弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成元年二月二八日付けで控訴人に対してした、昭和六〇年一月分
から昭和六三年一〇月分までの各源泉所得税の納税告知処分のうち、原判決添付の
別表一の「源泉所得税の額」欄に記載された額をそれぞれ超える部分及び右源泉所
得税にかかる不納付加算税賦課決定のうち、同表の「不納付加算税の額」欄に記載
された額をそれぞれ超える部分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 本件事案の概要は、次項以下に記載する当審における控訴人の新たな主張及び
これに対する被控訴人の認否反論の他は、原判決の事実及び理由の「第二 事案の
概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
二 控訴人の当審における新たな主張
1 グロス・アップの合意の不存在
被控訴人は、控訴人が本件従業員の本件経済的利益に係る源泉所得税をみずから負
担して、本件従業員にその負担をさせない取扱いをしていることを指摘し、これを
右両者間にグロス・アップ合意が存在したことの根拠とするが、控訴人は平成五年
九月の時点で、本件従業員の納税管理人から未徴収の源泉所得税相当額(グロス・
アップ計算を前提とせずに算出したもの)を徴収した。この事実自体が、控訴人と
本件従業員との間の給与等に関する合意が、本件経済的利益の額を規準として、控
訴人が源泉所得税を源泉徴収することを妨げない趣旨のものであることを表してい
る。それゆえ、控訴人と本件従業員との間に、右源泉徴収をしないことを内容とす
るグロス・アップの合意があるとみるのは誤りである。
2 被控訴人が本件と事案を同じくする訴外A社につきグロス・アップ計算を適用
しないで課税したが、それとの関係で、控訴人への課税につきグロス・アップ計算
を適用することは平等原則に反する結果をきたす。
被控訴人は、平成三年四月ころ、前提となる事実関係が本件とほぼ同じA社の案件
につき、A社に対し、案件処理の方法として、グロス・アップ計算を前提とする方
法とそれを前提としない方法とがあり、そのいずれを選択するかは、源泉所得税徴
収義務者であるA社の自由であると説明している。そして、A社がグロス・アップ
計算を前提としない方法を選択したのを容認している。本件が問題となった平成元
年とA社の案件が処理された平成三年の時点で、問題となっているグロス・アップ
計算関係の税法及び通達には一切変更がなかった。このような被控訴人の一貫しな
い態度に照らしても、本件事案にグロス・アップ計算を適用しなければならないと
する被控訴人の主張にはさしたる根拠がなく、控訴人にグロス・アップ計算を適用
することは、税の平等原則に反するものである。
三 控訴人の主張に対する被控訴人の認否反論
1 控訴人の主張1について
控訴人主張のように、本件従業員から控訴人に対して未徴収の源泉所得税相当額
(グロス・アップ計算を前提とせずに算出したもの)の金額が支払われた外形が存
在することは認めるが、右は、控訴人が本件事件を有利に導くために仮装してした
ものであるとの疑いが濃いものである。また、仮に、後日控訴人主張の金銭の支払
いがされているとしても、そのことによって当初の合意内容が変更されるものでは
ない。
2 控訴人の主張2について
控訴人主張の事実は否認する。
被控訴人は控訴人に対し、本件告知処分のための調査に昭和六三年一一月着手し、
同年一二月にはこれを終了して控訴人の源泉所得税の徴収漏れの事実を把握し、こ
れを控訴人の担当者に指摘していた。これに対して、控訴人の担当者aは、控訴人
のミスを認め、今後の是正を約し、源泉所得税の追徴税額は控訴人が負担すること
になっているので、被控訴人の調査に基づいて算定された源泉所得税額から、本件
従業員が確定申告によってすでに納付している所得税額を控除した金額をもって自
主的に納付することを希望した。そこで、被控訴人は、控訴人が主張するA社のケ
ースと同様に、控訴人の事情を十分に考慮して、控訴人の右の希望を容れて、控訴
人に対し自主納付をしようようした。しかるに、控訴人は、本件告知処分がされた
平成元年二月二八日に至るまで右の自主納付をしなかったばかりか、右aは、「本
件経済的利益につき、源泉所得税を納付すべき義務は存在しないから、これを納付
する必要はない。したがって、自主納付はできない。」旨被控訴人に申し出た。被
控訴人の調査担当者は、控訴人の右の対応を受け、自主納付することを説得したも
のの、控訴人がこれに応じなかったため、源泉所得税の追徴税額を法の定めに従っ
て計算し、これを告知するほかないものと判断したものである。これに対し、控訴
人の主張するA社のケースにあっては、A社において、受給者からの追徴税額を自
主納付したごとが前提となっており、同社に対する徴収処理が異なるから、差別的
な取扱をしたとの主張は失当である。
第三 証拠関係(省略)
第四 当裁判所の判断
一 当裁判所も控訴人の本件請求はいずれも理由がなく、本件控訴はいずれも棄却
すべきものと判断する。その理由は次のとおり付加するほかは原判決「第三 争点
に対する判断」に記載されるところと同一であるから、これを引用する。
当審における新たな証拠調の結果によっても右の判断を左右するに足りない(な
お、控訴人は、本件マニュアルによれば控訴人と本件従業員との間にグロス・アッ
プ合意がなかったと主張し、その根拠の一つとして、控訴人が本件経済的利益を本
件従業員らに給付する時点で源泉所得税の徴収をしていなかったのは、右の合意が
