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裁判例


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       主   文
被告は、原告に対し、金五三万五、〇五八円及びこれに対する昭和四八年六月一二
日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
被告は、原告に対し、別紙目録記載の映画フイルムの完成プリント一三本を引渡
せ。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の各負担とする。
この判決は、第一項に限り執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
(一) 被告は、原告に対し、金一、三〇八万六、五二五円及びこれに対する昭和
四八年六月一二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被告は、別紙目録記載映画フイルムの各篇冒頭部分の「東京福原フイルム
ズ作品」と表示したタイトル、映写時間八秒、長さ五呎の部分を切除せよ。
(三) 被告は、原告に対し、別紙目録記載の映画フイルムの完成プリント一三本
を引渡せ。
(四) 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに右(一)につき仮執行の宣言を求める。
二 被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。
との判決を求める。
第二 当事者の主張
一 請求原因
(一) 原告の著作権及び原、被告間の契約
1 原告は、被告から、昭和四〇年一〇月ころ、九州地方の文化映画の製作を依頼
されてこれを受諾し、同月二〇日九州へ赴きその映画製作に着手し、別紙目録記載
の一三篇からなる映画フイルム(以下「本件映画」といい、各篇を示すときはその
題名で表示するものとする。)の企画、演出、編集、シナリオ作成及び録音などを
行い、「遠賀川」を除く一二篇を昭和四一年一月二六日から同年三月二三日までの
間に、「遠賀川」を同年六月七日にそれぞれ製作完成し、本件映画一三篇を被告に
引渡した。
右のとおり、本件映画は、原告が単独で著作し、その著作権を有するものである。
2 原、被告は、当初、本件映画の製作につき、原告の企画に基づいて九州地方の
風景に絡ませた歴史、文学等を主題とした映画を一三篇作成するとその簡単な口頭
契約を締結していたものであるが、昭和四一年五月二五日、本件映画の製作その他
について、書面をもつて次のとおりの契約を締結した(甲第一号証。以下(本件契
約」という。)。
第一条 本映画は、一本映写時間正味一二分三〇秒(四五〇呎)総計一三本を、カ
ラー一六ミリトーキーフイルムにより製作する。
第二条 本映画の製作に際し、甲(原告を指す。以下同じ。)は、構成、脚本、演
出、編集、録音を担当し、乙(被告を指す。以下同じ。)は、撮影その他必要物
(製作費を含む。)を負担する。
第三条 本映画の所有権(ネガ、ポジフイルム)及び著作権(上映権、放送権、有
形無形複製権その他興業権、人格権等)は、甲、乙共有とする。従つて、甲乙共に
相手当方の同意なく本映画の一部たると全部たるとを問わず、第三者に譲渡し若し
くは賃貸し、且つまた自己又は第三者のための担保の用に供してはならない。
第四条 前条の規定に従い、乙は本映画の取扱いに関し、左の事項を履行しなけれ
ばならない。
1 乙は、本映画を甲の同意なく、カツト、再編集、タイトル、サブタイトルの変
更その他甲の人格を毀損するような行為又は改変を行わないこと。従つて、乙は甲
に一三本の完成プリントを提供すること。
2a プリント販売、上映、放送、興業等を行うときは、契約書その他必要書類を
甲に提示すること。
b 乙は、本映画のNGフイルム及びキープフイルムを他の目的に使用することを
得。
3 内外コンクールに本映画を出品する際は、必ず事前に甲に提示し、通知し、承
諾を受けること。
4 本映画の宣伝、広告、PRに際しては、必ず事前にその原稿を甲に提示し承認
を受けること。
第五条 乙は、甲に対して製作費(著作権料を除く。)として金五〇万円を昭和四
一年五月二六日支払う。
第六条 前項に規定する製作費以外に日本国内においてプリント販売、上映、放送
その他本映画の営業活動に伴う収入は、左のとおり配分するものとする。
1 甲の活動による場合
甲は七〇パーセントとし、乙は三〇パーセントとする。
2 乙の活動による場合
乙は七〇パーセントとし、甲は三〇パーセントとする。
分配は、その都度日時を定め履行する。
(第七条、第八条略)
第九条 甲、乙いずれかが、本契約に違反した場合は、それぞれの相手方に対し、
契約解除の効力発行日及び解除の理由とを記した文書による通知を送り、本契約を
解除することができ、また受けた損害の賠償を請求することができる。
第一〇条 乙の都合により本映画の製作を中止した場合は、乙は甲に対し、キヤン
セル料を支払うものとする。
(以下略)
(二) 著作者人格権及び著作権侵害に基づく損害賠償請求
1 被告は、本件映画の著作者が原告であることを知りながら、原告に無断で、本
件映画各篇の冒頭に、「東京福原フイルムズ作品」という虚偽の著作者名義を示す
タイトル・フイルムを加え、著作者の氏名を変更隠匿し、原告の本件映画について
有する氏名表示権を侵害した(旧著作権法第一八条第一項)。すなわち、本件映画
一三本シリーズには、その末尾に「東京福原フイルム製作」との表示並びに原告、
被告会社代表者及び助手等の氏名が表示され、本件映画のいわゆる製作者が被告で
あることが表示されているほかに、本件映画各篇の冒頭に「東京福原フイルムズ作
品」と表示されているのであるが、(1)右表示は、その表示中の「作品」という
言葉が著作者がだれであるかを示すものであるから、東京福原フイルムズが著作者
であることを示しているのであり、(2)仮に右表示が著作権の帰属を示すトレー
ドマークであるとすれば、原告が著作者であることを示すクレジットマークは何ら
表示されていないことになるし、(3)仮に右表示が著作権の帰属を示すものであ
るとしても、この表示は、第三者に本件映画の著作者が東京福原フイルムズである
と誤認させる類のものであり、現に朝日放送株式会社をそのように誤認させたもの
である。なお、本件映画の末尾に、製作スタツフと同列に、「脚本、構成、【P
1】」と表示されているが、この表示は、脚本及び構成の著作者名を示すクレジツ
トマークであつて、本件映画の著作者名を示すクレジツトマークとはいえず、若し
も著作者であることを示すとすれば、「演出、【P1】」又は「【P1】作品」と
いうようなものでなければならない。右のとおりであるから、本件映画各篇冒頭に
「東京福原フイルムズ作品」と表示した被告の行為は、著作者である原告の氏名を
変更隠匿するものであり、原告が本件映画について有する氏名表示権を侵害するも
のである。更に、被告は、本件映画に「東京福原フイルムズ作品」という表示のあ
るタイトル・フイルムを加えることにより本件映画の呎数四五〇を四五五とし、原
告が、本件映画について有する同一性保持権を侵害した。
 原告は、被告の右侵害行為により重大なる精神的損害を被つた。原告の被つた右
精神的損害に対する慰藉料額は、本件映画各篇当り金三〇万円、合計三九〇万円が
相当である。
 右金額が相当である理由は、次のとおりである。
 原告は、昭和元年、東京府立第一高等女学校卒業後、共立女子大学から文化学院
大学部美術学部に進み、昭和四年同大学を卒業したものであるが、在学中から二科
会、独立美術協会、一九三〇年協会、アンデパンダン等に作品を発表し、他方催青
会、くろも会の同人として画道に専念した。原告は、昭和九年、読売新聞社に入社
し、以来記者として文化権、婦人権の記事を担当し、戦後は、民放ラジオのライタ
ーとして、ラジオ東京、大阪朝日放送の東西のキー局から全国各ネツト局に送るド
ラマ、デイスクジヨツキーのシリーズ、CMを執筆し、トクホン、アネホルモンエ
ーのCM等を対象とするラジオ民放賞を受けた。次いで、原告は、昭和二八年日本
テレビの発足とともに読売新聞社から日本テレビに移籍し、教養部責任者として教
養プロの企画に従事し、また主任プロデユーサーとして各デイレクターの養成に当
る一方、作家として文学、美術、科学及び山岳等のジヤンルにおいてテレビ番組や
映画の脚本の製作、演出を続け、この間皇族が始めてテレビにタレントとしてレギ
ユラー出演する企画をした【P2】のシリーズ「オリエントの旅」については民放
企画賞、日仏文化交流の「廿世紀フランス美術展」の二元放送について新しい美術
放送の演出と技術の成功により正力松太郎賞を受け、国宝を一堂に集めた映画「日
本の国宝」は文部省に買上げられ、その他フランス及び日本各外務省主催の記録映
画「フランス美術展」で民放カラー技術賞を受け、山岳に関しては国内南北アルプ
スをはじめ全国の山々を描き続け、エキスペジシヨンの海外部門ではヒマラヤのビ
ツグホワイトピーフによる「氷の祭壇」、ムクトヒマールによる「ミユールの
鈴」、アラスカの山岳映画「マツキンレー」、同地方のドキユメンタリー映画「ア
ラスカの顔」について民放映画賞、「加賀、能登」、「長崎遊歩」、「佐賀から柳
川へ」等について全日本観光映画コンクール賞、八ミリ映画作品「金砂田楽」につ
いて全国八ミリコンクール優秀賞などを受賞し、テレビプロ製作本数は二、〇〇〇
本を超え、且つ映画製作本数三五〇本以上を著作した。このように、原告は、絵
画、新聞、ラジオ、テレビ及び映画の道三〇数年を経、昭和四一年末に、学士会々
員故【P3】博士、芸術院会員【P4】、評論家【P5】、早稲田大学教授【P
6】博士、作家【P7】、日展理事金彫作家【P8】等ブレーンの支持により、テ
レビ、映画の企画、脚本製作を業とする株式会社マチプロダクシヨンを設立し、現
在に至つているものである。かくて、原告は斯界においては、特に文化教養物の分
野できわめて高い評価を受けてきたのである。
 ところで被告の前述の侵害行為のために、後述三、1、(2)のとおり、被告が
各放送局に本件映画一三本を提供した際、各放映放送局は、「東京福原フイルムズ
作品」の表示に幻惑されてこれを放映したものであるといえるし、この表示さえな
ければ、各放映放送局が本件映画の著作者を誤り紛争が生じるという可能性も減退
したであろう。
 また、原告は、テレビ界に広く且つ深い関係を持つていたから、それだけ右表示
によりテレビ界における原告の信用が著しく失遂するという影響を受け、この信用
の回復に多大の努力を要したのである。
2 原告は、当初本件映画の一篇として「博多周辺」と題する映画(以下「博多周
辺」という。)の製作をしていたところ、被告からこの製作を止めるよう求められ
たので、その代りに原告の発案によつて被告の承諾の下に「遠賀川」を製作するこ
ととなつた。そこで、原告は、シナリオ作成、演出、編集等の大半を完了し、昭和
四〇年一〇月二〇日から同年一二月二五日にかけて北九州ロケも行い、一部編集済
みであつた映写時間九分五八秒六、長さ三五九呎の未完成品「博多周辺」の製作を
中止し、「遠賀川」を製作して本件映画の一篇にこれを加えた。
 ところが、被告は、昭和四一年七月ないし八月ころ、「遠賀川」を除き、原告の
関知しない映画作品「北九州と博多」と題する映画(以下「北九州と博多」とい
う。)を本件映画の一篇に加え、「九州雑記」一三篇として、その企画台本を一般
に頻布し、かつ日本国有鉄道「以下「国鉄」という。)西部支社に納入した。被告
の右行為は、原告の著作物である本件映画に改ざんその他の変更を加え、原告が本
件映画について有する同一性保持権を侵害したものである(旧著作権法第一八条第
一項)。原告は、本件映画一三篇を「九州雑記」と名付け、一つのシリーズとして
製作したものであつて、一方において九州の各ブロツクのイメージをそれぞれ独立
して特色付けながら、同時に九州という地域社会全体に着目して、その社会的歴史
的観察を通して創出した映画を意図したものであつて、このように一連の作品を一
シリーズとして著作した場合、これをシリーズものとして全体を一つの著作物とし
てとらえることができ、そのうち一部作品を入れ換えて全く別個の作品を加えた場
合、それが本来のシリーズ物の同一性を侵害するものであることは明らかである。
 被告は、「遠賀川」を除き、「北九州と博多」を加えた「九州雑記」について、
