弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人を懲役6年及び罰金200万円に処する。
未決勾留日数中130日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被
告人を労役場に留置する。
仙台地方検察庁で保管中のコカイン1袋を没収する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理       由
(証拠により認定した犯罪事実)
 被告人は,
第1 氏名不詳者と共謀の上,みだりに,営利の目的で,麻薬を本邦に輸入しよう
と企て,平成14年11月30日,M国(以下略)所在の国際宅配等を業とする会
社に対し,ロウソク内(中略)に隠匿した麻薬であるコカイン塩酸塩約390グラ
ムを収納した段ボール箱を,宮城県古川市a字b番地Aあてに国際小口急送貨物と
して運送委託して,これを発送し,同年12月7日,N国O空港において,K航空
機にこれを積載させて同空港を出発させ,同日,千葉県成田市所在の新東京国際空
港に同機を到着させ,同所において,情を知らない同空港関係作業員をして,上記
コカインを隠匿した同貨物を同機から取り下ろさせ,もって麻薬であるコカインを
輸入し,引き続き,同日,d所在のL株式会社成田カーゴターミナルビルディング
保税蔵置場にこれを
搬入させ,情を知らない通関業者をして,e所在の東京税関成田航空貨物出張所長
に対し,子供用の靴等のみを輸入する旨内容虚偽の輸入申告事項を入力・送信させ
るなどして輸入申告させて,同日,その許可を受け,上記コカインを隠匿した同貨
物を上記保税地域から本邦内に引き取らせ,もって輸入禁制品である麻薬を輸入
し,
第2 法定の除外事由がないのに,同15年1月23日ころ,東京都新宿区(以下
略)所在の被告人方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩
類若干量を含有する錠剤1錠を水と共に飲用し,もって覚せい剤を使用し
たものである。
(事実認定の補足説明)
1 被告人は,当公判廷において,判示第2の覚せい剤取締法違反の事実を認めて
いるものの,判示第1の麻薬及び向精神薬取締法違反,関税法違反の事実について
は,コカインが隠匿された国際小口急送貨物が,被告人宛に,両親らが住む宮城県
古川市内の実家に送られてきたことは認めながら,「東京都内で知り合ったBとい
う外国人から頼まれ,Bが仕入れるジャージの送付先として自分の実家の住所と電
話番号を教え,自分宛にその荷物を送らせただけであり,コカインが送られてくる
ことは知らなかった。」などと弁解して本件犯行を否認し,弁護人も,同事実につ
いて,被告人が麻薬を輸入したことや共謀したことはなく,共謀を直接証明する証
拠や共謀を推認させるに足りる間接証拠もないから,被告人は無罪であると主張す
る。
 ところで,被告人は,捜査段階から,前記のように弁解して犯行を否認してお
り,また,本件においては,犯行に関係したと思われる者等の供述も得られておら
ず,本件犯行を直接証明する証拠はないから,争点は,証拠により認められる事実
から本件犯行を認定することができるか否かである。そこで,検討する。
 なお,以下の日時はすべて日本時間を指すものである。
2 関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。すなわち,(1) 被告人は,
平成14年11月当時,暴力団C組に所属しており,20名くらいいる組員の中で
上から七,八番目の序列の事務局長の地位にあり,東京都新宿区内にあるマンショ
ンに組関係者と共に居住していた者であるが,同月29日午後3時22分ころ,東
京都内から,宮城県古川市内の実家にいた母Dに電話をかけ,自分宛の荷物が実家
に届くので,届いたら電話連絡が欲しい旨頼み,Dから,受け取った荷物を被告人
にどのように渡したらよいかと聞かれると,実家まで取りに行く旨答えたこと,(2)
 同年11月30日午前6時35分ころ,M国(以下略)において,何者かが,国
