弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴並びに一審原告らの当審における請求の拡張及び訴訟の承継に基
づき,別紙当事者等目録記載の原告番号104P1,同229P2,同230
P3,同231P4及び同245P5の各一審原告並びに被控訴人P6の請求
に関する部分を除き,原判決を次のとおり変更する。
(1)一審被告は,別紙認容金額一覧表の「氏名」欄記載の一審原告らに対し,
同別紙の「認容金額」欄記載の各金員及びこれらに対する昭和62年4月1
日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)別紙当事者等目録記載の原告番号13P7,同85P8,同146P9,
同210P10及び同261P11の各一審原告の各請求並びに別紙認容金
額一覧表の「氏名」欄記載の一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
2別紙当事者等目録記載の原告番号104P1,同229P2,同230P3,
同231P4及び同245P5の各一審原告の各控訴(当審において拡張した
請求を含む。)及び一審被告の被控訴人P6に対する控訴をいずれも棄却する。
3別紙原状回復目録の「氏名」欄記載の各一審原告は,一審被告に対し,同別
紙の「返還金額」欄記載の金員及びこれに対する平成17年9月16日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4訴訟費用(民事訴訟法260条2項に基づく申立てに関する費用を含む。)
は,第1,2審を通じてこれを20分し,その1を一審被告の,その余を一審
原告ら及び被控訴人P6の各負担とする。
5この判決は,1項(1)及び3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1一審原告ら
(1)原判決中,一審原告ら敗訴部分を取り消す。
(2)主位的請求
ア別紙当事者等目録記載の原告番号1ないし46,48ないし72,74
ないし115,117,119ないし125,127ないし152,15
4ないし167,169ないし246,248ないし265,267ない
し279,281ないし285,288ないし290の各一審原告らと一
審被告との間にそれぞれ雇用関係の存在することを確認する。
イ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号1ないし46,48ない
し72,74ないし115,119ないし125,127ないし138,
140ないし152,154ないし167,169ないし246,248
ないし265,267ないし279の各一審原告らに対し,それぞれ別紙
未払賃金目録1「請求金額」欄記載の各金員に1000万円を加えた各金
員及び平成2年5月から同14年1月までの間に弁済期の到来した同目録
「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)から各
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号117,139,281
ないし285の各一審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録2「請求
金額」欄記載の各金員及び平成2年5月から同15年9月までの間に弁済
期の到来した同目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日
(毎月21日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号288ないし290の各
一審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録3「請求金額」欄記載の各
金員及び平成2年5月から同15年10月までの間に弁済期の到来した同
目録「基本給」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)か
ら各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
オ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号1ないし46,48ない
し72,74ないし115,119ないし125,127ないし138,
140ないし152,154ないし167,169ないし246,248
ないし265,267ないし279の各一審原告らに対し,平成14年2
月以降毎月20日限り,同117,139,281ないし285の各一審
原告らに対し,同15年10月以降毎月20日限り,同288ないし同2
90の各一審原告らに対し,同年12月以降毎月20日限り,それぞれ別
紙未払賃金目録1ないし3「基本給」欄記載の各金員を支払え。
カ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号280−1ないし4の各
一審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録4「請求金額」欄記載の各
金員に同目録「慰謝料及び弁護士費用の内金」欄記載の金員を加えた各金
員及び平成2年5月から同6年6月までの間に弁済期の到来した同目録
