弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
 原告らの請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は、原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者双方の申立て
 原告株式会社中小企業助成会(以下「原告会社」という。)
 「被告が昭和三七年一月一八日付書面をもつてした原告会社の昭和三二年一月一
日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税に係る審査決定は、これを取り消
す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求める。
 原告P1
 「被告が昭和三七年一月一八日付書面をもつてした原告P1の昭和三二年分の所
得税に係る審査決定は、これを取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との
判決を求める。
 被告
 「原告らの各請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」と
の判決を求める。
第二 原告会社の請求原因
一 原告会社は、昭和三二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度に係る
所得金額および法人税額について、昭和三三年二月二八日、所轄麹町税務署長に対
し、欠損金額二、一三八、一三〇円、法人税額零とする確定申告をしたところ、同
税務署長は、昭和三六年二月二八日付書面をもつて、所得金額八八、一四六、九〇
〇円、法人税および過少申告加算税の額三六、八一七、三六〇円(うち過少申告加
算税額一、七五三、二〇〇円)との更正ならびに賦課決定をした(以下右更正なら
びに賦課決定を「原告会社に対する原処分」という。)。
二 原告会社は、原告会社に対する原処分に不服であつたので、昭和三六年三月三
〇日付書面もつて被告に対しその取消しを求めるため審査請求をしたところ、被告
は、昭和三七年一月一八日付書面をもつて、右審査請求を棄却する旨の審査決定
(以下「原告会社に対する審査決定」という。)をした。
三 しかし、原告会社に対する審査決定はつぎの事由により違法であるから、その
取消しを求める。
1 被告は、原告会社の審査請求に対し、原告会社に対する原処分の理由の当否に
ついて判断をしないで、右原処分で触れていない新たな理由に基づき原告会社に対
する審査決定をしたものであるが、右は審査請求の本質ならびに当時の法人税法の
規定に照らし違法である。
(一) 原告会社は、法人税法(昭和二二年法律第二八号)二五条の規定によるい
わゆる青色申告法人であるから、原告会社に対する原処分には同法三二条の規定に
よる更正の理由が詳細に附記されていたが、その理由は、要するに、寄附金の限度
超過額の否認ということであつた。しかるに、原告会社に対する審査決定の理由と
するところは、原告会社が同族会社であるから同法三一条の三の規定に基づきその
行為計算を否認するというのである。
 そもそも、昭和二五年三月改正前には、法人税法三七条の規定により審査請求が
あつたときは、「これを決定し」、納税義務のある法人に通知することとされ、右
の「これを決定し」の意義については、審査をもつて覆審制度であるとする建前か
ら「課税価額を決定する。」との意であるとし、審査の段階で、更正とは別個の独
自の課税処分をすることができると解されていたが、しかし、審査制度が納税者の
ための救済制度であるという本質にかんがみ、「これを決定し」とは更正(原処
分)の当否を決定する趣旨と解するのが相当であるとされ、昭和二五年三月の法人
税法の改正が行なわれた結果、同法三五条において、国税庁長官または国税局長
は、審査請求があつたときは、審査請求の全部についてその理由がないと認めると
きは当該請求を棄却する決定をし、審査請求の全部または一部についてその理由が
あると認めるときは審査請求の目的となつた処分の全部または一部を取り消す決定
をすべき旨が規定されることとなり、ここに審査決定は覆審ではなく審判であるこ
とが規定上も明白となつたのである。
 したがつて、本件の場合、原告会社は原告会社に対する原処分について不服の事
由を明示してその取消しを求めるため審査請求をしたのであるから、被告として
は、原告会社の右不服事由と原告会社に対する原処分の理由とを対比してそのいず
れが正しいかを審査、判断すべきであるにかかわらず、被告は、原告会社に対する
原処分の理由ならびに原告会社の不服の事由のいずれにも触れない新たな理由に基
づき、原告会社の審査請求を棄却したが、それは違法であるといわねばならない。
 ちなみに、原告会社に対する原処分の理由は、原告会社が原告P1から帝国石油
株式会社(以下「帝石」という。)の株式(以下「帝石株」という。)を買受けた
価額が時価より著しく高いので、その高い部分を贈与と認め寄附金計算をしたとい
うにあるが、右は、税法の一般規定の解釈上なされたもので、同族会社の行為計算
の否認でないことは明白である。また、被告が原告会社を同族会社と認定した基礎
となつた日本鉱業株式会社(以下「日本鉱業」という。)の原告会社株式の持株数
一、八一六、〇〇〇株というような数字は、原告会社が審査請求をした後において
被告が調査を行ない、原告会社その他の手元にある資料に基づいて発見した新たな
事実であり、原告会社に対する原処分の際にはこれを知るに由なかつたものである
から、被告が審査の段階で新たに附加した資料に基づいて同族会社の行為計算の否
認をすることが許されるとすれば、原告会社においてこれをあらかじめ予想して反
論することは不可能であつたのである。
(二) 原告会社は、審査請求において、更正に対する不服の理由として、原告会
社P1から帝石株四五〇万株を買入れた(以下、「本件取引」という。)当時の帝
石株一株当りの価格は、①日本鉱業から譲渡を受けた同株式(増資新株を含む。)
についてはかねての約束に基づき原価により、②その他の同株式については市場価
格のおおむね五割増を基準として計算することとし、右①②の両者を平均して一株
当り一一五円という数字が算出されているにすぎないのであり、これをもつて本件
取引のような多量取引の時価とみるべきではなく、現に第三者であるP2、P3氏
等との取引においては一三五円という値段で売買されているのであるから、原告会
社の主張する一三六円を時価とみるべきである旨および原告会社が代物弁済として
譲り受けた歩油権の実質価値は三三、〇〇〇、〇〇〇円が正しく、手形を使用した
というだけで一〇五、〇〇〇、〇〇〇円と評価するのは誤りであるなどを詳しく主
張したところ、被告は、本件取引当時における帝石株四五〇万株の実質価格一株当
り一五七円五銭は適正と認められる一株当りの時価一一五円に比し不当に高価であ
るとの結論を述べただけで、突如として同族会社に対する行為計算の否認の規定を
適用し課税標準を計算した。
 しかしながら、所得税法に関する基本通達(昭和三八年直審(訴)二二による改
正前のもの)六六二によれば、審査決定の場合、請求者に対し原処分以上の不利益
な処分をしてはならないとされているが、これは審査の本質に由来する原則であつ
て法人税についても同様というべきである。ところで、同族会社に対する行為計算
の否認は、税法の一般原則に基づく否認とは比較にならない程強力なものであるか
ら、審査の段階で同族会社の行為計算の否認をすることは新たに不利益処分をなし
たものとして違法というべきである。
 けだし、法人税法三一条の三は、政府が同法二九条ないし三一条の規定により課
税標準もしくは欠損金額または法人税額の「更正又は決定をなす場合に於て」、同
族会社の行為または計算でこれを容認した場合においては、法人税の負担を不当に
減少させる結果となると認められるものがあるときは、「その行為又は計算にかか
わらず、政府の認めるところにより」当該法人の課税標準もしくは欠損金額または
法人税額を計算することができる旨を規定しているが、右の規定は、同法二九条が
単なる事実の認定についての規定であるにすぎないのと異なり、同族会社の行為計
算を否認し、これを税法上合理化して政府の認めるところにより課税標準等を計算
することを趣旨とし、したがつて、右規定に基づく同族会社の行為または計算の否
認および課税標準の計算は、処分的性質を有し、更正または決定と不可分な、処分
の一部であるというべきである(同族会社である旨の認定あるいは右認定に基づく
行為計算の否認について異議があるという場合も、右の認定あるいは否認そのもの
を不服申立ての対象として独立の不服を申し立てることはできないから、更正また
は決定に対する異議として不服申立てをする以外に方法がなく、また、課税標準の
前提たる事実の認定に対する異議をはなれて単に課税標準や税額に対する異議とい
うことは考えられないのであるから、法人税法三一条の三の規定が、同族会社の行
為計算の否認は更正または決定をする場合にのみこれをすることができるものとし
たのはゆえあることといわねばならない。したがつて、同族会社である旨の認定あ
るいは右認定に基づく行為計算の否認は更正または決定の一部とみるのが同条の趣
旨とするところであると解すべきである。)。ところで、国税徴収法(昭和三七年
法律第六七号による一部改正前のもの)一六六条および昭和二四年大蔵省令三七号
大蔵省組織規程一二三条、一四二条によれば、法人税の課税処分は、税務署長の専
権に属するものであつて、国税局長の権限に属するものでないことが明らかである
が、更正または決定は課税処分であるから、更正または決定は、国税局長において
これをなしえないものというべく、したがつて、上記のように、更正または決定と
不可分なそれらの一部分をなす同族会社の行為計算の否認および課税標準等の計算
もまた国税局長のなしえないところである。しかるに、被告は、審査決定におい
て、原告会社を同族会社と認定のうえ、その行為計算を否認し、課税標準を確定し
たが、これは実質的な更正を行なつたものというべきで、許されないといわなけれ
ばならない。なお、法人税法は、更正または決定に対し、救済手段として再調査、
審査および訴訟という三段階の不服申立手段を用意しているのであるが、右のよう
に審査決定の段階において実質的な更正が行なわれると、これに対して再調査、審
査の請求をする余地がなく、第一段階と第二段階における救済手段を奪うこととな
るのであるから、この点からも、審査決定において実質的な更正をすることは許さ
れない。したがつて、本件の場合のように、もし税務当局が審査の段階において、
更正の理由は不当であるが、新しく発見した事実により同族会社の行為計算の否認
を理由とするのが正しいと認めるというのであれば、審査庁は、当初の更正を取り
消す旨の審査決定をし、同時に当該税務署長に調査資料を提供のうえ同署長をして
同族会社の行為計算の否認を理由とする新たな更正をなさしめ、これに対し被処分
者からの審査請求により反論させるべきものであつて、それこそが納税者の救済制
度であると同時に審判制度である審査の本質に合致し、また、法人税法三二条、三
五条の趣旨にもよく合致する措置であるというべきである。
2 原告会社に対する審査決定の理由は、これを要約すると、原告会社が原告P1
から昭和三二年一月一一日に購入した帝石株四五〇万株の取引について、原告会社
は、日本鉱業を主体とする同族会社であること、原告P1は、原告会社の取締役会
長P4と特殊関係にある株主であること、原告会社が買い入れた帝石株の買入当時
における実質価格一株当り一五七円五銭は、適正と認められる一株当りの時価一一
五円に比し不当に高価であること、以上の事実から判断し、右の取引は法人税法三
一条の三の規定に該当する、よつて上記適正時価一一五円と購入価額一五七円五銭
との差額の買入株数に相当する金額一八九、〇〇〇、〇〇〇円を原告会社の利益に
加算すると同時に原告P1に対する益金処分の贈与と認める、以上により原告会社
の当該年度の所得金額を計算すると九〇、八九二、二八〇円となる、したがつて原
告会社の審査請求は理由がない、というのである。しかしながら、
(一) 原告会社は、日本鉱業を主体とする同族会社ではない。
(1) 本件取引当時、原告会社本店に備え付けの株主名簿によると、上位大株主
五名の持株数はつぎのとおりである。
① 日本鉱業 九五〇、〇〇〇株
② 株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。) 八二八、〇〇〇株
③ 日本土地株式会社(以下「日本土地」という。) 四七六、〇〇〇株
④ 日産火災海上保険株式会社(以下「日産火災」という。) 三九五、〇〇〇株
⑤ 日産ビルデイング株式会社(以下「日産ビル」という。) 二五〇、〇〇〇株
(2) 右によれば、本件取引当時、上位大株主である日本鉱業、日立製作所、日
本土地の三名の合計持株数は、二、二五四、〇〇〇株で、原告会社の総株式数四、
七〇〇、〇〇〇株の一〇〇分の四七に当り、一〇〇分の五〇には満たないし、ま
た、上位大株主である日本鉱業、日立製作所、日本土地、日産火災の四名の合計持
株数は、二、六四九、〇〇〇株で、原告会社の総株式数の一〇〇分の五六に当た
り、一〇〇分の六〇に満たないし、さらにまた、上位大株主である日本鉱業、日立
製作所、日本土地、日産火災、日産ビルの五名の合計持株数は、二、八九九、〇〇
〇株で、原告会社の総株式数の一〇〇分の六一に当たり、一〇〇分の七〇に満たな
いのである。
(3) 被告は、本件取引当時における上位株主日本鉱業の持株数を一、八一六、
〇〇〇株と認定したが、しかし、右の株数には、日産火災より日本鉱業が取得した
二四五、〇〇〇株、日本土地から日本鉱業が取得した四七六、〇〇〇株、日本油脂
株式会社(以下「日本油脂」という。)より日本鉱業が取得した一五、〇〇〇株、
P5より日本鉱業が取得した一〇〇、〇〇〇株および旭ビル株式会社(以下「旭ビ
ル」という。)より日本鉱業が取得した三〇、〇〇〇株合計八六六、〇〇〇株を含
んでおり、そして、右の八六六、〇〇〇株は、いずれも本件取引当時まだ名義書換
が行なわれていなかったのであるから、同族会社の認定にあたって右株式数を加算
することはできない。
(4) けだし、昭和二五年九月二五日直法一―一〇〇国税庁長官通達(以下「基
本通達」という。)四四の二項によれば「法第七条の二の株主とは、記名株式につ
いては、株主名簿に記載された者をいうものであるが、その株式がいわゆる名義株
であるときは、実際の権利者を株主として取扱うものとする。」とされており、同
族会社であるかどうかを判定する場合の株主は、いわゆる名義株については実質株
主によることとされているが、その他はすべて株主名簿によることとされているの
であるから、一般に生ずる名義書換遅延の場合は株主名簿によるべきである。した
がって、白紙委任状付きまたは裏書により譲渡を受けて実質的には株主となってい
てもまだ株主名簿の書換をしていない場合は、株主名簿上の株主により同族会社で
あるかどうかを判定すべきものといわねばならない。
 そもそも、同族会社の判定にあたって、持株数を基準とすることとされているの
は、少数株主がその会社の五〇パーセント以上の株式を所有し議決権の行使によっ
てその会社を支配しているということによるものであるから、右の判定をする場合
の株主は、いわゆる名義主義により、株主名簿に株主として登載されたもののみで
判定するのが当然であり、ただ「名義株」のみが特別にあつかわれるにすぎない。
そして、「名義株」の用語は、証券の取引のうえでも、税法の解釈のうえでももは
や一定した観念内容を有しているが、それは資金を全然出さずに名義だけを他人に
貸しているいわゆる仮装名義株を指しているのであつて、すでに対価の授受を終
え、白紙委任状付きまたは裏書により譲渡されたもので、本件取引当時にたまたま
株主名簿の書換が行なわれていなかつたにすぎない場合の譲渡人名義のままの株式
などは「名義株」とはいえないのである。すなわち、基本通達が、法人税法七条の
二の株主とは、記名株式については、株主名簿に記載された者をいう、と述べてい
るのは、株式譲渡の場合には、実質的な権利移転があつても名義書換との間には必
ずある期間が存するのであるから、常に、名義上の株主によるか実質上の権利者に
よるかという問題を生じ、税務官庁においても裏書等により譲渡を受けた株式の実
質的株主を一々調査追及することは事実上不可能であり、さらになんらかの偶然の
機会にこのような実質的株主を知ることがあつてもその場合だけ実質上の株主を同
法七条の二にいう株主とみることとすればかえつて課税の不公平をきたすことを恐
れ、解釈を統一したものである。したがつて基本通達は「名義株」の場合以外の実
質上の権利者は問題にしないという意味に解すべきである。もし本件のような名義
書換の遅延の場合をもつて「名義株」というのであるとすれば、株式譲渡の場合当
該譲渡にかかる株式は全部「名義株」であるといわねばならないこととなろう。
(5) ところで、本件において、日本鉱業は、その取得した前記株式について、
原告会社に対し、本件取引当時まだ名義書換の請求もしていなかつた。ちなみに、
原告会社の株式を日本鉱業が日本土地および日産火災より取得したのは、昭和三一
年三月三一日であつて、本件取引の商談開始と前後し、本件取引の商談決定時であ
る昭和三二年一月一一日より約一〇か月前であるところ、原告会社のような無配会
社の株式の名義書換の請求は遅れるのを常とするが、とくに本件の問題が発生して
から後は、万一の誤解を避けるため、日本鉱業は、右名義書換の請求をしないまま
