弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
()原判決を取り消す。1
()三島税務署長が平成12年10月10日付けで原判決別紙物件目録記載2
の土地についてした差押処分を取り消す。
()訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。3
2控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2事案の概要
1本件は,控訴人が自己の所有に係る不動産を二男であるAに対して贈与した
ところ三島税務署長がAが負担する贈与税及び延滞税以下それぞれ本,,(,「
」「」,「」。)件贈与税及び本件延滞税といい両者を併せて本件贈与税等という
の連帯納付義務者である控訴人に対して督促処分をすることなく,その徴収を
担保するため,平成10年5月8日,原判決別紙物件目録記載の不動産(以下
「本件不動産」という)を差し押さえ(以下「第1差押処分」という)た。。
後,同年6月11日督促処分を行い,その後,平成11年2月24日,控訴人
から本件贈与税1246万1900円の納付があった(これにより本件延滞税
は1243万3100円に確定した)後の同年3月5日第1差押処分を解除。
し,さらに約1年7か月余り経過した平成12年10月10日付けで再度差押
処分をした(以下「第2差押処分」という)ため,控訴人が,三島税務署長。
の事務承継者である被控訴人に対し,第2差押処分は違法であるとして,同処
分の取消しを求めた事案である。
2原判決は,①(ア)相続税法34条1項及び4項による連帯納付義務について
は,納税の告知を要する場合を列挙した国税通則法36条1項を適用する余地
はないし,保証人の納付義務に関する同法52条2項の規定を類推適用するこ
ともできない,(イ)控訴人の本件贈与税等の連帯納付義務は,Aの本件贈与税
等の納付義務の確定によって法律上当然に生じ,これについて租税徴収上の補
充性も認められないことから,三島税務署長が控訴人に対して本件延滞税の徴
収を行ったことに手続上の瑕疵はない,(ウ)連帯納付義務を定めた規定が憲法
29条1項の趣旨に反するということもできないなどとして,第2差押処分が
適正手続の原則に反するということはできないとし,②(ア)滞納者の財産に差
押処分をするためには,滞納者に対し,差押えに係る国税について督促状で督
促していることが必要である(国税徴収法47条1項)が,一度適法にされた
督促の効果は当該滞納国税が完納されない限り消滅しないと解するのが相当で
,(。「」)あるから平成10年6月11日付け督促状甲3号証以下本件督促状
による督促(以下「本件督促」という)の効果は第1差押処分の解除によっ。
て消滅したとは認められない,(イ)本件督促状の延滞税欄には不動文字で「法
律による金額」と記載され,御注意欄には「本税には,納期限の翌日から完納
の日までの期間について延滞税が加算されます。延滞税は裏面の計算方法によ
り計算して,本税とあわせて納付してください」と記載されているから,本。
件督促状により本件延滞税についても督促していることは明らかであるなどと
して,第2差押処分については本件督促状により適法な督促が前置されている
とし,③信義則の法理の適用により課税処分を違法なものとして取り消すこと
ができる場合があるとしても,それは,租税法規の適用における納税者間の平
等,公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて
納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存す
る場合に限られるところ,本件においてはそのような事情は認められないなど
として,第2差押処分が禁反言の原則,信義則及び二重の危険の禁止に反する
ということはできないとし,控訴人の請求を棄却した。
そこで,これを不服とする控訴人が控訴した。
3前提事実,争点及びこれについての当事者の主張は,以下のとおり当審にお
