弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事   実
 控訴人指定代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用
は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人
は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と
同一であるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
 鉱業法施行法(以下「施行法」という。)第七条は、「鉱業法施行の日から六ケ
月以内に追加鉱物を目的とする鉱業権の設定の出願が土地所有者以外の者よりあつ
たときは、通商産業局長はその出願地に係る土地の所有者に対してその旨の通知を
しなければならず土地所有者がそれに基づいて右通知の到達の日から三〇日以内に
当該追加鉱物を目的とする鉱業権の設定の出願をしたときは、その者は、鉱業法第
二七条の規定にかかわらず、他の者の出願に対して優先権を有する。」旨を定めて
いるが、右規定の文理面からみてこの場合土地所有者からの追加鉱物を目的とする
鉱業権の設定の出願が、鉱業法施行の日より六ケ月以後になされることのあること
は、当然法の予想するところといえる。なるほど、施行法第七条の通商産業局長の
通知が遅滞なくなされるべきことおよび土地所有者が優先権を取得するための出願
が右通知の到達した日から三〇日以内になされるべきことは、原判決のいうとおり
であるが、原判決が、これを理由として、土地所有者の出願そのものが鉱業法施行
の日より六ケ月を著るしく超えないうちになされなければその出願に優先権が認め
られないとしているのは、誤りである。なんとなれば、施行法第七条の通商産業局
長の通知が遅滞なくなされるべきであるということは、それが同条の予定している
ところであるとはいえ、所詮訓示的な意味をもつにすぎないものであつて、その通
知が遅滞したために同条の通知としての効力を欠き、その通知の到達後三〇日以内
に優先権のある出願をなしうる土地所有者の権利が消滅するというような意味をも
つものではないからである。このことは次の点から考えても当然である。
(1) まず施行法第七条は、通知をなすべき期限を定めていない。土地所有者と
しては、鉱業法施行後六ケ月以内に他の者から追加鉱物に関する鉱業権設定の出願
がなされたことを知つたときは、その旨の通商産業局長の通知をまつて優先権のあ
る自己の出願をしようと考えるのが当然であり、かかる場合に、通商産業局長の通
知が遅滞したためにその出願の権利が失なわれるとすることは、土地所有者に不当
な不利益を与えることになる。
(2) 次に「遅滞なく」通知すべきであるといつても、遅滞の有無の判定は形式
的になしうるものではない。このように不明確な要件をもつて土地所有者の優先出
願権を制限することは、法律の解釈として許されない。
 ところで本件通知が遅れた原因は、次の事情によるものである。すなわち、鉱業
法(昭和二五年一二月二〇日法律第二八九号)に基づく鉱業権の設定の出願につい
ては、当初出願区域に係る土地の所有者の氏名・住所等を明らかにすべきことは要
求されていなかつた(同法施行規則第四条参照)。 したがつて、本件の場合被控
訴人の出願の当時出願区域に係る土地の所有者が国であつても、当該土地の管理機
関でもない控訴人においては、これが国有であることを当然に知り得るということ
はなかつたのである。しかしながら、出願区域の土地所有者が何人であるかを知る
ことは、施行法第七条による追加鉱物を目的とする鉱業権設定の出願処理に当つて
必要不可欠であるから、昭和二六年八月二八日の同法施行規則の改正によつて、附
則第一二項を追加し、これを鉱業法施行の日に遡つて適用することとしたのであ
る。被控訴人の本件土地に係る出願がなされたのは、右附則第一二項の追加前の昭
和二六年二月二一日であつて、施行規則第四条によつてなされたものであつたか
ら、出願区域の土地所有者が何人であるかは、控訴人において知る由がなかつたの
