弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(行ケ)第416号 審決取消請求事件(平成16年4月7日口頭弁論
終結)
          判           決
       原      告   株式会社奥田製作所
       訴訟代理人弁理士   渡邊隆文
       同          喜多秀樹
       同          坂本 寛
       被      告   株式会社システックキョーワ
       訴訟代理人弁理士   高田修治
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が無効2000-35338号事件について平成15年8月5日にし
た審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,名称を「ウィング付き収納ボックスとこれに用いるオートロック装
置及びデッドボルト」とする特許第3041307号発明(平成8年10月24日
に出願〔優先権主張日同年2月22日〕された特願平8-282654号の特許出
願〔以下「本件原出願」という。〕の一部を平成11年11月15日に新たに特許
出願〔以下「本件出願」という。〕,平成12年3月3日設定登録,以下,この特
許を「本件特許」という。)の特許権者である。
 被告は,平成12年6月23日,本件特許を無効にすることについて審判の
請求をし,無効2000-35338号事件として特許庁に係属したところ,原告
は,同年10月2日付け訂正請求書により,願書に添付した明細書の特許請求の範
囲の記載等を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。
 特許庁は,上記事件について審理した上,平成14年2月1日に「訂正を認
める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)
をした。
 その後,当庁平成14年(行ケ)第118号審決取消請求事件(以下「前
訴」という。)の判決(平成15年5月8日判決言渡し,以下「前判決」とい
う。)により前審決が取り消され,同判決が確定したので,特許庁は,上記審判請
求につき更に審理した上,平成15年8月5日,「訂正を認める。特許第3041
307号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決
(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,原告に送達され
た。
 2 願書に添付した明細書(本件訂正請求に係るもの。以下「訂正明細書」とい
う。)の特許請求の範囲記載の発明の要旨
【請求項1】ボックス本体(3)内に取り付けられる地震時オートロック機能
を有するロック装置本体(1)と,前記ボックス本体(3)の前面開口部(4)に
枢着されたウイング(5)の内面(5A)に取り付けられるブラケット(40)
と,前記ロック装置本体(1)に上下方向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブ
ラケット(40)に引っ掛かって前記ウイング(5)の開放を阻止する突出端部を
有するデッドボルト(16)と,を備えたウイング付き収納ボックスのオートロッ
ク装置において,前記デッドボルト(16)の突出端部に,前記ウイング(5)の
開放方向に向けて突出している前記ブラケット(40)の掛止部(43A)に対す
る引っ掛かりを確実にするための窪み部(76)が設けられていることを特徴とす
るウイング付き収納ボックスのオートロック装置。
【請求項2】ボックス本体(3)と,この本体(3)の前面開口部(4)に枢
着されたウイング(5)と,前記ボックス本体(3)内に取り付けられた地震時オ
ートロック機能を有するロック装置本体(1)と,前記ウイング(5)の内面(5
A)に取り付けられたブラケット(40)と,前記ロック装置本体(1)に上下方
向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブラケット(40)に引っ掛かって前記ウ
イング(5)の開放を阻止する突出端部を有するデッドボルト(16)と,を備え
たウイング付き収納ボックスにおいて,前記デッドボルト(16)の突出端部に,
前記ウイング(5)の開放方向に向けて突出している前記ブラケット(40)の掛
止部(43A)に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部(76)が設けられ
ていることを特徴とするウイング付き収納ボックス。
【請求項3】ボックス本体(3)内のロック装置本体(1)に上下方向に沿っ
て出退自在に挿通されており,かつ,ウイング(5)の内面(5A)に設けたブラ
ケット(40)に引っ掛かって前記ウイング(5)の開放を阻止する突出端部を有
するウイング付き収納ボックスのオートロック装置に使用するデッドボルトにおい
て,前記突出端部に,前記ウイング(5)の開放方向に向けて突出している前記ブ
ラケット(40)の掛止部(43A)に対する引っ掛かりを確実にするための窪み
部(76)が設けられていることを特徴とするウイング付き収納ボックスのオート
ロック装置に使用するデッドボルト。
(以下,【請求項1】~【請求項3】記載の発明を「本件発明1」~「本件発
