弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事   実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。別紙目録(一)記載の控訴人らと被控訴人
大阪市との間において、同控訴人らの同被控訴人に対する昭和三九年一二月分割増
賃料の支払義務が存在しないことを確認する。別紙目録(二)記載の控訴人らと被
控訴人大阪府との間において、同控訴人らの同被控訴人に対する昭和三九年一二月
分割増賃料の支払義務が存在しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被
控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らの代理人は主文同旨の判決
を求めた。
 当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠関係は原判決の事実欄に摘
示のとおりであるから、その記載を引用する。
       理   由
一、まず本件訴の適否について判断するに、大阪府営住宅居住の控訴人らは、訴状
記載の請求の趣旨において「被告(被控訴人)大阪府が原告ら(同控訴人ら)に対
して(中略)した各割増賃料の徴収処分を取り消す」旨記載しているので、表見上
は行政処分取消訴訟のようにも考えられるが、訴状記載の当事者および請求原因な
らびに弁論の全趣旨を綜合すると、控訴人らは当初から地方公共団体(公法人)た
る大阪府自体を被告としていて当事者に変更がなく、また当初の請求も私法上の債
務たる割増賃料債務の不存在確認を求める趣旨に解することができないではないか
ら、本件訴は当事者の変更をともなう訴の変更(行訴法第二一条)でないのはもち
ろん、行政処分の取消を求める行政上の請求を後に至つて賃料債務の不存在確認を
求める民事上の請求に変更したものでもない。そして、そのほかに本件訴を不適法
とすべき特段の事情はないから、本件訴は適法であるというべきである。
二、次に控訴人らは、被控訴人らの割増賃料徴収の意思表示は控訴人らの居住権を
侵害し、したがつて憲法第二九条第一項に違反する旨主張するので、考えてみる。
(1) まず、控訴人らがその主張の公営住宅を賃借し、同住宅に三年以上居住し
ていること、および被控訴人大阪市が大阪市営住宅居住の控訴人らに対し、また被
控訴人大阪府が大阪府営住宅居住の控訴人らに対し、それぞれ控訴人ら主張の日に
その主張の金額を割増賃料として徴収する旨の意思表示をしたことはいずれも各当
事者間に争いがない。
(2) 公営住宅の利用関係。公営住宅は、地方公共団体が国の補助をうけて住宅
に困窮する低額所得者に対し低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と
社会福祉の増進に寄与することを目的として、建設されるものであつて(公営住宅
法第一条、第二条参照)、公の営造物であるから公営住宅の管理において、これを
特定の個人に使用させるについては、入居者の選考、決定(同法第一八条)という
一定の使用許可手続をとることが必要であり、地方公共団体と個人との間の使用関
係の設定は、公法的な一面をもつことを否定できないけれども、公権力の行使を本
質とするものではなくて、いわゆる公法上の管理関係と解すべきである。しかし、
いつたん使用を許されて入居した後の公営住宅の利用関係については、公営住宅法
が賃貸(第一条、第二条)、家賃(第一条、第二条、第一二ないし一四条)敷金
(第一三条)というような私法上の賃貸借契約に通常使用される用語を使用してお
り、公営住宅の利用と家賃の支払との関係が対価関係にあることなどから考える
と、その利用関係は私法上の家屋賃貸借関係と性質を異にするものではない。もつ
とも、公営住宅法は住宅の困窮者に「低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活
の安定と社会福祉の増進に寄与する」という社会政策的な目標を主目的として、公
営住宅を法の目的に添うよう管理運営するために必要な種々の規定を設けているか
らその限りでは私権の保護を主目的にした民法や借家法と異なるとともに、公営住
宅の利用関係についてはそれらの法に優先して適用される特別法の関係に立つもの
と解すべきである。
(3) 割増賃料の性格。公営住宅法第二一条の二によれば、公営住宅に三年以上
入居している間に一定の収入基準を超える収入を有するに至つた入居者に対して
は、一方では公営住宅を明け渡すよう努力する義務を課すとともに、他方では事業
主体がその明渡のできない者に対して一定の限度内で割増賃料を徴収することがで
きるものとされている。この明渡努力義務と割増賃料の徴収とは、収入基準を超え
る公営住宅の入居者に対しては、公営住宅利用の恩恵をできるだけ及ぼすべきでな
いという法意に立脚しており、相互に共通し関連するものがあるけれども、両者は
別個独立であるから、たとえ入居者が割増賃料の支払義務を履行したとしても、明
渡努力義務が免除されるものではないと解すべきである。しかし、この意味は割増
賃料の徴収が明渡努力義務の懈怠に対する間接的強制としての行政罰的性格をもつ
ことを意味しない。割増賃料は、その明渡努力義務違反に対する制裁的性格をもた
ないからである。また、割増賃料はその金額の算出について、国庫補助はあるが入
居者の収入との均衡を全く考慮しない、いわゆる建設費償却主義の家賃体系を採ら
ないで、国庫補助のない建設費償却主義を基礎として収入が多くなれば家賃を引き
上げる、いわゆる支払能力主義を加味した家賃体系を採る場合であつても、その割
増賃料と賃料の合計額を一体として綜合的に考えてみて、それが住宅使用の対価と
