弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を破棄する。
2被上告人の控訴を棄却する。
3控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人小林寛治の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)
について
1本件は,被上告人が上告人に対して保証債務の履行を求めたところ,上告人
が,被上告人による保証債務の履行請求は権利の濫用に当たるなどと主張して,こ
れを争う事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)A社は,平成4年12月18日に設立され,Bが代表取締役を務める会社
であり,建物の内装工事の設計,施工及び請負等を業としている。A社は,平成1
5年から平成17年にかけて,A社内部の各事業部門の法人化を進め,被上告人
(旧商号はC社)のほか,D社(組織変更前の商号はE社),F社,G社,H社を
設立した。上記の各社は,いずれも本店所在地がA社と同一であり,F社の代表取
締役にIが就任したほかは,いずれもA社の代表取締役であるBがその代表取締役
に就任して設立された(以上の各社に後記のJ社を併せた会社の集合体を「A社グ
ループ」という。)。このうち,被上告人は,A社の財務部門が法人化された会社
であり,Bが全株式を保有し,A社グループに属する会社やその子会社等への融資
業務を行っている。
(2)K社は,Bが代表取締役を務め,Lが関西統括部長等を務めていた会社で
あり,人材派遣や業務請負を業としていた。K社は,平成16年ころ,同社の支店
を別会社として法人化するようになり,同年11月,A社グループに属するD社
(代表取締役B,取締役L)が資本金300万円を全額出資することにより,K社
の神戸支店を法人化して,M社が設立され,設立時の代表取締役には,Lの指示に
よりNが就任した。M社のほかにも全国各地において,A社と関連する多くの支店
等が法人化された。
(3)アM社は,A社との間で,同社に対し軽作業請負業務上の経営顧問全般を
依頼することなどを内容とする経営顧問契約を締結し,さらに,D社が全額出資す
ることにより平成17年1月4日に設立されたJ社(代表取締役L)との間でも,
同社に対し軽作業請負業務上の経営顧問全般を依頼することなどを内容とする経営
顧問契約を締結した。これらの経営顧問契約によれば,M社は,A社に対して1か
月25万円の,J社に対して1か月10万円の顧問料を支払うものとされている一
方で,M社に将来損失や損害が発生してもA社ないしJ社は一切の責任を負わない
ものとされていた。M社は,このほかにも,A社グループに属するD社との間で,
経理業務,人事労務その他管理業務を委託する内容の管理業務委託契約を,G社と
の間でコンサルティング委託契約を,H社との間でH社手配管理システム利用契約
をそれぞれ締結した。
M社の第1期事業年度(平成16年11月1日∼平成17年9月30日)の損益
計算書によれば,売上高7154万1944円のうち,少なくとも4750万42
97円が,A社グループに属する会社に対する支払に充てられる状況の下で,営業
損益については512万3798円の,経常損益については560万5529円の
欠損を生じた。
イまた,M社の代表者印,銀行届出印及び預金通帳は,いずれもA社グループ
に属するF社において保管されており,M社名義の預金口座に係る入出金,登録ス
タッフへの給与や費用の支払,A社グループに属する会社に対する顧問料の支払等
も,F社が行っていた。
ウM社は,BあるいはLから,当期予算の事前提出を指示され,売上げや利益
についても具体的な目標を設定され,予算の達成率や売上げ等の報告や資料の提出
を求められ,資料の提出に応じないと資金移動を止めるなどの警告を受けることが
あったほか,メールなどにより,個々の業務に関する指示を受けることもあった。
(4)上告人(昭和55年9月22日生)は,平成15年6月ころ,K社の神戸
支店にアルバイトとして勤務するようになり,平成16年11月に,M社が設立さ
れた際には,その正社員となり,営業部長の肩書を与えられた。M社は,設立当
時,上告人を含め実働3名で業務が行われており,その中では上告人が中心的な立
場にあったが,上告人の勤務場所や勤務実態等は,同社の設立前と変化はなかっ
た。
(5)Lは,平成17年1月ころ,上告人から,M社の資金繰り表の提出を受
