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平成17年(行ケ)第10281号特許取消決定取消請求事件
平成18年7月26日判決言渡,平成18年6月21日口頭弁論終結
判決
原告グンゼ株式会社
訴訟代理人弁護士松本司,山形康郎,緒方雅子
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人山崎豊,大橋信彦,粟津憲一,唐木以知良,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が異議2001-71477号事件について平成15年3月17日にし
た決定を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部
分がある。
1特許庁における手続の経緯
本件特許第3116143号「シームレスベルト」は,平成3年9月21日に特
,(),,許出願され平成12年10月6日に特許権の設定登録がなされ甲2その後
その特許について,特許異議の申立て(異議2001-71477号)がなされ,
(「」。)。平成13年12月29日に訂正請求以下本件訂正という乙1がなされた
上記異議申立てについて,平成15年3月17日「訂正を認める。特許,
第3116143号の請求項1に係る特許を取り消す」との決定(甲1)があり。
(なお,請求項2は本件訂正により削除されている,その謄本は同年4月2日原。)
告に送達された。
2本件訂正後の特許請求の範囲の記載(以下「本件発明」という)。
【請求項1】ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とを含有し,且つ遠心成形法により
得られる単層シームレスベルトであって,該ベルトの各部における体積電気抵抗値
が1~10Ω・cmの範囲で,且つ体積電気抵抗値の最大値が最小値の1~1013
倍の範囲にあり,ベルトの表面粗さが2.0μ以下で,引張強度が導電性微粉末を
含有しないシームレスベルトに比較して75%以上の値を有するものであり,遠心
成形前の前記ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の
粘度が50~4000cpであることを特徴とするシームレスベルト。
3決定の理由の要点
決定は,本件訂正を認めた上で,本件発明は,刊行物1ないし7に基づいて,当
業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。
(1)引用刊行物
刊行物1:特開昭56-164368号公報(本訴甲3)
刊行物2:特開昭61-110144号公報(本訴甲4)
刊行物3:特開昭61-110519号公報(本訴甲5)
刊行物4:特開昭61-144658号公報(本訴甲6)
刊行物5:特公昭55-18447号公報(本訴甲7)
刊行物6:特開平3-89357号公報(本訴甲8)
刊行物7:特開昭62-58509号公報(本訴甲9)
(2)刊行物1記載の発明
「,,「,刊行物1には図面とともに電荷保持体上のトナー像をトナー用中間転写体に転写し
しかる後トナー用中間転写体から複写材へ転写して永久像としてのトナー像を得る画像形成装
置において,前記トナー用中間転写体の少なくともトナー像担持体面が導電性であることを特
徴とするトナー用中間転写体(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載されている。。」
そして,発明の詳細な説明中には,この発明のトナー用中間転写体は「無端状ベルトある,
いはローラのいずれであってもよく,要はトナー担持面が導電性であればよい。このトナー担
持面の電気抵抗は10Ω・cm以下にすれば充分である(3頁左下欄17~20行)こと
10
。」
が記載され,実施例3として「基体自身に導電性を与えた中間転写ベルトを構成した。基体,
は,重量比でポリイミドワニス3.5部,カーボンブラック1部及びN-メチルピロリドン7
部を加え均一化し,これを遠心鋳造によって100℃加熱乾燥し厚み50μの中間転写ベルト
とした。この基体上に実施例2と同じ転写層を同じ方法で設けた。表面の転写層の電気抵抗
は10Ω・cmで,基体のそれは10Ω・cmであった」ことが記載されている(4頁右下
75
欄14行~5頁左上欄2行」)。
(3)刊行物1記載の発明との対比
(一致点)
「ポリイミド系樹脂と導電性微粉末とを含有し,且つ遠心成形法により得られる単層シームレ
スベルトであって,該ベルトの各部における体積電気抵抗値が1~10Ω・cmの範囲であ
13
ることを特徴とするシームレスベルト」。
(相違点1)
本件発明のシームレスベルトは,体積電気抵抗値の最大値が最小値の1~10倍の範囲にあ
るのに対し,刊行物1記載の基体は,体積電気抵抗値の範囲について明らかでない点。
(相違点2)
本件発明のシームレスベルトはベルトの表面粗さが20μ以下であるのに対し刊行物1,.,
記載の基体は,表面粗さが明らかでない点。
(相違点3)
本件発明のシームレスベルトは,引張強度が導電性微粉末を含有しないシームレスベルトに
比較して75%以上の値を有するものであるのに対し,刊行物1記載の基体は,引張強度の程
度について明らかでない点。
(相違点4)
本件発明は,遠心成形前のポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材
料の粘度が50~4000cpであるのに対し,刊行物1記載のものは,遠心成形前のポリイ
ミドワニスとカーボンブラックとからなる混合された液状原材料の粘度について明らかでない
点」。
(4)相違点についての判断
「相違点1についての判断)(
,,,刊行物6には導電性カーボンを含む樹脂からなる半導電性のシームレスベルトについて
電気抵抗の変動が小さいことが好ましい旨記載されているとともに,表面電気抵抗及び体積電
気抵抗のバラツキを小さくコントロールすることができる旨記載されており,さらに表面電気
抵抗の最大値に対する最小値の比が0.1以上であるものが記載されている。
また,刊行物7には,導電性プラスチックシートについて,抵抗の均一さが要求されること
が記載されているとともに,ポリエーテルイミド等のカーボンブラックを含む導電性プラス
チックフィルムについて,平均体積抵抗値が10Ωcm以下,体積抵抗値の偏差が10%以