ける控訴人の補充主張並びにこれに対する被控訴人の認否及び反論を付加する
ほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2及び3に記載
のとおりであるので,これを引用する。
(当審における控訴人の補充主張)
()納税告知の要否1
ア最高裁判所第三小法廷昭和55年7月1日判決(民集34巻4号535
頁。以下「最高裁昭和55年判決」という)は,相続税法34条1項の。
規定による連帯納付義務は,相続人又は受遺者の固有の相続税の納税義務
の確定という事実に照応して法律上当然に確定する旨判示する。
しかし,連帯納付義務には,徴収実務において,事実上の補充性が存在
するから,納税者もその補充性を前提として行動する。こうした連帯納付
義務の性質に鑑みると,他の相続人,受遺者又は受贈者の納税義務が税務
署長の更正又は決定により確定される場合において,連帯納付義務の確定
手続がないままに連帯納付義務者に対して徴収手続が開始されると解する
と,連帯納付義務者は事前に予測することができない状況の下で,不意打
ち的に連帯納付義務の履行を求められることになる。したがって,適正手
続の保障の観点からは,連帯納付義務の確定のために納税告知が必要であ
ると解するべきである。
仮に最高裁昭和55年判決を前提とするとしても,同判決は,相続税法
34条1項の規定による連帯納付義務について判示したものであり,同条
4項には妥当しない。すなわち,同条1項が規定する共同相続人の連帯納
付義務と,同条4項が規定する贈与契約における贈与者の連帯納付義務と
では立法趣旨及び利益状況を異にするから,両条項を同一に解釈すること
はできない。
イ連帯納付義務は,第二次納税義務又は国税の保証人の義務にも該当しな
い上,国税通則法2条5項においては連帯納付義務者は「納税者」から除
外されていないから,国税通則法15条及び16条が適用される結果,同
条2項による賦課決定による確定手続が必要となる。
ウ以上より,連帯納付義務者に対して納税義務の履行を求める場合には,
連帯納付義務の確定手続や納税告知が必要である。
()第2差押処分が適法な督促の前置を欠くこと2
ア差押処分の前提として督促手続を履践することが必要であるとされてい
るのは,当該差押えを受ける者に対し,重大な不利益処分である差押処分
がされることを予測する機会を与え,納税義務を履行したり不服申立てを
したりして,差押えを回避する機会を与えるためである。しかるに,第2
,。差押処分について控訴人にはこのような予測の機会が保障されていない
イまた,本件においては,督促がないままに違法な第1差押処分がされ,
,,それが維持されている状態で同差押処分の後に本件督促がされているが
督促は差押処分の前提要件であり,本件督促と第1差押処分とは一連一体
の手続というべきであるから,違法な第1差押処分が継続している下で,
当該違法状態を作出した同一官署から督促状が発布されても,当該督促状
もまた違法であると解さなければ,法律による行政に対する国民の信頼を
得ることはできない。
ウさらに,本件において,三島税務署長は,控訴人及びその親族から違法
な第1差押処分を解除するよう要請を受けながら,10か月間にわたって
これを解除しなかったにもかかわらず,平成11年2月24日に控訴人が
本税を納付した後間もなくして,同年3月5日に同差押処分を解除したも
のである。加えて,三島税務署の徴収職員であるBは,平成8年10月8
日ころ控訴人に対し「お母さんには迷惑をかけないよう対処します」と。
述べ(本件発言,さらには平成11年2月ころ控訴人との間で,本件贈)
与税を納付すれば延滞税を免除するとともに第1差押処分を解除する合意
(本件合意)をしたものであり,仮に本件発言及び本件合意が認められな
いとしても,控訴人には本件発言及び本件合意があったと信じることもや
むを得ない事情があったのである。したがって,本件においては,控訴人
は,上記の本税納付により第1差押処分が解除されたものと認識し,今後
請求や差押処分を受けることはないと信じるに足りる状況が存在したので
あるから,かかる状況の下では,本件督促の効果は喪失している。少なく