構成脚本の担当者として原告の氏名を表示しているのであるが、前述のとおり、
「北九州と博多」は原告の全く関知しない作品であり、しかも除かれた「遠賀川」
は、九州の歴史の要としてシリーズの締めくくりに作成された重要な一巻であつ
て、被告の右行為は、著作者の権利を一顧だにしない映画製作者にあるまじきもの
であつて、原告の信用等を傷つけるものであり、被告の右行為による原告の精神的
苦痛は著しい。
被告の右行為により被つた原告の精神的損害に対する慰藉料額は、前述の原告の経
歴等をも勘案し金一〇〇万円が相当である。
3 被告は、前述の未完成品「博多周辺」の編集済フイルム、未使用フイルム(キ
ープフイルム)に、著作者である原告に無断で、若干部分の切除を施したり、歌手
【P9】のカツトを加えたりして改ざん編集し、つぎはぎの長さ三五八呎の「九州
の旅博多」と題する映画(以下「九州の旅博多」という。)を製作し、「九州雑
記」とは別個にこれを国鉄に納付し、発表した。被告の右行為は、原告が「博多周
辺」について有する同一性保持権を侵害するものである。
 被告の右行為は、原告の未完成作品「博多周辺」を冒涜し、原告の芸術に対する
精神を著しく汚すものである。しかも、被告は、「博多周辺」の製作中止が被告の
要請に基づくものであること、「遠賀川」製作が原、被告の合意に基づくものであ
ることを一切隠蔽し、原告がこれらを一方的に強要した旨主張し、「遠賀川」製作
の出費につき原告に対する損害賠償請求権を取得した旨主張する。原告の受けた精
神的損害は、回復することができない程のものである。被告の右行為により被つた
原告の精神的損害に対する慰藉料額は、前述の原告の経歴等をも勘案すると、金一
〇〇万円が相当である。
4 被告は、昭和四一年三月七日から昭和四二年八月一日七日までの間に、本件映
画の一篇である「牧水のふるさと」について、一六ミリカラーフイルムから八ミリ
カラーフイルムに縮小し、いわゆる海賊版フイルムを作成した。被告の右行為は、
原告が本件映画について有する複製権を侵害するものである。本件契約第四条2、
第六条には、プリント販売について規定されているが、右規定は、一六ミリフイル
ムによることを前提とするものであつて(本件契約第一条参照)、八ミリフイルム
に縮小して販売することは許容されていないのである。
 ところで、原告は、被告の右侵害行為により、次のとのり損害を被つた。すなわ
ち、八ミリカラートーキー映画のプリント製造原価は、昭和三七年ころから昭和四
七年ころまで、高いもので一五分もの一本当り金九、七五〇円であつた。そこで、
右金額にリール、ケース代金三〇〇円を加算した金一万五〇円が、合計実費であ
る。
 ところで、本件映画一三本シリーズの一巻の販売価格は、少なくとも金三万三、
〇〇〇円を下らない。従つて、一本当りの利益は、右金三万三、〇〇〇円から前述
の実費金一万五〇円を控除した金二万二、九五〇円となる。
 そして、この種八ミリカラーフイルムは、業界において一種類について通常二〇
〇本プリント販売されるものであるから、「牧水のふるさと」について、被告が八
ミリカラーフイルム海賊版を二〇〇本プリント販売したことは明らかである。従つ
て、被告が、右侵害行為により得た利益は、前述の一本当り利益額金二万二、九五
〇円に右販売プリント数二〇〇を乗じた金四五九万円であり、原告は、同額の損害
を被つた。
 そこで、原告は、被告に対し、右損害金の内金一〇〇万円の支払いを請求する。
 仮に右主張が認められないとしても、被告の右行為は、原告の人格権を侵害する
ものである。すなわち、(1)一六ミリフイルムである「牧水のふるさと」を八ミ
リフイルムに縮小する行為は、著作物の表現方法を変更するものであつて、原告が
「牧水のふるさと」について有する同一性保持権を侵害するものであり、(2)仮
に被告の右行為が同一性保持権を侵害するものではないとしても、被告の右行為
は、著作者である原告の名誉又は声望を害する方法により「牧水のふるさと」を利
用するものであつて、著作者人格権を害するものとみなされるものであり、(3)
更に、被告の右行為は、原告の一般的人格権を侵害するものである。しかして、被
告の右行為により被つた原告の精神的損害に対する慰藉料額は、金一〇〇万円が相
当である。
5 よつて、被告は、原告に対し、損害金合計金六九〇万円の支払義務がある。
(三) 本件契約に基づく金員支払義務の履行請求
1(1) 被告は、昭和四一年二月ころ以降、本件映画一三本(一三篇)につきプ
リントを作成し、国鉄西部支社に合計一六九本、熊本県、大分県、長崎県及び長崎
市に各一本あて計四本、鹿児島県に二本、総合計一七五本を販売した。そこで、原
告は、被告に対し、本件契約第六条に基づき、右販売によつて被告が挙げた収入の
三〇パーセントに当る金員の配分を求める権利を取得した。ところで、プリント製
造原価は、一本当り金一万三、九五〇円であり、一本当りの販売価額は、金七万
五、〇〇〇円であるから、被告は、原告に対し、右一本当りの販売価額金七万五、
〇〇〇円から右一本当りの製造原価金一万三、五〇〇円を控除した一本当りの収入
金六万一、〇五〇円に前述の販売本数一七五を乗じた額の三〇パーセントに当る金
三二〇万五、一二五円の支払義務がある。
(2) 被告は、教育テレビ、朝日放送、RKB毎日放送、熊本放送、琉球放送
に、それぞれ本件映画一三本を提供し、一本当り放送料相当額金八万円の収入を挙
げた。そこで、原告は、被告に対し、本件契約第六条に基づき、右収入の三〇パー
セントに当る金員の配分を求める権利を取得した。従つて、被告は、原告に対し、
右一本当り収入金八万円に本件映画の本数一三及び提供放送局数五を乗じた額の三
〇パーセントに当る金一五六万円から、原告が被告から右配分金の一部として受領
した金七万八、六〇〇円を控除した金一四八万一、四〇〇円の支払義務がある。
2 前述(二)、2のとおり、原告は、被告から、シナリオ作成、演出、編集の大
半を完了し、一部はその進行中であつた「博多周辺」の製作をキヤンセルされた。
そこで、原告は、被告に対し、本件契約第一〇条及び右キヤンセル時の被告の支払
約束に基づきキヤンセル料の支払いを請求する権利を有する。右キヤンセル料は、
業界の慣行からみて金五〇万円が相当である。被告は、原告に対し、キヤンセル料
金五〇万円の支払義務がある。
3 よつて、被告は、原告に対し、本件契約等による義務の履行として、合計金五
一八万六、五二五円の支払義務がある。
(四) 本件契約に基づく本件映画の完成プリント一三本の引渡請求
 被告は、原告に対し、本件契約第四条に基づき、本件映画の完成プリント一三本
を引渡すべき義務がある。
(五) 著作者人格権侵害に対する原状回復請求
  前述(二)、1のとおり、被告が、本件映画各篇の冒頭に「東京福原フイルム
ズ作品」というタイトル・フイルムを加えた行為は、原告の本件映画について有す
る氏名表示権を侵害するものである。そこで、原告は、被告に対し、旧著作権法第
三六条の二第一項に基づき、原告が本件映画の著作者であることを確保するための
処分として、右タイトル・フイルム、映写時間八秒、長さ五呎の部分の切除を求め
る。
(六) 「加賀、能登」について有する原告の著作者人格権侵害に基づく損害賠償
請求
 原告は、昭和三七年秋ころ、被告会社の前身であるアマチユアグループ訴外福原
フイルムからの依頼により「加賀、能登」と題する映画(以下「加賀、能登」とい
う。)のシナリオを書き、且つ演出等を行い右映画を製作した。原告は、これを昭
和三八年三月完成したが、その引渡先が昭和三七年一二月に設立された被告である
ことを知り、被告から右映画製作上の資料の収集のための実費として金五万円を受
けて右映画を被告に引渡した。
 ところで、原告は、被告に対し、「加賀、能登」を金沢鉄道局に貸与し又は引渡
し、同局が内部的に映写することだけを許諾したに過ぎないのに、被告は、原告に
無断で、「加賀、能登」をプリント製作し、「製作福原フイルム」と表示して放送
局からこれを放映した。被告の右行為は、原告が右映画について有する氏名表示権
及び公表権を侵害するものである。原告は、被告から、右テレビ局からの放映につ
き何らの連絡も受けず、被告の右行為を本件訴訟において始めて知つたのである。
これを知つた原告の精神的損害は著しい。右侵害行為により原告が被つた精神的損
害に対する慰藉料は、金一〇〇万円が相当である。被告は、原告に対し、損害金一
〇〇万円の支払義務がある。
(七) 結論
 よつて、原告は、被告に対し、損害金及び本件契約に基づく支払請求金合計金
一、三〇八万六、五二五円及びこれに対する請求拡張の申立書送達の日の翌日であ
る昭和四八年六月一二日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅
延損害金の支払い、本件映画各篇冒頭の「東京福原フイルムズ作品」と表示した部
分の切除並びに本件映画の完成プリント一三本の引渡しを求める。
二 被告の答弁及び主張
(一)1 請求原因(一)、1のうち、原告が本件映画製作に関しシナリオ作成を
担当し、その著作者の一人であり、本件映画につき著作者人格権を有することは認
めるが、その余の事実は否認する。被告は、原告に対し、本件映画製作につき映画
の構成、脚本の作成を依頼したに過ぎない。
2 同(一)、2のうち、原、被告間に本件契約書が作成されたことは認めるが、
その余の事実は否認する。原告主張の製作費用金五〇万円は、原告の本件映画の構
成、脚本の作成に対する報酬として支払う旨約したものである。
3 本件映画が作成されるに至つた経緯及び本件映画の権利関係は、次のとおりで
ある。
 被告は、昭和四〇年一〇月一六日、国鉄からテレビ巡回映画用観光映画「九州路
を行く」の製作注文を受け、同月一五日付で次のとおりの右映画の製作請負請負契
約(以下「本件請負奨約」という。)を国鉄との間に締結した。
(1) 契約年月日 昭和四〇年一〇月一九日
(2) 請負物件名
総天然色発声映画「九州路を行く」、一六ミリスタンダード・イーストマンカラ
ー、一本一四三メートル、製作本数一三本
(3) 期限
撮影開始 契約締結の日、撮影完了 昭和四一年三月二〇日、納期 同日
(4) 納入物件
初号プリント、イストマンカラー一六ミリ、スタンダード、一本一四三メートル、
一三本
(5) 請負代金六五〇万円
(6) 物件受渡場所
北九州市<以下略>日本国有鉄道西部支社 
(7) 支払請求場所   右に同じ
(8) 請負代金支払場所
北九州市<以下略>門司鉄道管理局経理部出納係
(9) 契約条項
第一条 被告は、別冊の脚本によつて映画「九州路を行く」(一三本)を、国鉄又
は国鉄の指定する職員の指示を受けて撮影し、頭書2号から5号までの条項に基づ
いて製作の上、指定の納期までに頭書6号の場所において国鉄に引渡すものとす
る。
2 被告は、この契約締結の日から一〇日以内にその物件の製作責任者及び製作日
程その他必要な事項を国鉄に通知するものとする。
3 前項について変更の必要を生じたときは、あらかじめ国鉄の承諾を得た上で行
うものとする。
第二条 (前払金)国鉄は、被告に対し、頭書の契約金額の三分の一に相当する金
額を、撮影の前半を終了した際前払いするものとする。
 前項の場合、国鉄は被告に対し、撮影経過報告を求め確認するものとする。第一
項の前払金は国鉄が被告に頭書の代金を支払う際に、当該前払金及び利子日歩二銭
の割合にて計算した額を差引き積算するものとする。
第三条 (仕様)ネガ及びプリントに使用するフイルムは、米国製イーストマンカ
ラー一六ミリ・スタンダード版規格を使用するものとし、編集仕上りは一本の長さ
一四三メートルとする。但し、編集上の都合により多少の増減は認める。
第四条 (履行の委任・債務の譲渡等)被告は、第三者にこの契約に基づく債務の
全部又は一部の履行を委任し、若しくは請負わせ又はこの契約によつて生ずる債権
を譲渡してはならない。
但し、国鉄の承諾を得た場合はこの限りではない。
第五条 (延期等の通知)被告は、頭書の期限までにこの映画製作を完成すること
ができないと認めたときは、速やかに国鉄へその事由及び延期日数を通知するもの
とする。
 前項の場合、その事由は被告の責に帰することができないと認めたときは、国鉄
は適当と思われる日数を延期することができる。
第六条 (履行の延滞及び延滞金)国鉄は、前条による延期の事由が被告の責に帰
すると認めたときは、延滞金を徴して延滞を承認する。この場合の延滞金は、遅延
日数一日につき請負代金の五〇〇分の一に相当する金額とする。
第七条 (完成の通知)被告は、この映画製作を完成したときは、国鉄に通知する