明3」という。)
 3 本件審決の理由
   本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1~3は,特開平7
-305551号公報(審判甲7・本訴甲4,以下「引用例3」という。)及び米
国特許第5121950号明細書(審判甲5・本訴甲9,以下「引用例1」とい
う。)に記載された発明(以下,それぞれ「引用例3発明」,「引用例1発明」と
いう。)ないしは当業者の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたもの
であり,同法123条1項2号に該当し,無効にすべきものであるとした。
第3 原告主張の本件審決取消事由
   本件審決は,本件発明1と引用例3発明との相違点2の判断において,組合
せを阻害する要因についての判断を遺脱した結果,その容易想到性の判断を誤り
(取消事由1),同様の理由により,本件発明2,3の容易想到性の判断も誤った
(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断の誤り)
(1)組合せを阻害する要因
 ア 本件審決は,本件発明1と引用例3発明との相違点2として認定した,
「本件発明1は,デッドボルトの突出端部に,前記ウイングの開放方向に向けて突
出している前記ブラケットの掛止部に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部
が設けられているのに対し,引用例3発明のデッドボルトやブラケットにはそのよ
うな窪み部や掛止部が設けられていない点」(審決謄本8頁本件発明1について
(1)対比の[相違点2]の項)について,「引用例3発明において,副次的なロ
ック機構を設けるとすれば,係合する二つの平面上の部材に凸部と凹部を設けるこ
と,すなわち,係着金具7の上端部に凸部を設け,その凸部に対する引っ掛かりを
確実にするための凹部を,爪部9aの溝部のうち,係着金具7の上端部に対向する
面に設け,これにより,上記相違点2に係る構成のように副次的なロック機構を構
成することは,当業者にとっては,技術常識に属する事柄として容易に想到し得る
事項である」(同11頁第3段落)と判断したが,誤りである。
 イ 発明の進歩性を判断する場合に留意すべき重要なポイントの一つとし
て,本件発明と直接対比される主引用例に対して他の引用例を適用することについ
て,その適用を阻害する要因ないしそれらの組合せを阻害する要因があるか否かと
いう検討事項がある。本件審決の上記判断が示すように,「副次的なロック機構」
を引用例3発明に適用して,係着金具7と爪部材9の互いの対向面にそのような凸
部70と凹部90を形成すると,両部材7,9がいったん係合した場合に二度と取
り外すことができなくなり,扉2の開閉とともに爪部材9と係着部材7との係脱が
繰り返される「キャッチ装置」として機能しなくなるので,そのような適用は上記
阻害要因に該当すると解するのが相当である。したがって,本件審決における相違
点2の判断において,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用することにつ
いて,明らかに組合せを阻害する要因が存在するにもかかわらず,その阻害要因の
判断を遺脱して相違点2に係る容易想到性を肯定したものであるから,本件審決の
進歩性の判断は明らかに誤りである。
(2)審決取消判決の拘束力について
  被告は,本件審決は前判決の拘束力に従ってされたものであるから,その
認定判断の違法を争うことは許されないと主張する。しかしながら,最高裁平成4
年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁(以下「平成4年最判」と
いう。)が「取消判決の拘束力は判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認
定及び法律判断に対しても及ぶ」とした趣旨は,発明の進歩性が争点となっている
事案の場合においては,取消判決の拘束力を同一引用例に関する失権効(遮断効)
として認めたのではなく,取消判決のいわば判断効として認めたものと解すべきで
あり,同一引用例に基づくものであっても,取消判決で具体的に判断されていない
事項に関しては,再度の審判手続やその審決取消訴訟において審理判断することは
許容されるものと解するのが相当である。迅速な事件解決の要請が制度的に適切に
機能するためには,取消判決の拘束力の範囲は,前訴での当事者の主張立証が尽く
されて審理を遂げた事項か否かを中心として,その外延を見極める作業でなければ
ならず,取消判決が発明の進歩性の有無を左右する非常に重要な争点に関して明ら
かに見逃した部分がある場合には,当該見逃した部分については,取消判決の消極
的な認識に属し,拘束力が及ばないと解するのが相当である。なぜならば,そのよ
うに発明の進歩性の判断において取消判決が明らかに見逃した重要な争点について
まで,取消判決の拘束力の名の下で後続の審判又は裁判において争えなくなるよう
に審理を遮断してしまうのでは,迅速な事件解決の要請の前提となるところの取消
判決の公正さが,当事者が十分に納得できる程度にまで適切に確保されているとは
いえず,事実審理を保障して審理の公正を図る実体的真実主義の要請にもとる結果
となるからである。
