弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被申請人は申請人に対し、金三四万円を仮に支払え。
二 申請人のその余の申請を却下する。
三 申請費用は被申請人の負担とする。
       理   由
一 当事者の主張
(一) 申請人の申請の趣旨及び理由は、別紙一記載のとおりである。
(二) 被申請人の「申請の趣旨及び理由」に対する答弁及び主張は別紙二記載の
とおりである。
二 当裁判所の判断
(一) 被保全権利
1 本件記録によれば、申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位に
あることは、当裁判所昭和四八年(ヨ)第一一四号地位保全仮処分申請事件の判決
(以下第一次仮処分という)により仮に定められており、右判決は現に効力を有す
ることが認められるから、申請人は被申請人の従業員としての権利を有するという
べきである。
 しかるに、本件記録によれば、被申請人(以下会社ともいう)は解雇を主張して
申請人の就労を拒否していることが認められるから、申請人は民法五三六条二項に
より現に被申請人に対し賃金請求権を有し、かつ、他の従業員と同様に労働協約、
就業規則等に基づき一時金の支払を受ける権利を有するものというべきである。な
お、本件においては、後記認定のように、一時金は固定分臨時給と業績スライド臨
時給とに分かれ、後者は目標(経常利益等)達成度合に応じて支給されるものであ
るが、個別的契約によつて定められるものではなく、会社と組合との協定に基づき
一定の基準に従つて支給されるものであるから、申請人について被申請人の従業員
としての権利を肯定する以上、右業績スライド臨時給についてもその支給を受ける
権利があるというべきである。
2 一時金請求権
(1) 昭和五七年度固定分臨時給下期分
(イ) 本件記録によれば、次の事実が認められる。
 被申請人は、昭和五七年一二月一〇日申請人以外の従業員に対し、昭和五七年度
固定分臨時給下期分を支給した。右臨時給下期分の額は、各人の基準内賃金比例分
と成績調整分とを合算して算出するものであるが、前者は各人の基準内賃金月額に
係数一・七四五四を乗じて算出し、後者は各人の職務給ランク(各人の職務の質及
び負荷を評価し、職務段階に格付して定められるもの)に応じて定められた標準額
に各人の考課ランク(AないしEの五段階評価、最高がA、最低がE)に応じて定
められた額を加減することによつて算出する。
 そして、申請人の昭和五七年四月一日以降の基準内賃金月額は一八万一九〇〇円
であり、申請人は被申請人から右同日以降現在まで毎月右同額の金員の仮払を受け
ている。
(ロ) ところで、申請人については、昭和四八年二月五日付で解雇(第一次解
雇)されたため、昭和四七年一〇月以降の成績評価はなされていないが、本件記録
によれば、申請人の昭和四六年四月から昭和四七年九月までの三期間の成績評価が
低位のD又はEであつたこと、申請人が昭和四七年一二月と昭和四八年一月に居眠
り作業とこれに起因する工作不良を起し、後者について出勤停止一〇日間の懲戒処
分を受けたこと及び昭和四八年二月五日付でなされた解雇(第一次解雇)当時の申
請人の職務給ランクは四級一号であつたことが認められるから、申請人の右解雇後
の成績評価はE、その職務給ランクは右解雇当時の四級一号のままであると推定す
るのが相当である。
(ハ) そこで、以上認定事実に基づいて申請人に対する昭和五七年度固定分臨時
給下期分の額を算定するに、基準内賃金比例分は前記基準内賃金月額一八万一九〇
〇円に係数一・七四五四を乗じた額、即ち三一万七四八八円であることが明らかで
あり、成績調整分については、本件記録により明らかなように、職務給ランク四級
一号の標準額は八万六〇〇〇円であり、成績評価Eの者はこれから二万円を減ずる
ことになるから、結局成績調整分は六万六〇〇〇円であることが認められる。
 従つて、申請人は昭和五七年一二月一〇日までに、昭和五七年度固定分臨時給下
期分三八万三四八八円の支払を受ける権利を取得したものと認めるのが相当であ
る。
 317,488円+66,000円=383,488円
(2)昭和五七年度業績スライド臨時給下期仮払分
 本件記録によれば、被申請人は、昭和五七年一二月一〇日申請人以外の従業員に
対し、昭和五七年度業績スライド臨時給下期仮払分として、各人の同年度固定分臨
時給下期分に係数〇・一一一一を乗じて得た額を支給したことが認められるから、
申請人も同年一二月一〇日までに昭和五七年度業績スライド臨時給下期仮払分四万
二六〇六円の支払を受ける権利を取得したものと認めるのが相当である。
 383,488円×0.1111=42,606円(円未満四捨五入)
(3) まとめ
 従つて、申請人は被申請人に対し、右(1)、(2)の合計四二万六〇九四円の
一時金の支払を受ける権利を有するというべきである。
(二) 保全の必要性
1 申請人は、保全の必要性として、申請人には資産がなく、被申請人から受領し
ている賃金及び一時金の仮払金のみによつて妻と長女(一二歳、中学校一年生)、
長男(一〇歳、小学校四年生)の四人家族の生計を維持しているが、一ケ月につき
家賃、共益費、駐車場使用料として合計二万九二〇〇円、国民健康保険料として一
万〇三〇〇円、光熱費、水道料として二万円の支出を余儀なくされるほか、他に別
件の訴訟を二件係属させていてその維持にも費用を要するため、生活は苦しく、予
供二人の教育費は就学援助金の支給を受けて賄つており、訴訟維持費用の支出にも
困難を来している状態である旨主張している。
 一方、被申請人は、保全の必要性を否定する事情として、
(1) 申請人は、昭和五二年までa市会議員の秘書をして毎月四万円ないし五万
円の収入を得ていたから、その程度の就労は現在においても可能であると考えられ
ること
(2) 最近申請人及びその妻は、自宅において私設託児所を営んで幼児数名を保
育し、右によつて少なくとも毎月一二万円を超える収入を得ていると推測されるこ

(3) 申請人は、現在被申請人から毎月一八万一九〇〇円の仮払賃金の支払を受
けているほか、第一次仮処分判決により昭和五二年一〇月七日三五九万六〇三一円
の仮払金を、当裁判所昭和五四年(ヨ)第一六〇三号賃金仮払仮処分申請事件の決
定により四〇万円を、同五五年(ヨ)第一〇九〇号事件の決定により三三万円を、