とも,本件事実経過の下では,第1差押処分解除後に改めて督促処分がな
されなければ違法というべきである。
()信義則違反による第2差押処分の無効3
アBが本件発言をしたことは証拠上明らかであるところ,控訴人は,本件
発言により,本件贈与税のみならず本件延滞税についても連帯納付義務が
免除されたか,あるいは三島税務署長が株式会社C(以下「訴外会社」と
いう)から本件贈与税等を全額徴収するので控訴人には納付の必要がな。
いと信頼したものである。そして,控訴人は,そのように信頼したからこ
そ本件贈与税を納付する必要がないものと考え,本件延滞税が増大する前
に適切に対処する機会を失ったものである。
イ控訴人は,Bとの間の一連のやり取りにおいて本件延滞税を免除する旨
の本件合意をしたからこそ本件贈与税を納付したものであって,本件合意
がなかったならば,控訴人が本件贈与税を納付することもなかったもので
ある。
また,三島税務署長は,控訴人が本件贈与税を納付したところ,それか
ら間もなく第1差押処分を解除したものであり,このような経過からする
と,控訴人が,本件贈与税の納付により第1差押処分が解除されたものと
認識し,今後再び請求や差押処分を受けることはないと信頼するに足りる
状況があったものである。
ウさらに,Bが控訴人に対して不服申立手続について適切な教示をしなか
ったことをも併せ考慮すると,第2差押処分が信義則に違反し無効である
ことは明らかである。
(当審における控訴人の補充主張に対する被控訴人の反論)
()控訴人の主張()(納税告知の要否)について11
ア贈与者の連帯納付義務(相続税法34条4項)は,相続税の補完税とし
て機能する贈与税の徴収の確保が図られなければ,贈与形式による相続税
の回避を防止しようとする補完税の目的を達成することができず,租税負
担の公平が図れなくなるため,こうした事態を避けるために規定されたも
のである。この趣旨からすれば,相続税法34条1項について判示した最
高裁昭和55年判決の内容が,贈与者の連帯納付義務について規定した同
条4項にあてはまることは明らかである。
イ控訴人は,連帯納付義務に国税通則法15条及び16条が適用される旨
主張する。
「納税義務の確定手続」は,課税要件事実を税法の各規定に当てはめて
課税標準の認定及び税額の計算を行い,納税義務の具体的内容を確定する
手続であるところ,相続税法34条の規定は,他の共同相続人,受遺者又
は受贈者に,既に成立・確定している相続税又は贈与税の履行責任を負わ
せたものであるから,改めてその課税標準を認定して税額の計算を行う必
要がない。国税通則法5条は「国税を納める義務(同条1項)と「国税」
を納付する責め(同条3項)とを使い分けているところ,同法15条及」
び16条の規定は「国税を納付する義務(納税義務)が成立する場合,」
の税額の確定について定めたものであり,連帯納付義務者の「連帯納付の
責め」について定めた相続税法34条1項及び4項の場合に適用がないも
のと解するのが相当である。
()控訴人の主張()(第2差押処分が適法な督促の前置を欠くこと)につい22

ア本件督促は第1差押処分の前提要件としてされたものではないから,本
件督促と第1差押処分とを一連一体の手続と解するのは誤りである。本件
督促は,第1差押処分が督促手続の前置を欠く違法な処分であり解除され
るべきものであることを前提として,控訴人が本件贈与税等を納付しない
場合に改めて差押処分をすることを予定してされたものである。
結果として,第1差押処分は,本件督促の後である平成11年3月5日
に解除されているが,これは,控訴人から,第1差押処分を解除しても再
び差押処分がされるのであれば登記が汚れるから,第1差押処分はそのま
まにしておいてほしいとの申入れがあったこと,及び三島税務署の徴収官
ができる限り本来の納税義務者であるAから納付を受けられるよう努力を
継続していたことによるものであり,三島税務署長が上記のような控訴人
の申入れを容れて第1差押処分の解除をすることを差し控えていたことを
逆手に取って,本件督促が違法であると主張することは不当である。
