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平成12年(行ケ)第116号 特許取消決定取消請求事件
     判    決
 原 告 三谷セキサン株式会社
 訴訟代理人弁理士 鈴木正次、涌井謙一
 被 告 特許庁長官 及川耕造
 指定代理人 鈴木憲子、大野覚美、茂木静代、幸長保次郎
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年異議第70611号事件について平成12年2月10日にし
た決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、特許第2789379号(本件特許)発明(名称「ボーリングデーター
の表示方法」、平成2年8月9日出願、平成10年6月12日設定登録。本件発
明)の特許権者である。本件特許については特許異議があり、異議手続において取
消理由通知があり、その指定期間内の平成11年8月30日に訂正請求があった
後、訂正拒絶理由通知があり、それに対して平成11年12月21日付けで手続補
正書が提出されたが、平成12年2月10日、「特許第2789379号の請求項
1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定があり、その謄本は同年3月13日
原告に送達された。
 2 本件発明の要旨
 (1) 訂正請求前のもの
【請求項1】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用電流値
とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法
【請求項2】N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記
載のボーリングデーター表示方法
【請求項3】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用トルク
値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 
 (2) 訂正後のもの
 1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な
対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴とした
ボーリングデーターの表示方法
 2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボ
ーリングデーター表示方法
 3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切
な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴とし
たボーリングデーターの表示方法
 3 決定の理由の要点
 (1) 訂正請求及び補正について
 (1)-1 訂正請求に対する補正の適否について
 原告(特許権者)が行った訂正請求に対する補正は、
 イ.訂正請求書中の訂正事項bについて、『「掘削機の使用電流値」とあるを
「掘削時の掘削機の使用電流値」と訂正する。』を誤記の訂正を目的として、『請
求項1にあっては「掘削機の使用電流値」とあるを「杭穴掘削時の掘削機の使用電
流値」と訂正し、請求項3にあっては「掘削機の使用トルク値」とあるを「掘削時
の掘削機の使用トルク値」と訂正する。』と補正し、
 ロ.訂正請求書中の訂正事項cについて、『「掘削杭穴の深度別土質を把握する
ために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積する」と訂正する。』を特許請求
の範囲の減縮を目的として、『「掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に
適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積する」と訂正す
る。』と補正し、
 ハ.訂正請求書中の訂正事項dに関連して、全文訂正明細書の「課題を解決する
為の手段」中「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深
度における、掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握する
ために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリング
データーの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対
比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値
と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度
別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴
としたボーリングデーターの表示方法である。」を、明瞭でない記載の釈明を目的
として、「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度に
おける、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握し
て、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄
積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、
これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一
現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使
用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をと
るために、杭穴掘削と同時対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリング
データーの表示方法である。」と補正し、
