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平成22年1月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
()(「」。)平成20年行ケ第10335号審決取消請求事件以下A事件という
()(「」。)平成20年行ケ第10349号審決取消請求事件以下B事件という
口頭弁論終結日平成21年10月21日
判決
A事件原告有限会社エン企画
同訴訟代理人弁護士野口明男
同三好豊
同飯塚卓也
B事件原告株式会社ペンタくん
同訴訟代理人弁護士長谷川純
同訴訟復代理人弁護士井筒大介
同訴訟代理人弁理士鹿股俊雄
両事件被告株式会社パスコ
両事件被告株式会社昭文社デジタルソリューション
(審決上の表示「日本コンピュータグラフィック株式会社)」
上記2名訴訟代理人弁護士上谷清
同永井紀昭
同仁田陸郎
同萩尾保繁
同笹本摂
同山口健司
同薄葉健司
同石神恒太郎
同訴訟代理人弁理士水谷好男
主文
1A事件原告及びB事件原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,A事件について生じた費用はA事件原告の,B事件について生
じた費用はB事件原告の,各負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−80175号事件について平成20年8月19日にした
審決のうち,特許第2770097号の請求項に係る発明についての特許を無効と
するとの部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,A事件原告有限会社エン企画(以下「原告エン企画」という)が以前。
有しており,現在はB事件原告株式会社ペンタくん(以下「原告ペンタくん」とい
う)が有する「地図データ作成方法及びその装置」という名称の特許(以下「本。
件特許」という)につき,両事件被告株式会社パスコ及び同株式会社昭文社デジ。
タルソリューション(なお,当時は「日本コンピュータグラフィック株式会社」で
あったが,平成20年10月1日,商号を現商号に変更した)が無効審判を請求。
したところ,特許庁は,請求不成立の審決をしたので,被告らは,同審決の取消し
,,,を求めて知的財産高等裁判所に訴訟を提起し同裁判所が同審決を取り消した後
特許庁では,本件特許を無効とする旨の審決をしたため,原告らがその取消しを求
めた事案である。
本件での主たる争点は,本件特許に係る発明が「ARC/INFOUsersGuide,Ver.5,
Vol.1,Vol.2」と題する書面(甲2。審判請求の際に提出されたのは上記標題の文
書の一部であるが,以下,上記標題の文書全体を指す)に記載された発明(以下。
「引用発明」又は「甲2発明」という)から容易に想到することができたか否か。
である。
なお,被告らは,両事件(弁論併合済み)で乙号証を提出しているところ,B事
件において乙23ないし25が欠番であることを除き,証拠番号は共通である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告エン企画は,発明の名称を「地図データ作成方法及びその装置」とする
特許第2770097号(平成4年3月5日出願〔特願平4−48706号。優〕
先権主張平成3年6月24日。平成10年4月17日設定登録)の本件特許の特。
許権者であったが,その後,これを原告ペンタくんに譲渡した。
(2)被告らは,平成18年9月6日,原告ペンタくんを被請求人として,本件特
許を無効とする審判請求をし,原告エン企画が被請求人のために参加した。
(3)特許庁は,上記審判請求を無効2006−80175号事件として審理した
上で,平成19年4月17日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決(以,。
下「前審決」という)をし,その謄本は,同月26日,被告らに送達された。。
(4)被告らは知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起し同庁平成19年行,((
ケ)第10185号事件,同裁判所は,平成20年3月25日,上記審決を取り)
消す旨の判決(以下「前判決」という)をした。。
(5)再度の審判において,原告ペンタくんは,同年4月11日,訂正請求をした
(同年5月30日付け訂正請求書参照)ところ,特許庁は,同年8月19日,同訂
正を認めた上で,本件特許を無効とする審決をし,同審決の謄本は,同月29日,
原告らに送達された。
2本件特許に係る発明の内容
(1)本件特許に係る発明は,平成20年5月30日付け訂正請求書により訂正さ
れた明細書(丙40。以下「本件訂正明細書」という)の特許請求の範囲の請求。
項1,請求項2に記載された次のとおりのものであり(下線部の「自動的に」が挿
入された,同明細書によれば,地域や地点ごとに属性を付与された地図情報を自。)
動的に作成する地図データ作成装置に関するものである。
【請求項1】
「地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作
成した後,該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動
的に変換し,それらの二次元線データを座標上の線分に変換し,該線分を所定方向
に接続し,終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域デ
ータを自動的に作成し,終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面デ
ータを自動的に作成して,該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示
し,該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成する
ことにより該面データに対応する閉領域データを作成し,上記各閉領域データに属
性データを付与可能にして該閉領域データを記憶,表示又は印刷する地図データ作
成方法(以下「本件特許発明1」という)。」。
【請求項2】
「地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作
成するベクトルデータ作成手段と,該ベクトルデータ作成手段により出力されるベ
クトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換する二
次元線データ作成手段と,該二次元線データ作成手段により出力される二次元線デ
ータを座標上の線分に変換する線分作成手段と,該線分作成手段により出力される
線分を所定方向に接続し,終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面デ
ータの閉領域データを自動的に作成し,終点が始点と一致しないときはそれらの線
分からなる面データを自動的に作成する面データ作成手段と,該面データ作成手段
が作成した面データの不連続となる前記始点及び終点を報知表示する不連続点報知
表示手段と,該不連続点報知表示手段による報知表示に基づいて前記始点及び終点
から任意の点又は線へ接続する線データを生成すべく該接続線データを入力する入
力装置と,該入力装置による入力に基づいて前記不連続となる始点及び終点を有す
る面データに対応する閉領域データを作成し,上記各閉領域データに属性データを
付与可能にして該閉領域データを記憶,表示又は印刷する記憶表示印刷手段と,を
有することを特徴とする地図データ作成装置(以下「本件特許発明2」といい,。」
本件特許発明1と併せて「本件特許発明」という)。
(2)本件特許発明1は次のように分説される(以下,分説された各構成要件を単
に「構成要件1A」などという。。)
1A地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデー
タを作成した後,
1B該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動
的に変換し,
1Cそれらの二次元線データを座標上の線分に変換し,
1D該線分を所定方向に接続し,終点が始点と一致したときはそれらの線分
からなる面データの閉領域データを自動的に作成し,終点が始点と一致し
ないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成して,
1E該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示し,
1F該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生
成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し,
1G上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記
憶,表示又は印刷する
1H地図データ作成方法。
3審決の内容
審決は,次のとおり,引用発明から本件特許発明を想到することは容易であった
として,本件特許発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができ
ないとした。
(1)本件特許発明1の内容(同発明の内容は,平成20年5月30日付け訂正請
求書による訂正後のものであり,訂正前の発明とは,構成要件1Bの「自動的に」
の部分が異なる)について。
「前判決では,同年5月30日付け訂正前の本件特許発明1の要旨につき認定しており,本
件特許発明1は,その認定により解釈されるべきものであって,同認定の要旨は以下のとおり
である」。
ア構成要件1A(地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータから「
ベクトルデータを作成した後)について」
「本件特許発明1の技術分野において『ラスターデータ』は1つ1つの画素の集合で表現,
されるデータなどと説明され『ベクトルデータ』は位置と形状がXY座標で表現されたデー,
タなどと説明される一般的な用語であると求められ(判決注:正しくは「認められ」と解され
る,本件特許発明1においても,そのような普通の意味のものとして使用されていると認め。)
ることができる」。
イ構成要件1B(該ベクトルデータを先端を示す点データを含む二次元の線「
データに変換し)について」
「二次元の線データ』は,構成要件1Aの『ベクトルデータ』から,その後の処理に仕様『
判決注:正しくは使用と解されるするために変換されたデータについてこれをベ(「」。),『
クトルデータ』とは区別する意味で『二次元の線データ』といっているものと理解すること,
ができる」。
ウ構成要件1C(それらの二次元線データを座標上の線分に変換し)につ「,」
いて
「構成要件1Cの『二次元線データを座標上の線分に変換』とは,二次元の線データについ
て,途中に接点や交点を持たない線分ととする工程であると一応理解することができる」。
「特許請求の範囲に記載された『座標上の線分に変換』とは線分に変換した後の,,・・・
,『』,『』線分に変換するのとは別の工程として記載されている線分の始点等の性質を決定記録
することなどが,構成要件1Cの『二次元線データを座標上の線分に変換』という工程に直ち
に含まれるものであるとは認められない」。
エ構成要件1Dの前半(該線分を所定方向に接続し,終点が始点と一致した「
ときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し)につい,」

構成要件1Dの前半は所定との意味が定まっていること定まってあること広「,『』,『。。』(
辞苑第6版)という普通の用語であり構成要件1Cの『座標上の線分』について,あ,・・・
らかじめ定められた一定の接続方向に接続していって,その終点と始点が一致したときは,そ
れらの線分の組み合わせについて,面データの閉領域として,これを自動的に作成することを
規定していると認められる。
そして,ここでいう『線分からなる面データ』とは,構成要件1Dの後半で,始点と終点が
一致しないときにも『線分からなるデータ』が作成されることからも,線分を所定方向に接,
続することによって構成される一本以上の線分の組み合わせをいうものと解することができ
る」。
オ構成要件1Dの後半(終点が始点と一致しないときはそれらの線分からな「
る面データを自動的に作成し)について,」
「構成要件1Dの後半は『座標上の線分』について,あらかじめ定められた一定の接続方,
向に接続していって,その始点と終点が一致しないとき,それらの線分の組合せについても,
面データとして,これを自動的に作成するものであると理解することができる。
なお,ここでは,データの『作成』をすることが規定されているのであり,構成要件が規定
するのはデータの『作成』であり『記憶』等ではない」,。
カ構成要件1E(該面データの前記不連続となる始点および終点を報知表示「
し)について,」
「本件特許発明1は『座標上の線分』をあらかじめ定められた一定の接続方向に接続して,
いって,その始点と終点が一致しないときでも,それらの線分の組合せを面データとして作成
するのであるが,構成要件1Eは,そのような線分の組合せにおいて,不連続となる始点と終
点について,知らせるための表示を行うものであると認められる。
構成要件1Eの『不連続となる始点および終点』についてどのような点を・・・・・・,
『不連続となる始点及び終点』とするかが,必ずしも一義的かつ明確に決まるものではない。
しかし不連続となる始点および終点』は,点データから出る線データが一本のみで,『・・・
ある孤立点と一致するものと一応認められる」。
キ構成要件1F(該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力「
に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し)に,」
ついて
「構成要件1Fの『該不連続点』とは,構成要件1D,1Eなどに照らしても,所定方向に
,『』『』接続していった線分の組合せにおいて始点と終点が一致しないときのそれら始点終点
をいい,報知表示されている点であって,構成要件1Fは,それらの点について,任意の点,
又は線に接続する線データを入力して,これを生成し,これについて,その線分の組合せであ
る閉領域データを作成することを規定しているものと解釈できる。
ここで,構成要件1Eと同様,この工程は,線分の『所定方向の接続』を規定する構成要件
1Dとは別個の工程であり,線データの入力について,線分の『所定方向の接続』と同様の工
程を経ることが規定されているものではない」。
ク構成要件1G(上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉デ「
ータを記憶,表示又は印刷する)について。」
「これは,構成要件1D前半において自動的に作成された閉領域データおよび構成要件1F
,,において作成された閉領域データについて属性データを付与することが可能になるようにし
閉領域データについて,記憶,表示,印刷することを規定しているものと解される。
属性データを不要(判決注:正しくは「付与」と解される)可能にする方法が,上・・・。
記実施例のように,番号を自動的に一括して順次付与することなどによりされるものに限定さ
れるものとは認められない」。
(2)引用発明の内容
ア甲2の記載内容について
「甲2号証には,以下の事項が記載されている」。
「TherearesevenstepsusedforcoverageautomationinARC/INFO.(ア)
1Preparethemapsheetfordigitizing.
2Digitizethecoverage.
3Identifyandcorrectdigitizingerrors.
4Definefeaturesandbuildtopology.
5Identifyandcorrecttopologyerror.
6Assignattributestocoveragefeatures.
(10−2頁18∼24行)7Identifyandcorrectattributecodingerrors.」
(日本語訳)
「ARC/INFOにおけるカバレッジの自動化は7つのステップからなります。
1.デジタイジングのためのマップシートを用意します。
2.カバレッジをデジタイザー入力します。
3.デジタイジングエラーを発見して訂正します。
4.フィーチャーを定義し,トポロジーを生成します。
5.トポロジーエラーを発見して訂正します。
6.カバレッジフィーチャーに属性を付与します。
7.属性コーディングミスを発見して訂正します」。
「Graphicsterminalsareusedformapdisplayandinteractivecoordinateentry(イ)
usingthescreen'scursor.Cursormovementcanbecontrolledbyajoydisk,thumbwheels,
orarrowkeysontheterminalkeyboard;orviaamouseorgraphicstabletwhichis
(1−17頁16行∼20行)connecteddirectlytothegraphicsterminal.」
(日本語訳)
「グラフィック端末は,地図を表示したり,画面のカーソルを使用して対話式で座標を入力
するために使用します。カーソルの動きは,端末キーボード上のジョイディスク,サムホイー
ル,矢印キーによって制御します。グラフィック端末に直接,接続しているグラフィックスタ
ブレット又はマウスによって制御することもできます」。
「Scanning.Performedbyadevicewhichscansamanualmapandcreatesaseriesof(ウ)
rastervalues(ON/OFF)whicharesubsequentlyturnedintoaseriesoflinearcoordinates
(referredtoasraster-to-vectorconversion).ARC/INFOacceptssuchlinearcoordinates
(4−6頁14行∼18行)asinputasthoughthecoordinatescamefromadigitizer.」
(日本語訳)
「スキャニング(走査)地図をスキャニングして,ラスター値(ON/OFF)を一連の座
標に変換する(ラスターベクトル変換)装置によって実行されます。ARC/INFOはその
ような座標を,デジタイザーで入力された座標と同じように取り扱います」。
Apolygonisdefinedbythenumberofarcsandalistofthosearcswhichcomprise(エ)「
itsborder.Polygon2intheexamplebelowhasfourarcswhichdefineit,includingthe
islandinsideofit.A'0'isincludedinthelistofarcstodenotethatarcsdefining
islandswillbelistednext.Thedirectionofanarcdeterminesthesignofthearcnumber
inthelist.A'-'signmeansthatthearcwouldhavetobereversedtobuildaclosedloop
(5−7頁14行∼20行)forthepolygon.」
(日本語訳)
「ポリゴンは,その境界線を形成するアークの番号と,アークのリストによって定義されま
す。下の例のポリゴン2は,ポリゴン内の島を含めて,ポリゴンを定義する4本のアークをも
ちます。次に,島を適する(判決注:正しくは「定義するアークが」と解される)あげられ。
,””。,るということを示すためにアークのリストの中の0が含まれていますアークの向きが
リストの中のアーク番号につく記号を決められます。すなわち”−”という記号は,閉じた,
ポリゴングループを作るには,そのアークが逆向きにならなければならないことを意味してい
ます」。
「以上より,甲2号証には『地図を表示するグラフィック端末を有しており,地図をイ,
スキャニングして,ラスター値を一連の座標に変換(ラスターベクトル変換)し,フィーチャ
ーを定義してトポロジーを生成し,トポロジーエラーを発見して訂正し,カバレッジフィーチ
ャーに属性を付与することを特徴とするカバレッジの自動化』の発明が記載されている」。。
(3)引用発明と本件特許発明1の一致点及び相違点
ア一致点
「地形図等の原図を読み取って得られたラスターデータからベクトルデータを作成した後,
ベクトルデータから,フィーチャーを定義してトポロジーを生成し,トポロジーエラーを発見
して訂正することを特徴とする地図データの作成方法」。
イ相違点1
「本件特許発明1が『ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに”自
動的に”変換し,それらの二次元線データを座標上の線分に変換』して面データの作成処理に
供するのに対し,甲2号証記載の発明は,ラスター値を一連の座標に変換する(ラスターベク
トル変換)して得られたデータ,すなわちベクトルデータをフィーチャーを定義しトポロジー
を生成する処理に供するものであるが,このベクトルデータを二次元の線データに変換して,
二次元の線データを座標上の線分に変換し,この座標上の線分からフィーチャーを定義してト
ポロジーを生成する構成を有していない点」。
ウ相違点2
「『,本件特許発明1が各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶
表示又は印刷する』のに対し,甲2号証記載の発明が,地図を表示するグラフィック端末を有
しており『カバレッジフィーチャーに属性を付与する』点」,。
エ相違点3
「本件特許発明1が『線分を所定方向に接続し,終点が始点と一致したときはそれらの線分
からなる面データの閉領域データを自動的に作成し,終点が始点と一致しないときはそれらの
線分からなる面データを自動的に作成して,該面データの前記不連続となる始点及び終点を報
知表示し,該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成すること
により該面データに対応する閉領域データを作成』する構成を有するのに対し,甲2号証記載
の発明は,フィーチャーを定義してトポロジーを生成し,トポロジーエラーを発見して訂正す
るものであるが,その具体的な処理について甲2号証には記載されていない点」。
(4)容易想到性について
ア相違点1について
「甲2号証記載の発明は,ラスター値を一連の座標に変換する(ラスターベクトル変換)し
て得られたデータ,すなわちベクトルデータを,フィーチャーを定義する処理に供するもので
ある。
,,ここでベクトルデータが線分や一連の折れ線についてのデータを有することは周知であり
ベクトルデータからベクトルデータに含まれる各線分を得ることや,ベクトルデータに含まれ
る一連の折れ線を分割して線分を得ることも,図形処理の分野において普通に行われる程度の
ことである。
さらに,線分や一連の折れ線を定義する際に,線端を示す点データを用いることは,図形処
理の分野において技術常識である。
,,,また地図作製分野において図形データは全て二次元座標上で定義されるものであるから
折れ線データを『二次元の線データ,線分を『座標上の線分』と表現することは,格別困難』
なことではない。
そして,線端を示す点データを含む二次元の線データへの変換に際し『自動的に』変換す,
るか否かは適宜決定すべきものである。一般に,データの変換は,個別に格別の必要がなけれ
ばその過程でキー入力を必要とするものではなく,通常は自動的に行われるものである。甲2
号証記載の発明も,明記はされていないが『自動的』であると推察することが自然である。,
仮に甲第2号証に記載の発明が自動的に変換が行われるものでないとしても,例えば甲第39
号証に示されているように,変換を自動的に行うことは周知であって,そのような変換を自動
