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平成17年(お)第2号再審請求事件
平成24年6月7日東京高等裁判所第4刑事部決定
主主主主文文文文
本件について再審を開始する。
請求人に対する刑の執行を停止する。
理理理理由由由由
第第第第1111再審請求再審請求再審請求再審請求にににに至至至至るるるる経緯経緯経緯経緯
請求人は,平成9年6月10日に強盗殺人罪で起訴されたが,第1審の東京地方
裁判所は,平成12年4月14日,請求人に無罪を言い渡した。これに対して検察
官が控訴を申し立て,東京高等裁判所は,同年12月22日,原判決を破棄し,請
求人を無期懲役に処するとの有罪判決を言い渡した。そして,最高裁判所は,平成
15年10月20日,請求人の上告を棄却し,同年11月4日には請求人の異議申
立ても棄却し,同月5日上記控訴審判決が確定した(以下この確定した控訴審判決
を「確定判決」といい,この控訴審を「確定判決審」という。)。これに対し,請
求人は,平成17年3月24日,無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見
したとして,刑訴法435条6号により再審の請求をするに及んだ。
第第第第2222確定判決確定判決確定判決確定判決のののの内容内容内容内容
1111確定判決確定判決確定判決確定判決がががが認定認定認定認定したしたしたした罪罪罪罪となるべきとなるべきとなるべきとなるべき事実事実事実事実
確定判決が認定した罪となるべき事実は,次のとおりである。
請求人は,平成9年3月8日午後11時30分頃,東京都渋谷区円山町(以下省
略)所在のY荘101号室にC(当時39歳。以下「被害者」という。)と入り,
同女と性交をしたものであるが,それが終了した後の翌9日午前零時頃,同女を殺
害して金員を強取しようと決意し,同室北側和室6畳間において,殺意をもって,
同女の頸部を圧迫し,よって,その頃,同所において,同女を窒息死させて殺害し
た上,同女所有の現金約4万円を強取したものである。
2222確定判決確定判決確定判決確定判決がががが認定認定認定認定したしたしたした「「「「被害者被害者被害者被害者のののの生活状況生活状況生活状況生活状況とととと死体発死体発死体発死体発見見見見のいきさつのいきさつのいきさつのいきさつ」」」」
確定判決が認定した「被害者の生活状況と死体発見のいきさつ」は,次の⑴ないし
⑽のとおりである。
⑴アパートY荘101号室の管理を委ねられていた,ネパール料理店「D」の店
長Eは,平成9年3月18日(以下,特に断らない限り,日付は平成9年であ
る。)午後3時頃,101号室の鍵を携えてY荘に立ち寄り,1階101号室前通
路に面した窓から中を見ると,空き室のはずなのに女性が畳の上に横臥しており,
出入口は施錠されていなかったが,その頃部屋を貸す話が出ていたネパール人の知
り合いが入り込んで仮眠をしているものと軽く考えて,部屋の中までは入らずに,
外から施錠(内側からは,レバーを回すことにより簡単に開錠できる。)をしただ
けで戻った。Eは,翌19日午後5時頃,再度Y荘101号室を見回りに行き中に
入ってみて,前日仮眠中と思った女性が,実は死体であることを発見し,直ちに警
察へ急報した。即日行われた警察の実況見分によると,死体は,和室中央やや北寄
り部分に,102号室側を頭にして東西に,ツーピースの上にベージュ色コートを
着用した姿で仰向けに横たわっており,着衣に乱れた様子はなく,その傍らには,
黒色皮製ショルダーバッグ(以下「本件ショルダーバッグ」という。)があり,頭
部寄りの壁際には,ビニール製手提げ袋と布製手提げ袋が立て掛けるように並べて
置かれていた。
⑵Y荘は,地下1階地上2階の木造アパートで,地下1階は,飲食店「F」が店
舗として使用し,地上1,2階には,居室が3室ずつあり,当時,1階西端(Z駅
側)の101号室と東端の103号室だけが空き室であったが,階下の南側は東西
の各道路に通じる狭い通路が付けられ,階下各室の出入口(玄関)がそれに面して
いる。Y荘101号室は,南西角の玄関に接してその東側に台所,北側に便所,台
所と襖を隔ててその北側に和室6畳間(畳にカーペット敷)からなっている。そし
て,南南西方向約17メートルの至近距離には京王井の頭線のZ駅北口があり,J
R渋谷駅ハチ公口までは東北東に約600メートルである。Y荘付近は,住宅,商
店等が密集した地域であって,その東側は小高くなっており,アベック用ホテル,
飲食店等が建ち並ぶ円山町界隈で,その先は通称道玄坂通りの繁華な区域に隣接し
ている。
⑶3月20日に死体を解剖した結果,被害者は,身長169センチメートル,体
重44キログラム,頭部,顔面部等に打撲傷,擦過傷があるほか,頸部に軟部組織
出血及び甲状腺出血を伴う圧迫痕が認められ,そのABO式血液型はO型であっ
た。死因は,頸部圧迫による窒息死で,他殺であり,死後1週間内外が経過したも
のと推定された。
⑷本件ショルダーバッグに入っていた茶色二つ折り財布に在中の勤務証から,被
害者は,東京電力株式会社に勤務するC(昭和32年○月○日生)であることが判
明した。
被害者は,母及び妹との3人暮らしで,都内の私大経済学部を卒業して昭和55年
4月から東京電力に勤務し,杉並区永福の自宅から井の頭線等を利用して千代田区
内幸町所在の本社に通勤して調査関係の仕事に携わっていたが,平成3年頃から,
勤務終了後に,渋谷区円山町界隈で,行きずりの客を誘ったり馴染みの常連客と待
ち合わせたりして売春を行うようになり,平成8年6月頃からは,品川区西五反田
のSMクラブで,土曜,日曜及び祭日の正午過ぎから夕刻まで詰めていたが(同所
で待機し,遊客の求めに応じて,ホテルなどに出向いて相手をする。),その後
は,井の頭線の終電の時間近くまで,渋谷で馴染み客と待ち合わせ,あるいは円山
町界隈の路上で行きずりの遊客を誘っては売春をし,最寄りのZ駅から井の頭線を
利用して帰宅するのを常としていた。
⑸被害者は,3月8日(土曜)の正午過ぎから午後5時30分頃まで前記SMク
ラブに勤務したが,その間に遊客の申込みはなかった。その後,あらかじめ約束し
てあった常連客(以下この常連客を単に「常連客」という。)と,午後7時頃JR
渋谷駅前で待ち合わせて円山町のホテルで売春し(コンドームは使用しなかった。
料金3万5000円を要求し,1万円札4枚を受け取り,前記二つ折り財布に仕舞
い,釣り銭として1000円札5枚を返した。ちなみに,常連客のABO式血液型
は,O型である。),午後10時16分頃ホテルを出て同人と別れた。
⑹被害者は,その後も,午後10時半頃からしばらくの間,道玄坂交番前付近な
いし同所からZ駅方面に至る路上にいて,数人の男性に声を掛け,道玄坂道路脇の
花壇のところに座っていた黒いジャンパーを着た,二十七,八から三十歳前後で,
ヒモにしては華奢かなと感じられた,日本人らしい男性と連れだって,道玄坂の西
側歩道をZ駅方向へ右折するのが目撃された。そして,午後11時30分前後頃,
被害者が,同女と同じくらいの背の高さで,少し肉付きがよく,肌は浅黒く少し彫
りの深い感じの顔立ちで,ウエーブがかかった髪型の,東南アジア系と思われる,
ジャンパーを着た男性と一緒に,Y荘1階通路西側出入口前で立ち話をした後,階
段で数段高くなっている通路へ上がっていくのを,前記「F」で飲食中の父親を車
で迎えに来ていたGにより,路上に停めた車中から目撃された。さらに,Y荘2階
○○○号室の居住者が,3月9日午前零時前頃,Z駅構内の公衆電話を使用して自
室に戻る際に,2階への階段の上り口にある101号室の西側窓の前で,同室の中
から男女のあえぎ声がするのを聞いたが,同日午前零時30分過ぎに再度自室から
出掛けた際には,同室からそのような声は聞こえず,午前3時過ぎに帰宅した際に
も聞こえなかった。
⑺被害者は,平素,帰宅が遅くなることはあっても,無断外泊をしたことはなか
ったが,3月8日午前中に家を出てから自宅に何の連絡もないまま帰宅せず,翌9
日(日曜)は,当日出勤する旨をあらかじめ約していた前記SMクラブにも顔を出
さず,同月10日(月曜)には会社を無断欠勤した。心配した家族から同月11
日,警察に捜索願いが出されたが,消息が知れなかった。
⑻3月8日夜,被害者とホテルへ行った常連客は,その際,本件ショルダーバッ
グの取っ手に異常がなかったことを確認しているが,3月19日の実況見分時に
は,取っ手が千切れていた。この取っ手は,皮製で径1.3センチメートル程の細
長い筒状をなし,芯には硬質ゴム様の詰物がしてあって,その中心に直径約0.3
センチメートルの針金が入っているが,取っ手を繋ぐバッグの金具の近くで完全に
千切ったように破断していて,かなり強い力で引っ張ったことを窺わせる状況にあ
った。取っ手に付着する物質をセロテープで採取しその血液型を分析したところ,
その中央部を中心にB型物質の付着を認めた。
そして,本件ショルダーバッグの中から発見された前記二つ折りの財布には,小銭
473円が入っていただけで,被害者が常連客と別れた後,Y荘101号室に入る
までの間に,常連客から受け取った1万円札4枚を費消した事跡はないのに,被害
者の着衣,所持品の中から1万円札は1枚も発見されなかった。また,同じく本件
ショルダーバッグの中から,日々の売春相手,その料金,相手の連絡方法,被害者
自身の服装などを詳細にメモした手帳(別冊アドレス帳付き。以下「本件手帳」と
いう。)が発見され,その自宅から,上記と同様にこれまでの日々の売春などにつ
いてメモした平成3年以来の手帳が発見された。
⑼3月19日の実況見分の際,Y荘101号室便所の便器内の排水口に溜まった
青色の水の中に,コンドーム1個(以下「本件コンドーム」という。)が口を上に
して浮いているのが発見された。この青色は芳香防臭剤「ブルーレット」に由来す
ると認められるが,コンドームを水の中から引き上げると,中には精液溜まりから
約3センチメートルくらい上記青色液が入っており,その中に精液が混在してい
た。また,実況見分に引き続いて行われた検証の際,和室6畳間の被害者の死体の
右肩付近カーペット上から,陰毛様の物4本が毛髪様の物若干と一緒に発見,採取
された。
⑽本件コンドームは,不二ラテックス株式会社製のリンクルMピンク型という製
品であることが判明している。他方,被害者には,ホテルが顧客用サービスとして
備え付けているコンドームを余分に持ち帰る習癖があったところ,本件ショルダー
バッグには,未使用コンドーム28個が在中したが,これらはいずれも被害者がよ
く利用していた円山町所在のホテル備え付けの業務用製品で,一般には市販されて
いないものであり,その中には,「フェアレディ」の商品名で中西ゴム工業から業
務用に販売された,不二ラテックス株式会社製のリンクルMピンク型の製品が1個
含まれていた。