イ(ア)督促は,取消訴訟の対象となる行政処分であり,正当な権限を有す
る行政庁又は裁判所による取消があるまでは有効なものとして効力を有
する。したがって,三島税務署長がした本件督促は,本件贈与税等が完
納されない限り,差押えの前提条件としての効果を有するのであって,
本件督促後,事前の督促を欠く第1差押処分を解除したからといって,
本件督促の効果が消滅する理由はない。
(イ)また,三島税務署長が控訴人及びその親族から違法な差押処分を解
除するよう要請を受けながら,控訴人及びその親族の要望に従って第1
差押処分の解除を差し控えた経緯は前示のとおりである。
仮に,Bが控訴人に対して本件発言をしたり控訴人との間で本件合意
をしたりしたとしても,Bが控訴人に対し,本件贈与税等の納付がなけ
れば督促を欠く第1差押処分を解除した後に再度差押えをすると説明し
ていることも前示のとおりであるから,控訴人が本件贈与税の納付によ
り第1差押処分が解除されたものと認識し,今後請求や差押処分を受け
ることはないと信じるに足りる状況が存在したということはできない。
()控訴人の主張()(信義則違反による第2差押処分の無効)について33
ア贈与税及び延滞税に係る贈与者の連帯納付義務は,前示のとおり,贈与
行為や法定納期限の徒過により法律上当然に生じるものである。したがっ
,,(「」。)て控訴人が訴外会社その代表取締役であるD以下訴外Dという
に金員を騙取されたことに同情するようなBの言葉を誤解し,本件贈与税
等の連帯納付義務を履行しなくてもよいと誤信したとしても,これによっ
て本件贈与税等に係る控訴人の連帯納付義務が影響を受けることはなく,
本件延滞税の納付義務が履行されないことを理由として本件督促後にされ
た第2差押処分は適法である。
イ控訴人は,三島税務署長が控訴人による本件贈与税の納付後間もなく第
1差押処分を解除した経過からすると,控訴人には,本件贈与税の納付に
より第1差押処分が解除されたものと認識し,今後再び請求や差押処分を
受けることはないと信頼するに足りる状況があったなどと主張する。
しかし,Bは,平成10年8月28日ころ,控訴人に対し,本件贈与税
等の納付がなければ,督促を欠く第1差押処分を解除した後に再度差押処
分をすることを説明しており,控訴人もそのことを認識していたものであ
る。三島税務署長としては,本件贈与税の納付後,控訴人の長男であるE
らから,本件延滞税の納付はしないとの強い意向が示されたため,督促を
欠く第1差押処分によっては公売手続に進めることができないことから,
改めて差押処分をするために一旦第1差押処分を解除したのであり,控訴
人が本件贈与税を納付したから解除をしたものではない。したがって,三
島税務署長が第1差押処分を解除することにより,控訴人が今後再び請求
や差押処分を受けることはないと信頼するに足りる状況が作出されたとい
うことは到底できない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は,
以下のとおり付加,訂正し,次項において当審における控訴人の補充主張につ
いての判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所
の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
()原判決9頁14行目の「535頁参照」の次に,以下のとおり加える。1
「。なお,控訴人は,相続税法34条1項が規定する共同相続人等の連帯納
付義務と,同条4項が規定する贈与契約における贈与者の連帯納付義務と
では立法趣旨及び利益状況を異にするから両条項を同一に解釈することは
できず,最高裁昭和55年判決は,そもそも同条1項の解釈論自体に疑問
があるのであり,同条4項には妥当しないなどと主張する。しかし,同条
1項及び4項の各規定はいずれも納税義務の根拠規定ではなく,他の共同
相続人,受遺者又は受贈者に,既に成立し確定した相続税又は贈与税につ
いて,これと同一内容の履行義務を連帯納付義務者に負わせることによっ