際小荷物宅配業者であるEの現地営業所に対し,国際小口急送貨物(以下「本件貨
物」という。)の運
送を委託したこと,そして,同営業所の担当者は,その者の申告に基づき,本件貨
物の航空貨物運送状の差出人欄に「(省略)」と,受取人欄に「(省略)」(後記
のとおり,Eの担当者が,「(省略)」と記載すべきを誤記したものである。)
と,その住所欄に「(省略)」などと記載したこと,(3) 本件貨物は,同日,同地
区にあるEサービスセンターを出発して航空機により運送されてN国内に入り,O
空港でK航空機に積み込まれ,同航空機が同年12月7日に同空港を出発して千葉
県成田市所在の新東京国際空港に到着したことから,同日,本件貨物が同航空機か
ら搬出されてL株式会社成田カーゴターミナルビルディング保税蔵置場に搬入され
たこと,そして,通関手続きの代行業者であって,情を知らないE関連会社の担当
者において,東京税関
成田航空貨物出張所に対し,本件貨物につき,子供用の靴等のみを輸入する旨の内
容虚偽の輸入申告をしたこと,(4) そこで,同出張所係官が,(中略)警察官らの
立ち会いの下に検査を行ったところ,本件貨物には,宛名が「(省略)」とされた
白色封筒(クリスマスカード在中)等が貼付された紙袋1袋,子供用玩具1点,子
供用サンダル1点等の他に,(中略)本件ロウソク1点があったこと,(5) そのた
め,同出張所係官は,本件ロウソク内の異物を検査すると,コカインである旨の陽
性反応を示したため,千葉県警察本部は,本件貨物につき,いわゆるコントロール
ド・デリバリー捜査を実施することとし,同日,その旨の要請をして東京税関長か
ら輸入の許可を得たこと,そして,その後,(中略)F及びGが本件貨物を配達す
ることになったこと
,(6) ところで,本件貨物の航空運送状に記載された住所と氏名には該当する住所
がなく,該当者もいなかったが,宮城県警察本部の警察官らが調査するなどした結
果,その宛先住所が前記宮城県古川市a字b番地所在の被告人の父Hであり,宛先
の者は被告人であると特定できたことから,同年12月10日午後4時50分こ
ろ,FとGは,本件貨物を持ってH方に赴いたこと,(7) GとFは,応対に出たH
に対し,「宮城県古川市a字b」の「(省略)」宛の海外からの荷物を届けに来た
旨告げると,Hは,「東京にいる息子が荷物が届くと言っていたが,息子の名前は
『(省略)』ではなく『A』だ。(以下略)」などと述べたこと,しかし,Gら
が,「住所氏名が違っているので本人に確認しないと荷物を渡すことはできな
い。」旨述べたところ,その
場で被告人と携帯電話で話していたHの孫のIがFと電話を替わったので,被告人
は,Fに対し,「自分宛の荷物であることは間違いない。送り主が外国人なので間
違ったのだろう。」などと述べ,さらに,荷物の航空貨物運送状の番号を送り主に
確認して欲しいとのFの依頼を受けると,「調べて連絡するから待っていて欲し
い。」と言って電話を切ったこと,(8) GとFがH方茶の間で待っていると,被告
人から電話がかかり,Fが出ると,電話口から被告人以外の外国語を話す男の声が
聞こえてきて,被告人に日本語で番号を伝え,これを聞いた被告人が復唱する形で
三,四桁ずつ区切って番号を述べ,Fがこれを確認すると,航空貨物運送状の番号
と合っていたことから,本件貨物は置いていく旨被告人に伝えたこと,(9) しか
し,その時,Gは,(中
略),Fと電話を替わり,「(中略)住所と名前が違うときは,本人を確認しない
とお渡しできないことになっています。」などと伝えると,それまで冷静だった被
告人は,「何で荷物を置いていけないんだ。俺が俺のものだと言っているのだから
いいじゃないか。」などと怒鳴り出し,Gから,本件貨物は仙台営業所に持ち帰る
ので,フリーダイヤルに問い合わせて欲しい,フリーダイヤルは東京の新木場にあ
るなどと告げられると,「東京に誰がいると言ったんだ。」などと怒鳴って,さら
に,Gと替わったHに対し,「何で東京にいると言ったんだ。俺は東京なんかいね
えぞ。何で荷物を置いていけないんだ。」などと怒鳴り,Hから,「番地と名前が
違うんだから,もうしょうがねえだろう。もうフリーダイヤルの電話番号に電話す
