弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所宮崎支部に差し戻す。
         理    由
 検察官の上告趣意第一について。
 所論は、判例違反をいうけれども、原判決は、追徴の点に関し、いわゆる第三者
没収が違憲である場合には、これに代わる追徴も許されないとした昭和二九年(あ)
第五六六号、同三七年一二月一二日大法廷判決(刑集一六巻一二号一六七二頁)を
引用して、本件犯罪貨物中、押収にかかるスイス製腕時計男物フリーマン九個(証
第一号)以外の腕時計全部について、それらがいずれも裁判時第三者の所有に帰し
ていることを理由に、その没収に代わる追徴は許されない旨判示したに止まり、論
旨引用の各判例と牴触する判断をなんら示していない。それゆえ、所論判例違反の
主張は採用できない。
 なお、所論に鑑み、職権をもつて、追徴の点に関する原判示につき調査するに、
原判決の引用する前記大法廷判決は、犯人の占有する犯罪貨物が犯行当時被告人以
外の第三者の所有に属し、その後没収不能となつた事案に関するもので、犯行当時
犯罪貨物が被告人の所有に属していたと認められる本件とは事案を異にし、不適切
である。のみならず、右大法廷判決が、犯行当時被告人の所有に属していた犯罪貨
物を犯行後善意の第三者に譲渡した場合における被告人に対する追徴をも否定する
趣旨でないことは、論旨の指摘するとおりである。しからば、原判決が、第三者の
善意、悪意を問うことなく、単に、裁判時犯罪貨物が第三者の所有に帰するにいた
つたことを理由に、追徴を否定したのは失当というべきである。
 ところで、記録によれば、原判決が追徴の言渡が許されないとした本件犯罪貨物
中、第一審判決の犯罪表1のスイス製腕時計女物エニカ一二個、同男物ジーベニヤ
一個は、被告人Aにおいて那覇市にある仕入先の時計商に返品し、その余の密輸時
計もすべて、氏名住所等不詳の第三者に売却して、いずれも事実上没収不能のもの
と認められ、これら第三者の善意悪意は記録上判明しない。しかし、これら第三者
が善意の場合は勿論のこと、かりに悪意であると仮定しても、すでにそれら犯罪貨
物が事実上没収不能に帰した以上、関税法一一八条二項により、被告人らに対し、
その没収に代わる追徴を科すべきであり、この場合、それら第三者を訴訟手続に参
加させなくても、違憲の問題を生じないことは、昭和三七年(あ)第一二四三号、
同三九年七月一日大法廷判決(刑集一八巻六号二九〇頁)の趣旨とするところであ
る(昭和三八年(あ)第一〇八三号、同三九年一〇月三〇日第二小法廷判決参照)。
しかるに、原判決が前記犯罪貨物に関し、被告人らに追徴の言渡が許されないとし
たのは、結局、関税法一一八条二項の解釈適用を誤つた違法があるものというべき
で、検察官のその余の論旨につき判断を加えるまでもなく、原判決は破棄を免れな
い。
 よつて、刑訴法四一一条一号に従い、なお、本件犯罪貨物に関し、第一審相被告
人らが、もし追徴金を納付しているならば、その限度で被告人らに重ねて追徴を科
しえない筋合にあり(昭和三〇年(あ)第三四四五号、同三三年四月一五日第三小
法廷判決、刑集一二巻五号九一六頁、同三五年(あ)第一七七二号、同三八年一二
月四日大法廷判決、刑集一七巻一二号二四一五頁参照)、この点に関し、さらに、
審理の必要があることに鑑み、同法四一三条本文を適用し、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 野木新一公判出席
  昭和四〇年五月四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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