「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
キ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号286−1ないし3の各
一審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録5「請求金額」欄記載の各
金員及び平成2年5月から同4年11月までの間に弁済期の到来した同目
録「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21
日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ク一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号287−1ないし3の各
一審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録5「請求金額」欄記載の各
金員及び平成2年5月から同10年7月までの間に弁済期の到来した同目
録「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21
日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ケ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号47−1ないし3の各一
審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録6「請求金額」欄記載の各金
員及び平成2年5月から同16年7月までの間に弁済期の到来した同目録
「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
コ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号118−1及び2の各一
審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録6「請求金額」欄記載の各金
員及び平成2年5月から同15年4月までの間に弁済期の到来した同目録
「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
サ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号73−1ないし3の各一
審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録7「請求金額」欄記載の各金
員及び平成2年5月から同19年1月までの間に弁済期の到来した同目録
「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
シ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号153−1ないし3の各
一審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録7「請求金額」欄記載の各
金員及び平成2年5月から同19年3月までの間に弁済期の到来した同目
録「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21
日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ス一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号168−1及び2の各一
審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録7「請求金額」欄記載の各金
員及び平成2年5月から同20年1月までの間に弁済期の到来した同目録
「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
セ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号247−1及び2の各一
審原告らに対し,それぞれ別紙未払賃金目録7「請求金額」欄記載の各金
員及び平成2年5月から同19年6月までの間に弁済期の到来した同目録
「基本給相続分」欄記載の各金員に対する各弁済期の翌日(毎月21日)
から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ソ一審被告は,一審原告らに対し,それぞれ原判決別紙謝罪文を交付する
とともに,横1.5メートル,縦2.0メートルの用紙に同謝罪文を見や
すく記載して,一審被告事業所入口の見やすい場所に1か月間掲示せよ。
タ一審被告は,別紙当事者等目録記載の原告番号1ないし46,48ない
し72,74ないし115,117,119ないし125,127ないし
138,140ないし152,154ないし167,169ないし228,
281の各一審原告らについて北海道旅客鉄道株式会社に対し,同229
ないし231の各一審原告らについて東日本旅客鉄道株式会社に対し,同
139,232ないし246,248ないし265,267ないし279,
282ないし285,288ないし290の各一審原告らについて,九州