今日にいたつたのである。したがつて、原告会社としては、株主名簿上の名義を変
更することができないで、株主総会の招集通知も株主名簿上の名義人である日本土
地および日産火災に対してなしていた。
(二) 原告P1は原告会社の取締役会長P4と親族としての特殊関係にあるが、
しかし、P4は同人の保有する原告会社の株式数は五万株で、原告会社の総株式数
の一〇〇分の一・〇六にすぎないし、また。原告会社の上位大株主である日本鉱
業、日立製作所、日本土地、日産火災、日産ビルの各役員でもなければ大株主でも
ない。原告P1も、その保有する原告会社の株式数は一五、〇〇〇株で、原告会社
の総株式数の一〇〇分の〇・三にすぎないし、また、右の五会社ともなんらの関係
もない。
3 本件取引当時における帝石株四五〇万株の実質価格は一株当り一三六円とみる
のが正当である。
(一) 被告が右帝石株の実質価格を一株当り一五七円五銭と認定した根拠は、原
告会社が帝石株四五〇万株の代償として、
(1) 現金および債権等による決済
(A) 現金 四六、〇〇〇、〇〇〇円
(B) 借入金肩替り 四〇三、五〇〇、〇〇〇円
(C) 債権相殺 二五、〇六六、〇〇〇円
(D) 日埃交易株式 二、二〇三、九二八円
(E) 日産炭化工業株式会社(以下「日産炭化」という。)株式 二九、九六
七、〇五〇円
(F) 日産炭化に対する債権 九五、〇〇〇、〇〇〇円
右小計 六〇一、七二六、四五〇円
(2) P1企業株式会社振出の手形(以下「本件手形」という。)による決済と
して
一〇五、〇〇〇、〇〇〇円
以上合計 七〇六、七二六、四五〇円
の出捐をしたのであるから、一株当りでは一五七円五銭となるというのである。
(二) しかしながら、右代償出捐額の認定について、被告は、(F)日産炭化に
対する債権九五、〇〇〇、〇〇〇円をその額面どおり評価したのであるが、右の債
権は、後記のとおり、延払条件付の債権であつたのであるから、複利現価によりこ
れを評価すべきものであり、また、本件手形による決済額一〇五、〇〇〇、〇〇〇
円についても、これを手形額面どおり評価したのであるが、右手形による決済は形
式上のことだけであり、その実質は、後記のとおり、歩油権による代物弁済がなさ
れたものであるから、本件取引時の時価によりこれを評価すべきものである。
(1) 日産炭化に対する債権の評価について
(イ) およそ、取引時における物件の価格を評価する場合において、当該取引内
容に延払条件付債権がある場合は、複利現価の方法により現在価値を算出すること
は一般商取引の慣行である(たとえば割賦販売の場合の物件の価格は、現金販売の
場合の物件の価格より延払期間に対応する利息相当分だけ高いのが通例であり、ま
た、法人税法施行規則(昭和三七年政令第九五号による改正のもの)一六条の二第
一項の規定による借地権の対価とされる特別の経済的利益の額の計算において複利
現価の計算方法がとられていることからみてもかような計算方法がとられるべきは
当然といわねばならない。)。したがつて、延払条件付である日産炭化に対する原
告会社の債権の現在価値(昭和三二年一月一一日現在における、年九分の複利によ
る評価額)は、昭和三四年一一月一九日に現金で決済された四五、〇〇〇、〇〇〇
円の現在価値三四、九八五、〇〇〇円と昭和三五年五月一九日に現金で決済された
五〇、〇〇〇、〇〇〇円の現在価値三七、二二六、〇〇〇円との合計七二、二一
一、〇〇〇円が正当であり、被告が額面どおり九五、〇〇〇、〇〇〇円と評価した
のは、二二、七八九、〇〇〇円の過大評価をしているものといわねばならない。
(ロ) 原告会社は、日産炭化の要請により、昭和二七年三月から昭和三二年一月
一一日に至るまでの間に逐次同社に融資をし、貸金債権を有していたが、原告P1
から買受けた帝石株四五〇万株の代金の一部として代物弁済に充てることができる
ことになつていた一九一、五〇〇、〇〇〇円のうち一四三、五三二、九五〇円の債
権を右同日に本件取引の代金に対する代物弁済の一部に充て、原告P1に譲渡し
た。
(ハ) 当時の債務者日産炭化の財政状態は、同社の昭和三一年一二月三一日現在
の貸借対照表に示されているとおり、すでに債務超過となつていたので原告会社の
日産炭化に対する前記債権は金額的にも、時間的にも相当の犠牲を予定せざるをえ
ない実情にあつた。すなわち同社は、豆炭製造を主目的とする会社であるが、経営
不振に陥り、事業遂行が困難となり、ついに昭和三一年八月三〇日には休業の止む
なきにいたつたのであり、原告会社と日産炭化との間においては、当時すでに債権
額の一部免除について協議中であつたが、同社は相当な固定資産を有し、取引先も
あることとて解散するにしのびず、他に事業転換を画策中でもあつたので、同社の
存立に影響しない範囲内で債権額の一部免除をすることを基本方針として、つぎの
方法で一応の免除額を考慮中であつた。
① 前記日産炭化貸借対照表によると、(イ)純資産額(欠損)六九、六八六、九
七八円、(ロ)流動資産計一二七、二九三、九四〇円、この評価額は九九、四四
八、六五九円となるので、結局、損失二七、八四五、〇〇〇円、したがつて、右
(イ)の純損失六九、六八六、九七八円に(ロ)の損失二七、八四五、〇〇〇円を
加えた合計額は九七、五三二、〇〇〇円となる。右の損失額は日産炭化の長期借入
金に対し二二パーセント(端数切上げ)に当たるので、この割合を一応の目途とし
免除額を協議する。
② 日産炭化は、前記事情により支払能力がないので、債権の回収は少なくとも三
年間据置く。
(ニ) 原告P1も本件取引当時原告会社の日産炭化に対する前記債権が本件取引
代金の代物弁済に充てられることおよび右①の要領により債権額の切捨てが行なわ
れ、かつ、右②により延払いとなることを了解していた。そこで代物弁済に充てら
れた債権一四三、五三二、九五〇円に①の免除額の割合二二パーセントを乗じた額
は三一、五七七、二四九円となるから差引き残は一一一、九五五、七〇一円である
が、これを三年間据置き後支払われるものとして年九分(半年四分五厘)の複利原
価を求めると八五、九六九、六六二円となる。
(ホ) かくて、昭和三二年一月一一日の本件取引当時において前記原告会社の日
産炭化に対する債権については、右のように約二二パーセント以上の切捨てが行な
われること、返済期限が三年以上据置きとなることがほぼ確定していたので、帝石
株の価格を決定する際右債権の評価額を七〇、六四〇、二四六円とした(この額が
前記評価額七二、二一一、〇〇〇円と異なるのは、被告が本件取引の後審査決定時
までに実現した右債権元本の決済額九五、〇〇〇、〇〇〇円を基礎として審査決定
をしているので、これとあわせるため実際決済期日を基準にして複利現価の計算を
したためである。)
 その後、日産炭化において支払いの見通しがついた昭和三四年九月一五日に債権
の一部切捨てと延払条件を内容とする契約の確認が行なわれた。
(ヘ) ところが、これより先、昭和三三年二月二八日に、原告会社がその昭和二
九年一月一日より同年一二月三一日にいたる事業年度の法人税に対し麹町税務署長
から更正の通知を受け、その納税額二九、六〇八、四〇〇円および地方税一二、一
五〇、五九〇円ならびに利子税四、四九七、六四〇円をあわせ、計四六、二五六、
六三〇円の納税資金の調達に迫られたのであるが、原告会社は換金性資産に乏し
く、日産炭化に対する債権を取り立てるよりほかに資金調達の途がなかつたので、
同社に対し強く支払方を要請した。しかし、同社の財産状態は前記のとおりで、原
告会社の右要請を受け入れるためには、固定資産の処分以外に方法がなく、再建計
画も思わしく進捗しなかつた等の事情もあつたので、日産炭化はやむなく、前記の
再建計画を断念し、臨時株主総会の決議を経て固定資産を処分することとなつた。
かように債務者である日産炭化の方針が一変したので、日産炭化と原告P1との間
で種々商談を重ねた結果、昭和三四年一一月一九日に四五、〇〇〇、〇〇〇円、昭
和三五年五月一九日に五〇、〇〇〇、〇〇〇円、計九五、〇〇〇、〇〇〇円が決済
され、残額四八、五二三、九五〇円は切り捨てられることになつた。
(ト) 以上の次第で、原告らと被告の主張の相違は、本件取引のような株式の売
買による代金債権に対し、他の債権をもつてする代物弁済がなされたとき右代物弁
済に供せられた債権に原告ら主張のような条件が付されていた場合に、その債権の
代物弁済時の評価について複利原価の方法によつてこれをすることができるかどう
かという点にあるが、債権譲渡について延払条件が付されている場合の当該債権の
評価が複利現価の方法で行なわれることは経済取引上の常則である。法人税法施行
規則(昭和二五年政令第七〇号による改正のもの)一七条の二第一項は「預金、貯
金、貸付金、売掛金その他の債権」の評価換えを認めない旨を定めているが、その
趣旨は、法人が現に有する債権を取立不能のおそれあることを理由に評価換えし評
価損を計上すればそれだけを被課税利益が圧縮されることとなるから会計上恣意性
を有するいわゆる内部取引については評価換えを禁止するというにある。したがつ
て、本件取引におけるように外部から取得した債権を取得時における現在価値に評
価見積りすることについては、評価換えを制限する理由がない。
 けだし、昭和三八年に改正された商法二八五条四の規定が会計上のいわゆる外部
取引については債権の実質的な価値によることができる途をこうじたことをみても
右法人税法施行規則の趣旨が裏付けられるし、同規則一六条の三による借地権の対
価とされる特別の経済利益の額の計算において複利現価法をとるものとしているこ
とは、当該取引が外部取引より発生するものであるから取引時の実質的価値をとら
え課税するとの趣旨によつたものであると解され、右のように外部取引について実
質的価値に評価換えをすることは税法に内在する条理であつて、法人税法七条の三
に規定する実質課税の原則からみても当然のことといわねばならない。
(2) 本件手形による決済が実質上は歩油権をもつてする代物弁済であることお
よび歩油権の評価について
(イ) 本件手形による決済は、実質上は歩油権をもつてする代物弁済であるか
ら、その評価は、本件取引時における歩油権の時価によつてなされるべきである。
本件において、右歩油権による代物弁済の手段として額面一〇五、〇〇〇、〇〇〇
円の手形が使用されたので、被告は手形が使用されたという形式上の事実に着目
し、手形額面額一〇五、〇〇〇、〇〇〇円の全額を決済額とみたのである。しか
し、右の手形は形式上用いられたにすぎないのであるから法人税法七条の三の規定
による実質課税の原則に基づき、歩油権の実価値によつて課税されるべきである。
 すなわち、原告会社は、本件取引の交渉当時、訴外日満鉱業株式会社(以下「日
満鉱業」という。)に対して左記のとおり元本一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円、この利
子見積八、〇〇〇、〇〇〇円(ただし返済期日が繰上げられたのでこれを五、〇〇
〇、〇〇〇円に改訂)合計金一〇五、〇〇〇、〇〇〇円の債権を有していた。
① 利息見積八、〇〇〇、〇〇〇円の計算根拠
(a) 貸付金三〇、〇〇〇、〇〇〇円
期間 昭和三一年二月一八日より同三二年三月三一日まで
日数 四〇七日
日歩 二銭六厘
利息額 三、一七四、六〇〇円
(b) 貸付金三〇、〇〇〇、〇〇〇円
期間 昭和三一年五月一八日より昭和三二年三月三一日まで
日数 三一八日
日歩 二銭六厘
利息額 二、四八〇、四〇〇円
(c) 貸付金三〇、〇〇〇、〇〇〇円
期間 昭和三一年八月一八日より昭和三二年三月三一日まで
日数 二二六日
日歩 二銭六厘
利息額 一、七六二、八〇〇円
(d) 貸付金一〇、〇〇〇、〇〇〇円
期間 昭和三一年九月一八日より同三二年三月三一日まで
日数 一九五日
日歩 二銭六厘
利息額 五〇七、〇〇〇円
以上貸付金元本計一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
利息額合計七、九二四、八〇〇円
手形受領の関係上端数を整理し八、〇〇〇、〇〇〇円
② 利息見積額五、〇〇〇、〇〇〇円の計算根拠
(a) 貸付年月日 昭和三一年二月一八日
貸付金額 三〇、〇〇〇、〇〇〇円
残高 同右
日数 九〇日
積数 二、七〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
(b) 貸付年月日 昭和三一年五月一八日
貸付金額 三〇、〇〇〇、〇〇〇円
残高 六〇、〇〇〇、〇〇〇円
日数 九二日
積数 五、五二〇、〇〇〇、〇〇〇円
(c) 貸付年月日 昭和三一年八月一八日
貸付金額 三〇、〇〇〇、〇〇〇円
残高 九〇、〇〇〇、〇〇〇円
日数 四四日
積数 三、九六〇、〇〇〇、〇〇〇円
(d) 貸付年月日 昭和三一年一〇月一日
貸付金額 一〇、〇〇〇、〇〇〇円
残高 一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
日数 二四日
積数 二、四〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
(e) 返済年月日 昭和三一年一〇月二五日
返済額 五〇、〇〇〇、〇〇〇円
残高 五〇、〇〇〇、〇〇〇円
日数 九〇日
積数 四、五〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
(f) 返済年月日 昭和三二年一月二二日
返済額 五〇、〇〇〇、〇〇〇円
残高 なし
以上合計貸付金額一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
″返金額 一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
″日数 三四〇日
″積数 一九、〇八〇、〇〇〇、〇〇〇円
一九、〇八〇、〇〇〇、〇〇〇円に対し日歩二銭六厘として利息額四、九六〇、八
〇〇円
 手形受領の関係上端数を整理し五、〇〇〇、〇〇〇円
(ロ) 右債権について、原告会社は、本件取引が約束されていた帝石株の代金に
充当するため、返済を迫つたところ、当時の日満鉱業としては手形不渡事故を惹起
し銀行取引停止の期間中であり、支払能力がなかつたばかりでなく、近い将来にお
いても返済の見通しが全くたたない実情にあつた。他方、本件取引は、市場外にお
ける大量の取引であつて、相当の準備期間を要するところから、昭和三一年六月ご
ろから交渉がはじめられたが、その交渉のうち、もつとも問題となつた取引価格に
ついては、昭和三一年九月ころ市場価格の五割増程度とすることに協定が成立し、
ついでこの代金の決済方法について商談を重ねたが、原告会社の財産整理の関係も
あり、前記の市場価格の五割増程度という価額を崩さない限り代物弁済も差し支え
ないとの原告P1の諒解を得たので、代金の決済については日満鉱業に対する原告
会社の債権を代物弁済の一部に充てることにした。ところが、当時の日満鉱業の財
政状態は前記のような実情であつて、その所有資産中債務の担保に供していない唯
一の資産としては歩油権だけであつたので、この歩油権を原告会社が日満鉱業に対
する債権の代物弁済として譲り受け、これを本件取引代金に対する代物弁済として
原告P1に譲渡することに、原告会社日満鉱業、原告P1の間に諒解が成立した。
そして右三者間の歩油権の譲渡手続につきいわゆる中間手続を省略(ここに中間手
続の省略というのは、本件歩油権の得喪変更については訴外石油資源開発株式会社
に願い出て、同社より承諾書を受領することによりはじめて得喪変更の効果が発生
するものであるが、日満鉱業から原告会社へ、原告会社から原告P1への権利移転
手続について、直接日満鉱業から原告P1への権利移転手続を行ない、これについ
て右訴外会社の承諾を得たことを指すのである。)するため、原告会社日満鉱業、
原告P1の三者協議のうえ、形式上日満鉱業と原告P1との取引としたもので、そ
の実質は、原告会社がその日満鉱業に対する債権の代物弁済として歩油権を取得
し、この歩油権をもつて本件取引代金の一部についての代物弁済としたものであ
る。
(ハ) ところで、右の歩油権の実際価値は三三、〇〇〇、〇〇〇円にすぎないの
で、原告会社の日満鉱業に対する前記債権元本一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円との差額
六七、〇〇〇、〇〇〇円を貸倒金として処理しなければならないが、そのためには
後記のような税務上の問題があるので、当該債権を額面のまま処理する方法を考え
ていたところ、たまたま時を同じくして、本件取引の代金決済をしなければならな
かつたので右の歩油権を代物弁済に充てることにより、右の税務上の問題も解決す
ると考え、右債権額および利息額と同額の一〇五、〇〇〇、〇〇〇円とすることと
し、原告会社の右不良資産を処理することとした。そこで、原告会社、日満鉱業、
原告P1が協議のうえ、原告会社が日満鉱業に対して有する前記債権額合計一〇
五、〇〇〇、〇〇〇円を額面とする手形を原告P1から日満鉱業にあてて振り出し
(原告会社が、日満鉱業から裏書交付を受けた右手形の振出人名義はP1企業株式
会社、その額面額合計は当初前記計算のとおり一〇八、〇〇〇、〇〇〇円であつた
が、後に見積利息が改訂され、超過分三、〇〇〇、〇〇〇円に相当する手形は原告
会社から日満鉱業へ返還された。)、日満鉱業から原告会社に対し前記一〇五、〇
〇〇、〇〇〇円の債務の決済として裏書譲渡し、原告会社は、これによつて日満鉱
業に対する右同額の債権を消滅させるとともに、この手形を原告P1に支払うべき
本件取引代金の支払いに充当した形式をとつたのであるが、実質的には上記のとお
り、歩油権をもつてする代物弁済なのである。
(ニ) 右のように、本件手形は、代物弁済を目的とする中間手続省略のための便
