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平成17年(行ケ)第10640号審決取消請求事件
平成18年7月26日判決言渡,平成18年7月12日口頭弁論終結
判決
原告東海旅客鉄道株式会社
訴訟代理人弁理士足立勉,石原啓策,加藤祐司
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人高橋泰史,高見重雄,高木彰,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-16971号事件について平成17年7月5日にした
審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,原告が,名称を「鉄道の左右定常加速度模擬装置」とする発明につき特
許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求
は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
()本件出願(甲第4号証)1
出願人:東海旅客鉄道株式会社(原告)
発明の名称:鉄道の左右定常加速度模擬装置」「
出願番号:特願2000-198775
出願日:平成12年6月30日
()本件手続2
手続補正日:平成14年2月22日(甲第6号証)
手続補正日:平成14年6月7日(甲第9号証)
拒絶査定日:平成14年7月31日(甲第11号証)
審判請求日:平成14年9月4日(不服2002-16971号(甲第12号)
証)
審決日:平成17年7月5日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない」「。
審決謄本送達日:平成17年7月19日
2本願発明の要旨
審決が対象とした発明(平成14年6月7日付け手続補正後の請求項1に記載さ
れた発明であり,以下「本願発明」という。なお,請求項の数は1個である)の。
要旨は,以下のとおりである。
「鉄道車両の内装を模擬した模擬客室と,
前記模擬客室を支持する土台と,
前記土台と前記模擬客室との間に設けられ,前記模擬客室に対して少なくとも前
後軸回りの回転運動を付与可能なロール付与手段と,
前記土台を左右いずれかの方向に移動させる左右移動手段と,
前記ロール付与手段と前記左右移動手段を制御する制御手段と
を備えた鉄道の左右定常加速度模擬装置であって,
前記制御手段は,
前記ロール付与手段によって前記模擬客室を前後軸回りに回転させ傾斜させるこ
とにより重力加速度のうち傾斜面に沿った分力である第1再現加速度を前記模擬客
室の乗員に発生させると共に,前記左右移動手段によって前記土台を左右いずれか
の方向に加速度運動させることにより第2再現加速度を前記模擬客室の乗員に発生
させ,前記第1再現加速度と前記第2再現加速度の両方を利用して鉄道の左右定常
加速度とし,
前記ロール付与手段によって前記模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加
速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し,
前記第1再現加速度を前記左右定常加速度の模擬に始めから使用すると共に,前
記第1再現加速度では前記左右定常加速度に足りない分を,前記第2再現加速度で
補償することにより前記鉄道の左右定常加速度とし,
前記第2再現加速度がゼロになった時点で前記土台が左右いずれかの方向に移動
している場合には,その土台が停止するように前記第2再現加速度を負の値に調整
すると共にそれに応じて前記第1再現加速度を調整すること,
を特徴とする鉄道の左右定常加速度模擬装置」。
3審決の理由の要点
審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願発明は,1992年(平
成4年)11月15日社団法人日本ロボット学会発行に係る日本ロボット学会誌1
0巻7号34~40頁所収の三木一生による「ドライビングシミュレータにおける
」(,「」。)加速度感覚模擬技術と題する論文甲第1号証以下引用刊行物1という
に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができ
たものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,
というものである。
引用例
1.原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願日前に頒布された引用刊行物1には,次の
事項が記載されている。
ア「3.1VWのジンバルタイプDS図5にVWのDSを示す。このDSのモーション.
システムは,ジンバル式の回転3自由度(ロール,ピッチ,ヨー)の運動のみで,走行中の車
両に生じる加速度を最大0.4G・・・まで模擬する方法を用いている。このジンバル方式
では,加速度を発生するためには,動揺台を傾ける必要がある。動揺台が傾斜角を有すること
により,重力加速度の分力成分が発生する。ドライバは,この重力加速度の分力成分を車両に
生じる加速度として感じる。この方式を用いると,前述の様に定常円旋回中に生じる車両の
横方向の加速度などの長時間持続する加速度は,動揺台を所定の角度だけドライバに気付かれ
ないように傾け保持することで模擬できる。しかし,この方式では,例えばレーンチェンジ開
始時に生じる急激に立ち上がる横加速度,換言すれば過渡的に発生する加速度はうまく模擬で
きない。何故ならば,ジンバル方式では動揺台は回転運動しかできないために,過渡的な加速
度を発生させるには急激に動揺台を回転させ,過渡的に傾斜角を変化させる必要がある。この
ため,ドライバは回転運動を検知し,車両の運動とは異なる体感として異和感を唱えるおそれ
があるからである。一般的には,ジンバル方式のDSでは,過渡的な運動を模擬するのは難し
いとされている(第37頁左欄第30行から右欄第9行)。」
イ「3.3Benzの6軸モーションDS図7は,Benzの6軸モーションDSであ.
り,従来のFSの技術をDSへ応用したものである。この方式の6軸モーションベースは,回
転運動のみならず,わずかではあるが並進運動も可能であるので,前述のVWのDSに比較す
ると,長時間持続する加速度はもちろんであるが,過渡的な加速度もある程度模擬できる。レ
ーンチェンジの開始時に車両に生じる横加速度のような過渡的な加速度は,6軸モーションを
並進運動させれば発生可能であるが,BenzのDSの場合,並進運動の移動量が最大でも±
1.5m程度であるため,車両の運動により発生する実際の加速度(の大きさ)をそのまま1
00%模擬するのではなく,スケールファクタ(1より小さい係数)によりスケールダウンし
て模擬しているものと思われる(第38頁左欄第14~28行)。」
ウ「3.4VTI,マツダの横並進タイプDS図8,9は,それぞれVTI・・・,マ.
ツダの横並進タイプDSを示す。両者とともに,長時間持続する加速度と過渡的に発生する加
速度を,モーションシステムの回転運動と並進運動をうまく組み合わせて発生させることを考
慮しており,構造的にはジンバル式の回転動揺台を左右方向に長いストロークを有するレール
上を並進運動させる方式を採っている。そのストロークはVTIのDSで±3m,マツダのD
Sで±3.6mである(第38頁左欄第29行から右欄第5行)。」
エ「4.加速度模擬の基本的な考え方前章で述べた長時間持続する加速度は動揺台を所定.
の角度だけ傾けることで,過渡的な加速度は動揺台の並進運動で模擬する方法について詳しく
述べる。この手法はと呼ばれている。図12は,上記の2種類の加速度発生方法を”WashOut”
示す。図13は,この2つの方法を組み合わせた典型的な技術による加速度波形を示WashOut
す。定常円旋回時や長い直線路での加速時に,車両に生じる長時間持続する加速度をDSで
,。,発生するには理想的には同じストロークだけの直線並進運動を実施する必要があるしかし
,,どんな試験機にも性能限界があるように現実にはDSは実験室内に設置された装置にすぎず
直線並進運動の稼働ストロークには限界がある。そこで,図12,13に示すように,まず並
,。,進運動により動き始めの過渡的な加速度を模擬するそのまま動揺台が並進運動を続ければ
DSの有効ストロークの限界を超してしまうので,並進運動を徐々に止め,逆に次の運動に備
えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立位置へ戻す。一方,この運動を実施しつつ動揺台を
所定の角度だけ傾け,図12の(b)に示すように重力加速度の分力成分を利用して加速度を
発生させる。ドライバは,シミュレータドームという真っ黒な密室内のスクリーン上の画像の
みが視覚情報として与えられているため,モーションシステムにより与えられた加速度がどの
ような方法により与えられたかはほとんど気付かず,並進と回転の二つの運動から生じる合成
された加速度を体感として感じる(第39頁右欄第8行から第40頁左欄第19行)。」
また,図8及び図9から,自動車の内装を模擬した模擬客室と,前記模擬客室を支持するレ
ール上を左右並進運動する台と,前記レール上を左右並進運動する台と前記模擬客室との間に
設けられ,前記模擬客室に対して前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と,前記台を
左右並進運動させる手段とを備えた自動車のドライビングシミュレータが,見て取れる。
さらに,図12(a)に自動車の形をした動揺台の並進運動による横向加速度TGの発生方
法が,図12(b)に自動車の形をした動揺台の傾斜による横向加速度RGの発生方法が示さ
,,,「」,,れまた図13にによる加速度模擬として並進運動より生じる加速度TGWashOut
回転運動より生じる加速度RG,及び合成加速度の時間変化を示す図が示されている。
そして,前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前記左右並進運動させる手段
とは,例えば図13に示されるような加速度を生じるのであるから,これらを制御する制御手
段を備えていることは,明らかである。
これらの記載から,引用刊行物1には「自動車の内装を模擬した模擬客室と,前記模擬客室
支持するレール上を左右並進運動する台と,前記台と前記模擬客室との間に設けられ,前記模
擬客室に対して前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と,前記台を左右並進運動させ
る手段と,前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前記左右並進運動させる手段
を制御する手段とを備えた自動車のドライビングシミュレータであって,前記前後軸回りのロ
ール回転運動を付与可能な手段によって前記模擬客室を前後軸回りに回転させ傾斜させること
により重力加速度のうち傾斜面に沿った分力である車両の横向加速度RGを模擬客室に発生さ
せると共に,前記左右並進運動させる手段によって前記台を左右何れかの方向に加速度運動さ
せることにより車両の横向加速度TGを模擬客室に発生させ,前記車両の横向加速度RGと前
記車両の横向加速度TGの両方を利用して自動車の合成加速度とする自動車のドライビングシ
ミュレータ(引用刊行物1記載の発明)が記載されている,と認められる。。」
2.平成13年12月18日付け拒絶理由通知書で引用された,本願の出願日前に頒布された
特開平3-136086号公報(以下「引用刊行物2」という)には,次の事項が記載され,。
ている。
オ「上記課題を達成するための本発明の構成は,運転者が乗り込むキャビン部と,このキャ.
ビン部を,少なくともロール方向について回転させるロール方向駆動部と,キャビン部を横方
向に並動させる横方向駆動部と,運転者の運転操作情報に基づいて,キャビン部の,少なくと
もロール方向の回転加速度と横方向移動加速度とを演算する演算手段と,前記演算手段で得ら
れたロール方向加速度と,前記演算手段で得られた横方向加速度の低周波成分とに基づいてロ
ール方向駆動部を駆動すると共に,前記演算手段で得られた横方向加速度の高周波成分に基づ
いて横方向駆動部を駆動するように制御する制御手段とを具備することを特徴とする。高周
波追随の困難なロール方向の駆動部には,横方向の運動の低周波成分のみが送られ,その高周
波成分は追随の楽な横方向駆動部に送られる。そのために,高周波域でのシミュレーションの
精度を上げることができる(第3頁右上欄第7行から左下欄第5行)。」
カ「():横方向加速度の高周波成分(前後方向の運動の高周波成分も)は過渡的運動特性の.1
優れたリニアモータによる横運動としてシミュレーションされるので,シミュレーション精度
は高いものとなる。():横方向加速度の低周波の変動成分はロール角の変動に変換される2
ので,横方向の運動のストロークは短いものとなり,大きなリニアモータは不要となる。横方
,。」向加速度の低周波の変動成分をロール角の変動に変換しても低周波故に十分に追従できる
(第6頁左下欄第4~14行)
対比
,「」,本願発明と引用刊行物1記載の発明とを対比すると引用刊行物1記載の発明の模擬客室
「レール上を左右並進運動する台「前記模擬客室に対して前後軸回りのロール回転運動を付」,
与可能な手段「台を左右並進運動させる手段「前記前後軸回りのロール回転運動を付与可」,」,
能な手段と前記左右並進運動させる手段を制御する手段「車両の横向加速度RG「車両の」,」,
横向加速度TG」及び「合成加速度」が,それぞれ本願発明の「模擬客室「土台「ロール」,」,
付与手段「左右移動手段「制御手段「第1再現加速度「第2再現加速度」及び「左右」,」,」,」,
定常加速度」に相当することは明らかである。また,引用刊行物1記載の「自動車」は「乗,
り物」であるという意味で,本願発明の「鉄道車両」に対応するものである。さらに,引用刊
行物1記載の「ドライビングシミュレータ」は,模擬客室の横方向加速度を模擬するものであ
るから,本願発明の「左右定常加速度模擬装置」と対応するものである。
してみると,両者は「乗り物の内装を模擬した模擬客室と,前記模擬客室を支持する土台,
と,前記土台と前記模擬客室との間に設けられ,前記模擬客室に対して少なくとも前後軸回り
の回転運動を付与可能なロール付与手段と,前記土台を左右いずれかの方向に移動させる左右
移動手段と,前記ロール付与手段と前記左右移動手段を制御する制御手段とを備えた乗り物の
左右定常加速度模擬装置であって,前記制御手段は,前記ロール付与手段によって前記模擬客
室を前後軸回りに回転させ傾斜させることにより重力加速度のうち傾斜面に沿った分力である
第1再現加速度を前記模擬客室の乗員に発生させると共に,前記左右移動手段によって前記土
台を左右いずれかの方向に加速度運動させることにより第2再現加速度を前記模擬客室の乗員
に発生させ,前記第1再現加速度と前記第2再現加速度の両方を利用して左右定常加速度とし
た乗り物の左右定常加速度模擬装置」である点で一致し,次の点で相違する。。
(相違点1)
加速度模擬装置の対象が,本願発明では「鉄道車両」であるのに対して,引用刊行物1記載
の発明が「自動車」である点。
(相違点2)
本願発明においては「ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの,
角加速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し」ているのに対して,引用刊行物1に
は,この構成が記載されていない点。
(相違点3)
,「,本願発明においては第1再現加速度を左右定常加速度の模擬に始めから使用すると共に
第1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を,第2再現加速度で補償することにより左
右定常加速度とし」ているのに対して,引用刊行物1には,この構成が記載されていない点。
(相違点4)
本願発明においては「第2再現加速度がゼロになった時点で土台が左右いずれかの方向に,
移動している場合には,その土台が停止するように第2再現加速度を負の値に調整すると共に
それに応じて第1再現加速度を調整する」のに対して,引用刊行物1には,この構成が明記さ
れていない点。
判断
相違点1について,
乗り物の模擬装置として,自動車,鉄道車両等何れも周知(国際公開第94/24652号
パンフレットを参照)であり,引用刊行物1記載の発明を鉄道車両の模擬装置に用いることを
,「」「」阻害する点もないから引用刊行物1記載の発明の対象として自動車に代えて鉄道車両
とすることは,当業者ならば容易に想到し得たものである。
相違点2について,
本願発明の「ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加速度又
は角速度を,予め定める不感範囲内に設定」するとは,本願明細書の段落[0010]に「本
発明の左右定常加速度模擬装置において,制御手段は,ロール付与手段によって模擬客室を前
後軸回りに回転させるときの角加速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定する。ここ
でいう「不感範囲」とは,人間が回転していると認識できない範囲を意味し,予め経験的に定
めておけばよい。つまりこの場合,制御手段は,人間が回転していると認識できないように,
これら角加速度又は角速度を制御する。この場合,模擬客室がロール回転しているにもかかわ
らず,模擬客室の乗員はそれに気づかないため,乗心地に違和感を感じることがない」と記。
載されていることからみて,ロール付与手段によって発生させる加速度成分は,模擬客室の乗
員が回転していることを認識できない範囲内とすることを意味すると解される。そして,引用
刊行物1の上記摘記事項ア.に「この方式を用いると,前述の様に定常円旋回中に生じる車両
の横方向の加速度などの長時間持続する加速度は,動揺台を所定の角度だけドライバに気付か
れないように傾け保持することで模擬できる」と記載されているように,模擬客室を前後軸。
回りに回転させ傾斜させることにより加速度成分を発生させる場合には,模擬客室の乗員が回
転していることを気付かない範囲で傾けることが示唆されているから,引用刊行物1記載の発
明において,ロール付与手段によって発生させる加速度成分を予め定める不感範囲内に設定す
ることは,当業者ならば容易に想到し得たものである。
相違点3について,
引用刊行物1の上記摘記事項イ.や引用刊行物2の上記摘記事項カ.にみられるように,横
方向加速度の模擬装置において,傾斜による加速度をメインとすれば,並進運動のストローク
が減少し,装置の小型化を図ることができることは周知であり,また,引用刊行物1の上記摘
記事項イ.ウ.や引用刊行物2の上記摘記事項オ.カ.にみられるように,傾斜による加速度
では,長時間持続する加速度は模擬できるが,過渡的に発生する加速度の模擬は困難であるこ
とも周知の事項である。そして,加速度の内容に応じて,傾斜による加速度発生手段と並進運
動による加速度発生手段とを同時に動作させることは引用刊行物1の上記摘記事項イ.~エ.
