弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2被告は,原告に対し,平成21年3月から本判決確定に至るまで,毎月22
日限り,月額62万0800円の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,原告が,被告の原告に対する解雇の意思表示は解雇権を濫用した無
効なものであると主張して,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあ
ることの確認及び賃金の支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実。
認定に用いた証拠は認定事実の末尾に記載する。)
(1)被告は,P1大学(以下「本件大学」という。)等を運営する学校法人で
ある。本件大学の施設は,αと横浜の2か所に分かれて存在している(以下,
これらの施設を「αキャンパス」及び「横浜キャンパス」という。)。
(2)原告は,昭和51年3月,P2大学大学院工学研究科計測工学専攻修士課
程を卒業後,同年4月から平成3年4月までP3(入社時点は○○)に,同
年5月から平成15年12月までP4株式会社に,平成16年1月から同年
11月まで株式会社P5にそれぞれ勤めていた者である。
[甲96]
(3)原告は,平成18年10月16日,被告との間で,下記内容の労働契約(以
下「本件労働契約」という。)を締結した。
配属先:P1大学国際交流センター(以下,単に「国際交流センター」
という。)
業務内容:海外の提携先大学との間で,交換留学生の派遣及び受入れに関
する業務の企画とマネジメント
役職:次長(主事)
[甲1,乙1]
(4)原告は,平成19年3月1日,P1大学学長室次長付き調査役に異動した
(以下,P1大学学長室を単に「学長室」という。)。
(5)原告は,平成20年1月1日,P1大学図書館長付き調査役に異動した(以
下,P1大学図書館を単に「図書館」という。)。
(6)被告は,平成21年1月26日,原告に対し,同年2月27日付けで解雇
する旨の意思表示をし(以下「本件解雇」という。),下記の解雇理由を記
載した解雇通知書(以下「本件解雇通知書」という。)を交付した。
「本学院は、2006年10月16日付で貴殿が高度な英語能力とマネジ
メント能力を有するものとして、大学の国際交流業務を行う上級の管理職
(次長)として中途採用しました。しかしながら、就任後、貴殿が期待され
たマネジメント能力を有していないため、組織運営に極めて重大な支障を
きたすまでに至り(英語能力の活用もありませんでした)、やむなく200
7年2月28日に同職を解任しました。
本来ならばこの時点で、貴殿に退職を求めるべきであったところ、貴殿
の将来に配慮し、二度にわたり、大学の別の部署に異動させ、一般職の業
務に配属しました。しかし、いずれの部署においても十分に業務を遂行す
ることができず、また組織運営に極めて重大な支障をきたすに至ったもの
と認めざるを得ませんでした。
以上のことから、本学院としては、貴殿の解雇はやむを得ないものと判
断せざるを得ず、学長の同意を得て、上記のとおり通知いたします。
(就業規則第16条第1項第4号による)」
[甲7]
(7)被告の就業規則の第1章及び第3章には,以下の規定がある。
「第1章総則
第1条この規則で勤務員とは,P1に勤務し俸給を受ける者をいう。
ただし,学院長は勤務員に含まれない。
2(省略)
第3章任命,休職,退職および解職
第10条勤務員の任命は,次の方法による。
(1)~(5)(省略。ただし,(2)は,校長,総主事,財務課長及び
宗教主任についての規定である。)
(6)第2号に定める者を除き,職員の任命は所属の長に諮って,
学院長がこれを行なう。
第11条~第15条(省略)
第16条勤務員が次の各号の一に該当するときは,30日前に予告し,
2ケ月分以上の平均賃金を支給して,これを解職することができ
る。
(1)精神もしくは身体の障害によって業務に堪えられないと認
められたとき。
(2)教員にあっては,担当の学科目または講座が廃止されたと
き。
(3)職員にあっては,担当業務が変更もしくは縮小されたとき。
(4)その他前各号に準ずる程度のやむを得ない事情があるとき。
2第10条の規定は前項の解職について準用する。ただし,同条
に「任命」とあるのは「解職」,「推薦する者」とあるのは「解
職を行なおうとする者」と読み替えるものとする。」
[乙18]
3争点
(1)本件解雇の効力の有無(以下「争点①」という。)
(2)原告の賃金請求権の有無(以下「争点②」という。)
4争点①(本件解雇の効力の有無)に関する当事者の主張
(1)被告
ア国際交流センター次長在職中の原告の業務状況
(ア)国際交流センターは,本件大学の国際交流担当副学長,教務部長,
学生部長,国際交流センター長等が構成員である国際交流委員会が,P
1大学国際交流委員会規程(乙2)に基づいて審議した国際交流の基本
政策に基づく国際交流事業を行うことを業務とし,その中には,留学に
ついて本件大学と協定している海外の大学(以下「協定校」という。)
と本件大学との間の交換留学生の面倒を見ることが含まれる。
(イ)原告は,国際交流センターの管理体制を充実するために,高度な英
語能力とマネジメント能力を有する上級の管理職(次長)として,被告
に雇用された者であり,その業務は,協定校との間で交換留学生の派遣
及び受入れに関する業務の企画と組織のマネジメントをすることであっ
た。
(ウ)しかし,原告は,以下のとおり,国際交流センター次長に就任中,
同センターにおいて,その組織運営及び業務運営に極めて重大な支障を
及ぼした。
a着任直後の不適切な就業状況
(a)原告は,着任翌日から,国際交流課の職員に対し,質問を山の
ように浴びせかける一方,職員の説明を途中から聞かないというこ
とが度々あった。
(b)同センター国際交流課長のP6(以下「P6課長」という。)
は,原告に本件大学の国際交流を理解してもらうために,原告に対
し,「大学案内」,「留学ハンドブック」(派遣留学生用),「U
C・ISPハンドブック」(交換留学生用),「正規留学生ハンド
ブック」(4年間本件大学で学ぶ留学生用)等を交付したが,原告
は,これらを一読した様子がなく,P6課長及び職員に対して質問
を浴びせかけた。
(c)原告は,一度説明された事項について,同じ質問を繰り返した
り,既に交付されたデータを再度要求するなどして,職員を困惑さ
せた。
(d)原告は,職員に対して個別面談を複数回行い,その際,他の職
員の印象や行動を聞いた上,これを別の職員に歪曲して伝えるなど
し,国際交流センター長のP7(以下「P7センター長」という。)
及び職員との間に誤解,相互不信を招きかねない行動をとり,また,
職員を困惑させた。
b不適切な窓口対応
国際交流センターにおける窓口対応上の問題は,同センター限りで
対応して処理すべきものであるところ,原告は,一人勤務していた土
曜日に本件大学の大学院生から電話による問い合わせを受けた際,的
確な対応ができず,同大学院生との窓口対応について,直接,本件大
学の学長であったP8に報告を行い,P8学長から,窓口対応はP6
課長に聞くように指示された。
c人事に関する非常識な提案
原告は,上記bの出来事に関して,自らの窓口対応の不手際を反省
することなく,学生のコミュニケーション能力の欠如を指摘するとと
もに,窓口・電話対応の専門家として,臨床心理士の資格を持った派
遣職員を採用すべきであると判断し,本件大学人事部にその要請をし
た。
dマネジメント能力に欠けた不適切な業務指示等
原告は,国際交流センターの現状を把握しないまま,以下のとおり,
職員に対し,次々に不要,不急の平常業務外の仕事を課し,同センタ
ー内の業務を過剰にし,かつ,混乱させるなど,マネジメント能力に
欠けた業務状況であった。
(a)無意味な業務の指示
原告は,平成18年11月19日,職員全員に対し,「プラダを
着た悪魔」という映画を観て,その物語展開から,すべての映画に
おける物語展開の共通点が何かを考え,それを抽出し,聞かせるこ
とを指示した。
(b)P6課長の勤怠管理業務と重複する業務の指示
原告は,同月22日,職員全員に対し,情報共有化を目的とする
との理由を挙げて,週報として,今週金曜日(又は土曜日)から,
各自の,①今週の成果,②超過勤務時間実績,③来週の予定及び④
来週の総超過勤務時間予想を,毎週金曜日(又は土曜日)の24時
までに,職員全員,P7センター長及び副学長のP9宛てにメール
送信するよう指示した。
(c)改革のための強引で不適切な業務の指示その1
原告は,同年12月20日,課長以下の職員に対し,各担当業務
の手順を文書化する作業の開始日と終了予定日を同日中に返送する
ようにメールで指示した。
(d)改革のための強引で不適切な業務の指示その2
原告は,平成19年1月5日,同月1日付けで異動したP6課長
に対し,同月19日までに担当業務手順文書の作成を要請した。
(e)改革のための強引で不適切な業務の指示その3
原告は,同月8日,職員に対し,担当業務の優先順位付け,リス
クマネジメントのための各業務についてのリスク評価として失敗の
列挙及びそれぞれについて点数化を要請した。
(f)アルバイト職員への不適切な対応
原告は,アルバイト職員にもメールアドレスを取得させ,専任職
