弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち,被告に対して奈良市従業員労働組合に対する損害賠償請求
を求める部分及び被告に対してaに対する賠償命令を求める部分を却下する。
2被告は,b,cに対し,それぞれ金531万7750円及びこれに対する平
成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。
3原告らのその余の請求を棄却する。
4訴訟費用はこれを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担と
する。
事実及び理由
第1請求
1被告は,d,e,奈良市従業員労働組合に対し,金3086万7700円及
びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう請求せよ。
2被告は,b,c,aに対し,金3086万7700円及びこれに対する平成
17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。
第2事案の概要
1本件は,奈良市(以下「市」という。)の市民である原告らが,市環境清美
第一事務所(以下「第一事務所」という。)に勤務する現業職員に対して平成
16年11月以降同17年3月までの間に支給された特殊勤務手当の一部(以
下「本件特殊勤務手当」という。)について,これが特殊勤務手当の趣旨に反
し,あるいは根拠となる規則で定められた額を超過する違法があるとして,奈
良市長である被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,
市長の職にあったd(以下「d元市長」という。),e(以下「e前市長」と
いう。)及び奈良市従業員労働組合(以下「従業員労組」という。)に対して
不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求め,同号ただし書に基づき,出
納室長であったb(以下「b元出納室長」という。),人事課長であったc
(以下「c元人事課長」という。)及び第一事務所の所長であったaに対し
(以下「a元所長」という。),賠償命令をすることを求めた事案である。
2争いのない事実
⑴当事者等
ア原告らは,いずれも市の住民であり,被告は市の市長である。
イ相手方ら
d元市長は,平成4年9月28日から平成16年9月27日まで,e前
市長は平成16年9月28日から平成17年7月13日まで市長の職にあ
った者であり,b元出納室長は市の出納室長として,平成16年9月28
日から平成17年8月31日まで収入役職務代理者であった者,cは平成
15年4月1日から平成17年3月31日まで市の人事課長であり,市職
務専決規定6条に基づき特殊勤務手当の支出負担行為を決定する権限を有
していた者,a元所長は平成15年4月1日から平成17年3月31日ま
で第一事務所の所長であった者である。
⑵特殊勤務手当支給に関する規則の制定状況
市職員に対しては,「奈良市一般職の職員の給与に関する条例」(以下
「本件条例」という。)26条により特殊勤務手当が支給できるものとされ
ており,特殊勤務手当の種類,受給者の範囲,手当の額及び支給方法につい
ては,市長が規則で定めるとされている。
第一事務所の職員に対しては,本件条例に基づいて定められた「奈良市職
員の特殊勤務手当に関する規則」(以下「特殊勤務手当規則」という。)に
より,下記の特殊勤務手当が支給されていた。
ア廃棄物収集作業手当
第一事務所に勤務し,廃棄物収集作業に従事する現業職員に対し,日
額540円。
イ皆勤精励手当
第一事務所に勤務し,廃棄物収集作業に従事する現業職員で1か月内
における年次休暇等の日数が以下の者に対し,次の金額。
1日以内の場合月額1万円
1日を超え2日以内の場合月額8000円
2日を超え3日以内の場合月額5000円
3日を超え4日以内の場合月額3000円
ウ出勤奨励手当
第一事務所に勤務し廃棄物収集作業に従事する現業職員に対し,日額
500円。
エ休日出勤特別手当
週休日及び国民の祝日に関する法律に規定する休日に第一事務所に勤
務する職員(管理職手当の支給を受ける職員を除く)に対し,日額50
00円。
オ区域外作業手当
第一事務所に勤務し廃棄物収集作業に従事する現業職員で,担当区域
外の作業に従事した者に対し,日額3500円(ただし,木曜に及び金
曜日にあっては3000円)。
カ大型ごみ収集手当
第一事務所に勤務し,廃棄物収集作業に従事する現業職員で,大型ご
み収集作業をした者に対して,勤務1回につき1500円。
⑶手当の支給状況
ア区域外作業手当については,日額3500円を超える支給が行われた。
イ大型ごみ収集手当については,勤務1回につき3000円ないし450
0円が支給されていた。
⑷監査請求
原告らは,平成17年11月25日,市監査委員らに対し,地方自治法2
42条1項に基づく監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行い,市
監査委員は平成16年11月分から平成17年3月分までの特殊勤務手当の
支出について,本件監査請求を棄却する旨の決定をし,その旨原告らに通知
した。
3争点
⑴特殊勤務手当の違法性(争点⑴)
ア区域外作業手当及び大型ごみ収集手当の違法性
イ特殊勤務手当規則の違法性
⑵相手方らの行為の違法性(争点⑵)
4争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴(特殊勤務手当の違法性)について
ア区域外作業手当及び大型ごみ収集手当の違法性について
(原告らの主張)
区域外作業手当は,特殊勤務手当規則において日額3500円と定めら
れているにもかかわらず,実際の運用上は独自の回数制で算定され,同規
則において定められた額を超える手当が支給されており,その超えた部分
の支出(平成16年11月から平成17年3月分までの額は325万85
00円)は違法である。大型ごみ収集手当についても,特殊勤務手当規則
においては勤務1回について1500円と定められているにもかかわらず,
