8時20分)から午後4時30分までで
あって,1日約8時間,1週間約40時間に及ぶことになり,相当の休
憩時間を考慮したとしても,優に1日約7時間,1週間約35時間を超
えるものと認められるというべきである。
このほか,被告日本年金機構は,本件労働契約において,労働時間
は,1日5.9時間,1週間29.5時間と定められており,原告はこ
のことを認識していた旨も主張するが,本件労働契約に基づく原告の労
働時間は,現に原告が本件労働契約に基づく労働に従事した客観的な時
間によって定まるものであって,本件労働契約の定めや原告の主観的な
認識によって直ちにそれが左右されるものではないから,被告日本年金
機構の上記の主張もまた,採用することができない。
(2)原告が平成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保険
及び健康保険の被保険者であったか否かについて
ア厚年法9条は,適用事業所に使用される70歳未満の者は,厚生年金保
険の被保険者とする旨を定めているが,同法12条は,同条各号のいずれ
かに該当する者は,同法9条の規定にかかわらず,厚生年金保険の被保険
者としない旨等を定めており,同法12条各号には,臨時に使用される者
であって,日々雇い入れられる者(1月を超え,引き続き使用されるに至
った場合を除く。)又は2月以内の期間を定めて使用される者(所定の期
間を超え,引き続き使用されるに至った場合を除く。)(同条2号),季
節的業務に使用される者(継続して4月を超えて使用されるべき場合を除
く。)(同条4号)及び臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6
月を超えて使用されるべき場合を除く。)(同条5号)等が定められてい
る(別紙1の1(1)ア及びイ)。
また,健保法3条1項本文は,同法において「被保険者」とは,適用事
業所に使用される者をいう旨等を定めているが,同項ただし書は,同項各
号のいずれかに該当する者は,日雇特例被保険者となる場合を除き,被保
険者となることができない旨を定めており,同項各号には,厚年法12条
各号に定められている者と同様の者等が定められている(別紙1の2(1)
ア及びイ)。
イ適用事業所に使用される者に係る厚生年金保険及び健康保険の被保険者
の資格に関する厚年法及び健保法の定めは,前記アのとおりであって,適
用事業所に使用される者について,その労働時間の長短によって厚生年金
保険及び健康保険の被保険者に当たるか否かが直ちに左右されるものとす
る旨を定めた明文の規定は見当たらない。
もっとも,厚生年金保険事業及び健康保険事業に要する費用に充てるた
めに徴収される保険料の月額は,標準報酬月額及び標準報酬賞与額にそれ
ぞれ所定の保険料率を乗じて得た額とされ(厚年法81条,健保法156
条),被保険者及び被保険者を使用する事業主は,それぞれ保険料の半額
を負担するものとされていること(厚年法82条1項,健保法161条1
項本文),標準報酬月額は,被保険者の報酬月額に基づき,所定の等級区
分によって定められ(厚年法20条1項,健保法40条1項),被保険者
が毎年7月1日現に使用される事務所において同日前3月間(その事業所
で継続して使用された期間に限るものとし,かつ,報酬支払の基礎となっ
た日数が17日未満である月があるときは,その月を除く。)に受けた報
酬の総額をその期間の月数で除して得た額をもって,その年の9月から翌
年の8月までの各月の被保険者の報酬月額とするものとされているところ
(厚年法21条1項及び2項,健保法41条1項及び2項),厚生年金保
険の標準報酬月額の最低額は,報酬月額が10万1000円未満の場合
(第1級)に9万8000円とされ,健康保険の標準報酬月額の最低額
は,報酬月額が6万3000円未満の場合(第1級)に5万8000円と
されていること(厚年法20条1項,健保法40条1項)などの厚年法及
び健保法の採用する厚生年金保険及び健康保険の制度の仕組みに照らす
と,厚年法及び健保法は,所定の保険料を負担するのに相応する程度の報
酬を受けていない者についてまで厚生年金保険及び健康保険の被保険者と
なることを当然に予定しているものとは解し難い。
そして,一般に報酬の額は労働時間の長短に相関するといえるところ,
以上に述べたところからすれば,厚年法及び健保法は,厚年法9条にいう
「適用事業所に使用される70歳未満の者」及び健保法3条1項本文にい
う「適用事業所に使用される者」について,所定の保険料を負担するのに
相応する程度の報酬を受けるに至らないような短時間労働者はこれらに含
まれないものと解釈することを許容していないとまでは解されない。
ウ本件においては,厚年法9条にいう「適用事業所に使用される70歳未
満の者」及び健保法3条1項本文にいう「適用事業所に使用される者」に
は一定の短時間労働者が含まれないという解釈を採用したとしても,本件
労働契約に基づく原告の労働時間は,前記(1)で認定したとおり,おおむ
ね月曜日から金曜日までの午前8時30分(平成21年10月29日に本
件FAX文書が送信されるまでは,午前8時20分)から午後4時30分
までであって,相応の休憩時間を考慮したとしても,1日約7時間,1週
間約35時間を超えるものと認められるから,少なくとも原告が厚年法9
条にいう「適用事業所に使用される70歳未満の者」及び健保法3条1項
本文にいう「適用事業所に使用される者」から除外されるような短時間労
働者に当たらないことは,明らかであるというべきである。
したがって,原告は,本件労働契約に基づいてP1に使用されていた平
成21年4月6日から平成22年3月26日までの間,厚年法9条にいう
「適用事業所に使用される70歳未満の者」及び健保法3条1項本文にい
う「適用事業所に使用される者」に該当していたものということができ,
かつ,厚年法12条各号及び健保法3条1項各号に定める者に該当してい
なかったことは明らかであるから,厚生年金保険及び健康保険の被保険者
であったというべきである。
エこれに対し,被告日本年金機構は,「1日又は1週の所定労働時間及び
1月の所定労働日数が当該事業所において同種の業務に従事する通常の就
労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労
者については,原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取
り扱うべきものである」などと記載された昭和55年内かんが,健保法及
び厚年法の解釈に合致し,合理性を有するとした上で,原告については,
昭和55年内かんの基準を満たすものではないから,厚生年金保険及び健
康保険の被保険者に当たらない旨を主張する。
しかし,既に述べたとおり,本件労働契約に基づく原告の労働時間は,
1日約7時間,1週間約35時間を超えるものであって,労働基準法32
条所定のいわゆる法定労働時間と比較しても,その4分の3を優に超える
ものであったと認められるから,昭和55年内かんの基準によったとして
も,原告が平成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保
険及び健康保険の被保険者であったという認定判断が左右されるものでは
ない。
したがって,昭和55年内かんの基準の当否について論ずるまでもな
く,原告が平成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保
険及び健康保険の被保険者ではなかったとする被告日本年金機構の主張
は,採用することができない。
(3)小括
以上によれば,本件却下処分は,原告が平成21年4月6日から平成22
年3月26日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であったことを否定
した点で,違法なものであるといわざるを得ない。これと異なる被告日本年
金機構の主張は,これまで述べたところに照らし,採用することができな
い。
2本件義務付けの訴えについて
原告が平成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保険及
び健康保険の被保険者であったことの確認の義務付けを求める本件義務付け
の訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号に規定するいわゆる申請型の義務付
けの訴えであると解されるところ,前記1で述べたとおり,原告の厚生年金
保険及び健康保険の被保険者の資格の確認の請求(本件確認請求)を却下し
た本件却下処分は違法であり,取り消されるべきものであるから,本件義務
付けの訴えは,同法37条の3第1項2号に規定する要件に該当するものと
認められ,また,同条2項及び3項2号に規定する要件に該当することは明
らかである。
そして,前記1で述べたところに照らせば,被告日本年金機構が原告が平
成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保険及び健康保険
の被保険者であったことの確認をすべきであることが厚年法18条1項本文
及び健保法39条1項本文の規定から明らかであると認められるから,行政
事件訴訟法37条の3第5項の規定に従い,被告日本年金機構に対し,原告
が平成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保険及び健康
保険の被保険者であったことの確認をすべき旨を命ずるのが相当である。
3原告の被告国に対する訴えについて
特定の処分についての審査請求又は再審査請求の裁決の取消しを求める訴
えの目的は,究極的には当該処分の取消しを求めることにあると解されると
ころ,前記1で述べたとおり,本件却下処分の取消しを求める原告の請求は
認容すべきものであるから,本件再審査裁決の取消しを求める訴えの利益は
失われるものと解される。
したがって,本件訴えのうち原告の被告国に対する請求に係る部分は,訴
えの利益を欠き,不適法であるというべきである。
第4結論
以上の次第であって,原告の被告日本年金機構に対する請求は,いずれも理
由があるからこれらを認容し,本件訴えのうち原告の被告国に対する請求に
係る部分は,不適法であるからこれを却下することとして,主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官舘内比佐志
裁判官福渡裕貴
裁判官川嶋知正
別紙1
関係法令の定め
1厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)及び厚生年金法施行令(以下「厚
年法施行令」という。)の定め
(1)被保険者
ア厚年法9条(被保険者)は,適用事業所に使用される70歳未満の者
は,厚生年金保険の被保険者とする旨を定めている。
イ厚年法12条(適用除外)は,次の各号のいずれかに該当する者は,同
法9条及び10条1項の規定にかかわらず,厚生年金保険の被保険者とし
ない旨を定めている。
1号国,地方公共団体又は法人に使用される者であって,次に掲げるもの
イ恩給法19条に規定する公務員及び同条に規定する公務員とみなされ
る者
ロ法律によって組織された共済組合の組合員
ハ私立学校教職員共済法の規定による私立学校教職員共済制度の加入者
2号臨時に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除く。)であっ
て,次に掲げるもの。ただし,イに掲げる者にあっては1月を超え,ロに
掲げる者にあっては所定の期間を超え,引き続き使用されるに至った場合
を除く。
イ日々雇い入れられる者
ロ2月以内の期間を定めて使用される者
3号所在地が一定しない事業所に使用される者
4号季節的業務に使用される者(船舶所有者に使用される船員を除
く。)。ただし,継続して4月を超えて使用されるべき場合は,この限り
