弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人宮川仁、同齋藤孝知の上告趣意第一の第一点について。
 所論は、被告人合名会社Aにつき、その代表社員たるBは昭和三六年三月三日破
産の宣告を受けたのであるから、同人は商法八五条四号により法律上当然に退社し、
従つて代表者たるの地位を失うべく、右破産宣告後において同人を代表者として追
行された本件訴訟手続は不適法かつ無効である旨主張する。
 論旨は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当らな
い。(なお、被告人Bが昭和三六年三月三日破産宣告を受けたことは所論のとおり
であるが、被告人合名会社Aも同日同時刻に破産の宣告を受けていることが記録上
明認できる。ところで、合資会社の無限責任社員が会社解散後に破産の宣告を受け
ても退社原因とならないとすること大審院の判例―昭和七年(オ)第二一二〇号同
九年六月二七日民事第四部判決、判決全集七巻二〇頁―とするところであるが、こ
の法理は合名会社の破産による解散に際し、その無限責任社員が会社と同時に破産
宣告を受けた場合にも適合するものというべく、従つてBは、その破産により退社
することなく、依然被告会社の代表社員であるといわねばならず、論旨は採ること
ができない。)
 同第二点について。
 所論は第一審判決およびこれを支持した原判決を論難し、およそ、酒税法違反事
件について罰金を課するには、まず同法三条に基づき酒類の種類を定め、その酒類
の酒税額を同法二二条により確定した上、右酒税額にもとづき、同法五四条一項三
項により罰金の処断刑を算出すべきものであるところ、第一審判決は漫然アルコー
ル分一五度位を含有する二級雑酒と認定し、同法五四条一項のみを摘示して、同法
三条一一号および二二条九号の適用を示していないのであるから、同判決には、宣
告刑の根拠となる法令の適用が全くなされていないのみならず、誤つてこれが適用
されている疑もあるにかかわらず、原判決が、これを単なる法令摘示の遺脱である
とし、その遺脱があつても破棄理由に当らないと判断したのは、理由不備である旨
主張する。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。(原判決の
支持する第一審判決が本件雑酒のアルコール含有度を一五度位と認定している点は
その措辞妥当を欠くけれども、その意味するところは、アルコール分が一四度をこ
える一五度位の雑酒であるというにあることは、同判決の判文ならびにその挙示す
る証拠によつて明らかである。次に、有罪判決について法令の適用を示すには、判
示犯罪事実と相まつて、判決主文が如何なる法令に基づいて導き出されたかを了知
しうる程度に法令を引用摘示すれば足るものと解すべきであるから、酒税法五四条
一項該当の罪について、同法三条一一号の適用を明示するの必要は存せず、これを
明示しなかつたとしても違法でない。そして本件酒税法五四条一項該当の罪につき
罰金刑を言渡す場合に同法二二条九号の適用を明示しないことは違法であるけれど
も、右法条の適用遺脱は判決破棄の理由とならない旨の原判断は正当である。従つ
て、所論はすべて理由がない。)
 同第三点について。
 所論は、原判決には、刑法一五九条一項の解釈適用を誤つた違法があるというの
であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。(醸造元および銘柄を明記した
本件酒瓶用胴張紙は刑法一五九条一項にいわゆる「事実証明に関する文書」に当る。)
 同第二は事実誤認と単なる訴訟法違反の主張であつて、上告適法の理由に当らな
い。
 よつて刑訴法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとお
り判決する。
 検察官 関之出席
  昭和四〇年三月一二日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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