旅客鉄道株式会社に対し,それぞれ原判決別紙要請書を交付して各一審原
告らの採用を要請せよ。
(3)予備的請求
一審被告は,一審原告らに対し,別紙原告別損害賠償請求額一覧表の「請
求金額」欄記載の各金員及びこれに対する昭和62年4月1日から各支払済
みまで年5分の割合による各金員を支払え。
(4)訴訟費用は,第1,2審とも,一審被告の負担とする。
(5)(2)イないしセ及び(3)につき,仮執行宣言。
2一審被告
(1)原判決中一審被告敗訴の部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る一審原告ら及び被控訴人P6の請求並びに一審原告
らが当審において拡張した請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じて一審原告ら及び被控訴人P6の負担と
する。
(4)民事訴訟法260条2項の申立て
ア別紙原状回復申立目録の「氏名」欄記載の各一審原告ら及び被控訴人P
6は,一審被告に対し,それぞれ同目録の各氏名欄対応の元本,損害金及
び執行費用の「合計額」欄記載の金員並びにこれに対する平成17年9月
16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イアにつき,仮執行宣言
第2事案の概要等
1本件は,いわゆる国鉄分割民営化の過程において,国鉄労働組合に所属する
一審原告らが,日本国有鉄道による不当労働行為があったために分割民営化後
に設立された新会社に採用されず,日本国有鉄道から移行した日本国有鉄道清
算事業団の職員となった後でそこを解雇されるに至ったなどとして,同事業団
を承継した一審被告を相手に地位確認や損害賠償等を請求する事案である。事
案の概要,争いのない事実等及び争点は,次項以下のとおり付加訂正するほか,
原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」(以下「原判決『事案の概
要』」という。)記載のとおりであるから,これを引用する。
2原判決「事案の概要」中の事案の概要部分(原判決3頁25行目冒頭から同
5頁14行目末尾まで)の末尾に,行を改めて次のとおり付け加える。
「原審裁判所は,原判決において,一審原告らの主位的請求をいずれも棄却
し,予備的請求については,原告番号104P1,同229P2,同230
P3,同231P4及び同245P5の各請求を棄却しつつ,他の一審原告
らの請求については各一審原告につき500万円(相続人である一審原告ら
については,その法定相続分)及びこれに対する平成2年4月1日から支払
済みまで年5分の割合による金員の支払いを命ずる限度でこれを認容した。
そして,原判決の仮執行に基づき,平成17年9月16日,一審被告は上記
各一審原告らに対し,別紙原状回復申立目録の各氏名欄対応の元本,損害金
及び執行費用の「合計額」欄記載の各金員を支払った。
原判決に対しては,双方当事者が控訴したが,このうち一審原告らは,一
審原告ら敗訴部分を取り消して,原審におけるとおおむね同じ内容の請求を
認容するよう求めている(その詳細については,後記1(4)で述べる。)。
他方,一審被告は,一審被告敗訴部分を取り消して,同取消部分に係る一審
原告ら及び被控訴人P6の請求を棄却するよう求めるとともに,原判決中一
審被告敗訴部分を取り消すに当たって,原判決に基づき仮執行された金額に
つき民事訴訟法260条2項に基づき原状回復を命ずるよう求めている(な
お,一審被告は,当審で同申立てをした後に生じた一部一審原告らの死亡を
踏まえての原状回復申立内容の変更を明示的に行っていないが,一審被告が
上記死亡に基づく一審原告らの請求の変更につき異議を述べていないことに
照らし,一審被告の申立てについてもこれに応じて当然にその内容を変更す
る趣旨であったものと解する。)。」
3原判決「事案の概要」1(1)ウ(イ)中(原判決7頁21行目から22行
目にかけて)の「原告番号104P1」を「原告番号13P7,同85P8,
同104P1及び同146P9(以下,これらの者を合わせて「一審原告P1
ら4名」という。)と改める。また,以後,本判決において引用する原判決本
文中の「原告番号104P1」はいずれも「一審原告P1ら4名」と改める。
4原判決「事案の概要」1(1)ウ(カ)を次のとおり改める。
「(カ)原告番号47−0P12は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同
番号47−1ないし47−3の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号73−0P13は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同番号
73−1ないし73−3の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号118−0P14は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同
番号118−1及び118−2の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号153−0P15は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同
