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       主   文
原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
(主位的請求)
一 被告は別紙イ号図面表示の意匠にかかる車輪用ナツトを製造、販売、頒布して
はならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
(予備的請求)
1 被告は別紙ロ号図面表示の意匠にかかる車輸用ナツトを製造、使用、販売、頒
布してはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二 被告
 主文と同旨の判決
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録
意匠」という。)を有している。
(一) 出願日 昭和四五年一〇月二八日
(二) 登録日 昭和四七年二月二八日
(三) 登録番号 第三四六三三二号
(四) 意匠にかかる物品 車輪用ナツト
(五) 登録意匠 別紙意匠公報(以下「本件意匠公報」という。)記載のとおり
2 被告は、業として別紙イ号図面記載の意匠にかかる車輪用ナツト(以下「イ号
物品」という。)を製造、販売している。
3 本件登録意匠とイ号物品の意匠を対比する。
 本件意匠公報の図面においてはナツト本体部の内周面及び外周面にねじ溝の記載
がなく、また「意匠の説明」として右ねじ溝の記載が省略されている旨の記載もな
い。しかしながら、本件登録意匠にかかる物品は「車輪用ナツト」であり、「ナツ
ト」とは、機械工学用語辞典によれば、めねじを持つ機械要素で、おねじを持つボ
ルトなどと一緒にねじ締結に用いられるものを指称するから、このことと右車輪用
ナツトの取付け使用状態を示す本件意匠公報の参考図の記載を総合すれば、本件登
録意匠にかかるナツトが本体部の内周面及び外周面にねじ溝を備えていることは自
明であつて、本件意匠公報の図面においては右ねじ溝の記載が当然のこととして省
略されているものである。なお、意匠法施行規則の様式第五8、9、11は、意匠
登録出願の願書に添付すべき図面の一部を省略しうる場合及び省略した場合は「意
匠の説明」の欄にその旨記載すべきことを規定しているが、右法条はそれ以外の態
様における図面の省略を一切許容しない趣旨ではないし、省略が自明の場合につい
てまでその旨特記すべきことを要求するものでもない。以上のとおり、本件登録意
匠は、イ号物品の意匠と同様にナツト本体部の内周面及び外周面にねじ溝を備えた
形状のものである。
 そうすると、本件登録意匠とイ号物品の意匠とは、スパナ掛部端面の凹窪部の形
状、模様において差異があるものの、その余の部分はほとんど同一であり、しかも
右の差異も単なる微差に過ぎず、意匠全体を左右するものではないから、両意匠は
全体として類似するというべきである。
 仮に、右の主張が認められず、本件登録意匠はナツト本体部の内、外周面にねじ
溝を欠く形状のものであるとしても、右ねじ溝の有無は、前記スパナ掛部端面の差
異と同じく単なる微差というべきであるから、両意匠が類似することに変りはな
い。
 以上いずれにしても、イ号物品の意匠は本件登録意匠と類似し、かつ意匠にかか
る物品も同一であるから、被告によるイ号物品の製造、販売は本件意匠権に対する
侵害行為を構成する。
4 仮に、以上の主張が認められず、本件登録意匠はナツト本体部の内、外周面に
ねじ溝を有しない形状のものであつて、かつ右ねじ溝を備えたイ号物品の意匠との
類似性が否定されるとしても、原告は予備的に次のとおり主張する。
 被告は、業として別紙ロ号図面記載の意匠にかかる車輪用ナツト(以下「ロ号物
品」という。)を自ら製造し、また訴外株式会社浅川製作所に製造させ、これにね
じ切り、メツキ加工等を施してイ号物品に仕上げているところ、右ロ号物品もそれ
自体として経済取引の対象となつているものである。
 そして、本件登録意匠とロ号物品の意匠を対比してみると、両意匠は、前記のと
おり微差というべきスパナ掛部端面の凹窪部の形状、模様における差異を除けばほ
とんど同一であるから、全体として類似していることは明らかであり、意匠にかか
る物品も同一である。したがつて、被告によるロ号物品の製造、加工等は本件意匠
権を侵害するものである。
5 よつて、原告は、本件意匠権に基づく妨害排除請求として被告に対し、主位的