員との区別をせずに,アルバイト職員に仕事を与え,困惑させた。
(g)原告は,職員に対して方向性のずれた指示を行い,職員の仕事
に対する意欲を減退させた。
e上司の指示のない遠隔授業の推進
原告は,同年2月ころ,国際学部が開講している留学生及び日本人
学生のための英語による授業を遠隔授業として本件大学αキャンパス
で行うシステムを導入することについて,独断で,P10国際学部長
ほか1名の教授との間で会合を開き,進行させようとした。
f英語能力の不活用
原告は,平成18年10月24日に催された米国P11カレッジの
教授の来校歓迎昼食会において,同教授と会話をするなどの接客をせ
ず,その職責を果たさなかった。
gその他の不適切な言動
原告には,以下のとおり,国際交流センターを組織として運営しよ
うという意思も行動もなかった。
(a)原告は,同センターの日常業務に手を出そうとしなかった。
(b)原告は,自分の責任にかかわるようなことは一切手を付けよう
とせず,上司や職員に行わせた。
(エ)学長室次長付き調査役への異動
aP7センター長は,原告に対し,原告の業務態度等の是正を求めた
が,改まらず,平成18年12月ころには,原告が国際交流センター
で勤務を続けると,同センターの組織の運営や日常業務への支障が継
続し,組織としての機能が全うできない状況になった。そこで,P7
センター長は,同月ころ,本件大学人事部長のP12に原告の異動を
申し入れた。
b本件大学人事部は,国際交流課長及び職員に対する事情聴取を行う
方法で調査をし,その結果,原告を速やかに他部署へ異動させるべき
であるとの結論に至り,学長室次長付き調査役に異動することを決め
た。
c原告は,平成19年3月1日付けで,学長室次長付き調査役に異動
した。
イ学長室次長付き調査役在職中の原告の業務状況
(ア)原告の学長室次長付き調査役としての業務は,学長室次長が指示す
る業務に従事することであった。
(イ)しかし,原告は,以下のとおり,学長室次長付き調査役に就任後,
学長室の組織運営及び業務運営に極めて重大な支障を及ぼした。
a認証評価業務の不着手
原告は,学長室企画課が所掌する認証評価制度に係る業務を命じら
れ,同課課長のP13(以下「P13企画課長」という。)から同業
務の内容について説明を受けたが,同業務の必要性や評価の意義につ
いて議論をするばかりで実際に同業務に着手せず,また,平成19年
度における認証評価業務としてのプレ認証のフィードバック業務に全
く着手しなかった。そのため,P13企画課長は,これらの業務のか
なりの部分を補った。
bデータベース入力作業の懈怠
原告は,学長室教育研究支援課の所掌業務である教員業績データベ
ースの入力作業を命じられ,同課職員から同作業の説明を受けたが,
入力する情報の収集方法について質問や議論をするばかりで,同作業
を進めず,このような仕事は向かないなどと不満を述べた。結局,原
告に対する同作業の従事命令は取り下げられた。
c電話対応の回避
原告は,その業務である電話対応を避ける態度をとり,注意を受け
ても改善しなかった。
d不適切な入試業務
原告は,担当した入試業務に関して,事前に行われた入試業務説明
会で寝てしまい,後日,入試業務の内容を質問したり,入試当日,受
験生のための椅子に座るなどして,受験生からクレームが寄せられた。
e不適切な執務態度
原告は,与えられた業務に関心がない態度であり,責任を持って業
務を遂行する姿勢に欠けており,周りの職員の仕事状況の如何にかか
わらず質問するなどした。その結果,原告は,自分の業務をしないだ
けでなく,他の職員の業務の妨げになった。
f業務外の業務への従事
原告は,以下のとおり,P13企画課長から,学長室における業務
と関係のないことを止めるように言われたにもかかわらず行った。
(a)原告は,国際学部の遠隔授業について,提案,協議をした。
(b)原告は,本件大学の食堂の改革にかかわった。
(c)原告は,認証評価業務を行うべき日に学外の研修に参加しよう
とした。なお,原告は,学長室次長(後に学長室長事務取扱)のP
14(以下「P14学長室次長」という。)から業務命令が出され
て,ようやく同研修への参加をあきらめた。
g業務指示書の無視
原告は,P14学長室次長及びP12人事部長から,業務指示書を
もって勤務態度(勤務時間を勝手に変更,就業時間中に私的な読書を
することなど)の改善を指示されたが,改善しなかった。
(ウ)図書館長付き調査役への異動
原告は,平成20年1月1日付けで,図書館に異動した。
ウ図書館長付き調査役在職中の原告の業務状況
(ア)原告の図書館長付き調査役としての業務は,図書館の職員が担当し
ていた通常の業務と同じものであり,特別なものはなかった。
(イ)原告は,以下のとおり,その従事したカウンター業務を適切に遂行
することができなかった。
a不適切な執務態度
原告は,カウンター業務従事中,以下の執務態度がみられ,注意を
受けても改善しなかった。
(a)原告は,執務時間中に,原告の携帯電話に掛かってきた電話に
出ることがしばしばあった。
(b)原告は,執務時間中に,業務と無関係な本を度々読んでいた。
(c)原告は,カウンター業務に従事中に腕組みをしたり,足を組ん
で座ったりするなど,執務態度が悪く,上司から何度も注意を受け
たが改善しなかった。
(d)原告は,5階カウンターで業務に就いていた時,執務室とカウ
ンターとの間の扉を開けるように注意されていたのに,これを守ら
ず,利用者に迷惑を掛けた。
b不適切な業務遂行
原告は,以下のとおり,独断で業務をしたり,受けた指示とは異な
る処理を意識的にすることが多く,それについて注意されると,反省
することなく議論を持ち掛け,職場を混乱させた。
(a)購入希望図書情報の不適切な管理
原告は,購入希望図書に係る業務を担当した際,図書購入希望に
係る電子情報を管理する方法について,図書館利用サービス・電子
情報課の利用サービス係主任のP15の説明,指示に反して,独断
で指示された方法でない方法により当該電子情報の管理をした。ま
た,P15主任から,当該管理方法が指示に違反したものである旨
を指摘された際,原告の方が正しいなどと主張して,P15主任と
口論になった。
(b)ILL料金の過少徴収
図書館利用サービス・電子情報課では,カウンター業務の一つと
して,学生からの他大学等の図書館所蔵の図書のコピーの入手依頼
事務及びこれに係る料金(ILL料金)の本件大学が発行する証紙
による納付事務を扱っているところ,原告は,平成20年10月1
日,ILL料金を収受する業務に就いていた時に,独断で10円少
なく徴収し,これについて注意されても,事後処理をせず,その問
題性の認識がなく,反省もなかった。
原告は,同月2日の朝会において,図書館利用サービス・電子情
報課長であったP16(以下「P16課長」という。)から,IL
L料金の収受は請求金額どおり正しく収受するように言われ,さら
に,同月9日,図書館次長であったP17及びP16課長から,過
少徴収について注意を受けたが,過少徴収について問題意識がなく,
反省も見られなかったことから,始末書の提出を命じられ,同日,
始末書を提出した。しかし,始末書の内容は,反省していることが
うかがわれないものであった。
(c)ILL料金の過大徴収
原告は,上記始末書を提出した日から1週間後の同月17日,カ
ウンター業務に就いていた時に,独断で学生からILL料金を正規
の額より30円多く徴収した。原告は,これについて他のILL担
当者から注意を受けたが,学生が了解した,多ければ問題ないだろ
う,多くて何が悪いのかなどと言って自己の行為を反省することな
く,過大徴収の問題性を意識していない発言をし,また,原告に対
応したP16課長を相手に,長時間にわたり議論を続けた。以上の
ことについて,同月20日,P17図書館次長から原告に対し,口
頭で厳重注意がされた。
(d)紛失・汚損図書の弁償業務におけるメールの誤送信
原告は,カウンター業務の一つである紛失・汚損図書の弁償業務
(貸出図書が紛失したり,返却後に汚損が発見された場合,借出人
に弁償を求める業務)に関して,同年11月4日,借出人でない学
生にメールを送信した。この誤送信が同月7日に発覚し,P15主
任は,原告に対し,注意をして,正しく借出人にメールをし直すよ
うに指示をしたが,原告には反省する態度がなかった。
(e)予約図書業務に係る不適切なメール送信
原告は,カウンター業務に関して,同月7日に交代者から引継ぎ
を受けて予約図書に関するメールを学生に送信した際,不十分な内
容のメールを送信した。そのため,翌日のカウンター担当者に混乱
が生じ,また,事後処理のために他の職員が時間外勤務をすること
になる事態となった。原告は,以上の事態の原因が原告にあること
を認識せず,反省もしなかった。
(ウ)本件大学学院長であったP18は,上記アの国際交流センターにお
ける原告の問題のある業務状況,それにより学長室次長付き調査役に配
置換えされた後の上記イの学長室における原告の問題のある業務状況,
さらにそれにより図書館長付き調査役に配置換えされた後の上記(イ)の
図書館における原告の問題のある業務状況からして,就業規則16条1
項4号により原告を解雇することがやむを得ないと判断するに至り,平
成20年11月11日,原告の所属長であるP19学長に諮った上,原
告を解雇することを決定した。
なお,P18学院長は,原告の将来を考え,解雇を告知する前に,自