   主引用例に他の引用例を適用することについて,組合せを阻害する要因が
あるか否かの検討は,発明の進歩性の有無を左右する極めて重要な事項であるが,
本件においては,上記のとおり,前判決は,相違点2の判断において,「副次的な
ロック機構」を引用例3発明に適用することにつき,組合せを阻害する要因の有無
について何ら言及しておらず,これを看過しており,このことは,前判決が,専
ら,扉のロックをより確実にするという本件発明1~3の課題ないし目的のみの観
点から,主たるロック機構に加えて副次的なロック機構を追加することが当業者に
とって容易に想到し得ることであると結論付けていることからも明らかである。し
たがって,組合せを阻害する要因の有無は,前判決が明らかに認定判断を見逃した
部分であるから,前判決の拘束力が及ばない範囲というべきである。
2 取消事由2(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り)
 本件審決は,本件発明2及び本件発明3においても,「上記相違点1,2に
ついての判断は,本件発明1の相違点1,2についての判断と同じである」(審決
謄本12頁本件発明2,3について各(2)判断の項)との理由により容易想到性
を肯定したが,上記のとおり,本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断
が誤りであるから,本件発明2,3の容易想到性の判断も誤りである。
第4 被告の反論
  本件審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断の誤り)に
ついて
 審判官は,審決の取消判決が確定したときは,特許法181条2項の規定に
従い,当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることになるが,再度の審
理・審決には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が
及ぶ。そして,この拘束力は,平成4年最判の判示するとおり,取消判決の判決主
文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判
官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。
 本件審決は,このような取消判決の拘束力に従ってされたものであるから,
その認定判断の違法を争うことが許されないことは明らかである。
 発明の進歩性の判断手順において,当業者が容易に想到し得るか否かの判断
は,組合せを阻害する要因の有無と一体として判断されるものであり,この点につ
いて,前判決が,当業者の技術常識を前提として,本件発明1は引用例3発明及び
引用例1発明から容易に想到し得ると判断していることは明らかである。
2 取消事由2(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り)について
 本件審決の本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断に誤りがない
ことは上記のとおりであるから,その誤りを前提とする原告の取消事由2の主張も
理由がない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断の誤り)に
ついて
(1)甲1,2によれば,前審決及び前判決の認定判断は,以下のとおりであるこ
とが認められる。
ア 前審決(甲1)は,本件訂正請求に係る訂正を認めた上,請求人(注,被
告)の主張する無効理由,すなわち,本件特許は,①本件発明1~3の「デッドボ
ルト」は,本件原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,この明細書
及び図面を併せて「原出願当初明細書」という。)に記載されていないから,その
分割出願に係る本件出願の出願日は遡及しないところ,本件出願前に頒布された刊
行物である特開平9-287338号公報記載の発明に基づいて,当業者が容易に
発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受ける
ことができないものであるから,同法123条1項2号の規定により無効とされる
べきである,②本件発明1~3は,「デッドボルトを付勢する弾性部材」と「デッ
ドボルトを保持する保持部材」を必須の構成要件とするものであるところ,これら
の構成が何ら規定されておらず,明細書の記載が不備であり,特許法36条4項又
は6項に規定する要件を満たしていないから,同法123条1項4号により無効と
されるべきである,③本件発明1~3は,引用例1(甲9),特開平3-1368
0号公報記載の発明(以下「引用例2発明」という。)及び引用例3発明に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定
により特許を受けることができないものであるから,同法123条1項2号の規定
により無効とされるべきである,④本件発明1~3は,本件出願の日前の出願であ
って本件出願後に公開された特願平7-222831号(特開平9-67969
号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,この明細書及び図面を併せて