や引用刊行物2に記載されており,また,傾斜による加速度をメインとすることも,上記摘記
事項イ.に示唆されている。してみれば,装置の小型化,及び,長時間持続する加速度の模擬
を主目的として,第1再現加速度(傾斜による加速度)をメインとして,第1再現加速度を左
右定常加速度の模擬に始めから使用すると共に,第1再現加速度では左右定常加速度に足りな
い分を,第2再現加速度(並進運動による加速度)で補償することにより左右定常加速度とす
るように構成することは,当業者ならば適宜採用し得たものと認められる。
相違点4について,
,.「,,,引用刊行物1には上記摘記事項エに図1213に示すようにまず並進運動により
動き始めの過渡的な加速度を模擬する。そのまま動揺台が並進運動を続ければ,DSの有効ス
トロークの限界を超してしまうので,並進運動を徐々に止め,逆に次の運動に備えるためにゆ
っくりと動揺台を初期の中立位置へ戻す。一方,この運動を実施しつつ動揺台を所定の角度だ
,()。」け傾け図12のbに示すように重力加速度の分力成分を利用して加速度を発生させる
と記載されているように,並進運動を止め,これに対応して傾斜による加速度成分を発生させ
ることが記載されている。ここで,並進運動を止めるには,並進運動による加速度を負の値に
する必要があり,また,引用刊行物1記載の発明は,並進運動による加速度成分と傾斜による
加速度成分とを合わせて必要な加速度を得ているものであるから,第2再現加速度(並進運動
による加速度)がゼロになった時点で土台が左右いずれかの方向に移動している場合には,そ
の土台が停止するように第2再現加速度を負の値に調整すると共にそれに応じて第1再現加速
度(傾斜による加速度)を調整するように構成することは,当業者ならば容易に想到し得たも
のと認められる。
そして,本願発明の作用効果も,引用刊行物1記載の発明及び上記周知技術から当業者であ
れば予測できる範囲のものである。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本願発明と引用刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という)との。
一致点の認定及び相違点1~4についての判断を誤ったものであるから,取り消さ
れるべきである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り)
()審決は,引用刊行物1につき「自動車の内装を模擬した模擬客室と・・・1,
前記模擬客室に対して前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と,前記台を
左右並進運動させる手段とを備えた自動車のドライビングシミュレータが,見て取
れる・・・そして,前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前記左右
並進運動させる手段とは,例えば図13に示されるような加速度を生ずるのである
から,これらを制御する制御手段を備えていることは,明らかである」として,引
用発明である自動車のドライビングシミュレータが「自動車の内装を模擬した模,
擬客室と・・・前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前記左右並進
」,,「」,運動させる手段を制御する手段を備えると認定しかつ引用発明の模擬客室
「前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前記左右並進運動させる手
段を制御する手段」が,それぞれ本願発明の「模擬客室「制御手段」に相当する」,
とした上「乗り物の内装を模擬した模擬客室・・・を備えた」点及び「前記ロー,
ル付与手段と前記左右移動手段を制御する制御手段とを備えた」点をそれぞれ本願
発明と引用発明との一致点と認定したが,誤りである。
()すなわち,引用刊行物1に示されているのは,被験者が運転操作を行うこ2
とが前提とされたコックピット(運転席)であって,被験者が運転操作を行わない
ことが前提とされた本願発明の「模擬客室」ではない。このことは,引用刊行物1
では,模擬装置による被験者を「ドライバ」と称していること,被験者によるステ
アリング,アクセル,ブレーキペダルの操作入力に基づいた処理がされると記載し
ていることからも明らかである。したがって,審決が,引用発明である自動車のド
ライビングシミュレータが「模擬客室」を備えると認定したことは,誤りである。
()また,引用刊行物1の図13は「回転運動より生じる加速度:RG「並3,」,
進運動より生じる加速度:TG」及び「合成加速度」の時間経過に伴う変化を示す
ものにすぎず「制御手段」に該当するハードウェアの存在を示唆する事項は一切,
開示されていないから,審決が,引用発明である自動車のドライビングシミュレー
タが「前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前記左右並進運動さ,
せる手段を制御する手段」を備えると認定したことも誤りである。仮に,被告が主
張するとおり,審決が,引用発明が制御手段を備えると認定した根拠が,図13の
みでなく,引用刊行物1の「図8,9は・・・考慮しており(38頁左欄下から」
,),「」4行~右欄1行審決の摘記事項ウ長時間持続する加速度は・・・発生させる
(39頁右欄9行~40頁左欄14行,審決の摘記事項エ)等の記載及び図8,9
を含むとしても,これらの記載に制御手段を備える構成を示唆したものはない。
()したがって,審決が,引用発明である自動車のドライビングシミュレータ4
が「模擬客室」を備えると認定したことも,また,引用発明である自動車のドライ
ビングシミュレータが「前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前,
記左右並進運動させる手段を制御する手段」を備えると認定したことも,いずれも
誤りであり,ひいて,本願発明と引用発明との一致点の認定も,誤りである。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
()審決は,本願発明と引用発明との相違点1として認定した「加速度模擬装1
置の対象が,本願発明では『鉄道車両』であるのに対して,引用刊行物1記載の発
明が『自動車』である点」につき「乗り物の模擬装置として,自動車,鉄道車両,
等何れも周知(国際公開第94/24652号パンフレットを参照)であり,引用
刊行物1記載の発明を鉄道車両の模擬装置に用いることを阻害する点もないから,
引用刊行物1記載の発明の対象として『自動車』に代えて『鉄道車両』とすること
は,当業者ならば容易に想到し得たものである」と判断したが,誤りである。
()すなわち,本願発明の「鉄道の左右定常加速度模擬装置」は,鉄道車両の2
走行時に生ずる「左右定常加速度」を「乗客の立場から的確に評価する」ためのも
((「」。)のであるが平成14年6月7日付け補正後の明細書以下本願明細書という
の発明の詳細な説明段落【】~【,そのためには,鉄道車両に生ずるも00010006】)
のとして意図した(例えば,実際の「左右定常加速度」を当該模擬装置において)
忠実に再現することが必要であり,本願発明は,そのことを当然の前提とするもの
である。
他方,引用発明は,自動車の運転状態を模擬するための模擬装置に係るものであ
るところ,平成7年7月15日社団法人自動車技術会発行に係る「自動車技術会論
文集」第26巻6号所収の佐藤健治ほか2名による「助手席同乗を想定したシミュ
レータモーションの運動感覚」と題する論文(甲第18号証)に「横加速度の模擬
は,50%~60%程度の大きさで行うと実車に近く違和感が少ない運動感覚にな
ると考えられる(107頁左欄12~13行)との,また,平成10年6月1日」
財団法人日本自動車研究所発行に係る「自動車研究」第20巻6号所収の佐藤健治
ほか2名による「ドライビング・シミュレータの模擬精度と運転感覚の調査」と題
する論文(甲第19号証)に「実車と同じ大きさの加速度よりむしろ小さめに模擬
するほうが実車に近い運動感覚が得られる(43頁左欄2~4行)との各記載が」
あるとおり,自動車の運転状態を模擬するための模擬装置においては,左右定常加
速度を模擬する際に,自動車に生ずるものとして意図した左右定常加速度よりも小
さめの左右定常加速度を生じさせることが技術常識である。
したがって,引用発明の自動車の模擬装置を,鉄道車両の模擬装置に転用したと
しても,鉄道車両に生ずるものとして意図した「左右定常加速度」よりも小さめの
「左右定常加速度」を生じさせる制御が実行されることになって「左右定常加速,
度」を当該模擬装置において忠実に再現することはできない。
被告は,引用刊行物1に,左右定常加速度を模擬する際に,自動車に生ずるもの
として意図した左右定常加速度よりも小さめの左右定常加速度を生じさせるとの記
載はないと主張するが,引用発明が自動車の模擬装置である以上,当業者は,技術
常識に従って,自動車に生ずるものとして意図した左右定常加速度よりも小さめの
左右定常加速度を生じさせることが前提とされているものと認識することは明らか
である。
()これに加えて,鉄道車両の模擬装置では被験者が運転操作を行うことがあ3
り得ないのに対し,上記1のとおり,引用発明の自動車の模擬装置では被験者が運
,,転操作を行うことが前提とされているなど引用発明と鉄道車両の模擬装置とでは
技術分野及び用途が全く異なる。また,鉄道車両の模擬装置の目的が乗心地の評価
であるのに対し,平成15年12月8日社団法人日本機械学会発行に係る「第10
回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集」所収の林哲也ほか2名による「車両運動
()」()総合シミュレータの開発加速度再現方法の検討と題する論文甲第29号証
Table1Ridingに示されている125頁左欄とおり自動車の模擬装置の目的は(),「
(乗車の雰囲気作り)であって,両者の間には,設計思想上決定的な差異がMood」
ある。
これらを併せ考えると,引用発明を鉄道車両の模擬装置に用いることは阻害され
ているというべきである。
()なお,審決が周知例として引用する国際公開第94/24652号パンフ4
レット(甲第3号証)には「乗り物模型」を「自動車の模型」にする場合と「列,
車の模型」にする場合との両方において「左右定常加速度」を「乗客の立場から,
的確に評価する」ため,車両(自動車又は列車)に生ずるものとして意図した「左
右定常加速度」を「コックピット装置」において忠実に再現することは示唆されて
おらず,したがって,同パンフレットによっても,引用発明を鉄道車両の模擬装置
に用いることが容易となるものではない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
()審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した「本願発明にお1
いては『ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加,
速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し』ているのに対して,引用刊行
物1には,この構成が記載されていない点」につき,まず,本願発明の上記構成を
「ロール付与手段によって発生させる加速度成分は,模擬客室の乗員が回転してい
ることを認識できない範囲内とすることを意味するとした上引用刊行物1のこ」,「
の方式を用いると,前述の様に定常円旋回中に生じる車両の横方向の加速度などの
長時間持続する加速度は,動揺台を所定の角度だけドライバに気付かれないように
」(),傾け保持することで模擬できる37頁左欄下から5~2行との記載によって
「模擬客室を前後軸回りに回転させ傾斜させることにより加速度成分を発生させる
場合には,模擬客室の乗員が回転していることを気付かない範囲で傾けることが示
唆されている」として,引用発明において,ロール付与手段によって発生させる加
速度成分を予め定める不感範囲内に設定することは,当業者であれば容易に想到し
得たものであると判断したが,誤りである。
,「」,()すなわち本願発明のロール付与手段によって発生させる加速度とは2
第1再現加速度のことであり,ロール回転の角度(模擬客室の傾斜角度)をθ,重
力加速度をgとすれば,第1再現加速度G1は,G1=g・θで表されることsin
になるから,本願発明の「ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転さ
せるときの角加速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し」との構成を,
審決のように,ロール付与手段によって発生させる加速度成分(第1再現加速度
G1=g・θ)を,模擬客室の乗員が回転していることを認識できない範囲内sin
とすることを意味すると解するとすれば,結局,ロール回転の角度θの大きさ自体
を,人間が回転していると認識できない範囲として予め定められた不感範囲内に設
定する制御を行うということに帰する。
しかしながら,本願発明の「ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回
転させるときの角加速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し」との構成
に係る「角加速度又は角速度」とは,ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回
りに回転させるときの角度θの変化(変化の度合い)を示すものであり,このよう
なロール回転角の変化(変化の度合い)を人間が回転していると認識できない範囲
として予め定められた不感範囲内に設定する制御を行うというのが上記構成の意味
内容であって,審決の上記認定は,誤りである。
()また,審決が,引用刊行物1の「この方式を用いると,前述の様に定常円3
旋回中に生ずる車両の横方向の加速度などの長時間持続する加速度は,動揺台を所
定の角度だけドライバに気付かれないように傾け保持することで模擬できる」と。
の記載によって示唆されているとした「模擬客室を前後軸回りに回転させ傾斜させ
ることにより加速度成分を発生させる場合には,模擬客室の乗員が回転しているこ
とを気付かない範囲で傾けることが示唆されている」との認定事項の意味内容は必
ずしも明確ではないが,審決は,引用刊行物1の上記記載のうち「動揺台を所定の
角度だけドライバに気付かれないように傾け」の部分のみに下線を施しており,こ
のことに照らして,審決が,当該下線部分のみを抽出して,その意味内容の認定判
断をするという誤った認定プロセスを経て引用刊行物1の記載事項の認定をしたこ