的に変換することは設計的事項にすぎない。
なお,フィーチャーの定義を,ベクトルデータから直接行うか,線分データから行うかは,
当業者が適宜選択する事項にすぎない。
よって,甲2号証記載の発明において,ベクトルデータからフィーチャーを定義を行うため
に,ベクトルデータから一連の折れ線を抽出して,線端を示す点データを含む二次元の線デー
タに自動的に変換し,この二次元の線データを座標上の線分に変換し,座標上の線分をフィー
チャー,すなわち図形要素の定義に供するよう構成することは当業者が容易になし得たことで
ある」。
イ相違点2について
「地図データを構成する図形要素について,属性を付与すること,図形要素のデータを記憶
すること,印刷することは普通に行われる程度のことであり,また,図形要素として閉領域デ
ータがあることは広く知られていることであるから,甲2号証記載の発明において,閉領域デ
ータに属性データを付与可能にし,記憶,表示,印刷するよう構成することは,当業者が容易
になし得たことである」。
ウ相違点3について
「本件特許発明1において『不連続となる始点及び終点』は,点データから出る線データ,
が一本のみである孤立点と一致するものと一応認められる。不連続となる始点及び終点の表示
に当たり,線分を所定方向に接続することによって,不連続点を求めることが規定されている
ものではない(判決第61(11)における判示)。。
また,フィーチャーとは,図形要素を要素種の名称とパラメータにより表現したものであっ
て,例えば円弧,線分といった図形要素の要素種の名称と,図形要素の定義に必要な座標や長
,(,,,),(,さなどのパラメータを組合せて円弧中心座標半径開始角度終了角度線分始点
終点)のような形式で表現されるものであり,トポロジーは,図形構成要素の位相関係,すな
わち図形要素どうしの接続関係を意味するものであるから,甲2号証に記載の発明は,地図を
スキャンニングして,ラスター値をベクトル変換し,線分(フィーチャー)を定義して図形の
接続関係(トポロジー)を生成するものにおいて,接続関係(フィーチャー)のエラーを発見
して訂正するものである。
そして,図形編集において,閉じているべき図形が閉じていなかった際に,閉じた図形とな
るよう編集する課題は,一般的にあるといえる。
また,複数の線分からなる図形について,閉じているべき図形が閉じていないとは,閉じて
いない箇所は,その点データから出る線データが一本のみである孤立点に他ならない。
してみれば,線分を定義して図形の接続関係を生成するものにおいて,接続関係が生成され
た図形を構成する線分群に『不連続となる始点及び終点』が存在する場合に,これをエラーと
して,その対処(例えば修正)を促すための表示をすることは,甲2号証に基づいて当業者が
容易に想到することができたものである。
なお,そもそも線分の集合から閉じている領域(閉領域)を抽出する場合に,線分を所定の
方向に順次追っていくことは極めて普通の手法である。
例えば,甲7−9号証に記載されているように,複数の線分からなる図形について,線分を
隣接関係に基づいて右回り等の所定の向きで追跡し,閉ループを構成する線分群を求めること
は,図形処理の分野において周知のことである。
したがって,線分の集合から閉領域を抽出する場合に,線分を所定の方向に順次追っていく
ことは,設計的事項にすぎないことである。
そして,これらを相違点を総合的に考慮しても,相違点は個々に独立した違いであって,複
数の相違点1∼3によって格別顕著な効果を生ずるものではないから,本件特許発明1は,甲
2号証に記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので
ある」。
(5)本件特許発明2について
「本件特許発明2は,本件特許発明1とカテゴリーを異とするものであるが,その構成要件
については本件特許発明1と異なるものではない。したがって,本件特許発明2の甲2号証に
記載の発明との対比,判断は,上記本件特許発明1と同様の対比,判断となる」。
第3原告ら主張の要旨
1原告エン企画の主張する取消事由
(1)取消事由1(本件特許発明1の「二次元の線データ」及び「座標上の線分」
等の認定の誤り)
ア本件特許発明の目的は,座標点列にすぎないベクトルデータのみから,点デ
ータ及び線データからなるトポロジー構造(点,線,面の3種類のベクタ型データ
の基本図形を,ノード,アーク,ポリゴンの関係で表すデータ形式)を有する面デ
ータを自動的に作成することを可能にすることにあるところ「二次元線データ」,
は,それを分割して接続することによってアーク・ノード構造を有する面データを
作成できるものでなければならない。そして,本件特許発明の提供する工程により
「二次元の線データ」を分割・接続することによってトポロジー構造を有する面デ
ータが作成されるためには,元データとなる「二次元の線データ」もトポロジー構
造を有するものであることを要する(以上の点は,明細書や添付図面の記載からも
明らかである。。)
また,前判決も「二次元の線データ」の典型が,実施例のLファイルからDフ,
ァイルへの変換工程を経た線データであることを前提としながらも,誤った定義を
与えて無用な限定解釈が生じることを回避するために「二次元の線データ』は,,『
構成要件1Aの『ベクトルデータ』から,その後の処理に使用するために変換され
たデータについて,これを『ベクトルデータ』とは区別する意味で『二次元の線,
データ』といっているものと理解することができる」との表現を用いたにすぎない
ものと解される。
,,「」「」以上のとおり構成要件1B1Cの二次元の線データ及び座標上の線分
は,いずれも,線端点に配置される点データと関係付けられ,線相互の接続によっ
て面としての認識が可能な線データであるところ,審決は「二次元の線データ」,
及び「座標上の線分」がトポロジー構造を有する面データを作成する機能を持った
データであることを看過し,単なるベクトルデータと同じものとしか捉えないとい
う点で,本件特許発明1の要旨認定を完全に誤った違法があり,この誤りに起因し
て,前判決で認定された相違点の理解についても誤った違法がある。
イ前判決は,あくまでも,前審決が相違点3についての判断を行う前提として
の発明の要旨認定に当たり,構成要件1Eの理解を誤ったことを理由として前審決
を取り消したものであり,前判決における構成要件1E以外の構成要件についての
要旨認定については,法的な拘束力は及ばない。したがって,裁判所が,本訴にお
いて,改めて厳密な解釈を行うことも許されるはずである。
もっとも,審決の「二次元の線データ」への理解は,前判決が判示した広めの構
成要件解釈によった場合ですら誤っている(単なるベクトルデータをもって「そ,
の後の処理に使用するために「ベクトルデータから」変換されたものとはいえな」
い)から,いずれにせよ,審決の取消しは免れない。。
(2)取消事由2(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)
ア仮に,審決が本件特許発明1の構成要件1B及び1Cの意味内容を正しく理
解しており,取消事由1が存在しないと想定した場合にも,審決の認定判断は,相
違点1の容易想到性判断において,誤っている。
イラスターデータから取得した「ベクトルデータ」は,そのままでは線分接続
によるトポロジー構造を有する「面データ」の作成に供することができないからこ
そ,これを「二次元の線データ」及び「座標上の線分」に変換することにより,そ
のような構造を有する面データ作成に供することができるようにしたのが本件特許
発明1である。
そして,本件特許発明1の構成要件1B,1C及び1Dは,それぞれが単独で技
術的な意義を有するものではなく,一連のものとして共通の目的のもとに一体的に
用いられることによって初めて,本件特許発明1の課題解決の中核的手段として技
(「」,「」「」,術的な意義ベクトルデータが二次元の線データ座標上の線分を経て
最終的に「面データ」へと変換されることにより「トポロジー構造を有する面デ,
ータ」が自動的に作成されること)を生じる。したがって,個々の構成がそれぞれ
に公知ないし容易想到であることではなく,一連の処理が全体として本件特許発明
1の課題解決目的のもとで単一の公知文献に開示されているなど,全体として容易
(,,想到であることが示されなければならない各構成要件は本件特許発明1の目的
すなわち,ラスターデータから取得したベクトルデータから点データと線データを
有するトポロジー構造の面データを自動的に作成するという共通の目的を達成する
ための一連の構成要件として規定されているものであり,構成要件1B,1C,1
Dの各構成要件は,いずれも単独では本件特許発明1の解決課題との関係では意味
をなさない。。)
しかし,実際には,構成要件1Bないし1Dが全体として容易想到であると認め
るに足る公知文献は一切示されておらず,個々の構成要件が容易想到であることの
みを論じる被告らの主張は失当である。
ウ(ア)甲2には,抽象的な記載があるのみで,ラスターベクトル変換によって取
得したデータからフィーチャーを定義してトポロジーを生成するための具体的処理
についての技術の開示は全くなく,ラスターベクトル変換によって取得した座標デ
ータを「自動的に」読み込むという記載やそのためのコマンド等の記載もない。
そして,本件特許出願当時のARC/INFOでは,ラスターベクトル変換によって得
られたデータをそのままトポロジー生成に供することはできず,トポロジーを生成
するためには,各座標にノードやバーテックス(中間点)等を設けるためのキー値
を手作業で入力することが必要であった(すなわち,ARC/INFOにおいては,アー
クの入力に当たり,入力する座標点の一つ一つに,ノードを設けるか否かを示すデ
ータであるキー値(ノードを置くべき場所に「2,中間点に「1)を入力しなけ」」
ればならないという基本的な技術思想による制約がある。。)
このように,ノード(点データ)を配置すべき座標を人間の判断で入力する技術
しか開示されていない文献である甲2は,複数アークの分岐点に置かれてアーク相
互の接続情報を記録するノードのようなトポロジー情報は人間の判断で入力すべき
であるという技術思想の枠から出ておらず,このような甲2から,線データのベク
トルデータのみからトポロジー構造を有する面データを自動的に作成するという本
件特許発明1のコアともいうべき構成要件1B,1Cに係る構成を容易に想到でき
るはずはない。
また,審決は「甲2発明における面データ作成のためのデータ変換処理は『自,
動的』であると推察することが自然である」旨認定したが,これは誤りであり,前
判決の認定にすら反するものである。
(イ)甲2記載の引用発明において,本件特許発明1の構成要件1Aに対応する箇
所では,ラスターベクトル変換は「地図をスキャニングして「一連の座標」に変」
換するものであり,キー値やノードの手入力を含むものではない。
引用発明において,キー値及びアークの入力は,ラスターベクトル変換を行った
後(構成要件1Aに相当する構成の後,フィーチャーを定義する前(構成要件1)
Dに相当する構成の前)に行う必要があるから,位置付けるとすれば,構成要件1
B及び1Cの容易想到性の判断の前提事実としてである。
そして,ARC/INFOにおいては,キー値「2」を入力することによって,現実に
線分の接続関係が記録される点データであるノードが生成されるから,キー値の入
力が構成要件1Aに関する事情であるなどということはあり得ない。
(ウ)ARC/INFOにおいて,キー値情報を自動的に取得していたなどという証拠は
なく,それが可能であったならば,丙22(ARCEDITユーザーズガイド)のような
迂遠な座標入力方法など無用である。ARC/INFOにおける座標入力は,すべての方
式において「個々の座標点ごとに」キー値入力が行われており,キー値「2」の,
入力がコンピュータに対するノード作成の指示であることは明白である。
そして,ARC/INFOにおいては,少なくとも分岐点にはノードが置かれる必要が
あるという技術上の制約があり,それを守らないと,分岐点とキー値「2」が入力
された場所との間に二重アークが発生するという問題が生じる。このほか,仮に個
々の座標点に与えられるべきキー値を誤った場合には,ARC/INFOでは,複数のア
ークを構成する座標であっても,区別せずに順次読み込むため,本来ノードとして
アークの終点となるべき座標が中間点として取り扱われ,別個のアークとして入力
されるべき複数のアークが誤った中間点を経て一本のアークに連結してしまうな
ど,不正結合が生じるため,甲2の技術においては,ノードを生成すべき分岐点座
標を人が選択し,当該座標にキー値2を,それ以外の座標には中間点を示すキー値
1を,いずれも人間の判断によって与えるしかなかったものである。
(エ)本件特許の出願以前には,ラスターデータから取得した座標点列にすぎない
ベクトルデータからトポロジーを有する面データを得ることは不可能であり,その
ような面データを作成するにはトポロジーデータを手入力する必要があるとの固定
観念が存在しており(丙17,18には,デジタイザ入力において,トポロジーデ
ータであるノードの手入力が必要であると記載され,丙24,25には,オートデ
ジタイズ手法により得られたデータは面的な認識ができないと記載されており(な
お,丙24の「別版にして入力すれば可能である」旨の記載は,家形や道路などを
あらかじめ分離して別版にして入力することにより,各階層(レイヤ)が異なった
地目を表すものとして地図データを管理し,色分け表示ができるという意味にすぎ
ない,丙26論文には,被告株式会社パスコがスキャナーにより得たデータを。)
ARC/INFOに取り込む研究を行っている旨が記載され,丙19論文の記載からも,
ベクトルデータのみから面データを作成する本件特許発明1の効果が画期的なもの
であったことが明らかである。このほか,丙20にも,ノードが,単なるアークの
始点又は終点ではなく,複数のアークが接続する位置を示すトポロジーデータであ
ることが記載されている,甲2発明もそのような固定観念の枠内の技術にすぎな。)
いところ,本件特許発明は,かかる固定観念を覆し,ベクトルデータのみからトポ
ロジー構造を有する面データを自動的に作成することを可能にすることにより,従
来技術に比して地図データ作成にかかる労力を軽減して人件費及び作業時間の大幅
な削減を達成するという顕著な効果を有するものである。
(オ)確かに,本件特許発明1でも(オンスクリーン入力においては)ベクトル,
データ入力の際のレコードの始点終点の決定が必要となるが,人が分岐点を認識す
ることを必要とするARC/INFOにおけるキー値入力作業と,そのような制約がなく
データ入力の自由度の高い本件特許発明とでは,作業労力や作業効率,機械化が可
能となるレベルが全く異なるものである。なお,ARC/INFOにおいて生成されるア
ーク・ノード構造を有するアークデータは,単なるベクトルデータよりもはるかに
複雑で重い上,本件特許発明1に用いることができるオンスクリーン入力では,原
図のラスターデータをパソコンのスクリーンに表示し,それを背景にしてベクトル
データを取得し,入力ミスも入力作業と並行してリアルタイムに,スクリーン上で
簡単にチェックできるものであり,これは従来のデジタイズ入力におけるチェック
作業に比べてはるかに容易である。
エ(ア)個々的にみても,甲4記載の抽象的なアルゴリズムは本件特許発明1の構
成とは全く異なり,甲4では「ベクトルデータ」を「二次元の線データ」に変換,
する構成要件1Bに相当する構成は開示されていない(そもそも甲4に記載された
データ変換は,属性も付与され既にいったん完成された面のデータを対象としたも
ので,本件特許発明1とは全く異なる。。)
また,甲9記載の「二次ベクトルデータ」には独立の点データ部が存在せず,本
件特許発明1の「二次元の線データ」に相当するものではなく,同技術は,単に,
座標の連続からなる閉ループとしての面データを作成する技術を開示するところ,
これはアーク・ノード構造を有する面データではなく,本件特許発明とは全く別の
技術である。
さらに,甲2記載のDXFARCコマンドは,構成要件1Bの「ベクトルデータ」を
変換するものではなく本件特許出願当時のARC/INFOバージョン50のDXFARC((.)
,,,コマンドは当時のDXFデータにしか対応していないところ当時のDXFデータは
ラスターデータから取得することがおよそ不可能なデータが一般的に含まれてお
,,,りこのようなDXFデータは本件特許発明1の構成要件1Aによって得られる
ラスターデータから作成されるベクトルデータには該当しない,構成要件1Bを。)
開示するものではない。なお,ポリラインデータは,典型的な製図用CADデータ
であって,地図データ作成用ではなかったから,ポリラインデータのDXFデータ
がベクトルデータに当たるとしても,それをもって,ポリラインデータが本件特許
,。出願前に構成要件1Aのベクトルデータとして用いられていたことにはならない
(イ)乙11記載の技術は,単にベクトルデータを「途中に接点や交点を持たない
線分」に分解する処理にすぎず,構成要件1Cの「二次元の線データ」を「途中に
接点や交点を持たない線分」に分解する処理は開示されていない。
また,甲7記載の技術は,ノードを画素分析で抽出した上でノード間をつなぐア
ークを作成しようとする点で従来の技術思想の枠を出ておらず,ラスターデータか
ら構成要件1A,1B,1Cの工程を経ないまま座標上の線分を作成しようとする
ものであって,構成要件1B,1Cを開示するものではない。
このように,構成要件1Cに関し,ベクトルデータを「途中に接点や交点を持た
ない線分」に分割することは,甲7,9には一切開示されておらず,乙11につい
ても,分割処理の対象とされているのは線データとしてのベクトルデータであり,
本件特許発明のように,点データ部と線データ部が相互に関係づけられている構造
のデータに記録された二次元線データではない。
なお,甲2記載のCLEANコマンドでは,重なっていない二重アークの修正や,
他のノードや座標と補正可能範囲にないダングリングノードの削除,修正等はでき
ない。重なっている二重アークの問題の解決は,ファジー許容範囲の指定により行
うことになるが,丙44(ARC/INFOユーザーズガイドvol.2)によれば,ファジ
ー許容範囲の指定が大きくても小さくても,すべての不都合を解決し得るものでは
なく,CLEANコマンドを掛ける前に,予め可能な限り手作業で補正を行う必要があ
ったものである。
(ウ)甲39(User'sGuideARCSCANNERRev3.2)は,その公知性が証明されてい
ない上,ここでは,本件特許発明1の1Bや1Cの構成要件はもとより,どのよう
な技術思想によってラスターデータからARC/INFOのカバレッジ変換をなし得るの
か,その構成すら明らかにされていない。また,甲39に記載された技術は,ラス
ターデータの画素分析によってノードを配置するというもので,本件特許発明1の
ように,二次元の線データを座標点列に基づいて分割し,線の端点にノードを発生
させるというものではなく,仮に甲39の技術が公知技術であったとしても,これ
,,。によって本件特許発明1の構成要件1B1Cが容易に想到できるものではない
オなお,乙11に記載された発明は,線データから面データの作成を試みた技
術であるが,ここで用いられているデータは線同士の接続関係を把握できない線デ
ータであったため,周囲の線分とポリゴン境界をなす線分とを区別して,前者にカ
ウント値1を,後者にカウント値2を付加して,線分接続の際にこのカウント値を
減算することにより面認識を試みるなど,複雑な処理を要していたものであり,こ
のように,従来,単なる線データの集合をそのまま用いるだけでは面としての認識
が不可能であった。
しかし,本件特許発明1では,線データの端点に線データとは別に独立した点デ
ータを置くことにより,線データ同士の接続関係を把握できるようにし,さらに,
,。同接続関係から線分同士を接続して面データを作成できるようにしたものである
カ本件特許発明1は,主として構成要件1B,1Cを有することにより,以下
のような実用上の顕著な効果を有するものであり,同発明は,実際に,沖縄県警の
パトロールシステムの構築に利用され,莫大な費用削減効果を達成している。
①ラスターデータからの多様なベクトルデータ取得方法で取得されたベクトルデ
ータから面データを自動作成することができるようになり,入力工程の大幅な省力
化が達成された。
②ベクトルデータの取得に当たっては,オンスクリーン入力の場合も含め,必ず
しも分岐点からデータの取得を開始したり,分岐点でデータ入力を終了する必要が
ないため,データ入力の自由度が向上した。
③データ入力やデータ修正(特に本件特許発明の実施例2を参照)が軽い単純な
ベクトルデータ上で可能となったため,安価な汎用パソコンを用いて多数人による
分散作業を行うことが可能となり,データ入力・修正の時間及び費用が大幅に削減
された。
④面データの不連続点を修正する構成を用いることにより,③と相まって,分散
処理による簡単なデータ修正が可能となった。
キ以上のとおり,本件特許発明1の構成要件1Bや1Cを容易想到とする審決
の判断は誤りである。
(3)取消事由3(相違点1についての容易想到性の判断における理由不備)
本件特許発明1の構成要件1Bにおけるベクトルデータの二次元線データへの変
換工程や,構成要件1Cにおける座標上の線分への変換工程は,いずれも本件特許
発明1の中核的技術として,特許付与の基礎となった重要な構成であるから,証拠
に基づく具体的な認定事実の明示を要しないほどの周知技術であるとか,設計的事
項にすぎないとされるような事実であるはずがない。
そうであるにもかかわらず,審決は,証拠に基づく具体的な事実を何ら摘示する
ことなく,周知技術であるとか設計事項にすぎないなどという,検証不能な抽象的
な判断で安易に容易想到と判示したものである。
以上のとおり,審決は,理由付けの記載を欠く違法(特許法157条2項4号違
反)があり,取消しを免れない。
(4)取消事由4(相違点2についての容易想到性の判断において属性付与の段階
が異なることを看過した誤り)
ア本件特許発明1が,面データを完成させた後に各面データに識別子を振るな
どして属性付与を可能とするものであるのに対し,引用発明は,面データ作成前に
ラベルポイントを付与して属性を付与する(ラベルポイント入力と同時に,地域や
地点ごとに特定されたポリゴンユーザーIDを入力する)ものであり,このよう。
に属性付与可能にする段階が異なっている。
なお,本件特許発明1にいう「属性付与を可能とする」とは,閉領域に識別のた
めの番号等(識別子)を付することをいうものであって,PAT(ポリゴン属性テー
ブル)の作成時に属性付与可能となるとはいえない。また,本件特許発明1は,属
性付与可能とする段階を閉領域面データ完成後とすることにより,面データに線分
の切れ等のエラーが存在した場合に属性情報が面データ外に流出してしまうという
ラベルエラーの発生を防止し,当該エラーのチェックや修正という煩雑な作業をほ
とんど不要にしたものであり,この点は,地図データの作成を効率良く行うという
効果に大きく寄与している。
ところが,審決は,この点につき何ら判断をせず,相違点2は当業者が容易にな
し得たなどと認定しており,属性付与の段階の相違というファクターについての判
断を遺脱しており,誤りである。
イなお,被告らは,CREATELABELSコマンドの存在について審判請求の理由と
していないため,そもそも本訴において同コマンドにつき主張できない上,同コマ
ンドを用いてポリゴンユーザーIDを各ポリゴンに一括付与すると,その後に非常
に煩雑な作業が必要となるため,地図データという大量のデータにラベルポイント
を付する方法としては実用的ではない。同コマンドは,本来,ラベルポイント入力
完了後に,ミス等で入力が抜けている箇所に入力するために補完的に利用するもの
にすぎず,この点を根拠に,相違点2の構成の開示があるということはできない。
また,このように例外的なCREATELABELSコマンドは,前判決が参酌を許容する
技術文献等には該当せず,ARC/INFOという1つのソフトウェアの一部に同コマン
ドにつき記載があるからといって,属性番号を閉領域データの完成後に付与すると
いう技術が周知であったとはいえない。