3333確定判決確定判決確定判決確定判決がががが認定認定認定認定したしたしたした「「「「客観証拠客観証拠客観証拠客観証拠からからからから推認推認推認推認されるされるされるされる被害状況被害状況被害状況被害状況」」」」
確定判決が認定した「客観証拠から推認される被害状況」は,次のとおりである。
被害者の日頃の行状,目撃証言その他から認められる3月8日の足取りやその後
の失踪状況,死体の発見された状況,Y荘101号室に遺留された物の状況などに
照らすと,被害者は,当夜午後10時16分頃,円山町のホテルを出て,常連客と
別れ,その後さらに,道玄坂から円山町辺りの路上で遊客探しを試みて,売春相手
を見付け,午後11時30分頃,Y荘101号室に一緒に入って性交を行い,3月
9日午前零時頃,同室において,身づくろいを整えた後,上記売春相手(以下「本
件犯人」という。)が,財布などが入った本件ショルダーバッグの取っ手を握って
奪おうとしたのに対して,被害者が拒んでこれに抵抗したため,上記バッグの取っ
手が破断してしまい,本件犯人から顔面等を殴打され,頸部を扼されて殺害された
上,所持していた現金少なくとも4万円を奪取されたものと推認される。そして,
本件コンドーム(これは,被害者が携帯していたコンドームの中の1個である可能
性が高い。)は,上記性交の際,本件犯人が使用して射精した後,被害者か犯人の
いずれかが同室の便所の便器の中に投棄した蓋然性が極めて高いものと認められ
る。
4444確定判決確定判決確定判決確定判決のののの有罪認定有罪認定有罪認定有罪認定のののの証拠構造証拠構造証拠構造証拠構造
確定判決は,上記3に記載したように,本件の被害状況からすると,本件犯人は,
「3月8日午後11時30分頃,Y荘101号室に被害者と一緒に入って同女と性
交し,性交を終えた後,被害者を殺害した上,現金を強取した」と認定している。
すなわち,本件犯人=「売春をしていた被害者と最後に性交した者」としているの
である。そして,本件コンドームは本件犯人が残した蓋然性が極めて高いとした。
その上で,確定判決は,以下の7つの事情を総合して,請求人が本件犯人であると
認定することができるとしている(以下「確定判決認定⑴」のようにいう。)。
⑴現場の6畳間で発見された陰毛のABO式血液型(B型)2本のうちの1本の
ミトコンドリアDNA型が請求人のそれと一致し,同(O型)2本のうちの1本の
ミトコンドリアDNA型が被害者のそれと一致したこと
⑵本件コンドーム内の精液のDNA型及びABO式血液型(B型)が請求人のそ
れらと一致したこと
⑶本件コンドーム内の精液は,発見採取時までの経過時間が約10日であるとし
ても,精子形状の経時変化に関する鑑定人Hの実験結果と矛盾はなく,不自然では
ないこと
⑷「(本件の1週間ないし10日余り前の)2月25日から3月2日頃までの間
に,Y荘101号室で被害者を相手に買春し,性交後に自分が同室の便所の便器に
コンドームを投棄した。」旨の請求人の弁解供述は,買春代金の支払額について不
自然な変遷があるなど,その供述自体疑わしいばかりでなく,被害者の本件手帳の
売春結果欄の克明で確度の高い記載内容とも照応しないから,信用しかねること
⑸Gのアベック目撃の供述内容は,その余の関係証拠も併せ見ると信頼性が高
く,同人の見たアベックの女性は被害者であると認められ,その相手の男性の特徴
は,それが請求人であっても不審はないこと
⑹請求人は,前年12月12日の夜,勤務の帰途,円山町付近の路上で被害者と
行きあい,自分が借りているIビル401号室に連れ込んで,被害者と合意の上
で,当時同居していたJ,Kと3人で買春を行ったことがあり,Y荘101号室の
鍵を持っていて,同室が空き室であることを知っており,3月8日午後11時30
分頃に,被害者と連れだって,Y荘階下の通路前路上に現れ,101号室に入るこ
とは,時間的,場所的に十分可能であり,不審はないこと
⑺他方,請求人の言うとおりに,本件犯行が行われる以前から,Y荘101号室
の出入口の施錠がされないままになっていたとしても,同アパートに係わりのない
被害者が,同室が空き室であり,しかも施錠されていないと知って,売春客を連れ
込み,あるいは,請求人以外の男性が被害者を同室に連れ込むことは,およそ考え
難い事態であること(この点につき,確定判決は,本件犯行が行われた3月8日か
ら9日にかけて,Y荘101号室の鍵は,請求人が所持していたものと認められる
とし,また,Y荘101号室のドアの鍵は普段は閉めてあったものと推認されると
しながらも,他方で,被告人の立場からすると,買春のためホテルへ行けば金が掛
かり,Iビル401号室では,同居人の帰りが気になるのは道理であり,買春に利
用するつもりでY荘101号室を施錠しないままにしておいて鍵をEに返還したと
の請求人の言い分はあながち弁解のための弁解とは言い切れないものが残るとし,
また,Y荘は相当に老朽化した木造アパートであり,本件当時,101号室は約4
か月程空き室の状態で汚れており,管理に当たっていたEでさえ,3月18日に
は,勝手に入り込んだ女性(実は,被害者の死体)を目撃しながら,咎めもせず施
錠しただけで引き返したことから見ても,管理がいい加減であったことは明らかで
あるから,請求人が勝手に同室を買春に利用しようとしたとしても,それが全くあ
り得ないこととも言い切れないとしている。)。
第第第第3333弁護人提出弁護人提出弁護人提出弁護人提出のののの新証拠新証拠新証拠新証拠のののの標目標目標目標目
弁護人は,20点の証拠を新証拠として提出している。その標目は,以下のとお
りである。
1111本件本件本件本件コンドームコンドームコンドームコンドーム内内内内のののの精液精液精液精液のののの発見採取時発見採取時発見採取時発見採取時までのまでのまでのまでの経過時間経過時間経過時間経過時間にににに関関関関するするするする証拠証拠証拠証拠
◦日本大学医学部法医学教授L作成の平成13年7月2日付け鑑定書
(弁1)
◦上記L作成の平成15年9月27日付け鑑定書(弁2)
◦麻布大学生命・環境科学部准教授M及び同大学獣医学部教授N共同作成の
平成21年7月14日付け鑑定書(弁15)
2222被害者被害者被害者被害者とととと請求人以外請求人以外請求人以外請求人以外のののの男性男性男性男性ががががYYYY荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室においてにおいてにおいてにおいて性交性交性交性交したしたしたした可能性可能性可能性可能性にににに関関関関
するするするする証拠証拠証拠証拠
◦大阪医科大学予防・社会医学講座,法医学教室教授P作成の平成23年7
月23日付け鑑定書(以下「P鑑定書①」という。)(弁16)
◦警視庁科学捜査研究所法医研究員Q作成の平成9年4月3日付け鑑定書
(以下「Q鑑定書」という。)(弁18)
◦上記P作成の平成23年10月31日付け中間報告書1(以下「P中間報
告書1」という。)(弁19)
◦上記P作成の平成24年3月4日付け鑑定書(以下「P鑑定書②」とい
う。)(弁20)
3333本件手帳本件手帳本件手帳本件手帳のののの記載内容記載内容記載内容記載内容にににに関関関関するするするする証拠証拠証拠証拠
◦買春客の供述調書等12通(弁3~弁14)
4444GGGGのののの目撃証言目撃証言目撃証言目撃証言にににに関関関関するするするする証拠証拠証拠証拠
◦日本大学文理学部心理学研究室教授R作成の平成23年8月2日付け鑑定
書(弁17)
第第第第4444当裁判所当裁判所当裁判所当裁判所のののの判断判断判断判断
1111はじめにはじめにはじめにはじめに
弁護人提出の新証拠は,上記第3記載のように多数にわたるが,このうち第3の
2の証拠,すなわち,P鑑定書①,Q鑑定書,P中間報告書1,P鑑定書②の4点
(以下,この4点を合わせて「本件新証拠」という。)が,その内容に照らし特に
重要であると思われるので,それ以外の新証拠に先立ち,本件新証拠について検討
を加えることとする
2222本件新証拠本件新証拠本件新証拠本件新証拠のののの新規性新規性新規性新規性についてについてについてについて
本件新証拠は,いずれも刑訴法435条6号の新規性の要件を満たすものと認め
られる。
3333本件新証拠本件新証拠本件新証拠本件新証拠のののの明白性明白性明白性明白性についてについてについてについて
⑴⑴⑴⑴本件新証拠本件新証拠本件新証拠本件新証拠のののの内容内容内容内容についてについてについてについて
アアアアPPPP鑑定書鑑定書鑑定書鑑定書①①①①
P鑑定書①の内容は次のとおりである。すなわち,Y荘101号室6畳間カーペッ
ト上に遺留された陰毛のうちの1本(カーペット陰毛376,血液型O型)から,
被害者のものではなく,請求人のものでもない,1人分の男性DNA型(以下,こ
のDNA型の持ち主を「376の男」という。)が検出された。なお,376の男
のDNA型は,本件当夜に被害者と性交した常連客のDNA型とも異なるものであ
る(換言すれば,376の男は常連客以外の人物である。)。
また,被害者の膣スワブ(膣スワブ570-③シリーズ)には,被害者のDNAの
ほかに,Identifiler(以下「ID」という。)及びPowerPle
xの21ローカスのSTR型とYfilerのハプロタイプとで,カーペット陰毛
376から抽出されたのと同じ型,同じハプロタイプをもつ1人の男性由来のDN
Aが混在している。
さらに,Y荘101号室6畳間カーペット上に遺留された陰毛のうちの1本(カー
ペット陰毛・379)から,2人分のDNA型が検出され,376の男と被害者を
あわせた2人分のDNA型として矛盾はなかった。陰毛が被害者と376の男のう
ちのいずれのものであるかは不明であり,別人の陰毛に被害者及び376の男の各
体液等が付着していて,陰毛自体からはDNA型が検出されず,付着した体液等か
ら被害者及び376の男の各DNA型が検出されたと考える可能性も排斥できな
い。また,Y荘101号室6畳間被害者下部に遺留された陰毛①のDNA抽出溶液
(Y陰毛O型D液・361-5)からも2人分のDNA型が検出され,376の男
と被害者をあわせた2人分のDNA型として矛盾はなかった。
イイイイQQQQ鑑定書鑑定書鑑定書鑑定書
Q鑑定書の内容は,次のとおりである。すなわち,被害者の口唇周囲,左乳房周
囲,右乳房周囲,外陰部周囲,肛門周囲のそれぞれからガーゼ片により採取した付
着物について,唾液検査としてヨード・でんぷん反応を利用したアミラーゼ検出試
験を行ったところ,口唇周囲,左乳房周囲,右乳房周囲から陽性反応が認められ,
唾液様のものの付着が証明された。その血液型は,いずれもO型と思料された。も
っとも,被害者(O型)の体液等の混在を考慮すると,混在している唾液様のもの
が極めて微量の場合,この反応は被害者自身の体液に由来するものであり,混在し
ている唾液様のものは型反応に与らないものとも考えられるので,混在している唾