とが明らかである。そして,このように,正しい認定プロセスを経なかった以上,
審決は,引用刊行物1の記載事項の認定を誤ったものである。
()さらに,引用刊行物1の上記「この方式を用いると,前述の様に定常円旋4
回中に生ずる車両の横方向の加速度などの長時間持続する加速度は,動揺台を所定
の角度だけドライバに気付かれないように傾け保持することで模擬できる」との。
記載は,動揺台が傾いた状態で保持されていることをドライバに気付かれないよう
に,動揺台を所定の角度だけ傾いた状態に保持することで模擬できるという意味内
容である。したがって,本願発明の「ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回
りに回転させるときの角加速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し」と
の構成が,引用刊行物1の上記記載に基づいて,当業者に容易に想到し得るものと
いうことはできない。
なお,被告は,引用刊行物1の「しかし,この方式では・・・難しいとされてい
る(37頁左欄下から2行~右欄9行)との記載を挙げ,これを根拠として,ロ。」
ール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加速度又は角速
度を,乗員が回転を検知し違和感を感じない程度の小さな値(不感範囲内)に設定
することは,当業者であれば容易に想到し得たと主張するが,上記記載は,本願発
明の相違点2に係る構成の容易想到性に関する判断において,審決が根拠としたも
のではなく,審決前の拒絶理由通知や拒絶査定において根拠として挙げられたもの
でもないから,被告の上記主張に妥当性はない。
4取消事由4(相違点3についての判断の誤り)
()審決は,本願発明と引用発明との相違点3として認定した「本願発明にお1
いては『第1再現加速度を左右定常加速度の模擬に始めから使用すると共に,第,
1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を,第2再現加速度で補償すること
により左右定常加速度とし』ているのに対して,引用刊行物1には,この構成が記
載されていない点」につき,引用刊行物1及び引用刊行物2(甲第2号証)の記載
を挙げて「横方向加速度の模擬装置において,傾斜による加速度をメインとすれ,
ば,並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ることができること」及び
「傾斜による加速度では,長時間持続する加速度は模擬できるが,過渡的に発生す
る加速度の模擬は困難であること」が,それぞれ周知であるとし,かつ「加速度,
の内容に応じて,傾斜による加速度発生手段と並進運動による加速度発生手段とを
同時に動作させること」が引用刊行物1,2に記載され「傾斜による加速度をメ,
インとすること」が引用刊行物1に示唆されているとした上「装置の小型化,及,
び,長時間持続する加速度の模擬を主目的として,第1再現加速度(傾斜による加
速度)をメインとして,第1再現加速度を左右定常加速度の模擬に始めから使用す
ると共に第1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を第2再現加速度並,,(
進運動による加速度)で補償することにより左右定常加速度とするように構成する
ことは,当業者ならば適宜採用し得た」と判断したが,誤りである。
()すなわち,審決は,引用刊行物1の「3.3Benzの6軸モーション2
DS図7は,Benzの6軸モーションDSであり,従来のFSの技術をDSへ
応用したものである。この方式の6軸モーションベースは,回転運動のみならず,
わずかではあるが並進運動も可能であるので,前述のVWのDSに比較すると,長
時間持続する加速度はもちろんであるが,過渡的な加速度もある程度模擬できる。
レーンチェンジの開始時に車両に生じる横加速度のような過渡的な加速度は,6軸
モーションを並進運動させれば発生可能であるが,BenzのDSの場合,並進運
動の移動量が最大でも±1.5m程度であるため,車両の運動により発生する実際
の加速度(の大きさ)をそのまま100%模擬するのではなく,スケールファクタ
(1より小さい係数)によりスケールダウンして模擬しているものと思われる」。
38頁左欄14~28行審決の摘記事項イとの記載及び引用刊行物2の①(,),「
:横方向加速度の高周波成分(前後方向の運動の高周波成分も)は過渡的運動特性
の優れたリニアモータによる横運動としてシミュレーションされるので,シミュレ
ーション精度は高いものとなる。②:横方向加速度の低周波の変動成分はロール
角の変動に変換されるので,横方向の運動のストロークは短いものとなり,大きな
リニアモータは不要となる。横方向加速度の低周波の変動成分をロール角の変動に
変換しても,低周波故に十分に追従できる(6頁左下欄4~14行,審決の摘記。」
事項カ)との記載を挙げて「横方向加速度の模擬装置において,傾斜による加速,
度をメインとすれば,並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ることが
できること」が周知であるとする。
しかしながら,引用刊行物1の上記記載には,回転運動(傾斜)と並進運動とが
具体的にどのように組み合わされた制御が実行されるかについての示唆はないわ。「
ずかではあるが並進運動も可能」という特徴から,回転運動による加速度がメイン
となる制御が必ず実行されるとするのは,本願発明の相違点3に係る構成に基づく
知識を前提とした後知恵に基づくものであり,引用刊行物1の上記記載から,模擬
装置における「傾斜」と「並進運動」に関して把握できることは,単に,回転運動
と僅かではあるが並進運動が可能な模擬装置が存在するという,ハードウェア構成
に関することのみというべきである。
また「並進運動の移動量が最大でも±1.5m程度であるため・・・実際の加,
速度(の大きさ)を・・・スケールダウンして模擬しているものと思われる」との
記載が,並進運動によって生ずる加速度を実際の加速度と比較してスケールダウン
する制御を示唆しているとしても,この場合に,回転運動(傾斜)による加速度が
スケールダウンされるのか,されないのかについては記載がないから,傾斜による
加速度がメインとされるかどうかは明らかでなく,まして「傾斜による加速度を,
メインとすれば,並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ることができ
ること」が周知であると認定できるような記載ではない。
さらに,引用刊行物2の上記記載は,確かに,ロール角の変動(傾斜)による加
速度と横方向の運動(並進運動)による加速度との組合せによって,横方向加速度
の高周波成分と低周波の変動成分を模擬した場合には,横方向の運動(並進運動)
のストロークは短くなることを示してはいるが,ロール角の変動(傾斜)による加
速度と横方向の運動(並進運動)による加速度とのどちらをメインとするかについ
ては全く示唆しておらず,したがって,これに基づき「横方向加速度の模擬装置,
において,傾斜による加速度をメインとすれば,並進運動のストロークが減少し,
装置の小型化を図ることができること」が周知であると認定することはできない。
なお,被告は,佐藤健治ほか2名による「助手席同乗を想定したシミュレータモ
ーションの運動感覚」と題する論文(甲第18号証)の記載(104頁左欄19~
32行)を挙げて,傾斜による加速度をメインとすることが周知であるとも主張す
るが,上記論文は,本願発明の相違点3に係る構成の容易想到性に関する判断にお
いて,審決が根拠としたものではなく,審決前の拒絶理由通知や拒絶査定において
根拠として挙げられたものでもない上,当該記載は,傾斜による加速度と直線運動
による加速度とのいずれをメインにするかについての示唆を含むものではないか
ら,被告の上記主張に妥当性はない。
()加えて,相違点3に係る本願発明の構成は「第1再現加速度を左右定常加3,
速度の模擬に始めから使用すると共に,第1再現加速度では左右定常加速度に足り
ない分を,第2再現加速度で補償することにより左右定常加速度とし」ているもの
であって,左右定常加速度を,第1再現加速度(ロール回転による加速度)と第2
再現加速度(左右方向への並進運動による加速度)の両方を使用することによって
模擬するものである。すなわち,模擬されている加速度が左右定常加速度となって
いるときに,ロール回転による加速度と左右並進運動による加速度との両方を使用
する期間を含むように制御することが前提とされている(左右定常加速度の模擬を
している状態において,常に,ロール回転による加速度と左右並進運動による加速
度とが使用されていなければならないという意味ではない。。)
これに対し,引用刊行物2に「高周波追随の困難なロール方向の駆動部には,横
方向の運動の低周波成分のみが送られ(3頁左下欄1~2行「低周波域の定常」),
的な横加速度はシミュレータキャビンのロール方向の傾斜状態維持により模擬す
る(5頁右下欄1~3行)と記載されているとおり,引用刊行物2に記載された」
ドライビングシミュレータは,定常的に生ずる左右方向の加速度をロール回転によ
る加速度のみを用いて模擬するものであり,左右定常加速度を,ロール回転による
加速度と並進運動による加速度の両方を使用することによって模擬する本願発明の
上記構成を排除したものであるから,引用刊行物2の記載事項を根拠として,上記
相違点3に係る本願発明の構成が,当業者によって容易に想到し得たものであると
する審決の判断は,誤りである。
なお,被告は,本願明細書の「鉄道線路(軌道)のカーブは・・・至る部分であ
る。このようなカーブを鉄道車両が走行する際に発生する加速度の一例を図5に
示す。この図5は,模擬客室10の乗員が受ける加速度と時間との関係が上段に示
され,模擬客室10の移動速度と時間との関係が下段に示されている。図5上段に
示されるように,左右定常加速度α(一点鎖線)は,第1緩和曲線部91において
一定の割合で増加し,円曲線部92において所定値(等加速度)となる(発明の。」
詳細な説明段落【】~【)との記載を挙げて,本願発明にいう「左右定00210022】
常加速度」は,円曲線部92において生ずる等加速度だけではなく,第1緩和曲線
,(),部91第2緩和曲線部93において生ずる一定の割合で増加減少する加速度
即ち,大きさが変化する加速度も含まれると主張する。
しかしながら,平成16年5月25日財団法人日本規格協会発行の「JISハン
ドブック鉄道(甲第14号証)に「左右方向の定常加速度」の定義として記69」
載されているとおり,左右定常加速度とは「車両が曲線区間を通過する場合に円,
曲線部分で定常的に生じる左右方向の加速度の車体床面に平行な成分」をいうもの
であって,被告の上記主張は誤りである。被告が挙げる本願明細書の記載は,上記
左右定常加速度の定義を前提とすれば,一定加速度である左右定常加速度(本願明
細書の図5における時間t1以降に実現される)を模擬するために使用される第。
1再現加速度と第2再現加速度との合計加速度が,時間t1に至るまでは増加する
という意味内容であることが明らかである。
()そもそも,本願発明においては,装置構成の小型化を図るために,第1再4
現加速度(ロール回転による加速度)を用いて左右定常加速度を模擬するものであ
るが,上記3のとおり,模擬客室の乗員がロール回転角の変化に気付かないように
するため,相違点2に係る「ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転
させるときの角加速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し」という構成
としたことにより,第1再現加速度の上限値が定まってしまうため,第1再現加速
度では左右定常加速度に足りない分を,第2再現加速度で補償するという上記相違
点3に係る構成を採用したものである。
これに対し,引用刊行物1や引用刊行物2には,このような模擬客室の乗員がロ
ール回転角の変化に気付かないようにする目的と装置構成を小型化するという目的
とを両立させることは,全く示唆されていない。
本願発明の進歩性の判断は,このような相違点2に係る構成と相違点3に係る構
成との組合せが引用刊行物1,2に示唆されているか否かに基づいて行われるべき
であり,それを欠いている審決の判断は,誤りといわざるを得ない。
5取消事由5(相違点4についての判断の誤り)
()審決は,本願発明と引用発明との相違点4として認定した「本願発明にお1
いては『第2再現加速度がゼロになった時点で土台が左右いずれかの方向に移動,
している場合には,その土台が停止するように第2再現加速度を負の値に調整する
と共にそれに応じて第1再現加速度を調整する』のに対して,引用刊行物1には,
この構成が明記されていない点」につき,引用刊行物1の「図12,13に示すよ
うに,まず並進運動により,動き始めの過渡的な加速度を模擬する。そのまま動揺
台が並進運動を続ければ,DSの有効ストロークの限界を超してしまうので,並進
運動を徐々に止め,逆に次の運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立位
置へ戻す一方この運動を実施しつつ動揺台を所定の角度だけ傾け図12の(b)。,,
に示すように重力加速度の分力成分を利用して加速度を発生させる(40頁左欄。」
7~14行,審決の摘記事項エ)との記載に基づいて「第2再現加速度(並進運,
動による加速度)がゼロになった時点で土台が左右いずれかの方向に移動している
場合には,その土台が停止するように第2再現加速度を負の値に調整すると共にそ
(),れに応じて第1再現加速度傾斜による加速度を調整するように構成することは
当業者ならば容易に想到し得たものと認められる」と判断したが,誤りである。
()すなわち,引用刊行物1の上記記載は「並進運動を徐々に止め,逆に次の2,
運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立位置へ戻す」制御と「動揺台,
を所定の角度だけ傾け」るという制御が,同時並行で実行されるということが示唆
されているにすぎず「動揺台を所定の角度だけ傾け」るという制御の内容が「並,,
進運動を徐々に止め,逆に次の運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立
位置へ戻す」という制御の内容に応じて調整されるということは一切示唆されてい
ない。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
()のみならず,本願発明の構成では「第1再現加速度を左右定常加速度の模3,