下であるものが記載されている。
さらに,刊行物5には,ポリイミド液状重合体組成物等の重合体組成物にカーボンブラック
を含有させて,抵抗値が10Ω以下の,シート等の導電性プラスチック製品を製造するにあ

たり,カーボンブラックを重合体組成物の液状成分中に均一に分散させる必要性について記載
されており(3頁5欄17~19行,そのための手段も記載されている。)
したがって,導電性プラスチックにおいて,体積電気抵抗値のばらつきを小さくする必要の
あることは刊行物5~7に示すように周知であり,特に体積電気抵抗値の最大値が最小値の1
~10倍の範囲にしたものも刊行物7に記載されるように知られているので,相違点のように
構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
(相違点2についての判断)
本件発明のシームレスベルトは,その用途を特に制限されないものであるが,一般に,ベル
トの表面粗さをどの程度にするかは,ベルトの用途等を勘案して,当業者が適宜決定する事項
である。
そこで,その表面粗さの程度を2.0μ以下とすることは,当業者が用途に応じ適宜決定し
えた程度の設計的事項にすぎず,その限定に格別なものは見出せない。
(相違点3についての判断)
基体の成分として,強度に寄与しない導電性微粉末を混合すれば,基体の強度が低下するこ
とは,例えば刊行物5にも記載されるように…,当業者が当然予測し得た事項であるから,そ
の引張強度をどの程度のものとするかは,必要とされる基体の導電性の程度を勘案して,適宜
設定し得た設計的事項である。
(相違点4についての判断)
遠心成形をおこなうにあたり,液状原材料の粘度をどの程度のものとするかは,使用装置,
使用材料,成膜条件などを勘案して,当業者が適宜実験により,容易に決定し得た事項である
ので,遠心成形前のポリイミド系樹脂と導電性微粉末とからなる混合された液状原材料の粘度
を50~4000cpとした点に,格別の困難性は見いだせない。
すなわち,例えば,原材料の粘度が,水のようにあまりに低い場合,原材料が容易に流れて
しまって,原材料を遠心成形のためのドラム内面に適切に塗布することができず,一方,蜂蜜
,,やタールのように粘度が高すぎる場合も塗布が困難であるとともに原材料の移動が妨げられ
膜厚が均一になり難いことは,当業者が容易に予測し得ることであるから,実験により,両極
端を避けて,適当な粘度範囲を見いだすことは,格別の困難なく当業者がなし得る程度の事項
である。
実際,50~4000cpの粘度範囲は,コーン油程度の粘度から,シロップ程度の粘度の
範囲をカバーするものであって,この粘度範囲には,ラッカーや,水性ペイント等の通常の塗
料の粘度が入るものであることは広く知られており,かかる事情からも,遠心成形シリンダー
にポリイミドワニスを塗布するにあたって,かかる粘度範囲が適当なことを当業者が見いだす
ことに,格別の困難性があったということはできない」。
(5)結論
「以上のとおりであるので,本件発明は,刊行物1ないし刊行物7に記載されたものに基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから本件発明の特許は特許法29,,,
条2項の規定に違反してされたものである」。
第3原告の主張(決定取消事由)の要点
原告としては,本件については,決定に記載された事項について取消事由を主張
するものではない。原告は,別途,平成16年8月30日に訂正審判請求をしたと
ころ(訂正2004-39208号,審判請求は成り立たないとの審決がされた)
ため,その審決取消訴訟を提起した(当庁平成17年(行ケ)第10515号。)
原告としては,専ら,平成17年(行ケ)第10515号事件について争い,同事
件における訂正審判請求が認められるべきであって,これが認められれば本件異議
の決定が結果的に本件発明の要旨認定を誤ったことになるという意味で,取消事由
があることのみを主張するものである。
第4当裁判所の判断
原告の主張は,前記のとおりであり,本件決定については争わず,取消事由を主
張するものではない。前記平成17年(行ケ)第10515号事件もまた当裁判体
に係属している。同事件は,原告が本訴係属中の平成16年8月30日に訂正審判
請求をしたところ(訂正2004-39208号,審判請求は成り立たないとの)
,。,,審決がされたためその審決取消訴訟を提起したものであるそして当裁判所は
平成17年(行ケ)第10515号事件についても,本件と同一期日に口頭弁論を
開いた上,同一期日に判決を言い渡すものであるが,同判決の結論は,上記訂正審
判請求を成り立たないとした審決は是認し得るものであり,原告の主張する審決取
消事由は理由がないというものである。
以上によれば,本件決定を取り消すべき事由はなく,原告の請求は棄却されるべ
きである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
高野輝久
裁判官
佐藤達文

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