「先願明細書」という。)記載の発明と同一であって,特許法29条の2の規定に
より特許を受けることができないものであるから,同法123条1項2号の規定に
より無効とされるべきであるとの主張に対し,①分割出願に係る本件出願は,特許
法44条1項の規定に適合するものであり,②本件発明1~3は,特許法36条4
項及び6項に違反するものということはできず,③本件発明1~3は,引用例1発
明及び引用例3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとい
うことはできず,④本件発明1~3は,先願明細書記載の発明と相違し,実質的に
同一のものということもできないから,請求人の主張及び証拠方法によっては本件
特許を無効とすることはできないとして,審判請求を不成立とした。
イ これに対し,前判決(甲2)は,前審決は,上記ア③の無効理由(本件発
明1~3の引用例1発明及び引用例3発明に基づく容易想到性)に関し,本件発明
1~3と引用例3発明との各相違点についての判断を誤ったものであり,違法とし
て取り消されるべきであるとの前訴原告(本訴被告)の主張について,①「本件発
明1の構成(C)(注,本件発明1の構成要件の『前記ロック装置本体(1)に上
下方向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブラケット(40)に引っ掛かって前
記ウイング(5)の開放を阻止する突出端部を有するデッドボルト(16)と,を
備えたウイング付き収納ボックスのオートロック装置において,』の部分)は,
『前記ロック装置本体(1)に上下方向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブラ
ケット(40)に引っ掛かって前記ウィング(5)の開放を阻止する突出端部を有
するデッドボルト(16)と,を備えたウィング付き収納ボックスのオートロック
装置において,』というものである。本件発明1において,デッドボルトが上下方
向に沿って出退自在となっているのは,ブラケットに引っ掛かるようにし,ウィン
グ(5)の開放を阻止するためである。そして,本件発明1の構成(C)は,上記
のとおり,デッドボルト(16)が『上下方向に沿って出退自在に挿通され』かつ
『前記ブラケット(40)に引っ掛かって前記ウィング(5)の開放を阻止する』
と規定されているものであるから,上下方向に直線的な往復運動をするものに限定
されているわけではないというべきである。すなわち,本件発明1の構成(C)で
は,上下方向に沿って往復運動し,ブラケット(40)に引っ掛かるものであれ
ば,上下方向に直線的な往復運動をするものでなくともよいというべきである。引
用例3発明は,本体12内に,爪部材9が傾動自在に設けられ,軸11を中心とし
て,一定の中心角の範囲内で円弧運動を行い,爪部材の先端部が係着金具7の掛止
部に係合し,扉2の開放を阻止するものである(甲第3号証〔注,引用例3〈本訴
甲4〉〕)。引用例3発明の爪部材は,係着金具7の掛止部に係合するように,往
復運動し,扉の開放を阻止するとの構成及び機能において,本件発明1のデッドボ
ルトと差異はない。また,引用例3発明の爪部材9も,軸11を中心として,一定
の中心角の範囲内で円弧運動を行うものであるけれども,係着金具7の掛止部の近
辺においてこれをみれば,上下方向に沿って往復運動し,係着金具7に引っ掛かる
ものであるから,『上下方向に沿って出退自在に挿通され』るものとみることも可
能なものである。したがって,引用例3発明の爪部材9は,本件発明1の『上下方
向に沿って出退自在に挿通され』る『デッドボルト』に相当するもの,あるいは,
少なくとも,これと実質的に同一のものであるということができる。被告(注,本
訴原告)は,引用例3発明の爪部材9の先端部は軸11を回転中心とした円運動を
行うことになるので,当該先端部が上下方向に沿って移動し続けることはあり得
ず,上下方向に対して必ず傾いた方向から係着部材7の上縁に向かって係脱するこ
とになる,と主張する。しかし,本件発明1の構成(C)は,上記のとおり,『上
下方向に沿って出退自在に挿通され』ることを規定しているものの,上下方向に沿
って直線的に移動し続けることまでを要求するものではないというべきであるか
ら,上下方向に対してやや傾いた方向から挿通されるものも,本件発明1の構成
(C)にいう『上下方向に沿って出退自在に挿通され』るものとなり得るというべ
きである。被告の上記主張は採用することができない」(12頁下から第2段落~
13頁第2段落),②「本件発明1は,ブラケットとデッドボルトからなる地震時
のオートロック装置において,ブラケットに掛止部を設け,デッドボルトに窪み部
を設ける,との副次的なロック機構により,『ブラケットの掛止部がデッドボルト
の窪み部に入り込んで同ボルトに掛止されるので,デッドボルトがウイングの開放
方向に若干転倒してもブラケットの掛止部を確実に捕まえることができる。』(甲
第2号証〔注,訂正明細書〈本訴甲8-2〉〕【0007】)ものであり,これに
より,『デッドボルトによる地震時のロックを確実にすることを目的とする。』
(同【0005】)ものである(同【0044】【発明の効果】にも同旨の記載が
ある。)。原告(注,本訴被告)は,ロック機構においてロックを確実にするため
に凹部と凸部による係合手段を用いることは,自明のことであるから,引用例3発