液様のものの血液型は必ずしもO型とは断定できない。
ウウウウPPPP中間報告書中間報告書中間報告書中間報告書1111
Q鑑定で検査対象としたのと同じ試料について,DNA型の検査を実施したもので
あり,P鑑定書②の体表拭いガーゼ片(試料331~試料335)のDNA鑑定の
中間報告である。その内容は,次のとおりである。すなわち,被害者の各部位から
ガーゼ片で採取した付着物の各試料(口唇周囲〈試料331〉,左乳房周囲〈試料
332〉,右乳房周囲〈試料333〉,外陰部周囲〈試料334〉,肛門周囲〈試
料335〉)のDNA濃度は,DNA型の検査結果からみて,試料332と試料3
33では低く,試料331ではこれらより高く,試料334と試料335ではさら
に高いと推定される。いずれにも男性DNAが混在している。被害者のDNA量に
対する男性のDNA量は,検査結果からみて試料ごとに異なり,試料331では少
なく,試料334と試料335では多いと推定される。混在している男性DNAの
主たる由来は1人である。前回鑑定の陰毛376には,同時期に検査した7人の男
性個人と被害者のいずれにもないアリールがIDで4ローカス,Yfilerで4
ローカスにある。試料331~試料335には,これらの8アリールの全部あるい
は一部が検出されている。全部か一部かは試料中での男性DNAの量の多寡を反映
していると考えられる。試料332,試料333及び試料335には,不詳のアリ
ールが一部のローカスで検出されたが,試料331~試料335のそれぞれに被害
者以外でDNAを首尾一貫して供給しているのは,376の男として矛盾はなく,
とくに試料334と試料335のDNAはほとんどがこの男性由来である。
エエエエPPPP鑑定書鑑定書鑑定書鑑定書②②②②
P鑑定書②の内容は次のとおりである。
((((アアアア))))体表拭体表拭体表拭体表拭いガーゼいガーゼいガーゼいガーゼ片片片片
aaaa口唇周囲口唇周囲口唇周囲口唇周囲((((試料試料試料試料331331331331))))
試料331のDNAは主に被害者に由来すると考えられるが,被害者以外の個人に
由来するDNAも混在すると考えられる。混在するDNAは1人分で,男性由来と
考えられる。ID,MiniFiler(以下「Mini」という。)で被害者に
ないアリール,Yfilerのアリール,及びmtDNA(ミトコンドリアDN
A)で被害者にない配列は,376の男にあるアリール・配列と同じアリール・配
列である。
bbbb左乳房周囲左乳房周囲左乳房周囲左乳房周囲((((試料試料試料試料332332332332))))
試料332のDNAは被害者と被害者以外の個人に由来すると考えられる。その
個人は男性で,被害者以外のアリールは主に376の男にあるアリールで構成され
ている。ただし,ローカスD3S1358のアリール15,D19S433のアリ
ール13,FGAのアリール18は被害者と376の男にないアリールで,この2
人以外の別の個人に由来する可能性はある。
cccc右乳房周囲右乳房周囲右乳房周囲右乳房周囲((((試料試料試料試料333333333333))))
この試料に含まれるDNAは主に376の男に由来すると考えられ,被害者のDN
Aも混在していると考えられる。ただし,ローカスD7S820のアリール11及
びD13S317のアリール14?(?はアリールの出方が不明瞭との意味)につ
いては,被害者と376の男の2人以外の別の個人に由来する可能性はある。
dddd外陰部周囲外陰部周囲外陰部周囲外陰部周囲((((試料試料試料試料334334334334))))
この試料に含まれるDNAは主に376の男に由来し,被害者のDNAも混在して
いると考えられる。
eeee肛門周囲肛門周囲肛門周囲肛門周囲((((試料試料試料試料335335335335))))
この試料に含まれるDNAは主に376の男に由来すると考えられ,被害者のDN
Aも混在していると考えられる。ただし,ローカスCSF1POのアリール8w
(wはピークの出方が弱いとの意味),D3S1358のアリール15w,D19
S433のアリール13wと15.2w,TPOXのアリール11及びD18S5
1のアリール13については,被害者と376の男の2人以外の別の個人に由来す
る可能性はある。
ffff試料試料試料試料331ないし331ないし331ないし331ないし試料試料試料試料335の335の335の335の検査結果検査結果検査結果検査結果のののの解釈解釈解釈解釈
試料331~試料335の各試料のDNA濃度はDNA型の検査結果からみて,試
料332と試料333では低く,試料331ではこれらより高く,試料334と試
料335ではさらに高いと推定される。いずれにも男性DNAが混在している。被
害者のDNA量に対する男性のDNA量は,検査結果からみて試料ごとに異なり,
試料331では少なく,試料334と試料335では多いと推定される。混在して
いる男性DNAは主に同一の1人に由来すると考えられるが,試料332,試料3
33及び試料335からは,ID・Miniでさらに別の個人に由来する可能性の
あるアリールが検出された。376の男には,同時期に検査した(P鑑定書①)7
人の男性個人と被害者のいずれにもないアリールがIDで4ローカスに,Yfil
erで4ローカスに,あわせて8つある。試料331~試料335には,これらの
8アリールの全部あるいは一部が検出されている。全部か一部かは試料中の男性D
NAの量の多寡を反映していると考えられる。
((((イイイイ))))ブラスリップブラスリップブラスリップブラスリップ
aaaa前面胸部正中付近前面胸部正中付近前面胸部正中付近前面胸部正中付近(SM(SM(SM(SM試薬反応部分試薬反応部分試薬反応部分試薬反応部分))))のののの右斜右斜右斜右斜めめめめ下下下下((((試料試料試料試料308308308308----2222)
この部には,被害者のほかに男性DNAの付着があり,男性DNAは主に376の
男に由来すると推定される。
bbbb上記上記上記上記aaaaのさらにのさらにのさらにのさらに右斜右斜右斜右斜めめめめ下下下下((((試料試料試料試料308308308308----3333))))
この部には,被害者のほかに男性DNAの付着があり,男性DNAは主に376の
男に由来すると推定される。
((((ウウウウ))))コートのコートのコートのコートの左肩血痕部左肩血痕部左肩血痕部左肩血痕部((((試料試料試料試料304304304304----1111))))
この血痕部は,被害者のDNA含有物が主要構成分で,さらに376の男のDNA
も含まれていると考えられる。
⑵⑵⑵⑵本件新証拠本件新証拠本件新証拠本件新証拠のののの内容内容内容内容についてのについてのについてのについての検討検討検討検討
アアアア被害者被害者被害者被害者のののの遺体及遺体及遺体及遺体及びブラスリップからびブラスリップからびブラスリップからびブラスリップから検出検出検出検出されたされたされたされたDNADNADNADNAについてについてについてについて
膣内,外陰部周囲,肛門周囲から検出された男性のDNA型については,確定判決
審の原審甲第5号証の鑑定書によれば,被害者の膣口部,膣内部,子宮頸部から精
液陽性反応があり,子宮頸部からは精子の存在も観察されていることや,同甲第1
82号証の鑑定書によれば,子宮中部から精子の存在が観察されていることも合わ
せ考慮すると,376の男の精液に由来するものと考えられる。また,被害者のブ
ラスリップ前面胸部正中付近(SM試薬反応部分)の右斜め下及びさらにその右斜
め下に376の男に由来すると推定されるDNAが付着しているが,これは,SM
試薬の反応が陽性であった部位の近接部位であるところから,376の男の精液に
由来するものとみて矛盾はない。次に,被害者の右乳房周囲から376の男に由来
すると考えられるDNAが検出されているが,唾液様のものの付着を認めるQ鑑定
の結果を合わせ考慮すると,このDNAは376の男の唾液に由来するとみて矛盾
はない。そうすると,376の男は,被害者の右乳房を舐めるなどの前戯をし,コ
ンドームを装着しないで被害者と性交したものと合理的に推認できる(なお,被害
者の左乳房周囲に付着するDNAは,その検査結果だけから直ちに376の男に由
来するとまではいえないが,被害者以外のアリールは主に376の男のアリールで
構成されているとされていること,左乳房に唾液様のものの付着を認めるQ鑑定の
結果及び376の男が被害者の右乳房を舐める前戯をしたとの推認結果をも合わせ
考慮すると,左乳房周囲に付着するDNAについてのP鑑定書②は,376の男が
左乳房を舐めた可能性を示すものであってもこれを妨げるものではない。また,被
害者の口唇周囲に付着するDNAもその検査結果だけから直ちに376の男に由来
するとまではいえないが,同様,376の男が被害者とキスをした可能性を示すも
のであってもこれを妨げるものではない。いずれにしても,左乳房周囲及び口唇周
囲の各付着物についてのP鑑定書②は,少なくとも376の男が被害者の右乳房を
舐める前戯をして被害者と性交したとの上記推認結果に矛盾するものではな
い。)。
イイイイYYYY荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室6666畳間畳間畳間畳間カーペットカーペットカーペットカーペット上上上上にににに遺留遺留遺留遺留されたされたされたされた陰毛陰毛陰毛陰毛についてについてについてについて
Y荘101号室6畳間カーペット上に376の男の陰毛1本が遺留されているのが
発見された。また,同カーペット上及び被害者下部に陰毛各1本が遺留されている
のが発見され,これらからは被害者と376の男のDNAが検出されているとこ
ろ,被害者の陰毛に376の男の体液が付着したものか,376の男の陰毛に被害
者の体液が付着したものかは不明であるが,いずれにしても376の男に由来する
陰毛ないし体液付着物が上記6畳間に遺留されていたことは間違いない(なお,P
鑑定書①によれば,別人の陰毛に被害者及び376の男の各体液等が付着したとの
可能性も排斥できないとされるが,別人のDNAが検出されたものではないし,そ
の可能性は低いであろう。)。そして,上記アでの推認結果を合わせ考慮すると,
これらの陰毛は376の男が被害者とY荘101号室6畳間で性交した際に落下し
遺留されたとの可能性を示すものというべきである。
ウウウウ被害者被害者被害者被害者のコートのコートのコートのコート左肩血痕部左肩血痕部左肩血痕部左肩血痕部についてについてについてについて
P鑑定書②によれば,被害者のコート左肩血痕部は,被害者のDNA含有物が主要
構成分で,さらに376の男のDNAも含まれていると考えられるというのであ
り,被害者のDNA含有物が主要構成分であることからすれば,この血液自体は被