宜的決済手段であつて通常の流通証券としての手形ではなく、歩油権の代償として
原告P1が日満鉱業に振出交付し、日満鉱業は原告会社に対する債務弁済のためこ
れを使用したものであつて、原告会社が日満鉱業から歩油権を代物弁済として受領
し、さらにこれをもつて原告P1への本件取引代金の代物弁済に充当するという二
重の手続をとるべきところ、その中間を省略して、形式上、原告P1が歩油権の代
償として本件手形を日満鉱業に手渡したものにすぎない(なお、原告P1は、当初
日満鉱業に対し額面合計一〇八、〇〇〇、〇〇〇円の手形を交付したのであるが、
そのうち三、〇〇〇、〇〇〇円については、原告会社の日満鉱業に対する債権額を
超過していたので、原告P1において日満鉱業から返還を受けた。)。
(ホ) 以上述べたところは、前記歩油権の価値が、原告会社の日満鉱業に対する
債権額と偶然一致するというようなことは右に述べたような目的で協定するような
場合のほかにはありえないことであること、また、原告P1と日満鉱業との間に
は、前記歩油権の売買については一回の交渉もなかつたこと、原告会社と原告P1
との間には前記のような代金決済方法をとることによつて本件取引が行なわれたこ
と、株式譲渡所得税が課せられるならば、株式の代金額についても正確な評価が行
なわれたであろうけれども、本件取引当時は株式譲渡が非課税となつていたので、
原告P1としては株式の代金額がいくらであるかについては関心がなかつたこと等
をあわせ考えれば明白である。
(ヘ) かくして、原告会社は、歩油権を日満鉱業に対する債権の代物弁済として
受領し、これを原告P1に対する株式代金の代物弁済に充てたのであるが、かよう
な場合、正確な評価に基づいて取引するのが正しいけれども、そのようにすると日
満鉱業に対する債権について欠損処理等をしなければならず、経理上困難が多いの
で、すべて額面どおりの額による代物弁済の便法をとり、その手段として本件歩油
権について本件手形が使用されたのである(原告会社は青色申告法人であるから、
税法を遵守し、誤りのない申告をしなければならないが、前記日満鉱業に対する債
権一〇五、〇〇〇、〇〇〇円は、当時の日満鉱業としては、手形不渡事故を惹起し
銀行取引停止期間中であり、支払能力がなかつたばかりでなく、近い将来において
も返済の見通しが全くたたない実情にあり、日満鉱業の所有資産中債務の担保に供
されていない唯一の資産が本件歩油権であつたような事情のため回収の著るしく困
難な債権であり、この種の不良資産を額面のまま財産目録に計上することは商法に
違背するので、商法上は評価換のうえ、回収不能額を財産目録に計上し、よつて生
じた差額を評価減として損益計算書に計上する必要があると考えたが、税法におい
ては、債権の全額が回収不能に帰した場合以外は、たとえその大部分が不良化して
いても一部について貸倒れを認めない取扱いが行なわれているので商法上の処理を
した場合には、税務上容れられないこととなる。)。したがつて、本件手形は、原
告P1による振出の時から、同原告への返還の時までの間、手形としては全く活用
されておらず、極論すれば、原告会社、日満鉱業、原告P1間の帳簿整理上の伝票
にかわるものとして利用されたにすぎないものである。
(ト) このことは、原告P1が、不動産管理を目的とするいわゆる保全会社であ
る訴外P1企業株式会社の社長であり、もつぱら同社の経営のみに専念し、石油鉱
業についてなんらの経験もないこと、原告P1の所得は、配当所得、不動産所得、
給与所得よりなり、安定した収入源によつて生計を営んでおり、年令も七三才に達
し、積極的な事業意欲はなく、したがつて、きわめて危険の多い歩油権に巨額の資
金を投入して取得する意図があるものとは考えられないこと、原告P1と日満鉱業
とは、過去においてなんらの縁故関係はもとより、本件取引時において一面識もな
かつたこと、本件歩油権は、日満鉱業が訴外P6より昭和三〇年一二月三一日に代
金三、〇〇〇、〇〇〇円で取得したものであるが、その後の石油事情、物価指数等
の変遷からみても本件取引時たる昭和三二年一月一一日当時、すなわち、日満鉱業
の取得時からわずか一年余りで三三、〇〇〇、〇〇〇円と評価されることすら高き
に失する感をまぬがれないのに、いわんやこれを一〇五、〇〇〇、〇〇〇円と評価
するがごときは常識外のことであつて、原告会社日満鉱業、原告P1間における前
述のような決済の便法としてのみ考えられること、また、原告P1と日満鉱業との
間には、本件歩油権の売買につき交渉した事実もないこと等からみても肯認しうる
ところである。
(チ) 以上のとおりであるから、原告会社と原告P1間に行なわれた帝石株四五
〇万株の課税問題がおこるときには、実質課税の原則に基づき、代物弁済された歩
油権についてその実質的価値を算定し、それによつて右帝石株の代価を算定すべき
は当然である(なお本件歩油権は、現在にいたるまで全く無収益であり、なんら経
済的な効果を発揮していない。)。
 そして、原告会社と、原告P1とは、その間の右帝石株四五〇株についての価額
を決定するに当たり、右歩油権の評価額を三三、〇〇〇、〇〇〇円としたが、それ
は、前記のとおり、昭和三〇年一二月三一日に日満鉱業がP6より三、〇〇〇、〇
〇〇円で右歩油権を取得したので、この価額を基準とし、その後の石油事情および
物価指数を考慮し、精通者の意見をも徴したうえ、これを三三、〇〇〇、〇〇〇円
としたものである(わが国において石油鉱業権についてもつとも権威のある訴外石
油資源開発株式会社副社長P7の右歩油権に関する評価額三二、五〇〇、〇〇〇円
=危険率を見込んだときの評価は一六、二六〇、〇〇〇円=に対比しても、高価の
感こそあれ不当に低く評価したものではない。)。
 これを要するに、以上の代物弁済についての争点は、代物弁済物件について形式
によるか実質によるか、また、代物弁済物件について一般評価原則によるか処分価
額によるかという問題に帰するが、法人税法七条の三には、実質課税の原則が規定
されており、本件取引についても当然右原則の適用があると解すべく、上記の代物
弁済は、それに充てられた物件の処分であるから、その評価は当該物件の収益性、
経済性、その他諸般の状況を綜合して判断すべきものといわなければならない。
(3) 以上の理由により、原告会社と原告P1との間における本件取引代金の弁
済額は、(イ)現金および債権等による決済額、(A)現金四六、〇〇〇、〇〇〇
円、(B)借入金肩替り四〇三、五〇〇、〇〇〇円、(C)債権相殺二五、〇六
六、〇〇〇円、(D)日挨交易株式二、一九三、四〇〇円、(E)日産炭化株式二
九、九六七、〇五〇円、(以上は被告の計算に同じ)、(F)日産炭化に対する債
権七二、二一一、〇〇〇円以上小計五七八、九三七、四五〇円、(ロ)表面は手
形、実質は歩油権による決済額三三、〇〇〇、〇〇〇円以上合計六一一、九三七、
四五〇円であり、したがつて本件取引の対象となつた帝石株一株当り一三六円が正
当な評価である。
 なお、もし日産炭化に対する債権および歩油権による各代物弁済の点について正
規の会計処理を行なえば、原告会社の決算上右日産炭化関係については、帳簿上一
四三、五三二、九五〇円から九五、〇〇〇、〇〇〇円を差し引いた四八、五三二、
九五〇円の損失が発生し、右歩油権関係については一〇五、〇〇〇、〇〇〇円から
三三、〇〇〇、〇〇〇円を差し引いた七二、〇〇〇、〇〇〇円の損失が発生するこ
ととなるが、これを額面どおり取り扱つたとすると、経理上の難点について述べた
ように、税務的に相容れないこととなる等の事情によつて、その結果は、被告主張
のとおり、帝石株一株当りの価額は、一五七円五銭となるのであるが、右の金額に
は右の欠損部分が含まれていることとなる。
4 原告会社が日本鉱業に対し、売却した帝石株四五〇万株の売却当時における価
格は一株当り一三六円とみるのが正当である。
(一) 被告は、原告会社が日本鉱業に対し、原告会社において原告P1より譲り
受けた帝石株四五〇万株を含み総株数、一、〇〇〇万株を一株当り一一五円で売却
しているから、右四五〇万株の本件取引時における価格は一株当り一一五円である
と主張する。
(二) しかし原告会社が日本鉱業へ売却した帝石株一、〇〇〇万株の価格はつぎ
の内容によつて構成されているのであるから、そのうち、原告P1から購入した分
四五〇万株については一株当り一三六円とみるのが正しいのである。
(三)(1) 原告会社と日本鉱業間における帝石株取引価格構成
(A) 昭和二九年一一月三〇日日本鉱業より取得した株式
一、八八一、〇〇〇株 平均一株当り価格 一三五円
合計金額 二五三、九三五、〇〇〇円
(B) 昭和三〇年三月一日右一、八八一、〇〇〇株に対する増資割当株
一、八八一、〇〇〇株 平均一株当り価格 二五円
合計金額 四七、〇二五、〇〇〇円
以上(A)(B)の小計株数三、七六二、〇〇〇株平均一株当り価格 八〇円
合計金額 三〇〇、九六〇、〇〇〇円
(C) 原告会社の右(A)、(B)および後記(D)以外の当時の手持株
一、七三八、〇〇〇株 平均一株当り価格 一三六円
合計金額 二三六、一〇二、五五〇円
(D) 昭和三二年一月一一日原告P1より取得した株式
四、五〇〇、〇〇〇株 平均一株当り価格 一三六円
合計金額 六一一、九三六、四五〇円
以上合計昭和三二年一月一四日 原告会社より日本鉱業へ譲渡した帝石株一、〇〇
〇万株 平均一株当り価格一一五円
合計金額 一、一五〇、〇〇〇、〇〇〇円
(2) ところで右(A)および(B)の取引は、帝石の再建対策上、原告会社が
日本鉱業から譲り受けたものであるが、その取得のための資金は、その全額を原告
会社が日本鉱業から借り受け、この債務の決済には右譲受株を再び日本鉱業に譲渡
する約定のもとに、行なわれたもので実質的には買戻条件付のものである。
 すなわち、昭和二九年七月ごろ、帝石の経営は、労使間の紛争、役員間の軋轢等
から行詰りをきたしたので、通産省当局および大株主は、その収拾に万策尽きた結
果、その難局を打開するため、P4の出馬を懇請した。P4は、帝石の経営引受け
に際し、少なくとも表面上同社第一の大株主となり、実力を持つこと、および軋轢
の根源をなす大株主数名に対してその持株をP4側に譲渡することを条件として通
産省当局の要請に応え、右の大株主数名中の一人である日本鉱業に当該所有株式の
譲渡方を要請したところ、「日本鉱業がP4側に帝石株を譲渡するのは、右に述べ
たようにP4が帝石整理のためにその必要条件としてなされたものであつて、その
ことによつて日本鉱業が帝石に対して従来有していた一切の関係と絶縁する意図に
基づくものではないから、帝石の整理がすみ次第、いいかえればP4が帝石株保有
の必要なきにいたつた暁には、右の株式は日本鉱業の要請次第通抜勘定(原則とし
て原価)で返戻する。」との密約が当時の日本鉱業社長P8とP4との間に成立
し、そのうえで、日本鉱業は、P4の右要請に応じてその持株一、八八一、〇〇〇
株を昭和二九年八月、一株当り一三五円(手数料八円を含む。)でP4側に譲渡す
ることになつたが、P4は大量株式を所有する資力がなかつたので、最終的には原
告会社が取得した(右密約の経緯を文書で明らかにしておかなかつたのは、前記大
株主の軋轢に基因する帝石行詰りの収拾策として、大株主数名の株式を譲渡させた
経緯にかんがみ、特にP4が日本鉱業のロボツトであるとの非難を避けるため差し
控えられたのである。したがつて、日本鉱業が、昭和三一年原告会社に対し帝石株
一、〇〇〇万株買集めを委託し値決めを行なつたとき日本鉱業としては、前記の密
約に基づき、一、〇〇〇万株のうち昭和二九年日本鉱業がP4側に譲渡した株式
一、八八一、〇〇〇株(この価額一株当り一三五円)およびその後行なわれた増資
新株一、八八一、〇〇〇株(この一株当り払込金二五円=この払込資金も全額日本
鉱業が支出している。)計三、七六二、〇〇〇株(この一株当り平均価格八〇円)
は前記の事情によつて、そのまま取引価格とし、原価で引き渡した。
(3) また、前記(C)の株式は、原告会社が昭和二九年八月に訴外P2、P3
等より取得したもので、費用を含み一株当り価格一三五円(当時の市場価格は一株
当り八九円)であつたが、原告会社においてそのまま手持ちしていたものである。
原告会社は、右株式を後述のP4よりの取得価格と同様に評価し、一株当り一三六
円(当時の市場価格は一株当り九一円)で日本鉱業に売却した。
 すなわち、原告会社は、昭和二九年一一月三〇日P4より帝石株五〇〇万株を一
株当り一三五円で取得したが、P4は、同年八月一〇日訴外P2より一、三七九、
〇〇〇株を一株当りの価格一二七円(合計金額二二〇、八五三、〇〇〇円)で取得
し、また、同年同月一七日日本鉱業より一、八八一、〇〇〇株を一株当りの価格一
二七円(合計金額二三八、八八七、〇〇〇円)で、さらに、訴外P3より日本鉱業
を経由して九八〇、〇〇〇株を一株当りの価格一二七円合計金額一二四、四六〇、
〇〇〇円)で、日興証券株式会社より日本鉱業を経由して四〇〇、〇〇〇株を一株
当り一一三円(合計金額四五、二〇〇、〇〇〇円)で取得し、これに取得のために
要した諸経費四五、六〇〇、〇〇〇円を加えた結果、P4の帝石株五、〇〇〇、〇
〇〇株の取得原価は総額六七五、〇〇〇、〇〇〇円、一株当り一三五円となつた
が、これを原告会社において同価格をもつてP4より譲り受けた。
(4) つぎに、前記(D)の四五〇万株は原告P1より原告会社が取得したもの
であるが、右四五〇万株の日本鉱業への売却価格については右(3)に述べた価格
とこれを異にすべき理由がないので、同様一株当りの価格を一三六円としてこれを
日本鉱業に引き渡した(なお、原告P1からの取得は、日本鉱業の委託により取得
したもので、原告会社としては、実質的にみればその取得を斡旋したにすぎないも
のである。)。
(5) 以上のとおり、総株数一、〇〇〇万株の平均一株当り価格は一一五円であ
るが、これは単なる平均値にすぎず、原告会社の日本鉱業への譲渡価格の一株当り
価格は(A)および(B)に該当する株式は八〇円、(C)に該当する株式は一三
六円、(D)に該当する株式も一三六円である。
 したがつて、(A)、(B)および(D)について、原告会社の利益はないが
(C)については九八、〇六二、五五〇円の利益(簿価一株当り八〇円)をあげた
ので、決算にも、この利益は計上された。
 被告は、原告会社の日本鉱業に対し売却した株式数一、〇〇〇万株の一株当り平
均価格にすぎない一一五円をもつて適正な価格であるとしたのであるが、原告会社
の右売却にかかる株式の中には、増資割当によつて低価格で取得したものや買戻し
の密約による特殊の取引により取得したものもあったのであるから、右の平均値を
もつて、第三者との取引きについて適正な価格であるとはいいがたい(もし第三者
との取引上参考にすることのできるものがあつたとすれば、それは(C)の取引価
格だけである。)。
(6) なお、経営支配のもとに行なわれる株式の大量取引きにおける価格は、こ
れらの大量株式を市場を通じて買い集めるときは、相場の暴騰を惹起して目的を達
することが困難となる。そこで当事者間の直接商議により、この種経営支配等の意
図のもとに大量株式をきわめて短期間に取引しようとする場合は、市場価格の五割
増程度を基準として交渉が開始されるのが慣行であるが、右四五〇万株の売却価格
一株当り一三六円も右の慣行にしたがい、当日の市場価格九一円の五割増に当る一
三六円としたものであるから、正当な価格であるといわねばならない。このこと
は、左記の帝石株取引実例からみても明らかである。したがつて、被告主張の一株
当り一一五円という価格は、実情を無視したものである。
(イ) 昭和二八年五月一九日日本鉱業がP2より帝石株一〇〇、〇〇〇株を一株
当り一六〇円で取得しているが、この価格は同日の市場価格の終値九八円に対し
一・六三倍に当る。
(ロ) 昭和二九年八月一〇日原告会社がP4を経てP2より帝石株一九〇万株を
一株当り一三五円で取得しているが、この価格は、同日の市場価格の終値八九円に
対し一・五一倍に当たる(この一三五円の価格については、すでに東京国税局当局
のなした原告会社の昭和二九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法
人税調査結果正しいものとして是認されている。)。
(ハ) 帝石株は、当時ガス化学工業開発の計画が具体化されてきており、その資
金調達のため近い将来増資が行なわれるであろうという予想から市場相場は漸騰す
る気配にあつた(ちなみに昭和三二年五月四日の東京証券取引所相場は一六七円で
ある。)こと等をあわせ考えた場合決して不当に高価なものではない。
(7) ことに原告P1は、帝石株四五〇万株を原告会社に譲渡するに当たり、経
営支配株の場外取引相場からみて、その譲渡価格は市場価格の五割増を絶対的な条
件とすべき旨主張した。原告会社もまた、すでに現実に訴外P2から一株当り一三
五円(市場価格は八九円)で買い取つた事実もあり、また、日本鉱業が右P2から
一株当り一六〇円(市場価格は九一円)で買い取つた事実もあり、さらに当時訴外
住友化学工業株式会社から一株当り一五〇円(市場価格は九一円)で譲渡方の申入
れもあつたのであり、これらの事実からみても原告P1の右条件は妥当なものと認
められたので取引価格を市場価格の五割増程度とし、代物弁済物件の評価にあたつ
てこの価額を維持するよう配意しつつ決定したものである。
 以上要するに、本件取引および原告会社の日本鉱業に対する帝石株一、〇〇〇万
株の売却については、利害対立する原告会社、日本鉱業、原告P1間において商議
の結果決定されたもので、公正な取引であるばかりでなく、本件取引によつて原告
会社の損害にはなんらの影響をおよぼしていないのであるから、被告が原告会社の