明の扉のロック機構において,扉のロックを確実にするために,デッドボルトに窪
み部を設け,ブラケットに掛止部を設け,これを係合させることは,当業者にとっ
て技術常識であったというべきである,と主張する。引用例3発明は,地震発生時
における扉等のロックを確実に行えるようにすることを目的とする発明である。引
用例1発明は,火災発生時における扉のロック機構に関するものではあるものの,
扉のロックを確実にするために,ロックボルト34による主たるロック機構と,ロ
ックボルトに設けられた溝38が扉の堅枠12aに係合することによる副次的なロ
ック機構とを開示するものである(甲第20号証〔注,引用例1〔本訴甲9〕〕訳
文2頁第2段落,FIG.4,FIG.5参照)。この引用例1発明が開示すると
ころのもの,及び,引用例3発明は,地震発生時における扉等のロックを確実に行
えるようにすることを目的とする発明であるから,大きな地震にも耐え得るよう
に,扉等のロックをより確実にすることは,この技術分野における当然の課題とい
うべきであることからすれば,引用例3発明において,地震発生時に,扉のロック
をより確実に行うようにするために,主たるロック機構に加え,副次的なロック機
構を追加することは,当業者にとって容易に想到し得ることというべきである。そ
して,引用例3発明において,副次的なロック機構を設けるとすれば,係合する二
つの平面上の部材に凸部と凹部を設けること,すなわち,係着金具7の上端部に凸
部を設け,その凸部に対する引っ掛かりを確実にするための凹部を,爪部9aの溝
部のうち,係着金具7の上端部に対向する面に設け,これにより副次的なロック機
構を構成することは,当業者にとっては,技術常識に属する事柄として容易に想到
し得る事項であるというべきである。このことは,例えば,特開平1-10191
9号公報(甲第14号証〔注,本訴甲10〕)の第7図に示されている,平板状の
棚板11の上面に設けられた突条部(係合部11a)と棚板受け12の係合溝(被
係合部12a),あるいは,同公報第1図ないし第5図に示されている,平板状の
棚板の凹状の被係合部2aに係合する凸状の係合片3bなどからも明らかであ
る。・・・審決(注,前審決)は,『本件発明1は前記相違点にかかる構成を採用
したことにより,「以上説明したように,本発明によれば,デッドボルトがウイン
グの開放方向に若干転倒してもブラケットの掛止部を確実に捕まえることができる
ので,デッドボルトによる地震時のロックを確実にすることができる。」(段落
【0044】)との作用効果を奏するもので,かかる作用効果は引用例1発明乃至
引用例3発明から当業者が予測できるものではない。』(審決書〔注,甲1〕18
頁29行~34行)と判断し,被告も同趣旨の主張をしている。本件発明1におい
て,ブラケットに掛止部(43A)を設け,デッドボルトに窪み部(76)を設け
ることにより,ウィングの開放阻止がより確実になるとの上記効果を奏すること
は,明らかである。しかし,その効果は,副次的なロック機構を設けるとの構成か
ら生ずることが自明であるものにすぎない。したがって,本件発明1の,ブラケッ
ト(40)がウィング(5)の開放方向に突出している掛止部(43A)を備えて
いるとの構成,及び,デッドボルト(16)の窪み部(76)との構成が,引用例
3発明,及び,引用例1発明ないしは当業者の技術常識に基づいて,当業者が容易
に想到し得るものであることは前示のとおりである以上,審決の上記判断及び被告
の同趣旨の主張はこれを採用することができない」(14頁下から第2段落~17
頁第1段落),③「本件発明2と引用例3発明との上記相違点(注,本件発明2の
構成(C)の「デッドボルト(16)の突出端部に,前記ウイング(5)の開放方向
に向けて突出している前記ブラケット(40)の掛止部(43A)に対する引っ掛
かりを確実にするための窪み部(76)が設けられている」と引用例3発明との相
違点)については,上記(1)(注,上記②を含む説示)で述べたのと同様に,引用例
1発明ないしは当業者の技術常識から,容易に想到し得る事項であるというべきで
ある」(18頁第1段落),④「審決(注,前審決)は,本来,本件発明3のデッ
ドボルト(16)の窪み部(76)を引用例3発明との相違点として認定し,これ
について判断をすべきであったこと,及び,これについても,本件発明3のデッド
ボルト(16)に,ブラケット(40)の掛止部(43A)に引っ掛かる窪み部
(76)を設けることが,引用例1発明ないしは当業者の技術常識からみて,容易
に想到し得るものであることは,上記説示のとおりである」(19頁第2段落)と
した上,前審決の本件発明1~3と引用例3発明との各相違点についての判断はい
ずれも誤りであり,これらの判断の誤りが前審決の結論に影響を及ぼすことは明ら
かであるとして,前審決を取り消した。
(2)前判決に基づき,本件審決は,本件発明1と引用例3発明との相違点1と
して認定した,「本件発明1のデッドボルトが,ロック装置本体に上下方向に沿っ
て出退自在に挿通されているのに対し,引用例3発明のデッドボルトはロック装置
内に傾動自在に設けられた爪部材である点」(審決謄本8頁本件発明1について
(1)対比の[相違点1]の項)について,前判決の上記(1)のイ①の説示を引用し
た上,「当審は,裁判所(注,前判決)の上記判示事項に拘束されることから,引