,,擬に始めから使用すると共に第1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を
第2再現加速度で補償することにより左右定常加速度とし」ているものであって,
第1再現加速度(ロール回転による加速度)を最初から主に使用し,その足りない
分を第2再現加速度(左右方向への並進運動による加速度)を使用することによっ
て補うものである。これに対し,引用刊行物1の上記記載は,最初は並進運動によ
って加速度を模擬し,その後,並進運動を止めながら動揺台を所定の角度だけ傾け
ること(ロール回転運動)による模擬に切り替える制御を示すものであるから,本
願発明の構成と逆であり,これを排除したものである。
したがって,引用刊行物1の上記記載を根拠として,上記相違点4に係る本願発
明の構成が当業者によって容易に想到し得たものであるとする審決の判断は,誤り
である。
第4被告の反論の要点
1取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して
()原告は,引用刊行物1に示されているのは,被験者が運転操作を行うこと1
が前提とされたコックピット(運転席)であって,被験者が運転操作を行わないこ
とが前提とされた本願発明の「模擬客室」ではないから,審決が「乗り物の内装,
を模擬した模擬客室・・・を備えた点」を本願発明と引用発明との一致点と認定し
たことは誤りであると主張する。
しかしながら,引用刊行物1の図6(37頁)及び図7(38頁)には,自動車
の全体模型を備えたドライビングシミュレータが示されており,これらは運転席に
当たらない後部座席を有するものであるから,審決が「乗り物の内装を模擬した模
擬客室・・・を備えた点」を本願発明と引用発明との一致点と認定したことに誤り
はない。
()また,原告は,審決が引用した引用刊行物1の図13に「制御手段」に該2
当するハードウェアの存在を示唆する事項は一切開示されていないから審決が前,「
記ロール付与手段と前記左右移動手段を制御する制御手段とを備えた」点を本願発
明と引用発明との一致点と認定したことが誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,引用刊行物1の図13(40頁左欄)のみに基づいて,
引用発明が上記制御手段を備えると認定したものではなく,引用刊行物1に「前後
軸回りのロール回転手段を付与可能な手段」及び「左右並進運動させる手段」が記
載されていることを認定し,これを前提として,これらの手段が図13に示される
ような加速度を生ずるためには,そのような制御を行う制御手段を有することが明
らかであるとしたものである。
そして,引用刊行物1の「図8,9は,それぞれVTI・・・,マツダの横並進
タイプDSを示す。両者とともに,長時間持続する加速度と過渡的に発生する加速
度を,モーションシステムの回転運動と並進運動をうまく組み合わせて発生させる
ことを考慮しており38頁左欄下から4行~右欄1行審決の摘記事項ウ長」(,),「
時間持続する加速度は動揺台を所定の角度だけ傾けることで,過渡的な加速度は動
揺台の並進運動で模擬する方法について詳しく述べる・・・図12,13に示すよ
うに,まず並進運動により,動き始めの過渡的な加速度を模擬する。そのまま動揺
台が並進運動を続ければ,DSの有効ストロークの限界を超してしまうので,並進
運動を徐々に止め,逆に次の運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立位
置へ戻す一方この運動を実施しつつ動揺台を所定の角度だけ傾け図12の(b)。,,
に示すように重力加速度の分力成分を利用して加速度を発生させる(39頁右欄」
9行~40頁左欄14行,審決の摘記事項エ)等の記載,及び図8,9(38頁右
欄)の図示に照らして,引用刊行物1に「前後軸回りのロール回転手段を付与可能
な手段」及び「左右並進運動させる手段」が記載されていることが認められるとこ
ろ,そうであれば,これらの手段を制御する手段は必然の事項であり,審決が,引
用刊行物1につき「前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と前記左,
右並進運動させる手段とは,例えば図13に示されるような加速度を生ずるのであ
,,」,るからこれらを制御する制御手段を備えていることは明らかであるとした上
「前記ロール付与手段と前記左右移動手段を制御する制御手段とを備えた」点を本
願発明と引用発明との一致点と認定したことに,誤りはない。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対して
原告は,本願発明が,鉄道車両に生ずるものとして意図した(例えば,実際の)
左右定常加速度を忠実に再現することを当然の前提とするものであるのに対し,自
動車の運転状態を模擬するための模擬装置である引用発明においては,左右定常加
速度を模擬する際に,自動車に生ずるものとして意図した左右定常加速度よりも小
さめの左右定常加速度を生じさせることが前提とされているから,引用発明を,鉄
道車両の模擬装置に転用したとしても,鉄道車両に生ずるものとして意図した左右
定常加速度よりも小さめの「左右定常加速度」を生じさせる制御が実行されること
になって,左右定常加速度を忠実に再現することはできないのみならず,鉄道車両
の模擬装置では被験者が運転操作を行うことがあり得ないのに対し,引用発明の自
動車の模擬装置では被験者が運転操作を行うことが前提とされているなど,引用発
明と鉄道車両の模擬装置とでは,技術分野及び用途が全く異なるから,引用発明を
鉄道車両の模擬装置に用いることは阻害されていると主張する。
しかしながら,本願明細書に,鉄道車両の具体的な構成や鉄道における左右定常
加速度の模擬に関連する特有の構成が記載されているわけではない。加えて,引用
刊行物1には,左右定常加速度を模擬する際に,自動車に生ずるものとして意図し
た左右定常加速度よりも小さめの左右定常加速度を生じさせるとの記載はないか
ら,引用発明の模擬装置を転用しても,鉄道車両に生ずるものとして意図した左右
定常加速度より小さめの「左右定常加速度」を生じさせる制御が実行される事態は
そもそも生じない。仮に,自動車の模擬装置では,自動車に生ずるものとして意図
した左右定常加速度よりも小さめの左右定常加速度を生じさせることが知られてい
るとしても,ドライビング・シミュレータは,対象とする車両における「感覚」を
忠実に模擬するものであるから,模擬する加速度の大きさは,対象とする車両に応
じて,当該車両における感覚を忠実に模擬するよう,当業者が適宜選択する事項で
ある。また,引用刊行物1に運転席に当たらない座席を有するドライビングシミュ
レータが示されていることは,上記1のとおりである。したがって,引用発明を鉄
道車両の模擬装置に用いることについて,原告主張の阻害要因は存在しない。
そして,平成5年5月10日財団法人鉄道総合技術研究所発行に係る同研究所編
「在来鉄道運転速度向上試験マニュアル・解説」と題する刊行物(甲第15号証)
に「車両が曲線区間を・・・カント均衡速度以上の速度で通過すると,円曲線部,
分では左右方向の定常加速度と,緩和曲線部分では時間的に変化する左右方向の加
速度を受ける。これらにより,曲線通過中の乗心地に影響を受けるため,車体の左
右方向振動の振動加速度や車体ローリング角度・角速度などを測定し,曲線通過時
の乗心地を確認する(45頁3~9行「旧国鉄では,鉄道技術研究所が中心。」),
となって振動台を使った実験や現車による試験を行い(42頁18~19行)と」
の記載があり,また,本願明細書に「従来の技術」として「実験用列車に頼らず,
乗心地を模擬する装置としては,上下軸,左右軸,前後軸の振動にロール軸(前後
軸回りの回転運動を加えた4軸の簡単な振動台による模擬装置が知られている例)(
えば人間工学第33巻第113~116頁(1997年)参照(発明の詳細な説)」
明段落【)と記載されているように,鉄道車両においてカーブを走行する際0004】
の乗心地を確認すること,また,現車(実際の車両)ではなく模擬装置(シミュレ
ータ)を用いて鉄道の乗心地の試験を行うことは,いずれも周知の事項である。他
方,引用発明は「自動車のドライビングシミュレータ」であるが,自動車の具体,
的な構成や,自動車における左右定常加速度の模擬に関連する特有の構成を有する
ものではないから,乗り物あるいは車両がカーブを走行する際の左右方向の加速度
を模擬する装置として捉えられるものである。加えて,国際公開第94/2465
2号パンフレット(甲第3号証)には,単なるゲーム機のみでなく,シミュレーシ
ョンシステムについて記載されており,また,乗り物の運転のシミュレータを自動
車だけでなく鉄道車両に用いることが記載され,自動車のシミュレータを鉄道車両
のシミュレータにも用い得ることが示されている。
そうすると,引用発明を鉄道車両に用いることは当業者であれば容易に想到し得
たものであり,相違点1についての審決の判断に,誤りはない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対して
()原告は,審決が相違点2についての判断において,本願発明の「ロール付1
与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加速度又は角速度を,
予め定める不感範囲内に設定し」との構成につき「ロール付与手段によって発生,
させる加速度成分は,模擬客室の乗員が回転していることを認識できない範囲内と
することを意味する」と説示したことを捉えて,審決が,上記構成を「ロール回転
の角度の大きさ自体を,人間が回転していると認識できない範囲として予め定めら
れた不感範囲内に設定する制御を行う」という意味に認定したと主張した上,上記
構成の意味内容は,ロール回転角の変化(変化の度合い)を人間が回転していると
認識できない範囲として予め定められた不感範囲内に設定する制御を行うというこ
とであるから,審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,上記構成の意味内容を,原告主張のように認定したもの
ではない。すなわち,本願明細書には「ここでいう『不感範囲』とは,人間が回,
転していると認識できない範囲を意味し,予め経験的に定めておけばよい(発明。」
の詳細な説明段落【)と,模擬客室が回転していることを記載しており,こ0010】
の場合には,乗員は,第1再現加速度に基づく力と模擬客室の回転による加速度に
基づく力とを区別できずに感ずるから,審決は,その合計加速度を考えて「ロール
付与手段によって発生させる加速度成分は,模擬客室の乗員が回転していることを
認識できない範囲内とすることを意味する」と説示したものであり,これは,ロー
ル付与手段による模擬客室の前後軸回りの回転は,模擬客室の乗員が回転している
ことを認識できない範囲内とするとの意味である。したがって,原告の主張は,そ
の前提を欠くものであり,審決の認定判断に,誤りはない。
()また,原告は,審決が相違点2についての判断において,引用刊行物1の2
「この方式を用いると,前述の様に定常円旋回中に生ずる車両の横方向の加速度な
どの長時間持続する加速度は,動揺台を所定の角度だけドライバに気付かれないよ
うに傾け保持することで模擬できる(37頁左欄下から5~2行)との記載を引」
用するに当たり「動揺台を所定の角度だけドライバに気付かれないように傾け」,
の部分に下線を施したことを捉えて,審決が,当該下線部分のみを抽出して,その
意味内容の認定判断をするという誤った認定プロセスを経て引用刊行物1の記載事
,,,項の認定をしたと主張するが審決は注目すべき部分に下線を付記したにすぎず
,。認定自体に誤りがあれば格別認定プロセスや認定手続に誤りがあるものではない
()さらに,原告は,引用刊行物1の上記「動揺台を所定の角度だけドライバ3
に気付かれないように傾け保持することで模擬できる」との記載が,動揺台(模擬
客室)が傾いた状態で保持されていることをドライバに気付かれないように,動揺
台を所定の角度だけ傾いた状態に保持することで模擬できるという意味内容である
と主張するが,上記記載は,動揺台を所定の角度だけ傾けるという動作を,ドライ
バに気付かれないように行うという意味に解されるから,原告の上記主張は,誤り
である。
仮に,上記記載が,原告主張のように,傾いた状態で保持されていることをドラ
イバに気付かれないように動揺台を所定の角度だけ傾いた状態に保持することで模
擬できるという意味であったとしても,当業者であれば,引用刊行物1から,本願
発明の相違点2に係る構成を想到することは容易である。すなわち,引用刊行物1
には,上記記載に続いて「しかし,この方式では,例えばレーンチェンジ開始時に
生ずる急激に立ち上がる横加速度,換言すれば過渡的に発生する加速度はうまく模
。,,擬できない何故ならばジンバル方式では動揺台は回転運動しかできないために
過渡的な加速度を発生させるには急激に動揺台を回転させ,過渡的に傾斜角を変化
させる必要がある。このため,ドライバは回転運動を検知し,車両の運動とは異な
る体感として異和感を唱えるおそれがあるからである。一般的には,ジンバル方式
のDSでは,過渡的な運動を模擬するのは難しいとされている(37頁左欄下か。」
,),,ら2行~右欄9行審決の摘記事項アとの記載があり動揺台を急激に回転させ
過渡的に傾斜角を変化させると,乗員が回転運動を検知し違和感を感じることが示
唆されているところ,ここでいう動揺台を急激に回転させ,過渡的に傾斜角を変化
させるとは,模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加速度又は角速度を大き
くすることに当たるから,ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転さ
せるときの角加速度又は角速度を,乗員が回転を検知し違和感を感じない程度の小
さな値(不感範囲内)に設定することは,当業者であれば容易に想到し得たものと
いうべきである。
4取消事由4(相違点3についての判断の誤り)に対して
()原告は,審決が引用する引用刊行物1の「3.3Benzの6軸モーシ1
ョンDS図7は,Benzの6軸モーションDSであり,従来のFSの技術をD
Sへ応用したものである。この方式の6軸モーションベースは,回転運動のみなら
,,,ずわずかではあるが並進運動も可能であるので前述のVWのDSに比較すると
,。長時間持続する加速度はもちろんであるが過渡的な加速度もある程度模擬できる
レーンチェンジの開始時に車両に生じる横加速度のような過渡的な加速度は,6軸
モーションを並進運動させれば発生可能であるが,BenzのDSの場合,並進運
動の移動量が最大でも±1.5m程度であるため,車両の運動により発生する実際