け,近い将来同社の資金がショートする旨の報告を受けていたにもかかわらず,同
月末ころ,同社の経営が成り立っていくかどうか等を含め不安も強かった上告人に
対し,同社の代表取締役に就任するよう強く働きかけ,上告人は,同年3月1日付
けで同社の代表取締役に就任した。
(6)M社は,平成17年4月末ころ,資金繰りに追われるようになり,上告人
が,Lに資金繰りの相談をしたところ,Lから,被上告人から借入れをし,上告人
がその保証人になるよう指示を受けた。そこで,上告人は,平成17年5月2日,
被上告人との間で,M社の代表者として,M社が被上告人から400万円を,利息
の利率を年18%,遅延損害金の利率を年25%とし,同月以降平成18年2月ま
で各月末日限り,元金の分割弁済として40万円及び経過利息の合計額を支払うな
どの約定で借り入れる旨の金銭消費貸借契約を締結するとともに,上告人が上記借
入れに係る借入金債務を連帯保証する旨の保証契約(以下「本件保証契約」とい
う。)を締結した。
被上告人は,F社が管理するM社名義の預金口座に上記400万円を入金し,こ
の400万円は,F社によってM社の負担する債務の支払に充てられた。
(7)上告人は,弁護士会に相談に赴いて弁護士に依頼してM社の代表取締役を
辞任したい旨の平成17年5月6日付け通知書を送付し,同年6月15日にも同様
の通知書を送付し,同月中には出社しなくなった。その後,LがM社の代表取締役
に就任したが,同社は,同年11月ころ,事業を停止した。
3原審は,M社とA社グループに属する上記各会社との関係,上告人がM社の
代表取締役に就任した経緯や本件保証契約を締結した経緯等を検討しても,被上告
人による保証債務の履行請求が権利の濫用に当たるといえるほどの事情は認められ
ないなどとして,上告人の主張を排斥し,被上告人の請求を全部認容した。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係によれば,M社は,Bが代表取締役を,Lが関西統括部長等を務め
ていたK社の神戸支店を法人化した会社であり,その資本金はA社グループに属す
るD社が全額を出資して設立されたものであって,その設立後においては,A社を
初めとするA社グループに属する各社との間で,経営顧問契約等の各種契約を締結
し,顧問料の支払を行うなどして,第1期事業年度には,その支払総額がM社の売
上高に占める割合は約66%にも上っていたというのである。しかも,上記経営顧
問契約に基づき経営顧問全般の依頼を受けたA社やJ社は,M社に将来損失や損害
が発生しても,一切責任を負わないことが約されていたことや,M社の代表者印,
銀行届出印及び預金通帳がA社グループに属するF社によって管理され,M社名義
の預金口座に係る入出金や同社の費用等の支払もF社によって行われるなど,M社
の資金がF社に掌握されていたことをも考慮すると,上記のような資本関係や人的
関係等を背景として,A社を初めとするA社グループに属する各社が上記各契約に
基づきM社の売上げから顧問料等の名目により確実に収入を得ることができる体制
が周到に築かれていたということができる。
そして,M社は,上記のようにして,F社に資金を掌握されていただけでなく,
前記事実関係によれば,BあるいはLから,予算の事前提出を指示され,売上げや
利益についても具体的な目標を設定され,予算の達成率や売上げ等の報告や資料の
提出も求められるほか,個々の業務に関しても相当強力な指示を受けており,これ
らのことからすれば,M社の業務遂行に関し,その代表取締役にはほとんど裁量の
余地はなく,資金繰りを含めその経営の判断は,BやLに依存し,その指示に従わ
ざるを得ない経営体制にあったということができる。他方,上告人は,23歳のと
きに,A社の代表取締役であるBが代表取締役を務めるK社の神戸支店にアルバイ
トとして勤務するようになったが,同支店が独立する形でM社が設立された際に,
同社の正社員となり,その後わずか数か月後に,Lの働きかけにより同社の代表取
締役に就任したもので,同社の設立の前後を通じてその勤務場所や勤務実態等に格
別の変化はなかったというのであり,代表取締役に就任したとはいえ,上記経営体
制の下にあっては,単なる従業員とほとんど異ならない立場にあったとみることが
できる。しかるに,Lは,近い将来M社の資金繰りが行き詰まるおそれがあること
を認識しながら,上告人に対し,同社の代表取締役に就任するよう強く働きかけた
上,上告人の代表取締役就任後間もなくして同社の資金繰りが行き詰まるや,上告
