弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 原判決を取り消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、本件控訴を棄却する、控訴
費用は控訴人の負担とする、との判決を求めた。
 当事者双方の事実上および法律上の陳述ならびに証拠の関係は、控訴代理人にお
いてつぎのとおり陳述したほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引
用する。
(控訴代理人の新たな陳述)
 地方税法第七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは、私法上の不動産の取
得を意味するものであり、これと別異に解すべき理由はない。これを本件において
みるに、なるほど民法上は、合意解除はもとの契約により生じた法律効果は、すべ
て遡及的に消滅すると解されている。しかし、そのことは、もとの売買契約により
被控訴人から訴外三輪不動産株式会社に本件の不動産の所有権が有効に移転し、合
意解除によりふたたび被控訴人が所有権を取得することを否定するものではない。
つまり同会社の所有権取得の事実があり、ふたたび被控訴人に所有権取得の事実が
ある以上、被控訴人に対しても、その取得時において課税されてしかるべきであ
る。
       理   由
一 被控訴人が訴外三輪不動産株式会社に本件土地を売り渡すこととして所有権移
転登記をし、その後合意解除を原因として右移転登記の抹消手続をしたこと、被控
訴人が同会社の代表取締役であることは、いずれも、当事者間に争いがない。
 右争いのない各事実に、成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証および乙第四
号証ならびに原審における証人Aの証言および被控訴本人の供述を総合すると、
(一) 被控訴人は、昭和四一年三月一日、自己が代表取締役をしている右会社と
の間で、本件土地を代金二二〇万円余で同会社に売り渡す旨の売買契約を締結し、
同月一八日その旨の所有権移転登記を済ませたこと。
(二) 右売買は、借地人と明渡しの交渉をするための便宜も考えてしたものでは
あるが、単に名義だけを変えたのではなく、真実所有権を移転し代金を授受する意
思のもとに締結したこと。
(三) ところが、同会社は代金を支払える見込みがたたず、また借地人との交渉
が進展しないこともあつて、被控訴人の土地返還の求めにより、昭和四二年八月一
五日、両者の間で右売買契約を合意解除し、同月二四日前記移転登記の抹消手続を
したこと。
等の事実を認めることができる。右被控訴本人の供述中には、右(一)の売買は仮
装のものであるという趣旨の部分があるけれども、これは、同じ被控訴本人の他の
供述部分に照らし信用できず、ほかには右の各事実認定を動かすに足りる証拠はな
い。なお、右売買および合意解除は、いずれも、取締役・会社間の取引ではある
が、右認定のように所有権移転登記および抹消登記が経由されていることと、成立
に争いのない甲第五号証および本件口頭弁論の全趣旨によると、右各取引について
は取締役会の承認もあつたものと推認することができる。
二 そこで、右認定の売買および合意解除が、地方税法第七三条の二第一項の「不
動産の取得」という不動産取得税の課税原因にあたるかどうかを判断する。
(一) まず売買についてみるに、その契約の効果として、本件土地所有権は、被
控訴人から三輪不動産に移転したものというべきである。被控訴人は、代金未払を
理由にこれを争うけれども、代金未払の一事をもつて所有権がまだ売主に留保され
ていると解することはできないのみならず、前記のように所有権移転登記まで済ん
でいる以上、所有権の移転はもはや確定的であるというほかはない。なお、成立に
争いのない甲第六号証によると、西宮税務署長は、三輪不動産が支払つた不動産取
得税は被控訴人のための立替金であるとの理由で法人税の更正決定をしたことが認
められるけれども、それ自体、右に説示した所有権の移転を否定するものではない
から、右の判断の妨げとはならない。
 このように、右認定の売買によつて、本件土地の所有権が被控訴人から三輪不動
産に移転したのであるから、地方税法の適用にあたつても、同会社は「不動産の取
得」をしたものと解すべきである。
(二) つぎに合意解除について考察するに、前記一の(三)で認定したところか
らすると、本件の合意解除は、民法第五四一条以下のいわゆる法定解除におけると
同様、売買契約がはじめからなかつたのと同一の法律効果を生じさせようとする趣
旨のものと解される。しかし、合意解除が契約の遡及的消滅を目的とするといつて
も、すべてが白紙にもどるわけではなく、すでに三輪不動産に本件土地所有権が移
転し、不動産取得税の課税要件が充足されたという事態まで除去してしまうことは
できない。また、右認定のように合意解除を原因として所有権移転登記が抹消され
ていても、それは、不実の登記を是正し真正な所有名義を回復するためのものでは
なく、合意解除という新たな法律要件の発生に伴うものと理解しなければならな
い。要するに、合意解除がその趣旨に従つて契約の遡及的消滅という効果をもつの
は、契約の拘束力から解放されるための手段にすぎず、一方、不動産取得税の課税
というのは契約の拘束力とはおよそ関係がない(契約の効力として課税されるので
はない)のであるから、不動産取得税の課税という観点からするかぎり、いつたん
買主に移転した所有権が売主のもとに再度移転するものと扱うのが相当である。こ
れと反対の見解もないではないが、(甲第四号証参照)、契約を存続せしめつつ相
手方の履行を期待して自己の権利の保護をはかることもできたはずであり、合意解
除は当事者の自由な選択にもとづくものであるから、所有権の再移転と扱われても
やむをえないところである。
 したがつて、本件の合意解除による土地所有権の被控訴人への復帰も、「不動産
の取得」として、不動産取得税の課税要件を充足するものといわざるをえない。
三 以上のように、被控訴人は、昭和四二年八月一五日、本件土地を取得したもの
であるところ、控訴人が被控訴人に対し同年一一月一〇日付納税告知書によつて不
動産取得税一二三、九九〇円の賦課処分をしたことは、当事者間に争いがない。そ
して、成立に争いのない乙第五号証および第六号証によつて認められる本件土地の
固定資産価格からすると、右税額の算定は適正なものということができる。
 よつて、本件賦課処分にはなんら違法の点はないから、その違法を前提とする被
控訴人の本訴請求は理由がなく、これを認容した原判決は不当であるから、民事訴
訟法第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 村上喜夫 賀集唱 潮久郎)

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