用例3発明の爪部材9は,本件発明1の『上下方向に沿って出退自在に挿通され』
る『デッドボルト』に相当するもの,あるいは,少なくとも,これと実質的に同一
のものであるということができ,上記相違点1に係る構成は,実質的な差異ではな
い」(同9頁下から第2段落)と判断し,また,相違点2として認定した,「本件
発明1は,デッドボルトの突出端部に,前記ウイングの開放方向に向けて突出して
いる前記ブラケットの掛止部に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部が設け
られているのに対し,引用例3発明のデッドボルトやブラケットにはそのような窪
み部や掛止部が設けられていない点」(同8頁本件発明1について(1)対比の
[相違点2]の項)について,前判決の上記(1)のイ②の説示を引用した上,「当審
においても,引用例3発明において,副次的なロック機構を設けるとすれば,係合
する二つの平面上の部材に凸部と凹部を設けること,すなわち,係着金具7の上端
部に凸部を設け,その凸部に対する引っ掛かりを確実にするための凹部を,爪部9
aの溝部のうち,係着金具7の上端部に対向する面に設け,これにより,上記相違
点2に係る構成のように副次的なロック機構を構成することは,当業者にとって
は,技術常識に属する事柄として容易に想到し得る事項である」(同11頁第3段
落)と判断した。
(3)原告は,本件審決の上記相違点2についての判断は,「副次的なロック機
構」を引用例3発明に適用することについて,明らかに組合せを阻害する要因が存
在するにもかかわらず,その阻害要因の判断を遺脱して相違点2に係る容易想到性
を肯定したものであるから誤りであると主張し,これに対し,被告は,本件審決
は,取消判決の拘束力に従ってされたものであるから,その認定判断の違法を争う
ことは許されず,また,発明の進歩性の判断手順において,当業者が容易に想到し
得るか否かの判断は,組合せを阻害する要因の有無と一体として判断されるもので
あり,この点について,前判決が,当業者の技術常識を前提として,本件発明1は
引用例3発明及び引用例1発明から容易に想到し得ると判断していることは明らか
であると主張する。
  ところで,審決取消訴訟の判決が,審決を取り消した後,再度の審判手続
において,特許庁が当該取消訴訟の拘束力に従って,その点につき当該取消判決と
同様の判断をし,それに基づいて再度の審決をした場合においては,その再度の審
決に対する再度の審決取消訴訟において,上記拘束力に従った再度の審決の判断が
誤りであると主張立証することは,許されないものと解すべきである。すなわち,
審決取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は,特許法18
1条2項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることと
なるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審
決には,同法33条1項の規定により,同取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この
拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるもの
であるから,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許
されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の
拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主
張を繰り返すこと,あるいは同主張を裏付けるための新たな立証をすることを許す
べきでなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適
法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然
である。このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決のよ
って来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従ってされた
再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定した取消判
決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決の違法(取消)
事由たり得ないから,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってさ
れた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを違法とすることが許されな
いことは明らかである(以上につき,平成4年最判参照)。
  本件において,原告主張に係る「副次的なロック機構」は,上記相違点2
に係る「デッドボルトの突出端部に,前記ウイングの開放方向に向けて突出してい
る前記ブラケットの掛止部に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部が設けら