主的に退職する機会を与えるため,同年12月4日及び同月24日の2
回にわたり,P18学院長の意を受けた本件大学大学事務局長のP20
及び本件大学人事部長のP21をして,原告に対し,退職を勧奨したが,
原告が拒否したため,平成21年1月26日,P18学院長の命を受け
た本件大学法人事務局長のP22から,原告に対し,本件解雇の意思表
示をし,本件解雇通知書を手交した。
(2)原告
ア原告の業務内容
(ア)本件大学執行部は,民間の経営手法を大学に導入するために民間企
業からの有能な人材を登用するという方針を有していた。原告は,同方
針の一環として採用された。
(イ)国際交流センター次長の業務は,留学について本件大学と協定校と
の交換留学生の面倒を見ることが主たるものであったが,その他に国際
交流事業全般にわたっていた。なお,同センター長は,学部教授が兼務
していたことから,原告が同センターの実質的な運営一切を任される立
場にあった。
(ウ)学長室次長付き調査役の業務は,学長の下で,平成20年に大学評
価機関への申請を予定していた本件大学の認証評価に関する業務の実質
的プロジェクト・マネージャーとして,大学組織内に自己点検をする機
能を構築するというものであった。
(エ)図書館長付き調査役の業務は,図書館カウンターで利用者の相談に
応じたり,本件大学のゼミ授業の一環として図書館の利用法や情報検索
法のガイダンスをするなどというものであった。
イ被告が主張する解雇事由についての認否,反論
原告には,以下のとおり,被告が本件解雇の理由とした解雇理由に該当
する事実はない。したがって,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,
社会通念上相当と認められないものであり,解雇権を濫用したものとして
無効である。
(ア)上記(1)ア(ウ)の主張について
a同a(a)~(c)の事実はない。
同a(d)は,原告が国際交流センターの職員に対して個人面談をし
たことは認めるが,職員の業務内容や業務遂行上の問題点を把握する
ために必要な範囲で行ったものであり,職員の相互不信を招いたり,
職員に困惑をさせるようなことはなかった。
b同bは,原告の大学院生に対する窓口対応は適切なものであったし,
P8学長に報告したことについては,P8学長から感謝されている。
c同cは,要請したことは否認する。原告は,窓口業務に関して専任
職員の負担を減らして付加価値の高い本業に専念させるため,本件大
学人事部に対し,窓口業務を担当する者としてコミュニケーション能
力を備える臨床心理士の資格を有している派遣職員が望ましいという
意見を伝えたにすぎない。
d同d(a)は,職員の能力向上を図るために行ったものであるが,原
告の真意が伝わらなかったかもしれない。
同d(b)~(e)は,同センターにおける業務の中長期的な効率化,
ミスの減少,勤務状況の共有化等を図るために必要なものとして指示
したものであり,これについてはP7センター長も了解していた。
同d(f)は,アルバイト職員にメールアドレスを取得させたことは
認める。これは,既に10数年も同センターで就労し,同センターの
業務に精通していたアルバイト職員に対してメールアドレスを取得さ
せ,同職員の能力を有効に活用しようとしたものである。
同d(g)の事実はない。
e同eは,原告が,国際学部が開講している留学生及び日本人学生の
ための英語による授業を遠隔授業として本件大学αキャンパスで行う
システムの導入に向けた準備業務を行ったことは認めるが,原告は,
これを独断で行ったのではない。原告は,以上の準備業務を,P8学
長及びP7センター長の了承の下,P7センター長に報告,相談しな
がら進めた。
f同fの事実はなく,本訴に至るまでこの点が問題とされたことはな
い。
g同g(a)及び(b)の事実はない。
(イ)上記(1)イ(イ)の主張について
a同aは,原告が命じられた認証評価業務を行わなかったという事実
はない。原告は,学長室に異動後直ちに同業務に着手し,異動時から
2週間後の平成20年3月16日に開催された大学評価説明会におい
て,同業務の解説を行ったほか,その後も積極的に同業務を行った。
b同bは,原告が命じられた教員業績データベースの入力作業を行わ
なかったという事実はない。原告は,同作業の従事命令を取り消され
ることなく,同データベースを作成している。
c同c~eの事実はない。
d同f(a)~(c)の事実はない。なお,同f(c)で指摘されている原
告が出席しようとした学外の研修とは,P2大学・P3共催のシンポ
ジウムである「ユビキタス先導~産学連携の未来~」であるところ,
産学連携は大学認証評価における主要な項目の一つであった。そして,
同シンポジウムの開催日であった平成19年7月20日は,学長室が
担当していた認証評価業務に関して重要な日ではなかったので,原告
は,同日午後に有給休暇を取り,同シンポジウムに参加した。
e同gは,P14学長室次長が原告に対して業務指示書を出したこと
は認めるが,同書に書かれているような事実はない。
(ウ)上記(1)ウ(イ)の主張について
a同a(a)~(d)の事実はない。このような事実があれば原告をカウ
ンター業務に就けることはあり得ないところ,原告は,他の職員より
も多くカウンター業務に就いていたのであり,この事実は,原告のカ
ウンター業務が良好であったことを示している。
b同b(a)の事実はない。
同b(b)のうち,原告がILL料金を10円過少に徴収したこと,
同b(c)のうち,原告がILL料金を30円過大に徴収したことがあ
ったことは認めるが,原告は,これらの行為について反省し,その後
は同様の料金徴収に関する問題を起こしていない。原告は,ILL料
金の徴収に関して,被告から事前に指示,注意を受けておらず,事後
的に誤りを指摘されたにすぎない。
同b(d)の事実はない。
同b(e)の事実はない。
5争点②(原告の賃金請求権の有無)に関する当事者の主張
(1)原告
ア本件解雇時点における原告の賃金は月額62万0800円であり,その
支払日は毎月22日である。
イ被告は,原告に対し,平成21年3月分以降の賃金を支払わない。
(2)被告
上記(1)は認める。しかし,本件解雇は有効であるから,被告には原告主張
の賃金支払義務はない。
第3当裁判所の判断
1争点①(本件解雇の効力の有無)について
(1)原告が配置された部署が扱う事務
証拠(乙20,22,35)によれば,以下の事実が認められる。
ア本件大学には,大学一般の事務及び被告から委任された事務を行う事務
組織として事務局が置かれており,事務局は,その所掌事務を行うため,
その下部組織として部,室及びセンターを置いている。また,部,室及び
センターには,課及び事務室が置かれており,さらに,必要に応じて課及
び事務室に係が置かれている。国際交流センター,学長室及び図書館は,
いずれも事務局の下部組織である。
イ国際交流センター
国際交流センターには,課として国際交流課が置かれている。同課の分
掌事務は,①教職員及び学生の国外留学に関する事項,②外国人留学生及
び海外帰国子女に関する事項,③被告及び本件大学が加盟する国際団体と
の連絡又は会議出席等に関する事項,④国際交流委員会に関する事項,⑤
国際交流にかかわる広報活動に関する事項,⑥その他被告から委任を受け
た事項である。国際交流委員会は,国際交流担当副学長,教務部長,学生
部長,大学事務局長,同センター長等を構成員として,本件大学の教職員
及び学生にかかわる国際交流計画の基本方針を策定し,その運用を図るこ
とを目的として本件大学に設置されている組織である。
同センターの上記事務における主な日常業務は,国外に留学を希望する
学生への相談,指導,留学手続,海外からの留学生への相談,指導,入学
手続,協定校からの来校者等に対する応接等である。
同センターは,αキャンパス及び横浜キャンパスのそれぞれに事務室を
置いており,原告が次長として就任する前は,αキャンパス事務室には,
国際交流課長1名,正職員1名及びアルバイト職員1名の合計3名の職員
が,横浜キャンパス事務室には,正職員2名,派遣職員1名の合計3名の
職員が在籍していた。
ウ学長室
学長室には,課として秘書課,企画課及び教育研究支援課が置かれてい
る。このうち,企画課の分掌事務は,①本件大学の長期学事計画及び年次
学事計画の企画,調査,立案に関する事項,②学事にかかわる情報の収集,
分析,調査,統計に関する事項,③教学にかかわる規程の検討に関する事
項,④自己点検・自己評価に関する事項であり,教育研究支援課の分掌事
務は,①ファカルティ・ディベロップメント及び教員評価の企画,調査,
実施補助に関する事項,②教育研究における外部助成獲得のための調査,
学内調整,申請,実施補助に関する事項,③教育研究における内部助成の
企画,立案,学内調整,実施補助に関する事項である。
エ図書館
図書館には,課として資料管理課及び利用サービス・電子情報課が置か
れている。このうち,利用サービス・電子情報課の分掌事務は,①図書及
び資料の利用サービスに関する事項,②参考業務・相互協力に関する事項,
③資料の電子化に関する事項,④逐次刊行物に関する事項である。同課に
は,利用サービス係と電子情報係があり,利用サービス係は,利用者対応
を内容とするカウンター業務,授業のガイダンス等を担当し,電子情報係
は雑誌の受入れ,電子ジャーナル等を担当する。