るしかねえんじゃね
えか。」などと言われると,電話を切ったこと,(10) 被告人は,同月10日,G
らが帰った後,Hに数回電話をかけ,本件貨物の形状や重量,配達員の人相,風体
等を尋ねた上,Hから「フリーダイヤルの電話番号は業者が置いていったぞ。荷物
は仙台営業所にあるらしいぞ。」などと言われると,明日,荷物を取りに行く旨述
べたこと,そして,翌11日には,新幹線で宮城県の古川駅へやって来て,駅まで
車で迎えにきたHと共に実家である同人方に向かったが,途中で,荷物を取りに行
きたいと言って車を運転していた同人に仙台方面へ向かわせ,同人の携帯電話を使
ってフリーダイヤルに電話をかけ,仙台営業所に荷物を取りに行きたいなどと言っ
たところ,応対に出た社員から仙台営業所はなく,配送は他の会社がしている旨説
明されると,「配達
に来たが,住所と宛名が違うということで持ち帰った荷物はどうなるのか。」など
と尋ね,同社員から,荷物がどうなっているか確認するために航空貨物運送状の番
号を教えて欲しいなどと言われたが,これに答えず,同社員から,勝手に処分する
ことはなく,最終的には発送人に返送する旨説明を受けると,被告人は,「送り返
してくれるんだ。」などと述べたこと,そして,被告人は,本件貨物の所在がわか
らないまま,Hと共に同人方に行き,その日は同人方に泊まり,翌12日の朝に同
人方を出て,新幹線で東京都内に戻ったこと,(11) ところが,同日の夜,警察官
がH方にやって来て捜索を行い,Hに同行を求め,これに応じた同人は古川警察署
まで赴き,事情を聴取されたが,その際,被告人宛に送られた荷物の中には違法な
薬物が入っていたと
聞かされて驚いたこと,そして,同日午後9時過ぎころ,事情聴取が終わって帰宅
してから,被告人と電話で荷物のことを話したこと(なお,話した内容等について
は後に検討するとおりである。),(12) 同月12日,本件ロウソク等が差し押さ
えられ,同月13日,宮城県警察科学捜査研究所で鑑定した結果,本件ロウソク内
(中略)に隠匿された固形物からコカイン塩酸塩が検出され,その重量は約390
グラムであって,これは,末端価格で約2340万円に相当するものであったこと
が認められる。
  以上の事実は,主として,G(甲21。ただし,不同意部分は除く。),F
(甲22。ただし,不同意部分は除く。),J(甲23),H(甲24。ただし,後
記で信用性を検討している部分は除く。),D(甲25ないし28)及びI(甲2
9)の各検察官調書並びにG及びFの各公判供述により導かれるところ,F,J,
Gは(中略),いずれも本件以前には被告人と面識がなく,あえて被告人に不利な
供述をする理由はなく,また,前記各供述は,いずれも具体的かつ詳細であり,不
自然なところはなく,互いによく符合しているのであって,Jの供述は同女が作成
したメモにより,Dの供述は,通話明細書により裏付けられていることなどに照ら
せば,いずれも信用性は高い。そして,これら各供述により認められる前記認定事
実については,被告人
も概ねこれらを認める供述をしているところであって,弁護人も特にこれらを争っ
ていない。
3 ところで,被告人は,前記認定事実に関し,捜査段階から,要旨以下のように
弁解している。すなわち,「私は,平成13年の夏ころ,本名,国籍,住所等は不
明であるが,東京都内の大久保で露天商をしているBという外国人と居酒屋で知り
合った。その後,Bとは20回くらい露店の近くで会ったり,一緒に酒を飲みに行
ったりしたが,平成14年10月半ばころに会った時,Bから,『海外からジャー
ジを仕入れる。東京都内のあなたの住所ではだめだ。あなたの実家に送るから,代
わりに受け取って欲しい。御礼するから。』などと言って頼まれたので,私の名前
や携帯電話の番号,実家の住所と電話番号を教えた。Bから,金額は言われていな
いが,御礼に5万円か10万円もらえると思った。BからもBの携帯電話の番号を
メモに書いて渡して
もらったが,連絡するときは公衆電話から電話をするように言われた。同年11月
28日ころにBと会った時,ジャージがもうすぐN国から届くなどと言われたの