同五五年(ヨ)第一八八三号事件の決定により四〇万円を、同五六年(ヨ)第一〇
三六号事件の決定により三二万円を、同五六年(ヨ)第一九〇〇号事件の決定によ
り四〇万円を、同五七年(ヨ)第七九一号事件の決定により三二万円をそれぞれ一
時に受領していること
(4) 申請人は、第一次仮処分審理中である昭和五一年三月に普通乗用車の新車
を約九〇万円(購入に伴う必要経費を含む)の即金払で買入れ、毎月の維持費約二
万円の負担にも充分耐えて今日に至つていること
(5) 申請人は、昭和五二年中に日本共産党愛知県委員会に対し五〇万円の寄付
をしていること
(6) 申請人は、昭和五三年一〇月一〇日家賃月額一万三〇〇〇円強の家から同
二万三二〇〇円の家に転居したが、右時点で敢えて転居する以上、右家賃増額に充
分耐え得る程度の収入を得ていたと推認し得ること
以上の諸事情を主張しているので、以下順次検討することとする。
2 賃金仮払の仮処分は、解雇等によつて収入を断たれた労働者及びその家族の生
活上の現在の危険の避止を目的とするものであり、保全すべき権利の終局的実現を
目的とするものではない。また、右仮処分は、いわゆる満足的仮払分であり、仮払
賃金が一旦支払われれば、本案訴訟において後日債務者が勝訴しても原状回復が不
能又は著しく困難となる場合が多いから、その必要性は高度なものが要求されると
いうべきである。従つて、一般に、被解雇者が解雇の無効を主張して使用者に対し
労働契約上の地位確認等を求めている本案訴訟が係属中であつても、解雇後既に相
当の期間を経過し、かつ、本案訴訟の長期化が予想される場合には、被解雇者とし
ても、他で働くための条件が満たされる以上、アルバイト等によつて収入を得、自
己及びその家族の生活維持費用の足しにすべく努力するのが相当というべきであつ
て、働くための条件が満たされているのに拘わらず、右のような努力が何ら払われ
ていない場合には、特段の事情のない限り仮処分の必要性判断に当たつて消極的事
情として斟酌されてもやむを得ないといわざるを得ない。
 本件についてこれをみるに、申請人が被申請人によつて解雇(第一次解雇)され
て以来現在までに既に九年余を経過しているところ、本件記録によれば、この間申
請人はa市会議員の秘書等のアルバイトをすることにより一ケ月数万円の収入を得
ていたことがあるが、現在は全く働いていないことが認められる。そして、申請人
が現在他で働くことについて何らかの障碍事由があるとの疎明はないから、申請人
が裁判の準備や口頭弁論期日への出席に時間及び労力を要することを考慮しても少
なくとも一カ月数万円の収入を得る程度の就労は現在においても可能であると考え
られ、この点を必要性判断に際し消極的事情として斟酌するのが相当というべきで
ある。
3 次に、被申請人主張の前記(2)の事実についてはこれを疎明するに足る証拠
はないが、申請人主張の積極的事情及び被申請人主張の前記(3)ないし(6)の
消極的事情については本件記録によりこれを認めることができる(但し、申請人の
転居後の家賃は月額二万三三五〇円であると認められる)。
 右によれば、申請人は、昭和五二年一〇月に三六〇万円弱の収入を得たのである
が、右金員は昭和四八年二月五日付でなされた解雇(第一次解雇)以降の賃金分で
あつて、将来の生活資金に当てられるべきものではなく、しかもその後既に五年以
上を経過している。また、申請人は被申請人主張の各仮処分決定により被申請人か
らその主張の仮払金を一時に受領しているが、右金員はいずれも一時金の仮払分で
あつて、受領の頃生活費にあてられたものと推認するのが相当である。自動車の購
入や政党への寄付は一回的なものであり、その時点における資金の余裕を窺わせる
事情であるとはいえ、その状態が現在まで維持されていることについての疎明はな
い。申請人が家賃二万三三五〇円の家に転居したことは、申請人方の家族数及び世
間一般の家賃の水準からみて格別ぜいたくな行為とはいい難く、右事実から直ちに
申請人方の生活に余裕があると推測することはできない。もつとも、申請人が普通
乗用車を所有し毎月その維持費の負担に耐えている点は、申請人の住所及びその家
族構成からして自動車が生活の必需品であるとは認められないから、申請人方の生
活の余裕を窺わせる一事情ということができ、従つて申請人が右維持費の負担に耐
えているところからみれば申請人には他に何らかの収入があるのではないかと考え
られるけれども、その収入源及び収入額を疎明するに足る証拠はない。
4 ところで、本件記録によれば、愛知県人事委員会調査(昭和五五年四月調べ)
にかかる名古屋市における四人家族の標準生計費(公租公課等の非消費的支出は含
まない)は月額二一万一五三〇円であることが認められるが、右調査時以降の物価
の上昇を考慮すると、昭和五七年一二月現在の標準生計費は右金額を上回つている
ことが明らかというべきである。
5 以上認定の諸事情のほか、一般に一時金が賃金の後払的性格をもち、給料生活
者は、夏季及び冬季の一時金を不可欠の収入と予定して年間の生活設計を立ててお
り、月々の給料で賄い切れない臨時的季節的出費等にこれをあてていること、申請
人もまたその例に洩れないこと等を考え併せると、前認定の一時金について仮払の
必要性があるものと認めるのが相当である。
 そこで、その額について考えるに、前認定の一時金の額、毎月受領している仮払
賃金額その他諸般の事情を総合すると、本件仮処分においては前認定の一時金四二
万六〇九四円のほぼ八割にあたる三四万円が申請人の生活を維持するのに必要な金
額と認めるのが相当であり、これを上回る部分は申請人が直ちにその支払を受けな
ければ生活の困窮を招き著しい損害を蒙るものとは認められない。
三 以上の次第であつて、申請人の本件申請は主文第一項記載の限度で理由がある
から認容し、その余は理由がないから却下し、申請費用の負担につき民訴法八九
条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 川端浩 棚橋健二 山田貞夫)
別表(省略)
別紙一
仮処分命令申請書
申請の趣旨
一、被申請人は申請人に対し、昭和五七年一二月一〇日限り金五〇万円を仮に支払
え。
二、申請費用は被申請人の負担とする。
との裁判を求める。
申請の理由
第一、地位保全仮処分判決
一、申請人は、昭和三一年三月二一日被申請人株式会社大隈鉄工所(以下単に「会
