弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
大潟村長が別紙2認定一覧の対象者欄に各記載の原告らそれぞれに対し平成
18年6月15日付けでした別紙2認定一覧の認定欄記載の各認定をそれぞれ
取り消した各処分をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は,農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号。以下「法」と
。),いう12条1項によりそれぞれ農業経営改善計画の認定を受けた原告らが
法12条の2第2項により上記各認定を取り消す処分をした大潟村長に対し,
上記各処分について,これらの違法を主張して,取消しを求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実)
()原告ら1
原告らは,秋田県南秋田郡αに居住し,同村において農業を営む者らであ
るところ,農業経営改善計画を作成して被告に申請し,大潟村長により,別
紙2認定一覧の認定欄に各記載のとおり,平成14年10月30日付けで,
(「」法12条1項に基づく当該農業経営改善計画以下本件農業経営改善計画
という)が適当である旨の認定(同計画の変更の認定を含む)を受けた。。
認定農業者であった。
,,(「」。)原告らは平成15年2月A農業協同組合連合会以下A連という
が所有していたαβ×番1ないし3,同×番1ないし3,同×番,同×番,
同×番1及び2,同×番1各所在の土地(以下「本件農地」という)を,。
10アール当たり85万円の割合による価格で,それぞれ購入し,農地とし
て耕作している。
()農業経営改善計画の認定取消処分2
大潟村長は,法12条の2第2項に基づき,別紙2認定一覧の対象者欄記
載の各原告らに対し,平成18年6月15日付けで,別紙2認定一覧の認定
欄記載の農業経営改善計画の各認定をそれぞれ取り消すとの処分(以下「本
件処分という)をした。。」
同処分は,原告ら各自に対し,書面(甲1∼8)によりそれぞれ通知され
たところ,いずれの文書にも「認定の取消しに該当する事由」として,以,
下のアからウまでの事項が記載されていた。
ア認定農業者として自ら作成した農業経営改善計画に従って農業経営を改
善するためにとるべき措置を講じていないこと。
イ経営改善資金計画に沿った営農が行われていないこと。
ウ畑作経営を前提として取得したβ地区(旧A連用地)の農地において,
計画に沿った営農が行われていないこと。
2争点
本件においては,本件処分の違法性が争われており,具体的には,本件処分
の理由提示の欠如(争点(),事実誤認(法12条の2第2項が定める農業1)
経営改善計画の認定の取消事由の有無。争点())の各違法に加え,裁量権の2
逸脱・濫用の有無に関するものとして,行政上の信義則違反・法の目的違反の
有無(争点(),公平原則違反の有無(争点())が,争点となっている。34)
()本件処分の理由提示の欠如(争点())11
(原告らの主張)
,,,行政庁が不利益処分をする場合にはその名あて人に対し処分と同時に
当該処分の理由を示さなければならず(行政手続法14条1項,不利益処)
分を書面でする場合にはその理由は書面により示さなければならない同,,(
条3項。行政手続法が,行政庁に対し,このような理由提示義務を課す趣)
旨は,不利益処分に関する行政庁の恣意的判断を抑制するとともに,同処分
の理由を名あて人に明らかにすることにより,行政上の意思決定の内容と過
程の透明性の向上を図り,併せて名あて人の不服申立てに便宜を与える点に
ある。そうすると,不利益処分が書面でされる場合に,その書面に示される
理由は,名あて人がその書面によらなくても当該処分の理由を推知すること
ができるか否かにかかわらず,いかなる根拠に基づきいかなる法規を適用し
て当該処分がされたかということを名あて人が書面の記載自体から了知し得
るものでなければならない。
これを本件につきみるに,本件処分が記載された書面(甲1∼8)に示さ
れている処分の理由(前提事実()アないしウ)には,原告らのいかなる行2
為が,本件農業経営改善計画のどの部分に違反しているのかが示されていな
い。また,上記事由は,法12条の2第2項の条文をそのまま記載している
のみで,結論だけが抽象的に示されているに過ぎない。
したがって,上記書面に示された本件処分の理由では,法12条の2第2
項が適用される基礎となった根拠,事実関係を知ることができないから,本
件処分は,行政手続法14条1項及び3項が求める,理由の提示を欠くもの
として,違法である。
(被告の主張)
大潟村長が本件処分を記載した書面甲1∼8に示した処分の理由前,()(
提事実()アないしウ)には,適用した法規,原告らのどのような行為が農2
業経営改善計画のどの部分に反しているかが具体的に示されている。
また,本件農地における水稲作付けに対する被告及び秋田県等による対応
や指導などといった本件処分に至る経緯等にかんがみれば,本件処分を記載
した書面に示した処分の理由で,原告らは,農業経営改善計画違反の内容を
具体的に認識することができた。
したがって,大潟村長が本件処分を記載した書面に示した処分の理由は,
行政手続法が処分理由の提示を求める趣旨に反するものではないから,本件
処分には,理由提示の欠如の違法はない。
()事実誤認(争点())22
(原告らの主張)
ア本件農業経営改善計画の内容は,○○資金を利用して新たに本件農地を
取得し規模拡大をするとともに,本件農地において大豆等の栽培といった
畑作を行うというものであった。
原告らは,平成17年度に,本件農地において,加工用米の栽培をした
が,これは,本件農地における大豆等の畑作を諦めたわけではなく,平成
18年12月からの本件農地購入資金の借入れの返済をするために,一時
的に加工用米の栽培を行ったに過ぎない。原告らは,その後,被告や秋田
県等に対し,上記借入れの返済をすることができるような畑作を実現する
ための指導を求めたが,被告らはこれに回答をしなかったために,平成1
8年度においても,やむを得ず,加工用米を作付けしたものである。
法は,農業経営改善計画の変更の認定(法12条の2第1項)を定めて
いるから,農業経営改善計画に従った営農を行ったがうまくいかない場合
にまで,その計画どおりの農業経営を強制するものではない。また,原告
らは,未だ本件農地で農業経営改善計画どおりの畑作を行う意思を放棄し
ているわけではない。
したがって,原告らの上記の加工用米の作付けが,本件農業経営改善計
画に反することはない。
イ原告らは,本件農地において畑作を行い,これがうまくいかず,上記借
入れの返済に窮するような場合には,本件農地において,米を栽培するこ
ともあり得ることを留保した上で,本件農業経営改善計画認定の申請を行
ったのであり,大潟村長も,そのような内容の農業経営改善計画を認定し
た。
したがって,原告らが,平成17年度及び同18年度に,本件農地にお
いて,米の栽培を行ったことは,本件農業経営改善計画の範囲内のもので
ある。
ウ以上によれば,大潟村長は,本件農地における原告らの営農について,
本件農業経営改善計画違反に該当する事実がないのに,同計画違反を理由
に本件処分を行ったのであるから,本件処分には,この点に関する事実誤
認がある。
(被告の主張)
,,,ア原告らの本件農業経営改善計画の内容はいずれも本件農地において
大豆等の栽培といった畑作を行うというものであった。
原告らは,平成17年度及び同18年度に,被告などによる度重なる是
正・指導を無視して,本件農地に米を作付けしたのであるから,このこと
が,本件農業経営改善計画に違反し,法12条の2第2項所定の認定取消
事由に当たることは明らかである。
また,原告らは,主食用の米の需給バランスに影響を与えない加工用米
の作付けは本件農業経営改善計画に違反しないと主張するが,原告らは,
国による加工用米の認定を受けていないばかりか,本件農地で収穫した米
の販売先,販売量,販売価格等の情報を明らかにしないから,原告らが作
付けした米が加工用米に当たるとはいえない。
イ原告らは,本件農業経営改善計画が,本件農地における米の作付けがあ
り得るという,米の作付けを留保したものであると主張するところ,その
ような計画は,被告の基本構想(法6条,12条4項1号)である「農業
経営基盤の強化の促進に関する基本構想」とは相容れないものである。
したがって,本件農業経営改善計画が,米の作付けを留保するものであ
れば,同計画は,法が定める認定要件である「基本構想に照らし適切なも
のであること(法12条4項1号)に反することとなり,大潟村長は,」
同計画が認定要件を満たさないのに適当であるとの認定をしたこととなる
から,同計画が米の作付けを留保していることが判明すれば,法12条の