で、右附則第一二項の追加後において、控訴人は被控訴人に対し同項により出願区
域の土地所有者の氏名等の報告方を求め、その報告をまつてはじめて本件土地の所
有者が何人であるかを知るに至つたのである。
(被控訴人の主張)
 施行法第七条の規定は、鉱業法第二七条の規定の例外規定であり、これがおかれ
た趣旨は、鉱業法の施行に伴い従来土地所有者の自由にまかされていた追加鉱物を
試掘、採掘する権利が土地所有権から分離されることになつたので、土地所有者に
優先権を与えることにより、経過的にその権利を保護しようとしたものである。さ
すれば、同法施行当時の土地所有者を保護すれば足り、同法施行後新たに土地所有
権を取得した者を保護する必要はない。
 仮に施行法第七条の土地所有者に鉱業法施行後の土地所有権取得者も含まれると
しても、その範囲は同法施行後六ケ月以内の土地所有権取得者に限られるべきであ
り、それより後の土地所有権取得者は含まれないものと解すべきである。
 なお、施行法第七条は、通商産業局長が通知をなすべき期間については定めてい
ないが、同条はその通知が遅滞なくなされることを予定しているものと解すべきこ
とは当然であり、かつ、右通知は鉱業法施行の日から六ケ月以内に他による出願が
あつた場合に限つてなされるべきものであり、土地所有者による優先権ある出願
も、右通知の到達した日から三〇日以内になされたものに限り許されることに鑑み
れば、土地所有者の出願についても、同法施行の日から六ケ月を著るしく超えない
うちになされたものに限り、優先権が認められるものと解すべきである。しかるに
本件においては、通商産業局長の通知も訴外下大越牧野利用農業協同組合(以下
「訴外組合」という。)の出願も原判決認定のとおり、右期間を著るしく経過した
後になされているものであつて、かくのごとく遅延した通知ならびに出願によつて
は、到底施行法第七条による優先権を認めることはできない。
 仮に被控訴人の前記主張が全て理由がないとしても、施行法第七条第一項の通知
は、出願があつた当時の土地所有者に対しなされるべきものと解すべきところ、本
件においては、被控訴人が出願した当時の所有者である国に対する通知はなされて
いないのであるから、訴外組合に対して同条第二項の優先権を認めることはできな
い。
       理   由
一、被控訴人が昭和二六年二月二一日原判決添付別紙(一)記載の区域につき石灰
石、ドロマイトを目的として鉱業権(採掘権)設定の出願をしたこと、訴外組合が
昭和二七年三月三一日国から自作農創設特別措置法第四一条により右被控訴人の出
願区域中原判決添付別紙(二)記載の区域(以下本件区域という。)の売渡を受け
てその所有権を取得し、その後昭和三五年六月二七日本件区域について石灰石を目
的として鉱業権(採掘権)設定の出願をしたところ、控訴人において昭和三九年一
〇月二八日右出願を許可し、右許可は同年一一月五日福島県採掘権登録第一三一七
号として登録されたことは、当事者間に争がない。
二、ところで本件の争点は、訴外組合が被控訴人に対し優先権を有する出願者であ
るか否かの点にあるので、以下この点について判断する。
 鉱業法(昭和二五年法律第二八九号、昭和二六年一月三一日施行)は、従前の法
規のもとでは土地所有権の一内容とされていた石灰石、ドロマイト等の追加鉱物を
試掘採掘する権利を新たに鉱業権として土地所有権から分離させたが、右につき直
ちに鉱業法第二七条に定める先願主義の原則を適用することは、従前より右追加鉱
物を掘採している者、追加鉱物の取得を目的とする土地に関する権利を有している
者および土地所有者の既得の権利を害するおそれがあるとの配慮から、経過的にこ
れらの者の権利を保護する必要があるとして、施行法第五条ないし第七条の規定を
設けた。しかしてその保護の態様は、経過的措置の趣旨に鑑み、追加鉱物を掘採し
ている者および追加鉱物の取得を目的とする土地に関する権利を有している者につ
いては、施行法第五条および第六条をもつて、これらの者またはその承継人が鉱業
法施行の日から六ケ月以内に当該追加鉱物を目的とする鉱業権の設定の出願をした
ときは、他の出願に対し優先権を有する旨を定め、土地所有者については、施行法