ウ本件特許発明1では,ポリゴンとラスターデータとをスクリーン上で重ね合
わせ,画面を見ながら対応付けを行うことができるのであり,画面と原図との見比
べが必要であったARC/INFOよりも格段にデータ入力が容易になっている。
(5)取消事由5(手続上の違法)
ア最高裁判所昭和51年5月6日第1小法廷判決・裁判集民事117号459
頁や知的財産高等裁判所平成20年11月12日判決(平成19年(行ケ)第10
315号事件)を前提とすれば,審判請求書の補正の有無や要旨変更の有無にかか
わらず,審判の過程で訂正請求が認められるべき場合には,訂正請求が認められる
ことを前提として,無効原因の存否に関する攻撃防御方法についての修正補充の機
会を当事者双方に与えなければ違法と解されるとともに特許法134条2項の答,「
弁書を要しない特別の事情」とは,審判請求書の補正がされてもなお被請求人にお
いて攻撃防御方法についての修正補充を一般的に必要としない場合,すなわち,無
効審判請求が成り立たない場合に限られるというべきである。
しかるに,特許庁は,結果的に本件特許を無効としたにもかかわらず,原告ペン
,(,タくんからの訂正請求を受けて請求人たる被告らが審判請求書の補正同補正は
審判請求書には添付されていなかった甲39を援用したものであり,請求の理由の
要旨を変更するものであった)を行った際に,被請求人である原告ペンタくん及。
び参加人である原告エン企画に対し,特許法134条2項により保障されている答
弁・反論の機会を与えずに審決を行ったものであり,訂正請求を前提とした主張の
修正補充の機会は,原告らに対し全く与えられておらず,違法である。なお,請求
の要旨変更に該当するか否かは,審判請求の時点を基準として判断され,審判請求
後に特許を無効にする根拠となる事実を変更するものは,請求の理由の要旨変更に
該当する。
,,,イまた審決に際して当事者双方が要請していた口頭審理の開催のみならず
書面審理に付する場合は通常されるべき書面審理通知すらなく,審理終結通知が当
事者及び参加人に送付されたのみであった。原告エン企画が平成20年7月8日付
けで提出していた弁駁書記載の主張は,審決において主張として整理されてもいな
い。このように,審決取消しを内容とする前判決後に「さらに審理を行」った事実
,。,,もなく特許法181条5項に違反するなお前審決取消訴訟前の審判の審理は
平成20年8月5日付け審理終結通知によって既に終結しており,審決が取り消さ
れたからといって,終結した審理までが当然に再開するものではない。
ウそもそも特許法等における無効審判に関する手続規定は,行政機関である特
許庁が,国民が保有する重要財産である特許を無効にするという決定的に不利益な
処分を課すものであることにかんがみ,憲法上要求される適正手続(憲法31条)
の内容を手続法として具体化したものである。ところが,審決は,そのような特許
法等における手続的要請を無視して行われた。
エ以上のとおり,特許庁が行った審決は,特許法134条2項,181条5項
の明示の要請に反し,上記最高裁判例にも反し,ひいては憲法31条の要請である
適正手続にも違背するという重大な瑕疵を有するものであり,取消しを免れない。
2原告ペンタくんの主張する取消事由
(1)本件特許発明1と甲2発明との相違点について
ア構成要件1Bにおける「二次元の線データ」とは「点データと線データが,
互いに関係づけられた構成のデータ」であり,無限定のものではなく,少なくとも
線データ部と点データ部とを有するもので,後の閉領域データを取り扱うことが可
能なデータであると解すべきである。そして,前判決の「二次元の線データ」につ
いての認定は,判決の結論に影響を及ぼす判断理由ではないので,拘束力はないと
いうべきである。
ただし,仮に構成要件1Bの要旨についての認定が前判決どおりであるとしても
なお,甲2発明から本件特許発明1の構成要件1B,1Cが容易想到でないことは
後記(2)のとおりである。
イ審決は,本件特許発明1や甲2発明を正しく理解していないが,文言上は,
誤解が表現されていない。したがって,審決による一致点・相違点の認定自体には
誤りはないものの,審決が挙げる相違点は理解しにくい。そこで,原告ペンタくん
は,本件特許発明1と引用発明との相違点1,2につき,以下の①ないし④のとお
りであると解する(相違点1’ないし3’は審決の相違点1に相当し,相違点4’
は審決の相違点2に相当する。なお,審決が認定した相違点3については,進歩。)
性判断に当たって主要な相違点ではないので,争わない。
①相違点1’
本件特許発明1は「ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線デ,
ータに自動的に変換し,それらの二次元線データを座標上の線分に変換して」面デ
ータの作成処理に供するのに対し,引用発明は,このベクトルデータを二次元の線
データに変換する工程を有していない点
②相違点2’
本件特許発明1は,二次元の線データを座標上の線分に変換するのに対し,引用
発明はこの構成を有していない点
③相違点3’
本件特許発明1は,座標上の線分からフィーチャーを定義してトポロジーを生成
するのに対し,引用発明はこの構成を有していない点
④相違点4’
本件特許発明1は,データ入力に際し,閉領域データを特定するための属性を付
与せず,閉領域がすべて完成したときに属性データを付与可能にするのに対し,引
用発明では,ポリゴントポロジー生成以前の段階で,地図を表示するグラフィック
端末によってカバレッジフィーチャーに属性を付与する点
(2)取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)
ア(ア)そもそも,本件特許発明1は方法の特許であって,構成要件ごとに区別す
るのではなく,甲2発明と本件特許発明とを全体として比較すべきである。
そして,本件特許発明1と引用発明との相違点は,1Bと1Cの構成要件が存在
するか否かという点のみでなく,こうした一連の工程が1Aと1Dの構成要件の間
に(この順で)存在するか否かであり,1B,1Cにつきそれぞれ独立の構成要件
として議論する被告らの判断方法は恣意的である。
(イ)甲2発明には,地図をスキャニングしてラスター値を一連のベクトル座標に
変換したとしても,この変換したベクトル座標自体に基づいてポリゴントポロジー
を生成する構成は開示されておらず,甲2発明は,従来技術(甲53(数値地図ユ
ーザーズガイド)の記載等からすれば「ベクトルデータとは別の手段(デジタイザ
等)で別途位置データを入力し,同データに基づき位相関係を持った地図データの
編集・作成をする」というもので,ベクトルデータに基づき属性データを付与可能
な閉領域を作成するという構成を採っていない)と近似した技術にすぎない。。
そして,前記相違点1’ないし4’の構成,特に構成要件1Aないし1Cの工程
を有すること,及び1Aないし1Cの工程に従って作成された「座標上の線分」か
ら「面データ」を自動的に作成することは,甲2その他の甲号証には何ら記載も示
唆もなく,出願当時の当業者の技術常識をもってしても,本件特許発明を容易に想
到できないことは明らかである。
現に,甲2発明は,デジタイザーにより各フィーチャーを入力する方法(現在で
は全く行われていない方法)という,本件特許発明1とは異なるデータ入力方法を
採っているが,仮に本件特許発明1が容易想到であったならば,甲2発明がデジタ
イザーを利用する必要はないはずである。
また,本件特許発明1においては,その構成により,従来のデータ入力に要した
労力及びハードウェアの処理負担を大幅に軽減することが可能となり,その結果,
低コストで効率の良い地図データ作成方法を提供するという本件訂正明細書記載の
顕著な作用効果を奏するもので,引用発明及びその他の甲号証に記載された発明か
らは到底予測できないものである。
(ウ)以上のとおり,本件特許発明1は,引用発明及びその他の甲号証に記載され
た発明から容易に想到することはできず,特許法29条2項の規定に違反しない。
イ審決は,面(閉領域)をベクトルデータで単純に定義することができるとの
前提に立っているものと解される。しかし,ベクトルデータは単なるxy座標の点
列であり,このベクトルデータによって定義できるのは,この点列自体であって,
複数の線分によって定義されるトポロジーを有した面データは定義できない。
,,,そこで従来技術においてはデジタイザ等を用いて手作業で閉領域を作成して
その内部にラベル点を付して定義したり,引用発明では,さらにポリゴントポロジ
ーを追加的に作成したり,仮にスキャナーを使用してラスターデータからベクトル
データを作成しても,これとは別途トポロジーを作成して面の内部を定義したり,
甲53(数値地図ユーザーズガイド)でも,スキャナーとデジタイザを併用して面
の内部を定義したりしている。
,,本件特許発明1は従来技術の行っていたこのような困難な作業を行うことなく
ベクトルデータからトポロジーを有した面データの閉領域を作成できるように,構
成要件1B以降の工程を提供するものである(なお,全ポリゴン構造は「閉領域,
の境界線を定義する位置の点列」であり,各ポリゴンを定義するノードは別に保存
され,本件特許発明のような,点データと線データからできた閉領域ではない。。)
しかるに,審決の認定は,本件特許発明1もまたベクトルデータによって一本の
閉じた線データとして擬似面データを作成する技術と誤認しているようにも解され
るが,審決は,閉領域の境界を一本の線分で示すことと,閉領域自体を示すことが
異なる事項であること,従来技術が閉領域を示すために閉領域内の任意の点に代表
()。,,点ラベルポイント等を設けてきたことを理解していないそれならば審決は
本件特許発明1の前提となる技術的問題点すらも,正しく理解していないことにな
り,取消しを免れない。
ウ本件特許発明1の技術は,ベクトルデータを二次元の線データに自動的に変
換して,同線データを途中に接点や交点を持たない線分に変換するものであり,審
決が理解するようなベクトルデータから任意に一部のデータを取り出して線分とし
て定義するものではない。
また,審決(40頁)は「二次元の線データ」から「座標上の線分」という工,
「」,,「」程で作成される以外に線分が存在することを前提としかつ座標上の線分
は「二次元の線データ」を分解したものとしているが,これは,前判決と矛盾して
おり,誤りである。
そして,甲2発明におけるポリゴンフィーチャーは,図形要素の名称とパラメー
ターの組合せのみでは十分に定義できないものであり,審決は,甲2発明の前提概
。,,念であるポリゴンフィーチャーの概念の認識を誤っているこのほか甲2発明は
ラスターベクトル変換したベクトルデータの座標点一つ一つにキー値を付加し,ア
ークを作成してノード・アーク構造を作成し,更にポリゴンを作成して任意の位置
にデジタイズされた一個のラベルポイントを作成するものであって,審決が述べる
ような方法を採用したデータ作成方法ではない。
エ(ア)被告らが指摘する文献について検討すると,甲4は,異なるベクトルデー
タ構造間でのデータ変換について記載したもので,属性も付与されて完成した面デ
ータを従来の技術思想でアーク・ノードデータに変換することについて抽象的,断
片的に述べたものにすぎず,甲9の技術は,閉ループ抽出を目的として,まず論理
的特異点を設け,この論理的特異点から連続するベクトルを追跡し,次の論理的特
異点に到達するまでのベクトルの連なりをアークとするものであって,表現上は本
件特許発明と似た表現(二次ベクトルデータ」等)が使用されているが,ラスタ「
ーデータからベクトルデータを作成することから始まる本件特許発明とは全く構成
が異なるものであり,甲2のDXFARCコマンドは,CADデータをARC/INFOで読み込
むことができることを示すにすぎず,その経過において,ベクトルデータから二次
元線データを作成するものではない。
以上のとおり,甲4,甲9,甲2のDXFARCコマンドから,本件特許発明1の構
成要件1Bに想到することは容易であるとはいえない。
(イ)乙11記載の技術は,単なるベクトルデータを閉領域化する技術であって,
本件特許発明のようにアーク・ノードに構造化された面データを作成する技術を目
的とするものではなく,また,その前提的処理として,二次元の線データを互いの
接点や交点で分割する技術の開示はなく,甲7記載の技術は,まず端点や孤立点等
につき特徴点として特徴点テーブルに記録した後,2つの特徴点を結ぶ中心線の画
素列(ラスターデータ)をベクトルデータに変換してブランチとして記録し,これ
を追跡処理していく技術にすぎず,本件特許発明の技術思想とは全く異なるもので
ある。
,,,,,なお甲7甲9乙11記載の技術のいずれもが初めに点データを作成して
その後に点データどうしの間を線データとしてベクトル化するものであるか,又は
構成要件1B以降の構成要件を持たない技術であって,これらの技術から,本件特
許発明のように(二次元)線データを作成した後で,当該二次元の線データを途,
中に接点や交点を持たない線分に分割するという構成を容易に想到できるものでは
ない。
このほか,甲2発明の「CLEAN」コマンドにつき「CLEANはアーク間の交点を見,
つけ,アークを分割し,交点にノード(アークの終点)を作成します」という記。
載はあるが,これは大量なコマンド群の中の1つのコマンドの説明にすぎない上,
「CLEAN」はラベル点に対しても幾何学的解析を行っているため,上記記載から,
本件特許発明1の1Cの構成要件を容易に想到することはできない。また,CLEAN
コマンドは,アーク(始点,終点がノードで定義された線データ)とラベル点で定
義されたポリゴンの作成が前提とされており,単なるベクトルデータから変換され
た「二次元線データを座標上の線分に変換する」1Cの構成要件を有しているわけ
でもない。
以上のとおり,甲7,甲8,甲2のCLEANコマンド等から,本件特許発明1の
構成要件1Cに想到することは容易であるとはいえない。
(ウ)このように,被告らが引用する証拠に開示された技術は,いずれも「ラス,
ターベクトルから作成したベクトルデータ」から「面データの閉領域データ」作成
の過程において,構成要件1B,1Cを2つとも,かつこの順で保有するものでは
なく,このような構成を想起させるものでもなく,相違点1が容易想到でないこと
は明らかである。
(3)取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)
ア地図データを構成する図形要素について,属性を付与することは普通に行わ
れることであり,図形要素として閉領域データがあることは広く知られているが,
面データの閉領域データを完成させた後に属性データを付与可能とすることは当業
者が容易になし得ることではなく,そのような技術の開示もない。
本件特許発明1は,閉領域をトポロジーとして完全に定義し,閉領域を定義した
後に属性を付与可能としたもので,引用発明のようにフィーチャーを形状的に定義
する過程(ステップ2)で既に属性を付与してしまう方法とは全くその発想を異に
しているのである。
しかるに,審決は,属性付与可能とした段階についての引用発明との相違点につ
いて判断しておらず,取消しを免れない。
イなお,構成要件1Gにおける「属性データを付与可能」とは,閉領域データ
に属性データを付与するために外部の属性テーブルと閉領域テーブルとを結びつけ
る何らかの指標(ポリゴン識別番号等)を付与することであり,同工程が,属性テ
ーブルないし属性データそのものの作成を意味しないことは明らかであるところ,
被告らが指摘する「PAT」とは,属性データそのものであるから,PATがポリゴン
を定義された後にしか作成されないとしても,それによって,本件特許発明1と引
用発明において,属性付与を可能とする段階が同じことにはならない。
そして,属性付与を可能とする段階が閉領域データ作成前であるか後であるかに
より,作業の省力化や作業時間の効率化等,顕著な技術的効果の相違をもたらすも
のである。
ウ被告らは,審判請求において,CREATELABELSコマンドの存在を請求の理由
としていないから,本訴における同コマンドの主張自体が許されない上,同コマン
ドは,本来,ラベルポイントの入力が完了した後,入力ミス等によりラベルポイン
トの入力が抜けている箇所につき,ラベルポイントを入力するために利用するもの
であり,あくまで補完的なコマンドにすぎず,その存在をもって,属性付与を可能
とする段階が本件特許発明1と引用発明において同じとはいえない。
(4)取消事由3(手続上の違法)
ア特許法145条1項は無効審判は原則として口頭審理によるとした,「。」,「
だし,審判長は,当事者若しくは参加人の申立てにより又は職権で,書面審理によ
るものとすることができる」と規定している。。
ところが,本件審決における審判長は,技術説明会や口頭審理を実施することな
く,審決を行った。審決には「その(本件特許発明の)技術内容については更に説
明を聴くまでもなく明らかであるので,技術説明,口頭審理については,その必要
性を認めない」旨の記載がある。。
特許庁は,結果として,審理方式につき,原則行うべきである口頭審理に代えて
書面審理を行ったことになるが,原告ペンタくんに対し,口頭審理と書面審理のい
ずれにするかを明示又は通知することなく,審決に至ったものである。
確かに,特許法145条には,審理方式を当事者に明示又は通知するとの明文上
の規定はないが,審理方式を当事者に明示しないことは,当事者の適切な攻撃・防
御の機会を奪うもので,同条の趣旨にも反し,極めて不当である。
イまた,特許庁が内外に公表し,審判長及び当事者が採るべき審判手続の指針
を規定している審判便覧(甲50)には「審判長は,無効審判(商標登録取消審,
判を含む)事件において,当事者若しくは参加人の申立てにより又は職権により。
書面審理によるものとするときは,当事者及び参加人に書面審理の通知をする」。
と記載されているところ,本件での審理方式の明示や通知の欠如が上記手続規定に
も違反することは明らかである。
このように,本件において,審理方式が明示されないまま審決に至ったため,原
告ペンタくんの口頭審理による攻撃防御の手段が失われたばかりか,本来行われる
べき書面審理通知後の書面審理における書面等の提出による攻撃防御の手段も奪わ
れたもので,極めて不当である。
なお,前審決は,前判決により取り消されたのであるから,再開後の無効審判で
は,当然ながら,審理を改めてやり直すべきである。また,本件で,原告ペンタく
んは特許請求の範囲を訂正する訂正請求を行っており,第二次無効審判の審理方式
も第一次無効審判の継続でないことは明らかである。
ウ特許庁が,正当な理由もなく,技術説明会を含めた口頭審理による審理を行
わなかったことは,原告ペンタくんの適切な攻撃防御の機会を不当に失わせるもの
であって,特許法145条1項の規定に違背する。そして,審決における容易想到
性に係る判断が非論理的ではなはだ杜撰であることからして「技術内容について,
は更に説明を聴くまでもなく明らかである」などとは到底いえない。
エ以上のとおり,本件での審決に至る審判手続には,審理方式を明示しなかっ
た違法,書面審理通知の欠如の違法,審理を口頭審理によらない違法という特許法
145条の規定に違反する重大な手続違背があるから,直ちに取り消されるべきで
ある。
第4被告らの反論
1原告エン企画の主張する取消事由に対して
(1)取消事由1(本件特許発明1の「二次元の線データ」及び「座標上の線分」
等の認定の誤り)に対して
ア前判決において,構成要件1B,1Cの「二次元の線データ」のデータ構造
については,トポロジー構造などの具体的な構造に限定されないものと認定されて
,(「」,いるものであり原告エン企画の取消事由1の主張上記二次元の線データは
点データ部と線データ部が互いに関連付けられた構造のデータの線データ部に書き
込まれた線データを意味する旨)は,前判決の拘束力にも反するものであって,失
当である。
そして,特許発明の要旨の認定は,各構成要件ごとに個別に認定できるものでは
なく,全体として一つの特許発明の要旨が認定されるものであるから,前判決のし
た本件特許発明の要旨の認定は,そのすべてが拘束力を有するものである。
仮に,前判決の構成要件1Bの要旨認定に法的拘束力が生じないとしても,同認
定は合理的なものであって,これを覆すに足りる主張はされていない。
イ原告エン企画が指摘する「Dファイル」は,本件特許発明の実施例の1つに
すぎず,特許請求の範囲の記載として「Dファイル」の具体的構成が規定されてい
るわけでもないため「二次元の線データ」の構造がDファイルのような特定のデ,
ータ構造のものに限定されることはない。
このほか,本件訂正明細書(丙40)には(点データと線データとが「関係づ,)
けられた」とか「接続情報「接続関係「トポロジー」といった文言は一切存在,」」
しない。
,,「」また特許請求の範囲の記載上本件特許発明1によって作成される面データ
がトポロジー構造を有する旨の限定はなく,前判決も「線分からなる面データ』,『
とは・・・線分を所定方向に接続することによって構成される一本以上の線分の,
組合せをいうものと解される」と認定するのみで,それ以上の意義を有するもの。
とは認定していない。
このように,本件特許発明によって作成される「面データ」がトポロジー構造を
有するとの限定はないにもかかわらず,そのような限定があることを前提として,
「その後の処理に供してもトポロジー面データの作成ができないようなベクトル『
データ』まで『二次元の線データ』に含まれるものではない」との原告エン企画の
主張は,主張自体(いかなる「ベクトルデータ」が,その後の処理に供してもトポ
ロジー面データの作成ができないのか等)が意味不明であり,その前提も欠いてい
る。
(2)取消事由2(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)に対して
ア構成要件1Bは「ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線,
データに自動的に変換」というものであり「二次元の線データ」とは,構成要件,
1Aの「ベクトルデータ」から,その後の処理に使用するために変換されたデータ
について,これを「ベクトルデータ」とは区別する意味で「二次元の線データ」,
といっているにすぎず,その具体的なデータ構造については,何も限定されていな
い。
そうすると,構成要件1Bの「ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次
元の線データに自動的に変換」の意義は,単に,ラスターデータから作成され,何
らかのファイルフォーマットに格納されたベクトルデータを(ポリゴン作成など,
の地図データの処理を行うソフトウェアが読込み可能な)線端を示す点データを含
む別のファイルフォーマットのデータに自動的に変換することを意味するにすぎな
い。
イ(ア)「線データ同士の接続関係を把握すること,そのために「点データを線」
データとは別に設けること」とは,要するに,トポロジー(接続関係,隣接関係,
エリアの定義等の位相関係)を把握するために,アーク・ノード構造を採用するこ
とと同義であるが,アーク・ノード構造データは,出願前に刊行された入門書(甲
()。「」(())4乙10これらの訳文は入門地理情報システム甲4の1乙10の1
である)に,そのデータ構造が開示されているとおり,本件特許出願当時から,。
当業者にとって周知慣用の技術である。
そして,地図情報システム(GIS)の分野において,全ポリゴン構造,アーク
・ノード構造,リレーショナル構造,DLGなど,異なるデータ構造間で相互交換
をできるようにしておかなければならないことも,本件特許出願時の当業者にとっ
て技術常識であり(甲4(乙10,甲5参照「線端を示す点データ」を含まな)),
いデータ構造である「全ポリゴン構造」から「線端を示す点データ」を含む「ア,
ーク・ノード構造」に変換することも知られていた(甲4(乙10)参照。)
当業者であれば,上記の変換を,一定のアルゴリズムを実行するプログラムを作
「」,,成・実行することにより自動的に行うことを試みるのが通常であろうしまた
変換前のデータ構造と変換後のデータ構造の相違が分かっているのであれば,自動
,。変換プログラムを作成することは当業者であれば容易であることは明らかである
