主文
1控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴に基づき,原判決を次のとおり変
更する。
(1)控訴人は,被控訴人に対し,2051万6641円を支払え。
(2)控訴人は,被控訴人に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「月
例賃金,賞与」の項の表の「平成3年分のうち3月1日以降の分(年金
保険料20万円控除後」欄「平成4年分のうち5月までの分(年金保),
険料10万円控除後」欄の各「差額相当額」欄記載の各金額に対する,)
対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割
合による金員を支払え。
(3)控訴人は,被控訴人に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「退
職金」の項の表のうち「一時払分「年金分」欄の「平成4年分」欄,」,
ないし「平成18年分(9月まで」欄の各「差額相当額」欄記載の各)
金額に対する,対応する「遅延損害金起算日」欄記載の日から各支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)控訴人は,被控訴人に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「退
職金」の項の表のうち「平成18年10月分以降の分」欄の「差額相,
当額」欄記載の金額379万0500円に対する平成18年10月24
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)控訴人は,被控訴人に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「公
的年金」の項の表の「年金分」欄の「平成4年分」欄ないし「平成18
年分」欄の「差額相当額」欄記載の各金額に対する,対応する「遅延損
害金起算日」欄の記載の日から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
(6)控訴人は,被控訴人に対し,別紙1「裁判所認容額一覧表」の「公
的年金」の項の表の「年金分」欄の「将来分」の「差額相当額」欄記載
の金額69万2367円に対する平成18年10月24日から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
(7)控訴人は,被控訴人に対し,470万円に対する平成4年5月31
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8)被控訴人のその余の請求を棄却する。
2訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを5分し,その3を被控訴人の負
担とし,その余を控訴人の負担とする。
3この判決は,主文第1項(1)ないし(7)に限り,仮に執行すること
ができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
(控訴について)
(1)原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2)被控訴人の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
(附帯控訴について)
本件附帯控訴を棄却する。
2被控訴人
(控訴について)
本件控訴を棄却する。
(附帯控訴について)
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)控訴人は,被控訴人に対し,5199万7111円を支払え。
(3)控訴人は,被控訴人に対し,別紙2「附帯控訴人請求額一覧表」のう
ち「85年年間賃金」欄ないし「92年年間賃金」欄「退職金」欄の,,
「一時払」欄及び「92年年金分」欄ないし「06年年金分」欄「公的,
年金」欄の「92年年金分」欄ないし「06年年金分」欄の各「差額賃金
(B)−(A」欄記載の各金額に対する,対応する「遅延損害金起算)
日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)控訴人は,被控訴人に対し,別紙2「附帯控訴人請求額一覧表」のう
ち「年金将来分*1」欄「公的年金将来分*1」欄の各「差額賃金,,
(B)−(A」欄記載の各金額に対する,対応する平成18年10月2)
4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)控訴人は,被控訴人に対し,912万円に対する平成4年5月31日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,控訴人を退職した被控訴人が,在職中,賃金について女性である
ことを理由に差別的な取扱いを受けたとして,控訴人に対し,不法行為に基
づく損害賠償(昭和60年1月以降退職時までの差額賃金相当額,差額退職
金相当額,差額公的年金相当額,慰謝料及び弁護士費用)及びこれらに対。
する民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。原審は,控訴人は,
被控訴人が女性であることのみを理由として,賃金に関し,男性と差別的な
取扱いをしたものと認めるのが相当であり,控訴人の差別的取扱いは,故意
又は過失による違法な行為として,不法行為となり,控訴人は,被控訴人に
対し,これによって被控訴人に生じた損害を賠償する義務を負うべきである
こと,被控訴人の損害額は,月例賃金及び賞与の差額相当損害金1824万
8236円,退職金に関する差額相当損害金(一時金及び平成14年2月分
までの年金分)960万6010円,平成14年3月分以降の年金分の現価
407万0268円,平成14年2月分までの公的年金差額相当額532万
7712円,同年3月分以降の公的年金差額相当額の現価411万4726
円,以上合計4136万6952円に弁護士費用400万円を加えた453
6万6952円であることを判示して,控訴人に同額及びそれに付帯する遅
延損害金の支払を命じたが,被控訴人の求めた慰謝料の請求は棄却した。そ
こで,控訴人がこれを不服として控訴した。
被控訴人は,当審において,原審敗訴部分について附帯控訴を提起し,退
職金年金,公的年金について,原審において将来請求として求めたものの一
部(平成18年9月分まで)を既発生の損害として算定し,差額退職金相当
額については請求を拡張すると共に,差額公的年金相当額の請求を一部減縮
した。
2前提となる事実等
前提となる事実は,原判決「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであ
り,争点,当事者の主張の要旨は,当審における当事者の主張を後記第3項
のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」の第2の2,3記載のとお
りであるから,これを引用する。ただし,原判決4頁7行目,10行目の
「建築部」を「建設部」と改める。
3当審における当事者の主張
(控訴人の主張)
(1)被控訴人の職務及び職能資格(ランク)の格付が適正であること
ア被控訴人の担当していた業務内容について
(ア)控訴人は原審で,合併前に被控訴人が所属した昭和石油の職
能資格制度において,職能資格D1,D2のランクは「定型業務
,に従事し,十分な基本知識と相当な業務経験を有する者」であり
D2の中でも特に優れた者がD1であるとし,被控訴人はD2が
相当であると主張した。それに対し原判決は,これを否定し,被
控訴人を合併時には新会社の職能資格を監督企画判定職のS2
(原判決別紙4)に格付け,退職時までの間,職能資格を低くと
もS2であったと認めるのが相当であると判示した。
(イ)しかし,かかる判断及びその基礎になった事実認定は,誤り
である。
被控訴人は,昭和26年昭和石油に入社し,その後5年ほど株
式課の業務に従事した後,数か月間の建設部技術第1課での勤務
,を経て,昭和四日市石油に出向し退職まで勤務した。被控訴人は
合併以前は,昭和四日市石油本社においてその在籍期間の大半で
ある約30年間にわたり和文ないし英文タイプ業務を担当し,ま
た,オーダー等のデータ伝送,テレックスの受信送信業務も担当
し,合併後の新会社では,昭和四日市石油の本社及び東京事務所
において,引き続いてオーダー等のデータ伝送業務などを担当し
た。このように,被控訴人の職務内容は,和文,英文タイプ,デ
ータ送信及びテレックス業務であったが,その業務で扱う機械は
,異なるものの,その操作方法としては共通する部分が大半であり
その業務内容も正確かつ迅速にデータを打ち込むことが求められ
るにすぎず,特に責任度や困難度が高い業務とは言えなかった。
,因みに,昭和石油においては,タイピストは一般事務職ではなく
社用運転手や電話交換手と同様に特殊職として位置付けられてい
た(乙50参照。この長期にわたるタイプ職などの配置が被控)
訴人の職能資格が上がらなかった主な要因であった。
(ウ)被控訴人の担当していた業務内容について,時系列で説明す
ると,以下のとおりである。
a昭和26年8月から昭和31年7月(昭和石油総務部株式課
時代)
同時期は被控訴人が高卒直後の18歳から22歳までの間で
あり,被控訴人が採用された当時は,女性は管理部門の男性事
務職の事務補助職として採用され事務の補助的業務に従事して
いたのである。
当時被控訴人が担当していた受付業務は有価証券である株券
の照合に気を使うものの,相手と交渉する訳でもなく,仕事の
手順は全く単純であり,受け付けた株券は直ちに他の男性社員
に渡し,そこで名義書換の主要な業務が遂行されていた。しか
も,入社早々のこの時期は,通常,企業社会における一般通念
からしても,上司や先輩の指導を受け業務内容を覚えながら業
務を遂行する期間であることは明らかであるばかりか,原判決
も,当時の昭和石油のB,Cランクは補助職(補助業務従事す
る者)と認めていることに照らしても,同課の先輩である社員
と同一の労働内容を行っていたのに差別されたなどという原判
決の認定は誤りである。
b昭和31年7月から同年12月(昭和石油建設部技術課時
代)
原判決の「他の社員とチームを組み,製油所建設の進捗状況
に関する図面やグラフを作成する等の業務に従事した」との認
定は誤りである。
被控訴人は,そもそも建築に関する教育を受け昭和石油に入
社した者ではないから,技術上の知識もなく,被控訴人の建築
部技術課での在籍はわずか半年にも満たないのであり,その数
か月の中で,製油所の建設の根幹に関わる設計,構造等の専門
的知識が要求される図面の作成やグラフの作成に従事できるは
ずのないことは明らかである。被控訴人の従事した業務は,あ
くまでも技術者である他の男性社員の指示に従い従事したにす
ぎなかった。
c昭和31年12月から昭和62年8月(昭和四日市石油本
社)
,被控訴人は,昭和31年12月から昭和52年3月までの間
昭和四日市石油本社の総務課に所属し,この間,約20年間は
和文タイプの業務に,また昭和52年3月から昭和62年8月
までの約10年6か月の間は英文タイプに加え,昭和55年こ
ろ以降データの送受信及び国際テレックスの発信業務に従事し
た。しかし,その職務内容は,合併前においてはF2(係長相
当職。新会社のS2に相当)に,合併後の新会社では監督企。
画判定職のS2に格付されるような内容では到底なかった。
(a)被控訴人が行っていた和文,英文タイプ業務について
被控訴人はスタッフ50名程度の昭和四日市石油本社にお
いて,3名程度の和文タイピストの1人として,タイプ室で
タイプ業務を行っていたものであり,他の部署で起案された
原稿を和文タイプするという作業を繰り返していた。
タイピストは熟練度が要求されることはあっても,依頼さ
れた原稿を原稿どおり打つことがその仕事であり,その内容
をアレンジしたり,文章の表現を勝手に自分の判断で変える
とか,原稿に誤字脱字等があった場合,タイピストの判断で
これを修正することは許されず,その様な場合は依頼元へ確
認を取ることが必要であった。
被控訴人は,タイプ業務の集中力は他のどんな仕事をもっ
てしても勝るとも劣らないと主張するが,どの仕事にもある
程度の集中力が必要であることは自明のことであり,被控訴
人に要求される集中力はタイプ業務という機械操作に関する
集中力にすぎない。書かれた原稿内容に応じた機械操作が必
要であったとしても,業務内容に応じて諸条件を勘案しなが
ら判断をしなければならない非定型業務における集中力とは
質が異なる。
昭和四日市石油本社において,タイピストは一般事務職で
はなく,社用運転手や電話交換手と同様に特殊職として位置
付けられていた。このことは昭和56年組織図を見れば明ら
かである(乙50の1,3。また,東京都人事委員会にお)
ける調査(乙54の1)からも明らかなとおり,和文タイピ
ストの賃金水準は事務員よりも低く推移しているのであり,
これは,タイピストは特殊な技術が必要ではあるが,それは
あくまでも機械的な作業であり,その業務自体は言わば単純
業務であり,高度な判断力等を基本的には要しないとの社会
的評価に基づくものであった。
英文タイプは役員会,株主総会における英文資料,英文レ
ター,英文レポートをタイプで清書するものであり,与えら
れた原稿から字句を正確,迅速に転記するにすぎないもので
あり,翻訳したり,英文を作成する等することはなく,レイ
アウトに注意を要するものの,それ以上に高度の判断を要す
るものではなく,英語力を駆使する必要性もない。そして,
秘書課長は語学が堪能で,英文原稿の作成からチェックまで
やっていたのであるから,タイピストには基礎的な英語力が
あれば充分であった。
被控訴人は,タイプの仕事を不本意に続けさせられたかの
ような主張もする。しかし,被控訴人は「タイプの仕事は好
きである」と陳述すると共に,同人の陳述書によれば会社の
タイプ室で専門技術を持って働いている女性を見て憧れの気
持を持ったことから,タイプの資格を取ることはキャリアア
,ップに繋がると考え,タイプ学校に入ったというものであり
その結果,認定書を取得した際にこれを上司に見せているこ
とに照らしても,被控訴人がタイプの仕事をやりたいとの強
い希望を持っていたことは明白である。
(b)データ伝送業務について
データ伝送はコンピュータの端末を操作し,四日市製油所
内の電算課と交信するものであるが,その作業内容は単純な
機械の入力操作である。
(c)テレックス業務について
テレックス業務は引取各社からオーダーを受信する業務及
び他の社員から受領した英文を,テレックスで入力し,海外
へ発信する業務ないし海外から受信する業務であったが,デ
ータの送受信と同様に,特に困難度の高い業務ではなく,英
文タイプと同様の業務である。そして,昭和四日市石油本社
のテレックス業務の担当者は昭和52年から昭和58年まで
はP1が主であり,被控訴人は副であった。
昭和四日市石油本社は昭和56年においても40名強のス
,タッフであり,昭和59年においては,38名程度にすぎず
海外へのデータの送受信を依頼するスタッフはそのうち極め
て限られた者であり,兼務業務にて行いうる程度の仕事量し
か存在しなかった。
被控訴人は,その後,従前のテレックスでのオーダーの伝
送は,コンピュータ端末処理に代わり新たにパソコンが入っ
たが,本社では操作できる者もいず,被控訴人がデータ伝送
のOA化(業務の効率化と業務遂行の定着)を担ったと主張
。するが,否認する。P2がOA化のリーダー役を担っていた
また,被控訴人は,オーダーに係るパソコン操作を四日市
製油所の電算課やシステムの担当者と連絡しながら合理化し
たとも主張するが,それは,従来のテレックス入力からパソ
コンに切り替わったため,データの入力をパソコンで操作で
きるよう,その作業手順を製油所等のシステム担当者が被控
訴人に指導したのであり,被控訴人は従前のデータの入力を
パソコンにより継続したにすぎない。
d昭和62年9月から退職した平成4年5月(昭和四日市石油
東京事務所業務課)
被控訴人は,この間昭和四日市石油東京事務所業務課(課長
のもと,職員は4名にすぎない)において,オーダーの入力。
及び庶務関係の業務に従事した。具体的には,被控訴人は,①
コンピュータ端末処理,②製油所からのデータを受け入れ,東
京事務所の各担当者に配布する業務,③郵便物の受発信及び切
手の管理,④事務用品の管理,⑤新聞,図書の管理,⑥石油連
盟提出資料作成の補助業務といった判断を特に必要としない典
型的な定型業務に従事した。
イ原判決は職能資格要件の認識に誤りがあること
(ア)昭和石油のランクと合併後の控訴人の新資格との関係は,F
ランク(係長相当職)からEランク(組長相当職)は新会社のS
資格(監督企画判定職)に,また,Dランク(一般職)及びC,
Bランク(補助職)はG資格(一般職)に大枠で対応している。
新資格のS資格以上の格付については,主事補/技師補が管理専
門職のM4B,F1がS1,F2がS2,E1及びE2がS3
(翌年S3はS3Bとなりその上にS3Aが新設)と原則,対応
関係にあった。G資格への格付では,D1からD4(自由ラン
ク)とC,B(自動ランク)に分け,D1からD4は更に過去3
年分の成績順に3グループに分け,一定の基準でG1からG3に
格付けた。また,C,Bは自動昇格を加味し,卒年管理も考慮し
格付が行われた。
(イ)原判決が「原告が従事していた業務の中には,一定の専門技
術や知識を必要とするものもあり,より上のランクや職能資格等
,級に該当する職務とみる余地があるものも存する」という理由で
具体的な業務,等級を特定しない甚だ抽象的で全く具体性に欠け
る認定で,被控訴人の業務にはDランクまたはG資格より上の職
務とみる余地があると認定したのは誤りである。
(ウ)合併後のS2は,監督企画判定職に当たるものであり,その
資格要件は「業務遂行に関する専門知識・技術と関連業務に関す
る実務知識を有し,上位組織目標を理解するとともに,グループ
(係ないし課内における区分された2,3のグループ)の目標の
設定と推進などの業務を,関係者との折衝・その他諸問題の発見
・解決を的確に行いながら遂行し,また,グループメンバーの教
育指導が積極的にできる能力を有する者」とされる。また,その
職務の特徴は「係または,それに準ずる組織の業務を,管理監督
する職務」であり「課に関わるプロジェクトへの参加,また重,
要な課題の企画・実施・意見具申・折衝調整を行う」等とされ。
ている。また,能力の特徴は「職場のリーダーとして率先垂範し
て仕事に取組みグループ員を監督指導する指導力」が特に求めら
れている(原判決別紙4。S2に格付された男性社員は,所属)
部門において同僚や後輩に対して監督や指導的な役割を果たして
いるのであり,製造現場では係長や係長代理の職位を担う。昭和
石油のランクで言えば,概ねF2に相当する。四日市製油所にお
いて,F2に相応するものとしては,総務課文書係長のP3,労
務課係長代理のP4,P5,会計課予算係長P6,固定資産係係
長P7,装置管理課係長代理P8,管理係P9,計数課係長代理
のP10らであった。
(エ)昭和56年の昭和石油の組織図(乙50の1,2)からみて
も,被控訴人は,Eランクより下位にある。
製油所全体でみても,F2のほとんどが係長や係長代理の職位
に就き,また,Eランク者が組長や組長代理の職位に就いている
が,いずれの職位も被控訴人に比べると,責任や権限において上
位であることは歴然としている。上記組織図全体でみても,Fラ
ンク者は少なく,Eランクの組長も含めて,誰もがなれるという
ものではない。
上記組織図からみても,被控訴人が組長レベルに等しい役割を
担っているとは到底考えらず,また,E2より低い(Dランク
の)配置がなされている事実からしても,Eランクより上位のF
2,すなわちS2に認定されるべきとの根拠は全くない。
(オ)被控訴人の資格格付及び能力考課については,以下のとおり
である。
タイピスト業務は,ワープロが普及してきた昭和55年以降急
激に職種の必要性が低下した。また,合併前の時期において,被
控訴人の業務内容は,和文タイプ専属でなく,英文タイプ,デー
タ受送信,データ入力等に広がっていたが,これらはいずれも,
機械への入力業務の域を出ないものである。被控訴人は,20年
以上もの間,和文タイプ専属で過ごしてきた業務経歴(英文タイ
プを含めれば約30年間)や能力からみて,高度の判断を要する
業務を担当させることは相当でないものと判断され,昭和石油に
おいてはD2ランクが相当で,新会社(控訴人)においてはG3
ないしG2ランク(一般職)が相当であった。
被控訴人は,昭和石油時代の昭和56年ころには既に,性格的
に感情的で職場内でよく口論になることがあって孤立する傾向に
あったようであるが,能力考課は合併後の昭和60年から昭和6
2年まではB評価であった。被控訴人は仕事そのものはそこそこ
こなしていたが,全般的に見た場合,高い評価を与えることはで
きず,能力に関しても,業務の改善提案等を具体的に行うことも
なかったことから,特に評価できるものではなかった。また,積
極性,協調性などの情意の点において欠ける面が見られ,むしろ
自己の殻に閉じこもった印象があった。以上の観点から,上司と
しては,被控訴人についてS資格への昇格は妥当でないと判断し
た。
原判決は,控訴人には公正な人事評価制度が存在しなかったか
のような前提に立ち,男性はS2が多いので被控訴人もS2であ
るべきであったと,十把一絡げに結論づけた。更に,原判決は,
能力考課について,昭和63年から平成元年当時の能力考課にお
ける男性社員はA又はBが女性と比較すると多いことを捉え,且
つ被控訴人の勤務成績又は勤務態度が,他の社員より特に劣って
いたことを認めるに足りる証拠がないことを併せ考えると,低く
ともBであったと認定した。
しかしながら,以上の認定は,いずれも当時の被控訴人の勤務
態度からみて相当ではない。被控訴人は,その当時,孤立する傾
。向が強くなり,特に協調性評価で昭和63年からC評価となった
被控訴人は昭和62年に昭和四日市石油東京事務所に組織変更さ
れた後から,自身の業務に不満を持つようになり,協調性に欠け
る行動を取っていたもので,それは,控訴審において提出した同
じ職場にいた多くの社員の陳述書からも,裏付けられている。例
えば,被控訴人の職場で,あるとき三菱商事のオーダーが流れな
いとして大騒ぎになったことがあり,そのオーダー用紙が被控訴
人のゴミ箱から発見されたという出来事があったこと,被控訴人
が郵便物を下の階のメールボックスに届ける際,郵便物を手すり
にぶつけながら降りて行ったとか,書類を投げ捨てるようなこと
があったこと,他の女性社員との交流をしないこと,突然新聞を
床に落とす等の態度をとることがあったこと等の事実がある。こ
れらはまさに協調性に欠ける行動以外のなにものでもない。この
ような行為に照らせば,その上司が被控訴人を協調性評価でC評
価としたのは,妥当な措置であった。
(2)被控訴人と同じ職場(昭和四日市石油本社)の高卒男性社員の業
務内容等との比較
以下のとおり,被控訴人と同じ職場の高卒男性社員の職能資格に比
較して被控訴人が同じ業務で同じ職能資格(S2)にあるという主張
は,業務の難易度や責任の大きさ,専門知識,関係者への影響度とい
った質と量において大きく異なっており,誤りである。
アP2の業務内容との比較
,P2は,合併時S2の資格であり,平成元年以降,S1に昇格し
平成2年12月時点及び退職時はS1の資格を有していたが,同人
の社内経歴,その業務の内容からみて,当然の資格というべきであ
る。
P2は四日市製油所の主要な製造現場(交替勤務職場)を経て,
本社で出荷業務を担当し昭和四日市石油にとって重要で難易度の高
い仕事である製造及び出荷会議で中心的な役割を担い,製造部門や
引取各社の製造や業務,販売関係者との調整業務を担った。
P2の優秀さは,各社の需給状況と製造運転状況から短時間で判
,断し調整することができ,周囲からも評判が高く,外部との折衝力
,株主各社と製造現場の窓口としての信頼性,問題解決能力と指導力
影響力も絶大であったとされている。
P2のS2時代(昭和60年から昭和63年)の能力評価は全て
,A評価であり,昭和60年の考課表をみると,仕事処理能力は抜群
グループ内の信頼もあり動かし難い存在となっているとの記載があ
る。
イP11の業務内容との比較
P11は昭和34年に昭和石油に入社し,合併時にS3で,平成
2年12月時点S3Aに,平成5年1月にS2にそれぞれ昇格し,
退職時S2の職能資格を有していたが,同人の社内経歴,その業務
の内容からみて,当然の資格というべきである。
P11は,昭和石油の本社経理部や支店(会計,販売計画,特約
店管理)及び本社販売部(販売企画,設備投資や販売促進の経費管
理)など幅広い経験を経て,昭和四日市石油では,精製会社にとっ
て重要な位置付けにある原油・ナフサ等の輸入受入業務や税務,統
計・油量管理,官公庁等の窓口・渉外などを担った。また,3回の
海洋汚染事故の対応では船主や荷主の交渉係として貴重な経験を経
ている。P11の仕事は乙501の6枚目(業務課の組織図)の②
に更にP12とP13の仕事も引き継ぎ,E2となっており,被控
訴人との業務内容や能力面とでは,知識,企画力,折衝力,判断力
など大きな質の違いが存在した。
通産省へ提出する指定統計(生産統計)について,四日市製油所
で作成され,それを東京事務所の統計業務の主担当であり,かつ通
産省の渉外(窓口)担当であったP11が通産省に届けていたので
あり,被控訴人が自ら指定統計を作成したとの主張は誤りである。
被控訴人は,石油連盟への報告資料を作成するため,製油所から送
付された指定統計のデータを転記したにすぎない。
(3)同期の職務内容や社内経歴について(乙89)
乙72号証記載の12名の同期について,乙89号証に記載の経歴
・職務内容を見て具体的に検証すると,被控訴人の資格がG2である
ことは妥当であり合理性がある。
ア管理職の経歴や職務内容
昭和石油当時の管理職であったP14,P15,P16,P17
らは,多くの転居を伴う異動や配置転換を繰り返し,種々の職務を
経験して能力開発がなされたことが窺える。
イP18のG1資格と職務内容について
被控訴人の一つ上位資格のG1であったP18については,製油
課,動力課,操油課組長代理,環境安全課というその社内経歴を無
,視することはできない。即ち,P18は,最初に配属の製油課では
製造プラントの運転(ガソリン及び潤滑油の製造係)を担当し,装
置の点検や運転操作の業務を担った。部下が存在し,指導力が問わ
れる社内経歴において,被控訴人とは全く異なる。その他,P18
は,種々の国家資格(危険物取扱主任者やボイラー技士等)を取得
し,所内全体の危険物の流れや組織など,また,消防施設や消防技
術など熟知していた。
P18のG1資格は,部下を指揮指導する組長代理を担った時期
などを反映して格付されたもので,前述の職務内容から,被控訴人
のG2より高い資格であることは当然である。
ウ他の一般職の資格と職務内容について
S1のP19,S3AのP20,S3AのP21,S3BのP2
2,S3BのP23,S3BのP24などは,総じて多くの職務を
経験し,専門性を身に付け,部下や若手への影響力や指導力が期待
されていたのであり,被控訴人の担った職務と比較すると,難易度
や責任の大きさ及び専門知識や指導力といった能力面で,大きな差
異があった。とりわけ,係長,係長代理,組長,組長代理職位は,
組織規程によれば,それぞれ所管の業務を処理する職位であり,上
長の命を受け夜勤にあっては上長より委任を受け,それぞれの部下
を指揮命令し所管の業務を実施する責任者で,被控訴人とは全く違
う権限と責任があった。
(4)控訴人本社総務部の高卒社員との比較について
被控訴人と同じ総務の業務を担った者として比較対照された控訴人
本社総務部高卒社員であるP25,P26,P27の業務は,被控訴
人の業務とは大きく異なる。
アP25の業務内容との比較
P25(旧シェル石油出身)については,合併時S1であり,退
職時も同資格であったが,同人は,社内経歴においても,業務内容
においても被控訴人とは全く異なっており,単純な比較は妥当でな
い。
P25は,昭和32年4月からは航空販売部門のセールスマンと
して,航空会社の増加に伴い,受注とその数量の把握,納入先への
製品の供給,手配の業務に従事し,さらには羽田給油所の所長代行
に任ぜられ,給油計画の策定,必要燃料の手配,社内外の関係先と
の調整等の業務に従事した。この間の同人の業務に関する遂行状況
は正確,迅速で信頼できるとの評価であったことから,昭和57年
には羽田給油所の所長となった。合併後の昭和62年11月には本
社液化ガス部管理課に異動し,羽田給油所時代の経験を生かし液化
ガスを家庭用容器(ボンベ)に充填する施設,設備の建設計画推進
を主な仕事とした。
P25は健康を損ねたことから,被控訴人が勤務した昭和四日市
石油東京事務所業務課とは全く規模が異なり,仕事の範囲,規模が
相当に異なる控訴人(昭和シェル石油)本社総務課に配転となり,
同職場で定年を迎え,S1の資格で退職したのであるが,上記社内
経歴の比較なくしてP25の職能資格を評価することはできない。
イP26の業務内容との比較
P26については,合併時S3,平成2年12月時点の職能資格
はS2,その後M4Bを経て,退職時はF1(平成12年の人事制
度改定によりM4BとS1は統合しF1に再編された)であった。
が,同人の社内経歴,業務内容からみて,相当な資格であり,被控
訴人の職能資格が同じS2であったとの根拠にはならない。
,P26は,鶴見グリース工場において,会計に関する業務を経て
工場全体のまとめ役としての役割を担ったほか,衛生管理者を始め
危険物取扱主任者,ボイラー技士,有機溶剤取扱者など多数の国家
資格を取得するなどの高い意欲を有していた。その評価は極めて高
く,合併時の職能資格はS3であった(その後S3Aとなった。。)
昭和63年4月に,昭和シェル石油の99%出資会社の日本グリー
ス株式会社に鶴見グリース工場の業務が製造委託された結果,同人
は日本グリース株式会社に出向となり,同年5月に鶴見グリース工
。場の総務会計係長に就任した。このときの職能資格はS2であった
,平成4年1月に控訴人に復帰し,本社総務部総務課に配属となり
課全体の取り纏めを担い実質的に課長を補佐する業務に従事した。
また,全社にかかる総務部門の経費,資本予算などのコスト管理,
全国の電話通信料軽減の立案,推進,関係業者との折衝,全国の什
器備品購入に関する予算管理,支店,本社等全国の事務所の管理,
それに係わる契約の管理,役員用のハイヤー,タクシー,警備会社
等の業者との折衝,役員乗用車,運転手の管理等に従事した。
被控訴人が担う事務用品の購入や文具等の補充といった在庫管理
業務とP26が担う控訴人の全国にわたる什器備品の予算管理業務
とでは,大きな違いがある。P26のS2時代(昭和63年から平
成4年)の能力評価は全てAである。
ウP27の業務内容との比較
P27については,合併時S2であり,平成2年12月時点及び
退職時(平成10年)の職能資格もS2であった。
P27は控訴人本社総務部所属であって,被控訴人が所属してい
た昭和四日市石油東京事務所総務部と比較した場合,仕事の範囲,
規模が大きく異なり,職場が異なる(P27の所属した総務課電算
室は,同人を含み,4人のスタッフが配置されていた)以上,同。
,人の業務内容についても,以下の(ア)ないし(エ)記載のとおり
被控訴人とは相当異なり,これらを検討することなくテレックス業
。務という一言のみの比較では,被控訴人の職能資格と比較できない
その業務内容から,P27は,合併時にはS2に位置付けられた。
(ア)ロイヤルダッチシェルグループの100%子会社であった旧
シェル石油本社では,海外との英文によるやり取りの量が一日に
何件という昭和四日市石油本社とは全く異なり,テレックスが一
日に平均180通から200通くらいあった。
(イ)同部では,英語の読み書き,社内の外人社員やシェルグルー
プとのやりとりのための英会話が必要であった。
(ウ)P27のテレックスに関する技能は第1級と言うべく極めて
高いものがあり,国際電信電話会社主催の送信競技会では100
名中5位ないし6位であった。また,P27は英検2級の資格を
有し,同人のテレックスの処理技量(重いキータッチのテレック
スで50ワード以上の技能)は,被控訴人(英文タイプで1分間
に40ワードのスピード)の処理技能とはかなりの差があった。
(エ)P27は,グループ内の通信業務に関するマニュアルの改訂
への参画,旧シェル石油あるいは控訴人としてグループの通信業
務に関する改善等への意見具申,そのフィードバック,新たに作
成されたマニュアルを邦訳し,必要部署への伝達,利用者への徹
底をはかるなどの企画判断力にも優れていた。
P27は社内において高い評価を得ており,昭和50年には
「第1級のオペレーター。管理職登用を」とされ,昭和51年。
には「英会話のできる唯一の存在であり,課内外の評判は良
い」とされ,昭和53年には「将来の伝送室長の後任としての。
候補」とされ,昭和54年には「伝送室長の候補の一人と考え
る」とされた。。
(5)職能資格滞留年数表(甲106。以下「滞留年数表」ということ
がある)について。
ア原判決の認定・判断の誤り
原判決の64頁の「ウ「職能資格滞留年数」と題する書面(甲1
06)について」の(ア)の認定(ア)被告は,平成4年8月,「(
人事担当課長会議用の資料として,原判決別紙7の「職能資格滞留
年数」と題する書面(甲106)を作成し,会議に参加した人事担
当課長に配布した。この書面には,①「職能資格滞留年数」の表及
び②「1993年度最短昇格(入社年,年齢」の表が記載されて)
いる,原判決68頁の(イ)の認定(被告は,平成4年8月,。」)
社員を①大卒者,②高卒・技能職,③高卒補助又は短大補助の3グ
ループに分け,各グループ毎に,昇格までの最短・標準滞留年数の
基準と管理職への昇進及びM4Aへの昇格の基準を示した書面を人
事担当課長に配布し,この基準に従って平成5年度の昇格を実施す
るよう担当者に指示又は指導したものと認められる,原判決68。)
,頁21行目以下に記載された控訴人の主張は信用できないとの認定
原判決69頁4行目以下の認定(被告は,平成4年以前から,こ「
の基準と同様の昇格基準を設け,原則としてこの基準により昇格を
実施してきたと容易に推認することができる。他方,女性社員の状
況は「高卒・技能職」の基準に合致して昇格している者はなく,,
比較的若年の者については「高卒補助短大補助」の基準に合致し
て昇格しているが,年齢の高い者は,この「高卒補助短大補助」
の基準より長く同一等級に留まっていることが認められる。このこ
とからすると,被告は,女性社員については,従前から,高卒男性
に適用される「高卒・技能職」とは別に「高卒補助短大補助」の
基準を定め,原則としてこれにより昇格を実施しており,また従前
の基準は,平成4年の「高卒補助短大補助」の基準より滞留年数
を長く設定していたか,あるいは一定年齢以上の者を対象外とする
ものであったと推認される)は,いずれも事実誤認である。。」
滞留年数表は,平成4年1月の昇格者を対象にサンプル調査をし
た結果に基づき,滞留年数によってのみ昇格申請の判断がされてい
ないか人事担当者に問題提起をしたものであり,学歴別・職種別・
男女別に入事管理を行う基準ではない。以下のイないしオの事実に
よれば「まとめ」を含む乙66号証が控訴人の人事担当課長会議,
で配布され,その付帯資料として滞留年数表を添付した事実を併せ
て見ると,滞留年数表が会社における昇格の基準であり「この基,
準に従って平成5年度の昇格を実施するよう担当者に指示又は指導
したものと認められる」との原判決の認定は,滞留年数表について
根拠がない推認を行い,控訴人提出の乙33,34号証の存在を無
視した公平を欠く認定であり,論理的にも実体的にも矛盾する判断
である。
イ滞留年数表が配布された状況について
滞留年数表は,平成4年8月に1泊2日で行われた人事担当課長
会議において,人事課のパートの中で配布されたものである。会議
の趣旨は「92年人事考課」と「目標設定」が大きなテーマとし,
て掲げられ,平成元年に公表した人事諸制度ガイドブック(人事考
課制度)をさらに定着すること,とりわけ,昇格申請の基準となる
職能資格要件の理解と目標管理の理解を管理職に徹底することにあ
った。
そして,例年の会議と同様に人事考課の実施マニュアルを指導す
る中で,P28副部長より最後のまとめとして,再度,能力主義を
ベースにした人事の推進を管理職に指導する様,人事担当課長に働
きかけて,滞留年数表の説明が5分程度でなされた。滞留年数表の
説明の骨子は,ア)平成元年にガイドブックで職能資格要件が公表
されたこと,イ)その趣旨に沿って昇格の運用がなされているかサ
ンプル調査をしたこと,ウ)その結果が滞留年数表であること,
エ)実態として資格要件による昇格判断ではなく滞留年数を基に昇
格を判断する考えが散見されたこと等で,昇格申請のあり方などの
問題提起がされた。
ウ滞留年数表はサンプル調査結果から問題意識を喚起するのが狙い
であること
滞留年数表は,平成4年,5年のたった2回の人事課の組織人事
の担当者が行ったサンプル調査結果を一枚にまとめたもので,見た
だけでは内容を理解できない。そこで,P28副部長は上記人事担
当課長会議において,以下の説明を行った。
上段の表では,最短と標準で全く同じで一致しておりばらつきが
ない,すなわち,全員が一斉に昇格する傾向があり,これでは能力
主義ではないことになる。