実際には勤務1回について3000円ないし4500円が支給されている。
また,大型ごみ収集手当は,大型ごみ収集の依頼を受け付ける電話受付業
務や,大型ごみの収集場所を地図で確認し,収集経路を選定して書き入れ
るなどの地図確認作業についても支給されているが,これらが特殊勤務手
当の支給対象となる「著しく危険,不快,不健康又は困難な勤務その他著
しく特殊な勤務」(一般職の職員の給与に関する法律13条1項)に該当
しないことは明らかであり,この部分についても特殊勤務手当規則に反す
る支出である。したがって,同規則で定める額を超えた部分の大型ごみ収
集手当の支出(平成16年11月から平成17年3月までの額は737万
7000円)は違法である。
被告は,特殊勤務手当規則を超える部分については,市と従業員労組と
の間で締結した労働協約に基づく支給であるから適法であると主張するが,
労働協約は書面で作成され,かつ両当事者により署名又は記名押印されな
ければならず(労働組合法14条),この要件が満たされない限り,仮に,
労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとして
も,これに労働協約としての規範的効力を付与することはできない(最高
裁判所平成13年3月13日第三小法廷判決参照)。本件において,上記
手当の支給に関する労働協約は,明文化されたものがない,いわゆる紳士
協定であったというのであるから,労働協約としての効力はなく,特殊勤
務手当規則を超える部分の支出を正当化できるものではない。
(被告の主張)
区域外作業手当及び大型ごみ収集手当は,いずれもそれぞれの収集にお
ける標準作業量を定め,それに基づいて算出している。ごみ収集作業は,
その性質上その日のうちに現状の現業作業員数で回収を行わなければなら
ないところ,ごみ収集の作業量の増加や年次休暇等による欠員の発生によ
り,現業職員が標準作業量を超える作業回数を消化しなければならないの
が実情であり,これは現業職員にとって相当な困難や疲労を伴うものであ
って,区域外作業や大型ごみ収集作業は,特にその困難性や過酷性が顕著
である。このために設けられたのが区域外作業手当及び大型ごみ収集手当
であって,これらの手当は標準作業量を超える作業に対する能率給として
の手当であり,標準作業量を基準とする支給には合理性がある。
また,大型ごみ収集手当について,一定の電話受付業務や地図確認作業
にもこの手当を支給していたことは認めるが,これらの作業は平成7年度
に大型ごみ収集がステーション方式から電話リクエスト方式に変更された
ことに伴って,大型ごみ収集という一連の作業における重要かつ不可欠な
業務の一環として加わったものであり,職員の作業量や作業時間は増加し
たのに,職員の増員などが行われず,現業職員の相互協力と応援によって
これに対処することになった。これらの経緯と業務間の不可分性を踏まえ
て,市と従業員労組との労働協約によって,一定の範囲の電話受付業務と
地図確認作業についても大型ごみ収集手当を支給するとしたものであり,
この手当の支給にも違法性はない。
第一事務所に勤務し,廃棄物収集作業に従事する現業職員は,地方公務
員法57条の「単純な労務に雇用される者」にあたり,地方公営企業等の
労働関係に関する法律(以下「地公労法」という。)により,その労働関
係については地方公営企業法37条ないし39条が適用されるところ,同
法38条1項及び4項は給与条例主義を定めているが,地公労法7条は現
業職員が賃金その他の給与について団体交渉の対象とし,これに関して労
働協約を締結することができる旨定め,同法9条は労働協約が地方公共団
体の機関の定める各種規則その他の規程に優先して適用されることを定め
ている。
区域外作業手当及び大型ごみ収集手当については,昭和59年4月の特
殊勤務手当改正後に,奈良市と従業員労組との間で締結された労働協約に
基づいて支給されていたのであるから,適法である。なお,当該労働協約
については書面は作成されていないが,原告らの引用する最高裁判決は本
件とは事案を異にするので,上記判例が存在するからといって直ちに無効
になるものではない。また,仮に労働協約が書面化されていないために効
力を有しないとしても,区域外作業手当及び大型ごみ収集手当の支給が永
年の慣行に従ったものであることに照らすと,特殊勤務手当規則に定める
部分を超えた支給が直ちに違法であるということはできないし,慣行に効
力が認められないとしても,そのような慣行の存在があった以上,支給担
当職員に損害賠償責任を負担させるべき違法性はない。
イ特殊勤務手当規則の違法性
(原告らの主張)
特殊勤務手当規則は,本件条例に基づいて市長が制定したものであるか
ら,その内容については本件条例の趣旨に即したものでなければならない。
特殊勤務手当とは,著しく危険,不快,不健康又は困難な勤務その他著し
く特殊な勤務で,給与上特別の考慮を必要とし,その特殊性を給料で考慮
することが適当でないと認められるものに従事する職員に対して支給され
るものと解すべきであり,特殊勤務手当規則において特殊勤務手当として
規定されたものであっても,給付の趣旨,方法,金額等に照らして本来の
特殊勤務手当が予定する内容性質に反する給付は,違法な給付であると解
すべきである。
上記の観点からみると,特殊勤務手当規則に定められている特殊勤務手
当のうち,皆勤精励手当,出勤奨励手当及び休日出勤特別手当は,実質上
特殊勤務手当にあたらないので,その支給は違法である。すなわち,次の
とおりである。
皆勤精励手当
上記の特殊勤務手当の意義に照らせば,特殊勤務手当は,本来対象と
なる業務に従事した場合ごとに支給されるべきものであるから,原則と
して日額又は当該職務に従事した件数当たりの額で支給すべきものであ
るのに,皆勤精励手当は月額支給であるから,この原則に反する。
また,皆勤精励手当は,特殊勤務手当が支給される対象の具体的な職
務との関連性が希薄であり,有給休暇が職員の権利として認められてい
るにもかかわらず,それを取得しなかったために支給される手当という
のは著しく合理性に欠ける。