(2)国際交流センター次長在職中の原告の業務状況について
ア原告の国際交流センター次長の業務内容
(ア)上記第2の2の前提事実(以下,単に「前提事実」という。)並び
に証拠(認定に用いた証拠は認定事実の末尾に記載する。)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a平成18年当時,本件大学では,国際交流の一層の充実,協定校の
拡大を図るため,また,留学の目的が従来の勉学を主としたものにと
どまらず,国際インターンシップや国際ボランティアなど多様化して
きた状況にかんがみて,国際交流センターが本件大学の他の部署との
協力を得て国際センターなるものを作る構想が持ち上がっていた。同
年4月に同センター長に就任したP7センター長は,上記の状況に対
応できるように同センターの管理体制を充実させること,その当時の
同センター所属職員が全員女性であったことから緊急時の海外出張に
備えることが必要であると考え,本件大学事務局に対し,高度な英語
能力とマネジメント能力を有する男性を同センターの次長職として置
くことを要望していた。しかし,本件大学内には適任者がいなかった
ことから,学外から登用することとなり,P12人事部長がその任に
当たった。
[乙19,24,25]
bP12人事部長は,同年8月ころ,P23大学のP24講師と会い,
適任者の紹介を依頼した。原告は,同月ころ,P24講師から,P1
2人事部長が本件大学の国際交流担当として英語能力とマネジメント
能力のある人を探しているがどうかという打診を受け,これを受ける
こととした。P24講師は,同年9月ころ,P12人事部長に原告を
紹介した。
[甲11,96,乙25]
c原告は,昭和51年3月にP2大学大学院計測工学研究科修士課程
を修了後,同年4月から平成3年4月までP3(入社時点は○○)に,
同年5月から平成15年12月までP4株式会社に,平成16年1月
から同年11月まで株式会社P5に勤めた経歴を有しており,P4株
式会社在籍中の平成7年から平成9年にかけて米国カリフォルニア州
に所在する同社の関連会社に出向していた。原告は,P4株式会社に
在籍中,財団法人P25センターの品質システム審査員及びP26協
議会認定のセルフアセッサーの資格を取得し,また,平成9年11月
実施のTOEICテストで920点を取り,P4英語能力認定基準で
国際業務レベル1の評価を受けていた。
[甲2~4,59,62,96]
d原告は,平成18年9月5日にP12人事部長との面談,同月20
日にP9副学長,P7センター長,本件大学事務局長のP27(以下
「P27大学事務局長」という。)及びP12人事部長による面接,
同月25日にP7センター長との面談を経て,同年10月16日,被
告との間で,前提事実(3)に記載の内容の本件労働契約を締結した。
(イ)以上の認定事実によれば,原告は,国際交流センターの管理体制を
充実するために,高度の英語能力とマネジメント能力を有する人物とし
て被告に雇用されたことが認められ,このことと同センターの所掌事務
が上記(1)イのとおりであることを照らし合わせると,原告の同センター
次長としての業務は,本件労働契約で定める業務内容である交換留学生
の派遣及び受入れに関する業務の企画とマネジメントだけでなく,これ
を主としながら,同センターの所掌事務全般に及ぶものと認めるのが相
当である。
なお,原告は,その陳述書(甲96)において,被告は原告が本件大
学における大学改革の担い手となることを期待して原告を雇用した旨陳
述する部分があるが,仮にそうであるとしても,本件労働契約上,同セ
ンター次長の業務に大学改革に関するものが含まれていることを認め得
る証拠はない。
イ被告が就業規則16条1項4号に該当するものとして主張する原告の国
際交流センターにおける行為等について
(ア)着任直後の不適切な就業状況について
a証拠(甲96,乙19,20)によれば,原告は,平成18年10
月16日に国際交流センター次長に着任した直後から,①国際交流課
の職員に対して質問をしたこと,②同課のP6課長から渡された「大
学案内」,「留学ハンドブック」(派遣留学生用),「UC・ISP
ハンドブック」(交換留学生用),「正規留学生ハンドブック」(4
年間本件大学で学ぶ留学生用)等に関して,P6課長等に質問をした
ことが認められる。
被告は,上記①について,原告が質問を山のように浴びせかけ,他
方,原告は職員の説明を聞かないことが度々あった,上記②について,
原告は,P6課長から渡された上記資料を一読した様子がなく,これ
らの資料に関してP6課長及び職員に質問を浴びせかけた,原告は,
一度説明された事項について,同じ質問を繰り返したり,既に交付さ
れたデータを再度要求するなどした,このような行為により職員を困
惑させたと主張し(上記第2の4(1)ア(ウ)a(a)~(c)),P6課長
の陳述書(乙20)には,同旨の陳述部分がある。しかし,同センタ
ー次長に着任した直後の原告が,同センターの業務内容等を把握し,
理解するために,P6課長を始めとして職員に質問することは,その
程度や態様が非常識なものであって職員の業務を阻害したなどの事情
がなければ,これを問題視するのは相当とはいえないところ,P6課
長の上記陳述部分は,包括的で具体性のないものである上,P6課長
の上司であるP7センター長の陳述書(乙19)には以上の点に関す
る陳述はなく,原告の陳述書(甲96)では以上の点を否定している
ことに照らすと,P6課長の上記陳述部分を採用することはできず,
他に被告が主張する上記事情を認め得る証拠はない。
以上によれば,上記認定の原告の行為等をもって原告の業務態様や
業務状況における問題行為に当たるとはいえない。
b証拠(甲96,乙19,20)によれば,原告は,同センター次長
に就任後,職員との個別面談を,1人につき1回ないし3回の回数行
ったことが認められる。
被告は,原告が,上記個別面談の際に,聴取した他の職員の印象や
行動を別の職員に歪曲して伝えるなどし,P7センター長と職員との
間に誤解,相互不信を招きかねない行動をとり,また,職員を困惑さ
せたと主張するが,これを的確に認め得る証拠はない。
以上によれば,上記認定の原告の行為等をもって原告の業務態様や
業務状況における問題行為に当たるとはいえない。
(イ)不適切な窓口対応について
証拠(甲21,96,乙20,24)によれば,平成18年11月4
日(土曜日),原告が国際交流センターで一人で勤務をしていたときに
大学院生から電話で留学に関する問い合わせを受けたのに対して的確な
対応ができず,これに腹を立てた同大学院生が同センターを訪れたこと,
その際の原告の対応が十分なものでなかったことから,同大学院生が怒
り,「学長と同窓会にいいつける」と言って帰ったこと,原告は,以上
のことをP8学長にメールで伝えたことが認められる。
被告は,同センターにおける窓口対応上の問題は,同センター限りで
対応して処理すべきものであるのに,原告は,P8学長に対して直接,
メールで上記出来事を報告し,P8学長から,窓口対応はP6課長に聞
くように指示されたと主張する。しかし,P6課長の陳述書(乙20)
によれば,同センターにおける窓口対応上の問題は同センター限りで対
応して処理するのが普通のやり方であるというにとどまるものであり,
これ以外の対応方法をとることが許されないとまでは解されないし,原
告の上記メールに対する同学長からの返信メール(甲22)の内容は,
原告が上記メールをしたことを問題視し,咎める趣旨のものではない。
以上によれば,原告の上記窓口対応は不適切なものであるといえるが,
P8学長に対して連絡したことが直ちに原告の業務態様や業務状況にお
ける問題行為に当たるとはいえない。
(ウ)人事に関する非常識な提案
証拠(甲23の1・2)によれば,原告は,上記大学院生との窓口対
応上のトラブルがあった日の翌々日の平成18年11月6日,P12人
事部長に対し,P8学長から指示された国際交流センターの機能強化の
方針を達成するために,不定期かつ煩雑な相談業務を専門に扱う派遣社
員を配置することにより,正規職員をより付加価値の高い本業に専念さ
せることを理由として挙げて,臨床心理士,コーチング資格取得者又は
取得見込みの者を例示して,同センターにおける留学希望学生等に対す
るカウンター窓口や電話,メールなどを通した相談を主な職務とし,同
センターの職員の事務補助を従たる職務とする派遣社員の手配を依頼す
ることを内容とした「派遣社員手配依頼書」を提出したことが認められ
る。
被告は,原告が自らの窓口対応の不手際を反省することなく上記依頼
書を提出したと主張する。上記大学院生との窓口対応上のトラブルがあ
った日と上記依頼書提出の日が近接していることからすると,同トラブ
ルの発生が原告において同依頼書を提出することを思い至る要因になっ
ていると見ることができる。そして,上記(イ)の認定事実によれば,同
トラブルが原告の対応上の不手際から生じたものということができると
ころ,原告が,この点を踏まえて,同依頼書の内容の依頼をする必要性
について十分検討,考察したことをうかがわせる証拠はなく,また,同
提案をすることを同センター内で議論した形跡はない。そうすると,原
告の上記行為は,思い付きで唐突に行った不適切なものと評価すること
ができ,原告の業務態様における問題行為に当たるといえる。