(イ)ラスターデータから作成した(一次)ベクトルデータを,次の処理(線分接
続ないし境界追跡による面データ作成)に使用するために,線端を示す点データを
含む「二次ベクトルデータ及びアークデータ(甲9)や「特徴点テーブル及びブ」
ランチテーブル(甲7)に変換する技術も存在していた。なお,甲7の技術にお」
いては「特徴点を結ぶ中心線の画素列を直線近似してベクトル列に変換し,この,
ベクトル列を処理単位(ブランチ)とする」前に「点列(一連の座標値であるベ,」
クトルデータ)がラスターデータから取得されており,すなわち,点列データを保
有し,ベクトル番号が振られたベクトルデータの作成(ベクトルテーブル」の作「
成)が,ブランチテーブルの作成に先行している。
このほか,甲2には,DXFARCコマンド(CADの分野で用いられるDXFフォーマッ
),,トデータをARC/INFO用のデータに変換するコマンドが記載され甲2の1には
DXFARCコマンド以外のデータ変換コマンドについて記載されている。
なお,xy座標値以外の情報(ハンドル番号,画層情報等)を含むという点にお
,「」「」「」いて当時のDXFデータであるポリラインとライトウェイトポリライン
に相違はないまた前判決によれば構成要件1Aのラスターデータからベ。,,「」「
クトルデータ」の作成は,その作成方法を規定するものではなく,人手を利用する
ものも含まれるから,人手を利用して付加される情報が含まれていても,一連の座
標値によって「線」等の図形の位置と形状を表すデータでさえあれば,構成要件1
Aの「ベクトルデータ」に該当することは明らかであって,原告エン企画が主張す
る「当時のDXFデータ」も,構成要件1Aの「ベクトルデータ」に該当する。
(ウ)甲39は,ArcScannerが1986年にリリースされるに伴い頒布されたも
ので,その公知性は証明されている上,審決は,甲39につき「データの変換を自
動的に行うことが当業者にとって周知であったこと」の例として挙げているにすぎ
ない。
(エ)本件特許発明1の特許請求の範囲に,構成要件1Bの変換の具体的アルゴリ
ズムが規定されているものではなく,本件特許発明1は,構成要件1Bの変換の具
体的アルゴリズムの構築の困難性に特許性が認められたものでもなく,その構築の
困難性は,構成要件1Bの容易想到性判断とは関係がない。
(オ)また,仮に,本件特許発明1の「二次元の線データ」がトポロジー構造のも
,,「」のであるとしても前記のとおり単なる座標点列データである全ポリゴン構造
のデータから,トポロジー構造である「アーク・ノード構造」のデータに変換する
ことは,当時の当業者にとって周知の技術であった(甲4(乙10)参照。)
(カ)なお「ベクトルデータ」という用語の中に,既に「線データ(すなわち,,」
線図形を表す一連のxy座標値が1レコードに収められたデータ)の意味が含まれ
ており,ARC/INFOにおいても,当然,ベクトルデータのラインデータは,1レコ
ードに一連のxy座標値を収める形で取り扱っており原告エン企画が主張する点,「
単位」の管理などしていない。
ウ(ア)構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分に変換」とは「二次元,
の線データ」について,途中に接点や交点を持たない線分とする工程である。
面データないしポリゴン等の定義に使用するために,ベクトルデータを「途中に
接点や交点を持たない線分」に分割することは,甲7,9,乙11等に記載されて
いるとおり,本件特許出願時の当業者にとって周知の技術であった(なお,甲7の
技術では「線データ(直線近似する前の点列)の作成が「点データ(特徴点テ,」」
ーブル)の作成に先行しており,甲7では,単なるベクトルデータから「特徴点,
テーブル「ブランチテーブル「ベクトルテーブル」という構造を有するデータ」,」,
に変換し,さらに,ベクトルを「ブランチ」という,途中に接点や交点を持たない
ベクトル列の単位に変換することが記載されているから,構成要件1B及び1Cの
構成要件が開示されていることは明らかである。。)
また,そもそも甲2において「CLEANはアーク間の交点を見つけ,アークを分析
し,交点にノード(アークの終点)を作成します」との記載があることからすれ。
ば,構成要件1Cは,本来,本件特許発明1と甲2発明の一致点として認定される
べき構成であって,相違点1の一部として認定されるべきものではない。
前判決は,構成要件1Cにつき,本件特許発明1と甲2発明との一致点として認
定しても,相違点として認定した上で,当該技術分野において普通に行われる程度
,,のこととして認定したとしても進歩性を肯定する事情にはならないという意味で
結論は同じであるとしているにすぎない。
(イ)本件特許出願前から,線データ(一連の座標値)のみからなる全ポリゴン構
造という形の面データは存在した(甲4(乙10)参照)上,上記(ア)のとおり,
甲2発明のARC/INFOにおいては,ベクトルデータ(線データ)からCLEANを
実行してポリゴン(面データ)を自動的に作成することが記載されており「単に,
線を表すベクトルデータからでは面データを作成できなかった」旨の明細書の【0
005【0007】の記載は真実に反する。】
また,原告エン企画による「本件特許発明1では)線データ同士の接続関係か,(
ら線分同士を接続して面データを作成できるようにした旨の主張は前判決構,」,(「
成要件1Dが,接続について,一定方向に接続していくということを超えて,どの
ような方向で接続していくかや,接続に当たり,どのような情報を利用するかを直
接規定するものとは認められない」旨認定している)の拘束力に反する。。
エ(ア)原告エン企画は,相違点1の容易想到性の判断に関連して,従来技術ない
し甲2発明は,トポロジーデータである「キー値」ないし「ノード」の手入力が必
要であったのに対し,本件特許発明はこれらの手入力を不要にした旨主張する。
しかし,そもそも「キー値」ないし「ノード」の手入力の要否は,ラスターデ,
ータからベクトルデータを作成する際に,それが必要かどうかという問題(自動入
力方式か手動入力方式かの相違によって生じる違い)であって,すなわち構成要件
1Aに関する事情である(原告エン企画も,別訴事件では,この点につき認めてい
た)から,相違点1の容易想到性とは無関係である。。
そして,構成要件1Aのラスターデータからベクトルデータの作成においては,
「その作成,変換過程において,人手を利用するものを直ちに除外するものではな
い」から,構成要件1Aのベクトルデータを手動入力で作成する際に必要な「キー
値」ないし「ノード」の手入力は,本件特許発明1と甲2発明との実質的な相違点
とはなり得ない(前判決同旨。)
もっとも,仮に「キー値」の手入力が構成要件1B,1Cに関するものである,
旨の原告エン企画の主張を前提とすると,構成要件1Bに「自動的に」の文言を追
加する訂正は新規事項の追加であったことになり(すなわち,本件特許発明1は,
「」,「」キー値の手入力が必要であったという従来技術の課題をデータを自動的に
変換することにより,新たに解決したことになる,そのような不当な結論を招く。)
原告エン企画の「キー値」に関する上記主張は,内容の当否にかかわらず成立し得
ない。
(イ)いずれにしても「キー値」の技術的意義は,ベクトルデータを手動で入力,
(デジタイザ入力,オンスクリーン入力)するに当たり,クリックした点が1レコ
ードの開始点又は終了点なのか,そうではないのかを示す情報にすぎず,甲2でい
う「ノード」も,アークの終点(端点)の意味でしかなく「キー値」の「2」に,
。,,よって入力されるxy座標点を意味するにすぎない一方トポロジーデータとは
エリアの定義,接続関係,隣接関係といった,マップフィーチャー同士の空間的関
係(位相関係)を示すデータのことであり,ARC/INFOの「キー値」や「ノード」
が,トポロジーデータに当たらないことは明白である。実際,ARC/INFOにおいて
は(手動入力の場合における)キー値入力の段階(ステップ2)では,トポロジ,
ー・データは作成されず,これが生成されるのは,アークの分割(交点におけるノ
ードの自動生成の際に用いるコマンドと同じCLEANコマンドを実行した段階ス),(
テップ4)である。そして,アーク・ノード・トポロジーは,CLEANを実行するこ
とで初めて作成又は更新される「AAT」ファイルに格納される。
,,「」このようにARC/INFOにおいてトポロジー・データが生成されるのはキー値
が入力されるステップ2よりも後のステップ4であるから「キー値』の入力はト,『
ポロジー・データの入力である」旨の原告エン企画の主張は虚偽である。
(ウ)なお,キー値(トポロジーデータではない)の手入力が必要なのは,デジタ
イザー入力やオンスクリーン入力など,ベクトルデータを手動で入力する場合のみ
である。
これに対し,ラスターデータから自動的にベクトルデータを取得するラスター/
ベクトル変換(自動入力方式)では,特定のアルゴリズムによってラスターデータ
上の図形を自動的にベクトルデータ化するため,1レコードとして収めるデータの
(xy座標の)範囲につき,予め一定のルール(例えば,分岐点と分岐点の間を1
レコードとすること)を定めておいて,自動的に認識するので,キー値「2」又は
「1」といった,1レコードの開始点又は終了点か,そうではない(中間点)かの
情報(1レコードの範囲を定めるための情報)は,そもそも別途入力する必要がな
い(甲2Vol.1の4−6頁,甲9,乙14,15参照。そして,審決が認定する)
甲2発明とは「ラスター/ベクトル変換(自動入力)によって得たベクトルデー,
タをARC/INFOでポリゴン化(フィーチャーを定義)する方法」であるため,甲2
発明においては,キー値及びノードの手入力は不要である。逆に,本件特許発明に
おいても,オンスクリーン入力方式(手動入力方式)の場合には,1レコードに収
めるxy座標値の範囲を定めるに当たり,xy座標値の情報のほか「始点又は終,
点であるのか,そうでないのか」を知らせる情報,すなわちARC/INFOでいう「キ
ー値」の手入力が別途必要であることは,原告エン企画も認めている。
したがって,いずれにしても,キー値入力の要否は,本件特許発明1と甲2発明
との相違点とはなり得ない。
(エ)甲2(ARC/INFOVer.5)より前のバージョンであるARC/INFOVer.3の時点
で,複数の線分の交点を定義していないデジタイジング(スパゲッティデジタイ「
ジングが紹介されていた乙23参照ことに加えARC/INFOにおいてはCLEAN」)(),,
コマンドにより,未入力のアークの交点に自動的にノードを生成する機能があるた
め,手動入力においても,必ずしもノードとなるべき位置にキー値「2」を入力す
る必要はない。すなわち,甲2発明においても,交点を定義することなくラインデ
ータ(アーク)を入力し,後でCLEANコマンドを実行することにより,複数のラ
インデータの交点の箇所で自動的にノードを作成し,複数の線分(アーク)に分割
できるものである。
したがって,キー値の入力の要否を根拠とする,原告エン企画による本件特許発
明1の効果についての主張は,いずれも失当である。
(オ)丙22(ARCEDITユーザーズガイド)に記載された3つの方法(オンスク「
リーン入力」を含む)は,いずれもARCEDITというARC/INFOのオプショナルソ。
フトウェアを使用して座標を入力する方法にすぎない上,いずれも,1レコードに
収めるべきxy座標の範囲を,ユーザーが任意で定める入力方式であるから,キー
値の入力が必要になるのも当然である。
そして,丙22記載の方法のうち「キーボード又はファイルによって座標の数値
を直接入力する方法」は,ラスターベクトル変換,オンスクリーン入力,デジタイ
(,ザー入力等とは別個独自の優位性あらかじめ正確な座標値が判明している場合に
最も正確な位置データの入力が可能となること)をもった入力方法であり,この入
力方法の存在は,キー値の入力の要否とは全く別個の問題である。
(カ)原告エン企画が主張するARC/INFOにおけるデータ入力手法(二重アークの
弊害を避けるために,必ず分岐点にノード(キー値「2)を置かなければならな」
いこと等)は,単なる憶測にすぎない。
また,二重アークの問題とは,ArcScan(ARC/INFO上で直接ラスター・ベクトル
変換を行うためのアプリケーション)が自動的・機械的にラスターデータ上のフィ
ーチャーをトレースするため,時として同じフィーチャーを二回以上トレースし,
重複したアークが作成される事態が避けられないという,ラスター・ベクトル変換
に特有の問題であって,分岐点にキー値「2」が入力されているか否かとは一切関
係のない問題である。もっとも,CLEANコマンドによるアーク分割(交点でのノー
ド自動生成)機能のあるARC/INFOにおいて,原告エン企画が主張するような二重
アークの問題は生じ得ない。
このほか,ジャンクション・テーブルは,ArcScanが二重アークの生成を防止す
るための管理テーブルであって,地図データ間のトポロジー・データを管理するた
めのものではない。
また,ダングリングノードとは,どこにも接続していないアークの端点であり,
分岐点ないし交点ではないため,ダングリングノードの削除や修正等も,分岐点に
キー値「2」を入力するか否かとは関係がない。
(キ)仮に,甲2発明において「キー値」の入力が必要であり,本件特許発明にお
いて不要であるとしても,自動入力方式(ラスター/ベクトル変換)において,キ
ー値を手入力することなく,ラスターデータからベクトルデータを自動的に作成す
ることは,当時の当業者にとって周知の技術であった。
オ甲2発明においても,交点(接続点・分岐点」と同じ)を定義することな「
(),,くラインデータアークを入力し後でCLEANコマンドを実行することにより
,()複数のラインデータの交点の箇所で自動的にノードを作成し複数の線分アーク
に分割できるのであるから「必ず複数の線分の接続点(分岐点)でキー値『2』,
を入力しなければならない」という制約は,甲2発明には存在せず「ノードを入,
力しなければトポロジーを有する面データの作成はできない」という固定観念など
存在しなかった。
原告エン企画が指摘する各文献のうち,丙17,18の「ノード」とは,単にア
ークの始点又は終点の意味でしかなく,トポロジーデータではないし,丙24にお
いては「別版にして(すなわちレイヤーごとに)入力すれば属性付与が可能であ,
る」旨の記載があり,これは,構造別(データ種別)にトレース基図(入力原図)
を作成すれば,オート・デジタイズ(ラスターベクトル変換)で取得したベクトル
データも面的な認識ができ,属性を付加できる旨の記載といえ,丙26上の記載に
ついても,自動入力方式(オートデジタイズ)でデータを得るためには原則として
構造別(データ種別)の入力基図を作成しなければならないという実用上の制限が
ある上,誤認識が多く修正作業に相当な手間がかかることなどから,自動入力方式
が限られた場面でしか利用されていないという状況を前提に,より実用的な自動入
力方式を可能にするための研究を行っていることを示すにすぎず,ここには
「ARC/INFOにおいては,トポロジーデータが自動的に生成される」旨も記載され
ており,丙19についても,同論文発表者が独自にポリゴン生成プログラム作成を
試みたことを示すものであって,これらの文献に基づく原告エン企画の主張はいず
れも失当である。
カ審決は,構成要件1Aの「ベクトルデータ」を用いて構成要件1Dの「面デ
ータ「閉領域データ」を作成する点は,甲2発明が既に有する構成であり,その」
間をつなぐ具体的処理に関し,構成要件1B,1Cという処理を採用することが当
業者にとって容易になし得た旨判断したものである。
以上のような審決の相違点1の容易想到性の判断は,本件特許発明1の構成要件
1Aから1Dまでを一連の流れとして捉えた上で,なお,甲2発明と本件特許発明
1との相違点1は,当業者にとって容易に想到し得るというものである。
そして,相違点1についての被告らの主張は,審決の認定判断を補足し,補強す
るものであり,審決同様,本件特許発明1の構成要件1Aから1Dまでを一連の流
れとして捉えた上での主張であって,これに反する原告エン企画の主張は失当であ
る。
なお,各公知資料(甲4(乙10,甲7,9,乙11)の位置付け(甲2発明)
に構成要件1B及び1Cの処理を採用することの容易想到性の判断に当たり,考慮
すべき当業者の技術常識ないし周知技術を立証する証拠)からすれば,各公知資料
が単独で構成要件1Aから1Dまでの一連の流れのすべてを開示していなくとも,
それぞれの証明主題は立証できるものでありその立証がされれば審決のした相,,「
違点1」の容易想到性の判断が正しいことは根拠付けられる。
また,そもそも本件特許発明1における「二次元の線データ」は,トポロジー構
造などの具体的な構造のものに限定されないのであるから,上記の各公知資料が取
り扱うデータがアーク・ノード構造ないしトポロジー構造である「二次元の線デー
タ」でないことは,上記の各公知資料を用いることの妨げにはならない。
「」,キARC/INFOの入力方法よりオンスクリーン入力の方が自由度が高いとか
「」,ARC/INFOの入力方法の方がオンスクリーン入力よりデータが重いとの主張は
その前提(ARC/INFOにおいては,必ず分岐点でキー値「2」を入力しなければな
らないとか,キー値の入力がトポロジー・データの入力であるとの主張)において
誤っており「オンスクリーン入力では背景との照らし合わせが可能であるから,,
デジタイザ入力よりも入力作業が容易である」との主張は正しいが,これはオンス
クリーン入力の効果であって,本件特許発明1の効果ではない。
また,本件特許発明1が丙24,26における従来の課題を解決した旨の原告エ
ン企画の主張は,明細書の記載に基づくものではなく,失当である。
このほか,別訴での判決(乙28,29(那覇地方裁判所沖縄支部平成11年)
(ワ)第178号事件の判決及びその控訴審判決)からすれば,本件特許発明の顕
著な効果についての原告エン企画の主張は虚偽である可能性が高い。
ク以上のとおり,甲2発明に,相違点1の構成(構成要件1B及び1C)を適
用することは,当業者が容易になし得たことであり,審決の相違点1についての容
易想到性の判断に誤りはない。
(3)取消事由3(相違点1についての容易想到性の判断における理由不備)に対
して
取消事由3は,原告エン企画が取消事由1において主張している本件特許発明1
の要旨認定の誤りを前提とした主張であり(いずれも,原告エン企画による構成要
。),,件1Bの要旨についての主張内容は同一である取消事由1が成り立たない以上
取消事由3の主張は,その前提において失当である。
(4)取消事由4(相違点2についての容易想到性の判断において属性付与の段階
が異なることを看過した誤り)に対して
ア審決が認定した相違点2は,本件特許発明1が構成要件1Gを有するのに対
し,甲2発明がかかる構成を有しない点である。
そして,アーク・ノード構造データやリレーショナル構造データのポリゴンが属
性情報を格納できることからも明らかなとおり,地理情報システム(GIS)にお
いて,地図データであるポリゴン(閉領域データ)に属性情報を付与可能にするこ
とは,当時の当業者にとって周知・慣用の技術であり(甲4(乙10)等参照,)
,,,図形要素のデータを記憶印刷することも普通に行われる程度のことであるから
この点について審決が特に証拠を明示しなかったことも当然であり,当時の当業者
が,相違点2を容易に想到し得たことは明らかである。
イ属性情報の付与は,識別子(ユーザーID)のほかに,属性情報を格納する
ためのデータテーブルがなければ可能とならない。
甲2発明には,①CLEAN等で,ポリゴン・トポロジーを生成する前に各ポリゴ
ンごとにラベルポイントとユーザーIDを入力しておく方法のほか,②ポリゴン・
トポロジー生成後(閉領域データ完成後)に,ラベルポイントとユーザーIDとを
自動的に一括付与する方法(CREATELABELSコマンドを使用する方法)も存在する
(なお,少なくとも,原告エン企画の主張が真実に反することを示すための主張・
弾劾証拠として,CREATELABELSコマンドについての主張・立証が許されることは
。,,,明らかであるまた同コマンドはまず甲2発明の意義を明らかにするとともに
識別子の自動一括付与によって属性付与を可能にすることが当業者にとって周知技
術であったことを示し,さらに,甲2発明には識別番号を付する構成もあることを
示すものである。同コマンドでは,ポリゴンユーザーIDをランダムにではなく,
連続した一連の番号を付与するものであって,同コマンドを用いる方法が「煩雑で
非現実的」であるとの原告エン企画の主張は憶測にすぎない。。)
結局,ARC/INFOでは,ラベルポイント及びユーザーIDの付与につき,上記2
つの方法のいずれを用いても,識別子(ユーザーID)と属性テーブル(PATテー
ブル)の両者がそろって「属性付与が可能」となるのは,終点と始点とが一致し,
ポリゴン・トポロジーが定義されてPATファイルが作成された後(CLEANコマンド
実行後)であるから,属性情報が漏洩する不都合など生じない。
以上のとおり,甲2発明において,属性を付与可能にする段階は,ポリゴンが定
義された(閉領域データが作成された)後であり,属性付与の段階についても,甲
2発明と本件特許発明とは一致する。
ウなお,構成要件1Gの「属性付与を可能」とすることが,識別番号等を付す
ることを意味する旨の主張は,前判決の拘束力に反し,失当である。
もっとも,属性付与可能とする段階を,ポリゴン作成前とするか,後とするかに
,,,よって技術的効果に顕著な相違が生じるものではなくこれをいずれにするかは
単なる設計的事項にすぎない。
このほか,本件特許発明1の特許請求の範囲において,属性付与の方法につき,
「ポリゴンとラスターデータとをスクリーン上で重ね合わせ,画面を見ながら対応
付けを行う」との規定はなく,原告エン企画が主張する「ポリゴンとラスターデー
タとをスクリーン上で重ね合わせ,画面を見ながら対応付けを行うことができる」
ことによる効果は,本件特許発明1の効果として主張できるものではない。
エ以上のとおり,甲2発明に,相違点2の構成(構成要件1G)を適用するこ
とは,当業者が容易になし得たことであり,同旨である審決の相違点2についての
容易想到性の判断に誤りはない。
(5)取消事由5(手続上の違法)に対して
ア取消判決後の再審理(特許法181条5項)は,前の審判手続をそのまま継
承する形で再開される(同法157条1項)ものであり,前の審判手続と再開後の
審判手続は一体としてみる必要がある。
そこで,本件において,前の審判手続を振り返ると,平成19年2月14日に口
頭審理が行われ,当該期日において,審判長により,本件審理は,それ以降書面審
理とする旨告知されている(乙18。このように,前判決後に再開された無効審)
判の審理方式は,書面審理で行われることが,当事者らに正式に通知されており,
。,()実際に書面審理が行われたものであるそして再開後の審理の開始通知甲57
,。が出されていることからしても再開後に審理が実際行われたことは明らかである
いずれにしても,書面審理通知は,特許法上の義務ではなく,その違反が直ちに
違法となるものではない。
イ本件において,請求人たる被告らによる平成20年7月9日付けの審判請求
書に対する手続補正のうち,補正1は審判請求における対象である請求項1に関す
,,,る記載を訂正された本件特許発明の請求項1に合致させるものであり補正2は
当該請求項1の訂正に合わせて,証拠方法である甲39における指摘内容を補正す
るものであるから,審判請求の理由を変更するものではない。なお,審判請求時を
基準として,請求の要旨変更の有無を判断すべき旨の原告エン企画の主張は,根拠
がなく,失当であり,甲39は「請求の理由」の特許庁への提示と同時に提出さ,
れた証拠であって,新たに追加された証拠ではない。
,,「」,このように上記手続補正は請求の理由の要旨変更には当たらないところ
要旨変更でなければ,そもそも答弁書提出の機会を与える必要もない(特許法13
1条の2第1項,134条2項参照。)
ウ原告エン企画が指摘する最高裁判所昭和51年5月6日判決の第一義的な趣
旨は,特許権者によるクレームの訂正によって,従前の無効原因が無意味となりか
ねない無効審判請求人に対して,弁論の機会を与えることにあり,それによって審