でない。
5号臨時的事業の事業所に使用される者。ただし,継続して6月を超えて
使用されるべき場合は,この限りでない。
ウ厚年法13条(資格取得の時期)1項は,同法9条の規定による被保険
者は,適用事業所に使用されるに至った日若しくはその使用される事業所
が適用事業所となった日又は同法12条の規定に該当しなくなった日に,
被保険者の資格を取得する旨を定めている。
エ厚年法14条(資格喪失の時期)2号は,同法9条等の規定による被保
険者は,その事業所に使用されなくなったときに該当するに至った日の翌
日に,被保険者の資格を喪失する旨等を定めている。
オ(ア)なお,平成24年法律第63号1条(厚年法の一部改正)は,厚年法
12条中1号を削り,2号を1号とし,3号から5号までを1号ずつ繰
り上げる旨等を定めているところ,平成24年法律第63号1条の規定
は,平成27年10月1日から施行される(同法附則1条本文)。
(イ)また,平成24年法律第62号3条(厚年法の一部改正)は,厚年法1
2条に次の号を加える旨等を定めているところ,平成24年法律第62号
3条の規定は,平成28年10月1日から施行される(同法附則1条5
号)。
6号事業所に使用される者であって,その1週間の所定労働時間が同一
の事業所に使用される短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律2
条に規定する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3未満であ
る同条に規定する短時間労働者又はその1月間の所定労働日数が同一の
事業所に使用される通常の労働者の1月間の所定労働日数の4分の3未
満である短時間労働者に該当し,かつ,イからニまでのいずれかの要件
に該当するもの
イ1週間の所定労働時間が20時間未満であること。
ロ当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれないこ
と。
ハ報酬(最低賃金法4条3項各号に掲げる賃金に相当するものとして
厚生労働省令で定めるものを除く。)について,厚生労働省令で定め
るところにより,厚年法22条1項の規定の例により算定した額が,
8万8000円未満であること。
ニ学校教育法50条に規定する高等学校の生徒,同法83条に規定す
る大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。
(ウ)一方,平成24年法律第62号附則17条1項は,当分の間,特定適用
事業所(事業主が同一である1又は2以上の適用事業所であって,当該1
又は2以上の適用事業所に使用される通常の労働者及びこれに準ずる者
(1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1週
間の所定労働時間の4分の3以上であり,かつ,その1月間の所定労働日
数が同一の事業所に使用される通常の労働者の1月間の所定労働日数の4
分の3以上である短時間労働者をいう。)の総数が常時500人を超える
ものの各適用事業所をいう。)以外の適用事業所に使用される70歳未満
の者であって,その1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通
常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3未満である短時間労働者又
はその1月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の
1月間の所定労働日数の4分の3未満である短時間労働者に該当するもの
については,厚年法9条及び10条1項の規定にかかわらず,厚生年金保
険の被保険者としない旨を定めている。
(2)被保険者の資格の確認の請求
ア厚年法18条(資格の得喪の確認)1項本文は,被保険者の資格の取得
及び喪失は,厚生労働大臣(平成19年法律第109号による改正前は社
会保険庁長官)の確認によって,その効力を生ずる旨を定めている。
イ厚年法31条(確認の請求)1項は,被保険者又は被保険者であった者
は,いつでも,同法18条1項の規定による確認を請求することができる
旨を定めている。
ウ厚年法31条2項は,厚生労働大臣(平成19年法律第109号による
改正前は社会保険庁長官)は,厚年法31条1項の規定による請求があっ
た場合において,その請求に係る事実がないと認めるときは,その請求を
却下しなければならない旨を定めている。
エ(ア)厚年法100条の4(日本年金機構への厚生労働大臣の権限に係る事
務の委任)第1項3号及び9号は,厚生労働大臣の権限に係る事務のう
ち,それぞれ同法18条1項の規定による確認並びに同法31条1項の
規定による請求の受理及び同条2項の規定による請求の却下を被告日本
年金機構に行わせるものとする旨を定めている。
(イ)なお,平成19年法律第109号による改正前の厚年法4条(権限の委
任)1項は,同法に規定する社会保険庁長官の権限の一部は,政令で定め
るところにより,地方社会保険事務局長に委任することができる旨を定
め,同条2項は,同条1項の規定により地方社会保険事務局長に委任され
た権限の全部又は一部は,政令の定めるところにより,社会保険事務所長
に委任することができる旨を定め,平成21年政令第310号による改正
前の厚年法施行令1条(権限の委任)1項5号及び16号は,それぞれ同
法18条1項に規定する権限及び同法31条2項に規定する権限を地方社
会保険事務局長に委任する旨を定め,同令1条2項本文は,上記の各権限
を社会保険事務所長に委任する旨を定めていた。
2健康保険法(以下「健保法」という。)及び健康保険法施行令(以下「健保法
施行令」という。)の定め
(1)被保険者
ア健保法3条(定義)1項は,同法において「被保険者」とは,適用事業
所に使用される者及び任意継続被保険者をいうが(本文),次の各号のい
ずれかに該当する者は,日雇特例被保険者となる場合を除き,被保険者と
なることができない(ただし書)旨を定めている。
1号船員保険の被保険者(船員保険法2条2項に規定する疾病任意継続被
保険者を除く。)
2号臨時に使用される者であって,次に掲げるもの(イに掲げる者にあっ
ては1月を超え,ロに掲げる者にあってはロに掲げる所定の期間を超え,
引き続き使用されるに至った場合を除く。)
イ日々雇い入れられる者
ロ2月以内の期間を定めて使用される者
3号事業所又は事務所で所在地が一定しないものに使用される者
4号季節的業務に使用される者(継続して4月を超えて使用されるべき場
合を除く。)
5号臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6月を超えて使用され
るべき場合を除く。)
6号国民健康保険組合の事業所に使用される者
7号後期高齢者医療の被保険者(高齢者の医療の確保に関する法律50条
の規定による被保険者をいう。)及び同条各号のいずれかに該当する者で
同法51条の規定により後期高齢者医療の被保険者とならないもの
8号厚生労働大臣(平成19年法律第109号による改正前は社会保険庁
長官),健康保険組合又は共済組合の承認を受けた者(健康保険の被保険
者でないことにより国民健康保険の被保険者であるべき期間に限る。)
イ健保法35条(資格取得の時期)1項は,被保険者は,適用事業所に使
用されるに至った日若しくはその使用される事業所が適用事業所となった
日又は同法3条1項ただし書の規定に該当しなくなった日から,被保険者
の資格を取得する旨を定めている。
ウ健保法36条(資格喪失の時期)2号は,被保険者は,その事業所に使
用されなくなったときに該当するに至った日の翌日から,被保険者の資格
を喪失する旨等を定めている。
エ(ア)平成24年法律第62号25条(健保法の一部改正)は,健保法3条
1項に次の号を加える旨等を定めているところ,平成24年法律第62
号25条の規定は,平成28年10月1日から施行される(同法附則1
条5号)。
9号事業所に使用される者であって,その1週間の所定労働時間が同一
の事業所に使用される短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律2
条に規定する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3未満であ
る同条に規定する短時間労働者又はその1月間の所定労働日数が同一の
事業所に使用される通常の労働者の1月間の所定労働日数の4分の3未
満である短時間労働者に該当し,かつ,イからニまでのいずれかの要件
に該当するもの
イ1週間の所定労働時間が20時間未満であること。
ロ当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれないこ
と。
ハ報酬(最低賃金法4条3項各号に掲げる賃金に相当するものとして
厚生労働省令で定めるものを除く。)について,厚生労働省令で定め
るところにより,健保法42条1項の規定の例により算定した額が,
8万8000円未満であること。
ニ学校教育法50条に規定する高等学校の生徒,同法83条に規定す
る大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。
(イ)もっとも,平成24年法律第62号附則46条1項は,当分の間,特定
適用事業所(事業主が同一である1又は2以上の適用事業所であって,当
該1又は2以上の適用事業所に使用される通常の労働者及びこれに準ずる
者(1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1
週間の所定労働時間の4分の3以上であり,かつ,その1月間の所定労働
日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の1月間の所定労働日数の
4分の3以上である短時間労働者をいう。)の総数が常時500人を超え
るものの各適用事業所をいう。)以外の適用事業所に使用される者であっ
て,その1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者
の1週間の所定労働時間の4分の3未満である短時間労働者又はその1月
間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の1月間の所
定労働日数の4分の3未満である短時間労働者に該当するものについて
は,同法25条の規定による改正後の健保法3条1項の規定にかかわら
ず,健康保険の被保険者としない旨を定めている。
(2)被保険者の資格の確認の請求
ア健保法39条(資格の得喪の確認)1項本文は,被保険者の資格の取得
及び喪失は,保険者等(被保険者が全国健康保険協会が管掌する健康保険
の被保険者である場合にあっては厚生労働大臣(平成19年法律第109
号による改正前は社会保険庁長官),被保険者が健康保険組合が管掌する
健康保険の被保険者である場合にあっては当該健康保険組合をいう。)の
確認によって,その効力を生ずる旨を定めている。
イ健保法51条(確認の請求)1項は,被保険者又は被保険者であった者
は,いつでも,同法39条1項の規定による確認を請求することができる
旨を定めている。
ウ健保法51条2項は,保険者等は,同条1項の規定による請求があった
場合において,その請求に係る事実がないと認めるときは,その請求を却
下しなければならない旨を定めている。
エ(ア)健保法204条(日本年金機構への厚生労働大臣の権限に係る事務の
委任)1項4号及び10号は,厚生労働大臣の権限に係る事務のうち,
それぞれ同法39条1項の規定による確認並びに同法51条1項の規定
による請求の受理及び同条2項の規定による請求の却下を被告日本年金
機構に行わせるものとする旨を定めている。
(イ)なお,平成19年法律第109号による改正前の健保法204条(権限