(エ)マネジメント能力に欠けた不適切な業務指示等について
a証拠(甲24の1,25の2,80,96,乙7~11,19,2
0)によれば,原告は,①平成18年11月19日,国際交流課の全
職員に対し,「プラダを着た悪魔」という映画を観て,その物語展開
から,すべての映画における物語展開の共通点が何かを考え,それを
抽出し,聞かせるようにという指示をしたこと,②同月22日,同課
の全職員に対し,情報共有化を目的とするとの理由を挙げて,週報と
して,今週金曜日(又は土曜日)から,各自の<ⅰ>今週の成果,<ⅱ>
超過勤務時間実績,<ⅲ>来週の予定,<ⅳ>来週の総超過勤務時間予想
を,毎週金曜日(又は土曜日)の24時までに,同課の全職員,P7
センター長及びP9副学長宛てにメール送信するよう指示したこと,
③同年12月20日,課長以下の職員に対し,各担当業務の手順を文
書化する作業の開始日と終了予定日を同日中に返送するようにメール
で指示したこと,④平成19年1月5日,同月1日付けで異動したP
6課長に対し,同月19日までに上記担当業務手順文書の作成を要請
したこと,⑤同月8日,P6課長に対し,担当業務の優先順位付け,
リスクマネジメントのための各業務についてのリスク評価として失敗
の列挙及びそれぞれについて点数化を要請したことが認められる。
被告は,以上の原告の指示等について,国際交流センターの現状を
把握しないまま,不要,不急の平常業務外の仕事を課し,同センター
内の業務を過剰にし,かつ,混乱させたと主張する。上記①の指示に
ついては,同指示の内容が同センターの業務の改善等にどのように関
連するのか明らかでなく,業務に関する指示としては不適当なもので
あるというべきである(原告も,その陳述書(甲96)において,業
務上の指示の趣旨で行ったものではないが,適切でないことを認めて
いる。)。上記②の指示については,報告事項がP6課長の勤怠管理
業務と重なるものとはいえず,情報共有化という目的で週報を作成す
ることは,一般的に業務改善につながる有用性のあるものということ
ができる。しかし,原告が同指示を行うについて,その実施の必要性,
実施開始日等に関して国際交流課内で事前調整を行った形跡はうかが
われず,原告が唐突に指示したものとみることができることからする
と,同指示は職員にとまどいと混乱を生じさせる要因になったと考え
られる。もっとも,同指示は結局のところ実施されなかったというの
であるから(甲96),混乱の程度は小さいものであったと考えられ
る。上記③の指示については,その必要性が認められるほか,証拠(甲
24の1)によれば,P7センター長も同指示事項に賛成しているこ
とが認められる。上記④の要請については,証拠(甲81)によれば,
P6課長がこれを了解していたことが認められる。上記⑤の要請につ
いては,証拠(乙9)によると,平成19年1月1日付けで異動した
P6課長に対し,引継事項の追加として要請したものであると認めら
れるものであって,全職員に対する指示ではなく,同要請が職員の業
務を増加させたものというのは当たらない。
以上によれば,上記①及び②の指示は原告の業務態様や業務状況に
おける問題行為に当たるといえるが,その余の指示及び要請をもって
原告の業務態様や業務状況における問題行為に当たるとはいえない。
b原告がアルバイト職員にメールアドレスを取得させたことは,当事
者間に争いがない。
被告は,この点を原告のマネジメント能力の欠如を示すものである
と主張する。しかし,証拠(甲96)によれば,同アルバイト職員は
10数年間同センターで勤務していた者であることが認められるのに
対し,同アルバイト職員が担当していた業務内容がどのようなもので
あったのかについて,これを認め得る証拠がなく,正職員と業務上の
棲み分けがされていたのかどうかについては不明であることからする
と,同アルバイト職員に正職員と同様にメールアドレスを取得させて
業務を行わせることが直ちに不相当であると判断することはできな
い。
以上によれば,上記事実をもって原告の業務態様や業務状況におけ
る問題行為に当たるとはいえない。
c被告は,原告が職員に対して方向性のずれた指示を行ったと主張す
るが,同主張自体具体性がなく,また,この点を具体的に認め得る証
拠もない。したがって,この点を原告の業務態様や業務状況における
問題事象として取り上げることはできない。
(オ)上司の指示のない遠隔授業の推進について
原告が,国際学部が開講している留学生及び日本人学生のための英語
による授業に関して,これを遠隔授業として本件大学αキャンパスで行
うシステムの導入に向けた準備業務を行ったことは,当事者間に争いが
ない。
被告は,原告が独断で上記業務を行ったと主張し,P7センター長の
陳述書(乙19)には,同旨の陳述部分がある。しかし,証拠(甲30,
31,33,34の1~7,64,96,乙24,原告本人)によれば,
原告は,平成18年11月13日,P7センター長に対して遠隔授業導
入の提案をし,同日,P7センター長から,検討することに賛意を示す
内容の返事をもらったこと,同月15日,P8学長からもP7センター
長と相談して検討するように言われたこと,平成19年1月8日から同
月27日にかけて,原告とP7センター長との間で,遠隔事業の導入を
進める方向に向けた内容のやり取りをしていることが認められることか
らすると,乙19の上記陳述部分は信用することができず,被告の上記
主張も採用することができない。
以上によれば,上記認定の原告の行為等をもって原告の業務態様や業
務状況における問題行為に当たるとはいえない。
(カ)英語能力の不活用について
証拠(乙19,20)によれば,平成18年10月24日に催された
米国P11カレッジの教授の来校歓迎昼食会に本件大学からP9副学
長,P7センター長,P6課長及び原告が出席したが,原告は,同教授
と英語で会話をすることは全くなく,P9副学長とのみ話をしていたこ
とが認められる。しかし,この事実から直ちに原告が英語能力を活かし
ていないと断定することはできず,他に,原告が英語能力を活用してい
ないことを的確に認め得る証拠はない。したがって,この点を原告の業
務態様や業務状況における問題事象として取り上げることはできない。
(キ)その他の不適切な言動について
この点に関する被告の主張は,包括的で抽象的なものであり,また,
この点に関する具体的な事実関係を的確に認め得る証拠もない。したが
って,この点を原告の業務態様や業務状況における問題事象として取り
上げることはできない。
しかし,上記(エ)aで述べたように,映画鑑賞や週報の作成に関する
原告の指示の仕方等には問題となり得る余地があるほか,P6課長の後
任であるP28からの原告の業務状況についての報告(乙19の添付資
料)には,原告は誰とも相談することなく原告だけの判断で業務指示を
出すなどし,組織としての組織運営を行おうとする姿勢がないというこ
とを指摘しており,P7センター長及びP6課長の各陳述書(乙19,
20)には,これと同旨の陳述部分があること,P7センター長及びP
8学長の各陳述書(乙19,24)には,原告が国際交流センターに着
任してから1か月半ないし2か月を経過したころから,原告に関する同
センター内の不協和音や不満が聞こえてきた旨の陳述部分があること,
後記ウで認定している原告が学長室へ異動することになった経緯を総合
すると,同センターの職員は,原告の同センターにおける業務態様や業
務状況について否定的,批判的な見方をしており,その間の関係性が良
くない状態となり,業務遂行上支障となる状況になっていたことが認め
られる。
ウ学長室次長付き調査役への異動の経緯
前提事実(4)及び証拠(甲96,乙6,19,25,79)によれば,以
下の事実が認められる。
(ア)平成19年1月ころ,P7センター長は,P27大学事務局長に対
し,原告とP7センター長及び国際交流センターの職員との関係がうま
くいっていない旨の話をし,原告の異動を申し入れた。これを受けて,
P27大学事務局長は,P12人事部長に対し,人事部の管理職をして,
同センターの職員全員から聞取調査をするように要請した。
P12人事部長は,本件大学人事部人事課長のP29及び同部人事企
画課長のP30をして,同センターの職員に対する個別面談を行った。
(イ)本件大学人事部では,上記個別面談の結果に基づいて検討した結果,
原告を速やかに他部署へ異動させるべきであるとの結論に達した。同部
が平成19年2月13日付けで作成した「国際交流センター次長につい
て(総括的意見)」と題する書面には,上記結論の理由として,①マネ
ジメント能力及びコミュニケーション能力が著しく欠けていること,②
就任早々行った個人面談において職員間の人間関係及び職員と原告との
関係に不信感を根付かせてしまったこと,③同センターの業務を理解す
る姿勢が全く見られず,自分の興味のみを根拠に改革を行おうとしてい
ること,④以上の理由により,被面談者全員が原告との組織運営及び業
務遂行を不可能と考えていることが挙げられている。以上のことは,P
12人事部長からP27大学事務局長に対し,同部の意見として上記結
論が報告された。
(ウ)同日,P27大学事務局長及びP12人事部長は,原告に対し,学
長室への異動を伝え,原告は,同年3月1日付けで学長室次長付き調査
役として学長室に異動した。
(3)学長室次長付き調査役在職中の原告の業務状況について
ア原告の学長室次長付き調査役の業務内容