の加速度(の大きさ)をそのまま100%模擬するのではなく,スケールファクタ
(1より小さい係数)によりスケールダウンして模擬しているものと思われる」。
との記載(38頁左欄14~28行,審決の摘記事項イ)は,傾斜による加速度が
メインとされるかどうか明らかでなく,まして「傾斜による加速度をメインとす,
れば,並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ることができること」が
周知であると認定できるような記載ではないし,引用刊行物2の「①:横方向加速
度の高周波成分(前後方向の運動の高周波成分も)は過渡的運動特性の優れたリニ
アモータによる横運動としてシミュレーションされるので,シミュレーション精度
は高いものとなる。②:横方向加速度の低周波の変動成分はロール角の変動に変
換されるので,横方向の運動のストロークは短いものとなり,大きなリニアモータ
は不要となる。横方向加速度の低周波の変動成分をロール角の変動に変換しても,
低周波故に十分に追従できる(6頁左下欄4~14行,審決の摘記事項カ)との。」
記載も,ロール角の変動(傾斜)による加速度と横方向の運動(並進運動)による
加速度とのどちらをメインとするかについては全く示唆していないから,これに基
づき「横方向加速度の模擬装置において,傾斜による加速度をメインとすれば,,
並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ることができること」が周知で
あると認定することはできないと主張する。
,,しかしながら引用刊行物1の上記記載に係るBenzの6軸モーションDSは
回転運動(傾斜)による加速度と並進運動による加速度を加え合わせて必要な加速
度を模擬するものであり並進運動による加速度はわずかであるから回転運動傾,,(
)。,,斜による加速度がメインとなることは明らかであるそして引用刊行物1には
上記記載に引き続いて,並進運動のストロークが±3mであるVTIのDSや,±
3.6mであるマツダのDSのように,ストロークの長いシステムが記載されてお
り,これらの記載によれば,Benzの6軸モーションDSは,並進運動のストロ
ークが短いものであり,装置の小型化が図れることは自明の事項である。また,引
用刊行物2の上記記載②は,回転運動(傾斜)による加速度を加え合わせることに
より,並進運動のストロークが減少し,装置が小型化することを示しているのであ
り,回転運動(傾斜)による加速度をメインとすれば,装置がより小型化すること
は明らかである(もっとも,審決は「傾斜による加速度をメインとすることも,,
上記摘記事項イ.に示唆されている」と説示しているとおり,引用刊行物2の上記
記載(摘記事項カ)に,傾斜による加速度をメインとすることが示されているとま
で認定したものではない。したがって,審決が,引用刊行物1,2の上記各記載。)
を根拠として「横方向加速度の模擬装置において,傾斜による加速度をメインと,
すれば,並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ることができること」
が周知であると認定したことに誤りはない。
なお,傾斜による加速度をメインとすることが周知であることは,上記佐藤健治
ほか2名による「助手席同乗を想定したシミュレータモーションの運動感覚」と題
する論文(甲第18号証)に「横方向または前後方向の加速度を動揺範囲に制限,
のあるモーションシステムで模擬するためには,古くから知られている重力加速度
を利用する方法,すなわち次式で表されるように,キャビンの傾斜により重力加速
度の成分が乗員の横方向または前後方向に作用することを利用する必要がある・。
・・しかしながら,この方法ではキャビンに角運動を与えて傾斜させるため,目標
の傾斜角に達するまである一定の時間を要することになり,過渡的な加速度模擬が
不足する。このため,図2に示すようにキャビンに直線運動を与えて過渡的な加速
度を模擬し,これを重畳させる方法とした(104頁左欄19~32行)との記。」
載にも,示唆されている。
()また,原告は,引用刊行物2の「高周波追随の困難なロール方向の駆動部2
には,横方向の運動の低周波成分のみが送られ(3頁左下欄1~2行「低周波」),
域の定常的な横加速度はシミュレータキャビンのロール方向の傾斜状態維持により
模擬する(5頁右下欄1~3行)との記載を根拠として,引用刊行物2に記載さ」
れたドライビングシミュレータは,定常的に生ずる左右方向の加速度をロール回転
による加速度のみを用いて模擬するものであるとした上,左右定常加速度を,ロー
ル回転による加速度と並進運動による加速度の両方を使用することによって模擬す
る本願発明の上記構成を排除したものであるから,引用刊行物2の記載事項を根拠
として,相違点3に係る本願発明の構成が,当業者によって容易に想到し得たもの
であるとする審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,審決は,引用刊行物2に記載された発明自体を適用することによ
り,相違点3に係る本願発明の構成を採用することが容易であるとしたものではな
く,単に周知事項を示す一例として,引用刊行物2を示したものである。のみなら
ず,本願明細書の「鉄道線路(軌道)のカーブは,図4に示すように,第1緩和曲
線部91,円曲線部92,第2緩和曲線部93で構成されている。第1緩和曲線部
91は,線路のうち直線部90から円曲線部92に至るまでの間において徐々に曲
率半径が小さくなり,最終的に円曲線部92の曲率半径に至る部分である。円曲線
部92は,線路のうち一定の曲率半径を持つ部分である。第2緩和曲線部93は,
線路のうち円曲線部92から直線部94に至るまでの間において徐々に曲率半径が
大きくなり,最終的には直線部94に至る部分である。このようなカーブを鉄道
車両が走行する際に発生する加速度の一例を図5に示す。この図5は,模擬客室1
0の乗員が受ける加速度と時間との関係が上段に示され,模擬客室10の移動速度
と時間との関係が下段に示されている。図5上段に示されるように,左右定常加速
度α(一点鎖線)は,第1緩和曲線部91において一定の割合で増加し,円曲線部
()。」(【】【】)92において所定値等加速度となる発明の詳細な説明段落~00210022
との記載に照らして,本願発明にいう「左右定常加速度」は,円曲線部92におい
て生ずる等加速度だけではなく,第1緩和曲線部91,第2緩和曲線部93におい
て生ずる一定の割合で増加(減少)する加速度,すなわち,大きさが変化する加速
度も含まれるものである。そして,引用刊行物2記載のドライビングシミュレータ
は,横方向加速度の高周波成分(大きさが急激に変化する加速度)をリニアモータ
に加えて並進運動による加速度(第2再現加速度)で模擬するとともに,低周波成
分をロール回転による加速度(第1再現加速度)で模擬することが示されているか
ら,本願発明でいう左右定常加速度を,ロール回転による加速度と左右方向への並
進運動による加速度との両方を用いて模擬することが示唆されているということが
できる。したがって,引用刊行物2に記載されたドライビングシミュレータが,本
願発明の構成を排除したものとする原告の上記主張は失当である。
()原告は,さらに,本願発明においては,模擬客室の乗員がロール回転角の3
変化に気付かないようにするため,相違点2に係る構成とし,これによって第1再
現加速度の上限値が定まってしまうため,第1再現加速度では左右定常加速度に足
りない分を,第2再現加速度で補償するとともに,装置の小型化を図るという目的
により相違点3に係る構成を採用したものであり,本願発明の進歩性の判断は,こ
のような相違点2に係る構成と相違点3に係る構成との組合せが引用刊行物1,2
に示唆されているか否かに基づいて行われるべきであると主張する。
しかしながら,原告主張のとおり,相違点2に係る構成の目的と相違点3に係る
構成の目的とは異なるのであるから,審決において,相違点2の容易想到性と相違
点3の容易想到性とをそれぞれ分けて判断したことに誤りはない。
5取消事由5(相違点4についての判断の誤り)に対して
()原告は,引用刊行物1の「図12,13に示すように,まず並進運動によ1
,。,り動き始めの過渡的な加速度を模擬するそのまま動揺台が並進運動を続ければ
DSの有効ストロークの限界を超してしまうので,並進運動を徐々に止め,逆に次
の運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立位置へ戻す。一方,この運動
を実施しつつ動揺台を所定の角度だけ傾け,図12の(b)に示すように重力加速度
の分力成分を利用して加速度を発生させる(40頁左欄7~14行,審決の摘記。」
事項エ)との記載には「動揺台を所定の角度だけ傾け」るという制御の内容が,,
「並進運動を徐々に止め,逆に次の運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の
中立位置へ戻す」という制御の内容に応じて調整されるということが示唆されてい
ないと主張する。
,,「」,しかしながら引用刊行物1の上記記載においてこの運動との文言中には
その直前の「並進運動を徐々に止め」ることが含まれているのであるから,引用刊
行物1には,並進運動を徐々に止める動作と,動揺台を所定の角度だけ傾け,重力
加速度の分力成分を利用して加速度を発生させる動作とが対応して行われることが
記載されている。そして,並進運動を徐々に止めるためには,並進運動による加速
度を負の値にする必要があるところ引用刊行物1に上記記載に引き続いてド,,,「
ライバは,シミュレータドームという真っ黒な密室内のスクリーン上の画像のみが
視覚情報として与えられているため,モーションシステムにより与えられた加速度
がどのような方法により与えられたかはほとんど気付かず,並進と回転の二つの運
動から生じる合成された加速度を体験として感じる(40頁左欄14~19頁,。」
審決の摘記事項エ)と記載されているとおり,引用発明は,並進運動による加速度
成分と傾斜による加速度成分とを加え合わせて実際の加速度を模擬するための必要
な加速度を得ているのであるから,加速度を忠実に模擬するためには,並進運動を
止めるために並進運動による加速度を負の値にした場合には,傾斜による加速度成
分でこれを補う必要があることは明らかである。
したがって,審決が「第2再現加速度(並進運動による加速度)がゼロになっ,
た時点で土台が左右いずれかの方向に移動している場合には,その土台が停止する
ように第2再現加速度を負の値に調整すると共にそれに応じて第1再現加速度(傾
斜による加速度)を調整するように構成することは,当業者ならば容易に想到し得
たものと認められる」と判断したことに,誤りはない。
()また,原告は,本願発明の構成では,第1再現加速度(ロール回転による2
加速度)を最初から主に使用し,その足りない分を第2再現加速度(左右方向への
並進運動による加速度)を使用することによって補うものであるのに対し,引用刊
行物1の上記記載は,最初は並進運動によって加速度を模擬し,その後,並進運動
を止めながら動揺台を所定の角度だけ傾けること(ロール回転運動)による模擬に
切り替える制御を示すものであるから,本願発明の構成と逆であって,これを排除
したものであると主張する。
しかしながら,引用刊行物1に,上記のとおり「まず並進運動により,動き始め
の過渡的な加速度を模擬する」との記載があるとおり,引用発明は,ロール回転。
運動による模擬が困難である,過渡的な加速度は並進運動により模擬するというも
のであって,動き始めには,ロール回転運動を全く行わないというものではないか
ら,引用刊行物1が,本願発明の構成を排除したということはできない。のみなら
ず,この点についての本願発明の構成は,上記相違点3に係るものであるところ,
相違点3に係る構成と相違点4に係る構成とは不可分といえるものではなく,分離
して判断し得るものであるから,引用刊行物1が本願発明の相違点3に係る構成を
排除するということを理由として,相違点4についての判断の誤りを主張すること
自体失当である。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(一致点の認定の誤り)について
()原告は,引用刊行物1に示されているのは,被験者が運転操作を行うこと1
が前提とされたコックピット(運転席)であって,被験者が運転操作を行わないこ
とが前提とされた本願発明の「模擬客室」ではないから,審決が「乗り物の内装,
を模擬した模擬客室・・・を備えた」点を本願発明と引用発明との一致点と認定し
たことは誤りであると主張する。
確かに,引用刊行物1の「ドライビングシミュレータ・・・は,室内の制限さ,
れたスペースで,ドライバに車両の走行感覚,運転感覚を違和感なく体験させるこ
とが可能な『運転感覚模擬』装置である(34頁左欄2~5行「ホストコン。」),
ピュータは,ドライバの操縦動作に応じて(具体的には,ステアリングホイールの
回転角度信号やアクセル,ブレーキペダルの信号とかを入力にして,あらかじめ)
設定されている車両の運動方程式を解く(35頁右欄4~8行)等の記載に鑑み。」
て,自動車の模擬装置である引用発明が被験者として想定しているのはその運転者
であり,被験者が運転操作を行うことが前提とされているものと認められるのに対
し,本願発明は「模擬客室の乗員」を被験者とする「鉄道」の左右定常加速度模,
擬装置であるから(本願発明の要旨参照,被験者が運転操作を行わないことが前)
提とされているものと認められ,したがって,引用発明の「模擬客室」と本願発明
の「模擬客室」とは,その各乗員が運転操作を行うものとされているか否かという
点において相違することは,原告主張のとおりである。
しかしながら,引用発明の「模擬客室」の乗員と本願発明の「模擬客室」の乗員
とは,いずれも乗り物の左右定常加速度模擬装置の被験者であるという点では共通
であり(左右定常加速度を模擬する際に,自動車の模擬装置においては,鉄道の模
擬装置と異なり,自動車に生じるものとして意図した左右定常加速度よりも小さめ
の左右定常加速度を生じさせるとの原告の主張については,取消事由2についての
。),,判断において検討する当該被験者が運転操作を行うものとされているか否かは
,,。結局当該乗り物が自動車であるか鉄道車両であるかによって定まるものである
そして,審決は「乗り物の左右定常加速度模擬装置」である点を本願発明と引用,
発明との一致点として「加速度模擬装置の対象が,本願発明では『鉄道車両』で,
あるのに対して,引用刊行物1記載の発明が『自動車』である点」を相違点1とし
て,それぞれ認定したのであるから,各模擬客室の乗員については,上記共通する
限度において一致点とし,各乗員が運転操作を行うものとされているか否かは,上
記相違点1に含まれるものとして認定をしたものと解することができ,この点につ