てこれらの税の徴収確保を図ろうとする趣旨の規定であること,連帯納付
義務の範囲は共同相続人又は受遺者の相続税の場合と同様に受遺者の贈与
税の納税義務の確定によって自動的に確定するものであること,相続税法
34条1項が規定する共同相続人等の連帯納付義務の場合と同条4項が規
定する贈与契約における贈与者の連帯納付義務の場合とで,確定手続の要
否や納付告知の要否の観点からみた場合に,両者の間に差異を設けなけれ
ばならない程に利益状況に差異があるとは認められないことからすると,
最高裁昭和55年判決は同条4項による連帯納付義務についても当てはま
るというべきであるから,控訴人の上記主張は理由がない」。
()原判決11頁15行目から16行目にかけて「上記の制約は受忍限度の2
範囲内であり,贈与者に必要以上の所有財産の留保を強いるものとは認めら
れないから」とあるのを「上記の贈与者に対する連帯納付義務は立法目,,
的において正当なものであり,かつ,控訴人の主張する制約も事実上のもの
にすぎないから,制約の態様が著しく不合理であることが明らかであるとは
いえず,贈与者の財産権に不合理な制約を課すものとはいえない(最高裁判
),」所大法廷昭和60年3月27日判決・民集39巻2号247頁参照から
と改める。
()原判決15頁「ウ」の項(6行目から12行目まで)を,以下のとおり3
改める。
「ウ平成8年10月8日,控訴人,Aほか1名は,控訴人宛てに本件お知
らせが送付されたことに驚き,三島税務署を訪れてBと面談した。控訴
人らは,Bに対し,Aは本件贈与税等の納付のための金員を訴外Dに預
託しており,同人から既に納付されたものと思っていたが,同人は未だ
上記納付をしていないこと,及び訴外Dと控訴人との間には全くの血縁
関係がないことを説明した(Bはそれまで,控訴人と訴外Dとが血縁関
係にあり,親族が共謀して納税義務を免れようとしているのではないか
との疑いを有していたが,上記説明により認識を改めた)上,Aは破。
産宣告を受けて支払ができないので,訴外会社ないしその代表取締役で
,,ある訴外Dから本件贈与税等を徴収してほしいと要望したところBは
訴外Dから本件贈与税等を直接徴収するためには同人を保証人とする必
要がある旨回答し,そのために必要な納税保証書等の書類を控訴人側に
交付するとともに,今後はできる限り訴外Dに請求し,控訴人には迷惑
をかけないようにするとの趣旨の発言をした。
翌日,Aと訴外Dは,三島税務署を訪ね,訴外Dにおいて,訴外会社
及び訴外Dの各納税保証書を三島税務署長に対して提出した」。
()原判決16頁6行目の末尾に,以下のとおり加える。4
「控訴人らは,こうしたBの説明を聞いて,本件不動産に係る登記簿に差押
え,同差押えの解除及び再度の差押えの各登記が経由されて本件不動産が
係争物件であるかのような外観を呈することを嫌い,Bに対し,それ以上
第1差押処分を解除するようには述べなかった。
三島税務署長は,こうした控訴人らの態度等から,直ちに第1差押処分
の解除を行わなかった(Bは,控訴人らのこのような態度から第1差押処
分を直ちに解除しなかったが今振り返ると適切でなかった旨証言(原審)
しているが,被控訴訴人において督促を欠く第1差押処分は直ちに取り消
すべきものであったといわざるを得ないのであり,にもかかわらず,これ
を取り消すことなく,後記のとおり平成10年6月11日に本件督促を行
い,その8か月後に,控訴人が贈与税本税を納付した後に至り,第1差押
処分を取り消し,かつ,その後1年7か月後に第2差押処分をするに至っ
たことが,当事者間の事実認識等の差異を生じさせ,本件紛争を惹起させ
複雑化したことは否定し難いところであり,被控訴人のかかる対応は,後
,。)。」記のとおり相応の理由があったとしても適切であったとはいい難い
()原判決16頁23行目の「また」から同17頁1行目末尾までを削除す5,
る。
()原判決17頁11行目の末尾に,行を改めて以下のとおり加える。6
「ソ平成12年9月ないし10月ころ,三島税務署の職員であるFが控訴
人方を訪れ,本件延滞税を納付するよう催告をした。
その後,平成12年10月10日,三島税務署長は,本件延滞税を徴