ものとする。
第八条 (検査及び譲渡)国鉄は、前条の通知を受けた日から七日以内に検査日及
び場所を指定して、被告と立会の上検査をし、作品の完成を確認の上受渡しの手続
きをする。
 この場合における労務及び資材は、被告の負担とする。被告は、検査完了の日か
ら七日以内に国鉄の指定する場所に受渡さなければならない。
第九条 (対面の支払)被告は、現品の受渡しがあつた後、その代金の支払いを国
鉄に請求することができる。
2 被告は、前項の定めにより代金の支払いを国鉄に請求しようとするときは、国
鉄の定める支払請求書に関係書類を添付して頭書の個所にこれを提出するものとす
る。
3 国鉄は、前項の支払請求書を受理した日から三〇日以内に被告にその代金を支
払うものとする。
第一〇条 (遅延利息)国鉄は、天災地変等止むをえない事由による場合を除き、
前条第三項に定める期間内に代金を支払わなかつたときは、その期間満了の日の翌
日から支払いをした日までの日数に応じ、当該支払金額に対して日歩二銭七厘の割
合で計算した金額を被告に支払うものとする。
第一一条 (放映)被告は、この映画完成後なるべく速やかに東京及び大阪におい
てテレビ放送を実施するものとする。この場合の放送に関する経費は、被告の負担
とする。但し、無料放映によることを妨げない。
第一二条 (版権の帰属)頭書の物件の版権は、国鉄に帰属するものとする。
第一三条 (契約の義務違反)国鉄は、被告がこの定める契約に違反してその目的
を達することができないと認めたときは、この契約を解除することができる。
2 被告は、前項の解除があつた場合は、違反金として契約金額の一〇分の一に相
当する金員を支払うものとする。
第一四条 (紛争等の解決方法)この契約に定めていない事項又は疑義を生じた事
由については、その都度国鉄と被告が協議して定めるものとし、協議が調わないと
きは法令の定めるところによるものとする。
右契約の締結に先立ち、被告は、右契約を成立させるために、企画台本を作り、製
作スタツフとして脚本、演出、音楽、撮影等の各担当者及び相当予定者を定めた
り、その他製作見積等を記載した企画書を国鉄に提出したのであるが、その際、原
告をシナリオ・ライターの候補者の一人として国鉄に申し出た。そして、前述のと
おり、被告は、原告に対し、本件映画の製作につき構成、脚本のみを依頼し、原告
はこれを承諾したのである。
 製作者である被告のスタツフとして、構成、脚本は原告、撮影、編集は被告会社
代表者【P10】、撮影は被告会社従業員【P11】ほか四名、録音はアオイ・ス
タジオ、現象は東洋現像所ほか一名というように、それぞれ担当者が決定され、被
告において、本件映画のうち「遠賀川」を除く一二本を本件請負契約の納期前後に
完成し、これを本件請負契約の履行として国鉄西部支社に納入した。これが、一三
本シリーズ「九州雑記」である。
 被告は、本件請負契約第一一条に基づき、本件映画のうち完成した各篇から逐次
一回金一万円の料金で教育テレビで放映を始めたところ、原告は、右料金が不当に
安過ぎると異議を唱え、残りの一篇「遠賀川」の完成に協力せず、被告は、これを
期限内に国鉄に納入することができなくなつてしまつた。
 そこで、被告は、国鉄との本件請負契約を履行するため、原告の協力を得られな
いならば、自ら脚本、構成を作成せざるを得ないと考え、その旨原告に申し出たと
ころ、原告は、そんなことをすれば訴えるなどと被告を脅した。
 被告は、原告から、昭和四一年五月二五日、契約書に署名したら仕事にかかると
の申し出を受け、被告会社代表者が原告に赴いたところ、既に用意されていた契約
書を見せられ、これに署名捺印するよう原告から求められた。被告会社代表者は、
右契約書を一読し、原告に一方的に有利な条項のみ記載されていることを知つた
が、この契約書に署名しなかつたならば、映画は完成せず、国鉄に対する義務を果
たすことができないので、この際原告のいうなりにならざるをえないと考え、意に
反して止むなく右契約書(甲第一号証)に署名捺印した。そして、被告は、原告に
対し、報酬金五〇万円の支払いを了した。そこで、原告は、「遠賀川」につき自己
の担当の仕事を再開し、その仕事を昭和四一年七月近くに終えた。
 本件映画の製作過程において、原告は、その構成、脚本を担当するに当り、被告
から国鉄との本件請負契約の内容につき十分説明を受け、自らも国鉄の担当者と協
議し、あるいは担当者から指示を受け、本件映画の製作者は被告であつて、自己は
その製作の一部門である構成、脚本を担当するのみであることを十分承知し、右担
当の仕事をしたのである。
 原告の本件映画製作上の役割は、右のとおりであつて、原告は、「その映画の著
作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(新著作権法第一六条本文参照)の一人
といえるので、本件映画の著作者で著作人格権は有するけれども、本件映画の製作
者は、前述の事実から明らかとおり、被告であり、原告は、被告から報酬を得て被
告の映画製作の一部門に参加することを約したに止まり、独自の立場で製作する意
図もなかつたのであるから、本件映画についての著作権は、原始的に被告に帰属し
(新著作権法第二九条第一項参照)、原告は本件映画につき著作権を有しないもの
である。被告は、国鉄に対し、「遠賀川」を除く一二本は昭和四一年三月三〇日
に、「遠賀川」は同年六月下旬ころにそれぞれその著作権を譲渡した。
(二)1 同(二)、1のうち、本件映画各篇の冒頭に、「東京福原フイルムズ作
品」というタイトルがあることは認めるが、その余の事実は否認する。
2 同(二)、2のうち、被告が原告主張の「九州雑記」(「遠賀川」が含まれた
もの)を国鉄に納入したことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同(二)、3は、否認する。
 脚本、構成の担当者である原告は、本件映画製作過程における国鉄西部支社の注
文指示に従わず、国鉄西部支社が希望する博多を中心とする風物を本件映画の中に
採り入れず、強引に「遠賀川」の製作を主張し、実行したため、一三本の納入試写
直後、博多が抜けているのは困る旨国鉄西部支社からの要請があり、被告は、博多
を十分盛り込んだ映画を別に製作せざるをえず、自ら脚本を作り、原告とは全く関
係なく、「九州の旅博多」を作成し、一三本シリーズ「九州雑記」とは別個に、こ
れを国鉄西部支社に納入したのであつて、原告の主張するように「博多周辺」を改
ざん、再編集して作成したものではないし、従つて、その改ざん、再編集して作成
したもののプリントを作成し、販売し、あるいはテレビ放映したということもあり
得ない。
4 同(二)、4のうち、被告が「牧水のふるさと」につき一六ミリフイルムから
八ミリフイルムに縮小したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(三)1(1) 同(三)、1、(1)のうち、被告が本件映画一三本につきプリ
ントを作成し、販売したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、本件
映画一三本の完成後、本件請負契約に基づき、逐次プリントを国鉄西部支社に引渡
し、その後右契約とは別個に、国鉄西部支社から本件映画のプリント製作の依頼を
受け、これに基づき、昭和四一年一〇月ころ、合計一四三本のプリントを作成し、
請負代金三五四万六、四〇〇円で国鉄西部支社に納入した。右プリント製造原価
は、金二〇〇万円であつたから、利益は差引き金一五四万六、四〇〇円であつた。
その後、被告は、国鉄の依頼により、国鉄観光協会を通じて、昭和四一年四月こ
ろ、鹿児島県に「桜島の噴煙」、「薩南の島々」各一本、同年一二月、熊本市に
「肥後に見たもの」一本、昭和四二年二月、長崎県及び長崎市に「長崎遊歩」各一
本、同年一二月大分市に「豊後路礼讃」一本合計六本のプリントを製作し、一本当
り金四万五、〇〇〇円、合計金二七万円で売渡した。この場合の製造原価は、金八
万三、七〇〇円であつたから、利益は差引き金一八万六、三〇〇円であつた。
 被告が国鉄西部支社に対し本件請負契約に基づいて引渡した本件映画一三本につ
いては、利益がきわめて少額であることから、原、被告は、本件契約書作成に当
り、右フイルムについては契約の範囲から除外した。従つて、前述のプリント一四
三本納入の時も、その利益を原告に配分しなかつたのである。
(2) 同(三)、1、(2)のうち、被告が本件映画のプリントを原告主張のテ
レビ局に提供したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、教育テレビ
に本件映画のプリント一三本を一本当り手数料金一万円合計一三万円で、熊本放送
に同八本を一本当り手数料四、〇〇〇円、合計金三万二、〇〇〇円で、朝日放送及
びRKB毎日放送にそれぞれ同一三本を一本当り手数料四、〇〇〇円、合計金五万
二、〇〇〇円で、琉球放送に同一三本を一本当り手数料金五、〇〇〇円、合計金六
万五、〇〇〇円から仲介手数料金二万九、〇〇〇円を控除された金三万六、〇〇〇
円で各提供した。本件映画は、一般の劇映画と異なり、国鉄などが観光宣伝のた
め、無料で、あるいは逆に劇場、テレビ局に手数料を支払つて放映して貫うような
性質のものであつて、本件映画から原告主張のような利益が挙げられるものではな
い。そのようなものであるから、国鉄西部支社も、本件請負契約第一一条におい
て、被告にテレビ放映の義務を負わせているのである。本件映画に利益性のないこ
とは、原告において、本件映画のプリント一本を北九州市に金四万円で販売し、被
告に原価金一万六、〇〇〇円を支払つたことがあるだけで、そのほかには販売でき
ないでいることからも明らかである。
 なお、被告は、原告に対し、本件契約に基づく右テレビ放映の利益の三〇パーセ
ントを分配すべく、昭和四二年一二月二一日、同年度の利益分配として金七万八、
六〇〇円を送付した。
2 同(三)、2は、否認する。
(四) 同(四)は、否認する。被告は、本件契約成立以後において、本件映画一
三本のモノクロフイルムを原告に引渡した。ところで、本件契約第四条には、引渡
すべきプリントは、カラープリントとなつているが、資金の関係で、被告から原告
に対し、モノクロフイルムにして貰いたい旨申し出たところ、原告がこれを諒解し
たので、モノクロフイルムで引渡したのであつて、被告は、本件契約第四条の義務
を履行している。
(五) 同(五)は、争う。本件映画の冒頭部分の「東京福原フイルムズ作品」と
いう表示は、著作権の帰属主体を表示するものではなく、また、原告が構成、脚本
を担当したことは、本件映画に明確に表示されているのであるから、右表示によつ
て原告の著作者人格権が侵害されるということはない。一般に業界において、「東
映作品」、「東宝作品」というように、製作者のタイトルが付されているが、それ
は著作者人格権の帰属とは何ら関係がないのであつて、本件映画の場合も同様であ
る。
 仮に、右「東京福原フイルムズ作品」という表示が、原告の著作者人格権を侵害
するものであつたとしても、右表示は、昭和四一年二月ころから逐次完成していつ
た本件映画の各篇に表示されていたものであるが、原告も、これを認識し、諒承し
て何ら異議を唱えなかつたものであるから、その切除を求める権利を放棄したもの
と認められる。
(六) 同(六)のうち「加賀、能登」につき原告がシナリオを書き、被告が原告
にその報酬として金五万円を支払つたこと、被告が右映画をプリントし、放映した
ことは認めるが、その主張は争う。
(七) 本件契約は、後述のとおり、その効力を有しないものであるが、仮に本件
契約が後述の理由により効力を有しないものではないとしても、本件映画について
原告が著作者人格権を有するが著作権を有せず、著作権は被告が原始的に取得しこ
れを国鉄に譲渡し現に国鉄がこれを有するという前述の権利関係は、本件契約によ
つて左右されない。すなわち、本件契約が締結されたのは、国鉄が被告から本件映
画(「遠賀川」を除く)につき著作権の譲渡を受けた後であつて、後に締結された
契約をもつて右譲渡が左右されるいわれはないからである。
(八) 本件契約は、効力を有しない。すなわち、本件契約は、原告に一方的に有
利な、他方被告にきわめて不利な事項を定めている。本件契約第二条には、本件映
画の製作に当つて、原告は構成、脚本、演出等を担当し、被告は撮影その他必要物
(製作費を含む)を負担する旨定められており、それであるからこそ、同第三条に