社」ともいう)に入社したが、昭和四八年二月五日付をもつて申請人に対し解雇す
る旨の意思表示をなした。
二、申請人は、名古屋地方裁判所に地位保全仮処分申請(昭和四八年(ヨ)第一一
四号)をなし、名古屋地方裁判所は昭和五二年一〇月七日左記のとおり申請人勝訴
の判決を言渡した。
 記
       主   文
(一) 申請人が被申請人の従業員たる地位を有することを仮に定める。
(二) 被申請人は申請人に対し、金三〇〇万円及び昭和五二年四月七日以降、本
案判決確定に至るまで毎月二五日限り一カ月金一〇万二七六四円の割合による金員
を仮に支払え。
(三) 申請人のその余の申請を却下する。
(四) 訴訟費用は被申請人の負担とする。
会社は右判決を不服として控訴し、右事件は現在名古屋高等裁判所に係属中である
(昭和五二年(ネ)第四八八号)。
三、申請人は右仮処分判決により会社の従業員たる権利を有している。
 しかるに被申請人会社は解雇を主張して申請人の就労を拒否しているのであるか
ら、申請人は民法五三六条二項により、現に被申請人会社に対し賃金請求権を有
し、かつ他の従業員と同様に労働協約、就業規則等に基づき賃金引上げによる増額
分や、一時金の支払を受ける権利を有している。
第二、第二次仮処分
一、申請人は昭和五四年一二月一日名古屋地方裁判所に賃金仮払仮処分命令申請
(昭和五四年(ヨ)第一六〇三号)をなし、名古屋地方裁判所は昭和五五年二月一
三日左記のとおり決定をなした。
 記
       主   文
(一) 被申請人は申請人に対し、金四〇万円及び昭和五四年四月一日以降第一審
本案判決言渡に至るまで毎月二五日限り金四万五四三六円の割合による金員を仮に
支払え。
(二) 申請人のその余の申請を却下する。
(三) 申請費用は被申請人の負担とする。
二、申請人は、昭和五五年七月二五日名古屋地方裁判所に賃金仮払仮処分申請(昭
和五五年(ヨ)第一〇九〇号)をなし、名古屋地方裁判所は昭和五五年一一月六日
左記のとおり決定をなした。
 記
       主   文
(一) 被申請人は申請人に対し、金三三万円及び昭和五五年四月一日以降第一審
本案判決言渡に至るまで毎月二五日限り金九九〇〇円の割合による金員を仮に支払
え。
(二) 申請人のその余の申請を却下する。
(三) 申請費用は被申請人の負担とする。
三、申請人は昭和五五年一二月二六日名古屋地方裁判所に賃金仮払仮処分申請(昭
和五五年(ヨ)第一八八三号)をなし、名古屋地方裁判所は昭和五六年三月四日左
記のとおり決定をなした。
 記
       主   文
(一) 被申請人は申請人に対し、金四〇万円を仮に支払え。
(二) 申請人のその余の申請を却下する。
(三) 申請費用は被申請人の負担とする。
四、申請人は昭和五六年七月七日名古屋地方裁判所に賃金仮払仮処分申請(昭和五
六年(ヨ)第一〇三六号)をなし、名古屋地方裁判所は昭和五六年八月一四日左記
のとおり決定をなした。
 記
       主   文
(一) 被申請人は申請人に対し、金三二万円及び昭和五六年四月一日以降第一審
本案判決言渡に至るまで毎月二五日限り一万二四〇〇円の割合による金員を仮に支
払え。
(二) 申請人のその余の申請を却下する。
(三) 申請費用は被申請人の負担とする。
五、申請人は昭和五六年一二月二日名古屋地方裁判所に賃金仮払仮処分命令申請
(昭和五六年(ヨ)第一九〇〇号)をなし、名古屋地方裁判所は昭和五七年二月八
日左記のとおり決定をなした。
 記
       主   文
(一) 被申請人は申請人に対し、金四〇万円を仮に支払え。
(二) 申請人のその余の申請を却下する。
(三) 申請費用は被申請人の負担とする。
六、申請人は昭和五七年五月二五日名古屋地方裁判所に賃金仮払仮処分命令申請
(昭和五七年(ヨ)第七九一号)をなし、名古屋地方裁判所は昭和五七年八月五日
左記のとおり決定をなした(疎甲第一号証)。
 記
       主   文
(一) 被申請人は申請人に対し、金三二万円及び昭和五七年四月一日以降第一審
本案判決言渡に至るまで毎月二五日限り一ケ月金一万一四〇〇円の割合による金員
を仮に支払え。
(二) 申請人のその余の申請を却下する。
(三) 申請費用は被申請人の負担とする。
第三、申請人に支払われるべき一時金
一、被申請人会社における一時金の支給額は、申請外大隈労働組合(以下単に「組
合」ともいう)との間で、四月に開催される賃金増額交渉の際に同時に労働協約が
締結され、決定される。
 昭和五七年の場合、一時金支給固定分は年額九〇万円と、業績スライド分仮払が
年額金一〇万円とされ、年間支給総額金一〇〇万円を昭和五七年六月一〇日及び同
年一二月一〇日にそれぞれ金五〇万円(組合員平均)を支給することが予定されて
いる(疎甲第三号証)。尚、業績スライド分というのは、目標とする業績を超えて
業績をおさめた場合、または目標とする業績に達していなくとも従業員の労に報い
るため被申請人会社と組合の交渉で増額されることがある。また、業績が目標を下
回つた場合でも前述の業績スライド分仮払年額金一〇万円が減額されたり支給を取
り消されることはない。
二、申請人は昭和五七年上期一時金として金四〇万三九〇七円の支払を受けるべき
ものと認定された(疎甲第一号証)。
 被申請人会社は一時金支給に当つて、上期に比べて下期の支給額が増額されてい
るのが通常である。例えば、
(一) 昭和五五年六月一〇日支給分は組合員平均金四三万円(業績スライド八万
円を含む)、同年一二月一〇日支給分は組合員平均金四四万円(業績スライド九万
円を含む)であつた。
 申請人に対する名古屋地方裁判所の仮処分決定においても、同年六月一〇日支給
分として金三四万一七二二円、同年一二月一〇日支給分として金三六万四〇三八円
が認容された。
 尚、被申請人会社は昭和五五年九月二五日、組合員一人平均金八万円、同年一二
月二五日組合員一人平均九万円の業績スライド分を支給した(申請人については九
月二五日支給分として六万三五八三円、一二月二五日支給分として七万四四五三円
が仮処分決定において認容された)。
(二) 昭和五六年六月一〇日支給分は組合員一人平均金五〇万円(業績スライド
五万円を含む)、同年一二月一〇日支給分は組合員一人平均金五五万円(業績スラ
イド一〇万円を含む)であつた。
 申請人に対する名古屋地方裁判所の仮処分決定においては、六月一〇日支給分と
して三九万六四八四円、一二月一〇日支給分として四一万六九〇〇円が認容され
