弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,控訴人の次の請求に係る敗訴部分を取り消す。
(1)渋谷区教育委員会が平成21年4月27日付けで控訴人に対してした
公文書非公開処分(ただし,「A学級の平成19年度,平成20年度の
予決算書及び会計書類の全て」に係る部分を除く。)の取消しに係る請
求部分
(2)渋谷区教育委員会が平成21年6月17日付けで控訴人に対してした
公文書非公開処分の取消しに係る請求部分
2渋谷区教育委員会が平成21年4月27日付けで控訴人に対してした公
文書非公開処分(ただし,「A学級の平成19年度,平成20年度の予決
算書及び会計書類の全て」に係る部分を除く。)を取り消す。
3渋谷区教育委員会が平成21年6月17日付けで控訴人に対してした公
文書非公開処分を取り消す。
4訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の負担
とし,その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1主文1項から3項と同旨
2訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
本判決で用いる略称は,原則として,原判決記載のものである。
1本件は,渋谷区内に住所を有する控訴人が,渋谷区教育委員会(区教育委員
会)に対し,渋谷区情報公開条例(平成元年渋谷区条例第39号。本件条例)
に基づき,6回にわたり,A学級に関する文書の公開の請求をしたところ(本
件各公開請求),処分行政庁である区教育委員会から,控訴人が本件各公開請
求において公開を求めた各文書(本件各文書)は,本件条例6条3号ア(公に
することにより,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するお
それがあるもの)及び同条6号イ(争訟に係る事務に関し,実施機関の当事者
としての地位を不当に害するおそれがあるもの)に該当し,又は同号イ(上記
のおそれがあるもの)に該当するとして,本件各文書を公開しない旨の各決定
(本件各非公開決定)を受けたため,控訴人が,本件各非公開決定には本件各
文書が上記各事由に該当しないのに非公開とした違法及び理由付記が不備であ
る違法があるとして,①平成21年3月11日付け公文書非公開決定,②同年
4月13日付け公文書非公開決定,③同月27日付け公文書非公開決定(ただ
し,「A学級の平成19年度,平成20年度の予決算書及び会計書類の全て」
に係る部分を除く。以下,同部分を除いた残部分の文書を「本件文書3①」と
いう。),④平成21年5月7日付け公文書非公開決定,⑤同年6月17日付
け公文書非公開決定(⑤の非公開決定に係る文書を「本件文書5」という。),
⑥同月18日付け公文書非公開決定の各取消しを求める事案である。
2原判決は,控訴人の請求はいずれも理由がないとして,これを棄却した。
3控訴人は,原判決中,上記③及び⑤に係る請求を棄却した部分についてのみ,
これを不服として控訴をした。
4本件条例の定め,前提事実,争点,争点に関する当事者の主張の要旨は,原
判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の1から4に記載のとおり
であるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり改める。
(1)原判決9頁10行目の「争点」の後に「(以下の争点は,本件文書3①及
び本件文書5に関するものに限る。)」を加え,同13行目の冒頭から同1
4行目の末尾までを削る。
(2)同10頁12行目の「本件文書1」を「本件文書3①及び本件文書5」と
改め,同13行目の「本件文書1及び」を削り,同15行目の「本件文書2」
から同16行目の「本件文書6は」までを「本件文書5は」と改める。
(3)同13頁24行目の冒頭から同15頁9行目の末尾までを削る。
(4)同16頁4行目の「本件文書1」から同8行目の「本件文書6が」までを
「本件文書3①及び本件文書5が」と改める。
第3当裁判所の判断
1前記引用に係る原判決認定の前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨に
より認定される事実は,原判決の「事実及び理由」中の「第3争点に対する
判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
2争点(1)(本件文書3①及び本件文書5の本件条例6条6号イ該当性)につい

(1)本件条例6条は,実施機関(区長,教育委員会,選挙管理委員会,監査委
員及び議会をいう。本件条例2条1号)は,公開請求があったときは,公開
請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報(非公開情報)が記
録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該公文書を公開しなければ
ならない旨規定し,同条6号は,実施機関,国,独立行政法人等,他の地方