したがって,特殊勤務手当規則のうち,皆勤精励手当を定めた部分は
違法であり,上記規則に基づいて支給された同手当の支出(平成16年
11月から平成17年3月までの金額は598万6000円)は違法で
ある。
出勤奨励手当
第一事務所に勤務し,廃棄物収集作業に従事する現業職員に対しては,
廃棄物収集作業手当が支給されるのであるから,さらに出勤奨励手当を
支給するのは特殊勤務手当の二重支給にあたり,特殊勤務手当規則のう
ち,出勤奨励手当を定めた部分は違法であって,これに基づく同手当の
支出(平成16年11月から平成17年3月までの金額は876万78
00円)も違法である。
休日出勤特別手当
休日出勤特別手当は,著しく危険,不快,不健康又は困難な勤務その
他著しく特殊な勤務について支給されるのではなく,環境清美部等の一
部職員が休日に出勤すれば支給されるというものであるから,特殊勤務
手当の本来の趣旨を大きく逸脱した,著しく不合理な給付といわざるを
得ない。
また,市職員には条例に基づいて休日勤務手当が支給されているため,
環境清美部等の職員に限って休日勤務特別手当を上乗せして支給する根
拠はなく,不公平である。
したがって,休日出勤特別手当についても,特殊勤務手当規則の規定
は違法であって,これに基づく支出(平成16年11月から平成17年
3月までの違法な支出の金額は527万3000円)も違法である。
(被告の主張)
特殊勤務手当規則が本件条例に基づいて制定され,本件条例に定める趣
旨を逸脱したものであってはならないことは認めるが,その適法性及び妥
当性を判断するにあたっては①各職種間の給与格差の是正の必要,②市に
おけるごみ収集作業の実情,③特殊勤務手当の支給額,④規則制定以前の
取扱いの是正などの奈良市の実情も考慮すべきであって,これらを考慮す
れば,特殊勤務手当規則は,条例に定める特殊勤務手当の趣旨や奈良市の
実情に即した適法かつ妥当なものであったというべきである。
個別の手当についても,以下のとおり適法性が認められる。
皆勤精励手当
現業職員のごみ収集作業という作業内容の特殊性,不快性や,作業に
伴う有形無形の負担を給料に反映させることが難しいことから,ごみ収
集作業に対しては特殊勤務手当支給の必要性があるところ,皆勤精励手
当を支給することによって,現業職員の欠員により他の現業職員が区域
外作業を行うことによる区域外作業手当の支給を抑制できるという副次
的効果も考慮すれば,皆勤精励手当に関する規則やその支給は,条例に
定める特殊勤務手当の趣旨を逸脱しておらず,適法かつ妥当である。
出勤奨励手当
現業職員のごみ収集作業に対する特殊勤務手当支給の必要性はにお
いて述べたとおりであり,さらに,出勤奨励手当の支給により,各作業
員の休暇の消化率を減らし,各現業職員の負担の軽減あるいは均一化と
いう効果も期待されていたことからすると,出勤奨励手当に関する規則
やその支給は条例に定める特殊勤務手当の趣旨を逸脱したものではなく,
適法かつ妥当である。
休日出勤特別手当
環境清美部の職員については,元日を除き,平日が休日であっても常
に出勤を求められるという特殊性があるために休日出勤特別手当が支給
されていたのであり,これに関する規則や支給は,条例に定める特殊勤
務手当の趣旨を逸脱したものではなく,適法かつ妥当である。
なお,市においては本件条例18条に基づいて休日勤務手当が支給さ
れているが,これは休日に臨時に出勤した職員に対するものであって,
休日出勤特別手当とは支給の趣旨を異にするので,二重支給にはあたら
ない。
⑵争点⑵(相手方らの行為の違法性)について
(原告らの主張)
ア市長ら
市長は,市における執行機関の最高責任者であるから,支出負担行為を
含む行政の適法性については,高い見識に基づいて注意し,適法性が認め
られない行為については,執行を停止するよう指揮監督する義務を負う。
d元市長は,奈良市の包括外部監査人であるf公認会計士により平成1
4年度の奈良市包括外部監査報告書(以下「本件外部監査報告書」とい
う。)が提出された平成15年3月26日当時の奈良市長であり,本件外
部監査報告書において,区域外作業手当及び大型ごみ収集手当の適法性に
ついて疑義が提起され,皆勤精励手当,出勤奨励手当,休日出勤特別手当
についても支給根拠に乏しいとの指摘がされており,それぞれの手当ごと
にその理由も記載されていて,支給に合理性のないことが容易に認識でき,
いずれの手当についても違法性を認識できたにもかかわらず,注意義務を
怠ってその違法性を認識せず,適切な指導監督を行わなかった。その結果,
違法な手当の支給が継続し,本件で特殊勤務手当の支給に至ったのであり,
d元市長の義務違反行為と市の損害の間には因果関係がある。
e前市長は,平成16年9月28日に市長に就任し,上記指揮監督の義
務を負っていたところ,同人は,就任後まもなくc元人事課長から本件外
部監査報告書の内容及び特殊勤務手当の問題点について報告を受けたにも
かかわらず,適切な指揮監督を行わず,速やかな規則の改廃等を行わなか
った過失がある。
イ従業員労組
労働組合が擁護することが許される労働者の利益は適法なものである必
要があり,労働者の不適法な利益を不適法なまま維持しようとすることは
許されず,ことさらこれを維持しようと能動的積極的に働きかける場合に
は,不法行為を構成する可能性がある。
本件において,従業員労組は,本件外部監査報告書が提出され,その内
容に即して市当局が交渉を行うようになった平成15年4月の段階では,
イで述べた特殊勤務手当支給の違法性を認識しうる状態であったにもか
かわらず,特殊勤務手当の改廃に積極的に反対を続けてきたのであり,本
件で違法な手当の支給が問題となる平成16年11月の時点では,従業員
労組について過失が認められ,不法行為が成立するというべきである。
ウ出納室長
b元出納室長は,市収入役代理者奈良市事務吏員として支出負担行為が
法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為が確定している
ことを審査,確認する権限を有しまたその義務を負っており,本件特殊勤
