弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人補助参加人代理人田中仙吉の上告理由第一点について。
 論旨は、本件裁決に基づき宮城県知事のした新宗教法人C寺規則の認証処分に対
して、被上告人を代表者とする旧宗教法人D寺(以下旧D寺と称する。)から右知
事を被告とした取消訴訟が、仙台地方裁判所に本件訴訟に先き立つて提起されてい
る事実を挙げ、右の訴は、結局本件と目的および理由を同じくし、右の訴をもつて
本件裁決の取消を求める目的を達成できるものであるから、右の訴がすでに係属し
ていた以上、本件の請求には、訴訟上の客観的利益は存しないという。
 しかし、所論の別訴において、本件裁決の拘束を受けてなされた知事の規則認証
処分の適否が争われることによつて、右知事を拘束する裁決自体の取消の効果をも
たらすものではないから、右別訴の存在が本件裁決の取消訴訟を無意義ならしめる
ものでないことは多言を要しない。また、旧D寺と被上告人とは異なる権利主体で
あるから、その被つた権利利益の侵害がともに右裁決と規則認証処分のいずれにも
原因するとしても、旧D寺が自身の権利利益の救済を求める目的をもつて右認証処
分の取消を訴求したために、被上告人に自己の地位の回復を目的として右裁決の取
消を訴求する利益の失われる理由のないことも、明らかである。論旨は採用に値し
ない。
 つぎに論旨は、被上告人は、本件裁決に基づく知事の規則認証処分によつて、自
己の権利利益の侵害を被るはずはなく、従つて、本件請求につき、訴訟上の主観的
利益を有しない旨を主張する。
 しかし、被上告人は、その主張によれば、旧D寺の住職に任命されたところ、違
法な本件裁決に基づき規則認証が行なわれ、新宗教法人C寺(以下新C寺と称する。)
の設立登記があつたため、宗教法人法附則一八項により、旧D寺は解散となり、そ
の権利義務は新C寺に承継され、被上告人はその地位を失つたというのであり、も
し違法な裁決がなく、さきになされた知事の規則認証の拒否処分が維持されたとし
たならば、新C寺の設立はなく、旧D寺は、たとえ宗教法人法附則一七項により解
散したとしても、なお従来の権利義務を保有する清算法人として存在し、被上告人
はこれを主宰しえたはずであつたことを認めることができる。そして、本件裁決取
消判決の結果は、知事をして前示規則認証処分を取り消すべく拘束し、その認証拒
否処分を復活し、新C寺を解散に至らしめるものである。そして、被上告人につい
てはその地位を違法裁決のなかつた以前に回復させる途が生じ得るのであるから、
被上告人に所論の訴の利益がないとはいえない。それ故、論旨は理由がなく採用に
値しない。
 同第二点について。
 論旨は、曹洞宗が旧D寺住職Fを曹洞宗寺院住職任免規程一一条によつて罷免し
たのを有効と認めた原判決は、なんら適切な証拠に基づくことなくして右一一条に
いう住職が檀信徒の大多数から不信任の表示を受けた場合と判断した点において、
またその罷免を右Fにおいて曹洞宗の被包括関係を離脱し単立寺院の設立を企図し
たことに対する報復と認めなかつた点において、いずれも経験則の違背が存するの
みならず、後者の点において、宗教法人法七八条を適用して右罷免を無効としなか
つた法律適用の誤りがあるというのである。
 しかし、F住職については、その所業が、次第に檀徒等の疑惑を招き、不信不満
をつのらせて、遂に住職罷免の問題に発展したものであつて、同住職に対する不信
任を表明した者は、檀信徒の大多数といつて妨げない人数にのぼつていること、ま
た曹洞宗としては、Fの被包括関係の離脱を快よしとしない点はあつたにしても、
そのために罷免措置をとつたものでないことは、原判決がその挙示の証拠と弁論の
全趣旨によつて認定したところであつて、その認定判断は首肯するに足り、これに
所論の違法は認められない。従つてまた宗教法人法七八条の適用を主張する所論も、
その前提を欠くものというほかなく、論旨はいずれも採用できない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決が宗教法人法一四条所定の所轄庁の規則認証に関する審査につい