で,翌29日,Dに電話して荷物の受け取りを頼んだ。H方に本件貨物が配達され
た同年12月10日,東京都新宿区歌舞伎町を歩いていた時に携帯電話に電話があ
り,配達員から伝票番号が分かるかなどと言われた。そこで,Bを探しに大久保方
面へ行き,たまたま会ったBから本件貨物の伝票番号を聞いて,これを配達員に伝
えた。伝票番号を聞いた配達員は,番号は合っている,荷物は置いていく,東京で
も荷物は受け取れますなどと言ったので,Hに対して,『誰が東京にいるんだ
よ。』などと怒った後で電話を切った。私は,本件貨物を受け取れたと思っていた
ので,Bと話して一緒に古
川に行くことにし,翌朝8時にJR大久保駅で待ち合わせをした。Bと別れてから
Hに電話した時,本件貨物の宛名や宛先の番地が違っていたので,荷物は受け取れ
なかったことを聞き,さらに,本件貨物のことが気になったのでHに再度電話し,
荷物の大きさや配達員の風体等を聞いた。翌11日,待ち合わせ場所にBが現れ
ず,連絡も取れないので,荷物を確認しようと思って1人で古川に向かった。古川
駅に着いた後,迎えに来たHの車に乗り,フリーダイヤルに電話するなどして,仙
台営業所を探したが,見つけられなかったところ,Hから,荷物を受け取らない方
がいいのではないか,送り返したらどうかなどと言われたので,車の中でフリーダ
イヤルに電話して,『古川のAですけど,昨日,宅急便が来たんだけど,俺の知ら
ない荷物だから送り返
してくれ。』と言うと,電話に出た女性は『調べて処理します。』などと答えた。
翌12日の朝,古川から東京に戻ったが,Bに電話してもつながらなかったので,
私は,Bにだまされたと思った。Bの携帯電話の番号が書いてあったメモは,自分
にも捜査が及ぶと思ったが,同月14日か15日ころ,財布の中を整理していると
きに捨ててしまった。」などというのである。
4 しかしながら,上記被告人の弁解は,本件貨物が配達された際の被告人とGや
Fらとの会話の内容に不自然な変遷があるばかりか,その内容は,素性のよく分か
らないBなる外国人から,東京都内では受け取れないという衣服が入った輸入貨物
を被告人の実家で受け取って欲しいと頼まれ,御礼をやるからと言われたが,その
金額も聞かず,暴力団組織の事務局長の地位にある被告人が,これを引き受け,御
礼の金額は5万円か10万円と考えていたというのであるが,その経緯は極めて不
自然である。また,警察官がH方の家宅捜索に来る以前は,本件貨物について何ら
問題が表面化していなかったのであるが,Bと一緒に荷物を取りに実家に行こうと
したというのに,Bと連絡がつかず,Bが現れないまま一人で荷物を取りに新幹線
で古川駅までやって
来たというのは,誠に不自然であり,さらに,Bにだまされたと分かりながら,B
の電話番号を書いたメモを,自分にも捜査が及ぶと理解した上で,財布の中を整理
しているときに捨ててしまったという点においては,無実であるという被告人の弁
解を裏付ける極めて重要な証拠を,特段の理由もなく自ら捨て去ったということに
なるのであって,これまた,極めて不自然である。
 以上のとおり,被告人の弁解は,不自然な内容であって,到底信用することはで
きない。
 なお,これに対し,弁護人は,被告人がBなる者の身体特徴等を具体的に供述し
ていることや,前記2の(8)において,被告人が電話で航空貨物運送状の番号をFに
言ってきた際,被告人の近くに外国人がいたことなどを持ち出して,被告人の弁解
は信用できると主張する。 
 しかし,FやGは,電話口から雑踏の音が聞こえなかったので,被告人が建物内
等から電話をかけていると思ったなどと述べて,被告人が電話をしている状況につ
いては,被告人が弁解している状況とは異なる供述をしているのであり,この被告
人の弁解は,信用性の高いFやGの供述に反している上,被告人がBなる者の身体
特徴等を具体的に供述しているからといっても,被告人の前記弁解内容に照らせ
ば,何ら前記認定を左右するものではない。
5 ところで,証拠上,① 被告人は,前記のとおり,同年11月29日にDに電
話をした後も,Dに対し,同年12月4日,8日及び9日にも電話をかけて荷物が
届いていないか確認していること,② 被告人は,平成元年ころに実家を離れて上