番号153−1ないし153−3の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号168−0P16は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同
番号168−1及び168−2の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号247−0P17は平成▲年▲月▲日死亡し,妻と母である
同番号247−1及び247−2の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号280−0P18は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同
番号280−1ないし280−4の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号286−0P19は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同
番号286−1ないし286−3の一審原告らがその地位を相続した。
原告番号287−0P20は平成▲年▲月▲日死亡し,妻子である同
番号287−1ないし287−3の一審原告らがその地位を相続した。
(以上,各訴訟手続受継の申立書添付の戸籍謄本及び弁論の全趣旨)」
5原判決「事案の概要」1(4)を次のとおり改める。
「(4)本訴提起及びその後の経緯
一審原告らは,平成14年1月28日(原審甲事件),同15年10月
20日(原審乙事件),同年12月12日(原審丙事件),それぞれ主位
的請求に関し本件訴えを提起し,同16年4月19日予備的請求において
訴えの追加的変更をした。
原判決に対する控訴提起後,一審原告らは,不服申立ての範囲につき,
平成18年6月19日付け「控訴の趣旨の訂正申立書」により,予備的請
求のうち慰謝料を除いた逸失利益等の賠償請求を当初請求額の7割に訂正
し,同年11月20日付け「控訴状訂正および請求原因の変更申立書」に
より,主位的請求及び予備的請求について慰謝料だけでなく弁護士費用を
もその損害費目として追加し,同20年12月4日付け「訴えの変更申立
書」により,予備的請求に係る損害賠償の遅延損害金起算時を平成2年4
月1日から昭和62年4月1日に変更して請求を拡張した。また,一審原
告らに新たに相続(上記(1)ウ(カ)参照)が発生する都度,訴えを変
更した。他方,原告番号116及び同266の元一審原告らは,原審の時
点で訴えを取り下げていたが,同126の被控訴人P6も,当審で控訴を
取り下げた(ただし,被控訴人P6については,一審被告の提起した控訴
の被控訴人でもあるので,当審における訴訟当事者としての地位を失わな
い。)。以上の結果,当審における一審原告らの請求の概要は次のとおり
となっている。
ア雇用関係存在確認請求(控訴の趣旨1(2)ア。なお,解雇された本
人が死亡した原告番号47,73,118,153,168,247,
280,286及び287,訴え取下げのあった原告番号116,26
6,控訴取下げがあった被控訴人P6が除かれている。)
イ雇用関係があることを前提に,平成2年5月以降の未払賃金等請求
(3度に分けられた各提訴時点までの未払賃金と遅延損害金の支払いを
求めるものとして,控訴の趣旨1(2)イないしエ,各提訴後に支払い
を受けるべき賃金と遅延損害金の支払いを求めるものとして同オ。また,
既に死亡した者についての未払賃金等の支払いを求めるものとして,同
カないしセ。いずれも,慰謝料等の支払いも求めている。)
ウ名誉回復のための謝罪文の交付及び掲示請求(控訴の趣旨1(2)
ソ)
エJR北海道,JR東日本,JR九州に対する一審原告らの採用要請請
求(控訴の趣旨1(2)タ。なお,同請求の請求者は上記アと同様であ
る。)
オ雇用関係の存在を前提とする請求が認められなかった場合の予備的請
求として,不当労働行為等を原因とする採用差別によって希望するJR
に採用されなかったことにより被った損害賠償の請求(控訴の趣旨1
(3)。なお,慰謝料及び弁護士費用については,2000万円と原判
決認容額との差額を請求しており,採用年齢基準に該当しなかった原告
番号230並びに本訴提起前に本人が死亡した原告番号280,286
及び287については慰謝料及び弁護士費用額を1000万円とし,こ
れと原判決認容額との差額を請求している。)」
第3争点に対する当事者の主張の要旨
これについては,原判決「事実及び理由」の「第3争点に対する当事者の
主張の要旨」記載のとおり(ただし,原審更正決定による更正後のもの)であ
るからこれを引用する。ただし,当審における当事者の主張の要旨を,引用し
た原判決記載の各争点毎に,次のとおり付加する。
1「争点1(本件解雇の効力)について」について,次のとおり付加する。
【一審原告らの当審における主張】
国鉄改革関連法は国労を崩壊させるための国家的不当労働行為を狙うも
のであって,憲法28条等に違反するものであったし,仮に法令違憲とま
でいえなくとも,国労差別のための同法運用は憲法に違反するものであっ
た。したがって,このような違憲の法律に基づく解雇は無効である。
また,一審原告らは不当労働行為によって採用候補者名簿(以下,単に
「名簿」ということもある。)に記載されなかったのであるから,このよ
うな立場の一審原告らが,再就職促進法にいう再就職必要職員にあたると
はいえず,国鉄は,一審原告らをそのような立場に置いた上,事業団にお