 ニ.訂正請求書中の訂正事項gについて、『「掘削時の杭穴内の土質名を推定し
得る」と訂正する。』を明瞭でない記載の釈明を目的として、『「杭穴掘削時の杭
穴内の土質名を推定し得る」と訂正する。』と補正し、
 ホ.訂正請求書中の訂正事項iについて、『「各杭穴の掘削中に適切な対応を取
り、基礎における総耐力を正確に推定する・・・」と訂正する。』を明瞭でない記
載の釈明を目的として、『「また、深度別使用電流値又はトルク値を記憶蓄積した
ので、各杭穴の掘削中に適切な対応を取り、基礎における総耐力を正確に推定す
る・・・」と訂正する。』と補正するものであり、
 当該訂正請求に対する補正イは、誤記の訂正に該当し、補正ロは、訂正請求書に
添付した明細書又は図面を基準とし、特許請求の範囲の減縮に該当するものであ
り、補正ハ~ホは、いずれも、誤記の訂正及び減縮された特許請求の範囲の記載と
発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのもので、明瞭でない記載の釈明に該
当するものであり、さらに、いずれの補正も、訂正請求書に添付した明細書又は図
面に記載された事項の範囲内の補正であり、しかも、訂正請求書に添付した明細書
又は図面における特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではないか
ら、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、当該訂正請求に対する補正は、特
許法120条の4第3項で更に準用する同法131条2項の規定に適合する。
 (1)-2 訂正の要旨
 訂正事項イ:特許請求の範囲を、特許請求の範囲の減縮を目的として、次のよう
に訂正する。
「1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な
対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴とした
ボーリングデーターの表示方法
 2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボ
ーリングデーター表示方法
 3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切
な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴とし
たボーリングデーターの表示方法」
 訂正事項ロ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るた
め、明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の2頁16行~3頁4行の
「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、
掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴
掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表
示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したも
のである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度に
おける、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握す
るために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリン
グデーターの表示方法である。」という記載を、「即ちこの発明は、同一現場の標
準貫入試験におけるN値と、同一深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値
とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、
杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーター
の表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記し
たものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深
度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把
握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時対比して表示し、
蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」と訂正する。
 訂正事項ハ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るた
め、明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の3頁5~9行の「N値と電
流値又はトルク値とを対比表示」という記載を、「杭穴掘削時にN値と電流値又は
トルク値とを対比表示」と訂正し、「明確になり、適切な対応をとることができ
る」という記載を、「明確になり、杭穴掘削時に適切な対応をとることができる」
と訂正する。
 訂正事項ニ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るた
め、明瞭でない記載の釈明を目的として、本件明細書の5頁11~16行の「深度
別対比表示するので、グラフの変化傾向を読むことにより標準貫入試験における既
知の土質名を基準にして掘削電流値の変化から杭穴内の土質名を推定し得る効果が
ある。従って、各杭穴共に深度方向の土質が明らかになる為に、基礎における総耐
力を正確に推定する」という記載を、「杭掘削時に、深度別対比表示するので、グ
ラフの変化傾向を読むことにより標準貫入試験における既知の土質名を基準にして
掘削電流値の変化から、杭穴掘削時の杭穴内の土質名を推定し得る効果がある。よ
って各杭穴の表示を総合的にすれば、例えば基礎杭構築現場の全地層を高精度で推
定できる効果がある。従って、各杭穴共に深度方向の土質が明らかになる為に、ま