務手当の支給に関する支出の決定についても法令又は予算に違反していな
いことを確認する義務を負っていた。本件外部監査報告書の提出により,
本件特殊勤務手当の支給の適法性について疑義が提起されていたのである
から,わずかな注意を用いればその違法性を認識することができたにもか
かわらずこれを怠り,結果として市が損害を被ったのであり,b元出納室
長には重過失が認められる。よって,同人は地方自治法243条の2第1
項2号後段の「確認」を行う権限を有する職員として市に対して賠償責任
を負う。
エ人事課長
c元人事課長は,平成15年4月1日の人事課長就任当時に既に本件外
部監査報告書において本件特殊勤務手当の適法性に疑義が提起されていた
ことを知っており,また,労働協約が書面化されていないことも知ってい
た。これらの事情の元では,同人には本件特殊勤務手当の適法性を検討し,
また労働協約の効力及び労働協約と規則との関係を再検討する必要があっ
たにもかかわらず,同人は労働協約についてはほとんど何らの検討を行わ
ないまま盲目的に適法であるとの結論を出して本件特殊勤務手当の支給を
行い,また特殊勤務手当規則については適法性を前提に従業員労組と交渉
したために,本件特殊勤務手当の支給に至ったのであり,同人には本件特
殊勤務手当の支給について重過失が認められるから,地方自治法243条
の2第1項1号の行為を行う権限を有する職員として損害賠償責任を負う。
オ第一事務所長
a元所長は,第一事務所の最高責任者として,違法な手当が支給されな
いように手当の計算をさせる義務を負っていたのであり,本件外部監査報
告書によって,本件特殊勤務手当の違法性を認識し得たにもかかわらず,
過失によってその認識を欠いたまま違法な手当を含んだ手当の計算を放置
し,その結果,違法な手当の支給がなされ,市が損害を被ったのであるか
ら,同人はその損害を賠償する責任を負う。
(被告の主張)
ア前市長ら
本件で問題となっているのは,平成16年11月から平成17年3月分
までの特殊勤務手当の支給の違法性であるところ,d元市長の市長在任期
間は平成16年9月27日までであるから,同人は,本件特殊勤務手当の
支給には何ら関与していないのであり,その余の点につき反論するまでも
なく,同人が市に対して損害賠償義務を負ういわれはない。
e前市長については,本件外部監査報告書において,本件特殊勤務手当
の廃止ないし是正が指摘されてはいたが,あくまでも指摘にとどまるもの
であり,法的拘束力を持つものではないこと,また,本件特殊勤務手当は
いずれも適法な支給であり,同人には違法な手当の支給であるとの認識は
なく,その点において故意も過失もないのであるから,同人にはc元人事
課長に対して本件特殊勤務手当の支給を阻止すべき指揮監督上の義務はな
い。さらに,e前市長は,市長就任後に本件外部監査報告書の内容に即し
た指示や協議等をしており,包括外部監査の結果を漫然と放置したもので
はなく,この点からも同人が損害賠償責任を負ういわれはない。
イ従業員労組について
従業員労組が本件特殊勤務手当支給の継続を要求したことが財務会計上
の行為に該当しないことは明らかであるから,同労働組合が損害賠償責任
を負ういわれはない。労働組合は,組合員の経済的地位向上を図るため,
適法性が確保される範囲内において最大限の要求を行い,同目的にかかわ
る規則や運用について意見を主張するのは当然のことであって,本件にお
いても,従業員労組は本件特殊勤務手当の支給という組合員の経済的地位
に関わる事柄に関して,特殊勤務手当規則及び労働協約に基づく適法な支
給を求め,あるいは本件特殊勤務手当に関する規則及び運用の改廃につい
て意見を主張したのであるから,従業員労組の当該行為に違法性はなく,
不法行為を構成することはない。このことは,本件外部監査報告書の内容
によって左右されるものではないことは上記において述べたとおりである。
ウ出納室長
b元出納室長は,収入役職務代理者として,本件特殊勤務手当について
の支出負担行為が法令又は予算に違反していないことを確認する権限及び
支出権限を有していた。
本件外部監査報告書においては,本件特殊勤務手当の廃止ないし是正が
指摘されてはいたが,それは法的拘束力を持つものではなく,同手当につ
いては特殊勤務手当規則又は労働協約に基づく適正なものであったこと,
市においては特殊勤務手当のより適切な支給について検討中であったこと
から,b元出納室長は,本件特殊勤務手当の支出負担行為が法令又は予算
に違反しているとの認識及び支出が違法であるとの認識はなく,かつ,そ
の点において故意又は重過失がなく,その支払も不当とはいえないから,
同人が損害賠償責任を負ういわれはない。
エ人事課長
c元人事課長は,本件特殊勤務手当に関して支出負担行為及び支出命令
の権限を有する者である。本件外部監査報告書において本件特殊勤務手当
の廃止ないし是正が指摘されてはいたが,それは法的拘束力を持つもので
はなく,同手当については特殊勤務手当規則又は労働協約に基づく適正な
ものであったこと,市においては特殊勤務手当のより適切な支給について
検討中であったことから,c元人事課長についても,本件特殊勤務手当の
支出負担行為が法令又は予算に違反しているとの認識及び支出が違法であ
るとの認識はなく,かつ,その点において故意又は重過失はなく,その支
払も不当とはいえないから,同人が損害賠償責任を負ういわれはない。
オ第一事務所長
a元所長は,地方自治法243条の2第1項後段に掲げる権限を有する
者ではなく,また,同人が人事課長に対して特殊勤務手当を請求した行為
は財務会計上の行為に該当するものではないから,同人が損害賠償責任を
負ういわれはない。
第3当裁判所の判断
1上記争いのない事実,証拠(甲1,5ないし7,9,11ないし21,
A
25,B1,2,4,5,乙1ないし4,7,8,13ないし20(枝番のあ
るものは枝番を含む),証人c,同e,同g,同h,同a)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
⑴特殊勤務手当規則の制定の経緯,内容
第一事務所勤務の現業職員に対しては,昭和59年以前は,報償費という