中段の注記①では,大卒や高卒及び資格間に滞留年数で早い遅い
が極端に見られる。②では,管理職に昇格する者なら,55歳役職
定年との関係から何れの資格においても最短で3年,標準で4年,
遅くても5年で昇格して欲しいという人事の考えを示した。
下段の表では,現実的に問題意識を分かり易くするため,上段の
サンプル調査の結果をそのまま踏襲すると,翌年度の平成5年度の
,最短者では下段の表になると図示し,問題を考えてもらうようにし
能力主義(資格要件)を徹底し,滞留年数による昇格判断をやめる
ように戒めたのである。
エ滞留年数表を示した趣旨はマニュアルの最後の「まとめ」に記載
人事考課実施マニュアル(乙66)には,人事担当課長に対し,
最後の「まとめ」で,下記のように口頭で説明するよう指示してい
る。まとめの挨拶は,各事業所毎に開催する考課者会合を締めくく
るもので,人事考課についての控訴人人事部のメッセージを伝える
ものである。
「昇格に関しては,資格の滞留年数で遅い,早いを判断し,申請
するケースが見られます。また,評価もそれに対応して配慮される
場合が散見されます。しかし,昇格申請や評価は昇格基準,資格要
件が判断の基本です。基準をしっかり把握し,さらに将来性評価を
はじめ,中長期的視野で昇格を考えてください。多面考課時,特に
昇格申請の対象者について,資格要件は何か,その要件を満たして
いるかどうか,将来性評価はどうかなど必ず討議して下さい」。
オ滞留年数表は昇格基準ではないこと
控訴人は,能力主義を推進する立場にあり,この観点から,能力
があれば,滞留年数を気にしたり,同期入社者との比較などをせず
に昇格を申請すれば良いし,また,能力がなければ,同期入社者に
比して遅れることは当然であり,無理に昇格させる必要はないとい
う昇格に対する基本的な考え方があった。最近においては,30歳
代で部長,40歳代前半で執行役員に就任したり,32歳で女性の
管理職が出現しているなどの事実は,控訴人が資格滞留年数表を昇
格基準として運用していれば,あり得ないことである。
カ滞留年数表に反する事実
被控訴人は,男性社員は滞留年数表による年功管理で昇格すると
主張するが,事実は,それが基準でないことを示すのである。
被控訴人は,①大卒は,33歳でS2までは勤続年数とともに自
動的に昇格する。②その後,遅くとも38歳までにS1へ,43歳
までにM4Bへ昇格する。③高卒技能職は,S1までの昇格が想定
され,遅くとも55歳でS2に昇格する,としている。また,P2
9は,別事件で,④高卒事務職は,遅くとも44歳でS2に,49
歳でS1に昇格すると主張している。
,しかし,被控訴人が提出した書証(甲180,183)の中にも
上記基準に外れる者が多数(甲180に記載の38名に除外された
3名を加え,中卒者(P30)1名を除いた40名のうちの18
名)いる。。
(6)原判決が依拠した統計的資料の誤り
ア原判決71頁3行目以下の認定は,以下のとおり誤りである。
(ア)高卒男性社員の中には,入社当初から事務に従事している者
も相当数いるとの原判決の判断は誤りである。
原判決の「事務職における男女間の比較(原判決52頁,及」)
び「本給額の比較(原判決53頁)の事務職の人数の認定は,」
甲103号証の2及び甲108,109号証等に依拠するもので
あり,原判決52頁ないし53頁は,甲103号証の2及び甲1
08,109号証をもって入社時より一貫した高卒男性事務職の
社員が103名存在すると認定し,これを前提にして本給や資格
の格差を判断した。上記各甲号証は,いずれも乙24号証に基づ
いて848名の中から高卒男性事務職の社員が103名いるとす
るものである。しかし,各甲号証は,現業職及び事務職の区分を
乙24号証に記載された経歴を無視し,記載内容に基づかないで
区分しており,事実に反する。
つまり,103名の経歴を乙24号証により個別に調べてみる
と,乙98号証の1ないし3,乙99号証,100号証が示すよ
うに,現業職経験者が37名も存在するのである。さらに,中央
研究所員20名と製油所員8名(乙100)の合計28名は現業
職というべきであるから,これらの者を事務職から除くと,事務
職は結局38名にすぎない。被控訴人が主張する高卒男性社員7
40名のうち比較すべき一貫した事務職は,わずか38名(約5
%)ということになる。
さらに,原判決53頁の「本給額の比較(甲108)の表に」
示された男性事務職103名のうち被控訴人の年齢に近い一団
(49歳以上54歳までの40名)を被控訴人の比較対象者とし
て取り出してみると,そのうち現業を経験した者(乙100にお
,けるオレンジ色でマークした者)22名は「現業職」に区分され
さらに新たに現業職と区分された13名(乙100の「現業事業
所在籍あり」該当者)を加えると,35名となり,一貫した事。
務職は全体の40名から35名を控除した5名にすぎない。この
5名は,49歳以上の一団の男性125名で見れば,わずか4%
にすぎない。
(イ)「一般に現業部門に従事する男性が管理部門の一般事務に従
事する男性より賃金が高いとはいえず(ない」との原判決の判)
断は誤りである。
被控訴人の年代では,被控訴人が比較対象としている入社時よ
り一貫した高卒男性事務職の社員がほとんどいない中で,事務職
と現業職を区分し比較すること自体意味をなさない。現業職の賃
金に関する判断は,前提とした本給額の比較(甲109)の人数
が大きく誤っているので,その判断も誤っている。
,昭和石油は,全社員のうち製造部門の社員が3分の2以上おり
製造中心の会社であって,製造や現業の社員に対して低い給与等
の取扱いをすることはない。また,控訴人は事務職と現業職とで
区分して管理をすることはなく,長く現業職に携わった者もその
後相当数が管理職になっていた実態があり,現業職の資格や賃金
が低いとの被控訴人の主張は失当である。
(ウ)「原告の東京事務所における同僚のように,20年以上,1
0数年以上も実質同じ職場で同じ業務に従事する例もある」との
原判決の判断は誤りである。原判決は,同僚のP2,P11のよ
うに,20年以上,10数年以上実質同じ職場で同じ業務に従事
する例があると指摘し,あわせて被控訴人とP2,P11の業務
,内容は大きく異なるものではない(原判決68頁)と判示したが
前記(2)のとおり,全く事実に反する。
(エ)「原告や,P29,P31のように勤続年数の長い者の例を
みると,女性社員と男性社員との間に格差を生じた理由を担当業
務に求めることも困難である」との原判決の判断は誤っている。
原判決は,男女間の担当業務や勤務体制に,合理的理由が見出
せないと断定するが,比較考量する対象の男性について,業種や
業務の項目に触れただけでその具体的内容の差異について認定す
ることなく,また,その難易度や責任の大きさなどといった質と
量においてどこが同じであるかの説明もないまま「さほど変わ,
りない業務」と判示した。均等法施行前すなわち昭和石油の時代
において,ほとんどの女性が短期で辞めており,会社はそれに対
応して,いつ辞めても業務の支障が出ないように女性について補
充的配置をしていた。
,(オ)「30歳代以上でも勤務を続けている女性が少なからずあり
勤続年数5年以上の者では,男女間の勤続年数の差はさほど大き
くないともいえる」との原判決の判断(71頁)は,以下のとお
り誤りである。
a上記判断は,原判決66頁が指摘する「資料と報告(甲1」
32,133)を認定の一資料とするものである。
甲132号証に基づいて作成された甲133号証の1のデー
タでは,勤続5年以上の男女の勤続年数を比較すると,男女と
も11年ないし12年で等しいようにみえる。しかし,その対
,象とした入社年度の半数以上は戦中乃至戦前の入社年度であり
,戦争の影響により中ないし高年齢の男性在籍者は少なく,他方
勤続年数5年以上の若手社員には,当時の戦後復興,昭和四日
市石油の四日市製油所の新設に伴い,高校の新卒者を大量に採
用したため,勤続の短い男性オペレーターが多数在籍し,これ
が男性の勤続年数をかなり下げていたことを見落としている。
。b昭和44年以降7か年の女性の在籍率は1.5%にすぎない
c昭和56年の昭和四日市石油における女性の平均年齢は23
歳であった。
d被控訴人が退職後の平成7年の時点においても,長期勤続の
女性はわずかである。すなわち,昭和石油出身の合併時在籍の
女性310名は100数名になり,その内,勤続31年以上は
11名であり,それに対応する男性は,2300名の内約50
0名となっている。
e昭和60年以降新卒入社者男女別勤続年数一覧
均等法施行後の昭和60年以降の30歳時における女性社員
と男性社員との比較において,有意な差異が存在する(乙6
4。即ち,30歳時において,女性社員は20%から40%)
の在籍率に対して,男性社員は63%から100%の在籍率と
なっている。均等法施行後においても,在籍率に男女差が存在
したことを示すものにほかならない。
原判決は,合併を前後して採用が停止ないし縮小し女性の総
数が大幅に減り続け長期勤続の女性が目立ってきたこと,30
歳前までに9割を超える女性が辞めている実態にあったこと,
女性は均等法施行以降も被控訴人が退職した以降も早期に辞め
ていく傾向があったことを,見逃している。原判決が,以上の
点を見落とし「勤続年数5年以上の者では,男女間の勤続年,
数の差はさほど大きくないともいえる(71頁)と判示した」
のは,明らかに誤りである。
(カ)原判決の結論に至る方法論は,控訴人がその制度において全
く考慮していない比較方法で,所謂大量観察による結論の導き方
であり,かつ被控訴人と他の個々の社員との比較及び母集団を設
定してその傾向を得た上,これと被控訴人とを比較する方法をと
っている。
しかし,控訴人が設定している人事制度において,絶対評価の
趣旨に基づき,本来会社の定める資格職能要件において,被控訴
人の能力,担当する業務からみて,同人がどの資格等級に位置付
,けられるのが適切かがまず判断されるべきものである。原判決は
社員個人の評価が個別的なものであり,また,一定期間を経た時
点での本人の格付けは社員に対する個別的な評価の各年の評価結
果の累積であるとして制度を運用する控訴人の運用を殊更無視し
ている。
更に,原判決は,控訴人の人事諸制度に関し,制度はあっても
基準,運用があいまいであり,これらの点から結果として男女を
差別する人事制度であると判示するが,当該認定も明らかに誤り
である。
(7)男女の賃金格差が配置,昇進によるものであることを見落とした
原判決の誤り
ア確かに女性であるが故の賃金差別は許されるものでないが(労基
法4条,均等法(雇用の分野における男女の均等な機会の保証及)
び待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律。昭和61年
4月1日施行。以下「均等法」という。なお,本件で引用し,論及
する均等法は,成立,施行から被控訴人が退職した平成4年5月ま
でのものである)8条が努力規定にとどめた配置,昇進の格差は。
当然賃金の格差を伴うのであって,配置,昇進の格差に由来する賃
金格差が直ちに違法となるものではない。被控訴人の職能資格及び
これに基づく賃金の格差は,その能力及び業務遂行成果を正当に評
価し,会社の配置政策ないしは評価基準に則って適正に配置,昇進
を行った結果,生じた差異であり,女性であるが故の賃金差別では
ない。原判決は,この点を見過ごしている。
被控訴人が就労していた時期にあっては,女性が結婚,出産を機
に退職することが圧倒的に多く,かつまた女性に危険業務,深夜業
務等を担当させられない等,業務内容に制約があったこと,ならび
に男女の役割分担意識等もあいまって,私企業において男女間で配
置に差異を設ける処遇をすること(女性には補助的・定型的な業務
に従事してもらうこと)は,事実上広く行われていた雇用管理形態
であった。昭和石油においても,このような配置政策が実施されて
いた。しかし,均等法が努力義務に留めたという時代背景が示すと
おり,そのこと一事をもって違法な処遇とはいえない。控訴人にお
いて男女間に配置,昇進の格差があり,その結果,賃金格差が発生
していたとしても,その格差が著しく合理性を欠き,公序良俗に反
する程度の違法性があったかという点に関する原判決の判断には,
誤りがある。
,イ原判決は過去広く企業一般にみられた男女の賃金格差の大部分が
配置,昇進の格差に基づくものであり,控訴人においても同様であ
ったことを見落としている。
原判決は「これら男女間の賃金に関する格差の原因を明らかに,
する的確な証拠はない」と判断するが,均等法8条の努力規定は,
配置及び昇進について施行当時男女間に格差の事実があったことを
前提とする規定であるところ,配置及び昇進についての格差が賃金
の格差をもたらしていたことは明白である。企業一般あるいは同業
他社における賃金格差が「被告と同様の賃金に関する取扱いに基づ
くものであるとは認められず」として,控訴人における男女間の賃
金格差を当時の配置,昇進とは無関係に生じたもののようにとらえ
て,あたかも男女という性別のみによって賃金の面で差別したかの
ごとき前提を置いて認定した原判決は,誤りである。
企業一般ないし同業他社と控訴人との間に,同様程度の男女間の
賃金格差が認められるとすれば,その男女間の賃金格差のよって来
たる原因は,男女間の配置,昇格の格差が大きく寄与している。そ
の意味で,企業一般ないし同業他社が控訴人と大きく異なった人事
管理(配置,昇進,賃金取扱い)をしていたと認めるに足る証拠が
存しない本件において,控訴人における男女間の賃金格差が男女の
。性別のみによって生じたものであるとの原判決の認定は,おかしい
(8)損害額
ア原判決は,不法行為が存在しなければ,被控訴人自身が得られた
であろう損害金の算定を,相当因果関係について何ら検討すること
なく,被控訴人が甲134号証で主張した算定式をそのまま採用し
て認定した(原判決別紙6。この中で,昭和石油の労働組合が1)
983年春闘後に作成した「資料と報告(甲2の2)をベースに,」
被控訴人と同年齢のFランク者(10名が該当し,中卒を含み大卒
はいない。勤続年数は問わない)の平均本給を割り出し,それを。
賃金等差額算定の出発点にし,その後の合併に伴う本給調整(シェ
ル石油社員との格差是正,及び定昇,賃上げ額をFランク及びS)
,2資格の基準で加算して,あるべき本給,月例賃金・賞与,退職金
及び公的年金を算定,被控訴人の実際の支給額との差額を損害額と
した。
イ差額賃金相当損害金―被控訴人の職能資格をS2とする認定の誤
り
(ア)高卒男性職員の職能資格
男女差別を前提とする場合には,同期高卒男性社員の職能資格
はすべてS2以上であったという前提がない限り,被控訴人の職
能資格が当然S2とはなりえないのである。しかし,以下のとお
り,このような事実は存在しない。
a被控訴人が提出した甲132号証から被控訴人と同じ年齢,
勤続年数で同期男性を選定して作成した乙72号証によれば,
12名から原審の資格分布においても比較対象にならなかった
管理職を除くと一般社員は8名となるが,その資格分布は,S
1が1名,S3Aが2名,S3Bが4名,G1が1名で,資格
毎の人数分布の中心はS3Bである。
b被控訴人は,同期の基準を従来主張していた同じ年齢・同じ
勤続から同一年度入社者に変え,年齢の幅も4歳ほど広げ,3
8名を選定して甲180号証を作成している。この中から管理
職13名を外し,被控訴人と同年度入社でありながら外されて
いる3名を加えた一般社員28名から,卒業前に研修で早めに
入社した者8名を除いた20名の資格分布を見ると,S2を下
,回る者が15名もおり,S3Bが資格毎の最多分布人数であり
G1が2名,S3Bが7名,S3Aが7名もいる(乙96。)
c原判決49頁のb)平成4年の分布状況(甲103の1)を
見ると,49歳以上で一団を形成しており,52歳以上で区切
る理由はない。この一団で見ると資格分布はかなり拡がってお
り,被控訴人の主張とは違って,S3A及びS3Bにもかなり
の人数が分布している。
(イ)他の高卒男性社員の職能資格との比較
男女差別が存在しなければ,被控訴人がS2以上であるという
被控訴人の主張は,同期高卒男性社員はすべて職能資格がS2以
上であったという事実の上になりたつものである。ところが,そ
の前提がない以上,被控訴人の職能資格がS2に相当するか否か
という点が争点となり,被控訴人の職能資格がS2相当であるこ
とを,被控訴人は立証する責任がある。原判決は被控訴人の職能
資格がS2相当であることの充分な主張立証がないまま,S2と
認定しているもので,明らかに誤りである。
a職務名の比較
原判決は,被控訴人と他の高卒男性社員との職務内容の比較
をしているが,抽象的な職務名の比較のみに依拠したものであ
り,その事実認定には誤りがある。合併前の昭和石油及び旧シ
ェル石油並びに合併後の控訴人では,職務給制度は採っていな
かったから,職務名の比較は何ら意味がない。合併前の昭和石
油及び旧シェル石油並びに合併後の控訴人会社ではいずれもラ
ンク制,職能資格制度を採用しているものの,職務給制度は採
っていなかったのであり,社員の従事する業務と当該社員の職
能資格とは厳格に1対1の関係にはなかった。しかも,過去の
職歴,過去の業務内容に対する評価が高く,一旦ランクあるい
は職能資格が上がった場合において,その後の当該社員の従事
する業務或いは会社に対する貢献度が期待する程度に達しない
からといって,そのことを理由にランク又は職能資格を下げる
ことはしていなかった。実際には,職能資格の高い社員と職能
資格の低い社員とが同じ仕事を遂行することは,まま存在する
のである。
b社内経歴の比較
職能資格制度の下では,社員の資格等級は,毎年の努力,成
果や能力の評価を積み重ねた結果であって,過去の経過を見ず
に,ある時点における特定の社員が担当する職務に着眼し,そ
の時点で職務が近似している他の社員との資格の高低を比較し
て,当該社員の資格の高低を論ずることはできない。
c被控訴人の主張は「本給」はFランク者の平均本給で,ま,
た「資格」はFランクのケースで設定し,原判決もそのまま,
,採用した。しかし,Fランク者の平均本給27万1863円は
被控訴人と同年齢の男性総数33名中の上位6番目という高位
に相当し,また,FランクはF1とF2を一緒にした資格であ
り,新会社(控訴人)でいえばS1とS2に相当する高い位置
付けであった。そのような最上位の資格を採用することには合
理性がない。
仮に,本件事案のような男女格差を是正する場合には,本来
の格差是正の趣旨に基づけば,比較対象となる男性の一定の幅
の下限に到達させるように行うのが相当である。下限を超えて
是正をするのであれば,相当の根拠を示す必要があるが,原判
決は,なんら根拠を示さず差額相当損害額を認定しており,誤
りがある。
ウ差額公的年金相当損害金
原判決は,被控訴人が算定した公的年金差額相当損害金の主張に
対し,現在価値換算時の係数の違いを除き,ほぼ請求どおりの損害
賠償額を認定した。しかしながら,原判決の判断は,以下に述べる
理由から不合理である。
(ア)消滅時効の対象範囲
,控訴人は控訴審において,消滅時効の援用を行った。その結果
認容される賃金是正期間は提訴前3年内(平成3年3月以降)に
限定されるべきであるから,それ以前の賃金是正は年金差額相当
額の算定に当たって考慮すべきでない。この期間の賃金是正部分
のみを修正要素として算定すると,年金差額相当額は37万86
95円となり,原審が認定した944万2438円は不合理に過
大である。
(イ)賃金是正期間と年金差額算定方法との整合性
仮に年金差額相当額の算定にあたり,消滅時効の援用が認めら
れないとしても,被控訴人が主張し,裁判所が認容した賃金是正
期間は,昭和60年1月から平成4年5月までの89か月の期間
にすぎないので,それ以前の賃金是正を年金差額相当額の算定に
あたって考慮することは整合性がなく,不当である。
原判決認定の944万円余は誤りであり,以下のとおり,21
9万3683円が相当である。
aあるべき平均標準報酬月額
甲142号証では,差別がなかった場合の平均標準報酬月額
を37万9570円と算定しているが,これを昭和60年以降
の賃金是正に対応する限度においてのみ修正することにして計
算すれば,この数値(B)は以下の計算式のとおり,29万1
135円となる。
①認容された1985年以降の賃金是正期間中の各月ごとの
基準内賃金差額(乙88の[あ)×②厚生労働省の再評価率]
(乙88の[い)の③合計額1271万2582円÷④全期]
間475か月=⑤あるべき平均標準報酬月額と退職時に確定し
た平均標準報酬月額の差=2万6763円…A
退職時の実平均標準報酬月額26万4372円(甲140)
+A=29万1135円…B
b年金合計額(年当たり)
差別がなかった場合の年金報酬比例部分の額は,甲142号
証と同様の算定式を用いた場合,
B×9.17÷1000×475×1.089
=138万0973円…C
差別がなかった場合の年金合計年額
定額98万5912円+C=236万6885円…D
c年金額差額(年当たり)
D−退職時に確定した年金支給額223万9937円
=12万6948円…E
d年金額差額の,既払い分合計額(9年9か月分)
E÷12×117か月=123万7743円…F
e将来支給見込み額(原判決に従い,ライプニッツ係数を適
用)
E×19.03(平均余命)×0.3957
=95万5940円…G
f差額合計F+G=219万3683円
エ消滅時効について
(ア)被控訴人が男女差別の認識を持ったのは,昭和30年の家族
手当に関する差別を受けたという時期及び勤続20年(昭和46
年)に10歳年下の勤続10年の男性が被控訴人より資格も賃金
も上だった時期であることは,被控訴人自身認めている。
さらに,昭和59年,勤続33年のときに,かなり年下の男性
がFで,女性はDだと言われたという事実及び同年12月に合併
後の新資格がG3であることに被控訴人自身強い不満を有したと
いう事実についても争いはない。
このような過去の経緯から見れば,本件訴訟提起日より3年前
から被控訴人は男女差別に関する認識を有していたというべきで
ある。したがって消滅時効の起算点は,本件訴訟提起日である平
成6年3月8日から3年前となる。
(イ)控訴人は,当審第1回口頭弁論期日(平成15年8月5日)
において,消滅時効を援用する意思表示をした。
(ウ)控訴人は,原審において,男女差別という不法行為の成立自
,体を争っていたものであり,原判決でその成立が認められた以上
控訴審で仮定的に消滅時効を援用するのは,控訴人としての当然
の権利である。従って,控訴人による消滅時効の援用は信義則に
反する事情は全くなく,権利濫用に当たる事実も存在しない。
オ損益相殺
,社会保険料本人負担分については,被控訴人が免れた支出であり
これについては損害金から差し引かれるべきものである。被控訴人
が主張する期間内で被控訴人が負担すべき社会保険料は128万8
476円である。
なお,消滅時効の対象とならない期間について,被控訴人が負担
,すべき社会保険料を計算したのが乙65号証である。これによれば
被控訴人がS2であった場合に,負担すべき社会保険料は平成3年
から平成4年分として,金25万9074円である。
(9)被控訴人の附帯控訴について
。ア被控訴人の後記主張(2)ア(退職金の年金分について)は争う
本件口頭弁論終結時において明らかな平成17年簡易生命表によれ
ば,74歳女性の平均余命は「15.59」であり「15.7,
1」ではなく「15.59」を使用すべきである。また,原判決,
のとおり,中間利息の控除として,新ホフマン係数ではなく,ライ
プニッツ係数を用いるべきである。
イ(ア)被控訴人の後記主張(2)イ(ア(公的年金の差額分の)
算定について)は争う。被控訴人の被保険者期間が490か月
であることは,退職から一か月経過後に社会保険庁より送付さ
れる「支給額変更通知書」にて確認したはずであり,更に,退
職後であればいつでも社会保険庁に確認することは可能であっ
たから,当該期間の取り違いは被控訴人の落ち度であり,上記
主張は時機に後れた攻撃防御方法にあたる。
(イ)被控訴人の後記主張(2)イ(イ(具体的な額の算定に)
ついて)は争う。
厚生年金保険法昭和44年附則第4条第1項によれば「昭,
和32年10月1日から昭和51年7月31日までの被保険者
期間が3年以上ある者については,昭和32年10月前の標準
報酬月額は平均額の計算の対象としない」としている。。
被控訴人は,上記厚生年金保険法昭和44年附則第4条第1
項に該当するため,昭和32年10月前の標準報酬月額は平均
額の計算の対象とはならないにもかかわらず,昭和26年8月
から昭和32年9月までの期間における標準報酬月額を計算の
対象としており,被控訴人の算定方法は明らかに誤りである。
年金額の算出にあたり,厚生年金保険法第43条により,
「平均標準報酬月額×生年月日による支給率×被保険者期間の
月数×物価スライド率」と定められており,被控訴人が主張す
るように,金額改定後の金額の改定前の金額に対する比率(変
動率)を計算し,その変動率を乗じて算定するものでは決して
なく,差別がなかった場合の平均標準報酬月額に関する被控訴
人の主張は,明らかに誤りである。
更に,被控訴人が求める差額賃金相当損害金が,昭和60年
以降のものに限定されている以上,公的年金差額相当損害金に
関しても,昭和60年以降の賃金是正に対応するものに限定さ
れるべきである。
ウ被控訴人の後記主張(2)ウ(慰謝料)は争う。
(被控訴人の主張)
(1)控訴人の上記主張に対する認否,反論
ア被控訴人の職務及び職能資格(ランク)の格付が適正であるとの主張
について
(ア)被控訴人の担当していた業務内容について(控訴人の主張(1)
ア)
a同(ア(控訴人の原審における主張,原判決の認定)は認める。)
b同(イ)のうち,被控訴人の入社時期,同人の入社後の配置は認
めるが,その余はすべて否認する。
控訴人は,被控訴人が和文タイプ,英文タイプの「特殊職」であ
ったから職能資格が上がらなかったと主張する。しかし,被控訴人
は「特殊職」として採用されたものではなく,他の事務職の男性社
員と全く同じ辞令で採用された。その後強制的に和文タイプの仕事
に配転されたときも,同職が「特殊職」であると言われたことは一
切なく,ましてや「特殊職」は職能資格が上がらないと説明された
ことは一度もない。しかも,専門職を「特殊職」として低資格,低
賃金に据え置く合理的理由は全くない。
控訴人は,乙50の1,2を根拠とするが,控訴人は女性に対し
て強い差別意思を持っているものであり,控訴人(その前身である
昭和石油)が作成した組織図が,女性社員が担当していた職務やそ
の指揮命令関係を客観的にとらえて作成されていると推認すること
は到底できない。実際には,水平的な業務分担にすぎないものを恣
意的に上下関係における指示としている。
控訴人はことさらに「定型的」という言い方で女性の担当職務の
評価を貶めようとするが,S1に格付けされているP25に関する
将来の配置計画として「定型的事務処理は的確であるので,非営業
部門(資材担当,庶務担当)への転出を実現したい」とされてい。
るように(乙46の2,事務部門の職務は大半が定型的なもので)
ある。それらの迅速かつ正確な処理のためには専門的知識や経験に
基づく判定が必要であり,自らの責任でその職務を完結させそれを
管理する必要があるのであって,定型的であるから職務としての評
価が低いということにはならない。控訴人は,男性が担当すれば
「判定的・管理的職務」であると評価し,女性が行えば「定型的」
であるとするものであって,極めて恣意的である。
東京都人事委員会における調査資料(乙54)によって,控訴人
が主張するようにタイピストの賃金水準は事務係員より低く推移し
ているということはできず,むしろ女性のみで比較すると,和文タ
イピストの給与は,保健婦,薬剤師等を除くと,百貨店店員,製造
工等よりかなり高い。
会社は,被控訴人が建設部技術課に異動となった後わずか半年ほ
どで,タイピストが足りないという理由により,被控訴人にタイプ
業務を要請した。被控訴人は当時の仕事にやりがいを感じていたの
,で断ったが,拒否すれば解雇も辞さないという態度で再三要求され
家族を扶養していため,解雇されることは避けるため,やむを得ず
タイプ業務への異動に応じた。
c同(ウ(被控訴人が担当していた業務内容について))
(a)昭和26年8月から昭和31年7月(昭和石油本社総務部株
式課時代)
被控訴人はこの間,昭和石油本社総務部株式課で「株式名義書
換受付」業務に従事していた。被控訴人は「男子事務の事務補助
職」として採用されたことはなく,業務内容も「男子事務の事務
補助職」でなかった。被控訴人は当初P32社員に教えてもらっ
たが,間もなく独立して業務を行うようになり,P32社員の補
助業務を行ったのではない。また,株主リスト書換や裏書,社印
・割印を担当する男性社員の補助業務を行ったものでもない。
(b)昭和31年7月から同年12月(昭和石油建設部技術課時
代)
同課には技術者より事務職の人が多く,男性の事務職も建築に
関する教育を受けて入社した者ではない。同課では技術者が基幹
的業務で,事務職は技術者の補助的業務であるというなら,事務
,職の男性達もみな補助的業務だったことになる。戦後の復興期に
四日市に製油所を建設するという大プロジェクトの一員として仕
事ができた建設部時代は,被控訴人の41年間にわたる職業生活
において,最も楽しい,働きがいに満ちたものであった。
(c)昭和31年12月から昭和62年8月(昭和四日市石油本
社)
①被控訴人が行っていた和文タイプ業務について
対外的な交渉力を求められる業務でないのは事実であるが,
男性が従事している大半の業務も対外的な交渉力を求められる
,業務ではない。高度な判断力とは何を意味するか不明であるが
判断力がなければタイプ業務を十分にこなすことはできない。
まして,原稿の内容について理解していなければ正確な仕事は
遂行できないのである。P33はたしかにタイピストの資格を
持っていたが,原稿の内容も,漢字も理解できないため,辞書
を引きながら長時間かけてタイプを打っていた。
控訴人は,タイプ業務は女の仕事だから単純作業で,低賃金
なのは当然だという,女性差別意識のみに基づいてタイプ業務
を侮蔑しているだけである。和文タイプ業務は難易度が高く,
知識,技能,努力,責任,精神的・肉体的負荷,労働環境のい
ずれからみても高く評価される業務であり,熟練度が高まるこ
とによって会社に対する貢献度も増すものである。
②被控訴人が行っていた英文タイプ業務について
英語を母国語とする者にとって,和文タイプより字数の少な
い英文タイプは難易度の高くない業務であるかもしれないが,
そうでない者が英文タイプ業務を正確かつ迅速にこなすために
は,和文タイプと同様の高度な集中力とそれを持続させる精神
力の上に,英語力,英語に対する慣れ,スペルミスを発見する
能力が必要なのである。被控訴人は高校卒業後20年以上英語
に接しない仕事をしていたので,40歳のころに自費で英語学
校に1年通い,英語力をつけ,さらに英文タイプを学び,試験
に合格して英文タイプ業務についた。P27が高卒程度の英語
力をもっていたことを誉めそやしながら,被控訴人の英語力を
全く無視しているのは,女性差別という外ない。
③データ伝送業務について
控訴人の上記主張は,データ伝送業務について全く理解して
いないもので,被控訴人に対する誹謗中傷の類である。
④テレックス業務について
控訴人は被控訴人が昭和52年から行った国際テレックス業
務を,単にテレックス業務と称し,P27の国際テレックス業
務と異なる補助的役割であったと主張し,その説明として,主
として男性社員が行っていた基幹業務に比較して,被控訴人の
業務の難易度は低く,補助的役割を担っていたという。
しかし,控訴人は,同じ国際テレックス業務に従事していた
P27の業務がいかに専門知識を必要とし,インターネットメ
ールの利用が拡大するまで,会社にとっていかに重要な業務で
あったかを力説している。このことは被控訴人の業務について
も同様に言えることである。更に,P27はすでに整備されて
いた業務を分担する一員として参加したのに対し,被控訴人は
テレックスの機械が受信にしか利用されていないのは不合理と
考え,発信もできるように自ら国際テレックスの講習を受ける
ことを課長に提案し,その了承のもとに講習を受けて技術を修
得し,昭和53年から国際テレックスの発信業務を始めたもの
で,その点ではP27より高く評価されるべきである。
⑤昭和62年9月から退職した平成4年5月(昭和四日市石油
東京事務所業務課)
原審で主張立証し,原判決が認定したとおり,被控訴人の業
務は,他の男性社員の補助業務ではなく,P25と同様の業務
であった。
(イ)原判決は職能資格要件の認識に誤りがあるとの主張について(控
訴人の主張(1)イ)
a同(ア(昭和石油のランクと合併後の新資格との関係)は否認)
する。
控訴人の主張を裏付けるS3以上に格付けられた社員の合併前の
資格と合併後の資格に関する資料などは一切開示されていない。ま
た,当審における控訴人の主張にそうP34証言は,新会社への格
付けにあたってはもう一度新会社の資格要件に照らして再査定を行
って格付けを行ったとの原審のP34証言と矛盾する。実際には,
G1以下の職能資格に格付けられた男性社員が,D1ランクだった
者のみならず,D2ランク・D3ランクの社員の大半(314名中
310名)がG1に格付けられ,D4ランクの社員も約4分の3
(191名のうち143名)がG2に格付けられたように,昭和石
油の男性社員は合併時に資格を高くする方向で格付けられたのであ
って,Fランク,Eランクの男性社員はSの中でもS1,S2とい
う高い資格に格付けられていたはずである。
b同(イ(具体的な業務,等級を特定しない甚だ抽象的で全く具)
体性に欠ける認定で,被控訴人の業務にはDランクまたはGランク
より上の職務とみる余地があると認定したのは誤りであること)は
争う。被控訴人は,上記の和文タイプのみならず,英文タイプ,国
際テレックスの発信,コンピューター端末・パソコンによるデータ
伝送など,時代に即応して専門技術,最新の技術を自発的に身につ
。け,それによって業務を発展もしくは合理化させてきたものである
被控訴人の従事した業務の中に「一定の専門技術や知識を必要と,
するものもある「より上のランクや職能資格等級に該当する職務」,
とみる余地があるものも存する」とした原判決の判断には何ら誤り
がなく,また「職能資格要件の認識」にも誤りなど全くない。,
c同(ウ(新会社のS2の資格要件)は争う。控訴人は,単にS)
2の定義を述べるにとどまり,事実の根拠を欠く主張である。S2
という資格は,50歳代の事務職男性としては,標準より明らかに
下位のランク,通常勤務者の中では実質的な最低ランクというべき
資格である。また,被控訴人が配属された昭和四日市石油東京事務
所においても,旧制高等小学校卒の自動車運転手P35を除き,男
性は,みなSランクである。
d同(エ(昭和石油時代(昭和56年)の組織図(乙50の1・)
2)からみても,被控訴人は,Eランクより下位にある)は争う。。
控訴人(その前身である昭和石油)が作成した組織図が,女性社員
が担当していた職務やその指揮命令関係を客観的にとらえて作成さ
。れていると推認することは到底できないことは前記のとおりである
平成4年の新資格の分布(甲103の1)をみると,昭和石油出身
の高卒新卒者男性740人のうち,35歳以上の者494名中昭和
石油のEランク以上に対応する資格であるS3B以上に格付けられ
ている男性社員は449名,実に90.89%に及び,勤続を重ね
れば「誰もがなれる」資格となっている。35歳未満を含めても,
6割以上がS3B以上の資格に格付けられており,乙50号証の組
織図記載のランクの分布状況とは,その様相が全く異なっている。
e同(オ(被控訴人の資格格付及び能力考課について)は否認し,)
争う。
控訴人が当審において主張するに至った,被控訴人が昭和62年
に昭和四日市石油東京事務所に組織変更された後から,自身の業務
,に不満を持つようになり,協調性に欠ける行動を取ったとの主張は
事実無根である。
被控訴人の能力開発考課は,P36部長が第一次評定者であった
,昭和60年度は,成果,説明・報告力,理解・判断力,手順・段取
工夫・改善力,知識・技能,規律性,積極性,責任性という,11
項目中8項目がA評価であった(総合評価は標準のB評価。昭和)
61年度のP36部長,昭和62年度のP37課長は,理解・判断
力,手順・段取,工夫・改善力,知識・技能,規律性,責任性の6
項目をA評価としていた。ところが,第一次評定者がP38課長
(昭和63年,平成元年)とその後任のP39課長(平成2年,3
年)になると,被控訴人は突如理由もなく,Aと評価される項目が
皆無となり,理解・判断力は従前AであったものがC評価とされ,
協調性についても昭和63年から3年連続してC評価になって,総
合Cとされた。協調性に欠けると判断された理由は,被控訴人が昼
休みに若い女性社員達と食事を共にしないこと等であって,そのよ
うな理由で「殻に閉じこもっている「内向的」などと言って人格」
的に非難することが正当な評価となり得ないことは明らかである。
なお,被控訴人は,昭和63年(P39課長の時,それまで参加)
していた社内のゴルフコンペから意図的に外された。
また,控訴人が,年功的に昇格する対象とみなしている男性社員
にC評価を付けた場合,その社員の昇格の運用がしにくくなること
から,昇格の対象外とみなされている女性社員にCが濫発されやす
いという実情(平成2年の能力開発考課では,36歳から45歳の
社員(ただし,本社・支店・関連会社の本社支店部門に勤務する者
のうち,管理職を除いた者)につき,男性は642名中Aが275
