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平成25年(行ク)第111号執行停止申立事件
主文
1国土交通大臣が平成25年10月23日付けで申立人に対してし
た同年11月7日から10月間鑑定評価等業務を行うことを禁止す
る旨の処分の効力を,本案事件の第1審判決言渡し後30日が経過
するまで停止する。
2申立人のその余の申立てを却下する。
3申立費用は相手方の負担とする。
事実及び理由
第1申立ての趣旨
国土交通大臣が平成25年10月23日付けで申立人に対してした同年11
月7日から10月間鑑定評価等業務を行うことを禁止する旨の処分の効力を
本案事件の判決確定に至るまで停止する。
第2事案の概要
1事案の骨子
本案事件は,不動産鑑定士である申立人が,国土交通大臣から,平成25年
10月23日付けで,不動産の鑑定評価に関する法律(以下「法」という。)
40条1項前段に基づき,同年11月7日から10か月間鑑定評価等業務を行
うことを禁止する旨の処分(以下「本件禁止処分」という。)を受けたことか
ら,本件禁止処分は法40条1項前段所定の要件を欠き,また,行政手続法1
4条1項本文が規定する理由提示の要件を欠くため違法であるなどと主張し
て,本件禁止処分の取消しを求める事案である。
本件申立ては,申立人が,本件禁止処分により生ずる重大な損害を避けるた
め緊急の必要があるなどと主張して,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)
25条2項本文に基づき,本件禁止処分の効力の停止を求める事案である。
2前提事実(一件記録により容易に認められる事実等)
(1)申立人に関する事情
申立人は,登録を受けた不動産鑑定士であり,下記の鑑定評価書を作成し
た当時,不動産の鑑定評価等を目的とする有限会社Aの取締役であった。な
お,有限会社Aは,平成23年12月1日,有限会社Bへと商号を変更する
旨の登記をした。(疎甲1,2)
(2)鑑定評価書の作成
申立人は,株式会社C(商号は当時のもの)から依頼を受け,和歌山県西
牟婁郡α町所在の土地について,平成22年1月15日付け不動産鑑定評価
書及び同月29日付け不動産鑑定評価書を作成した。(疎甲3,4)
(3)本件処分
国土交通大臣から委任を受けた近畿地方整備局長による申立人の聴聞手続
を経た後,国土交通大臣は,処分についての土地鑑定委員会の同意を受けた
上で,平成25年10月23日付けで,申立人に対し,本件禁止処分を行っ
た。国土交通大臣は,上記(2)の各不動産鑑定評価書の作成行為が故意に不
当な鑑定評価を行ったものとして法40条1項前段に該当するものと判断
した上,当該行為に平成22年2月25日付改正の前の「不当な鑑定評価等
及び違反行為に係る処分基準」を適用して,本件に係る懲戒処分の程度は「登
録の消除又は長期間の業務停止」に該当し,行為の態様及び情状を考慮する
と,平成25年11月7日から10か月間の業務禁止を命ずることが相当で
あると判断して,本件禁止処分を行ったものである。(疎甲5,疎乙11~
17)
(4)本案事件の訴訟提起
申立人は,平成25年11月3日,本案事件の訴訟を提起するとともに,
本件申立てを行った。(顕著な事実)
3争点及び当事者の主張
本件の主たる争点は,①処分,処分の執行又は手続の続行により生ずる重大
な損害を避けるため緊急の必要があるといえるか否か(行訴法25条2項),
及び②本案について理由がないとみえるときに該当するか否か(同条4項)で
ある。
上記各争点に関する申立人の主張は,別紙1~4,6及び7のとおりであり,
相手方の主張は,別紙5のとおりである。
第3当裁判所の判断
1争点①(重大な損害を避けるため緊急の必要があるか)について
(1)行訴法25条1項は,「処分の取消しの訴えの提起は,処分の効力,処分
の執行又は手続の続行を妨げない。」と規定し,同条2項本文は,「処分の
取消しの訴えの提起があつた場合において,処分,処分の執行又は手続の続
行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは,裁判所は,
申立てにより,決定をもつて,処分の効力,処分の執行又は手続の続行の全
部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。」と,
同条3項は,「裁判所は,前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断
するに当たつては,損害の回復の困難の程度を考慮するものとし,損害の性
質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。」とそれぞ
れ規定している。
これらの執行停止に関する規定に照らすと,行訴法25条2項本文にいう
「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」か否かは,処分の執行等によ
り維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内容及び性質と,こ
れによって申立人が被ることとなる損害の性質及び程度とを,損害の回復の
困難の程度を考慮した上で比較衡量し,処分の執行等により申立人が被る損
害について,社会通念上,行政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなお救済
しなければならない程度のものであるか否かという観点から検討すべきであ
る。
(2)一件記録によれば,申立人は平成15年から申立人のみが取締役を務め
