弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差戻す。
         理    由
 原判決が『被控訴人(被上告人)が昭和二六年八月頃から控訴人(上告人)両名
に「するめ」の製造を委託して生「いか」を渡してきたこと及び製品はでき上り次
第これを被控訴人に引渡す約定であつたところ、控訴人両名は共謀の上、製品の内
合計四六〇貫一二〇匁の「するめ」を引渡さず檀擅にこれを他に売却して横領し、
よつて被控訴人に金一三九、三九二円に相当する損害を蒙らしめたことは、控訴人
A1において認めるところである。同控訴人は右自白を取消すと主張するけれども、
その立証資料によつては該自白が真実に反し且錯誤に出でたものなることを認める
ことができないからこれを許すことができない』と判示していることは所論のとお
りであり、上告人A1が原審において、同上告人の被上告人主張事実に対する自白
を取消した上、上告人両名において、本件委託契約には金銭の支払を以て、「する
め」の引渡に代えることができる旨の特約があつたのであるから、上告人両名が「
するめ」の引渡をしなかつたとしても、ただちに不法行為とはならない旨を主張し
ていることは本件記録上明らかである。そして論旨は、上告人A1の自白の取消を
許さずとする原判示を違法とし、『本件が民事事件として原裁判所に係属すると併
行して本件取引に関し上告人A1を被告人とする業務上横領被告事件の控訴審とし
ての審理がなされ、右被告事件については、昭和二八年七月一三日、裁判長裁判官
原和雄、裁判官山崎益男、同成智寿朗を構成員とする札幌高等裁判所函館支部が被
告人無罪の第一審判決に対する検察官申立の控訴を棄却する判決を言渡し、右判決
理由において「昭和二六年九月八日頃Bと被告人との間に、被告人は一八名以上の
漁夫船員(乗子)を確保しBはその所有船第二共和丸を燃料、船舶備品の整備費等
を負担して提供し、いかつり漁業を行うこととし、尚お乗子の所得を除きBの所得
となる全漁獲物の三割五分を被告人において鯣に加工し内一割(全体の一割)と内
臓全部を被告人が取得し其余の二割五分はBの所得とすること、税金、組合費、鯣
加工に要する費用は被告人において負担することとし両者間の所得に対する精算は
製品又は現金をもつてなすことと定めて操業を開始し同年一〇月二二日頃までの分
は前記割合で製品及現金を以て決済されたことが認められる。従つて製品のみを常
に引渡すことを要するのでなく現金で決済することも許されていたことが窺われる。
……被告人とBとの精算は製品又は現金でなさるべきであつたのは所謂選択債務で
あつて、製品であろうとその製品の売却代金であろうと、他の自己所有の現金たる
とを問わずそのいずれを以て決済するも随意であり、その選択権は債務者である被
告人に存することは当然であるから、必ずしも製品の引渡しによる履行をなすこと
を要するものではない。従つて被告人の製品の売却について不法領得の意思がある
とは認めることができない」と判示しているのであるから、本件の原裁判所である
札幌高等裁判所函館支部の構成員が裁判長裁判官原和雄、判事山崎益男、同笠井寅
雄であつて、前記刑事判決裁判所と構成員の過半数が同一である以上、上告人A1
の前記自白が真実に反することは本件の原裁判所に顕著であるとするを妨げない』
というにある。
 おもうに民事訴訟において刑事判決の理由において認定された事実に反する事実
を認定することは、もとよりこれを妨げないものと解すべく、このことはたとえ構
成員の過半数が同一の両裁判所に同一取引に関する民事、刑事の両事件が同時に係
属する場合においても、その理を異にしないものといわなけれはならない。しかし、
この場合右裁判所の一が先ず刑事事件につき判決をしたときは、右刑事判決をした
事実および右刑事判決の理由中において一定の事実を認定したことは、構成員の過
半数を同じくする他の裁判所に顕著であるといわなければならない。そして右刑事
判決において認定した事実が契約の内容に関するものである場合、民事事件におい
て他の証拠に基いてこれと異る事実を認定することを妨げないことは前記のとおり
であるが、当該契約の内容として一定の事実を認定したことが裁判所に顕著である
以上、当事者がこれと異る相手方主張の事実についての自白を取消し右刑事判決の
認定に沿う事実を真実に合致するものと主張する場合、裁判所は、これが真実に合
するや否やを判断するについては、前記裁判所に顕著な事実をも資料としてこれを
判断するを要するものと解するを相当とする。記録によれば、本件の原裁判所の構
成員が裁判長判事原和雄、判事山崎益男、同笠井寅雄であること、原審口頭弁論の
終結が昭和二八年九月一四日であり、原判決の言渡が同年一〇月五日であること明
らかであり、もし、所論の刑事事件の判決言渡の日時、判決裁判所の構成員および、
右刑事判決理由中の認定事実が本件と同一取引についてなされたものであることが
所論のとおりであるとすれば、原審が上告人A1の自白の取消の主張に対してなし
た原判示は、前記裁判所に顕著な事実につきなお証拠を必要とするとの前提に立脚
したものか、若しくは審理不尽の結果右顕著な事実に該当する刑事事件の判決をし
た事実を看過したものか、何れかの違法があることを免れない。そして原判決が、
上告人A2に対する被上告人の請求を容認するにつき、原審における被控訴本人及
び控訴本人A1の各供述(第一回)並びに弁論の全趣旨を援用しているに徴し、右
の違法は独り上告人A1についてのみならず上告人A2についても、原判決に影響
を及ぼすものと認められるから、原判決全部を破棄しこれを札幌高等裁判所に差戻
すべきものとする。
 よつて民訴四〇七条に従い、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官一致の意見によるものである。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克
 裁判官藤田八郎は差支につき署名押印できない。
         裁判長裁判官    栗   山       茂

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