京した後,最近では,平成14年8月に内妻を連れて一度帰省した以外にはほとん
ど実家に帰ったことはない上,約10年前に実家に被告人宛の荷物が送られたこと
はあったが,被告人はこれを受け取りに実家に来なかったことが認められ,これら
の事実に加えて,前記2で認定した事実における被告人の行動を見ると,被告人
は,本件貨物には,被告人にとって重要で大切な物が入っているのを知っていて,
自ら是非ともこれを受け取りたいと行動していると考えると,その行動は納得でき
るのである。そして,
このような推測に沿う証拠としては,前記2の(11)に関して,Hが被告人と電話で
話した際,本件貨物の中にロウソクがあることを,捜査機関から教えられる前に被
告人から聞いた旨のHの検察官調書(甲24)が存在する。そこで,その部分の供
述の信用性について検討する。
(1) 上記Hの検察官調書(甲24)の該当の供述部分を見ると,Hは,要旨以下の
ように述べている。すなわち,「被告人は,平成14年12月12日の朝に東京方
面に帰ったが,その夜,自宅の捜索に警察が来て,私も古川警察署で事情聴取さ
れ,その際,本件貨物の中に違法な薬が入っていたと聞いたが,薬の名前や内容物
については聞いていない。事情聴取が終わって帰宅した後,被告人から私宛に電話
があったので,荷物の中身は何かと被告人を問い詰めると,被告人は,最初のうち
は『何でもねえ。心配いらねえ。』などと答えていたものの,私が,さらに『警察
ではあの荷物には違法な薬が入っていたと言っていた。』と問い詰めると,被告人
は,『あの荷物はクリスマス用のロウソクだ。友達がクリスマス用に売ったらいい
と言って寄越した。』
と言ってきた。その後,平成15年2月6日になってから,警察から自宅で事情聴
取された時,荷物の中身がロウソクだということを知っていたかと聞かれ,被告人
が間違いなく違法な薬に関係していると思い,警察官の取調べの際には,ロウソク
のことは知らなかったととぼけた。」というのである。
(2) Hは,被告人の実父であるから,上記検察官調書中にも被告人を庇ってうそを
ついたとの供述があるとおり,被告人に有利なうそを述べることはあったとして
も,敢えて被告人に不利益な虚偽の供述をする動機は考えられず,被告人に不利益
な供述であるとの一事をもってしてもその供述の信用性は高いと認められる上,H
の供述内容は,感情を交え,電話での被告人とのやりとりが具体的かつ詳細に述べ
られているのであり,上記検察官調書は,被告人に有利な事情も問答体で録取され
ているほか,Hが検察官からその内容を読み聞かされ,訂正を申し立てるなどもし
ていることにも照らせば,上記検察官調書の該当部分の信用性は極めて高いという
べきである。
(3) もっとも,Hは,自宅の家宅捜索を受けた平成14年12月12日及び被告人
が逮捕された後の平成15年1月26日以降に事情聴取を受けていたところ,同年
2月9日までは,本件貨物の中身にロウソクがあることを知ったのは,同月6日に
警察官から事情聴取をされた時である旨供述していたのに,同月17日になって初
めて,平成14年12月12日の夜に被告人から本件貨物の中身がクリスマス用の
ロウソクだと聞いた旨供述するなどしており(甲47,52,56,57),Hの
供述には変遷が見られる。 
 しかしながら,その変遷の理由については,「検事から,Aがやったと思ってい
るなら,今しかAがやり直せる機会がないと言われ,そのとおりだと思った。Aは
40歳だが,心を入れ替えればやり直せると思う。それに,C等のヤクザが私や家
族に圧力をかけてきても,警察が守ると言ってもらった。それで,検事に隠してい
たことやうそをついていたことを正直に話した。」などと述べ(甲56),さらに
公判廷においても同旨の供述をしているのであり,その理由は,Hが被告人の実父
との立場からすれば極めて自然かつ合理的なものと認められ,Hの供述に変遷があ
っても,その信用性には何ら疑問はない。
(4) 他方,Hの公判供述を見ると,第3回公判期日には,捜査段階で検察官に対し
て述べたことをしっかり覚えてはいないなどと曖昧な供述をしたり,検察官から,