名目で一定額の現金が支給されていたが,同年ころ,報償費を廃止するとと
もに,特殊勤務手当を支給することとなり,同年4月に特殊勤務手当規則が
改正され,第一事務所の現業職員に対しても特殊勤務手当が支給されるよう
になった。
平成16年11月の時点で,特殊勤務手当規則において,第一事務所の現
業職員に対して支給されるとされていた特殊勤務手当は以下のとおりである。
ア廃棄物収集作業手当日額540円
イ年末年始勤務手当日額1万1100円
ウ皆勤精励手当
1月における年次休暇等の日数が
1日以内月額1万円
1日を超え2日以内月額8000円
2日を超え3日以内月額5000円
3日を超え4日以内月額3000円
エ出勤奨励手当日額500円
オ区域外作業手当日額3500円
カ休日出勤特別手当日額5000円
キ大型ごみ収集手当勤務1回につき1500円
⑵特殊勤務手当の給付状況
ア区域外作業手当について
ごみ収集にあたっては,運転手1人,作業員2人の合計3人が1組とな
って,決められた地区(1校区)を担当し,労使交渉を経て1日当たりの
収集量を定め,これを処理するための作業量が標準作業量とされた。年次
休暇等により欠員が生じた場合には,運転手1人,作業員1人の2人が1
組となって収集にあたることとなり,1校区の標準作業量の半分が標準作
業量とされる一方,排出されたごみはその日のうちに収集しなければなら
ないため,残りの半分を収集した現業職員に対して区域外作業手当が支給
されていた。
手当の額は,ごみ排出量の多い月曜日から水曜日までは標準作業量を3
500円×3人=1万0500円として,その半分(5250円)を,2
人で収集した場合には1人2625円,3人で収集した場合には1人17
50円が支給された。木曜日,金曜日については標準作業量を3000円
×3人=9000円とし,半分(4500円)を2人で収集した場合には
1人2520円,3人で収集した場合には1人1500円が支給された。
これに加えて,毎週水曜日と第3週目の木曜日,金曜日については,市
全域が収集区域となり,標準作業量の倍の収集作業が基本となるとして,
毎週水曜日については全員に対して1人3500円,第3週目の木・金曜
日については全員に対して1人3000円が区域外作業手当として支給さ
れていた。
平成16年11月から平成17年3月までの間に支出された区域外作業
手当の額は325万8500円であった。
イ大型ごみ収集手当について
大型ごみ収集手当についても,標準作業量が3000円×3人=900
0円(毎週水曜日と第3週目の木,金曜日は4500円×3人=1万35
00円)と計算され,年次休暇等で欠員が出た場合には区域外作業手当と
同様の計算方法による手当が支給されていた。
また,大型ごみ収集の電話受付業務及び収集経路選定業務についても大
型ごみ収集手当の対象とされ,1日当たり3000円が支給されていた。
これは,平成7年度から,大型ごみの収集方式がステーション方式(予め
年間を通じて定められた時期,回数,場所を市民に通知した上,集中して
収集する方式)から電話リクエスト方式(市民から電話で収集の依頼を受
けて収集に行く方式)に変更されたことに伴い,電話受付業務や収集経路
選定の業務が新たに発生した一方,職員の増員等の措置がとられなかった
ことから,従業員労組と市当局の協議の結果,これらの作業についても大
型ごみ収集手当の対象とすることとされたものである。
平成16年11月から平成17年3月までの間に支給された大型ごみ収
集手当の額は737万7000円であった。
ウ区域外作業手当,大型ごみ収集手当の適法性に関する職員の認識
上記ア,イの手当の支給基準について,本件特殊勤務手当の支給当時,
市の人事課長であったc元人事課長は,上記各手当が特殊勤務手当規則の
基準を超える支出であり,労働協約は労働法上書面化される必要があるこ
とを認識しており,本件外部監査報告書の内容についても認識していたが,
労働組合との協約によって適法であると理解していた。また,本件特殊勤
務手当の支給当時の市長であったe前市長は,市長就任後間もなくc元人
事課長から本件外部監査報告書で指摘された問題について報告を受け,問
題を認識していたが,労働協約に基づく適法なものと考えて,c元人事課
長に対して支給の停止や見直しを指示することはなかった。
なお,これらの手当の請求に際しては,第一事務所内部では事務処理上
のメモとして作成された(ただし,その作成時期,作成者等については明
らかではない。)「特殊勤務手当運用資料」が参照され,これを参考とし
て特殊勤務手当の支給が請求された。
エその他の特殊勤務手当について
平成16年11月から平成17年3月までの間,特殊勤務手当規則にし
たがって,皆勤精励手当については合計598万6000円,出勤奨励手
当については876万7800円,休日出勤特別手当については527万
3000円が第一事務所の各職員に支払われた。
⑶規則改正の経緯及び改正後の特殊勤務手当の給付状況
ア本件外部監査報告書提出以前の経緯
平成13年10月,奈良市行財政改善推進委員会の中に,環境清美事業
専門部会が設置され,特殊勤務手当の見直しについて検討し,同年12月
には専門部会としてのまとめを作成した。このまとめにおいては,特殊勤
務手当は「著しく危険,不快,不健康又は困難な勤務,著しく特殊な勤務
のみ支給できる」ことから,適正な手当として支給できるよう是正を行う
とされ,具体的には,年末年始勤務手当を日額7900円に引き下げるこ
と,皆勤精励手当,区域外作業手当,休日出勤特別手当及び大型ごみ収集
手当は廃止すること,出勤奨励手当については,日額540円である廃棄
物収集作業手当を引き上げるのと連動して廃止することが改善案として示
された。市の当局はこの専門部会のまとめにおいて示された方針の下,平
成14年6月から従業員労組との間で特殊勤務手当の見直しについて協議
を行った。
イ本件外部監査報告書による指摘
平成15年3月26日,本件外部監査報告書が発表された。同報告書は,
特殊勤務手当について「規定が形骸化しているものや実態との不整合によ
りその運用が歪められているものがある」として,具体的には以下のとお