た。
 尚、被申請人会社は昭和五六年九月二五日組合員一人平均金五万円の業績スライ
ド分を支給した(申請人については三万九六四五円が仮処分決定において認容され
た)。
三、申請人に支払われるべき一時金の金額並びに計算方法等について、被申請人か
ら告知されないためその計算根拠を示すことは不可能であるが、下期一時金として
既に決定している組合員一人平均支給額である金五〇万円を下回ることはないの
で、金五〇万円の支払いを求める。
第三、保全の必要性
一、申請人は被申請人会社より支払われる賃金を唯一の生活の糧としているもので
あり、申請人は妻と長女(一二才)、長男(一〇才)の四人家族の生計を維持しな
ければならない。申請人には他に資産はなく収入の途もない。長女(中学一年)及
び長男(小学四年)はそれぞれ就学援助金の支給を受けて教育費をまかなつている
が、援助金そのものも低額であるうえ被服費等の援助はなく成長期の二児の養育費
は大きな負担となつている。
 申請人は現在住宅都市整備公団の賃貸住宅に居住しているが、家賃及び共益費と
して毎月二万三二〇〇円を支払つている。他に駐車場使用料六〇〇〇円、水道光熱
費二万円、国民健康保険料一万三〇〇円等の支出がある。申請人が一家四人の生計
費に充当できる金額は約一二万円であり、申請人は右金員のなかから後述する訴訟
維持のための費用をも支出しなければならないのである(疎甲第二号証)。
二、申請人に関する前記地位保全仮処分事件は現在名古屋高等裁判所に係属中であ
る(昭和五二年(ネ)第四八八号)。更に申請人は、被申請人会社より一一一〇万
円の損害賠償請求事件を提起され、現在名古屋地方裁判所に係属中である(昭和四
八年(ワ)第五二五号、同(ワ)第一五三七号)。
 右二件の訴訟は、申請人が被申請人会社の過酷な夜勤労働に従事させられていた
昭和四八年一月七日午前六時三〇分頃、ごく短時間の居眠により平削盤テーブルに
刃物によるキズをつけたことを理由とするものである。右平削盤は今日も何ら修理
されることなく稼動していること、申請人は被申請人会社に対して謝罪したが出勤
停止一〇日間という過酷な懲戒処分を受けたこと、被申請人会社では過去にも類似
の従業員の過失があるが申請人の如き重い処分を受けた前例が存しないこと、等を
考慮すれば、申請人が応訴を余儀なくされた事情は同情されるべきであり、被申請
人会社が申請人の訴訟維持を困難におとし入れようとした意図はきびしく糾弾され
るべきである。
 申請人は訴訟を維持するための弁護士費用、記録のコピー代金準備調査費用など
の捻出に困難をきわめているのが実情である。
三、被申請人会社はこれまでの申請人の賃金仮払仮処分申請に対し陳腐な主張を繰
り返してきている。
 即ち、被申請人は(イ)妻が自室において託児室を経営している。(ロ)昭和五
一年トヨタカローラ一二〇〇CCを購入した。(ハ)昭和五二年度日本共産党に五
〇万円の寄附をなした。(ニ)昭和五三年一〇月家賃の高い住宅に転居した、等の
主張をしている。
 (イ)については事実無根の主張である。
 (ロ)については、昭和五〇年二月申請人の妻が申請外株式会社名古屋三東スー
ツ退職時の退職金等を充当して購入したものである。申請人は、当時保育園へ子供
を送迎していたこと、裁判記録の運搬、支援要請の訴えで各地を訪問していたこ
と、当時申請外名古屋市会議員a氏の事務所でアルバイトをしていたこと等、自動
車の所有は必要欠くべからざるものであった。
 (ハ)については申請人がa氏の事務所の用務を手伝つていた際、小口の寄附金
のとりまとめの窓口となり、取りまとめた寄附を自己の名義で政治資金規制法上の
届け出をなしたにすぎない。申請人自身が出費して寄附したものではない。
 (ニ)転居は長女が八才、長男が五才であつた時期で、申請人は住宅都市整備公
団の二Kの住宅に居住していた。子供の年令等から申請人が居住することのできる
住宅は右公団の基準でも三DK以上とされ、子供の教育的配慮からの住宅変更であ
つた(申請人は現在三KKの住宅に居住している)。
 被申請人会社の前記主張は過去の賃金仮払仮処分決定においてはいずれも排斥さ
れている(疎甲第一号証)。
四、従前の賃金仮払仮処分申請事件において名古屋地方裁判所は基本的には申請人
の主張を認容しているが、一方で申請人にはアルバイトができる時間的余裕がある
かのように認定し、保全の必要性を理由に一部減額している。しかしながら、申請
人は訴訟の準備や、前述のa氏の事務所のように理解ある使用者がいない等、容易
にアルバイトができる実情にはない。
 被申請人会社が申請人の就労を拒否している以上、申請人が被申請人会社に賃金
仮払仮処分申請をなすのは至極当然であり、保全の必要性を厳しく認定し、請求額
を減額することは許されないというべきである。
第四、結び
 よつて申請趣旨記載のとおり賃金仮払仮処分申請に及んだ次第である。
別紙二
 答弁書
 記
第一、申請の趣旨に対する答弁
 申請人の申請を却下する。
 申請費用は申請人の負担とする。
との裁判を求める。
第二、申請の理由に対する答弁
一、「第一、地位保全仮処分判決」について
(一) 第一項は認める。但し会社は昭和四八年二月五日付解雇が仮に無効である
としても、後記の通り昭和五一年三月一六日付を以つて人員整理にもとづく会社都
合による予備的解雇の意思表示をなしたものである。
(二) 第二項につき名古屋地方裁判所に申請人主張の地位保全仮処分申請事件
(以下第一次仮処分事件という)が係属し、申請人引用の判決主文が言渡されたこ
と、会社がこれに対して控訴し、名古屋高等裁判所に申請人主張の事件が係属中で
あることは認めるが、その余は否認する。
 第一次仮処分事件が申請人の全面勝訴でないことは判文上明らかである。
(三) 第三項につき、申請人が第一次仮処分事件の判決により仮に会社の従業員
たる地位が保全されたことのみ認め、その余は争う。
 申請人の地位保全はあくまで右第一次仮処分事件の判決にもとづくものであつて
本件においては後述する通り改めて審判されるべきものであり、しかも右第一次仮
処分判決は不当であるから、申請人の地位は、必ずしも本件において保全されてい
るものといえず、これを前提とすることはできない。更に申請人の主張する賞与が
正当でないことも後記する通りである。
 賃金等の仮払いを命ずる仮処分の目的は解雇された労働者が解雇の効力を争う場