この点は検察官調書のとおりであるかと質問されると,そう思うなどと答える場面
が多々見受けられる。しかし,第4回公判期日において,甲24号証の検察官調書
を録取されたときは検察官にうそやいつわりを述べなかったこと,しかし,前回期
日には被告人の関係者が傍聴席にいたために証言しづらく,また,自分の息子を前
にしていることから証言しづらかった旨説明しているのである。そして,第4回公
判期日において,供述中に泣き出したりもしているが,「被告人は,今まで親に心
配をかけるようなことをしておらず,いい息子だった。まさかこんなことをやって
いるとは夢にも思わ
ず,親としてあまりにも情けなくて悲しくなった。」などと自己の心情を吐露し,
また,「被告人から荷物の中身がロウソクであると聞いたとここで話をするのが,
被告人にとって不利になると分かっているが,被告人がもし有罪になったならば,
早くその罪の償いをして,とにかく真人間になってもらいたい。」と親としての辛
い立場を述べていることなどに照らせば,Hは,前記のような供述しにくい公判廷
の状況や日時の経過による記憶の減退のなかでも,同人なりに供述していることが
うかがわれ,同人の公判供述は,少なくとも,信用性の高い検察官調書に符合する
限度でその信用性を認めることができる。
(5) これに対して弁護人は,Hの公判廷での供述態度を見れば,Hが誘導に弱い性
格であることは明らかであり,また,本件貨物にロウソクが入っていたと聞いたの
がいつかという点は,最も捜査官による誘導がされやすい事柄であるから,捜査段
階のHの供述は,検察官の誘導により作出された可能性が極めて強いなどと主張す
る。 
 しかし,Hの公判供述及び先に指摘した同人の供述経過を見ても,Hが誘導され
やすい性質の持ち主であるなどとはいえない上,自宅が家宅捜索されるなどした原
因である本件貨物の内容物について,誰から知らされたかなどという点は,極めて
印象的な出来事というべきであって,最も誘導されやすいなどと断ずることができ
ないのはいうまでもないことである。
 加えて,Hの公判供述を見ると,その供述は,被告人から荷物の中身を聞いたと
いう日時等において検察官調書(甲24)と食い違いが見られるが,本件貨物の中
身にクリスマス用ロウソクがあることは被告人から初めて知らされ,その後に警察
官から教えられたとの中核的で重要な部分については,終始一貫して述べられてい
るのであるから,そのような食い違いがあっても,検察官調書に符合する部分の公
判供述の信用性に影響はない。
 この点に関する弁護人の主張は,Hの公判供述の一部を取り上げて,Hの捜査段
階の供述及び公判供述のいずれも信用できないなどというものであるから,採用で
きない。  
(6) したがって,Hの供述によれば,被告人は本件貨物の中に本件ロウソクが入っ
ていることをあらかじめ知っていたことが認められ,これに反する被告人の供述は
信用できない。
6 以上のとおり,前記2の各事実及びこれについての被告人の弁解が信用できな
いこと,加えて,前記5のとおり,被告人が本件貨物の中に本件ロウソクが入って
いることをあらかじめ知っていたことなどを総合すれば,被告人は,本件ロウソク
内のコカインの存在を知っており,これを輸入しようとした者であることが認めら
れ,しかも,前記のとおり,海外において,これを国際小荷物宅配業者に運送委託
した者がいたり,Fと被告人とが,平成14年12月10日,電話で話した際,被
告人に本件貨物の運送状番号を教示した者がいることなどに照らせば,共犯者がい
ることは容易に推測され,被告人の単独犯行とは見られないのであり,前記2,5
の各事実を総合すれば,被告人が共犯者と共謀したことが認められ,加えて,本件
輸入に係るコカイン
の重量は約390グラムと多量であって,これが末端価格で約2340万円にも相
当する高額なものであったことからすれば,被告人には営利目的があったことが認
められる。
7 これに対し,弁護人は,本件貨物の配達の際の電話で,本件貨物を受け取れな
いことや被告人の居所が東京であるとHが話したことにつき,被告人が怒ったのは
不自然とはいえないから,そのような事実は本件を認める間接事実とはなり得ない
