弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人三名弁護人木下清一郎上告趣意第一点の一について。
 原判決は「被告人Aは云々右被告人B、被告人Cの協力によつて被告人Aは同被
告人等と協同して同年六月二二日大阪市a区bc丁目d番地の被告人Aの自宅で被
告人Dに対し右アルコール約九斗九升を代金三万三千円で飲用として販売し」と認
定していて、所論のように、被告人Bが被告人Aの代理として被告人Cを通して原
審相被告人Dに販売したものであるとは認定していない。そして、所論に摘示する
ような被告人Aの供述があるに拘らず、原審が所論のような認定をしないで判示の
ように認定をしたからといつて、経験則に反する違法のものとはいえない。されば、
原審が被告人Aに対して有毒飲食物等取締令第六条を適用せず、同令第四条第一項
を適用して処断したのは正当であつて、所論のような擬律錯誤の違法はない。所論
は結局原判決の認定した事実に副わない見解の下に法律適用の錯誤を主張するもの
に外ならないから採るを得ない。
 同第一点の二について。
 原判決挙示の証拠によつて本件アルコール売買の経緯特に被告人B、同Cの右売
買についてした協力の内容を仔細に検討するに、同人等が本件アルコール売買の発
端をつくり、その実行、結了に至る間たえず主要の役割を演じていることが明らか
であつて、単に同人等が被告人Aを原審相被告人Dに紹介して本件アルコールの売
買を幇助したに過ぎないものとは認められず、むしろ同人等は被告人Aと協同して
本件アルコールの販売をしたものであることがうかがわれる。されば原審がその挙
示せる証拠によつて第一点の一に対する説明中に摘示したとおり判示事実の認定を
したのは正当であつて、反経験則その他の違法はない。従つて原判決が被告人等三
名の間に主犯従犯の別を認めず、何れも正犯として懲役三年に処したからといつて、
所論のような擬律錯誤の違法あるものとはいえない。此の点に関する所論は結局原
判決の事実認定と異なる事実見解の下に擬律錯誤の違法ありと主張するものである
からこれまた採るを得ない。
 同第二点及び第三点について。
 わが国においては戦時中からでもあつたが終戦後特に目立つて一般にメチールア
ルコールその他有毒物を含有する酒類等を飲食用する弊風が盛になつてきて失明者
や死亡者を続出するに至つたこと、従つて一日も早くかような飲食物を厳重に取締
る特別の法令を制定しなければならぬ社会情勢に置かれていたことは、顕著の事実
であつた。そこへ、連合国占領軍総司令部(以下総司令部と略称する)は一九四五
年一二月一八日附有毒飲料の取締に関する覚書を日本政府に交付して、「メチール
アルコール」その他毒物を混入せる食料及飲料の販売取引、かかる食料飲料の製造
蒸溜若しくは所有は二千円以上一万円以下の罰金又は三年以上一五年以下の体刑若
しくは右罰金刑及び体刑を併科せらるべきことを規定する適切な法令の制定を指令
し、更にこの指令に基く法令及び酒精飲料「メチールアルコール」及び其の他毒物
の取引並に製造販売の取締に関する一切の現行日本法令の規定を厳格に施行すべき
旨を指令したのである。そこで日本政府は昭和二〇年勅令第五四二号「ポツダム」
宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件に基き同二一年勅令第五二号有毒飲食物等
取締令を制定公布し同年一月三〇日から施行したのである。ついで故意犯たると過
失犯たるとを問わず法定刑の範囲内で処断する規定を追加制定すべき旨昭和二一年
五月二八日総司令部から指令があつたので、日本政府は同年六月一八日同令改正に
当つて、第四条第一項末尾に「過失ニ因リ同条ノ規定ニ違反シタル者亦同ジ」と追
加したのである。されば、所論の有毒飲食物等取締令に於ては昭和二一年(上告趣
意には昭和二二年とあれども昭和二一年の誤記と認む)六月一八日改正の際過失に
よる行為をも処罰すると規定しながら過失犯に対する刑罰につき第四条の改正を遺
脱した旨の主張は同条改正の趣旨を正解せざるにいでたものであるといわなければ
ならぬ。しかのみならず、かような危険な飲食物を徹底的に取締るということに重
点をおく以上は、所論のように、過失による犯行を故意によるものから区別してこ
れに対しては唯罰金刑を科し得るに止まる規定を定むべきだとする主張はこれを容
認することができぬ。弁護人は過失による犯行にも体刑を科し得るとする本令第四
条の規定は憲法第一三条に違反するというけれども、個人の生命、自由、権利も社
会生活の正しい秩序、共同の幸福が保持されない限り所詮それは砂上の楼閣に終る
しかないのである。されば憲法第一三条には「公共の福祉に反しない限り」との大
きな枠をつけてありまた他方において第三一条においては社会秩序保持のため必要
とされる国家の正当な刑罰権の行使を是認しているのである。(昭和二二年(れ)
第二〇一号同二三年三月二四日大法廷判決参照)そして本件取締令第一条に違反す
る行為が故意によると過失によるとによりその法定刑に区別を設けないことが有毒
飲食物から公衆の健康を維持し生命を保全するといういわゆる公共の福祉のために
必要であることは前段説明で明らかであるから、本件取締令第四条がこの区別を定
めていないからといつて、憲法第一三条に違反する無効のものだとはいえない。論
旨第三点は理由がない。
 次に所論の第四条を適用して処断するにあたつて故意による犯行については体刑
を科し過失によるものについては罰金刑を科すべきだとの解釈は同条の文詞から容
認され得ないばかりでなく、前段説明により明らかな同条に過失による犯行につい
ての規定が追加された趣旨にも反している。そして、個々の事件について過失によ
る犯行について罰金刑と体刑と何れを科するか又併科するかは事実審たる原裁判所
の裁量権にのみ属するところであるから、原審が過失による被告人等の犯行につい
て諸般の事情を考慮参酌して体刑を科したからといつて所論のような法令を不当に
適用した違法ありとはいえない。論旨第二点もその理由がない。
 よつて刑訴法第四四六条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二三年一二月二七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    霜山精一同島保は差し支えにつき各署名
捺印することができない
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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