本件事業年度の益金に一八九、〇〇〇、〇〇〇円を加算したのは失当である。ま
た、法人税法三一条の三は、法人税の負担を不当に減少させる結果となるものと認
められるものがあるときは、と規定しているところ、たとえ原告会社が被告主張の
ように同族会社であるとしても、本件取引は法人税の負担を不当に減少させる結果
となるものではないから、被告が原告会社の行為計算を否認したのは失当である。
第三 原告P1の請求原因
一 原告P1は、昭和三二年分所得金額および所得税額について、昭和三三年三月
一三日、所轄玉川税務署長に対し、所得金額一、三八八、三七九円、所得税額八
九、七六七円(四〇、一三七円過納)との確定申告をしたところ、同税務署長は、
昭和三六年三月一三日付書面をもつて所得金額九五、八一三、三七九円、所得税お
よび過少申告加算税の額六三、七〇九、七五七円(うち過少申告加算税三、〇三
五、七〇〇円)との更正ならびに賦課決定をした(以下右の更正ならびに賦課決定
をあわせて「原告P1に対する原処分」という。)。
二 原告P1は、同人に対する原処分に不服であつたので、昭和三六年四月八日付
書面をもつて被告に対しその取消しを求めるため審査の請求をしたところ、被告
は、昭和三七年一月一八日付書面をもつて、原告P1の審査請求を棄却する旨の審
査決定(以下「原告P1に対する審査決定」という。)をした。
三 しかし、原告P1に対する審査決定は、つぎの理由により違法であるから、そ
の取消しを求める。
1 原告P1のなした審査請求を被告が棄却した理由は、原告会社へ原告P1が売
却した帝石株四五〇万株の取引(本件取引)について、原告P1は法人税法上、同
族会社である原告会社の株主であり、かつ、同社の取締役会長P4と特殊関係にあ
ること、原告P1は原告会社に譲渡した右帝石株の譲渡当時における一株当りの時
価は、一一五円であるのにかかわらず、これを不当に高価と認められる表面価格一
七二円(この実質価格は一株当り一五七円五銭と認める。)で譲渡した事実がある
こと、以上の事実から判断し、本件取引は、所得税法(昭和二二年法律第二七号)
六七条一項の規定に該当するので、前記の時価一一五円と実質譲渡価格一五七円五
銭との差額に譲渡株数をかけて算出した金額一八九、〇〇〇、〇〇〇円を原告P1
において原告会社から贈与を受けたものと認め、これを一時所得として原告P1に
対してなした原処分には誤りがないので審査の請求には理由がないというのであ
る。
2 しかしながら、(一)原告P1は、本件取引当時、原告会社は同族会社ではな
いと信じていた。しかも、本件取引当時における帝石株の実質価格は一三六円であ
り、また、当時の一株当りの時価も一三六円であつたから、原告P1としてはその
原告会社に対する帝石株四五〇万株の譲渡について、原告会社から贈与を受けた事
実もなく、またその認識もなかつた。
(二) 本件取引については、原告P1は、原告会社と商議の結果、帝石株一株当
りの基準価格を一三六円とし、前記原告会社主張のとおり行なわれたものであるか
ら、本件取引における帝石株四五〇万株当りの実質譲渡価格は一三六円であるとい
うべきである。すなわち、
(1) 日産炭化に対する債権について、被告はこれを九五、〇〇〇、〇〇〇円と
評価したが、右債権は、前記原告会社主張のように、延払条件付の債権であるか
ら、一般の商慣習に従いこれを年九分の複利計算により評価することとした。
(2) また、手形により決済した額について、被告は手形額面一〇五、〇〇〇、
〇〇〇円をそのまま弁済額として評価したが、その実質は、前記原告会社主張のよ
うに、歩油権による代物弁済であり、手形は中間の手続を省略する手段として使用
したのにすぎないから、実質課税の原則に基づいて歩油権の実質価格によつて算定
すべきところ、原告P1と原告会社との商議においては、この実質価格を三三、〇
〇〇、〇〇〇円と評価したのである。
 原告P1は当初より歩油権を購入するという考えを有していなかつたから、日満
鉱業との間に売買の交渉や値段の交渉等をしたことは一度もない。ただ、原告会社
としては日満鉱業に対する不良債権を回収する手段として歩油権を代物弁済として
受領するよりほかはないとのことであり、その歩油権をもつて本件取引代金に対す
る弁済に充当したいとの話があつたので、原告P1としては右の歩油権を本件取引
代金に対する代物弁済の一部として受け取る趣旨で右の手形を振り出したのであ
る。そして右の手形は日満鉱業を経て原告会社に渡り、原告会社から右帝石株代金
の形で原告P1に戻つたわけであるが、歩油権の価格と手形の金額との関連につい
て述べると、株式の譲渡に対しては譲渡所得税が非課税となつているので、原告P
1としては株式譲渡価格についてほとんど関心がなかつたし、また、原告会社か
ら、その日満鉱業に対する債権の回収に当り損失金を出したくないという希望が述
べられたので、歩油権の評価についても実質的価値を前提として株式価格が定めら
れるならば、手形は三者間における一種の付替伝票の如きものであるから原告P1
になんらの損益をもたらすものではないと信じて、原告会社の要請に基づき日満鉱
業に対する債権額と同一額面額の手形を振り出したのである。
(3) 本件取引における帝石株の譲渡価格は以上のような経緯で決定されたもの
であり、その実質価格一株当り一三六円は、経営支配の意図をもつてする大量の株
式の取引価格としては決して不当に高い価格ではない。すなわち、日本鉱業は、経
営支配の意図をもつて帝石株の買集めを企図し、その買集め方を原告会社に委託
し、同社はこの委託に基づいて原告P1に帝石株の譲渡方を申入れたのであつた。
当時たまたま、住友化学工業株式会社あたりから石油業界へ進出するため帝石株の
相当量の入手の希望をもつて一株当り一五〇円程度の高値が示唆されたことがあつ
たのと、すでに帝石のガス化学工業開発の計画が具体化されてきていたので、その
資金調達のため近い将来帝石の増資が行なわれるのであろうという予想から市場相
場が漸騰する気配にあつたこと(昭和三二年五月四日東京証券取引所相場一六七
円)等の状況から考えて、原告P1としては、この四五〇万株全部の取引をすると
きは、市場価格に対し少なくとも五〇円増の一四一円以上の価格を主張したのであ
るが、原告会社から、かつて同社が訴外P2、同P3等から取得した価格が市場価
格に対して約五割増であつたこと等の事例を示しながら、日本鉱業との申合せの線
にも制約されているから、一株当り実質価格一三六円としてほしい旨の強い希望が
あつたので、これを了承し、本件取引が行なわれるにいたつたもので、右一株当り
実質価格一三六円は決して不当に高い価格ではない。
第四 被告の答弁
(原告会社の請求原因に対する認否)
一 請求原因第一項の事実を認める。
二 請求原因第二項の事実を認める。
三 請求原因第三項の事実および主張を争う。
(原告P1の請求原因に対する認否)
一 請求原因第一項の事実を認める。
二 請求原因第二項の事実を認める。
三 請求原因第三項の事実および主張を争う。
(主張)
一1 原告会社は、昭和三二年一月一一日原告P1から帝石株四五〇万株(当時の
市場価格一株当り九一円)を一株当り一七二円(取引価格七七五、〇〇〇、〇〇〇
円)で取得し、三日後の同月一四日にこれと原告会社手持ちの帝石株五五〇万株と
を合わせた一、〇〇〇万株を一株当り一一五円(取引価格一、一五〇、〇〇〇、〇
〇〇円)で日本鉱業に譲渡し、四五〇万株の帝石株の売買によつて二五六、五〇
〇、〇〇〇円にのぼる多額の譲渡損を生じたが、一方、原告P1は、右の四五〇万
株の帝石株の高価売却によつて、帝石株を当時の市場価格で売却したと仮定した場
合に比較して、三六四、五〇〇、〇〇〇円、すなわち、(172円-91円)×4
50万株=364,500,000円にのぼる利益を取得した。
2 ところで、麹町税務署長は、原告会社に対する原処分をするに当たり、右のよ
うに本件取引における帝石株の一株当りの取引価格は一七二円であるが、その実質
価格は一五七円五銭であり、これによるとしても、なお市場価格九一円に比し著し
く高いので、差額六六円五銭のうち四二円(157円-115円)に四五〇万株を
乗じた額一八九、〇〇〇、〇〇〇円を原告P1に贈与したものと認め、これについ
て法人税法九条の寄附金に関する規定の適用があるとして寄附金計算をし、その限
度超過額一八六、二五四、六九一円を否認し、同額を原告会社の利益に加算するほ
か、四項目について申告所得金額に加減算をして課税標準および税額を確定し、こ
れに基づき更正をした。
 原告会社は、右の更正に対し審査請求をし、右更正中、前記株式取引について寄
附金の認定をした部分は事実を誤認するものであるからこれに基づいて算出し確定
した課税標準および税額中、右に関する部分は減額されるべきであると申し立て
た。
 被告は、審査の結果、原告会社が同族会社であり、原告会社のなした行為計算を
そのまま容認すれば、その法人税を不当に減少する結果を来たすことが判明したの
で、もし、同族会社の行為計算否認の規定を適用し、正当な税務計算に引き直せ
ば、右の一八九、〇〇〇、〇〇〇円を申告所得金額に加算し、結局、課税標準とし
ては麹町税務署の算出した額より多い九〇、八九二、二八〇円とすべきであると認
めたのであるが、審査決定においては審査請求を棄却するにとどめたのである。
3 また玉川税務署長は、原告P1に対して、昭和三二年分所得税の更正をした
が、その計算の根拠は、つぎのとおりである。すなわち、原告P1が原告会社に対
して譲渡した帝石株四五〇万株についての取引価格七七五、〇〇〇、〇〇〇円(一
株当り一七二円)よりも少ない額の七〇六、七三六、九七八円(一株当り一五七
円)と原告会社が右の帝石株四五〇万株を日本鉱業に売却した価格五一七、五〇
〇、〇〇〇円(一株当り一一五円)との差額一八九、〇〇〇、〇〇〇円((70
6,736,978円-(115円×450万株=517,500,000円)=
189,236,978円))について原告P1は原告会社から贈与を受けたもの
と認めて、同人に対して一時所得(九四、四二五、〇〇〇円)として課税すること
としたのである。
 原告P1は、右の玉川税務署長の行なつた更正に対して審査請求をし、右の一時
所得として課税すべきものとした部分は事実の誤認に基づくものであるから、減額
されるべきであると申し立てた。
 被告は、右の玉川税務署長の行なつた更正は維持されるべきものと判断し原告P
1の審査請求を棄却した。すなわち、原告P1は、同族会社である原告会社の株主
であり、かつ、原告会社取締役会長P4と特殊関係(P4の実弟)にあつたこと、
原告P1が原告会社に譲渡した帝石株の取引価格は譲渡時における時価に比べて不
当に高価であると認められたことから、原告P1と原告会社間の取引について同族
会社の行為計算の否認に関する規定を適用すべき場合に該当し、その場合には、原
告P1が原告会社から受けた一八九、〇〇〇、〇〇〇円に相当する利益を同人に対
して一時所得として課税することとなるが、これによれば結局、原処分の課税標準
および税額と同額に帰すると認められたので、原処分を維持することとし、審査請
求を棄却したのである。
二 原告会社はまず、「原告会社に対する原処分の理由が原告会社が原告P1から
帝石株を時価より高く買つたのに対しその高い分だけ贈与とし寄附金計算したとい
うのであつたのに、審査決定において原処分を維持し、その理由として、同族会社
の行為計算否認規定によるとしたことは審査の本質に反する、審査は原処分の当否
を審査するものであるから、審査の範囲はおのずから更正の理由の当否に限定せら
れるべきであり、そうでなければ不利益変更禁止の原則に反する。」と主張する。
 しかし、昭和二五年の改正前の審査制度をいかに解するかは別として、本件の場
合は、更正に対し審査請求がなされているのであるから、右の審査において更正の
正否が審理されるべきものであることは間違いないが、その審査方法は訴訟におけ
るように弁論主義が支配するものではなく、職権主義が採用されているので、審査
庁は、不服申立人の主張しない理由についても審理しうるし、また不服申立人の提
出しない証拠を取り調べることもできるというべきである。また、審理手続につい
てもほとんど規制はなく、審理の範囲は、不服申立ての対象となつた処分の適否の
すべてにおよび更正の理由の当否に限定されない。さらに、不利益変更禁止の原則
にいう利益不利益というのは、課税処分についていえばその本体たる納税義務の額
の多少という観点から論ぜられるべきものであつて、本件のように税額に前後異動
のない場合には不利益変更禁止の原則のはたらく余地はない。
 同族会社の行為計算の否認は課税処分ではなく、課税標準および税額を確定する
更正その他の課税処分をする前段階たる事実についての税法上の判断を内容とする
行為である。なるほど更正または決定は、原則として税務署長においてするもので
あるが、その前提としての事実の判断、すなわち、納税義務者を同族会社と判定
し、そのなした行為計算が税法の趣旨に照らし税務計算上修正すべき事実があると
判断することで、更正またはその他の課税処分それ自体ではなく、したがつて税務
署長でなければできないことではない。同族会社の判断自体とか、行為計算の否認
それ自体とかは、その適否を不服として審査を請求しまたはその取消しを訴求する
ことができないものであつて、同族会社の行為計算の否認をなした結果、課税標準
または税額が申告と異なるときは更正がなされるが、そこではじめてこれを不服と
して審査の請求をしまたは取消しを訴求することができるのである。
 同族会社の行為計算否認の規定は、同族会社の特殊性にかんがみ、同族会社につ
いてのみ補充的に認められた課税標準税額の算定のための規定であつて、同族会社
にのみ適用されるということを除けば、たとえば法人税法九条の規定が法人一般に
ついて課税標準および税額の算定のために置かれているのと差異はないのである。
そして右のいずれによるにもせよ、納税義務者に法律効果を及ぼすためには更正ま
たは決定をしなければならないのである。
 本件の場合、被告は、同族会社の行為計算の否認の規定を根拠として更正または
決定をしたのではなく、審査決定において審査請求を棄却し、原処分を維持するこ
とを相当とする根拠として同族会社の行為計算の否認に関する規定を援用したにす
ぎないのである。
 審査手続は、新たな更正または決定をする手続ではなく、原処分の当否を審査す
るものであるが、原処分が寄附金計算を理由として更正をしたものである場合、審
査決定は右の理由を認めるか、認めないかの二者択一でなければならないわけのも
のではない。けだし、審査決定は、原処分の全部について審査をし、これを維持す
るかどうかを決定するものであつて、更正通知書に附記された理由の当否にのみ審
査の範囲が限定されるものではないからである。すなわち、審査庁としては、原処
分に附記された理由によつて原処分が正当であるかどうかおよびその他の根拠によ
つて原処分の確定した課税標準または税額が維持されるかどうかを審査するもので
あつて、原処分に附記された理由の当否のみを審査するものではない。
 なお、更正は、課税標準および税額を確定することをその本体的内容とするもの
であつて、これに不服を申し立てるということは、確定された課税標準または税額
の減額を目的とするものであり、同族会社の行為計算の否認それ自体はなんら行政
処分ではなく、法人税法三一条の三の規定は、同法九条の規定と本質的に異なるも
のではなく、その補充規定であるにすぎないのである。
三 被告が原告会社の審査請求を棄却した理由は、正当である。
1 原告らは「原告会社は税法上の同族会社には該当しない」と主張する。
(一) しかし、原告会社は、法人税法七条の二第一項の同族会社である。すなわ
ち、原告会社は、左表のとおり、法人税法七条の二第一項の「株主又は社員の三人
以下………が有する株式の合計額がその会社の株式金額の百分の五十以上に相当す
る会社」に該当するから、同法上にいわゆる同族会社に該当する。
<略>
(二) 右表のように、同族会社の判定にあたり影響をもつ上位株主三名につい
て、その持株数に相違のあるのは、原告らにおいて「日本鉱業の持株として被告の
計算した一、八一六、〇〇〇株のうちには、前記日本土地よりの四七六、〇〇〇
株、日産火災よりの二四五、〇〇〇株を含めた八六六、〇〇〇株が包含され、右株
式については、当時いまだ名義書換が行なわれていないから、同族会社の判定上こ
れを計算に入れるべきではない。」と主張することによるものである。
(三) しかしながら、株式の譲渡があつた場合には、その株式は、実質的に譲受
け人に帰属するのであつて、株式名簿の名義書換は、これをしない間譲受人におい
て株主たることを会社に対して対抗し得ないというにとどまり(商法二〇六条第一
項)、取引の当事者間における実質的権利移転を認め得ないというわけのものでは
ない。そして、国の行なう同族会社の判定においては実質上の株主がだれであるか
によつてなさるべきものであつて、常に株主名簿上の名義人をもつて株主と認定し
なければならないものではない。国が課税権を行使するにあたつては、公平課税の
原則を実現するため、その名義や形式をはなれ、その実質に即して行なわなければ
ならないものであるから、株主名簿上の株主であつても、それがいわゆる名義株で
あるときは、実際の権利者を株主として同族会社の判定をしなければならないのは
当然の事理というべきである(基本通達四四の二)。このことは、もし、株主名簿
によつて同族会社の判定をなすべきものとすれば、株主名簿の名義書換をしない
か、あるいは名義だけを他人名義とすることによつて同族会社の判定をくらまし、
容易に租税の逋脱、軽減を策し得ることからしても、おのずから明らかであろう。
 なお、原告会社の取締役会長P4は、原告P1の実兄であるが、昭和三年久原鉱
