弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人春田定雄の上告理由(後記)第二点について。
 原判決の引用する第一審判決の理由によれば、本件「売買契約の締結に当つては
被告Bが売主となり建物の所有権者が訴外Eなることを格別明かにしなかつたので
原告においでは所有者が被告Bであると信じて契約したものであることは之を認め
るに難くないが」と判示しているが、原審の引用する第一審判決事実摘示によれば
上告人(原告)は、被上告人(被告)Bが本件建物の売買契約締結当時「同被告が
所有権者なる旨の被告等の言を信じて代金十七万円内金八万五千円は即日支払……」
と主張し、故ら本件建物の所有者の点につき同被告が不実の告知をした事実によつ
て詐欺の主張をしているものと認められるから、原審は、単に「格別明かにしなか
つた」事実を判断したのみで足るものではなく、さらに進んで不実の告知をするこ
とにより売買契約を締結させたかどうかを審理しなければならないのである。けだ
し当事者の一方が相手方に対し不実を知りながら告知し、相手方がその告知された
事実を真実なりと信じたが故に告知者の意図した意思表示をしたとすれば民法九六
条にいう詐欺による意思表示は成立するのであつて、本件において上告人主張のよ
うに、もし被上告人Bが本件家屋が自己の所有でないにかかわらず自己の所有であ
る旨を告げ(原審の採用した甲第一号証にはB所有の旨が書いてある)、上告人が
それを信じたが故に安心して本件売買契約の意思表示をしたものであるならば特別
の事情なき限り詐欺による意思表示といつて差支ないからである(現に自己が居住
する家屋につき、他人の所有なることを告げず契約書に自己所有なる趣旨の記載を
した事実があれば、特別の事情なき限り自己所有なる旨を告げたものと見るのが相
当である)。
 なお、原判決の引用した第一審判決事実摘示によれば「……右建物は被告Bの所
有でないに拘わらず同被告が所有権者なる旨の被告等の言を信じて……の約で買受
け同日内金として金八万五千円を支払つたが一向に之が所有権移転手続を履践しな
いので屡々催告に及んだところ同年五月七日被告Bは右建物は自己の所有のもので
ない為め所有権移転登記を為し得ない旨を告白するに至つた」云々と主張している
のであるから、右主張の中には原審のいう(原審の引用する第一審判決理由)「契
約法上の問題」すなわち民法五六〇条以下の主張をも含むものと見られないことは
ない。なお上告人は「右…不法行為」である旨述べているけれども、これは右事実
に対する余計な解釈であつて、上告人のいうような不法行為でなくても、民法五六
一条による請求権行使ができるわけであり、また少くとも同条所定の主たる要件事
実は前記のように主張されていると認められ、(すなわちBは第三者の物たること
を告げないで第三者の物たる本件家屋を上告人に売りながら、その所有権を移転す
ることができないのであり、上告人は第三者の物たることを知らなかつたというの
である)、 当事者は適用条文まで主張する必要あるものではないから、原審はな
おこの点につき上告人の意のあるところを明らかにし審理判断をしなければならな
いのである。
 要するに原判決は、審理不尽又は理由不備の違法あるものというの外なく上告は
結局理由があり原判決は破棄を免れない。
 よつて民訴四〇七条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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