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平成25年6月27日判決言渡
平成25年(行ケ)第10008号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年5月14日
判決
原告株式会社ロエン
訴訟代理人弁護士石原達夫
高橋祥子
廣田桂
弁理士飯島紳行
藤森裕司
木村純平
被告Y
訴訟代理人弁護士森田太三
須見健矢
弁理士山田和明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が無効2012-890067号事件について平成24年12月3日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,引用商標の商標権者である被告の請求に基づき,原告の有する本件商標
に係る指定商品の一部に関して本件商標が商標法4条1項11号(他人の先願登録
商標との同一又は類似)に該当するものとしてその登録を無効とした審決の取消訴
訟である。
1本件商標
原告は,次の本件商標の商標権者である(甲1)。
①登録番号第5244937号
②出願日平成20年11月28日
③登録日平成21年7月3日
④商品及び役務の区分並びに指定商品
第14類身飾品,キーホルダー,宝石箱,宝玉及びその模造品,貴金属製靴
飾り,時計
第18類かばん金具,がま口口金,皮革製包装用容器,かばん類,袋物,携
帯用化粧道具入れ,傘,革ひも,毛皮
第25類被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,べルト,履物,
運動用特殊衣服,運動用特殊靴
2特許庁における手続の経緯
被告は,平成24年8月6日,本件商標の指定商品中,第25類「被服,ガータ
ー,靴下止め,ズボンつり,バンド,べルト,履物」についての登録無効審判請求
をした(無効2012-890067号)。被告主張の無効理由は,本件商標は下記
引用商標と外観において類似し,指定商品において同一又は類似するから,商標法
4条1項11号に該当する,というものである(無効理由として同項10号も挙げ
られたが,審決がその点について判断していないので,その説明は省略)。被告は引
用商標の商標権者である。
特許庁は,平成24年12月3日,「本件商標の指定商品中,第25類『被服,ガ
ーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,べルト,履物』」についての登録を無効と
する。」との審決をし,その謄本は同月13日に原告に送達された(本件訴訟提起日・
平成25年1月10日)。
3審決の理由の要点
【引用商標】
①登録番号第5155384号
②出願日平成18年10月30日
③登録日平成20年8月1日
④商品及び役務の区分並びに指定商品
第14類貴金属,キーホルダー,身飾品(カフスボタンを除く。),貴金属製
のがま口及び財布,宝玉及びその模造品,宝玉の原石,時計
第18類かばん類,袋物,傘,革ひも,原革,原皮,なめし皮,毛皮
第25類洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳
着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストールショー
ル,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチ
ーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイ
トキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベル
ト,履物,仮装用衣服,乗馬靴
(1)商標の構成
ア本件商標
本件商標は,概略,正面を向いた頭蓋骨とその背後に扁平に交差させた2本の骨
を組み合わせた黒塗りの図形からなる。
イ引用商標