判請求人から新たな攻撃防御方法が追加された場合に限り,被請求人(特許権者)
に対して,それに対する反論の機会を与える趣旨であることが明らかである。
本件では,前述のとおり,審判請求人による平成20年7月9日付けの審判請求
書の補正が「請求の理由」の変更に当たらないのであるから,上記最高裁判決の趣
旨からして,被請求人及び参加人に対して反論の機会を与える必要はない。そもそ
も,本件では,原告ペンタくん及び原告エン企画の双方とも,訂正後のクレームに
つき十分に弁論の機会が与えられていたものであり,審決書の「1.手続の経緯」
において,原告エン企画の平成20年7月8日付け弁駁書(丙14)が記載されて
いることからしても,同書面をも考慮して審決がされたことは明らかである。
エ原告エン企画は,上記弁駁書(丙14)において,被告らによる審判請求書
の補正が,特許法131条の2第2項1号の要件を充足するものではない(すなわ
ち,同法134条2項の答弁書提出の機会を与える必要がない)ことを主張してい
たものであるから,禁反言の法理からしても,本訴において,特許法134条2項
違反の主張をすることは許されない。
2原告ペンタくんの主張する取消事由に対して
(1)取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)に対して
ア前判決において「構成要件1Bの『ベクトルデータを線端を示す点データ,
を含む二次元の線データに自動的に変換』の意義は,単に,ラスターデータから作
成され,何らかのファイルフォーマットに格納されたベクトルデータを(ポリゴ,
ン作成などの地図データの処理を行うソフトウェアが読込み可能な)線端を示す点
データを含む別のファイルフォーマットのデータに,自動的に変換することを意味
するにすぎない」と認定されており「二次元の線データ」とは,特定のデータ構,
造を持ったデータに限定されていない。
以上のとおり,構成要件1Bの「二次元の線データ」とは,構成要件1Aの「ベ
クトルデータ」から,その後の処理に使用するために変換されたデータについて,
これを「ベクトルデータ」とは区別する意味で「二次元の線データ」といっている
にすぎず,構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分に変換」とは「二次,
」,。元の線データについて途中に接点や交点を持たない線分とする工程にすぎない
このように,相違点1の構成要件1B,1Cの技術的意義は,上記程度のものであ
って,原告ペンタくんが主張するような技術的問題点は,そもそも考慮されるもの
ではない。
イ(ア)地図情報システム(GIS)の分野において,全ポリゴン構造,アーク・
ノード構造,リレーショナル構造,DLGなど,異なるデータ構造間で相互交換を
できるようにしておかなければならないことは,本件特許出願時の当業者にとって
技術常識であり(甲4(乙10,甲5参照「線端を示す点データ」を含まない)),
データ構造である「全ポリゴン構造」から「線端を示す点データ」を含む「アー,
ク・ノード構造」に変換することも知られていた(甲4(乙10)参照。)
当業者であれば,上記の変換を,一定のアルゴリズムを実行するプログラムを作
「」,,成・実行することにより自動的に行うことを試みるのが通常であろうしまた
変換前のデータ構造と変換後のデータ構造の相違が分かっているのであれば,自動
,。変換プログラムを作成することは当業者であれば容易であることは明らかである
このほかラスターデータから作成した一次ベクトルデータを次の処理線,(),(
分接続ないし境界追跡による面データ作成)に使用するために,線端を示す点デー
タを含む「二次ベクトルデータ及びアークデータ(甲9)や「特徴点テーブル及」
びブランチテーブル(甲7)に変換する技術も存在していた。なお,甲7の技術」
においては「特徴点を結ぶ中心線の画素列を直線近似してベクトル列に変換し,,
このベクトル列を処理単位(ブランチ)とする」前に「点列(一連の座標値であ,」
るベクトルデータ)がラスターデータから取得されており,すなわち,点列データ
を保有し,ベクトル番号が振られたベクトルデータの作成(ベクトルテーブル」「
の作成)が,ブランチテーブルの作成に先行している。
さらに,甲2には,DXFARCコマンド(CADの分野で用いられるDXFフォーマット
データをARC/INFO用のデータに変換するコマンド)が記載され,甲2の1には,
DXFARCコマンド以外のデータ変換コマンドについて記載されている。これは,す
なわち,甲2や甲2の1に記載されているソフトウェアARC/INFOは,コマンド実
行によって,様々なファイルフォーマットのベクトルデータを,ARC/INFOのカバ
レッジに自動的に変換できることを示し,ひいては,甲2発明も,構成要件1Bの
構成を有する事実を示している。したがって,審決や前判決における「甲2発明は
構成要件1Bを有しない」旨の認定は本来誤っているが,本件特許発明1の進歩性
を否定するという結論において正当であり,影響はない。
,,もっとも仮に審決や前判決の構成要件1Bに関する上記認定が正しいとしても
DXFARCコマンド等の存在は,異なるデータ構造間の変換が当業者にとって周知技
術であったことを示す資料の一つにもなる。
(イ)面データないしポリゴン等の定義に使用するために,ベクトルデータを「途
中に接点や交点を持たない線分」に分割することは,甲7,9,乙11等に記載さ
れているとおり,本件特許出願時の当業者にとって,周知の技術である。
なお,甲2において「CLEANはアーク間の交点を見つけ,アークを分析し,交点
にノード(アークの終点)を作成します」との記載があることからすれば,構成。
要件1Cは,本来,本件特許発明1と甲2発明の一致点として認定されるべき構成
であって,相違点1の一部として認定されるべきものではない。前判決は,構成要
件1Cにつき,本件特許発明1と甲2発明との一致点として認定しても,相違点と
して認定した上で,当該技術分野において普通に行われる程度のこととして認定し
たとしても,進歩性を肯定する事情にはならないという意味で,結論は同じである
としているにすぎない。
(ウ)以上のとおり,甲2発明に,相違点1の構成(構成要件1B及び1C)を適
用することは,当業者が容易になし得たことである。
ウ審決は,構成要件1Aの「ベクトルデータ」を用いて構成要件1Dの「面デ
ータ「閉領域データ」を作成する点は,甲2発明が既に有する構成であり,その」
間をつなぐ具体的処理に関し,構成要件1B,1Cという処理を採用することが当
業者にとって容易になし得た旨判断したものである。
以上のような審決の相違点1の容易想到性の判断は,本件特許発明1の構成要件
1Aから1Dまでを一連の流れとして捉えた上で,なお,甲2発明と本件特許発明
1との相違点1は,当業者にとって容易に想到し得るというものである。
そして,相違点1に関する被告らの主張は,審決の認定判断を補足し,補強する
ものであり,審決同様,本件特許発明1の構成要件1Aから1Dまでを一連の流れ
として捉えた上での主張であって,これに反する原告ペンタくんの主張は失当であ
る。
なお,各公知資料(甲4(乙10,甲7,9,乙11)の位置付け(甲2発明)
に構成要件1B及び1Cの処理を採用することの容易想到性の判断に当たり,考慮
すべき当業者の技術常識ないし周知技術を立証する証拠)からすれば,各公知資料
が単独で構成要件1Aから1Dまでの一連の流れのすべてを開示していなくとも,
それぞれの証明主題は立証できるものでありその立証がされれば審決のした相,,「
違点1」の容易想到性の判断が正しいことは根拠付けられる。
また,そもそも,本件特許発明1における「二次元の線データ」は,トポロジー
構造などの具体的な構造のものに限定されないのであるから,上記の各公知資料が
取り扱うデータがアーク・ノード構造ないしトポロジー構造である「二次元の線デ
ータ」でないことは,上記の各公知資料を用いることの妨げにはならない。
CLEANコマンドに関する原告ペンタくんの主張についても,上記同様,失当であ
る。
,,エ特許発明の要旨の認定は各構成要件ごとに個別に認定できるものではなく
全体として1つの特許発明の要旨が認定されるものであるため,1つの構成要件の
要旨の認定が異なれば,他の構成要件の要旨の解釈にも影響を及ぼすことは必然で
ある。
したがって,前判決のした本件特許発明の要旨の認定は,そのすべてが拘束力を
有するものであり,仮に拘束力がないとしても,その認定は合理的なものであり,
これを覆すに足りる主張は原告ペンタくんからされていない。
オ甲2発明が甲53記載の技術と同じであるかのような原告ペンタくんの主張
は誤りである上,甲2発明が「ラスターデータから作成したベクトルデータに基づ
いて,このデータ自体から属性データを付与可能な閉領域を作成するという方法を
とっていない」旨の原告ペンタくんの主張は,審決や前判決の認定にも反する。
なお,一本の線によってポリゴンを定義する方法も当然存在しており(甲4(乙
10)の全ポリゴン構造,原告ペンタくんが主張する「ベクトルデータによって)
そのベクトルデータに囲まれた閉領域を定義できない」との意味は不明である。
このほか,原告ペンタくんは「ポリゴンフィーチャーは,図形要素の名称とパ,
ラメータの組合せのみでは十分に定義できない」旨主張するが,具体的にポリゴン
の定義に他にどのような要素が必要であるかを明らかにしておらず,上記主張を裏
付ける証拠も提出していないため,上記主張は失当である。
(2)取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)に対して
ア審決が認定した相違点2は,本件特許発明1が構成要件1Gを有するのに対
し,甲2発明がこのような構成を有しない点である。
そして,アーク・ノード構造データやリレーショナル構造データのポリゴンが属
性情報を格納できることからも明らかなとおり,地理情報システム(GIS)にお
いて,地図データであるポリゴン(閉領域データ)に属性情報を付与可能にするこ
とは,当時の当業者にとって周知・慣用の技術であり(甲4(乙10)等参照,)
,,,図形要素のデータを記憶印刷することも普通に行われる程度のことであるから
この点について審決が特に証拠を明示しなかったことも当然であり,当時の当業者
が,相違点2の構成を容易に想到し得たことは明らかである。
イ属性情報の付与は,識別子(ユーザーID)のほかに,属性情報を格納する
ためのデータテーブルがなければ可能とならない。
甲2発明には,①CLEAN等で,ポリゴン・トポロジーを生成する前に各ポリゴ
ンごとにラベルポイントとユーザーIDを入力しておく方法のほか,②ポリゴン・
トポロジー生成後(閉領域データ完成後)に,ラベルポイントとユーザーIDとを
自動的に一括付与する方法(CREATELABELSコマンドを使用する方法)も存在する
(CREATELABELSコマンドは,まず甲2発明の意義を明らかにするとともに,識別
子の自動一括付与によって属性付与を可能にすることが当業者にとって周知技術で
あったことを示し,さらに,甲2発明には識別番号を付する構成もあることを示す
ものである。なお,CREATELABELSコマンドでポリゴンユーザーIDを一括付与す
る方法が非常に煩雑で非現実的である旨の主張は,単なる憶測にすぎない。。)
結局,ARC/INFOでは,ラベルポイント及びユーザーIDの付与につき,上記2
つの方法のいずれを用いても,識別子(ユーザーID)と属性テーブル(PATテー
ブル)の両者がそろって「属性付与が可能」となるのは,終点と始点とが一致し,
ポリゴン・トポロジーが定義されてPATファイルが作成された後(CLEANコマンド
実行後)であるから,属性情報が漏洩する不都合など生じない。
以上のとおり,甲2発明において,属性を付与可能にする段階は,ポリゴンが定
義された(閉領域データが作成された)後であり,属性付与の段階についても,甲
2発明と本件特許発明とは一致する。
ウなお,構成要件1Gの「属性付与を可能」とすることが,識別番号等を付す
ることを意味する旨の主張は,前判決の拘束力に反し,失当である。
このように,構成要件1Gに関しては,ラベルポイント(識別子)の有無は,本
,,,件特許発明1の技術的範囲とは無関係の事情であるが上記イのとおり実際には
甲2発明も,CREATELABELSコマンドにより,ラベルポイントを自動一括付与する
ことができる。
もっとも,属性付与可能とする段階を,ポリゴン作成前とするか,後とするかに
,,,よって技術的効果に顕著な相違が生じるものではなくこれをいずれにするかは
単なる設計的事項にすぎない。
エ以上のとおり,甲2発明に,相違点2の構成(構成要件1G)を適用するこ
とは,当業者が容易になし得たことであり,審決の相違点2についての容易想到性
の判断に誤りはない。
(3)取消事由3(手続上の違法)に対して
ア取消判決後の再審理(特許法181条5項)は,前の審判手続をそのまま継
承する形で再開される(同法157条1項)ものであり,前の審判手続と再開後の
審判手続は一体としてみる必要がある。
そこで,本件において,前の審判手続を振り返ると,平成19年2月14日に口
頭審理が行われ,当該期日において,審判長により,本件審理は,それ以降書面審
理とする旨告知されている(乙18。このように,前判決後に再開された無効審)
判の審理方式は,書面審理で行われることが,当事者らに正式に通知されており,
実際に書面審理が行われたものである。
したがって,審理方式の明示はあったものであり,この点に関する原告ペンタく
んの主張は失当である。また,書面審理通知は,特許法上の義務ではなく,その違
反が直ちに違法となるものではない。
イ特許法145条1項は,無効審判は原則として口頭審理によるとしながら,
審判長の裁量により,職権で書面審理とすることも許容しており,さらに,事件が
審決をするのに熟したかどうかの判断についても,審判長の裁量に属する事項であ
るから,裁量の範囲を逸脱したとみるべき特段の事情のない限り,無効審判におい
て,口頭審理を開くことなく審決をしたからといって,違法になることはない。
そして,本件においては,前判決によって本件特許発明の要旨の認定が既にされ
(同認定判断には拘束力があるため,審決はこれに反する認定ができない,さら。)
に,証拠方法の認定も,一致点・相違点の認定もされているため,再開後の無効審
判において,新たに技術内容の説明を聴く必要性に乏しかった。また,再開前の無
効審判において既に口頭審理がされていたことからすれば,なおさら,再開後にお
いて,さらに技術説明や口頭審理を行う必要性は乏しく,本件で,職権により書面
,。審理のまま審決をしたことにつき審判長の裁量の逸脱がないことは明らかである
ウ特許庁の無効審判においては,民事訴訟において要請される直接主義の原則
が法律上要請されておらず,再開後の無効審判の合議体が再開前の合議体と異なっ
ていることも,何ら違法ではない。
第5当裁判所の判断
1本件特許発明1の内容について
(1)本件訂正明細書(丙40)には,以下の記載がある。
「,,ア上記地域や地点毎に属性を付与した地図情報をコンピュータに記憶させるには先ず
デジタイザ等を用い,手作業で地図上の区域や地点の縁に沿って入力端末を移動させ,この入
力端末の移動データを区域や地点の輪郭線を表す面データとしてコンピュータに入力したの
ち,その面データに属性を付与していた。また,等高線による地形のみを描いた地図等も,土
木・測量用として広く使用されている。このような地図は,ときに応じて修正・更新を行う必
要がある。このような地図もコンピュータに読み取らせ,図形の歪みを自動的に直す等の補正
。,,を行っているこのような場合のコンピュータ処理では上記のような面データの概念がなく
,,単に線を表すベクトルデータとして取り扱われ説明文等を付加して表示することはできても
図形データに属性を付与するということはできない。又,線データの「切れ」などの自動検出
が出来ず,又,家形のような直角部を有するベクトル認識対象にあっては,例えば当該家形が
6画形であれば6本の線データに分解されて,一本の折れ線データに一括して自動的にベクト
ル化する事は出来ない為,地形図のような大量かつ重畳的な原図データから直接ベクトル処理
した後で家形や道路等を種別分けする作業は著しく困難であり,予め各々のトレース図の作成
(段落【0004】∼【0005)を必要とする状況にある。」】
「従来技術の問題点】上述のデジタイザによる面データの入力は,例えば,沖縄県,イ【
鳥取県等の縮尺1/25000の土地利用状況図を作成するとしても,それぞれおよそ10万
個もの面データが必要とされる。これらの面データの入力は上述したように全て手作業によっ
て入力されるものであるが,コンピュータ処理において,上述のようにして入力された一つ一
つの面データに,後の処理で属性を割り当てるためには,それぞれの面データが閉面を構成し
ていなければならない・・・このため,上述のデジタイザによる面データの入力作業は熟練。
,。,,を要し極めて手数のかかる作業である従って人件費が地図情報作成コストの50%以上
ときには90%を占めるとさえいわれ,その総体的費用は極めて高価である。また,手数がか
かるため面データ完成までの期間も数か月という長期にわたる。このため実務に供される管理
資料としては,対応が遅れるという問題があった。また,単なる線データをコンピュータに記
憶させても,面データを作成することができないと,上述した地域や地点毎の属性を付与する
ことができない。従って,属性によって管理する地図情報として用いることができない。この
ように,従来は,地図の輪郭線データを手作業で入力しなければならず,また,線データを自
動的に読み取ることができるものは,その後の属性付与の処理ができないという状態であり,
又,線の「切れ」の自動検出や,直角部を有するベクトル化対象物の一本の折れ線への自動一
括長ベクトル化も出来ないという状況であり,一貫して自動的に地図情報を作成する方法も装
(段落【0006】∼【0008)置も存在しなかった。」】
「発明の目的】本発明は,上記従来の実情に鑑みてなされたものであり,その目的とウ【
するところは,地域や地点毎に属性を付与可能なように保存した地図情報を大幅に効率良く自
動的に作成することが容易にできる地図データ作成方法及び装置を提供することである。
【発明の要点】本発明は上記目的を達成するために,地形図等の原図を読み取って得られる
ラスターデータから二次元のベクトル線データを作成し,このベクトル線データから少なくと
も点データ,線データからなる面データを作成し,この面データを構成する線データの不連続
点を入力により点データ又は線データに接続して閉領域面データを作成し,この閉領域面デー
タを入力により付与される属性データ別に記憶,表示または印刷するようにし,上記不連続点
の接続に際しては,例えば複数の接続修正装置で行うようにし,不連続点には不連続点である
(段落【0009】ことを報知する記号を付して表示するようにしたことを要点とする。」
∼【0010)】
「実施例】以下,本発明の実施例について,図面を参照しながら説明する。図1は本エ【
(段落【0011)発明に係わる一実施例の構成図である。」】
「同図において,画像ベクトル線データ発生装置1は,地形図等の原図,あるいは,オ
例えば図6(a)に示すような回路配線画像等を自動的に読み込んで画像に対応する電気信号を
発生するイメージスキャナ1−1,そのイメージスキャナ1−1から入力される電気信号から
ディジタル・イメージ信号を生成するパターン認識モジュール1−2,パターン認識モジュー
ル1−2により生成されたディジタル・イメージ信号から細線データを抽出しベクトルデータ
,,を作成して例えば図6(b)に示す線データ画像作成処理を行う線データ画像処理装置1−3
及びその線データ画像処理装置1−3により作成されたベクトルデータを後述する線データ画
(段落【001像処理用Lファイル2aとして記憶するRAM(I)1−4からなっている。」
2)】
「データ変換装置2は,その入力側に画像ベクトル線データ発生装置1が接続され,カ
また出力側には閉領域・属性データ作成装置3が接続されている。そして,画像ベクトル線デ
ータ発生装置1から線データ画像処理用Lファイル2aを読み出して,そのLファイル2aの
要素数1∼nに分割された線データを解析し,折線,交点等を認識して二次元の線データに自
動的に変換し,詳しくは後述する閉面データ画像処理用Dファイル2bの点データ及び二次元
(段落【0013)の線データとして閉領域・属性データ作成装置3へ出力する。」】
「また,図2(b)の閉面データ画像処理用Dファイル2bは,同図(a)の線データ画像キ
処理用Lファイル2aとは全く異なるファイル構成であり,閉領域データを取り扱うための,
例えばDLGファイルと同様な構成になっている。すなわち,ファイル構成を示すデータを格
納するヘッダー部2b−1,折れ線の頂点や線端を示す点データを格納する点データ部2b−
2,閉領域の少なくとも1つの属性を示すデータを格納する領域データ部2b−3,及び,線
(段落【0018)データを格納する線データ部2b−4からなっている。」】
「続いて,図3に,データ変換装置2の内部構成を示す。同図に示すように,データ変ク
換装置2はマイクロプロセッサからなるCPU31とプログラムが格納されたROM(Read,,
OnlyMemory)32からなる。CPU31は,ROM32に格納されたプログラムに基づいて線
データ画像処理用Lファイル2aのデータを閉面データ画像処理用Dファイル2bに変換す
る。次に,上記線データ画像処理用Lファイル2aのデータを閉面データ画像処理用Dファイ
ル2bに変換するCPU31の処理動作を図4及び図5のフローチャートを用いて説明する。
(【】なおこの処理は特には図示しないレジスタi及びjを用いて行われる,。」段落0019
∼【0020)】
「次に,上記面データの作成処理について,図5に示すフローチャートを用いて説明ケ
する。先ずステップS51で,上記閉面データ画像処理用Dファイル2bに作成した線データ
を読み出して,線分に分解する。この線分への分解処理は,上記読み出した線データを,他の
線データとの接点,交点で分割して,途中に接点や交点を持たない線分に細分し,それらの各
(段落【0023)線分に線分番号を付与する処理である。」】
「続いてステップS52に進み,上記の線分の始点又は終点の点種を決定する。このコ
処理は,上記線データを途中に接点や交点を持たない線分に細分する際,細分の基となった線
分の始点又は終点が,孤立点(他の線データへの接続なし,分岐点(接点,又は中間点(折))
(段落【0024)れ線の頂角)のいずれであったかを記録する処理である。」】
「次に,ステップS53で,それらの線分を始点及び終点に基づいてソートし,続いサ
てステップS54で,それらソートした線分を一定方向に接続していく。この接続方向は,時
計回り,逆時計回りいずれでもよい。線分の終点が分岐点であった場合,接続される同一始点
を有する線分が複数存在する。上記接続方向が予めいずれか一定方向へ定められていることに
より,それらの複数の線分の中から,共に面データを構成する線分を自動的に選択して接続す
(段落【0025)ることができる。」】
「そして,ステップS55では,接続された線分の終点の点種を判別し,最初の線分シ
の始点と同一の座標であるか,または次に接続する線分がない孤立点であった場合は,接続処
(段落【0026)理を終了してステップS56に進む。」】
「ステップS56では,接続された一連の線分によって構成された面データに面デース
。,タ番号を付与して閉面データ画像処理用Dファイル2bに再格納する上記ステップS55で
接続された線分の終点の点種が最初の線分の始点と同一の座標ではなく,また,孤立点でもな
(段落【0027)いときはステップS54に戻って次の線分を接続する。」】
「そして,同図(判決注:図7)矢印A,B・・・Fで示される線の不連続部を所定セ,
のマークを点滅させる等して告知し,その線の不連続部が正しく閉じるように,キーボード3
−3の特には図示しないカーソルキー若しくはキーボード3−3等に接続された不図示のマウ
ス端末等により修正入力が可能なようになっている。このように修正,補完されて正しい閉領
域面データとなった線データは再び閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データ部2b−