名(約43%,Bが349名(約54%)であるのに対し,女性)
は123名中Aが10名(約8%,Bが97名(約79%,Cは))
14名(約11%)であった(甲66)がある。そして,主観的)。
恣意的判断を許容する曖昧な評価基準が差別をもたらすのは確立さ
れた経験則であり,控訴人における「基幹と補助「判断と定型」」
「責任」といった抽象的職務区分や「協調性「規律性「意欲」と」」
いった評価要素が,性役割意識や男女に対する固定的観念や偏見に
基づく差別を誘発した。
被控訴人は,女性でありかつ年齢も高いという理由で,仕事上の
業績,勤務振りとは無関係にC評価とされたのであって,昭和四日
市石油東京事務所の男性社員は,年齢が高くても,自動車運転手を
含めて低い評価を受けていない。
イ控訴人の主張(2(被控訴人と同じ職場(昭和四日市石油本社)の)
高卒男性社員の業務内容等との比較)について
(ア)P2の業務内容との比較(同ア)
P2は,出荷関連の仕事に20年以上の長期間にわたり携わり,順
調に昇格して51歳でS1になっている。控訴人は,P2の仕事の力
量を口を極めて絶賛しているが「規律性を除けば上位の評価であ,
る(1985年「本人の役割をわきまえた行動をする様更に努力」),
させたい(1987年)と記載される(乙44の3)等,規律性や」
情意面に難があり,管理職登用には躊躇させる理由のある従業員であ
,った。また,同人の仕事は,P31の担当業務と類似した業務であり
P31がG2ないしG1,P2がS1という資格の乖離は男女差別そ
のものである。
(イ)P11の業務内容との比較(同イ)
P11も,20年以上の長期間,同じ仕事に携わった。P11は,
「仕事振りがややおとなしい面がある「遅刻が相変わらず目立つ」」
(昭和60年(甲45の3)と記載されており,規律性が相当に問)
題のある社員であったようである。P11は,高卒事務職男性の中で
は昇格が非常に遅く,53歳でようやくS2に昇格したが,中途で控
訴人を退職した。P11の仕事も,P31の仕事や被控訴人の仕事と
比較して,特段高度な仕事とは言えず,被控訴人よりも4ランクも上
に格付けられる合理的理由は何ら立証されていない。なお,被控訴人
は,P11の補助業務を行っていたわけではない。
ウ控訴人の主張(3(同期の職務内容や社内経歴について(乙89)))
について
乙72号証記載の12名の同期者については,その12名の選定自体
が極めて恣意的であり,控訴人が自分の都合よく選んだ社員と比較して
被控訴人の資格を正当化しようとしても無意味である。また,その「職
務内容」は「組織規程を要約し引用し」たというものであり(乙89,
の1頁,その社員がその当時実際に担当していた職務内容を表すもの)
ではない。
P18のG1資格と職務内容について(同イ,控訴人が提出した証)
拠(乙73の6)に,組長代理に就いて組員の作業指揮や教育指導の任
を担ったが,すぐに組長代理を解かれて一般に戻ったと述べていたのと
矛盾する。考課表においても「生活環境(高齢,独身,寮生活)と生,
活態度(飲酒)から,勤務態度は最悪であり,職場での悪影響が大き
い」という理由で「特定他部門(警備会社等への出向)への転出」を。
検討されていた,問題の大きい社員であったと記載されている。そのよ
うな社員が,被控訴人のG2より高い資格であることは至極当然なこと
,と言えるなどと主張することは,被控訴人に対する侮辱そのものであり
控訴人の主張自体がまさに女性差別である。
エ控訴人の主張(4(控訴人本社総務部の高卒社員との比較につい)
て)について
控訴人の主張は争う。控訴人の本社総務部においては,男性社員は全
員Sランク(8名中,47歳でS3AのP40を除く7人がみなS2以
上,女性社員は4人全員がG2というように,明確に資格が分離して。)
いる。
(ア)P25の業務内容との比較(同ア)
P25は,中卒入社で,庶務を担当するボーイ(給仕)として5年
間働いた後,スタッフ採用され,販売部門のセールスマン(供給手配
担当,航空給油所の現場責任者,液化ガス部管理課を経て,定年前)
の仕事は「国際・国内メールの発送,受け入れ,配布,事務用品の発
注・管理・配布,名刺,ゴム印も含む,お茶関係,雑貨関係」であっ
た。
P25は通勤可能な範囲で事務職として異動したのみであり,中卒
としては比較的早く昭和52年,満43歳でPG5(控訴人における
S1)に昇格し,合併をはさんで17年間定年退職まで同一の資格で
あった。
(イ)P26の業務内容との比較(同イ)
P26は,鶴見グリース工場及び控訴人本社という複数部署で総務
関係の職務を与えられているが,昭和60年の合併時はS3,昭和6
3年の時点すなわち46歳で既にS2に昇格しており,高卒男性社員
として標準的な年功で順調に昇格した。その後,平成5年にS1,平
成9年にM4Bと昇格をして控訴人の子会社に出向し,子会社におけ
る管理職になった。
総務関係の職務を長く担当していても,男性であれば,遅くとも5
0歳台前半までには,ほとんど全員S2以上に到達するのである。
(ウ)P27の業務内容との比較(同ウ)
aP27は,次のような経歴である。
昭和▲年▲月生まれ新潟県立α高校卒
昭和39年8月米国海軍に入省。英文テレックス業務。
昭和44年10月27日シェル石油に30歳で中途入社
電信室所属の国際テレックスオペレーター
昭和50年1月PG7(控訴人の資格S3に相応)に昇格
昭和54年1月PG6(控訴人の資格S2に相応)に昇格
昭和60年1月合併によりS2
平成10年11月末定年退職
b控訴人は,29年間電信室において国際テレックス業務に専門的
に従事したP27をS2の職能資格に格付けている。そして,この
ことは,36年間同業務に従事したP41(中卒(推定。退職時,)
S2,約20年間同業務に従事したP42(高卒。退職時,M4。)
B)においても,同様であった。。
cP27は電信室に長くおり,29年間国際テレックス業務に専従
,したためと思われるが,控訴人から決して優遇されていない。逆に
昭和54年に満40歳でPG6に昇格してからは,昭和60年の合
併時にS2に水平移動しただけで,19年間全く昇格することなく
S2のままで定年退職を迎えた。すなわち,男性高卒事務職の中で
は,会社からあまり高い評価を受けられなかった者が格付けられる
資格がS2という等級なのである。
控訴人は,P27の高い技術力,英語力などを主張するが,技術
の高低であれば,P27の国際テレックスの技能と被控訴人やP4
3のタイプの技能とは,ほとんど遜色がないどころか,むしろ,反
転した7000字もの活字を打刻する和文タイプの方が,求められ
る技能の高度さ,熟練度という点ではより高いと言える。被控訴人
,は,和文タイプ,英文タイプ,国際テレックス業務をすべて経験し
それぞれに熟達した。
P27の英語能力について,控訴人の提出した昭和53年の考課
表において,総合的会話力・書く力において「或る程度の訓練をす
れば英語を必要とする職務を社内で遂行できる」レベルとされてお
り,控訴人が主張するほどP27は英語が上手であったかどうかは
疑わしく,また,P27よりは英語能力が劣っていたことを自認す
るP41の方が資格が高かったことを考慮すれば,控訴人において
P27を英語能力で特段高く評価したとは考えられない。
d控訴人は,和文タイプ・英文タイプ・テレックスなど,高度の技
能と熟練を要する専門的な業務に長期間従事している事務職社員に
ついても,男性であればS2ないしM4B(P27,P42,P4
1)とし,女性については全員Gとしている。
e控訴人は,P27について,やりとりの量,英語力,技能,企画
判断力などにおいて,被控訴人と異なると主張する。
しかし,被控訴人は,国際テレックス専任であったP27と異な
り,国際テレックスの受発信のみならず,英文タイプ及びデータ伝
送等の一般事務に属する業務を並行して行っていたのであり,テレ
ックスの量だけを取り出して比較することは公平でない。また,企
画判断力においては,国際テレックスの発信業務を自らの発案で可
能とした被控訴人の方がP27と比較して勝るとも劣らないはずで
ある。
オ控訴人の主張(5(滞留年数表について)について)
控訴人の上記主張はすべて争う。
(ア)滞留年数表が「サンプル調査」の結果ではあり得ないことは,以
下の事実から明らかである。滞留年数表は,平成5年1月時の昇格を
運用するための控訴人の基準・方針である。
a平成4年時点で「9年」の滞留サンプルはあり得ない
滞留年数表では「高卒・技能職」ではG1の滞留年数の「標,
準」が「5∼9」年,S3Bの「標準」が「6∼9」年,S3Aの
「標準」が「5∼9」年「高卒補助短大補助」のG3,G2,,
G1,S3Bの「標準」がいずれも「6∼9」年とされているが,
平成4年1月であれば,昭和60年1月の合併=新資格制定から満
7年しか経っておらず,8年∼9年という資格の「滞留」サンプル
はあり得ない。
bS3B・S3Aという資格は,合併翌年の昭和61年にS3を分
けて作った新資格であり,控訴人はS3からS3Aへの移行を「昇
格」と説明している。そうだとすれば,S3Aの滞留は,昭和61
年から平成4年までの6年が最長であるはずであって,S3Aの
「標準」滞留年数が「6∼9」年というのはあり得ない。
c控訴人は,昭和石油出身の高卒男女・在職者848人のデータを
乙24号証として提出しているが,その中には高卒男性で平成4年
1月に昇格した者は,事務職・技能職問わず,1人もいない。上記
時期にG1に昇格したのは,乙24号証の中では44歳と48歳の
女性だけとなっている。また,合併前のシェル石油も,高卒男性は
採用しない方針が続いていたため,シェル石油出身者においても,
平成4年1月に高卒男性のG1昇格者がいることもあり得ない。平
成4年にG1に昇格した「最短」者「標準」者もいずれも実在し,
ないのであるから「職能資格滞留年数」表が「サンプル調査」の,
結果ではないことは明らかである。
(イ)控訴人の主張(5)イ(滞留年数表が配布された状況について)
及びウ(滞留年数表はサンプル調査結果から問題意識を喚起するのが
狙いであること)は,事実に反する。
(ウ)控訴人の主張(5)エ(滞留年数表を示した趣旨はマニュアルの
最後の「まとめ」に記載)について
人事考課実施マニュアル(乙66)は,以下の点から,到底信用す
ることができない。
aこれは控訴審になって初めて提出されるに至った書証であるとこ
ろ,控訴人は別件の東京都地方労働委員会に対し,その1頁部分の
みを書証(甲157)として提出しており,東京都地方労働委員会
に提出された当該書証には,乙66号証の下欄にある頁(−1−)
の記載が欠落していた。また,控訴人は乙66号証を「写し」とし
て提出するのみで原本を提出しない。同じ書面について,頁の記載
のあるものとないものが別途に提出されているという事実は,乙6
6号証の信憑性を大きく疑わざるを得ない重大な疑問点である。
bP44は,控訴審では乙66号証の「人事考課実施マニュアル」
の一部として滞留年数表が配布されたと主張したが,控訴人は,当
初「考課者会合マニュアル」の一部として配布されたと文書で説,
明した(甲107。東京都地方労働委員会の審問においても,P)
44は文書のタイトルを「考課者会合マニュアル」と証言した(第
73回審問期日)が,その次の第74回の審問期日で,書面の名称
を「人事考課実施マニュアル」に訂正するに至った。東京都地方労
働委員会における証言の経験が豊富なP44証人が,審問の証言時
,において焦点となっている文書の名称を間違えて答えるというのは
あり得ない。
cその他,乙66号証は,以下のような不自然な点がある。
(a)乙66号証として提出された「人事考課実施マニュアル」の
1頁には「考課者会合実施概要」との記載があり,その5)と,
して「会合実施のための統一マニュアル準備」と記載されてい,
る。ところが,P44は,この「準備」すべき「統一マニュア
ル」がこの「人事考課実施マニュアル」であると断言する。会合
実施のために統一マニュアルを準備せよと指示している文書自体
が「統一マニュアル」であるとすれば,このような書き方はおか
しいのであって「このマニュアルをコピーして配布すること」,
と指示すれば足りる。
(b)乙66号証のうち,少なくとも,1ないし3頁部分は,人事
考課を実施するためのマニュアルではなく,各事業所において平
成4年度の考課者会合をいかに実施すべきかを指示したマニュア
ルである。控訴人及びP44が,滞留年数表を「考課者会合マニ
ュアルの一部」と繰り返し主張してきた経緯を踏まえれば,乙6
6号証は「人事考課実施マニュアル」の表紙の後に「考課者会合
マニュアル」の中身を差し替えて作成された改ざん文書である可
能性が高い。
(c)乙66号証には一緒に配布された滞留年数表について,添付
書類として何の説明もない。
(d)乙66号証には,4頁,5頁が欠落し「持参する物」とし,
て指示されている人事考課制度ガイドブックと人事諸制度ガイド
ブックの表が唐突に組み込まれ,極めて不自然である。
(e)乙66号証の6頁に「2職能資格制度(別紙―職能資格公
表について―参照」とあるが,この「別紙―職能資格公表につ)
いて」の書面も付いていない。
dまた「将来性評価」をし「中長期的視野で昇格を考え」るよう,,
指示する乙66号証の「まとめ」の記載自体が,短期的な業績・成
果を評価するのではなく,潜在的能力,会社の期待度を考えて,年
齢にふさわしい,男女別滞留年数管理をすべきであるとの含意が込
められており「滞留年数」を基準の一つとして昇格を運用してい,
る事実を直接裏付けている。
(エ)控訴人の主張(5)カ(滞留年数表に反する事実)について
控訴人が作成した一覧表(控訴人準備書面(15)の17頁,18
頁)は,滞留年数表の基準ではなく,別の当事者が別件訴訟で主張し
ていることも基準として取り入れ,あたかも多数の者が滞留年数表に
よる基準から外れているように見せようとするものであって,失当で
ある。
滞留年数表はあくまでも会社としての基準として標準の場合を示す
ものであり,資格が高くなるほど昇格までの年数の幅が広がり,滞留
年数表の基準から外れる例外が生ずるのは不合理ではない。重要なの
は,控訴人が提出した乙24号証の男性740名(乙24号証で提出
,された男性785名分のうち高卒新卒者と判断できる者)の昇格状況
分布状況の大部分が,この滞留年数表による昇格基準と合致している
という事実である。
カ控訴人の主張(6(原判決が依拠した統計的資料の誤り)について)
(ア)控訴人の主張は,問題を意図的にすりかえようとするものであっ
て,全く失当である。男性にも現業部門に従事せず管理部門の一般事
務のみに従事する者がおり,その事務職の男性らの賃金や職能資格は
現業部門の男性の賃金に比べて低いとはいえない,ということが認め
られるかどうかが問題なのである。その観点からすれば,仮に控訴人
主張のように甲103号証の2,109号証で「入社時から一貫して
事務職の男性高卒社員」とされている103名のうち37名が現業職
経験者であるとしても,大きな問題ではない。
(イ)現業部門に従事する男性が管理部門の一般事務に従事する男性よ
り賃金が高いとはいえないという原判決の判断を非難するのに,甲9
5号証の1や甲186号証に関する当審のP45証言の的確性を問題
としている点,失当である。甲186号証や上記のP45証言は,現
業部門に従事する男性の職能資格や賃金は一般事務に従事する男性に
比べて低い,ということを立証趣旨とするものであって,それをいく
ら弾劾しても,原判決の「現業部門に従事する男性が管理部門の一般
事務に従事する男性より賃金が高いとはいえない」という判断を批判
する根拠とはなりえない。控訴人が主張,立証すべきことは,男性に
関しても現業部門に従事する者の方が管理部門の一般事務に従事する
男性よりも賃金が高い,ということであるのに,控訴人は控訴審にお
いても一切主張,立証をしなかった。
(ウ)被控訴人とP2,P11の業務内容は大きく異なるものではない
との原判決が正当であることは,前記イのとおりである。
(エ)「原告の東京事務所における同僚のように,20年以上,10数
年以上も実質同じ職場で同じ業務に従事する例もある」との原判決の
判断は正当である。
(オ)「30歳代以上でも勤務を続けている女性が少なからずあり,勤
続年数5年以上の者では,男女間の勤続年数の差はさほど大きくない
ともいえる」との原判決の判断は正当である。。
P34は,昭和石油の昭和44年から昭和50年高卒者の女性勤続
,年数一覧表(乙63)を女性の在籍率の低さを示すものとして作成し
男女の賃金格差は女性社員の勤続年数が短く在籍率が低かったためで
あるとの控訴人の主張に沿う証言を行った。
しかし,乙63号証は,対象期間の選択が極めて恣意的である。そ
の時期は,高度成長の中で,夫が企業戦士となり,妻は専業主婦とな
ってそれを支えるという夫婦が急増し,女性労働力率が戦後最低とな
った時期である。被控訴人が入社したのは昭和26年のことであり,
それより20年近く後に高卒で入社した女性の状況と被控訴人とは,
いかなる意味でも関係がない。更に,乙63号証作成の元資料とされ
たという資料の存在が極めて疑わしい。乙63号証は何ら人事資料の
裏付けのないものであって,全く信憑性がない。
そもそも女性労働者の勤続年数が一般的に短いからといって賃金に
おいて差別することが労基法4条に違反することは,同法の施行通達
(昭和22.9.13発基17号)に明記されているところである。
控訴人の主張が,女性は勤続年数が短かったから,結果として一般事
務の補助職にとどまることが多かった,というのであれば,被控訴人
ら長く勤続している女性社員についてはそのようなことは全く当ては
まらず,賃金格差を正当化する理由とはおよそなりえない。
さらに,控訴人の主張が,女性は勤続年数が短かったので一般事務
の補助業務に配置してきたというものであったとしても,それは本件
,の賃金格差の合理的根拠とはなりえない。すなわち,昭和39年当時
勤続年数が20年以上の女性は21名,10年以上の女性は69名で
あり,勤続年数5年以上の社員でみると男性12.46年に対して女
性は11.41年であって,大きな差があるとはいえなかったのであ
り,少なくともDランク以上になった女性(勤続7年以上。そこまで
は自動昇格)について,勤続年数を理由として男性と別異な取扱い。
をすることには全く合理性がない。
被控訴人,P29(P29は,支店におけるガソリンスタンド施設
関連の仕事で,他支店でS2ランクの男性社員が担当している仕事の
多くを東京第二支店・東京支店で経験しているが,ランクはG2であ
る。P29は,同支店で,S2ランクのP46と施設関連業務を分担
して担当し,P46の補助ではなく,独立して各種の給油所関連業務
を行った。また,P29は平成7年から,P47という同じくG2ラ
ンクの女性とともに,RVIという新デザインの給油所改装工事を,
マニュアルも十分でない中,関連業者5者と打ち合わせ,折衝をおこ
なってやり遂げた。このような判断力や折衝調整能力を求められる仕
事を問題なく遂行しても,P29はG1への昇格が長く認められなか
った。P29の所属していた東京支店SS課は,女性3名のみG2,
男性は全員S以上である,P31(P31の化成品室・化成品部に。)
おける担当職務は,同じ高卒で同一勤続年数のP48とほぼ変わりが
なく,P48の定年退職後,P31がほとんどP48の仕事を支障な
く引き継いだが,P48はS1ランク,P31は,上司が役員に掛け
合うなどした結果,ようやくG1に昇格した)ら勤続年数の長い女。
性社員は,担当業務にかかわらず,一様に差別されている。また,経
理部門においても,男女で著しい資格分離(男子であれば,全員S3
Aランク以上で,女性では,42歳でもG2である)があり,コン。
ピューターシステムの開発部門においても,社員のそれぞれが単独で
,システム開発をしているにもかかわらず,女性のP49だけがG2で
40歳以上の男性社員はS1とS2である。
(カ)人事考課,評価が絶対評価であるという控訴人の主張は争う。控
訴人の主張する「絶対評価」は,上記のように個別の評価の妥当性を
先行して判断することを論理必然的なものとするものではない。第1
に,昭和石油においては,昇給=賃金決定に当たっては相対評価によ
っており,またランク制度が男女別学歴別賃金管理を基本として運用
されてきたことからすると,ランク査定も相対評価とならざるを得な
い。さらに,控訴人においても,確かに目標管理による人事考課制度
が採用されて,絶対評価とすることが強調されているにしても,前述
のように「滞留年数管理」が実施されるところでは,必然的に「相対
評価」に流れることになる。しかも控訴人における制度は,目標管理
があればこそ絶対評価を行うところに基本的な核心があるのであるか
ら,目標管理の実体のない場合であっても評価がなされたり,あるい
は目標管理に際して従業員が作成した「目標記述書」などの書類は人
事記録に綴られていないなどの本件においては,絶対評価の基礎を欠
いている。
更に,原判決の大量観察的手法を非難する控訴人の主張は争う。原
判決が男女別賃金管理を行ってきた事実を認定するのは,単に控訴人
における男女間の賃金の集団的分離が存在することのみを根拠とする
ものではなく,男女別賃金管理を直接基礎付ける事実を認めたからで
あり,この点における控訴人の主張は失当である。控訴人の上記主張
が可能になるためには,前提となる格付けシステムが,①格付けの決
定プロセスも含めて会社において従業員に対して周知されたものとし
て確立されており,②格付け及びその前提となる評価内容が明らかに
され,③社員に評価内容に対する不服申立手段が保障されて再審査が
なされるなど,公正な査定及び格付けであることを担保する手続が確
保されており,④評価及び決定基準に性差別を構造的に内包している
ものではないことに加えて,⑤男女差別的運用を排除する仕組みを備
えているなど,性中立性が保障された制度として確立されていること
が第1の前提条件というべきであり,更に,当該企業において適用さ
れる制度が男女差別に基づいて運用されていないことが第2の前提条
件である。ところが,控訴人は,上記のいずれについても主張立証で
きていない。
キ控訴人の主張(7(男女の賃金格差が配置,昇進によるものである)
ことを見落とした原判決の誤り)について
(ア)控訴人の主張はすべて争う。昭和石油,控訴人の賃金制度は,職
能資格制度の名を借りた合理的な理由のない男女別学歴別年功賃金制
度であって,男女別賃金管理による女性に対する賃金差別であり,控
訴人が主張するような従業員の配置・昇進・教育などの管理とは結び
つかないものである。昭和石油及び控訴人におけるランク制及び職能
資格等級は,職務や職位の変更に連動せず,単なる賃金額決定の手段
であるから,ランク付けや職務資格等級における女性に対する差別的
取扱いは賃金における女性に対する差別的取扱いそのものであり,明
らかに労基法4条に違反する。
控訴人は,均等法8条に基づく配置差別の問題と主張するが,控訴
人が採用してきた職能資格等級は「職務」を決定付けるものでもな,
ければ「就業の場所」を決定付けるものでもなく,また職位の移動,
にかかるものでもないし,業務の配分ないし権限の付与を決定付ける
ものでもないから,均等法8条の配置の問題であるとすることは著し
く失当である。
(イ)男女の集団的な格付け=賃金の分離
昭和石油におけるランクと賃金,シェル石油との合併による新たな
格付けと賃金,そして控訴人における格付けと賃金は,男女の集団で
顕著な格差があること,それが,男女別の賃金管理によってもたらさ
れたものであることについて,被控訴人は十分に立証した。
控訴人は,これを男女の配置や教育など人事上の取扱いの差による
というが,控訴人における格付け=賃金管理はこれらの事項とは無関
係であって,控訴人がなにがしかの管理の差異によるものであること
を認めるものであるとすれば,それはとりもなおさず,男女別管理,
すなわち性による差別的な取り扱いの結果であることを意味する。控
訴人における格付け=賃金の男女間格差がもたらされたのは,控訴人
における制度そのものが差別的なもので,その運用管理も男女別に行
ってきたことによるものである。
(ウ)控訴人の主張=同一価値労働同一賃金原則が意味するもの
控訴人は,昭和石油におけるランク制及び控訴人における職能資格
制度は,公平を旨とする合理的な制度であって企業社会において広く
受け入れられ役割を発揮してきたことを強調し,同一価値労働同一賃
,金原則と生活保障原則に適合して反公序性を有しないものである以上
その導入及び運用は企業の自由であることを主張する。
しかし,控訴人における男女間の資格及び賃金の集団的格差は,上
記の「価値労働」を基礎とする物指しをもって説明することは全く不
可能である。すなわち,控訴人は,女性の一般的な勤続年数,女性は
危険有害業務や深夜業務等に配置できないなど業務に制約があったこ
と,当時の性役割分担意識もあって男女間に配置に差異を設けて女性
には補助定型業務に従事してもらうという管理を実施してきたとする
が,このような主張自体,以下のとおり,自ら制度の正当性の根拠と
する「価値労働」とは全く相反するものである。
第1に,一般的な女性の勤続年数を根拠に女性各人の勤続年数評価
を度外視することは,明らかに同一価値同一賃金原則に反して差別で
ある。
第2に,女性が危険有害業務や深夜業務当に配置できないなど業務
に制約があったとする点については,当該担当する職務と労働条件上
の制約との合理的関連性が問われるものであるところ,現業部門にお
。いてはともかくとして,事務部門においては何らの関連性も有しない
第3に,当時の性役割意識に基づき補助定型業務に従事してもらう
ことにしていたとする点については「同一価値労働同一賃金原則」,
の真髄に真っ向から抵触する。まず,控訴人の制度は,後述のように
「補助業務「定型業務」の要素をランクないし資格要件に取り込ん」
でいるが,このような概念区分そのものが男女の性役割に根ざした偏
見によるものである。
以上に加え,控訴人においては,男女別学歴別賃金管理を実施して
きたことを直接裏付ける証拠が多数存在するのであるから,控訴人が
主張するランク制ないし職能資格制度及びこれによる控訴人の賃金管
理が,原則合理的なものであると推定できるようなものでなく,不合
理である。
(エ)控訴人の制度の性差別的性格
a控訴人は,ランク制ないし職能資格制度は性中立的で公平なもの
であると主張する。
bしかし,控訴人は,学歴や性別など労働者の属性ごとの平均値に
,よって処遇する統計的差別を行ってきたことを自認している。また
一般的にわが国の企業は,男女の性役割を前提にして,定年までの
雇用を予定した稼ぎ手としての男性と短期の勤続を予定した家計補
助としての女性とを区別=差別してきたもので,一般的な勤続年数
を根拠とする賃金における異なる取り扱いは,古くは男女別学歴別
の賃金表の適用によって実施されてきた。控訴人が主張する職能資
格制度は,形式的にはそうした男女別賃金管理を採るものではない
が,その制度を組み立てるに当たっては,前述の統計的差別を排除
する明確な制度的枠組みを採り入れることがなければ,控訴人が
「同一価値労働同一賃金原則」としてこれを合理性の根拠と主張す
ることとは,甚だしく矛盾する。
cさらに,控訴人の賃金制度は,職務遂行の難易度等に基づいてラ
ンクを設定し,従業員を職能に応じてランク付けして昇給管理する
というもので,外形的には性に中立的であるように見えるが,求め
られる職能やその前提となる職務の概念は「定型業務「判断業」
務「補助業務「基幹業務「簡易「困難」といった非常に幅広く」」」」
抽象的であることに加え,昇格対象ランクに相当する職務遂行能力
があるかどうかは所詮潜在的な能力の期待値でしか測れない。従っ
て,必然的に当該ランクに一定年数滞留して仕事をこなせば次のラ
ンクの仕事ができる能力が身についたと判断する「卒業方式」をと
らざるを得ない。しかも「基幹「補助」といった区分は,到底職,」
,務ないしこれを遂行するに必要な能力を現すものではなく,むしろ
社会的文化的に形成された性差であるところの女性=補助的という
固定観念に裏打ちされた概念ととらえることができる。控訴人が,
,そうした差別的偏見に基づき格付け=賃金決定をなしていたことは
男女の職務を主張する内容にも明確に現れている。
以上を総合すると,本件ランク制度ないし職能資格制度のもとで
は,男性については学歴別ではあるが一定の勤続年数(滞留年数)
に対応して格付けを上げて昇給管理する対象とし,女性については
昇給管理の対象から排除するということになる。
d加えて,この制度につきまとう人事査定は,性による偏見に基づ
く潜在的能力評価をもたらすのみならず,仕事への態度をも対象と
することになり,男女の性役割を前提としたときには,男女に構造
的な格差をもたらすことになる。
(オ)男女別賃金管理
昭和石油及び控訴人においては,男女の格付け分離を決定的なもの
とする昇格管理が行われてきた。昭和石油においては学歴別・男女別
モデル賃金が,控訴人においては男女別・学歴別・資格滞留年数表が
設定され,これに基づいて社員の昇格管理が行われてきた結果,マス
としての男女の格付け=賃金の分離を決定づけてきた。
a昭和石油における男女別賃金管理
(a)昭和石油においては,ランク及び昇給・賃金額のモデル=
「モデル賃金」をもって賃金管理を行ってきた。
(b)男女別モデル賃金によるランク・昇給管理
昭和石油における男女による格付け及び本給の集団的分離(男
性については勤続年数によってほぼ自動的にランクが上昇してい
くのに,女性については,Dランクから大幅昇給となるEランク
に(正確にはD1以上には)上がらないこと,また同じD以下の
ランクであっても女性の定期昇給額が低額に抑制されているこ
と)は,前述のモデル賃金に基づく昇給管理が行われたことに。
よってもたらされた。
(c)男女別学歴別モデル賃金は制度の一部であること
男女別学歴別モデル賃金は,昭和石油におけるランク制度が生
み出したものであって,制度の一部を構成するものである。ラン
ク制が,モデル賃金による働き手(一家の生計を維持する責任あ
,る労働者)の生活保障を趣旨とする昇給管理を行うというもので
学歴別・男女別年功序列賃金を所与の前提に組み立てられ,その
内容は,学歴別・男女別のモデル賃金を必然的に生み出すものと
いえる。
(d)昭和石油における男女別賃金表の意義
昭和石油においては,昇給制度の基本的枠組みを,増大する生
計費と仕事の負担に対応するものとし,生計維持を基準とする標
準(=モデル)賃金を設定して昇給管理をしてきた。それは,昭
和石油の昇給制度が,勤続年数に対応した昇給管理によるもので
あることを基礎づけるものであり,また,このモデル賃金が男女
別であることからすると,女性については,明らかに,男性と同
等の昇給管理を行なってはこなかったことを裏づけている。そし
,て,昭和石油における昇給制度の差別的性格及びその運用差別が
上記の学歴別・男女別モデル賃金を指標とする昇給管理と一体と
なって,昭和石油における年功的性差別賃金をもたらした。
b合併時における男女別賃金管理
昭和石油における制度が,前述のように男女による差別的な性格
を有し,しかも男女別モデル賃金に基づく男女別管理を実施してき
た結果が,合併による格付け移行とともにさらに拡大した(原判
決)のであるから,その不合理は,明白である。合併時の格付けに
関する男女の格差は顕著であって,しかも合併前は同じランクに格
付けられていたのであるから,合併時の格付けで突然格差が生じた
ことを性別ではない別の理由によって合理的に説明することは無理
である。
c控訴人における男女別賃金管理
控訴人において,職能資格制度の名を借りた男女別賃金管理が実
施されていたことを直接裏付ける証拠が滞留年数表である。そこに
は「大卒」の欄は,S3AとS2の間にラインが引かれ「高卒・,,
技能職」の欄はG2とG1の間にラインが引かれ「高卒補助短,
大補助」の欄ではG4とG3の間にラインが引かれているが,この
ラインは自動昇格のデットラインということである。そして「大,
卒「高卒・技能職」は男性従業員を指し「高卒補助短大補助」」,
がその言葉の意味からみて女性を指す。これを総合すると,滞留年
数表によれば,大卒男性は,S2までは自動昇格させ(最短者も標
準者も同じ年数,高卒男性はG1まで自動昇格させ,会社が補助)
職と非公式かつ一方的に位置づけている高卒女性・短大卒女性はG
3までしか自動昇格をさせないことを意味しており,その内容は,
実際の取り扱いとも符合する。そして,この表では,高卒男性のう
ち一部を管理職に登用することを予定してM4Bまでの最短年数欄
を記入しているのに対し「高卒補助・短大補助」の女性欄には,,
「最短」年数の欄自体がなく,S3A以上の記載もないことから,
女性を昇格させ管理職に登用する予定がなかったことは,明白であ
る。
d控訴人における一貫した男女別資格・賃金管理
控訴人が,昭和石油時代から昭和シェル石油時代に至るまで,一
貫した男女別賃金管理を実施してきたことは,従業員ごとの人事台
帳ファイルの管理が,男性従業員はグリーンのファイルにより,女
性従業員はピンクのファイルにより,男女別で区別して管理されて
いたこと,昭和石油出身者の男性については別ファイルで「人事記
録表」が作成されていたが,女性従業員には作成されていなかった
ことなどから,明白である。
カ控訴人の主張(8(損害額)について)
(ア)控訴人の主張はすべて争う。
控訴人の主張イ(ア)は,控訴人により恣意的に選別されたもので
ある。甲181号証に記載された被控訴人と同期,同学歴かつ事務職
事業所勤務の男性社員の資格分布を見るならば,約85%がS2以上
の職能資格に格付けられており,他方で,被控訴人にはその勤務成績
又は勤務態度が,他の社員よりも劣るとする証拠はないので,差別が
なかったならば,被控訴人は職能資格等級S2に格付けられていたと
推定される。
(イ)他の高卒男性社員の職能資格との比較(控訴人の主張イ(イ))
男女差別を前提とする場合には,同期高卒男性社員の職能資格が全
てS2以上であったという前提がない限り,被控訴人の職能資格が当
然S2とはなりえないなどとの控訴人の主張は,P18のように「勤
務態度は最悪であり,職場での悪影響が大きい」などと評価されて。
いる(乙73の6)男性社員との関係でも女性社員の資格が上位にな
ることは認めない,ということに他ならず,このような主張自体が女
性差別である。被控訴人の勤務成績や勤務態度が標準の男性社員より
も劣ることが立証されない限り,標準の男性社員を基準に考えるべき
である。
控訴人は,高卒男性職員の職能資格について全て管理職を除いて分
布を主張するが,50代の男性社員のうち圧倒的に多いのが管理職で
あり,平成2年時では51歳以上の男性社員369名のうち管理職は
134名,実に36.3%を占めているところ(甲13,男女差別)
がなかったならば被控訴人においても管理職になった可能性があるの
であるから,差別がなかった場合の被控訴人の資格を推認するために
は,管理職も含めて資格分布を見る必要がある。
(ウ)a控訴人は,控訴審において消滅時効と損益相殺の主張をするに
至ったが,これは時機に後れた攻撃防御方法であり,控訴人には悪意
又は重過失があるから,却下されるべきである。
b消滅時効の主張について
(a)消滅時効の未完成
控訴人は,消滅時効の完成を主張するが,本件は民法709条
,の不法行為に基づく損害賠償請求権の存在が問われているところ
不法行為に基づく損害賠償請求権は,民法724条に基づき損害
及び加害者を知りたるときから3年で消滅時効により消滅する。
この「損害及び加害者を知りたる時」とは,被控訴人が,控訴人
に勤務する男性従業員の格付け及び賃金分布及び本件男女差別が
なければ被控訴人に対して支払われるべきであった賃金との差額
を具体的に知ることができ(賃金格差の認識,かつ,その様な)
賃金格差が控訴人の不合理な男女差別であることを知り(本件違
法性の認識,かつ,控訴人の故意または過失に基づいて格差が)
生じていることを知った(責任及び因果関係の認識)時のことで
ある。そして,これら不法行為に基づく損害賠償請求権の法律要
件に関する認識は,損害賠償請求をなすことが可能である程度に
知る必要がある。
被控訴人が上記のような意味で,本件損害賠償請求をなすこと
が可能な程度に「損害及び加害者」を知ったのは,本件提訴の直
前である。よって上記知ったときから3年以内に本件提訴がなさ
れた本件については,消滅時効は完成していない。
(b)時効援用権の濫用
控訴人は,明らかにすべき資料を明らかにせず,本件訴訟の控
訴審において時機に遅れた攻撃防御方法を提出するなど,被控訴
人を翻弄し続けてきた。こうした姿勢は本件提訴前から顕著であ
り,控訴人は,被控訴人に対しては何も知らせないという姿勢を
貫きながら,損害及び加害者を知っているのに提訴が遅れたこと
を主張して消滅時効の抗弁権を行使する。このような抗弁権の行
,使は,民法1条2項,同90条に反し,抗弁権の濫用として違法
無効というべきである。
c損益相殺の主張について
被控訴人が会社から被った賃金差別による損害は30年以上に及
ぶ長期間の多額の損害であり,そのうち,被控訴人が本訴において
請求した昭和60年以降の損害額は,被控訴人の被った損害のごく
一部にすぎない。差別された全期間についてのすべての損害が命じ
られたのであれば,賃金差別ゆえに被控訴人が負担した社会保険料
,の負担も過少となり,損益相殺の余地もありうるが,本件において
被控訴人が被った損害は,原判決の認定した金額を上回ることは明
らかであり,損益相殺の余地はない。
(2)附帯控訴について
ア退職金の年金分について
退職金の年金分について,被控訴人は,原審以来,平成14年2月分
までについては現実の差額を,同年3月分以後の将来分に関しては当時