の委任)1項は,同法に規定する厚生労働大臣及び社会保険庁長官の権限
の一部は,政令で定めるところにより,地方社会保険事務局長に委任する
ことができる旨を定め,同条2項は,同条1項の規定により地方社会保険
事務局長に委任された権限の一部は,政令で定めるところにより,社会保
険事務所長に委任することができる旨を定め,平成21年政令第310号
による改正前の健保法施行令63条(権限の委任)1項4号及び7号は,
それぞれ同法39条1項の規定による権限並びに同法51条1項及び2項
の規定による権限を地方社会保険事務局長に委任する旨を定め,同令63
条2項本文は,上記の各権限を社会保険事務所長に委任する旨を定めてい
た。
3日本年金機構法の定め
日本年金機構法附則73条(処分,申請等に関する経過措置)2項は,同法
の施行の際現に法令の規定により社会保険庁長官等に対してされている申請,届
出その他の行為は,法令に別段の定めがあるもののほか,同法の施行後は,同法
の施行後の法令の相当規定に基づいて,厚生労働大臣等に対してされた申請,届
出その他の行為とみなす旨を定めている。
別紙2
争点に関する当事者の主張の要旨
第1争点1(本件却下処分の適法性)
1被告日本年金機構の主張の要旨
以下に述べるとおり,昭和55年内かんの示す基準は,厚生年金保険及び健
康保険の被保険者の該当性に関する厚年法及び健保法の規定の解釈に合致する
ものであって,合理性を有するものであるところ,原告のP1における就労
は,昭和55年内かんの示す基準を満たすものではないから,原告が厚生年金
保険及び健康保険の被保険者に当たらないとした本件却下処分は,適法であ
る。
(1)昭和55年内かんの適法性等について
ア昭和55年内かんの法的性質等
(ア)厚年法9条及び健保法3条1項は,それぞれ厚生年金保険及び健康保
険の被保険者を「適用事業所に使用される者」と一般的,抽象的に定め
ているところ,昭和55年内かんは,「適用事業所に使用される者」に
該当する者の意義を明確にする必要が生じたため,その具体的な解釈の
基準を示したものである(なお,この主張は,昭和55年内かんをいわ
ゆる裁量基準とみる考え方(乙A4)と必ずしも矛盾するものではな
い。昭和55年内かんは,厚年法及び健保法が被告日本年金機構に与え
た厚生年金保険及び健康保険の被保険者の資格の確認に係る裁量の基準
と解することもできるからである。)。
すなわち,昭和50年代頃から,社会構造の変化に伴い,適用事業所
との使用関係において常用的でない雇用形態である短時間労働者(いわ
ゆるパートタイム労働者)が増加していたところ,これらの短時間労働
者には,適用事業所において同種の業務に従事する通常の就労者(いわ
ゆる正社員)と同様に取り扱うことは妥当でないと考えられるものの,
厚年法12条及び健保法3条1項ただし書が定める適用除外として取り
扱うことも適当ではない者が多くみられたことから,短時間労働者に対
する厚生年金保険及び健康保険の適用の基準を定める必要性が生じたた
め,昭和55年内かんが発出されたのである。
昭和55年当時,社会保険庁は,政府が管掌する厚生年金保険事業及
び健康保険事業を運営することを任務としており,同庁年金保険部厚生
年金保険課はそのうち厚生年金保険事業に係る事務を所掌し,同庁医療
保険部健康保険課はそのうち政府が管掌する健康保険事業に係る事務を
所掌していた。また,健康保険の保険者は政府と健康保険組合であると
ころ,健康保険組合に関する指導監督に係る事務は,厚生省保険局保険
課が所掌していた。したがって,昭和55年内かんは,その当時におけ
る厚生年金保険事業及び健康保険事業の運営に係る事務を所掌していた
権限のある部署の権限のある者が発出したものであるということができ
る。
昭和55年内かんは,厚生年金保険及び健康保険の被保険者の資格の
取得及び喪失に係る確認について統一的,適正な運用を図るために制定
された行政機関内部における判断基準であって,国民の権利義務に直接
影響を及ぼすものではない。したがって,本件において「昭和55年内
かんの適法性」が問題となるのは,昭和55年内かんが厚年法及び健保
法にいう「適用事業所に使用される者」の解釈に合致し,合理性を有す
るか否かという意味合いにおいてである。
(イ)なお,昭和55年内かんにより短時間労働者に対する厚生年金保険及
び健康保険の適用についての一定の解釈の基準が示されたものの,女性
の就業意識の高まり,雇用形態の多様化の進展及びバブル経済崩壊後の
厳しい経済情勢等を背景に,厚生年金保険及び健康保険が適用されない
短時間労働者が増加の一途をたどったことから,短時間労働者に対する
厚生年金保険及び健康保険の適用の拡大についての検討が続けられ,平
成24年8月10日に成立した「公的年金制度の財政基盤及び最低保障
機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成24
年法律第62号)によって,短時間労働者に対する厚生年金保険及び健
康保険の適用の拡大が実現することになった。短時間労働者に対する厚
生年金保険及び健康保険の適用を拡大する同法の規定は,平成28年1
0月1日から施行されるものとされている。
イ昭和55年内かんの適法性
(ア)厚年法9条及び健保法3条1項に規定する「使用される者」とは「常
用的使用関係にある者」をいうこと
a厚年法及び健保法の立法理由等
厚年法の前身である労働者年金保険法については,政府により,
その提案の理由として,「惟フニ労働者ハ,自己ノ労働能力ヲ以テ生
活維持ノ唯一ノ手段トシテ居ルノデアリマシテ,老齢,廃疾及ビ死亡
等,其ノ労働能力ヲ減退又ハ喪失セシメマスル事故ハ労働者ニ取リマ
シテハ,其ノ生活ヲ不断ニ脅カスモノデアリマスガ,年金保険ノ制度
ハ,是等ノ事故ニ際シテ労働者ノ生活ヲ保障シ」旨の説明がされてい
た(乙A27)。
また,健保法については,その制定の理由として,「惟ふに自己
の労働力を生活費獲得の唯一の源泉とする賃金生活者に於て,日常の
生活を不安ならしむる主要なる原因は,(中略)然るに本邦に於て斯
る場合に際し,直接に労働者又は其の家族の救済を目的とする法制の
現に存するは,僅に工場及鉱業に関する法令に依り,(中略)吾人の
常に遺憾とする所なり。」旨の説明がされていた(乙A26)。
これらの説明からすれば,厚年法(その前身である労働者年金保
険法を含む。)及び健保法は,それらが制定された当初において,自
己の労働力を唯一の資本とし,その提供した労働力の対価として得た
賃金のみを生計の基盤として自分と家族の生計を支える労働者を対象
としたものであり,これらの者の生活の安定を図ることを目的として
いたものであると解される。
bいわゆる被用者保険制度の目的と厚生年金保険制度及び健康保険制
度における労働者の範囲
(a)一般的に,労働者とは,雇用契約の一方当事者で,自身の技能や
作業といった労働力を事業主のために提供し,その対価として賃
金を得る者をいう。そして,労働者が提供する労働力は,物理的
な量である労働時間に比例するものということができる。また,
通常の生活が可能となる程度に賃金を得ようとする者は,より多
くの時間を労働に充てる必要があり,結果としてそのために,他
の生活に充てるべき時間を失うこととなる。そうすると,賃金の
みを専ら生計の基盤として生活する労働者は,その者の生活の中
心が労働の提供のみとなる状況に陥りやすく,賃金を得られない
限り生活が困窮するという点において弱者となりやすい。このよ
うな労働者に保険事故が生じたときには,その生活基盤が損なわ
れることが見込まれることから,社会生活の大半にわたる長時間
の労働力の提供を受ける使用者にも費用の一部を負担させるよう
な保険制度により労働者を保護することの意義が生ずる。
(b)また,労働者を公的保障によって保護することの対償として,使
用者に対しても保険料負担を求めることとなるので,このような
関係性においては,被用者保険によって保護される労働者の範囲
は,労務提供者がどのような形であれ単に労働力を提供している
者であれば足りるというわけではなく,使用者にそのような負担
を負わせることが相当といえる一定の関係にある労働者,すなわ
ち自己の労働力の全部又は主要な部分を使用者のために継続的に
提供する常用的使用関係にある者と解される。
(c)さらに,被用者保険制度の目的は,「自己の労働力を生活費獲得
の唯一の源泉とする賃金生活者」,すなわち,専ら社会生活の中
心が労働の提供のみであり,社会生活の大半を使用者に拘束され
ている者を保障することにあるところ,労働者は,労働力を提供
している時間において使用者の拘束を受けることとなるから,短
時間労働者のような常用的使用関係にない者であっても,その労
働時間においては使用者との間で一定の使用関係が生ずるが,こ
うした者は,社会生活の中心が労働の提供のみとなっているとい
うほどには生活の他に充てるべき時間を損耗しておらず,生活の
大半を使用者に拘束されているとはいえない場合が多い。
また,どのような労働条件の働き方を選ぶのかは,労働者側に
もその選択権はあり,自らが主たる生計維持者ではないなどの理
由から,使用者との常時にわたる使用関係を労働者自らが選ばな
いこともある。
このような常用的使用関係にない者については,使用者との間
に社会生活の大半にわたる長時間の労働力の提供とそれに対応し
た保険事故が生じた場合の保障を行うべき関係は認められず,こ
のような者についてまで使用者に保険料負担を課す意義は乏し
い。
(d)このように,労使双方に保険料負担を求めるような保険制度によ
って,事業主に使用される労働者を保護するという被用者保険制
度の目的に鑑みれば,厚生年金保険制度及び健康保険制度によっ
て保護するに値する労働者は,労働者全般ではなく,保険料負担
者でもある使用者との関係性に着目して,その関係性の緊密さを
基準とした一定の範囲の労働者に限った保険集団と解すべきであ
る。
c厚生年金保険及び健康保険における保険料の決定方法等
(a)被保険者が常用的使用関係にある者であることを前提として「標
準報酬月額」が設定されていること
ⅰ厚年法及び健保法における「標準報酬月額」は,被保険者の
賃金額に基づき決定される「報酬月額」に応じて区分された
「標準報酬月額等級」に基づき定められ,「標準報酬月額等
級」は,厚年法においては第1級から第30級まで,健保法に
おいては第1級から第47級までの等級があるところ(厚年法
20条1項,健保法40条1項),厚年法81条及び健保法1
56条が,このような「標準報酬月額」を基礎として保険料の
額を算定することとしたのは,保険料の額を被保険者の賃金額
に見合ったものとする趣旨である。
そして,厚年法及び健保法における「標準報酬月額等級」の下
限は,毎月勤労統計調査(毎月勤労統計調査規則に基づき,厚生
労働省(旧労働省)が実施している調査)に基づく事業所規模5
人以上の事業所における労働者の出勤日数の平均日数に,最低賃
金法に基づく1日当たりの最低賃金を乗じた金額を参考に定めら
れてきた。すなわち,厚年法及び健保法における「標準報酬月額
等級」は,被保険者が上記毎月勤労統計調査に基づく労働者の平
均的な出勤日数以上に終日勤務をしていることを前提に設定され
ており,常用的使用関係にある者を被保険者とすることを前提す
るものである(乙A30)。
ⅱ仮に,原告が主張するように,被保険者の範囲を全ての「賃
金によって生活する者」と解する場合には,例えば,月1日し
か労働を提供せず,1万円の報酬しか得ていない労働者であっ
ても,適用事業所に使用されてさえいれば,厚生年金保険及び
健康保険の被保険者に当たることとなるが,この場合の当該労
働者の保険料の額は,収入を超える額となるのであって,理不
尽な結果となることは明らかである。
したがって,被保険者の範囲について,原告が主張するような
解釈を採り得ないことは明らかである。
ⅲさらに,厚年法及び健保法における「標準報酬月額」が,そ