引用商標は,概略,正面を向いた頭蓋骨とその下に扁平に交差させた2本の骨を
組み合わせた黒塗りの図形からなる。
(2)外観,称呼及び観念
本件商標及び引用商標は,いずれも,特定の称呼及び観念を生じない。
(3)類否判断
本件商標は,頭蓋骨と扁平に交差させた2本の骨とが重なっている点,本件商標
の頭蓋骨は犬歯が特徴的であるのに対し,引用商標は,頭蓋骨と扁平に交差させた
2本の骨とが離れている点等において,差異を有する。しかし,両者ともに,頭蓋
骨と扁平に交差させた2本の骨の図形を黒塗りに表してなる点,交差している骨の
角度がほぼ同じである点,いずれの頭蓋骨も正面を向いている状態である点,目に
相当する部分が両端で下がっている点,鼻に相当する部分の下端が二股に分かれて
いる点等において,その構成の軌を一にするものであり,「正面を向いた頭蓋骨と扁
平に交差させた2本の骨を組み合わせた図形を黒塗りに表した構図」として看者の
記憶に強く印象づけられるものであり,両商標における構成上の差異は,この共通
した印象からすれば微差の範囲にとどまる。したがって,両者を同一又は類似の商
品に使用した場合には,需要者がその出所について誤認混同するおそれがある。し
たがって,本件商標は,引用商標に類似する。
また,請求に係る指定商品は,引用商標の指定商品中の「被服,ガーター,靴下
止め,ズボンつり,バンド,べルト,履物」に相当するものにおいて同一又は類似
の商品と認められる。
以上のとおり,本件商標は,引用商標に類似する商標であり,かつ,引用商標の
指定商品と同一又は類似の商品に使用されるものであるから,商標法4条1項11
号に該当する。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本件商標と引用商標の特定の誤り)
本件商標及び引用商標の外観構成を概略として審決が特定した部分は,いずれも,
あまりにも漠然としたものであり,不十分である。
本件商標の構成は,①頭蓋骨と骨片が一体不可分の1個の図形商標からなり(商
標構成資料の個数),②交差した2本の骨片は,頭蓋骨の背後に配されており(頭蓋
骨及び骨片の位置),③狼又は狼男の頭部をイメージとした頭蓋骨部の全体的な輪郭
は縦長でスマートに形成され,全体的なシルエットを明瞭に写実的に表現されてお
り(頭蓋骨部),④眼窩部は下方向に傾斜した垂れ目状に白抜きされており(眼窩部),
⑤側頭骨部には縦細の切り込みが白抜きされており(側頭骨部),⑥鼻孔部は縦長h
状に白抜きされており(鼻孔部),⑦頬骨部は左右に膨出することなく下方に向かっ
て略三角形状に突出しており(頬骨部),⑧上顎部の下端は緩やかな弧を描いた形状
であり,上顎部の下端には2本の長い牙が設けられ,該牙に挟まれる態様で略縦長
長方形状の6本歯が並置されており(上顎部),⑨交差した2本の骨片は,中央の交
差する部分が頭蓋骨に隠れており全く描かれていないが,その端部から頭蓋骨部に
かけて漸次幅細になるように形成されてなり,同端部には細い切り込みが白抜きさ
れてなり,骨片の左右の横方向長さは,頭蓋骨部の左右の横方向長さの約3倍であ
る(骨片部)と特定されるべきである。
また,引用商標の構成は,①頭蓋骨の図形と骨片の図形が,それぞれ離れて分離
した2個の図形商標からなり(商標構成資料の個数),②交差した2本の骨片は,頭
蓋骨の下部に分離した態様で配されてなり(頭蓋骨及び骨片の位置),③人間の頭部
をイメージとした頭蓋骨部の全体的な輪郭は縦方向長さ及び横方向長さにおいてズ
ングリするように形成し,全体的なシルエットをぼんやりと表現されており(頭蓋
骨部),④眼窩部は下方向に傾斜した外郭線を波状とする垂れ目状に白抜きされてお
り(眼窩部),⑤側頭骨部には幅広の切り込みが白抜きされており(側頭骨部),⑥
鼻孔部は幅広逆v状に白抜きされており(鼻孔部),⑦頬骨部は左右に膨出するよう
に波状に突出しており(頬骨部),⑧上顎部の下端は前記頬骨部と同様に波状に突出
しており(上顎部),⑨交差した2本の骨片は,頭蓋骨の下部に描かれ,その端部を