いての審決の認定に,誤りはない。
()原告は,また,引用刊行物1には「制御手段」に該当するハードウェアの2,
存在を示唆する事項は一切開示されていないから,審決が,引用発明である自動車
のドライビングシミュレータが「前記前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手
段と前記左右並進運動させる手段を制御する手段」を備えると認定した上「前記,
ロール付与手段と前記左右移動手段を制御する制御手段とを備えた」点を本願発明
と引用発明との一致点と認定したことは誤りであると主張する。
しかしながら引用刊行物1に4加速度模擬の基本的な考え方として前,「.」,「
章で述べた長時間持続する加速度は動揺台を所定の角度だけ傾けることで,過渡的
な加速度は動揺台の並進運動で模擬する方法について詳しく述べる。この手法は“
”と呼ばれている。図12は,上記の2種類の加速度発生方法を示す。WashOut
図13は,この2つの方法を組み合わせた典型的な技術による加速度波WashOut
形を示す。定常円旋回時や長い直線路での加速時に,車両に生じる長時間持続す
る加速度をDSで発生するには,理想的には同じストロークだけの直線並進運動を
実施する必要がある。しかし,どんな試験機にも性能限界があるように,現実には
DSは実験室内に設置された装置にすぎず,直線並進運動の稼働ストロークには限
界がある。そこで,図12,13に示すように,まず並進運動により,動き始めの
過渡的な加速度を模擬する。そのまま動揺台が並進運動を続ければ,DSの有効ス
トロークの限界を超してしまうので,並進運動を徐々に止め,逆に次の運動に備え
るためにゆっくりと動揺台を初期の中立位置へ戻す。一方,この運動を実施しつつ
動揺台を所定の角度だけ傾け,図12の(b)に示すように重力加速度の分力成分を
利用して加速度を発生させる。ドライバは,シミュレータドームという真っ黒な密
室内のスクリーン上の画像のみが視覚情報として与えられているため,モーション
システムにより与えられた加速度がどのような方法により与えられたかはほとんど
気付かず,並進と回転の二つの運動から生じる合成された加速度を体験として感じ
る(39頁右欄8行~40頁左欄19行)との記載があり,この記載及び図13。」
(40頁左欄)によれば,引用発明において,加速度模擬を行うに当たり,まず動
揺台に並進運動を行わせ,次いで並進運動を徐々に止めながら,動揺台を所定の角
度だけ傾ける回転運動を行わせて,この並進運動と回転運動の組合せ(並進運動に
より生ずる加速度と回転運動により生ずる加速度との合成加速度)として,図13
に示された所期の加速度波形を得ることが開示されているということができる。そ
して,このことは,逆に,所期の加速度波形を得るためには,並進運動による加速
度と回転運動による加速度とを図13のとおり生じさせること,ひいては並進運動
と回転運動とをそれぞれそのような加速度が生ずるように制御することが必要であ
ることを意味するものであり,そうであれば,引用刊行物1に明示されていなくと
も,引用発明が,並進運動と回転運動との各運動付与手段を制御する制御手段を備
えていることは明らかである。
なお,本願発明の制御手段は,本願発明の要旨において「前記ロール付与手段と
前記左右移動手段を制御する制御手段「制御手段は,前記ロール付与手段によっ」,
て前記模擬客室を前後軸回りに回転させ傾斜させることにより重力加速度のうち傾
斜面に沿った分力である第1再現加速度を前記模擬客室の乗員に発生させると共
に,前記左右移動手段によって前記土台を左右いずれかの方向に加速度運動させる
ことにより第2再現加速度を前記模擬客室の乗員に発生させ」とのみ規定され,ま
た,本願明細書の発明の詳細な説明においては「制御装置60」として「駆動装,
置50は,各アクチュエータ40を駆動するための装置であり,図示しない油圧ポ
ンプにより発生する油圧をアクチュエータ40に供給する装置である。制御装置6
0(本発明の制御手段に相当)は,駆動装置50の油圧ポンプより発生する油圧を
各アクチュエータ40が必要とする圧力,流量になるように駆動装置50を制御し
て各アクチュエータ40を作動させる。これにより,客室載置台20上の模擬客室
10に対して上下軸,左右軸,前後軸,ヨー軸(上下軸回りの回転運動,ピッチ)
軸(前後軸回りの回転運動(判決注:左右軸回りの回転運動」の誤記と認められ)「
る,ロール軸(前後軸回りの回転運動)の6軸の低周波域の動揺又は振動が付与。)
される。また,制御装置60は,左右移動装置32を制御して,模擬客室10と一
体化された土台30を任意の加速度で移動させる(段落【)と記載され,。」】0018
図面(図1)上,単なる直方体で描かれているだけであるから,駆動装置に所定の
動作を行わせる周知の制御装置にすぎず,上記のとおり,引用発明が備えていると
認められる制御手段と比較して,格別のものということはできない。
したがって,引用発明が,前後軸回りのロール回転運動を付与可能な手段と左右
並進運動させる手段を制御する手段を備えるとした審決の認定に誤りはない。
()上記(),()のとおり,本願発明と引用発明との一致点に関する審決の認312
定に,原告主張の誤りはない。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
()原告は,本願発明が,鉄道車両に生ずるものとして意図した「左右定常加1
速度」を当該模擬装置において忠実に再現することを当然の前提とするものである
のに対し,引用発明のような自動車の運転状態を模擬するための模擬装置において
は,左右定常加速度を模擬する際に,自動車に生ずるものとして意図した左右定常
加速度よりも小さめの左右定常加速度を生じさせることが技術常識であるから,引
用発明を鉄道車両の模擬装置に転用したとしても,鉄道車両に生ずるものとして意
図した「左右定常加速度」よりも小さめの「左右定常加速度」を生じさせる制御が
実行されることになって「左右定常加速度」を当該模擬装置において忠実に再現,
することはできないと主張する。そして,平成7年7月15日社団法人自動車技術
会発行に係る「自動車技術会論文集」第26巻6号所収の佐藤健治ほか2名による
「助手席同乗を想定したシミュレータモーションの運動感覚」と題する論文(甲第
18号証)には「横加速度の模擬は,50%~60%程度の大きさで行うと実車に
近く違和感が少ない運動感覚になると考えられる(107頁左欄12~13行)」
との記載が,また,平成10年6月1日財団法人日本自動車研究所発行に係る「自
動車研究」第20巻6号所収の佐藤健治ほか2名による「ドライビング・シミュレ
ータの模擬精度と運転感覚の調査」と題する論文(甲第19号証)には「実車と同
じ大きさの加速度よりむしろ小さめに模擬するほうが実車に近い運動感覚が得られ
る(43頁左欄2~4行)との記載があり,これらの記載によれば,自動車の模」
擬装置においては,自動車に生ずるものとして意図した左右定常加速度よりも小さ
めの左右定常加速度を生じさせることがよく知られていた事実を認めることができ
る。
,,,しかしながら乗り物の加速度の模擬装置において模擬する加速度の大きさを
,,実際の大きさを基準としてどの程度のものとするかは当業者において適宜選択し
設定すべき事項であり,このことは,上記の「助手席同乗を想定したシミュレータ
モーションの運動感覚」と題する論文及び「ドライビング・シミュレータの模擬精
度と運転感覚の調査」と題する論文に,それぞれ加速度の模擬実験をする際に,ス
ケールファクタを,実際に近い大きさ(0.9)を含む5水準に設定することが記
載されている(甲第18号証105頁右欄下から6~4行,甲第19号証36頁右
欄23~27行)ことからも裏付けられる。したがって「鉄道の左右定常加速度,
模擬装置」において,鉄道車両に生ずるものとして意図した「左右定常加速度」を
忠実に再現することが必要であるとすれば,引用発明を鉄道車両の模擬装置として
用いる場合に,再現する加速度をそのように調節することは,当業者として当然の
ことというべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
()また,原告は,鉄道車両の模擬装置では被験者が運転操作を行うことがあ2
り得ないのに対し,引用発明の自動車の模擬装置では被験者が運転操作を行うこと
が前提とされているなど,引用発明と鉄道車両の模擬装置とでは技術分野及び用途
が全く異なるとか,鉄道車両の模擬装置の目的が乗心地の評価であるのに対し,自
動車の模擬装置の目的は「(乗車の雰囲気作り)であって,両者の間RidingMood」
には設計思想上決定的な差異があるとして,引用発明を鉄道車両の模擬装置に用い
ることは阻害されていると主張する。
しかしながら,自動車の模擬装置を鉄道の模擬装置に用いることについては,技
術分野,発明の課題・目的等において共通性が極めて高く,容易想到性を優に肯認
することができるのであるから,引用発明が被験者として想定しているのはその運
転者であり,被験者が運転操作を行うことが前提とされているのに対し,本願発明
の被験者は運転操作を行わないことが前提とされているからといって,容易想到性
が覆されるものではない。
すなわち,国際公開第94/24652号パンフレット(甲第3号証)には,乗
り物模型を備えた乗り物の運転のシミュレーションシステムの発明(37頁2行~
38頁2行,請求項1)並びに当該乗り物を自動車とすること(9頁1行~36頁
17行,最良実施例)及び当該乗り物を列車とすること(42頁11~15行,請
求項14)が記載されており,また,上記実施例に関し「本実施例のシミュレーシ
ョンシステムは,ゲーム機としてのみならず,運転,操縦の練習に用いることがで
きる(36頁1~3行)との記載がある。これらの記載によれば,引用発明のよ。」
うな自動車の模擬装置を本願発明のような鉄道車両の模擬装置に用いることの可能
性は,当業者であれば,当然に検討するものと認められる。原告は,上記国際公開
第94/24652号パンフレットにつき,車両(自動車又は列車)に生ずるもの
として意図した「左右定常加速度」を「コックピット装置」において忠実に再現す
ることは示唆されておらず,同パンフレットによって,引用発明を鉄道車両の模擬
,,装置に用いることが容易となるものではないと主張するところ同パンフレットに
車両(自動車又は列車)に生ずるものとして意図した「左右定常加速度」を「コッ
クピット装置」において忠実に再現することの示唆がないことは原告主張のとおり
であるが,上記のとおり,自動車の模擬装置を鉄道車両の模擬装置に用いることが
当業者にとって容易であるとすれば,鉄道の左右定常加速度模擬装置を設計する際
に,同様の自動車の加速度模擬装置の転用を図ることを困難とする理由は見当たら
ない。
また,平成15年12月8日社団法人日本機械学会発行に係る「第10回鉄道技
術連合シンポジウム講演論文集」所収の林哲也ほか2名による「車両運動総合シミ
ュレータの開発(加速度再現方法の検討」と題する論文(甲第29号証)には,)
,(),「」原告主張のとおり自動車の模擬装置の目的としてUseofMotionRidingMood
(),乗車の雰囲気作りとの記載があること(125頁左欄)が認められるがTable1
同論文中には「本稿で紹介する『車両運動総合シミュレータ』は,ドライビングシ
ミュレータ等で培われた動揺生成機構を利用しつつも,鉄道車両の乗心地評価を行
うという装置の目的に関する部分で性格が異なるため,その設計思想の違いによる
相違点がいくつか存在する(125頁左欄6~10行「次章以降では,本装。」),
置の設計思想からハードウェア構成,加速度再現手法について述べる(125頁。」
左欄19~20行)との各記載があり,これらの各記載に照らすと,自動車の加速
度模擬装置と鉄道の加速度模擬装置との間には,設計思想上相違する点があるとの
指摘のあることが認められるものの,自動車の加速度模擬装置を鉄道の加速度模擬
装置に用いることについて容易想到性を覆すに足りるものではないことは明らかで
ある。
なお,被験者が運転操作を行う自動車の加速度模擬装置においては,引用刊行物
1に「ホストコンピュータは,ドライバの操縦動作に応じて(具体的には,ステア
リングホイールの回転角度信号やアクセル,ブレーキペダルの信号とかを入力にし
),。」()てあらかじめ設定されている車両の運動方程式を解く35頁右欄4~8行
との記載があるように,被験者の運転操作に従って制御手段に信号が入力され,こ
れに応じた制御により加速度の模擬がなされるのに対し,被験者が運転操作を行わ
ない鉄道車両の加速度模擬装置においては,被験者から信号の入力がなされること
はないから,加速度の模擬を制御するための制御手段に対する信号入力が被験者以
外から行われることを考慮する必要が生ずるものと認められる。
しかしながら,そのこと自体は自明のことであって,自動車の加速度模擬装置を
鉄道車両の加速度模擬装置に用いる場合に,当業者が当然考慮すべき事項である。
もっとも,本願発明においては,発明の要旨に,加速度の模擬を制御するための制
御手段に対する信号入力がどのようになされるかという点や,後に検討する取消事
由3,5に係る構成のほかには,加速度の模擬の制御の内容について,特段の規定
はない(例えば,引用刊行物1には,引用発明における過渡的な加速度を模擬する
ために並進運動を開始した動揺台が,動揺台の傾斜動作(この動作の技術的意義等
については後に検討する)とともに並進運動を徐々に止め,逆に次の運動に備え。
()てゆっくりと初期の中立位置に戻ることが記載されている40頁左欄7~11行
のに対し,本願発明の土台は,発明の要旨に「第2再現加速度がゼロになった時点
で前記土台が左右いずれかの方向に移動している場合には,その土台が停止するよ
うに前記第2再現加速度を負の値に調整する」ことは規定されているものの,停止
した後に,引用発明と同様に常に初期の中立位置に戻るのか,それとも停止したま
まであるのか等については規定がないから,引用発明と同様,常に初期の中立位置
に戻る態様も本願発明に含まれるものといわざるを得ない。。)
そうすると,自動車の加速度模擬装置を鉄道車両の加速度模擬装置に適用するこ
とにつき,制御手段に対する信号入力が被験者以外から行われるように変更する必
要があるからといって,何らかの困難性が伴うということはできない。
()上記(),()のとおり,本願発明と引用発明との相違点1に関する審決の312
判断に,原告主張の誤りはない。
3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
()審決は,本願発明と引用発明との相違点2について判断するに当たり,本1
願発明の「ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加