の被保険者が全ての労働者でないことを前提として定められて
いることについて,労働者災害補償保険(以下「労災保険」と
いう。)制度との比較の観点からも補足すると,厚年法及び健
保法における「標準報酬月額」は,個々の労働者の「報酬月
額」,すなわち,個々の労働者に支払われる実賃金額を基に設
定されている(厚年法21条1項,健保法41条1項)。これ
に対し,業務上の災害に係る事業主の保障責任が明確である労
災保険については,事業主が雇用する労働者全てに対して業務
上発生した災害に対する保障をするという法目的から,労働者
である限りはパート等の非典型雇用の労働者であっても当然に
被保険者資格が発生することとし,その保険料の計算は,個々
の労働者を単位とするのではなく,当該事業主がその事業に使
用する全ての労働者に対して支払う賃金の総額である「賃金総
額」を基礎としている(労働保険の保険料の徴収等に関する法
律11条1項及び2項)。
厚生年金保険及び健康保険が,その事業所に勤務する全ての労
働者を適用の対象とするのであれば,労災保険におけるのと同様
に,その事業所において支払われた賃金総額を基に保険料を算定
する方法を採用してしかるべきであるが,実際には,厚年法及び
健保法は,そのような方法を採用せず,個々の労働者の賃金に基
づいて設定された「標準報酬月額」に基づき保険料を算定してい
る。
したがって,厚年法及び健保法は,労災保険制度とは異なり,
事業所に勤務する全ての労働者を適用の対象とはせず,これらの
法の適用対象となる労働者とそうでない労働者が存在することを
当然の前提としていることは明らかである。
(b)被保険者が継続的に雇用されていることを前提に「報酬月額」算
定の基礎となる賃金の期間が定められていること
厚年法及び健保法は,原則として,その年の4月から6月まで
(平成14年度までは5月から7月まで)の実賃金額を基にして
算定された「報酬月額」によって「標準報酬月額」を決定し,そ
の「標準報酬月額」を,その年の9月(平成14年度までは10
月)から翌年8月(平成14年度までは9月)までの向こう1年
間の「標準報酬月額」として保険料を算定する仕組み(現在の賃
金額で将来の保険料を算定するという方法)を採っている(厚年
法21条,健保法41条)。これは,一般的に定期昇給が4月に
行われることに鑑みて,定期昇給後の新たな賃金額の平均をもっ
て,その後の保険料額の算定の基礎とすることとしているもので
あって,これは,被保険者となる労働者が,同一事業所において
相当程度長期にわたって継続的に就労する者であることを前提に
しているものということができる。
(c)被保険者の勤務日数が一定以上であることを前提として「報酬月
額」算定の基礎となる賃金の支払基礎日数が少ない月の賃金が除
外されていること
「標準報酬月額」の定時決定について規定する厚年法21条1
項及び健保法41条1項や,「報酬月額」に著しく高低を生じた
場合の「標準報酬月額」の改定について規定する厚年法23条1
項及び健保法43条1項は,「標準報酬月額」を決定する基礎と
なる「報酬月額」を算定するに当たり,支払基礎日数が17日未
満(平成18年7月前は20日未満)の月の報酬を除外するもの
としている。
支払基礎日数の「17日未満」というのは,週休2日で週5日
勤務する通常の就労者(常用的使用関係にある者)の4分の3を
下回る日数であって,勤務日数が常にこれを下回る者(常用的使
用関係にない者)は,たとえ勤務日に終日(法定労働時間の上限
まで)勤務をしている者であったとしても,被保険者にあたらな
いということになる。なお,平成18年7月前は,上記の「17
日未満」は「20日未満」であったが,これもまた,週休2日制
が定着する前の週6日勤務を前提に,通常の就労者(常用的使用
関係にある者)の4分の3を下回る日数として算出されていたも
のである。
このことは,厚年法及び健保法が,常用的使用関係にある者を
被保険者として想定していることを明らかに示すものである。
d厚生年金保険制度及び健康保険制度における家族給付制度等
(a)各種家族給付制度の存在自体が被保険者の範囲が限定されること
を前提としていること
厚生年金保険制度及び健康保険制度における各種の家族給付制
度(国民年金の第3号被保険者制度並びに健康保険の家族に対す
る様々な療養費の支給及び被扶養者の認定基準等)は,被保険者
の賃金のみで生計を営む家族においては,その家族自身には保険
料を拠出する負担能力がないという前提の下で,被保険者から拠
出される保険料により,その家族をも保障する必要性から設けら
れているものである。したがって,これらの制度は,一般的には労
働力の全部又は主要な部分を事業主のために提供し,その対価と
して得る賃金により,自己とその家族の生計を支える労働者をも
って,法の保障の対象となる労働者と想定しているということが
できる。つまり,各種の家族給付制度の存在は,労働力の全部又
は主要な部分を事業主のために提供し,自己とその家族の生計を
支える労働者を被保険者とすることを前提としていることの証左
なのである。
(b)被保険者の範囲が限定されることを前提として各種家族給付制度
等に関する規定が置かれていること
厚生年金保険制度及び健康保険制度における家族給付制度等に
関する規定は,その被保険者が,全ての労働者ではなく,一定の
範囲に限定されることを前提として置かれている。
すなわち,国民年金法は,厚生年金保険の被保険者を第2号被
保険者とし,第2号被保険者の配偶者であって主として被保険者
の収入により生計を維持する者のうち20歳以上60歳未満の者
を第3号被保険者としているから(同法7条1項2号,3号),
厚年法上の全ての労働者を被保険者とすると,第2号被保険者の
配偶者で第3号被保険者に当たる者が,パートタイム等の短時間
労働をした場合は,そのまま主として他方の配偶者の収入によっ
て生計を維持していたとしても,厚年法の被保険者,すなわち第
2号保険者にも該当することになるが,国民年金法はその調整規
定等を置いてない。
また,健保法においては,被保険者の直系尊属,配偶者,子,
孫及び弟妹であって,主としてその被保険者により生計を維持す
るもの等は,被扶養者として,家族療養費等の保険給付を受ける
ことになるところ(同法3条7項,110条以下),全ての労働
者を被保険者とすると,被保険者により生計を維持する配偶者等
がパートタイム等の短時間労働をした場合は,被保険者と被扶養
者との地位のいずれも併有することになってしまうが,同法は,
その調整規定等を置いていない。
このような厚生年金保険制度及び健康保険制度における家族給
付制度等に関する規定からしても,適用事業所における全ての労
働者を被保険者とすることを前提とする原告の主張は採り得ない
ことは明らかである。
e小括
以上に述べたとおり,厚生年金保険制度及び健康保険制度は,①
制定当初から,自己の労働力を唯一の資本とし,その提供した労働力
の対価として得た賃金のみを生計の基盤として生計を支える労働者を
制度の対象とすることを想定していたこと,②労使双方に保険料負担
を求めるような保険制度によって事業主に使用される労働者を保護す
るという被用者保険制度の目的に鑑みれば,厚年法及び健保法の保護
の対象とすべき労働者は,使用者との関係の緊密さを基準とした一定
の範囲の労働者に限定して解すべきであること,③被保険者が常用的
使用関係にある者であることを前提として「標準報酬月額」や「報酬
月額」算定の基礎となる期間が定められるとともに,賃金支払基礎
日数の少ない月が「報酬月額」算定の基礎から除外されていることか
らすれば,厚年法9条及び健保法3条1項にいう「使用される者」と
は,常用的使用関係にある者と解すべきであることは明らかであり,
また,④仮に,「使用される者」を極めて短時間でも労務を提供した
全ての者と解釈した場合には,不合理な保険料が賦課されることにな
ること,⑤厚生年金保険及び健康保険は,全ての労働者を適用対象と
する労災保険とは異なる保険料の算定方法を採用していること,⑥被
保険者の範囲が限定されることを前提とした各種家族給付制度が存在
していることからすれば,厚生年金保険及び健康保険の被保険者とな
る「使用される者」が適用事業所に使用されている全ての労働者を指
すものではないこともまた明らかである。
(イ)昭和55年内かんは法の解釈に合致し,合理性を有すること
a昭和55年内かんの「おおむね4分の3」とする部分について
(a)時間は万人にとって一律かつ有限であり,一般的に,特定の時間
には1つの活動しか行い得ないことから,ある労働者が厚生年金
保険及び健康保険の適用対象にふさわしい労働者としての実態を
備えているか否かや,事業主の事業活動に対して一定以上の関係
性を有しているか否かを判断する基準,すなわち,厚年法及び健
保法における「常用的使用関係にある者」か否かを判断する基準
として,事業主の指示の下に置かれる労働時間の長短は,最も基
本的な要素である。
そして,厚生年金保険及び健康保険においては,その「労働力
の全部又は主要な部分」を事業主のために継続的に提供する労働
者,すなわち常用的使用関係にある者が被保険者となるが,労働
者が,1日,1週間又は1か月間等の単位で見た場合に,現実に
どのくらいの労働時間を労働するならば「労働力の全部又は主要
な部分」を行使していると認められるかは,一義的に明らかでは
なく,社会経済の状況によっても相違し得る。
そこで,国は,厚生年金保険及び健康保険の対象となる労働者
と,その対象とはならない労働者との区分として,厚年法及び健
保法の趣旨に照らし,所定労働日数や所定労働時間が,当該事業
所において同種の業務に従事する通常の労働者のおおむね4分の
3以上であることという目安を設け,その考え方を昭和55年内
かんにおいて示したのである。
これは,昭和55年内かんを発出した当時の雇用保険法による
短時間労働者の取扱い及び人事院規則による非常勤職員の勤務時
間の取扱いを参考としたものであり,この基準には合理性が認め
られるものである。
(b)また,厚年法及び健保法が,労働者のうち,自己の労働力を唯一
の資本とし,その提供した労働力の対価として得られた賃金のみ
を生計の基盤として自分と家族の生計を支える労働者の生活の安
定を図ることを目的としていることは,前記(ア)dで述べたとおり
であるところ,これを受けて,厚年法及び健保法は,労働者のう
ち,短期間使用される者等を類型的に明文の規定により除外して
いるから(厚年法12条2号,4号及び5号,健保法3条1項2
号から5号まで),自己の労働力を唯一の資本とし,その提供し
た労働力の対価として得られた賃金のみを生計の基盤として自分
と家族の生計を支える労働者に該当するものとしてその適用対象
とするか否かについて,時間的な要素を考慮していることが明ら
かである。したがって,厚年法9条及び健保法3条1項に規定す
る「使用される者」に当たるか否かの目安として所定労働時間を
用いることには,合理性がある。
さらに,前記(ア)c(a)のとおり,厚年法及び健保法における
「標準報酬月額等級」の下限は,労働者の出勤日数の平均日数
に,最低賃金法に基づく1日当たりの最低賃金を乗じた金額を参
考に定められてきており,被保険者が労働者の平均的な出勤日数
以上に終日勤務していることを前提としている。
その上,前記(ア)c(c)のとおり,厚年法21条1項及び健保法
41条1項は,標準報酬月額の改定の基礎とする算定対象月か
ら,報酬の支払いの対象となった日が17日未満(平成18年7
月前は20日未満)の月を除外しており,厚年法及び健保法は,
週休2日で週5日勤務する通常の就労者の4分の3を下回る日数
しか出勤していない者については,たとえ勤務日に終日(法定労
働時間の上限まで)勤務をしている者であったとしても,被保険
者に該当することを全く予定していない。言い換えれば,厚年法
及び健保法は,労働時間が通常の就労者の4分の3を下回る場合