る有限会社A(平成23年12月1日以降の商号は,有限会社B。以下「本
件有限会社」という。)において,主として,不動産の鑑定評価業務を行って
きたこと,この間,大阪国税局相続税土地評価鑑定評価員,国土交通省地価
公示鑑定評価員,大阪府地価調査鑑定評価員及び大阪地方裁判所鑑定委員を
務め(疎甲2),懲戒処分等を受けたこともなかったこと(疎乙14)が一応
認められる。そして,一件記録によると,申立人は,不動産鑑定士の他にC
FPや宅地建物取引主任者の資格を有しており,本件有限会社は,不動産の
鑑定評価の他に「ファイナンシャルプランナー業」や「不動産の売買・賃貸・
仲介・斡旋・管理」等を定款の目的としているものの(疎甲1,2),本件有
限会社は,平成24年度に2件の不動産仲介により約200万円の収入を得
ていたほかには不動産鑑定評価業務以外による収入はなく,平成25年度に
は,不動産鑑定評価業務以外の収入は全くないことが一応認められ,これら
の事情に照らせば,不動産鑑定評価業務は,現在,申立人にとって,ほぼ唯
一の収入源であったものと評価することができる。また,申立人は,本件禁
止処分と同じ平成25年10月23日付けで国土交通省から上記国土交通省
地価公示鑑定評価員の委嘱を取り消されており(疎甲7),この取消しも,そ
の時期からすると,本件禁止処分の影響によるものと推認され,他の役職に
ついても,関連機関から委嘱等を取り消されるおそれがあることは,否定で
きない(取り消されないまでも本件禁止処分による業務禁止期間中,個別の
鑑定評価業務の委託を一切受けられなくなる。)。そうすると,本件禁止処分
によって10か月間という相当の長期間にわたり鑑定評価業務を行うことを
禁じられる結果,申立人はほぼ唯一の収入源を失う蓋然性が高く,これによ
って申立人が被る経済的損害は相当大きいものといわざるを得ない。
また,一件記録によれば,申立人は,平成25年11月末日までに所有権
の移転を行うことを予定している不動産についての鑑定評価業務を2件受任
しているほか,本件禁止処分が行われる以前から相談を受けている鑑定評価
に関する案件を複数有していること(疎甲14)が一応認められるところ,
本件禁止処分により,申立人が10か月間にわたって鑑定評価業務を行うこ
とを禁じられるため,申立人は,既に受任し又は相談を受けていた鑑定評価
業務を他の不動産鑑定士に引き継ぐことを余儀なくされるほか,かつての依
頼者等が業務禁止期間中に申立人に鑑定評価業務を依頼しようとしても,本
件禁止処分により依頼することができず,他の不動産鑑定士に鑑定評価業務
を依頼することとなる結果,申立人が顧客との間で構築してきた信頼関係が
毀損されるおそれや,申立人の不動産鑑定士としての社会的信用が低下する
おそれがあるものと認められるところ,上記のような損失は,その性質上,
本案事件において勝訴したとしても完全に回復することは困難であり,また,
損害を事後的な金銭賠償請求により完全に補填することも必ずしも容易では
ない。
これらの事情を考慮すれば,不動産の鑑定評価が高度かつ専門的な知識,
経験,判断力を要するものであり,土地等の適正な価格の形成という法の目
的を達するためには,その鑑定評価について社会的信頼性を維持することが
必要であることから,法40条1項前段が故意に基づく不当な不動産の鑑定
評価等を懲戒処分の対象としていることを踏まえても,本件禁止処分により
申立人が被る損害は,社会通念上,上記行政目的の達成を一時的に犠牲にし
てもなお救済しなければならない程度に重大なものであると認められる。
(3)したがって,本件は,処分により生ずる「重大な損害を避けるため緊急の
必要があるとき」(行訴法25条2項本文)に該当するものと認められる。
2争点②(本案について理由がないとみえるか)について
申立人は,本件禁止処分の違法事由として,国土交通大臣が申立人の故意を
認定した点についての事実誤認を主張しているものと解されるところ,不当な
鑑定評価についての申立人の故意に関する現在の証拠関係の下においては,上
記申立人の主張が,第1審の審理を経る余地がないほどに理由がないものであ
るとまでは認められない。
したがって,本件が「本案について理由がないとみえるとき」(行訴法25
条4項)に該当するということはできない。
3執行停止の期間について
申立人は,本件禁止処分の効力を,本案判決の確定に至るまで停止すること
を求めている。
しかしながら,現時点における申立人の疎明の程度等に鑑みると,本案事件
の第1審判決の結論を見た上で,改めて本件禁止処分の効力を停止すべき要件
があるか否かを判断するのが相当である。したがって,現段階においては,本
案事件の第1審判決の言渡し後30日が経過するまでの間に限り,本件禁止処
分の効力を停止するのが相当である。
4結論
以上によれば(なお,本件禁止処分の効力を停止することにより,公共の福
祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるかについて,特段の主張・疎明はない。),
本件申立ては,本案事件の第1審判決の言渡し後30日が経過するまで本件禁
止処分の効力を停止することを求める限度で理由があるからその範囲で認容
し,その余は理由がないから却下することとして,主文のとおり決定する。
平成25年11月20日
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西田隆裕
裁判官斗谷匡志
裁判官栢分宏和

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