弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 (抗告趣意に対する判断)
 本件抗告の趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例はいずれも事案
を異にし本件に適切でなく、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違
反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四三三条の抗告理由に当たらない。
 (職権による判断)
 原決定及びその是認する原原決定の認定によれば、警察官である被疑者A及び同
Bは、職務として、日本共産党に関する警備情報を得るため、他の警察官とも意思
を通じたうえ、同党中央委員会国際部長である請求人方の電話を盗聴したものであ
るが、その行為が電気通信事業法に触れる違法なものであることなどから、電話回
線への工作、盗聴場所の確保をはじめ盗聴行為全般を通じ、終始何人に対しても警
察官による行為でないことを装う行動をとつていたというのである。
 ところで、右の行為について、原原決定は、「相手方において、職権の行使であ
ることを認識できうる外観を備えたもの」でないことを理由に、原決定は、「行為
の相手方の意思に働きかけ、これに影響を与える職権行使の性質を備えるもの」で
ないことを理由に、職権を濫用した行為とはいえないとして公務員職権濫用罪に当
たらないと判断した。これに対し、所論は、公務員の不法な行為が職務として行わ
れ、その結果個人の権利、自由が侵害されたときには当然同罪が成立し、本件盗聴
行為についても同罪が成立すると主張する。
 しかし、刑法一九三条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の一般
的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、
事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいい(最高裁昭
和五五年(あ)第四六一号同五七年一月二八日第二小法廷決定・刑集三六巻一号一
頁参照)、同罪が成立するには、公務員の不法な行為が右の性質をもつ職務権限を
濫用して行われたことを要するものというべきである。すなわち、公務員の不法な
行為が職務としてなされたとしても、職権を濫用して行われていないときは同罪が
成立する余地はなく、その反面、公務員の不法な行為が職務とかかわりなくなされ
たとしても、職権を濫用して行われたときには同罪が成立することがあるのである
(前記昭和五七年一月二八日第二小法廷決定、最高裁昭和五八年(あ)第一三〇九
号同六〇年七月一六日第三小法廷決定・刑集三九巻五号二四五頁参照)。
 これを本件についてみると、被疑者らは盗聴行為の全般を通じて終始何人に対し
ても警察官による行為でないことを装う行動をとつていたというのであるから、そ
こに、警察官に認められている職権の濫用があつたとみることはできない。したが
つて、本件行為が公務員職権濫用罪に当たらないとした原判断は、正当である。
 なお、原原決定及び原決定が職権に関して判示するところは、それらが公務員職
権濫用罪が成立するための不可欠の要件を判示した趣旨であるとすれば、同罪が成
立しうる場合の一部について、その成立を否定する結果を招きかねないが、これを
職権濫用行為にみられる通常の特徴を判示した趣旨と解する限り、是認することが
できる。
 よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり決定する。
  平成元年三月一四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    貞   家   克   己

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