弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人龍前茂三郎の上告理由一点について。
 所論は乙九号乃至一二号証および一五号証の一、二は真正な公文書と推定される
ものであるのに、被上告人は単にその成立を否認し真否について立証していないに
拘らず、原審は当該官庁又は公署に問合せることもなく、右文書の成立は認められ
ないとして排斥したのは採証の法則を誤つた違法があると主張する。しかしその文
書が真正に成立した公文書と推定されるためには、その方式及趣旨に依り官吏其他
の公務員が職務上作成したものと認められることを要するのであるから(民訴三二
三条)その文書の形式や文書記載の趣旨から見て、到底公務員が職務上作成したも
のと認められないものは、真正の推定を受け得ないことは言うまでもない。本件に
つき原審は、前記書証について、その形式及文書記載の趣旨中に公務員がその権限
に基いて正規に作成されたとは認め難い欠点あることを指摘して、右乙号証はいず
れも正当権限ある公務員によつて作成されたものとはいい難く、これ等書面が真正
に成立したものとなすに足る証拠がないと判示している、即ち原審は右乙号証はい
ずれも民訴三二三条の真正の推定を受くる要件をそなえていないと判断したものに
外ならないのであつて、その判断はもとより正当である、従つて原判決には所論採
証法則違反の違法はない。
 同二点について。
 所論は原判決が乙一五号証の一、二を証拠に採用しない点につき理由不備の違法
があると主張するが、公務員が公文書に用いる印章については、明治三一年閣令五
号(昭和二五年一〇月二日総理府令四〇号により改正)によつて、その大きさが一
定しているので、原判決の「乙一五号証の一、二についても、その記載の形式特に
東京都長官D名下の印影の大きさ等を考慮に入れて考えればこれも亦正当権限のあ
る者が作成したものとは認め難い」との判示は、右名下の印影が前記閣令所定の勅
任官の印章の大きさと異ることを認定したものと認められる(当時都長官は親任官
であつて右閣令の勅任官に含まれることは、明治四三年三月勅令一三四号高等官官
等俸給令一条により明らかである、従つて親任官の使用する印章は右閣令において
定むる勅任官の印章を意味するものである)しかして右印章の相違と文書記載の形
式から、これを真正に成立したものと認め難いとした原判決の判示はこれを首肯す
るに足りる、従つて判決に理由を附さない違法があるとの所論は採用できない。
 同三点について。
 所論の文書提出命令の申立は、原審において口頭弁論期日前になされたものであ
るが、その後原審は、昭和三〇年一一月五日の口頭弁論期日において、他の証拠は
取調べない旨を告げているから、右申立もこの時却下せられたものと見るべきであ
る、従つて何等の決定をしないで判決した違法があるとの所論は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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