(ア)上記(1)ウの認定事実及び証拠(乙21,26)によれば,以下の事
実が認められる。
a平成16年に全国すべての大学が文部科学省の認定を受けた認証評
価団体による評価を受けるという認証評価制度が導入されていたとこ
ろ,本件大学は,平成21年度に認証評価を受けることになっており,
学長室がこれに係る業務(以下「認証評価業務」という。)を担当し
ていた。平成19年3月ころは,認証評価を受けるための準備を始め
た段階であり,具体的な業務内容としては,認証評価団体に提出する
書類の作成準備,一連の認証評価業務に対する本件大学内の啓蒙・啓
発活動,認証評価を受けるための本件大学内の仕組みを構築すること
などがあった。
bP14学長室次長及びP13企画課長は,同年3月1日,P27大
学事務局長から,原告が学長室に異動になるので然るべき仕事を任せ
るようにしてほしいとの話を受け,原告に認証評価業務を担当させる
こととした。また,P13企画課長は,その時点での認証評価業務の
仕事量は多くなかったことから,原告に学長室教育研究支援課が所掌
している教員業績データベースの入力作業を併せて担当させることと
した。
(イ)以上の認定事実によれば,原告が学長室次長付き調査役として担当
を命じられた業務は,認証評価業務及び教員業績データベースの入力作
業であることが認められる。
なお,原告の陳述書(甲96)には,原告は,学長室への異動を伝え
られた際,P27大学事務局長から「認証評価や教学改革の仕事に従事
していただきたい。」,P12人事部長から「人事の基本は適材適所で
す。それを考えて,原告を学長室に異動させました。」と言われ,平成
18年11月30日に学長室長の職を解かれたP31教授に代わって認
証評価業務を担当する人物として学長室に異動したのであり,この点は,
同年10月8日に開催された部次長会議のメモ(乙30)により裏付け
られる旨陳述しているが,P27大学事務局長及びP12人事部長の上
記発言は,原告の異動の理由を伝えた際の発言であって,原告の異動後
の業務を定めたものではなく,上記メモ(乙30)は,その内容に照ら
すと,原告の上記陳述内容を裏付けるものではないことからすると,原
告の上記陳述部分は採用できない。
イ被告が就業規則16条1項4号に該当するものとして主張する原告の学
長室における行為等について
(ア)認証評価業務の不着手について
被告は,原告が,認証評価制度に係る業務を命じられ,P13企画課
長から同業務の内容について説明を受けたが,同業務の必要性や評価の
意義についての議論ばかりして,実際に同業務に着手しなかったと主張
し,P13企画課長の陳述書(乙21)には同旨の陳述がある。しかし,
証拠(甲36~39,乙39の1~8,40の1~3)によれば,原告
は,学長室への異動後,同異動発令日から約2週間後の平成19年3月
16日に行われる認証評価業務に関する業務である大学評価説明会にお
いて「2007年度大学評価スケジュールについて」を説明するための
準備に取りかかっていること,原告は,同日,同説明会において上記の
事項を説明したことが認められ,また,証拠(甲40の1・2,41,
42の1~7,43の1・2,68,乙26,41の1・2,42~4
6,48,51~55)によれば,原告は,その後,学長室企画課の職
員と共に,同年6月6日に開催された認証評価業務に関する講習会の準
備等をし,同講習会において,「自己点検・評価報告書書き方」の講師
を務め,好評を得たこと,同月19日に開催された部会活動フォローア
ップ説明会の講師を務めたことが認められることからすると,同課長の
上記陳述部分は措信できず,被告の上記主張は採用することができない。
また,被告は,原告がプレ認証のフィードバックには全く着手してい
ないと主張している。しかし,証拠(甲66,乙36,37,39の8)
によれば,上記大学評価説明会において原告が説明したプレ認証のフィ
ードバックをする時期としては,平成20年2月末を予定していたこと,
原告は,平成19年12月21日,「プレ認証評価活動に対する全体的
講評」を作成していること,被告は,平成20年3月7日,「プレ認証
自己点検・評価報告書に対する全体的講評」を作成し,プレ認証に関す
る評価結果を示したことが認められることからすると,被告の上記主張
は採用することができない。
以上によれば,認証評価業務に関して問題事象として取り上げるべき
原告の業務態様や業務状況は認められない。
(イ)データベース入力作業の懈怠について
上記ア(ア)bの認定事実及び証拠(甲47,96,乙21,27)に
よれば,学長室教育研究支援課では,本件大学の教員の業績をデータベ
ース化する業務を担当していたこと,データ入力は,当初,各教員自ら
がデータを入力する方法が検討されていたが,その後,事務方でデータ
を入力したものを各教員に確認,加除訂正してもらう方法を採ることと
なったこと,P14学長室次長は,学長室に異動してくる原告にデータ
入力を担当させることとしたこと,平成19年3月7日,原告,企画課
からP13企画課長ほか2名,教育研究支援課から2名が出席して,学
長室において教員業績データベースに関する打合せが行われたこと,同
課課長のP32(以下「P32教育支援課長」という。)は,そのころ,
原告に対し,データ入力をするように指示したことが認められ,以上に
よれば,原告は,学長室に異動直後から教員業績データベース作成業務
に加わり,データ入力作業を担当することになったことが認められる。
証拠(乙21,27)によれば,原告が上記のデータ入力作業に積極
的な姿勢で取り組んでいなかったこと,P32教育支援課長は,P14
学長室次長に対し,原告に対する教員業績データベース作成業務命令を
取り下げるよう依頼したことがあったことが認められるが,他方,証拠
(甲48,49,67,100,101,乙27,原告本人)によれば,
同年7月及び同年8月の時点で,原告とP32教育支援課長らとの間で,
同業務に関するメールのやり取りが行われており,原告が入力した約5
00件のデータが同課長に提出されたことが認められる。
被告は,原告が,教員業績データベースの入力作業を命じられたが,
同作業を進めず,結局,原告に対する同作業の従事命令は取り下げられ
たと主張し,P13企画課長の陳述書(乙21)には,同旨の陳述部分
があるが,同作業の従事命令の取下げがいつ行われたのかについて具体
的な陳述はない。この点と上記各認定事実に照らすと,被告の上記主張
及びP13企画課長の上記陳述部分を採用することはできない。他に,
教員業績データベース作成業務において,原告が支障その他好ましくな
い状況を生じさせたことを認め得る証拠はない。
以上によれば,教員業績データベース作成業務に関して問題事象とし
て取り上げるべき原告の業務態様や業務状況は認められない。
(ウ)電話対応の回避について
被告は,原告が,その業務である電話対応を避ける態度をとり,注意
を受けても改善しなかったと主張するが,同主張自体具体性がなく,ま
た,この点を具体的に認め得る証拠もない。したがって,この点を原告
の業務態様や業務状況における問題事象として取り上げることはできな
い。
(エ)不適切な入試業務について
証拠(甲50の1・2,乙21,26)によれば,原告は,学長室の
他の職員より多く,平成20年度本件大学の入試業務を担当したこと,
原告は,事前の入試業務説明会で寝てしまい,後日,入試担当職員に入
試業務の内容を質問したり,入試当日,受験生のための椅子に座ってい
たことについて受験生からクレームが寄せられたことが認められる。
以上の点は,原告の業務態様や業務状況における問題行為に当たると
いえる。
(オ)不適切な執務態度について
証拠(乙21)によれば,P13企画課長は,原告の業務態度を見て,
与えられた業務に関心がなく,議論好きで,責任を持って業務を遂行す
る姿勢に欠けているという評価をしており,原告の議論に付き合うと自
分の業務ができないことがあったことが認められる。
以上の点は,原告の業務態様や業務状況をマイナス評価する事情にな
るといえる。
(カ)業務外の業務への従事について
a証拠(甲96,乙21)によれば,原告は,学長室に異動した後も,
国際学部の遠隔授業の導入に関して業者からの電話を受けていたこと
が認められる。しかし,原告は,その陳述書(甲96)において,同
電話は,原告が学長室に異動したことを知らない遠隔授業用機器販売
業者が異動後に電話を掛けてきたことがあったが,同業者と遠隔授業
について協議したことはない旨陳述しており,また,原告が遠隔授業
の導入に関して業者と協議,提案をしていたことを具体的に示す証拠
はない。
以上によれば,上記の点を原告の業務態様や業務状況における問題
事象として取り上げることはできない。
b証拠(甲96)によれば,原告が,本件大学の食堂の改装に関して
知り合いの業者をP8学長に紹介したことが認められる。しかし,こ
の事実関係のみで,原告が本件大学の食堂の改革業務にかかわったと
いうことはできないし,他にそれを認め得る証拠はない。
以上によれば,上記の点を原告の業務態様や業務状況における問題
事象として取り上げることはできない。
c被告は,原告が,認証評価業務を行うべき日に学外の研修に参加し
ようとし,P14学長室次長から業務命令が出されて,ようやく同研
修への参加をあきらめたと主張し,P13企画課長の陳述書(乙21)