た深度別使用電流値又はトルク値を記憶蓄積したので、各杭穴の掘削中に適切な対
応を取り、基礎における総耐力を正確に推定する」と訂正する。
 (1)-3 訂正の適否
 A.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
 上記訂正事項イに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、
しかもその訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のもの
であり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
 また、訂正事項ロ~ニに係る訂正は、訂正事項イに関連してなされた明瞭でない
記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のも
のであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
 B.独立特許要件の判断
 イ.訂正明細書の請求項1~3に係る発明  
 訂正明細書の請求項1及び2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求
項1~3に記載された以下のとおりのものである(以下、「訂正後発明1」、「訂
正後発明2」及び「訂正後発明3」という。)。
「1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な
対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴とした
ボーリングデーターの表示方法
 2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボ
ーリングデーター表示方法
 3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切
な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴とし
たボーリングデーターの表示方法」
 ロ.引用例記載の発明
 訂正後発明1~3に対して、異議手続における訂正拒絶理由通知で引用した、基
礎工 1986年10月号 第14巻第10号(昭和61年10月15日発行)
(株)総合土木研究所 p.104,105(引用例)には、
 a.「本工法は、打込み工法と同様に直接地盤に回転押込みさせるので、既成杭
の先端に閉塞逆円錐体状で複数のカッターを設けた先端金具(写真-1参照)を取
付けて、杭中空部に挿入したロッドを介して、先端金具と杭体を回転させることに
より、搭載荷重及び先端金具の錐状効果と、先端より噴出される圧力水の効果を併
用して、地盤を周辺に押付けながら回転押込みを行うと同時に、杭の貫入中は、自
動計測記録装置Automatic Recording System(ARシ
ステム)により、杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させることができる
工法である。
 2.2 自動計測記録装置(ARシステム)
 ARシステムは、杭が地中に回転押込みされながら自然貫入する状態での貫入状
況と地盤抵抗を示す計測記録は、地盤の力学的性状を反映したものと考えられる。
 ARシステムで自動計測される諸数値は次のものである(図-1参照)。
 1) 杭の回転押込み深度       S(m)
 2) オーガーの負荷電流       A(Amp)
 3) 杭の回転数           R(rpm)
 4) 杭の押込み時間         T(min)
 5) 噴出水圧            P(kg/cm2

 これらの数値を組合わせることにより、A,Tは土質柱状図との相関性が考えら
れ、下記の事項の判断が可能となる。
 ○貫入深度と貫入状況の測定
 ○先端地盤性状の連続的な測定
 ○支持層の確認と支持層への貫入量の測定
 ○砂質土、粘性土の判断
 ○地盤と透水性の関連性の測定
 ○地盤変化に対応した測定
 ○A,Tの数値からN値の推定
 ○A,T,Pの数値から支持力の推定」
 (104頁左欄下から7行~右欄27行参照)
 b.「この記録により、杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握して、
支持層地盤の位置を確認し、所定長を根入れしたことを計測記録して、支持地盤に
杭を回転押込み定着させる。ARの記録は、設計図書に基づいた土質柱状図と対比
して、支持層位置、根入れ長等の確認をし、杭長等の変更の資料として、その施工
現場で役立つことができる記録である。」(105頁左欄下から8行~最下行参
照)
 c.「杭に先端金具を取付け、杭を回転させ、直接地盤に回転押込むという独特
な方法で杭を貫入させ、地盤性状を把握できる」(105頁右欄2~4行参照)
 という記載があり、これらの記載及び105頁図-1の自動計測記録(ARの記
録)を参照すると、「杭の貫入中のオーガーの負荷電流、杭の押込み時間及び杭の
回転数を自動計測し、対応深度における、オーガーの負荷電流、杭の押込み時間を
杭の回転押込みと同時に自動計測記録装置(ARシステム)により計測記録し、こ
の記録により、杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握すると共に、同一
現場の標準貫入試験におけるN値と、オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数
値から推定されたN値も、図-1のように表示し、ARの記録は、杭長等の変更の
資料として、その施工現場で役立てるボーリングデーターの表示方法及び、標準貫
入試験N値に対応する土質名を深度別に対比付記した表示方法」が記載されている
と認められる。
 ハ.訂正後発明1、2に対しての対比・判断
 本件訂正後発明1、2と引用例に記載された発明(引用発明)とを比較すると、
引用発明の「オーガー」、「杭の貫入中」及び「オーガーの負荷電流及び杭の押込
み時間の数値から推定されたN値」は、訂正後発明1、2の「掘削機」、「杭穴掘
削時」及び「掘削杭穴の深度別土質」に相当し、また、引用発明における「オーガ
ーの負荷電流値」と、訂正後発明1、2の「掘削機の使用電流値」は、対応深度に