りの問題点を指摘した上,「早期に是正され,適正・明確な運用を図られ
たい」とした。
区域外作業手当
担当区域内外に拘わらず,収集作業員の休業等により通常に満たない
人数で収集を行った場合や,回収地域が広範となる水曜日,第3週の木,
金曜日に収集を行った場合に区域外作業手当が支給されているが,これ
らの事由による区域外作業手当の支給は,特殊勤務手当規則附則第2項
に定める適用範囲を拡大して解釈していると判断される。作業量増加に
対しては別途適当な手当を定めるべきである。
また,区域外作業手当は同項により日額3500円(ただし,木曜日
と金曜日にあっては3000円)と定められているにも拘わらず,調整
した日額を基に作業回数に応じた支給を行っており,規定額の約3倍の
手当額が支払われている事例があった。
大型ごみ収集手当
大型ごみ収集手当の適用範囲は「大型ごみ収集の作業をしたもの」と
されているが,実際には収集業務に付随する電話受付業務,収集経路作
成業務に携わった職員に対しても支給されていた。また,特殊勤務手当
規則上は,手当の金額について「勤務1回につき」と規定しているが,
上記業務について収集作業の概ね2倍の時間を要するものとして2回分
の手当が支給されていた。これら業務に関する「大型ごみ収集手当」の
支給については,特殊勤務手当規則に定める適用範囲を明らかに拡大し
て解釈している。
出勤奨励手当及び皆勤精励手当
出勤奨励手当については,別に「清掃勤務手当」「廃棄物収集作業手
当」など勤務に基づいて支給される手当があり,それらの手当に上乗せ
して出勤奨励手当を支給する根拠は乏しい。皆勤精励手当については,
環境清美部の職員のみに支給される積極的理由もなく,有給休暇の趣旨
からしても,その休暇を取らなかったために支給される手当というのは
合理性に欠ける。出勤奨励手当及び皆勤精励手当については廃止を検討
すべきである。
休日出勤特別手当
国民の祝日に関する法律の定める休日等及び年末年始の休日等の勤務
については,本件条例18条に休日勤務手当の定めがあり,上乗せして
手当を支給する根拠は乏しく,他職員との公平にも配慮し,休日出勤特
別手当の廃止を検討することが望ましい。
年末年始勤務手当
年末年始勤務手当の日額については,特殊勤務手当規則附則第2項に
より,環境清美部などの一部の職員はその他の職員よりも高額になって
いるが,同手当の日額を職種により区分する根拠は乏しく,一本化する
ことが望ましい。他市の状況を調査したところ,他部門との間に差はな
く,また手当の額も漸減している。
ウ本件外部監査報告書の指摘に対する対応
平成15年10月28日,d元市長は,地方自治法252条の38第6
項に基づき,市監査委員宛に「包括外部監査の結果に対する措置状況につ
いて(通知)」と題する文書により,本件外部監査報告書を受けての措置
状況を通知した。この中で,特殊勤務手当のうち,区域外作業手当につい
ては規則の拡大解釈による現行の支給を改めるとともに,作業量の増加に
応じた適正な手当を定めることを従業員労組と協議中であること,休日出
勤特別手当,出勤奨励手当,皆勤精励手当については,いずれも支給根拠
に乏しいため廃止を従業員労組と協議中であること,年末年始勤務手当に
ついては日額7900円に一本化することを従業員労組と協議中であるこ
と,大型ごみ収集手当については,規則の適用範囲を拡大解釈して支給さ
れているため,廃止することを従業員労組と協議中であることがそれぞれ
報告された。
エ総務省の調査結果
平成16年12月27日,総務省自治行政局公務員部給与能率推進室は
「特殊勤務手当実態調査の結果について」と題する文書により都道府県及
び政令指定都市における特殊勤務手当の実態調査結果を発表した。その中
では,年末年始勤務手当については,他の手当で措置される勤務内容と重
複する内容の関係で検討を要するとされたほか,特殊勤務手当は本来対象
となる業務に従事した場合ごとに支給されるべきであるから,原則として
日額又は件数当たりの額で支給することが適当であるとの指摘がされた。
オ規則改正後の特殊勤務手当の支給状況
平成18年3月31日付で本件条例及び特殊勤務手当規則が改正され,
皆勤精励手当,出勤奨励手当及び休日出勤特別手当は廃止され,年末年始
勤務手当はその額が他の部局と統一された。
また,区域外作業手当については過重作業手当として,作業内容及び曜
日毎に手当の金額が特殊勤務手当規則において細かく定められ,大型ごみ
収集手当については大型ごみ業務手当及び動物死体収集作業手当と改めら
れた。
2争点について
⑴区域外作業手当及び大型ごみ収集手当の違法性について
上記1において認定したとおり,区域外作業手当及び大型ごみ収集手当に
ついては,特殊勤務手当規則とは異なる基準によって,同規則の定める額を
超える額が支給されていた。これについて,被告は労働協約に基づいて支給
したものであるから適法である旨主張し,証人c,同e,同g,同hらはこ
れに沿う証言をする。
しかし,同人らの証言によっても,その労働協約なるものは書面化されて
おらず,これが締結されたとされる時期も明らかでない。労働協約は,書面
に作成し,両当事者が署名し,又は記名押印することによってその効力を生
ずるとされており(労働組合法14条),したがって,書面に作成され,か
つ,両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り,仮に,労働組合と使
用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても,これによっ
て直ちに規則等に抵触する支出を適法化する効力があるものということはで
きない。しかも,地公労法7条は賃金その他の給与については団体交渉の対
象とし,これに関して労働協約を締結することができる旨定めているが,他
方で,同法9条は,当該地方公共団体の長その他の地方公共団体の機関の定
める規則その他の規程(以下「規則等」という。)に抵触する内容を有する
協定が締結された場合には,地方公共団体の長その他の機関は,速やかに,
その協定が規則等に抵触しなくなるために必要な規則等の改正又は廃止のた