などと主張するが,確かに,弁護人指摘の点のみを取り上げて個別に見れば,被告
人の言動を安易に不自然と断ずることはできないものの,前記2において認定した
事実の流れを見れば,被告人が上記のような言動を取ったというのは,やはり不自
然といわざるを得ない。
  また,弁護人は,被告人がコカインの密輸を共謀していたとすれば,宛名や宛
先を誤るはずがないとも主張するが,宛名が被告人の名前と異なっていたのは,本
件貨物を受け付けたM国におけるEの受付担当者が運送状の記載を誤ったためであ
り(甲31),宛先の番地については,被告人の弁解によったとしても,本件貨物
を委託した犯人は,Bなる者から被告人の実家の住所を教えられて,高額なコカイ
ンを他ならぬ被告人の実家宛に送ろうとしたのに,その被告人の実家の住所を現に
間違えたというのであるから(前記のとおり,被告人及び弁護人は,本件貨物が被
告人宛に送られてきたことは認めている。),被告人が共謀していないから宛先を
誤ったなどといえないことは明白であり,弁護人の主張は失当である。
8 以上のとおり,本件においては,被告人の供述をはじめ,犯行に関与した者の
直接証拠はないものの,関係各証拠から認められる事実により被告人の本件犯行は
優に認定することができ,弁護人の主張は理由がない。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,氏名不詳者と共謀の上,営利の目的で,ロウソク内に隠匿し
た麻薬であるコカイン塩酸塩約390グラムを輸入したという麻薬及び向精神薬取
締法違反,関税法違反(判示第1)及び覚せい剤を自己使用したという覚せい剤取
締法違反(判示第2)の各事案である。
 犯行の動機を見ると,判示第1のコカインの輸入の犯行の動機は,被告人が否認
しているために明らかではないものの,その量からして密売を目的とするものと認
められ,利欲的なものであって酌むべき事情は全くない。また,判示第2の覚せい
剤の自己使用については,覚せい剤の快楽を又味わいたいとの気持ちから犯行に及
んだというのであるが,その動機は身勝手なものであり,やはり酌むべき事情はな
い。
 次に,判示第1のコカインの輸入の犯行態様を見ると,コカインをロウソク内に
隠匿するなどしてクリスマスカード等とともに梱包し,送付先を敢えて被告人の住
居地でなくその実父方にするなどしたのであり,極めて巧妙で密行性の高い犯行
で,かつ悪質である。しかも,コカインの量は約390グラムと極めて多量であ
り,その量からしても重大な犯行であって,捜査によってコカインの害悪拡散の危
険は未然に防止されたものの,仮に捜査機関に本件犯行が発覚しなかった場合に
は,上記の多量のコカインの害毒が社会に拡散され,その悪影響は甚大であったと
いうべきであり,犯情は悪い。
 加えて,被告人は,平成3年3月25日,覚せい剤取締法違反の罪(所持と使
用)により懲役1年,3年間執行猶予に処せられた前科がありながら判示第2の覚
せい剤の使用の犯行に及び,しかも,被告人の供述によれば,平成14年9月以
降,反復して覚せい剤を含有する錠剤を服用していたというのであるから,被告人
の覚せい剤への親和性,依存性は根深いものがあると認められる。
 以上の事情にもかかわらず,被告人は,判示第1の犯行を全面的に否認して不自
然,不合理な弁解を繰り返しているのであって,各犯行について,今後の再犯のお
それも疑われ,被告人の刑責は重大といわざるを得ない。
 そうすると,上記の前科は10年以上前のものであり,判示第2の覚せい剤の自
己使用の犯行についてはこれを認めていることなどの事情を最大限考慮しても,主
文の実刑及び罰金刑に処するのが相当である。
 よって,主文のとおり判決する。
       平成15年10月20日
          仙台地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 本 間 榮 一
裁判官 齊 藤 啓 昭
裁判官 菅 原   暁
    

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