の被控訴人の年齢であった69歳女性の平均余命(19.02)に年金
額を乗じたものに新ホフマン係数によって中間利息を控除した損害現価
を損害額として請求していたが,控訴審において,将来分の一部(平成
18年9月分まで)が現実の差額となり,被控訴人の平均余命も変わっ
た(74歳女性の平均余命は15.71年)ため,算定をやり直した。
その内容は,過去分については,別紙2の「附帯控訴人請求額一覧表」
の「退職金」の「年金合計」の774万7568円であり,将来分につ
いては,同「年金将来分」の849万1695円で,その現価(15年
の新ホフマン計数を乗じて算出する)は485万2155円となる。。
イ公的年金分について
(ア)公的年金の差額分の算定について
公的年金についても,アと同様,現在までの時間の経過に伴い算定
をやり直すとともに,差別がなかったならば被控訴人が支払を受けて
いた公的年金の額と実際に支払われている額との差額の算定をさらに
合理的なものとするため,被控訴人は,控訴審において,その算定基
礎となる「差別がなかった場合の平均標準報酬月額」及び「差別がな
かった場合の特別支給の老齢厚生年金の報酬比例分の金額「差別が」,
なかった場合の老齢厚生年金の報酬比例相当分の金額」の算定につい
て,以下のとおり,整理する。
(イ)具体的な額の算定について
a被控訴人の実際の平均標準報酬月額
被控訴人はこれまで,自分に支払われる厚生年金の算定の基礎と
なる平均標準報酬月額は「国民年金・厚生年金保険年金証書(甲」
140)に記載された26万4372円であると理解していた。し
かし,甲140号証などに記載されたものは被控訴人が年金受給権
を取得した平成3年3月の時点までの保険料納付(被保険者期間4
75か月)を前提に計算されたもので,被控訴人はその後も平成4
年5月まで働き続けたため,年金支給開始時には被保険者期間は4
90か月となり,平均標準報酬月額も変わったことが判明した。
被控訴人に実際に支給された平成4年の報酬比例部分の年金額
,(130万7953円)から実際の平均標準報酬月額を算定すると
以下のとおり,26万7300円である。
被控訴人と同じ生年月日・被保険者期間の者に対して支給される
「特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分」の金額(平成4年7月
時点)の計算式(平均標準報酬月額)×9.17(生年月日によ(
る乗率)÷1000×490(月数)×1.089(物価スライド
率)を逆算すると,以下のとおりとなる。)
1,307,953÷1.089÷490×1,000÷9.1
7=267,300
b差別がなかった場合の平均標準報酬月額
差別がなかった場合の被控訴人の平均標準報酬月額を算定する方
法としては,入社時点(昭和26年8月)では差別による賃金差額
がなかったものとし,その後昭和28年から昭和60年までの33
年間に毎年均等の割合で差別による賃金格差が拡大し,昭和60年
1月の差額比率(被控訴人の主張する基準内賃金差額は9万916
7円,被控訴人に現実に支給された基準内賃金との比率は,9万9
167/25万2230=0.393161。原判決別紙6参
照)に至ったという前提で,入社時からの差額を算定し,その総。
計を被保険期間月数で除して平均差額を算定し,被控訴人の平均標
準報酬月額に加算する,というやり方が合理的である。その際,社
会保険事務所から入手した被保険期間における標準報酬月額の記録
に基づいて算定し直した(別紙3「平均標準報酬月額差額計算
書。」)
それによると,平均差額は6万3061円であり,差別がなかっ
。た場合の被控訴人の平均標準報酬月額は,33万0361円となる
c差別がなかった場合の平均標準報酬月額に基づく年金額
(a)年金支給開始時の金額
差別がなかった場合の平均標準報酬月額による年金支給開始時
の「特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分」の金額は,上記b
で算定された「差別がなかった場合の平均標準報酬月額」を上記
。aに記載した計算式に当てはめることによって算定が可能である
330,361×9.17÷1,000×490×1.089=
1,616,524
平成4年7月時点で,差別がなかった場合に被控訴人に支払わ
れるべき「特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分」の金額は,
161万6524円となる。
(b)その後の「特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分」の金額
その後の年金額の推移については,65歳未満の「特別支給の
老齢厚生年金の報酬比例部分」と65歳以上の「老齢厚生年金」
に分けて算定する必要がある。
①65歳未満の分について
甲178号証(社会保険業務センターの回答書)の「2.特
別支給の老齢厚生年金の額(65歳未満」の「実際の年金)
額」の「報酬比例部分」の推移と全く同じ割合で,差別がなか
った場合に支払われたであろう「特別支給の厚生年金の報酬比
例部分」の金額も推移したものと推定できる。
そこで,実際に支払われた「特別支給の厚生年金の報酬比例
部分」の金額につき,金額改定後の金額の改定前の金額に対す
る比率(変動率)を計算し,差別がなかった場合に被控訴人に
支払われるべき「特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分」の
平成4年7月時点の金額に順次その変動率を乗じて,各改定に
対応する年金額を算定した。その具体的な内容は別紙4「特別
支給の老齢厚生年金の報酬比例部分の金額推移一覧」の「差別
ない場合の額」記載のとおりである。
②「老齢厚生年金(65歳到達後)の金額について」
65歳になると,それまでの「特別支給の老齢厚生年金の定
額部分」がなくなり,全国民共通の老齢基礎年金が支払われる
こととなり,老齢厚生年金は「特別支給の老齢厚生年金の報酬
比例部分」として支払われていたもののみが支払われることと
なる。しかし,被控訴人と同じ生年月の者の場合,被保険期間
等の関係で,老齢基礎年金よりも「特別支給の老齢厚生年金の
定額部分」の金額の方が高額となっており,そのままでは65
歳になったとたんに支払われる年金総額が大きくダウンするこ
とになってしまう。そこで,経過的措置として老齢厚生年金に
その差額を加算することとされている。
本件において差額が生じるのは「特別支給の老齢厚生年金の
報酬比例部分」として支払われていたものに相当する分(報酬
比例相当分)である。そこで,65歳到達後の分に関しても被
控訴人に支払われた老齢厚生年金の「報酬比例相当分」と差別
がなかった場合に支払われていたはずの老齢厚生年金の「報酬
比例相当分」を比べることとし,その金額を算定することとす
る。
まず,平成9年6月の被控訴人に支払われた老齢厚生年金の
「報酬比例相当分」と,差別がなかった場合に支払われていた
はずの老齢厚生年金の「報酬比例相当分」とは,いずれも平成
9年4月の「特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分」の金額
と同じであるので,それらをそれぞれ計上した。その後は,控
訴人に支給された「老齢厚生年金」の改定後の金額の改定前の
金額に対する比率(変動率)を計算し,被控訴人に支払われた
老齢厚生年金の「報酬比例相当分」や差別がなかった場合に支
払われていたはずの老齢厚生年金の「報酬比例相当分」もそれ
と全く同じ比率で推移していったものとして,順次その率を乗
じて改訂後の金額を算定した。
なお,平成18年4月の変動率については,回答書に平成1
8年4月改定後の「実際の年金額」の記載がないので,添付の
「年金額物価スライド等の経過」記載のものによった。
その具体的な内容は,別紙5「老齢厚生年金の報酬比例相当
分の金額推移一覧」に記載のとおりである。
ウ慰謝料について
原判決では,被控訴人の慰謝料請求に関しては全く認められなかった
が,本件おいて,以下のとおり差別の態様,期間,悪質性等を考慮する
ならば,賃金等差額相当額の支払によって損害が填補されず,別個に慰
謝料が認容されるべき特段の事情がある。その精神的苦痛を慰謝するた
めの慰謝料は,500万円を下らない。
(ア)控訴人の露骨な女性差別意思による差別的取扱い
a原審,控訴審を通じた公然たる女性差別の主張・立証
本件訴訟において,女性であることだけで当然のごとく差別的取
,扱いをしているという控訴人の主張,立証(書証及び証言)により
被控訴人は深く傷つけられ,耐え難い精神的苦痛を味わい続けた。
b被控訴人に対する著しい差別と侮辱
控訴人は,本件訴訟において,被控訴人に対する著しい差別と侮
辱を行ってきた。その主なものを挙げると,控訴人は当時の事実関
係についての調査を一切行うことなく,原審において,被控訴人が
タイプ業務を断ったという証言は「全く偽りの証言」であると誹謗
し,控訴理由書でも,被控訴人がタイプ業務を自ら希望したと執拗
に主張した上,低賃金の仕事を自ら選んだのであるから被控訴人に
は不当性を批判する理由がないというかのような主張をしたこと,
控訴人は,タイプ業務は依頼された原稿を原稿どおり打つことが仕
事であり,原稿に誤字脱字等があってもタイピストの判断で修正す
ることは許されない定型業務であるとし「たかがタイプを打つの,
に必要な知識」など取るに足りないとか,力加減の難しさなど神経
を使う事柄について「瑣末な点」などと侮辱したこと,P27が一
貫して従事していた国際テレックス業務を高度な業務としながら,
自ら資格を取って業務を始め,拡大した被控訴人の国際テレックス
業務について一切評価をしないこと,控訴人は,タイプ業務だけで
なく,被控訴人の担っていた業務を全く知らず,誤った業務内容の
記載に基づいて「評価」し続けたこと,男性(被控訴人と同期であ
るP18が適例である)であればいかに勤務態度が悪くても昇格。
したのに,被控訴人はどんなに一生懸命働いても,合併時,G3と
いう入社3,4年の高卒女性と同資格,高卒男性であれば25歳で
自動的に卒業してしまう資格に格付けられたのであること,などで
ある。
c中高年女性に対する差別とハラスメント
控訴人は,控訴審において,被控訴人がやっていた仕事を若いP
1がやっていたとか,東京事務所では被控訴人がやっていた仕事を
P50がやり,被控訴人はそれらの補助をやっていたという虚偽の
主張をした。これらにより,控訴人が組織的に中高年女性を差別し
,ていたことが明らかになった。さらに,P51陳述書及び同証言は
郵便物を手すりにぶつけたとか投げ捨てたとか,ファックスをごみ
箱に捨てたなどと事実に反することを並べ立てて,被控訴人を誹謗
中傷した。
P33陳述書などによれば,被控訴人がメールを持って部屋を出
ると様子を窺って階段のところで見ていたというのであるから,P
51は若い女性たちと一緒になって被控訴人を監視していたもので
あり,これは中高年女性に対する差別,いやがらせ(ハラスメン
ト)が日常的に行われていたことを示すものである。
(イ)控訴人の訴訟態度の極端なまでの悪質性
a異常に長期に及ぶ訴訟
本件は,提訴よりすでに12年半が経過した。被控訴人が東京都
の苦情処理委員会に申立ててから実に14年の歳月が流れている。
その責任は,ひとえに控訴人にある。記録から明らかなとおり,控
訴人は,男女の賃金・資格格差の具体的なデータについて,原審で
は主張の認否さえも拒絶し,合併時には旧昭和石油の証拠も廃棄し
たと繰り返し偽証して提出をせず,証人尋問では不当な証言拒絶を
行い,被控訴人が文書提出命令を申し立てた際にも,退職者の資料
はないと虚偽の事実を告げ,裁判所の勧告により文書の一部を提出
したが,提出を決定してからも1年という長期間を要し,控訴審に
なってから,今まで廃棄したため存在しないといってきた書証を提
出し,時機に後れた攻撃防御方法として証拠が却下されざるを得な
。い事態を招来するなど,控訴人の訴訟態度はあまりにも悪質である
b侮辱的・差別的言辞の反復
このような控訴人の訴訟態度のため,被控訴人は訴訟になってか
らだけでも12年半という長期の訴訟を強いられ,しかもその間,
控訴人による露骨な差別的言辞により屈辱を受け続け,在職中にも
まして耐え難い精神的苦痛を受けた。
c被控訴人の求める賃金差額相当額の請求は,昭和60年以降のも
ののみである。しかし,昭和石油はそれ以前から,被控訴人を女性
であることを理由に賃金差別していたことが明らかとなった。この
ことは,慰謝料として斟酌されるべきである。
第3当裁判所の判断
1昭和石油及び控訴人における男女間の賃金に関する格差の有無について
(1)認定事実
前提となる事実(原判決を引用,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,)
以下の事実が認められる。
ア昭和石油における状況
昭和石油では,毎年4月に定期昇給実施後,各従業員に対し,書面で
その年の4月1日現在における新本給を通知しており,これには,各人
のランク(ただし,BからFまでのランクのみで,細ランクは示されな
い,旧本給,定率,定額,定昇,職群等の額及び昇給合計額,新本給。)
及び新基準内賃金(新本給・家族手当・勤務地手当・役付手当・別居手
当)の額が記載されている(甲22。)
昭和石油労働組合は,新本給通知が交付された直後,所属組合員を対
象に,昭和石油から通知される新本給の内容について調査を実施し,そ
の集計結果をまとめた「資料と報告」と題する冊子を公表している。こ
の調査は,組合員に対し「賃金調査(甲21)の用紙を配布し,各組」
合員に,氏名,性別,職制,学歴,生年月日,入社年月日,扶養者数,
ランク,旧本給,賃上げ額(年齢別定額・定率・定昇・職群別定額,)
基準賃金(新本給・家族手当,基準内賃金(基準賃金・勤務地手当・)
役付手当)の各細目について記入させ,これを回収する方法によってお
り,昭和57年4月1日現在の「資料と報告(甲1の1・2)及び昭」
和58年4月1日現在の「資料と報告(甲2の1・2)は,いずれも」
組合員の概ね95パーセント以上の調査結果に基づいている。なお,昭
和石油では,ユニオンショップ制を採っており,昭和石油の従業員のう
ち組合員資格を有する者は,原則として昭和石油労働組合の組合員であ
る(甲1,2の各1・2,甲21,22,51,証人P29)。
この「資料と報告」に基づき,昭和石油従業員のランク及び定期昇給
の状況をみると,概ね以下のとおりである(なお,控訴人は,上記「資
料と報告」の正確性に疑問を呈するが,上記の作成経過に加え,これに
反する証拠が存しないことに照らすと,多少の集計ミス等がありうると
しても,全体として十分信用に値する資料というべきである。。)
(ア)ランクに関する状況
a昭和57年の状況(甲1の1の6頁)
昭和57年(4月1日現在。以下同じ)におけるランク(職。
群)に関する集計結果は,Fランク以下の者をみると,以下の表の
とおりであった。なお,学歴には,入社後の学歴を考慮しない(以
下,特段の説明を加えない限り,同様である。。)
中卒高卒大卒合計
男女男女男女男女計
B0017310130176101277
C017994438398181
D4・D302112139503162144306
D2・D166113592842146740507
E1670471112507631764
F34020307003070307
小計267141397363294719583842342
合計28117603012342
b昭和58年の状況(甲2の1の6頁)
昭和58年におけるランク(職群)に関する集計結果は,Fラン
ク以下の者をみると,下表のとおりであった。
中卒高卒大卒合計
男女男女男女男女計
B00105820010582187
C016369316671137
D4・D301100150293129154283
D2・D143104412644152837565
E1590438110607031704
F30020509203270327
小計232121352328274518583452203
合計24416802792203
c昇格に関する状況(甲1,2の各1・2,甲5,51,証人P2
9)
(a)昭和57年に25歳の高卒男性は87名おり,ランクは全員
がD3又はD4であったところ,昭和58年に26歳の高卒男性
は87名で全員がD1又はD2ランクであるから,昭和57年に
25歳であった高卒男性は,全員が26歳でD1又はD2に昇格
,したこととなる(なお,各人の職群は,賃上げ額から定率,定昇
年齢別定額を控除して算出される職群別定額の金額により推定す
ることができる。また,昭和57年に26歳であった高卒男性。)
は61名おり,ランクは59名がD1又はD2,2名がD3又は
D4であったところ,昭和58年に27歳である高卒男性61名
のランクは,全員がD1又はD2であるから,結局この年代の高
。卒男性は27歳までに全員がD1又はD2に昇格したことになる
これに対し,高卒女性でD1又はD2ランクの者は,昭和57
年に32歳の者11名中1名,34歳の者2名中1名,35歳の
者2名中1名,36歳の者1名中0名と37歳以上の者であり
(33歳の高卒女性は在籍せず,これより年齢が若い者は,D。)
3以下であった。
(b)昭和57年に36歳であった高卒男性は5名おり,ランクは
Dが4名,Eが1名であったが,昭和58年に37歳の高卒男性
5名のランクは全員がEとなっているから,この年代の高卒男性
は37歳までに全員がEに昇格したことになる。これに対し,女
性は全調査対象女性従業員(昭和57年は398名,昭和58年
は372名)中,昭和57年に54歳で翌年に55歳(最高齢)
となった者1名を除き,E以上の者はいない。
(イ)定期昇給に関する状況
a昭和57年の状況(甲1の1の11頁)
昭和57年の定期昇給における昇給額(定昇)の状況は,下表の
とおりであった。
BCD3・D4D1・D2EFランク
男女男女男女男女男女男女定昇金額
6002
11501
12503
135061942
14501346
15504823
165049131
180088
20006537
22008313
255023
280026
310011398
34001481
37001523
400069107
4300195
4600187
50501855
550085169
590086
640084
670039
700024
小計1760183981621444674076313070
合計277181306507764307
b昭和58年の状況(甲2の1の11頁)
昭和58年の定期昇給における昇給額(定昇)の状況は,下表の
とおりであった。
BCD3・D4D1・D2EFランク
男女男女男女男女男女男女定昇金額
60013111
11504
12503
13506921
14501431
155013839
1650561221
1800851
2000471431
2200633
255082111
280022
3100251111
34001771
37001621
40007796
4300153
4600190
5050162
550098168
5900119
640073
670049
700017
小計1058266711291545283770313270
合計187137283565704327
(ウ)本給額の状況(甲2の2)
a昭和58年の本給額に関する分布図は,下図のとおりである(学
歴が,高校卒業者に限るものとする。。)
(男性)1346名
101214161820222426283032合本給額
万万万万万万万万万万万万計年齢
20歳5959
21歳4949
22歳5858
23歳7575
24歳2121
25歳22
26歳8787
27歳6161
28歳53154
29歳8181
30歳6262
31歳26127
32歳22123
33歳1717
34歳123
35歳0
36歳11
37歳0
38歳11
39歳33
40歳264773
41歳412465
42歳730239
43歳181890
44歳1345186
45歳11435454
46歳6252253
47歳262715151
48歳41110227
49歳187218
50歳1210821
51歳13810628
52歳597425
53歳113319
54歳1146113
55歳221319
合計264201174415123220200912521346
(女性)271名
101214161820222426283032合本給額
万万万万万万万万万万万万計年齢
18歳1616
19歳1818
20歳3333
21歳2525
22歳2424
23歳2727
24歳1818
25歳77
26歳41014
27歳31417
28歳77
29歳66
30歳1212
31歳66
32歳224
33歳268
34歳0
35歳22
36歳22
37歳11
38歳22
39歳11
40歳22
41歳22
42歳134
43歳11
44歳11
45歳0
46歳112
47歳22
48歳0
49歳0
50歳22
51歳0
52歳11
53歳22
54歳11
55歳11
合計17559165114100000271
イ合併時の格付けの状況
(ア)昭和石油とシェル石油の合併に伴い,昭和石油におけるランクか
ら控訴人における職能資格等級に移行するにあたり,昭和石油とシェ
ル石油との間で旧資格と新資格との対応関係について,原則として,
昭和石油でF,Eランクの者はSランクに,D,C,Bランクの者は
Gランクに対応させるという基本合意がなされ,その上で,各ランク
における細分ランクの格付けは,各社において行うこととなった(原
審証人P34。)
控訴人は,当審において,G資格への格付では,D1からD4(自
由ランク)とC,B(自動ランク)に分け,D1からD4は更に過去
3年分の成績順に3グループに分け,一定の基準でG1からG3に格
付けたと主張する。しかし,D1からD4は更に過去3年分の成績順
に3グループに分けたという部分は,過去3年分の社員の成績が順番
になった資料とは一体いかなる資料であるか明らかではなく,G1か
らG3に格付けた一定の基準というのがどのような基準であるか明ら
かではなく,本件証拠上,控訴人の上記主張を認めるに足りる証拠は
なく,採用できない。
この合併時の格付けの状況について,控訴人が作成,提出した資料
である「1985年合併時の格付けについて」と題する書面(乙1
1)の内容は,下表のとおりである(上記書面の対象者は,昭和石油
の社員で,合併後にG1以下の職能資格等級とされた者1142名で
ある。。)
昭和石油におけるランク→控訴人における職能資格等級
資格合計男女資格合計男女
E2以上51510G15815756
D12142140G218214735
D232828939G3327107220
D31032578G452052
D420114358合計1142829313
C944846
B11055946
B218018
B328028
合計1142829313
(イ)上記(ア)において,仮に昭和石油におけるランク順に沿って控
訴人における職能資格等級が格付けされたとした場合,格付けによる
ランクから職能資格等級への移行の状況は,下表のとおりになる。
(男性の場合)(女性の場合)
昭和石油控訴人昭和石油控訴人
ランク人数資格人数ランク人数資格人数
E2∼51G1575E2∼0G16
D1214D10
D2289D26
G214733G235
D321D32
476
D4143G3107D458G3220
C48C46
B159B140
6
B20G40B218G452
B30B328
合計829合計313
この表に基づき,各ランクごとに格付けに関する男女間の差異をみ
ると,次のとおりになる。
昭和石油においてD2ランクであった者については,男性は,28
9名全員が控訴人の職能資格等級G1に格付けされたのに対し,女性
は,39名のうち6名のみがG1とされ,その余の33名はG2に格
付けされたことになり,D3ランクであった者についてみると,男性
は,25名のうち21名がG1に,その余4名がG2に格付けされて
いるが,女性は,78名のうちG1とされた者はおらず,2名がG2
とされたのみで,その余76名がG3に格付けされたことになり,D
4ランクであった者についてみると,男性は,143名全員がG2に
。格付けされているが,女性は,58名全員がG3とされたことになる
B1ランクであった者についてみると,男性は,59名全員がG3
に格付けされているが,女性は,46名のうち40名がG3に,その
余の6名はG4に格付けされたことになる。
(ウ)原審証人P34は,合併時の格付けの方法について,C以下のラ
ンクの者につき1つ上のランクに昇格させ,また,D2・D3のラン
クの者をひとまとめにした上で,各ランクを上位・中位・下位の各グ
ループに分けて,これに応じた職能資格等級を定め,下位グループの
者については職務の困難度に応じて職能資格等級を上方修正した旨証
言する。
そこで,同証言を前提にして,仮にランク順に職能資格等級の格付
けがされたとした場合,移行の状況は次のとおりになる(甲26,2
7,証人P29。)
(女性の場合)(男性の場合)
昭和石油控訴人昭和石油控訴人
人数資格人数人数資格人数修正後のラ修正後のラ
ンクンク
E2∼51G1575E2∼0G16
D1214D10
D2310D26
又は4G2147又は35G235
D3D376
D4143G3107D4104G3220
48
C59C40
6
B10B118
B20G40B228G452
B30B30
合計829合計313
上記の表に照らすと,男性は,D2・D3ランク314名のうち3
10名は職能資格等級G1に格付けられ,D2・D3ランクのうち4
名と従前のCランクから昇格した者48名を含むD4ランク191名
のうち143名はG2に格付けられたのに対し,女性は,D2・D3
ランク117名のうち6名がG1に,うち多くとも35名がG2に,
うち少なくとも76名がG3に格付けられ,従前のCランクから昇格
,した46名を含むD4ランク104名のうちG2に格付けられた者は
仮にいたとしても極めて少数であったことが認められる。
ウ合併後の控訴人における状況
昭和59年12月(合併前月)時点で昭和石油に在籍し,平成12年
9月ころ現在,控訴人に在籍していた社員(管理職の者を除く)のう。
ち,学歴が高卒又は中卒の者は,男性785名,女性63名であり,こ
れら合計848名の者について,①性別,②入社年月日,③入社後平成
4年5月までの社内歴,④合併時(昭和60年)から平成4年までの職
能資格,⑤給与明細総計表(昭和61年12月分,昭和62年から平成
3年までの各年1月分及び12月分,平成4年1月分及び同年5月分)
のデータを控訴人が開示したものが乙24号証である。
上記の男性785名中,中卒者又は高卒で中途採用者であると推測さ
れる者が45名おり,これを除外すると,高卒の新卒者は740名とな
る。また,女性63名のうち,高卒の新卒者と認められる者は32名で
。あり,その余の31名は中途入社者であるが,ほとんどが高卒者である
(甲94の2,原審証人P45(第2回))
控訴人が提出した上記データ中,男性の高校新卒者と認められる74
0名と,女性63名に関するデータを基に分析した結果は,概ね以下
(ア)ないし(エ)のとおりである。
(ア)職能資格等級に関する状況
a男性について
a)平成4年までの昇格状況(甲95の1,甲110)
昭和59年入社者(13名)は,全員が入社から1年9月が経
過した昭和61年1月(以下,この昇格の時期を「入社2年目」
といい,この標準年齢を20歳という。以下,年齢はいずれも標
準年齢を表す。昇格の時期はいずれも1月である)にG4へ,。
4年目にG4からG3へ,8年目の平成4年1月にG3からG2
へ昇格している。
昭和56年入社者(53名)は,全員が入社6年目にG3から
G2へ,10年目にG2からG1へ昇格している。
昭和55年入社者(39名)は,全員が入社6年目にG3から
G2へ,9年目にG2からG1へ昇格している。
昭和54年入社者(57名)は,入社6年目では全員がG2で
あり,9年目に1名を除く全員がG2からG1へ昇格し(1名は
10年目にG1へ昇格,13年目の平成4年1月に1名がS3)
Bに昇格している。
昭和53年入社者(67名)は,入社7年目では全員がG2で
あり,G1への昇格は,8年目と10年目の各1名を除く他の全
員が9年目であり,14年目の平成4年1月時点では,13年目
にS3Bに昇格した1名を除き,他の全員がG1である。
昭和52年入社者(17名)は,入社8年目では全員がG1で
あり,15年目の平成4年1月に5名がS3Bに昇格している。
昭和50年入社者(80名)は,入社10年目では全員がG1
であり,13年目に2名,14年目に5名,15年目に6名,1
6年目に9名,17年目に26名がG1からS3Bに昇格し,2
名が17年目にS3BからS3Aに昇格している。17年目の平
成4年1月時点では,G1が32名,S3Bが46名,S3Aが
2名である。
昭和49年入社者(58名)は,入社11年目では全員がG1
,であり,14年目に1名,15年目に15名,16年目に11名
17年目に14名,18年目に13名がS3Bに昇格している。
入社18年目の平成4年1月時点では,G1の4名を除く全員が
S3Bである。
昭和48年入社者(47名)は,入社12年目では全員がG1
であり,14年目から18年目の間に43名がS3Bに昇格し,
18年目に3名,19年目に4名がS3Aに昇格している。19
年目の平成4年1月時点では,G1の2名,S3Aの7名を除く
38名がS3Bである。
昭和47年入社者(79名)は,入社13年目ではG2の1名
を除く全員がG1であったが(G2の1名は14年目にG1に昇
格,15年目以降S3Bへの昇格者が出て,19年目までに7)
2名がS3Bに昇格し,また18年目以降はS3Aへの昇格者も
出て,20年目の平成4年1月時点では,G1が3名,S3Bが
51名,S3Aが25名である。
昭和46年入社者(52名)は,入社14年目では全員がG1
であったが,15年目以降S3Bへの昇格者が出て,19年目ま
でに49名がS3Bに昇格し,また18年目以降はS3Aへの昇
格者も出て,21年目の平成4年1月時点では,G1が1名,S
3Bが22名,S3Aが29名である。
,昭和45年入社者(21名)は,入社15年目ではS3が5名
G1が16名であったが,19年目までに18名がS3Bへ昇格
し,また17年目以降はS3Aへの昇格者も出て,22年目の平
成4年1月時点では,G1の2名,S3Bの5名を除く14名が
S3A以上であり,S3Aが11名で,S2が3名である。
昭和44年入社者(20名)は,入社16年目では,12名が
G1,8名がS3であったが,18年目にはG1の1名,S3A
に昇格した1名を除く全員がS3Bとなり,23年目の平成4年
1月時点では,G1の1名,S3Bの2名を除く全員がS3Aで
ある。
昭和43年入社者(12名)は,入社17年目ではG1の2名
を除く全員がS3であったが,18年目に全員がS3Bとなり,
19年目以降S3Aへの昇格者が,24年目にS2への昇格者が
出て,24年目の平成4年1月時点では,S3B1名,S2の3
名を除く8名がS3Aである。
昭和37年入社者(4名)は,入社23年目では全員がS3で
あり,27年目までに全員がS3Aに昇格し,28年目以降はS
,2への昇格者も出て,30年目の平成4年1月時点では,S3A
S2が各2名である。
昭和36年入社者(51名)は,入社24年目では全員がS3
であったが,26年目に6割以上がS3A(29名)又はS2
(5名)となり,30年目以降はS1への昇格者も出て,31年
目の平成4年1月時点では,S3Bの5名,S3Aの15名を除
き,6割を超える者がS2(25名)又はS1(6名)である。
昭和35年入社者(37名)は,入社25年目でG1,S2,
S1各1名を除き全員がS3であったが,27年目に6割以上
(23名)がS3A以上となり,32年目の平成4年1月時点で
,は,S3Bの3名S3Aの14名,S2が12名,S1が8名で
過半数がS2以上に昇格している。
昭和34年入社者(19名)は,入社26年目で全員がS3で
あったが,27年目ではS3BとS2各1名を除く全員がS3A
となり(S3Bの者は28年目にS3Aに昇格,28年目に過)
半数の10名がS2になり,33年目の平成4年1月には,S3
Aが4名,S2が6名,S1が9名である。
昭和33年入社者(13名)は,入社27年目で全員がS3
(11名)又はS2(2名)であったが,28年目にS3Bの2
名を除きS3A又はS2とされ(このS3Bの2名はその後も昇
格していない,30年目に過半数がS2(6名)又はS1(1。)
名)となり,34年目の平成4年1月時点では,上記S3Bの2
名を除く全員がS2以上に昇格している。
なお,データには,昭和58年,57年,51年,昭和38年
ないし昭和42年,昭和51年,昭和57年及び昭和58年入社
の該当者はいない。
以上によると,G1までの職能資格等級について,同一年度に
入社した者のほとんどが同一時期に昇格しており,入社年度によ
り多少異なるものの,入社6年目から8年目(標準年齢24歳な
いし26歳)の時期にG2に昇格し,入社9年目又は10年目
(標準年齢27歳又は28歳)にG1に昇格している。
S3B以上の職能資格等級についても,入社後の年数が一定の
幅のうちに昇格しており,S3Bには,早い者で入社13年目
(標準年齢31歳)ころから昇格し,19年目(同37歳)まで
の間にほとんどの者が昇格している。
b)平成4年の分布状況(甲103の1)
平成4年(被控訴人が退社した年)1月時点における職能資格
等級(標準年齢は平成4年12月末現在)を入社年度別に表にす
ると,下表のとおりである。
G3G2G1S3BS3AS2S1M4B合計標準年齢
27歳1313
28歳0
29歳0
30歳5353
31歳3939
32歳56157
33歳66167
34歳12517
35歳0
36歳3246280
37歳45458
38歳238747
39歳3512579
40歳1222952
41歳2511321
42歳121720
43歳18312
44歳0
45歳0
46歳0
47歳0
48歳0
49歳224
50歳51525651
51歳31412837
52歳46919
53歳264113
54歳11
合計01327123613458271740
被控訴人が退職した平成4年をみると,標準年齢52歳以上の
者33名の職能資格等級は,S3Bが2名,S3Aが4名,S2
が13名,S1が13名,M4Bが1名であった。
b女性について
a)平成4年までの昇格状況(甲95の2)
データの対象期間(昭和60年から平成4年の各1月)中に昇
格時期が明らかな者を見ると,高校卒業年(以下「卒年」とい
う)が昭和59年の者全員が2年目にG4に昇格し,卒年が昭。
,和59年及び昭和58年の者全員が4年目にG3に昇格しており
また,卒年が昭和57年の者全員が4年目にG3である。G3か
らG2へ昇格した時期が明らかな者について,卒年を基準として
昇格時期をみると,8年目が2名,9年目が4名,10年目が4
名,11年目が2名,12年目が3名,13年目が4名,14年
目が4名,15年目が4名,16年目が3名,17年目が1名,
18年目が2名,27年目が1名である。合併時の昭和60年1
月時点でG2に格付けされた者は,63名中14名で,標準年齢
は29歳,30歳,35歳が各1名,36歳が4名,38歳が2
名,42歳が3名,45歳及び46歳が各1名であり,同時点で
G1に格付けされた者は63名中2名で,標準年齢が35歳及び
39歳が各1名である。
この状況によると,G3までは全員が同時期に昇格していると
推測されるが,G3からG2に昇格する標準年齢は,最も早い者
でも男性より遅く,昇格時期も人によってかなりのばらつきがあ
る。
b)平成4年の分布状況(甲104)
平成4年1月時点における職能資格等級は,S3Bが1名,G
1が9名,G2が38名,G3が15名であり,年齢ごとの分布
をみると,下表のとおりである。
G3G2G1S3BS3AS2S1M4B合計標準年齢
27歳44
28歳437
29歳22
30歳224
31歳134
32歳33
33歳123
34歳33
35歳0
36歳1113
37歳44
38歳11
39歳22
40歳112
41歳213
42歳213
43歳516
44歳22
45歳0
46歳11
47歳0
48歳0
49歳213
50歳0
51歳0
52歳11
53歳22
合計15389163
平成4年1月時点で,女性のうち標準年齢が最も高い53歳の
2名はいずれもG2であり,女性の最高資格者は,昭和63年以
降S3Bである1名であり(甲102,原審証人P45,その)
他の者はいずれもG1以下である。
c事務職における男女間の比較
(a)証拠(甲103の2,甲105の1,原審証人P45(第2
回)によれば,乙24号証に掲載されている昭和石油出身の高)
校新卒男性740名のうち,入社時より一貫して事務職(事務,
,販売,研究等)に就いていた者は合計103名ということとなり
このうち,平成4年に標準年齢が52歳(被控訴人が,昭和60
年1月の控訴人の合併を迎えたときの年齢)以上の者13名は,
いずれもS2以上の資格(S2が4名,S1が9名)になってお
り,更に,標準年齢がそれより1歳低い51歳の者12名を見る
と,S1が4名,S2が2名,S3Aが5名,S3Bが1名であ
ったことになる。これに対し,証拠(甲104)によれば,女性
のうち同じく52歳以上の者は3名であるが,2名はG2,1名
はG1である。
(b)控訴人は,原判決52頁ないし53頁が入社時より一貫した
高卒男性事務職の社員が103名存在すると認定し,これを前提