めの措置をとらなければならない旨定めている。これは,労働協約が規則等
に優先して適用されるべきではあるが,規則等が自治法規としての性質を持
つことにかんがみ,労働協約に従った労働条件を有効に機能させるためには,
労働協約に合わせた形で規則等を改廃する必要がある旨定めたものであって,
そのような改廃がされるまでは労働協約は効力を生じないものとする趣旨と
解すべきであるが,本件においては,平成16年11月から平成17年3月
までの時点において,被告の主張する労働協約に整合するような規則等の改
廃がされていなかったことは前記認定のとおりであるから,この意味におい
ても,市が行った支出が適法なものということはできない。
なお,被告は,仮に労働協約の効力が認められないとしても,これらの手
当は永年の慣行により支給されていたものであって適法であるとか,仮に慣
行による適法性が認められないとしても,慣行の存在を考慮すれば,当該職
員に損害賠償を認めるだけの違法性はないとも主張する。
しかし,上記のとおり,規則等に抵触する労働協約は,規則等の改廃によ
りこれとの整合性を保つ形とされて初めて効力を認められていると解される
ことからすれば,慣行により手当の支給に適法性が認められる余地はないと
解すべきであるから,この点についての被告の主張には理由がない。
したがって,平成16年11月から同17年3月の間にされた区域外作業
手当及び大型ごみ収集手当の支給は,いずれも規則に基づかないものとして,
違法というべきである。
⑵特殊勤務手当規則の違法性について
ア皆勤精励手当について
皆勤精励手当の趣旨について,被告は,職務の困難性,不快性が存在す
るため,出勤を促すために支給したもので適法であると主張する。
しかし,被告は,皆勤精励手当とは別個に,廃棄物収集作業に従事する
第一事務所勤務の現業職員全員に対して廃棄物収集作業手当として日額5
40円を支給しているところ,被告が皆勤精励手当支給の根拠として主張
する職務の困難性,不快性なるものは,廃棄物収集作業全般に共通する特
殊性とみるほかなく,そのような職務全般の特殊性を根拠とする手当とし
てまさに廃棄物収集作業手当が設けられているのであるから,これに重ね
て皆勤精励手当を支給する合理的根拠はない。また,有給休暇が職員の権
利として認められているにもかかわらず,その権利を行使しないことに対
して手当を支給するというのは著しく合理性を欠く。
したがって,皆勤精励手当は,特殊勤務手当の趣旨に沿う手当とはいえ
ず,特殊勤務手当規則のうち,皆勤精励手当を定めた部分は違法であり,
これに基づき平成16年11月から同17年3月までの間にされた同手当
の支給は違法というべきである。
イ出勤奨励手当について
出勤奨励手当については,勤務の日数に応じて日額で支給されるもので
あるが,第一事務所に勤務する現業職員に対しては,廃棄物収集作業手当
が支給されており,皆勤精励手当と同様に,出勤奨励手当を重ねて支給す
る合理性は認められない。したがって,出勤奨励手当も特殊勤務手当の趣
旨に沿う手当ではなく,特殊勤務手当規則のうち,出勤奨励手当を定めた
部分は違法であり,これに基づき平成16年11月から同17年3月まで
の間にされた同手当の支給は違法というべきである。
ウ休日出勤特別手当について
休日出勤特別手当については,休日であっても平日と同様の勤務体制の
中で勤務をするという特殊性が存在するという趣旨で支給されていたと認
められ,その支給につき特殊勤務手当の趣旨に反するところはないという
べきである。原告は,休日勤務手当との二重支給が違法であるとも主張す
るが,休日勤務手当は休日に出勤した職員に対して支給されるという趣旨
であって,休日出勤特別手当が平日と同様の勤務を求められるという特殊
性に着目していることにかんがみれば,両手当はその趣旨を異にするとい
えるから,休日出勤特別手当の支給は合理性を欠くとまではいえず,違法
とはいえない。
したがって,休日出勤特別手当を定めた部分の特殊勤務手当規則には違
法性はないというべきである。
3争点2について
⑴相手方の範囲について
地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,当該訴訟に
おいて適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的
に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどし
て上記権限を有するに至った者を広く意味すると解すべきである(最高裁判
所昭和62年4月10日第二小法廷判決・民集41巻3号239頁参照)。
また,補助職員に権限を委任した地方公共団体の長についても,当該財務会
計行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上「当該職
員」に該当するものと解すべきである(最高裁判所平成5年2月16日第三
小法廷判決・民集47巻3号1687頁参照)。
本件においては,市長の職にあったd元市長,e前市長,地方自治法17
0条2項6号により支出負担行為に関する確認を行うこととされる会計管理
者にあたる収入役の職務代理者であったb元出納室長及び市事務専決規程に
より定例の諸給与その他の給付に関する支出負担行為の決定について専決権
限を有する人事課長であったc元人事課長は,「当該職員」にあたると解さ
れる。
これに対し,従業員労組は「当該職員」にあたらないというべきである。
本件で問題となっている「当該行為」(財務会計上の行為)は,特殊勤務手
当の支出であるところ,従業員労組は,当該行為を行う権限を有する者にも,
当該行為の相手方にもあたらないことは明らかだからである。当該職員にあ
たらない者に対する損害賠償請求をするよう求める訴えは,地方自治法に定
める訴えの形式に該当しないものであって不適法である(前記最高裁判所昭
和62年4月10日第二小法廷判決)。したがって,本件訴えのうち,従業
員労組に対する損害賠償請求を求める部分については不適法といわざるを得
ない。
また,a元所長は,本件特殊勤務手当の支出に関する権限を有していたと