て、形式的書類審査では不十分とし、実質的審査によるべきものとしたのは、同条
の解釈適用を誤つものというにある。
 規則認証のためにする所轄庁の審査は、認証申請書の添附書類の記載によつて申
請にかかる事案が宗教法人法一四条一項各号にかかげる要件を充しているか否かを
審査すべきものではあるが、それにしても、その審査事項を証するために提出を要
する添附書類は、証明事実の真実の存在を首肯させるに足りる適切な文書であるこ
とを必要とし、単に形式的に証明文言の記載ある文書が調つているだけで足りるも
のではない。また証明書類は存するにしても、証明事実の虚偽であることが所轄庁
に知れているときはもちろん、所轄庁において証明事実の存否に理由ある疑をもつ
場合には、その疑を解明するためにその事実の存否につき審査をしたからといつて、
これをその権限の逸脱とはなしがたい。このことは、右規則の認証を、宗教団体の
実体を具えないものあるいは法令違背の規則をもつもの、その他組織不備のものの
宗教法人格取得を抑止するためのものと解する以上、当然といわなければならない。
してみれば、本件において上告人の裁決の適否を審査判断するにあたつても、規則
の認証申請書の添附書類中に審査事項の証明に適切でないものあるいは証明事実の
存在を疑うに足りる理由があると認めるのを相当とするものがあるならば、それら
の点については、もともと知事の処分あるいは上告人の裁決にあたつてその点につ
き審査をすべきであつた事項と認め、その証明事実の存否を他の証拠によつて認定
することは、これを妨げないというべきである。ただ原判決には、このように添附
書類との関係において審査を要する場合であるか否かについて十分に思いを致さず、
その審査事項の存否の争われるもののすべてにわたつて審査を行なつたのであるが、
しかし審査事項に関し添附書類の記載と異なる事実が認定され、すでに証明文書等
の不実の記載が判明する以上、いまさらそれら事実に目を蔽つて本件規則認証申請
を許容すべきものとした裁決の判断を相当として支持することはできないものとい
うべきである。のみならず、原判決は、旧D寺住職Fが、曹洞宗から住職罷免を受
けて同寺の代表者たる資格を失い、本件訴願の提起についてはその権限のなかつた
旨を判示し、この点においても本件裁決はすでに取消を免れないとするものであつ
て、その判断は正当と認められるから、所論はもともと原判決の結果に影響を及ぼ
すものではない。論旨は採用しがたい。
 同第四点について。
 論旨は、原判決が本件につき行政事件訴訟法三一条を適用しなかつたのを違法と
いうのである。
 しかし、本件裁決を取り消す結果が、新C寺の設立の基礎を失わしめることにな
るとしても、原判決の認定した事情によれば、必ずしもそれは公の利益に著しい障
害を生ずる場合とは認めがたく、これを行政事件訴訟法三一条によつて請求の棄却
を相当とするものということはできない。論旨は理由がない。
 同第五点について。
 論旨は、原判決が、本件裁決によつてFを住職、代表役員とする単立寺院を設立
させるに至つたことを、多数檀徒の意嚮に副わないものと判示したのについて、宗
教法人法二条にいう宗教団体の意義を誤解した違法があるという。
 しかし、原判決は、大多数の檀徒等は正当な住職である被上告人のもとに旧D寺
を曹洞宗と被包括関係を維持しながら再建することを希望している事実を認め、こ
れに対して裁決の結果は多数の檀徒等の意嚮をふみにじつたことになる旨を判示し
たのにとどまり、単立寺院が宗教法人法二条にいう宗教団体にあたらないから檀徒
等の意嚮をふみにじつたことになる旨を判示したところはない。論旨はひつきよう
原判示を正解しないものであつて、採用に値しない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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