弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人有罪の部分を破棄する。
     被告人を罰金十五万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金一千円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人安斎保の控訴の趣意は別紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所
の判断は左のとおりである。
 第一点について。
 <要旨>労働基準法第百二十条第一号第二十四条違反の罪は賃金を支払うべき期日
毎に且つ支払を受くべき労働者一人毎にそれぞれ一個の犯罪を構成するもの
と解すべきことは、同法第二十四条が賃金は毎月一回以上一定の期日を定めて、そ
の全額を通貨で直接労働者に支払うべきことを命ずることにより、労働者一人一人
に対する賃金の支払を確実ならしめている法の精神から自明のことゝいわなければ
ならない。されば、これと同趣旨に出た原判決の法令の適用は正当であつて擬律錯
誤の違法はない。所論はこれと異る見解に立つもので採用し難い。
 第二点について。
 本件労働基準法違反の所為は昭和二十三年九月から昭和二十四年三月までの所為
であることは記録上明かであるが、原審の取調べた証拠によると、いわゆる経済九
原則による融資の停止は昭和二十四年四月一日からであることが認められるから右
融資が停止された結果本件賃金の不払を累ねるの止むなきに至つたものというわけ
にはゆかず、その他本件記録を精査しても、行為の当時普通一般人を標準として合
法行為への期待可能性がないと認められるような事情はこれを認めることができな
い。それ故原判決には所論の違法はなく論旨は理由がない。
 第三点について。
 本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実に徴すると、
原判決の刑の量定は不当であると認められるので、刑事訴訟法第三百九十七条第三
百八十一条により原判決中被告人有罪の部分を破棄し、同法第四百条但し書により
更に判決するに、罪となるべき事実竝にこれを認めた証拠の標目は原判決の摘示と
同一であるからこれを引用する。
 右の事実を法律に照らすと、被告人の判示各所為は労働基準法第百二十条第一号
第二十四条罰金等臨時措置法第四条第一項に該当するが昭和二十四年一月三十一日
以前の各所為(原判示第一の(一)乃至(五)、第二の(一)乃至(四))は罰金
等臨時措置法による刑の変更以前の所為であるから刑法第六条第十条の趣旨に則り
軽い変更前の寡額によることとし、以上は刑法第四十五条前段の併合罪を構成する
から、同法第四十八条第二項により各罪につき定めらわた罰金の合算額の範囲内に
おいて被告人を罰金十五万円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法
第十八条にしたがい金一千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく訴
訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項を適用して被告人にその全部を負担させる
ことゝする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 臼居直道)

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