除いてほぼ同じ幅で形成され,全体が黒塗りされてなり,骨片の左右の横方向長さ
は,頭蓋骨部の左右の横方向長さの約2倍である(骨片部)と特定されるべきであ
る。
2取消事由2(類否判断の誤り)
(1)共通点の認定誤り
黒塗りで表現された頭蓋骨と交差した2本の骨片からなる図形商標は,アパレル
業界においてありふれたものであり,各社は,頭蓋骨と交差した骨片という限られ
た構成要素の中で,その細部にわたる構成部分の表現方法においてそれぞれ創意工
夫をし,需要者の注意を惹きつけている。したがって,審決のいう『正面を向いた
頭蓋骨と扁平に交差させた2本の骨片を組み合わせた図形をシルエット風(黒塗り)
に表した構図』(審決10~11頁)は需要者の注意を惹く部分ではなく,商標の類
似性の根拠とはならない。
(2)相違点の認定誤り
本件商標と引用商標との間には,審決が認定するものも含めて,次の相違点があ
る。
①相違点1(商標構成資料の個数)
本件商標は,頭蓋骨と骨片が一体不可分の1個の図形商標から成るのに対して,
引用商標は,頭蓋骨の図形と骨片の図形が,それぞれ離れて分離した2個の図形商
標から成る点。
②相違点2(頭蓋骨及び骨片の位置)
本件商標は,黒塗りで表現された狼の頭部をイメージした頭蓋骨と2本の交差し
た骨片が,あたかも2本の牙で咥えられているかのように,あるいは咥えているか
どうかは別として,頭蓋骨が2本の交差した骨片と重なって一体的に構成されて,
立体的な印象を与えるのに対して,引用商標は,黒塗りで表現された人間の頭部を
イメージした頭蓋骨と2本の交差した骨片が,それぞれ離れて分離した態様で構成
されて,平面的な印象を与える点。
③相違点3(頭蓋骨部)
本件商標は,頭蓋骨部の全体的な輪郭が縦長でスマートに形成され,全体的なシ
ルエットが明瞭に写実的に表現されているのに対して,引用商標は,頭蓋骨部の全
体的な輪郭が縦方向長さ及び横方向長さにおいてズングリするように形成され,全
体的なシルエットがぼんやりと表現されている点。
④相違点4(眼窩部)
本件商標は,眼窩部が下方向に傾斜した垂れ目状に白抜きされているのに対して,
引用商標は,眼窩部が下方向に傾斜した外郭線を波状とする垂れ目状に白抜きされ
ている点。
⑤相違点5(側頭骨部)
本件商標は,側頭骨部に縦細の切り込みが白抜きされているのに対して,引用商
標は,側頭骨部に幅広の切り込みが白抜きされている点。
⑥相違点6(鼻孔部)
本件商標は,鼻孔部が縦長h状に白抜きされているのに対して,引用商標は,鼻
孔部が幅広逆v状に白抜きされている点。
⑦相違点7(頬骨部)
本件商標は,頬骨部が左右に膨出することなく下方に向かって略三角形状に突出
しているのに対して,引用商標は,頬骨部が左右に膨出するように波状に突出して
いる点。
⑧相違点8(上顎部)
本件商標は,上顎部の下端が緩やかな弧を描いた形状であり,上顎部の下端に2
本の長い牙が設けられ,この牙に挟まれて略縦長長方形状の6本の歯が並置されて
いるのに対して,引用商標は,上顎部の下端が頬骨部と同様に波状に突出している
点。
⑨相違点9(骨片部)
本件商標の2本の骨片は,(a)中央の交差する骨片の交差部が頭蓋骨に隠れて全く
描かれておらず,(b)骨片の端部から頭蓋骨部にかけて骨片が漸次幅細になるように
形成され,(c)骨片部の端部に細い切り込みが白抜きされ,(d)骨片部の横方向長さは,
頭蓋骨部の横方向長さの約3倍であるのに対して,引用商標の2本の骨片は,(a)’
頭蓋骨の下部に頭蓋骨と離れて配置され,(b)’骨片部は端部を除いてほぼ同じ幅で
形成され,(c)’骨片部は端部も含めて全体が黒塗りされ,(d)’骨片部の横方向長さ
は,頭蓋骨部の横方向長さの約2倍である点。
(3)相違点判断の誤り
上記(2)の相違点を考慮すると,本件商標と引用商標の具体的構成及びその表現方
法には顕著な差異があり,本件商標からは,立体的な印象や,狼又は狼男の恐怖感,
骸骨の本物感,ワイルドでシャープという印象が看取されるのに対し,引用商標か
らは,平面的な印象や,ずんぐりしてぼんやりと表現したことにより人間らしい愛