存在したためではなく、単に控訴人が源泉所得税の徴収義務の存在を知らなかった
ことによるものであり、その存在を認識していたとすれば行っていたであろう本件
マニュアルに基づく取扱いなるものを仮定し、この仮定によれば、訴訟人はグロ
ス・アップ合意が存在しない場合と同様の処理をしていたはずであるから、結局、
控訴人と本件従業員との間にグロス・アップ合意がなかった旨るる主張する。しか
しながら、控訴人が右仮定に基づいて主張する方法によっても、控訴人が現実に行
っていた本件経済的利益の支給によって本件従業員が受けた実質的な経済的利益と
同一のそれを本件従業員に取得させることはできないものであり、かえって、右の
控訴人が本件従業員に現実に支給していた経済的利益の点についてみると、本件経
済的利益のうち水道光熱費及びメイド費等については、本件従業員が必要とする全
ての額を控訴人が、また、日本での申告所得税の確定分、予定納税分及び道府県民
税(都民税、特別区民税を含む。)等については控訴人の東京支店が、それぞれ本
件従業員に代わって支払っていたものであり(当事者間に争いがない)、控訴人に
よるこのような支払いが経済的利益の支給として、源泉徴収の対象となることも明
らかである。したがって、控訴人が本件従業員に支給していた本件経済的利益は、
いずれも税引き後の手取り額としてのそれであったものというべきである。本件マ
ニュアルには、控訴人の主張するとおり、本件経済的利益の支給に関して、グロ
ス・アップ計算による旨の明文の条項は存在しないものの、前記のとおりの状況に
照らせば、前記のような経済的利益の支給態様は、控訴人と本件従業員若しくは控
訴人東京支店と本件従業員との間のグロス・アップ計算によるものとの合意に基づ
くものであったというべきである。)
1 控訴人の新たな主張1について
本件従業員から控訴人に対して未徴収の源泉所得税相当額(グロス・アップ計算を
前提とせずに算出したもの)の金銭が本件処分の後に支払われた外形が存在するこ
とは当事者間に争いがないが、仮に、真実、後日控訴人主張の金銭の支払いがされ
ているとしても、そのことによって当初の合意内容が変更されるものではなく、ま
た、そのような事実が仮に存在しているとしても、前記引用にかかる原判決理由説
示のとおりの事実関係に照らせば、そのことによって、本件経済的利益の支給の時
点でグロス・アップ計算によるとの合意が存在したとの認定を左右するに足りな
い。
右によれば、控訴人のこの点の主張は理由がない。
2 控訴人の新たな主張2について
秋元秀仁及び澤田利成作成部分については当事者間に争いがなく、道又修二作成部
分については弁論の全趣旨によりその成立の認められる乙第三号証、当審証人b、
同aの各証言及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、原審証人
aの証言中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用することができず、
他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
すなわち、被控訴人は本件と類似するA社のケースについて、同社に対し追徴税額
の自主納付をしようようし、これを受けて、A社は右税額を自主納付した。また、
被控訴人は、昭和六三年一一月、控訴人に対し、本件告知処分のための調査に着手
し、同年一二月にはこれを終了して控訴人の源泉所得税の徴収漏れの事実を把握
し、これを控訴人の担当者に指摘していた。これに対して、控訴人の担当者aは、
控訴人のミスを認め、今後の是正を約し、源泉所得税の追徴税額は控訴人が負担す
ることになっているので、被控訴人の調査に基づいて算定された源泉所得税額か
ら、本件従業員が確定申告によってすでに納付している所得税額を控除した金額を
もって自主的に納付することを希望した。そこで、被控訴人は、右の希望を容れ
て、控訴人に自主納付をしようようした。しかるに、控訴人は、本件告知処分がさ
れた平成元年二月二八日に至るまで右の自主納付をしなかったばかりか、右aは、
「本件経済的利益につき、源泉所得税を納付すべき義務は存在しないからこれを納
付する必要はなく、自主納付はできない。」旨被控訴人に申し出た。被控訴人の調
査担当者は、控訴人の右の対応を受け、自主納付を説得したものの、控訴人がこれ
に応じなかったため、源泉所得税の追徴税額を法の定めに従って計算し、これを告
知するほかないものと判断したものである。
以上認定の事実によれば、被控訴人は控訴人に対しても、追徴税額の自主納付をし
ようようして、自主納付の機会を与えていたものであり、被控訴人のした本件課税
処分は、控訴人が、一旦は右の被控訴人のしようようを受けて自主納付することを
約しながら、後にその態度を翻して自主納付をしなかったことにより採られたもの
であって、A社に対する課税処分との間に差別的取扱いが存在するとする控訴人の
この点の主張も理由がない。
二 以上によれば、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すべ
きところ、これと同一の結論を示す原判決は正当であり、本件控訴は理由がないか
ら棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、
八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩佐善巳 稲田輝明 平林慶一)

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