は、原、被告両名において本件映画の所有権、著作権を共有する旨定められたもの
であるのに、同第五条には、被告は原告に対し製作費として金五〇万円を支払う旨
定められ、原告は第一条で分担した仕事について独り対価を受けることになつてお
り、もし原告が独り対価を受けるというのであれば、それによつて原告の有してい
た共有持分が被告に移転し、被告が単独の権利者になるのが当然であるのに、原告
は対価を受けた後も、権利を主張することができる条項が定められている。ちなみ
に、業界においては、構成、脚本の担当者は、製作費の五パーセントないし一〇パ
ーセントの報酬を得て爾後製作物について著作権その他の権利を主張しないのが通
常である。
本件契約においては、更に、テレビ放映、プリント販売等において通知したり、書
類を提示したりすべき義務を被告のみ負担することが定められているのである。
 以上のとおり、本件契約には、その内容が一方的に原告の利益に偏しているが、
これは、原告が、被告の窮状に乗じ自己に有利な条件を確保しようとして、前述の
とおり、本件契約に応じなければ本件映画の製作に協力しないと主張し、被告会社
代表者を畏怖させ、その意思を抑圧してされたもの、すなわち原告の強迫による意
思表示であるから、被告は、昭和四四年六月七日の本件口題弁論期日において、本
件契約を取り消す旨の意思表示をした。従つて、本件契約は効力がなく、本件契約
に基づく原告の請求は、理由がない。
(九) 仮に、本訴債権が認められるとしても、被告は、次のとおり、原告に対し
損害賠償請求権金七三万一、四一六円を有するので、昭和四四年七月九日の本件口
頭弁論期日において、右損害賠償請求債権をもつて、原告の本訴債権とその対当額
において相殺する旨の意思表示をした。従つて、右相殺の程度において、原告の本
訴金員支払請求は、理由がない。
 被告の原告に対する右損害賠償請求債権の取得原因は、次のとおりである。
1 原告は、前述のとおり、発初予定されていた博多を中心とした映画の製作に協
力せず、「遠賀川」の製作を主張、固持したため、被告において、余分な「遠賀
川」についてのロケーシヨンをする等次のとおりの出費を余義なくされた。
(1) 一六ミリカラーネガ一〇〇呎巻一一本分、合計額五万一、三七〇円
(2) 右ネガ現像金一万一、〇二五円
(3) 右ラツシユプリント金七、四九三円
(4) カメラマン日当、一名の八日分金三万二、〇〇〇円
(5) カメラマン助手日当、二名の八日分金三万二、〇〇〇円
(6) カメラ使用料八日分金三万二、〇〇〇円
(7) 宿泊食事費三名の八日分金七万二、〇〇〇円
(8) 現地交通費三名分金二万四、〇〇〇円
(9) 往復交通費三名分金二万八、四四〇円
(10) 諸雑費金一万円
合計 三〇万三二八円
2 前述のとおり、原告の不協力により、被告は、新たに「九州の旅博多」を製作
しなければならなくなつたものであるが、その製作に合計金三四万六、六五八円の
出費をした。
3 原告は、本件映画の製作につき、その構成のミスのため、「桜島の噴煙」中
で、「大隅半島」を「薩摩半島」と、「肥後に見たもの」の中で「日蓮宗」を「日
蓮正宗」と、「遠賀川」の中で「泥にまみれし」を「泥によごれて」とそれぞれ間
違つて録音されてしまう結果をもたらし、納入後国鉄西部支社からその誤まりを指
摘され、被告において急きょ訂正したが、その作業に金八万四、四三〇円の出費を
した。
4 以上の出費は、原告被告間の本件映画の製作についての契約に基づき原告が編
成、脚本をすべき債務の不履行によるものであるから、被告は、原告に対し、右1
ないし3の総額金七三万一、四一六円の損害賠償請求権を取得した。
三 被告の主張に対する原告の答弁及び反論
(一) 被告は、原告が本件映画の著作者の一人であり、本件映画について著作者
人格権を有することは認めながら、著作権に有せず、現に国鉄がこれを有する旨主
張する。しかし、被告の右主張が理由のないことは、次のとおりである。
 被告の主張によれば、原告は被告から本件映画の構成、脚本のみ依頼を受けたも
のであるというのであるが、原告は企画台本を書きそれを基としてロケ演出をし、
また同様にフイルム編集を行い、その編集フイルムに基づいて脚本を仕上げ、更に
それに録音を加えた。つまり原告は、劇映画における原作者、監督、編集者、シナ
リオライター、更に録音演出を兼ねた役割を果し、原告が本件映画を著作したもの
であつて、構成、脚本のみを担当したのではない。被告会社代表者は、編集面につ
いては、単に原告の助手的立場においてフイルムのつなぎの仕事をしたに過ぎない
し、撮影についても、原告の具体的指示に従つて単にカメラの操作をしたに過ぎな
い。
 原告は、被告と国鉄との本件請負契約については全く関知しないところであつ
て、右契約があるからといつて、原告の本件映画について有する著作権が否定され
る理由はない。もともと被告は、本件映画について著作権を有しないのであるか
ら、国鉄が著作権の移転を被告から受け得るはずがないのである。
 被告は、国鉄との間の契約を成立させるために、被告自ら企画台本を作り、企画
書を国鉄に提出した旨主張するが、本件請負契約第一条には、被告は「別冊の脚
本」によつて映画を撮影する旨記載されているとろであり、企画台本、企画書及び
脚本がそれぞれの別個のものであることが明らかであつて、被告が企画台本、企画
書を作成したことをもつて、被告が本件映画について著作権を取得した根拠とはし
得ない。
 被告は、本件映画の製作過程において、原告に国鉄との請負契約の内容を十分説
明した旨主張するが、原告が聞いたの納入日が三月末日であるということだけであ
る。また、原告が国鉄と協義したことはあるが、右契約の内容についてではなく、
もつぱら映画製作上の打ち合わせであつた。
 被告は、著作権法第二九条を援用して、被告が本件映画の著作権を原始的に取得
したものであると主張する。しかし、本件には、旧著作権法が適用されるのであ
る。ところで、旧著作権法下では、映画の著作者が映画の著作権者であるという前
提に立ち、映画の製作者はだれであるかについて、映画製作者である映画会社であ
るとする説、映画監督ないしシナリオライターであるとする説、及び各共働者が共
同著作者となるとする説とが存したが、映画の本質は映像の連続にあり、これを創
造的に表現するのはシナリオライターであるとする説が正しく、この説によれば、
原告が本件映画の著作者であり、従つて著作権者であることが明らかである。仮
に、映画監督が著作者であるとする説あるいは映画の企画者又は発意者としての映
画製作者が著作者であるとする説が正しいとしても、原告は、国鉄からテレビ用の
九州の文化映画を作りたいと開かされただけで、自らの構想に基づき、ワンクール
一三本とすることとし、この一三本という分量に添うように構成台本をまとめ、ロ
ケハンをし、各巻のシナリオを作成し、ロケを行い、演出をし、もつて原告の発意
と創作力によつて本件映画全体を創作し、後に編集、録音をもしたのであるから、
右説によつても、原告が本件映画の著作者であるということができる。
なお、映画著作権が映画製作者に帰属するとする説の根拠として、映画製作者と映
画著作者(監督ないし製作スタツフ)との間に雇用関係ないし専属契約という従属
的な契約関係があるからであるとする考えがあるが、本件映画の製作について、原
告と被告との間には右のような関係は全くない。また被告は、被告は映画製作者で
あると主張するが、映画製作者とは、新旧両著作権法上、映画製作について発意と
責任とを有する者をいうものであるところ、この責任には、(1)スタツフの構
成、(2)製作進行、(3)完成フイルムのプリント製作、(4)資金上の責任を
含むものであるのに、被告が果たしたのは右のうち(3)及び(4)だけであり、
発意にしても、被告というより原告がその主要部分、すなわち映画本数を一三本と
する提案、一三本の映画の内容の発案、構成を行つているのであつて、被告は、単
にテレビ用の九州の文化映画を製作しようとしただけで、企画をしたに過ぎないの
であるから、映画製作者ではない。仮に、新著作権法の適用があるとしてみたとこ
ろで、本件は、同法第二九条が適用される場合には当たらないのである。
 なお、被告は、原告が本件映画の教育テレビの放映料金が不当に安過ぎると異義
を唱え、「遠賀川」の完成に協力しなかつた旨主張する。しかし、原告は、被告が
原告の著作物である本件映画を、原告に無断で、教育テレビで放映したことを知つ
たので、被告会社代表者に対し、テレビで放映する場合は、日本テレビから放映す
る、原告に無断で放映されては困る、また一回一万円というのも安いと苦情を述べ
たまでであつて、「遠賀川」の完成に協力しなかつたということはない。
 また、被告は、原告から脅しを受け、意に反し止むなく本件契約書に署名捺印し
た旨主張するが、被告は、原告の作成した契約書案の訂正をも求めたうえ、十分納
得して署名捺印したものである。
(二) 被告は、原告が博多を中心とした映画の製作の指示に使わなかつた旨主張
するが、原告は、博多を中心とした「博多周辺」を企画台本に基づき全部撮影を了
したうえ、三五九呎の編集をしたところ(残存部分約九一呎)、国鉄当局から博多
中心の映画は要らないとキヤンセルされたのである。このため、これに替えて企画
台本に記載されており、一部は既に撮影済みであつた「遠賀川」を製作することに
なつたのである。もしも、国鉄が真に博多中心の映画を希望していたのであれば、
原告が強引に「遠賀川」の製作を主張しても、被告が右主張に従う必要はなかつた
はずであり、また従うことができるわけもなかつたはずである。原告は、被告から
映画の製作を依頼されたのであるから、その原告が依頼者の反対を押し切つて依頼
されないものを強引に製作するようなことはあり得ない。
 被告は、「九州の旅博多」を自ら作成した旨主張するが、被告は、原告製作の未
完成フイルム「博多周辺」をほしいままに使用し、これに若干の不足部分を加えて
編集したものであつて、「九州の旅博多」は、「博多周辺」に改ざんその他の変更
を加えたものである。
(三) 被告は、本件契約書作成の際、国鉄納入のプリントについては、右契約の
範囲外にする旨原、被告が約した旨主張するが、そういう事実はない。文書を作成
する場合、別に口頭で契約するということが行われるはずがない。契約があつたの
であれば、契約書中に書き入れるはずである。
(四) 被告は、原告に対し、テレビ放映の利益分配として金七万八、六〇〇円を
支払つた旨主張する。原告が右金員の交付を受けたことは認めるが、分配金の一部
として受領したものである。
(五) 被告は、原告にモノクロフイルム一三本を引渡したので、本件契約第四条
の義務を履行した旨主張する。原告は、モノクロフイルム一三本を所持してはいる
が、右条項の義務の履行を受けたものではない。原告は、モノクロフイルムの引渡
しでよい旨約したことはない。
(六) 被告は、「東京福原フイルムズ作品」なるタイトルが劇映画の場合と同様
である旨主張するが、同一視すべき理由はない。
(七) 被告は、本件契約締結についての被告の意思表示は原告の強迫によるもの
であるから、その意思表示を取り消すとの意思表示をした旨主張する。しかし、本
件契約は、原告に一方的に有利なものではないし、仮に多少原告に有利な条項があ
るとしても、被告から原告に支払われた金五〇万円は単なる製作費用であり、かか
る少額の金員をもつて著作権譲渡の対価とはいえないのであるから、本件契約上更
に被告に金員の支払義務があるのは当然であるし、テレビ放映、プリント販売も、
本来製作者である被告のすべき義務に属することであるから、被告が通知及び書類
提示の義務を負担するのは当然であつて、この点が一方的であつても当り前のこと
である。他方、原告が右放映、販売などをするには、ネガ所有者である被告からそ
の提供を受けなければしえないことであるから、その際被告は使用目的を知り得る
わけで、本件契約上原告に被告と同様の義務を課する必要がないのである。また、
原告は、被告の意思を抑圧したこともない。仮に、被告の意思を抑えるところがあ
つたとしても、原告の有する独占権たる著作権の作用としてむしろ当然のことであ
る。原告は、契約しなければ協力しないとも述べていない。原告は、「遠賀川」の
コンテ台本と編集済みのフイルム、ついでシナリオを被告に引渡していたのである
から、被告は、右シナリオと編集済フイルムで完成フイルムを作ることもできた
し、その脚本によつて録音することもできたのであつて、窮状にはなく、畏怖され
るような状況にも置かれていなかつたのである。原告は、被告を強迫していないの