業の社長に就任後、日本産業と改称、この傘下に日立製作所、日産自動車、日立電
力、日本鉱業、日本炭鉱、日本食料工業、日産火災等をおさめ、いわゆる日産コン
ツエルンを形成してその社長会長にあげられ、満洲重工業開発総裁、相談役を経て
同二二年原告会社の取締役会長に同二九年八月帝石の取締役社長におされて就任し
ている。
 この経歴の示すように、その足跡はわが国の経済発達史上輝やかしいものであ
り、その業績、手腕が高く評価されていることは顕著な事実であるが、前記同族会
社の判定にあたつてあげた上位株主は、いずれもいわゆる日産コンツエルンの傘下
会社でもあるから、右会社と同人とがなんらの関係もないという原告らの主張は失
当である。
2 つぎに、原告らは、「本件取引当時における帝石株四五〇万株の実質価格は一
株当り一三六円とみるのが正当である。すなわち、日産炭化は、本件取引の契約日
である昭和三二年一月一一日にはすでに休業、債務超過で再建案を検討中であつた
ので、当時原告会社の日産炭化に対する債権四五七、一二五、九五五円は、その二
二パーセント以上が切り捨てられることがほぼ確定していたうえ、三年以上の延払
条件がつけられていたのであるから、複利現価で評価し、七二、二一一、〇〇〇円
として算定されるのが正当であり、また、本件手形(P1企業に対する手形債権)
は、実質的には歩油権による代物弁済であつたのであるから、歩油権の評価額であ
る三三、〇〇〇、〇〇〇円として算定されるのが正当である。」旨主張する。
 しかし、原告らの主張は誤りであつて、実質価格は一株当り一五七円五銭と評価
すべきである。すなわち、原告会社に対する原告P1の帝石株四五〇万の売却代金
の一部として原告会社から原告P1に譲渡された右日産炭化に対する原告会社の債
権は、一四三、五三二、九五〇円と算定されるべきであり、また、本件取引の売買
代金の一部に供された本件手形債権は、一〇五、〇〇〇、〇〇〇円と算定されるべ
きである。
(一) 日産炭化に対する債権の評価について
(1) 日産炭化に対する債権が原告会社から原告P1に譲渡された経緯は、つぎ
のとおりである。
 昭和三二年一月一一日に原告会社と原告P1間で帝石株四五〇万株の売買契約
(本件取引)が締結され、これにより売買代金の一部として一九一、五〇〇、〇〇
〇円が現金で昭和三三年一月一〇日までに原告会社から原告P1に支払われること
になつた。ただし、右の現金決済額一九一、五〇〇、〇〇〇円については、原告会
社の選択により、その支払期日までに現金決算が困難の場合には原告会社が日産炭
化に対して有する債権をもつて代物弁済をなすことを原告P1において承認する旨
の覚書条項が付されていた。
 この点に関し、前記のように、原告らは、本件取引のときにその代金の代物弁済
として原告会社から原告P1に日産炭化に対する債権一四三、五一二、九五〇円の
譲渡がなされたように主張し、その余の主張はすべて右主張を前提とするものであ
るが、事実に反する。すなわち、本件取引のときは、上記のとおり、売買代金の一
部として、原告会社は、一九一、五〇〇、〇〇〇円を現金で原告P1に支払うこと
とし、ただ、原告会社の選択により、現金決済が困難の場合には、原告会社が日産
炭化に対する債権をもつて代物弁済をなすことのできる旨の覚書を付したのにすぎ
ないのであつて、右の現金で支払うべき分一九一、五〇〇、〇〇〇円のうち代物弁
済としていくばくの債権が原告P1に譲渡されるかは本件取引当時においては全く
未確定の状態であつたのである。このことは、昭和三三年六月二七日に日産炭化に
対する一四三、五一二、九五〇円の債権と一緒に、原告会社から原告P1に代物弁
済として譲渡された日産炭化株式五、九九三、四一〇株のうちの五、九七八、〇〇
〇株が昭和三三年一月に原告会社が日本鉱業より一株当り四円五〇銭(総額二六、
九〇一、〇〇〇円)で取得したものであり、本件取引当時には、原告会社は、日産
炭化株式をわずか一五、四一〇株しか所有していなかつたことからみても明らかで
ある。
 ところで、原告会社は、右の現金決済額一九一、五〇〇、〇〇〇円の一部とし
て、昭和三二年一一月六日に五、〇〇〇、〇〇〇円を小切手で原告P1に支払い、
残額一八六、五〇〇、〇〇〇円については、昭和三三年一月一〇日に原告会社と原
告P1間において、その支払期限を六ケ月間延長し、昭和三三年七月一〇日までと
する旨の協定がなされた。
 その後、原告会社から右の残額一八六、五〇〇、〇〇〇円の一部として、昭和三
三年三月一四日に小切手で五、〇〇〇、〇〇〇円、同年同月二〇日に小切手で三、
〇〇〇、〇〇〇円、同年六月四日に現金で五、〇〇〇、〇〇〇円が支払われ、なお
残額が一七三、五〇〇、〇〇〇円であつたのであるが、昭和三三年六月二〇日にい
たり、原告P1は、原告会社に対し「残額一七三、五〇〇、〇〇〇円を昭和三三年
七月一〇日の支払期日までに全額決済されたく、万一現金をもつて支払困難の場合
は、かねて申出のあつた日産炭化株式および日産炭化に対する債権の譲渡による代
物弁済の方法をとられても異存はない旨」の通知をした。
 そこで、原告会社は、昭和三三年六月二一日に取締役会を開催して「原告P1に
対する債務一七三、五〇〇、〇〇〇円については、原告P1から昭和三三年七月一
〇日までに完済するように催促があり、万一現金決済が不能の場合は代物弁済の方
法によつても差支えない旨原告P1から申出があつたので、この際日産炭化株式
五、九九三、四一〇株(この時価額一株当り五円の割合として二九、九六七、〇五
〇円)および日産炭化に対して原告会社が有する債権現在額一九五、六二五、九五
五円のうちの一四三、五三二、九五〇円を原告P1に譲渡し、債務残額一七三、五
〇〇、〇〇〇円の全額を弁済する」旨決議し、昭和三三年六月二七日に右の日産炭
化株式五、九九三、四一〇株および日産炭化に対する債権一四三、五三二、九五〇
円を原告P1に譲渡し、残債務一七三、五〇〇、〇〇〇円の全額を弁済したのであ
る。
 そして、右の債権の譲渡が行なわれた昭和三三年六月二七日に原告P1、日産炭
化および原告会社の三者間において「原告会社から原告P1に譲渡された日産炭化
に対する債権一四三、五三二、九五〇円のうち、九五、〇〇〇、〇〇〇円について
は、日産炭化が昭和三三年五月に日本炭礦株式会社(以下「日本炭礦」という。)
に固定資産を売却したことにともない、日産炭化が日本炭礦から昭和三四年一一月
(売却日より一年半後)および昭和三五年五月(売却日より二年後)の二回にわた
つて受け取るべき売却代金をもつてこれに充当することとし、右の期日までに日産
炭化がその約束を履行した場合には、原告P1は、日産炭化に対する残債権四八、
五三二、九五〇円についての請求権を放棄することを考慮する。」旨の覚書が作成
され、さらに、その後、右の覚書条項に基づいて原告P1と日産炭化間における債
権の一部免除についての数次の折衝の結果、昭和三四年九月一五日にいたり、原告
P1は、昭和三四年五月一九日、日本炭礦振出の日産炭化あて約束手形(支払期日
昭和三四年一一月一九日四五、〇〇〇、〇〇〇円および支払期日昭和三五年五月一
九日五〇、〇〇〇、〇〇〇円)を日産炭化から裏書譲渡を受け、その手形の不渡を
解除条件として前記残債権四八、五三二、九五〇円について債権放棄を行なつたの
である。
(2) つぎに、日産炭化の財政状況を貸借対照表によつてみると、左記のとおり
である。
<略>
 日産炭化は、豆炭製造を主目的とした会社であつたが、経営不振に陥り、ついに
昭和三一年八月に休業の止むなきにいたつたのであるが、本件取引が行なわれた昭
和三二年一月一一日直前の事業年度末(昭和三一年一二月末)では六九、六八六、
九七八円の債務超過の状況にあつた(原告会社は、昭和二七年三月から逐次日産炭
化に融資し、昭和三一年一二月末現在では日産炭化に対して四五六、一二五、九五
五円の債権を有していた。)。
 日産炭化は、それより約半年後の昭和三二年六月一八日にいたり、若松市に有す
る社宅敷地および建物等の固定資産(簿価三二、二六〇、四四七円)を日本炭礦に
一二〇、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡し、八七、七三九、五五三円の売却益を収めたの
で、資産内容は大幅に改善され、昭和三二年六月末の貸借対照表によれば、債務超
過額は、わずか四、六三二、五七五円に減少した。しかも、日産炭化は、右の固定
資産の売却代金一二〇、〇〇〇、〇〇〇円の過半を原告会社よりの債務の弁済に充
てたので、昭和三三年三月末現在では、原告会社の日産炭化に対する債権残額は三
七七、一二五、九五五円に減少した。
 ついで、昭和三三年五月にいたり、日産炭化は、再度若松市に有する工場敷地お
よび建物等の固定資産(簿価二二六、四四八、八九五円)を日本炭礦に三三〇、〇
〇〇、〇〇〇円で譲渡し、一〇三、五五一、一〇五円の売却益を収めたので、昭和
三三年六月末の貸借対照表によれば、もはや完全に債務超過の状況ではなくなり、
ついに六〇、七六七、三四七円の純資産を保有するにいたつた。
 したがつて、原告会社が、原告P1に対して昭和三三年六月二七日帝石株の売買
代金の代物弁済として日産炭化に対する債権一四三、五三二、九五〇円の譲渡を行
なつたときには、日産炭化は、もはや債務超過の状況ではなく、また、昭和三四年
九月一五日に原告P1が日産炭化に対して四八、五三二、九五〇円の債権放棄をな
したときにも、日産炭化は、債務超過の状況ではなかつた。
 そして、日産炭化は、その固定資産の売却代金三三〇、〇〇〇、〇〇〇円の一部
をもつて原告会社よりの債務の弁済に充てたので、上記昭和三三年六月二七日現在
の原告会社の日産炭化に対する残債権は、一九五、六二五、九五五円に減少したの
であるが、この残債権の一部である一四三、五三二、九五〇円が昭和三三年六月二
七日に原告会社より原告P1に代物弁済として譲渡されたので、原告会社の日産炭
化に対する残債権は五二、〇九三、〇〇五円に減少し、その後も右の残債権に対し
て逐次日産炭化から弁済が続けられた結果、昭和三五年九月二七日には、ついに原
告会社の日産炭化に対する債権は全額完済となつた。
(3) ところで、原告P1は、本件取引の契約日たる昭和三二年一月一一日、帝
石株の売買代金として原告会社から受領すべき現金の一部に代えて、原告会社の選
択により、原告会社の日産炭化に対する債権のうち一四三、五三二、九五〇円の譲
渡を受けて決済することを承諾しているのであるから、原告会社の法人税の課税標
準の算定にあたつては、上記の昭和三二年一月一一日において、決済に充てられた
右債権金額によるものであり、債権の譲渡を受けた原告P1が、その後の取立てに
ついて日産炭化といかような約定を締結しようとも、それは、すでに債権者でなく
なつた原告会社とはかかわりのないことである。したがつて、仮に、原告ら主張の
ように、本件課税年度経過後の昭和三四年九月一五日にいたつて、右債権の一部が
放棄され、あるいは分割払いの約定が成立したとしても、それは、原告らに対する
各原処分に影響のある筋合いではないわけであるが、被告の審査決定時までの調査
によれば、原告P1は、実際には、現金九五、〇〇〇、〇〇〇円を受領して決済を
了していると認められたので、右実際の決済実額によつたものである。
(4) 右のような事実関係のもとで、上記債権について原告が主張するような複
利現価換算が問題となる余地のないことは明らかである。また、法人税法施行規則
一七条の二第一項の規定によれば、「預金、貯金、貸付金、売掛金その他の債権」
については、資産の評価換えを認めていないのであり、上記のような債権について
評価減をなすことはゆるされないのであるから、債権の評価とは別個の借地権の対
価の計算に関する規定(法人税法施行規則一六条の二)を引用、類推して複利現価
により債権の評価をなすべきではない。
(5) 仮に、原告ら主張のように、本件取引当時、右売買代金の代物弁済として
一四三、五三二、九五〇円の債権が原告P1に譲渡されたのであり、かつ、その債
権には、債務の一部免除、弁済期の猶予をなすことが考慮されていたとしても、日
産炭化は、本件取引時には、貸借対照表によれば、債務超過の状況にあつたが、そ
の当時においては、原告会社からなんら日産炭化に対して確定的に債権の放棄はな
されていないのであるから、原告会社としては、その当時日産炭化に対して有して
いた四五七、一二五、九五五円の債権の評価損は、法人税法上認められない(同法
施行規則一七条の二)のであり、したがつて、原告会社から、評価損を認められな
い右の債権の一部である一四三、五三二、九五〇円を譲り受けた原告P1として
も、右の債権を額面どおり譲り受けたものとみるほかはない。いいかえると、原告
P1において額面で譲り受けた一四三、五三二、九五〇円の右債権については、た
とえその債権について、一部免除、弁済期の猶予をなすことが考慮されていたとし
ても、原告P1において、この譲り受けた債権の一部放棄をしない限りは、この債
権の価格は、あくまでも一四三、五三二、九五〇円であるのであつて、この債権の
実質価値は七二、二一一、〇〇〇円であると主張することはできないのである。け
だし、もしこの主張ができるものとすれば、債権の評価損を認めることになるから
である。
 もつとも、原告らは、本件取引時に原告P1が譲り受けた債権一四三、五三二、
九五〇円に債務の一部免除をなすことが考慮されていたからこそ、昭和三四年九月
一五日にいたつて原告P1は、この債権の一部放棄を行なつたのであると主張する
かのようでもあるが、しかし、原告P1が譲り受けた債権について一部免除をなす
ことが考慮されていたのは、結局、本件取引時において日産炭化が債務超過の状況
にあり、このため原告会社の日産炭化に対する債権総額四五七、一二五、九五五円
の一部免除をすることが考慮されていたからであるというべきところ、その後状況
がかわつて日産炭化は債務超過ではなくなり、原告会社は、右の日産炭化に対する
債権総額四五七、一二五、九五五円のうち原告P1に譲渡した残債権三一三、五九
三、〇〇五円については、全額弁済を受けているのであるから、原告会社の有して
いた債権総額四五七、一二五、九五五円のうち、原告P1に譲渡された債権一四
三、五三二、九五〇円についてのみ債権の一部放棄をしなければならないいわれは
ない。
 したがつて、昭和三四年九月一五日にいたり、原告P1がその原告会社から譲受
けた債権について、その一部を放棄したとしても、それは債権の譲受時に一部免除
をなすことが考慮されていたから放棄したのではなく、原告P1の自由意思で任意
に放棄を行なつたものであるといわざるをえないのであり、むしろ同原告が日産炭
化に対して放棄額の贈与を行なつたものであるともみうるのである。
(6) 以上要するに、本件取引の代金の一部として原告会社から原告P1に譲渡
された原告会社の日産炭化に対する債権はこれを一四三、五三二、九五〇円として
計算すべきであるが、その範囲内において原告P1が現金で弁済を受けた実額が七
五、〇〇〇、〇〇〇円であつたことを考慮し、同金額をもつて本件取引代金の一部
と認定した被告の処理は正当である。
(二) 本件手形債権について
(1) 本件手形債権は、P1企業株式会社振出に係るものであるが、原告会社が
右手形債権を、原告P1に対し支払うべき本件取引代金の一部に供した経緯は、つ
ぎのとおりである。
 原告会社と日満鉱業は、昭和三一年二月一八日に鉱業権の売買契約をつぎのとお
り締結した。すなわち、原告会社は、日満鉱業所有の中宮鉱山試掘権および生保内
鉱山試掘権を買い受けることとし、この取得代金として一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
をつぎにより支払う。
 『ただし、日満鉱業は、契約締結日より一年以内の期間中であれば、いつでも右
売買代金一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円に買戻実行日までの利息(日歩二銭六厘)を付
して原告会社に支払えば、原告会社は右の鉱業権を日満鉱業に返還する。
(回数) (支払金額) (支払時期)
第一回 三〇、〇〇〇、〇〇〇円 昭和三一年二月一八日の契約締結日
第二回 三〇、〇〇〇、〇〇〇円 契約締結日より三か月後
第三回 三〇、〇〇〇、〇〇〇円 ″六か月後
第四回 一〇、〇〇〇、〇〇〇円 ″七か月後
計一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円
 そして、原告会社は、右の契約に基づき、日満鉱業に対し、つぎのとおり代金の
支払いをした。
(回数) (支払金額) (支払時期)
第一回 三〇、〇〇〇、〇〇〇円 昭和三一年二月一八日
第二回 三〇、〇〇〇、〇〇〇円 ″五月一八日
第三回 三〇、〇〇〇、〇〇〇円 ″八月一八日
第四回 一〇、〇〇〇、〇〇〇円 ″一〇月一日
 しかし、右の中宮および生保内の鉱業権は、両鉱区とも、いずれも未探鉱のもの
であり、その実質的価値は、到底、一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円あるとは考えられな
いところから(中宮鉱山試掘権については原始取得で簿価なし、生保内鉱山試掘権
については、取得価格一、五六四、九〇〇円)、右の買戻条件付売買契約は、その
実質は原告会社が日満鉱業に対し、右の鉱業権を担保として行なつた融資であると
見られるものである。
 したがつて、昭和三一年一〇月一日現在において、原告会社は、日満鉱業に対し
て一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円の債権を有していたのである。
 他方、日満鉱業と原告P1は、昭和三一年九月二五日歩油権の売買契約をし、左