して相当な範囲を逸脱しないようなときは、なお賃料としての性格をもつものと解
すべきである。
 本件において、収入超過基準が第一種住宅については月額四万五〇〇〇円、第二
種住宅については月額二万五〇〇〇円であること、および控訴人らに対する昭和三
九年一二月分割増賃料額が最高八四〇円、最低二八〇円であることは、当事者間に
争いがなく、原審証人A、Bの各証言および弁論の全趣旨によれば、第一種住宅の
家賃については二分の一、第二種のそれについては三分の二の国庫補助があるこ
と、割増賃料について収入超過基準額は入居者が給与所得者の場合は総収入から所
得税法による給与所得控除をした収入月額より、さらに扶養親族一人につき月額二
〇〇〇円を控除した額であり、昭和四二年四月現在における扶養家族三人をもつ標
準四人家族では、第一種住宅の収入超過基準に対応する総収入は月額六万八八八九
円、第二種住宅の収入超過基準二万五〇〇〇円に対応する総収入は月額四万五四一
六円であること、家賃と割増賃料の合計額が大阪市営住宅入居の控訴人らの総収入
に対して占める割合は、昭和三九年一二月ごろで最高約八パーセント、最低約六パ
ーセントであり、大阪府営住宅入居の控訴人らのそれについてもほぼこれに近いこ
と、控訴人ら間の割増賃料額の差異が明渡努力義務違反に対する違反度または制裁
の差異によるものでないこと、および控訴人ら各自の負担する家賃と割増賃料の合
計額が民間の借家人や公団住宅の入居者の賃料に比べてかなり低いことが認めら
れ、右認定を妨げるべき証拠はない。以上の事実によれば、本件割増賃料もなお公
営住宅使用の対価としての範囲を超えない賃料の一部を構成するものというべきで
ある。
(4) したがつて、右のような賃料の性格をもつ割増賃料を公営住宅制度の社会
政策的役割から考えると、公営住宅の入居者としては、この程度の割増賃料の徴収
に応ずべき不利益は、社会生活上受忍すべき限度内にあるから、被控訴人らの割増
賃料徴収の意思表示によつて、控訴人らの居住権を違法に侵害することとはなら
ず、よつて控訴人らの憲法第二九条第一項違反の主張は失当であつて採用すること
ができない。
三、控訴人らは、割増賃料の徴収は控訴人らの文化的生活権を侵害し憲法第二五条
に違反する旨主張するので、判断する。
 公営住宅の割増賃料制度は、住宅に困窮している低額所得者に住宅を賃貸するこ
とにより社会公共の福祉の増進に寄与することを目的とする制度の一環をなすもの
であるから、事業主体が家賃のほかに割増賃料を徴収しても、その割増賃料が賃料
の性質を有し入居者の社会生活上受忍すべき限度を超えないような場合には、その
割増賃料の徴収自体は、当然には公営住宅入居者の生活権を違法に侵害することと
ならないものと解すべきである。本件の前示認定の事実関係によれば、本件割増賃
料が賃料の性質を帯びるものであり、控訴人らが家賃のほかに割増賃料を徴収され
ても、それらの額が控訴人らと同程度の収入を有する民間の借家人や公団住宅の入
居者の賃料と比較してかなり低く、公営住宅の入居によつてなお相当の利益をうけ
ているものというべきであるから、控訴人らに対する割増賃料の徴収は、公営住宅
入居者の文化的生活権を違法に侵害するものではない。
 したがつて、控訴人らの右主張は失当であつて排斥するのほかない。
四、次に控訴人らは、割増賃料の決定手続には地方税法第二二条違反がある旨主張
するので検討することとする。
 地方税法第二二条の規定の趣旨は、地方税に関する調査の事務に従事している者
がその事務に関して知りえた私人の秘密を私人の意思に反して第三者に知らせるこ
とは、地方税の賦課徴収に必要な調査事務の範囲を超えるとともに、私人に課せら
れた調査受忍義務の限度を不当に拡張することになるから、公益上の理由のような
特段の事由のない限り、私人の権利に対する違法侵害としてこれを防止することに
あると解すべきであるところ、公営住宅法第二三条の二によれば、公営住宅の事業
主体の長は、割増賃料の徴収等の措置に関し必要があるときは公営住宅入居者の収
入の状況について、官公署に必要な書類の閲覧を求めることができるものとされて
いる。この規定は、事業主体の長の権限を明示したにとどまらず、官公署に対し事
業主体の長の行なう入居者の収入の状況の調査に協力すべき義務を課したものであ
り、事業主体の長が公営住宅入居者の収入を確定するに必要な限度で地方税の課税
台帳を閲覧することは、割増賃料制度の適正な運用のため本来知得すべき事項を確
実に知得する方法であり、入居者が割増賃料を徴収される以外に右閲覧によつて特
別の不利益をうけることがないような場合は、その閲覧行為は公営住宅法第二三条
の二にもとづく適法な行為であり、地方税法第二二条にいわゆる「事務に関して知
り得た秘密をもらし、又は窃用した場合」に該当しないものと解すべきである。
 これを本件についてみるに、被控訴人らがそれぞれ控訴人ら主張の課税台帳を閲
覧したことは、各当事者間に争いがないが、そのほかに被控訴人らが割増賃料の決
定手続に地方税法第二二条違反の行為をしたことについては、控訴人らの立証はも
ちろん本件の全証拠によるもこれを認めるに足る証拠はない。したがつて、控訴人
らの右主張も失当であつて採用することができない。
五、よつて、控訴人らが割増賃料支払義務の不存在確認を求める本訴各請求は、い
ずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は失当である
から棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第九三条お
よび第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 亀井左取 松浦豊久 村上博巳)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