にして本給や資格の格差を判断したが,上記各甲号証(甲103
の2,甲105の1)は,現業職及び事務職の区分を乙24号証
,に記載された経歴を無視し記載内容に基づかないで区分しており
事実に反すると主張し,乙97号証,98号証の1ないし3,乙
99号証,100号証,103号証などを提出する。
(c)控訴人は,乙100号証において,原判決で入社時より一貫
した高卒男性事務職の社員とされた103名を「一貫した事務
職」と「現業職(オペレーター)経験者」とに分類している。こ
のうち「現業職(オペレーター)経験者」の中に,平成4年に標
準年齢が52歳以上の者13名のうちの10名がいる。
乙24号証によれば,その10名の者の経歴について,以下の
ことが認められる。
①NO33番の社員(53歳,S1)が川崎製油所製造部製油
課に勤務したのは,入社4年目である昭和37年1月から約1
年間にすぎない。
②NO126番の社員(52歳,S1)が新潟製油所製油第1
課,操油課に勤務したのは,入社6年目である昭和40年12
月から約1年9か月間にすぎない。
③NO172番の社員(52歳,S1)が新潟製油所製油課に
勤務したのは,入社3年目である昭和36年11月から約7か
月間にすぎない。
④NO177番の社員(51歳,S1)は,入社後直ちに彦島
油槽所に約5年半勤務したが,その後は一貫して事務職として
勤務した。
⑤NO221番の社員(52歳,S1)は,入社3年目である
昭和36年10月から約4年間川崎製油所操油課に勤務した。
⑥NO256番の社員(53歳,S2)は,入社6年目である
昭和38年9月から約4年半川崎製油所製造部製油課に勤務し
た。
⑦その他の4名の経歴を見ると,事務職として勤務歴が主であ
ると言える。
以上から,それらの者は現業職の経歴もある旨の控訴人の指摘は
そのとおりである。しかし,各人によって差異はあるものの,それ
らの者が現業職であった期間は比較的短く,職歴の中で比較的初期
,に属するものであり,そのような現業職としての職歴があることが
その後の事務職としての仕事に役立つことがあることは予想できる
ものの,それにより高い格付けを獲得したとまでは認められない
(証拠(甲95の1,甲106,186,乙24,当審証人P4
5)によれば,昭和石油において,現業職の方が事務職に比べて,
一般的にいうと昇格の速度がいくらか遅かったこと,その主な理由
は,現業職は交代勤務手当,特別勤務手当などの基準外賃金が多か
ったことが認められる。更に,これらの740人は管理職になっ。)
た者を除外していること(甲13の1・3,甲102,弁論の全趣
旨)を考えると,一貫した事務職又はその職歴のうち大半が事務職
の男性社員の場合,標準年齢が50歳を超えると,S2,あるいは
それに近い程度の資格となっているといえる。控訴人が提出する上
記各証拠(乙97,98の1ないし3,乙99,100,103)
も,上記認定を覆すに足りるものではない。
(イ)職務職能定昇評価に関する状況
控訴人において毎年1月に実施する定昇は,職務職能定昇(各ラン
クにつき5段階の評価により決定される額)及び年齢定昇(年齢によ
る定額)からなり,控訴人は,各年につき,各ランクにおけるB評価
とC評価との平均額及び年齢定昇額を公表している。昭和63年,平
成元年の職務職能定昇における評価内容を,各年1月の定昇額(職務
職能定昇におけるB評価とC評価との平均額,年齢定昇額)により推
定した各年度の職務職能定昇額と年齢定昇額を分析すると,次のとお
りである(甲53,68,96の3・4,甲97の1・2,甲98,
136。)
a昭和63年
ABC不明合計
男20736250121740
(30%)(49%)(6.8%)(16.4%)
女3526263
(4.7%)(82.5%)(9.5%)(3.1%)
b平成元年
ABC不明合計
男18936448139740
(25.5%)(49.2%)(6.5%)(18.8%)
女14910363
(1.6%)(77.8%)(15.9%)(4.7%)
平成元年11月に東京事務所に在籍した9名の社員の内,同年の定
期昇給に際しての評価は,男性5人は2人がAで,3人がBであるの
に対し,女性3人はいずれもCであったと推認される(甲188。)
(ウ)本給額の比較(甲108,109)
平成4年5月現在の男女別,職務別の平均本給額をみると,下表の
とおりである(事務」とは一貫して事務職であった者「途中から事「,
務」とは,途中から事務職になった者をいう。前記のとおり「事,
務」として分類された者の中には,厳密に見ると「途中から事務」,
に分類するのが妥当な者も一部含まれているが,以下の検討は,男女
。間の比較に重要な意味があると解するから,その点は,一応捨象する
なお女性のうち3名は,乙24に平成4年5月現在の本給額のデータ
がないため除外してある。。)
年齢男性人数女性人数男性平均本給額女性平均
事務現業人数合計事務現業本給額途中から途中から
事務事務
27歳13316179,500174,200
28歳66182,800
29歳22185,400
30歳2348457206,400206,000205,800191,800
31歳3135443213,600212,800212,400198,500
32歳5250360221,100224,300220,500201,100
33歳265269231,800227,200203,400
34歳17320235,900211,900
35歳
36歳8567383258,400258,100253,000219,400
37歳256462266,100266,500230,700
38歳7535148280,600280,100277,100237,900
39歳18556281293,500291,100288,900239,800
40歳12634254308,000300,700304,200255,400
41歳6312324324,900314,300313,400260,800
42歳20323326,800271,700
43歳48618341,200340,200271,900
44歳
45歳22289,900
46歳11298,500
47歳
48歳
49歳21137384,500376,100377,100300,200
50歳1392951395,800404,300388,300
51歳1291637403,800408,100393,100
52歳739120418,600412,200403,900321,300
53歳634215418,900401,300410,800292,000
54歳11396,300
合計1036257560800
,高卒男性と女性の平均本給額を比較すると,年齢が高くなるに従い
男女間の格差が次第に大きくなっており,一貫して事務職であった男
性(この中には厳密に見ると「途中から事務」に分類するのが適切な
者も一部含まれている可能性がある)と女性を比較すると,52歳。
の者(男性7名,女性1名)では,男性が41万8600円であるの
に対し,女性が32万1300円,53歳の者(男性6名,女性2
名)では,男性(前記と同様である)が41万8900円であるの。
に対し,女性が29万2000円であった。
また,高卒男性において,事務職として勤務する者(その中には,
一貫して事務職であった者と途中から事務職になった者とがおり,上
記の表におけるその数の区別は,正確ではない)は,一貫して現業。
職であった者より,平均本給額が若干高額になる傾向が見られる。
(2)判断
以上(1)において認定したところによると,以下のとおりいうことが
できる。
ア合併前の昭和石油において,同一学歴者のランク,同一ランクにおけ
る定期昇給額,同一年齢者における本給額のいずれにおいても,男女間
に著しい格差が存した。
イ合併時の格付けについて,合併前のランクと比較して,全般に男性が
女性より上位の職能資格等級になっている。このことは,合併後に職能
資格等級がG1になった者の比較で特に明らかである。
ウ合併後平成4年までの控訴人において,学歴が高卒又は中学卒の,合
併前の昭和石油に在籍し,平成12年9月ころも控訴人に在籍した社員
で,管理職を除く者の職能資格等級をみると,男性は,ごくわずかの例
,外を除いて,G4からG1までは28歳ころまでに年齢に応じて昇格し
S3Bには31歳ころから37歳ころまでに昇格し,52歳以上では多
くの者がS2以上に昇格し,標準年齢が50歳を超えると,S2,ある
いはそれに近い程度の資格となっているのに対し,女性は,G3までは
,年齢に応じて昇格するが,G3からG2への昇格年齢は定まっておらず
S3Bに昇格した1名を除けば,全員がG1以下に留まっており,職務
職能定昇評価をみると,上位であるA評価を受けるのは,男性は4分の
1程度であるのに対し,女性は数パーセント程度であり,本給額をみる
と,平成4年当時,高卒の学歴を有する者において,男性52歳以上の
者の平均は40万円以上であるのに対し,女性52歳以上の者の平均は
29ないし32万円くらいであることが認められ,職能資格等級,職務
職能定昇評価,本給額のいずれにおいても,男女間で著しい格差が存す
る。
2被控訴人と男性との賃金に関する格差の有無について
(1)認定事実
ア昭和石油における状況
(ア)昭和39年4月1日現在の「資料と報告(甲132)において,」
被控訴人を含む高卒者(入社後に高位の学歴を取得した者を含む)。
で年齢31歳,勤続年数12年の者(男性14名,女性3名)をみる
と,ランクは,男性はDが7名,Eが7名であるのに対し,女性3名
はいずれもDであり,定期昇給額は,男性は1300円が1名,14
,00円が4名,1500円が9名,1600円が1名であるのに対し
女性は3名とも1200円であった。
(イ)昭和57年4月1日現在の「資料と報告(甲1の1・2)にお」
いて,被控訴人を含む高卒者で年齢49歳,勤続年数30年の者(男
,性8名,女性1名)をみると,ランクは,男性はDが1名,Eが6名
Fが1名であるのに対し,被控訴人はD2であり,定期昇給額は,男
性は3400円が1名,4300円が3名,4600円が2名,50
50円が1名,7000円が1名であったのに対し,被控訴人は20
00円であり,本給額は,男性は21万7939円から26万590
。5円の範囲にあったのに対し,被控訴人は18万9214円であった
なお,高卒男性(勤続年数を問わない。入社後に高位の学歴を取得
した者を含む)のランクをみると,49歳の者では,Dが2名,E。
が12名,Fが7名であり,48歳の者では,Eが8名,Fが11名
(Dは0名)であり,47歳の者では,Eが13名,Fが17名(D
は0名)であり,46歳の者では,Dが4名,Eが24名,Fが26
名であり,45歳の者では,Eが22名,Fが35名(Dは0名)で
,あり,44歳の者では,Eが32名,Fが25名(Dは0名)であり
高卒男性でFランクの者のうち若い者は,41歳(2名,40歳)
(1名。ただし,同人は,入社後に大学卒業の学歴を取得した)で。
あった。
イ合併後の状況
,(ア)被控訴人は,合併時の昭和60年1月当時,職能資格等級はG3
本給額は22万0232円であり,昭和61年1月にG2に昇格し,
退職時の平成4年5月当時,職能資格等級はG2,本給額は30万7
970円であった(争いがない。。)
(イ)平成4年5月当時,控訴人提出の賃金データ(乙24)の分析対
象とした高校新卒者男性740名のうち,52歳ないし54歳の者3
3名(55歳以上の者はデータにない)をみると,職能資格等級は,。
S3Bが2名,S3Aが4名,S2が13名,S1が13名,M4B
が1名であり(前記1(1)ウ(ア)a(b)の表のとおりであ
る,これらの者の本給額の平均は41万1742円である(乙24,。)
甲103の1ないし3。)
(2)判断
前記(1)の認定事実によると,昭和石油及び控訴人において,被控訴
人と,同一学歴(高卒)で,年齢が同じか数年若い男性を比較すると,ラ
ンク又は職能資格等級,定期昇給額,ひいては本給額において,著しい格
差が存在していたといえる。
3同業他社における男女間の賃金の状況
証拠(乙39。なお,P29は,甲150で,乙39の正確性について疑
問点を指摘するが,そこで指摘されている事項を考慮しても,下記の認定事
実の大筋は動かない)によれば,控訴人(合併前は昭和石油)と同業(石。
油元売り)の他社における男女間の賃金の状況について調査した(昭和43
年から昭和59年までは,全国石油産業労働組合の調査結果であり,平成元
年は,控訴人の担当者が他社に照会し,得た回答などである)結果は,以。
下のとおりである。
それらの調査結果の内基本給についてみると,控訴人(合併前は昭和石
油)を含む5社の中で,男女間の賃金差がほとんど見られない乙39号証の
D社(ただし,基準内賃金においては,昭和59年,平成元年には賃金差が
ある)を除く他の4社においては,男女間における賃金差が明らかに見ら。
,れること(ただし,乙39のC社は,昭和47年,51年,55年において
賃金額の記載がなく,その際の賃金差は不明である,その4社の内乙39。)
号証のB社は控訴人(合併前は昭和石油)と比較して,昭和59年,平成元
年において賃金差がやや大きいこと,乙39号証のA社は控訴人(合併前は
昭和石油)と比較して,男女間の賃金差が生じる時期が早いこと,が認めら
れる。全国石油産業労働組合協議会発行の甲151ないし153号証も,上
記認定と符合する。
4格差の合理的理由の存否,不法行為の成否について
(1)はじめに
被控訴人と同学歴(高卒・同年齢の男性社員との間で,昭和石油当時,)
ランクの格付け,定期昇給額及びこれらを反映した本給額において著しい
格差が存し,合併後も職能資格等級及びこれを反映した本給額等において
著しい格差が存したこと,昭和石油及び控訴人において,女性社員と男性
社員との間で,昭和石油におけるランクの格付け・同一ランクにおける定
期昇給額・同一年齢における本給額において著しい格差が存し,合併時の
職能資格等級の格付け及び控訴人における職能資格等級やその昇格,定昇
評価ひいてはこれらを反映した本給額において著しい格差が存していたこ
とは,1及び2において示したとおりである。このような場合,被控訴人
について,男性社員との間に格差を生じたことにつき合理的な理由が認め
られない限り,その格差は,男女間において存した上記格差と同質のもの
と推認され,また,この男女間格差を生じたことについて合理的な理由が
認められない限り,その格差は性の違いによるものと推認するのが相当で
ある。
控訴人は,原判決の採用したいわゆる大量観察により結論を導く方法論
は,控訴人がその制度で全く考慮していない方法であると批判する。しか
し,多数の社員を擁する会社について,裁判において,男女差別の有無が
問題となったとき,その立証の一つの方法として,大量観察の方法により
行うことができると解するのが相当であり,上記批判は理由がない。
控訴人は,被控訴人の業務に関する状況に照らすと,被控訴人に関する
昭和石油におけるランク,合併時における資格の格付け,控訴人における
職能資格等級がいずれも妥当なものであったと主張し,その理由として,
原審以来,①被控訴人が,昭和石油において「定型業務に従事し,十分,
な知識と相当な業務経験を有する者」であり,Dランクに相当する,②被
控訴人は,合併前にD2ランクであったところ,当時の業務内容が,困難
度の高いものとはいえず,日常定型的なものが中心であったことから,合
併後における格付けは,D2ランクのうち下位グループとして,職能資格
等級をG3とした,③被控訴人は,合併後も,単純定型業務に従事してい
たのみならず,業務成果は高くなく,工夫,改善提案といった具体的行為
がみられず,能力は高くない上,業務意欲に欠け,上司及び他の職員との
協調性に欠ける面があったから,職能資格等級をG2から昇格させること
ができなかった旨主張する。
また,控訴人は,男女間に格差が生じた理由については,昭和石油及び
控訴人において,①製油所・工場・油槽所における業務の性質や昼夜二交
代制といった勤務体制等から,現業部門は男性のみが業務に従事し,女性
は,管理部門等における一般事務に限定される状況にあったこと,また,
男性は,種々の職場・職務に従事し,資格を取得し,多岐にわたる職務上
の知識,経験を求められるのに対し,女性は,上記のような職務のみに従
事してきたこと,②女性は,平均年齢が若く,平均勤続年数が男性より非
常に短かったこと,③女性は,一般事務の補助業務にとどまることが多か
ったことを主張している。
更に,控訴人は,当審において,当審における控訴人の主張の第2,3
(1)ないし(7)の理由を主張する。
そこで,以下においては,前記のような格差が生じたことについて合理
的理由が存したか否か,被控訴人が主張するように不法行為が成立するか
などについて検討する。
(2)認定事実
ア被控訴人の業務に関する状況
前提となる事実(原判決を引用,証拠(甲80,118,119,)
123,173,195,被控訴人本人,後記証拠及び弁論の全趣旨)
によれば,以下の事実が認められる。
(ア)総務部株式課における業務(昭和26年8月から昭和31年7月
まで)
被控訴人は,株式課において株式名義書換受付業務に従事した。こ
の業務の手順は,①証券会社社員から株券,送り状及び名義書換関係
書類を受け取る,②株券について,送り状と照合し,名義等の記載事
項に誤りがないかを確認する,③預り証を作成して証券会社社員に交
付し,また,株券等を名義書換担当社員に交付する,④名義書換がさ
れた株券と預かり証を照合し,誤りがないかを確認した後,株券を証
券会社社員に交付する,というものであり,被控訴人の他に男性1名
(P32)がこの業務に従事していたが,被控訴人は,仕事を覚えた
後,同男性社員とは別個に業務を処理していた。
株式課には,当時,課長,課長代理の他,被控訴人を含め12名の
正社員が所属していた。正社員の担当職務は,概ね次のとおりであっ
た。
株券名義書換受付被控訴人のほか男性1名
株券リスト書換男性4名
裏書男性1名
社印,割印男性1名
印鑑照合確認課長代理(男性)1名
課内庶務男性,女性各1名
被控訴人が担当した上記業務は,その仕事の性質上,注意力が必要
であることは当然であるが,その業務の性質は定型的な事務であった
といえる。
(イ)建設部技術第1課における業務(昭和31年7月から同年12月
まで)
建設部は,四日市市に製油所を建設する事業を実施するため,当時
新たに発足した部署であり,技術第1課は,製油所建設にあたる部署
であった。被控訴人は,同課において,他の社員とチームを組み,製
油所建設の進捗状況に関する図面やグラフを作成する等の業務に従事
した。
建設部の所属社員は,技術者や通訳,タイピスト,運転手等の専門
職以外は,事務職であり,高卒の者も多数いた。
被控訴人が当該部署に所属していたのは約5か月余りの短期間であ
り,そのことと被控訴人はもともと建築関係の専門教育を受けた者で
はなかったから,同人が行った業務は補助的な仕事であったものと推
認される。
(ウ)和文タイプ業務に関する状況(昭和31年12月から昭和52年
3月まで)
aこの業務は,他の部署で作成した原稿を和文タイプで清書するも
のであり,清書する原稿には,役所への提出資料,裁判に関する資
料,社内資料(株主総会資料,会議議事録等)等があった。
b被控訴人は,昭和28年ころ,自らの意思で数か月間タイピスト
学校に通い,和文タイピスト1級の資格を取得した。
被控訴人は,昭和31年12月,上司から言われて昭和石油建設
部において和文タイピストの仕事を専門に行うこととなった。その
際,被控訴人は上司などから,和文タイピストは特殊職に属すると
か,将来賃金等において不利な取扱いがされる可能性があるなどの
話を聞かされたことはなかった。
被控訴人が配属された当初,タイプ室には,和文タイピスト,英
文タイピストの正社員各3名がおり,いずれも女性であった。被控
訴人は,その後20年以上の長期間(その間,昭和32年11月か
らは昭和四日市石油本社総務課に出向した,和文タイピストの仕。)
事を専門に行った。その間,緊急を要するタイプ文書作成(特に昭
和42年以降の四日市公害裁判に関係する文書のタイプの時など)
のため,所定終業時刻後に業務に従事することも度々あった。
(エ)英文タイプ,データの送受信,国際テレックスの各業務に関する
状況
a被控訴人は,昭和52年3月からそれまでの和文タイプに代わり
英文タイプの業務に従事する(昭和60年ころまで)とともに,コ
ンピューター端末操作によるデータの送受信業務に従事し(退職ま
で,テレックスの受信業務及び昭和53年から国際テレックスの)
発信業務に従事し(昭和60年ころまで,昭和60年からワープ)
ロ,パソコンを用いた業務に従事した。
b英文タイプ業務は,毎月の役員会,年1回の株主総会における英
文資料,英文レター,英文レポートをタイプで作成するものであっ
た。被控訴人は,昭和46年ころ自発的に1年間英語学校に通い,
その後更に英文タイプの学校へ通学し,試験に合格した。
データ送受信の業務は,コンピューターの端末を操作して,四日
市製油所内の電算課と交信するものであり,その内容は,①昭和石
,油又は三菱商事からテレックスで受信した業務に関するオーダーを
モデムによりコンピューターに取り込んで,そのデータを四日市製
,油所に電送する,②四日市製油所に経理関係,油量計算,人事関係
指定統計資料等に関するデータを送信する,指定統計資料に関して
は,所定の様式に従って数字を入力した後,月ごとに指定されたパ
スワードを用いて石油連盟に電送し,また,プリントアウトする,
③四日市製油所からコンピューター端末に送信された日報,月報等
の書類を,送付先の部署に届ける,というものであった。被控訴人
のそれまでの和文タイプ,英文タイプの経験がデータ送受信の業務
に役だったことを,被控訴人自身認めている(甲118。)
国際テレックス発信業務は,他の社員から受領した英文を,テレ
ックスで入力し,発信するものであったが,当初テレックスは受信
用としてのみ使用され,発信用として使用されていなかったのを,
被控訴人が発信用としても使用することを上司に提案し,承認を得
て講習を受けて技術を習得し,発信業務を担当するようになった。
c控訴人は,昭和四日市石油本社は昭和56年においても40名強
のスタッフであり,昭和59年においては,38名程度にすぎず,
海外へのデータの送受信を依頼するスタッフはそのうち極めて限ら
れた者であり,兼務業務にて行いうる程度の仕事量しか存在しなか
った,と主張する。
証拠(乙50の1,乙51,52の1・2,乙62の2,証人P
52)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人が主張するとおり昭和四
日市石油本社における業務量は少ないこと,ただし,昭和四日市石
油は昭和石油から全員出向という形をとっており,賃金などの労働
条件は同じであったもので,そのことは合併により控訴人が設立さ
れた後も同様であり,昭和四日市石油と昭和石油,控訴人とで,あ
る特定の仕事の量だけで比較すると,相違した(昭和四日市石油の
方が少ない)こと,その代わり,昭和四日市石油本社において,。
それぞれの仕事量は少なくても,社員は複数の仕事を兼務で行って
おり,総体としては,会社に対する貢献は少なくない場合もあった
ことが認められる。以上から,兼務業務にて行いうる程度の仕事量
しか存在しなかったからといって,直ちに被控訴人の仕事の価値が
低いということにはならず,具体的に被控訴人の行った仕事の内容
を検討することが必要である。以上から,控訴人の上記主張は採用
できない。
(オ)東京事務所における状況(昭和62年9月から平成4年5月の退
職まで甲125,証人P39)
a昭和62年9月,被控訴人が出向していた昭和四日市石油の本社
が四日市市に移転したことに伴い,被控訴人の勤務する事務所が東
,京事務所に改編・改称された。当時,東京事務所に所属する社員は
役員,課長の他,男性が4名,女性が3名であった。
b被控訴人は,東京事務所において,次の業務に従事した(甲12
5。)
①什器備品・事務用品等の管理及び課内庶務
②文書受発信等に関する業務
③新聞・図書の購入管理
④パソコンデータの受発信の実施及びOA機器の管理
⑤指定統計法に基づく関係官庁との折衝・報告等の関連業務
⑥製品・半製品の出荷及び受入れに係る連絡,油量月報に係る資
料作成の各業務
(カ)被控訴人の行ったタイプの仕事について
a和文タイプの仕事の性質(なお,英文タイプの仕事も,和文タイ
プの仕事と,文字数などの相違はあるが,本質的な相違はないと認
めるのが相当である)。
和文タイプは,活字の数が予備活字,貯蔵庫内の活字を合わせる
と計7131字と多く,活字の字体が反転しているので活字の位置
などを熟知し,習熟することが必要である。企業等においては,外
部へ発出する文書あるいは内部の公的文書の浄書用に利用されるこ
とが多く,誤字等の誤りがあることは好ましくなく,しかも,打ち
間違えたとき,簡単には消せないため,打ち間違えないため,タイ
ピストには集中力が要求される。また,紙質,複写の枚数,活字の
種類などにより,タイピストは,力の入れ方を変える必要がある。
以上から,和文タイピストの仕事は特殊な技術と集中力が要求され
る仕事であり,誰でもできるという仕事ではない。他方,その仕事
の性質上,与えられた原稿のとおりタイプすることを内容とするも
ので,それ以上のものではなく,誤字その他原稿自体から原稿が誤
っているのではないかと判断し,原稿作成者に対し原稿の内容を確
認する場合を除き,判断や他者との交渉,折衝,調整などが要求さ
れる仕事ではない。したがって,その技術を習得し,それを習熟す
るのに一定の時間と努力を要するが,それを取得した後は,職務の
遂行上,集中力,注意力の維持は必要であるが,困難性は高くはな
い。
b和文タイピストの一般的収入
甲159号証(労働省婦人少年局編「婦人労働の実情昭和48
年版」中の「付表10女子の主な職種別定期給与額,平均勤続年
数の推移,労働省賃金構造基本統計調査―昭和36年,39年,」
42年,45年,47年における調査に基づくもの)によれば,和
文タイピストの給与は,女子の主な職種の中で,比較的高く(定期
給与額は,昭和36年で1万4400円,昭和39年で1万930
,0円,昭和42年で2万5700円,昭和45年で4万0100円
昭和47年で5万3900円,その当時電話交換手とほぼ同じ額。)
で,それらより高額な職業は,薬剤師,保健婦,看護婦,保険外交
員などである(もっとも,一般事務は職種として取り上げられてい
ない。。)
しかし,乙54号証の2(東京都人事委員会発行の昭和40年以
降平成6年まで各年分の「都内における民間給与の実態,これを」)
控訴人社内でまとめた乙54号証の1によれば,和文タイピスト
(監督,見習いを除く。高卒)の給与は事務関係職種の中で最も。
低く,平均年齢は和文タイピストの方が事務係員(高卒)より若干
高いのに,事務係員(高卒)の給与の概ね81%から87%にすぎ
ない金額(平成3年では和文タイピストの方が金額が高くなってい
るが,その年のタイピスト平均年齢が前年に比較して8歳以上高く
なっており,そのころタイピストの数自体が激減したことによるも
のと推測され,比較自体が意味をなさなくなったといえる)であ。
り,時間外手当も少ない。
c特殊職という控訴人の主張について
控訴人は,昭和四日市石油本社において,タイピストは一般事務
職ではなく,社用運転手や電話交換手と同様に特殊職として位置付
けられていた,このことは昭和56年組織図(乙50の1・2)を
見れば明らかである,などと主張する。
職位機能組織図(乙50の1・2)は,昭和四日市石油本社総務
課が昭和石油本社人事部長の要請により作成した昭和56年4月1
日現在の人事管理資料に控訴人の部長が加筆したものであり,加筆
前の資料は被控訴人ら従業員に開示された文書ではない。昭和石油
本社人事部長の昭和四日市石油本社総務部長宛の要請文書(乙50
の4)によれば,その作成要領は「職位機能組織図作成要領」によ
るとされている。同作成要領には,職種として「事務「技術,,」,」
「特殊「技能」の4種類が規定されており「特殊」には,枠の」,,
左上部に四角の記号を付するとされている。職位機能組織図の被控
訴人の枠の左上部には四角の記号が付されている。被控訴人以外で
は「和文タイプ「タイピスト「電話交換及び受付「電話交,」,」,」,
換「乗用車運転」の仕事を担当している者のところに,枠の左上」,
部に四角の記号が付されている。
,「特殊職」という記載は,上記「職位機能組織図作成要領」の外
昭和石油の「従業員名簿」との表題のある個人別人事カード(甲1
77)の裏面に「事務「技術「技能「特殊」と並列して職,」,」,」,
種が記載されており,被控訴人の従業員名簿の裏面には「特殊」,
に丸が付されており,その他「事務「技術」の欄にはいったん丸,」
が付され,その上から「×」印が付されている。
以上から,昭和四日市石油本社において,タイピストは一般事務
職ではなく,特殊職として位置付けられていたことが認められる。
そして,人事体系,待遇などで共通する昭和石油においても,同じ
であったことが推認される。
d職位機能組織図(乙50の1)について
昭和56年4月1日現在の職位機能組織図(乙50の1)の記載
によれば,同総務課はP53課長の下,庶務,文書,厚生,人事の
各係に分かれ,被控訴人は文書係に所属し,文書係はP54(庶務
係と兼務。資格はE1)とP55(資格はE2)が並列的に記載。。
され,その下に被控訴人ら女性社員が記載されており,被控訴人は
その中でも一番下に記載されている。
(キ)被控訴人の資格格付及び能力考課について
a控訴人は,被控訴人に対する考課について「昭和60年から昭,
和62年まではB評価であった。被控訴人は仕事そのものはそこそ
ここなしていたが,全般的に見た場合,高い評価を与えることはで
きず,能力に関しても,業務の改善提案等を具体的に行うこともな
かったことから,特に評価できるものではなかった」と主張する。。
被控訴人は,20年以上の長期間,和文タイピストの仕事を専門
に行った後,英文タイピストの仕事,コンピューター端末・パソコ
ンによるデータ伝送,テレックスの受信,国際テレックスの発信な
どの仕事を担当したもので,自発的に英語学校に通ったり,国際テ
レックスの発信業務の講習を受けることを提案し,上司の承認を得
て受講した上それらの新しい仕事を担当することとなったことで明
らかなように,時代に応じて自ら技術を身につけ,それによって業
務を行い,会社に貢献したと見ることができる。しかし,他方,被
控訴人が長年行ったタイピストという仕事は,特殊な技術と集中力
が要求される仕事であり,誰でもできるという仕事ではないが,そ
の性質上,与えられた原稿のとおりタイプすることを内容とするも
ので,それ以上のものではなく,誤字その他原稿自体から原稿が誤
っているのではないかと判断し,原稿の内容を原稿作成者に対し確
認する場合を除き,判断や他者との交渉,折衝,調整などが要求さ
れる仕事ではないこと,したがって,その技術を習得し,それを習
熟するのに一定の時間と努力を要するが,それを取得した後は,集
中力,注意力の維持は必要であるが,職務遂行の困難性は高くはな
いことは前記のとおりである。そして,昭和四日市石油本社におい
て,タイピストは特殊職として位置づけられていたのも,そのよう
なタイピストの仕事内容に由来するものと理解することができる。
被控訴人は,その後,コンピューター端末・パソコンによるデー
タ伝送,テレックスの受信,国際テレックスの受信,発信などの仕
事を担当したが,同人がそれまで行ってきたタイピストの仕事と本
質的な点で相違する仕事とは認められない。被控訴人自身も,それ
までの和文タイプ,英文タイプの経験がデータ送受信の業務に役だ
ったことを認めているのは,このような仕事の性質から合理的に理
解できる。
b更に,控訴人は「被控訴人は,その当時,孤立する傾向が強く,
なり,特に協調性評価で昭和63年からC評価となった。被控訴人
,は昭和62年に昭和四日市石油東京事務所に組織変更された後から
自身の業務に不満を持つようになり,協調性に欠ける行動を取って
いたもので,それは,控訴審において提出した同じ職場にいた多く
の社員の陳述書からも,裏付けられている。例えば,被控訴人の職
場で,あるとき三菱商事のオーダーが流れないとして大騒ぎになっ
たことがあり,そのオーダー用紙が被控訴人のゴミ箱から発見され
たという出来事があったこと,被控訴人が郵便物を下の階のメール
ボックスに届ける際,郵便物を手すりにぶつけながら降りて行った
とか,書類を投げ捨てるようなことがあったこと,他の女性社員と
の交流をしないこと,突然新聞を床に落とす等の態度をとることが
あったこと等の事実がある。これらはまさに協調性に欠ける行動以
外のなにものでもない。このような行為に照らせば,その上司が被
控訴人をC評価としたのは,妥当な措置であった」と主張する。。
被控訴人と同じ職場にいた社員の陳述書(乙61の2,乙62の
2,乙92,93,証人P51などは,被控訴人の職場で,ある)
とき三菱商事のオーダーが流れないとして大騒ぎになったことがあ
り,そのオーダーのファックス受信用紙が被控訴人のゴミ箱から発
見されたという出来事があったこと,被控訴人が郵便物を下の階の
メールボックスに届ける際,郵便物を手すりにぶつけながら降りて
行ったとか,書類を投げ捨てるようなことがあったこと,被控訴人
は突然新聞を床に落とす等の態度をとることがあったこと等の事実
を陳述・証言するが,それらは,にわかに信用できない。なぜなら
ば,オーダー用紙の件で大騒ぎになったといいながら,被控訴人が
オーダー用紙を捨てた疑いがあることを上司である総務課長などに
報告するなどの事後措置を執っていない(証人P51の尋問調書3
6頁外。仮に,上記陳述,証言のような行為が事実ならば,それ)
は被控訴人の看過できない非違行為で,会社組織にとって,うやむ
やにすますことができるような問題ではないはずであり,周囲の同
僚や被控訴人本人に事実を確認し,被控訴人が故意又は過失により
そのような行動をしたことが明らかになれば,同人に対ししかるべ
き措置を執ることが必要なことは,組織として当然のことであるの
に,上司にとりあえずの報告すらしなかったというのであり,上記
陳述,証言は到底信用できない。
控訴人が主張するその他の被控訴人の非違行為も同様であり,被
控訴人の性格,仕事に対する態度(乙43の2。被控訴人本人。な
お,被控訴人は,規律性,責任感などについて,元来A評価を受け
たこと(乙43の2)が多かった)などから,信用できない。。
以上から,被控訴人は昭和62年に昭和四日市石油東京事務所に
組織変更された後から,自身の業務に不満を持つようになり,協調
性に欠ける行動を取っていたとの控訴人の主張認めるに足りない。
乙62号証の2(P33の陳述書)及び証人P51の証言中には被
控訴人が昼食時に同じ職場の女性同僚と一緒に食事をしなかったこ
とを具体的根拠として協調性がないと評価するかのような部分があ
るが,低次元の陰口の類をことごとしく取り上げるもので,そのよ
うな評価には合理性がない。
cまた,被控訴人は,その当時,孤立する傾向が強くなり,特に協
調性評価で昭和63年からC評価となったと,控訴人は主張する。
乙43号証の2(昭和60年度以降の「能力開発・冬季賞与考課
表(能力開発評価,賞与評価)によれば,昭和62年度まで,総」)
合評価がBであったのが,昭和63年度から,Cとなったこと,昭
和62年度と昭和63年度とを比較すると「理解・判断力」がA,
からCになったのを始め,昭和62年度にA評価であった「手順・
段取「工夫・改善力「知識・技能「規律性「責任感」がす」,」,」,」,
べてB評価になり,昭和62年度にB評価であった「協調性」が昭
和63年度にはC評価になったこと,昭和62年度の第一次評定者
はP37総務課長であり,昭和63年度の第一次評定者はP38総
務課長と交代があり,第二次評定者も変わったこと,昭和63年度
の「能力開発・冬季賞与考課表」には,上記のように前年度までの
評価と比較して低い評価結果が記載されているが「第一次評定者,
追補所見」の欄があるにもかかわらず,そのような評価をした具体
的根拠は何ら記載されておらず,また「本人との話し合いの内,
容」の欄も,空欄のままであり,本人との面談が行われたか,その
面談において実のある話し合いが行われたか否かは,不明であるこ
とが,認められる。
ところで,被控訴人が昭和62年9月から東京事務所に勤務して
いるが,同所における勤務開始の前後を比較して,被控訴人の仕事
の内容は本質的に変化したわけではない。昭和63年度の上記評価
を見ても「理解・判断力」が前年度のAからCへと2段階下がっ,
ているが,その当時,被控訴人がそのようなマイナス評価を受ける
。ことを正当化するような特段の理由を認定するに足りる証拠はない
d証拠(甲66,68)によれば,平成2年1月の定期昇給の際の
36ないし45歳(本社・支店・関連会社の本社支店部門に勤務す
る者のうち,管理職を除いた者)の男女別,査定区分は,以下のと
おりである。
査定男性割合(%)女性割合(%)
S1人0.20人0
A275人42.810人8.1
B349人54.497人78.9
C17人2.614人11.4
D0人02人1.6
計642人123人
同じような証拠として,甲96の1,甲97の1が存在する。
以上の統計結果は,控訴人における査定は,男女によって著しい
格差があり,その査定が公正に行われているか,疑問を生じさせる
ものである。ところで,後記のとおり,控訴人における昇給制度の
実際の運用は,男性社員は学歴別年功制度を基本に置き,一定年齢
以上はこれに職能を加味し,昇格の時期に幅を持たせて昇格管理を