4に格納されると共に,同ファイルの点データ部2b−2の対応する点データも自動的に修正
(段落【0029)されて再格納される。」】
「上記のようにして作成された閉領域のみからなる地図図形データには,キーボードソ
3−3を用いて閉領域で示される各地域や地点を特定するために,それら地図上の閉領域に,
()。,例えば図8に示すような番号丸で囲んで示すが自動的に一括して順次付与されるそして
この番号が同ファイルの領域データ部2b−3の対応する位置に格納される。さらに,この番
号に対して属性を示すデータを入力することにより番号により特定された地域や地点に属性が
付与される。この属性データも同様に同ファイルの領域データ部2b−3の対応する位置に格
(段落【0030)納され,これにより所定の地図情報は完成する。」】
(2)構成要件1A(地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータから「
ベクトルデータを作成した後)について」
特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明において,用語は,その有する普
通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用し
なければならないが,特定の意味で使用する場合には,意味を定義して使用するこ
とができるところ「ラスターデータ」及び「ベクトルデータ」について,本件訂,
。,,正明細書に特段の定義はないそうであれば本件特許発明1の技術分野において
「ラスターデータ」は「1つ1つの画素の集合で表現されるデータ」などと説明,
され「ベクトルデータ」は「位置と形状がXY座標で表現されたデータ」などと,,
説明される一般的な用語であり,本件特許発明1においても,そのような普通の意
味のものとして使用されていると認めることになる。
なお「ラスターデータ」から「ベクトルデータ」を作成する方法については,,
次の(3)記載のとおりである。
(3)構成要件1B(該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線「
データに自動的に変換し)について」
ア構成要件1Bは,上記の「ベクトルデータ」を「二次元の線データ」に自動
的に変換することを規定し,また「二次元の線データ」が線端を示す点データを,
含むことを規定している。
「」,「」イ構成要件1Bの該ベクトルデータは構成要件1Aのベクトルデータ
であると理解できるが「ベクトルデータ」から変換される「線端を示す点データ,
を含む二次元の線データ」は,地形図等を読み取って得られる本件特許発明1にお
けるベクトルデータ自体が「二次元」の「線データ」といえるものであることなど
から,変換前の「ベクトルデータ」と何が異なるかが特許請求の範囲の記載からは
一義的に明らかでない。そして,本件訂正明細書の発明の詳細な説明においても,
「二次元の線データ」についての直接的な定義はない。
もっとも,発明の詳細な説明の実施例の説明には,ベクトルデータである「線デ
ータ画像処理用Lファイル2a(前記(1)オ)を読み出して「要素数1∼nに分」,
割された線データを解析し,折線,交点等を認識して二次元の線データに自動的に
変換し(同カ)との記載があり,その「二次元の線データ」が「閉面データ画像」
処理用Dファイル2bの点データ及び二次元の線データとなり同カその閉」(),「
面データ画像処理用Dファイル2b」に作成した線データを読み出して,後記(4)
のとおり,線分への分解を行うという構成要件1Cに規定する工程が行われている
(同ケ。)
,「」,「」,そうすると二次元の線データは構成要件1Aのベクトルデータから
その後の処理に使用するために変換されたデータについて,これを「ベクトルデー
タ」とは区別する意味で「二次元の線データ」といっているものと理解すること,
ができる。
ウ構成要件1Aは「ラスターデータ」から「ベクトルデータ」の作成を規定,
するが,その作成の方法について規定するものではない。他方で,構成要件1Bに
ついては「ベクトルデータ」を「二次元の線データ」に「自動的に」変換するこ,
とを規定している。
そして,本件訂正明細書の発明の詳細な説明によれば,本件特許発明1は,属性
を付与可能なように保存した地図情報を効率良く自動的に作成することが容易にで
きる地図データ作成方法,装置を提供することを目的とするものであるとされ(前
記(1)ウ,従来技術として,デジタイザを使用した入力により面データを作成す)
る方法が挙げられるとともに,これが手数,費用等がかかるなどの欠点があったこ
と「単なる線データ」は「面データ」と扱われなかったことが記載(同イ)され,
ている。
これに,本件訂正明細書の【発明の要点(同ウ)の記載や構成要件1Cの「座】
標上の線分」が途中に接点等を有さない線分とされ(後記(4),構成要件1Dの)
「面データ」がその「座標上の線分」の組合せとされること(後記(5))も総合す
ると,本件特許発明1は「閉領域面データ」を作成するに当たって,デジタイザ,
による入力ではなく「ラスターデータ」から作成した,線データである「ベクト,
ルデータ」を利用し,それを「二次元の線データ」に「自動的に」変換し,さらに
それを交点等を有さない線分である「座標上の線分」に変換し,閉面を構成してい
ないときも含めてその「座標上の線分」の組合せを「自動的」に作成し,線分の組
合せが閉面を構成していないときは,不連続点を報知して,容易に属性データ付与
可能な閉領域面データを作成するというものであると認められる。他方,本件訂正
明細書においても「ラスターデータ」から,途中に接点等を有さない線分である,
「座標上の線分」を作成,変換する過程について,従来技術との関係で新たな課題
を解決したことが記載されているものではない(もっとも,訂正により,ベクトル
データから二次元の線データへの変換については「自動的」な方法に限定されて,
いる。。)
そうすると,前記の従来技術として記載されたところとの対比においても,本件
特許発明1については「ラスターデータ」を利用して,途中に接点等を有さない,
線分である「座標上の線分」を作成することができれば,本件特許発明の課題を解
決することができると認められるのであって「ラスターデータ」から「座標上の,
線分」を作成するまでの過程自体が課題とされたものではなく(ただし,訂正によ
り「ベクトルデータ」から「二次元の線データ」への変換は「自動的に」行われ,
るものに限定されている,上記工程については,その工程を経ていれば(上記。),
「ベクトルデータ」から「二次元の線データ」への変換が「自動的」であることを
除き)その工程の過程において人手を利用する作業工程を含むとしても,本件特許
発明1の技術思想に直ちに反するものとは認められない。
したがって,本件特許発明1において「ラスターデータ」から「ベクトルデー,
」,「」「」,,タ二次元の線データから座標上の線分を作成変換する各過程において
それを機械により自動的に行うことが考えられるのであるが,本件特許発明1は,
そのような場合に限られず,その作成,変換過程において,人手を利用するものを
直ちに除外するものではないと解され,また,このことは,これらの作成,変換に
ついて「自動的」に行うという規定が特許請求の範囲に必ずしも規定されていな,
いこととも整合する。
本件訂正明細書においては,実施例において「ラスターデータ」から「ベクト,
ルデータ」の作成については,原図を自動的に読み込んで画像に対応する電気信号
を発生させるイメージスキャナを用い,パターン認識モジュールによりディジタル
・イメージ信号を生成し,そのディジタル・イメージ信号から,細線データを抽出
してベクトルデータを作成する処理が記載され(前記(1)オ「ベクトルデータ」),
から「二次元の線データ」の変換については,CPU31が,ベクトルデータに対
応する線データ画像処理用Lファイル2aから二次元の線データを含む閉「」「」「
面データ画像処理用Dファイル2b」に変換を行い,その処理動作を表すものとし
て図4のフローチャートのステップとして記載されていて(同ク「二次元の線デ),
ータ」から「座標上の線分」への変換についてもフローチャートが記載されるなど
して(同ケ,いずれも,人手を利用することが直接,記載されているものではな)
いが,これらは,データの作成,変換についての一実施例として記載されたものと
認められる(ただし「ベクトルデータ」から「二次元の線データ」への変換につ,
いては,自動的に行われるものに限定される。。)
エなお,本件訂正明細書の実施例においては,Lファイル2a及びDファイル
2bとの名称のファイルが記載され,その構成が規定されている(前記(1)キ等)
が,それらのファイル名やその定義が特許請求の範囲に記載されたものではなく,
構成要件1Bについて,明細書の実施例として記載された具体的なファイルに限定
してその変換をいうものでないことは明らかである。この点については,後記2で
も再度検討する。
(4)構成要件1C(それらの二次元線データを座標上の線分に変換し)につ「,」
いて
ア構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分に変換」は,前記構成要件
1Bにおいて規定されている「二次元の線データ」を「座標上の線分」に変換する
ことを規定する。しかし,ベクトルデータがそもそも座標で表現されたものであっ
て,それを「二次元の線データ」に変換し,さらにそれを変換したという「座標上
の線分」という用語が,本件特許発明1の技術分野において,普通の用語であると
か,技術常識により定まるものとは認められず「座標上の線分」の意味も,デー,
タを座標上の線分に変換するとの意味も一義的に明らかでない。
イ本件訂正明細書に「座標上の線分」や「二次元線データを座標上の線分」,,
に変換することの定義はないし,座標上の線分との用語も記載されていない。
,【】【】本件訂正明細書の実施例における説明のうち段落0023から0025
には,面データの作成処理についての説明があり,ステップS51で「二次元の,
線データ」である「閉面データ画像処理用Dファイル2b」に作成した線データを
読み出して「線分」に分解すること,この処理は「線データ」を,他の線データ,,
との接点,交点で分割して,途中に接点や交点を持たない線分に細分することが記
載され,ステップS52では,上記細分化された線分の始点,終点が,他の線デー
タへの接続がない孤立点,接点である分岐点,折れ線の頂角である中間点のいずれ
かを決定し,記録することが記載され,ステップS53で,それらの線分を始点及
び終点に基づいてソートし,ステップS54でソートした線分を一定方向に接続し
ていくことが記載されている(前記(1)ケ∼サ。)
上記の実施例における説明のうち,ステップS54以下は,線分を一定方向に接
続していくことが記載されているところ,構成要件1Dが線分の所定方向への接続
を定めるものであることから,構成要件1Dに対応し得るものと理解できるが,構
成要件1Cが記載する「二次元線データを座標上の線分に変換し」について,本件
訂正明細書の発明の詳細な説明においても「座標上の線分」という用語がそもそ,
も用いられていないのであるから,本件訂正明細書を参酌しても,その内容が直ち
に明らかになるものではない。
,「」「」もっとも構成要件1Cは二次元線データから変換された後のものが線分
であることを規定するところ,ステップS51には「二次元の線データ」を利用,
して「線分」に分解することが記載されており,ステップS54が「線分」を所定
方向に接続していくことを規定し,構成要件1Dに対応し得ることからも,構成要
件1Cの「線分」は,ステップS51にいうような,他の線データとの接点,交点
,,で分割して途中に接点や交点を持たない線分であると理解することができるので
構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分に変換」とは「二次元の線デー,
タ」について,途中に接点や交点を持たない線分とする工程であると一応理解する
ことができる。
ウ他方,上記実施例では,ステップS51の後に,構成要件1Dに対応し得る
ステップS54までの間に,ステップS52,53が記載されていて,それらのス
テップにおいて,ステップS51により細分化された線分について,さらに,線分
の始点等の性質を「決定「記録」し,また,線分を「ソート」することが記載さ」,
れている。
しかし,上記工程については,構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分
に変換」という「座標上の線分に変換」という工程に文言上,直ちに含まれるも,
のではないし,また,そもそも「座標上の線分に変換」することの定義は本件訂,
正明細書にもないのであり,明細書の記載を参酌しても,特許請求の範囲に記載さ
れた「座標上の線分に変換」とは,上記イのとおり,途中に接点や交点を持たない
「線分」に変換するものと理解できる以上,線分に変換した後の,線分に変換する
こととは別の工程として記載されている,線分の始点等の性質を「決定「記録」」,
することなどが,構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分に変換」という
工程に直ちに含まれるものであるとは認められない。
(5)構成要件1Dの前半(該線分を所定方向に接続し,終点が始点と一致した「
ときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し)につい,」

構成要件1Dの前半は「所定」との意味が「定まっていること。定まってある,,
こと広辞苑第6版という普通の用語であり本件訂正明細書においても・。」(),,「
・・線分を一定方向に接続していく。この接続方向は,時計回り,逆時計回りいず
れでもよい(前記(1)サ)として「所定」に対応するものとして「一定方向」。」,,
に接続していくと記載されていることにも照らしても,構成要件1Cの「座標上の
線分」について,あらかじめ定められた一定の接続方向に接続していって,その終
点と始点が一致したときは,それらの線分の組合せについて,面データの閉領域デ
,。ータとしてこれを自動的に作成するものであることを規定していると認められる
そして,ここでいう「線分からなる面データ」とは,構成要件1Dの後半で,始
「」,点と終点が一致しないときにも線分からなる面データが作成されることからも
線分を所定方向に接続することによって構成される一本以上の線分の組合せをいう
ものと解することができる。
(6)構成要件1Dの後半(終点が始点と一致しないときはそれらの線分からな「
る面データを自動的に作成して)について,」
上記(5)及び本件訂正明細書の記載に照らせば,構成要件1Dの後半は「座標,
上の線分」について,あらかじめ定められた一定の接続方向に接続していって,そ
の始点と終点が一致しないとき,それらの線分の組合せについても,面データとし
て,これを自動的に作成するものであると理解することができる。
なお,ここでは,データの「作成」をすることが規定されているのであり,構成
要件が規定するのはデータの「作成」であり「記憶」等ではない。,
(7)構成要件1E(該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示「
し)について,」
ア本件特許発明1は「座標上の線分」をあらかじめ定められた一定の接続方,
向に接続していって,その始点と終点が一致しないときでも,それらの線分の組合
せを面データとして作成するのであるが,構成要件1Eは,そのような線分の組合
せにおいて,不連続となる始点と終点について,知らせるための表示を行うもので
あると認められる。
本件特許発明1において,構成要件1Dまでが面データ,すなわち,線分の組合
せの作成に係る構成であるが,構成要件1Eは,そのように作成された線分の組合
せについて,始点と終点が一致していないときに,これを「不連続となる始点及び
終点」として,報知表示することを規定しているのであって,構成要件1Dが規定
している,線分を「所定方向に接続」するという工程とは別個の工程である。報知
表示するためにどのように「不連続となる始点及び終点」を発見するかが,特許請
求の範囲において一義的に直接,記載されているものではないし,その発見のため
に,線分の「所定方向の接続」などの作業を規定するものではない。
そして,本件訂正明細書の第1の実施例には「不連続となる始点及び終点」を,
発見するための具体的な手法についての記載はなく,第2の実施例とされているも
のにおいては,不連続部の修正作業に関連し,点データへ接続する線データの本数
を検出して孤立点を検出することが記載されている(段落【0042。】)
イ構成要件1Eの「不連続となる始点及び終点」について,具体的に特許請求
の範囲には「終点と始点が一致しない」としか規定せず,そもそも,始点と終点,
をどのような方法で決定するかが明らかでないので,どのような点を「不連続とな
る始点及び終点」とするかが,必ずしも一義的かつ明確に決まるものではない。
しかし,本件訂正明細書の実施例において,ステップS55で,他の線データへ
の接続がなく,点データから出る線データが一本のみである「孤立点」であれば,
ステップS56に進むとしていること(前記(1)シ,第2の実施例とされている)
,「())」(【】),ものにおいて検出された孤立点不連続点座標段落0038として
孤立点を不連続点と記載していること,他方「分岐点(接点(同コ)として挙,)」
げられている点を「不連続となる始点及び終点」とすることについての記載,示唆
はないし「分岐点」のように複数の線分に接続する点を「不連続となる始点,終,
点」とするような始点,終点の決定方法をあえて想定する根拠が実施例も含めた本
件訂正明細書に記載されているものでないことに照らすと「不連続となる始点及,
び終点」は,点データから出る線データが一本のみである孤立点と一致するものと
一応認められる。
(8)構成要件1F(該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力「
に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し)に」
ついて
構成要件1Fの「該不連続点」とは,構成要件1D,1Eなどに照らしても,所
定方向に接続していった線分の組合せにおいて,始点と終点が一致しないときのそ
れら「始点「終点」をいい,報知表示されている点であって,構成要件1Fは,」,
それらの点について,任意の点,又は線に接続する線データを入力して,これを生
成し,これについて,その線分の組合せについて,始点と終点が一致する線分の組
合せである閉領域データを作成することを規定しているものと解釈できる。
ここで,構成要件1Eと同様,この工程は,線分の「所定方向の接続」を規定す
る構成要件1Dとは別個の工程であり,線データの入力について,線分の「所定方
向の接続」と同様の工程を経ることが規定されているものではない。
(9)構成要件1G(上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領「
域データを記憶,表示又は印刷する)について。」
これは,構成要件1D前半において自動的に作成された閉領域データ及び構成要
件1Fにおいて作成された閉領域データについて,属性データを付与することが可
能になるようにし,閉領域データについて,記憶,表示,印刷することを規定して
いるものと解される。
構成要件1Gにおける「属性データを付与可能」とすることについて,実施例に
は,閉領域に,番号が自動的に一括して順次付与されること,番号に対して属性を
示すデータを入力することにより,番号により特定された地域や地点に属性が付与
されることが記載されているが(前記(1)ソ,これは,閉領域データに属性データ)
を付与可能にする一方法を示したものと理解でき,属性データを付与可能にする方
法が,上記実施例のように,番号を自動的に一括して順次付与することなどにより
されるものに限定されるものとは認められない。なお,この点は,後記5でも再度
検討する。
(10)本件特許発明1の要旨は上記のとおりであり(基本的に前判決が認定した
とおりであって,同認定は合理的であり,これを覆すに足りる証拠はない,以上。)
を前提として,原告らの主張する取消事由の有無につき検討することとする。
(「」2原告エン企画が主張する取消事由1本件特許発明1の二次元の線データ
及び「座標上の線分」等の認定の誤り)について
(1)原告エン企画は,本件特許発明1の「二次元の線データ」及び「座標上の線
分」はトポロジー構造を有するものであって,その具体的な構造に何ら限定がない
とする審決の認定は誤りである旨主張する。また,原告エン企画は,前判決におけ
る「二次元の線データ」の認定につき,法的な拘束力はない(前判決は,この点を
理由として前審決を取り消したものではない)から,裁判所が本訴において改め。
て厳密な解釈を行うことも許される旨主張する。
(2)しかし,本件特許発明1の請求項1には「二次元の線データ」や「座標上,
の線分」につき,原告エン企画が主張する「トポロジー構造のファイル」や「点,
データと関連付けられ,面データを構成できる機能を有する」ことについては記載
,,。がなく原告エン企画の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づくものではない
そして,本件訂正明細書(丙40)上においても「二次元の線データ」や「座,
標上の線分」につき明確に定義する記載はない。
もっとも同明細書丙40の実施例では二次元の線データは段落0,(),「」,【
013】の2箇所に記載されており(前記1(1)カ,ここでは,Lファイル2a)
の要素数1∼nに分割された「線データ」を解析して,Dファイル2bの「点デー
」。,タ及び二次元の線データとして出力することが記載されているこの実施例では
「二次元の線データ」がDファイルの一部であるとされているが,特許請求の範囲
において何ら限定がないにもかかわらず,上記実施例の記載のみをもって,原告エ
ン企画が主張するように,本件特許発明1の「二次元の線データ」や「座標上の線
分」が「トポロジー構造」を有するなどと認定することはできない。
,,「,このほか原告エン企画はトポロジー構造を有する面データを作成するには
『』」。基となる二次元の線データもトポロジー構造を有する必要がある旨主張する
しかし,仮に「面データ」がトポロジー構造を有するとしても,これによって,
直ちに,そのような「面データ」を生成する基となった「二次元の線データ」もト
ポロジー構造を有するとはいえない。
(3)なお,原告ペンタくんも,原告エン企画の上記主張と同様の主張をする(た
だし,原告ペンタくんによれば,これは独立した審決取消事由ではないとのことで
ある)が,上記同様,理由がない。。
,「」「」(4)以上のとおり本件特許発明1の二次元の線データ及び座標上の線分
はトポロジー構造を有するものには限定されず,この点に関する原告エン企画の主
張は理由がない。
3原告エン企画が主張する取消事由2及び原告ペンタくんが主張する取消事由
1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告らは,いずれも「ベクトルデータにつき,その後の処理に使用するた,
めに『線端を示す点データを含む』二次元の線データに自動的に変換する」という
,((),構成要件1Bの容易想到性を否定し被告らが提示した各種文献甲4乙10
甲7,9,乙11,甲2のDXFARCコマンドに関する部分。なお,本判決において
は,英語の文献は日本語訳(甲4の1等)を引用する。また,本判決で指摘する各
種文献のうち甲39以外の文献(英語の文献については原文献を指す)が,いず。
れも本件特許の優先日前に刊行・公表されたことに特段争いはない)は,いずれ。
も本件特許発明1とは異なる技術を開示するにすぎない旨主張する。
,,,しかし本件特許発明1の構成要件1Bの容易想到性を検討する上で各文献が
それ自体で構成要件1Bをすべて開示しているかではなく,そのような構成を採る
ための示唆があるかを問題にすべきものであって,各文献が示す技術が具体的な構