収するため,本件不動産を差し押さえた(第2差押処分」)。
,。()原判決17頁12行目から20頁17行目までを以下のとおり改める7
「()本件発言の有無等3
ア控訴人は,平成8年10月8日のBとの面談の際,Bが本件発言を
したと主張し,原審証人A,同G及び同Eはおおむねこれに沿う証言
をするとともに,陳述書(甲21号証,23号証,31号証,32号
証)中には上記主張に沿うかのごとき陳述記載がある。他方,原審証
人Bの証言及び陳述書(乙4号証)中には,これに反する供述及び陳
述記載をしている。
そして,Bは,平成8年10月8日,控訴人らが来訪した際,控訴
人らから,Aは本件贈与税等の納付のための金員を訴外Dに預託した
にもかかわらず,訴外Dは未だ上記納付をしていないこと,訴外Dと
控訴人との間には全く血縁関係がないことなどの説明を受け,控訴人
と血縁関係にある訴外Dとが共謀して納税義務を免れようとしている
のではないかとの疑いを払拭したことは前示のとおりであり,これら
の事情によれば,Bは,連帯納付義務を規定した相続税法34条4項
の規定により本件贈与税等の連帯納付義務を負うことになった控訴人
に同情し,できる限り訴外Dから本件贈与税等の納付を受けることに
より控訴人の負担を軽減しようと考えたものと推認できるところであ
る。さらに,証拠(甲28,30)及び弁論の全趣旨によれば,控訴
人,Eほか1名は,平成10年8月28日,Bと面談した際,平成8
年10月8日の面談の際にBが控訴人には迷惑をかけない旨の発言を
したことを指摘しても,Bから何らの反論がなかったことが認められ
る。
これらの事情に徴すると,Bは,平成8年10月8日の面談の際に
控訴人らに対し,今後はできる限り訴外Dに請求し,控訴人には迷惑
をかけないようにするとの趣旨の発言をしたと推認するのが相当であ
る。
イもっとも,上記のとおり,Bは,控訴人の立場に同情して上記発言
をしたものである上,平成10年8月28日,控訴人宅を訪れた際,
控訴人に対し,本件延滞税の免除はできないこと,訴外Dから本件贈
与税等を徴収できれば控訴人には迷惑がかからないが,徴収ができな
ければ控訴人から本件贈与税等を徴収することを説明したことも前示
のとおりであるから,これらの事情によれば,Bは,今後できる限り
訴外Dから本件贈与税等の納付が受けられるよう訴外Dに働きかけ,
控訴人の納税額を減額するように努力するものの,訴外DやAから本
件贈与税等の徴収ができなければ,最終的には控訴人から本件贈与税
等の納付を受けることになってもやむを得ないと考えて,上記の趣旨
の発言をしたものと認めるのが相当である。なお,被控訴人は,平成
9年9月から平成10年10月ころにかけて,Aの訴外会社に対する
預託金返還請求権を差し押さえて回収を図ったが,計61万円程の配
当を受けたにすぎなかった(これらはAの所得税や本件贈与税に一部
充当された。また,訴外DはBに対し,事業が成功すれば贈与税等を
支払える旨述べていたが,結局支払うことができなかったものであ
る(乙6の1ないし14,原審証人B。。))
()本件合意の有無4
控訴人は,平成11年2月ころBとの間で,本件贈与税を納付すれば
本件延滞税を免除するとともに第1差押処分を解除する旨の合意(本件
合意)が成立したと主張する。
しかしながら,Bは一貫して本件合意の成立を否定する(乙4,原審
証人B)ばかりか,原審証人Eは原審における証言の中で,Bが本件延
滞税を免除すると明確に発言したことはなく,本件延滞税については考
慮する旨の発言をしたにとどまること,及び控訴人がBから本件延滞税
の免除に関する書類を受領したことはないことを供述しているところで
あり,これらの事情に徴すると,控訴人主張の本件合意の成立を認める
ことはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
()信義則違反による第2差押処分の無効について5
ア控訴人は,第2差押処分は本件発言及び本件合意に反するものであ
り,信義則に反する旨主張する。
しかしながら,本件合意の成立を認めることができないことは前示