速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定し」との構成につき「ロール付,
与手段によって発生させる加速度成分は,模擬客室の乗員が回転していることを認
識できない範囲内とすることを意味する」との認定をしたところ,原告は,審決の
上記認定は「ロール回転の角度θの大きさ自体を,人間が回転していると認識で,
きない範囲として予め定められた不感範囲内に設定する制御を行う」ということに
帰するとした上,本願発明の上記構成の意味内容は「ロール回転角の変化(変化,
の度合い)を人間が回転していると認識できない範囲として予め定められた不感範
囲内に設定する制御を行う」というものであるから,審決の認定は誤りであると主
張する。
しかしながら,審決は,本願発明の上記構成の意味内容を認定するに当たり,本
願明細書の発明の詳細な説明の「本発明の左右定常加速度模擬装置において,制御
手段は,ロール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加速
,。『』,度又は角速度を予め定める不感範囲内に設定するここでいう不感範囲とは
,。人間が回転していると認識できない範囲を意味し予め経験的に定めておけばよい
つまりこの場合,制御手段は,人間が回転していると認識できないように,これら
角加速度又は角速度を制御する。この場合,模擬客室がロール回転しているにもか
かわらず,模擬客室の乗員はそれに気づかないため,乗心地に違和感を感じること
がない(段落【)との記載を引用しているのであるから,審決は,本願発。」】0010
明の上記構成において「不感範囲内に設定」する対象を,原告主張のように「ロ,
ール回転の角度θの大きさ」すなわち「模擬客室の傾きの大きさ」ではなく「模,
擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加速度又は角速度」すなわち「ロール回
転角の変化の度合い」であると認定したことは明白である。そして,本願明細書の
上記記載に照らして,その認定に誤りはない(不感範囲内に設定」する対象が,「
「」。)。ロール回転角の変化の度合いであること自体は原告の自認するところである
()また,原告は,相違点2についての判断に関する審決の「引用刊行物1の2
上記摘記事項ア.に『この方式を用いると,前述の様に定常円旋回中に生じる車両
の横方向の加速度などの長時間持続する加速度は,動揺台を所定の角度だけドライ
バに気付かれないように傾け保持することで模擬できる』と記載されているよう。
に,模擬客室を前後軸回りに回転させ傾斜させることにより加速度成分を発生させ
る場合には,模擬客室の乗員が回転していることを気付かない範囲で傾けることが
示唆されている」との説示のうち「動揺台を所定の角度だけドライバに気付かれ,
ないように傾け」との部分に下線が施されていることを捉え,審決が,当該下線部
分のみを抽出して,その意味内容の認定判断をするという誤った認定プロセスを経
て引用刊行物1の記載事項の認定をしたから,審決は,引用刊行物1の記載事項の
認定を誤ったものであると主張する。
しかしながら,刊行物に記載された事項を認定説示するに当たって,刊行物の記
載中,当該認定を導き出すために必要とされる部分を摘記することや,当該摘記部
分のうち重要な部分に下線を施すなどして強調することは,認定説示の手法として
広く行われているものであるところ,そのようにして強調をした部分があったとし
ても,当該認定が,その強調部分の記載のみに基づき,それ以外の部分の記載を無
,(,視してなされたという趣旨でないことは一般常識に属する事柄であるそもそも
認定に当たって,下線を施した箇所以外の部分を無視するのであれば,その部分を
摘記する必要は全く存在しない。したがって,審決が引用刊行物1の記載事項の。)
認定をするに当たって,認定プロセスを誤ったとする原告の主張は到底採用し得な
い。
()さらに,原告は,引用刊行物1の上記「この方式を用いると,前述の様に3
定常円旋回中に生ずる車両の横方向の加速度などの長時間持続する加速度は,動揺
台を所定の角度だけドライバに気付かれないように傾け保持することで模擬でき
る」との記載が,動揺台が傾いた状態で保持されていることをドライバに気付か。
れないように,動揺台を所定の角度だけ傾いた状態に保持することで模擬できると
いう意味内容であるとした上,本願発明の「ロール付与手段によって模擬客室を前
後軸回りに回転させるときの角加速度又は角速度を,予め定める不感範囲内に設定
し」との構成が,引用刊行物1の上記記載に基づいて,当業者に容易に想到し得る
ものということはできないと主張する。
しかしながら,引用刊行物1には,上記記載に続いて「しかし,この方式では,
例えばレーンチェンジ開始時に生ずる急激に立ち上がる横加速度,換言すれば過渡
的に発生する加速度はうまく模擬できない。何故ならば,ジンバル方式では動揺台
は回転運動しかできないために,過渡的な加速度を発生させるには急激に動揺台を
回転させ,過渡的に傾斜角を変化させる必要がある。このため,ドライバは回転運
動を検知し,車両の運動とは異なる体感として異和感を唱えるおそれがあるからで
ある。一般的には,ジンバル方式のDSでは,過渡的な運動を模擬するのは難しい
とされている(37頁左欄下から2行~右欄9行)との記載があり,これらの記。」
載は,文脈上「定常円旋回中に生ずる車両の横方向の加速度などの長時間持続す,
る加速度」と「レーンチェンジ開始時に生ずる急激に立ち上がる横加速度,換言す
れば過渡的に発生する加速度」とを,一対の対照的な事項として掲げた上,それぞ
れの模擬の成否とその理由について,前者は「動揺台を所定の角度だけドライバに
気付かれないように傾け保持することで模擬できる」と,後者は「うまく模擬でき
ない。何故ならば・・・急激に動揺台を回転させ,過渡的に傾斜角を変化させる必
要がある・・・ため,ドライバは回転運動を検知し,車両の運動とは異なる体感と
して異和感を唱えるおそれがあるから」と記述しているのであるから,前者(定常
円旋回中に生ずる車両の横方向の加速度などの長時間持続する加速度)の模擬が可
能であるとして示された理由は,後者(レーンチェンジ開始時に生ずる急激に立ち
上がる横加速度)の模擬が困難であるとして示された理由と一対の対照的な事象で
あるものとして理解するのが,合理的かつ自然な読解方法である。すなわち,引用
「」刊行物1の動揺台を所定の角度だけドライバに気付かれないように傾け保持する
との記載は「ゆっくりと動揺台を回転させ,緩やかに傾斜角を変化させれば足り,
るため,ドライバは回転運動を検知せず,車両の運動と異なる体感としての違和感
を感じない」という趣旨であり,これは,動揺台を回転させるときの角加速度又は
角速度を,予め定める不感範囲内に設定するということにほかならない。
そうすると,引用刊行物1の上記記載は,模擬客室を前後軸回りに回転させ傾斜
させることにより加速度成分を発生させる場合には,模擬客室の乗員が回転してい
ることを気付かない角加速度又は角速度の範囲で傾けることを示唆するものであ
り,引用発明において,ロール付与手段によって発生させる加速度成分を予め定め
る不感範囲内に設定することは,当業者であれば容易に想到し得たものというべき
である。
なお,原告は,引用刊行物1の上記「しかし,この方式では・・・難しいとされ
ている(37頁左欄下から2行~右欄9行)との記載を,本願発明の相違点2に。」
係る構成の容易想到性に関する判断において,審決が根拠としたものではなく,審
決前の拒絶理由通知や拒絶査定において根拠として挙げられたものでもないと主張
する。
しかしながら,審決は,相違点2について,要するに,引用刊行物1に「模擬客
室を前後軸回りに回転させ傾斜させることにより加速度成分を発生させる場合に
は,模擬客室の乗員が回転していることを気付かない範囲で傾けること」が示唆さ
れており,この技術を引用発明に適用し,引用発明において「ロール付与手段によ
って発生させる加速度成分を予め定める不感範囲内に設定することは,当業者なら
ば容易に想到し得た」との判断をしたものであるところ,上記のとおり,当裁判所
も,審決が示した公知例(引用刊行物1,なお,引用刊行物1が原査定の拒絶の理
由に引用されたことは,当事者間に争いがない)に基づき,審決の認定判断と同。
旨の認定判断により,容易想到性が認められるとするものであるから,その審理判
断の範囲ないし方法に,何らの誤りもない。
()上記()~()のとおり,本願発明と引用発明との相違点2に関する審決の413
判断に,原告主張の誤りはない。
4取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について
()原告は,審決が相違点3についての判断において「引用刊行物1の上記摘1,
記事項イ.や引用刊行物2の上記摘記事項カ.にみられるように,横方向加速度の
模擬装置において,傾斜による加速度をメインとすれば,並進運動のストロークが
減少し,装置の小型化を図ることができることは周知であり」としたことにつき,
引用刊行物1の摘記事項イには,回転運動(傾斜)と並進運動とが具体的にどのよ
うに組み合わされた制御が実行されるかについての示唆はなく,引用刊行物2の摘
記事項カも,ロール角の変動(傾斜)による加速度と横方向の運動(並進運動)に
よる加速度との組合せによって,横方向加速度の高周波成分と低周波の変動成分を
模擬した場合には,横方向の運動(並進運動)のストロークは短くなることを示し
てはいるが,ロール角の変動(傾斜)による加速度と横方向の運動(並進運動)に
よる加速度とのどちらをメインとするかについては示唆していないから,審決が,
これらの記載により,横方向加速度の模擬装置において,傾斜による加速度をメイ
ンとすれば,並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ることができるこ
とが周知であるとした判断が誤りであると主張する。
しかしながら,審決が挙げた引用刊行物1の摘記事項イは「3.3Benzの
6軸モーションDS図7は,Benzの6軸モーションDSであり,従来のFS
の技術をDSへ応用したものである。この方式の6軸モーションベースは,回転運
動のみならず,わずかではあるが並進運動も可能であるので,前述のVWのDSに
比較すると,長時間持続する加速度はもちろんであるが,過渡的な加速度もある程
度模擬できる。レーンチェンジの開始時に車両に生じる横加速度のような過渡的な
加速度は,6軸モーションを並進運動させれば発生可能であるが,BenzのDS
の場合,並進運動の移動量が最大でも±1.5m程度であるため,車両の運動によ
り発生する実際の加速度(の大きさ)をそのまま100%模擬するのではなく,ス
ケールファクタ(1より小さい係数)によりスケールダウンして模擬しているもの
と思われる(38頁左欄14~28行)というものであり,また,引用刊行物2。」
「()の摘記事項カは①:横方向加速度の高周波成分前後方向の運動の高周波成分も
は過渡的運動特性の優れたリニアモータによる横運動としてシミュレーションされ
るので,シミュレーション精度は高いものとなる。②:横方向加速度の低周波の
変動成分はロール角の変動に変換されるので,横方向の運動のストロークは短いも
のとなり,大きなリニアモータは不要となる。横方向加速度の低周波の変動成分を
ロール角の変動に変換しても,低周波故に十分に追従できる(6頁左下欄4~1。」
4行)というものである。
そしてこのうち引用刊行物2の摘記事項カの記載は横運動による加速度並,,,(
進運動による加速度)にロール角の変動による加速度(傾斜による加速度)を併用
することにより,これを併用しない場合と比べ,横方向の運動(並進運動)のスト
ロークは短いものとなるということを示しているから,ロール角の変動による加速
度の併用の度合いをより大きくすれば(ロール角の変動による加速度をメインとす
ることが,併用の度合いを大きくすることの延長線上にあることは明白である,。)
横方向の運動のストロークはより短くなることを示唆するものといえる。
また,引用刊行物1の摘記事項イの記載中の「前述のVWのDS」とは,上記3
の()において引用した引用刊行物1の記載に係る「動揺台は回転運動しかできな3
いジンバル方式のDSすなわち並進運動は行わず回転運動による加速度傾」,,,(
斜による加速度)のみで横方向の加速度を模擬するタイプのシミュレータのことで
あり,このシミュレータの並進運動のストロークは当然零であると考えられる。そ
うすると,引用刊行物1の摘記事項イは,上記引用刊行物2の摘記事項カと逆に,
傾斜による加速度に並進運動による加速度を併用すれば,傾斜による加速度のみで
あった場合には存在しなかった並進運動のストロークが出現することを示してお
り,このことは,翻って,傾斜による加速度をメインとして,並進運動による加速
度の併用の度合いを少なくすれば(傾斜による加速度のみとすることはその極限の
態様である,並進運動のストロークが減少することを示唆するものといえる。。)
そして,並進運動のストロークが減少すれば,装置の小型化を図ることができる
ことは自明である。
したがって,審決が「引用刊行物1の上記摘記事項イ.や引用刊行物2の上記,
摘記事項カ.にみられるように,横方向加速度の模擬装置において,傾斜による加
速度をメインとすれば,並進運動のストロークが減少し,装置の小型化を図ること
ができることは周知であり」としたことに誤りはなく,原告の上記主張を採用する
ことはできない。
()原告は,審決が,相違点3について「加速度の内容に応じて,傾斜による2,
加速度発生手段と並進運動による加速度発生手段とを同時に動作させることは引用
刊行物1の上記摘記事項イ.~エ.や引用刊行物2に記載されており・・・して,
みれば,装置の小型化,及び,長時間持続する加速度の模擬を主目的として,第1
再現加速度(傾斜による加速度)をメインとして,第1再現加速度を左右定常加速
度の模擬に始めから使用すると共に,第1再現加速度では左右定常加速度に足りな
い分を,第2再現加速度(並進運動による加速度)で補償することにより左右定常
加速度とするように構成することは,当業者ならば適宜採用し得たものと認められ
る」と判断したことに関し,相違点3に係る本願発明の構成は,左右定常加速度。
を,第1再現加速度(ロール回転による加速度)と第2再現加速度(左右方向への
),並進運動による加速度の両方を使用することによって模擬するものであるところ
引用刊行物2に記載されたドライビングシミュレータは,定常的に生ずる左右方向
の加速度をロール回転による加速度のみを用いて模擬するものであり,本願発明の
上記構成を排除したものであるから,引用刊行物2の記載事項を根拠として,相違
点3に係る本願発明の構成が,当業者によって容易に想到し得たものであるとする