おける、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する
「対比数値」であることで共通しており、さらに、引用発明におけるARの記録
は、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立てるということは、蓄積する
ことであるから、両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度にお
ける、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄
積し、またN値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したボーリングデ
ーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
 a.対比数値が、訂正後発明1、2では掘削機の使用電流値であるのに対し、引
用発明では掘削機の負荷電流値である点。
 b.同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するのは、訂正後
発明1、2では、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をと
るためであるのに対し、引用発明では、そのような目的であるか否かはっきりしな
い点。
 相違点aについて検討すると、原告は意見書で、訂正後発明1、2の「使用電流
値」は、引用発明の「負荷電流値」とは異なり、「積算電流値」であると述べてい
るが、特許請求の範囲においてそのような限定はない。仮に、使用電流値が積算電
流値であったとしても、引用発明においても、負荷電流値と時間は同時に計測され
ており、引用発明の負荷電流値を、同時に計測された時間により積算電流値とする
ことは、当業者が容易になし得ることにすぎないから、引用発明の「負荷電流値」
は、訂正後発明1、2の「使用電流値」に相当すると解される。
 次に、相違点bについて検討すると、引用発明においても、杭貫入と同時に杭の
回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させ、この記録により杭先端地盤の状況と
貫入状況を逐次連続的に把握しており、これを、杭穴掘削中に適切な対応をとるた
めに使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
 そして、全体として訂正後発明1、2の奏する効果も、引用発明から予測し得る
程度のもので、格別顕著でない。
 ニ.訂正後発明3に対しての対比・判断
 本件訂正後発明3と引用発明とを比較すると、引用発明の「オーガー」、「杭の
貫入中」及び「オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数値から推定されたN
値」は、訂正後発明3の「掘削機」、「杭穴掘削時」及び「掘削杭穴の深度別土
質」に相当し、また、引用発明における「オーガーの負荷電流値及び杭の押込み時
間」と、訂正後発明3の「掘削機の使用トルク値」は、対応深度における、杭穴掘
削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であ
ることで共通しており、さらに、引用発明におけるARの記録は、杭長等の変更の
資料として、その施工現場で役立てるということは、蓄積することであるから、両
者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するボーリングデ
ーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
 c.同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の
掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するのは、訂正後
発明3では、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるた
めであるのに対し、引用発明では、そのような目的であるか否かはっきりしない
点。
 d.対比数値が、訂正後発明3では掘削機の使用トルク値であるのに対し、引用
例には使用トルク値に関しての記載がない点。
 相違点cについては、訂正後発明1、2に対しての対比・判断で検討したとおり
であり、また、相違点dについて検討すると、掘削機の使用トルク値は、掘削機の
負荷電流値と回転数等のパラメータにより求めることができるものであり、引用発
明において自動計測される諸数値の一つに杭の回転数(オーガー付きの杭であるか
ら掘削機の回転数となる)があること、及び、本件特許公報2頁4欄17~19行
にも記載されているように、「トルク値と電流値とは一定の比較関係にあるので、
N値とトルク値についてもN値と電流値と同様の対比関係が成立する。」ことか
ら、引用発明の負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者
が容易になし得る程度のことである。
 そして、全体として訂正後発明3の奏する効果も、引用発明から予測し得る程度
のもので、格別顕著でない。
 ホ.独立特許要件判断のむすび
 したがって、訂正後発明1~3は、いずれも、引用発明から、当業者が容易に発
明できたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであ
る。
 C.訂正の適否のむすび
 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6
年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許
法120条の4第3項で更に準用する特許法126条4項の規定に適合しないの
で、当該訂正は認められない。
 (2) 異議の申立てについての判断
 (2)-1 本件発明
 本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」及
び「本件発明3」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲
の請求項1~3に記載された次の事項により構成されるとおりのものである。