嬌さという印象が看取される。したがって,それぞれが全体から与える印象は異な
り,両者は外観上明らかに区別し得るのであり,離隔的観察に依ったとしても取引
者及び需要者が出所の誤認混同をすることはない。
第4被告の反論
1取消事由1(本件商標と引用商標の特定の誤り)に対して
通常の需要者が商標の外観の細部にまで注意を払うことはないのであるから,一
般的需要者を基準として比較対照する上では,商標の外観上の類否は,基本的には
商標の構成全体の有する外形的形象において判断されるべきであり,部分的に外形
的形象を抽出して観察を行う場合があるとしても,特に需要者の注意を惹く部分,
すなわち,独立して自他商品又は役務の識別機能を果たす部分の外観による判断(い
わゆる要部観察)により類否判断がされるべきである。
本件商標と引用商標の類否判断に当たって差異が問題となり得るのは,せいぜい,
2本の骨が,頭蓋骨の背後にあるのか(本件商標),それとも頭蓋骨の下にあるか(引
用商標)の違いだけであり,審決の認定には何ら不足はない。
2取消事由2(類否判断の誤り)に対して
(1)共通点の認定誤りについて
頭蓋骨と交差した2本の骨片からなる図形商標が多数あってその中において各社
が他の商標とは異なる商標を作出するために創意工夫をしているとしても,頭蓋骨
及び骨片が黒塗りされているか又は白抜きされているか,頭蓋骨及び骨片の形状が
漫画的に表現されているか又は写実的に表現されているか,頭蓋骨及び骨片が文字
とともに表現されているか否か,交差した2本の骨の組み合わされた角度等の点に
おいて,本件商標と引用商標とは共通するものであり,「正面を向いた頭蓋骨と扁平
に交差させた2本の骨を組み合わせた図形を黒塗りに表した構図」として看者の記
憶に強く印象づけられるものである。一方,商標に接する一般の取引者や需要者が
図形商標の細部についてまで注意を払うとはいえず,これらの点を商標の類否判断
に当たって考慮すべきではない。
(2)相違点の認定誤りについて
原告の指摘する相違点は,いずれも商標の類否判断に当たって考慮に値するほど
のものではない。
①相違点1(商標構成資料の個数)につき
原告が主張する相違点1があるとしても,本件商標の頭蓋骨と骨片とが一体的な
印象を受けることはない。一方,本件商標と引用商標とは,いずれも,2本の交差
した骨片が頭蓋骨の下方にほぼ同じ角度で表現されている点で共通している。
②相違点2(頭蓋骨及び骨片の位置)につき
本件商標中の頭蓋骨部は,実際のオオカミの頭蓋骨の形状とはほど遠く,むしろ
人間の頭蓋骨を印象付けるものである。頭蓋骨部中の犬歯部分は,牙を印象付ける
大きさ及び形状ではなく,人間の犬歯と大差はない。また,本件商標中の頭蓋骨部
には下顎が表されていないから,骨を咥えている印象を与えることもない。そして,
本件商標も引用商標も平面的な印象しか与えていない。
③相違点3(頭蓋骨部)につき
原告の指摘する相違点3は,極めて主観的で相対的な評価であって,離隔的観察
においては意味をなさない。
④相違点4(眼窩部)につき
原告の指摘する相違点4は,その意図するところも不明瞭であって微差というほ
かはない。本件商標と引用商標の眼窩部の形状は,いずれも垂れ目状であることや
その頭蓋骨に占める大きさからみれば,むしろ共通点である。
⑤相違点5(側頭骨部)につき
側頭骨部の表現方法として使用された白抜きが「縦細」であるか「幅広」であるかは
その両者を同時に比較した場合の相対的なものに過ぎず,微差というほかはない。
白抜きされた切れ込みで側頭骨部を表現することは,むしろ共通点である。
⑥相違点6(鼻孔部)につき
鼻孔部の表現方法として「縦長h状」であるか「幅広逆V字状」であるかは微差の
範囲内の問題というほかはない。二股状ないし逆ハート型の白抜きで鼻孔部を表現
することは,むしろ共通点である。
⑦相違点7(頬骨部)につき
原告が相違点7として指摘する頬骨部の表現の違いから視覚的に顕著な差が生ず
ることはなく,微差であるというほかはない。