にイ号物品につき製造、販売、頒布の、予備的にロ号物品につき製造、使用、販
売、頒布の差止を求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実のうち、本件意匠公報の図面にはナツト本体部の内、外周面にねじ
溝の記載がなく、「意匠の説明」として右ねじ溝の記載を省略した旨の記載もない
ことは認め、その余は否認する。
 本件登録意匠にかかる物品とイ号物品とは物品としての同一性がない。すなわ
ち、イ号物品は、本体部の内周面に刻設されたねじ溝をボルトに螺合し、かつ本体
部の外周面のねじ溝にナツトを螺合することにより、ナツト兼ボルトとして自動車
の複輪取付のために使用されるものであるのに対し、本件登録意匠にかかる物品は
後に詳述するとおり本体部の内、外周面にねじ溝がないから、イ号物品のように他
のボルト、ナツトとの螺合が不可能であり、したがつて、両者は使用の方法、態様
を異にし、物品としての同一性を欠くものである。
 仮に、物品としての同一性が肯定されるとしても、本件登録意匠とイ号物品の意
匠は類似しない。すなわち、本件登録意匠と基本的形状を同じくする車輪用ナツト
は右登録出願前公知、公用であつたから、本件登録意匠の要部はナツトとしての右
基本的形状そのものにはなく、ナツト本体部の内周面及び外周面にねじ溝を形成し
ない点及び全体として正方形状(但し、隅部を除いてある。)のスパナ掛部端面に
角錐台状の凹窪部を形成した点にあるというべく、特に右スパナ掛部端面はナツト
の取付け使用時において外部から観察しうる唯一の部分であつて、最も看者の注意
を引くところであるから、この部分の相違は看者をして意匠全体に全く異つた美的
切象を与えるものというべきである。ところで、原告は、本件登録意匠は「車輪用
ナツト」に関するものであるから、ナツト本体部の内、外周面はねじ溝を備えてい
ることは自明であつて、本件意匠公報の図面上は右ねじ溝の記載が当然のこととし
て省略されている旨主張する。そして、意匠法施行規則の様式第五8、9、11
は、意匠登録出願の願書に添付すべき図面の一部を省略しうる場合を列挙するとと
もに、省略した場合はその旨「意匠の説明」の欄に記載すべきことを規定している
が、原告主張のようなねじ溝の記載の省略を許容するものとは解されず、また「意
匠の説明」として右ねじ溝の記載を省略した旨の記載もない。したがつて、原告の
右主張は失当であり、本件登録意匠は、本件意匠公報の図面どおり、ナツト本体部
の内、外周面にねじ溝を有しない形状のものというべきである。そうすると、本件
登録意匠とイ号物品の意匠は車輪用ナツトとしての基本的形状において類似しては
いるが、ナツト本体部の内、外周面につき、前者がねじ溝を欠くのに対し、後者が
これを備えていること及びスパナ掛部端面の凹窪部の形状につき、前者が角錐台状
であるのに対し、後者は円錐台状であることの差異があり、これらはいずれも看者
の注意を引くべき意匠の要部であるから、両意匠が全体として類似しないことは明
らかである。
4 同4の事実のうち、被告が業としてロ号物品を製造し、また株式会社浅川製作
所をして製造させ、これにねじ切り、メツキ加工等を施してイ号物品に仕上げてい
ることは認め、その余は否認する。
 被告は、イ号物品を製造する中間工程として、素材としてのロ号物品を製造、加
工しているに過ぎず、ロ号物品自体を製造、使用の目的としているものではなく、
またロ号物品を車輪用ナツトとして販売、領布したこともない。
5 同5は争う。
三 被告の抗弁
 仮に、イ号物品及びロ号物品の意匠が本件登録意匠と類似し、またロ号物品の製
造、加工等が本件意匠権に基づく差止請求の対象となりうるとしても、被告は、本
件登録意匠の登録出願前である昭和四〇年春頃から善意で素材としてのロ号物品を
製造し又は第三者をして製造させ、これにねじ切り加工等を施してイ号物品に仕上
げたうえ販売し、右登録出願の際もこれを継続していたから、その範囲内におい
て、本件意匠権につきいわゆる先使用による通常実施権を有するものである。
四 抗弁に対する原告の認否
 抗弁事実は否認する。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件登録意匠とイ号物品の意匠の類否につき判断する。
 本件意匠公報の図面においてはナツト本体部の内周面及び外周面にねじ溝の記載
がなく、また「意匠の説明」として右ねじ溝の記載が省略されている旨の記載もな