害者に由来するとみるのが合理的である。また,この血痕部は,コート左肩背面部
にあり,その血痕は長さ2.5センチメートル,幅1センチメートルで,明確に視
認できるものであって,その形状からして飛沫痕とか垂れ落ちた痕というより血液
が付着した何かがコートに触れたことによって付いたもののように思われる(確定
判決審の原審甲第4,6号証)。そして,被害者は身づくろいを整えコートを着用
した状態で,本件犯人から頭部や顔面部等を殴打されているところ,頭部,左こめ
かみ等の顔面,前胸部左等に擦過傷・出血が認められること(同甲第4,5号
証),ブラウスの左襟付近に血痕(染みこんだように見えるもの)が付着していた
こと,上記のように目立つ血痕が本件犯行日より前にコートに付着していたとすれ
ば被害者がそのまま放置するとは考え難いことからすると,コート左肩血痕は,被
害者が本件犯人から殴打されるなどした際に付着したものと合理的に推認できる。
もっとも,この血痕は,上記のとおり,血液が付着した何かがコートに触れて付い
た痕のように思われるところ,その部位はコート左肩背面部にあり,被害者の出血
部位が直接触れることは考えにくい。そうすると,本件犯人が被害者を殴打した際
に被害者の血液が犯人の手に付着し,犯人がその手で被害者のコート左肩背面部に
触れて血液を付着させたという可能性も十分考えられる。そして,P鑑定書②によ
れば,この血痕部には376の男のDNAも含まれていると考えられるというので
あるから,本件犯人が被害者を殴打した際,自らの手の表皮も若干剥落し,本件犯
人の細胞成分が被害者の血液に混じり,本件犯人がコート左肩背面部に触れた際に
付着したという可能性が考えられるのであり,このことは,376の男が本件犯人
である可能性を示すものといえる。
エエエエまとめまとめまとめまとめ
以上を総合すると,本件新証拠は,①376の男が犯行現場であるY荘101号室
の6畳間で被害者と性交した可能性を示すもの,②その後被害者を殴打して出血さ
せ,その血液を被害者のコート左肩背面部に付着させた可能性を示すものであっ
て,これら①②は相互にその可能性を高め合っているといえる。
⑶⑶⑶⑶検察官検察官検察官検察官のののの意見意見意見意見についてについてについてについて
アアアア被害者被害者被害者被害者のののの遺体等遺体等遺体等遺体等にににに残残残残された376のされた376のされた376のされた376の男男男男のののの精液等精液等精液等精液等についてについてについてについて
検察官は,被害者の身体や下着に残された376の男の精液や唾液は,Y荘101
号室に入る前の被害者の売春行為に由来する可能性がある旨,また,Y荘101号
室の6畳間で発見された陰毛は,上記売春行為の際に売春相手である376の男の
陰毛が被害者の身体,着衣に付着し,これが被害者の移動とともに,Y荘101号
室に運ばれてきた可能性がある旨を主張している。
そこで,以下検討する。
(ア)常連客常連客常連客常連客とととと会会会会うううう前前前前に376のに376のに376のに376の男男男男とととと性交性交性交性交したしたしたした可能性可能性可能性可能性についてについてについてについて
被害者は,本件当日の午後7時頃JR渋谷駅前で常連客と待ち合わせてホテルへ
行き,午後10時16分頃ホテルを出てその後別れるまでの間,同人と行動をとも
にしており,その際,常連客は,ホテルでコンドームを装着せずに被害者と性交し
てその膣内に射精している。そして,性交後,常連客と被害者の2人は,シャワー
を浴び,湯船にもつかっている。このことに鑑みれば,被害者の身体の各部位から
検出された376の男のDNAが常連客よりも前に被害者の売春行為の相手方とな
った男性の精液や唾液に由来しているということはほとんど考え難い。実際,被害
者の膣内からは,常連客のDNA型は検出されておらず,膣内に射出された常連客
の精液は,被害者が上記のようにシャワーを浴び,湯船につかった際に洗い流され
たものであることが明らかである。
((((イイイイ))))常連客常連客常連客常連客とととと別別別別れたれたれたれた後後後後ででででYYYY荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室にににに至至至至るまでに376のるまでに376のるまでに376のるまでに376の男男男男とととと性交性交性交性交したしたしたした可能可能可能可能
性性性性についてについてについてについて
そこで,被害者が,常連客と別れた後,Y荘101号室に入るまでの約1時間のあ
いだに376の男と性交したという可能性について検討する。
aaaa屋外屋外屋外屋外でででで性交性交性交性交したしたしたした可能性可能性可能性可能性についてについてについてについて
被害者は,所持金の少ない売春客の場合,ホテル代を節約するため,駐車場などへ
売春客を誘うと,売春客の性器を舐めるなどした後,自ら,下着を膝付近まで下ろ
して下半身を露出し,いわゆる立後背位の姿勢で売春客に陰茎を挿入させて射精に
導くという態様の性交をして売春に及ぶことがあった。そして,このような体位・
体勢で性交した後,被害者が着衣を戻せば,陰部付近やパンティ内その他の着衣に
売春客の陰毛が付着するということが考えられないではない。しかしながら,記録
をみる限り,被害者と立後背位による屋外性交を行っている売春客で被害者の乳房
を舐めるという前戯をしたと述べる者は見当たらない。渋谷区円山町界隈は,飲食
店等が密集した地域であって,人の動きの多いところである。このような地域内
で,被害者は,所持金の少ない売春客に対し,ビルの階段下とか,建物と壁の間と
か,駐車場の一画などを利用し,短時間のうちに性交して売春していたものと思わ
れ,その際に,売春客が被害者の裸の胸を舐めるといった前戯を行うということ
は,ないとまではいえないとしても,その可能性は低いであろう。また,ブラスリ
ップの前面胸部正中付近に精液が付着するということも考えにくい。やはり,37
6の男は,屋外で被害者と性交したと見るより,屋内で被害者と性交したと見るほ
うが自然といえるのである。
bbbbホテルホテルホテルホテル等屋内等屋内等屋内等屋内でででで性交性交性交性交したしたしたした可能性可能性可能性可能性についてについてについてについて
それでは,常連客と別れてからY荘101号室に入るまでの約1時間のうちにホ
テル等屋内で売春した可能性についてはどうか。ホテル等屋内での性交であれば,
通常は着衣を脱ぐであろうから,売春客が被害者の胸を舐めるということは十分考
えられる。また,被害者の胸付近に精液が付着し,これが,身づくろいをした被害
者のブラスリップ前胸部に付着するということも考えられる。屋外性交の場合と違
って,売春客の陰毛が着衣に付着する可能性は低いと思われるが,身体に付着する
ということは考えられる。しかし,ホテル等屋内で乳房を舐めるなどの前戯をし,
胸に唾液や精液が付着し,かつ,コンドームを装着しないで性交した場合は,被害
者がシャワーを浴びたり湯船につかったりする可能性があり,そうすると,被害者
の身体に付着した唾液や精液,陰毛が洗い流される可能性が高い。ただ,そのよう
な場合であっても必ずシャワーを浴びるなどするとまではいえないであろう。そう
すると,被害者が,376の男との前戯を含めた性交の痕跡を身体や着衣に残しつ
つ,かつ,陰毛を身体に付着させてY荘101号室へ赴いた可能性は,ないとまで
はいえない。
((((ウウウウ))))YYYY荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室で376ので376ので376ので376の男男男男とととと性交性交性交性交したしたしたした可能性可能性可能性可能性についてについてについてについて
以上に見てきたとおり,被害者の身体や下着に376の男の精液や唾液が残されて
いたこと及びY荘101号室の6畳間に376の男の陰毛が残されていたことにつ
いて検討すると,376の男がY荘101号室以外で被害者と性交したという可能
性はないとまではいえない。
しかし,そうだからといって,376の男がY荘101号室で被害者と性交したと
の可能性を否定することはできないであろう。むしろ,Y荘101号室で性交した
とみる方が自然といえるのではないか。なお,検察官は,被害者の膣内の精液が微
量であったとし,その理由につき,被害者がY荘101号室以外で376の男と性
交し,その後同室に到着するまでに膣内の精液が外部に漏れ出すなどした可能性が
高く,その結果,被害者の膣内に遺留していた精液が微量になったと考えるのが合
理的であると主張する。なるほど,被害者の死亡時点で膣内にあった精液の量がか
なり微量であった可能性は否定できず,検察官が主張するような可能性もあるとは
いえるであろう。しかしながら,376の男がY荘101号室で被害者と性交した
としても,例えば,膣内に射出した精液の量がもともと少ない上に,性交後膣内の
精液が外部に漏れ出すなどしたとみることもできるので,検察官が主張するように
考える方が合理的とまではいえない。
イイイイ被害者被害者被害者被害者のコートのコートのコートのコート左肩血痕部左肩血痕部左肩血痕部左肩血痕部からからからから検出検出検出検出された376のされた376のされた376のされた376の男男男男ののののDNADNADNADNAについてについてについてについて
検察官は,被害者のコート左肩の血痕は被害者のものである可能性が高く,その場
合,血痕付着と376の男の何らかの細胞成分付着が場所的に重なったことになる
が,376の男が被害者と路上を連れだって歩いたり性交する過程でそのDNAが
被害者のコートに付着しても何ら不思議ではない旨主張する。
そこで検討すると,376の男が被害者と路上を連れだって歩いたり性交する過程
でそのDNAが被害者のコート左肩背面部に付着するということは,いささか偶然
の度合いが強いのではないかとの感もあるが,その可能性がないとまですることは
できないであろう。しかし,そうだとすると,被害者は,本件被害に会った際,コ
ートの左肩背面部の376の男の細胞成分が付着したちょうどその場所に血液を付
着させたということになり,そういう見方は,偶然の一致という度合いが過ぎるの
ではないかと思われる。もちろん,そういう可能性を全く否定することはできない
であろうが,前記検討のとおり,本件犯人が被害者を殴打した際,自らの手の表皮
も若干剥落し,これが被害者の血液に混じり,本件犯人がコート左肩背面部に触れ
た際に付着した可能性があるとみる方がより合理的であることは明らかといえる。
ウウウウまとめまとめまとめまとめ
以上のとおりであり,検察官の主張に照らして検討しても,前記のように,本件新
証拠は,①376の男が犯行現場であるY荘101号室の6畳間で被害者と性交し
た可能性を示すもの,②その後被害者を殴打して出血させ,その血液を被害者のコ