「【請求項1】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用電流
値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法
【請求項2】N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記
載のボーリングデーター表示方法
【請求項3】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用トルク
値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 」
 (2)-2 引用例記載の発明
 異議手続における取消理由通知において引用した引用例(基礎工 1986年1
0月号 第14巻第10号(昭和61年10月15日)(株)総合土木研究所 
p.104,105)にはそれぞれ上記(1)-3のB.ロ.に記載したとおりの発明が記載
されている。
 (2)-3 本件発明1及び2に対しての対比・判断
 本件発明1と引用発明とを比較すると、引用発明の「オーガー」は、本件発明1
及び2の「掘削機」」に相当し、また、引用発明における「オーガーの負荷電流
値」と、本件発明1及び2の「掘削機の使用電流値」は、対応深度における、標準
貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通している
から、両者は、標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の対比数値
とを対比して表示し、またN値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記し
たボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
 a.対比数値が、本件発明1及び2では掘削機の使用電流値であるのに対し、引
用発明では、掘削機の負荷電流値である点。
 相違点aについて検討すると、引用例においてもオーガーの負荷電流値と時間は
同時に計測されており、これらの数値からN値を推定していることから、引用発明
の「負荷電流値」は、本件発明1及び2の「使用電流値」に相当すると解される。
 そして、全体として本件発明1及び2の奏する効果も、引用発明から予測し得る
程度のもので、格別顕著でない。
 (2)-4 本件発明3に対しての対比・判断
 本件発明3と引用発明とを比較すると、引用発明の「オーガー」は、本件発明3
の「掘削機」に相当し、また、引用発明における「オーガーの負荷電流値及び杭の
押込み時間」と、本件発明3の「掘削機の使用トルク値」は、対応深度における、
標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通して
いるから、両者は、標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の対比
数値とを対比して表示するボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点
で相違している。
 b.対比数値が、本件発明3では掘削機の使用トルク値であるのに対し、引用例
には使用トルク値に関しての記載がない点。
 相違点bについて検討すると、掘削機の使用トルク値は、掘削機の負荷電流値と
回転数等のパラメータにより求めることができるものであり、引用発明において自
動計測される諸数値の一つに杭の回転数(オーガー付きの杭であるから掘削機の回
転数となる)があること、及び、本件特許公報2頁4欄16~19行にも記載され
ているように、「トルク値と電流値とは一定の比較関係にあるので、N値とトルク
値についてもN値と電流値と同様の対比関係が成立する。」ことから、引用発明の
負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になし得
る程度のことである。
 そして、全体として本件発明3の奏する効果も、引用発明から予測し得る程度の
もので、格別顕著でない。
 (2)-5 異議申立てに対する判断のまとめ
 したがって、本件発明1~3は、いずれも、引用発明から当業者が容易に発明を
することができたものであるから、本件発明1~3は、特許法29条2項の規定に
より特許を受けることができない。
 (3) 決定のむすび
 以上のとおりであるから、本件発明1~3についての特許は拒絶の査定をしなけ
ればならない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則14条
の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政
令(平成7年政令第205号)4条1項及び2項の規定により、結論のとおり決定
する。
第3 原告主張の決定取消事由
 1 取消事由1(訂正後発明1、2についての一致点の認定の誤り)
 決定は、「対応深度における杭穴掘削時の掘削機の標準貫入試験におけるN値と
対比して表示する対比数値であることは共通しており・・・ボーリングデーターの
表示方法の点で一致している」と認定したが、誤りである。
 すなわち、訂正後発明1、2における「杭穴掘削時の掘削機の使用電流値」と
は、本件願書添付の第1図に「103
A・sec」とあるように、積算電流値である
が、引用発明の負荷電流は、その深さにおける瞬間の負荷電流であるから、例えば
深さ4mにおける負荷電流は深さ3m~4m間のN値又は深さ4m~5m間のN値
とも比例しないから、「対比数値」ともいえない。
 また、引用発明におけるオーガーの負荷電流は、オーガーと杭を回転して、かつ
杭を貫入させる際に生じるすべての負荷電流であるから、例えば杭長が長くなるに
伴って抵抗が増加するものである。しかも、杭周面摩擦力は計算値となるから、引
用発明の表示は現に掘削中の杭には利用できず、隣接杭に利用できる程度である。
これに対し、訂正後発明1、2の使用電流値は、杭穴掘削時のデーター表示である
から、その杭穴に杭を貫入する際に、長さを調節するなど、直ちに利用することが
できるものである。
 したがって、両者は表示方法を異にするものであるから、一致しない。
 2 取消事由2(訂正後発明1、2についての相違点aの判断の誤り)
 訂正後発明1、2は、杭穴掘削後に杭を貫入する方法であって、掘削時における