2第2項所定の取消事由があることとなり,認定を取り消すのは当然のこ
とである。
,,ウ以上のとおり本件農地における原告らによる米の作付けなどの行為は
本件農業経営改善計画に違反し,法12条の2第2項所定の認定取消事由
があることが明らかである。したがって,本件処分に関し,事実誤認はな
い。
()行政上の信義則違反・法の目的違反の有無(争点())33
(原告らの主張)
アA連が主催した本件農地の売却説明会において,A連担当者は,本件農
地で米を栽培してはならないとの説明はせず,かえって,芥子などの禁制
品以外は何でも生産することができるとの説明をし,同席していた被告職
員はこれに何の異議も述べなかった。そして,被告は,原告らが平成17
年5月に本件農地において米の作付けをするまでの間,原告らに対し,本
件農地において米を作付けしてはならないとの意思表明をしたこともなか
った。
また,原告らは,被告から,本件農地において米の作付けを行った場合
に,本件農業経営改善計画の認定取消処分を行う可能性があるとの説明を
受けたことはなかった。
イ奨励金が付かない同農地における大豆等の畑作により,10アール当た
り85万円の割合による購入資金の借入れの返済をすることができないこ
とは客観的に明らかであり,大潟村長もこのことを認識していた。それに
もかかわらず,大潟村長は,A連の不良債権整理としての本件農地の売却
に協力するとともに,本件農地が不適切な者に取得されるのを防ぐなどの
目的で,○○資金の借入れにより購入した本件農地において畑作を行い上
記借入れを返済することを内容とする本件農業経営改善計画が適当である
旨の認定をして,原告らに本件農地を取得させた。
そして,被告は,自らが関与して原告らの農業経営改善計画の基本的部
分を策定し,大潟村長がこれを認定したのであり,法2条が,効率的かつ
安定的な農業経営の育成を実現するために市町村に農業生産の基盤の整備
及び開発,農業経営の近代化のための施設の導入,農業に関する研究開発
及び技術の普及等を推進する責務を課していることに照らせば,上記計画
の将来の見通しに誤りがあり,原告らが計画を実行することが困難である
ことが明らかになった場合には,単に認定した農業経営改善計画を守るこ
とを求めるのではなく,同計画の変更を求めるとか,実現性のある代替案
を示して原告らとの協議をするなどの行政指導をすべきであった。
それにもかかわらず,原告らが,被告に対し,本件農業経営改善計画を
実現する営農の指導を求めても,本件農業経営改善計画に従った畑作を行
うことを原告らに求めるのみで,原告らの指導要請に対する具体的な営農
指導等を何らしなかった。
ウ以上のとおり,大潟村長は,当初から実現が困難であった本件農業経営
改善計画を適当である旨の認定をしておきながら,原告らがその計画に従
った営農をすることができず米の作付けをするや,上記計画の実現のため
の営農指導や同計画の変更の指導等を何ら行わずに,本件農地で米の作付
けをすることができないこと及び米の作付けをした場合に同計画の認定が
取り消される可能性を認識していない原告らに対し,同計画の認定を取り
消したのであるから,この点につき,大潟村長による本件処分は,行政上
の信義則に反するものというべきである。
また,原告らの経営破たんを招くことが明白である本件農業経営改善計
画に従った営農を強要することは,法が掲げる効率的かつ安定的な農業経
営の育成,農業の健全な発展という目的に反するものである。
(被告の主張)
アA連が主催した本件農地の売却説明会において,A連担当者が,本件農
地において米を栽培することができないとの説明をせず,芥子などの禁制
品以外は何でも生産することができるとの説明をし,同席していた被告職
員はこれに異議を述べなかったことはおおむね認める。
しかしながら,原告ら自らが作成した本件農業経営改善計画には,本件
農地において,大豆等の栽培といった畑作を行うと記載されているから,
本件農業経営改善計画を前提とすれば,本件農地において米の作付けをす
ることができないことは,当然,原告らも認識していたのであり,被告が
あえて説明するまでもないことである。
また,被告は,原告らが平成17年5月に本件農地において米の作付け
をするまでの間,原告らに対し,本件農地において米を作付けしてはなら
ないとの意思表明をしている。
イ原告らが,本件農地における大豆等の畑作により,10アール当たり8
5万円の割合による購入資金の借入れの返済をするにつき困難が生ずるこ
とは予想されたが,本件農業経営改善計画は,原告らの特段の営業努力で
その計画を実現しようとするものであり,その計画自体は,法12条4項
所定の認定要件を満たしていたから,大潟村長は,それを適当として認定
したものである。
そして,認定農業者が目標達成のために自助努力すべきであるが,行政
に営農の指導等を求めるのであれば,まず,自己の経営の現状と課題を明
らかにすべきであるのに,原告らが被告に提出した経営状況に関する資料
は,行政が指導できる内容のものではなく,真剣に経営を検討しているも
のとは到底いえるものではなかった。また,本件農業経営改善計画の実現
が難しい状況になったのであれば,原告らが法の規定に基づき,同計画の
変更を申し出るべきであり,原告らもそのことを認識していたのに,変更
の申請をすることなく,本件農地に米を作付けした。
ウ以上のとおり,本件処分が,行政上の信義則に反するとの原告らの主張
は,失当である。
()公平原則違反の有無(争点())44
(原告らの主張)
大潟村長により農業経営改善計画が適当であるとの認定を受けた認定農業
者の数は,平成16年及び同17年においては215名,平成18年におい
ては228名であるところ,このうち,平成16年においては9名(原告ら
を除く,平成17年及び同18年においては各11名(原告らを除く)。)。
が,生産調整に参加していない。
農業経営改善計画が適当であるとの認定は,申請者が生産調整に参加する
ことを当然の前提とするものであるから,生産調整に参加しないことは,農
業経営改善計画違反に当たる。それにもかかわらず,大潟村長は,原告ら以
外の生産調整に参加していない認定農業者につき,その農業経営改善計画の
取消しはおろか,是正指導すら行っていない。
このことに照らせば,大潟村長が原告らの農業経営改善計画の認定のみを
取り消した本件処分は,公平原則に反するというべきである。
(被告の主張)
大潟村の認定農業者の中に,大潟村長により認定された農業経営改善計画
に反する営農を行っている者が存在することは認める。
しかしながら,被告は,上記のような認定農業者に対し,各種説明会にお
いて,生産調整に参加することを求めるなどの説明等の措置を講じている。
また,原告らは,本件農地において畑作をすることを前提として,本件農
業経営改善計画の認定を受けて,○○資金による融資を受けて,本件農地を
購入しておきながら,本件農地において,米の作付けをし,被告を含む関係
各機関からの是正指導にも従わず,これを継続しているのであるから,原告
らの農業経営改善計画違反の程度は著しい。
したがって,原告らに対する本件処分が,公平原則に反することはない。
第3争点に対する判断
1認定事実
当事者間に争いがない事実,又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以
下の事実が認められ,後記2で補足するほかは,この認定を覆すに足りる証拠
はない。
()本件農地購入に至る経緯1
ア本件農地は,A連が所有し,採草牧草地及び一部畜舎用地として使用し
ていたが,A連は,平成10年7月ころから,その経営破綻にともない,
本件農地を売却して負債を処理しようとしていた。
平成12年10月ころ,適切な使用を期待できない団体が本件農地の取
得を試みているとの情報が被告にもたらされたことがきっかけとなり,大
潟村長及びB農業協同組合(以下「B農協」という)代表者が,同月2。
5日付けで,秋田県知事に対し,本件農地を畜産振興に資する利用をする
よう求める陳情をするに至った(甲9,58,原告有限会社C代表者D。
本人)
Dは,平成11年ころから,A連の債権者である株式会社E銀行(以下
「E銀行」という)などから,本件農地の購入を打診されていたが,そ。
の取得には至らなかった(甲56,58,証人F,D本人)。
なお,A連による本件農地の売却が検討されていた当時,秋田県は,A
連の負債処理のために本件農地を適正に処分したいとの意向に加え,本件
農地を秋田県の模範となるような大規模畑作営農のモデル地区にしたいと
の意向を有しており,被告もまた同様の意向を有していた。他方,Dは,
大潟村の将来のために本件農地が不適切な団体等に取得されることを防が
なければならず,そのために本件農地の売却に協力することへ使命感を抱
いており,これは秋田県や被告の上記意向と合致するものであった(甲。
58,証人G,D本人)