合、使用者が解雇を理由に労働者に対する賃金の支払いを拒んでいる結果、労働者
及びその家族の経済生活が当該労働者において本案訴訟を維持し、その判決の確定
を持つことができないほどに危殆に瀕した事態に立ち至つているか、その具体的な
発生のおそれのある場合に、これを避けるに必要な金額の仮払いを得させることに
あり、労働者に対し他の従業員と同等の生活を保障することにあるものではない。
(岐地決昭和五七年(ヨ)第二八号労働経済判例速報一一二七号一二頁)。
 従つて申請人は、その主張するような会社の従業員と同様の賃金請求権、昇給や
一時金を受ける権利を有していないのである。
二、「第二次仮処分」について
(一) 第一項につき、名古屋地方裁判所に申請人主張の賃金仮払仮処分申請事件
(以下第二次仮処分事件という)が係属し、申請人引用の決定主文が申請人主張の
日に言渡されたことは認めるが、申請人が第二次仮処分の申請をなした日は知らな
い。
(二) 第二項につき、名古屋地方裁判所に申請人主張の賃金仮払仮処分申請事件
(以下第三次仮処分事件という)が係属し、申請人引用の決定主文が申請人主張の
日に言渡されたことは認めるが、申請人が第三次仮処分の申請をなした日は知らな
い。
(三) 第三項につき、名古屋地方裁判所に申請人主張の賃金仮払仮処分申請事件
(以下第四次仮処分事件という)が係属し、申請人引用の決定主文が申請人主張の
日に言渡されたことは認めるが、申請人が第四次仮処分の申請をなした日は知らな
い。
(四) 第四項につき、名古屋地方裁判所に申請人主張の賃金仮払仮処分申請事件
(以下第五次仮処分事件という)が係属し、申請人引用の決定主文が申請人主張の
日に言渡されたことは認めるが、申請人が第五次仮払仮処分の申請をなした日は知
らない。
(五) 第五項につき、名古屋地方裁判所に申請人主張の賃金仮払仮処分申請事件
(以下第六次仮処分事件という)が係属し、申請人引用の決定主文が申請人主張の
日に言渡されたことは認めるが、申請人が第六次仮処分の申請をなした日は知らな
い。
三、「第三、申請人に支払われるべき一時金」について
(一) 第一項のうち、会社が組合と一時金の支給額を四月に昇給と同時に決定
し、昭和五七年度の一時金年間支給総額を組合員平均一〇〇万円(内訳は固定分年
額九〇万円、業績スライド分年額一〇万円)としたことは認め、その余は否認す
る。
(二)1 第二項冒頭部分は否認する。
 疎甲第一号証の仮処分決定が結果的に認定した申請人の昭和五七年上期一時金の
額は金三二万円にすぎない。また上期に比べて下期の一時金が増額されるとは限ら
ない。
2 第二項(一)のうち、昭和五五年六月一〇日支給分及び同年一二月一〇日支給
分の額が申請人主張のとおりであること、会社が同年九月二五日及び同年一二月二
五日に各支給した業績スライド分(組合員一人平均)の額が申請人主張のとおりで
あることは認めるが、その余は否認する。
 名古屋地裁が結果的に認容した申請人に対する昭和五五年六月一〇日、同年一二
月一〇日、同年九月二五日、同年一二月二五日の各一時金及び業績スライド分の額
は、申請人主張金額の各八割にすぎない。
3 第二項(二)のうち、昭和五六年六月一〇日支給分及び同年一二月一〇日支給
分の額が申請人主張のとおりであること、会社が同年九月二五日に支給した業績ス
ライド分(組合員一人平均)の額が申請人主張のとおりであることは認めるが、そ
の余は否認する。
 名古屋地裁が結果的に認容した申請人に対する昭和五六年六月一〇日、同年一二
月一〇日、同年九月二五日の各一時金及び業績スライド分の額は、申請人主張金額
の各八割にすぎない。
(三) 第三項のうち、会社が一時金支給額を申請人に告知していないことは認
め、その余は不知ないし争う。
 申請人の昭和五七年度下期一時金は、仮に試算するも申請人主張の如きではな
く、その詳細は後記する通りである。
四、「第三、(第四の誤りと思われる。)保全の必要性」について
 申請人と会社との間で名古屋高等裁判所昭和五二年(ネ)第四八八号事件、名古
屋地方裁判所昭和四八年(ワ)第五二五号、第一五三七号事件が係属していること
のみ認めその余は争う。
 申請人は現在月額金一八万一、九〇〇円の仮払を受けている。更に後述のとおり
普通乗用自動車(トヨタカローラ一二〇〇ccデラツクス)を即金で購入したり、
団体に金五〇万円という高額寄附をするなど余裕のある生活をしているのであつて
申請人家族が生活に困窮している事実は全くなく、その詳細は後述する通りであつ
て、保全の必要性を欠くことは明らかである。
第三、会社の主張
一、被保全権利の不存在-その一(従業員たる地位の不存在)
(一) はじめに
 名古屋地方裁判所昭和四八年(ヨ)第一一四号事件の判決(第一次仮処分)の主
文は、申請人主張の如き内容であつたのであるが、地位保全仮処分命令が発せられ
た後に更に賃金仮払等の仮処分申請がなされた場合も、裁判所は雇用関係の存否の
判断に際し、先行の仮処分に拘束されるものでないことは、大多数の判例の説示す
るところである(神戸地判昭和三三年一月二五日労民集九巻一号九一頁東京地決昭
和三五年四月八日労民集一一巻二号三一四頁等、学説としてb「仮差押仮処分」青
林書院新社刊実務法律大系8四五〇頁以下)。
 本件仮処分申請は、賃金等の仮払いを命ずる仮処分であり、いうまでもなく、満
足的(断行)仮処分の典型的な事例であつて、いつたん支払つてしまえば、後日、
本案訴訟において会社が勝訴しても、原状回復が不能または著しく困難となる恐れ
が極めて強いのである。しかして第一次仮処分は幾多の判断上の誤りを犯してお
り、会社は、現在これを不服として控訴し、係争中である(名古屋高等裁判所昭和
五二年(ネ)第四八八号)が、右審理によつて第一次仮処分が取消される可能性が
極めて高い状況にある。
 かような事情が存する以上、本件審理に当たつては、第一次仮処分を前提とする
ことは到底なし得ないのであり、以下に述べるような、会社が申請人に対してなし
た解雇(一次解雇および予備的解雇)の効力そのものについても、詳細かつ充分な
審理が尽されるべきである。
(二) 一次解雇について
 会社は申請人に対して、昭和四八年二月五日会社就業規則八-一〇(1)(会社
都合解雇の規定)に基づき解雇する旨の意思表示をなし(一次解雇)、右一次解雇
が正当であることは明らかである。
 第一次仮処分判決は、一次解雇をめぐる事実関係については、申請人の日常の勤