ート左肩背面部に付着させた可能性を示すものであって,これら①②は相互にその
可能性を高め合っているとの見方は覆らない。そうすると,本件新証拠は,376
の男が犯行現場であるY荘101号室の6畳間で被害者と前戯をして性交し,その
後被害者を殴打して出血させ,その血液を被害者のコート左肩背面部に付着させた
とみるのが自然といえるような,又は少なくともその可能性を否定できないような
状況を示しているといえる。
(4)(4)(4)(4)被害者被害者被害者被害者のののの遺体等遺体等遺体等遺体等についてについてについてについて,,,,請求人請求人請求人請求人がががが本件犯行当日被害者本件犯行当日被害者本件犯行当日被害者本件犯行当日被害者とととと性交性交性交性交ないしないしないしないし接触接触接触接触
したことをしたことをしたことをしたことを裏付裏付裏付裏付けるようなけるようなけるようなけるような痕跡痕跡痕跡痕跡のののの有無有無有無有無についてについてについてについて
ところで,ここで,上記(3)ウの判断を阻害することがあるかどうかの観点から,
被害者の遺体等について,請求人が本件犯行当日被害者と性交ないし接触したこと
を裏付けるような痕跡の有無についても検討しておくことにする。
アアアアブラスリップブラスリップブラスリップブラスリップ前面左裾付近前面左裾付近前面左裾付近前面左裾付近のののの付着物付着物付着物付着物についてについてについてについて
P鑑定書②によれば,検察官が指摘するブラスリップ前面左裾付近(試料308-
4等)の付着物のDNAについて,これが請求人のDNAの存在によるのかどうか
については,判断が困難であるとされているものの,請求人のDNAが付着してい
る可能性が否定されているわけではない(検察官作成のPの平成24年3月9日付
け供述調書参照。)。しかし,ブラスリップのような衣類に染みこんだ例えば精液
のような付着物は,検察官主張のように洗濯によってそのDNAの多くは洗い流さ
れるであろうが,洗濯のされ方によっては一部が残存する可能性が全くないとまで
はいえないであろう。また,本件犯行当時はまだ寒い季節であり,被害者がブラス
リップを洗濯していたその頻度も判然としない。
P鑑定書②によれば,ブラスリップには,前面胸部正中付近に376の男の精液由
来と思われるDNAが付着しており,腹部裏生地(試料308-6a)のSM反応
が陽性であった付近に請求人でも376の男でもない別の男性のDNAが付着して
おり(精液由来と考えられる。),前面左裾付近には,請求人由来の可能性のある
DNAのほかに,請求人でも376の男でも上記腹部裏生地に付着した男性のもの
でもない別の男性のDNAが付着しており,背面採取跡付近(試料308-13,
14)にも男性DNAの混在があるとされているところ,前面胸部正中付近の37
6の男のDNA付着物は前記のとおり本件犯行当日に付着したものと推認される
が,他のDNAの付着については,果たして本件犯行当日に付着したものかどうか
は確定できないというべきである。
すなわち,仮に被害者のブラスリップの前面左裾付近に請求人のDNAが付着して
いたとしても,本件犯行当日より前に付着したものが残存していたという可能性が
あるから,本件犯行当日に請求人が被害者と性交ないし接触したことを示す痕跡と
断定するには足りないというべきである。いずれにしても,上記(3)ウの判断を阻
害するものとはいえない。
イイイイ検察官提出検察官提出検察官提出検察官提出のののの平成平成平成平成24242424年年年年4444月月月月21212121日付日付日付日付けけけけPPPP鑑定書鑑定書鑑定書鑑定書((((以下以下以下以下「P「P「P「P鑑定書鑑定書鑑定書鑑定書③③③③」」」」といといといとい
うううう。)。)。)。)についてについてについてについて
(ア)検察官検察官検察官検察官のののの主張主張主張主張
aaaa被害者被害者被害者被害者のののの右手等右手等右手等右手等のののの付着物付着物付着物付着物からからからから検出検出検出検出されたされたされたされたDNADNADNADNA
被害者の右環指(採証テープ,試料360号),右小指(採証テープ,試料36
1号),右拇指(採証テープ,試料362号),右手掌(採証テープ,試料363
号),右手背(採証テープ,試料364号,切り取り1),右手背(採証テープ,
試料364号,切り取り2)及び時計バンド表12時側(採証テープ,試料397
号)の付着物から検出されたDNAに関し,請求人のDNA型と同じアリールが相
当数検出されていることが認められる。また,各試料につき5ないし6ローカスで
両アリールがそろって検出されており,Miniの検査結果では両アリールが主要
なピークを構成するものも複数みられる。そして,各試料でどのローカスからどの
アリールが検出されているかという傾向もほぼ一致する。
bbbb本件暴行態様本件暴行態様本件暴行態様本件暴行態様からするとからするとからするとからすると本件犯人本件犯人本件犯人本件犯人にににに由来由来由来由来するするするする細胞物質細胞物質細胞物質細胞物質がががが被害者被害者被害者被害者のののの手等手等手等手等にににに残残残残ささささ
れるとれるとれるとれると推認推認推認推認されるとのされるとのされるとのされるとの主張主張主張主張
被害者は継続的に多数回にわたり強度の暴行を加えられたと認められ,被害者
が,これを防ぎ抵抗しようとして,本件犯人の殴打を自己の手で受け止めたり,本
件犯人を押しのけ,振りほどこうとしてその手や腕等を必死の力でつかみ,あるい
は逆に本件犯人からつかまれたり押さえつけられたりした状況は,ごく自然な流れ
として容易に推認される。そして,このような強度の暴行が繰り返し加えられた場
合には,犯人に由来する細胞物質は,たとえ極めて微量であったとしても,なんら
かの形で被害者の手等に残されると推認される。
cccc被害者被害者被害者被害者のののの右手等右手等右手等右手等のののの付着物付着物付着物付着物からからからから検出検出検出検出されたされたされたされたDNADNADNADNAにはにはにはには本件犯人由来本件犯人由来本件犯人由来本件犯人由来のものがのものがのものがのものが含含含含
まれているとまれているとまれているとまれていると推認推認推認推認されるとのされるとのされるとのされるとの主張主張主張主張
本件当夜,被害者が入浴していることを考慮すると,被害者の右手等の付着物が
付着したのは,本件犯行に接着した時間帯と推認することができ,証拠上,被害者
の右手等に目視可能な血痕,精液等の付着は認められなかったこと,右手の3指の
ほか手掌・手背の両面や左手の腕時計バンドという近接するとはいえ,右手と左
手,手の表と裏という偶然かつ同時に他の物体と接触することが困難な複数の部位
から同傾向でアリールが検出されていることからすると,被害者の手等の付着物の
中には,本件犯行時における本件犯人に由来する表皮片や汗等の細胞物質が含まれ
ていると推認するのが自然かつ合理的である。
dddd376の376の376の376の男男男男がががが本件犯人本件犯人本件犯人本件犯人であるであるであるである蓋然性蓋然性蓋然性蓋然性はははは極極極極めてめてめてめて低低低低いとのいとのいとのいとの主張主張主張主張
被害者の右手等の付着物から検出されたDNA型からは376の男のそれと一致
するDNA型はほとんど検出されていない。すなわち,被害者の右手等の付着物か
ら検出されたDNAへの376の男のDNAの関与は,請求人の場合とは比べるこ
とのできないほど極めて低いものである。そうすると,376の男が本件犯人であ
る蓋然性は極めて低い。
(イ)検討検討検討検討
aaaa被害者被害者被害者被害者のののの右手等右手等右手等右手等のののの付着物付着物付着物付着物からからからから検出検出検出検出されたされたされたされたDNADNADNADNAについてについてについてについて
被害者の右手等の付着物から検出されたDNAに関し,請求人のDNA型と同じ
アリールが複数検出されたこと等については検察官が指摘するとおりである。しか
し,P鑑定書③及び検察官作成のPの平成24年5月11日付け供述調書によれ
ば,被害者の右環指(採証テープ,試料360号),右手掌(採証テープ,試料3
63号)及び右手背(採証テープ,試料364号,切り取り2)については,いず
れも,そもそも判断するに足りるだけのデータがそろっていない(IDのSTR型
検査とMiniのSTR型検査で15ローカスのうち数ローカスでアリールが検出
されていないことなど)との理由により,採証テープにはなんらかのDNAが付着
していると推定されるが,型の確定や個人の特定は不可能であるというのである。
また,右小指(採証テープ,試料361号),右拇指(採証テープ,試料362
号),右手背(採証テープ,試料364号,切り取り1)及び時計バンド表12時
側(採証テープ,試料397号)については,いずれも,採証テープにはなんらか
のDNAが付着していて男性DNAの存在が推定されるが,IDとMiniとで互
いの結果が必ずしも整合しないこと(IDでは,主に被害者と同じアリールが検出
されているのに,Miniでは,主に請求人と同じアリールが検出され,本来,I
Dで出たアリールはMiniでも出てしかるべきなのにこれが出ていない場合が目
立つこと),右小指(採証テープ,試料361号)及び時計バンド表12時側(採
証テープ,試料397号)については,加えてmtDNAの配列中に請求人には見
られる変異(16304(c))がみられなかったことなどから,型の確定や個人
の特定は困難であるというのである。さらに,Yfilerでアリールがほとんど
出なかったことも,判断不可能又は困難となった要因の一つであるとされている。
そして,P鑑定人は,右手等の付着物の試料に誰のDNAが付いているとか,その
可能性があるとかないとかという判断は,困難又は不可能であるとの意見を述べて
いる。以上のようなP鑑定書③の鑑定意見に特に疑問をさしはさむような事情は見
当たらない。そうすると,被害者の右手等の付着物から請求人のDNA型と同じア
リールが複数検出されたこと等P鑑定書③の検査結果から,本件犯行当日請求人が
被害者と接触したことを裏付ける痕跡があるとすることはできない。
bbbb本件暴行態様本件暴行態様本件暴行態様本件暴行態様からするとからするとからするとからすると本件犯人本件犯人本件犯人本件犯人にににに由来由来由来由来するするするする細胞物質細胞物質細胞物質細胞物質がががが被害者被害者被害者被害者のののの手等手等手等手等にににに残残残残ささささ
れるとれるとれるとれると推認推認推認推認されるとのされるとのされるとのされるとの検察官検察官検察官検察官のののの主張主張主張主張についてについてについてについて
被害者が継続的に多数回にわたり強度の暴行を加えられたと推認されることは検
察官主張のとおりであろう。しかし,暴行態様の詳細がどうであったか,また,被