,,,イA連は本件農地の売却先を公募することにし平成14年2月27日
α内の農業者を対象として,本件農地の売却に関する説明会を開催した。
同説明会の開催を知らせる書面には,譲渡条件として,土地価格を10
アール当たり85万円とすること,購入する際に,農地保有合理化事業及
びH公庫(以下「公庫」という)による○○資金が活用可能と考えられ。
る旨記載され,同日の説明会に使用された書面にも,譲渡条件として上記
のとおりの価格によることが記載されていた(甲9)。
A連担当者は,上記説明会において,本件農地の売却価格につき,上記
各書面に記載されているとおりの価格による旨説明し,参加者からの「本
件農地において米を作ってはいけないのか」との質問に対し「大麻と芥,
子は作ることができないが,あとは何を作ってもいい」との回答をした。
(甲56,58,証人F,D本人)
ウDは,上記説明会の後,大潟村助役G及びB農協組合長Iとともに,本
件農地を10アール当たり85万円の割合による価格で購入し,その代金
の借入れを返済しながら,本件農地において畑作の営農を行う方法を検討
し,J公社による農地保有合理化事業を利用する計画を立案した。その計
画内容は,J公社が本件農地を購入し,その後の5年間につき低料金で畑
作希望者に対し本件農地を細分化して貸し出し畑作を行い,本件農地にお
ける営農の基盤を確立し,5年を経過した後に,営農者が本件農地を購入
するというものであった。この計画を実現すべく,平成14年3月8日,
Dが代表者となり,主にαの農業後継者など(法人である原告の代表者及
。),。び個人である原告らを含むを構成員としてKが設立されるに至った
(甲9,56,58,60,証人F,証人G,証人I,D本人)
,,,そしてDらによる大潟村などの関係機関への働きかけによりA連は
Kを,本件農地の売却交渉先にすることとし,平成14年3月28日,K
及びその主だった構成員との間で,本件農地の売却に関する覚書を交わし
た。同覚書には,K以外とは本件農地の売却交渉を行わないこと,本件農
地の売却を平成15年2月末日までに行うこと,本件農地本体の価格を1
2億8150万4200円とすること,双方が,その責めに帰すべき事由
により,相手方に損害を与えたときは,その損害を賠償する義務を負うこ
となどが定められていた(甲9)。
エしかし,上記計画の実現に向けた検討の過程で,J公社は,事業規模が
,,大き過ぎること5年間にわたり同公社が本件農地を保有することにより
国や県をあわせて1億7000万円の予算措置が必要であることなどの問
題点を指摘した上,本件農地の価格の下落による差損が生ずる可能性があ
り,これによるリスクを回避するために,関係農家と売買予約契約を締結
,,しその売買予約金額による売買代金の支払を担保する必要があるとして
K構成員に対し,担保の提供を求めた。これに対し,構成員らが担保の提
供などに難色を示したことから,農業公社による農地保有合理化事業を利
,。(,用して本件農地を取得する上記計画はとんざすることとなった甲9
58,証人G,D本人)
オDは,その後,新たな構成員を募り,原告らとともに,再び,本件農地
を取得する計画を検討し,本件農地において,付加価値の高い有機大豆を
栽培し,収穫した大豆により大豆粉を作るという計画を立案し,これを実
施することにした(甲58,D本人)。
()本件農業経営改善計画の認定等2
ア原告らは,本件農地を取得するに当たり,大潟村長による農業経営改善
,,計画の認定を受けて認定農業者となり公庫からの○○資金による融資で
,,,本件農地の購入資金を調達することとして平成14年10月それぞれ
被告に対し,農業経営改善計画の認定申請をし,大潟村長は,原告らに対
し,同月30日,法12条1項に基づき,各農業経営改善計画が適当であ
るとの認定をそれぞれ行った(乙2〔枝番号を含む)。。〕
イ大潟村長により適当であるとの認定がされた本件農業経営改善計画は,
原告らそれぞれにつき多少の相違はあるものの,おおむね,①○○資金
を利用して本件農地を取得して農業経営規模の拡大を図ること,②本件
農地において,大豆等の畑作を行うこと,③本件農地で大豆等の畑作を
,。行うことにより米の生産調整に参加することを内容とするものであった
(乙2〔枝番号を含む)。〕
,,,,ウまた原告らは公庫等に対し経営改善資金計画書をそれぞれ提出し
公庫から,本件農地の購入資金として,○○資金による借入れを行い,平
成15年2月,本件農地をそれぞれ取得した。上記借入れの返済について
は,平成17年までは据え置かれ,平成18年12月から開始されるとの
約定が付されていた。
エ原告ら及び被告は,本件農業経営改善計画に従って本件農地で大豆等の
栽培による畑作を行うことによっても,○○資金による借入れを返済して
いくことがなんとか可能であるとの認識を有していた(甲56,58,。
証人F,証人G,D本人)
()本件農地における米の作付けに至る経緯3
ア原告らは,各自の事情により,多少異なるものの,平成15年及び同1
6年において,本件農地で,大豆等の栽培を行う畑作を行った。
イしかし,平成15年度においては,長雨が続いたために,播種した大豆
が発芽不良となり,収穫された大豆の品質が悪く,当初の計画による加工
の対象とすることもできなかったため,原告らは,本件農地における営農
から利益をあげることができず,かえって,多額の経費分の赤字が生ずる
こととなった(甲56,58,証人F,D本人)。
そのため,原告らの農業経営の悪化を懸念した公庫L支店長が,Dに対
し,加工用米の作付けを提案したことから,原告らは,秋田農政事務所及
び秋田県に対し,平成16年3月,本件農地において加工用米の作付けを
行いたい旨の申入れをした。しかし,秋田県は,原告らに対し,平成16
年度の加工用米の作付けを断念するよう要請したため,原告らは,これを
諦めることにした(甲58,D本人)。
なお,加工用米とは,地域における米の需給調整に関する方針と整合す
ることを前提に,主食用米の需給バランスに影響を与えることなく,確実
に加工用途に使用されると認められる場合,すなわち,生産年の前年の1
,,,1月末日までに取組計画を作成し当該計画につき所管行政庁において
加工用米の生産予定数量が適切に設定されていること及び需要先との流通
契約に基づき加工用途に確実に使用されると認められること等の認定基準
に照らし適当と判断された場合に認定が行われ,その作付けによる米の生
産調整への参加が許されるものである(甲16,乙23)。
ウ原告らは,平成16年も,本件農地において大豆等の栽培による畑作を
行った。しかし,同年8月の台風による塩害が原因となり,大豆が壊滅的
な被害を受け,原告らは,平成15年に続き,本件農地における大豆等の
栽培から利益をあげることができず,多額の損失が生ずるに至った(甲。
56,58,証人F,D本人)
エそのため,原告らは,平成17年度に,本件農地において,加工用米と
の名目で,米の作付けを行った。
()本件処分に至る経緯4
ア原告らが本件農地において米の作付けを行ったことに対し,大潟村議会
は,平成17年5月20日,これを非難する決議をするとともに,原告ら
が本件農地取得につき被告から利子補給を受けていることを問題視したこ
とから,原告らは,同月24日,平成15年度,同16年度に供給された
利子全額を返還した。原告らは,それと同時に,大潟村長,秋田県及び秋
田農政事務所に,加工用米の作付けを申し入れるとともに,その認定手続
の教示を求めたところ,秋田農政事務所長は,これに対し,加工用米の認
定を受けるには,前年の11月末日までに加工用米取組計画を作成して提
出する必要があり,また,加工用米の作付けに当たりLにおける十分な協
議を経る必要があるとして,原告らの本件農地における米の作付けについ
ては,前記いずれの手続きも踏んでいないことを理由に平成17年度にお
ける加工用米の認定をすることができないとの回答をした。そこで,原告
,,,らはLに対し本件農地における加工用米の作付けへの合意を求めたが
Lはこれに合意しなかった(甲14∼16,58,D本人)。
原告らは,本件農地で栽培した米を収穫して販売したが,その販売先を
公表することはなかった。
イ原告らは,平成18年度も,本件農地において米の作付けを行うことに
し,秋田農政事務所長に対し,平成17年11月17日,加工用米取組計
画を提出し,その認定を求めたが,同所長は,原告らに対し,加工用米の
作付けに関しLから合意を得ることを指導した。そのため,原告らは,本
,,,件農地における加工用米の作付けに関し再びLに合意を求めたがLは
同月22日,これを認めない方針を決定した。これを受けて,原告らは,
同月24日,29日の二度にわたり,秋田農政事務所長に対し,加工用米
,,,取組計画を提出したがいずれもLの合意が得られていないとの理由で
受理されなかった(甲19∼25,58,D本人)。