で、被告の取り消しの意思表示は、効力を生じないものである。
(八)被告の相殺の抗弁事実を否認する。原告が博多中心の映画の製作に協力せ
ず、強引に「遠賀川」を製作したものではないこと、「九州の旅博多」は被告の責
任で製作されたもので原告に責任がないことは、前述のとおりである。被告は、本
件映画中に録音ミスがあり、それが原告の責任である旨主張するが、原告には被告
主張のようなミスは存しなかつたし、また、被告と国鉄との間の契約は、原告の全
く関知しないところであるから、仮に右契約に基づき国鉄から被告に対しクレーム
がついたとしても、その処理は、被告の責任において行われるべきものである。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 本件映画の著作者及び著作権について
 原告は、原告が本件映画を単独で著作し、その著作権を有するものであると主張
し、被告は、これを争い、原告は本件映画の製作についてシナリオの作成を担当し
た本件映画の著作者の一人であり、本件映画について著作者人格権は有するが、著
作権は映画製作者である被告が取得したものであつて、原告はこれを有しない旨主
張するので、この点について検討する。
 成立に争いがない甲第三、第七、第一四号証、第二二号証ないし第二四号証、第
四〇号証、第四一号証(但し、書込み部分を除く)、第五二号証ないし第五四号
証、原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したことが認められる甲第
四、第五、第一〇、第一二号証、第一八、第一九号証の各一、二、第二〇号証、証
人【P11】の証言により同人が作成したものであることが認められる甲第六、第
八号証、証人【P12】の証言により真正に成立したことが認められる乙第一、第
四、第五号証、被告会社代表者【P10】尋問の結果(第一回)により真正に成立
したことが認められる乙第二、第三、第七号証、証人【P12】、同【P11】、
同【P13】の各証言、原告、被告会社代表者【P10】の各尋問の結果(いずれ
も第一、第二回。但し、いずれも後記信用しない部分を除く。)を総合すると、次
の事実が認められる。
(一) 被告は、記録映画及び観光映画の製作、そのプリントの販売等を目的とし
て昭和三七年一二月二二日設立された会社であるところ、昭和四〇年三月ころ、国
鉄西部支社に対し、同支社がスポンサーとなつて、被告会社代表者【P10】作成
の「九州路」と題するシノプシスに基づき、「キリシタンの遺跡を訪ねて」、「古
城と史跡を訪ねて」、「九州の祭りと民謡」、「仏教文化を訪ねて」、「文学の泉
を訪ねて」、「日本のふるさとを訪ねて」、「南の島々を訪ねて」などのコースに
分けて、キリシタン、文学及び民謡などを深く堀り下げたテレビ放映用の一六ミリ
カラー映画一五分もの一三本を、脚本演出 原告、【P14】、被告会社代表者、
撮影 被告会社代表者、【P15】、【P16】、編集 【P17】、音楽 【P
18】、出演(予定)【P19】、【P20】、録音 番町スタジオ、赤坂ハイラ
イトスタジオ、現像 東洋現像所という製作スタツフで製作することを提案し、両
者が折衝のうえ最終的に、被告は、国鉄西部支社に対し、昭和四〇年九月二三日付
で、同支社がスポンサーとなつて、右映画を脚本 原告、編集 【P17】、音楽
 【P18】、撮影被告会社代表者、【P13】、【P16】、【P15】、照明
【P21】、【P11】、出演(予定)【P9】という製作スタツフで製作するこ
とを提案し、国鉄西部支社は、右提案を受け入れ、右映画の製作を被告に依頼する
こととした。
 被告は、原告に対し、そのころ、右映画の製作について構成脚本を依頼したとこ
ろ、原告は構成脚本者として右映画の製作に参加することを被告に約した。そし
て、国鉄西部支社担当者、原告及び被告会社代表者らは、昭和四〇年一〇月一一
日、本件映画の製作について全般的な意見交換を行い、撮影予定などが立てられ
た。
 しかして、被告は、本件映画の製作者として、国鉄西部支社との間において、昭
和四〇年一〇月一五日付で、本件映画の製作及びそのカラープリント一三本の納入
などを代金六五〇万円で請負うとの条項を含む本件請負契約(被告の答弁及び主張
二、(一)、3の項)を締結した。
(二) 本件映画は、昭和四〇年一〇月二一日以降の第一回のロケハン及びロケか
ら製作が開始され、逐次全一三本が製作され、被告から国鉄西部支社に対し、その
カラープリントの納入その他本件請負契約上の義務の履行が行われた。
 本件映画の製作は、原告の構成に基づいて進められ、撮影は、本件映画の製作に
参加を約した被告会社代表者、【P22】、【P15】、【P21】、【P16】
らカメラマンが、原告がロケに参加した時は、原告の撮影現場における具体的なあ
るいは大雑把な指示により、更には自らの判断で、原告がロケに参加していない時
は、原告から予め与えられた指示に従いあるいは自らの判断で、原告の構成に添つ
て、その技術を駆使して撮影に当り、撮影されたフイルムは東洋現像所又は東京現
像所で現像され、そして現像されたフイルムの編集は、当初【P17】が担当する
ことになつていたが、原告が構成、演出者としてこれに関与することとなり、原告
及び被告会社代表者が全フイルムを繰り返し何回も見たうえ、予定の長さのものに
するについて、原告の編集現場における指示あるいは原告と被告会社代表者らとの
意見調整の結果により、被告会社代表者及び【P23】らが自らの技術を発揮して
これに当り、語りの脚本は、編集された画面に合せて原告が作成し、音楽は、当初
の予定を変更し、原告の推選を被告が採り入れ【P24】が、語り手も同じく原告
の推選を被告が採り入れ【P25】がそれぞれ担当し、録音は、アオイスタジオ又
は三栄スタジオで、原告の立会い指示の下に、音楽、語り、録音技術の各担当者が
それぞれその任に当つて行われた。
 以上の事実が認められ、右認定に反する原告及び被告会社代表者【P10】のの
各供述部分(第一、第二回)は前掲証拠に照らしたやすく信用することができない
し、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 ところで、本件は、旧著作権法(明治三二年法律第三九号)が適用されるもので
あるところ、旧著作権法には、映画の著作物の著作者は文芸、学術又は美術の範囲
に属する著作物の著作者として本法の保護を享有する旨規定され(同法第二二条の
三前段参照)、この規定の解釈に関し映画の著作者はだれかについて種々の見解が
存したところであるが、当裁判所は、映画の著作者は映画の製作、監督、演出、撮
影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に関与した者をいう
ものと解する。そうすると、右認定の事実によれば、本件映画は、原告の構成に基
づき原告が監督、演出し、その監督、演出の下で、被告会社代表者及び前認定のカ
メラマン、編集担当者らが、原告の構成に添つて撮影、編集、録音に関与し、これ
らの者が本件映画の全体的形成に創作的に寄与して本件映画が製作されたものと認
められるから、これらの者が本件映画の共同著作者というべきである。
 原告は、原告が本件映画の企画、演出、編集、シナリオ作成及び録音などを行い
製作したので、原告のみが本件映画の著作者である旨主張する。しかしながら、前
認定によれば、本件映画の企画は被告あるいは国鉄西部支社によるものであり、編
集及び録音は原告の指示によつて行われたが、右指示は正に監督、演出者として行
われたものであつて、編集録音は原告の構成に添つて他の者が行つたのであるか
ら、これらすべてを原告が行つたとする原告の右主張は事実に反し、更に撮影は被
告会社代表者らカメラマンが行つたものであり、従つて原告のみが本件映画の著作
者であるとする原告の右主張は理由がない。
 次に、本件映画の著作権の帰属について考えるに、前説明のとおり旧著作権法に
は映画の著作物の著作者は文芸、学術又は美術の範囲に属する著作物の著作者とし
て本法の保護を享有する旨規定されているから、映画の著作物の著作権は、その著
作者が本来原始的に取得するものであると解するほかはない。ところで、著作者が
映画製作者、つまり映画製作について発意と責任とを有する者に対し当該映画の著
作物の製作に参加することを約束しているときには、特段の反証がない限り著作者
は当該映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属することを容認しているものと推
認することができるから、その場合は映画製作者が当該映画の著作物の著作権を著
作者から承継的に取得するものというべきである。そうすると、前認定によれば、
本件映画の製作者は被告であり、そして原告、被告会社代表者らは被告に対し本件
映画の製作に参加することを約束したものと認められるところ、本件の場合特段の
反証がないから、原告、被告会社代表者らは本件映画の著作権が被告に帰属するこ
とを容認していたものと推認することができ、従つて被告は本件映画の著作権を原
告、被告会社代表者らから承継的に取得したものというべきである。
 原告は、映画製作者とは映画製作について発意と責任とを有する者をいうもので
あるところ、この責任には、(1)スタツフの構成、(2)製作進行、(3)完成
フイルムのプリント製作、(4)資金上の責任を含むものであるのに、被告が果し
たのは右のうち(3)及び(4)だけであり、発意にしても被告というより原告が
その主要部分、すなわち映画本数を一三本とする提案、一三本の映画の内容の発案
及び構成を行つているのであつて、被告は単にテレビ用の九州の文化映画を製作し
ようとしただけで、企画をしたに過ぎないのであるから、映画製作者ではないと主
張する。しかしながら、前認定によれば、スタツフの構成及び製作進行にしても、
被告が原告の意見を採り入れることはあつたが、それも被告が原告の提案を受け入
れ被告の責任において行つたものであり、また映画の本数を一三本とすることは被
告の提案によるものであるし、映画の内容の発案者も被告であつたことは明らかで
ある。また、原告の演出によつて本件映画の製作が行われたのは原告が演出を担当
したことの当然の結果であつて、そのことが被告の映画製作者であることを否定す
る理由とはならない。原告の右主張は理由がない。
二 本件契約について
 成立に争いがない甲第一号証、原告及び被告会社代表者【P10】の各尋問の結
果(いずれも第一回)によれば、原、被告は、昭和四一年五月二五日、本件映画の
著作権は原、被告の共有とすること、本件映画のプリント販売、上映等による収入
は、原告の活動による場合は原告に七〇パーセント、被告に三〇パーセントの額
を、被告の活動による場合は原告に三〇パーセント、被告に七〇パーセントの額を
それぞれ配分するものとすることなどの条項を含む本件契約(請求原因(一)、2
の項)を締結したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 前記一の項の判断及び右認定の事実によれば、被告は、原告に対し、本件映画の
製作者として取得した本件映画の著作権について、その持分を譲渡したものという
べく、そして右持分割合についての定めはないから、右持分は二分の一と推定され
る。
 ところで、被告は、本件契約における被告の意思表示は被告会社代表者【P1
0】が原告の強迫によりしたものであり、これを取消したから、本件契約は効力が
ない旨主張する。そして、被告会社代表者【P10】は、右主張事実に添う供述を
するところであるが、これを裏付けるに足りる的確なる証拠もなく、右供述部分を
にわかに信用することはできないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠もな
い。
被告の右主張は理由がない。
 更に被告は、仮に本件契約における被告会社代表者【P10】の意思表示が原告
の強迫によりされたものではないとしても、本件契約は、本件映画の著作権が被告
から国鉄に譲渡された後に締結されたものであるから、原告が本件映画の著作権を
取得することはないとの趣旨の主張をする。しかしながら、仮に本件契約が被告か
ら国鉄に本件映画の著作権が譲渡された後に締結されたものであるとすれば、本件
契約による被告から原告に対する本件映画の著作権の譲渡は、いわゆる二重譲渡で
あるというべきところ、登録を譲渡の対抗要件とするに止まる旧著作権法下におい
ては(同法第一五条第一項参照)、本件契約による譲渡の意思表示のみにより、被