行う一方,女性社員については,男性とは別の昇格基準(年功をさ
ほど考慮せず,昇格には同学歴男性より長い年限を必要とし,一定
の等級以上への昇格を想定しないもの)を設けて昇格管理を行って
いたとみることができ,そのような運用との関係で,毎年行われる
査定も昇格管理の一要素として運用されていると理解するのが素直
な見方である。すなわち,控訴人が,昇格する対象とみなしている
男性社員にA評価などの高い評価を付けた場合昇格させやすく,C
評価などの低い評価を付けた場合,その社員の昇格の運用がしにく
くなることから,昇格が想定されていない女性社員にCなどの低い
評価が多くつけられやすい傾向にあったものと疑わざるを得ない。
e以上から,被控訴人に対してなされた昭和63年以降の評価は,
以上のような控訴人における実際の査定運用における問題点がかな
りの程度反映していたと推認することが相当であり,控訴人の上記
主張は理由がない。
イ他の社員の状況
(ア)東京事務所における男性社員の業務及び職能資格等級
証拠(甲127,128,乙24,44の3,乙45の3,乙60
の2,乙61の2,乙86,証人P39,同P51,同P34(原審
及び当審)及び弁論の全趣旨によれば,東京事務所において被控訴)
人の同僚であった男性社員4名のうち高卒者であるP2とP11の2
名(他の2名は大卒)の担当業務等は次のとおりであった。
aP2(昭和▲年生まれで,昭和63年11月当時49歳)は,商
,業高校の貿易課程を卒業した上昭和33年4月,昭和石油に入社し
約10か月ほど四日市製油所総務部会計課に勤務した後,約11年
,間ほど四日市製油所の現業部門(製造第3課)に勤務した。その間
P2は昭和43年8月にボイラー技士2級の資格を取得した。P2
は,昭和44年に東京の本社に転勤して事務職に変わり,以後,被
控訴人が退職した当時まで,20年以上にわたり組織の名称変更に
伴い,所属は変わったが,ほぼ同じ業務(製品・半製品の出荷及び
受入れに係る連絡・調整に関する業務,グループ需要状況の把握,
油量月報に係る資料作成等)を担当していた。P2の担当業務は,
被控訴人の担当業務と一部重なるが,具体的な業務はそれぞれ独立
していた。P2の職能資格等級は,昭和60年,合併当時S2とな
り,平成元年1月にS1に昇格した。
「能力開発・冬季賞与考課表(乙44の3)によれば,P2は,」
仕事の処理能力,調整能力について概ね高い評価を受けていたが,
他方「規律性」の点で低い評価を受けたことが多かった(例えば,,
昭和60年度の査定によれば「規律性」はCであり「規律性を除,,
けば上位の評価である」と記載されている。昭和62年の査定に。
よれば「職場活性化のために本人の役割をわきまえた行動をする,
様更に努力させたい」と記載されている。また,平成6年度の。。)
「能力開発・冬季賞与考課表」に「健康上の理由」という記載がさ
れ,平成8年度の「能力開発・冬季賞与考課表」には,本人との話
し合いの内容として「体調不全(心疾患)の為,通常勤務は困難,
である」と記載され,第1次評定者による追補所見として「現職。,
務が非常に難しくなっている段階で早く後任をお願いしたい」と。
記載された。しかし,その後,P2は,上記健康問題を抱えながら
も,職務をこなし,平成11年11月に定年で退職した。
その間,平成5年度の「能力開発・冬季賞与考課表」の「来年度
の昇格申請」の欄には「S1→M4B」と記載され,その後平成,
9年度のそれにも,同様のことが記載されたが,P2の退職時の職
務資格等級はS1にとどまり,M4Bへの昇格は実現しなかった。
P51はP2から仕事のやりかたを教わったことはあった(証人P
51)が,P2は退職まで,部下を持ったことはなかった(証人P
51は,自分はP2の部下であったと思うと,陳述(乙92,証)
言し,当審証人P34も同旨の証言をするが,昭和63年当時,P
51もP2も共にS2であったこと(甲128,乙24,証人P5
1,弁論の全趣旨)などから,採用できない。。)
bP11(昭和▲年生まれで,昭和63年11月当時48歳)は,
商業高校の商業科を卒業した(在学中に簿記2級の資格を取得し
た)上,昭和34年4月昭和石油に入社し,本社経理部経理課に。
配属となり,以後販売会計,商品会計の業務に従事し,昭和45年
4月からは関東支店販売業務課において主に販売管理業務を行い,
昭和48年4月からは本社販売一部販売企画課において経費管理業
務に従事した。P11は,昭和51年9月から昭和四日市石油に出
向し,技術部業務課に所属し,後記退職に至るまで(昭和62年の
本社移転に伴い,東京事務所総務課に所属した,業務に関連する。)
法規に関する関係官庁との折衝・報告等に関連する業務(通産省へ
の報告書の提出等,原油・ナフサの受入れ計画,関税割当重油の)
,取扱いに関する業務等を担当した。昭和60年ころの具体的業務は
業務に関連する法規に関する関係官庁との折衝・報告等に関連する
業務(通産省への報告書の提出等,原油・ナフサの受入れ計画,)
関税割当重油の取扱いに関する業務等であり,前記ア(オ)b⑤の
被控訴人の担当業務と一部重なる。P11の担当する報告等に関連
する業務の一部である指定統計11号関係の石油連盟統計部会への
報告などについて,総務課長の要請により,被控訴人に担当させた
という経緯である。
P11は,昭和四日市石油に勤務中の昭和53年11月,昭和5
4年1月,平成元年4月末の3回船舶事故が発生し,海上に原油が
漏泄した際,出資会社,行政関係者への報告,お詫び,防止対策の
策定などの対応に上司と共に当たった。
また,P11は,平成5年から5年間,石油連盟の石油統計部会
の部会長職を勤めた。その間,P11が関わったことは,統計の業
界側のマニュアルの改定,石油連盟へのパソコン通信によるデータ
。送信,通産省へのデータのパソコン通信業務への参画などであった
P11は,昭和60年1月にS3に昇格し,昭和61年1月にS
3はS3Bとなり,S3とS2との間にS3Aが新設された際,S
3Aになり,平成5年1月(51歳)にS2に昇格し,平成10年
3月,57歳で早期退職制度に応募し退職した。退職まで,P11
には部下はいなかった。
「能力開発・冬季賞与考課表」によれば,P11は,仕事は確実
との評価が記載されていることが多かったが,他方「規律性」の,
点で低い評価を受けたことが多かった(例えば,昭和60,61年
度の査定によれば「規律性」はCであり,昭和60年度には「遅,
刻が相変わらず目立つ」と記載された。昭和61年度の査定では,。
「改善ポイント」として「積極性の昂揚「具体的施策」として」,
「職場内教育。職場での役割意識を向上させる」と記載された。。
平成元年度の査定では,第一次評定者の追補所見として「ちょっ,
とマンネリ的なところが見える」と記載された(平成6年度の査。
定においても,類似の記載がある。。)
(イ)被控訴人と同期者の職務内容や社内経歴について
a管理職の経歴や職務内容
控訴人は,被控訴人と同期入社で,同じ高卒の者で合併前の時点
で昭和石油当時の管理職であったP14,P15,P16,P17
らは,多くの転居を伴う異動や配置転換を繰り返し,種々の職務を
経験して能力開発がなされたことが窺える,と主張する。
証拠(甲132,乙72,73の2・3・11・12,乙89)
によれば,被控訴人の同期者(甲132に記載されている者)の中
の上記4名について,管理職になったこと,それらの者が転勤をし
たこと(その頻度,異動距離については,各人で個人差がある)。
が認められ,それらのことから,それらの者が職務に精励し,それ
なりの成果を上げたことが予想される。
しかし,本訴において,被控訴人は,高卒同期者の中位の処遇が
されるべきであったことを主張しており,管理職としての待遇がさ
れるべきであったことを求めているのではないから,それら4名の
者と被控訴人とを比較して,その相違の有無を論じることは意味の
あることではない。また,それにより,被控訴人の資格がG2であ
ることが妥当であり合理性があることにはならない。
bP18のG1資格と職務内容について
(a)証拠(乙72,73の6,乙74,84,85)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
①P18は,昭和26年7月昭和石油に入社し,川崎製油所の
製油課,動力課,操油課,環境安全課で勤務し,平成4年11
月に定年退職した者である。P18は,製油課において危険物
取扱の資格が必要であるオペレーター,動力課においてボイラ
ーの運転係(ボイラー技士2級の資格の取得が必須である,。)
操油課において原油の受け入れ,送油,貯蔵管理,タンク群の
管理,製品の出荷などを担当し,組長代理に就いた(その時期
は不明である。しかし,P18はその後,組長代理の職を解。)
かれ,昭和49年以降退職まで安全管理課で保安係(自衛消防
隊員)として勤務した。P18は,昭和60年1月にG1に昇
格し,以後退職までG1であった。
②P18の昭和60年度の「能力開発・冬季賞与考課表(乙」
73の6)によれば,能力開発評価点は39点(C,賞与評)
価点は46点(C)であり「能力開発と勤務態度改善の方,
向」として「勤務態度,責任感,全般について指導してい
く」と記載されている。昭和61年度の「能力開発・冬季賞。
与考課表」においても,能力開発評価点は42点(C,賞与)
評価点は43点(C)であり,平成3年度(本人59歳)の
「能力開発・冬季賞与考課表」においても,能力開発評価点は
36点(C(すべての評価項目はCである,賞与評価点は)。)
40点(C)であった。同「能力開発・冬季賞与考課表」にお
いて「育成の方向」として「特定他部門への転出によって育,
成をはかりたい「生活環境(高齢,独身,寮生活)と生活態」,
度(飲酒)から,勤務態度は最悪であり,職場での悪影響が大
きい」と記載され,第一次評定者の追補所見として「生活態。,
度を含め,日々指導をするも特効なし」と記載されている。。
(b)以上の事実に基づき判断する。
P18の経歴から,同人が国家資格(危険物取扱主任者やボイ
ラー技士等)を取得したものであり,同人が部下を指揮指導する
ことが要求される組長代理の職に就いたことは事実である。
しかし,P18は,組長代理の職を解かれた(その時期などは
不明であるが,組長代理に長く就いていたものではない。乙7
4)もので,このような降格の処遇を受けることは当時極めて。
例外的な措置であると思料される。このことは,P18は,組長
代理に期待される役割を果たせなかったことが推認され,そのこ
とは,時期が違うが,前記「能力開発・冬季賞与考課表」の記載
(勤務態度は最悪」など)からも了解できる。「
川崎製油所の製油課,動力課,操油課における仕事は,共通性
があるものと推認でき,また,P18は,昭和49年以降退職ま
での約18年間,安全管理課で保安係(自衛消防隊員)として同
。じ仕事に従事したもので,自己啓発に努めたものとは,いえない
c他の一般職の資格と職務内容について
控訴人は,S1のP19,S3AのP20,S3AのP21,S
3BのP22,S3BのP23,S3BのP24などは,総じて多
くの職務を経験し,専門性を身に付け,部下や若手への影響力や指
導力が期待されていたのであり,被控訴人の担った職務と比較する
と,難易度や責任の大きさ及び専門知識や指導力といった能力面で
大きな差異があった,と主張する。
本件証拠上(乙72,73の5・7ないし10・13,乙89,)
それらの者の昭和60年当時,退職直前の平成3年当時の各所属・
職位,資格は控訴人の主張のとおりである(P19は,昭和60年
当時は新潟製油所工務課電気係係長,平成3年当時は新潟石油備蓄
株式会社管理課係長。P20は,いずれの時点においても高松支店
管理課。P21は,いずれの時点においても大阪支店給油所課。P
22は,いずれの時点においても川崎製油所製造部操油1課。P2
3は,昭和60年当時は川崎製油所製造部操油2課(組長代理,)
平成3年当時は東扇島オイルターミナル株式会社(組長。P24)
は,いずれの時点においても大阪支店経理課)と認められる。。
これらの者の中には係長,組長,組長代理など,管理職的な職務
に従事した者がいる一方,そのような立場に立つことがなかった者
もいる。特にそのような立場に立つことがなかった者について,ど
のような専門性を身に付けたかは本件証拠上必ずしも明らかではな
い。更に,部下や若手への影響力や指導力が期待されていたとして
も,それらの期待を十分に果たしたかは疑問な点もある(P20に
ついては「教育・指導力」がCとの評価を受け(昭和61年度の,
能力開発評価点,昭和63年度,第一次評定者の追補所見として,)
「職場における人間関係には必ずしも満足すべき状況では無く」と
記載され,P22については「積極性「総合評価」がいずれも,」,
Cとの評価を受け(昭和60,61,平成3年度,昭和60年度)
の「本人との話し合いの内容」には第一次評定者から「何か遠慮し
て行動している様に感ずる」という意見を述べられ,P24につい
ては「賞与評価点」がCであり「積極性」がCとの評価を受け,,
(昭和60年度,その年の第二次評定者の追補所見には「経理の)
事務処理については速くて正確だが,自己啓発や職域の拡大といっ
た事については努力が足りない。今後の指導を通じて,より積極的
な態度や問題意識を身につけるようにしたい」と記載されてい。
る。。)
しかし,それらの同期者のうち管理職の職務に従事しなかった者
と長く和文タイピストであった被控訴人とを,同価値の仕事をして
いたものと認めることは,できない。
(ウ)控訴人本社総務部の男性社員の業務及び職能資格等級
a証拠(甲11の1・2)によれば,昭和61年12月当時,控訴
人本社の総務部及び電算室に所属していた事務職員(管理職,運転
手等を除く)は,男性6名,女性3名であった。。
bP25について,証拠(乙41,46の2,乙57,86)及び
弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(a)P25は,中学を卒業して昭和23年シェル石油(当時の商
号はライジングサン石油)にボーイとして入社した。入社後,P
25は,夜学の高等学校,総合大学に通い,卒業した。
(b)P25の入社後の担当,評価等は,以下のとおりである。
①P25は,入社後,文書の配布などの庶務を担当し,昭和2
8年2月から販売サービス部で通信事務を,同年9月から財務
部において一般事務をそれぞれ行った後,昭和32年4月から
航空販売部でセールスマンとして在庫管理などの仕事を行い,
昭和48年3月以降,2,3人の部下を持つに至った。
,②昭和57年,羽田給油所の所長の長期休暇という事態が生じ
P25は同所長代行に任ぜられ,それまでの仕事と同所長代行
の仕事とを兼務した。昭和62年11月,P25は控訴人本社
液化ガス部管理課に異動となり,液化ガスをボンベに充填する
施設,設備の建設計画の仕事を担当した。
③その後,P25は,体調不良などを理由として配転希望を出
して,平成元年11月総務部総務課に異動となり,メールの受
送信,配付,事務機器・給茶器等の管理と維持,その他の必要
品の手配などの仕事に従事し,平成5年1月に定年退職した。
④「能力開発・冬季賞与考課表(乙46の2)などの記載に」
よれば,P25は,性格が穏和で,もともと,仕事は着実で事
務処理能力は高いとの評価を受けていた(上記①の当時)が,
他方,内向的な性格で,積極性に乏しいことがしばしば指摘さ
れていた。昭和57年度から昭和61年度までの記載には,仕
事がマンネリ化しているという趣旨の記載がある。前記のとお
り,昭和57年に羽田給油所の所長代行の職務を担当すること
となったが,その直後の昭和57年度の「能力開発・冬季賞与
考課表」にも,仕事がマンネリとなっていることが記載され,
成績評価においても,C評価を受けたにすぎなかった。控訴人
本社液化ガス部管理課に異動となった直後である昭和63年度
の記載(本社液化ガス部管理課に異動となって10か月後)に
は「本人との話し合いの内容」として「現在の仕事に自信を,
喪失している」と,第一次評定者の追補として「積極的に知。
識を得ようとする姿勢に欠ける。本人のためにも早い時期に他
の業務に変えたい」と記載されている。同年度の総合評価も。
Cであった。
⑤P25は昭和60年1月にS1に昇格し,昭和63年12月
及び平成2年12月時点の職能資格等級はいずれもS1であっ
た。
(c)以上の事実に基づき判断する。
被控訴人とP25とを比較すると,会社は違うものの,退職直
前の時点において,類似する仕事を担当していた。控訴人は,両
社の規模の相違,それによる仕事量の違いを主張するが,同主張
が採用できないことは前記ア(エ)c記載のとおりである。
控訴人は,社内経歴においても,業務内容においても,P25
は被控訴人と全く異なっており,単純な比較は妥当でないと主張
する。そして,被控訴人とP25とを比較すると,被控訴人の社
内経歴は前記のとおり,長く特殊職として位置づけられているタ
イピストの職にあった者であるのに対し,P25は,昭和32年
4月以降長く航空販売部でセールスマンとして在庫管理などの仕
事を行い,昭和48年3月以降,2,3人の部下を持つに至った
こと,その後昭和57年羽田給油所の所長代行という責任のある
職務を担当することとなったことなどから,両者の経歴(職務
歴)がかなり異なることは確かである。
他方,P25が羽田給油所の所長代行を兼務した以降の同人に
対する人事評価は低く,その後控訴人本社液化ガス部管理課に異
動となったが,P25はその職責を果たすことができなかったこ
,とが推認され,体調を崩し,2年後に総務部総務課に異動となり
退職まで同課において被控訴人と同様の仕事を担当したものであ
る。
cP26について,証拠(乙47の2,乙53,58,86)及び
弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
,(a)P26は,高校を卒業して昭和36年4月昭和石油に入社し
鶴見グリース工場の総務部会計課(後に総務会計課)において会
計に関する仕事を担当し,昭和63年4月に,鶴見グリース工場
の業務が,昭和シェル石油の99%出資会社の日本グリース株式
,会社に製造委託された結果,日本グリース株式会社に出向となり
同年5月に鶴見グリース工場の総務会計係長に就任し,平成2年
に総務課長補佐となった。
P26は,平成4年1月に控訴人に復帰し,初めて本社勤務と
なり,総務部総務課に配属となり,実質的に課長を補佐する業務
に従事した。その後平成9年9月,P26は新潟石油共同備蓄株
式会社(本社は東京)に出向となり,総務部総務課長に就任し,
平成12年4月,控訴人の子会社であるクレコに出向し,β会館
(女子学生向けの計117室の賃貸建物)の館長に就任し,平成
14年4月定年で退職した。
(b)P26は,鶴見グリース工場に勤務していた当時,危険物取
,扱主任者,ボイラー技士2級などの国家資格を取得した。その他
P26は控訴人に在職中,積極的に自己の職務を行い,その責任
を果たした。
(c)P26は,合併(昭和60年)時,職能資格はS3であり,
その後S3Aとなり,昭和63年1月(日本グリース株式会社に
出向となる直前)にS2となり,平成5年1月にS1となり,更
に平成9年1月にM4Bとなった。
(d)以上の事実に基づき判断する。P26は,平成4年1月に控
訴人総務部総務課に配属となり,実質的に課長を補佐する業務に
従事するなど重要性の高い業務に当たり,そのようなことから,
平成9年1月にM4Bとなったと推認される。したがって,P2
6と被控訴人を同一視することはできない。他方,P26との比
較において,被控訴人はG2が妥当である,相当であるというこ
ともできない。
dP27について,証拠(乙48の2,乙53,59の2,乙8
6)によれば,以下の事実が認められる。
(a)P27は,昭和33年に高校を卒業した後米国海軍省極東海
上輸送司令部で約5年ほど勤務した後の昭和44年10月(当時
30歳)シェル石油に入社した。入社後,P27は,通信教育で
総合大学を卒業した。
(b)P27は,入社後退職(平成10年)まで,一貫して主に電
信室(要員は4,5名であった)においてテレックス受送信の。
オペレーター業務を担当した。控訴人において,合併前シェル石
油はロイヤルダッチシェルグループの100%子会社であったこ
とから,海外との英文によるやりとりが多かったため,P27が
担当した職務の量は多く,多忙なことも少なくなかった。
(c)P27は,合併(昭和60年)時,職能資格はS2であり,
退職時もS2であった。P27は,若いときから英検2級の資格
を有しており,その当時,同資格を有していることは一定の価値
のあるものであったと推認されるが,昭和53年の能力開発報告
書に記載されているP27の英語力に対する評価(話す力」の「
うち「自己の職務分野」においては2(英語を必要とする職務を
社内で遂行できる)との評価を受けたが「総合的会話力」にお,
いては3(ある程度の訓練をすれば英語を必要とする職務を社内
で遂行できる「書く力」においては3との評価がなされてい),
る)はさほど高くなく,P27の英語力が高度のものであった。
かは疑問があり,更に,P27の英会話能力が勤務先において実
際どのような効果を生んだかは不明である。
P27は在職中,オペレーターという自己の職務については,
着実に実行し(1分間当たり,50語以上の送信能力があっ
た,それに対する評価は高かった。しかし,P27は,それ以。)
外のこと(例えば,計画,企画,業務改善,後輩指導など)で積
極的な評価を受けたことはなく,それらの点で物足りないという
評価を受けることがあり,次のリーダーとしての資格,能力を備
えることを期待されたこともあった(平成4年度から7年度ま
で)が,結果的にリーダーになることはなかった。
平成7年度の「能力開発・冬季賞与考課表」の「本人との話し
合いの内容」には「本人は合併以前より含め,昇格がないこと,
に強い不満を持っている。自己理解,自己認識に妥当性を欠くこ
とがあるようである」と記載されている。。
(d)以上の事実に基づき判断する。P27は高校卒業後11年し
てから入社した者で,その当時の企業における一般的な昇進,待
遇の実情に照らし,同年代の者と比較して不利益を受けやすい立
場にあったと推認される。P27の主な仕事は主に電信室(要員
は4,5名であった)においてテレックス受送信のオペレータ。
ー業務を担当することであり,その業務に対する習熟は十分で会
社に対する貢献があったこと自体は肯定できるが,その仕事は被
。控訴人の行ったデータ伝送業務,テレックス業務と共通性がある
控訴人は,両社の規模の相違,それによる仕事量の違いを主張す
るが,同主張が採用できないことは前記ア(エ)c記載のとおり
である。
更に,P27はオペレーター業務以外のこと(例えば,計画,
企画,業務改善,後輩指導など)について積極的な評価を受けた
ことはなく,結果的にリーダーになることはなかった。
以上のことなどから,P27が被控訴人より本質的に価値の高
い仕事をしてきたとは,認められない。
e控訴人本社のその他の男性3名(昭和35年,昭和38年,昭和
48年に各入社)の職能資格等級は,昭和63年12月及び平成2
年12月時点でいずれもM4B又はS2であった。これに対し,女
性社員3名(昭和25年,昭和45年,昭和43年に各入社)及び
その後異動で配置された女性1名(昭和43年入社)の職能資格等
級は,上記各時点で全員がG2であった(甲11の1・2)。
ウ滞留年数表について
(ア)証拠(甲106,証人P44)及び弁論の全趣旨によれば,控訴
人は,平成4年8月,人事担当課長会議用の資料として,原判決別紙
7の「職能資格滞留年数」と題する書面を作成し,会議に参加した人
事担当課長に配布した。この書面には,①「職能資格滞留年数」の表
及び②「1993年度最短昇格(入社年,年齢」の表が上下に記載)
されている。
(イ)このうち,①の表には「大卒「高卒・技能職「高卒補助,」,」,
短大補助」の区分の下に,各区分ごとに,各職能資格等級の滞留年数
が最短と標準に分けて記載され(ただし「高卒補助短大補助」は,
標準滞留年数のみ「大卒」及び「高卒・技能職」については,課長),
昇進の年齢及びM4A昇格の年齢が記載されている「大卒」の場合。
,は,N1からS3Aまでの各等級の滞留年数は最短,標準とも同一で
入社から11年後には一律にS2へ昇格するが,その後は,最短と標
準に差が生じ,S2,S1の滞留年数は最短でいずれも3年(標準は
いずれも4∼5年,M4Bの滞留年数は最短で2年(標準3∼4)
,年)とされ,課長昇進は最短で39歳,標準は41歳から46歳の間
M4Aへの昇格は,最短で41歳,標準で44歳から47歳の間とさ
れている。
また「高卒・技能職」の場合は,N3からG2までの滞留年数は,
最短,標準とも同一であり,10年後には一律にG1に昇格するが,
その後は最短と標準に差が生じ,G1は最短3年(標準5∼9年,)
S3Bは最短4年(標準6∼9年,S3Aは最短3年(標準5∼9)
年)の滞留年数とされ,S2以上の等級では最短滞留年数のみが示さ
れ,課長昇進は最短で43歳,標準で「∼51歳,M4Aへの昇格」
は,最短で46歳,標準で「∼52歳」とされている。
これに対し「高卒補助短大補助」は,各ランクの標準滞留年数,
のみが示され,高卒補助は入社5年目,短大補助は入社3年目の22
歳で一律にG3に昇格するが,その後の滞留年数はS3Bまでの各ラ
ンクについていずれも6∼9年とされ,S3A以上の滞留年数は記載
がなく,課長昇進やM4A昇格についても記載がない。
また,この①表に関し「管理職(M4A)への昇格」として「①,,
Sランクの滞留年数を最短で3年,標準で4年遅れても5年で昇格し
続けなければならない。②M4A昇格年齢制限は52歳まで」との。
注記がある。
(ウ)②の表には「大卒「高卒「高卒技能職「高卒補助職,,」,」,」,」
「短大補助職」の区分ごとに,各ランクの最短昇格者の入社年及び年
齢が記載されており,記載されている年齢は,高卒技能職を除く区分
では,①の表の各等級における滞留年数を最短(高卒補助職,短大補
助職は標準滞留年数のうち最も短いもの)とした場合の各等級昇格年
齢と一致しており「高卒技能職」は「高卒」に比べ,等級が上がる,
につれ昇格年齢が遅くなり,M4B以上の昇格年齢の記載はない。ま
た「高卒補助職「短大補助職」にはS3A以上の昇格年齢の記載は」,
ない。
(エ)控訴人は,滞留年数表は,平成4年1月の昇格者を対象に,人事
課の組織人事の担当者が行ったサンプル調査をした結果に基づき,滞
留年数によってのみ昇格申請の判断がされていないか人事担当者に問
題提起をしたものであり,学歴別・職種別・男女別に人事管理を行う
基準ではない,と主張し,乙90号証(P44の陳述書,91号証)
を提出し,証人P44の証言はこの主張に沿うものである。
(オ)しかし,以下の理由から,控訴人の同主張,上記証拠は採用でき
ない。
,a滞留年数表には,それに先立ち,サンプル調査が実施されたこと
又は,同表がサンプル調査に基づくものであることに関する記載が
一切ない。
b人事課の組織人事の担当者がサンプル調査を行ったというが,そ
れに関する調査結果の資料,調査に関する文書などが証拠として一
切提出されていない。また,本訴において,調査に直接関わった控
訴人の職員,元職員の調査方法などに関する具体的な証言は一切な
,い(甲175によれば,調査に関わったというP56の審問調書に
それに関する供述があるが,具体的なものではない。なお,同人に
対し原審において証人尋問が実施されたが,その時点においては滞
留年数表は証拠として提出されておらず,それについて尋問されて
いない。また,証人P44は,人事担当課長会議において同表はサ
ンプル調査の結果であると説明を受けたと証言するけれども,P2
8副部長を初めとする調査を担当した人(証人P44は,P28副
部長以外の担当者の氏名について,記憶にないと証言している)。
に事後的に聞いたが,その手法などについて具体的な記憶がなく,
資料も残っていなかったとのことで,サンプル調査の具体的な内容
については証言していない。なお,証拠(乙34,証人P44)及
び弁論の全趣旨によれば,P44は,平成13年5月16日に実施
された東京都地方労働委員会における審問期日においては,平成4
,年と5年のサンプル調査の結果は控訴人の人事部で保管されており
それを自分は見たと供述したが,本訴において証拠として提出され
ていない(なお,乙28の2によれば,控訴人は平成13年5月2
3日,全石油昭和シェル石油労働組合中央執行委員長に対し,サン
プル調査の結果の資料は現在保管されていないと回答した。。))
c滞留年数表は,頁数の記載されていない独立の文書であるが,そ
こには滞留年数によってのみ昇格申請の判断がされていないかとの
人事担当者に問題提起をした趣旨の記載は一切ない。控訴人は,滞
留年数表の一番下の表は,入社年次や年齢を例としてあげることに
より滞留年数のみによる昇格判断がいかに問題があるかを明確にす
るために作成されたもので,当時の人事部から昇格に関する問題提
起や問題指摘に使われた表であると主張し,証人P44はその旨,
陳述(乙90,証言する。しかし,滞留年数表は頁数が1枚の文)
書であり,その中には,証人P44が陳述,証言する,このように
運用してはならないという趣旨の記載は一切なく,同文書は控訴人
本社人事部が「人事担当課長用」に作成,配布した文書で「注」,
として記載されていること(Sランクへの滞留年数表を・・・昇「
格し続けなければならない」及び「M4A昇格年齢制限・・・」と
いう表現は,基準として読めば趣旨は明確であるが,サンプル調査
の結果としては理解できない)も含めて,昇格に関する基準を示。
した文書と見るのが素直な見方である。
d滞留年数表では「高卒・技能職」ではG1の滞留年数の「標,
準」が「5∼9」年,S3Bの「標準」が「6∼9」年,S3Aの
「標準」が「5∼9」年「高卒補助短大補助」のG3,G2,,
G1,S3Bの「標準」がいずれも「6∼9」年とされているが,
平成4年であれば,昭和60年1月の合併(新資格制定)から満7
年しか経っておらず,8年∼9年という資格の「滞留」サンプルは
あり得ない。なお,合併前の会社と合併後の会社とでは職能資格の
呼称が相違し,前記認定のとおり,昭和石油の特定のランクが控訴
人の特定の職能資格に完全に対応しているわけでもないことから,
上記の年数が合併前の会社における在籍年数と通算したものという
こともあり得ないし,そのような注記は一切されていない。
e控訴人は,昭和石油出身の高卒男女・在職者848人のデータを
乙24号証として提出しているが,その中には高卒男性で平成4年
1月にG1に昇格した者は,事務職,技能職を問わず,1人もいな
い(上記時期にG1に昇格したのは,乙24号証の中では44歳と
48歳の女性だけとなっている。また,合併前のシェル石油も,高
卒男性は採用しない方針が続いていたため,シェル石油出身者にお
いても,平成4年1月に高卒男性のG1昇格者がいることもあり得
ない(以上の事実について,甲102,乙24,証人P45(原審
及び当審,弁論の全趣旨。以上から,平成4年にG1に昇格した))
「最短」者「標準」者は,いずれも実在しないはずである。,
f平成4年1月の昇格者の昇格前のランクの滞留年数をサンプル調
査した結果からは,滞留年数表下段の②表を作成することはできな
い。控訴人は,調査の結果得られた最短滞留年数をそのまま踏襲す
ると,平成5年度の最短者は下段の表になると説明し,能力主義を
徹底し,滞留年数による昇格判断をやめるように戒めたものである
旨主張し,それに沿う証拠(乙90,証人P44)もあるが,実態
を反映するものではない②表をわざわざ作成しても説得力がないこ
とは明らかで「1993年最短昇格」との表題にも合致せず,上,
記証拠は信用できず,控訴人の主張は採用できない。
(カ)控訴人は「まとめ」を含む乙66号証が控訴人の人事担当課長,
会議で配布され,その付帯資料として滞留年数表を添付した事実を併
せて見ると,滞留年数表が会社における昇格の基準であり「この基,
準に従って平成5年度の昇格を実施するよう担当者に指示又は指導し
たものと認められる」との原判決の認定は,滞留年数表について根拠
がない推認を行ったものであるなどと主張する。
しかし,以下の理由から,控訴人の同主張は採用できない。
a控訴人は,人事考課実施マニュアル(乙66)の記載内容,その
趣旨を前提として,その趣旨を体現するものとしての滞留年数表の
説明がP28副部長からなされたと主張する。
しかし,その前提となる文書である人事考課実施マニュアル(乙
66)自体,以下のような点から,証明力が十分にある証拠と評価
することはできない。
(a)同文書については,控訴人作成の文書であるのに,原本の提
示がされておらず,それ自体,頁数が一貫していない(表紙(1
枚目)には頁数がなく,4,5頁がなく,その代わりに,46,
47頁との頁数が記載された「考課表の記入要領,40,41」
頁との頁数が記載された「自己申告書記入要領」が編てつされ
ている。。)
(b)控訴人が人事考課実施マニュアル(乙66)の1頁と頁数が
付された部分(1992年度考課者会合実施概要」と記載され「
た文書)だけを東京都地方労働委員会に平成5年7月28日に提
。出した際,同文書(甲157)には頁数が記載されていなかった
ところが,本訴において,当審に至り,控訴人は上記(a)のよ
うな頁数の付された11枚の人事考課実施マニュアル(乙66)
を提出した。
(c)その他,人事考課実施マニュアル(乙66)の内容には,以
下のような疑問点がある。
①乙66号証において,一緒に配布されたという滞留年数表に
ついて,添付書類としても何ら記載がない。
②乙66号証の6頁に「2職能資格制度(別紙―職能資格
公表について―参照」とあるが,乙66号証には,この「別)
紙―職能資格公表について」という書面も付いていない。
b控訴人は,乙66号証の10頁の「まとめ」の記述を根拠に,滞
留年数表が会社における昇格の基準であり「この基準に従って平,
成5年度の昇格を実施するよう担当者に指示又は指導したものと認
められる」との原判決の認定は誤りであると主張する。しかし,
「まとめ」で記載されていることは「昇格に関しては,資格の滞,
留年数で遅い,早いを判断し申請するケースが見られます。また評
価もそれに対応して配慮される場合が散見されます。しかし,昇格
申請や評価は昇格基準,資格要件が判断の基準です。基準をしっか
り把握し,さらに将来性評価をはじめ中長期的視野で昇格を考えて
ください」というものである。。
しかし,その記載から,昇格の判断に当たり,滞留年数を考慮す
ることを一切禁止しているわけではない。また,滞留年数表には,
一定以上の資格において「標準」年数に幅があり,昇格基準,資格
要件に照らし,その幅の範囲内で,将来性評価を初め中長期的視野
を加味して昇格を弾力的に運用することが可能である。以上から,
「まとめ」と滞留年数表とは両立しないもの,矛盾するものではな
い。
また,乙66号証の全体の構成から見ると「まとめ」は,人事,
担当課長が各所属の本社,支店,製油所,事業所等で開催する全考
課者(管理職)を参加させての考課者会合の最後にまとめとして説
明する際の予定原稿として人事部が用意したものと解することがで
き,実際に考課を行う管理職に考課に当たっての留意事項を伝えよ
うとするものであり,滞留年数表は本社,支店,製油所,事業所等
で,M4Aより下位の昇格の実務の運用に当たる人事担当課長に渡
され(人事課長用との記載がある,昇格の基準とされるものと考。)
えれば「まとめ」の記載と,滞留年数表が昇格の基準の1つであ,
ることは,なんら矛盾するものではない。
更に,控訴人は,滞留年数表に反する事実が存在することを主張
するが,控訴人のような大企業で,従業員の数が多いところで,勤
務成績や健康状態などから,例外的に昇格が同期者と比べると著し
く遅い従業員が出ることは避けられない事実であるから,そのよう
な例外的な者がいることから,上記認定が覆るものではなく,同主
張は採用できない。
,(キ)以上(ア)から(カ)に判断したところによれば,滞留年数表は
平成4年8月の人事担当課長の会議で,控訴人の人事部から本社,支
店,製油所,事業所の人事担当課長に,平成5年1月に予定されたM
4A以下への昇格の際の基準の少なくとも一部を構成するものとして
配布されたもので,控訴人は,この基準に従って平成5年度の昇格を
実施するよう担当者に指示又は指導したものと認められる。
そして,平成4年当時の高卒男性社員及び女性社員(合併前昭和石
油に在籍し平成12年当時に控訴人に在籍していた者)の職能資格等
級の昇格状況及び分布状況は,前記1(1)ウにおいて示したとおり
であるところ,このうち男性社員の状況は,上記書面が示す「高卒・
技能職」の滞留年数による昇格基準と概ね合致している。このことか
らすると,合併後の控訴人は,平成4年以前から,この基準と同様の
昇格基準を設け,原則としてこの基準により昇格を実施してきたと推
認することができる。
他方,女性社員の状況は「高卒・技能職」の基準に合致して昇格,
している者はなく,比較的若年の者については「高卒補助短大補
助」の基準に合致して昇格しているが,年齢の高い者は,この「高卒
補助短大補助」の基準より長く同一等級に留まっていることが認め
られる。このことからすると,合併後の控訴人は,女性社員について
は,従前から,高卒男性に適用される「高卒・技能職」とは別に「高
卒補助短大補助」の基準を定め,原則としてこれにより昇格を実施
しており,また従前の基準は,平成4年の「高卒補助短大補助」の
基準より滞留年数を長く設定していたか,あるいは一定年齢以上の者
を一定段階以上への昇格の対象外とするものであったと推認される。