害者がどのように抵抗したかは証拠上不明であるから,その際に本件犯人に由来す
る細胞物質が被害者の手等に残されたかどうかについても,証拠上不明と言わざる
を得ない。被害者の遺体の衣服に乱れた様子はなく,コートも着たままであったな
どの証拠関係に照らせば,例えば,本件ショルダーバッグの奪い合いとなって取っ
手が破断した後,本件犯人がいきなり被害者の顔面等を殴打するなど被害者に抵抗
するいとまを与えず一方的に暴行を加え,逃げようとする被害者の左肩付近(被害
者の血痕が付着し,その血痕に376の男のDNAが含まれている。)をつかんで
引き戻すと,頭部等を強打してその場に卒倒させ,抵抗するすべも気力も失って仰
向けに倒れた被害者に馬乗りになって一気に頸部を扼して殺害したという態様も十
分考えられるのであって,このような場合には,本件犯人の細胞物質が被害者の手
等に残される契機は乏しいといえる。したがって,検察官の主張は当を得ない。
cccc被害者被害者被害者被害者のののの右手等右手等右手等右手等のののの付着物付着物付着物付着物からからからから検出検出検出検出されたされたされたされたDNADNADNADNAにはにはにはには本件犯人由来本件犯人由来本件犯人由来本件犯人由来のものがのものがのものがのものが含含含含
まれているとまれているとまれているとまれていると推認推認推認推認されるとのされるとのされるとのされるとの検察官検察官検察官検察官のののの主張主張主張主張についてについてについてについて
本件当夜,被害者は常連客と会った際入浴している。手指に付着したDNAは衣
類に染みこんだものとは異なり,手洗いをすれば残存しにくいと考えられるから,
これらに付着したDNAは本件犯行当日に付着したものと考えられる(なお,被害
者は本件被害にあった際,左手に腕時計をしていたところ,腕時計は通常洗わない
であろうから,これに付着したDNAは本件犯行当日に付着したものかどうかは確
定できない。)。そうすると,被害者の右手等の付着物が付着したのは,被害者
が,入浴後,常連客と別れて以降,本件犯行に接着した時間帯のことと認められ,
被害者の右手等の付着物がY荘101号室で付着した可能性は否定できない。
そして,検察官は,前記のとおり,この付着物から請求人のDNA型と同じアリ
ールが複数検出された等のP鑑定書③の検査結果を強調している。この点,この検
査結果からは,請求人のDNAが付着しているとかその可能性があるとか言うこと
は困難又は不可能であることは前記aのとおりであるが,念のため,この検査結果
から被害者の右手等に請求人のDNAが付着し又はその可能性があるといえると仮
定して検討を加えておくことにする。
P鑑定書③によれば,上記被害者の右小指(採証テープ,試料361号),右拇
指(採証テープ,試料362号)及び右手背(採証テープ,試料364号)の各試
料や,被害者の左手背面(採証テープ,試料357号)及び右手掌(採証テープ,
試料363号)からは被害者のものでも請求人のものでもないアリールが検出され
ている。要するに,被害者の手には被害者及び請求人以外の者のDNAも付着して
いることが認められる。
ところで,Y荘101号室には以前他のネパール人らが居住しており,確定判決
も認定するとおり同室は掃除がされていなかったのであるから,同室のカーペット
上には前居住者や同室に出入りした者らの細胞片が遺留されていた可能性がある。
また,請求人は本件犯行日以前にY荘101号室に出入りしていたのであり,確
定判決審の原審公判で,請求人が,2月初めにKに部屋を見せるために一緒にY荘
101号室に入り,寝室の窓のそばで木のささくれだったようなものに足をひっか
けてけがをした旨述べ,また,その後で同月14,15日より前にY荘101号室
で女性(被害者とは別の女性で渋谷駅ハチ公前から連れてきたという。)と性交し
たことがある旨述べている(請求人が1月終わり頃と2月の終わりから3月の最初
にかけての2回被害者とY荘101号室で性交した旨述べ,2回目の性交の際,使
い終わったコンドームをいったんカーペットの上に置いた旨述べるところについて
は後に検討する。)のであるから,請求人の表皮片,皮膚内外の細胞成分を含んだ
汗,垢や体液の残滓等がカーペット上に落ちて遺留されていた可能性も否定できな
い。
そうすると,本件犯行当日,被害者の手がカーペットに触れてこれら請求人や前
居住者らの細胞片が付着し,繊維片を採証する粘着テープによって採取されたとの
可能性を全く否定することはできないと思われる。
もっとも,手指の腹側や手掌がカーペットに触れることは通常あり得るから,そ
の際にカーペット上の微物が付着することは容易に考えられるが,手の背面にカー
ペット上の微物が付着することは通常やや考えにくい。ところが,被害者の遺体に
ついては,右手背面からも請求人のDNA型と同じアリールのほか被害者のもので
も請求人のものでもないアリールが検出されており,加えて,左手背面からも被害
者のものでも請求人のものでもないアリールが検出されている。また,被害者の手
指に付着していたDNAは,手指のどの部位(腹側か,背側か,側面か)に付着し
ていたかは不明であり,手指の背側の可能性もある。
そして,この点は,次のように考えることもできる。すなわち,被害者の遺体は
Y荘101号室6畳間のカーペット上に仰向けになって,その両手を左右に伸ば
し,各手首から先の背面をカーペットに密着させて倒れていたもので,左手の腕時
計は留め金が外れてそのバンド(文字盤側)がカーペットに接触していた。被害者
は本件犯人に暴力を振るわれた挙げ句扼殺されたものであるが,扼殺される過程
で,その両手背をカーペット上に置いた状態でもがいた可能性も考えられ,手にも
汗をかくなどしてカーペット上の微物も付着しやすい状態にあったものと思われ
る。そして,遺体は発見されるまでの約10日間仰向けに倒れたままの状態で放置
されていた。そのようにみると,カーペット上に遺留されていた被害者以外の人物
の細胞片が左右の手の背面や左腕の時計のバンドに付着し,これが付着したままの
状態で遺体が発見され,採証のための粘着テープに採取された可能性もあり得なく
もないように思われる。すなわち,仮に被害者の右手等に請求人のDNAが付着し
ていたとしても,本件犯行当日に請求人が被害者と性交ないし接触したことを示す
痕跡と断定するには足りないというべきである。
dddd376の376の376の376の男男男男がががが本件犯人本件犯人本件犯人本件犯人であるであるであるである蓋然性蓋然性蓋然性蓋然性はははは極極極極めてめてめてめて低低低低いとのいとのいとのいとの検検検検察官察官察官察官のののの主張主張主張主張についてについてについてについて
前記bで述べたところに照らせば,376の男が本件犯人である蓋然性は極めて
低いとの検察官の主張が当を得ないことは明らかである。
よって,P鑑定書③に基づく検察官の上記(ア)の主張は採用できない。
ウウウウまとめまとめまとめまとめ
以上のとおりであり,被害者の遺体等について,請求人が本件犯行当日被害者と
性交ないし接触したことを裏付けるような痕跡があるとはいえず,上記(3)ウの判
断を阻害する事情があるとはいえない。
(5)(5)(5)(5)本件新証拠本件新証拠本件新証拠本件新証拠のののの持持持持つつつつ意味意味意味意味についてについてについてについて
以上検討したとおりであり,本件新証拠は,376の男が犯行現場であるY荘10
1号室の6畳間で被害者と前戯をして性交し,その後被害者を殴打して出血させ,
その血液を被害者のコート左肩背面部に付着させたとみるのが自然といえるよう
な,又は少なくともその可能性を否定できないような状況を示しているといえる。
(6)(6)(6)(6)本件新証拠本件新証拠本件新証拠本件新証拠とととと旧証拠旧証拠旧証拠旧証拠とをとをとをとを合合合合わせてのわせてのわせてのわせての検討検討検討検討
そこで,確定判決審において,その審理の中で本件新証拠が提出されていたなら
ば,合理的な疑いを生ぜしめることなく,確定判決の認定に到達していたかどうか
という観点から,本件新証拠と確定判決審の他の証拠とを総合的に評価して検討す
ることにする。
アアアア確定判決確定判決確定判決確定判決のののの有罪認定有罪認定有罪認定有罪認定のののの証拠構造証拠構造証拠構造証拠構造においてそのにおいてそのにおいてそのにおいてその骨格骨格骨格骨格をなすをなすをなすをなす部分部分部分部分についてについてについてについて
確定判決は,前記のとおり,「客観証拠から推認される被害状況」から,本件コ
ンドームは本件犯人が残した蓋然性が極めて高い,と判断している。この判断は,
本件新証拠が提出されていない確定判決の証拠関係のもとで,被害者の遺体又はそ
の周辺に残された性交の痕跡の最も有力なものは,本件コンドームであるとみたこ
とによるものである(なお,確定判決審の原審である第1審判決は,被害者の膣内
の残留精子について,微量であったとした上,常連客が被害者とコンドームを使用
せずに性交していることや,常連客の血液型がO型であることから,常連客に由来
するものと考えられるとしている。)。そして,本件コンドーム内の精液が請求人
のものであったことなど確定判決認定⑴ないし⑶によれば,本件犯人は請求人であ
る蓋然性が極めて高いということになる。このことは確定判決の有罪認定の前提で
あり,その骨格をなすものといえる。
ところが,前述のとおり,本件新証拠は,376の男が犯行現場であるY荘10
1号室の6畳間で被害者と前戯をして性交し,その後被害者を殴打して出血させ,
その血液を被害者のコート左肩背面部に付着させたとみるのが自然といえるよう
な,又は少なくともその可能性を否定できないような状況を示している。他方で,
本件コンドームはY荘101号室の便所内に放置してあったものであるから,Y荘
101号室6畳間に請求人の陰毛1本が落ちていたことを併せ考えても,これらの
証拠から確実にいえることは,請求人が同所で誰かと性交した蓋然性が高いという
ことにとどまる。しかも,確定判決認定⑶のとおり,本件コンドーム内の精液は本
件犯行時に投棄されたものとしても矛盾しないとされているにとどまり,その投棄
日が本件犯行時であると確定されているわけではない(本件犯行時より遡る可能性
が否定されていない。)。このように,確定判決認定⑴ないし⑶に係わる各証拠と
本件新証拠とを対比して検討するときは,「客観証拠から推認される被害状況」か
ら本件コンドームは本件犯人が残したものである蓋然性が極めて高いとする確定判
決の前記判断は,そのようにはいえないということになる(なお,被害者のブラス
リップ前面左裾付近に請求人のDNAが付着していた可能性があるとの点及び被害
者の右手等の付着物から請求人のDNA型と同じアリールが複数検出されたとの点
は,仮にこれら被害者のブラスリップや右手等に請求人のDNAが付着していたと