務成績の低劣さを含め、ほぼ全面的に会社の主張どおりの認定をなしているがその
有効性をめぐる法律上の主張については、極めて非常識な判断を示して排斥してい
る。したがつて第一次仮処分判決は当然取消を免れないのである。
 従つて、もともと申請人は右一次解雇によつて会社の従業員としての地位を失つ
ているのであるから、本件仮処分申請は被保全権利を欠くものであつて、却下を免
れないのである。
(三) 予備的解雇について
 仮に百歩を譲り、一次解雇が無効であるとしても、会社は昭和五一年三月一六日
付、同月一九日到達の書留内容証明郵便をもつて、申請人に対し、予備的解雇の意
思表示をなしており、右時点において会社従業員の地位を喪失している(予備的解
雇)。
 右予備的解雇は、昭和四八年後半以降の我国経済の構造的長期不況のあおりを受
けて経営危機に陥つた会社が、昭和五一年三月男子組合員六九名を会社都合解雇し
た際に、成績最低位者の典型であつた申請人も、右会社都合解雇基準に該当すると
ころからなしたものであり、極めて正当である。
 第一次仮処分判決は、予備的解雇をめぐる事実関係については、会社の経営危
機、不況対策、三八〇名の人員縮少の必要性、三八〇名の人員縮少の経緯等につい
ては、ほぼ会社主張のとおりの認定をなしたが、希望退職募集後の六九名の余剰人
員に対しては二次募集を行うべきであつたと独断し、右六九名の指名解雇の必要性
の疎明が不十分であるとか、申請人に対する予備的解雇を含む指名解雇は「低成績
者一掃の意図の下になされたものであるから解雇権の濫用である」などという極め
て誤つた、かつ理解に苦しむ判断をなすに至つている。
 第一次仮処分判決の右のような判断の不当性は明らかであり、当然取消を免れな
いのである。特に第一次仮処分の審理指揮は、いたずらに結審を急ぎ、会社に充分
な疎明の余地を与えなかつたにもかかわらず、右のように「六九名の指名解雇の必
要性の疎明が不十分である」などという正に信義則に反するような判断を示してお
り、この点からも本件審理にて、第一次仮処分を当然の前提となすことはできない
のである(なお右指名解雇の正当性については貴庁昭和五一年(ワ)第一、一二二
号事件において、会社が立証を尽しているところであり、貴庁においても充分なご
理解を得ているものと確信する次第である)。
 従つて、いずれにしても申請人は右予備的解雇によつて会社の従業員としての地
位を失つているのであるから、本件仮処分申請は被保全権利を欠くものであつて、
却下を免れないのである。
二、被保全権利の不存在-その二(賞与額の未確定)
(一) 本来、賃金の昇給額、あるいは一時金の額は、雇傭契約の内容をなすもの
であるところから、これが確定するためには当然に従業員と使用者との合意ない
し、使用者の意思表示を必要とすることは多言を要しない。
 ところで会社は申請人に対し、申請人主張の如き一時金の支給の意思表示をなし
たことがないのであるから申請人主張の具体的請求権が発生するに由なきものとい
わなければならない。この点につき、富山県教組事件についての富山地裁昭四七・
七・二一判決(判時六八九号一一一頁)は、成績査定(五段階の)をともなう勤勉
手当について「任命権者が当該職員につき右五段階の成績率のうち、いづれに該当
するかを具体的に決定し、その支給額を算定しない以上未だ当該職員は確定債権と
してこれを取得し得ないものというべきである」として勤勉手当支給額の差額支払
請求を明確に棄却していることが参照されねばならない。更に右のように昇給等が
使用者の意思表示により初めて実現するとしている判例として板付基地事件(福岡
高裁昭三八・三・七判決労民集一四・二・三九二)、丸住製紙事件(高松高裁昭四
六・二・二五判決労民集二二・一・八七)等が存在するのである。
(二) かように会社が申請人について、その主張する一時金の支給の意思表示を
したことがないのであるから、先づこの点において申請人の主張は失当といわざる
を得ない。
(三) 申請人は、業績スライド臨時給の仮払い分についてもこれを含めて仮払い
を求めているようであるが失当である。業績スライド臨時給とは、夏・冬の一時金
とは別個に、各期毎(六ケ月毎)に会社の設定した目標(経常利益など)の達成度
合いに応じて支給される業績報償給であつて、いわゆる生活給的・固定的臨時給と
は全くその性格を異にするものである。
 従つて申請人のように現実に会社の生産に関与していない者に対しては支給され
るに由なきものといわなければならないのである。
三、申請人の主張する金額の不当性
(一) 仮に百歩を譲り、一時金支給について、使用者の意思表示を必要としない
としても、申請人が、その主張のように一時金の支給を受け得る権利を取得するこ
ととはならないのである。その理由を詳述すればつぎのとおりである。
(二) 申請人の勤務成績の概要は、疎甲第一号証の決定第四丁裏以下に記載のと
おりである。すなわち、昭和四六年四月~同年九月の総合評価はE、昭和四六年一
〇月~昭和四七年三月のそれはD、昭和四七年四月~同年九月のそれはDである。
そして、昭和四七年一〇月から第一次解雇処分を受けるまでの間の総合評価は、申
請人が考課期間の途中で第一次解雇処分を受けたため、右期間中の勤務成績に関す
る最終的な考課がなされていないが、申請人は、この間に、昭和四七年一二月と、
昭和四八年一月の二回にわたつて居眠り作業とこれに起因する工作不良を惹起して
いる(そして、後者については、出勤停止一〇日の懲戒処分を受けている。)か
ら、仮に考課がなされたとすれば、Eの総合評価が与えられたであろうことは、余
りにも明白である。そして、第七次仮処分決定(疎甲第一号証第四丁裏以下)も、
申請人がいわゆる低成績者に当たることを肯認しているのである。
(三) 前述のように、申請人の勤務成績に対する最終の総合評価はEである、と
解するのが正当であるから、格別の反証がない本件においては、申請人が第一次解
雇処分を受けることなく会社に勤務していたと仮定した場合には、その勤務成績に
ついて、同一の総合評価(E)を受けて来たであろうと推認するのが、合理的であ
る。
 申請人引用の疎甲第一号証(昭和五七年(ヨ)第七九一号事件の決定)の第四丁
裏、第五丁表においても、申請人の本件解雇後の成績評価はE、職務給は本件解雇
当時の四級一号のまま今日に至つているものと認定している。
 そうであるとすれば、申請人がその主張のような一時金の支給を受け得ないこと