⑧相違点8(上顎部)につき
歯牙の有無について原告が主張する相違点8があるとしても,本件商標で表現さ
れた歯牙が構図全体に占める割合は大きくはない上に,本件商標でも引用商標でも
歯牙部分は黒塗りされており,本件商標の歯牙部分は,一見すると上顎部と一体と
みられるから,この部分が看者の印象に残るものではない。
⑨相違点9(骨片部)に対し
原告が主張する相違点9(a)があるとしても,本件商標と引用商標とは,骨片部の
位置が頭蓋骨の下方にある点で共通する。原告が主張する相違点9(b)~(d)は,一般
の取引者や需要者からすれば,よほどの注意を払わなければ気付かない微差か,類
否判断に当たっては取り上げるに足らない微差である。
(3)相違点判断の誤り
本件商標から,立体的な印象を受けることはなく,また,本件商標から狼が2本
の骨片を咥えているという印象が看取されることはなく,むしろ,本件商標からは
人間の頭蓋骨の印象が看取される。他方,引用商標から,人間らしい愛嬌さが看取
されるとは到底言えない。また,頭蓋骨と骨片が分離しているか,又は,一体をな
しているかの違いは,両商標の類否判断に当たって顕著な相違であるとはいえない。
本件商標も引用商標も,頭蓋骨と骨片とが黒塗りで写実的に表現されている点で共
通しており,骸骨や骨片が持つ不気味なイメージは両者に共通して存在するもので
あり,頭蓋骨の下部に2本の骨片がほぼ同じ角度で交差して配置されていることか
らすれば,両商標は類似する。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本件商標と引用商標の特定の誤り)について
本件商標は,概略,正面を向いた頭蓋骨とその背後に扁平に交差させた2本の骨
を組み合わせた黒塗りの図形から成るものといえ,引用商標は,概略,正面を向い
た頭蓋骨とその下に扁平に交差させた2本の骨を組み合わせた黒塗りの図形から成
るものといえ,これと同旨の審決の認定に誤りはないというべきである。
原告は,審決が本件商標及び引用商標の外観構成として特定した事項が漠然とし
不十分なものである旨を主張するが,前記審決の理由の要点の(1)のとおりに審決が
した各商標の特定事項は,類否判断の前提となるべき各商標の基本的構成態様であ
って,類否判断の前提として十分である。各商標の具体的構成態様の相違について
は,類否判断において考慮すべきことであるし,この基本的構成態様に顕れなかっ
た部分が類否判断において一切参酌されなくなるという関係にもない(審決が上記
基本的構成態様にのみ基づいて類否判断の結論を導いたものでないことは,審決の
理由から明らかである。)。
以上のとおりであり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(類否判断の誤り)について
(1)共通点の認定誤りにつき
審決は,本件商標と引用商標を対比して,両商標は,『正面を向いた頭蓋骨と扁平
に交差させた2本の骨片を組み合わせた図形をシルエット風(黒塗り)に表した構
図』として,看者の記憶に強く印象付けられ,その構図から共通の印象を受けると
認定判断したが,この認定判断は上記構図部分を外観における両商標の要部とし,
そこに共通点があるとしたものであり,そこに商品出所識別機能があるとしたもの
というべきである。この点についての審決の認定判断は支持することができ,そこ
に誤りはないというべきである。
原告は,上記構図部分は需要者の注意を惹く部分ではない旨を主張するが,この
構図をありふれたものであるとする根拠は認められない(原告の提出する証拠〔甲
3,6〕によっても,頭蓋骨と骨片を黒塗りにしかつ写実的に表現した商標が広く
浸透しているとは認められない。)。そして,本件商標又は引用商標の指定商品に係
る需要者が,商標の差異について殊更に細部にまで注意を及ぼす顧客に限定されて
いることを裏付ける証拠もない。
したがって,本件商標に係る商品又は引用商標に係る商品の需要者層が,取引の