ウ大潟村長は,原告らに対し,平成17年12月20日及び平成18年1
月6日,本件農地において,本件農業経営改善計画に沿った営農を行うこ
とを求めるとともに,平成18年度の原告らの営農計画の提出を求め,原
告らは,これに対し,本件農業経営改善計画について,本件農地において
奨励金の付かない大豆等の畑作を行うことにより,同農地の購入資金の借
入れの返済をすることは不可能で,上記計画は客観的に不可能なものであ
り,被告が上記計画に沿った営農を求めるのであれば,上記借入れを返済
し得る利益を実現する営農を指導すべきであるとの回答をした。また,原
告らは,秋田県知事に対しても,同様に,本件農地において本件農業経営
改善計画に従った営農の指導を求めた(甲26∼32,58,D本人,。
証人M)
エDは,秋田農政事務所長に対し,平成18年2月3日,αのその他の営
農者を募り,本件農地を除くαの農地において,2700tの加工用米を
作付けすることを内容とする加工用米取組計画を申請したが,同所長は,
申請期限を徒過しているとして,これを受理しなかった。また,Lも,上
記計画に合意しなかった(甲36,40,42,58,D本人)。
原告らは,大潟村長に対し,同年2月20日,3月31日,本件農地に
おいて大豆等の栽培を行うことを前提とした経営収支の試算を提出し,そ
れによれば,本件農地における大豆作によっては,同地購入資金の借入れ
の返済が難しいことを重ねて訴え,本件農地における営農に関する指導を
重ねて求めた(甲35,43,58,D本人)。
そして,原告らは,公庫L支店長に対し,同年4月18日,本件農地に
おける本件農業経営改善計画に沿った営農を行うにつき被告から営農指導
を受けられないとして,本件農地における作付品目を,大豆等の畑作から
稲作に変更することを申し入れた上,同年度も,本件農地において,米の
作付けを行った(甲43,44,58,D本人)。
()本件処分5
ア大潟村長は,本件農業経営改善計画の内容が本件農地を取得して同農地
において大豆等を栽培する畑作経営を行うというものであるのに,原告ら
は,本件農地において,平成17年及び同18年に,大豆の作付けを行わ
ず,米の作付けを行ったことについて,①原告らが本件農業経営改善計
画に沿った農業経営を行わなかったとして,また,②公庫等に提出した
経営改善資金計画に沿った営農が行われておらず,③A連から本件農地
を取得する際の農地利用集積計画の所有権移転の内容に反するものである
として,本件農業経営改善計画の認定取消処分を行うこととした(甲1。
∼8,証人M)
イ聴聞手続
大潟村長は,認定取消処分に先立ち,行政手続法13条1項1号イに基
づき,聴聞手続を実施することとし,平成18年6月7日,同手続は,原
告らそれぞれを対象として,同法20条の規定に従った手続で行われ,聴
聞調書及びその報告書は,同月12日付けで大潟村長に提出された(乙。
3,証人M)
ウ本件処分
大潟村長は,法12条の2第2項に基づき,別紙2認定一覧の対象者欄
記載の各原告らに対し,平成18年6月15日付けで,別紙2認定一覧の
認定欄記載の本件農業経営改善計画の各認定をそれぞれ取り消すとの処分
(本件処分)をした。
本件処分は書面(甲1∼8)により行われ,この書面に記載されていた
本件処分の理由は,前記前提事実()アないしウのとおりであった。2
2事実認定の補足説明
前記1()エの認定に対し,原告らは,奨励金の付かない大豆栽培によって2
利益を上げることは不可能であって,本件農業経営改善計画がそもそも実現不
可能であり,このことを被告が認識していたと主張し,これに沿う証拠(甲1
2の1)もある。
この点,確かに,八郎潟中央干拓地入植農家経営調査報告書(甲12の1∼
3)によれば,αにおいては,奨励金が付されない大豆栽培では利益が生じな
いとされている。しかしながら,証拠(証人G)によれば,上記報告書は,あ
くまでもαにおける大豆作の平均値を示したものにすぎず,原告らの中には1
0アール当たり420キロを収穫した実績がある者もおり,必ずしも奨励金が
付されない大豆栽培により利益が出ないものではないこと,被告もそのように
認識していたことが認められる。また,原告らは,前記認定事実のとおり,本
件農地で有機大豆等を栽培し,収穫した大豆を加工して付加価値をつけた上で
これを販売することを計画していたのであるから,原告らの収益は,単なる大
豆栽培に比較して,より多くの利益が見込まれるものであったことが認められ
る。これらの事情によれば,原告らのみならず,被告においても,本件農業経
営改善計画を前提とした営農であっても,原告らが,本件農地の購入資金の借
入れを返済していくことが何とか可能であると認識していたと認められ,この
認定を覆すに足りる適確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
3争点()(本件処分の理由提示の欠如)について1
()本件処分は,前記認定事実のとおり,書面でされた不利益処分であるか1
ら,処分行政庁である大潟村長は,その名あて人に対し,同時に,その不利
益処分の理由を書面により示さなければならない(行政手続法14条1項,
3項。)
一般に,法律が行政庁に対して行政処分に理由を提示することを義務付け
る場合に,どの程度の記載をすべきかは,処分の性質と理由の提示を命じた
各法律の規定の趣旨・目的に照らして判断すべきである(最高裁昭和36年
(オ)第84号同38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617
頁。そして,本件処分は不利益処分であるところ,行政手続法がこのよう)
,,な不利益処分について行政庁に書面による理由の提示を義務付けた趣旨は
行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,不
利益処分の理由を名あて人に知らせることによって,その不服申立ての便宜
を与えるという点にあると解すべきであるから,不利益処分を行う際に提示
をしなければならない理由の記載の程度は,いかなる事実関係に基づいてい
かなる法規を適用して当該処分を行ったのかということを,処分の名あて人
が,その書面の記載自体から了知し得るものでなければならないというべき
である。
()これを本件につきみるに,本件処分の理由を提示する書面(甲1∼8)2
に記載されている本件処分の理由は,前記前提事実()のとおり,①認定2
農業者として自ら作成した農業経営改善計画に従って農業経営を改善するた
めにとるべき措置を講じていないこと,②経営改善資金計画に沿った営農
が行われていないこと,③畑作経営を前提として取得したβ地区(旧A連
用地)の農地において,計画に沿った営農が行われていないことが法12条
の2第2項の規定による本件農業経営改善計画の認定取消事由に当たるとい
うものであった。
この点,①の記載は,農業経営改善計画の認定取消処分の根拠規定である
法12条の2第2項の条文の文言を記載したものにすぎないものの,これを
③の記載と併せて読めば,大潟村長が,本件農地において畑作が行われてい
ないことに関し,本件農業経営改善計画に反するものと判断し,原告らが同
計画に従って農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと評価
したと容易に解することができるのであるから,原告らにおいても,その旨
了知し得る程度の記載がされていると認めることができる。そうすると,本
件処分に提示された理由は,本件農地において畑作が行われていないことに
関し,法12条の2第2項を適用して本件処分を行ったということを,処分
の名あて人である原告らが,その書面(甲1∼8)の記載自体から了知し得
るということができる。
したがって,本件処分の理由の提示について,行政手続法14条1項及び
3項が行政庁に義務付ける理由提示義務に違反する違法があるとはいえな
い。
4争点()(事実誤認〔法12条の2第2項が定める農業経営改善計画の認定2
の取消事由の有無)について〕
()前記認定事実によれば,本件農業経営改善計画は,原告らそれぞれにつ1
き多少の相違はあるものの,おおむね,目標を達成するためにとるべき措置
,,として①○○資金を利用して本件農地を取得して規模の拡大を図ること
②本件農地において,大豆等の畑作を行うこと,③本件農地で大豆等の
畑作を行うことにより,米の生産調整に参加することを内容とするものであ
ったところ,原告らは,平成17年及び同18年に,本件農地において,大
豆等の栽培といった畑作をせず,米の作付けを行った。そのため,大潟村長
は,原告らが本件農地において大豆の作付けを行わず,米の作付けを行った
ことにつき,上記計画に反し,法12条の2第2項が取消事由とする「認定
計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと
認めるとき」に該当するとして,同条項に基づき,本件農業経営改善計画の
認定を取り消す本件処分を行った。
,,,,これに対し原告らは本件農地に作付けした米は加工用米でありまた
畑作を行う意思を放棄しておらず,一時的な作付けにすぎないとして,本件
農地において米を作付けしたことが本件農業経営改善計画の認定取消事由に
当たらないと主張するから,以下,どのような場合が,法12条の2第2項
が定める経営改善計画認定の取消事由である「認定計画に従ってその農業経
営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めるとき」に該当する
のかにつき検討する。
法は,効率的かつ安定的な農業経営を育成し,そのような農業経営が農業
生産の相当部分を担うような農業構造を確立することが重要であるとの認識
の下,農業の健全な発展に寄与することを目的として,育成すべき効率的か
つ安定的な農業経営の目標を明確にし,その目標に向けて農業経営の改善を
計画的に進めようとする農業者に対する農用地の利用の集積,このような農
業者の経営管理の合理化その他の農業経営基盤の強化を促進するための措置
を総合的に講ずるものとし(法1条,そのような措置は,農業者が地域の)
農業の振興を図るためにする自主的な努力を助長することを旨として実施す
ることとしている(法3条。それと同時に,法は,市町村が農業経営基盤)
強化促進に関する基本構想を定めることができるものとし(法6条,市町)
村は,農業経営改善計画の認定申請につき,当該計画が上記基本構想に照ら
し適切なものであり,農用地の効率的かつ総合的な利用を図るために適切な
ものであるなどの要件に該当する場合には,適当である旨の認定をすること
とされている(法12条1項,4項。認定農業者は,農地法や課税の特例)
を受けることができ,公庫から資金貸付けについて配慮がされるなどの優遇
措置が設けられている(法13条の3,15条等。ただし,課税の特例につ
いては,本件処分時においては法14条が定められていたが,その後,平成
19年法律第3号により同条が削除されるとともに,租税特別措置法〔昭和
32年法律第26号〕24条の2以下が定められるに至った。他方で,。)
法は,認定農業者に,農業経営改善計画の変更の際に,市町村の認定を受け
ることを義務付け(法12条の2第1項,市町村は,認定された農業経営)
改善計画が法12条4項各号が定める認定要件に該当しないものと認められ
るに至ったとき,又は認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとる
べき措置を講じていないと認めるときに,農業経営改善計画の認定を取り消
すことができるとしている(法12条の2第2項。)
以上の諸規定に照らせば,法は,効率的かつ安定的な農業経営が農業生産
の相当部分を担う農業構造を確立するため,この法の目的に沿い,かつ,地
域における実情を反映した,効率的かつ安定的な農業経営を実現するための
明確かつ具体的な目標(基本構想)を各市町村が設定し,この目標を計画的
に進めようと自主的な努力をする農業者に農用地の利用の集積をするととも
に経営の合理化等の農業経営基盤を強化する措置を講ずることとして,その
方策として,様々な優遇措置を受けられる認定農業者制度を創出したという
ことができるから,法12条の2第2項が,市町村が農業経営改善計画の認
定を取り消すことができるとした趣旨は,認定農業者自らが設定した効率的
かつ安定的な農業経営を実現する計画の履践を担保するとともに,優遇措置
を効率的かつ安定的な農業経営を目指して努力する者に集中させ,もって,
各市町村が定めた効率的かつ安定的な農業経営を実現する目標を達成するこ
とを通じて,法が定める目標を実現する点にあると解することができる。そ
うすると,法12条の2第2項が定める認定取消事由である「認定計画に従
ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認めると
き」に該当するか否かは,当該認定農業者の具体的な営農方法等につき,農
業経営改善計画との乖離が,市町村が定める効率的かつ安定的な農業経営を
実現するための目標及び認定農業者自らが定めた農業経営改善計画に照ら
し,上記認定農業者制度の趣旨に反する程度に至っているか否かにより判断
すべきと解するのが相当である。
これを本件につきみるに,証拠(乙1,20)によれば,平成12年度及
び平成16年度に策定された大潟村における農業経営基盤強化の促進に関す
る基本構想では,農業経営基盤強化促進に関する目標として,水稲単作の農
業経営を行い,生産調整を実施しない農家が半数を占めるとの現状を示し,
米だけに依存した生産構造から足腰の強い複合的な生産への再編を図る必要
性から,田畑複合経営の確立に努めることを最重要課題に掲げ,圃場の規模
拡大や生産技術の向上により高効率生産,コスト削減を図るとともに,稲作
とより収益性の高い作物を組み合わせて複合経営を推進するなどの営農方向
を定め,法12条の農業経営改善計画の認定については,生産調整を考慮し
ている経営改善計画を認定するものとしていることが認められる。そうする
と,大潟村は,法が定める効率的かつ安定的な農業経営を実現する具体的目
標の達成手段として,生産調整を考慮することを前提に,水稲単作から田畑
複合経営に移行するとともに,収益性の高い作物の栽培や大規模かつ効率的
な経営を行うことを定めているということできる。前記のとおり,原告らの
,,本件農業経営改善計画において目標を達成するためにとるべき措置として
本件農地を取得して農地の大規模化を図るとともに,本件農地において有機
大豆等の畑作を行い,生産調整に参加するというものであるから,上記の大
潟村の基本構想に照らし適切なものであるということができる。ところが,
原告らは,本件農地において,平成17年及び同18年に,大豆等の栽培に
よる畑作を行わないで,米の作付けを行ったのであるから,原告ら自らが作
成した本件農業経営改善計画の目標を達成するためにとるべき措置として記
載されていた大豆等の栽培による畑作が行われていないばかりか,生産調整
に関する考慮もされておらず,また,水稲単作から田畑複合経営に移行する
ことを最重要課題とし生産調整を考慮する者につき法12条の認定を行うと
の上記基本構想に反するということができる。これらのことに照らせば,原
告らが本件農地において大豆等の畑作を行わず米を作付けしたことにより生
じた現実の営農と本件農業経営改善計画との乖離は,法が定める効率的かつ
安定的な農業経営を実現するために市町村が基本構想を設定し,この目標を
計画的に進めようと自主的な努力をする農業者に農用地の利用の集積をする
とともに経営の合理化等の農業経営基盤を強化する措置を講ずるとの認定農
業者制度の趣旨に反する程度に至っているものといわざるを得ない。
そうすると,原告らが本件農地において,平成17年及び同18年に,大
豆等の栽培による畑作を行わず米の作付けを行ったことは,法12条の2第
2項が定める「認定計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措
置を講じていないと認めるとき」に該当するということができ,原告らにつ
いて,本件農業経営改善計画の取消事由があると認められる。
()これに対し,原告らは,上記のとおり,本件農地において作付けされた2
米は加工用米であるから,本件農地における米の作付けは,法12条の2第
2項が定める取消事由に当たらないと主張する。
しかしながら,前記認定事実のとおり,原告らが本件農地において作付け
した米は,秋田農政事務所長からの加工用米認定を受けずに生産されたもの
で,所管行政庁の認定を受けた加工用米に当たらないことは明らかである。
また,上記の作付けにあたりLの合意も受けていないことに照らせば,原告
らが加工用途と主張する本件農地における米の作付けが,大潟村における米
の需給調整に関する方針と整合しているとも認められない。さらに,原告ら
は,本件農地で収穫された米の販売先も明らかにしていないのであるから,
原告らが作付けした米が実質的にも加工用米として所管行政庁の認定を受け
得るものであると認めることもできない。
なお,付言するに,原告らの上記主張は,所管行政庁の認定を受けていな
くとも,作付けした米が実質的な加工用米であれば,本件農業経営改善計画
における目標を達成するためにとるべき措置を講じていないことにはならな
いことを前提とするものと解されるところ,原告らが作付けした米が実質的
に加工用米であると認められないことは上記のとおりであるし,原告らの農
業経営改善計画は,有機大豆等を栽培し,その栽培技術を確立するとともに
その流通を確保するなどして経営基盤を強化して効率的かつ安定的な農業経
営を実現することをその内容としているのであり,単に生産調整に参加する