掘削機の使用電流値を表示するのであるから、これを杭穴の深度と対応させること
によって土質と一致する。これに対し、引用発明は、杭を掘削貫入する際の杭貫入
時の負荷電流を表示するのであるから、オーガーの負荷、杭回転の負荷、杭貫入の
負荷などが総合的に掛かることになり、土質によっては貫入負荷が著しく大きくな
り、支持地盤と錯覚を生じるおそれもあるのであるから、N値と対比させても、土
質を直接推定することはできない。この相違により、訂正後発明1、2では、掘削
データーの表示により、杭の長さを変えることもできるが、引用発明では掘削時に
貫入するので、その杭についてはデーターを有効に利用できない。
 被告は「特許請求の範囲に特に限定がなく、杭穴を掘削した後杭を建て込むもの
や引用発明のように杭穴掘削と杭の建て込みを同時に行うものの両方を含むものと
解される。」と主張するが、訂正後発明1、2は訂正明細書全文を見れば明らかな
ように、杭穴のみの掘削であり、杭を杭穴掘削と同時に貫入する工法ではない。当
業界において、杭穴掘削といえば、杭穴を専ら掘削することをいい、杭穴掘削と同
時に杭を貫入する場合には、中掘工法とか、引用例に明記されたようにTSロータ
リー工法として区別している。
 また被告は、「引用例の負荷電流は、地盤強度に関係のない負荷電流を除いたも
のとなる」と主張するが、作業以外の負荷電流を正確に予測することは不可能であ
る。
 したがって、「相違点aについて検討すると、・・・引用発明の『負荷電流値』
は、訂正後発明1、2の『使用電流値』に相当すると解される。」とした決定の判
断は誤りであり、引用発明に基づいて訂正後発明1、2を容易に発明することがで
きたということはできない。
 3 取消事由3(訂正後発明1、2についての相違点b、及び訂正後発明3につ
いての相違点cの判断の誤り)
 引用発明の負荷電流は、上記主張のとおり幾多のファクターを含んでいる。例え
ば杭の回転抵抗は逐次変化し、杭の貫入中に正確に捕えることは不可能であり、表
示の利用は各種計算を経て、貫入後に、当該杭の貫入状態が追認できるにすぎな
い。
 したがって、「相違点bについて検討すると、引用発明においても、杭貫入と同
時に杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させ、この記録により杭先端地盤
の状況と貫入状況を逐次連続的に把握しており、これを、杭穴掘削中に適切な対応
をとるために使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。」とした
決定の判断(訂正後発明3についての相違点cの判断でも引用されている。)は誤
りである。
 4 取消事由4(訂正後発明3についての相違点dの判断の誤り)
 トルク値の使用についても、使用電流値と一定の関係が認められる以上、取消事
由2と同様に、引用例から訂正後発明3を容易に発明し得たということはできな
い。
 したがって、「相違点dについて検討すると、・・・引用発明の負荷電流値に代
えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になし得る程度のことで
ある。」とした決定の判断は誤りである。
 5 取消事由5(本件発明についての進歩性の判断の誤り)
 仮に訂正が認められないとしても、上記の主張のとおりの理由により、本件発明
1~3は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
 したがって、「本件発明1ないし3は、いずれも、引用発明から当業者が容易に
発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし3は、特許法29条2
項の規定により特許を受けることができない。」とした決定の判断は誤りである。
第4 決定取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1に対して
 決定は、「引用発明における『オーガーの負荷電流値』と、訂正後発明1、2の
『掘削機の使用電流値』は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入
試験におけるN値と対比して表示する『対比数値』であることで共通しており」と
説示しているのであって、「使用電流値」と「負荷電流値」に関しては、相違点a
として、「対比数値が、訂正後発明1、2では掘削機の使用電流値であるのに対
し、引用発明では、掘削機の負荷電流値である点」を挙げており、「使用電流値」
と「負荷電流値」を含めて一致しているとはいっていない。したがって、決定の一
致点の認定に誤りはない。
 また、引用発明において、自動計測されたデーターは当然コンピュータで処理さ
れるので、自動計測とほぼ同時にデーターの表示が可能であり、訂正後発明1、2
と引用発明の効果に差異はない。引用発明における「表示方法」は、訂正後発明
1、2の「ボーリングデーターの表示方法」に相当するとした決定の一致点の認定
に誤りはない。
 2 取消事由2に対して
 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には、単に「使用電流値」と記載されて
いるのみであって、使用電流と時間の積を表示するという記載はなく、かつ、発明
の詳細な説明の欄には、「電流記録値は、杭穴掘削時の電流測定値をそのまま描か
せ、又は電流測定値のグラフを対比深度に合わせて貼着する。」(甲第3号証2頁
27~28行)と記載されている。願書に添付の第1図には「A・sec」とある
が、これは「クーロン」という電気量の単位を表し、原告が主張するように積算電
流値であるならば、数値は増加するだけであるが、第1図では電流値が増減してお
り、第1図の記載を根拠とする原告の主張は理由がない。そして、当該技術分野に
おいて「使用電流値」という言葉自体が「電気量」等の特定の意味を有するもので
もない。
 また、訂正後発明1、2に関し、原告は、「杭穴掘削後杭を貫入する」ものと主
張しているが、特許請求の範囲に特に限定がなく、杭穴を掘削した後杭を建て込む
ものや引用発明のように杭穴掘削と杭の建て込みを同時に行うものの両方を含むも
のと解される。また、引用例の「負荷電流(A)の取扱い K値:空回転の負荷電
流 A値:掘進回転の負荷電流 A0値:A-K=A0 作業負荷電流」(105
頁左欄1~4行)との記載からみて、空回転の負荷電流Kとは、杭先端の掘削機が