は明白であり、以下これを詳述することとする。
(四) 下期分支給額(一二月一〇日支給)については、組合員一人平均の金額
は、申請人の主張に誤りはない。しかしながら賞与は組合員平均が各人にそのまま
支給されるものでないことは当然である。以下昭和五七年度下期分についての正当
な金額を挙示することとする。
(1) 下期分支給額(一二月一〇日支給)について
ア、基準内賃金
 疎甲第一号証別表1記載のとおり、月額金一八万一、九〇〇円である。
イ、調整給
 「昭和五七年下期臨時給支給要領」(疎乙第一号証)にいう成績調整分は、右要
領の別紙に記載されているとおり、職務ランクごとの調整分標準額が定められ、
(申請人の場合は、四級一号であるから金八万六、〇〇〇円となる。)さらにこれ
に対する考課配分額が定められ(申請人の場合は、Eであるから、マイナス二万円
となる)この二つの組み合わせによつて、各人に対する成績調整分が定まるのであ
る。(申請人の場合は金六万六、〇〇〇円となる。)
ウ、業績スライド臨時給下期仮払分
 前記のとおり右仮処分は、その性質上申請人のように現実に会社の生産に関与し
ていない者に対しては支給されるに由なきものであるが、仮にこれを推定するとす
れば、その算式は疎乙第一号証2、②のとおりである。
(2) 昭和五七年度下期における正当な推定一時金額
 以上において述べたところに従つて、昭和五七年度における正当な一時金額を推
算してみると、別表記載のとおり、下期分支給額は金四二万六、〇九四円となる。
申請人の主張する金額は明らかに誤りである。
四、保全の必要性について
(一) 一般に賃金等の仮払いを命ずる仮処分は、満足的(断行)仮処分の典型的
な事例であり、しかも一旦支払つてしまえば後日本案訴訟において債務者(使用
者)が勝訴しても、原状回復が不能あるいは著しく困難となることが多いので、こ
れを認容するためには高度の必要性を要するものとしなければならないのである。
 そして仮払いが求められている賃金等を過去の分と将来の分に分類すれば、過去
の分については、前述のような満足的仮処分の性質に照らして、一般的に保全の必
要性の限界を逸脱しているものと解するのが正当である。さらに賃金等を一定の期
日に一定の金額が支払われる本来的な意味における賃金と、支払期日も金額も特定
されていない臨時的給与(本件のような昭和五七年度下期の一時金の仮払い請求が
これに当たることは明白である)とに分類すれば、後者については一層右の理論が
妥当するのである。
 したがつて、学説は過去の賃金等、ことに少額のものや臨時的な性格を有するも
のの仮払いを求める仮処分について、保全の必要性を肯定することに懐疑的なもの
が多いのである。
 例えば、労働関係民事行政裁判資料一二号一五六頁c「仮処分」経営法学集一九
巻一六六頁。
d「賃金、退職金支払の仮処分の必要性」実務民訴講座九巻三〇〇頁以下
e他編「仮差押、仮処分」実務法律体系八巻四五八頁
 判例もまたつぎのように圧倒的多数のものがこの種事案についての保全の必要性
を否定しているのである。
(1) 一人あたり金六〇五円の公労委仲裁裁定による追加支給金
(東京高判昭二五年一一月二八日労民集一巻六号一、一四九頁)
(2) 一人あたり金七七二円の生産奨励金
(函館地決昭和二五年一二月二八日労民集一巻追録一、二九八頁)
(3) 一人あたり金六二六円から金一七〇円の年次有給休暇請求による賃金カツ
ト分
(仙台地決昭和二九年四月七日労民集五巻二号二一一頁)
(4) 一人あたり金九一、九八〇円から金三、七五〇円の退職金の残金
(浦和地判昭和三〇年一二月二七日労民集七巻一号二〇九頁)(東京高判昭和三一
年九月二九日労民集七巻六号一、一一五頁)
(5) 一人あたり金三八、〇〇〇円から金二一、〇〇〇円の給料の一カ月分の夏
季手当
(岡山地決昭和三三年一一月二九日労民集九巻六号一〇四六頁)(広島高岡山支決
昭和三四年四月三日労民集一〇巻二号四一八頁)
(6) 金三一、五六四円の休業手当
(東京地判昭和三三年一二月一九日労民集九巻六号一、〇五〇頁)
(7) 一人あたり金三五、三七九円から金二九、六六二円の給料の一・四カ月分
の越年資金
(広島地福山支決昭和三四年三月二三日労民集一〇巻二号四一二頁)
(8) ロツクアウト中の賃金カツト分(金額不詳)
(神戸地判昭和三四年一二月二六日労民集一〇巻六号一、一五二頁)
(9) 一人あたり金六、九八一円から三、二五〇円の懲戒休職による休職期間一
五日分の賃金
(福岡地判昭和三六年五月一九日労民集一二巻三号三四七頁)
(10) 一人あたり金三一六、二六〇円から金一四、〇四四円の時間外および深
夜労働による割増賃金)
(名古屋地決昭和三六年九月二五日労民集一二巻五号八三四頁)
(11) 一人あたり金一、八〇〇円程度の解雇申後し以後、解雇の効力発生まで
の九日間の賃金
(名古屋地判昭和四〇年一一月一日労民集一六巻六号八九五頁)
(12) 夏季賞与金一七五、六〇〇円
(広島高決昭和四七年九月一八日判時六八三号一二五頁)
(13) 過去の昇給分あるいは一時金(高知地決昭和五二年一二月二三日労経速
報九七四号二〇頁)
(14) 過去の昇給分および一時金(名古屋地決昭和五四年八月一日労経速報一
〇二三号二一頁)
 前記学説や判例によれば、本件昭和五七年度下期一時金の仮払いを求める仮処分
については、一般的に保全の必要性を否定することが正当であることは、もはや多
言を用いずして明らかであろう。
 なお、数次にわたる仮処分後の昇給差額一時金支払請求仮処分事件につき、その
必要性が否定された最近の判例として、東京地裁(昭和五一年九月九日、昭和四九
年(モ)第一二、七七六号)判決(判時八四三号一一四頁)及び東京高裁(昭和五
三年六月二八日、昭和五二年(ウ)第八四〇号)判決(判時八九八号五四頁以下)
東京高決(昭和五六年一月二九日、昭和五五年(ウ)第一二三五号労民集三二巻一
号七頁)札幌高決(昭和五六年二月一二日、昭和五五年(ウ)第一〇五六号労民集
三二巻一号七六頁)前掲岐阜地裁(昭和五七年三月二九日、昭和五七年(ヨ)第二
八号)決定(労働経済判例速報一、一二七号一二頁)があることを付記しておく。
(二) 仮に百歩を譲り、右の一般論が容れられないと仮定しても、本件において
は保全の必要性を否定すべき格別の事情が存するのである。
(1) 申請人はその自認にかかるように、第一次および第七次仮処分により毎月