ことを目的としているわけではない。すなわち,仮に,原告らが作付けした
米が実質的に主食用米の需給バランスに影響を与えないものであっても,原
告らは,上記のとおり,農業経営改善計画の中で大豆等の畑作による経営基
盤の強化を行うとしているのであって,加工用米の作付けを行うとはしてお
らず,したがって,加工用米の作付けが大潟村の基本構想に照らして適切で
あるかに関する被告の審査・認定も受けていないのであるから,大豆等の栽
培による畑作を行わずに加工用米の作付けを行うことについて,本件農業経
営改善計画に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じてい
ないと評価すべきことには変わりがない。
したがって,原告らの上記主張は,そもそもその前提を欠くものといわざ
るを得ない。
,,,また原告らは未だ本件農地において畑作を行う意思を放棄しておらず
本件農地における米の作付けは,一時的なものにすぎないから,法12条の
2第2項が定める取消事由に当たらないとも主張する。
この点,確かに,原告らの主張するとおり,本件農業経営改善計画と一時
的に異なる営農がされているにすぎない場合には,法12条の2第2項が定
める取消事由には当たらないと解する余地がないわけではない。
しかしながら,前記認定事実のとおり,原告らは,本件農地において2年
間にわたり米の作付けをしており,被告をはじめとする関係機関により再三
にわたり米の作付けを行わないよう勧告されているにもかかわらず,米の作
,,,付けを強行しているのでありこの事情によれば本件処分の時点において
原告らは本件農地において将来的にも継続的に米を作付けする相当強固な意
。,,,思を有していたものと推認されるまた前記認定事実のとおり原告らは
米の作付けをした当時には,本件農地において大豆等の栽培による畑作を行
って土地購入代金の借入れの返済をしていくことは困難・不可能であると認
識に変化が生じているのであるから,この借入れの返済をするには加工用米
の作付けが必須であると考えていたと推認できる。これらの事情を考慮すれ
ば,仮に,原告らが本件農地において,畑作を行う意思を放棄していないと
しても,本件農業経営改善計画における目標を達成するためにとるべき措置
の範囲内の畑作に回帰するには,なお相当の期間が必要となるものと認めら
れる。
そうすると,本件処分時において,すでに2年間にわたり,本件農業経営
改善計画における目標を達成するためにとるべき措置が講じられていない状
況が継続し,かつ,それ以降も相当の期間にわたり,その状況が継続するこ
とが予測される以上,本件農地における米の作付けが一時的なものとは認め
難い。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
()ところで,原告らは,本件農業経営改善計画は,本件農地の購入代金の3
借入れの返済に窮するような場合には,本件農地において米の作付けをする
ことを留保するものであったから,本件農地における米の作付けは,本件農
業経営改善計画の範囲内のものであり,法12条の2第2項の取消事由には
当たらないとも主張する。
なるほど,証拠(甲56,乙2の5,証人F)によれば,原告Nの農業経
営改善計画認定申請書(乙2の5)の生産方式の合理化の目標のうち作目・
部門別合理化の方向欄に,目標として借入金の返済ができる限り政策に準じ
た営農を目指すと記載されており,この記載は,原告Nの父で,N家の実質
的農業経営者であるFがしたものであり,Fは,本件農地で大豆等の栽培に
よる畑作を行うことによる同農地の購入代金の借入れの返済に不安を感じて
いたことから,大豆等の栽培による畑作によって借入れの返済ができない場
合には,本件農地において米を作付けすることを留保すべく,上記記載をし
たものと認められる。
しかしながら,原告Nの農業経営改善計画認定申請書(乙2の5)のその
他の記載をみるに,上記計画は,○○資金による借入れにより本件農地を購
入し,本件農地において有機大豆等の栽培による畑作を行い,効率的かつ安
定的な農業経営を実現することを内容としている。また,上記申請書の上記
内容を前提とすれば,借入れの返済ができる限り政策に準じた営農を目指す
との記載がされていたとしても,これが生産方式の合理化の目標欄に記載さ
れていることや上記記載が一義的に米の作付けを留保するものと解すること
ができる表現がされているということができないことに照らせば,上記のよ
うな記載をしたFの内心の意図はどうであれ,上記計画の認定をする際に,
大潟村長が,原告Nの本件農業経営改善計画が条件付きで米の作付けを留保
するものと認識することができるとは認め難い。
また,農業経営改善計画が市町村の基本構想に適することが同計画の認定
要件とされるところ,被告の基本構想は,水稲単作の生産構造を脱し,田畑
複合経営の確立をすることを最重要課題に掲げ,法12条の農業経営改善計
画の認定については生産調整を考慮している計画を認定するものとしている
ことに照らせば,大潟村長は,原告Nの農業経営改善計画が本件農地におけ
る米の作付けを条件付きで留保するものであると認識していれば,上記基本
,,構想に適合せず認定要件を欠くものとして認定を行わないはずであるから
原告Nの申請に係る農業経営改善計画につき,Fが本件農地における米の作
付けを留保することを意図していたとしても,大潟村長が,本件農地におけ
る米の作付けを条件付きで留保して原告Nの農業経営改善計画を認定したも
のと認めることはできない。また,その余の原告らについては,そもそも認
定申請書に,本件農地における米の作付けを条件付きで留保する旨の記載は
されていない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
()なお,原告らは「認定農業者制度の運用改善のためのガイドラインに4,
ついて」と題する農林水産省経営局長通知(乙26。以下「ガイドライン」
という)は,法12条の2第2項の定める取消事由として,そもそも認定。
された農業経営改善計画を実施しなかったり,認定された同計画に明らかに
逆行する行動をとった場合を例示しており,ガイドラインは不測の事態が発
生して同計画が実行できなくなった場合に認定の取消しをすることを想定し
ておらず,原告らは2年間にわたり本件農地で本件農業経営改善計画に従っ
て大豆等の栽培による畑作を行ったが不測の事態により同計画を実行するこ
とができなくなったのであるから,このような原告らにつき同計画の認定を
取り消すことは,ガイドラインに違反するものであると主張する。
この点,ガイドラインは,法12条の2第2項による認定の取消しを想定
する例として,①農業経営改善計画の認定後,相当期間,農産物の販売実
績がない場合,②経営改善のためにとるべき措置として規模拡大を農業経
営改善計画に記載している場合で,代替地の取得等の見込みがないにもかか
わらず,経営規模を縮小している場合,③経営改善のためにとるべき措置
として土地利用型から施設型等営農類型の転換を農業経営改善計画に記載し
ている場合で,農業経営改善計画の認定後相当期間が経過したにもかかわら
ず,営農類型の転換に向けた具体的な取組がされていない場合を掲げている
ところ,原告らのように,農業経営改善計画において,経営改善のためにと
,,,るべき措置として本件農地を取得し同農地において大豆等の畑作を行い
生産調整に参加することを記載している場合で,2年間にわたり同計画に従
った営農を行ったものの,その後米の作付けをしたような場合については明
示的に言及されていない。
しかしながら,ガイドラインは,法12条の2第2項による認定の取消し
を想定する場合,すなわち,前記の認定農業者制度の趣旨に反する場合を例
示したものにすぎず,ガイドラインに例示されていない場合における認定の
取消しを何ら制限するものではない。
そして,原告らが本件農地において平成17年及び同18年に大豆等の栽
培による畑作を行わず米の作付けを行ったことは,認定農業者制度の趣旨に
反し,法12条の2第2項が定める認定取消事由に当たると判断すべきこと
は,前記のとおりである。
そうすると,本件処分にガイドライン違反があるとはいえず,原告らの上
記主張は,失当であるといわざるを得ない。
()以上のとおり,原告らが本件農地において,大豆等の栽培による畑作を5
行わず,米の作付けをしたことは,法12条の2第2項が定める「認定計画
に従ってその農業経営を改善するためにとるべき措置を講じていないと認め
るとき」に当たるのであるから,本件処分について,原告らの主張する事実
誤認の違法はない。
5争点()(行政上の信義則違反・法の目的違反の有無)について3
()原告らの主張は,要するに,被告が,自ら基本部分の策定に関与した本1
件農業経営改善計画の実現可能性に関する判断を誤って同計画を認定した