考えたとしても,なお,前述のとおり,請求人が本件犯行当日被害者と接触した可
能性を示すこと以外の説明も可能であるから,上記結論を左右するものではな
い。)。
イイイイ本件犯行日本件犯行日本件犯行日本件犯行日とされるとされるとされるとされる日日日日よりよりよりより前前前前ににににYYYY荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室でででで被害者被害者被害者被害者とととと性交性交性交性交してしてしてして本件本件本件本件コンコンコンコン
ドームをドームをドームをドームを便所便所便所便所にににに捨捨捨捨てたとのてたとのてたとのてたとの請求人請求人請求人請求人のののの弁解弁解弁解弁解についてについてについてについて
請求人は,2月25日(Sから1万円を借りた日)から3月1日又は2日(同月
3日,4日は勤務が休みで,その前)までの間に,Y荘101号室で被害者と性交
し,本件コンドームを便所に捨てた旨弁解しているところ,確定判決認定⑷は,こ
の請求人の弁解は信用しかねる旨判示している。
しかし,アで述べたように,本件コンドームの投棄日時は,犯行時より遡る可能
性が否定されていない。そうすると,本件新証拠が,376の男が犯行現場である
Y荘101号室の6畳間で被害者と前戯をして性交し,その後被害者を殴打して出
血させ,その血液を被害者のコート左肩背面部に付着させたとみるのが自然といえ
るような,又は少なくともその可能性を否定できないような状況を示していること
と対比すると,請求人が本件犯行時に先立つ日時にY荘101号室で性交したので
はないかとの疑問が生ずる。請求人がY荘101号室で被害者と性交した旨弁解す
る日時は,本件犯行の約7日から12日前であるから,確定判決が依拠する本件コ
ンドーム内の精液の経時変化に関するH鑑定人の実験結果に照らしてもあり得ない
ことではない。このような疑問を踏まえて確定判決認定⑷について検討すると,確
定判決認定⑷は,このような疑問を解消できるほど確実なものといえず,以下に述
べるような見方も成り立ちうるのではないかと思われる。
(ア)被害者被害者被害者被害者のののの本件手帳本件手帳本件手帳本件手帳のののの記載内容記載内容記載内容記載内容とととと照応照応照応照応するかどうかするかどうかするかどうかするかどうかについてについてについてについて
確定判決は,被害者の本件手帳の売春結果欄の記載は克明で確度が高いものであ
るところ,請求人の弁解に関連する記載は,2月28日結果欄の「?外人0・2
万」の記載のみであるとする。そして,「?」の符丁の記載の仕方に関し,被害者
は,初めての客相手に売春する際,相手の名前を尋ね,その名刺をもらい,電話番
号を聞き出すなどして,今後とも引き続き客となりそうだと判断した場合には,初
回でも「?」を付けないが,相手が名を明かさず,勤め先など連絡のヒントさえ与
えてくれなかったり,一応これらが分かっても,その応対態度などから今後は客に
はできないと判断した場合には,「?」の符丁を付けておき,次に売春相手にする
機会がまたあって,その名前や連絡方法が分かるなどしたために,その相手が今後
も客とすることができそうだと判断できた場合には,その日の結果欄の記載をする
に当たり,「?」の符丁を外すという傾向があったことが窺われるとする。その上
で,請求人は前年12月12日に,被害者をIビル401号室に連れ込んで同居の
仲間2人と共に買春を行っていること,その後も被害者が401号室を訪ねて来た
ことがあるが,買春を断って,請求人が階下まで被害者を見送ったことがあるとい
うのであるから,請求人と被害者とは互いに面識があったはずであるとする(な
お,確定判決は,本件手帳の前年12月12日の結果欄に「?外人3人(401)
1.1万」と,同月16日の欄に「外人(401)0.3万」と記載されているこ
とにつき,12日に請求人ら3名とIビル401号室で売春を行ったものの,3名
が同室の居住者であるか否か判然とせず,身元の確認ができなかったため,「?」
の符丁を付け,16日の客は上記3名のうちの1人であり,被害者としては,同室
の居住者であることが分かったため,「?」の符丁を外したと説明することができ
るとする。)。そして,初回の売春から2か月半余りしか経過していない2月28
日にも請求人が被害者の売春相手をしたのであれば,Iビルのすぐそばで,請求人
と会った被害者としては,請求人を401号室で売春の相手にした外人として容易
に認識したはずであり,その日の結果欄には「?」の符丁を付さないのが自然だと
思われ,請求人のことを前年12月12日のIビル401号室での売春相手である
ことを知っている被害者が,2月28日の売春結果欄に,「?外人」と表示するこ
とは考え難いとしている。しかし,請求人は外国人(ネパール人)であるから,被
害者にとって個人識別は必ずしも容易ではなかったと思われるし,言語の関係で会
話も多くはなかったであろうから,個人としての特徴はつかみにくかった可能性は
否定できない。被害者が,請求人の弁解どおり,12月,1月と請求人相手に売春
を重ねたとしても,2月28日には,時の経過ではっきりとは見分けがつかなくな
り,Iビルのすぐそば(請求人は,確定判決審第5回公判で,Iビルとこれに接す
る東側道路を挟んで向かい側にある東方に上がっていく階段の途中と述べてい
る。)で出会ったことなどから仮にIビルと結びつけて記憶を喚起したとしても,
(前に売春の相手にしたような記憶が残っていたかもしれないが)個人として明確
には思い出せず,Iビル401号室の居住者であるかどうかについてもなお確信を
持てなかったという可能性は否定し切れないと思われる。そして,請求人が,被害
者から名前や電話番号を尋ねられたことはなく,名前を伝えたことはない旨述べて
いる(前同公判)ところ,本件手帳には,請求人の氏名や呼称,連絡先電話番号な
ど請求人を特定する記載はなく,被害者が,請求人を,予約して売春するような遊
客としてではなく,場当たり的な遊客として見ていた可能性も否定できないのであ
る。以上のようなことからすると,被害者が,本件手帳の2月28日の売春結果欄
に,請求人のことを「?外人」と記載する可能性も否定し難いように思われる。
(イ)請求人請求人請求人請求人のののの弁解内容弁解内容弁解内容弁解内容のののの変遷等変遷等変遷等変遷等についてについてについてについて
また,確定判決は,請求人は,確定判決審の原審第26回公判で,最後の売春の
際,(代金は5000円で)実際に支払った金額は4500円くらいだったと供述
し,被害者の本件手帳が取り調べられた同第27回公判でも同旨の供述をした。こ
の供述は,定期券の購入代及びSからの借金の記憶と結び付けてなされていて,明
確かつ具体的であったが,同第28回公判では,「最大で4500円というのは確
かだと思うが,それより少ない可能性は幾らでもある。千円札だけということはな
かった。」と供述を変え,同第30回公判でも,「多ければ4500円で,350
0円かも知れないし,2500円かも知れない。」と,実際に支払った金額を低い
方へ修正して供述しているのである。被告人の最後の買春の支払金額についての供
述の変遷は,当初,定期券代(4640円)に少し足りない金額すなわち4500
円くらいを支払ったという明確な供述が,途中から「それより少ない可能性は幾ら
でもある」などと変更されること自体,不自然であるといわなければならないとす
る。そして,被告人が当初から支払額として述べていた4500円という金額が,
本件手帳の2月28日の結果欄に記載された売春代金「0.2万」と大きく異なる
ことはいうまでもないとし,変更後の供述に出た3500円ないし2500円も上
記の記載と違っているとしている。また,請求人は,売春代金のやりとりについ
て,被害者が,代金として1万円札が出されると釣り銭のいらないように要求し,
代金の5000円に足りない金額が差し出されると,「足りない分は次のセックス
の時に精算すればいい」などと言った旨述べているが,被害者は,事が金銭のこと
になると,たとえ相手が馴染み客であっても,容易に妥協することはなかったか
ら,文句も言わずに,鷹揚に受け取って済ませたなどということは考え難いとして
いる。確かに,確定判決が指摘するように,請求人の売春代金の供述には変遷があ
り,不自然ではないかと思われる内容も含まれ,代金額も本件手帳の記載と合致し
ていない。しかし,売春代金についての記憶は,事柄の性質上,もともとそれほど
正確に残っていなかった可能性は否定できないであろう。請求人は前年12月12
日に初めて被害者を相手に買春をした代金につき5000円と述べており,その印
象が強かった可能性も否定できない。請求人の供述の変遷もこのようなことに由来
するとみる余地を否定し難いのではないか。請求人が述べる売春代金も5000円
未満の金額であって,本件手帳の0.2万円という記載と桁外れに異なるものでも
ない。支払った売春代金額が4500円くらいだったことを根拠づけようとして述
べている請求人の当初の供述部分は事実でない疑いが濃厚であるが,そのことを考
慮しても,請求人の弁解はすべて虚偽であるとして排斥し去ることはできにくいよ
うに思われるのである。
(ウ)まとめまとめまとめまとめ
このようにみてくると,被告人の弁解が被害者の本件手帳の記載と実質的に照応
しないと断定できるか,そして,被告人の弁解が変遷していることや不自然ではな
いかと思われる内容を含むことなどから排斥できるか,については疑問が生じたと
いうべきである。すなわち,本件新証拠によって,確定判決認定⑷の,(本件の1
週間ないし10日余り前の)2月25日から3月2日頃までの間に,Y荘101号
室で被害者と性交し,本件コンドームを便所に捨てた旨の弁解は信用しかねるとの
判断に疑問が生じたというべきである。
翻ってみると,2月25日から3月1日又は2日までの間に,Y荘101号室で
被害者と性交し,本件コンドームを便所に捨てた旨の請求人の弁解は,請求人が検
察官から本件手帳の開示を受ける前にされたもので,請求人は本件手帳の記載内容
を知ることなく上記の弁解をしたものである。請求人が被害者と性交したと述べた
日も5日間ないし6日間という程度の幅の中におさまっている。そして,請求人が
述べた2月25日から3月1日又は2日までの間に該当する2月28日の本件手帳
の売春結果欄に,「?外人0.2万」との記載があったのである。このことは,偶
然の一致にすぎないとは断定し切れないと思われる。
なお,請求人のこの弁解が排斥し難い以上,請求人が上記性交の際,使い終わっ
たコンドームをいったんカーペットの上に置いた旨述べる点,及び1月終わり頃に
もY荘101号室で被害者と性交した旨述べる点についても排斥しきれないという
べきである。そうすると,請求人が述べるこうした出来事は,請求人が本件以前に
Y荘101号室にその表皮片,皮膚内外の細胞成分を含んだ汗,垢や体液の残滓等