公共団体又は地方独立行政法人(以下「実施機関等」という。)が行う事務
又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれそ
の他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及
ぼすおそれがあるものが非公開情報に当たるとし,同号イは,契約,交渉又
は争訟に係る事務に関し,実施機関等の財産上の利益又は当事者としての地
位を不当に害するおそれを例示するものである(甲2)。
ところで,本件条例は,公文書の公開を請求する区民の権利を明らかにす
るとともに,公文書の公開等に関し必要な事項を定めることにより,区民の
知る権利を保障するとともに,区が区政に関し区民に説明する責務を全うす
るようにし,もって公正で開かれた区政の進展を図ることを目的として設け
られたものであり(本件条例1条),この趣旨から,本件条例6条は,区の
保有する情報は公開することを原則とし,非公開とすることができる情報を
限定したものと解される。
そして,本件条例6条6号イが,「争訟に係る事務」に関する情報が記録
された公文書を非公開とすることができる旨定めている趣旨は,実施機関等
が一方当事者として争訟に対処するための内部的な方針に関する情報が公開
されると,それが正規の交渉等の場を経ないで相手方当事者に伝わるなどし
て,紛争の公正,円滑な解決を妨げるおそれがあるからであると解され(最
高裁平成8年(行ツ)第236号同11年11月19日第二小法廷判決・民
集53巻8号1862頁参照),同規定にいう「争訟に係る事務」に関する
情報とは,現在係属し又は係属が予想される争訟についての対処方針の策定
やそのために必要な事実調査など個別具体的な争訟の追行に係る事務に関す
る情報にとどまらず,一般的な争訟事務に関する対処方針の策定や事実調査
の手法などの情報をも含むものと解するのが相当である。一方,争訟の対象
となる行政上の行為の行われる過程において,当該行政上の行為の適正を保
持するために作成され,取得された文書は,争訟に係る事務に関して作成さ
れ,取得された文書ではないことからすると,これが,当該行政上の行為に
係る争訟において証拠として提出されることがあり得るとしても,直ちにこ
れを争訟に係る事務に関する情報であると解することはできない。
(2)これに対し,被控訴人は,現に係属中の民事訴訟における証拠資料となる
べきものについては,当事者は,当該訴訟の訴訟活動の中で,これを証拠と
して提出するか否か,提出するならばどの時期にどのような形で提出するか
等について,当該訴訟の進行状況等を勘案しながら,自由に判断することが
できるのであり,情報公開手続で対象文書が無制限に公開されることになる
と,当該当事者の訴訟上の地位を不当に害することになる旨主張する。
たしかに,行政訴訟においては,訴訟資料の提出を当事者の権能及び責任
とする弁論主義が適用されており,当事者は,訴訟の進行状況に応じ適切な
時期に主張及び証拠の申出をしなければならないとされている(行政事件訴
訟法7条,民事訴訟法156条)。そこで,争訟に係る事務の性質上,当事
者として,争点に係る事実についての主張立証の方法及びその提出時期の選
択についての方針は,当該訴訟についての対処方針に当たり,その対処方針
を策定したり,そのために必要な事実を調査したりすることは,当該訴訟の
追行に関する事務であって,本件条例6条6号イにいう「争訟に係る事務」
に該当するものと解される。しかしながら,以上のように争訟のための主張
立証方針等の対処方針の策定やそのための事実調査の過程で作成され,取得
された情報が本件条例6条6号イにいう「争訟に係る事務」に関する情報に
該当するということは,当該訴訟の対象とされ,あるいは対象とされること
が予想される行政上の行為の適正を保持するために作成され,取得された情
報までもが,その事務の性質上,直ちに「争訟に係る事務」に関する情報に
該当することを意味するものではないのである。以上のような行政上の行為
に関する情報が「争訟に係る事務」に関する情報に該当しないとの上記解釈
をとると,実施機関等の争訟において主張立証に関する適時提出主義の枠内
において自らの訴訟活動を裁量により取捨選択し得る当事者としての地位に
伴う当然の利益の保護に欠ける面があるとみえるが,そもそも弁論主義にお
いては,当事者は証拠の提出時期にとどまらず証拠として提出するか否かも
その訴訟活動上の判断にゆだねられているのであるから,住民訴訟について
みれば,争訟が係属し,あるいは係属が予想される行政上の行為又は怠る事
実に関する情報は実施機関において一般的に非公開とすることが許容される
結果を招来することとなり,区民の知る権利を保障するとともに,区が区政
に関し区民に説明する責務を全うすることを目的とし,区の保有する情報は
公開することを原則とし,非公開とすることができる情報を限定した本件条
例の趣旨に反する結果となり相当ではないのである(なお,情報公開・個人
情報保護審査会平成14年6月11日答申(平成14年度(行情)答申第5
6号),同年10月1日答申(平成14年度(行情)答申第231号)参照)。