実情として主にファッションに関心を持つ若い男性層であることを想定できないで
はないが,仮にそうであったとしても,外観における要部の共通点である上記構図
部分に商品出所識別機能があることに変わりはない。
原告の上記主張は理由がない。
(2)相違点の認定誤りにつき
原告は,審決が本件商標と引用商標との差異を正当に認定評価して判断に供して
いない旨の主張をしていると解されるので,以下,その点について,まず,個々に
検討する。
ア相違点1(商標構成資料の個数)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは図形の個数が異なる旨を主張する。
しかしながら,本件商標は,平面視上,頭蓋骨と骨片とが重ね書きされたもので
あることは明らかであり,その2つを合成した図案とされているのではないから,
看者は,頭蓋骨と骨片とをそれぞれに分離して独立の図形として観察,把握すると
いえる。
したがって,本件商標と引用商標との間の上記部分に係る差異は,実質的には次
に判断する骨片の位置の相違に帰する。
イ相違点2(頭蓋骨及び骨片の位置)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは頭蓋骨と骨片の位置関係が異なると主張する。
しかしながら,扁平に交差された2本の骨片の交差角度は,本件商標と引用商標
とでほぼ同一であり,その交差部も,引用商標が頭蓋骨のすぐ下であるのに対し,
本件商標のそれは頭蓋骨の背後ではあるものの,その下部であり,看者に両商標に
おける骨片部の位置関係の相違を印象付けるものとはいえない。なお,本件商標か
らは,頭蓋骨が骨片を咥えているとの印象を受けるものとは認められない。
してみると,本件商標と引用商標との間に頭蓋骨と骨片の位置関係が異なる差異
があるとしても,離隔的観察の下においては,微差の範囲にとどまるというべきで
ある。
ウ相違点3(頭蓋骨部)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは頭蓋骨部の輪郭が異なる旨を主張するが,その
主張に係る点は,離隔的観察においてはおよそ看者において見分けのつけ難いもの
であり,微差の範囲にとどまる。
エ相違点4(眼窩部)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは眼窩部の輪郭線が異なる旨を主張するが,その
主張に係る点は,離隔的観察においてはおよそ看者において見分けのつけ難いもの
であり,微差の範囲にとどまる。むしろ,かような微細な点の差異よりも,本件商
標と引用商標とで眼窩部が白抜きで両端が下がっているという共通の構成をとって
いる点が,より強い印象を看者に与えているといえる。
オ相違点5(側頭骨部)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは側頭骨部の白抜きの形状が異なる旨を主張する
が,その主張に係る点は,離隔的観察においては看者において見分けのつけにくい
形状の差であり,微差の範囲にとどまる。むしろ,かような微細な点の差異よりも,
本件商標と引用商標とで白抜きの曲線状の切り込みで側頭部の立体感を表現してい
るという共通の構成をとっている点が,より強い印象を看者に与えているといえる。
カ相違点6(鼻孔部)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは鼻孔部の白抜きの形状が異なる旨を主張するが,
その主張に係る点は,離隔的観察においては看者において見分けのつけにくい形状
の差であり,原告の主張によってようやく判明する微差の範囲にとどまる。むしろ,
かような微細な点の差異よりも,本件商標と引用商標とで白抜きの折れ線状の切り
込みで鼻孔部の空隙を表現しているという共通の構成が,より強い印象を看者に与
えているといえる。
キ相違点7(頬骨部)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは頬骨部の形状が異なる旨を主張するが,その主