記のP1企業振出にかかる金額一〇八、〇〇〇、〇〇〇円の約束手形を日満鉱業に
交付して歩油権を取得した。
(金額) (振出) (支払期日)
五〇、〇〇〇、〇〇〇円 昭和三一年一〇月二五日 昭和三二年一月二〇日
四〇、〇〇〇、〇〇〇円 〃 〃
一八、〇〇〇、〇〇〇円 ″ ″
 そして日満鉱業は、右の歩油権の売却にともない、P1企業振出の約束手形三通
のうち、額面五〇、〇〇〇、〇〇〇円の手形を日本中小企業政治連盟に対する債務
五〇、〇〇〇、〇〇〇円の担保として同連盟に交付し、額面四〇、〇〇〇、〇〇〇
円および一八、〇〇〇、〇〇〇円(後に弁済期が早められたので一五、〇〇〇、〇
〇〇円に変更、)の手形を原告会社に対する債務一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円の引当
てとして昭和三一年一〇月二五日に原告会社に交付した。したがつて、原告会社と
しては、本件取引代金の決済の必要上その後日満鉱業に督促を重ねたところ、日満
鉱業は、前記の中小企業政治連盟に対する借入金の担保として同連盟に交付してい
た額面五〇、〇〇〇、〇〇〇円の手形を担保差替えにより同連盟より返還を受け、
昭和三二年一月二二日にいたり、この手形を原告会社に交付し、原告会社に対して
有する債務残額五〇、〇〇〇、〇〇〇円の弁済に充当したのである。
 ところで、原告会社と原告P1間において、本件取引の際、原告会社は、原告P
1に対して支払うべき売買代金七七五、〇〇〇、〇〇〇円の一部として、前述の原
告会社が日満鉱業から取得したP1企業振出にかかる約束手形一〇五、〇〇〇、〇
〇〇円を原告P1に交付したのである。
(2) P1企業に対する手形債権の取引関係は、右のような経緯によりその取引
が完結したのであるから、原告会社から原告P1に交付された手形債権の評価をい
かにするかという問題は発生する余地はない。したがつて手形額面額一〇五、〇〇
〇、〇〇〇円全額が帝石株の売買代金の一部の支払いに充てられたものといわねば
ならない。
(3) 原告らは、右の手形債権の取引について被告の認定は、取引の外見に基づ
くものであつて、法人税法七条の三に規定する実質課税の原則に違反している、す
なわち、原告会社は日満鉱業に対し、昭和三一年二月一八日以降数次にわたり融資
し、本件取引時において、元本一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円、利息八、〇〇〇、〇〇
〇円(ただし、弁済期が早められたので五、〇〇〇、〇〇〇円となつた。)計一〇
五、〇〇〇、〇〇〇円の債権を有していたので、本件取引代金に充てるために、日
満鉱業に右の債権の弁済を迫つたところ、日満鉱業は支払能力がなく、かつ、近い
将来にも弁済可能の見透しが全くつかなかつたため、本件歩油権を原告会社が日満
に対して有する債権一〇五、〇〇〇、〇〇〇円の代物弁済として譲り受け、この歩
油権を本件取引代金の代物弁済としても原告P1に交付した、したがつて、歩油権
は実質的には一旦原告会社のものとなり、その後原告P1に帰属したものである、
ただ、原告会社の日満鉱業に対して有する債権の評価の問題および歩油権の得喪変
更に関する中間手続省略の問題等を考察し、昭和三一年九月二五日に原告会社、日
満鉱業、原告P1の三者間で協定し、形式的には、原告P1が日満鉱業に手続を振
り出して歩油権を取得し、日満鉱業はこの手形を原告会社に対して有する債務の支
払いに充て、原告会社はこの手形を原告P1に交付して本件取引代金に充てる形式
により本件手形の取引を完結させたものであつて、その実質は、原告会社が日満鉱
業に対して有する債権の代物弁済として歩油権を取得し、この歩油権を本件取引代
金の代物弁済に充てたものである、かような性質の手形であるから、本件手形は、
原告P1の振出から返還までの間、手形としての活用は全然行なわれていない、極
言すれば、前三者間の帳簿整理上の伝票にかわるものとして利用されたにすぎない
ものである、したがつて、本件取引代金の代物弁済として原告P1に交付した本件
手形に関しては、他の代物弁済物件の場合と同様に、実質課税の原則に基づき帝石
株の取引時の実質価値(三三、〇〇〇、〇〇〇円)によつて評価すべきであると主
張する。しかしながら、
① 昭和三一年九月二五日に原告会社、日満鉱業、原告P1の三者間で本件歩油権
の取引について協定がなされたとき、なぜ契約書が作成されなかつたのか明らかで
ないし、② また、右の三者間の協定の経緯について述べている確認書には、日満
鉱業は原告P1からP1企業振出の約束手形を受領したときは、遅滞なく、原告会
社に交付する旨記載されているが、もし本件の歩油権の取引が原告ら主張のように
三者契約の実質的内容であるならば、当然日満鉱業は、P1企業振出の約束手形三
通を受領したときは、三通を同時に原告会社に交付するはずである。しかるに、前
記のとおり、日満鉱業は、原告P1から昭和三一年一〇月二五日に受領した約束手
形三通のうち、額面額五〇、〇〇〇、〇〇〇円の手形を日本中小企業政治連盟より
の借入金の担保に流用し、後日にいたり、同連盟より右手形の返還を受け、昭和三
二年一月二二日にいたつてようやく原告会社にこれを交付しているのであり、この
ことは原告会社、日満鉱業間の取引(一〇〇、〇〇〇、〇〇〇円の融資)と日満鉱
業、原告P1間の取引(歩油権の売買)が相互に無関係な、別個の取引であつたこ
とを示すものである。
③ さらにまた、原告会社が昭和三一年九月二五日現在で日満鉱業に対して有して
いた債権は、前記のとおり、九〇、〇〇〇、〇〇〇円であつたのに一〇〇、〇〇
〇、〇〇〇円の債権の代物弁済として日満から歩油権を譲り受けることは不可能で
あつたはずである。したがつて、本件歩油権について三者による口頭契約をし、そ
れが一旦原告会社のものとなつた旨の原告らの主張は失当といわねばならない。
3 原告らは、原告会社が日本鉱業に売却した帝石株四五〇万株の売却当時の価格
は一株当り一三六円とみるのが正当である。と主張するが、右主張も失当である。
(一) 原告らの主張によれば、昭和三二年一月一四日、原告会社が日本鉱業に譲
渡した帝石株一、〇〇〇万株の譲渡価格一、一五〇、〇〇〇、〇〇〇円(一株当り
一一五円)は、つぎの内容で構成されており、したがつて、原告会社が本件取引に
より取得した帝石株四五〇万株は、一株当り、一三六円で日本鉱業に譲渡したとい
うのである。
日本鉱業へ譲渡した帝石株一、〇〇〇万株の内訳
<略>
 すなわち、原告らの主張によれば、つぎのとおりである。
 日本鉱業は、P4の帝石再建対策の要請に応え、昭和二九年八月に、帝石株、
一、八八一、〇〇〇株を一株当り一三五円(手数料八円を含む。)でP4に譲渡し
たのであるが、P4には、資金的にこのような大量の株式を所有する能力がなかつ
たので右の帝石株は、結局原告会社の取得するところとなつた、しかし、右の帝石
株は、帝石の整理がすみ次第、原価で日本鉱業に返戻するという密約がP4と日本
鉱業社長間で結ばれていたのであり(ただし、文書の交換はなかつた。)、昭和三
一年に日本鉱業が原告会社に帝石株一、〇〇〇万株の買集めの委託をし、値決めを
行なつた際に、右の密約に基づき、一、八八一、〇〇〇株については、一株当り一
三五円、右株式の増資割当分一、八八一、〇〇〇株については一株当り二五円、両
者を平均して一株当り八〇円で日本鉱業が譲り受けることとなつたが、上記のよう
に右の株式は、買戻条件付で、原告会社が日本鉱業より取得したものであるから、
原告会社は、日本鉱業に対し原価で引き渡すこととした。
 つぎに、原告会社手持分一、七三八、〇〇〇株は、昭和二九年八月に訴外P2等
より取得費用を含み一株当り一三五円(当時の市場価格は八九円であるから約五割
増になる。)で取得したものを原告会社がそのまま手持ちしていたものであるが、
取得時と同様の見解にたつて評価することとし、市場価格九一円の五割増に当たる
一三六円で日本鉱業に譲渡することとした。
 また、原告P1よりの取得分四五〇万株は、日本鉱業の委託により原告会社は単
に斡旋したにすぎないのであり、原告P1より一株当り実質価格一三六円で取得し
たものを、そのまま同値で日本鉱業に引き渡したのである、したがつて、右の四五
〇万株の取引きについては、原告会社はなんら利益を得ていないと同時に実質上な
んらの損失も受けていない。
 原告会社が日本鉱業に売却した帝石株一、〇〇〇万株は、以上のような内容で構
成されているのであるから、一株当りが一一五円になつたからといつて、それは単
なる算術平均値にすぎないのである。経営支配の意図の下に行なわれる株式の大量
取引における価格は、市場価格の五割増程度を基準として交渉が開始されるのが一
般財界の慣行であるから、当時の市場価格九一円の五割増に当る一三六円で原告会
社が原告P1から帝石株四五〇万株を取得し、これをそのまま同値で日本鉱業に売
却した本件取引にあつては、一株当り一三六円の取引価格は適正価格であつた。
(二) しかしながら、原告らの右の主張のうち、原告会社が原告P1より取得し
た帝石株四五〇万株の取引価格は、原告ら主張のように一株当り一三六円ではな
く、一株当り一七二円(ただし、日埃交易株式について契約額二一、九三四、〇〇
〇円を二、二〇三、九二八円と認定しているので一株当りは二六八円となる。)の
であり、また、原告会社が、原告P1から取得した帝石株四五〇万株を、日本鉱業
に対し、一株当り一三六円で譲渡したという原告らの主張も事実に反する。すなわ
ち、
(1) まず、原告らは、P4は昭和二九年八月に帝石株一、八八一、〇〇〇株を
一株当り一三五円(手数料八円を含む。)で日本鉱業から取得したが、資金的に能
力がなかつたので、右の帝石株を結局原告会社がP4より取得するところとなつ
た、そして右の帝石株は、帝石の整理がすみ次第、原価で日本鉱業に返戻するとい
う密約が結ばれていたので、日本鉱業と原告会社間で昭和三一年にいたり帝石株
一、〇〇〇万株の売買の値決めを行なつた際には、右の株式は一株当り八〇円の原
価で日本鉱業が譲り受けることとなつたのであると主張するが、しかし、
(イ) 昭和二九年八月一七日に帝石株一、八八一、〇〇〇株を一株当り一二七円
でP4が日本鉱業より譲受ける旨の売買契約が締結された際、および昭和二九年一
一月三〇日に右の帝石株一、八八一、〇〇〇株を含めて合計五、〇〇〇、〇〇〇株
を一株当り一三五円(手数料を含む。)で原告会社がP4より譲り受ける旨の売買
契約が締結された際には、いずれも売買契約書には、日本鉱業が右の帝石株一、八
八一、〇〇〇株を原価で買い戻すという条項は全く付されていなかつた。
(ロ) 昭和二九年七月一六日開催の原告会社の取締役会議事録には「帝石会社の
経営が順調に進展して更に景気回復の波に乗れば、近い将来に此の株価は肩代り価
格或はそれ以上に戻ると思われる。」という文言が見られるのであり、また、昭和
二九年一二月二七日開催の原告会社の取締役会議事録には「当社としても帝石株式
については去る七月一六日開催された取締役会で直接大株主である日本鉱業および
P2氏より取得する決議を行なつており、また該株式の相場は近く高騰する気配が
見えて来たし今之を取得する時将来当社の為重要なる収益源ともなるので、」とい
う文言が見られるのであつて、このことは、原告会社が帝石株を取得したことによ
つて将来有利な利殖ができる旨を原告会社においてみずから認めていたものという
べく、もし原告会社が将来日本鉱業に帝石株を売り戻すものであつたとすれば、少
なくとも、右のような文言は表現されなかつたはずである。
(ハ) また、右の昭和二九年一二月二七日開催の原告会社取締役会議事録には、
「其の後経済情勢の沈滞から帝石株式相場は予期の如き騰貴を見せない。過去一ケ
月間の平均相場は一株当り九七、八円程度に過ぎないので、来るべき当社の決算期
(昭和二九年一二月三一日)に於ては、本株式につき総額一億八千余万円の評価損
の計上は必至となるに至つた。P4氏は斯かる事態について非常に憂慮され、右の
損失を出来得る限り、減額させる意味を以つて、今回当社が現に所有する日産ビル
デング株式会社株式の全株即ち四五万株を壱株につき金四百円、総額一億八千万円
で買い取るべき旨の申出があつた。斯くする時、当社としては約一億五千万円の売
却益を得ることになり、前記評価損は僅か参百万円余に過ぎなくなるので此の際P
4氏の厚志に応える意味を以つて該株式を譲渡することと致したい。」という文言
が見られるのであるが、(原告会社は、昭和二九年一二月三一日に現有の帝石株五
〇〇万株((このなかには日本鉱業よりの取得分一、八八一、〇〇〇株も含んでい
る。))について一八四、〇〇〇、〇〇〇円の評価損を計上した。)、もし原告会
社が前記の帝石株一、八八一、〇〇〇株を将来原価で日本鉱業に売り戻すというの
であつたとすれば、原告会社は、日本鉱業よりの取得分である一、八八一、〇〇〇
株については評価損失を計上する必要はなかつたはずである。
(ニ) 日本鉱業から被告あてに提出された文書(乙第二五号証)には、「日本鉱
業がP4に売却した帝石株については、将来日本鉱業が買戻す意思は全くなく、ま
た売買にそのような条件もつけてなかつた。」という旨の記載がなされており、こ
の点からみても、前記買戻しの密約はなかつたものと認めざるを得ない。
(ホ) 価額が将来どのように変動するかについてまつたく予測のできない株式を
原価による買戻条件付で売買するなどという契約を締結することは原告会社等の経
済人の取引行為としては常識では到底考えられないところであり、もし仮りに原告
会社と日本鉱業間において買戻しの黙契があつたとしても、それは、原価による買
戻しではなく、買戻しの行なわれる当時における市場価格等を基準にして値決めが
行なわれるべき筋合いのものと考えられる。
 したがつて、以上の諸点から考察すれば、P4と日本鉱業社長間に「原価による
買戻しの密約」が結ばれていたという原告らの主張は事実に反するものというべき
である。
(2) つぎに原告らは、「原告会社手持分一、七三八、〇〇〇株は、昭和二九年
八月にP2等より取得費用を含み、一株当り一三五円(当時の市場価格の約五割
増)で取得したものを原告会社がそのまま手持ちしていたものであるが、取得時と
同様の見解に立つて、市場価格九一円の五割増にあたる一三六円で日本鉱業に譲渡
することとした。」と主張するが、右の原告会社手持分一、七三八、〇〇〇株の内
訳はつぎのとおりとなつている。
P2等より取得分 六一九、〇〇〇株
取得価格(一三五円)
市場価格(八九円)
同増資割当分 六一九、〇〇〇株
東邦生命より取得分 五〇〇、〇〇〇株
取得価格(八五円)
市場価格(八七円)
計 一、七三八、〇〇〇株
 (注)右の東邦生命より取得分五〇〇、〇〇〇株は、昭和三〇年一月二七日に原
告会社が東邦生命に一株当り七二円で売却した帝石株五〇〇、〇〇〇株を昭和三一
年一月二七日に原告会社が買い戻したものであり、昭和三〇年一月二七日の売却時
には、原告会社が一か年以内にそのときの市場価格で買戻しのできる旨の条件が付
されていた。
 したがつて、右の一、七三八、〇〇〇株のうち、増資割当分六一九、〇〇〇株を
除いた一、一一九、〇〇〇株についてその取得価格とその取得時における市場価格
とを対比してみると、右の一、一一九、〇〇〇株はつぎのとおり、その当時の市場
価格の三割増で取得したことになるのであるが、原告らは、当時の市場価格の五割
増で右の株式を取得したものであるとの誤つた主張をしている。
 (135円×619,000)株+(85円×500,000株)/((89円
×619,000)+(87円×500,000株))=129%
 したがつて、取得時と同様の見解に立つて市場価格九一円の五割増に当たる一三
六円を算出し、この価格で日本鉱業に譲渡することとしたという原告らの主張はな
んらの根拠のないものである。
(三) 以上のことから判断すれば、原告会社が日本鉱業に譲渡した帝石株一、〇
〇〇万株についての原告らの主張(一、〇〇〇万株のうち、日本鉱業よりの取得分
三、七六二、〇〇〇株は一株当たり原価の八〇円で、原告会社手持分一、七三八、
〇〇〇株は一株当たり市場価格の五割増の一三六円で日本鉱業に譲渡したという主
張)はなんら理由のないものであることは明らかである。したがつて、原告P1か
ら取得した帝石株四五〇万株を一株当たり一三六円で日本鉱業に譲渡したという原
告らの主張もまた理由のないものといわなければならない。
 原告会社が被告あてに提出した「帝石株一、〇〇〇万株の価格につき一株当たり
一一五円以上に値増をしなかつた理由」と題する文書(乙第三六号証)にも「原告
会社が日本鉱業に譲渡した帝石株一、〇〇〇万株を一株当たり一一五円と計算した
根拠として日本鉱業が昭和二九年八月に帝石株一、八八一、〇〇〇株をP4に譲渡
した価格は一株当たり一二七円で、当時の市場価格九三円の一・三倍であつたか
ら、右の一、〇〇〇万株の値決めを行なつたときには昭和三一年三月の帝石株の平
均相場八八円三八銭五厘の一・三倍である一一四円九〇銭を算出し、これをもとと
して一株当たりの価額一一五円を決定した。」という経緯についての記載があり、
これを見ても右の一、〇〇〇万株については一括して一株当たり一一五円で原告会
社から日本鉱業に譲渡されたものであることがうかがわれるのである。
 したがつて、原告会社は、原告P1から取得した帝石株四五〇万株については、
一株当たり一一五円で日本鉱業に譲渡したものであるといわなければならない。
4 以上のような原告会社の帝石株四五〇万株の取引は、金融業務(中小企業に対
する内外融資および債務の保証等)を営む原告会社が行なつた取引としては、常識
ではとうてい考えられない不合理な行為であつて、原告会社は、同族会社であれば
こそこれをなしえたものといわなければならない。通常の経済人であれば、本件取