告から原告に対する本件映画の著作権の譲渡は有効に生じ、譲渡の当事者であつて
第三者ではない被告はこれを争うことはできないものというべきである。被告の右
主張は理由がない。
 そうすると、原告は、本件映画について持分二分の一の著作権を有するものとい
うべきである。
三 原告の著作者人格権及び著作権侵害に基づく損害賠償請求について
(一)1 原告は、被告は本件映画各篇の冒頭に、「東京福原フイルムズ作品」と
いうタイトル・フイルムを加えたものであるが、これは、原告が本件映画の著作者
であるのに、これを隠匿し、被告が本件映画の著作者であるかのように表示するも
のであつて、原告が本件映画について有する氏名表示権を侵害するものであると主
張するので、この点について検討する。
 本件映画各篇の冒頭に、「東京福原フイルムズ作品」と表示されたタイトル・フ
イルムがあることは当事者間に争いがない。
 ところで、原告本人は、「○○作品」というタイトルはその映画が○○会社の自
主作品である場合に用いられる表示であるとの趣旨の供述をするところであり、ま
た原告本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したことが認められる甲第五五
号証ないし第五七号証によれば、日本シネセル株式会社では、その製作に係る映画
の冒頭に、「日本シネセル株式会社作品」という表示をしたことはなく、そのよう
な表示をすることが業界の慣習であるとは思つていないこと、岩波映画製作所で
は、自主作品には、「岩波映画作品」という表示のタイトルを用いることがある
が、それは同社が自信を持つて製作したもので、且つ著作権、作家との契約関係な
どすべての点で岩波の作品といえる基盤があるときに用いるものでありまたスポン
サーがあるものには原則として「製作岩波映画」という表示を用いていること、東
映株式会社教育事業部では、作品の九〇パーセントが自主作品であるが、「東映作
品」いう表示は用いず、「製作東映株式会社教育映画部」という表示を用いている
ことが認められるが、右事実から直ちに本件映画の「東京福原フイルムズ作品」と
いう表示が、福原フイルムスが本件映画の著作者であることを示すものであるとは
即断し得ないところ、かえつて成立に争いがない甲第二四号証、第五二号証ないし
第五四号証によれば、本件映画各篇の末尾には、「構成脚本 【P1】、音楽【P
24】、撮影 【P10】、【P22】、【P11】、編集 【P26】、語り手
 【P25】、出演 【P9】、企画 日本国有鉄道西部支社、製作 福原フイル
ムス」というようなタイトルが付されていることが認められ(他に右認定を覆すに
足りる証拠はない)、右事実によれば、本件映画を観る者は、本件映画は【P1】
が構成脚本を、【P24】が音楽を、【P10】、【P22】、【P11】が撮影
を、【P26】が編集を、【P25】が語り手をそれぞれ担当して製作されたもの
と受け取るであろうことが認められ、従つてまた本件映画の製作に関与した右の者
らが本件映画の著作者であると感得するであろうことをも推測することができると
ころであり、むしろ右事実に「製作 福原フイルムス」という表示が付されている
ことを併せ考えれば、「東京福原フイルムズ作品」の表示は、東京福原フイルムス
製作の作品の意味に受け取られるものと推認することができる。
 そうすると、本件映画各篇冒頭の「東京福原フイルムズ作品」の表示は、被告が
本件映画の著作者であることを示すものであると見られたり、又は被告が本件映画
の著作者であると誤認させるような表示ともいえないから本件映画各篇の冒頭に
「東京福原フイルムズ作品」というタイトル・フイルムを加えた行為は、原告の著
作者名義を変更隠匿するものとは認められない。
 原告の右主張は、理由がない。
2 原告は、被告は本件映画各篇冒頭に「東京福原フイルムズ作品」と表示された
タイトル・フイルムを加えることにより本件映画各篇の呎数四五〇を四五五とし、
原告が本件映画について有する同一性保持権を侵害した旨主張するので、この点に
ついて検討する。
 同一性保持権とは、著作者がその著作物の同一性を保持し、無断でその改ざんそ
の他の変更を受けないことを内容とする権利であつて(旧著作法第一八条第一項参
照)、著作者の人格的利益の保持のため著作者に認められた権利であるから、著作
者の人格的利益を害しない程度の変更は同一性保持権の侵害とはならないものと解
すべきところ、原告本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したことが認めら
れる甲第五八号証及び同本人尋問の結果によれば、本件映画各篇について、フイル
ムの全体の長さが四五三呎ないし四六一呎であるのに対し、右タイトル・フイルム
の長さはわずか四呎ないし一一呎であることが認められ、右事実に、右タイトル・
フイルムが事実に即し単に本件映画が被告製作の作品であることを示すものである
に過ぎないということ、原告は構成及び演出を担当した本件映画の著作者の一人で
はあるが、本件映画の単独著作者ではないことなどの前説明の事実を併せ考えれ
ば、原告主張のとおり被告が右タイトル・フイルムを加えることにより本件映画の
呎数を長くしたからといつて、原告が本件映画について著作者の一人として有する
人格的利益が害されたものとは認められないから、被告の右行為により原告が本件
映画について有する同一性保持権が侵害されたとはいえない。
 原告の右主張は、理由がない。
3 右のとおりであるから、被告が本件映画各篇の冒頭に、「東京福原フイルムズ
作品」という表示のタイトル・フイルムを加えた行為が、本件映画について原告が
有する著作者人格権を侵害したものであることを理由とする原告の慰藉料請求は、
その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(二) 原告は、被告は「遠賀川」を除き原告の関知しない「北九州と博多」を本
件映画「九州雑記」一三本の一篇に加えて、その企画台本を一般に頒布し、且つそ
のプリントを国鉄西部支社に納入して、原告が本件映画一三本全体について有する
同一性保持権を侵害した旨主張するので、この点について検討する。
 原告本人は、被告は「遠賀川」を含む本件映画一三本から「遠賀川」を除いて
「北九州と博多」を加えた一三本として本件映画を変更した旨供述するところであ
るが、「遠賀川」が全く国鉄西部支社に納入されず、また「遠賀川」を含む一三本
を被告がテレビ局に提供したことがないというのならばともかく、原告自身、本件
契約に基づく金員支払債務の履行請求に関し、「遠賀川」を含む本件映画一三本
が、被告から国鉄西部支社に提供されたこと及び被告からテレビ局に提供されたこ
とを主張し、被告もこれを認めるところであつて、「遠賀川」が本件映画一三本か
ら除かれて「北九州と博多」を加えた一三本の映画に変更されたとする原告の右供
述は、にわかに信用することができない。また、成立に争いがない甲第一四号証に
よれば、被告会社作成の「九州雑記」と題する台本の中に「北九州と博多」という
題名の記載はあるが、「遠賀川」という題名の記載はないことが認められるが、前
掲甲第三号証ないし第八号証、第一〇号証、第一八号証の一、二、第一九号証の
一、第二〇、第二三、第四五号証、証人【P11】の証言、原告、被告会社代表者
【P10】の各本人尋問の結果(いずれも第一、第二回)を総合すると(但し、原
告本人尋問の結果中、後記信用しない部分を除く)、「博多周辺」と題する映画
が、当初本件映画の中の一篇として、他の各篇と同様の方法で製作が進められ、昭
和四一年一月四日には、一部の撮影未了部分を残しその編集を完了していたが、国
鉄西部支社の担当者、原告及び被告会社代表者の協議によりその製作が中止され、
同月一一日新たに「遠賀川」が製作されることとなり、同年六月七日には「遠賀
川」も完成し、結局「遠賀川」を含む本件映画一三本が国鉄西部支社に納入された
が、その後更に同支社の注文により、右「遠賀川」を含む本件映画一三本とは別個
に原告を除く被告会社代表者ら製作スタツフが、「九州の旅博多」と題する映画
を、主として「博多周辺」のキープフイルム及び新たに撮影したフイルムを用いて
製作したことが認められ(右認定に反する原告の供述部分は前掲証拠に照らしたや
すく信用することができないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)、
右事実によれば、本件映画一三本のほかに製作された映画は、「九州の旅博多」
で、それとは別個に「北九州と博多」と題する映画が製作されたことを認めるに足
りる証拠はなく、前認定の被告会社作成の台本に「遠賀川」の記載がなく、「北九
州と博多」の記載があるのは、「遠賀川」の製作前「北九州と博多」という題名の
ものが製作される予定で台本に「北九州と博多」と記載されたか、あるいは「遠賀
川」の製作に入つた後であれば、その後に製作された映画の題名が「九州の旅博
多」に確定しておらず、これを「北九州と博多」と表示してしまつたかのいずれか
であると推測することができるが、いずれにせよ「北九州と博多」という映画を加
えた一三本が一体のものとして販売された放映のために提供されたことを認めるべ
き証拠はなく、かえつて前説明のとおり、原告自身被告が「遠賀川」を含めた一三
本のプリントを販売し又はテレビ局に提供した旨主張し、被告もこれを認めるとこ
ろであつて、以上の事実を総合して考えると、「遠賀川」を含む一三本の本件映画
「九州雑記」が「遠賀川」を除いて「北九州と博多」を加えた一三本の映画に変更
されたと認定することは困難である。
 そうすると、被告が「遠賀川」を含む本件映画一三本を「遠賀川」を除いて「北
九州と博多」を加えた一三本の映画に変更したことを理由とする原告の慰藉料請求
は、その余の点について検討を加えるまでもなく、理由がないものというべきであ
る。
(三) 原告は、被告は未完成品「博多周辺」の編集済みフイルム、未使用フイル
ム(キープフイルム)に、著作者である原告に無断で、若干部分の切除を施した
り、歌手【P9】のカツトを加えたりして改ざん編集し、つぎはぎの長さ三五八呎
の「九州の旅博多」を製作したものであるが、これは原告が「博多周辺」について
有する同一性保持権を侵害するものであると主張するので、この点について検討す
る。
 原告本人は、「九州の旅博多」は被告が「博多周辺」を改ざんして製作したもの
である旨供述するところであるが、右供述を裏付けるに足りる的確な証拠もなく、
かえつて右(二)の項の認定によれば、「九州の旅博多」は、主として「博多周
辺」のキープフイルム及び新たに撮影されたフイルムを用いて製作されたものであ
るから、「博多周辺」を改ざんして製作されたものであるということは困難である
し、他に被告が「博多周辺」自体を改ざんして「九州の旅博多」を製作したことを
認めるに足りる証拠はない。そしてまた、前掲甲第一号証によれば、原告は被告に
対し、被告が本件映画のキープフイルムを他の目的に使用することを許諾している
ことが認められる。従つて、原告の右主張は理由がない。
 そうすると、被告が「九州の旅博多」を製作することによつて「博多周辺」につ
いて原告が有する同一性保持権を侵害したことを理由とする原告の慰藉料請求は、
理由がないことに帰する。
(四) 原告は、被告は「牧水のふるさと」の一六ミリカラーフイルムから八ミリ
カラーフイルムを製作し、原告が本件映画について有する複製権を侵害したと主張
するので、この点について検討する。
 被告が「牧水のふるさと」の一六ミリフイルムから八ミリフイルムを作成したこ
とは当事者間に争いがない。
 ところで、原、被告が本件映画についてそれぞれ持分二分の一の著作権を有する
ことは前記二の項の説明のとおりであるところ、前掲甲第一号証によれば、原、被
告は、本件契約により本件映画のプリント販売による収入の配分について契約する
ところであるが、それは一六ミリの本件映画のプリントの販売に係るものであつ
て、本件契約には、一六ミリフイルムを八ミリフイルムに縮小したものを販売する
ことに関する条項は含まれていないことが認められ、右事実によれば、被告の右行
為には本件契約のプリント販売による収入配分の条項は適用がないものというべき
である。そして、被告が右行為をするについて別途原告と何らかの合意をしたとの
主張立証はない。
 ところで、旧著作権法上、共有に係る著作権の行使はその共有者全員の合意によ
らなければ行使することができないものと解されるから、他の共有者との合意によ