には同旨の陳述部分がある。しかし,証拠(甲53,54,96)に
よれば,上記研修は,平成19年7月20日にP2大学とP3の共催
により開催されたシンポジウム「ユビキタス先導~産学連携の未来~」
であること,原告は,同研修に,同日午後半日の有給休暇を取って参
加したことが認められるほか,P13企画課長の別の陳述書(乙26)
には,原告が有給休暇を取って同研修に参加したことを認める陳述を
しており,同日,行わなければならなかった認証評価業務が何なのか
を認め得る証拠はないことからすると,被告の上記主張及び同主張に
沿うP13企画課長の上記陳述部分は採用することができない。そし
て,原告が同研修に参加したことにより,学長室における業務に支障
が生じたことをうかがわせる事情を認め得る証拠もない。
以上によれば,上記の点を原告の業務態様や業務状況における問題
事象として取り上げることはできない。
(キ)業務指示書の無視
a証拠(甲96,乙14,21)によれば,P14学長室次長は,平
成19年11月30日,原告に対し,以下(a)~(k)の指示内容を記
載した「業務指示書」と題する書面を交付したことが認められる。
(a)勤務時間変更は上司の指示に従う。本人の都合は認めない。
(b)電話当番,11:45~12:30及び16:25~退勤時に
おける電話の当番である。(P33氏のシフト勤務ということは,
上記電話当番時に職員が離席する時間であるため,それがP33氏
の当然の業務とみなしている。このことに気付かずにいることが問
題視)
(c)休暇を率先して取得しないこと。また,旅行など個人の都合を
最優先しないこと。
(d)就業中の読書を禁じます。
(e)以前から指示している,認証関連業務について当該課長の指示
を順守し,その報告を日誌で提出すること。(優先第1位)
(f)履修要項等により本学諸学科生の入学から卒業までの卒業要
件,履修方法を会得し,当該学生の質問に答えられる実力を上司に
報告すること。
(g)学生奨学金の種類,応募方法等を理解し,学生から奨学金関連
の質問を受けても応じられる実力を備えること。
(h)突然の時間外勤務の指示に応えられること。
(i)上司が指示した作業を実施し,その報告を提出すること。
(j)業務日報を退勤時に上司の机上に提出すること。(業務日誌は,
時間ごとに上司に指示された詳細な作業報告と,達成度を記入する
こと)
(k)上記の指示を誠実に履行すること。
b被告は,上記業務指示書をもって原告の勤務態度の改善を指示した
が,原告は改善しなかったと主張し,P13企画課長の陳述書(乙2
1)には同旨の陳述部分がある。上記内容の業務指示書が出されたと
いうことからすると,原告には,同業務指示書に記載されている各指
示事項が出される原因となる問題行為があったことは推認されるが,
それぞれの指示事項における原告の問題行為を具体的に認め得る証拠
はなく,また,改善しなかった内容についても,これを具体的に認め
得る証拠はない。
以上によれば,原告には,上記各指示事項の原因となる業務態様や
業務状況における問題行為があったといえるが,その具体的内容も行
為の問題性の程度も不明である。
ウ図書館長付き調査役への異動の経緯
前提事実(5)及び証拠(乙25)によれば以下の事実が認められるが,こ
れ以外に,原告が図書館に異動した経緯を認め得る証拠はない。
(ア)原告が学長室に異動した後も,本件大学人事部には,原告が他の職
員とうまくいかないという情報が入っていた。P12人事部長は,平成
19年12月ころ,原告に対し,個人的に転職を打診し,また,原告を
被告に紹介したP24講師に対し,原告に転職を勧めるよう依頼をした
が,原告は,転職を拒否した。
(イ)原告は,平成20年1月1日付けで,図書館長付き調査役として図
書館に異動した。
(4)図書館長付き調査役在職中の原告の業務状況について
ア原告の図書館長付き調査役の業務内容
上記(1)エの認定事実及び証拠(甲96,乙22)によれば,原告は,利
用サービス・電子情報課の利用サービス係に配置され,主にカウンター業
務に従事したこと,カウンター業務は,図書館の利用者と直接対応する業
務であることが認められる。
イ被告が就業規則16条1項4号に該当するものとして主張する原告の図
書館における行為等について
(ア)不適切な執務態度について
証拠(乙23,29)によれば,原告は,①カウンター業務に就いて
いた時に,原告の携帯電話に掛かってきた業務以外の電話に出ることが
しばしばあったこと,②カウンター業務に従事中,本を読んでいたこと
が何度もあったこと,③平成21年1月中旬ころ,5階カウンターで腕
組みをしたり,足を組んで座っていたこと,④5階カウンターで執務を
していた時,執務室とカウンターとの間の扉は開けることになっていた
のに,同扉を閉めて執務していたこと,原告は,以上のうち読書を除く
執務態度について注意を受けたが,執務態度を直さなかったことが認め
られる。
他方,上記①については,頻度や電話状況などの具体的事情を認め得
る証拠はなく,上記②については,被告は,業務と無関係な本を読んで
いたと主張するが,具体的にどのような本を読んでいたのかを認め得る
証拠はなく,また,いずれについてもカウンター業務にどの程度の支障
を及ぼしたのかは不明である。上記③については,証拠(乙23)によ
れば,図書館を利用した本件大学の職員から,原告の上記③の執務態度
を見て,声をかけずらい雰囲気で感じが悪かったという指摘があったこ
とが認められるが,カウンター業務自体に支障が生じたことをうかがわ
せる事情を認め得る証拠はない。上記④については,被告は,利用者に
迷惑を掛けたと主張するが,この点を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,原告の上記認定の各行為は,勤務態度が悪かったこと
を示すものとして,原告の業務態様における問題行為とみることができ
るが,その内容に照らすと,重大なものとはいえない。
(イ)不適切な業務遂行について
a購入希望図書情報の不適切な管理について
(a)証拠(甲92,96,乙22,23,28,証人P16)によ
れば,以下の事実が認められる。
本件大学では,電子データの保存・管理方法として,大学職員で
あれば誰でも閲覧できるサイボウズを使うものと,閲覧するには図
書館職員用のIDとパスワードを必要とするJドライブを使うもの
とがあった。図書館では,扱う情報に利用者の個人情報が含まれる
ことから,その情報の保存・管理はJドライブを使って行っていた。
原告は,学生の購入希望図書に係る情報を整理する業務に従事し
ていたところ,P15主任に対し,同情報をサイボウズのファイル
管理ソフトを使って保存・管理することを申し入れた。これに対し,
P15主任は,情報管理上,Jドライブに保存するように指示した。
しかし,原告は,同指示に反して,同情報をサイボウズに保存した。
その後,原告が上記情報をサイボウズに保存していることが発覚
し,P15主任は,平成20年10月17日,原告に対し,当該保
存方法は情報管理上問題があることを指摘し,Jドライブに保存す
るように再度指示したが,原告は,異論を唱えて同指示に従う姿勢
を示さず,その間で口論する状態になった。原告は,同月22日,
上記情報をJドライブに移した。
(b)以上認定した原告の上記情報管理行為は,原告の業務態様や業
務状況における問題行為に当たるといえる。
bILL料金の過少徴収について
(a)証拠(甲96,乙15,22,23)によれば,以下の事実が
認められる(ただし,原告がILL料金を10円過少に徴収したこ
とは,当事者間に争いがない。)。
原告は,同月1日,カウンター業務の一つであるILL料金収受
業務を担当した際,同料金を支払いに来た学生から,独断で正規の
額より10円少なく徴収した。原告は,この過少徴収について,I
LL担当職員のP34から注意されたのに対し,10円位いいでは
ないかなどと発言した。この過少徴収の事後処理は,P34が行っ
た。
P16課長は,同月2日の朝会において,利用サービス係の職員
全員に対し,ILL料金の収受は請求金額どおり正しく収受するよ
うに話をした。さらに,同月9日,P17図書館次長,P16課長
及び原告の間で原告がした過少徴収について話し合う機会が持た
れ,P17図書館次長は,原告に対し,過少徴収が問題であること
を話したが,原告に問題意識を持っている様子も反省している様子
も見られなかったことから,始末書の提出を命じた。
原告は,同日,始末書を提出した。その内容は,事実関係の説明
と,今後の対応として,「請求金額通り,請求する。」と記載した
ものであった。
(b)以上認定した原告の上記ILL料金過少徴収行為は,原告の業
務態様や業務状況における問題行為に当たるということができ,ま
た,同行為を指摘された後の原告の対応も,問題行為に当たるとい
える。
cILL料金の過大徴収について
(a)証拠(甲96,乙22,23)によれば,以下の事実が認めら
れる(ただし,原告がILL料金を30円過大に徴収したことは,
当事者間に争いがない。)。
原告は,上記bの始末書を提出した日から1週間後の同月17日,
ILL料金を支払いに来た学生から,独断で正規の額より30円多
く徴収した。原告は,この過大徴収について,P34から注意を受
けたのに対し,学生が了解した,多ければ問題ないだろう,多くて
何が悪いのかなどと発言した。P34は,この過大徴収の事後処理