第七条をもつて、鉱業法施行の日から六ケ月以内に他の者から追加鉱物を目的とす
る鉱業権の設定の出願があつたときは、通商産業局長は土地所有者に対しその旨の
通知をなすことを要し、土地所有者が右通知到達の日から三〇日以内に当該追加鉱
物を目的とする鉱業権の設定の出願をしたときは、他の出願に対し優先権を有する
旨を定めた。
 ところで右施行法第五条ないし第七条の規定を通覧するに、第五条および第六条
の場合は、鉱業法施行当時追加鉱物を掘採している者および追加鉱物の取得を目的
とする土地に関する権利を有している者のみならず、鉱業法施行の日から六ケ月以
内にこれらの者の権利を承継取得した者についても(この場合には前主に代つて)
優先出願権が認められていることが規定の文面上明らかであるが、第七条の場合
は、右二者の場合と異り規定上に「承継人」の記載がないから、土地所有者につい
ては、鉱業法施行当時の所有者に限つて優先出願権を認め、その承継人にはこれを
認めない趣旨と一見解されないでもないけれども、かかる解釈は妥当でない。なん
となれば、第五条および第六条の規定は、経過的措置として、鉱業法の施行に伴う
同法第二七条所定の先願主義の原則の適用につき、六ケ月の猶予期間を認め、その
間の既得の権利者を保護しようとする趣旨に出たものであるが、第七条の場合に限
つて、何故既得の権利が土地所有権なるのゆえをもつて、右二者の場合と別異の取
り扱いをせざるを得ないかの理由を発見するに苦しむからである。この考方をふえ
んすれば、第五条および第六条の場合の既得権なるものは、従前土地所有権の一内
容にすぎなかつたものであるがゆえに、これを具体的に特定する必要があり、かつ
右六ケ月の期間内にこれらの権利を承継取得した者をも包含せしめるためには、権
利者に併せてその「承継人」を併記する表現方法をとらざるを得なかつたのである
が、第七条の場合の既得権は土地所有権であり、所有権は一にして二なきものであ
るから、右六ケ月の期間内に土地所有者であつたものであれば足り、その間に所有
権の変動があつても、前二者の場合のように特に「承継人」を掲記する必要をみな
いとして、第七条は「承継人」の記載を省略したものといい得る。とすれば第七条
の土地所有者の場合にも「承継人」の観念は容れられるものといわなければならな
い。
 しかして第七条は第五条および第六条と異り、権利承継に関し、承継人を鉱業法
施行後六ケ月内の権利取得者に限定する趣旨をうかがわしめるに足る規定を欠く
が、第五条および第六条の場合の権利は具体的顕在的な権利であるのに比し、第七
条の場合の権利は土地所有権であるとはいえ、鉱業権的立場からは所有権に内包さ
れる潜在的な権利であるにすぎないから、均衡上第七条の場合につき、前二者の場
合以上の保護を与えることは考えられない。そうすると、第五条ないし第七条はい
ずれも経過的規定であつて、少くとも権利承継の問題に関する限り、その間に別異
の取り扱いをなすべき理由を見出し難いから、第七条の場合にも、承継人として
は、鉱業法施行後六ケ月内に土地所有権を承継取得した者に限り優先出願権が認め
られると解するのを相当とする。
 いま本件についてこれをみるに、訴外組合が国から本件区域を買受けてその所有
権を取得したのは前記のとおり昭和二七年三月三一日であるから、鉱業法施行の日
たる昭和二六年一月三一日からすでに六ケ月以上を経過していることは明らかであ
り、したがつて訴外組合は優先出願者たる資格を有しないものといわなければなら
ない。
 してみれば、爾余の争点について判断するまでもなく、訴外組合の出願に優先権
があることを前提としてなされた控訴人の本件出願許可処分は違法たることを免れ
ないから、取消さるべきである。
三、以上の次第で、原判決は、当裁判所と理由の判断を異にするものがあるが、結
論において同じであるから、結局原判決を正当として、本件控訴を棄却することと
し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり
判決する。
(裁判官 古山宏 川添万夫 秋元隆男)

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