弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。原判決記載の本件山林が保安林でないことを確
認する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被
控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに
これを引用する。
○ 理由
当裁判所も、本件保安施設地区指定処分が無効であることを前提とする控訴人らの
本訴請求は失当であると判断するが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原
判決が理由中に認定判示するところと同一であるから、その記載を引用する。
一 指定の予定の通知及び指定の通知が訴外Aにされなかつたことを理由とする指
定処分無効の主張について(補足)
原判決一一枚目表四行目の次に、次のとおり加える。
そして、以上の理は、指定の予定の通知と指定の通知の双方が山林所有者に対しさ
れなかつた場合にも異なるところはなく、また、森林法に定める保安施設制度のも
つ高度の公共性、指定により山林所有者の被る不利益の程度、内容及び補償に関す
る定め(法四四条、三四条、四五条、なお、保安林につき三四条の二、三五条参
照)、ならびに、右のように解しても山林所有者として処分を争う機会を全く奪わ
れるものではないこと(行訴法一四条、特に三項ただし書参照)に鑑みるならば、
法の右のような解釈は、なんら財産権を不当に侵害するものではない。
二 本件指定処分時における山林所有者について
控訴人らは、本件指定処分の無効を主張するのに、本件山林の所有者が当時訴外A
であつたことを前提としているが、当裁判所は、右主張はその前提においても誤つ
ていると考える。その理由は、次のとおりである。
成立に争いない甲第一号証、原審証人Bの証言によつて成立を認めうる乙第五号証
によれば、<地名略>山林の土地登記簿は昭和四〇年一月火災によつて焼失した
が、昭和三〇年当時の登記簿上の名義人が訴外Aであつたと推認することができる
し、右山林を昭和一七年ころ訴外Aが訴外Cから買い受けて所有権移転登記を経た
ものであつたことは当事者間に争いないところであるけれども、後に判示する諸事
情を併せ考えると、これだけでは、本件指定の予定及び指定処分当時訴外Aが<地
名略>山林の所有権者であつたと認定するには十分でなく、その他これを断定する
に足りる証拠はない。却つて、前掲B証言、乙第一五号証、B証言によつて成立を
認めうる乙第一ないし第四号証によれば、昭和二一年三月三日、訴外Dが訴外Eを
介して訴外Aから<地名略>山林及びその隣地(<地名略>)を代金八一七四円で
買い受け、代金は支払つたが登記名義はそのままであつたこと、昭和二二年一〇月
右<地名略>は自作農創設特別措置法によつて国に買収されたが、その後昭和二五
年三月、村は中学校建設敷地として--<地名略>については右のように買収され
ていることを看過して--この二筆の土地を訴外Dから買い取ることとし、村議会
でその旨の議決がなされ、買収予算も承認された上、昭和二六年四月七日訴外Dに
対して右二筆の買受代金として一万円が支払われたこと、その際訴外Dから村に対
して、「不動産登記権利書」と題した訴外Aから訴外Dあての売渡証と訴外A名義
の登記委任状及びこれらに押捺された印影に合致する印鑑証明が交付されたが、登
記名義は変更されぬまま経過したこと、その後中学校新築の計画が具体化されなか
つたため、村はこの二筆の土地に檜を植林するなどして管理していたが、昭和三〇
年に至つて、本件指定の問題を生じたこと、以上の事実を認定することができる。
原審証人Aの供述中には、右乙第一、二号証の同人の印影を否認するなど、右認定
に反するところが少なくないが、右供述を検討すると、同人と大島町差木地財産区
との間の訴訟の係属とか、甲第三号証の和解の成立の事実とか、控訴人ら先代であ
る亡Fへの本件山林の売渡とかの記憶さえ曖昧なことが認められ、証言全体として
心証を惹くところがなく、到底措信しえない。
以上によれば、旧差木地村は正当に<地名略>山林の所有権を取得していたものと
認めることができる。もつとも、成立に争いのない甲第三号証によれば、訴外A
は、大島町差木地財産区との間に<地名略>山林の帰属に関して訴訟が係属した
上、昭和四七年一二月二二日成立の訴訟上の和解によつて本件山林の所有権の確認
を得ているのであるから、控訴人ら先代への本件山林売渡によつて単純な二重譲渡
の関係が生じた場合と同視することは相当でないにしても、昭和二九年の本件指定
の予定及び昭和三〇年の本件指定処分当時を律する上には、この和解の結果は無関
係というべきである。そして、本件指定予定通知及び指定通知は、単なる登記簿上
の所有名義人に対してすべぎものではなく、実体上の所有権者に対してすべきもの
であるから、結局、所有者を旧差木地村としてなされた本件指定処分には通知の相
手方を誤つた瑕疵はなく、訴外Aに所有権があることを前提とする控訴人らの主張
は理由がないというべきである。
よつて、控訴人らの被控訴人に対する請求は、これを棄却すべきであり、これと同
旨に出た原判決は相当で、本件控訴はその理由がないから、これを棄却することと
し、訴訟費用については民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に則つて、主文
のとおり判決する。
(裁判官 杉山克彦 倉田卓次 高山 晨)

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