を遺留した可能性を示す一事情といえる。
ウウウウYYYY荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室へへへへ被害者被害者被害者被害者がががが自自自自らららら又又又又はははは請求人以外請求人以外請求人以外請求人以外のののの男性男性男性男性がががが自自自自らららら立立立立ちちちち入入入入るるるる可能性可能性可能性可能性
についてについてについてについて
確定判決認定⑺は,請求人の言うとおりに,本件犯行が行われる以前から,Y荘
101号室の出入口の施錠がされないままになっていたとしても,同アパートに係
わりのない被害者が,同室が空き室であり,しかも施錠されていないと知って,売
春客を連れ込み,あるいは,請求人以外の男性が被害者を同室に連れ込むことは,
およそ考え難い事態であるとしている。
(ア)被害者被害者被害者被害者がががが,Y,Y,Y,Y荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室がががが空空空空きききき室室室室でででで施錠施錠施錠施錠されていないことをされていないことをされていないことをされていないことを知知知知ってってってって買春買春買春買春
客客客客をををを連連連連れれれれ込込込込んだんだんだんだ可能性可能性可能性可能性についてについてについてについて
請求人は,①2月25日から3月1日又は2日までの間に,Y荘101号室で被
害者と性交して買春した旨弁解するとともに,②その買春を終えた後,「私が先に
部屋の外に出て,被害者が後から出た。被害者に言って出入口のドアを閉めてもら
ったが,鍵は掛けないでおいた。」旨弁解している。そして,確定判決も,前記第
2,4⑺のとおり,買春に利用するつもりでY荘101号室を施錠しないままにし
ておいて鍵を返還したとの請求人の言い分はあながち弁解のための弁解とは言い切
れないものが残るとしているのである上,請求人の上記②の弁解は上記①の弁解と
一体をなすものといえるから,前記イのとおり,請求人の上記①の弁解が排斥し難
いとの疑問が生じた以上,請求人の上記②の弁解についても,これを排斥し難いと
の疑問が生じたといわざるをえない。そうだとすると,被害者が,Y荘101号室
が空き室で無施錠であることを知った可能性が否定できないことになる。
そして,前記第2,4⑺のとおり,確定判決も,Y荘は相当に老朽化した木造ア
パートであり,本件当時,101号室は約4か月程空き室の状態で汚れていて管理
がいい加減であったことは明らかである旨認定しているところ,その東西が道路に
面しており,とりわけ西側道路はZ駅にほど近く,101号室はその西側道路に面
しており,この西側道路から階段を数段上ればたやすく101号室の玄関前に至る
ことができるし,その前を通ってY荘が面している東側道路に至ることもできるの
である。しかも,被害者は,Y荘周辺を含む渋谷区円山町界隈を毎晩のように売春
客を求めて徘徊し,かつ,平気で他人の住居の敷地内に立ち入り,駐車場や駐輪場
の奥の建物と壁の間やビルの奥の階段の下辺りで屋外性交に及んでいたのであるか
ら,他人の住居の敷地内であっても屋外性交に適当な場所があれば,これを見つけ
ようと心掛けていた可能性は高い。そうすると,Y荘101号室が空き室で無施錠
であることを知った被害者が,これ幸いと抵抗感なく376の男を誘って同室で売
春をした可能性も否定できないといえる。このことは,確定判決認定⑸が依拠する
G証言が,本件犯行当日の午後11時30分前後頃,被害者が先に,男が後になっ
て,Y荘に入る階段を上がっていった旨述べているところとも整合的である。
そうすると,本件新証拠によって,確定判決認定⑺の被害者が売春客をY荘10
1号室に連れ込むことは,およそ考え難い事態であるとの判断に疑問が生じたとい
うべきである。
(イ)請求人以外請求人以外請求人以外請求人以外のののの男性男性男性男性がががが,Y,Y,Y,Y荘荘荘荘101101101101号室号室号室号室がががが空空空空きききき室室室室でででで施錠施錠施錠施錠されていないことをされていないことをされていないことをされていないことを
知知知知ってってってって,,,,被害者被害者被害者被害者をををを同室同室同室同室にににに連連連連れれれれ込込込込んだんだんだんだ可能性可能性可能性可能性についてについてについてについて
確定判決は,請求人のネパール人仲間が,Y荘101号室が空き室であって,し
かも施錠してないことを聞知して,被害者を同室に連れ込んだ可能性も,全く想定
できないわけではないと思われるとした上,被告人の同居人4人については本件当
日のアリバイがあるなどとして,また,Y荘101号室の前居住者4人については
平成9年に入ってから同室に出入りした事跡は窺われないとして,請求人のネパー
ル人仲間が被害者を同室に連れ込む可能性を否定し,確定判決認定⑺の請求人以外
の男性が被害者を同室に連れ込むことは,およそ考え難い事態であるとの判断に至
っている。しかし,請求人のネパール人仲間やこれらの者の交友関係者は,確定判
決が上記のとおり検討を加えた範囲にとどまらない可能性も否定し切れない。そう
した交友関係の中で,Y荘101号室が空き室であって,しかも施錠してないこと
を聞知した者が,被害者を同室に連れ込んだ可能性も全くないとは言い切れない。
この点についても,本件新証拠が,376の男が犯行現場であるY荘101号室の
6畳間で被害者と前戯をして性交し,その後被害者を殴打して出血させ,その血液
を被害者のコート左肩背面部に付着させたとみるのが自然といえるような,又は少
なくともその可能性を否定できないような状況を示していることと対比して検討す
ると,以上のような可能性も否定し切れないことになると思われる。
そうすると,本件新証拠によって,確定判決認定⑺の請求人以外の男性が被害者
をY荘101号室に連れ込むことは,およそ考え難い事態であるとの判断に疑問が
生じたというべきである。
エエエエ本件本件本件本件ショルショルショルショルダーバッグのダーバッグのダーバッグのダーバッグの取取取取っっっっ手手手手からからからからBBBB型陽性反応型陽性反応型陽性反応型陽性反応がががが認認認認められたことについてめられたことについてめられたことについてめられたことについて
ところで,検察官は,確定判決審の原審甲第26号証の帝京大学医学部法医学教室
教授T作成の鑑定書が「ショルダーバック取っ手(千切れている方)の中央部には
明らかなB型陽性反応が認められ,左右両側にも弱いB型陽性反応が認められた」
としていることを踏まえて,この「明らかな」B型陽性反応というのは,本件犯人
が被害者の抵抗を排して本件ショルダーバッグを奪おうとして取っ手を千切れるま
で強く握って引っ張ったことによるものであって,たまたま何者かがなんらかの機
会に触れたことによる程度のものとは考え難いと主張している。確かに,取っ手が
千切れるまで強く握って引っ張った以上,その者の血液型物質が付着することは十
分にあり得ることと思われ,その限度では,検察官の主張は理由がある。しかしな
がら,同鑑定書は,本件ショルダーバッグの「持ち主がO型であるため,O型の分
析は省略し,A型物質とB型物質の付着の有無について分析を行った」としている
のであって,この点に留意する必要がある。すなわち,O型である376の男が本
件犯行の際に本件ショルダーバッグの取っ手を引っ張ったとしても,証拠上,矛盾
は生じないことになる。そして,被害者は,これまで行きずりの売春客を求めて円
山町界隈を徘徊するなどし,また,売春のため不特定多数の男性と行動を共にして
きている。そうしたことも併せ考えると,本件犯行時以前に,例えばひったくりに
あいかけたり,買春客とトラブルになったりした際,血液型のB型物質の持ち主が
本件ショルダーバッグの取っ手を強く握るなどして,そのB型物質が取っ手に付着
したという可能性も否定し切れないというべきである。
オオオオまとめまとめまとめまとめ
以上のとおり,本件新証拠と旧証拠をあわせて検討すると,まず,確定判決の有
罪認定の証拠構造の骨格をなす判断,すなわち「客観証拠から推認される被害状
況」から本件コンドームは本件犯人が残したものである蓋然性が極めて高いとする
確定判決の判断に疑問が生じた。また,(本件の1週間ないし10日余り前の)2
月25日から3月2日頃までの間に,Y荘101号室で被害者と性交し,本件コン
ドームを便所に捨てた旨の請求人の弁解は信用しかねるとの判断に疑問が生じ,さ
らに,被害者が売春客をY荘101号室に連れ込むことや,請求人以外の男性が被
害者をY荘101号室に連れ込むことは,およそ考え難い事態であるとの判断にも
疑問が生じた。
換言すれば,本件新証拠が,376の男が犯行現場であるY荘101号室の6畳
間で被害者と前戯をして性交し,その後被害者を殴打して出血させ,その血液を被
害者のコート左肩背面部に付着させたとみるのが自然といえるような,又は少なく
ともその可能性を否定できないような状況を示しているとの見方は,確定判決の有
罪認定の証拠構造に照らしても検討しても,なお排斥できないということである。
そして,このような見方は,相当の理由をもって,376の男がY荘101号室で
被害者と性交し,その後,被害者を殺害して現金約4万円を強取したのではないか
との疑いを生じさせているといえる。
そうすると,確定判決審において,その審理の中で本件新証拠が提出されていた
ならば,376の男がY荘101号室で被害者と性交し,その後,被害者を殺害し
て現金約4万円を強取したのではないかとの疑いを否定できず,被告人が被害者を
殺害して現金約4万円を強取したとの有罪認定には到達しなかったのではないかと
思われるのである。
(7)(7)(7)(7)明白性明白性明白性明白性についてのについてのについてのについての結論結論結論結論
以上(6)で検討したところによれば,その余の新証拠について検討するまでもな
く,本件新証拠は,確定判決における有罪認定につき合理的な疑いを抱かせ,その
認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠といえるから,「無罪を言い渡すべき明らか
な証拠」に当たる。
第第第第5555結論結論結論結論
以上によれば,本件再審請求は,刑訴法435条6号所定の有罪の言い渡しを受け
た者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当す
る。
よって,刑訴法448条1項,435条6号により本件について再審を開始し,同
法448条2項を適用して請求人に対する刑の執行を停止することとして,主文の
とおり決定する。
(裁判長裁判官小川正持裁判官川口政明裁判官任介辰哉)

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