は,被保険者に該当しないことを予定しているといえる。
以上のような健保法及び厚年法の規定からして,健保法及び厚
年法は,正に昭和55年内かんと同様の被保険者の範囲を予定し
ているのであって,昭和55年内かんが厚年法及び健保法の解釈
に合致し,合理性を有することは明らかである。
b昭和55年内かんのその余の部分について
昭和55年内かんは,「3」において,「2に該当する者以外の
者であっても1の趣旨に従い,被保険者として取り扱うことが適当な
場合があると考えられるので,その認定に当たっては,当該就労者の
就労の形態等個々具体的事例に即して判断すべきものであること」と
して,労働時間と労働日数が通常の就労者の4分の3未満の者であっ
ても被保険者として適用される余地があり,「おおむね4分の3」が
目安であることを表し,最終的には飽くまで実態としての使用関係に
着目することを示しているのであって,厚生年金保険及び健康保険の
対象となる労働者を機械的一律に判断すべきものとはしていない。
c小括
以上からすれば,昭和55年内かんの示す基準は,前記(ア)で述べ
た厚年法及び健保法の解釈に合致するものであって,合理性を有する
ものであることは明らかである。
なお,平成24年の厚年法及び健保法の改正により,厚年法12条
1項5号及び健保法3条1項9号として,適用事業所の被用者のう
ち,上記常用的使用関係にない者を短時間労働者と定義した上で,原
則として労働時間が20時間未満の短時間労働者を適用除外とする定
めが新たに設けられたことは,この改正前の厚年法及び健保法におい
ても短時間労働者を除外することが当然に予定されていたこと,した
がって,昭和55年内かんが改正前の法の解釈として正当であること
を示す証左である。
したがって,昭和55年内かんは,厚年法及び健保法の「使用され
る者」,すなわち被保険者は常用的使用関係にある者であるとの解釈
を前提として,常用的使用関係にある者の範囲の目安を具体的に示し
たものにすぎず,昭和55年内かんによって,厚年法及び健保法が予
定している被保険者の範囲は何ら限定されるものではない。
(2)原告が昭和55年内かんに照らして厚生年金保険及び健康保険の被保険
者に当たるか否か
ア原告のP1における労働時間は常勤の労働者の労働時間のおおむね4分
の3を下回っていたこと
(ア)原告は本件労働契約所定の労働時間を超えて労働をすべき義務がない
ことを認識していたこと
a原告は本件労働契約における所定労働時間が本件労働契約書記載の
労働時間であることを認識していたこと
(a)本件労働契約における労働時間が,1日5.9時間,1週間2
9.5時間であったことは,本件労働契約書の記載から明らかで
ある。
これに対し,原告は,本件委託契約に基づいてP1が履行すべ
き義務の多くは原告によって遂行されるものであるから,本件委
託契約に基づいてP1が履行すべき義務のうち原告によって遂行
されるものは,本件労働契約の内容になっていた旨を主張する
が,何ら合意もないのにZ市とP1との間の本件業務委託契約
の内容が原告とP1との間の本件労働契約の内容になるはずがな
いし,本件委託契約に係る本件仕様書においては,業務開始時間
及び業務終了時間は調整の上通知する旨の記載があり,配置時間
は労働時間とは異なる概念として用いられていることが明らかで
あるから,原告の上記主張は,いかなる意味においても失当であ
る。
(b)そして,本件労働契約書には,労働時間を1日5.9時間,1週
間29.5時間(本件労働契約4条),給与を月額24万450
0円(本件労働契約6条)とする旨の記載があり,原告は,本件
労働契約書に署名し,本件労働契約書記載の上記の労働時間及び
給与の額について認識していた(原告本人)。
(c)また,原告は,本件労働契約締結後の平成21年4月6日頃,P
1の担当者に対し,本件労働契約における労働時間を確認し,同
担当者から,本件労働契約書に記載してあるとおりの労働時間で
ある旨の回答を受けたというのであり(原告本人),単に本件労
働契約書の記載上,本件労働契約における労働時間が1日5.9
時間,週29.5時間とされていることを認識していたのみなら
ず,P1においては,実際にも,本件労働契約における労働時間
が本件労働契約書に記載のとおりであるとの前提で業務指示をし
ていることを認識していたものである。
(d)さらに,P1は,Schedule&LessonPlan(以下「SLプラ
ン」という。甲27から29まで,乙A23)によって,各英語
指導助手に対する業務指示をしていたところ,SLプランは,各
英語指導助手に対する業務指示書であるのみならず,本件業務委
託契約に係る委託元であるZ市から委託先であるP1に対する
発注書も兼ねるものであった。
そして,上記の性質を有するSLプランのうち,平成21年6
月8日の週以降のものについては,不動文字で「業務の実施(実
働)時間は1日6時間未満,週29.5時間以内での設定をお願
いします。」と記載されていることからすれば(甲28,29,
乙A23),原告の労働時間が本件労働契約の所定労働時間を超
えるものではないことを前提に,P1は原告に対して業務指示を
し,Z市はP1に対して業務委託をしていたことは明らかであ
る。そして,原告は,SLプランの作成に関わっていたというの
であるから(甲40の1,40の2,甲50の1,50の2),
この記載を認識していたことは明らかである。
(e)したがって,原告は,本件労働契約における所定労働時間が1日
5.9時間,1週間29.5時間であり,特に指示がない限り,
上記の時間を超えて労働すべき義務がないことを明確に認識した
上で,本件小学校における業務に従事したことは明らかである。
b本件労働契約の所定労働時間を8時間であったと認識していた旨の
原告の供述は信用することができないこと
(a)原告は,本件労働契約の所定労働時間が午前8時20分又は午前
8時30分から午後4時30分までであると認識していた旨を供
述し(甲40の1,40の2,50の1,50の2,原告本
人),そのように認識した根拠について,①P3と労働契約を締
結して本件小学校に配置されていたときに,本件小学校の校長か
ら,朝礼に出席するために午前8時20分に出勤し,午後4時3
0分までは学校にいるよう指示され,P1から,本件労働契約を
締結した後も業務時間はP3と労働契約を締結していたときと同
じであると言われたことから,本件労働契約における労働時間が
校長からの上記指示のとおりであると考え(甲40の1,40の
2,原告本人),また,②本件仕様書には「配置時間は,午前8
時30分から午後4時30分とする。」との記載があることか
ら,本件労働契約における労働時間が午前8時30分から午後4
時30分までであると考えた(甲40の1,40の2,原告本
人)などと供述する。
しかし,これらの原告の供述は,以下のとおり,いずれも信用
することができない。
(b)まず,原告の供述のうち,前記(a)①の部分について検討する
と,そもそも,原告がP3と労働契約を締結して本件小学校に配
置されていたときに,校長から,朝礼に出席するために午前8時
20分に出勤し,午後4時30分まで学校にいるよう指示された
こと自体,その指示がされた時期や状況等が明らかでなく,具体
性がないことに加えて,これを裏付ける証拠がないことからすれ
ば,信用することができない。
仮に,P3と労働契約を締結して本件小学校に配置されていた
期間に,校長から上記のような指示があったとしても,原告は,
P3とは別の会社であるP1との間で本件労働契約を締結した
上,前記a(c)のとおり,P1の担当者に対し,本件労働契約にお
ける労働時間を確認し,同担当者から,本件労働契約書に記載し
てあるとおりの労働時間である旨の回答を受けたというのである
から,本件小学校の校長の上記指示によって本件労働契約におけ
る就業時間が午前8時20分から午後4時30分までであると考
えるというのは,著しく不合理である。
以上によれば,原告の供述のうち,前記(a)①の部分について
は,信用することができない。
(c)次に,原告の供述のうち,前記(a)②の部分について検討する
と,そもそも,原告は,本件仕様書が飽くまでP1とZ市との
間の本件業務委託契約に関するものであることに加えて,配置時
間とは別に,業務開始時刻及び業務終了時刻は調整の上で通知す
る旨の本件仕様書の記載を認識し,その意味を理解していたので
あって(甲3,原告本人),それにもかかわらず,本件仕様書に
原告とP1との間の労働契約の内容が記載されたものと認識して
いたというのは,それ自体不合理である。
しかも,原告は,前記a(b)及び(c)のとおり,平成21年5月
頃に情報公開制度によって本件仕様書を入手するよりも前に,本
件労働契約締結時に本件労働契約書の記載内容を認識し,その後
の同年4月6日頃にも,P1の担当者に対して確認して,改めて
本件労働契約における労働時間が本件労働契約書記載のとおりで
あると認識していたのである(原告本人)。
以上によれば,原告の供述のうち,前記(a)②の部分について
も,信用することができない。
(d)さらに,仮に,前記(a)①及び②の原告の供述のとおりであると
すれば,校長の指示等によって原告が認識した始業時刻である午
前8時20分と本件仕様書を見たことによって原告が認識した始
業時刻である午前8時30分とは異なっているから,原告として
は,通常であれば,本件労働契約においてどちらの時刻に出勤す
べきであるのかに疑問を抱き,P1に確認をするなどするはずで
あるが,原告がそのような行動を採ったことは証拠上認められな
いのであって,極めて不自然であるというほかない。
(e)かえって,原告が記載した業務実施報告書(甲26)の同年4月
17日の備考欄には午後4時30分に下校した旨の記載が,同月
22日の備考欄には午後5時30分に下校した旨の記載が,同年
5月15日の備考欄には早退した旨の記載がそれぞれあるほか
は,同年4月から12月まで(8月を除く。)の業務実施報告書
には,下校時間についての記載がないから,原告としては,午後
4時30分という時刻が通常よりも遅い時刻であると認識してい
たことがうかがわれる。
したがって,本件労働契約の所定労働時間が午前8時20分又
は午前8時30分から午後4時30分までであると認識していた
旨の原告の供述は,信用することができない。
c小括
前記a及びbで述べたところによれば,本件労働契約における所
定労働時間は,1日5.9時間,1週間29.5時間であり,原告
は,特に指示がない限り,この時間を超えて労働すべき義務がないこ
とを認識していたことは明らかである。
(イ)原告は所定労働時間を超えて労働しておらず,所定労働時間の全ての
時間において労働したことすら認められないこと
a原告が本件小学校において午前8時20分又は午前8時30分に出
勤し,午後4時30分に退勤していたことの立証がないこと
原告は,本件労働契約締結後,実際には午前8時20分から午後
4時30分まで勤務していた旨の供述をした上,実際の労働実態が本
件労働契約上の労働時間と異なると感じていた旨を供述する(甲40
の1,40の2,50の1,50の2,原告本人)。
しかし,原告が,本件労働契約における所定就業時間は午前8時
20分又は午前8時30分から午後4時30分までではなく,その所
定労働時間は1日5.9時間,1週間29.5時間であり,これを超
えて労働すべき義務がないことを認識していたことは前記(ア)のとお
りであって,仮に,原告が,上記の時刻に出退勤していたとすれば,
必要性がないことを認識しつつ出退勤していたことになるのであっ
て,原告に何らかの意図がない限り,著しく不合理である。また,原
告は,本件労働契約書の労働時間の記載に疑問を抱いたため,本件仕
様書を情報公開制度によって入手した旨を供述しており(原告本
人),本件仕様書を入手した理由がその供述のとおりであるとすれ
ば,原告としては,P1に対し,時間外手当を請求するなどしたり,