のとおりであり,本件発言についても,Bは,今後はできる限り訴外
Dに請求し,控訴人には迷惑をかけないようにするとの趣旨の発言を
したと認められるに止まることも前示のとおりである。
したがって,第2差押処分は本件発言及び本件合意に反するもので
あって信義則に反するとの控訴人の上記主張は,その前提を欠くこと
となって,理由がない。
イ(ア)さらに,控訴人は,本件発言により本件延滞税について連帯納
付義務が免除されたものと信頼したこと,本件合意をして本件贈与
税を納付した後まもなく,三島税務署長が第1差押処分を解除した
ことからすると,本件贈与税の納付により第1差押処分が解除され
たものと認識し,今後再び請求や差押処分を受けることはないと信
頼するに足りる状況があったものであって,それにもかかわらずな
された第2差押処分は信義則に違反し違法又は無効であるなどと主
張する。
(イ)たしかに,Bは,平成8年10月8日控訴人らに対し,今後は
できる限り訴外Dに請求し,控訴人には迷惑をかけないようにする
との趣旨の発言をしたことは前示のとおりであり,控訴人らが本件
贈与税等の連帯納付義務について不十分な知識しか有していないと
推認されることからすると,Bの説明が適切さないし丁寧さをやや
欠くものであったことは否定できないところである。また,三島税
務署長は,違法な第1差押処分を10か月間近く放置しながら,控
訴人が本件贈与税を納付した後間もなく同処分を解除していること
も前示のとおりである。
(ウ)しかしながら,Bが上記のような発言をした真意が,今後でき
る限り訴外Dから本件贈与税等の納付が受けられるよう訴外Dに働
きかけ,控訴人の納税額を減額するように努力することにあったこ
と,証拠上本件合意の成立を認めることができないこと,Bは,第
1差押処分の後である平成10年5月14日控訴人らに対し,違法
な第1差押処分を解除することは可能であるが,督促状を発布した
後,延滞税を含めた本件贈与税等の納付がなければ再度本件不動産
を差し押さえる旨回答していること,Bはその後も控訴人やEに対
し,繰り返し,訴外Dから本件贈与税等を徴収できなければ控訴人
,,から徴収することになるなどと説明していること三島税務署長は
Bとの面談後本件不動産が係争物件であるかのような外観を呈する
ことを嫌って第1差押処分の解除を申し入れなかった控訴人らの態
度等から,直ちに第1差押処分の解除を行わなかったことも前示の
とおりである。
(エ)これら(ウ)記載の事情に徴すると,(イ)記載の事情から,控訴
人が本件贈与税の納付により第1差押処分が解除されたものと認識
し,今後再び請求や差押処分を受けることはないと信頼するに足り
る状況があったとまで断ずることはできず,他にこれを認めるに足
りる証拠はない。そして,その後本件延滞税は納付されなかったた
め,平成12年10月10日,第2差押処分がされたものである。
そうすると,第2差押処分が本件督促から2年4か月後になされた
ことを勘案しても,本件において,納税者間の平等公平という要請
を犠牲にしてもなお,第2差押処分の効果を否定して控訴人の信頼
を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する
とはいえない。
したがって,控訴人の上記主張も理由がない。
ウ以上より,第2差押処分が信義則に反し違法であるということはで
きないものというべきである」。
()原判決20頁18行目の「()」を「()」と改める。856
2当審における控訴人の補充主張に対する判断
()控訴人は,相続税法34条1項及び4項の連帯納付義務は,第二次納税1
義務又は国税の保証人の義務にも該当しない上,国税通則法2条5項におい
ては連帯納付義務者は「納税者」から除外されていないから,国税通則法1
5条及び16条が適用される結果,同条2項による賦課決定による確定手続
が必要となると主張する。
しかしながら,国税通則法15条は「国税を納付する義務」が成立する場
合において納付すべき税額の確定について定めた規定であり,同法16条は
これを受けて国税についての納付すべき税額の確定の手続について定めた規