一八万一、九〇〇円の仮払いを受けている。さらに、申請人自身は解雇以後当然の
ことながら会社に対し労務を提供しておらず、充分な余暇がある。
 一般に、解雇無効確認の本案訴訟係属中といえども、その当事者は、働くための
外的条件が満される以上、アルバイト等に就労し自己及び家族の生活維持に努める
ことが可能であり、それでもなお緊急の必要がある場合に賃金仮払仮処分の必要性
が肯定されるというべきであつて、条件が満たされるにも拘らず自らの意思で就労
せず、あえて緊急状態を作出しているような場合にあつては、その事情は仮処分の
必要性判断の際に消極事情として充分斟酌されるべきである(疎甲第一号証一一丁
表以下)。
 申請人は、少くとも昭和五二年まではa市会議員の秘書をすることにより毎月四
ないし五万円の収入を得ていた(疎乙第二、三号証の各一、二)のであるから、そ
の程度の就労は現在においても可能であると考えられ、それを不可能とする事情は
見当らない(申請人は裁判の日程やそのための準備をあげるかもしれないが、一方
では党活動や奉仕的活動に従事しており、就労の時間的余裕がないとはいえない)
から、申請人の右の如き日常の状況は保全の必要性判断のための事情として充分斟
酌さるべきである。
 最近申請人およびその妻は名古屋市<以下略>の自室において私設の託児室を営
み、幼児数名を保育しているとの噂である。名古屋市民生局の話によれば児童福祉
法所定の保育所に該当しない施設(たとえばアパートの一室等)において、保育経
験者が保母資格を有しなくとも随意契約の形式で託児業を営むケースは極めて多
く、行政的にもこれらの営業を禁ずる法的根拠はないとのことであり、名古屋市内
の場合、これらの託児室の料金は、幼児一人当り毎月最低でも四万円、最高では八
万円にも達しているとのことである。
 従つて、申請人およびその妻の場合も右託児業によつて、少くとも毎月一二万円
を越える収入を得ていると推測されるのである。
(2) なお申請人は、第一次仮処分判決によつて、昭和五二年一〇月七日会社よ
り金三五九万六、〇三一円にのぼる多額の仮払金を、第二次仮処分決定によつて金
四〇万円を、第三次仮処分決定によつて金三三万円を、第四次仮処分決定によつて
金四〇万円を、第五次仮処分決定によつて金三二万円を、第六次仮処分決定によつ
て金四〇万円を、第七次仮処分決定によつて金三二万円をそれぞれ一時に受領して
おり(合計五七六万六、〇三一円)これが申請人の生活に格段のうるおいを与えて
いることは明白である。
(3) 申請人は第一次仮処分審理中である昭和五一年三月、普通乗用車(トヨタ
カローラ一二〇〇ccデラツクス)の新車を約九〇万円(購入にともなう必要経費
を含む)の即金払にて買入れ、その毎月の維持費約二万円の負担にも充分耐えて今
日に至つているのである(疎乙第四および五号証)。
(4) 更に、昭和五三年九月六日付愛知県公報の選挙管理委員会告示によれば、
申請人は、昭和五二年中に日本共産党愛知県委員会に対し、金五〇万円にものぼる
個人としては極めて多額の寄附をなしているのである(疎乙第六号証)。
(5) 申請人は、昭和五三年一〇月一〇日それまで居住していた名古屋市<以下
略>から同区<以下略>に転居している(疎乙第七号証)。右転居によつて申請人
一家の居室が広くなり、かつ家質が毎月一万三、〇〇〇円強から二万三、二〇〇円
(疎乙第八号証)に増額となつたが右時点であえて転居をする以上、右賃料増額に
充分耐え得る程度の収入を得ていたことは常識上も明らかであるといわなければな
らないのである。
 以上述べた如き申請人について存する諸種の格別の事情を総合すれば、申請人に
は第一次仮処分判決ないし第七次仮処分決定に基づく仮払金額を超える金員の支払
い(昭和五七年度下期一時金)を、本案判決を待たずして、仮処分によつてまで求
めなければならないほどの緊急の必要性は存しないのである。
(三) なお、申請人は、業績スライド臨時給の仮払いについてもこれを含めて仮
払いを求めているようであるが、業績スライド臨時給の性格は前述のとおりであ
り、いわゆる生活給的、固定時臨時給とは全くその性格を異にするものであつて、
給料生活者が不可欠の収入として予定し、年間の生活設計を立てるというようなも
のではない。従つて右のようなものまで本案判決を待たずして、仮処分によつて支
払いを求めなければならないような緊急の必要性はないのである。
(四) 申請人は、保全の必要性について種々の言い訳をしているが、いずれも本
案判決を待たずして仮処分によつてまで求めなければならないほどの緊急の必要性
はない。
 特に、申請人は、疎乙第六号証記載の金五〇万円にのぼる多額の寄付について他
の人々の寄付金を申請人名義で届出たかの如く強弁している。
 しかしながら、申請人は昭和五二年一〇月七日言渡された第一次仮処分判決に基
き、会社から同月中に約三六〇万円の仮払金を得ている。(第一次仮処分ないし第
七次仮処分により仮払いを受けている金額は、累計約一、五三〇万円にものぼ
る)。しかして右疎乙第六号証の愛知県公報によれば、申請人の右寄付は昭和五三
年三月三〇日までになされていることが明らかである。かような時間的関係からす
れば、申請人が、右仮払金の内から五〇万円を日本共産党愛知県委員会に寄付した
事実は明白といわなければならない。他の人々の寄付金を申請人名義で届出たなど
という主張は、余りにも不合理である。けだし仮に多数の人々から一〇〇円や一、
〇〇〇円という単位で寄付金を集めたというのであれば、当然集まつた金額には端
数が生ずるはずであるのに、申請人の寄付金は五〇万円という全く端数のない整つ
た数字である。疎乙第六号証の三八頁の寄付の内訳欄の末尾に「その他」として金
一、〇七二万二、五〇九円という多数の数字の記載がある。右「その他」の金額こ
そ、申請人のいう一〇〇円や一、〇〇〇円という小口の単位で寄付した多数の人々
の寄付金額であることは極めて明白である。
 また多くの人々が出し合つた金が、その人の功績であるかの如く、特定人の名前
で届出されるということは、余りにも不自然である。
 以上のところから、申請人の前記強弁は事実を歪曲していることが明白である
が、更に付言すれば、申請人の右弁解は主張のみに留り、疎明が全くなされていな
いのであり、このことからも右主張の虚構性が明らかである。

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