労働契約の内容を実態に合わせ変更するよう要求するなどしたりして
しかるべきであるのに,原告はそのような行動を一切しておらず(原
告本人),極めて不自然である。
さらに,原告が出退勤した時刻に関し,これを裏付ける証拠が一
切ないことは原告自身も認めるとおりであり(甲40の1,40の
2),かえって,退勤時刻については,前記(ア)b(e)のとおり,業務
実施報告書(甲26)の記載からすれば,原告は,午後4時30分よ
り前であると認識し,実際にも午後4時30分より前に退勤していた
と考えるのが自然である。
したがって,原告の上記供述は信用することができない。
なお,P1が,平成21年10月28日,各英語指導助手にFA
Xで送信した文書(甲43の1。以下「本件FAX文書」という。)
には,朝礼には出席しないよう要請する旨の記載があるものの,本件
FAX文書は,その体裁及び記載内容等に照らせば,P1が英語指導
助手全員に対して一般的な留意事項を改めて周知するものであるか
ら,必ずしも原告が朝礼に参加していたことを前提とするものとはい
えず,これによって原告が毎日朝礼に出席していたことが裏付けられ
るものではない。
b原告に対する業務指示はSLプランによってのみされていたこと
(a)P1が,SLプランによって原告に対する業務指示をしていたこ
とは,前記(ア)a(d)のとおりであるから,原告には,SLプラン
に記載された業務以外の業務をすべき本件労働契約上の義務はな
かったことは明らかである。
(b)これに対し,原告は,本件小学校の校長や教務主任のP4(以下
「P4教務主任」という。)が原告に対する指揮監督をしていた
旨の主張をするが,これについては,Z市が明確に否定をして
いる上(乙A22),以下のとおり,そのような事実を認めるこ
とはできない。
(c)まず,原告は,SLプランの作成にP4教務主任が関与していた
ことを根拠として,本件小学校が原告に対して業務指示をしてい
た旨を主張するが,SLプランがZ市からP1に対する発注書
でもあったことからすれば,P4教務主任がSLプランの作成に
関与することは当然であるし,また,P4主任が原告に対してS
Lプランの写しを渡していたとしても(原告本人),いかなる趣
旨で渡していたのかが明らかでなく,P1が,業務指示として,
電子メールに添付するなどしてSLプランを送付していた以上
(原告本人),業務指示書としてのその性質に変わりはない。そ
して,SLプランに記載された内容に変更が生じた場合には,改
めて,本件小学校からP1に対して変更後のSLプランが送信さ
れ(乙A23),P1から原告に対してSLプランが送付されて
いたのであるから,SLプランが,Z市からP1への発注書と
P1から英語指導助手に対する業務指示書とを兼ねるというその
性質のとおりに運用されていたことは明らかである。
(d)原告は,校長やP4教務主任が原告の指揮監督をしていた旨の主
張に関連して,愛知労働局作成の「労働者派遣事業関係指導監督
記録(甲)」(甲44)を提出するが,その記載のみからは,そ
もそもこれが本件委託契約に関するものであることすら明らかで
ない上,本件小学校における取扱いを問題とするものであるかど
うかも明らかでなく,しかも,愛知労働局がいかなる調査によっ
ていかなる具体的な事実関係を認定してZ市に対する指導をし
たのか全く明らかでない。
(e)したがって,本件労働契約に係る原告に対する業務指示は,P1
からのSLプランによる業務指示のみであって,原告には,SL
プランに業務の記載がない時間帯において業務をすべき義務がな
かったことは明らかである。
c原告はSLプランによって指示された業務時間外に業務をしていた
とは認められず,その必要性もなかったこと
(a)原告は,SLプランに授業等の予定が記載された時間帯以外の時
間について,①午前8時20分からの朝礼に出席していた,②S
Lプランの「AfterSchool」の時間帯には他の教諭との打合せや授
業の準備をしていた,③授業の準備として,プリントの作成やフ
ラッシュカードの準備をしていた,④SLプランの「Lunch」の時
間帯の後の時間は,清掃等をしていたので,休憩をとることなく
業務をしていた旨の供述をする(甲40の1,40の2,50の
1,50の2,原告本人)。
(b)しかし,原告の前記(a)①の供述が信用することのできないもの
であることは,前記aのとおりであるし,前記(a)②から④までの
供述も,これと同様に,その裏付けとなる証拠は一切ない上,原
告は,本件労働契約の所定労働時間が,本件労働契約書の記載の
とおりであると認識していたのであるから,原告の労働の実態が
その供述のとおりであるとすれば,労働契約書の見直しの要求や
時間外手当の請求等をしてしかるべきであるのに,これをしてい
ないことに照らせば,いずれも信用することができない。
また,原告は,その業務の実態を立証するため,業務実施報告
書(甲26)及び勤務報告書(甲30)を提出するが,業務実施
報告書は,1か月分をまとめて本件小学校の教頭のP6(以下
「P6教頭」という。)に確認の押印をしてもらったものであっ
て,原告の業務の実態が反映されていたか疑わしい上,SLプラ
ンや勤務報告書との間にそごがある部分があることなどからすれ
ば,これらの書面は,原告が実際にした業務を反映する内容のも
のとは言い難く,原告の前記(a)の供述を何ら裏付けるものではな
い。
(c)また,原告の供述を前提としても,原告がした授業の準備という
のは,使用するフラッシュカードを取り出して並び替えることと
プリントの数を数えることだけであり,しかも,フラッシュカー
ドは常に作るものではなく,1時限の授業で使用するフラッシュ
カードの枚数は平均して8枚から12枚程度であるというのであ
るから(原告本人),SLプランの「P」(準備)に割り当てら
れた時間ですら,全てを準備に費やす必要性があったとは考え難
い。現に,原告は,「P」(準備)に割り当てられた時間におい
ても,その時間においてする必要もない掃除をしたというのであ
る(原告本人)。
このことからすれば,仮に授業の準備が必要であるとしても,
SLプランによって割り当てられた「P」(準備)の時間帯に全
て終えることは十分可能であるし,終えていたはずであるから,
この意味においても,授業や「P」(準備)に割り当てられた時
間以外の時間帯にも授業の準備をしていたことを前提とする前記
(a)②及び③の供述は信用することができない。かえって,原告
は,「P」(準備)に割り当てられた時間ですら,授業の準備等
の業務をしていなかった可能性が高い。
(d)さらに,「Lunch」の時間帯の後の清掃については,SLプラン
に何らの記載もないし,原告の供述によっても,P3と労働契約
を締結して本件小学校に配置されていたときにP4教務主任から
指示されたというにすぎないから(原告本人),仮に,原告が
「Lunch」の時間帯の後に清掃をしていたとしても,P1からの業
務指示に基づくものでなかったことは明らかであるし,そもそも
清掃は,P1がSLプランによって指示していた授業等とは直接
関係せず,黙示的な業務指示があったとも評価することができな
いから,清掃がP1の指揮命令下においてされたものとはいえ
ず,清掃をした時間が労働時間にならないことは明らかである。
(e)加えて,原告は,平成21年8月3日,本件確認請求をし,その
後,審査請求及び再審査請求を経て,本件訴えの提起に至ったの
であって,厚生年金保険及び健康保険の被保険者の資格を得たい
と考えていたことは明らかであるところ,原告は,本件労働契約
における所定労働時間が本件労働契約書のとおりであることを明
確に認識していたのであるから,単に労働の実態が上記認識と異
なっているというだけであれば,契約内容の見直しの要求や時間
外手当の請求等をすればよかったのに,本件小学校に配置されて
間もなくして情報公開制度によって本件仕様書等を取得するに及
んだものであり,その労働時間を過大に見せようと意図していた
可能性がある。これに加えて,原告は,同年10月29日,学校
側が英語指導助手に対して直接催し事に参加することなどを要求
することができないことなどの一般的な留意事項が記載された本
件FAX文書を受領したにもかかわらず,本件FAXを受領する
前と同様に,SLプランの「Lunch」の後の時間帯に児童と清掃を
するなどしていたと述べており(原告本人),通常であれば,そ
の業務の負担が減少することから,本件FAX文書の記載に従っ
て,児童との清掃等をやめるはずであるのにそうしなかったとい
うのである。これらのことからすれば,原告は,本件労働契約締
結の当初から,厚生年金保険及び健康保険の被保険者の資格を取
得するために,P1による業務指示にかかわらず,あえて必要の
ない業務をしていた疑いすらある。
d小括
以上からすれば,原告は,SLプランに記載された業務を超えて
業務をしていたことを何ら立証できていないし,仮にSLプランにお
いて業務をすべき時間として割り当てられていた時間以外に何らかの
作業をしていたとしても,業務上の必要性がなかったものであり,そ
の時間は労働時間に当たらない。
(ウ)まとめ
本件労働契約上,所定労働時間は,1日5.9時間,1週間29.5
時間であり,P1における常勤の従業員の所定労働時間のおおむね4分
の3以上であるとはいえない。
そして,P1は,SLプランのみによって原告に対する業務指示をし
ていたところ,原告は,SLプランに記載された業務以外の業務をして
いなかったか,又はSLプランによる業務指示があった時間以外に何ら
かの作業をしていたとしてもそれは労働時間には含まれないというべき
であるから,原告の実労働時間は,SLプランによって指示された業務
に従事した時間であることになる。
そこで,SLプランの記載に従って原告の実労働時間を計算すると,
最大でも1日350分(約5.8時間)又は355分(約5.9時間)
であり,例えば,6月及び11月中の各週の1日の平均労働時間(各週
のSLプランの空欄以外の部分の時間を合計した上,休みの日を除く当
該週の日数で除して得た時間。小数点以下1位未満は四捨五入。)及び
1週間の合計労働時間は,それぞれ,6月2日の週で1日平均3.6時
間(1週間13.4時間),6月8日の週で1日平均5.2時間(1週
間25.8時間),6月22日の週で1日平均5.0時間(1週間2
5.1時間),6月29日の週で1日平均3.8時間(1週間19.1
時間),11月2日の週で1日平均3.5時間(1週間13.9時
間),11月9日の週で1日平均4.0時間(1週間19.8時間),
11月16日の週で1日平均3.8時間(1週間19.1時間),11
月23日の週で1日平均4.2時間(1週間16.9時間),11月3
0日の週で1日平均2.9時間(1週間14.6時間)となるのであっ
て(甲28,乙A23),その実態をみても,本件労働契約における所
定労働時間を下回っていることは明らかである。
したがって,原告のP1における労働時間は,本件労働契約の所定労
働時間及び実労働時間のいずれについても,常勤の就労者の所定労働時
間のおおむね4分の3を下回っていたことは明らかであり,昭和55年
内かんの「2」の基準を満たすものではなかった。
イ原告のP1における就労形態等に照らしても被保険者として取り扱うこ
とが適当であるとはいえないこと
(ア)原告のP1における就労形態は,通常の就労者のそれと異なること
原告のP1との本件労働契約は,1日5.9時間,1週間29.5時
間との労働時間の定めがあったものの,P1の原告に対する業務指示
は,授業の予定等が記載されたSLプランによってのみされ,原告とし
ては,SLプランに記載された業務のみを実施すれば,その義務を果た
したことになるというものであり,その就労形態は,通常の就労者のも
のとは異なる。
(イ)原告のP1における実労働時間は所定労働時間よりも大幅に少なかっ
たこと
原告のP1における就労形態は前記(ア)のとおりであったことから,