杭底地盤に接していない状態で回転する時の負荷電流のことであり、掘進回転の負
荷電流Aとは、杭先端の掘削機が杭底地盤に接した状態で回転する時の負荷電流の
ことである。したがって、作業負荷電流A0は、杭の長さの変化等の地盤強度に関
係のない負荷電流を除いたものとなる。
 3 取消事由3に対して
 引用発明において、自動計測されたデーターは当然コンピュータで処理されるわ
けであるから、自動計測とほぼ同時にデーターの採用が可能であり、「引用発明に
おいても、・・・杭穴掘削中に適切な対応をとるために使用することは、当業者が
容易になし得ることにすぎない。」とした相違点bについての決定の判断に誤りは
なく、相違点cについての決定の判断にも誤りはない。
 4 取消事由4に対して
 原告も認めるように、使用トルク値についても、使用電流値と一定の関係が認め
られる以上、前記2で主張したのと同様に、「引用発明の負荷電流値に代えて使用
トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になし得る程度のことである。」
とした相違点dについての決定の判断に誤りはない。
 5 取消事由5に対して
 取消事由1、2及び4について反論したのと同様の理由により、決定の認定、判
断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
 (1) 決定は「引用発明における『オーガーの負荷電流値』と、訂正後発明1、2
の『掘削機の使用電流値』は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫
入試験におけるN値と対比して表示する『対比数値』であることで共通してお
り、」と認定し、また「両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深
度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示
し、・・・の点で一致し」と認定するとともに、「対比数値が、訂正後発明1、2
では掘削機の使用電流値であるのに対し、引用発明では、掘削機の負荷電流値であ
る点。」を相違点aとして認定した。
 すなわち、決定は、「オーガーの負荷電流値」と「掘削機の使用電流値」とが相
違する可能性を念頭に置きつつも、「対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、
標準貫入試験におけるN値と対比して表示する『対比数値』であることで共通」す
るゆえに、「両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度におけ
る、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示」する点
で一致すると認定したものである。
 (2) 甲第4号証によれば、引用例には「ARシステムは、杭が地中に回転押込み
されながら自然貫入する状態での貫入状況と地盤抵抗を示す計測記録は、地盤の力
学的性状を反映したものと考えられる。」との記載があり(104頁右欄6~9
行)、図-1には「標準貫入試験N値」と、単位が「Amp」で表される「負荷電流」
のグラフを記録したものが図示されており、負荷電流欄には「換算N値」もプロッ
トされていることの記載があることが認められる。これらN値、換算N値及び負荷
電流のグラフは、その大小関係において、同一傾向を示すことが認められ、引用発
明の負荷電流とN値に一定の関係があることは明らかであるから、引用発明の負荷
電流はN値との対比数値といえることは明らかであり、「対比数値」といえないと
する原告の主張は理由がない。
 (3) その余の取消事由1における原告の主張は、「オーガーの負荷電流値」と
「掘削機の使用電流値」が相違することを前提とするものであり、決定もこの点を
相違点aとして認定している。しかしながら、相違点aについての決定の判断の誤
りをいう原告の主張が理由がないことは、後記のとおりであり、結局、取消事由1
には理由がない。
 2 取消事由2(相違点aの判断の誤り)について
 (1) 訂正後発明1、2と引用例との間の相違点aについての判断の誤りをいう原
告の主張の根拠は、①訂正後発明1、2における「掘削機の使用電流値」が積算電
流値であるのに対し、引用発明における「オーガーの負荷電流値」は瞬時電流値で
ある、②引用発明では杭貫入時の負荷電流を表示しており、それにはオーガーの負
荷、杭回転の負荷、杭貫入の負荷などが総合的に掛かるが、訂正後発明1、2は杭
穴掘削後に杭を貫入するものであるから、引用例に記載の技術的事項は適用するこ
とができない、そして、③これらに起因して、訂正後発明1、2では、N値と対比
させて、土質を直接推定することができるが、引用発明ではN値と対比させること
も、土質を直接推定することもできない、というにあるので、これに即して以下判
断する。
 (2) 原告の主張①について判断する。
 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には「杭穴掘削時の掘削機の使用電流
値」とあるだけで、これが積算電流値であるとの記載はない。訂正明細書(甲第3
号証)の記載をみるに、「ボーリングの際に土質により使用電流値が変化すること
が知られていたが、前記電流値のN値の相関関係については知られていなかっ
た。」(1頁25~26行)、「標準貫入試験における各深度のN値と、杭穴掘削
時における対応深度の電流値又はトルク値とを対比表示する」(1頁末行~2頁1
行)、「N値と杭穴の掘削時における電流値又はトルク値とを深度別に対応させ
た」(2頁19~20行)、「N値と電流値又はトルク値とを対比表示すれば、杭
穴の各深度における土質状態が明確になり」(2頁12~13行)、「電流記録値
は、杭穴掘削時の電流測定値をそのまま画かせ、又は電流測定値のグラフを対比深
度に合わせて貼着する。」(2頁27~28行)、「N値のグラフ9と、電流値の
グラフ10とは、・・・同一傾向を示している。」(2頁末行~3頁1行)、及び
「N値と電流値又はトルク値を、杭穴掘削時に深度別対比表示する」(3頁14~
15行)との記載のある一方、積算電流値である旨の記載はないことが認められ
る。そして、「電流値」とはそれ自体明確な用語であり、その単位が「アンペア」
(「Amp」)であることも自明のことである。