いことは当事者間に争いがない。
 原告は、本件登録意匠にかかる物品が「車輪用ナツト」であること及びその取付
け使用状態を示す本件意匠公報の参考図の記載から、本件登録意匠にかかるナツト
がその本体部の内周面及び外周面にねじ溝を備えていることは自明であり、本件意
匠公報の図面では右ねじ溝の記載が当然のこととして省略されている旨主張するの
で、先ずこの点につき判断する。
 本件登録意匠にかかる物品が車輪用ナツトであることは当事者間に争いがなく、
成立に争いのない甲第二号証によれば、ナツトとは、めねじを持つ機械要素で、お
ねじを持つボルトなどと一緒にねじ締結に用いられるものであることが認められ
る。しかしながら、物品がナツトであるということからは、通常その中空部(内周
面)にねじ溝を有するとはいえるにしても、当然にその外周面にもねじ溝を有する
とはいえない。また登録意匠の範囲は願書の記載及び願書に添付した図面に記載さ
れた意匠に基づいて定めなければならないものであるところ(意匠法第二四条参
照)、成立に争いのない甲第一号証、第三号証の四ないし六によれば、本件登録意
匠の意匠登録出願の題書に添付した図面のすべてについて一切ねじ溝の記載がない
ことが認められ、かつ右甲号各証から認められる右添付図面中の参考図に示された
本件登録意匠にかかるナツトの使用状態によつても、右ナツトは本体部の内、外周
面にねじ溝があるのが省略されているものであると認めることは困難であるから、
本件登録意匠が本体部の内、外周面にねじ溝を有するナツトにかかるものであると
はいえない。さらに、ねじ溝といつても、その形状、寸法等が多様でありうること
はいうまでもないから、仮に原告の主張するように本件登録意匠がナツト本体部の
内、外周面にねじ溝を備えた形状のものとしても、右ねじ溝の形状、寸法等は特定
できないことになり、本件登録意匠は不特定の部分を含むという不当な結果にな
る。したがつて、原告の右主張はいずれにしても理由がなく、本件登録意匠は、本
件意匠公報の図面どおり、ナツト本体部の内、外周面にねじ溝を欠く形状のものと
いうべきである。
 右に述べたことを前提として、本件登録意匠とイ号物品の意匠を対比してみる
と、両意匠は車輪用ナツトとしての基本的形状においてはほとんど同一であるけれ
ども、反面前者がナツト本体部の内周面及び外周面にねじ溝を欠いているのに対
し、後者はこれを備えているという差異があり、右の差異は、看者をしてナツトの
意匠につき著しく異つた印象を懐かしめるものであつて、到底微差といえないこと
は明らかであるから、両意匠は全体として類似しないといわなければならない。し
たがつて、イ号物品の意匠が本件登録意匠の範囲に含まれることを前提とする原告
の主位的請求は理由がない。
三 進んで、原告の予備的請求の当否につき判断する。
 被告が業としてロ号物品を製造し、また株式会社浅川製作所をして製造させ、こ
れにねじ切り、メツキ加工等を施してイ号物品に仕上げていることは当事者間に争
いがない。
 しかしながら、ロ号物品自体が完成品として経済取引の対象とされていることを
認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右争いのない事実に弁論の全趣旨を総合す
れば、被告は、イ号物品の製造を目的とし、その中間工程として素材としてのロ号
物品を製造しもしくは製造させ、これにねじ切り加工等を施してイ号物品に仕上げ
ていることが明らかである。
 そして、製造途上にある中間加工品ないし半製品であつてそれ自体独立して経済
取引の対象となつていない物品につき意匠権の侵害を論ずる余地のないことはいう
までもないから、前述のとおり中間加工品ないし半製品に過ぎないロ号物品につき
製造、使用(加工)等の差止を求める原告の予備的請求は、その余の点につき判断
するまでもなく理由がない。
四 以上の次第であつて、原告の主位的請求及び予備的請求はいずれも理由がない
からこれを棄却することとし、訟訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し
て主文のとおり判決する。
(裁判官 高林克巳 清永利亮 安倉孝弘)
別紙一
<11994-001>
別紙二
<11994-002>
別紙三
<11994-003>

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