弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 (一)被告人Aの弁護人清瀬一郎同内山弘の上告受理申立理由第一点について第
一審判決が被告人Aに関する贈賄の事実を認定する証拠の一つとして同被告人の検
事に対する供述調書を挙げていることは所論のとおりである。しかし所論のように
警察において被告人に対し自白を強制したことを認めるに足る資料は記録上一つも
存しないばかりでなく却つて第一審における証人Bの証言によれば所論のような自
由強制の事実はなかつたことが窺える。従つて被告人Aの検事に対する供述に任意
性のない疑がある旨の主張はその前提を欠くばかりでなく仮りに警察の収調に所論
のような自白強制の事実があつたとしても警察官から警察で述べたとおりに検事に
言えといわれたことのないことは被告人が第一審公判廷において自認するところで
あり他に警察官による自白の強制が検事に対してなした白白にまで影響したことを
確認し得べき何等の証跡はなくしかも被告人Aの検事に対する供述調書にその供述
の任意性を疑わしめるに足る形跡のないことは後に論旨第二点について説明すると
おりである。さすれば右供述調書を採証した第一審判決並びにこれを是認した原判
決には所論のような違法はなく論旨は採用し難い。
 同第二点について
 刑訴三〇条一項において被疑者は被告人と同様何時でも弁護人を選任することが
できる旨を規定し又同三九条一項及び三項は身体の拘束を受けている被疑者は弁護
人と立会人なくして接見し又は書類若しくは物の授受をすることができる旨を規定
すると同時に特定の場合に限り検察官検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及
び司法巡査)が右接見又は授受に関しその日時、場所及び時間を指定し得ることに
ついて規定している。但し右日時その他を指定する場合であつても被疑者が防禦の
準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならないと厳にその行き過
ぎを戒しめている。被告人Aが被疑者として警察にその身柄の拘束を受けていた間
に同人とその弁護人との面接時間が所論のように二分ないし三分と指定されたとす
れば当時かゝる時間的制限を加える如何なる理由があつたとしてもその指定が被疑
者に権利として認められた防禦準備のためには余りにも短時間に過ぎかゝる措置の
不当であることは一応これを認めることができる。しかし右不当な措置に対する救
済の途は別に刑訴四三〇条四三一条に規定しており又所論のように右弁護人の面接
の際、警察官が立会つていた事実があつたとしてもたゞそれ等不当な措置が採られ
たことから直ちに同被告人の検事に対してなした自白まで任意にされたものでない
疑があるとは断定し得ないところであつてすべからく右任意性の有無はそれ等の事
由とはかゝわりなくその自白をした当時の情況に照らしてこれを判断すべきである。
よつて被告人Aの検事に対する供述調書を検討すると同被告人は検事から黙秘権を
告げられた後任意に供述し且つ供述を録取した後これを読聞けられその誤のないこ
とを認めた上で署名押印しており、しかもその供述内容は自然であつて首肯せしめ
るものがありその間に何等矛盾のないことが認められ同被告人の供述が直接その取
調に当つた検事の不当な影響の下になされたことを疑わしめるに足る形跡は少しも
認められない。さすれば被告人Aと弁護人が面接する際に採られた措置が不当であ
つたことと同被告人が検事に対してなした自白との間に何等因果関係のあることの
認められない本件において第一審判決が被告人Aの検事に対する供述調書を証拠に
採つたことは少しも違法でなく同判決を是認した原判決は相当であつて論旨は理由
がない。
 同第三点について
 刑訴三二一条一項二号但書により検察官の面前における供述を録取した書面を証
拠とするに当り該書面の供述が公判準備又は公判期日における供述より信用すべき
特別の情況が存するか否かは結局事実審裁判所の裁量に委されているものと解する
のが相当である(昭和二六年(あ)第一一一一号同年一一月一五日第一小法廷判決
参照)。さすれば所論は結局第一審裁判所の右裁量権に対する非難に帰し論旨は採
用に値しない(なお自白の任意性に関する論旨の理由のないことは論旨第二点につ
いて説明したとおりである)。
 (二)被告人Aの弁護人清瀬一郎の上告趣意は憲法三四条違反を主張するがそれ
が若し被告人Aとその弁護人との面接権を不当に制限したことを理由に同被告人の
検事に対する供述調書を罪証に供した第一審判決並びにこれを是認した原判決の違
憲を主張する趣旨であるとすれば前記上告受理申立理由第二点について説明したよ
うに所論違憲の主張はその前提を欠くものといわなければならない。又若し右面接
権を不当に制限したこと自体の違憲を主張する趣旨であるとすればこれに対しては
別途に救済を求むべきことこれまた前に説明したとおりであつていずれにしても論
旨は採用し難い。
 (三)被告人Cの弁護人金光邦三の上告趣意は単なる訴訟法違反と事実誤認の主
張を出でないものであつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 (四)被告人Dの弁護人高見之忠の上告趣意第一点は憲法違反をいうが具体的に
その条文を示していないばかりでなく、単なる捜査手続に対する違法、違憲の主張
が適法な上告理由にならないことは既に当裁判所判例の趣旨とするところであり(
昭和二三年(れ)第七七四号同年一二月一日大法廷判決参照)、同第二点及び第四
点はいずれも単なる訴訟法違反、又同第三点は結局事実誤認の主張に帰しすべて刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。
 また記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条三九六条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
 検察官 草鹿浅之介出席
  昭和二八年七月一〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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