は認められないから(乙13),「当該職員」には該当しない。したがって,
本件訴えのうち,同人に対する損害賠償請求を求める部分についても不適法
である。
b元出納室長及びc元人事課長について
前記認定のとおり,区域外作業手当及び大型ごみ収集手当については,規
則に定められた基準に従った支給がなされておらず,実際の支給の基準及び
額については,一応の基準が存在していたものの,労働協約として書面化さ
れてはおらず,規則の改正も行われていなかった。b元出納室長及びc元人
事課長は,平成16年11月から平成17年3月までの間,いずれもこの事
実について認識していながら,上記各手当を支出したものである。
このように,区域外作業手当及び大型ごみ収集手当については,実際に支
給されている手当の額及び支給基準が特殊勤務手当規則と異なっており,労
働協約の存在も明確には確認できず,労働協約につき労働組合法14条で書
面化及び労使の記名押印が必要とされていること,また,地公労法9条にお
いて,労使の合意が規則と抵触する場合には速やかに規則を改正すべきこと
を定めていること,人事課長及び出納室長は,上記の関連法規について知悉
していて然るべきであったことにかんがみれば,当該状況下で,区域外作業
手当及び大型ごみ収集手当を支給することが違法であることは明白であった
というべきであり,その違法性を看過したc元人事課長及びb元出納室長に
は重過失があるといわざるを得ない。被告は,区域外作業手当及び大型ごみ
収集手当の支給に関する部分について,c元人事課長及びb元出納室長に対
して賠償命令を発するべきである。その金額については,同人らの権限関係
等の事情を考慮すれば,平成16年11月から平成17年3月までの間に支
給された上記各手当の合計額1063万5500円の2分の1ずつ(531
万7750円)とするのが相当である。
これに対して,皆勤精励手当及び出勤奨励手当については,上記2⑵ア,
イに判示のとおり,特殊勤務手当規則自体が違法であるというべきであるが,
支出自体は特殊勤務手当規則に従って行われていたものである。そして,規
則自体の内容の合理性については,ある程度の期間にわたって議論をするこ
ともやむを得なかったものであり,したがって,特殊勤務手当規則に基づか
ない支給の場合と異なり,違法性が明白であるとまでいうことはできない。
また,上記1⑶ア,イに認定のとおり,特殊勤務手当についての見直し協議
も行われていたのであるから,その間に一応適法なものと考えて上記各手当
の支出を行ったことについては,b元出納室長及びc元人事課長に故意又は
重過失があったとはいえないというべきである。したがって,皆勤精励手当
及び出勤奨励手当の支出に関する部分について,同人らに賠償命令が発せら
れるべきとはいえず,この点に関する原告の主張には理由がない。
d元市長及びe前市長の責任について
市長は,権限を委任し又は専決させた職員について,違法な財務会計上の
行為を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務を負っていると解され(前記
最高裁判所平成5年2月16日第三小法廷判決,最高裁判所平成3年12月
20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁参照),市長が上記指揮
監督上の義務に違反し,故意又は過失により同職員が財務会計上の違法行為
をすることを阻止しなかったときは,自らも財務会計上の違法行為を行った
ものとして,市が被った損害についての賠償責任を負うと解すべきである。
本件において,d元市長は,遅くとも平成15年3月26日に本件外部監
査報告書が提出された時点で,本件特殊勤務手当の適法性について問題があ
るということを知り得たものと認められる。しかし,同人は,その後本件外
部監査報告書において問題点を指摘された手当について,その適正化や廃止
に向けた従業員労組との協議を実施し,同年10月28日には監査委員に対
して措置状況を通知するなどしていたものであり,また,同人は平成16年
9月27日をもって市長の地位から離れているところ,本件特殊勤務手当の
支給がされたのは,平成16年11月から同17年3月までの間である。こ
れらのことからすると,d元市長が上記指揮監督上の義務に違反し,故意又
は過失によりb元出納室長及びc元人事課長が財務会計上の違法行為をする
ことを阻止しなかったということはできない。
また,e前市長は,本件特殊勤務手当の支給停止を指示したことはなかっ
たものの,同人は平成16年9月28日の市長就任当初から本件外部監査報
告書の内容につき報告を受けて特殊勤務手当の問題点を認識しており,就任
後は特殊勤務手当の廃止に向けて,従業員労組と協議するようc元人事課長
等に指示し,また自らも団体交渉に出席するなどしていたのであり,以上の
事実に,本件特殊勤務手当が同人の就任の約2ヶ月後ないし5ヶ月後に支給
されたものであることもあわせて考慮すれば,同人が権限を委任し又は専決
させた職員に対する指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により同職員
が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったとまでいうことはでき
ない。
したがって,同人らについて,指揮監督上の義務を怠ったことにより市に
損害を与えたとは認められないから,同人らに対する損害賠償請求の請求に
ついては理由がない。
4以上のとおりであるから,原告らの訴えのうち,被告に対して従業員労組及
びa元所長に対する損害賠償請求を求める訴えは不適法であるから却下し,c
元人事課長及びb元出納室長に対してそれぞれ金531万7750円の賠償命
令の発令を求める請求は理由があるから認容し,その余の請求は理由がないか
ら棄却することとして,主文のとおり判決する。
奈良地方裁判所民事部
裁判長裁判官坂倉充信
裁判官齋藤憲次
裁判官皆川更

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