張に係る点は,離隔的観察においては看者において見分けのつけにくい形状の差で
あり,微差の範囲にとどまる。
ク相違点8(上顎部)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは上顎部の形状が異なる旨を主張し,確かに,本
件商標については,上顎部に人のものとしては不自然に長い2本の犬歯(牙とまで
は直ちにいい得ない。)とその犬歯に挟まれた6本の歯が表現されているのに対し,
引用商標にそのような歯部が表現されていない点で,本件商標と引用商標とに差異
がある(もっとも,上顎部の下端の形状が微差の範囲にとどまることは明らかであ
る。)。
しかしながら,上記犬歯の長さですら頭蓋骨(頭頂部から上顎部下端まで)の長
さの約7分の1程度にすぎず,犬歯間の歯は更に小さい上に,本件商標の上顎部は
極端に狭く表現されているため,本件商標の上顎部と歯部を合わせたものが引用商
標の上顎部にほぼ相当する位置,形状になっている。したがって,看者に両商標に
おける歯部の有無が印象付けられるものとはいえない。
してみると,本件商標と引用商標との間に上顎部の形状若しくは歯部の有無に差
異があるとしても,離隔的観察の下においては,微差の範囲にとどまるというべき
である。
ケ相違点9(骨片部)に関し
原告は,本件商標と引用商標とは骨片部の形状が異なる旨を主張する。
しかしながら,相違点9(a)(交差部が頭蓋骨の背後)についていえば,上記イ(相
違点2〔頭蓋骨及び骨片の位置〕に関し)のとおり,骨片部の位置が本件商標と引
用商標とで異なることは微差の範囲にとどまるものであり,そして,骨片部の位置
が頭蓋骨の背後にあれば当然にその交差部は描画されないことになるから,同交差
部の描画の有無に独立して看者の注意が向けられることはないというべきである。
また,相違点9(b)~(d)については,これらは離隔的観察においてはおよそ看者に
おいて見分けのつけ難いものであり,微差の範囲にとどまる。
コ小括
時と処を異にして離隔的に接する場合,必ずしも常に図形の細部まで正確に記憶
されているとはいえないのが通常であることは審決説示のとおりであり(10頁),
以上のア~ケの判断を踏まえると,『本件商標と引用商標とは,いずれも「正面を向
いた頭蓋骨と扁平に交差させた2本の骨を組み合わせた図形をシルエット風(黒塗
り)に表した構図」として看者の記憶に強く印象付けられるものであり,両商標に
おける構成上の差異は,この共通した印象からすれば微差の範囲にとどまる。』とし
た審決の認定判断には誤りはないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3)相違点判断の誤りにつき
上記(2)に認定判断のとおり,本件商標と引用商標とが「正面を向いた頭蓋骨と扁
平に交差させた2本の骨を組み合わせた図形をシルエット風(黒塗り)に表した構
図」として共通する一方で両商標における構成上の差異が微差の範囲にとどまる以
上,相違点は個々に又は総体として考慮しても上記共通点に凌駕されるものであり,
両者を同一又は類似の商品に使用した場合には,需要者がその出所について誤認混
同するおそれがあるというべきである。本件商標は引用商標に類似するものと認め
るのが相当であり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
原告は,本件商標と引用商標とがそれぞれ与える印象に顕著な差異がある旨の主
張をするが,上記判断のとおりの共通点を有する両商標が取引者及び需要者に与え
る印象に,差異があるものとは認められない。
原告の上記主張は理由がない。
(4)まとめ
以上から,取消事由2は理由がない。
第6結論
以上によれば,原告の主張する取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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