成において本件特許発明1とは異なる旨の原告らの主張部分は理由がない。
,,そして大量のデータ変換を手作業で行うことが煩雑であることは自明であって
このような作業を自動化しようと試みることは当然であるといえ,甲5(コンピュ
「カナダでCGISとCANSYS間でデータ交換の必要がータ・マッピング入門)上の
起きたが,論理的な変換が不可能であったため,いったんXYプロッタで出力した地図をディ
との記載(189頁)も,データ変ジタイザで入力したという冗談みたいな話がある」。
換を自動的に行うよう試みることが技術常識であったことを示す記載といえる。
「アーク・ノードデータ構造では・・・点また,乙10(入門地理情報システム)に
が重要な基本的構成要素である。アークは一連のx−y座標対で定義される独立した線分であ
る。ノードはアークの端にあり,アークの交点をなす。線の端点であるノードと線に関係のな
いノードを明確に区別することもある。ポリゴンは,複数のアークで完全に囲まれた領域であ
る。したがって,ノードは二つ以上のアークに,またつながっている二つ以上のポリゴンに共
と記載されている(乙10の1の41ないし42頁)ことからすれば,有される」。
「」。アーク・ノード構造のデータが線端を示す点データを含むことが明らかである
さらに,乙10においては,全ポリゴン構造のデータをアーク・ノード構造に変換
することについても検討されている(乙10の1の64頁。)
このほか,データの表現形式を変換すること自体は,乙10の「6.1.1データ構
」(),()造変換乙10の1の62ないし68頁甲5コンピュータ・マッピング入門
の「1データ交換の必要性(189ないし190頁「CADデータ入力を効」),
「最後にベクト率化,図面の自動入力装置に脚光」と題する論文(甲31の75頁。
ル化したデータをユーザーが持つCADシステムに合わせたフォーマットに変換して,データ
)をCADシステムに渡すコンピュータ・マッピング・システムの場合も手順は同じである。。」
等にも記載されているように,普通に行われていることにすぎない。
以上からすれば「ベクトルデータにつき,その後の処理に使用するために『線,
端を示す点データを含む』二次元の線データに自動的に変換する」という本件特許
発明1の構成要件1Bは容易想到であったというべきである。
(2)原告らは,いずれも「二次元の線データ』につき,途中に接点や交点を持,『
たない線分とする」という構成要件1Cの容易想到性を否定し,被告らが提示した
甲7,9,乙11は,いずれも上記容易想到性を肯定する根拠とならない旨主張す
る。
しかし,上記(1)同様,各文献の位置付けについての原告らの主張は採用できな
い。
そして,甲2(ARC/INFOUsersGuideVolume2(ARC/INFO第2巻)に,CLEAN)
「CLEANはカバレッジ・ノードとポリゴンを明確にするためにカバレッジコマンドに関して
・アークとラベル点に幾何学的解析を実行してポリゴンおよびアーク・ノード・トポロジーを
構築します。CLEANによって行われる具体的な幾何学的解析は次のとおりです「CLEANはア。」
ーク間の交点を見つけ,アークを分析(判決注:分割」の誤りと解される)し,交点にノー「。
との記載がある(126頁)ことに加え,甲2がド(アークの終点)を作成します」。
ユーザーズガイドであることからすれば,アーク間の「交点」で分割し,同交点に
ノード(アークの終点)を作成することは周知であったといえる。
「第2図は,本発明にこのほか,乙11(特開平1−274285号公報)には,
よる図形データ処理工程の一例を示す説明図である。図(イ)に示すような境界図形が第1の記
憶部21にあると,まず,第1の回路11ですべての境界図形を閉図形とし,第2の回路12
で曲線の折れ線近似を行い,その交点,接点における分割処理を行ったのち,それらのベクト
ル線分に対し,図(ロ)に示す如く,第4の回路14により,属性としてのカウント値を,周辺
との記載がある(3頁左下欄∼右下部にあっては1,内部にあっては2だけ付与する」。
欄。乙11に開示された上記技術では,線分への分割前に境界図形を閉図形とし)
ており,本件特許発明1とはデータのフォーマット上の差異もあるが,いずれにし
ても,乙11には,交点,接点における線分への分割処理が記載されているもので
ある。
以上の甲2のCLEANコマンドに関する記載や乙11上の記載からすれば「二次,『
元の線データ』につき,途中に接点や交点を持たない線分とする」という本件特許
発明1の構成要件1Cは容易想到であったというべきである。
(3)原告らは,本件特許発明1の構成要件1Bないし1Dは,共通の目的のため
の一連の構成要件であって,いずれも単独では課題解決に意味をなさないにもかか
わらず,被告らが構成要件1Bないし1D全体の容易想到性を論じていないことを
不当であると主張する。
しかし,そもそも審決の取消しを求める以上は,審決自体の問題点を指摘すべき
であって,被告らの主張の問題点を指摘しても意味がない。
原告らの主張が審決自体の問題点を指摘する趣旨であったとしても,審決は,構
成要件1Bないし1Dの各要件ごとに全く独立して容易想到性を判断しているので
はなく,本件特許発明1の全体を考察するについて,単に,便宜上,クレームの記
載を分説して判断しているだけであり,このような審決の採用した容易想到性に関
する判断方法は何ら不当ではない。
(4)ア原告エン企画は,甲2発明においては「キー値」の入力を必要とする(す
なわち,トポロジーを有する面データの作成が自動的に行われてはいない)から,
ベクトルデータのみからトポロジーを有する面データ作成を自動的に行うための構
成である本件特許発明1の構成要件1B,1Cを想到するのは容易ではないと主張
するので,検討する。
「,。イ甲2には,ユーザーが利用することのできる第3の論理装置は座標入力装置です
座標入力装置は,ユーザーのディスプレイ画面上のカーソルの位置,またはデジタイザー上に
貼られた地図の位置を定めて入力するために使用します。座標入力装置は,2つの情報,すな
わちカーソルの位置のx,y座標値とカーソルの位置を入力するために使われるキーを
ARC/INFOに送ります。特別なキー番号を使うことが重要であり,キー番号がソフトウェアに実
行するべきことを伝えます。例えば,1本のアークを入力するためには,カーソル上で2のキ
ーを使えば,アークを開始し,1のキーはアークに沿ってバーテックスをデジタイズするため
に使われ,再び2のキーを使えば,アークを終了します。様々なサブシステムにおいて12ま
での異なるキーが,コーディネート装置で使われます。ARCEDITのコマンドは,多くのキーオ
との記載がプションをもちます。とりわけ,アークの追加と編集に関して多いようです」。
あり(8−6頁,同記載からすれば,甲2における「キー値」は,座標入力装置)
によって,xy座標値とともに入力される数値で,キー値「2」は,1本のアーク
の入力の開始と終了を表し,キー値「1」は,アークに沿って入力途中であること
を表すものであり,甲2におけるキー値入力は,デジタイザ等による座標値の入力
と同時に行われるものといえる(座標値入力とキー値入力とが異なる時点で行われ
る旨の記載や示唆は全くない。。)
一方で,本件特許発明1の構成要件1Aは,ラスターデータからベクトルデータ
の作成に関する構成で,構成要件1Bは,ベクトルデータから二次元の線データへ
の「自動的な」変換に関する構成である。
そうであるとすれば,甲2の「キー値」入力は,座標値入力と同時に行われるの
であるから,本件特許発明1の構成要件1Aに対応することになるところ,本件特
許発明1の構成要件1Aにおいては,ラスターデータからベクトルデータを作成す
る具体的な方法につき特定はない(構成要件1Bにおいては,訂正により「自動的
に」という限定がされたが,構成要件1Aについては,このような限定はされてい
ない)から,キー値の入力の有無は,そもそも甲2発明と本件特許発明1との相。
違点とはならないものである。
ウ仮に,本件特許発明1において「オンスクリーン入力方式」という手動入力
方式を採った場合,①ユーザーが最初に指定した点,②その後に指定した点,③ユ
ーザーが最後の点として指定した点の各入力作業が必要である(この点は,被告ら
と原告エン企画との間で争いがなく,被告らと原告ペンタくんとの間では弁論の全
趣旨によって認められる。。)
他方で,甲2の「キー値」入力においては,キー値「2」の入力が上記①及び③
に対応し,キー値「1」の入力が上記②に対応するから,仮に本件特許発明1にお
いてオンスクリーン入力方式を採った場合には,キー値によってアークの始点・終
点等を指定するのと同等の作業が必要ということになる。
したがって,甲2発明において,手動入力方式を採った場合にキー値の手入力を
必要とするとしても,本件特許発明1においても,仮に手動入力方式を採った場合
には,キー値に相当する情報の入力が必要であって,この点は,両者の相違点とは
ならない。
「(),()エ甲2には,スキャニング走査地図をスキャンニングしてラスター値ON/OFF
を一連の座標に変換する(ラスターベクトル変換です)装置によって実行されます。ARC/INFO
との記載はそのような座標を,デジタイザーで入力された座標と同じように取り扱います」。
がある(4−6頁)ところ,審決が引用発明(甲2発明)として認定した発明は,
入力にスキャニングを用いるラスターベクトル変換(自動変換)方式のものである
(前記第2の3(2)イ参照。)
甲2には,自動変換方式を用いる場合において,キー値の手入力の要否について
は明示されていない。しかし,上記のとおり,甲2において,地図をスキャニング
してラスターベクトル変換により一連の座標に変換していることARC/INFO「」「」,
では,このような座標をデジタイザーで入力された座標と同様に取り扱うことに加
「デジタイザーのカーソルボタンえ,丙20(甲2(ARC/INFO第1巻)の全文)には
を押す度に,新しいx,y座標(バーテックス)がフィーチャーに追加されます。アークをデ
ジタイザー入力するには,トレースする時にアークに沿ってとびとびにカーソルキーを押しま
との記載があり(10−3頁参照,デジタイザ入力では,アーク(始点と終す」。)
点を有する線データ)が入力されているものである。
「電子計算機システムを利また,乙14(特開昭60−195675号公報)には,
用した画像処理においては・・・たとえば被処理画像が道路地図等の線図形の場合には,こ,
れを図形構成画素を”1”とし背景構成画素を”0”とする2値画像データに変換したあと,
これをたとえば折点・分岐点および交差点等(以下屈曲点と総称する)ならびに端点等を境界
との記載として部分線図形に分割し,各々の部分線図形をベクトルデータに変換すること」
があり(1頁左欄の下から1行目∼右欄11行目まで,添付図面(第1図)にお)
いて「端点抽出回路3」との記載がある。そして,乙15(特開昭61−5375
「・・・図において・・・2は画像メモリ1に記憶さ号公報)の【従来の技術】欄には,
れた第4図(a)に例示するような画像データ・・・の輪郭を追跡して,接点・・・および屈曲
との記載があり(2頁左上欄10行点・・・を抽出し記憶する端点抽出部であり・・・」
),()「」。,以下添付図面第3図において端点抽出部2との記載があるすなわち
乙14,15には,端点や屈曲点(折点,分岐点,交差点)の間を1単位として,
当該単位ごとにベクトル化することが記載されているといえる。
「これに対し,ANATech図面自動入力シスこのほか,前出の甲31において,
テムでは,専用のハードウエアにより読み込みと同時にベクトルの始点,終点,交差点を検出
との記載がある(78頁∼79頁)ほか,スキャナーで読み込まれたラスターし」
データのベクトル化により始点と終点の座標を抽出することが記載されている8,(
2頁図A。)
以上の記載を総合して得られる技術水準を前提とすると,スキャナー入力でラス
ターデータからベクトルデータを作成する場合,一定のルールに従って1レコード
に収めるべきデータの範囲を決定しているため「キー値」ないしそれに相当する,
情報の手入力は不要と認められ,甲2においても,スキャナー入力の場合には,キ
ー値の手入力は不要である。
オこのほか,原告エン企画は,分岐点にノードを置かなければ二重アークが生
じる旨主張する。
確かに,丙38には,重複したアークが作成されることを防ぐ方法等が記載され
ているが,これは,スキャン入力時に(ラインの分岐点ではなく)ラインの中間点
からトレースを開始すると,重複したアークが作成される可能性があるとの記載で
あって(丙38の122頁参照,あくまで同じ位置を重複してスキャンすること)
による問題であり,分岐点にノードを置くか否かとは直接関係がない。
もっとも,前記(2)のとおり,ARC/INFOにおいては,CLEANコマンドの実行によ
り,アーク間の交点にノードを自動的に作成することが可能であるから,そもそも
原告エン企画が主張するような二重アークは生じない。
カまた,原告エン企画は「キー値を誤ると複数のアークが1本のアークに連,
結するなど不正結合が生じるため,キー値は人間が判断するしかなかった」とも主
張する。
しかし「不正結合」とは,入力を誤ったことによる不具合であるため,人間が,
()。,入力を誤った場合でも発生するものである例えば丙24の67頁参照そして
自動的な処理においてエラーが生じた場合,人がそのエラーを補助的に修正するこ
,「」とは普通に行われていることからしてもキー値は人間が判断するしかなかった
とはいえない。
キ原告エン企画は,前判決の認定からしても,甲2発明はベクトルデータから
面データ作成を自動的に行うものではなく,キー値を手入力する必要があると主張
する。
「前)審決は『フィーチャーを定義してトポロジしかし,前判決(66頁参照)は,(,
ーを生成し』と認定しているのであって,甲2発明として,ラスター/ベクトル変換で得られ
たベクトルデータから自動的にフィーチャーを定義できるとの発明を認定したとは認められな
とするのみであって,甲2発明がベクトルデータから面データ作成を自動的にい」
行うか否かにつき明示的に判断したものではなく,この点に関する本判決の認定と
前判決の判断が矛盾するものではない。
ク原告エン企画は「ノードを配置すべき座標を人間の判断で入力する技術し,
か開示されていない甲2から,線データ(ベクトルデータ)のみからトポロジー構
造を有する面データを自動的に作成するという本件特許発明1のコアともいうべき
構成要件1B,1Cに係る構成を容易に想到できるはずがない」と主張する。。
しかし,前記イのとおり,キー値の入力は,構成要件1Aに係る部分であって,
これが構成要件1B,1Cに係る部分であることを前提とする原告エン企画の上記
主張は,前提を欠くものである。
ケ以上のとおり「キー値」の入力の有無は,そもそも甲2発明と本件特許発,
明1との相違点とはならない上,いずれにおいても,仮に手動入力方式を採ればキ
ー値やこれに相当する情報の手入力が必要になり,自動変換方式を採れば手入力は
不要になるものであって,キー値に関する原告エン企画の主張は理由がない。
(5)ア原告エン企画は,ラスターデータから取得した座標点列にすぎないベクト
ルデータからトポロジーを有する面データを得ることは不可能であり,そのような
面データを作成するにはトポロジーデータの手入力が必要であるとの固定観念が存
在したものであって,甲2発明もそのような固定観念にとらわれている旨主張し,
その根拠として各種文献(丙17ないし19,24ないし26等)を挙げるので,
検討する。
(),,イ丙17数値地図ユーザーズガイドの図1−9にデジタイザ入力に関し
,()「」「」ノード計測左・右ポリゴンID入力や等の記載があり丙18国土数値情報
「例4道路の計測」「まず道路と図郭線との交点,道路のに(デジタイザ入力に関し,)
の交差・分岐点,路線の始終点,道路施設等の変化する点等に直径1mmの円を記入する。こ
との記載があるれをノードと言い,2つのノードの間を結ぶ道路の区間をアークと言う」。
()。,,,「」24頁このように丙17丙18にはデジタイザ入力においてノード
入力が必要である旨が記載されているといえる。
,,(),しかし他方で乙23ARC/INFOユーザーマニュアルバージョン3には
「デジタイジング・・・手作業によるデジタル化は時間がかかり,単調な作業である。
ARC/INFOはマップフィーチャーを自由な形でデジタイズするので手作業に比較して簡単であ
る。例えば,ラインは『スパゲッティ』としてデジタイズでき,ラインが他のラインと交差す
と記載されており(30頁,甲2より前のバージョる位置を定義する必要がない」。)
ンのARC/INFOにおいて,デジタイザ入力の場合も,交点の入力は必須ではなかっ
たと認められる。
なお,原告エン企画は,丙20の5−3頁にも,ノードがトポロジーデータであ
ることが記載されているとも主張するが,いずれにしても,上記のとおり,デジタ
イザ入力の場合に常にトポロジーデータの入力が必須であるとは認められない。
また,そもそも,前記(4)エのとおり,スキャナー入力では,キー値等の手入力
は不要である。
ウ(ア)丙24(東京都都市計画地図情報システム開発調査報告書(なお,丙2)
5は丙24の概要版である)には,以下の記載がある。。
「オート・デジタイズ」a
「作業方法」(a)
「・・・スキャナを用い既成図をラスタ・データとして入力し,ラスタ/ベクタ変換によっ
(6て,ベクトル・データを生成する。生成されたベクトルデータに対し,属性を付加する。」
8頁)
「特徴」(b)
「地図図式から自動的に構造(データ種別)を分ける技術が未発達であり,現在のところ,
建物について実用化されているにすぎないこのためあらかじめ入力原図を作成し構造デ。,,(
(68頁)ータ種別)を分ける必要がある。」
「実験フロー」b
「西新宿方面約1kmについて航空写真よりディジタルマッピング手法により,真位置デ

ータファイルを作成する。さらに地形図として図式表現した原図の作成を実施する。ハンドデ
ジタイズ及びオート・デジタイズの両手法は,この原図を用いてデータ入力を行なうことにな
る。ハンド・デジタイズの場合,地形図として表現されたデータの内容全てを網羅することは
人的作業において不可能であるため,建物データの収得にとどめた。オートデジタイズ手法で
は全てのデータを一律に組み込み,ベクトル化を図ることになり,図式表現された地形図が,
(69頁)属性をもたない線データとして,認識された。」
「実験結果」c
「データ量」
(70頁)「それぞれの手法によるデータ量は以下のようになった。」
以下省略
判決注:DM(デジタルマッピング)データについては,線データ及びセグメン
ト数につき,建物データが「内数」として記載されており,他方で「オート・デ,
ジタイズ」については,線データ及びセグメント数について「内数」の記載がな,
い。
「データ乖離量」d
「ハンド・デジタイズとDMデータから建物データを面として扱い,DMデータを基準にし
たデータ乖離量を求めた。
オート・デジタイズによるデータは,建物データという意味の属性がついておらず,また面
(71頁)的な認識もできないため,比較の対象とはしなかった。」
(イ)原告エン企画が指摘するとおり,丙24には「オート・デジタイズ」によ,
るデータは面的な認識ができないとの記載がある(上記(ア)d参照。)
しかし,上記記載は,西新宿の航空写真に基づいて,実験的に作成したある地図
データ(建物データの線データと他の属性のデータの線データが混在した地形図デ
ータをそのままオートデジタイズしたデータ)につき,建物データという属性がつ
いておらず,面的な認識ができないという事例の紹介にすぎず,この記載により,
およそオートデジタイズデータにつき,一般的に面的な認識ができないものと認め
られるものではない。
そもそも上記(ア)a(b)からすれば,建物データを分ける技術は丙24作成時にお
いて既に実用化されていたものであって「建物データを面として扱う」こと自体,
は可能であったものと認められる。
そして,上記(ア)dのとおり「面的な認識ができない」理由については丙24上
に明確な記載がないものの,例えば,建物以外に道路等のデータが混在する地形図
では,各属性のデータが混在しており,入力データが不適切なことが原因で,面デ
ータが認識できなかったものと推測される。
「オート・デジタイズ手法によるベクトル・データは,白図のラこのほか,丙24には,
スターデータを圧縮したものとみることができる。また図形毎に階層化した属性が与えられな
いため(別版にして入力すれば可能である)単なる背景としてしか利用できないという弱点を
との記載もある(72頁)ことからすれば「地図を複数の別版にすれば属持つ」。,
性を付与できる」ものと認められる。
「またスキャナによエ丙26(被告株式会社パスコの担当者の発表論文)には,
との記載がある(70頁右るデータをARC/INFOへ取り込む研究も積極的に行っている」。
欄。)
「トポロジ・データは,内部ID番号を用いた表として自動生成さしかし,丙26には,
れる」「このような特徴は,スキャナにより入力されたデータを。との記載(67頁右欄),
扱う際に,非常に有効となる」「これらの機能は,図10に示す。との記載(69頁左欄),
との記載(70頁左欄)のほか,図ARC/INFOのモジュールによりサポートされている」。
10には,ARC/INFOのモジュールとして等とともにの,「デジタイザ」「スキャナ」
記載がある(70頁左欄)ことからすれば,ARC/INFOにはスキャナーによるデー
タを取り扱う技術が既にあったものと認められる。
昨オ丙194色問題の数値地図への適用と題する論文には発表者が(「」),「
年のエン企画特許問題が生じる前に・・・アークデータのみあれば,ポリゴンデータが生成さ
との記載がある(63頁右欄。れるのではないかと考えていた」)
「発表者は・・・GISの先進技術を深く習得したわけではなかっしかし,丙19には,
との記載もあり(63頁左欄,丙19の発表者がGISの先進技術についてた」。)
習得が深くないことからすれば同人の認識に関する上記記載からポリゴン面,,「(
データ)の自動生成」についての当時の技術水準を認定することはできない。
カ以上のとおり,原告エン企画が挙げる各種文献(丙17ないし19,24な
いし26等)はいずれも「トポロジーを有する面データを作成するにはトポロジ,
ーデータの手入力が必要であるとの固定観念」が存在したことの根拠とはならず,
その他,上記固定観念が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
キなお,原告エン企画は,乙11に記載された発明につき,周囲の線分とポリ
ゴン境界をなす線分とを区別して,前者にカウント値1を,後者にカウント値2を
付加して,線分接続の際にカウント値を減算することにより面認識を試みるなど,
複雑な処理を要していたもので,線データから面データを認識することは不可能で
あった旨主張する。
しかし,複雑な処理を要するとしても,乙11に現にそのような処理方法が記載
,,されている以上線データから面データを認識することができないことにはならず
原告エン企画の上記主張は理由がない。
(6)原告エン企画は「甲39(ArcScanner)は公知性が証明された文書ではな,
く,いずれにしても,甲39においては,ラスターデータからカバレッジ変換をす
る構成を明示しておらず,甲39では画素分析によりノードを認識するのに対し,
本件特許発明1においては線データを分割してノードを発生させるものである」。
旨主張する。
しかし,審決は,甲39(ARCSCANNERユーザーズガイドRev3.2)につき,デ
ータの変換一般につき「自動的に行う」ことが周知であることの根拠として引用し
たものであって(審決47頁参照,具体的にどのように変換するかまで引用する)
ものではなく,具体的な変換方式の相違に関する原告エン企画の主張は,採用でき
ない(ただし,本判決においては「データ変換が自動的に行われること」が周知,
であったことの根拠として甲39を用いるものではない。。)
(7)原告ペンタくんは,本件特許発明1が容易想到であるならば,甲2において
デジタイザを使用する必要はない旨主張するが,精度や用途に応じて各種データ入
力方式を選択すべきであることは自明であって,原告ペンタくんの上記主張は理由
がない。