以上,控訴人は,原判決別紙4のような職能資格等級の決定基準や
昇格評価基準を公表していたものの,実際の運用においては,合併以
降少なくとも平成5年まで,滞留年数表と同旨の基準,即ち,男性社
員は学歴別年功制度を基本に置き,一定年齢以上はこれに職能を加味
し,昇格の時期に幅を持たせて,学歴が高卒の者の場合G1までは年
功に重きを置き,標準的な者でS2まで,優秀な者は少なくともM4
A以上までの昇格を予定する昇格管理を行う一方,高卒女性社員につ
いては,高卒男性とは別の昇格基準(G3までは男性と同じ年功で昇
,格するが,G2以上への昇格には同学歴男性より長い年限を必要とし
一定の等級(S2)以上への昇格を想定しないもの)を設けて昇格管
理を行っていたとみることができる。そして,前記1(1)アで示し
た昭和石油における男女のランク及び昇格の実情からすると,このよ
うな運用に近似した運用が昭和石油においても行われていたと推認さ
れる。また,滞留年数表の内容が口頭で正確に伝達することが困難で
あることからみて,合併後の控訴人において,平成4年以前から毎年
同じような文書が作成され,人事担当者に配布されてきたと推認する
のが合理的である。
エ従業員の平均年齢,平均勤続年数等について
(ア)控訴人の株主総会報告書及び有価証券報告書によると,昭和59
年から平成4年までの従業員の平均年齢,平均勤続年数は以下のとお
りである(甲101。なお,数字は各年とも,12月31日現在のも
のである。。)
従業員数平均年齢平均勤続年数
男女合計男女全体男女全体
昭和59年1493291178440.227.338.019.67.217.5
昭和62年2263315257843.635.242.621.514.020.6
昭和63年2132296242843.835.842.821.714.820.9
平成元年2060291235143.936.343.021.915.221.0
平成2年2056290234643.336.542.521.215.320.4
平成3年2048291233943.236.542.421.015.420.3
平成4年2068296236442.936.242.120.715.120.0
(イ)「資料と報告」によれば,昭和石油労組組合員の男女別年齢の状
況は次のとおりである。
a昭和39年4月1日現在(定年年齢55歳)の組合員(男性25
64名,女性356名)の平均年齢は,男性34歳4月,女性25
歳7月であり,女性は,多くは19歳から24歳までの年齢層に属
するが,30歳代の者52名,40歳代の者20名,50歳代3名
も在籍した(甲132。)
上記組合員の平均勤続年数をみると,全組合員では男性11.1
0年,女性5.88年であるが,勤続3年以上の者でみると男性1
1.11年,女性8.11年であり,勤続5年以上の者でみると,
男性12.46年,女性11.41年である(甲133の1。)
b昭和57年4月1日現在の組合員数(定年年齢57歳)は,男性
2093名,女性399名であり,女性は,多くは26歳以下の年
齢層に属するが,30歳代の者41名,40歳代の者19名,50
歳代の者13名も在籍した(甲1の1・2。)
c昭和58年4月1日現在の組合員数(定年年齢58歳)は,男性
2037名,女性375名であり,女性は,多くは27歳以下の層
に属するが,30歳代の者44名,40歳代の者16名,50歳代
の者18名も在籍した(甲2の1・2。)
d昭和60年4月1日現在の組合員数(定年年齢60歳)は,男性
1953名,女性325名であり,女性は,多くは20歳代である
が,30歳代の者41名,40歳代の者15名,50歳代の者16
名も在籍した(甲3。)
(3)評価
ア評価の方針
以上の事実を踏まえて,被控訴人と同一学歴で,年齢が同じか数年若
い男性と比較すると,ランク又は職能資格等級,定期昇給額,ひいては
本給額において,著しい格差が存在する。ただし,上記の認定は,主に
統計的な大量観察の手法によるもので,個別的な職務に関する考察を捨
象したものである。そこで,以下,被控訴人の担当業務などを具体的に
検討し,上記格差に合理的理由が存したか否か,被控訴人が主張するよ
うな不法行為が成立するかなどについて判断する。なお,被控訴人は,
賃金差額相当額の請求については,昭和60年以降のものを請求してい
るが,公的年金差額相当額の請求については,昭和石油入社以来の男女
差別による賃金格差の存在を前提として標準報酬月額を算定し直して損
害を算出しており,慰謝料請求についても斟酌すべき事由として昭和石
油当時の女性であることを理由とする賃金差別を主張しているので,こ
れらの関係では,昭和石油入社以来の期間についての不法行為の成否を
判断せざるを得ない。
イ被控訴人の担当業務に関して
(ア)被控訴人は,入社以来約41年間,前提事実(原判決を引用)
(1)イ記載のとおりいくつかの部署で業務を行ったが,このうち入
社後担当した総務部株式課における業務(昭和26年8月から昭和3
1年7月まで,建設部技術第1課における業務(昭和31年7月か)
ら同年12月まで)は定型的な業務又は補助的な業務であった。被控
訴人は,その後21年間以上という長期間,和文タイプ業務を専門に
担当し,その後も同業務と本質的な相違はないと認めるのが相当な英
文タイプ業務を担当した。したがって,被控訴人の職歴の中で和文タ
イプ業務の占める部分が高く,同業務に関する評価が被控訴人が在職
。中行った業務に関する評価,昇格の問題と強く関係するものといえる
そして,前記認定のとおり,和文タイピストの仕事は特殊な技術と
,集中力が要求される仕事であり,誰でもできるという仕事ではないが
他方,その仕事の性質上,与えられた原稿のとおりタイプすることを
基本的な内容とするもので,誤字その他原稿自体から原稿が誤ってい
るのではないかと判断し,原稿作成者に対し原稿の内容を確認する場
合を除き,判断や他者との交渉,折衝,調整などが要求される仕事で
はない。したがって,その技術を習得し,それに習熟した後は,職務
遂行上,集中力,注意力の維持は必要であるが,困難性は高くはない
という性質の仕事である。昭和四日市石油本社において,タイピスト
は,一般事務職ではなく,社用運転手や電話交換手と同様に特殊職と
して位置付けられていたことも,それらの理由により合理的に了解す
ることができる。そして,このようなことは昭和四日市石油本社とい
う一法人内における特殊な事柄ではなく,その当時の我が国の社会で
広く受け容れられた事柄であったと認めるのが相当である。前記認定
のとおり,公的な統計(乙54の1・2)においても,和文タイピス
トの平均年齢は事務係員(高卒)のそれより若干高いのに,和文タイ
ピストの給与は事務関係職種の中で最も低く,事務係員(高卒)の給
与の概ね81%から87%にすぎない金額であり,時間外手当も少な
いことは,上記のことを例証するものといえる。
(イ)次に,被控訴人は,和文タイプの仕事に代わり,昭和52年3月
から英文タイプの業務に従事するとともに,コンピューター端末操作
によるデータの送受信,テレックスの受信業務に従事し,昭和53年
から国際テレックスの発信業務に従事し,昭和60年からワープロ,
パソコンを用いた業務に従事した。
このような被控訴人の職歴は,時代に応じて自ら技術を身につけ,
それによって業務を行い,会社に貢献したと見ることができることは
前記のとおりである。また,タイピストの仕事は特殊職として位置付
けられたが,昭和52年3月から英文タイプの業務と共にコンピュー
ター端末操作によるデータの送受信業務,テレックスの受信業務に従
事し,昭和53年から国際テレックスの発信業務にも従事することと
なったから,被控訴人は昭和52年3月から特殊職とともに一般事務
職に従事したと解するのが相当である。
しかし,他方,被控訴人が担当した国際テレックスの発信,コンピ
ューター端末・パソコンによるデータ伝送,テレックスの受信などの
仕事は同人がそれまで行ってきたタイピストの仕事と本質的な点で相
違する仕事とは認められないことは,前記(2)ア(キ)a記載のと
おりである。
(ウ)次に,被控訴人は,昭和62年9月から退職まで,東京事務所
(役員,課長の他,男性が4名,女性が3名の小所帯)において,什
,器備品・事務用品等の管理及び課内庶務,文書受発信等に関する業務
新聞・図書の購入管理,パソコンデータの受発信の実施及びOA機器
の管理,指定統計法に基づく関係官庁との折衝・報告等の関連業務,
製品・半製品の出荷及び受入れに係る連絡,油量月報に係る資料作成
の各業務等の一般事務を担当した。それらの仕事は概ね庶務的な仕事
であり,組織の規模等からいって,それぞれの仕事量はさほどの量で
はなかったと推認される。
(エ)まとめ
a被控訴人の職歴の中で中心的な位置を占める和文タイプ業務につ
いての評価は前記のとおりであるが,被控訴人は,昭和石油に和文
タイピスト(特殊職)と業務を特定して採用されたわけではなく,
昭和31年12月上司から言われて和文タイピストとしての仕事を
専門に行うようになったもので,特殊職に対する待遇について具体
的な説明を上司から受けたものではない。しかし,被控訴人が,そ
の後の職歴として21年間以上という長期間それを専門に担当した
ということは事実であり,そのような被控訴人に対し,昭和52年
3月の時点(被控訴人が和文タイプを専門にしていた最後の時点)
において,年齢がほぼ同じである同一学歴(高卒)の男性の平均的
なランク又は職能資格等級が与えられなかったことには,それなり
の理由があるものといえる。
bその後,被控訴人は,昭和52年3月から英文タイプの業務と共
にコンピューター端末操作によるデータの送受信業務,テレックス
の受信業務に従事し,昭和53年から国際テレックスの発信業務に
も従事することとなったもので,昭和52年3月ころから特殊職と
ともに一般事務職に従事したと解するのが相当である。このように
時代に応じて自ら技術を身につけ,それによって業務を行い,会社
に貢献したと見ることができる被控訴人に対し,ランク又は職能資
格等級,定期昇給額,ひいては本給額において,著しい格差が存在
していたことについて合理的理由が存したか否か,不法行為の成否
などについては,後述する。
ウ被控訴人の勤務成績などに対する評価
前記認定事実,証拠(甲118,173,乙43の2,被控訴人本
人)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,和文タイピストの仕事を
専門に行った間,緊急を要するタイプ文書作成のため(特に昭和42年
以降の四日市公害裁判に関係する文書のタイプの時など,所定終業時)
刻後に業務に従事することも度々あったこと,昭和60年から62年度
までの間,総合評価として能力開発評価点でBの評価を受け,個別評価
を見ても「理解・判断力「手順・段取「知識・技能「規律性,,」,」,」,」
「責任感」は常にAの評価を受け「積極性」は昭和60年,昭和61,
年は,Aの評価を受けていたこと等が認められ,以上の事実と証拠(甲
126)及び弁論の全趣旨から,それ以外の期間も,被控訴人は自己の
職務を果たしたものと推認できる。
エ控訴人の故意,過失に関連する事実
(ア)滞留年数表の存在
合併後の控訴人において,滞留年数表と同様の昇格基準を設け,原
則としてこの基準により昇格を実施してきたと推認できること,女性
社員の状況は,比較的若年の者については「高卒補助短大補助」
(甲106)の基準に合致して昇格しているが,年齢の高い者は,こ
の「高卒補助短大補助」の基準より更に長く同一等級に留まってい
ること,控訴人は,女性社員については,高卒男性に適用される「高
卒・技能職」とは別に「高卒補助短大補助」の基準を定め,原則と
してこれにより昇格を実施しており,また従前の基準は,平成4年の
「高卒補助短大補助」の基準より滞留年数を長く設定していたか,
あるいは一定年齢以上の者を対象外とするものであったと推認される
ことは,前記のとおりである。
(イ)合併時の昭和石油における格付けの状況
単純に合併直前のランク順に沿って控訴人における職能資格等級が
格付けされたとした場合,昭和石油においてD2ランクであった者に
ついては,男性は,289名全員が控訴人の職能資格等級G1に格付
けされたのに対し,女性は,39名のうち6名のみがG1とされ,そ
の余の33名はG2に格付けされたことになり,D3ランクであった
者についてみると,男性は,25名のうち21名がG1に,その余4
名がG2に格付けされているが,女性は,78名のうちG1とされた
者はおらず,2名がG2とされたのみで,被控訴人は,その中で従前
D2ランクであったのにG3に格付けされたものであり,原審証人P
34の証言した方法によって控訴人における職務職能等級が格付けさ
れたとした場合,昭和石油においてD2,D3ランクであった者につ
いては,男性は314名中310名が控訴人の職能資格等級G1に,
その余の4名がG2に格付けされたのに対し,女性は,117名中6
名がG1に,35名がG2に,その余の76名がG3とされたことに
なり,被控訴人はその中で従前D2クラスであったのがG3に格付け
されたものであることは,前記1(1)イのとおりである。
以上の結果,昭和石油とシェル石油の合併に伴い,昭和石油におけ
るランクから控訴人における職能資格等級に移行するにあたり,単純
に合併直前のランクの順に沿ったにせよ,P34証言の方法によった
にせよ,それまでのランクを前提にしても,男女間で著しい取扱いの
相違があったことが認められ,それによりそれまで存在した男女間の
差異が更に拡大したものと認められる。そして,男女間で著しい取扱
いの相違が生じた理由について,納得できる理由は,本件証拠上見当
たらない。
オ社会意識,同業他社の状況など
(ア)控訴人(合併前は昭和石油)と同業(石油元売り)他社(男女間
の社員それぞれの役割分担が,控訴人(合併前は昭和石油)と近似し
ているものと推認される)における男女間の賃金の状況について調。
査した結果(乙39。以下,A社,B社,D社とは,乙39における
表記をいう,控訴人(合併前は昭和石油)を含む5社(合併前のシ。)
ェル石油も含まれている)の中で,男女間の基本給に賃金差がさほ。
ど顕著ではないD社(ただし,同社も,基準内賃金は,昭和59年,
平成元年に男女間で賃金差がある)を除く他の4社においては,男。
女間における賃金差が明らかに見られたこと,その4社の内B社は控
訴人(合併前は昭和石油)と比較して,昭和59年,平成元年におい
て賃金差がやや大きいこと,A社は控訴人(合併前は昭和石油)と比
較して,男女間の賃金差が生じる時期が早いことは,前記のとおりで
ある。他方,証拠(甲150)及び弁論の全趣旨によれば,同業の他
社の中には,後記均等法の施行に伴い,男女間の格差を是正する措置
を講じたところもあったと推測される(甲150の添付4の資料―キ
グナス石油の例,平成15年11月6日付け被控訴人の準備書面
(1)の24頁26行目以下参照。。)
(イ)日経連賃金総覧(平成4年版。調査時期は平成3年6月度,調査
の対象の約7割は従業員500人以上の企業を対象としており,比較
的大企業が中心となっている。乙30)によれば,被控訴人の退職。
時に近い時点において,我が国の民間企業において男女間の賃金格差
が依然存在する。たとえば,高卒の「管理・事務・技術労働者」にお
いて,年齢30歳で月額約5万円,40歳で月額約8万円,50歳で
月額約14万円,60歳で月額約15万円という顕著な格差が存在す
る。なお,その後の調査(平成8年版の労政時報―乙37,平成12
年版の日経連賃金総覧―乙31)によれば,格差は縮小する傾向にあ
るが,そのような顕著な格差がある状況は基本的に変わっていない。
カ女性の配置
(ア)職位機能組織図(乙50の1)によれば,昭和56年4月1日時
点において,昭和四日市石油における女性職員の配置は,以下のとお
りであったと認められる。
総務課特殊職が4名で,そのうちの2名(被控訴人を含む)は。
タイプの業務を担当し(他の業務も兼務する,他の2名は電話交換。)
。手である。特殊職以外の4名(内1名は嘱託)は一般事務を担当した
秘書課2名が役員庶務などを担当した。
経理課3名が一般事務を担当した。
技術課1名が製造計画,課内庶務を担当した。
業務課1名が製品・半製品の出荷,その他の運輸業務一般,課内
庶務を担当した。
(イ)職位機能組織図(乙50の2)によれば,昭和56年4月1日時
点において,四日市製油所における女性職員の配置は,以下のとおり
であったと認められる。
,総務課特殊職が7名で,そのうちの3名はタイプの業務を担当し
他の4名は電話交換手である。特殊職以外の6名は一般事務(内2名
は秘書)を担当した。
労務課8名が一般事務を担当した。
会計課4名が一般事務を担当した。
技術課1名が一般事務を担当した。
装置管理課女性は配置されていない。
計数課4名が一般事務(キーパンチャー,コンピューターオペレ
ーション,入出力データ管理など)を担当した。
計画課3名が一般事務を担当した。
運輸課2名が一般事務を担当した。
操油一課,二課,製造一ないし五課,動力課女性は配置されてい
ない。
工務課2名が一般事務を担当した。
工事課1名が一般事務(書類記帳,庶務)を担当した。
計電課女性は配置されていない。
資材課1名が一般事務(購買関係及び一般文書の受発信,油脂類
関係購入,各種資料作成補助,庶務・受付など)を担当した。
研究一課3名が環境分析,機器分析を担当した。
研究二課10名が試験係に所属し,各種試験を担当した。
研究管理課1名(その他清掃などを担当する嘱託が1名)が一般
事務(研究テーマに関する事項,庶務など)を担当した。
安全課2名が一般事務を担当した(内1名は同年4月30日付け
で退職予定。。)
環境課1名が一般事務(データ整理,庶務)を担当した。
情報室3名が一般事務(図書室,コピー室に関わる業務,文書の
受発信庶務)を担当した。
プロジェクトチーム女性は配置されていない。
キまとめ
(ア)昭和52年3月まで(被控訴人が和文タイピスト専門の時)
被控訴人は,昭和石油,控訴人に在職中,自己の職務を果たしたも
のと推認できることは前記のとおりである。しかし,被控訴人の職歴
の中で中心的な位置を占める和文タイプ業務についての評価は前記の
とおりであり(定型的な業務であり,昭和四日市石油本社において特
殊職として位置付けられたこと,和文タイピストの給与は事務関係職
種の中で最も低く,事務係員(高卒)の給与の概ね81%から87%
にすぎない金額であり,時間外手当も少ないという公的な統計が存在
すること,21年間以上という長期間それを専門に担当した被控訴。)
人に対し,昭和52年3月の時点(被控訴人が和文タイプを専門にし
ていた最後の時点)において,年齢がほぼ同じである同一学歴(高
卒)の男性の平均的なランク又は職能資格等級が与えられなかったこ
とには,それなりの理由があるものといえる。
昭和石油においては,実際の運用においては,男性社員は学歴別年
功制度を基本に置き,一定年齢以上はこれに職能を加味し,昇格の時
期に幅を持たせて昇格管理を行う一方,女性社員については,男性と
は別の昇格基準(年功をさほど考慮せず,昇格には同学歴男性より長
い年限を必要とし,一定の等級以上への昇格を想定しないもの)を設
けて昇格管理を行っていたとみることができることは前記(2)ウ
(キ)記載のとおりである。
しかし,昭和52年3月の時点において,被控訴人は21年間以上
という長期間,上記のような性質を有する和文タイプ業務を専門にし
てきたこと,当時,昭和四日市石油において女性社員は特殊職,補助
的・定型的業務に従事する者がほとんどであり,昭和石油においても
同様であったと推認されること(昭和56年4月1日時点における職
位機能組織図(乙50の1・2)及び乙78,その当時の我が国に)
おける一般的な状況(賃金に関する男女間の格差の存在,同業他社の
賃金状況など)等を総合すると,前記の期間について,被控訴人が主
張するような昭和石油の被控訴人に対する不法行為が成立するものと
は認められない。
(イ)昭和52年3月以降昭和59年12月(合併の直前)まで
a被控訴人は,和文タイプの仕事に代わり,昭和52年3月から英
文タイプの業務に従事するとともに,コンピューター端末操作によ
るデータの送受信業務,テレックスの受信業務に従事し,昭和53
年から国際テレックスの発信業務に従事した。このような被控訴人
の職歴は,時代に応じて自ら技術を身につけ,それによって業務を
行い,会社に貢献したと見ることができること,被控訴人は昭和5
2年3月から特殊職とともに一般事務に従事したと解するのが相当
であることは,前記のとおりである。
b被控訴人は,遅くとも昭和39年以来D2であり(乙42の1,)
少なくても20年間にわたり昇格することはなかったが,このよう
な昭和石油の被控訴人に対する処遇が不法行為となるか,以下検討
する。
c他の社員との比較
(a)まず,東京事務所における高卒男性社員(P2,P11)の
業務内容との比較が問題となる。
①P2は,約11年間ほど四日市製油所の現業部門(製造第3
課)に勤務し,その間昭和43年8月にボイラー技士2級の資
格を取得したこと,昭和44年に東京の本社に転勤して事務職
に変わり,以後20年以上にわたって,ほぼ同じ業務(製品・
半製品の出荷及び受入れに係る連絡・調整に関する業務,グル
ープ需要状況の把握,油量月報に係る資料作成等)を担当した
こと,P2は,仕事の処理能力,調整能力について概ね高い評
価を受けていたこと,退職まで部下を持つことはなかったこと
は,前記のとおりである。
P2の勤務態度に問題があり,管理職になることはなかった
ものの,同人は現業部門,その後は事務部門の一般事務職とし
て,その勤務を執り行ったものである。21年間以上という長
期間和文タイプを専門に担当した後,一般事務職に従事するこ
ととなったと解するのが相当な被控訴人と同一視することは適
切でない。
②P11は,17年間近く昭和石油本社経理課などで勤務した
後の昭和51年9月から昭和四日市石油に出向し,技術部業務
課に所属し,後記退職に至るまで,業務に関連する法規に関す
る関係官庁との折衝・報告等に関連する業務(通産省への報告
書の提出等,原油・ナフサの受入れ計画,関税割当重油の取)
扱いに関する業務等を担当したこと,昭和53年11月,昭和
54年1月,平成元年4月末の3回船舶事故が発生し,海上に
原油が漏泄した際,出資会社,行政関係者への報告,お詫び,
防止対策の策定などの対応に上司と共に当たったこと,平成5
年から5年間,石油連盟の石油統計部会の部会長職を勤めたこ
と(その際関わったことは,前記(2)イ(ア)bのとおりで
ある)は,前記のとおりである。P11の業務は被控訴人の。
担当業務と一部重なるが,P11の担当する報告等に関連する
業務の一部である指定統計11号関係の石油連盟統計部会への
報告などについて,総務課長からの要請により被控訴人に担当
させたという経緯であった。
P11の勤務態度に問題があり,同人の職歴は前記のとおり
であり,管理職になることはなかったが,一貫して一般事務職
としてその勤務を執り行ったものである。21年間以上という
長期間和文タイプを専門に担当した後,一般事務職に従事する
こととなったと解するのが相当な被控訴人と同一視することは
適切でない。
(b)被控訴人と同期者の職務内容や社内経歴との比較
①P18との比較
P18は,昭和49年以降退職までの約18年間,安全管理
,課で保安係(自衛消防隊員)として同じ仕事に従事したもので
自己啓発に努めたとは,いえないこと,同人の勤務態度には大
いに問題があり,一旦就いた組長代理の職を解かれたものの,
昭和60年1月にG1に同人が昇格した。
確かにP18の勤務態度は大いに問題があったようである。
しかし,P18が国家資格(危険物取扱主任者やボイラー技
士等)を取得した者であること,部下を指揮指導することが要
求される組長代理の職に一旦は就いたことは,事実である。そ
のような経歴を有し評価を受けたP18と,21年間以上とい
う長期間和文タイプを専門に担当した被控訴人とを比較して論
じることは,仕事の中身が相違するため容易なことではない。
しかし,被控訴人が昭和52年3月以降昭和59年12月(合
併の直前)までの間不法行為に該当する差別を受けたかという
論点との関係では,P18に対する処遇が昭和石油の被控訴人
に対する差別的な取扱いがあったことの根拠となるものではな
い。
②その他控訴人が主張する,管理職の経歴を有する者,他の一
般職の問題が争点の判断には影響しないことは,前記のとおり
である(被控訴人は,昭和シェル石油本社総務部の男性社員の
業務及び職能資格等級を問題にするが,合併前の時点の判断に
は,その問題に対する判断は不要であると解する。。)
(c)以上から,他の社員との比較という点から,昭和石油の被控
訴人に対する不法行為の成立を肯定することはできない。
dこの間の被控訴人が担当した業務,職歴は,時代に応じて自ら技
術を身につけ,それによって業務を行い,会社に貢献したと見るこ
とができること,被控訴人は昭和52年3月から特殊職とともに一
般事務に従事したと解するのが相当であることは,前記のとおりで
ある。また,昭和石油において,高卒の男性の場合,入社年度によ
り多少異なるものの,入社6年目から8年目(標準年齢24歳ない
し26歳)の時期にD2に昇格し,入社9年目又は10年目(標準
年齢27歳又は28歳)にD1に昇格していることは前記のとおり
であるから,大多数の高卒男性の場合,D2にとどまる期間は,せ
いぜい3,4年程度と見られ,そのような男性の格付けとの比較に
おいて,約30年間D2のままで昇格することがなかった被控訴人
は,不利益を受けたものといえる。
しかし,不法行為責任の有無という点においては,被控訴人が担
当した国際テレックスの発信,コンピューター端末・パソコンによ
るデータ伝送などの仕事が同人がそれまで行ってきたタイピストの
仕事と本質的な点で相違する仕事とは認められないこと,そのころ
昭和四日市石油において女性は未だ補助的・定型的業務又は特殊職
(昭和56年4月1日の時点では特殊職(タイピスト,電話交換
手)に従事していた女性が存在した)に従事する者がほとんどで。
あり,昭和石油においても同様であったと推認されること,その当
時の我が国における一般的な賃金の状況(賃金に関する男女間の格
差の存在,同業他社の賃金状況など)等を総合すると,前記の期間
について昭和石油の被控訴人に対する処遇が不法行為に該当すると
まで認められない。
(ウ)昭和60年1月(合併)以降退職まで
a合併時の格付けの状況
昭和石油とシェル石油の合併に伴い,昭和石油におけるランクか
ら控訴人における職能資格等級に移行するにあたり,昭和石油とシ
ェル石油との間で旧資格と新資格との対応関係について,原則とし
て,昭和石油でF,Eランクの者はSランクに,D,C,Bランク
の者はGランクに対応させるという基本合意がなされ,その上で,
各ランクにおける細分ランクの格付けは,各社において行うことと
なったこと,その結果,昭和石油においてされた格付けは,前記1
(1)イ及び前記4(3)エ(イ)記載のとおり,男女間で著しい
取扱いの相違があったことが認められ,それによりそれまで存在し
た男女間の処遇上の差異が更に拡大したものと認められ,男女間で
著しい取扱いの相違が生じた理由について,合理的な理由(能力,
勤務成績など)は本件証拠上見当たらず,合併に伴う昭和石油にお
けるランクから控訴人における職能資格等級への移行に当たって,
男女間で著しい取扱いの相違があったということが,組織的,意図
的にされたことは明らかである。
,被控訴人についていうと,合併直前D2であったが,合併に伴い
控訴人(昭和石油)によりG3に格付けされた。前記のとおり,合
併に当たり,仮に昭和石油におけるランク順に沿って控訴人におけ
る職能資格等級が格付けされたとした場合,D2ランクであった男
性は全員289名がG1とされ,D3ランクであった男性25名の
うち21名もG1に,その余の4名はG2とされたのに対し,D2
ランクであった女性39名のうち6名のみがG1とされ,その余の
33名はG2に格付けされたことになり,P34証言の方式で格付
けされたとした場合も,D2,D3ランクであった男性314名中
310名がG1に,その余の4名がG2とされたのに対し,D2,
,D3ランクであった女性117名中6名がG1に,35名がG2に
,その余の76名がG3に格付けされたことになるが,いずれにせよ
被控訴人はG3に格付けされたもので,同じD2ランクであった男
性と平等に取り扱われないのみか,1ランク下のD3の男性全員が
G1又はG2に格付けされると逆転され,女性の中でも特に不利益
が大きかったと認められる。
b被控訴人の行った職務に対する評価等
被控訴人は昭和52年3月以降,英文タイプの業務に従事すると
ともに,コンピューター端末操作によるデータの送受信業務,テレ
ックスの受信業務に従事し,昭和53年から国際テレックスの発信
業務に従事したこと,被控訴人は昭和52年3月から特殊職ととも
に一般事務に従事したと解するのが相当であることは,前記のとお
りである。
被控訴人は,合併直後の昭和60年から62年度までの間,総合
評価として能力開発評価点でBの評価を受け,個別評価を見ても,
「理解・判断力「手順・段取「知識・技能「規律性「責任」,」,」,」,
感」は常にAの評価を受け「積極性」は昭和60年,昭和61年,
にAの評価を受けていたもので,その職務を果たしたものと認めら
れる。
被控訴人は21年間という長期間和文タイピストという特殊職に
あったという経歴はあるが,合併の時点において,一般事務職に従
事することとなってから既に8年間近くが経過し,合併の前後を通
して一般事務職としての自己の職務を果たしたのであるから,控訴
人(昭和石油)は,合併の時点において,被控訴人に対し,一般事
務職としてその適正な格付け,処遇を考えることが必要であった。
c他の社員との比較
(a)P25との比較
被控訴人とP25とを比較すると,被控訴人の社内経歴は前記
のとおり,長く特殊職として位置づけられているタイピストの職
にあった者であるのに対し,P25は,昭和32年4月以降長く
航空販売部でセールスマンとして在庫管理などの仕事を行い,昭
和48年3月以降,2,3人の部下を持つに至ったこと,その後
昭和57年羽田給油所の所長代行という責任のある職務を担当す
ることとなったことなどから,その経歴(職務歴)がかなり異な
ることは確かである。
ただ,P25が羽田給油所の所長代行として勤務したのは本来
の所長が長期休暇を取るという事態が生じたためとられた人事で
あり,P25はそれまでの仕事と兼務で所長代行の職を担当した
,ものにすぎないこと,それ以降のP25に対する人事評価は低く
同人は控訴人本社液化ガス部管理課に異動となったが,その職責
を果たすことができなかったものと推認され,体調を崩し,2年
後に総務部総務課に異動となったこと等を考えると,P25の上
記経歴を過大に評価することは相当ではない。
被控訴人が合併の時点において,一般事務に従事することとな
ってから既に8年間近くが経過し,一般事務職としての職務を果
たしたのであるから,一般事務職としてその適正な格付け,処遇
を考えることが必要であることは前記のとおりであり,会社は違
うものの,退職直前の時点においては,両者は類似する仕事を担
当していたから,被控訴人(合併時,G3)とP25(合併時
(総務課に異動となった平成元年11月の時点も同様である,。)
S1)との間で,格付けの相違が著しいときには,経歴の相違だ
けでは説明が付かず,少なくてもいずれかの格付けに問題があっ
たものと推認される。そして,P25の格付けに問題があったと
の証拠はないから,被控訴人に対する格付けに問題があったと推
認される。
(b)P27との比較
P27の主な仕事は主に電信室においてテレックス受送信のオ
ペレーター業務を担当することであり,その業務に対する習熟は
十分で会社に対する貢献があったこと自体は肯定できるが,その
仕事は被控訴人の行ったデータ伝送業務,テレックス業務と共通
性があること,P27はオペレーター業務以外のことについて積
極的な評価を受けたことはなく,結果的にリーダーになることは
なかったこと,以上のことなどから,P27が被控訴人より本質
的に価値の高い仕事をしてきたとは認められないことは,前記の
とおりである。更に,P27は高校卒業後11年してから入社し
た者で,その当時の企業における一般的な昇進,待遇の実情に照
らし,同年代の者(被控訴人は,P27より6歳ほど年が上であ
るが,ほぼ同世代の者と認められる)と比較して不利益を受け。
やすい立場にあったと推認される。
ところが,P27が合併(昭和60年)時,退職時,いずれも
職能資格はS2であった(平成7年の時点で,P27は自己の格
付けに不満を表明している)のに対し,被控訴人は合併時,G。
3であった。
会社は違うものの,被控訴人はP27の仕事と同じような仕事
,を昭和53年以降担当していたから,被控訴人とP27との間で
格付けの相違が著しいときには,経歴の相違(被控訴人のタイピ
ストとしての経歴)だけでは説明が付かず,少なくてもいずれか
の格付けに問題があったものと推認される。そして,P27の格
付けが高すぎるという証拠はないから,被控訴人に対する格付け
に問題があったと推認される。
d滞留年数表の使用など
(a)昭和56年4月1日当時,昭和四日市石油において,女性は
未だ補助的・定型的業務又は特殊職に従事する者がほとんどであ
ったと推認されるが,同社においてタイピストという職種がほど
なく消滅したことは被控訴人の職歴などからも明らかであり,電
話交換手についても同様であったと推認される(乙51,52の
1・2,乙53。)
(b)合併後の控訴人において,毎年滞留年数表と同じような文書
が作成され,人事担当者に配布されてきたと推認されることは,
前記(2)ウ(キ)のとおりである。
(c)控訴人(合併前は昭和石油)の女性社員の平均勤続年数は,
合併前の昭和59年は7.2年であったのに対し,合併後の昭和
62年は14.0年となり,以後もその年数が増加し,平成元年
に15.2年,平成3年に15.4年,平成7年に16.0年に
なった(前記認定事実,甲101。このような結果は控訴人に)
おける新規採用者の抑制という事実とも関連があることは否定で
,きないが,合併の前後で,控訴人において,勤務する女性の立場
役割はかなり変化したものと推認される。
e均等法の制定など
(a)昭和54年,国連において「女子に対するあらゆる形態の差
,別撤廃条約」が採択され,日本も賛成票を投じ,昭和55年7月
署名した。同条約11条1項は,締約国に「男女の平等を基礎,
として,同一の権利を(中略)確保することを目的として,雇用
の分野における女性に対する差別を撤廃するためのすべての適切
な措置をとること」を求めるものであった。
それを受けて,我が国は,国内法の整備を行い,昭和60年5
月17日均等法が勤労婦人福祉法の改正案として衆議院本会議で
可決され,6月1日に公布され,翌昭和61年4月1日から施行
された。均等法8条は「事業主は,労働者の配置及び昇進につ,
いて,女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをするよう
に努めなければならない」と定め,事業者に努力義務を課した。。
前記条約は昭和60年6月25日批准され,同年7月1日公布さ
れ,同年7月25日,同条約は我が国において効力が生じた。
(b)以上のような前記条約の締結に伴う国内法の整備(均等法の
制定,施行など)に伴い,我が国において,雇用の分野における男
女差別の撤廃の必要性,男女の均等な機会及び待遇の確保を図るこ
とについての意識が,一般企業・国民間において次第に高まってい
ったことは,公知の事実である。
f労働組合から控訴人に対しされた要求など
証拠(甲28)及び弁論の全趣旨によれば,全石油昭和シェル労
働組合は,控訴人を相手方として,昭和63年3月,東京都中央労
政事務所に男女昇級差別是正のあっせんを申請し,均等法に反する
事態が生じていると主張したが,その後同あっせんは不調に終わっ
たこと,それに先立ち数年間,同組合は控訴人に対し,男女差別の
是正を求めたことが認められる。
gまとめ
(a)労働基準法4条は「使用者は,労働者が女性であることを,
理由として,賃金について,男性と差別的な取扱いをしてはなら
ない」と定めている。昭和石油とシェル石油の合併に伴い,昭。
和石油における職能資格制度であるランク制度におけるランク付
けを控訴人の職能資格等級に移行する際の取扱いも,職能資格等
級が賃金管理を行う基準であり,賃金表も職能資格等級別に作成
されているのであるから,賃金についての取扱いに該当するとこ
ろ,前記のとおり,昭和石油とシェル石油の合併に伴い,昭和石
油におけるランクから控訴人における職能資格等級に移行するに
あたり,何ら合理的な理由なく,男女間で著しい取扱いの相違が
あったものであり,移行に当たって昭和石油の行った被控訴人の
控訴人における職能資格等級G3への格付け,これをそのまま採
用し,その後も後記のとおり昭和61年1月にG2に昇格させた
のみでその状態を退職まで維持した控訴人の措置は,労働者が女
性であることを理由として,賃金について,男性と差別的取扱い
をしたものと認められ,これにより被控訴人は,合併前D2ラン
,クであった男性と同じ職能資格等級G1に格付けされないのみか
昭和石油では1ランク下のD3ランクの男性全員よりも低いG3
に格付けられる損害を受けた。昭和石油及び控訴人の行為は故意
による不法行為に該当する。
控訴人は,女性は管理部門等における一般事務に限定されるこ
とを格差の理由の1つとしてあげるが,控訴人において,男性社
,員の中で一貫して事務職の者が一般に高い格付けを得ているから
