弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人風間力衛及び被告人B弁護人坂井宗十郎の上告趣意は末尾に添附
した別紙書面記載の通りである。
 被告人A弁護人風間力衛上告趣意第一点について。
 按ずるに連続一罪を構成すべき数多の行為を判示するには各個の行為の内容を一
々具体的に判示することを要せず数多の行為に共通した犯罪の手段方法その他の事
実を具体的に判示する外其連続した行為の始期終期、回数等を明らかにし且つ財産
上の犯罪であつて被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示
する外他は員数を掲げ賍額の合計額を表示する等これによつて其行為の内容が同一
罪質を有する複数のものであることを知り得べき程度に表示すれば十分であること
は当裁判所判例の示す所である(昭和二二年(れ)第九二号、同二二年一二月四日
第一小法廷判決言渡)。そして所論原判決の判示第四の(二)の各行為は連続犯と
して判示したものであることは判文上明らかでありその判示方法は前掲判例の趣旨
に添つたものであつて所論の如き違法ありとは言い得ない。次に論旨は原審の証拠
説明を非難するので按ずるに判決における証拠説明を親切ていねいにすることは望
ましい事であり原判決の証拠説明は簡に失するきらいがないではないがしかし証拠
説明は必ずしも証拠の内容を一々摘録したり一々原文のままを写録したりすること
を要するものではなく或は其趣旨を摘示し或は其題目を掲げて判示事実又は他の判
示証拠と総合対照して其内容を認識し得る程度に挙示することによつて如何なる事
実が如何なる証拠によつて証明されるかを判文上示せば足るのである。そして原判
決は被告人の原審公判における判示同趣旨の供述と窃盗被害者の作成した始末書と
を証拠として判示事実を認定したものであり右証拠を総合して判断すれば原判決の
判示事実を認定し得るのであつて連続犯の判示事実としては前記の程度で足りるの
であるから、従つて原判決には所論の如き違法はない。
 第二点について。
 記録に徴するに本件被告人は九人の多数であり犯行は昭和二〇年一二月八日頃よ
り同二二年三月一二日頃迄約一年三ケ月間に単独又は二名乃至五名共謀して強盗傷
人、強盗各一件、強盗予備二件、窃盗二三件の多数なる点に鑑み被告人が昭和二二
年五月三日に勾留状を執行されてより同年一一月一〇日の原審第一回公判期日まで
六ケ月余を経過したとしても不当に長く拘禁されたとは言い得ない(被告人が所論
逮捕の時より勾留状を執行される迄の間拘禁されたという事実は記録上明らかでな
い)。そして被告人は昭和二二年四月三〇日警察官の取調に対して本犯行を自白し
てより同年五月三日の強制処分における判事の訊問においてもまた同年五月一一日
の検事の取調並に同年六月二〇日の第一審公判期日において何れも本犯行を自白し
ていることが明白であつて、原審公判においてもまた前記各取調に当つて為したと
同趣旨の自白をしたのであるから原審公判における自白は不当に長く拘禁されたこ
とに原因して為された自白とは言い得ない。そして拘禁と自白との間に因果関係の
ないことが明らかに認められた場合は刑訴応急措置法第一〇条第二項の不当に長く
抑留若しくは拘禁された後の自白に当らないということは当裁判所数次の判例の示
すところであるから論旨は理由がない。
 被告人B弁護人坂井宗十郎の上告趣意第一点について。
 「按ずるに第一審においては被告人の行為を強盗予備と窃盗の連続犯であると認
定して懲役一年に処し未決勾留日数三〇日を通算したのに対し被告人及び同人の弁
護人より控訴の申立をなし原審では右強盗予備の点については証拠不十分の理由に
よつて無罪とし窃盗の事実のみを有罪と認めて第一審通り懲役一年に処し第一審で
通算した未決勾留日数中三〇日を第一審同様通算した外原審での未決勾留日数中一
三〇日を通算したことは判文上明白である。しかし刑事訴訟法第四〇三条の所謂不
利益変更禁止の規定は被告人が控訴した事件又は被告人の為に控訴した事件につい
ては控訴審の判決において第一審判決の主文の刑を重く変更することはできないと
いう趣旨であつて、たとい控訴審において第一審が有罪と認定した犯罪事実中の一
部分については犯罪の成立を認めないで、しかも第一審判決と同一の刑を言渡した
としても第一審判決の主文の刑を重く変更したとは言い得ない。前段説示した通り
原判決は第一審判決の主文の刑を重く変更したとはいえないから論旨は理由がない。」
 第二点について。
 しかし原審が第一審において有罪と認定した事実中その一部は罪とならないと認
定しながら第一審通り懲役一年の刑を言渡したとしても所謂不利益変更禁止規定に
反するものでないということは第一点で説示した通りであつて何等法則違背は認め
られない。論旨は第一審で認定した犯罪行為の一部が第二審で無罪になつたにかか
わらず刑が同じでは結局上訴しても不利益を受けることになり、かくの如きは憲法
違反であるというのであるが同じ刑である以上実質上不利益ということは有り得な
い。かかる有り得ない事実を前提として憲法違反であるという論旨の如きは裁判所
法第一〇条にいう「法律命令又は処分か憲法に適合するか否かを判断するとき」に
該当しないから当小法廷において裁判をするのであるが、論旨は理由なきものであ
る。
 よつて刑事訴訟法第四四六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二三年一二月一四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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