なお,「争訟に係る事務」に関する情報か否かを,公開請求者が訴訟当事
者であるか否かなど公開請求者と当該訴訟との関わり,当該行政文書の訴訟
の争点との関係における重要性の程度,当該訴訟の進行状況等を総合検討し
てその該当性を限定する判断手法も考えられないではないが,本件条例では,
広く区民に情報公開を行う趣旨で,公開請求権の行使に当たり,公開請求者
個人の属性や請求の理由の有無等を要件とはしていない(本件条例8条)こ
とに照らせば,公開請求者個人の属性や請求の実質的理由等の個別の事情に
基づいて公文書公開の可否を決することは,上記の本件条例の趣旨に抵触す
るものであって相当ではない。
したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3)控訴人の請求に係る本件文書3①及び本件文書5について
本件公開請求3に係る請求のうち本件文書3①は「平成21年3月31日
の時点で,A学級に就学する児童の人数と国籍がわかる書類」であり,この
請求の対象文書はB学園作成の「A学級奨学金給与状況2009年3月31
日」であること,本件公開請求5の請求は「平成21年4月1日からのA学
級の使用許可の相手方が,学校法人B学園からC学級設立準備会に変更され
たが,本件の検討,決裁に関する文書の全て」であり,この請求の対象文書
は区教育委員会作成の「D小学校へのC学級の設置に係る,行政財産使用許
可の協議について」及び「D小学校へのC学級の設置に係る,行政財産使用
許可について」であることは前記引用に係る原判決認定のとおりである(な
お,各文書の作成者は弁論の全趣旨による。)。そして,これらの文書は,
区教育委員会がB学園に対し,同法人によるA学級の運営のために,D小学
校の目的外使用を許可し,かつ,その使用料を免除した処分(別件各処分)
の過程において,当該行政行為の適正を保持するために作成され,あるいは
取得された文書であり,別件各処分に係る別件住民訴訟のための主張立証の
方法及びその提出時期の選択についての方針等の対処方針の策定やそのため
に必要な事実調査の過程で作成され,取得された情報ではない。そうすると,
本件文書3①及び本件文書5は,本件条例6条6号イに該当する文書である
ということはできない。
3争点(4)(本件文書3①及び本件文書5の公開請求が公開請求権の濫用に該当
するか否か)
本件条例4条は,「この条例の規定により公文書の公開を請求しようとする
者(以下「公開請求者」という。)は,公文書の公開を請求する権利を濫用す
ることなく,この条例の目的に即し,適正な請求に努めるとともに,公文書の
公開を受けたときは,これによって得た情報を適正に使用しなければならな
い。」と規定する(甲2)。
そして,被控訴人は,控訴人は,本件各公開請求は,いずれも別件住民訴訟
の遂行のために行っているのであり,訴訟が係属している以上,当該住民訴訟
で争点となっている財務会計行為に係る情報を求めることはもはや本件条例の
目的のらち外にあり,控訴人の本件各請求は公開請求権を濫用するものであり
許されない旨主張する。
しかしながら,本件条例に基づく区民からの公文書の公開請求において,公
開請求者の特定及び公開請求の対象となる公文書の特定を手続要件とし(本件
条例8条),前記のとおり請求理由を手続要件とはしていないのである。この
ように請求理由を手続要件としていないのは,区民の知る権利を保障するとと
もに,区が区政に関し区民に説明する責務を全うするという本件条例の目的(本
件条例1条)に照らせば,区民からの公文書公開の請求につき,その請求理由
を問わずに広く公開するという趣旨によるものであると解するのが相当であ
る。そして,控訴人の請求理由が別件住民訴訟における情報を収集する目的の
下にするものであったとしても,住民訴訟は,住民の地方公共団体の財務会計
上の行為についての違法支出等を防止するために法律で特に認められた参政権
の一種であり,その原告は,住民全体の利益のために公益を代表して訴訟活動
を行うものであること(最高裁昭和51年(行ツ)第120号同53年3月3
0日第一小法廷判決・民集32巻2号485頁参照)からすれば,控訴人が上
記の目的の下に本件各公開請求を行ったとしても,これをもって,同請求権の
行使が権利の濫用に当たるということはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は,採用することができない。
4よって,控訴人の被控訴人に対する処分行政庁が行った本件文書3①及び本
件文書5に係る各公文書非公開処分の取消しを求める請求は,その余の点につ
いて判断するまでもなく,理由があるものというべきである。
第4結論
以上の次第で,本件控訴は理由があり,これと異なる原判決は不当であるか
ら,原判決を上記判断と抵触する限度で変更することとし,主文のとおり判決
する。
東京高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官稲田龍樹
裁判官金子順一
裁判官内堀宏達

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