弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人花田啓一、同尾関闘士雄、同安藤巖、同大矢和徳の上告理由第一点及
び第二点について。
 論旨は、原判決は、本件選挙において候補者井野碩哉の選挙運動者等に違法な選
挙運動のあった事実を認めながら、これを公職選挙法二〇五条一項にいう選挙の規
定違反にあたるものと解さなかった点において、また、かかる違法事実の選挙の結
果に異動を及ぼす虞あることにつき、上告人の側に明確な主張立証を欠くものとし
て選挙の無効を認めなかった点において、法令違背があるというにある。
 しかしながら、公職選挙法二〇五条一項にいう選挙の規定に違反するとは、主と
して選挙管理の任にあたる機関の管理手続に関する規定に違反することを指称し、
右管理機関以外の者の選挙法令の違背、ことに選挙運動に関する規制違反の行為は、
これに該当しないと解すべきことについては、当裁判所の判例の存するところであ
って(昭和三〇年八月九日第三小法廷判決、民集九巻九号一一八一頁、昭和三一年
二月一四日第三小法廷判決、裁判集民〔二一〕一三三頁、昭和三二年一〇月四日第
二小法廷判決、裁判集民〔二八〕五九頁参照)、その違反者が、本件のように、特
定の候補者の選挙運動者或はこれを応援する政治団体であっても、その解釈を異に
しない。もっとも、厳格な意味において上記のような選挙の規定違反にあたらない
行為であっても、そのために選挙の自由公正が失われ、選挙人全般がその自由な判
断によって投票をすることを妨げられたような場合には、選挙を無効とすべきもの
とする論も全く考えられないではないが、本件において原審認定の文書図画掲示頒
布等に関する違法行為は、選挙人の投票意思決定の自由を阻害しまたは自由な判断
に基づく投票意思の表明を妨げるほどのものではなく、かつそれが選挙人全般に影
響を及ぼすほど広範囲にわたって行なわれたことも証明されていない。さらに、こ
れに本件選挙における当落得票差七万余票に及ぶ事実を考慮すれば、到底かかる違
法によって選挙の結果に著しく疑惑を生じ、選挙の自由公正が失われたものとする
ことはできない。原判決もまた、本件違法行為の性質、規模、当落得票差等を勘案
すれば、上告人等の主張、立証にかかる右違法行為の存在のみによっては、当然に
は本件選挙における当落を動かす虞を推認しがたいものと認め、仮に本件違法行為
がいわゆる選挙の規定違反にあたるとしても、その選挙の結果に異動を及ぼす虞あ
ることについて明確な主張も立証もない旨を判示したものと解されるのであって、
これを法令違背とすることはできない。
 要するに、本件選挙の無効を認めなかった原判決は正当であって、論旨はいづれ
も採用すべきかぎりでない。
 同上第三点について。
 論旨は、原審裁判所に上告人等の主張、立証についての釈明権不行使の違法があ
るというにある。しかしながら、本件において上告人等の主張が排斥されたのは、
もともとその主張する違法事由が選挙無効原因として薄弱であったからであり、本
件が公益性の強い選挙訴訟であるからといって、裁判所は、その選挙の無効原因を
想定して当事者に対し主張、立証の補完を示唆勧誘すべきものでないことは、いう
までもない。原審において、上告理田に値するような著しい釈明権の不行使は、全
く認められず、論旨は理由がない。
 よって、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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