定であるのに対し,相続税法34条1項又は4項の連帯納付義務は,他の共
同相続人,受遺者又は受贈者の既に確定している納税義務に対する連帯納付
の責任を定めた規定であって,法文上も「連帯納付の責めに任ずる」との文
言が用いられている。したがって,国税通則法15条及び16条の規定は,
国税についての納税義務が成立する場合の税額の確定について定めたもので
あり,連帯納付義務を定めた相続税法34条1項及び4項の場合には適用が
ないと解するのが相当である。
よって,控訴人の上記主張は採用することができない。
()ア控訴人は,本件において,督促がないままに違法な第1差押処分がさ2
れ,それが維持されている状態で,同差押処分の後に本件督促がされてい
るが,本件督促と第1差押処分とは一連一体の手続というべきであり,違
法な第1差押処分が継続している下で,当該違法状態を作出した同一官署
が行った本件督促もまた違法であると解すべきであるなどと主張する。
イしかしながら,国税通則法37条にいう督促は「国税に関する法律に基
づく処分」であって取消訴訟の対象となると解するのが相当であり(最高
),裁判所第二小法廷平成5年10月8日判決・判例時報1512号20頁
第1差押処分と本件督促とは別個独立の処分であるというべきものであ
る。
加えて,本来第1差押処分はすみやかに取り消されるべきものであった
といえるが,前記認定事実及び原審証人Bの証言によれば,三島税務署長
は,第1差押処分をした後,控訴人側から指摘を受けて督促が先行してい
ないことに気付き,控訴人側から第1差押処分を解除するよう強い申入れ
を受けたこともあって,違法な第1差押処分を解除して再度本件不動産の
,,差押処分をすることに備え本件督促をしたものであると認められるから
こうした経過に徴すると,先行処分である第1差押処分と後行処分である
本件督促とが連続した一連の手続を構成するとはいえず,第1差押処分の
,,違法性を本件督促が承継するということはできないから本件督促が違法
無効であると断ずることもできない。
ウまた,前示の事実経過の下では,本件督促が,違法な第1差押処分と一
連一体であるとか,違法な第1差押処分が継続している下で当該違法状態
を作出した三島税務署が行ったものであるとの理由で,直ちに違法になる
ということもできない。
エしたがって,控訴人の上記主張は採用できない。
()控訴人は,三島税務署長が,控訴人らから第1差押処分を解除するよう3
要請を受けたものの10か月間にわたってこれを解除しないでおきながら,
控訴人が本件贈与税を納付した後間もなくして第1差押処分を解除したこ
と,仮に本件発言及び本件合意が認められないとしても,控訴人には本件発
言及び本件合意があったと信じることもやむを得ない事情があったことから
すると,本件において,控訴人には,上記の本税納付により第1差押処分が
解除されたものと認識し,今後請求や差押処分を受けることはないと信じる
に足りる状況が存在したものであって,本件督促の効果は喪失していると解
すべきであるなどと主張する。
しかしながら,本件延滞税が納付されていない状況であることは控訴人も
,()認識していたものというほかないのであり本件督促から長期間2年4月
にわたり,差押処分がされなかったからといって,本件督促の効果が喪失し
ているとは解し難く,また,第2差押処分が信義則に反して違法であるとい
うこともできないことは前示のとおりであるから,控訴人の上記主張は採用
することができない。
3以上より,控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却するのが相当であ
り,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄
却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第16民事部
裁判長裁判官宗宮英俊
裁判官坂井満
裁判官大竹昭彦

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