(8)原告ペンタくんは,審決の46頁の「ベクトルデータからベクトルデータに
含まれる各線分を得ること」との記載につき,本件特許発明1はベクトルデータか
ら任意の一部を線分とするものではない旨主張する。
しかし,審決の上記記載における「線分」には「接点,交点を含まない」との意
味があるものと解されるところ,このように解した場合には,同記載は,構成要件
1Cと実質的に同じ内容を述べているにすぎず,ベクトルデータの「任意の一部」
を線分とすることを述べるものではない。
また,原告ペンタくんは,審決の40頁の「明細書の『線分』のうち,二次元の
線データを分解して得られた線分について,他の線分と区別するために『座標上の
線分』という表現を導入したもの」との記載につき,審決が「二次元の線データ」
から「座標上の線分」への変換の工程以外に,線分が存在することを前提としてい
る上,座標上の線分が二次元の線データを分解したものと解している点で,前判決
にも矛盾している旨主張する。
しかし,審決の上記記載は,平成10年1月29日付け手続補正の適法性を検討
している部分にすぎず,ここでの検討は審決による本件特許発明1の認定部分では
ない。また,仮に,審決の上記記載が,原告ペンタくんが主張するような誤解を招
くものであるとしても「座標上の線分」以外に「線分」が存在するか否か等は審,
決の結論に影響を及ぼすものではなく,いずれにしろ原告ペンタくんの上記主張は
理由がない。
,,()(9)原告ペンタくんは審決が引用発明がベクトルデータだけから面閉領域
を定義できると考えているとすれば,誤解である旨主張する。
しかし,審決の相違点1の判断における「フィーチャーの定義を,ベクトルデー
タから直接行うか,線分データから行うかは,当業者が適宜選択する事項にすぎな
い」との記載のうち「ベクトルデータから直接行う」の部分は,ベクトルデータ。
から(線分に分ける等の中間処理をせずに)直接,面データ(フィーチャー)を生
成することを述べたにすぎず,審決が線データ(ベクトルデータ)と面データとを
混同したものではなく,原告ペンタくんの上記主張は理由がない。
また,原告ペンタくんは,座標点列から閉領域は作成できないとも主張するが,
乙10に,全ポリゴン構造のデータをアーク・ノード構造に変換することが記載さ
れている(乙10の1の64頁参照)ことからしても,座標点列からトポロジー構
造への変換は周知といえる。
このほか,原告ペンタくんは,全ポリゴン構造(乙10参照)は点データと線デ
ータからできた閉領域ではない旨主張するが,被告らは,全ポリゴン構造につき,
点データと線データからなるとは主張しておらず,この点に関する原告ペンタくん
の主張は理由がない。
なお,原告ペンタくんは「審決は,従来技術が閉領域を表すため,閉領域内部,
に代表点を設けてきたことを理解していない」とも主張するが,審決の説示がその
ように解されるとは認められない上,原告ペンタくんの主張は,審決の取消しにい
かなる影響を及ぼすものであるか不明であるから,失当である。
(10)原告ペンタくんは「引用発明は,座標点にキー値を付加し,ポリゴンを,
作成してデジタイズされたラベルポイントを作成するものである」旨主張する。
しかし,同主張の位置付けは不明確である(原告ペンタくんは,引用発明の認定
の誤りを審決取消事由としていない)上,審決は,甲2のスキャニングに関する。
記載(4−6頁参照)等に基づいて引用発明を認定したものであるところ,原告ペ
ンタくんは,引用発明に関し,キー値の付加やデジタイズ等に言及するなど,審決
が認定したものと異なる内容(手動入力方式)につき主張しており,審決を正解し
ていないものといわざるを得ない。
このほか,原告ペンタくんは,甲2発明のポリゴンフィーチャーは,名称とパラ
メータのみでは十分に定義できないとも主張するが,同主張の位置付けも不明確で
あり(これが仮に審決の相違点3の認定に関する主張であるとしても,原告ペンタ
くんは,相違点3の認定の誤りを取消事由として主張していない,その当否が審。)
決の結論に影響を及ぼすものとはいえず,失当である。
(11)以上のとおり,相違点1についての容易想到性に関する審決の「甲2発明
において,ベクトルデータからフィーチャーの定義を行うために,ベクトルデータ
から一連の折れ線を抽出して,線端を示す点データを含む二次元の線データに自動
的に変換し,この二次元の線データを座標上の線分に変換し,座標上の線分をフィ
ーチャー,すなわち図形要素の定義に供するよう構成することは当業者が容易にな
し得た」との判断に誤りはなく,この点に関する原告らの主張はいずれも理由がな
い。
4原告エン企画が主張する取消事由3(相違点1についての容易想到性の判断
における理由不備)について
原告エン企画は,審決が,構成要件1B,1Cにつき,証拠に基づく具体的な事
実を何ら摘示せず,周知技術であるとか設計事項にすぎないなどという,検証不能
な抽象的な判断で安易に容易想到と判示したものであって,理由付けの記載を欠く
違法がある旨主張する。
確かに,審決の相違点1についての容易想到性の判断では「周知「技術常識」,」
「格別困難なことではない」といった文言が用いられている部分が多いが,特定の
技術が実際に当業者に周知であるならば,そのような記載で足りることもあると解
される上,そもそも,審決の判断に供されたある技術が周知であることは,当該技
術の構成が特定されている限り,証明の成否の問題であり,審判段階で立証が不十
分であっても,審決取消訴訟で補充立証をすることが原則として許されるものであ
る。本件では,ベクトルデータから二次元の線データへの変換過程につき「甲2,
には,データの変換が自動的に行われることが記載されていると推察され,仮にそ
うでないとしても,甲39に示されるように,変換を自動的に行うことは周知であ
る」として証拠が引用されており,証拠の引用が全くないわけではなく,理由不備
ということはできない。そして,本件訴訟では,審決が周知技術として用いた技術
が周知であることについて,関係証拠によって証明されているところである。
また,前記2,3のとおり,原告エン企画が主張する取消事由1,2はいずれも
理由がない以上,相違点1の容易想到性に係る審決の理由付けの記載の程度が,本
件での結論に影響を及ぼすものでもなく,原告エン企画の上記主張は理由がない。
5原告エン企画が主張する取消事由4及び原告ペンタくんが主張する取消事由
2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)について
「アーク・ノードデータベースでは,いろいろな属性データを簡単に導入(1)乙10には
することができる」「アーク・ノードの例では,デとの記載(乙10の1の42頁)や,
ータの属性値は,位相情報とともに保存されていた。リレーショナルデータ構造では,属性情
報は分離独立している。この方法は現在,市販の地理情報システムでもちいられている一般的
な設計手法となっている・・・ポリゴンについてのテーブルでは,面積や土地利用規制,評。
との記載(同43頁)があり,以上からす価額,所有権について記録することもある」。
れば,地図データ(閉領域データを含む)に属性情報を付与可能にすることは周。
知技術であったと認められる。そして,データの記憶,表示,印刷も極めて普通に
行われることである。
したがって「甲2発明において,閉領域データに属性付与を可能にし,記憶,,
表示,印刷するよう構成することは,当業者が容易になし得たことである」旨の審
決の判断に誤りはない。
(2)原告らは,①審決が,相違点2の判断に当たり,属性付与の段階の相違につ
いて判断遺脱している旨,②属性付与可能にするとは「識別子を付する」ことであ
り,PATの作成をもって属性付与可能になるものではない旨,③本件特許発明1に
は,ラベルエラーのチェックや修正作業をほぼ不要にするなど,顕著な効果がある
旨,④CREATELABELSコマンドについての主張は許されず,そもそも同コマンドは
例外的な場合に使用されるにすぎない旨主張する。
しかし,そもそも,原告らは,甲2発明と本件特許発明1の相違点2の認定につ
き審決取消事由として争うものではない上,本件特許発明1については,構成要件
1Fまでで作成された閉領域データについて,属性データを付与可能にしているも
のであるが,審決の「本件特許発明1が『各閉領域データに属性データを付与可能
にして・・・」との相違点2の認定においても,そのように,構成要件1Fまで』
で作成された閉領域データについて,属性データを付与可能にすることを前提とし
ていると解されるのであり,この構成につき,審決は検討の対象としているから,
審決がこの点につき判断を遺脱しているとの原告らの主張は理由がない。
(3)ア本件特許発明1の構成要件1G「各閉領域データに属性データを付与可能
にして・・」の部分には,属性データを付与可能にする具体的な方法につき記載が
ない。
「上記のようにして作成された閉領域のもっとも,本件訂正明細書(丙40)には,
みからなる地図図形データには,キーボード3−3を用いて閉領域で示される各地域や地点を
特定するために,それら地図上の閉領域に,例えば図8に示すような番号(丸で囲んで示す)
が自動的に一括して順次付与される。そして,この番号が同ファイルの領域データ部2b−3
の対応する位置に格納される。さらに,この番号に対して属性を示すデータを入力することに
より番号により特定された地域や地点に属性が付与される。この属性データも同様に同ファイ
ルの領域データ部2b−3の対応する位置に格納され,これにより所定の地図情報は完成す
と記載され(段落【0030,実施例としては,閉領域に番号を自動的にる」。】)
一括して順次付与すること,この番号に対して属性データを入力することにより,
番号により特定された地域や地点に属性を付与することが記載されている。
「・・・面デしかし,他方で,本件訂正明細書には「従来技術の問題点」として,
ータの表す輪郭線が・・・不連続となっていれば・・・面データに与えた属性がこの不連続点
から周囲に漏洩して不都合を生ずる・・・「また,単なる線データ。」(段落【0006】),
をコンピュータに記憶させても,面データを作成することができないと・・・地域や地点毎の
(段落【0007)と記載され「発明の目的」と属性を付与することができない。」】,
「本発明は・・・その目的とするところは,地域や地点毎に属性を付与可能なように保存して
(段落【00した地図情報を大幅に効率良く自動的に作成することが容易にできる・・・」
09)とも記載されている。】
したがって,本件特許発明1における「属性付与可能」とは,面データの表す輪
郭線の不連続がないことや,面データが作成できるようにすることをその前提とす
るものといえ,段落【0030】の実施例の記載は,属性付与を可能にする一方法
を例示したものにすぎず「属性付与可能」という概念につき,実施例における,,
番号を自動的に一括付与することに限定して解することはできない。
「正しいポリゴンまたはアーク・ノードイ(ア)甲2には「CLEAN」コマンドに関して,
・トポロジをもつカバレッジを作成します。このためにCLEANは幾何学的な座標の誤りを修正
・訂正し,アークをポリゴンに組み立て,各ポリゴンまたはアークの要素属性情報を作成しま
(),,すつまりPATまたはAATを作成します(,)。」との記載があり125頁丙20には
「ARC/INFOで,BUILD,CLEANというコマンドを使用すると,自動的にフィーチャートポロジ
,。」「,。ーが作成更新されますフィーチャー属性はフィーチャー属性テーブルに格納されます
,。フィーチャー属性テーブルはARC/INFOによって作成される特別なINFOデータファイルです
CLEANまたはBUILDにより,3つのフィーチャータイプ,ポリゴン,ライン,ポイントに関す
るINFOデータファイルを作成,更新することができます「ARC/INFOは,ポリゴン属性テー。」
との記載がある(5−10頁。ブル−PAT・・・を持ちます」。)
「カバレッジの要素属性テーブルをまた,乙16には「BUILD」コマンドに関して,
作成または更新します。BUILDのPOLYオプションを指定したときは,ポリゴンとアーク・ノー
ド・トポロジーを定義し,LINEオプションを指定したときはアーク・ノード・トポロジーを定
(訳文113頁,義します。ポイント要素とその属性はPOINTオプションで作成します。」)
「BUILDは座標エラーのあるカバレッジに実行してはなりません。BUILDにPOLYオプションを
,(),指定したときは問題の生じるエラーには交差するアーク交点にノードが定義されていない
閉じていないポリゴンまたは一致するノードのないノード,細長いポリゴンがあります。カバ
(訳文118頁)との各記載レッジ要素の座標をARCEDITコマンドで修正してください。」
がある。
以上からすれば,ARC/INFOにおいては,CLEAN又はBUILDコマンドを実行して,
ポリゴン・トポロジーが定義された後にポリゴン属性テーブル(PATファイル)が
作成されるものであり,ポリゴンが閉じていない場合等にPATファイルが作成さ
れることは,原則的に予定されていないものといえる。
(イ)審決は,主に甲2における「カバレッジ」の作成手順の7つのステップの記
載(10−2頁)と,スキャニングの記載(4−6頁)に基づいて「甲2発明」を
認定したものと認められる。
そして,カバレッジの作成手順の「ステップ1∼7(前記第2の3(2)ア(ア)参」
照)は,①ステップ1(マップシートの用意,②ステップ2及び3(デジタイザ)
ー入力及びそのエラーの訂正,③ステップ4及び5(フィーチャーの定義,トポ)
ロジー生成及びトポロジーエラーの訂正,④ステップ6及び7(属性付与等)の)
4段階に大別でき,実際に属性付与が予定されているのはステップ6以降である。
そして,面データが存在しなければ,面データへの属性付与ができないことは自
明であり「識別子を付与するだけで,面データ完成前であっても既に属性情報が,
付与可能な状態となっている」旨の原告エン企画の主張は採用できない。
(ウ)以上のとおり,甲2発明においては,ステップ4においてフィーチャーの定
義及びトポロジーの生成が行われ(面データの作成に相当する,その際,CLEAN。)
又はBUILDコマンドの実行により,ポリゴンの属性を格納するためのPATが作成
され(順序は前後するものの)ステップ3及び5において,デジタイジングエラ,
ー及びトポロジーエラーが訂正された後に,ステップ6において属性を付与するこ
とが想定されている。
他方で,本件特許発明1においては,構成要件1Dで面データを自動的に作成す
,,,るとともに構成要件1E1Fにおいて不連続点に関する修正作業を行った後に
構成要件1Gにおいて属性を付与することが想定されている。
このように,甲2発明,本件特許発明1のいずれにおいても,不連続点等のエラ
ーの修正後に属性を付与することが想定されており,属性を付与する段階に差異は
ない。
なお,原告らは,甲2発明においては,識別子の付与段階で属性付与可能である
旨主張するが,既に検討したとおり,面データ完成前の段階においては属性付与可
能ではないことに加え,本件特許発明1でも,構成要件1Dにおいて面データが自
動的に作成された段階で識別子を付与すれば,その段階で属性付与可能ともいえる
(前記アのとおり,本件特許発明1における「属性付与可能」という概念につき,
段落【0030】の実施例における,番号を自動的に一括付与することに限定して
解することはできない)のであって,いずれにしても,本件特許発明1と甲2発。
明において,属性付与可能な段階に差異はない。
ウ以上のとおり,属性付与可能となる段階につき,甲2発明と本件特許発明1
とで差異はなく,原告らの主張は採用できない。
また,原告らは,甲2発明と本件特許発明1において属性付与可能となる段階に
差異があることにより,本件特許発明1には「ラベルエラーのチェックや修正作業
をほぼ不要にする」との顕著な効果が存在する旨主張する。
しかし,そもそも甲2発明と本件特許発明1とでは,属性付与可能となる段階に
差異がない以上,当該差異があることを前提とする原告らの上記主張は理由がない
上,本件特許発明1においても,不連続点がある場合には線データを入力すること
により閉領域データを作成するという修正作業が必要なのであって,本件特許発明
1に顕著な効果があるとは認められない。
(4)したがって,CREATELABLESコマンドについて検討するまでもなく,審決の
相違点2についての容易想到性の判断に誤りはない。
6原告エン企画が主張する取消事由5及び原告ペンタくんが主張する取消事由
3(手続上の違法)について
(1)ア原告エン企画は,被告らによる審判請求書の補正は,新たに甲39を援用
,,,,したもので審判請求の要旨の変更に当たるにもかかわらず特許庁はその際に
被請求人に特許法134条2項による答弁・反論の機会を与えずに審決を行った旨
主張する。
特許法134条2項は,同法131条の2第2項の場合,すなわち特許無効審判
請求における請求の理由の補正がその要旨を変更するものであるが,補正を許可す
る場合,特別の事情がない限り,被請求人に対し答弁書提出の機会を与えるべきこ
とを規定する。
そして,上記「要旨の変更」とは,無効理由の根拠条文を追加,変更したりする
場合や,無効理由たる事実を証明する証拠を追加したり,差し替えたりする場合で
ある。
イ本件において,原告ペンタくんが,平成20年5月30日付け訂正請求書に
より本件特許発明1の構成要件1Bにつき「自動的に」との文言を挿入したのに対
し,被告らは,同年7月9日付け手続補正(乙30参照)で,補正1として,無効
審判の対象である請求項1に関する記載を,訂正後の本件特許発明の請求項1に合
致させるとともに,補正2として,無効審判の口頭審理で既に提出されていた甲3
9(ARCSCANNERユーザーズガイドRev3.2(乙20参照)につき「なお”ベク),,
トルデータを2次元の線データに自動的に変換する”点については,甲39号証に
開示されているように本件特許出願前に公知である「この文献には次の記載があ。」
る『ARCSCANNERは,スキャナーが作成したデータをARC/INFOカバレッジに変換。
するソフトウェアプログラムです(訳文の第1頁7行乃至8行『使用法:BEGIN。』)
<cover>出力カバレッジはこのセッションにより自動的に作成されます訳,。』(
文第2頁8行乃至9行」との指摘をしたものである。)。
以上のとおり,被告らによる上記補正は,無効理由の根拠条文を追加,変更する
ものではない。
もっとも,1つの文献に複数の発明が記載されていることも少なくなく,また,
文献自体が大部で,そこに多数の発明が記載されているような場合もあるから,審
判請求書等において,文献の名称としては記載されていても,具体的に無効理由と
して引用されていない発明について,その後,審判請求の理由とすることは,法に
よって許されない,理由の要旨を変更するものとなる場合がある。
しかし,被告らが,平成19年2月14日付け口頭審理陳述要領書(乙20)と
ともに甲39を提出していたこと,甲39はわずか6頁(訳文においては8頁)の
文献であって,かつ,被告らが上記補正で引用した部分は,同文献の「はじめに」
及び「ARCSCANNERの機能」の記載であり,同文献の基本的部分であることからす
れば,被告らによる上記補正は,無効理由たる事実を証明する証拠を追加したり,
差し替えたりするものでもないというべきであり,やはり「要旨の変更」には当た
らない。
ウこの点に関し,原告エン企画は,請求の要旨変更に該当するか否かは,審判
請求時を基準として判断すべき旨主張するが,相手方の防御の機会を保障するとい
う特許法134条2項の趣旨からすれば「要旨の変更」に該当するか否かは実質,
的に検討すべきであるところ,補正時より1年以上前に提出されていた証拠(甲3
9)については,原告らには反論の機会が十分あったというべきであり,原告エン
企画の上記主張は理由がない。
なお,原告エン企画が引用する最高裁判所昭和51年5月6日判決は,特許の無
効審判の係属中に当該特許の訂正審判の審決がされ,これにより無効審判の対象に
変更が生じた場合に,審判官は,原則として,変更された後の審判の対象について
,,当事者双方に弁論の機会を与えなければならない旨判示するものであるがこれは
基本的には,無効審判請求人が無効事由の主張立証をする機会を保障することを主
目的とするものというべきである。そして,本件のように,少なくとも自ら訂正請
求を行った特許権者(原告ペンタくん)については,訂正請求を行う時点で,無効
審判の対象に変更が生じることにつき認識済みというべきである(ただし,無効審
判の請求人が,訂正請求をした特許権者の予期に反するような補正を行った場合は
別論である)上,既に検討したとおり,被告らが行った平成20年7月9日付け。
手続補正は「要旨の変更」に当たらないので,いずれにしても,本件において,同
補正後に,審判官が当事者らに主張の修正補充の機会を与えなかったとしても,そ
の点につき手続上の違法はないというべきである。
(2)このほか,原告エン企画は,本件においては書面審理通知すらされず,審理
終結通知が当事者らに送付されたのみであって,審決は,原告エン企画が提出した
弁駁書について主張として整理してもおらず,前判決後に「さらに審理を行っ」た
事実がなく,特許法181条5項に違反しており,憲法31条の趣旨にも反する旨
主張する。
しかし,書面審理通知は特許法上の義務ではなく,その懈怠があったとしても,
直ちに違法であるとはいえない。もっとも,本件において,再開前の無効審判(無
効2006−80175事件)の平成19年2月14日午後2時の第1回口頭審理
において,審判長が「本件審理は,以後書面審理とする」と通知した旨が,同審。
理に係る調書上記載されており(乙18参照,少なくとも再開前に,書面審理の)
通知はあったというべきであり,再開後に審理開始通知(甲57)もされていると
ころである(なお,審決取消訴訟によって審決が取り消されて審判手続が再開され
た場合には,判決の審決取消事由が審判手続の違法であるなど特段の事情がない限
り,従前の審判手続の続行として手続が追行される。。)
また,審決は,原告エン企画や被告らの弁駁書に言及しており(4頁,内容的)
にも,訂正請求による構成要件1Bの「自動的に変換」の部分につき検討し,認定
,「」。しているものであって前判決後にさらに審理を行ったものというべきである
,,したがって本件での特許庁における審理につき特許法181条5項違反はなく
憲法31条違反を根拠とする原告エン企画の主張についても理由がない。
(3)原告ペンタくんは,特許庁が審理方式を当事者に明示しなかったことが,特
,,()許法145条の趣旨に反し書面審理通知をしなかったことは甲50審判便覧
の手続規定にも違反する旨主張する。
しかし,上記(2)のとおり,書面審理通知は特許法上の義務ではなく,その懈怠
があったとして,特許庁の審判便覧(甲50参照)の定めに違反するとしても,そ
れによって直ちに違法となるものではないが,本件では,少なくとも再開前の無効
,(),審判の第1回口頭審理において書面審理通知はあったものであり乙18参照
特許庁は審理方式を当事者に明示していたといえる。
また,原告ペンタくんは,特許庁が正当な理由もなく口頭審理を行わなかったこ
とは,原告ペンタくんの適切な攻撃防御の機会を不当に失わせるものであり,特許
法145条1項の規定に違背するとも主張する。
しかし,同項本文は,特許無効審判につき口頭審理を原則と定めているものの,
同項ただし書では,申立て又は職権で書面審理によることも可能とされており,審
理方式の選択は原則として審判長の裁量の範囲内であるところ,本件において,無
効審判再開前に口頭審理が行われていたことからすれば,再開後に改めて口頭審理
が行われなかったとしても,これは審判長の裁量の範囲内というべきである。
(4)以上のとおり,審決に手続上の違法はなく,この点に関する原告らの主張は
いずれも理由がない。
7以上のとおり,審決の認定判断に誤りはなく,手続上の違法もなく,審決取
消事由はいずれも理由がないから,原告らの請求をいずれも棄却することとする。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

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