か,又は同計画に沿った営農により借入金の返済が困難であることを認識し
ながら同計画を認定しておきながら,同計画に沿った営農をすることが経営
上不可能であることが明らかになっても,同計画に沿った営農を行うことを
求めるのみで,法が義務付ける営農指導や代替計画の提示を行わずに,本件
農業経営改善計画の認定を取り消した本件処分は,A連による本件農地の売
却につき被告の意向を汲んで原告らが本件農地を取得した経緯を被告が認識
していたことや被告が本件農地で米を作付けしてはならないことを原告らに
説明しなかったことなどの事情を考慮すれば,信義則又は法の目的に反する
との主張と解される。
()本件農業経営改善計画認定の際の事情2
まず,本件農業経営改善計画の認定の際に,被告が,同計画に沿った営農
により借入金の返済が不可能であることを認識しながら同計画を認定したと
の事実は認められないことは前記判断のとおりであり,これと同旨の事実を
前提とする原告らの主張部分は,その前提を欠くといわざるを得ない。
すなわち,前記認定事実のとおり,原告らのみならず,被告においても,
本件農業経営改善計画の認定の際,本件農地で大豆等の栽培を行い本件農地
の購入資金の借入れを返済していくという農業経営が一応可能であるとの認
識を有していたものの,原告らは,平成15年,同16年における天候不良
や台風による塩害といった自然災害による不作を契機に,本件農地において
奨励金の付かない大豆等の栽培による畑作を行うことにより同農地の購入資
金の借入れを返済していくことは困難であると認識を変えるに至ったもので
ある。
結局,被告が,本件農業経営改善計画の実現可能性の判断を誤ったことを
認めるに足りる適確な証拠はないといわざるを得ない。
()本件農地の取得経緯3
原告らは,本件農地の取得経緯を信義則適用の根拠として主張するから,
この点につき検討する。
ア本件農地の取得経緯は,前記認定のとおりであるところ,これを要約す
ると以下のとおりとなる。
A連による本件農地の売却が検討されていた当時,秋田県は,A連の負
債処理のために本件農地を適正に処分したいとの意向に加え,本件農地を
秋田県の模範となるような大規模畑作営農のモデル地区にしたいとの意向
を有しており,被告もまた同様の意向を有していた。他方,Dは,大潟村
の将来のために本件農地が不適切な団体等に取得されることを防がなけれ
ばならず,そのために本件農地の売却に協力することへ使命感を抱いてお
り,これは秋田県や被告の上記意向と合致するものであった。A連は本件
農地を公募により売却することにしたが,Dらが関係機関へ働きかけたこ
とにより,DらとA連との間で,原告らを独占的な交渉相手とする覚書が
交わされた。この覚書には,Dらが本件農地を取得するに至らなかった場
合の損害賠償条項が設けられていた。Dらは,農地保有合理化事業を利用
,,,して本件農地を取得する計画を立案しその後これがとんざしたものの
損害賠償を求められることを防ぎたいという思惑もあり,農業経営改善計
画の認定を受けて○○資金により本件農地を取得し,同農地で有機大豆等
を栽培し,これを加工して販売するという計画を立案して,本件農地を取
得した。なお,本件農地の価格は,A連の負債処理を目的として設定され
,。たもので大潟村の一般的な畑地の価格と比較すると割高なものであった
イ上記のとおり,原告らが多額の債務を負担して本件農地を取得し同農地
において大豆等の栽培による畑作を行うこととしたことは被告の意向に合
致していたものではあるが,原告らは,積極的に関係機関に働きかけて,
自らの意思で上記の計画を実行することを決定したのであって,被告が本
件農地の取得を原告らに要請したというものではない。
そして,被告が本件農業経営改善計画の枠組みの中で原告らが本件農地
において米を作付けすることを許容し,原告らもそのように認識していた
との事情も認められないことに照らし,原告らと被告との間で,本件農業
経営改善計画の枠組みの中で,本件農地において大豆等の栽培による畑作
を行わず米の作付けをすることを許容するとの信頼関係が存したと認める
こともできない(なお,付言するに,前記認定・判断のとおり,本件農。
地において大豆等の畑作を行わず米の作付けをすることは,大潟村が定め
る基本構想に抵触する上,認定農業者制度の趣旨にも反するものとして法
12条の2第2項が定める認定取消事由に当たることに照らすと,上記の
ような信頼関係に従って行政を運営するのは,法の目的に反する便宜供与
にほかならないのであるから,原告らが本件農地の取得のために多額の債
務を負担したことをも考慮しても,上記のような信頼関係なるものを法的
に保護することはできない)。
そうすると,本件農地の購入経緯に関する事情は,信義則の適用の基礎
を欠くといわざるを得ない。したがって,原告らの上記主張は,採用する
ことができない。
()計画策定への関与と営農指導等の義務4
原告らは,被告には本件農業経営改善計画の策定に深く関与しこれが実現
可能として認定を行った責任がある上,法が市町村に営農計画が実現できる
ように指導・助言するなどの協力をすることを義務付けていることからすれ
ば,見通しに誤りがあって本件農業経営改善計画を実行することが困難とな
った場合には,大潟村長は代替案を提示したり原告らと協議する法的義務が
あるのに,大潟村長がこれをせずに本件処分をした点が信義則に反するとも
主張する。
,,,,この点法は国及び地方公共団体の責務として国及び地方公共団体は
効率的かつ安定的な農業経営の育成に資するよう農業経営基盤の強化を促進
するため,農業生産の基盤の整備及び開発,農業経営の近代化のための施設
の導入,農業に関する研究開発及び技術の普及その他の関連施策を総合的に
推進するように努めなければならないとし(法2条,さらに,国,地方公)
共団体及び農業に関する団体は,認定計画の作成及びその達成のために必要
な経営管理の合理化,農業従事の態様の改善等のための研修の実施,経営の
指導を担当する者の養成その他の措置を講ずるように努めるものとするとし
ている(法16条。すなわち,法は,市町村の努力義務として,認定農業)
者がその農業経営の改善を実現するための環境整備をし,認定計画の作成及
びその達成のために必要な経営管理の合理化等に関する研修や指導を行うべ
きことを定めている。他方で,法は,市町村の定める効率的かつ安定的な農
業経営を実現するための目標に向けて農業経営の改善をしようと自主的な努
力をする農業者に経営基盤を強化する措置を講ずることとし,その方策とし
て認定農業者制度を創出したことに照らせば,個々の農業経営改善計画の内
容の作成に関し,市町村が,その基本構想に適合するように行政指導するこ
とを超えて,主体的に関与することまでは求めてはおらず,あくまでも,農
業経営改善計画の内容は,認定農業者となろうとする者が自主的に作成する
ものであって,市町村が同計画の作成に関し指導を行って同計画を認定した
としても,その認定は同計画の実現を確約するものではない。そうである以
上,認定された農業経営改善計画に従った営農を実現することが困難・不可
,,能であると認識するに至った場合は当該認定農業者が代替計画を作成の上
変更申請をすることが求められるのであって(法12条の2第1項,市町)
村は,この変更申請に係る農業経営改善計画に関し,基本構想に適合するよ
う指導することが求められているにすぎず,変更申請前の農業経営改善計画
を認定したからといって,上記の指導を超えて,実現可能な代替案を提示す
べき義務を負うことはないし,また,上記の変更申請なしに,市町村の側か
ら実現可能な代替案を提示すべき義務もまた負うことはないというべきであ
る。
これを本件につきみるに,原告らは本件農業経営改善計画の策定につき,
被告や秋田県が深く関与したと主張するものの,同計画の策定に関する被告
らの関与方法につき具体的な主張・立証はされておらず,そうすると,同計
画の策定に被告らが関与したとしても,その関与は,同計画が被告の基本構
想に適合するよう指導したことを超えたものとは認められない。そして,被
告は,原告らの本件農業経営改善計画を認定したものの,その認定をもって
同計画の実現を確約したということもできないのであるから,原告らが本件
農業経営改善計画に従った営農では農業経営が成り立たないと認識するに至
った場合であっても,被告は,実現可能な代替計画を提示する義務も負わな
い。
また,原告らは,本件農業経営改善計画を実現する営農の指導を求めたも
のの,被告がそのような指導をせず,同計画の変更申請の促しをしなかった
こともまた信義則違反に当たると主張する。
この点,確かに,前記認定事実のとおり,被告は,原告らに対し,本件農
業経営改善計画を実現する営農の指導を行わなかった。しかしながら,他方
で,原告らは平成15年度において大豆等の栽培が不作に終わった際に,本