れている」との構成をいうものであるところ,相違点2に係る構成を引用例3発明
に適用することについての組合せを阻害する要因の有無は,相違点2に係る容易想
到性を判断する一つの要素にすぎず,前判決は,上記(1)のイ②のとおり,「引用例
3発明において,地震発生時に,扉のロックをより確実に行うようにするために,
主たるロック機構に加え,副次的なロック機構を追加することは,当業者にとって
容易に想到し得ることというべきである。そして,引用例3発明において,副次的
なロック機構を設けるとすれば,係合する二つの平面上の部材に凸部と凹部を設け
ること,すなわち,係着金具7の上端部に凸部を設け,その凸部に対する引っ掛か
りを確実にするための凹部を,爪部9aの溝部のうち,係着金具7の上端部に対向
する面に設け,これにより副次的なロック機構を構成することは,当業者にとって
は,技術常識に属する事柄として容易に想到し得る事項であるというべきであ
る。・・・したがって,本件発明1の,ブラケット(40)がウィング(5)の開
放方向に突出している掛止部(43A)を備えているとの構成,及び,デッドボル
ト(16)の窪み部(76)との構成が,引用例3発明,及び,引用例1発明ない
しは当業者の技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得るものであることは前
示のとおりである」として,引用例3発明に相違点2に係る構成を適用することは
容易であると判断したものであるから,原告主張の組合せを阻害する要因の有無の
検討は,上記判断に含まれること,及び上記容易想到性の判断が,判決主文が導き
出されるのに必要な事実認定及び法律判断に相当し,拘束力の及ぶ範囲内の事項で
あることが明らかである。前判決には,組合せを阻害する要因について明示の説示
はないが,前訴において,前訴原告(本訴被告)の,引用例3発明の扉のロック機
構において,扉のロックを確実にするために,デッドボルトに窪み部を設け,ブラ
ケットに掛止部を設け,これを係合させることは,当業者にとって技術常識であっ
たとの主張に対し,前訴被告(本訴原告)は組合せを阻害する要因があるとの主張
をしていなかったことから,その点に関する明示の説示をしなかったにとどまるも
のと理解されるのであって,その説示がないからといって,阻害要因の判断を遺脱
したものということはできない。
  そして,本件審決の上記相違点2についての判断は,上記のとおりの前判
決の拘束力に従ったものであることが明らかであり,本件審決の認定判断中,前判
決の拘束力の及ぶ部分,すなわち,引用例3発明に相違点2に係る構成を適用する
ことは容易であるとの部分は,再度の審決取消訴訟である本件訴訟において,これ
を違法とすることはできず,原告が,本件審決のその判断が誤りであることを主張
することは許されないものといわざるを得ない。原告は,組合せを阻害する要因
は,前判決が明らかに認定判断を見逃した部分であるから,前判決の拘束力が及ば
ない範囲というべきであると主張するが,前判決が阻害要因の判断を遺脱したもの
といえないことは上記のとおりであり,その認定判断を見逃したものということは
できない。そうすると,本件訴訟において原告が取消事由1として主張するところ
は,前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであると主張すること
に帰着するものであり,前判決の拘束力が及ぶ事項につき,再度の審決取消訴訟に
おいてこれを蒸し返すものにほかならず,そもそも本件審決の取消事由とはなり得
ないものであるから,それ自体失当というべきである。
(4)なお,付言すると,原告主張の組合せを阻害する要因,すなわち,本件審
決の判断が示すように,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用して,係着
金具7と爪部材9の互いの対向面にそのような凸部70と凹部90を形成すると,
両部材7,9がいったん係合した場合に二度と取り外すことができなくなり,扉2
の開閉とともに爪部材9と係着部材7との係脱が繰り返される「キャッチ装置」と
して機能しなくなるとの点は,本件発明1のデッドボルトが若干転倒してもブラケ
ットの掛止部を確実に捕まえることができる程度の凸部及び凹部を,引用例3発明
の係着金具及び爪部に設けたとしても,地震時でなければ爪部は回動可能なのであ
るから,扉を手前に引っ張って開放状態にすることが不可能になるものとは認めら
れず,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用することを阻害する要因があ
るということはできない。したがって,前判決の拘束力の点をひとまずおき,原告
主張の組合せを阻害する要因の有無について検討したとしても,結局,原告の取消
事由1の主張は理由がないことが明らかである。
2 取消事由2(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り)について
 本件審決の本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断に誤りがない
ことは上記のとおりであるから,その誤りを前提とする原告の取消事由2の主張も
理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