 一方、引用例には上記1(2)で認定したとおりの記載及び図示があり、N値、換算
N値及び負荷電流のグラフは、その大小関係において、同一傾向を示すものである
ことも前示のとおりである。すなわち、引用発明の「負荷電流」と訂正後発明1、
2における「使用電流値」は、いずれもN値のグラフと同一傾向を示すものであ
り、杭穴の土質状態を明確にするものであるから、両者を異なるものと解さなけれ
ばならない理由はない。
 そうすると、訂正後発明1、2の「杭穴掘削時の掘削機の使用電流値」は、引用
例記載の「負荷電流」同様、単位が「Amp」で表されるものと解するのが相当で
あり、これを「積算電流値」と解さなければならない理由はないというべきであ
る。
 原告は、本件の第1図に「103
A・sec」の記載があると主張する。確かに甲
第1号証の3によれば、同図(甲第3号証によれば、実施例に係る図面であること
が認められる。)の電流記録値欄に「*10^3A・sec」との記載があること
が認められ、これが「103
A・sec」の意味であること、及び積算電流値の単位
であるということができる。しかしながら、甲第1号証の3及び第3号証によれ
ば、本件明細書及び本件の図面には、積算始期及び積算終期がいつであるのか一切
記載がないことが認められるから、第1図の上記記載をもって、いかなる技術的意
義を持つのか明らかではない。仮にそこに何らかの意義を認めるとしても、訂正後
発明1、2をその意義に従って限定すべき根拠も認められないし、積算でない電流
値であっても、その電流値はN値と同一の傾向を示すのは、前記説示のところから
明らかであるから、訂正後発明1、2が積算でない電流値を包含するものと解さざ
るを得ない。
 (3) 原告の主張②について判断する。
 訂正後発明1、2の要旨によれば、訂正後発明1、2の発明につき「杭穴掘削後
杭を貫入する」方法に限定して解することはできない。原告は、杭穴掘削といえ
ば、杭穴を専ら掘削することをいうと主張するが、そのように認めるべき証拠はな
い。したがって、原告の主張②は訂正後発明1、2の要旨に基づかない主張であ
り、理由がない。
 仮に、訂正後発明1、2が「杭穴掘削後杭を貫入する」方法であるとしても、甲
第4号証によれば、引用例には「負荷電流(A)の取扱い K値:空回転の負荷電
流 A値:掘進回転の負荷電流 A0値:A-K=A0 作業負荷電流」(105頁
左欄1~3行)、及び「N=0.45√T(A-K) T:1m当りの貫入時間4.0
・・・」(107頁左欄下から2行~右欄2行)との記載があることが認められ、
作業負荷電流を表示することにより、引用発明においても、N値との対比を行うこ
とは可能であるということができる。引用例図-1(105頁)においては、負荷
電流のグラフと換算N値がほぼ一致していることからみても、同図のグラフにおけ
る「負荷電流」は「作業負荷電流」であると認めることができ、「杭穴掘削後杭を
貫入する」方法に引用発明を適用するのが不可能であると解すべき理由はない。
 したがって、原告の②の主張も理由がない。
 (4) 原告の主張③についてみるに、前示のとおり、引用発明の負荷電流とN値は
同一傾向を示すのであり、N値と対比させて土質を直接推定することもできるもの
である。したがって、原告の③の主張に理由がない。
 (5) 以上のとおりであり、取消事由2も理由がない。
 3 取消事由3(相違点b、cの判断の誤り)について
 甲第4号証によれば、引用例には、「この記録により、杭先端の地盤の状況と貫
入状況を逐次連続的に把握して、支持層地盤の位置を確認し、所定長を根入れした
ことを計測記録して、支持地盤に杭を回転押込み定着させる。ARの記録は、設計
図書に基づいた土質柱状図と対比して、支持層位置、根入れ長等の確認をし、杭長
等の変更の資料として、その施工現場で役立つことができる記録である。」との記
載(105頁左欄15~末行)、及び「杭1本ごとにARの記録で管理し、正常な
状態で回転押込みを行い、支持層中の状況と根入れ長を確認しながら施工した。よ
って、このARの記録ですべての杭を管理することにより、各杭ごとに載荷試験を
行ったと同様の意味づけができるものと考えられる。」との記載(109頁左欄2
~7行)があることが認められる。
 ここにおける「杭先端の地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握」すること
は、訂正後発明1~3における「掘削杭穴の深度別土質を把握」することと異なる
ものではなく、また上記記載の「支持層中の状況と根入れ長を確認しながら施工」
することは、訂正後発明1~3における「杭穴掘削中に適切な対応をとる」ことと
異なるものではない。そうすると、相違点b、cについて判断するに当たり、決定
が「引用発明においても、杭貫入と同時に杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を
記録させ、この記録により杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握してお
り、これを、杭穴掘削中に適切な対応をとるために使用することは、当業者が容易
になし得ることにすぎない。」と判断した点に誤りはなく、取消事由3も理由がな
い。
 4 取消事由4(相違点dの判断の誤り)及び5(本件発明の進歩性の判断の誤
り)について
 取消事由4は取消事由2の主張を前提とするものであり、取消事由2に理由がな
い以上、これを前提とする取消事由4も理由はない。
 取消事由5は、本件発明についての進歩性の判断の誤りを主張するものである
が、訂正後発明の独立特許要件についてした決定の認定、判断の誤りを主張する取
消事由1ないし4と同様の根拠に基づくものであり、上記のとおり、これらの取消
事由が理由のないものである以上、取消事由5も理由がない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成13年7月12日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   永   井   紀   昭
            裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   橋   本   英   史

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