件農業経営改善計画の実現に不安を感じ,本件農地における米の作付けを検
討し始めたのであるが,その際,原告らが,被告に対し,営農指導等を求め
るなどの相談をしたという事情はなく,また,平成17年度に本件農地で畑
作を行わず米の作付けを始める際にも,同様に,営農指導等を求めるなどの
相談をしたとの事情もない。すなわち,原告らが,被告に対し,明確に営農
指導を求めるに至ったのは,平成17年度の本件農地における米の作付けが
問題視された後のことであって,しかも,原告らは,本件農業経営改善計画
に反する米の作付けをしていたのにもかかわらず,作付けに係る米は加工用
米であって本件農業経営改善計画には反しないと繰り返し主張しつつ,営農
。,指導を求めていた原告らのこのような経緯・態様による営農指導の要請は
具体的な代替案を作成,提示してそれに関する被告の指導を求めるという法
,,,の枠組みに沿ったものではなくその枠組みを超えて被告に代替案の作成
提示を求めるものというべきである。そうすると,このような原告らの要請
に対し,被告が営農指導を行うとか変更申請を促すべき法的義務を負うとは
解し難いといわざるを得ない(また,原告らが被告に営農指導を求めるに。
至ったこのような経緯やその態様に照らせば,営農指導の要請は,被告にお
いて,原告らが本件農業経営改善計画に従った営農をする意思を有するかに
つき疑問を抱かせるものであったものと推認され,原告らにおいて,被告か
らの営農指導や変更申請の促しを受けることを信頼する前提を欠くというべ
きである)。
したがって,被告が原告らに対し,営農指導や本件農業経営改善計画の変
,,更認定の申請を促さなかったことにつき被告に法的な義務違反があるとか
これが信義則に反するということもできないから,原告らの上記主張は採用
することができない。
()本件処分の予測可能性5
原告らは,本件農地において米の作付けをしてはいけないこと及び米の作
付けをした場合に本件農業経営改善計画を取り消される可能性があることを
認識していなかったにもかかわらず,大潟村長が同計画を取り消す本件処分
をした点が信義則に反すると主張する。
しかしながら,本件農業経営改善計画は,目標を達成するためにとるべき
措置として,①○○資金を利用して本件農地を取得して規模の拡大を図る
こと,②本件農地において,大豆等の畑作を行うこと,③本件農地で大
豆等の畑作を行うことにより,米の生産調整に参加することを内容とするも
のであったのであり,本件農地において米の作付けを行うことはその内容と
されていないのであるから,米の作付けをすることが同計画の内容に反する
ことは明らかである。また,証拠(証人F)によれば,Fは,認定農業者と
なり,○○資金などの制度資金を利用する場合には,本件農地において,畑
作をすることが前提となり米の作付けをすることができないと認識していた
と認められ,原告らにおいても同様の認識を有していたものと推認される。
そうすると,上記主張はその前提を欠いているというべきである。
,,,なお原告らは平成14年2月のA連による本件農地売却説明会の際に
A連担当者が本件農地において芥子などの法禁物以外は作付けすることがで
きると説明したことをもって,原告らが本件農地における米の作付けが禁止
されないものと認識していたと主張する。しかしながら,上記説明は,本件
農地自体の制限として米の作付けが禁止されることはないという趣旨の一般
的な説明にすぎないことは明らかであって,また,前記内容の農業経営改善
,,計画の認定を受け○○資金による借入れにより本件農地を取得した場合は
本件農地において畑作をせずに米の作付けをすることが同計画の内容に反す
るのであるから,上記事情をもって,原告らが本件農地において米の作付け
をすることが同計画の内容に反しないという意味で米の作付けをすることが
できると認識していたと認めることはできない。
()法の目的違反6
原告らは,被告は原告らに対し本件農業経営改善計画に沿った営農をする
ことを求めるが,これは,客観的に実現不可能な同計画の実施を原告らに強
要するものであり,法が掲げる効率的かつ安定的な農業経営の育成,農業の
健全な発展という目的に反すると主張する。
法は,認定農業者に対し,認定を受けた農業経営改善計画の変更をする場
(),合にも市町村の認定を受けることを義務付けており法12条の2第1項
市町村が,変更に係る農業経営改善計画についても法12条4項の要件に該
当することを審査することが予定されている。したがって,認定農業者が農
業経営改善計画に従った営農が困難・不可能となった場合には,新たな農業
経営改善計画を作成して変更認定の申請を行い,同計画についても市町村に
よる法12条4項の要件該当性の審査を受けて,改めて同計画の認定を受け
ることとなる。
本件において,原告らは,本件農業経営改善計画の内容どおりの大豆等の
栽培による畑作を行わず米の作付けをしていたのに対し,同計画の変更認定
の申請を行わなかったのであるから,原告らの本件農地における米の作付け
に関し,被告による法12条4項の要件に該当することが審査・認定されて
いないにもかかわらず,原告らは,上記計画自体は維持し,認定農業者とし
。,ての種々の優遇措置を受ける地位にあったということができるそうすると
被告としては,原告らに対し,上記計画に従った営農を求める行政指導をす
るのは当然のことである。
もっとも,本件農業経営改善計画に従った営農を行い,本件農地の購入資
金の借入れを返済しながら農業経営をすることが客観的に不可能であったこ
,,,とを認めるに足りる証拠がないことは措くとしても少なくとも原告らは
平成15年及び同16年の2年にわたる大豆等の不作により本件農地におい
て大豆等の栽培を行って上記借入れを返済することが困難であると認識する
に至ったというのであるから,被告がそのような原告らに対し上記計画に従
った営農を求めることは,原告らからみれば,不可能な計画を実施すること
を強いられていると感ずるのも無理からぬところではある。
しかしながら,認定農業者制度の趣旨は,効率的かつ安定的な農業経営が
農業生産の相当部分を担う農業構造を確立するとの法の目的に沿い,かつ,
地域における実情を反映した,効率的かつ安定的な農業経営を実現するため
の明確かつ具体的な目標(基本構想)を各市町村が設定し,この目標を計画
的に進めようと自主的な努力をする農業者に農用地の利用の集積をするとと
,,もに経営の合理化等の農業経営基盤を強化するという点にありそうすると
市町村の基本構想に適合するなどの要件に該当するとの審査・認定がされて
いない営農を行う農業者に,認定農業者としての種々の優遇措置を受けるこ
とを許容するとすれば,認定農業者制度により,市町村が設定した具体的目
標(基本構想)を達成することができなくなり,ひいては,効率的かつ安定
的な農業経営を実現するとの法の目的をも実現することができなくなるとい
うほかない。結局,原告らの主張する問題点は,法の枠組みの中では計画の
変更の認定を受けることで対処するほかない。
したがって,本件において,被告が,原告らに対し,本件農業経営改善計
画に従った営農をすることを求めたことが法の目的に反するとはいえない。
よって,原告らの上記主張は,採用することができない。
()以上のとおり,原告らの信義則違反・法の目的違反の違法に関する主張7
は,いずれも理由がない。
6争点()(公平原則違反の有無)について4
原告らは,法12条1項の認定を受けた農業経営改善計画は生産調整に参加
することを当然の前提としており,αにおける認定農業者のうち生産調整に参
加していない者がおり,大潟村長はこれを認識しているにもかかわらず,これ
,,らの者に関する認定を取り消すどころか是正指導を行ったことすらないのに
原告らに対してのみ農業経営改善計画の認定を取り消す本件処分を行ったこと
は,行政手続の公平性に反すると主張する。
,,しかしながら生産調整に参加しない認定農業者の農業経営改善計画の内容
認定後から現在に至るまでの具体的営農状況や経緯等が明らかにされていない
のであるから,そもそも上記認定農業者につき法12条の2第2項の認定取消
事由の有無を判断することができないのであって,原告らとこの者らとの公平
性を論ずる前提を欠くといわざるを得ない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
第4結論
以上のとおりであって,本件処分に違法があると認めることはできない。
よって,本件処分の取消しを求める原告らの本訴各請求は,いずれも理由がな
いから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
秋田地方裁判所民事第一部
鈴木陽一裁判長裁判官
和田健裁判官
能登谷宣仁裁判官

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