らないでした共有者の共有に係る著作権の行使は、他の共有者の持分権を侵害する
ものというべきである。
 そうすると、被告の右行為は、原告が本件映画について有する持分二分の一の著
作権を侵害するものというべきである。そして、被告が本件契約の当事者であるこ
とからみて、被告の右行為が原告の著作権を侵害するものであことについて、被告
に過失が存することは明らかである。
 そこで、進んで原告が被つた損害について検討するに、原告は、被告は右八ミリ
プリント二〇〇本を製造し、一本当り少なくとも金三万三、〇〇〇円で販売したも
のであるところ、一本当りの製造原価は金一万五〇円であるから、右販売価額から
右製造原価を控除した一本当り利益金二万二、九五〇円に右販売本数二〇〇を乗じ
た金四五九万円の利益を挙げたものであり、これが原告が被つた損害であると主張
し、原告本人は、この種八ミリプリントは一種類について二〇〇本プリントされる
ものであるから、被告も「牧水のふるさと」の八ミリプリントを二〇〇本プリント
し販売したはずであると供述するところであるが、これを裏付けるに足りる的確な
証拠もなく、右供述部分のみから、被告が「牧水のふるさと」の八ミリプリントを
二〇〇本販売したものと認めることは困難であるし、また、原告本人尋問の結果
(第二回)により真正に成立したことが認められる甲第三四号証ないし第三七号
証、第三八号証の一ないし三、第四三、第四八号証、証人【P27】の証言により
真正に成立したことが認められる甲第四六、第四七号証、証人【P27】の証言に
よれば、一般的にこの種プリントの製造原価及び販売価格が原告の主張に添うもの
であることが認められるけれども、そのことから直ちに被告が「牧水のふるさと」
八ミリプリントを原告主張の製造原価及び販売価格で販売したものとはいえないと
ころ、かえつて被告会社代表者【P10】尋問の結果(第二回)により真正に成立
したことが認めらる乙第一〇号証及び同代表者尋問の結果によれば、被告は「牧水
のふるさと」八ミリプリント二本を製造原価金一万三、五〇四円で製造し、これを
国鉄西部支社に金二万円で販売したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証
拠はない。右認定の事実によれば、被告は、「牧水のふるさと」二本を販売するこ
とにより右販売価額金二万円から右製造原価金一万三、五〇四円を控除した金六、
四九六円の利益を得たものというべきところ、前説明のとおり原、被告は本件映画
についてそれぞれ持分二分の一の著作権を有するものであるから、被告は、右利益
額金六、四九六円の二分の一の額である金三、二四八円については、原告の右持分
権を侵害して得たものというべきである。ところで、特段の反証がない限り、侵害
者が侵害行為により得た利益を著作権者を受けた損害の額と推定することができる
ものと解されるところ、特段の反証がない本件においては、被告が得た右利益金
三、二四八円を原告が受けた損害を額と推定することができる。
 そうすると、原告は、被告が「牧水のふるさと」の一六ミリカラーフイルムを縮
小して八ミリカラーフイルムを製造し、販売したことにより、被告に対し、損害金
三、二四八円の賠償請求権を取得したものというべきである。
 原告は、右複製権侵害に基づく請求が認められないとしても、(1)被告の右行
為は原告が「牧水のふるさと」について有する同一性保持権を侵害するものであ
り、(2)仮に同一性持権を侵害するものでないとしても、著作者である原告の名
誉又は声望を害する方法によりこれを利用するものであつて、著作者人格権を害す
るものとみなされるものであり、(3)あるいは原告の一般的人格権を侵害するも
のであると主張する。しかしながら、前説明のとおり著作者の人格的利益を害しな
い程度の変更は同一性保持権の侵害とはならないものと解すべきところ、一般的に
いつて一六ミリカラーフイルムを八ミリカラーフイルムに縮小したからといつて、
これを映写した場合を考えると、一六ミリカラーフイルムで表現された著作者の創
作意図に変更を及ぼし、ひいて著作者の人格的利益を害するものとは解されないと
ころ、原告が「牧水のふるさと」が八ミリカラーフイルムに縮小されて販売された
ことによつて特にその人格的利益が害されたことを認めるに足りる証拠はないし、
また原告が被告の右行為により名誉又は声望を害されたりあるいは一般的人格権が
害されたことを認めるに足りる証拠もない。原告の右主張は理由がない。
 そうすると、原告の右同一性保持権等の侵害を理由とする慰藉料請求は理由がな
い。
四 本件契約に基づく金員支払債務の履行請求について
(一) 原告は、被告は昭和四一年二月ころ以降本件映画一三本につきプリントを
作成し、国鉄西部支社に合計一六九本、熊本県、大分県、長崎県及び長崎市に各一
本あて計四本、鹿児島県に二本、総合計一七五本を販売したので、原告は被告に対
し、本件契約第六条に基づき、右販売によつて被告が挙げた収入の三〇パーセント
に当る金員の配分を求める権利を取得したところ、プリント一本当りの製造原価は
一万三、九五〇円、販売価額は金七万五、〇〇〇円であるから、被告は原告に対
し、右販売価額から右製造原価を控除した一本当り収入金六万一、〇五〇円に右販
売本数合計一七五を乗じた額の三〇パーセントに当る金三二〇万五、一二五円が原
告が配分を受け得る額であると主張するので、この点について検討する。
 被告が原告主張の本数のプリントを原告主張の製造原価で製造し、原告主張の販
売価額で他に販売したことを認めるに足りる証拠はない。原告本人は、本件映画の
市価は一本当り金六万五、〇〇〇円であり、これを販売価額として被告の収入額を
算出すべき旨の供述をするところであるが、前掲甲第一号証によれば、被告が現実
に得た収入が配分の基礎とされる約束であつたことが認められるから、原告の右供
述部分は採用することができない。
 しかして、被告が自認する収入以上の収入を被告が挙げたことを認めるに足りる
証拠もないから、結局原告の受け得る配分額は、被告が自認するプリントの販売本
数、販売価額及び製造原価に基づいて算出される被告の収入額を算定の基準とする
ほかはない。
 そこで、被告が自認するプリントの販売本数、販売価額及び製造原価に基づいて
算出される被告の収入額について検討する。まず被告は、国鉄西部支社に対し、本
件請負契約に基づいて本件映画のプリント一三本を納入したことを自認するところ
であるが、他方被告は、原、被告は本件契約書の作成の際右プリントについては契
約の範囲から除外した旨主張するので、この点について考えるに、被告会社代表者
【P10】は被告の右主張事実に添う供述をするところであるが、これを裏付ける
に足りる証拠もないから、これをそのまま信用することもできないし、他に右主張
事実を認めるに足りる証拠もないから、被告の右主張は理由がないけれども、前認
定によれば、右一三本のプリントの納入による収入は本件請負契約の請負代金六五
〇万円の中に含まれているものというべきであるが、右一三本のプリント自体の納
入による収入が右請負代金のうちいくらであるかが明らかではないから、右一三本
については原告の収入額を算定することができない。次に、被告は、国鉄西部支社
に対し、本件映画のプリント一四三本を請負代金三五四万六、四〇〇円で納入し、
その製造原価は金二〇〇万円で、差引き金一五四万六、四〇〇円の利益を、また鹿
児島県に二本、熊本市に一本、長崎県及び長崎市に各一本、大分市に一本合計六本
を一本当り金四万五、〇〇〇円、合計金二七万円で販売し、その製造原価が金八万
三、七〇〇円で、差引き金一八万六、三〇〇円の利益をそれぞれ得たことを自認す
るところであるから、右利益額の合計金一七三万二、七〇〇円が被告の収入額とな
る。
 しかして、前認定によれば、原、被告は、本件契約により、本件映画のプリント
販売による収入は被告の活動による場合は原告にその三〇パーセントの額を配分す
る旨約したものであるから、原告が配分を受け得る額は、右収入額金一七三万二、
七〇〇円の三〇パーセントの額である金五一万九、八一〇円となる。
 そうすると、原告は、被告に対し、本件映画のプリントを販売した場合の本件契
約による金員支払約束に基づき金五一万九、八一〇円の請求権を取得したものとい
うべきである。
(二) 原告は、被告は教育テレビ、朝日放送、RKB毎日放送、熊本放送、琉球
放送にそれぞれ本件映画一三本を提供し、一本当り放送料相当額金八万円の収入を
挙げたので、原告は被告に対し、本件契約第六条に基づき、右一本当り収入金八万
円に右本件映画の本数一三及び右放送局数五を乗じた額の三〇パーセントに当る金
一五六万円の配分を求める権利を取得した旨主張するので、この点について検討す
る。
 ところで、被告が本件映画のプリントを原告主張のテレビ局に提供したことは当
事者間に争いがないが、被告が原告主張の本数のプリントを放送局に提供し、一本
当り金八万円の収入を挙げたことを認めるに足りる証拠はない。原告本人は、本件
映画の一本当り放送料相当額は金八万円であると供述し、その点を裏付けるための
書証を提出するところであるが、前掲甲第一号証によれば、本件契約により原告が
配分を受けることができる収入は、被告が現実に得た収入を基準とすべきものであ
ることが認められるから、原告の右供述は採用することができない。
 しかして、被告が自認する以上の収入を被告が挙げたことを認めるに足りる証拠
もないから、結局原告の受け得る配分額は、被告が自認する収入額を基礎として算
出される限度で肯認するほかはない。
 そうすると、被告が、教育テレビに本件映画のプリント一三本を一本当り手数料
一万円合計金一三万円で、熊本放送に同八本を一本当り手数料金四、〇〇〇円合計
金三万二、〇〇〇円で、朝日放送及びRKB毎日放送にそれぞれ同一三本を一本当
り手数料金四、〇〇〇円合計金五万二、〇〇〇円で、琉球放送に同一三本を一本当
り手数料金五、〇〇〇円合計金六万五、〇〇〇円から仲介手数料金二万九、〇〇〇
円を控除した金三万六、〇〇〇円で提供したことは被告の自認するところであるか
ら、被告がテレビ放映によつて挙げた収入は被告が自認する右収入の総合計金三〇
万二、〇〇〇円の限度で認めることができる。そして、前掲甲第一号証によれば、
原告は右収入の三〇パーセントの額の配分を受ける権利を有するものと認みられる
から、原告は、右金三〇万二、〇〇〇円の三〇パーセントの額である金九万六〇〇
円の配分を請求する権利を取得したものと認めることができる。
 ところで、原告は、右配分金の一部として金七万八、六〇〇円を受領したことを
自認するところであるから、結局原告は右金九万六〇〇円から右金七万八、六〇〇
円を控除した金一万二、〇〇〇円の配分請求権を有するものというべきである。
(三) 原告は、被告から、シナリオの作成、演出及び編集の大半を完了し一部は
その進行中であつた「博多周辺」の製作をキヤンセルされたので、本件契約第一〇
条及びキヤンセル時の被告のキヤンセル料の支払約束に基づきキヤンセル料の支払
を請求する権利を有する旨主張するので、この点について検討する。
 前掲甲第一号証によれば、被告は、原告に対し、昭和四一年五月二五日、本件契
約により被告の都合で本件映画の製作を中止した場合はキヤンセル料を原告に支払
う旨約したことが認められるところであるが、「博多周辺」の製作中止が本件契約
の右条項に該当する場合であることを認めるに足りる証拠はなく、かえつて前認定
によれば、「博多周辺」の製作が中止されたのは昭和四一年一月であり、従つて本
件契約は「博多周辺」の製作が中止された後に締結されたものであるから、仮に、
「博多周辺」の製作中止が本件契約にいうキヤンセル料を支払うべき場合に該当す
るものであるならば、本件契約の際「博多周辺」のキヤンセル料の支払について具
体的な取り決めができたはずであるのに、そのような取り決めはされておらず、そ
うすると「博多周辺」の製作中止は、被告の都合によるものではなく右条項にいう
キヤンセル料を支払う場合に該当するものでなかつたか、あるいは仮に被告の都合
によるものでキヤンセル料を支払うべき場合には該当したが、本件契約の締結に当
たり「博多周辺」の製作中止の場合を本件契約から除外したものか、そのいずれか
であると推認することができる。しかも、前認定によれば、本件契約締結時、本件
映画の製作は、「遠賀川」の製作を残し未だ完了していなかつたのであるから、
「博多周辺」の製作中止が本件契約のキヤンセル料支払いの条項に入らないとして
も、かかる条項が本件契約の中に入れられたことが意味を失うわけではなく、むし