人に対し,Bが代表取締役を務め,その全株式を保有する被上告人から融資を受
け,上告人においてこの融資に係る債務を保証するよう指示したというのである。
そして,被上告人は,M社がA社グループの関連会社であるにもかかわらず,利息
制限法所定の制限利率を上回る高利で金員を貸し付け,これを上告人に保証させて
いるところ,M社の上記経営体制の下にあっては,上告人がこれを拒むことは事実
上困難であったというほかなく,上告人が,本件保証契約を締結した直後に弁護士
に相談し,代表取締役を辞任したい旨の通知を送付しているのも,上記のような事
態に困惑してのことであるとみることができる。
以上に説示したところを総合すると,被上告人の上告人に対する保証債務の履行
請求は,M社が既に事業を停止している状況の下において,A社グループに属する
各社がM社の事業活動から経営顧問契約等の各種契約に基づき顧問料等の名目で確
実に収入を得ていた一方で,わずかの期間同社の代表取締役に就任したとはいえ,
経営に関する裁量をほとんど与えられていない経営体制の下で,経験も浅く若年の
単なる従業員に等しい立場にあった上告人だけに,同社の事業活動による損失の負
担を求めるものといわざるを得ず,上告人が同社の代表取締役に就任した当時の同
社の経営状況,就任の経緯,被上告人の同社に対する金員貸付けの条件,上告人は
本件保証契約の締結を拒むことが事実上困難な立場にあったことなどをも考慮する
と,権利の濫用に当たり許されないものというべきである。原審が認定する他の事
実を考慮しても,この判断は左右されない。
5以上と異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反
がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れな
い。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを
棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官竹内行
夫の補足意見がある。
裁判官竹内行夫の補足意見は,次のとおりである。
私は,被上告人の上告人に対する保証債務の履行請求が権利の濫用に当たるとす
る法廷意見に賛同するものであるが,本件事案にかんがみ,以下のとおり補足意見
を述べる。
M社は,A社グループに属する会社との間で各種の契約を締結することにより,
経営についての助言や顧客の紹介を受けることができるほか,人材派遣業務に有益
なコンピューターシステムや入出金業務等を定型化した会計システムの利用をする
ことなどができることになる。また,A社グループの関連会社であるM社は,同グ
ループに属する被上告人から運転資金のつなぎ融資を受けることも可能になる。こ
のようなビジネスシステムは,M社の代表者に経営上の裁量が与えられ,同社が上
記グループに属する会社に支払うべき上記各システム等の利用の対価やつなぎ融資
に係る利息の定めが合理的なものであったならば,M社の業務(軽作業等の業務請
負)の遂行に役立つばかりでなく,経理等の管理事務の合理化・効率化,ひいて
は,経費の節減にもつながるものであって,このシステム自体を不当なものである
と考えるべきではない。したがって,このシステムの不当性を前提として,被上告
人の上告人に対する保証債務の履行請求が権利の濫用に当たるということはできな
い。
しかし,本件については,上告人は,M社の代表者であるとはいっても,経営に
関する裁量がほとんど与えられておらず,経験も浅く若年の単なる従業員に等しい
立場にあったのであり,被上告人の上告人に対する保証債務の履行請求を認めるこ
とは,このような立場にあった上告人だけに同社の事業活動による損失の負担を求
めるものといわざるを得ない上,上告人において,上記貸付けに係る借入金債務を
連帯保証することを拒否すること自体困難な立場にあったこと,M社がA社グルー
プの関連会社であるにもかかわらず,同グループに属する被上告人が,利息制限法
所定の制限利率を上回る高利による金員の貸付けまで行っていることなど法廷意見
が指摘する諸事情にかんがみれば,上記保証債務の履行請求が権利の濫用に当たる
ということもやむを得ないところである。
(裁判長裁判官中川了滋裁判官今井功裁判官古田佑紀裁判官
竹内行夫)

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