のために,上記学生を館内放送で呼び出したり,上記学生に図書館
に来館するように依頼するメールを送信したが,上記学生は図書館
に来なかった。
P16課長は,同日,過大徴収の事後処理が終わっていないのに,
原告が定時に帰宅しようとしたのを見て,原告が過大徴収をしたこ
とについて反省していないものと考え,原告に対し,改めて過大徴
収をした理由を問い質した。原告は,多い分には構わないでしょう,
多ければ問題ないだろう,顧客(学生)の時間を節約してあげた,
多くて何が悪いのか,理由を教えてほしい,学生という顧客が良い
と言っているのだから良いではないか,顧客が中心の考え方だ,そ
れが世の中の常識ですなどと発言し,怒った状態で図書館を退室し
た。
原告は,それから約10分後,P16課長と話し合いたいので図
書館に戻る旨の電話を掛けて図書館に戻り,P16課長と話合いを
した。話合いは1時間10分程度続いたが,双方の主張内容は平行
線をたどった。同話合いの最後に,P16課長は,原告に対し,原
告の今回と前回の徴収行為の後始末でP34が迷惑を被り,超過勤
務になっている,P34に謝るべきではないか,一緒に働いている
者の気持ちも考えるべきではないかということを話したところ,原
告は,それは理解できると述べ,P34に謝り,握手を求めたが,
P34は,謝罪は受け入れられない,許したくもないと対応した。
原告は,これ以後,ILL料金の徴収に関する過誤はない。
(b)以上認定した原告の上記ILL料金過大徴収行為は,原告の業
務態様や業務状況における問題行為に当たるということができ,ま
た,同行為を指摘された後の原告の対応も,問題行為に当たるとい
える。
d紛失・汚損図書の弁償業務に係るメールの誤送信について
(a)証拠(乙23)によれば,以下の事実が認められる。
原告は,平成20年11月4日,担当していた紛失・汚損した貸
出図書の弁償に関する業務に関して,借出人でない学生に対してメ
ールを送信した。
P15主任は,同月7日,この点について同メールを受けた学生
から指摘を受け,原告によるメールの誤送信の事実を確認した上,
原告に対し,注意をするとともに,適切に連絡し直すように指示し
た。これに対し,原告は,誤送信したメールには弁償に関すること
は書いていない旨の言い訳をするなどした。
(b)以上認定した原告の上記メール誤送信は,原告の業務態様や業
務状況に関する問題行為に当たるということができ,また,同行為
を指摘された後の原告の対応も,問題行為に当たるといえる。
e予約図書業務に係る不適切なメール送信について
(a)証拠(乙23)によれば,以下の事実が認められる。
2冊の図書の借出予約をしていた学生が,同日,予約図書を受け
取りに来たが,担当職員が予約図書を見つけることができなかった
ことから,借出事務が完了しなかった。その後,担当職員は,予約
図書を見つけ,原告に対し,借出予約をしていた学生に対してメー
ルで連絡するように引継ぎをした。同日が予約期間の最終日であっ
たので,同日中に図書を取りに来るように連絡しなければならなか
ったところ,原告は,期限を限定しないで予約図書を受け取りに来
るように伝えるメールを学生に送信した。
上記予約図書2冊は,同月8日,パソコン管理上,自動的に予約
が解除され,そのうちの1冊については,次の予約者が借出予約し
ている状態になった。上記の同月7日の経過を知っていた他の職員
は,上記予約図書を上記学生が受け取りに来る可能性があることか
ら,上記予約図書の借出予約を解除してよいものかどうか迷い,困
惑した。その後,他の職員がパソコン上借出予約解除になっている
状態を元に戻すのに1時間半ほど要し,そのために時間外勤務が発
生した。また,P15主任は,同月10日,上記出来事の原因を解
明するために原告を含む関係者に事情聴取をし,これに約45分要
した。原告は,同事情聴取において,原告に引継ぎをした職員の名
前も覚えておらず,P15主任に対し,送ってほしいと言われたか
ら送った,なぜ送信するのか詳細は分からなかったなどと説明した。
(b)以上認定した原告のメール送信に関して上記担当職員が原告に
対して行った引継ぎの具体的内容を認め得る証拠はない。そうする
と,原告が,同担当職員から,借出予約をした学生に対して同日中
に図書を取りに来るように連絡することを引き継いだかどうかは不
明というほかなく,原告の上記メール送信が直ちに原告の業務態様
や業務状況における問題行為に当たるとはいえない。
(5)解雇事由の有無についての検討
上記(2)~(4)の認定判断によれば,原告には,国際交流センター在職中に,
①学生に対する不適切な窓口対応をしたこと,②手順を踏まないで唐突に
派遣社員手配依頼書を提出したこと,③業務指示と受け取られる形で映画鑑
賞を指示し,職員を困惑させたこと,④手順を踏まないで唐突に週報を作成
するように指示し,職員を混乱させたこと,⑤同センターの職員と良好な関
係性を保つことができず,業務運営上支障となる状況が生じ,学長室に異動
することになったこと,学長室在職中に,⑥入試業務説明会で居眠りをした
り,入試当日に受験生のための椅子に座るなどしたこと,⑦好んで議論を持
ち掛けて他の職員の業務遂行に影響を及ぼすことがあったこと,⑧業務指示
書が出される原因となる行動があったこと(ただし,その具体的内容は把握
できない。),図書館在職中に,⑨業務態度が悪かったこと,⑩購入希望
図書情報を不適切な方法で管理したこと,⑪ILL料金を過少に徴収したこ
と,⑫⑪の行動に引き続いてILL料金を過大に徴収したこと,⑬紛失・
汚損図書の弁償業務に関してメールを誤送信したこと,⑭⑩~⑬の行為に関
して,図書館の他の職員の業務に支障又は影響を及ぼしたこと,以上の業務
態様や業務状況における問題行為が認められる。
原告は,上記(2)アで説示したとおり,高度の英語能力とマネジメント能力
を有することを買われて国際交流センター次長として雇用された者である
が,上記①~④の行為は,原告のマネジメント能力に疑問を抱かせるもので
あり,上記⑤の状態は,同センター次長として期待された役割を果たせてい
ないことを示すものである。また,上記⑥~⑧の行為は,組織に属して業務
を担う職員としての適格性に問題があることを示すものである。上記⑨の行
為は,問題ではあるが重大なものとはいえない。上記⑩~⑬の行為は,難し
い専門的判断を要しない単純業務といえるような業務を適正に行わなかった
というものであり,これらと併せて上記⑭の状態が生じたということは,同
センター及び学長室に在職中にも現れた問題事象が図書館においても同様に
生じているものであって,原告の組織に属して業務を担う職員としての適格
性の問題性が小さいものではないことを示すものであるといえる。
被告が主張する本件解雇の理由は,原告の上記①~⑭の行為等が就業規則
16条1項4号に該当するというものである。同条が規定する内容は,前提
事実(7)のとおりであり,同号は,精神若しくは身体の障害によって業務
に堪えられないと認められたとき,又は,教員にあっては,担当の学科
目又は講座が廃止されたとき,又は,職員にあっては,担当業務が変更
若しくは縮小されたときのいずれかに準ずる程度のやむを得ない事情がある
ときに,解職することができると定めるものであるところ,上記①~⑭の原
告の行為等は,それらを個別に見た場合には,上記
に準ずる程度の
やむを得ない事情に当たるものとは到底いえず,それらを総合して見ても,
上記○a~○cに準ずる程度のやむを得ない事情に当たるものとはいい難い。
原告は,被告に雇用された後,上記①~⑭の行為をし又は状態をもたらし
ているところ,これらは本件大学の職員として望ましくないものあるいは不
適正なものであることは明らかであり,被告がこれらを服務上の問題事項と
して取り上げることには理由があるといえるが,上記(2)~(4)で認定判断し
たこれらの行為等の内容や態様及びこれらによる国際交流センター,学長室
及び図書館におけるそれぞれの業務支障の状況や程度にかんがみると,原告
を被告から排除しなければならないほど重大なものであるとはいい難い。
そうすると,原告には就業規則16条1項4号に該当する事由はなく,ま
た,原告の上記①~⑭の行為等をもって原告を解雇に処することは,著しく
不合理であって社会通念上相当なものとはいえないというべきであるから,
本件解雇は,解雇権を濫用したものとして無効であると解するのが相当であ
る。
2争点②(原告の賃金請求権の有無)について
(1)本件解雇当時の本件労働契約における原告の賃金が月額62万0800
円であり,その支払日は毎月22日であることは,当事者間に争いがない。
(2)上記1の認定判断のとおり,本件解雇は無効であるから,本件労働契約は
なお存続しているところ,弁論の全趣旨によれば,原告は,就労の意思を表
明しているが,被告は,本件解雇を理由として原告の就労を拒絶しているこ
とが認められる。そうすると,原告は,民法536条2項本文により,本件
解雇以降も上記(1)の内容の賃金請求権を失わない。
3以上によれば,原告の請求は全部理由があるからこれを認容することとし,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判官青野洋士




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