引にあたつては、利益採算を考慮し、本件取引をするに際しては、当時における帝
石株の株式市価(一株当り九一円前後)で取引するか、あるいは、日本鉱業に売り
渡した一株当り価額一一五円以内で取引を行ない、利益を獲得する手段に出るのが
通例であろう。そして、右のような不合理な取引行為を容認して課税することは、
原告会社の利益削減を黙過し、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認め
られるので、被告は、本件取引行為について同族会社の行為または計算の否認の規
定を適用して課税すべきものと考え、本件取引の決済内容等を検討した結果、本件
取引の適正額を七〇六、七三六、九七八円と認めた(取引株数の四五〇万株で除算
すれば、一株当りの価格は、一五七円五銭となる。)ので、原告会社が日本鉱業に
売り渡した帝石株一株当りの価格一一五円で取引した金額を超える部分の金額、す
なわち、一八九、〇〇〇、〇〇〇円、((706,746,978円-(115円
×450万株=517,500,000円)=189,246,978円))を否
認し、これを原告会社の益金に計上すべきものとしたのである。
 以上のとおりであるから、原告会社に対する原処分の審査請求を棄却した被告の
審査決定には原告会社主張のような違法の点はない。
四 被告が原告P1の審査請求を棄却した理由は、正当である。
 原告らは「原告P1は、同原告が原告会社に対し帝石株四五〇万株を譲渡した当
時、原告会社は同族会社ではないと信じていたし、しかも原告P1が、原告会社に
譲渡した帝石株の譲渡当時における価額は、一三六円であり、また、当時の一株当
りの時価は一三六円であるから、原告P1としては、その原告会社に対する帝石株
四五〇万株の譲渡について原告会社から贈与を受けた事実もなく、またその認識も
なかつた。」と主張する。
 しかしながら、原告P1が原告会社に対し譲渡した帝石株四五〇万株の一株当り
の実質価格は一五七円五銭である。そして、被告が右のように認定した根拠は前記
のとおりである。したがつて、原告P1の受贈の意思の有無あるいは原告P1が本
件取引当時原告会社が同族会社ではないと信じたかどうかにかかわりなく、原告P
1が原告会社から前記一八九、〇〇〇、〇〇〇円の益金の贈与を受けたものと認め
てこれを一時所得として原告P1の所得に加算すべきものとし、同原告の審査請求
を棄却した被告の審査決定には原告P1の主張するような違法の点はない。
五 仮に原告ら主張のように原告会社が同族会社に該当しないとしても、本件取引
の経緯および実態等から判断すれば、以下述べるように原告らに対して行なつた課
税処分は正当であり、なんら違法の点はなく、したがつて、原告らの審査請求を棄
却した被告の各審査決定はいずれも結論において正当である。
 すなわち、原告P1は、帝石株について昭和三一年二月一五日にP4から三一〇
万株を二六五、五〇〇、〇〇〇円(単価八五円、市場価格七六円)で取得し(昭和
三一年二月一五日にP4が帝石株を四大証券より売出価格一株当り八五円で取得し
たものを同日そのまま同一価格で原告P1に譲渡したものである。)、昭和三一年
四月一四日に帝石同友会外一名から一四〇万株を一四〇、〇〇〇、〇〇〇円(単価
一〇〇円、市場価格九二円)で取得したものであるが、それと相前後して昭和三一
年二月ごろから原告会社と原告P1間において帝石株について譲渡の商談が開始さ
れ、両者間の種々の商議を経て昭和三二年一月一一日に原告会社が原告P1から帝
石株四五〇万株を七七五、〇〇〇、〇〇〇円(単価一七二円、市場価格九一円)で
取得したものである。
 しかして、これより以前の昭和三〇年一二月ごろにP4から日本鉱業に帝石株
一、〇〇〇万株の譲受を希望するならば、優先的に考慮しようという話が持ち込ま
れた。
 日本鉱業としては、帝石との歴史的のつながりから、同社について非常に関心を
有していたので、昭和三一年二月頃一、〇〇〇万株全部を買い受けることを決意す
るにいたり、昭和三一年六月頃右の帝石株一、〇〇〇万株の一括譲受を条件として
買取価格一株につき一一五円(取引価格一、一五〇、〇〇〇、〇〇〇円)をもつて
譲り受ける旨を原告会社に申し入れ、この取引きの実行時期については、原告会社
の買集めの時間的余裕等を考慮し、昭和三二年二月末と決定されたが、実際の取引
きは、昭和三二年一月一四日に行なわれたのである。右の買取価格一一五円の値決
めについては、昭和三一年二月頃から交渉に入つたが、両者間で仲々折合いがつか
ず、結局昭和三一年六月頃にいたつて原告会社の帝石株の簿価(一株当り一一二円
五五銭)等を考慮して市場価格(約一〇〇円)より若干高い一一五円と決定された
のである。
 そして、代金の決済方法としては、当時日本鉱業が原告会社に対し有していた債
権四七五、〇〇〇、〇〇〇円をこれに充てるとともに、日本鉱業は昭和三一年二月
一五日に原告会社に二〇〇、〇〇〇、〇〇〇円の内金の支払いを行ない、同時に
一、〇〇〇万株のうち五五〇万株は現株をおさえ、残りの四五〇万株は当時借入金
の担保に入つていたから、銀行の帝石株預り証を日本鉱業が預ることとした。つい
で昭和三一年三月に四八、六一九、〇〇〇円、昭和三一年四月に一五〇、〇〇〇、
〇〇〇円、昭和三一年六月に五一、三八一、〇〇〇円の内金が支払われ、残額二二
五、〇〇〇、〇〇〇円は、昭和三二年一月の取引時に原告会社の銀行に対する債務
を日本鉱業が肩代りして決済されることになつたのである。
 右のような経緯により取引された帝石株の移動状況は左表のとおりであるが、そ
の経緯について考察すると、つぎのような種種の疑問点が生ずるのである。
年月 取引概況
三〇・一二 P4が日本鉱業に帝石株一、〇〇〇万株の譲渡方申入れ
三一・二 原告P1がP4から帝石株三一〇万株取得(単価八五円市場価格七六
円)
原告会社と日本鉱業間で帝石株一、〇〇〇万株の取引の商談開始
原告会社と原告P1間で帝石株の商談開始
三一・四 原告P1が帝石同友会外一名から帝石株一四〇万株取得(単価一〇〇
円、市場価格九二円)
三一・六 日本鉱業が原告会社に帝石株一、〇〇〇万株の買受方申入れ(単価一一
五円、市場価格約一〇〇円)
三二・一 原告会社が原告P1から帝石株四五〇万株取得(単価一七二円、市場価
格九一円)
日本鉱業が原告会社から帝石株一、〇〇〇万株取得(単価一一五円)
① P4が、昭和三〇年一二月ごろ日本鉱業に対し、当時、原告会社の帝石株の手
持株数が五〇〇万株しかなかつたにも拘らず(原告会社は昭和三一年一月に東邦生
命から五〇万株を取得し、五五〇万株を保有するにいたつた)、帝石株一、〇〇〇
万株の譲渡方の話しを持ち込んだのは、何故であろうか。
② 原告会社と日本鉱業間で帝石株一、〇〇〇万株の取引価格が一株当り一一五円
と決定された経緯は、前述のとおり原告会社の帝石株の簿価が一株当り一一二円五
五銭であること等を考慮して決定されたのであるが、この簿価一一二円五五銭の基
準には、原告会社が原告P1から帝石株四五〇万株を七七五、〇〇〇、〇〇〇円
(一株当り一七二円)で取得した分をも含めたうえでの算出価格であり、このこと
から見れば原告会社と原告P1間の取引価格七七五、〇〇〇、〇〇〇円の決定は、
遅くとも原告会社と日本鉱業間の帝石株取引の値決めの決定した昭和三一年六月以
前にその確定がなされていたものとしなければ、理屈が合わない。
③ 原告会社と日本鉱業間で帝石株一、〇〇〇万株の取引の商談が開始されたの
は、昭和三一年二月頃からであり、原告会社としてはそのときの手持株数が五、五
〇〇、〇〇〇株であつたので、残りの四五〇万株を買集める必要があつたのである
が、原告P1が帝石株一四〇万株を帝石同友会外一名から一株当り一〇〇円で取得
したのは、昭和三一年四月であつたことから考えれば、その当時、原告会社はどう
して帝石同友会外一名から安い価格で帝石株を取得しようとせずに、原告P1から
高い価格で帝石株を取得したのであろうか。また、日本鉱業としても、その当時、
帝石同友会外一名から安い価格で帝石株を取得しようとせずに、原告会社から四五
〇万株(原告会社の買集め分)を一株当り一一五円で取得したのは、何故であろう
か。
④ 原告会社と原告P1間の売買成立以前の昭和三一年二月に、まだ原告会社の所
有になつていない帝石株四五〇万株についての銀行の預り証を日本鉱業が預ること
としたのは、どういうわけであろうか。
 要するに、右のことから考察すると、本件取引行為は種々の疑問が窺われるので
あつて、まことに不可解のものであつたといわざるを得ないのである。
 してみると、原告会社は、前述のとおり、原告P1から市場価格(一株当り九一
円)に比して著るしく高価の一株当り一七二円で取得した帝石株四五〇万株と原告
会社手持の帝石株五五〇万株とを合わせた一、〇〇〇万株を原告P1との取引の三
日後(昭和三二年一月一四日)に日本鉱業に一株当り一一五円(取引価格一、一五
〇、〇〇〇、〇〇〇円)で売却し、四五〇万株の売買についていえば、多額の譲渡
損を発生させたのであるが、このような原告会社の行なつた多額の譲渡損を発生さ
せたという取引行為は、さきに述べたよりに、通常の経済人の常識ではとうてい考
えられない不合理な取引であり、その譲渡損の発生したゆえんも、一に原告会社が
原告P1から通常の取引価格を遥かに上回る異常な価格で帝石株を取得したことに
基づくものであるといわなければならない。
 しかも、帝石株四五〇万株が原告会社と原告P1間で一株当り一七二円で譲渡さ
れた取引時(昭和三二年一月一一日)において、帝石株の市場価格が一株当り九一
円であることを両者とも十分了知のうえで取引が行なわれたことも想像に難くない
ところである。
 したがつて、本件取引について、たとえ原告らが法律的形式においてその譲渡契
約が有効であり、かつ、右の取引を通じて両者間になんらの贈与の事実も認識もな
いから、原告会社が課税を受けないことはもちろん、原告P1としても贈与による
一時所得の課税を受ける筋合のないことを主張しても、本件取引の実態、本件取引
時における両者の特殊関係および上記のごとき帝石株の移動状況などから判断すれ
ば、原告会社と原告P1間において通常の取引では到底行なわれるはずがないと思
われるほどの高価買入れという異常な経済的取引が行なわれたのであるから、この
異常な取引を正当とする特別の理由がないと認められる本件においては、その異常
高価相当分は、原告会社が無償で原告P1に対して贈与したものと認定するのが相
当である。
 また、原告会社についてみても、市場価格(一株当り九一円)に比して異常に高
い価格(一株当り一七二円)で帝石株四五〇万株を原告P1から取得し、これを一
株当り一一五円で日本鉱業に譲渡し、かくして多額の譲渡損を発生させたものであ
るが、右の譲渡損を発生したゆえんのものは、結局原告会社が原告P1から帝石株
を異常に高い価格で取得したことに基因するものであり、右の譲渡損の価額は、原
告会社から原告P1に対してなされた贈与相当額と表裏一体の関係をもつものであ
つて、このような贈与相当額について寄附金の限度計算を行ない、その限度超過額
を算出してこれを原告会社の所得金額に加算することは正当であるといわなければ
ならない。
 したがつて、以上のことからみて、市場価格一株当り九一円を上回る金額八一円
(172円-91円=81円)に四五〇万株を乗じて算出した三六四、五〇〇、〇
〇〇円について寄附金の限度計算を行ない、その限度超過額を原告会社の利益に加
算するとともに、原告P1に対して三六四、五〇〇、〇〇〇円の贈与がなされたも
のと認めて、同人に対して一時所得として課税しても差し支えなかつたものを、こ
の額を下回る一八九、〇〇〇、〇〇〇円((157円-115円)×450万株=
189,000,000円))について寄附金の限度計算をなしたうえで算出した
一八六、二五四、六九一円を原告会社の利益に加算するとともに、原告P1に対し
て一八九、〇〇〇、〇〇〇円の贈与がなされたものと認めて、同人に対して一時所
得として課税した原処分にはなんら違法性はなく、したがつてまた、原告らの審査
請求を棄却した被告の審査決定は、いずれも結論において正当であるといわなけれ
ばならない。
第五 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告会社および原告P1の各請求原因第一、二項の事実および麹町税務署長
が、原告会社に対する原処分をするに当たり、原告会社が昭和三二年一月一一日原
告P1から帝石株四五〇万株を一株当り一五七円五銭で買受け、その三日後である
同月一四日にこれを日本鉱業に対し一株当り一一五円で売り渡したと認定し、その
差額一八九、〇〇〇、〇〇〇円((157円-115円)×450万株)につき、
これを原告会社が原告P1に贈与したものと認め、法人税法九条の規定を適用して
寄附金計算をし、その限度超過額一八六、二五四、六九一円を否認し、同額を原告
会社の利益に加算したこと、玉川税務署長が、右差額一八九、〇〇〇、〇〇〇円に
ついて原告P1は原告会社から贈与を受けたものと認めて同人に対し一時所得(九
四、四二五、〇〇〇円)として課税したこと、被告が、審査の結果、原告会社が同
族会社であり、原告会社のなした行為計算をそのまま容認するときは、その法人税
を不当に減少する結果を来たすとして、同族会社の行為計算否認の規定を適用し、
正当な税務計算をしたところ、課税標準としてはむしろ右原告会社に対する原処分
より多い額が算出されたので、原告会社の審査請求を棄却したこと、ならびに被告
が、原告P1は同族会社である原告会社の株主であり、かつ、原告会社の取締役会
長であるP4と特殊関係人であるから、同族会社の行為計算否認の規定を適用すべ
き場合に該当するとして、これによれば右差額一八九、〇〇〇、〇〇〇円を同人に
対する一時所得として課税した原処分は正当であるとの理由で原告P1の審査請求
を棄却する決定をしたことはいずれも当事者間に争いがない。
二 ところで、原告会社は、審査手続においては原処分(更正)の当否を判断すべ
きものであり、審査の範囲は原処分の理由の当否に限られるから、上記のように原
処分の理由と異なる理由によつて審査請求を棄却することは許されず、また、右の
同族会社の行為計算否認の規定の適用は不利益変更禁止の原則に違反する、と主張
するので、まず、この点を判断する。
 昭和二五年に改正された法人税法による審査手続においては、審査請求の対象と
なつた処分の当否のみを判断すべきものであることは原告会社主張のとおりである
が、右の審査制度は職権主義を採用し、その審査の範囲は審査請求の理由に拘束さ
れることなく、当該審査請求の対象となつた処分の当否を判断するに必要な全般に
およぶと解するを相当とするから、原処分と異なる理由によつて審査請求を棄却す
ることができることはいうまでもない。また、右の審査制度は、いわゆる覆審制で
はなく、審査請求の対象となつた処分の当否を判断し、当該処分を正当とするとき
は審査請求を棄却し、当該処分が正当でないときは、その全部又は一部を取り消す
ことを建前とするものであるから、審査庁が新たな課税標準を確定する処分をする
ことができないことは、原告会社主張のとおりであるが、本件において、被告は、
前示のとおり、同族会社の行為計算の否認の規定を適用し、原告会社の審査請求を
棄却したが、右否認の規定の適用は審査請求を棄却する理由として示したものにす
ぎず、これにより新たな課税標準を確定する処分をしたのでないことはいうまでも
ない。したがつて、これについて不利益変更の原則違反を論ずる余地もない。
 もつとも、青色申告法人に対する更正にあつては、その更正通知書に理由を附記
すべきであるとされ、これによれば、前記審査の範囲も更正通知書に附記された理
由の当否に限られるごとくであるが、しかし、その趣旨は、原処分庁の判断の慎
重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせ
て不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものにすぎないと解するを相当とし、こ
のことによつて前記審査の範囲が原処分の理由の当否に限定され、または審査請求
の理由に拘束されるとは解されない。
三 つぎに、原告らは、原告会社が同族会社の行為計算の否認の規定にいう同族会
社でないと主張するので、まず、この点について判断する。
 原告会社の本件取引当時の総株式数が四、七〇〇、〇〇〇株で、あつたこと、そ
の当時の原告会社本店に備え付けの株主名簿上の上位大株主三名およびその持株数
が、
① 日本鉱業 九五〇、〇〇〇株
② 日立製作所 八二八、〇〇〇株
③ 日本土地 四七六、〇〇〇株
であつたことおよび日本鉱業が当時日本土地から取得した四七六、〇〇〇株、日産
火災から取得した二四五、〇〇〇株等を含むいまだ名義書換手続を経ていなかつた
株式合計八六六、〇〇〇株を保有していたことは、いずれも当事者間に争いがない
ところ、原告らは、右の名義書換手続未了株式八六六、〇〇〇株は基本通達にいう
名義株ではなく、単に名義書換手続が遅延していたものにすぎないから、これを同
族会社の判定について前記日本鉱業保有の株式九五〇、〇〇〇株に加算することは
誤りであると主張する。
 しかしながら、同族会社の判定について法人税法七条の二第一項が当該会社の株
主とその保有株数を基準とした趣旨は、株主が、その議決権の行使を通じて当該会
社を支配することができる点に着目したことによると解されるから、同条項の株主
とは、一般に、記名株式については、株主名簿に記載されたものをいうのであつ
て、たとえ記名株式を譲り受け実質的には株主であつても、名義書換手続きを了し
ていなければその株主権を会社に対抗できないから、かような者は、同条項の株主