審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,審決の上記説示に照らして,審決が,引用刊行物1及び引用刊行
物2を周知例として「加速度の内容に応じて,傾斜による加速度発生手段と並進,
運動による加速度発生手段とを同時に動作させること」を周知技術と認定し,この
周知技術により「第1再現加速度を左右定常加速度の模擬に始めから使用すると,
共に,第1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を,第2再現加速度(並進
運動による加速度)で補償することにより左右定常加速度とするように構成するこ
とは,当業者ならば適宜採用し得た」ものと判断したことは明白である。
そして,引用刊行物2には,上記()で引用した摘示事項カのほか「上記課題を1,
達成するための本発明の構成は,運転者が乗り込むキャビン部と,このキャビン部
を,少なくともロール方向について回転させるロール方向駆動部と,キャビン部を
横方向に並動させる横方向駆動部と,運転者の運転操作情報に基づいて,キャビン
部の,少なくともロール方向の回転加速度と横方向移動加速度とを演算する演算手
段と,前記演算手段で得られたロール方向加速度と,前記演算手段で得られた横方
向加速度の低周波成分とに基づいてロール方向駆動部を駆動すると共に,前記演算
手段で得られた横方向加速度の高周波成分に基づいて横方向駆動部を駆動するよう
に制御する制御手段とを具備することを特徴とする。高周波追随の困難なロール
方向の駆動部には,横方向の運動の低周波成分のみが送られ,その高周波成分は追
随の楽な横方向駆動部に送られる。そのために,高周波域でのシミュレーションの
精度を上げることができる(3頁右上欄7行~左下欄5行,審決の摘示事項オ)。」
との記載及び「低周波域の定常的な横加速度はシミュレータキャビンのロール方向
の傾斜状態維持により模擬する」との記載(5頁右下欄1~3行)があり,これ。
らの記載によれば,引用刊行物2には,低周波域の定常的な横加速度(横方向加速
度が低周波成分のみである場合の横加速度)は,ロール回転による加速度のみによ
って模擬するものの,通常は,横方向の加速度を,高周波成分と低周波成分とに分
けて,高周波成分を横方向駆動部の駆動による加速度(並進運動による加速度)に
より,低周波成分をロール方向の駆動部の駆動による加速度(ロール回転による加
速度)により,両者を併用して模擬するシミュレータが記載されているものと認め
られる。
また,引用刊行物1には「4.加速度模擬の基本的な考え方前章で述べた長,
時間持続する加速度は動揺台を所定の角度だけ傾けることで,過渡的な加速度は動
揺台の並進運動で模擬する方法について詳しく述べる。この手法はと呼”WashOut”
ばれている。図12は,上記の2種類の加速度発生方法を示す。図13は,この2
つの方法を組み合わせた典型的な技術による加速度波形を示す。定常円WashOut
旋回時や長い直線路での加速時に,車両に生じる長時間持続する加速度をDSで発
,。生するには理想的には同じストロークだけの直線並進運動を実施する必要がある
しかし,どんな試験機にも性能限界があるように,現実にはDSは実験室内に設置
された装置にすぎず,直線並進運動の稼働ストロークには限界がある。そこで,図
12,13に示すように,まず並進運動により,動き始めの過渡的な加速度を模擬
する。そのまま動揺台が並進運動を続ければ,DSの有効ストロークの限界を超し
てしまうので,並進運動を徐々に止め,逆に次の運動に備えるためにゆっくりと動
揺台を初期の中立位置へ戻す。一方,この運動を実施しつつ動揺台を所定の角度だ
け傾け,図12の(b)に示すように重力加速度の分力成分を利用して加速度を発生
させる。ドライバは,シミュレータドームという真っ黒な密室内のスクリーン上の
画像のみが視覚情報として与えられているため,モーションシステムにより与えら
れた加速度がどのような方法により与えられたかはほとんど気付かず,並進と回転
の二つの運動から生じる合成された加速度を体験として感じる(39頁右欄8行。」
~40頁左欄19行)との記載があり,この記載と図13(40頁左欄)とによれ
ば,引用刊行物1に,並進運動による加速度と傾斜による加速度とを併用して,そ
の合成加速度により横方向の加速度を模擬するシミュレータ(引用発明)が記載さ
れていることは明らかである。
,,,,「,したがって審決がこれら引用刊行物12により加速度の内容に応じて
傾斜による加速度発生手段と並進運動による加速度発生手段とを同時に動作させる
こと」を周知技術と認定したことに誤りはない。
そして,上記の()のとおり,傾斜による加速度をメインとすれば,並進運動の1
ストロークが減少し,装置の小型化を図ることができることは周知の事項であるか
ら,鉄道車両の左右定常加速度の模擬をするに当たり,装置構成の小型化を目的と
して,傾斜による加速度をメインの加速度とすることにした上,傾斜による加速度
発生手段と並進運動による加速度発生手段とを同時に動作させる上記周知技術を適
用し,かつ,その際,メインの加速度となる傾斜による加速度を模擬の初めから使
用するとともに,同時に発生させる並進運動による加速度を補償的に用いる構成と
することは,当業者であれば,当然に考慮することである。
そうすると,審決が「第1再現加速度を左右定常加速度の模擬に始めから使用す
ると共に第1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を第2再現加速度並,,(
進運動による加速度)で補償することにより左右定常加速度とするように構成する
ことは,当業者ならば適宜採用し得た」ものと判断したことに誤りはない。原告の
上記主張は,審決を正解しないでなされたものというべく,これを採用することは
できない。
()原告は本願発明が装置構成の小型化を図るために第1再現加速度ロ3,,,(
ール回転による加速度)を用いて左右定常加速度を模擬するものであるが,模擬客
室の乗員がロール回転角の変化に気付かないようにするため,相違点2に係る「ロ
ール付与手段によって模擬客室を前後軸回りに回転させるときの角加速度又は角速
度を,予め定める不感範囲内に設定し」という構成としたことにより,第1再現加
速度の上限値が定まってしまうため,第1再現加速度では左右定常加速度に足りな
い分を,第2再現加速度で補償するという相違点3に係る構成を採用したものであ
り,本願発明の進歩性は,相違点2に係る構成と相違点3に係る構成との組合せが
引用刊行物1,2に示唆されているか否かに基づいて行われるべきであると主張す
る。
しかしながら,模擬客室の乗員がロール回転角の変化に気付かないようにする効
果は,相違点2に係る構成を採用することのみによって達成し得ることであるし,
また,ロール回転による加速度が所望の加速度に満たないときに,これを補って所
望の加速度を得る効果は,相違点3に係る構成のみによって達成できるものである
ところ,これらの構成を組み合わせたところで,それぞれの効果の総和を超えた格
。,,別の作用効果を奏することを認めることはできないそうするとこれらの構成は
当業者が,必要に応じ,適宜採用すべきものであって,相違点2に係る構成を採用
した結果,相違点3に係る構成が必要となったからといって,両者の構成を常に一
体不可分のものとしてその進歩性の判断をしなければならないとする理由はないか
ら,原告の上記主張を採用することはできない。
()上記()~()のとおり,本願発明と引用発明との相違点3に関する審決の413
判断に,原告主張の誤りはない。
5取消事由5(相違点4についての判断の誤り)について
()原告は,相違点4についての審決の判断に関し,引用刊行物1には「動揺1,
台を所定の角度だけ傾け」るという制御の内容が「並進運動を徐々に止め,逆に,
次の運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立位置へ戻す」という制御の
内容に応じて調整されるということは一切示唆されていないから,審決が「第2,
再現加速度(並進運動による加速度)がゼロになった時点で土台が左右いずれかの
方向に移動している場合には,その土台が停止するように第2再現加速度を負の値
に調整すると共にそれに応じて第1再現加速度(傾斜による加速度)を調整するよ
うに構成することは,当業者ならば容易に想到し得たものと認められる」と判断し
たことが,誤りであると主張する。
しかしながら,この点についての審決の説示は「引用刊行物1には・・・並進,
運動を止め,これに対応して傾斜による加速度成分を発生させることが記載されて
いる。ここで,並進運動を止めるには,並進運動による加速度を負の値にする必要
があり,また,引用刊行物1記載の発明は,並進運動による加速度成分と傾斜によ
る加速度成分とを合わせて必要な加速度を得ているものであるから,第2再現加速
度(並進運動による加速度)がゼロになった時点で土台が左右いずれかの方向に移
動している場合には,その土台が停止するように第2再現加速度を負の値に調整す
ると共にそれに応じて第1再現加速度(傾斜による加速度)を調整するように構成
することは,当業者ならば容易に想到し得たものと認められる」というものであ。
って,この説示のうち「ここで,並進運動を止めるには」以下の部分は,引用刊,
行物1の記載事項とされていないのであるから審決が引用刊行物1自体に動,,,「
揺台を所定の角度だけ傾け」るという制御の内容が「並進運動を徐々に止め,逆に
次の運動に備えるためにゆっくりと動揺台を初期の中立位置へ戻す」という制御の
内容に応じて調整されるということまで記載ないし示唆されていると認定したもの
でないことは明白である。なお,審決が引用刊行物1に記載されていると認定した
「,」,並進運動を止めこれに対応して傾斜による加速度成分を発生させることとは
動揺台の並進運動を止める制御と,動揺台を所定の角度だけ傾けて傾斜による加速
度成分を発生させるという制御が,同時並行で実行されるということであると認め
られるところ,引用刊行物1に「並進運動を止める」制御と「動揺台を所定の角,
度だけ傾け」る(動揺台を傾ければ,当然,傾斜による加速度が発生する)とい。
う制御が,同時並行で実行されることが示唆されていることは,原告が自認すると
ころである。
そして,並進運動をしている動揺台を止めるためには,動揺台に並進運動に係る
負の加速度を発生させる必要があること,動揺台に並進運動に係る負の加速度を発
生させれば,上記4の()のとおり,並進運動による加速度と傾斜による加速度と2
を併用し,その合成加速度によって実現している引用発明の模擬加速度に影響が及
ぶこと,この影響を消滅又は減少させるには,傾斜による加速度を調節する必要が
あることはいずれも明らかであるところ,原告が自認するとおり,本願発明の「鉄
道の左右定常加速度模擬装置」は,鉄道車両に生ずるものとして意図した「左右定
常加速度」を当該模擬装置において忠実に再現することが必要であるから,引用発
明を鉄道車両の加速度模擬装置に転用するに当たっては,第2再現加速度(並進運
動による加速度)が零になった時点で土台が移動している場合には,その土台が停
止するように第2再現加速度を負の値に調整する(土台に並進運動に係る負の加速
度を発生させる)とともに,その負の加速度が本願発明の模擬加速度に及ぼす影響
を消滅させるよう,第1再現加速度(傾斜による加速度)を調整する必要があるこ
とも明白であって,当業者であれば,当然想到し得るところである。審決が,上記
相違点4についての判断において「ここで,並進運動を止めるには・・・当業者,
ならば容易に想到し得たものと認められる」とするのは,上記の趣旨をいうもの。
と解され,その判断に誤りはない。
原告の主張は,審決を正解しないでなされたものであって,採用することはでき
ない。
()また,原告は,本願発明の構成では,第1再現加速度(ロール回転による2
加速度)を最初から主に使用し,その足りない分を第2再現加速度(左右方向への
並進運動による加速度)を使用することによって補うものであるのに対し,引用刊
行物1は,最初は並進運動によって加速度を模擬し,その後,並進運動を止めなが
ら動揺台を所定の角度だけ傾けること(ロール回転運動)による模擬に切り替える
制御を示すものであるから,本願発明の構成と逆であって,これを排除したもので
あり,引用刊行物1の記載を根拠として,上記相違点4に係る本願発明の構成が,
当業者によって容易に想到し得たものであるとする審決の判断は,誤りであると主
張する。
しかしながら,本願発明と引用刊行物1に記載されたものとは,第1再現加速度
(ロール回転による加速度)と第2再現加速度(左右方向への並進運動による加速
度)とを併用して加速度模擬を行うに当たり,第2再現加速度がゼロとなった時点
で土台(動揺台)が移動している場合に,これを停止させるよう制御する点で共通
しているのであるから,仮に,引用刊行物1に記載されたものが,最初は並進運動
によって加速度を模擬し,その後,ロール回転運動による模擬に切り替えられるも
のであったとしても,上記()で説示した本願発明の相違点4に係る構成の容易想1
到性の判断に影響を与えるものとはいえない。
なお「本願発明においては『第1再現加速度を左右定常加速度の模擬に始めか,,
ら使用すると共に,第1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を,第2再現
加速度で補償することにより左右定常加速度とし』ているのに対して,引用刊行物
1には,この構成が記載されていない点」は,審決が,本願発明と引用発明との相
違点3として認定したところであり,この点につき「第1再現加速度(傾斜によ,
る加速度)をメインとして,第1再現加速度を左右定常加速度の模擬に始めから使
用すると共に,第1再現加速度では左右定常加速度に足りない分を,第2再現加速
度(並進運動による加速度)で補償することにより左右定常加速度とするように構
成することは,当業者ならば適宜採用し得たものと認められる」とした審決の判断
に誤りがないことは,上記4の()のとおりである。2
原告の上記主張は,結局,本願発明の相違点3に係る構成と相違点4に係る構成
とを一体として判断しなければならないとすることに帰するものであるが,これら
を一体として判断しなければならない必要性を認めるに足りる主張立証はなく,原
告の主張を採用することはできない。
()上記(),()のとおり,本願発明と引用発明との相違点4に関する審決の312
判断に,原告主張の誤りはない。
6結論
以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきで
ある。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
石原直樹
裁判官
高野輝久

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