,それは理由にならない。更に,男性は種々の職場・職務に従事し
資格を取得し,多岐にわたる職務上の知識,経験を求められるこ
とを理由の1つとして挙げるが,前記認定のとおり,男性社員で
も1つの仕事を一貫して担当していながらある程度以上の格付け
を受けている者があるから,理由にならない。その他,控訴人が
原審及び当審において主張することは,いずれも理由がないか,
。それを考慮したとしても,上記結論に影響を及ぼすものではない
被控訴人は,合併1年後の昭和61年1月にG2に昇格したが,
そのことによっても,上記不法行為の違法性が消滅するものでは
ない。
(b)職能資格等級の格付けは,賃金の額に直結する問題ではある
が,職務,能力,勤務態度,責任等の定常的な評価の結果の反映
の面もある。その意味で,控訴人の定常的の業務の過程で行われ
ている評価に基づく職能資格等級の格上げ,据置等の取扱いは,
直ちに労働基準法4条所定の賃金についての取扱いといえるわけ
ではなく,制度上のたてまえのみではなく,運用の実情が職務,
能力,責任等の評価に基づくものである限り,均等法8条所定の
。労働者の昇進についての取扱いに当たると解するのが相当である
ところで,均等法8条は「事業者は,労働者の配置及び昇進,
について,女子労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをする
ように努めなければならない」と定め,配置及び昇進に関する。
男女労働者の均等取扱いを使用者の努力義務としていたが,平成
11年4月1日に施行された「雇用の分野における男女の均等な
機会及び待遇の確保等に関する法律(改正均等法)6条は「事」,
業主は,労働者の配置,昇進及び教育訓練について,労働者が女
性であることを理由として,男性と差別的取扱いをしてはならな
い」と定め,配置及び昇進に関する男女労働者の平等取扱いを。
使用者の義務とした。
,控訴人は,これを根拠に,改正均等法施行以前においては配置
昇進の男女格差は,私法上,原則としてその違法が問題となるこ
とはないと主張するところ,改正前の均等法が上記のとおり配置
及び昇進に関する男女労働者に均等取扱いを努力義務に止めたこ
,との背景には,当時,多くの企業で終身雇用制を前提とした配置
昇進等の雇用管理が行われていたと共に,女子労働者の勤続年数
が男子労働者に比べて短いという一般的状況が存したことは控訴
人の指摘するとおりであり,違法性の判断を行うに当たっては,
このような社会的状況を考慮すべきではある。
しかし,均等法8条が「努めなければならない」と努力義務。
を定めているのは,まさに事業者に努力する義務を法律上課して
いるのであって「労働者の配置及び昇進について,女子労働者,
に対して男子労働者と均等な取扱いをする」という法の定めた実
現されるべき目標が,法律施行後に達成されていなくても,同法
,に違反するとして,行政上の規制や罰則の対象となるものはなく
民事上もそのことのみで,債務不履行や不法行為を構成するもの
ではないが,他方,法が,事業者に同条の目標を達成するように
努めるべきものと定めた趣旨を満たしていない状況にあれば,労
働大臣あるいはその委任を受けた婦人少年室長が同法の施行に関
し必要があると認めて事業者に対し,報告を求め,又は助言,指
導もしくは勧告をすることができる(同法33条)という行政的
措置をとることができるのであり,単なる訓示規定ではなく,実
,効性のある規定であることは均等法自体が予定しているのであり
上記目標を達成するための努力をなんら行わず,均等な取扱いが
行われていない実態を積極的に維持すること,あるいは,配置及
び昇進についての男女差別を更に拡大するような措置をとること
は,同条の趣旨に反するものであり,被控訴人主張の不法行為の
成否についての違法性判断の基準とすべき雇用関係についての私
法秩序には,上記のような同条の趣旨も含まれるというべきであ
る。
(c)前記のような滞留年数表の存在,前記1(1)ウ(ア)に認
定した職務資格等級に関する状況によれば,控訴人は,原判決別
紙4記載のような職能資格等級の決定基準や昇格評価基準を公表
していたものの,実際の運用においては,合併以降少なくとも平
成5年まで,滞留年数表と同旨の基準,即ち,男性社員は学歴別
年功制度を基本に置き,一定年齢以上はこれに職能を加味し,昇
格の時期に幅を持たせて学歴が高卒の者の場合G1までは年功に
重きを置き,標準的な者でS2まで,優秀な者は少なくともM4
A以上までの昇格を予定する昇格管理を行う一方,高卒女性社員
については,高卒男性とは別の昇格基準,即ちG3までは男性と
同じく年功で昇格するが,G2以上への昇格には同学歴男性より
長い年限を必要とし,一定の等級(S2)以上への昇格を想定し
ないものを設けて昇格管理を行っていたとみることができる。
このような取扱いは,まさしく,労働者の昇進について,女子
労働者に対して男子労働者と均等な取扱いをしないことを積極的
に維持していたということができる。
これに対し,控訴人が,女子労働者に対し男子労働者と均等な
取扱いをすることを実現するために,いかなる努力をしたか,そ
れに対し,その努力が目的を達成するのを妨げるどのような障害
があって平成5年に至っても学歴が同じ高卒でも男子と女子で顕
著な差のある前記のような職能資格等級昇格の運用をしていたの
かを明らかにする証拠はない。そして,控訴人の企業規模(大企
業であるから,法律の改正,施行などに関する情報に精通してお
り,それに伴う措置をとるための努力が必要なことを当然知悉し
ていたと考えられる。他方,従業員が多いため,必要な措置の検
討及びその実施にかかる時間が,中小企業に比べて,長く必要で
あるという面もある,業種,均等法施行の時点における男女間。)
における取扱いの不均衡等の程度,社内での制度改正施行までの
周知期間の必要性,一般企業・国民間における上記意識の変化,
女子労働者を男子労働者と均等な取扱いをすることを実現するた
めに障害となる事由があったことの証明がないことなどを総合考
,慮すれば,均等法が公布された昭和60年6月1日から2年半後
同法が施行された昭和61年4月1日から1年9か月を経過した
昭和63年1月1日以降,控訴人が現実に採用していた前記認定
,の滞留年数表に記載されたのと同旨の男女の差別取扱いを維持し
被控訴人の職務職能等級を合併に伴う移行の際格付けされるべき
であったG1から更に昇格させないのみか,G2のままに据え置
いた措置は雇用関係の私法秩序に反し,違法であり,少なくとも
過失による不法行為が成立すると認めるのが相当である。
(d)昭和石油及び控訴人の上記(a)認定の行為,控訴人の上記
(c)認定の行為は一連一体のものとして1個の不法行為を構成
するものと解するのが相当である。
(e)不法行為の成立する限度について更に検討する。
①被控訴人(昭和▲年▲月▲日生)は,平成4年5月31日,
,定年年齢60歳に達する者として控訴人を定年退職したもので
昭和60年1月から同年12月までの職能資格等級はG3,昭
和61年1月以降退職までの職能資格等級はG2であった。
②被控訴人は昭和52年3月から以降は特殊職とともに一般事
務に従事したと解するのが相当であること,この間被控訴人が
担当した業務,職歴は,時代に応じて自ら技術を身につけ,そ
れによって業務を行い,会社に貢献したと見ることができるこ
と,被控訴人は,大多数の高卒男性の場合,せいぜい3,4年
程度とどまると見られるD2に約30年間格付けされ,昇格す
ることがなかったという不利益を受けたこと,合併に伴い,昭
和石油におけるランクから控訴人の職能資格等級に移行するに
あたり,D2ランクの男性と同じくG1に格付けされるべきで
あるところ,何ら合理的な理由なく,男女間で著しい取扱いの
相違があり,これにより被控訴人はG3に格付けられ,その後
,昭和61年1月にG2に昇格されたのみで退職時まで維持され
それまで以上に男子との格付け,賃金の格差が拡大したことな
どの事実が認められることは,前記のとおりである。
③前記1(1)ウ(ア)のaないしcに認定判断した合併後の
控訴人における職能資格等級に関する状況についての男女別の
データ分析の結果,とりわけ,平成4年に標準年齢52歳以上
の高卒男子(管理職になった者を除く)33名の資格等級は,。
S3Bが2名,S3Aが4名,S2が13名,S1が13名,
M4Bが1名とS3A以上が93パーセントに達し,このうち
入社から一貫して事務職であった13名はいずれもS2以上に
格付けされていたことを考慮すると,均等法が昭和60年6月
1日に公布されてから2年6か月後,昭和61年4月1日に施
行されてから1年9か月後の昭和63年1月1日以降前記差別
状態を解消するため,被控訴人に対し,少なくともS3A程度
までの昇格を目標とする措置を講じる努力をするべきであった
のに,それが行われなかったと認められる。その際採るべき措
置は,少なくとも控訴人が既に採用している滞留年数表と同様
の取扱いの高卒男子の例に従い,1ランクごとに最短の滞留年
数によって昇格という方法により実現するのが無理のない現実
的な措置と考えられるのに,それすら行わないままの状態を維
持し放置されたことにより被控訴人が損害を受けたことの限度
で不法行為と認めるのが相当である。
④なお,被控訴人が入社してから退職するまでの約41年間行
った業務の内容,各業務を担当した期間の長短,職歴の中で中
心的位置を占める和文タイプ業務に関する評価などを総合考慮
すると,昭和63年1月1日の時点において直ちに,被控訴人
に対し,被控訴人と同期を含む年齢の近似した高卒男性社員の
平均的な処遇,例えばS2への格付けがされるべきであったこ
とにはならない。
5損害
(1)損害の発生
被控訴人は,控訴人の不法行為に基づく損害として,昭和60年1月1
日以降,合併に伴い,昭和石油におけるランクから控訴人における職能資
格等級に移行するに当たり差別的取扱いがなければ受けることができたで
あろう損害及び昭和63年1月1日以降職能資格等級の昇格についての雇
用関係についての私法秩序に反する取扱いを受けたことによる損害の賠償
請求権を取得したものであるので,その具体的損害額について検討する
(後記(2)のとおり消滅時効の問題があるので,最終的な損害額がどの
ような結論になるかは,更に後記(3)で検討する。。)
ア月例賃金及び賞与の差額相当損害額
(ア)被控訴人は,昭和60年1月,合併に際しG1に移行して格付け
されるべきところG3に格付けされ,昭和61年1月にG2に昇格し
た。昭和63年1月1日の時点において,G1に格付けされるべきで
あった昭和60年1月1日から3年を経過していたのであるから,滞
留年数表の高卒(男子)の最短に従い,S3Bに昇格されるべきであ
り,その後4年を経過した平成4年1月1日の時点において,同じく
滞留年数表の高卒(男子)の最短に従い,S3Aに昇格されるべきで
あったのに,そのようにされなかったものとして損害を算定する。
そして,被控訴人の勤務成績又は勤務態度が,他の社員より劣って
いたことを認めるに足りる証拠がないことを併せ考えると,被控訴人
の職務職能定昇評価は,合併時から退職時まで少なくともBであった
と認めるのが相当である。
(イ)具体的な賃金相当の損害額(後記のとおり消滅時効の問題がある
ので,具体的な金額は後に算定することとする)。
a昭和60年1月1日から昭和62年12月31日まで
被控訴人は,G1としての賃金を受けるべきであった。
b昭和63年1月1日から平成3年12月まで
被控訴人は,S3Bとしての賃金を受けるべきであったので,別
紙6「月例賃金,賞与の試算」の「Ⅲ試算3」により算定するこ
ととする。
c平成4年1月1日から同年5月31日まで
被控訴人は,S3Aとしての賃金を受けるべきであったので,別
紙6の「月例賃金,賞与の試算」の「V試算5」により算定する
こととする。
イ退職金の差額相当損害額
(ア)一時払分及び平成18年9月分までの年金分について
a退職金の算定方式
証拠(甲138,139,乙26,原審証人P45)及び弁論の
全趣旨によれば,控訴人における退職金規程において,勤続年数が
35年以上の場合,退職直前の時点における本給に65.25の係
数を掛けた額が退職金の総額となること,企業年金に退職金の半額
を拠出すると,拠出額の1.87倍の額が退職後本人に支払われる
こと,被控訴人に対する退職金は控訴人により2009万5043
円と算出され,被控訴人は,その半額を会社に拠出し,会社年金を
受給することを選択したこと,その年金月額は「拠出額×1.8,(
7)÷180か月」で計算した金額であり,被控訴人の受給した月
額は,平成4年6月から,月額10万4383円であったこと,年
金は年金受給者が死亡した月をもって終了する(死亡するまで支給
される)こと,などが認められる。
bそこで,被控訴人の退職直前の時点におけるあるべき本給は39
万7760円である(別紙6の「月例賃金,賞与の試算」の「V
試算5)から,退職金の総額を計算すると,2595万3840」
円となる。そのうち退職一時金は,その半額である1297万69
20円となり,被控訴人が実際に支給を受けた一時金1004万7
522円との差額は292万9398円となる。
c会社年金は,前記の計算式(拠出額)×1.87÷180か(
月)に従い計算すると,月額13万4815円(1円未満切り捨
て,年額161万7780円となり,平成18年9月分までの会)
社年金の差額を計算すると,別紙1のとおり計523万4304円
となる。
(イ)平成18年10月分以降の退職金の年金分について
平成17年簡易生命表によれば,74歳女性の平均余命は15.5
9年であることは公知であるから,1年当たり36万5184円の差
額に15年のライプニッツ係数(年金現価表)である10.3797
を掛けると,379万0500円(1円未満切り捨て)となる。
ウ公的年金の差額相当損害額
(ア)控訴人は,被控訴人の附帯控訴による公的年金額の請求額の増額
について,時機に後れた攻撃防御方法と主張するが,これにより訴訟
の完結を遅滞させることとなったとは認められないことから,同主張
は理由がない。
(イ)公的年金の差額相当損害額は,公的年金が平均標準報酬月額を基
礎として算定するから,後記消滅時効の問題を判断した後に,検討す
ることとする。
エ慰謝料
合併に伴い,昭和石油におけるランクから控訴人における職能資格等
級に移行するにあたり,男女間で著しい取扱いの相違があり,それによ
り,それまでの男女間における昇級管理方法の相違などに起因して既に
存在した男女間の処遇上の差異が更に拡大したもので,合併に伴う移行
において男女間で著しい取扱いの相違が生じたことについて,納得でき
る理由(能力,勤務成績など)は,本件証拠上見当たらないこと,合併
に伴う昭和石油におけるランクから控訴人における職能資格等級への移
行という同一の機会に,男女間で著しい取扱いの相違があったというこ
とは,組織的,意図的にされたものであることは明らかであり,その状
態をその後も維持継続したこと,均等法施行後も,控訴人は前記認定の
とおり同法8条の趣旨を含む雇用関係についての私法秩序を基準として
判断して違法な状態を維持継続したこと,これらにより被控訴人が受け
た被害感情,不利益感が大きいと思料されることなど,本件記録に顕れ
た一切の事情を総合考慮した上,本件において財産的損害が賠償される
ことによっては償うことのできない精神的苦痛に対する慰謝料の額を2
00万円と定めるのが相当である(後記のとおり,本件において消滅時
効の成立を肯定するが,上記の金額は,その事実を考慮に入れた上で,
時効の完成しない時期の不法行為についての慰謝料の額を算定したもの
である。。)
(2)消滅時効について
ア時機に後れた攻撃防御方法との被控訴人の主張について
控訴人が,原審において,不法行為の成立を争ったが,その主張が容
れられず,敗訴するに至り,当審において,控訴理由書において消滅時
効の主張を記載した上,控訴審の開始と共に消滅時効の主張をしたとい
う経過があることは,当裁判所に顕著である。そして,控訴人が消滅時
効の主張をするに至った以上のような経過などから,控訴人の上記主張
は,時機に後れて提出されたものとは認められない。
以上から,被控訴人の主張は採用できない(なお,この点は,後記の
損益相殺の主張も同じである。。)
イ認定事実
前提となる事実(原判決を引用,証拠(甲1,2の各1・2,甲1)
2,28,29,31の1,甲118,119,124,131,17
3,195,被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
(ア)被控訴人は,入社20年目の昭和46年ころ,自分より10年後
に入社した高卒の男性社員から「年上の女は使いにくい」と上司の。
ような言い方をされ,自分より資格も賃金も逆転して上になっている
らしいことを知り,悔しくて一晩悔し涙を流したことがある。
(イ)合併前の昭和石油の時代,被控訴人は,自己の格付けがDという
ランクであることは知らされていたが,Dの中の細分ランクについて
は,知らされていなかった。被控訴人は,会社から正式にランクに関
,する説明を受けたことはなかったが,D,E,Fというランクがあり
E,FはDより上のランクであることは知っていた。勤続年数の短い
,人はD,男性の場合は,EとFに上がっていけると当時認識しており
,自分よりかなり年下の男性がFというランクであることを聞いたから
自分はDの中でもD1であると考えていた。
(ウ)被控訴人は,昭和59年10月4日付け昭和石油人事部作成の
「新会社における人事諸制度の概要及び労働諸条件等について」と題
する書面(甲131)を,そのころ職場で配布されたが,そこには,
職能資格制度の目的,内容の概略が記載され,職群として,監督企画
判定職と一般職に分かれ,一般職の中にはGの1から4まであり,G
3は下から2番目に位置付けられることが記載されていた。
被控訴人は,総務課長から新本給通知書をもらったとき,自分が合
併後G3に格付けされること,そのころ入社3,4年で仕事の全くで
きない和文タイピストの女性社員と自分が同じ格付け(G3)である
ことを知って愕然とした。
(エ)被控訴人は,昭和60年5月ころ,P36総務部長と面接をした
際,同部長に対し,自分が合併に当たりG3に格付けされたことにつ
いて抗議したところ,同部長から,合併に当たり昭和石油の女性は一
律にG3に格付けされたこと,だから損をする人もいたでしょうとい
う返答を聞き,憤りを覚えた。被控訴人は,以上のような抗議をした
翌年の昭和61年1月,G2に昇格した。
(オ)被控訴人は,毎年公表される「資料と報告」と題する冊子(そこ
に記載されている内容は前記のとおりである)のうち,少なくても。
昭和39年ころ及び57年ころのものを読んだ(当審における本人尋
問。)
(カ)本訴提起後,被控訴人は,滞留年数表を初めて見ることとなった
が,それを見て,自分がずっと考えていたとおりのことがその文書に
表われていると思った(当審における本人尋問。)
(キ)被控訴人は,平成3年にP29と出会い,同人の助力を得て,在
職中の同年12月に東京都中央労政事務所に男女差別の是正を求める
。あっせんを申請したが,平成4年8月にあっせんは打ち切りとなった
同年9月,被控訴人は東京都の職場における男女差別苦情処理委員会
に調整の申立てをしたが,控訴人は,被控訴人の求めた資料の提出を
拒み(甲29,平成5年12月に調整は不能となった。そこで,被)
控訴人は,平成6年3月8日,本訴を提起した。
ウ判断
以上の事実に基づき判断する。
被控訴人は,会社から知らされていた事実は「新会社における人事,
諸制度の概要及び労働諸条件等について」と題する書面(甲131)や
自分のランク(細分されたランクを除く)程度であったが,昭和26。
年3月20日昭和石油にアルバイトとして勤務し始め,同年8月1日に
正式に採用され,その後継続的に職場で労務を提供し続けてきたのであ
るから,その間,後輩男性の発言,総務部長などの上司との面接「資,
料と報告」と題する冊子などから,上記認定のような会社内に男女間格
差が存在し,自己が不利益を受けていることを認識していたと認めるの
が相当であり,当裁判所が不法行為の成立を肯定した昭和60年1月1
日以降の時点においても,賃金等の支払を受けるたびに,損害及び加害
者を認識していたものと推認される。その当時「資料と報告」に記載,
されていることを超えて,他の従業員の格付け,賃金等を正確に把握す
ることはできなかったが,そのことから損害の発生を認識していなかっ
たということにはならない。
控訴人が当審の第1回口頭弁論期日(平成15年8月5日)において
消滅時効を援用したことは顕著であるから,本訴が提起された平成6年
3月8日から遡って3年より前の不法行為による損害賠償請求権につい
ては,時効により,消滅したこととなる。
エ時効援用権の濫用との被控訴人の主張について
被控訴人は,控訴人の時効援用権の行使が濫用であると主張するが,
本件証拠上,同主張を認めるに足りる証拠はなく,同主張は採用できな
い。
被控訴人は,控訴人の上記主張が時機に後れて提出されたことを根拠
の1つとするが,そのように言えないことは,前記のとおりである。更
に,被控訴人は控訴人が,本訴の提起の前後を通じて資料を明らかにし
ないことを根拠の1つとして主張する。確かに,控訴人は被控訴人に対
し,資料等の開示を積極的行うことがなかったことは甲29号証及び本
件記録上明らかであるが,控訴人が被控訴人に対し資料等の開示を積極
的行うことがなかったことが原因で被控訴人が控訴人に対し訴訟を提起
することができなかったとは認められず(被控訴人がもっと早く訴訟を
提起し,同訴訟の中で民事訴訟法に定められた法的な制度,手続を利用
して,控訴人から,資料等の開示を求めることも十分可能であったはず
である,本訴における控訴人による消滅時効の援用が濫用になるもの。)
ではない。
以上から,被控訴人の同主張は採用できない。
(3)消滅時効の完成を前提とした損害額の検討
本訴が提起された平成6年3月8日から遡って3年より前の不法行為に
よる損害賠償請求権は,時効により消滅したから,前記認定の損害額につ
いて更に検討する。
ア月例賃金及び賞与の差額相当損害金
(ア)一旦発生した昭和60年1月1日から平成3年2月末日までの賃
金の差額相当の損害は,消滅時効の完成・援用により消滅した。した
がって,賃金相当額は,平成3年3月1日(同月分の月例賃金の支払
日は同月20日(20日が休日なら,その前の平日)なので,同月分
全額が消滅していないことになる)から平成4年5月31日までの。
分だけを認容すべきである。
平成3年3月1日から同年12月31日までについては,S3Bに
よる支給額694万1581円(年間合計額774万7393円から
同年1,2月分の基準内賃金(1か月当たり40万2906円)を除
いた額。なお,被控訴人は,月例賃金及び賞与の額についての控訴人
の主張を明らかに争わない)と被控訴人に対し実際支給された(そ。
の金額について,当事者間に争いがない)546万5470円(年。
間合計額610万8152円から同年1,2月分の基準内賃金(1か
月当たり32万1341円)を除いた額)との差額である147万6
111円が損害である。
平成4年1月1日から5月31日までについては,S3Aの月例賃
金及び賞与の合計420万4786円と被控訴人に対し実際支給され
た316万6914円との差額103万7872円が損害である。
以上の合計は251万3983円である。
(イ)上記のとおり,当裁判所は,月例賃金及び賞与の差額相当額を損
害と認定するが,月例賃金及び賞与の額が高くなれば,年金保険料の
本人負担分も増加するのであり,本件では被控訴人は公的年金の差額
相当額をも損害として請求し,当裁判所はこれを認容するのであるか
ら,月例賃金及び賞与の差額相当損害額の認定に当たっては,年金保
険料の増額分も控除すべきものである(控訴人は,これを損益相殺と
主張するが,むしろ損害の算定に当たり控除される費用類似のものと
考えるのが相当である。。)
証拠(乙65)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人が実際に支払
った年金保険料と被控訴人がS2であった場合支払うべき年金保険料
の差額は,平成3年4月から平成4年5月までの間で計37万210
0円であったことが認められる。当裁判所が認定したのは,平成3年
3月1日から同年12月31日まではS3Bの賃金・賞与(694万
1581円,平成4年1月1日から5月31日まではS3Aの賃金)
・賞与(420万4786円)であり,控訴人が算定したS2より低
い格付けである。そして,S2とS3A,S3Bとの給与・賞与の差
額,それぞれの年金保険料の負担などを考慮すると,前記月例賃金及
び賞与の差額相当損害金から控除されるべき年金保険料は合計30万
円と認めるのが相当である。そこで,この30万円を,平成3年3月
から12月までの10か月と,平成4年1月から5月までの5か月と
,月数に比例して,平成3年分20万円,平成4年分10万円に分けて
各年分の差額から更に控除すると,平成3年分の差額相当額は127
万6111円となり,平成4年分の差額相当額は93万7872円と
なる。その結果,月例賃金及び賞与の差額相当損害額は221万39
83円となる。
イ退職金差額相当額の損害金
消滅時効の問題は,退職金差額相当額の損害金の算定の問題には無関
係であるもので,このことは,一時金分,年金分(既発生分,将来分)
を問わないものと解する。その理由は以下のとおりである。
退職金支払請求権は,一時払分でも退職前には権利行使することがで
,きない性質のものである。そして,控訴人における退職金規程において
退職金の額は,退職直前の時点における本給に一定の係数を掛けて算出
することは前記のとおりである。確かに,被控訴人の退職直前の時点に
おける本給がS3Aという当裁判所の認定は,昭和60年1月1日から
控訴人に不法行為が成立することが前提となっている。しかし,平成3
年3月分より前の分については,消滅時効による債務の消滅を肯定する
が,それは消滅時効が完成し,控訴人がこれを援用したことにより,一
,旦発生した被控訴人の具体的な賃金請求権の一部が消滅したにとどまり
同人が退職直前の時点における本給がS3Aという格付けにより支給さ
れるべきとの事実自体に影響を及ぼすものではない。
従って,損害額は前記(1)イのとおりである。
ウ公的年金差額相当額
(ア)これに対し,公的年金は平均標準報酬月額を基礎として算出する
から,平成3年3月分より前の報酬について消滅時効の完成を肯定す
る以上,消滅時効にかからない部分を前提として,その限度で公的年
金差額相当額の認容額を以下検討する。
(イ)まず,再評価後の基準内賃金の差額の合計を算出する。
始期終期実際額認定額差額月再評価率合計
34312331,779415,50383,72491.04783,656
4143332,249427,47895,22931.04297,114
4445343,901442,44098,53921.01199,048
平成3年4月以降の78万3656円,平成4年1月から3月分の
29万7114円,平成4年4,5月分の19万9048円を合計す
ると,127万9818円となる。
(ウ)次に,あるべき平均標準報酬月額と退職時に確定した平均標準報
酬月額の差は次のとおりである。
1,279,818÷490(後記(エ)参照)=2,611
(1円未満切り捨て)
(エ)退職時の平均標準報酬月額は,甲140号証においては,26万
4372円と記載されている。これに対し,証拠(甲178,19
8)及び弁論の全趣旨によれば,甲140号証に記載されたものは被
控訴人が年金受給権を取得した平成3年3月の時点までの保険料納付
(被保険者期間475か月)を前提に計算されたもので,被控訴人は
その後も平成4年5月まで働き続けたため,年金支給開始時には被保
険者期間は490か月となり,平均標準報酬月額もそれに伴い変わっ
た可能性が高いこと,被控訴人に実際に支給された平成4年の報酬比
例部分の年金額(130万7953円)から実際の平均標準報酬月額
を,被控訴人と同じ生年月日・被保険者期間の者に対して支給される
「特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分」の金額(平成4年7月時
点)の計算式(平均標準報酬月額)×9.17(生年月日による乗(
率)÷1000×490(月数)×1.089(物価スライド率))
を逆算すると,26万7300円となることが認められる。
退職時の平均標準報酬月額26万7300円に2611円を加える
と,26万9911円となる。
(オ)被控訴人に支給される年金の内報酬比例部分は,差別がなかった
場合の平均標準報酬月額による年金支給開始時の「特別支給の老齢厚
生年金の報酬比例部分」の金額は,上記計算式に当てはめることによ
って算定することができる。
269,911×9.17÷1,000×490×1.089
=1,320,729(1円未満切り捨て)
これに年金の定額部分98万5912円(弁論の全趣旨)を合計す
ると,230万6641円となる。
(カ)年金額の差額(年当たり)は以下のとおり,6万6704円であ
る。
2,306,641−2,239,937=66,704
(キ)公的年金の過去分
上記金額を前提として,被控訴人が年金の受給を受け始めた平成4
年6月から口頭弁論の終結時の直前である平成18年9月までの差額
を算定する(月数により,平成4年は7か月分(年額6万6704円
の12分の7である3万8910円)と,平成18年は9か月分。
(年額6万6704円の12分の9である5万0027円)と,そ。
れぞれ算定することとする)と,計95万6089円(平成4年分。
は3万8910円,平成5年から平成17年までは計86万7152
円,平成18年分は5万0027円の合計)となる。
(ク)公的年金の将来分
当審の口頭弁論終結時,被控訴人は74歳で,74歳の平均余命は
15.59年である(平成17年簡易生命表。1年当たりの上記差)
額6万6704円に15年のライプニッツ係数(年金現価表)10.
3797を掛けると,69万2367円となる(1円未満は切り捨
て。)
(ケ)過去分と将来分とを合算すると,164万8456円となる。
エ慰謝料
前記(1)エのとおり,消滅時効の完成の事実を考慮に入れた上で定
められたものであるから,更に消滅,減額を考える必要はない。
(4)まとめ
ア以上から,被控訴人の請求中,認容するものの額は,以下のとおりで
ある。
(ア)月例賃金及び賞与の差額相当の損害221万3983円
(イ)退職金差額相当額の損害
a一時金292万9398円
b会社年金(既払い分)523万4304円
c会社年金(将来分)379万0500円
(ウ)公的年金差額相当額の損害
a過去分95万6089円
b将来分69万2367円
(エ)慰謝料200万円
(オ)小計1781万6641円
(カ)弁護士費用270万円
本件事案の内容,困難度,審理の経過,認容額,その他一切の事情
を総合して,相当因果関係のある弁護士費用として,270万円を認
めることとする。
(キ)合計2051万6641円
イ遅延損害金
控訴人は,前記アの(ア(イ(ウ(エ(カ)の各損害に対し,),),),),
。遅延損害金として民法所定の年5分の割合による金員の支払義務を負う
前提となる事実(原判決を引用,証拠(乙12,26)及び弁論の)
全趣旨によれば,月例賃金の支給日が毎月20日(同日が休日の場合は
その直前の平日)であること,賞与の支給時期が夏季賞与が毎年6月,
冬季賞与が毎年12月であること,退職金一時払分の支給日が平成4年
5月29日であったこと,賞与の支給日が当年12月20日(同日が休
日の場合はその直前の平日)以前であること,退職金年金分の支給日が
毎月20日(同日が休日の場合はその直前の労働日)であること,公的
年金の支給日が偶数月の15日(同日が休日の場合はその直前の平日)
であることが認められる。
そして,被控訴人は,前記各損害にかかる遅延損害金の起算日につい
て,別紙2「附帯控訴人請求額一覧表」の各「遅延損害金起算日」欄記
載のとおり主張し,控訴人はこれを積極的に争わない。
これらによると,上記の各損害に対する遅延損害金の起算日は,別紙
1「裁判所認容額一覧表」の各「遅延損害金起算日」欄記載のとおりに
なる。
なお,退職金年金の将来分,公的年金の将来分は,被控訴人請求のと
おり,いずれも平成18年10月24日(不法行為の日以後で,附帯控
訴状の控訴人への送達の日の翌日)が起算日となる。
6結論
よって,控訴人の本件控訴,被控訴人の附帯控訴は主文の限度で理由があ
るから,原判決を主文のとおり変更し,申立て及び職権(附帯控訴により変
。更した部分)により仮執行宣言を付することとして,主文のとおり判決する
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官西田美昭
裁判官犬飼眞二
裁判官窪木稔
別紙1
裁判所認容額一覧表
月例賃金,賞与
被控訴人が本被控訴人に支
月例賃金及び賞与給された金額差額相当額遅延損害金起算日来受けるべき
金員
昭和60年分4,722,576
昭和61年分5,008,322
昭和62年分5,279,111
昭和63年分5,531,902
平成元年分5,677,655
平成2年分5,874,653
平成3年分6,108,1557,747,393
5,465,4706,941,5811,476,111平成3年分のうち3月1日以降の分
平成3年分のうち3月1日以降の5,465,4706,741,5811,276,111平成3年12月21日
分(年金保険料20万円控除後)
平成4年分のうち5月までの分3,166,9144,204,7861,037,872
平成4年分のうち5月までの分3,166,9144,104,786937,872平成4年5月21日
(年金保険料10万円控除後)
合計額2,213,983
退職金
被控訴人が本被控訴人に支
退職金給された金額差額相当額遅延損害金起算日来受けるべき
金員
一時払分10,047,52212,976,9202,929,398平成4年5月30日
年金月額104,383134,81530,432
年金分平成4年分730,681943,705213,024平成4年12月19日
平成5年分1,252,5961,617,780365,184平成5年12月21日(平成4年6
平成6年分1,252,5961,617,780365,184平成6年12月21日月分∼平成1
平成7年分1,252,5961,617,780365,184平成7年12月21日8年9月分)
平成8年分1,252,5961,617,780365,184平成8年12月21日
平成9年分1,252,5961,617,780365,184平成9年12月20日
平成10年分1,252,5961,617,780365,184平成10年12月19日
平成11年分1,252,5961,617,780365,184平成11年12月21日
平成12年分1,252,5961,617,780365,184平成12年12月21日
平成13年分1,252,5961,617,780365,184平成13年12月21日
平成14年分1,252,5961,617,780365,184平成14年12月21日
平成15年分1,252,5961,617,780365,184平成15年12月20日
平成16年分1,252,5961,617,780365,184平成16年12月21日
平成17年分1,252,5961,617,780365,184平成17年12月21日
平成18年分(9939,4471,213,335273,888平成18年9月21日
月まで)
年金合計17,953,87623,188,1805,234,304
平成18年10月分以降の分3,790,500平成18年10月24日
合計額11,954,202
公的年金
被控訴人が本被控訴人に支
給された金額差額相当額遅延損害金起算日来受けるべき
金員
年金分平成4年分38,910平成4年12月16日
(平成4年6平成5年分2,239,9372,306,64166,704平成5年12月16日
月分∼平成1平成6年分2,239,9372,306,64166,704平成6年12月16日
8年9月分)平成7年分2,239,9372,306,64166,704平成7年12月16日
平成8年分2,239,9372,306,64166,704平成8年12月14日
平成9年分2,239,9372,306,64166,704平成9年12月16日
平成10年分2,239,9372,306,64166,704平成10年12月16日
平成11年分2,239,9372,306,64166,704平成11年12月16日
平成12年分2,239,9372,306,64166,704平成12年12月16日
平成13年分2,239,9372,306,64166,704平成13年12月15日
平成14年分2,239,9372,306,64166,704平成14年12月14日
平成15年分2,239,9372,306,64166,704平成15年12月16日
平成16年分2,239,9372,306,64166,704平成16年12月16日
平成17年分2,239,9372,306,64166,704平成17年12月16日
平成18年分50,027平成18年10月14日
過去分956,089
将来分692,367平成18年10月24日
計1,648,456
慰謝料
金額遅延損害金起算日
2,000,000平成4年5月31日
弁護士費用
金額遅延損害金起算日
2,700,000平成4年5月31日
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