必然的に,日及び週ごとに労働時間が異なっており(甲27から29ま
で,乙A23参照),例えば,児童との昼食のみに参加するという日も
あった(乙A23中の平成21年12月4日のSLプラン)。そして,
その実労働時間をみても,1日の平均労働時間及び1週間の労働時間
は,基本的には所定労働時間を大幅に下回っており,1日の平均労働時
間が3時間を下回る週すらあった(前記ア(ウ)参照)のであるから,そ
の労働時間をみても,通常の就労者とは大幅に異なるものであったこと
は明らかである。
しかも,上記の労働時間は,SLプランにおいて「P」(準備)に割
り当てられた時間を含めた労働時間であるところ,原告は,SLプラン
において指示された「P」(準備)の時間の全てを授業の準備に費やし
ていたことすら疑わしく,P1においては,その出退勤時刻等について
厳格に管理していなかったから,「P」の時間自体にも休憩時間が含ま
れていたと考える余地がある。
(ウ)そのほかに常用的使用関係にあるとみるべき事情はないこと
原告のP1における労働内容は,本件小学校における英語の授業の指
導助手であって,特段,常用的使用関係にあるとみるのが相当というべ
きものでもないし,そのほかに常用的使用関係にあるとみるべき事情は
ない。
(エ)小括
前記(ア)から(ウ)までに述べたところからすれば,原告のP1における
就労形態等に鑑みても,被保険者として取り扱うことが適当であるとは
いえず,昭和55年内かんの「3」に照らしても,原告が被保険者に当
たるとの判断には至らない。
ウ結論
これまで述べたことからすれば,原告のP1における就労は,昭和55
年内かんの基準を満たすものではなく,原告は厚生年金保険及び健康保険
の被保険者に当たらないのであるから,これを理由としてした本件処分は
何ら違法ではない。
2原告の主張の要旨
原告が平成21年4月6日から平成22年3月26日まで厚生年金保険及
び健康保険の被保険者であったことは,厚年法及び健保法の規定から明らか
である。
すなわち,P1は,厚年法6条1項及び健保法3条3項所定の適用事業所
に該当する。原告は,P1とその契約期間を平成21年4月6日から平成2
2年3月26日までとする本件労働契約を締結し,英語指導助手業務に従事
していたから,厚年法9条の「適用事業所に使用される70歳未満の者」及
び健保法3条1項の「適用事業所に使用される者」に該当する。そして,原
告は,厚年法12条各号及び健保法3条1項各号所定の適用除外には該当し
ない。したがって,原告が平成21年4月6日から平成22年3月26日ま
で厚生年金保険及び健康保険の被保険者であったことは明らかというべきで
ある。
(1)昭和55年内かんについて
ア被告日本年金機構は,厚生年金保険及び健康保険の適用除外の範囲を拡
大する内容の昭和55年内かんを根拠として,原告が平成21年4月6日
から平成22年3月26日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であ
ったことを否定するが,昭和55年内かんは,厚生年金保険及び健康保険
の適用除外の範囲を拡大する効力を有しないというべきである。
すなわち,憲法上,国民の権利を設定し,制約する効力を有し得る法形
式は,法律,政令,省令及び告示に限られ,行政機関内において上級行政
機関が下級行政機関に対して所掌事務について示達するための文書である
通達や内かんなどは,いかなる意味においても国民の権利を制約する効力
を持たない。昭和55年内かんも,「拝啓時下益々御清祥のこととお慶
び申し上げます。」から始まるという形式が採られ,国の機関から地方公
共団体の機関に対して発出されているという点で,一般的な内かんと変わ
らない。
昭和55年内かんは,「もとより,健康保険及び厚生年金保険が適用さ
れるべきか否かは,健康保険法及び厚生年金保険法の趣旨から当該就労者
が当該事業所と常用的使用関係にあるかどうかにより判断すべきもので
す」と述べているが,厚年法及び健保法は「常用的使用関係」にあるかど
うかによって厚生年金保険及び健康保険を適用するかしないかを決めるよ
うな基準は採用していない。
それにもかかわらず,昭和55年内かんは,「常用的使用関係」という
概念を用いた上,「短時間労働者が当該事業所と常用的使用関係にあるか
どうかについては,今後の適用に当たり次の点に留意すべきであると考え
ます」として,厚年法及び健保法に規定されていない新たな適用除外の類
型を作り出している。法律に定めがなく,またこれを解釈して運用する政
令も省令もない分野において,行政機関において必要な事項を伝達するに
過ぎない内かんの形式で,国民や住民の権利を制限することは許されな
い。被告は,昭和55年内かんは,その当時における厚生年金保険事業及
び健康保険事業の運営に係る事務を所掌していた権限のある部署の権限の
ある者が発出したものである旨を主張するが,厚生省の組織及び所掌事務
の分配に関する法令の定めをもって,国民の権利を制限する昭和55年内
かんを発出する根拠とすることはできない。昭和55年内かんに国民や住
民の権利を制限する法律上の根拠がないことは,研究者らの所論(甲1
3,15,22)等からも明らかである。
したがって,昭和55年内かんは,それ自体が厚年法及び健保法に違反
する内容を含んでおり,それを実際に適用した処分も違法になるというべ
きである。本件却下処分は,昭和55年内かんを適用したものであるか
ら,違法というべきである。
イこれに対し,被告年金機構は,昭和55年内かんは法の解釈に合致し,
合理性を有する旨を主張するが,以下のとおり,被告の主張は厚年法及び
健保法の解釈としては採り得ないというべきである。
(ア)被告日本年金機構は,厚生年金保険制度及び健康保険制度は,その制
定当初から,自己の労働力を唯一の資本とし,その提供した労働力の対
価として得た賃金のみを生計の基盤として生計を支える労働者を制度の
対象とすることを想定していたなどとして,厚年法9条及び健保法3条
1項にいう「使用される者」とは,常用的使用関係にある者と解すべき
である旨を主張する。
しかし,厚年法(その前身である労働者年金保険法を含む。)及び健
保法は,その制定当初から一定の者を被保険者から除外していたもの
の,そこに労働時間の長短を基準とする発想があったとはうかがわれな
い。厚年法及び健保法が労働時間の長短を厚生年金保険及び健康保険の
被保険者に当たるか否かの基準としているのであれば,その明文の定め
がなければならないはずであるが,厚年法及び健保法にはそのような規
定はない。
そもそも,戦後,憲法25条が生存権を保障し,社会保障原理を定め
るに至ったのであるから,厚生年金保険及び健康保険の適用の有無につ
いては,憲法25条の規定の趣旨に照らして判断されなければならな
い。また,生存権や社会保障を具体化する法律については,憲法13条
の規定に照らし,個人原理を前提に解釈することが必要である。こうし
た見地からは,厚年法及び健保法は,原則として「賃金によって生活す
る者」を厚生年金保険及び健康保険の適用の対象としていると解すべき
である。取り分け,いわゆる非正規社員が増加している昨今において,
賃金によって生活する者について,短時間就労者であるという理由だけ
で厚生年金保険及び健康保険の適用の対象から排除することは,本来保
障されるべき膨大な数の労働者を切り捨てることになるが,このような
ことは憲法及び関係法令の予定するところではない。被告日本年金機構
は,短時間労働者は,適用事業所において同種の業務に従事する通常の
就労者と同様に取り扱うことは妥当でないと考えられる旨を主張する
が,なぜ同種の業務に従事する通常の就労者と同様に取り扱うことが妥
当でないのかについての合理的な説明はない。かえって,賃金によって
生活しているという点では通常の就労者と同様であるにもかかわらず,
短時間労働者であるという理由で,厚生年金保険及び健康保険の被保険
者から除外することは,憲法14条の平等原則に反するし,短時間労働
者の雇用管理の改善等に関する法律8条1項が禁止する差別的待遇の最
たるものである。
(イ)また,被告日本年金機構は,労使双方に保険料負担を求めるような保
険制度によって事業主に使用される労働者を保護するという被用者保険
制度の目的に鑑みれば,厚年法及び健保法の保護の対象とすべき労働者
は,使用者との関係の緊密さを基準とした一定の範囲の労働者に限定し
て解すべきであるなどとして,厚年法9条及び健保法3条1項にいう
「使用される者」とは,常用的使用関係にある者と解すべきである旨を
主張するが,事業主の負担が少なくないことを理由として短時間労働者
を厚生年金保険及び健康保険の適用除外にしたいのは,事業主側の願望
にすぎないのであって,これをもって法律の解釈を左右するようなこと
があってはならない。
(ウ)被告日本年金機構は,仮に「使用される者」を極めて短時間でも労務
を提供した全ての者と解釈した場合には,不合理な保険料が賦課される
などとして,厚生年金保険及び健康保険の被保険者となる「使用される
者」が適用事業所に使用されている全ての労働者を指すものではない旨
を主張するが,これは立法論であって,解釈論としては採り得ない。
(エ)その他,被告日本年金機構が昭和55年内かんが法の解釈に合致し,
合理性を有することの根拠としてあげる事情等は,いずれも厚生年金保
険及び健康保険の適用除外の範囲を拡大することができることを説得的
に説明するものではないか,政策論にすぎない。
ウ以上によれば,原告の本件小学校における英語指導助手業務に従事した
時間が,P1との本件労働契約に基づく労働時間,すなわち1日5.9時
間,1週間29.5時間であったとしても,原告は,厚生年金保険及び健
康保険の被保険者に該当するというべきであるから,このことを否定した
本件却下処分は取消しを免れない。
(2)原告の労働時間について
仮に,昭和55年内かんに依拠して,厚生年金保険及び健康保険の被保険
者に当たるか否かを労働時間に基づいて判断するとしても,本件小学校にお
ける原告の労働時間は,以下のとおり,1日8時間,1週間40時間であっ
て,1日5.9時間,1週間29時間をはるかに超えていたから,いずれに
せよ,原告は,厚生年金保険及び健康保険の被保険者に該当するというべき
であり,このことを否定した本件却下処分は取消しを免れない。
ア「労働時間」の意義
最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・
民集54巻3号801頁は,「労働基準法(昭和62年法律第99号によ
る改正前のもの)32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」と
いう。)とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,
右の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に
置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもので
あって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定され
るべきものではないと解するのが相当である。そして,労働者が,就業を
命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義
務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間
外において行うものとされている場合であっても,当該行為は,特段の事
情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することがで
き,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるもので
ある限り,労働基準法上の労働時間に該当すると解される。」と判示して
いる。労働基準法による労働時間規制が公法的規制であることに鑑みる
と,実際の労働時間がどの程度のものであったかを事後的に確定するに当
たり,これを当事者の合意等に委ねることは相当ではない。したがって,
上記の最高裁判決の趣旨は,労働基準法上の労働時間の解釈に限らず,厚
年法及び健保法の適用に関わる労働時間の解釈にも妥当するというべきで
ある。
イ本件小学校における英語指導助手業務に従事していた原告の労働の実態
(ア)P1は,一方では原告と本件労働契約を締結し,他方ではZ市と本
件委託契約を締結していた。P1は,本件委託契約に基づき,原告を含
む労働者を英語指導助手としてZ市が設置する小学校等に配置しなけ
ればならず,原告は,本件労働契約に基づき,P1の指示に従って,
Z市が設置する本件小学校において,英語指導助手業務に従事しなけれ
ばならない。
このように,本件労働契約と本件委託契約とは別個の契約ではある
が,密接な関連を有していたものであり,本件委託契約に基づいてP1
が履行すべき義務の多くは原告によって遂行されるものであるから,本
件委託契約に基づいてP1が履行すべき義務のうち原告によって遂行さ
れるものは,本件労働契約の内容になっていたというべきである。そし
て,P1は,Z市に対し,本件委託契約に基づき,英語指導助手を午
前8時30分から午後4時30分まで配置する義務を負っていたから,
原告は,本件労働契約の内容として,P1に対し,午前8時30分から
午後4時30分まで本件小学校に配置される義務を負っていたというべ
きである。
(イ)原告は,P1と本件労働契約を締結する前の平成20年4月から,P
3との労働契約に基づき,本件小学校における英語指導助手業務に従事
していたところ,その当時には,本件小学校の校長の指示により,朝の
ミーティングに出席するために午前8時20分までに出勤するようにし
ていた(原告本人)。
原告は,平成21年4月からは,P1との本件労働契約に基づき,本
件小学校における英語指導助手業務に従事することになったが,引き続
き午前8時20分までに出勤しなければならないと考えて,午前8時2
0分までに出勤していた(原告本人)。その後,原告は,情報公開請求
によって入手した本件仕様書に「配置時間は,午前8時30分から午後
4時30分とする」と記載されていたことから,実際には始業時刻は午
前8時30分であったことを知った(原告本人)。そして,原告が,同
年10月19日,所属している労働組合の組合員らと共に愛知労働局を
訪れ,本件委託契約が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働
者の就業条件の整備等に関する法律(平成24年法律第27号による改
正後の名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保
護等に関する法律」。以下,「労働者派遣法」という。)に違反するい
わゆる偽装請負である旨の申告をしたところ,同月28日,P1から原
告に対し,「学校では,朝礼(朝のミーティング)に出席しないでくだ
さい。」との指示等が記載された本件FAX文書が送信された。そこ
で,原告は,この指示に従って,同月30日からは朝のミーティングに
は出席しないこととし,午前8時20分までに出勤することはしなくな
った(原告本人)。もっとも,それ以降も,原告は,午前8時30分ま
でには出勤するようにしていた(甲50の1,50の2,原告本人)。
また,原告は,P3との労働契約に基づき,本件小学校における英語
指導助手業務に従事していたときに,校長から,午後4時30分まで本
件小学校にいるよう指示されていたことから,担当する授業の終了時刻
を問わず,原則として午後4時30分を過ぎてから退勤するようにして
いた。
したがって,原告の拘束時間は,午前8時30分から午後4時30分
までの8時間であった。
(ウ)原告の1週間の英語助手指導業務は,SLプランに従って行われてい
た。SLプランには,原告が1時限目から6時限目までの各時限の英語
学習を担当するクラス,日本人の教諭名,テーマ及び教材,給食指導を
担当するクラス並びに「AfterSchool」の業務内容が記載されていた。
SLプランは,原告が当該業務に従事する週の前の週の月曜日までに
本件小学校からP1に提出されることになっていたが(甲27),その
用紙自体は,P1が作成していた。そして,1学期の途中までは,原告
がSLプランに記入をして,それを本件小学校のP4教務主任に渡し,
P4教務主任がそれをP1に送信し,P1がそれを原告に送信していた
(甲50の1,50の2)。原告は,SLプランへの記入に当たって,
授業計画書(甲31)を作成した上で,これを基に日本人の教諭と打合
せをしていた。1学期の途中からは,P4教務主任がSLプランに授業
内容を書き込み,それに原告がテーマや準備するものを書き込むように
なった(甲28,原告本人)。SLプランは,P1からの原告に対する
業務指示の形式になっているが,その実態は,原告やP4教務主任が作
成したものが本件小学校からP1に送信され,P1が機械的にそれを原
告に送信していたにすぎない。
また,原告は,本件小学校に出勤した日は,その日の業務内容を「業
務実施報告書」(甲26)に記載していた。原告は,当初は,業務実施
報告書をP6教頭に毎日提出して,その都度,確認の押印をしてもらっ
ていたが,その後,この押印は1か月ごとにしてもらうことになった。
(エ)前記(ウ)で述べたSLプランの作成の態様からも明らかなとおり,原
告は,英語指導助手業務に従事する場所が本件小学校であった以上,授
業の準備,内容及び進め方について,P1よりも校長やP4教務主任等
からの指揮監督を受けやすい立場にあり,その労働の実態は,以下のと
おりであった。
すなわち,原告は午前8時30分から午後4時30分までの8時間,
休憩を取ることなく,授業,授業の準備,昼食及び掃除を行っていた
(甲40の1,40の2,原告本人)。授業の準備は必ずしなければな
らなかったし,授業と授業との合間も,前の授業で黒板に貼り付けた教
材を外したり,次の授業のための準備をしたりしなければならず,休憩
を取ることはなかった(原告本人)。また,原告は,主として,果物の
絵を描いた紙にその果物名を英語で書き込むなどした「フラッシュカー
ド」という教材を使用して授業を行っていたところ,必要に応じて,新
しいフラッシュカードの作成もしていた。フラッシュカードは,数百枚
あり,原告は,これを職員室の原告の机の中や,英語学習の授業が行わ
れる国際教室に保管し,1回の授業に8枚から12枚程度を取り出して
使用していた(原告本人)。午後0時25分から午後1時15分までの
昼食の時間は,所定のクラスの教室で担任の教諭及び生徒と共に食事を
し,談笑をする時間とされていた(甲50の1,50の2)。昼食の時
間が終了する午後1時15分から5時限が開始される午後1時50分ま
での時間は,児童とともに国際教室の掃除をする時間とされていた(原
告本人)。この掃除は,P3との労働契約に基づき,本件小学校におけ
る英語指導助手業務に従事していたときに,P4教務主任の指示で始め
られたものであり,黒板消しに付いたチョークを振り落としたり,雑巾
で床掃除をしたりするなど,それなりに体力と時間を要するものであっ
た(原告本人)。
(オ)前記(エ)で述べたとおり,原告は,その拘束時間の全てにおいて労働
に従事していたといえるから,原告が使用者の指揮命令下に置かれてい
た時間,すなわち原告の労働時間は,月曜日から金曜日までの毎日8時
間であったと認定されるべきである。
なお,本件小学校において原告を直接指揮監督していたのは,校長や
P4教務主任であるが,これは,校長やP4教務主任がP1を代理とし
て原告を指揮監督していたものと見ることができる。これに対し,Z
市は,「Z市は(株)P1と業務委託契約を締結していたものであっ
て,P7氏と雇用関係になく,時間管理をしていない」などと述べるが
(乙A22),本件委託契約が違法な偽装請負であることを自認するわ
けにはいかないのであるから,Z市がこのように述べるのは当然なの
であって,これをもって校長やP4教務主任が原告の指揮監督をしてい
なかったことの根拠にはならない。
(カ)ところで,本件労働契約は,「従業員は,昼食時間と休憩を除き,1
日に5.9時間,1週間に29.5時間の労働を行い,午前8時半から
午後5時まで,月曜日から金曜日まで,労働する。」と定めている。
本件労働契約が定める1日5.9時間の労働というのは,仮に午前8
時30分から業務を開始したとすれば,午後3時24分に業務を終了す
ることになるものであって,極めて不自然かつ不合理なものである。し
たがって,1日5.9時間,1週間29.5時間という労働時間は,労
働実態を考えて設定したものではなく,昭和55年内かんに依拠して厚
生年金保険及び健康保険の適用を免れる意図に基づいて設定されたもの
というほかない。このような法律上の義務を免れるための合意は,公序
良俗に反し無効である。それをおくとしても,労働基準法施行規則5条
1項2号は,労働基準法15条1項の規定による委任に基づき,「始業
及び終業の時刻」を労働者に明示しなければならないと定めているとこ
ろ,本件労働契約においては,始業及び終業の時刻が明確には定められ
ていなかった。
原告の労働時間は,本件労働契約の文言によらず,実態に即して認定
されるべきである。
第2争点2(本件義務付けの訴えの適法性)
1原告の主張の要旨
前記第1の2で述べたとおり,原告は平成21年4月6日から平成22年
3月26日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であったのであるか
ら,被告日本年金機構には,これについての確認を義務付けるべきである。
2被告の主張の要旨
本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号所定のいわゆる申請
型義務付けの訴えに当たるところ,前記第1の1で述べたとおり,本件却下
処分は適法であって,取り消されるべきものでもなければ,無効又は不存在
でもないから,本件義務付けの訴えは,同法37条の3第1項2号所定の要
件を満たさず,不適法である。
第3争点2(本件再審査裁決の適法性)
1被告国の主張の要旨
(1)行政事件訴訟法10条2項は,処分の取消しの訴えとその処分について
の審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合
には,裁決の取消しの訴えにおいて,処分の違法を理由として取消しを求
めることができない旨を定めている。したがって,裁決の取消しの訴えに
おいては,処分の違法は主張し得ず,裁決固有の瑕疵を主張することが許
されるのみである。
(2)原告は,本件再審査裁決について,原告が平成21年4月6日から平成
22年3月26日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であったこと
を否定した違法がある旨のみを主張しているところ,これは本件却下処分
の違法をいうものであって,本件再審査裁決の固有の瑕疵をいうものでは
ない。本件却下処分の違法をもって本件再審査裁決の違法事由とする原告
の主張は,主張自体失当である。
(3)本件再審査裁決は,社会保険審査官及び社会保険審査会法が定める手続
に従って適法にされたものであり,固有の瑕疵は全く存しない。したがっ
て,本件再審査裁決の取消しを求める原告の請求には理由がない。
2原告の主張の要旨
前記第1の2で述べたとおり,原告は平成21年4月6日から平成22年
3月26日まで厚生年金保険及び健康保険の被保険者であったのであるか
ら,このことを否定した本件再審査裁決は違法である。

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