ろ本件契約が「博多周辺」の製作中止後「遠賀川」の製作中、その完成前に締結さ
れたという前認定の事実によれば、「博多周辺」の製作が中止されたという事実が
あつたので、そのようなことが「遠賀川」の製作について被告の都合でされた場合
にはキヤンセル料を被告から原告に支払われるべきことを意図して右条項が定めら
れたものと推認することもできなくはない。
 また、原告本人は、被告会社代表者が原告に対し、「博多周辺」製作中止等に
「顔を立てます」と言つたが、これはキヤンセル料を支払うという趣旨のものであ
る旨供述するが、仮に被告会社代表者が原告に対し、「顔を立てます」と言つたと
しても、それが直ちにキヤンセル料の支払いを約したものということは困難であ
る。
 右のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。
 そうすると、原告のキヤンセル料の支払請求は、その余の点について検討するま
でもなく、理由がない。
五 原告の本件契約に基づく本件映画の完成プリント一三本の引渡請求について
 原告は、被告は原告に対し、本件契約第四条に基づき本件映画の完成プリント一
三本を引渡すべき義務があると主張するので、この点について検討するに、前掲甲
第一号証によれば、被告は原告に対し本件映画の完成プリント一三本の引渡しを約
したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、被告は原告
に対し、本件映画の完成プリント一三本を引渡すべき義務を負担したものというべ
きである。
 ところで、被告は、被告が原告に対し、資金の関係からモノクロフイルムにして
貰いたい旨申し入れたところ、原告がこれを承諾したので、モノクロフイルムを被
告に引渡し本件契約上の義務を履行した旨主張し、被告会社代表者【P10】はそ
の旨供述する。しかしながら、原告本人はモノクロフイルムを所持していることは
認めるが、それはカラーフイルムを持つてくるまでの暫定措置として受取つたもの
で、右被告会社代表者が供述するような約束はしていない旨供述するところ、他に
被告会社代表者の右供述部分を裏付けるに足りる的確なる証拠がない以上、被告主
張の約束があつたことを肯認定することは困難である。
 従つて、被告は、原告に対し、本件映画の完成プリント一三本の引渡義務があ
る。
六 著作者人格権侵害に対する原状回復の請求について
 原告は、被告が本件映画各篇の冒頭に「東京福原フイルムズ作品」というタイト
ル・フイルムを加えた行為は、原告の本件映画について有する氏名表示権を侵害す
るものであるとして、旧著作権法第三六条の二第一項に基づいて右タイトル・フイ
ルム部分の切除を求めるが、前記三、(一)、1の項に説明するとおり、被告の右
行為は、原告の氏名表示権を侵害するものとは認められないから、原告の右請求は
理由がない。
七 「加賀、能登」についての原告の著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求につ
いて
 原告は、昭和三七年秋ころ、被告会社の前身であるアマチユアグループ訴外福原
フイルムからの依頼により「加賀、能登」のシナリオ書き、演出等を行い右映面を
製作し、これをその後被告に引渡したが、被告に対し、「加賀、能登」を金沢鉄道
局に貸与し又は引渡し、同局が内部的に映写することだけを許諾したに過ぎないの
に、被告は、原告に無断で「加賀、能登」をプリント製作し、「製作福原フイル
ム」と表示して放送局から放映し、原告が右映画について有する氏名表示権及び公
表権を侵害するものである旨主張するので、この点について検討する。
 まず、被告が、「加賀、能登」について原告の有する氏名表示権を侵害したこと
を認めるに足りる証拠はなく、かえつて成立に争いがない甲第二六号証、証人【P
12】、同【P13】の各証言、原告、被告会社代表者【P10】の各尋問の結果
(いずれも第一、第二回)を総合すると、「加賀、能登」は、昭和三七年秋ころ、
被告会社の前身である被告会社代表者【P10】を中心とするグループ福原フイル
ムスが金沢鉄道局から依頼を受け、原告に脚本、演出を依頼し、原告はこれを承諾
して脚本、演出者として右映画の製作に参加することを約して右映画の脚本・演出
を担当し、被告会社代表者【P10】、【P13】ら右グループの者が撮影、編集
等を行い、右グループ及び右映画の製作中に設立された被告会社が製作費を負担し
て製作したものであること、右映画には「製作 福原フイルムス」、「演出、脚本
 【P1】」と表示されたタイトル・フイルム部分が存することが認められ(他に
右認定を左右するに足りる証拠はない。)、右事実、並びに、映画の著作者及び映
画の著作権の帰属についての前説明によれば、原告が「加賀、能登」の演出、脚本
を担当した者としてその著作者の一人であり、また被告会社の前身のグループ及び
被告会社が右映画の製作者であるというべきところ、右映画には原告が演出、脚本
を担当したことを表示する「演出・脚本 【P1】」のタイトル・フイルム部分が
あるし、また「製作 福原フイルムス」の表示も事実右映画の製作者である被告会
社の前身グループ又は被告会社が製作したことを示すに過ぎないものである。従つ
て、被告が「加賀、能登」について原告の有する氏名表示権を侵害したとの原告の
主張は理由がない。
 次に、原告は、原告は被告に対し、「加賀、能登」を金沢鉄道局が内部的に映写
することだけを許諾したに過ぎないのに、被告は、これを放送局から放映し、原告
が「加賀、能登」について有する公表権を侵害した旨主張する。ところで、旧著作
権法には公表権についての直接の規定はないが、旧著作権法の解釈として、著作者
はその著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有
するものと解され、そして右公衆の中には特定且つ多数の者を含むものというべき
ところ、「加賀、能登」が金沢鉄道局で内部的に映写することを許諾されたもので
あるならば、これが、金沢鉄道局の内部であれ、少なくとも特定且つ多数の者に提
示されたであろうことが容易に推察されるところであるから、被告が放送局から
「加賀、能登」を放映した行為は、まだ公表されていない著作物を公衆に提示した
ものとはいえないから、原告の「加賀、能登」について有する公表権を侵害するも
のでもない。
 そうすると、「加賀、能登」について原告が有する著作者人格権の侵害を理由と
する原告の損害賠償請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がな
い。
八 被告の相殺の仮定抗弁について
 被告は、仮に本訴請求債権の成立が認められるとしても、被告は原告に対し、損
害賠償請求債権金七三万一、四一六円を有するので、これをもつて原告の本訴債権
とその対当額において相殺する旨の意思表示をしたから、原告の本訴債権はその限
度で消滅した旨主張し、被告の損害賠償請求債権の取得原因として、(一)原告
は、当初予定されていた博多を中心とする映画の製作に協力せず、「遠賀川」の製
作を主張、固持したため、被告において、余分な「遠賀川」の製作のために合計金
三〇万三二八円の出費を余儀なくされ、(二)原告の不協力により、被告は、新た
に「九州の旅博多」を製作しなければならなくなり、その製作費金三四万六、六五
八円の出費をし、(三)原告は、本件映画の製作について、その構成ミスのため、
間違つて録音されてしまう結果をもたらし、被告はその訂正の作業に金八万四、四
三〇円の出費をしたものであるが、これらの出費は、原、被告間の本件映画の製作
についての契約に基づき原告が構成、脚本をすべき債務の不履行によるものである
から、被告は原告に対し、右(一)ないし(三)の出費の総額金七三万一、四一六
円の損害賠償請求権を取得した旨主張するところ、前項までの判断によれば、原告
は被告に対し合計金五三万、〇五八円の債権を取得したものというべきであるか
ら、被告の右相殺の抗弁について検討する。
 まず、右(一)の出費についての損害賠償請求権の成否について考えるに、前掲
乙第五号証及び証人【P12】の証言によれば、被告が「遠賀川」の製作のために
金三〇万三二八円の出費をしたことが認められ、そして証人【P12】及び被告会
社代表者【P10】は、右費用は原告が当初予定されていた博多を中心とする映画
の製作を中止し、「遠賀川」の製作を主張してこれを製作したために生じたもので
ある旨供述するところであるが、それが原、被告間の本件映画の製作についての契
約に基づく原告の債務の不履行によるものであるとの証拠はなく、かえつて被告会
社代表者【P10】自身「遠賀川」の製作は原告の主張を国鉄西部支社の担当者が
受け入れたので、被告もこれを承知せざるを得なかつたとの趣旨の供述をするとこ
ろであつて、被告は「遠賀川」の製作を容認したものと推測されるところである。
右(一)の出費について被告が損害賠償請求権を取得したとの被告の主張は理由が
ない。
 次に、右(二)の出費についての損害賠償請求権の成否について考えるに、前掲
乙第五号証及び証人栗多栄の証言によれば、被告が「九州の旅博多」の製作に金三
四万六、六五八円の出費をしたことが認められるけれども、「九州の旅博多」の製
作が原、被告間の本件映画の製作についての契約に基づく原告の債務の不履行によ
るものであることを認めるに足りる証拠はなく、かえつて前認定によれば、「九州
の旅博多」は、被告が国鉄西部支社の注文により、本件映画一三本とは別個に製作
したものであるところ、この点について被告会社代表者【P10】は、原告が「遠
賀川」を主張、固持してこれを製作したために、「九州の旅博多」を製作せざるを
得なくなつたものである旨の供述をするところであるが、前説明のとおり結局は被
告自身「遠賀川」の製作を容認したものと推測されるところであるから、「遠賀
川」を製作したために「九州の旅博多」を製作せざるを得なくなつたものであると
しても、それは被告が容認したことに基因するものであるから、原告の債務の不履
行によるものであるとはいえない。右(二)の出費について被告が損害賠償請求権
を取得したとの被告の主張は理由がない。
 最後に、右(三)の出費についての損害賠償請求権の成否について考えるに、前
掲乙第五号証及び証人【P12】の証言によれば、本件映画の語りの用語が間違つ
ていたため、被告がその訂正録音のために金八万四、四三〇円の出費をしたことが
認められるけれども、その間違いが原告の脚本の間違いによるものであることを認
めるに足りる証拠はない。そうすると、右出費が、原、被告間の本件映画の製作に
ついての契約に基づく原告の債務の不履行によるものとはいえない。右(三)の出
費について被告が損害賠償請求権を取得したとの被告の主張は理由がない。
 右のとおりであつて、被告が原告に対し、被告主張の損害賠償請求権を取得した
ことを認めるに由ないから、結局被告の相殺の仮定抗弁は理由がないものといわな
ければならない。
九 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、本件映画の完成プリント一三本
の引渡請求、並びに、金員支払請求のうちの、金五三万五、〇五八円及びこれに対
する請求の拡張の申立書送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年六
月一二日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払
を求める限度でこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、
訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文を、仮執行の宣言につ
いて同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高林克巳 清永利亮 木原幹郎)
別紙
目録
映画フイルム
一 題名「九州雑記」
各篇題名
「長崎遊歩」、「肥後に見たもの」、「桜島の噴煙」、「豊後路礼讃」、「西海の
島」、「佐賀から柳川へ」、「薩南の島島」、「雲仙、島原、天草」、「日向高千
穂」、「玄海の潮おと」、「筑紫路」、「牧水のふるさと」、「遠賀川」
二 全一三本 一本の映写時間正味一二分三〇秒、長さ四五〇呎
三 カラー一六ミリトーキーフイルム

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