には含まれないというべきであるが、しかし、いまだ株主名簿に記載されていない
実質上の株主が株主名簿上の形式的な株主と特殊な間柄にある等の事情によつてそ
の者の株主権を実質的に支配することができるため、右の株主名簿上の形式的な株
主名で実質的に議決権を行使することができるような場合には、その株式がいわゆ
る名義株であると、名義書換手続未済の株式であるとを問わず、右の実質上の株主
も同条項の株主と解するを相当とし、基本通達の趣旨とするところもそこにあると
解せられる。
 これを本件についてみるに、弁論の全趣旨によれば、日本土地、日産火災、日本
鉱業は、いずれもいわゆる日産コンツエルンの傘下にある会社であることが認めら
れ、また、前記日本鉱業が日本土地から取得した株式四七六、〇〇〇株、および日
産火災から取得した二四五、〇〇〇株についていずれも同社がすでにその対価の支
払いを了していたことは原告らの自認するところであるから、かように特殊な間柄
にあるものから取得した株式については、たとえ名義書換が未了であつても日本鉱
業において、容易にこれらの会社から白紙委任状を交付させるなどして実質的に原
告会社に対しその議決権を行動することができたと認めるを相当とし、他に以上の
認定を左右すべき証拠はない。したがつて、本件取引当時、日本鉱業の持株数は、
少なくとも九五〇、〇〇〇株プラス七二一、〇〇〇株、日立製作所の持株数は八二
八、〇〇〇株、日産ビルの持株数は二五万株であつて、以上上記三社の持株数の合
計は二、七四九、〇〇〇株となるから原告会社の総株式数四、七〇〇、〇〇〇株に
対し五〇パーセントを超えることが明らかであるので、原告会社は法人税法七条の
二第一項一号の同族会社であつたといわなければならない。それ故、原告らの上記
の主張は失当といわざるを得ない。
四 さて、原告会社と原告P1との間に昭和三二年一月一一日本件取引がなされた
こと、被告が本件取引当時における帝石株四五〇万株の一株当りの実質価格を一五
七円五銭と認定したことおよびその認定した根拠が原告ら主張のとおりであること
はいずれも当事者間に争いがないところ、原告らは、右一株当りの実質価格は一三
六円であると主張するので、この点について判断する。
1 まず、被告が日産炭化に対する原告会社の債権を九五、〇〇〇、〇〇〇円と評
価した点について、右債権は延払条件付の債権であつたから、複利現価の方法で、
本件取引のあつた昭和三二年一月一一日現在の評価額を算定すべきであり、これに
よると、七二、二一一、〇〇〇円が正当である旨の原告らの主張について
 いずれも成立に争いのない甲第一七号証、同第一八号証、同第二〇号証、乙第二
号証、同第一八号証、同第二七号証いずれも原本の存在と成立に争いのない乙第二
〇号証、同第二一号証、同第二二号証、同第二三号証、同第二四号証、同第二五号
証および証人P9の証言に弁論の全趣旨を総合すると、原告P1と原告会社との間
における本件取引の交渉は、昭和三一年二月ごろから開始されたこと、昭和三二年
一月一一日右の交渉がまとまり、同日、原告P1は原告会社に対し、帝石株四五〇
万株を代金七七五、〇〇〇、〇〇〇円で売り渡したが、その際、右代金のうち一九
一、五〇〇、〇〇〇円については現金で、昭和三三年一月一〇日までに支払う旨を
約するとともに、右の現金決済額一九一、五〇〇、〇〇〇円について、支払期日ま
でに現金決済が困難な場合には、原告会社の選択により、同社が日産炭化に対して
有する債権で代物弁済することを承認したこと、原告P1は、昭和三三年一月一〇
日、右支払期日を昭和三三年七月一〇日まで延長する旨原告会社との間に約したこ
と、そして、昭和三三年六月二〇日、同日現在における残高が一七三、五〇〇、〇
〇〇円あるが、これを同年七月一〇日まで決済されたく、支払期日の再延長は承知
しかねるので、万一現金で支払困難な場合は、かねて申出のあつた日産炭化に対す
る債権の譲渡で代物弁済をしても異存がない旨を原告会社に通知したこと、そこ
で、原告会社は、昭和三三年六月二一日、本店において取締役会を開催し、右残額
一七三、五〇〇、〇〇〇円について協議した結果、原告会社の保有する日産炭化株
五、九九三、四一〇株を金二九、九六七、〇五〇円と評価し、これと原告会社の日
産炭化に対する債権一九五、六二五、九五五円のうち一四三、五三二、九五〇円を
右残額一七三、五〇〇、〇〇〇円に対する代物弁済として譲渡することを決議し、
同年六月二七日ごろ、原告会社が右一四三、五三二、九五〇円の債権を譲渡する旨
および日産炭化が右債権譲渡を承諾する旨の記載ある債権譲渡証書を原告P1に交
付したこと、原告P1は、同日、原告会社あて、右残額一七三、五〇〇、〇〇〇円
の債権に対し、金二九、九六七、〇五〇円を原告会社保有の日産炭化株式により、
一四三、五三二、九五〇円を原告会社の日産炭化に対する債権の譲渡により、現金
に代えて弁済を受けたので、原告会社に対する原告P1の債権は皆済になつたこと
を確認する旨記載された領収書を交付したこと、さらに原告会社と原告P1および
日産炭化は、同日付で、右の一四三、五三二、九五〇円の決済について「(一)日
産炭化が若松市に所有する工場用地、建物等の不動産売買契約に基づきつぎの期日
に受け取るべき売却代金をもつてこれに充当する。(1) 金四五、〇〇〇、〇〇
〇円契約日より満一か年半後の約手払い (2) 金五〇、〇〇〇、〇〇〇円 契
約日より満二か年後の約手払い。(二)(1)うち金九五、〇〇〇、〇〇〇円につ
いては右により支払う、(2)利息を徴しない、(3)右の各期日までに九五、〇
〇〇、〇〇〇円の支払いを遅滞なく履行した場合には残額金四八、五三二、九五〇
円に対する請求権を放棄することを考慮する、(4)右の各期日までに右九五、〇
〇〇、〇〇〇円の債務が不履行となつた場合には、(3)の残債権を追及すること
はもちろん、昭和三三年六月二七日以降実際に決済が行なわれる日まで金一四三、
五三二、九五〇円に対し日歩二銭四厘の割合による利息を徴する」旨を約したこ
と、その後、さらに原告P1、原告会社および日産炭化は、昭和三四年九月一五日
付で「原告P1の日産炭化に対して有する債権金一四三、五三二、九五〇円につい
ては、昭和三四年五月一九日、日本炭礦株式会社振出の日産炭化あて約束手形二通
(手形金額四五、〇〇〇、〇〇〇円支払期日昭和三四年一一月一九日、手形金額五
〇、〇〇〇、〇〇〇円支払期日昭和三五年五月一九日)を日産炭化が原告P1に裏
書譲渡することを条件に、原告P1は、右債権一四三、五三二、九五〇円と右約束
手形金との差額金四八、五三二、九五〇円の権利を放棄する。ただし、右約束手形
が期日にいたり万一不渡りとなつた際は、右の債権放棄はこれを取消し、その総額
に対し日歩二銭四厘の利息を日産炭化より原告P1に支払うものとする」旨を約し
たこと、がそれぞれ認められ、右認定を左右すべき証拠はない。そして、右の九
五、〇〇〇、〇〇〇円について、昭和三四年一一月一九日に四五、〇〇〇、〇〇〇
円、昭和三五年五月一九日に五〇、〇〇〇、〇〇〇円が各現金で決済されたことは
当事者間に争いがない。
 以上の事実によれば、原告会社は昭和三二年一月一一日、原告P1から帝石株四
五〇万株を、その後原告会社が日産炭化に対する債権の一部一四三、五三二、九五
〇円をもつて代物弁済をなした部分に対する同額の代金債務を含む代金七七五、〇
〇〇、〇〇〇円で買収したものというべきであるから、厳密にいえば、原告会社の
日産炭化に対する債権は右の額面額をもつて評価すべきであるが、右代物弁済後、
日産炭化の債務が九五、〇〇〇、〇〇〇円の現金決済によつて残額免除となつたの
で、被告は、この点を考慮し、右実際の決済額九五、〇〇〇、〇〇〇円をもつて控
え目に評価することにしたことが認められるにすぎず、他に原告らが主張するよう
に本件取引にあたり原告会社の日産炭化に対する右債権が延払条件付債権として代
物弁済に供せられたことを認めるに足りる証拠はない。したがつて、これについて
複利現価換算をすべき理由はなく、結局、原告らの前記主張は失当であるといわざ
るを得ない。
2 つぎに、被告が本件手形債権を額面どおり一〇五、〇〇〇、〇〇〇円と評価し
た点について、本件手形による決済は実質上は石油鉱区歩油権(以下単に「歩油
権」という。)をもつてする代物弁済であるから、その評価は本件取引当時におけ
る歩油権の時価三三、〇〇〇、〇〇〇円が相当である旨の原告らの主張について
 いずれも成立に争いのない甲第八号証、同第一七号証、乙第一号証、同第一一号
証、同第一二号証、同第一三号証、同第一四号証、同第一五号証、同第一八号証、
同第一九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証と
証人P6、同P9の各証言および弁論の全趣旨を綜合すると、日満鉱業は、原告P
1に対し、昭和三一年九月二五日歩油権を代金一〇八、〇〇〇、〇〇〇円で売り渡
したこと、右歩油権の売買は、契約書の上では訴外P1企業株式会社と日満鉱業間
の取引であるかのようになつているが、実はP1企業株式会社とは原告P1にほか
ならず、同社は原告P1に名義を貸しただけであること、右歩油権の譲渡につい
て、訴外石油資源株式会社は、昭和三一年九月二五日付でなされた譲受名義をP1
企業株式会社とする譲渡承認の申出に対し、同年一一月一九日異議なく承諾したこ
と、原告P1は、右売買代金支払いのために、右の一〇八、〇〇〇、〇〇〇円に相
当するP1企業株式会社振出の約束手形を日満鉱業に交付したこと、右約束手形
は、①金額五〇、〇〇〇、〇〇〇円振出日昭和三一年一〇月二五日満期昭和三二年
一月二〇日、②金額四〇、〇〇〇、〇〇〇円振出日および満期いずれも右①に同
じ、③金額一八、〇〇〇、〇〇〇円振出日および満期いずれも右①に同じ、の三通
であるが、満期になつて、右③の手形は、(イ)金額一〇、〇〇〇、〇〇〇円満期
昭和三二年六月二九日、(ロ)金額五、〇〇〇、〇〇〇円満期右(イ)に同じ、
(ハ)金額三、〇〇〇、〇〇〇円満期右(イ)に同じ、の三通に分割されたこと、
そして、日満鉱業は、右①の約束手形を同社の訴外日本中小企業政治連盟に対する
五〇、〇〇〇、〇〇〇円の債務の担保に差し入れたが、②、③の各手形はその振出
日である昭和三一年一〇月二五日に原告会社に対する貸付金債務一〇〇、〇〇〇、
〇〇〇円の担保として差入れ、原告会社は、同日、日満鉱業に対する右貸付金債権
のうち五〇、〇〇〇、〇〇〇円を手形債権に振替えたこと、日満鉱業から日本中小
企業政治連盟に担保のため差し入れられていた①の手形は、その後担保差換えによ
り同連盟より日満鉱業に返還され、昭和三二年一月二二日に原告会社の日満鉱業に
対する右振替残である五〇、〇〇〇、〇〇〇円の貸付金債権の弁済に充当され、③
の手形は、上記のとおり(イ)、(ロ)、(ハ)の三通の手形に分割されたうえ、
そのうち、(イ)の手形は②の手形とともに前記振替にかかる債権五〇、〇〇〇、
〇〇〇円の弁済に、また、(ロ)の手形は、前記貸付金債権の利息五、〇〇〇、〇
〇〇円の弁済にそれぞれ充当されたこと、その後①、②、(イ)、(ロ)の各手形
は、原告会社がこれを取りまとめたうえ一括して、本件取引による帝石株代金とし
て原告P1に手渡されその支払いにあてられたこと、(ハ)の手形は、その後日満
鉱業が原告会社から返戻を受けたが、原告P1は、右帝石株代金として昭和三二年
六月二七日に原告会社から支払いを受けた現金三、〇〇〇、〇〇〇円をもつて同月
二九日に右手形の決済にあてたこと、かくして原告P1は、前記P1企業株式会社
名義のもとに振出して日満鉱業に交付した約束手形およびその後分割して振出した
手形①、②、(イ)、(ロ)、(ハ)の各手形を全部決済し、これをその振出名義
人に返戻するにいたつたことがそれぞれ認められ、前顕各書証および成立に争いの
ない甲第二一号証の各記載中の原告らの主張に沿う部分は右認定に照し採用でき
ず、他に以上認定を左右すべき証拠はない。
 以上の事実によれば、原告P1から日満鉱業に交付されたP1企業株式会社振出
名義の約束手形額面一〇八、〇〇〇、〇〇〇円相当は、原告P1が日満鉱業から買
受けた歩油権の代価を支払うため振り出されたもので、原告会社は、日満鉱業から
取得した右手形のうち額面合計一〇五、〇〇〇、〇〇〇円に相当する部分を同社の
原告P1に対する本件取引代金の支払いにあてたことが認められるにすぎず、他に
原告ら主張のごとき本件取引代金の支払いについて歩油権をもつて代物弁済にあて
たこと、本件手形が右代物弁済の単に伝票がわりに振り出されたものであることを
認めるに足る証拠はない。したがつて原告らの右主張も採用しがたい。
五 さらに、原告会社が本件取引により原告P1から買受けた前記四五〇万株を含
む帝石株一、〇〇〇万株を、昭和三二年一月一四日日本鉱業に対し売り渡したこと
および被告が右売渡しにかかる帝石株四五〇万株の一株当りの価格を一一五円と認
定したことは当事者間に争いがないところ、原告らは、原告会社が日本鉱業に対し
売り渡した帝石株の総数一、〇〇〇万株のうち一、八八一、〇〇〇株は昭和二九年
八月に一三五円で日本鉱業から譲り受けたものであるが、買戻しの特約があつたの
で、これを一株当り右の一三五円で日本鉱業に売り戻しまた、これに対する増資割
当分一、八八一、〇〇〇株は一株当り二五円をもつて原告会社から日本鉱業に譲り
渡したのであるから、右一、〇〇〇万株のうち三、七六二、〇〇〇株の平均価格は
一株当り八〇円である、したがつて右一、〇〇〇万株の単純平均価格は一株当り一
一五円であるが、右三、七六二、〇〇〇株を除く、その余の六、二三八、〇〇〇株
(原告会社が原告P1から買い受けた右四五〇万株を含む。)については、一株当
りの市場価格九一円の五割増にあたる一三六円で売り渡した旨主張するので、進ん
でこの点を検討する。
 いずれもその成立に争いのない甲第九号証、乙第一八号証、同第三一号証、同第
三六号証、同第三九号証の一、二と原本の存在および成立に争いのない乙第三二号
証、同第三三号証、同第三四号証、いずれも弁論の全趣旨によつて真正に成立した
ものと認められる乙第三号証、同第三五号証に証人P9、同P8の各証言と弁論の
全趣旨を綜合すると、昭和二九年八月ごろ、帝石は、労使間の紛争および役員間の
あつれきからその経営のゆきづまりをきたしたので、これを解決し、その難局を打
開するため、事業経営について豊富な経験と力量識見を有していたP4が出馬し、
帝石の経営に参加することとなり、そのため、帝石の大株主である日本鉱業等か
ら、その保有にかかる帝石株を譲り受けたこと、ただ、P4としては、右の目的を
達成した暁には、かような大量の株式を保有する必要がないし、また、資金の事情
もあるので、原告会社にこれら株式を譲渡することとし、自己が取締役会長の任に
あつた原告会社もこれを後援することが将来同会社の利益になると考え、右P4の
保有する帝石株全部を引き受けることとし、それを譲り受けたこと、その後、帝石
の問題もようやく落着したので、昭和三〇年一二月ごろ、P4は、日本鉱業に対
し、同社が帝石株一、〇〇〇万株の譲受けを希望するならばこれを優先的に考慮す
るがどうかと申し入れたところ、日本鉱業は、かねてから帝石に対し深い関心をも
ちその経営支配を希望していたので、昭和三一年一月ごろになつて帝石株一、〇〇
〇万株を買い受けることを決定したこと、そこで原告会社は、日本鉱業に対し、原
告会社がさきに同社から譲受けた株および手持株五五〇万株のほか原告会社が原告
P1から買い受けた四五〇万株、合計一、〇〇〇万株を譲り渡すとともに、日本鉱
業との間における過去数年にわたる貸借勘定を整理することとなり、その代価につ
いて日本鉱業との間で検討した結果、日本鉱業が帝石株一、八八一、〇〇〇株をさ
きにP4に譲り渡した価額が一株当り一二七円で、それは当時の時価すなわち昭和
二九年八月一六日の終値である九三円の一・三倍であり、昭和三一年三月中の終値
の平均が八八円三八・五銭であつたので、その一・三倍である一一四円九〇銭に近
い一一五円とすることを昭和三一年五、六月ごろになつて決めたこと、かくして、
昭和三二年一月一四日に、原告会社と日本鉱業の間で正式に右帝石株一、〇〇〇万
株の取引が行なわれるにいたつたことが認められ、前顕甲第九号証、成立に争いの
ない同第一一号証、同第二一号証の各記載および証人P8の証言中右認定に沿わな
い部分は採用せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
 以上認定の事実によれば、原告会社が日本鉱業に売り渡した帝石株一、〇〇〇万
株については、さきに原告会社において日本鉱業から取得したものやこれに対する
増資割当分等につき原告ら主張のような計算や考慮がなされたうえで一、〇〇〇万
株全体の売買価格が決定されたものではなく、まず、一株当りの価額を一一五円と
決定したうえで一、〇〇〇万株の売買価額一、一五〇、〇〇〇、〇〇〇円が算出さ
れたものと認めるを相当とし、したがつて、右一、〇〇〇万株中に含まれている原
告会社が原告P1から買い受けて取得した四五〇万株についてもその一株当りの売
買価格は被告主張のとおり一一五円であるといわなければならない。この点に関す
る原告らの前記主張も理由がない。
六 以上の次第で、原告会社に対する審査決定および原告P1に対する審査決定に
はいずれも原告ら主張のごとき違法はなく、右各審査決定の取消しを求める原告ら
の本訴各請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負
担につき民事訴訟法八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 杉本良吉 仙田富士夫 村上敬一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