いて再就職あっせんを懈怠したまま解雇したものである。原判決は,一審
原告らが名簿不記載という不当労働行為によりJRに採用されなかったこ
とと,その後事業団を解雇されたことを別個のものと捉えているが,本件
解雇は,国鉄ないし事業団が行った一連の不当労働行為の完成行為という
べきであり,近時の下級審裁判例に照らしても,無効とされるべきである。
さらに,一連の経緯に照らせば,本件解雇は解雇権の濫用に当たるという
べきであるし,しかも,本件解雇は実質的には整理解雇というべきところ,
これを正当化するだけの要件は具備されていない。
【一審被告の当審における主張】
国鉄改革関連法は民主的過程において,当初反対していた勢力も賛成に
回る中で成立したものであり,国労つぶしのための国家的不当労働行為な
どとの批判は的はずれであって,これまでの最高裁判決に照らしても,国
鉄改革関連法の合憲性についての判断は確立している。また,一審原告ら
がいうような,国労差別目的での運用もなく,違憲の主張は失当である。
原判決は,国鉄改革関連法の構造を踏まえ,再就職促進法の失効に伴っ
て,事業団が一審原告らを解雇したのは無効でないとしたが,この判断は
正当である。もともと,名簿不記載は不当労働行為ではないし,仮に不当
労働行為であったとしても,それが本件解雇の効力に影響を与えるもので
はない。一審原告らは,一審被告が一審原告らを地元JRに就職させる義
務があるというが,そのような根拠はない。一審原告らは,本件は実質整
理解雇であるなどと主張するが,独自の見解というべきであるし,本件解
雇が解雇権の濫用となるような事情もない。
2「争点2(不法行為の有無)について」のうち「(1)国鉄が,一審原告ら
を希望するJR北海道,JR東日本,JR九州の各採用候補者名簿に記載せず,
前記JR各社をして不採用とさせ,事業団に振り分けた行為」について,次の
とおり付加する。
【一審被告の当審における主張】
ア大量観察方式の妥当性の有無
原判決は大量観察方式に基づき,国鉄に不当労働行為があったと判断
した。しかし,大量観察方式が認められるのは労働組合法7条3号該当
事由の有無が問題となる不当労働行為救済申立事案に限定され,個々の
組合員の不利益取扱いが問題となる場合には,個々の組合員毎に不利益
取扱いが検討されるべきである。
また,大量観察方式を用いる前提として,比較対照される二集団の等
質性については差別を主張する側が立証すべきところ,原判決は,この
立証責任を一審被告に転嫁したのみならず,国鉄分割民営化に強硬に反
対した国労等の組合と,これに協力的であった動労等の組合に所属する
各組合員の勤務成績には顕著な違いがあるにもかかわらず,これに等質
性があることを前提にして不法行為の成立を認めたものである。本件に
ついての中労委の命令でさえも,大量観察方式による立証の限界から,
各組合員の個別救済を命じていないのに,以上のような判断をしたのは
不当である。
イ名簿記載における差別の有無
国労は,国家的政策である分割民営化に反対して,違法な抗議ストを
敢行し,国鉄破綻の原因とされた職場規律問題についても既得権益を主
張して是正に応じないばかりか,現場管理者に対して暴言を吐いたり,
集団抗議行動を実施するなどして指示に従わなかった。また,余剰人員
対策にも「三ない運動」を展開するなどして協力せず,企業人教育も拒
否するなどしたのであり,動労等の組合が国鉄の施策に協力したのと顕
著に異なる行動を取っていた。希望者数に比して採用人員数に限りがあ
るJR九州と同北海道の採用候補者名簿に記載する者を選別するにあた
って,分割民営化の趣旨を理解して職務に精励していたかを考慮するの
は当然のことであり,その結果,以上のような国労の闘争に盲従した一
審原告らは名簿に記載されないこととなったものである。国鉄分割民営
化が成功したのは衆目の一致するところであり,これが当時国是とされ
ていた以上,その趣旨を理解しているかどうかは個人の思想の問題に留
まるものではなく,非協力な態度に出た者が劣位に評価されたのは当然
の結果である(国労は,分割民営化がされた後になっても,就業規則が
自己啓発義務等を定めることについて企業意識を植え付けるものである
とか,規律確保は会社施策への服従を強いるものであり不当であるなど
と主張していたものである。これは分割民営化の趣旨を理解しないもの
であって,このような組合の方針に盲従した勤務ぶりしか示さない者は,
自ずと,仕事の成果,知識・技能,協調性,会社への貢献度等において
も劣るものと容易に想定される。)。
このように,一審原告らが採用候補者名簿に記載されなかったのは,
その勤務成績等に照らしJRに採用するにふさわしい者と考えられなか
ったからであり,結果的に組合により名簿記載率が違ったとしても,そ
れが不当労働行為に当たるものではない。
また,一審原告らには,懲戒処分を受けた者が多数含まれるが,国鉄
の職場規律問題が破綻の重要な要因であったことからして,JRでは職
場秩序の維持確立が重要だったのであり,懲戒処分を受けていることの
一事をもって採用基準に合致しないことは明らかである。
ウ個別の一審原告らに係る事情
懲戒処分のうち,特に停職処分については,これを受けたこと自体,
勤務成績が不良であることを顕著に示すものであり,そのような者を名
簿に記載しなかったことは違法とならない。原判決は,名簿不記載の基
準である停職6か月以上の処分を受けている一部の一審原告らについて
は名簿不記載は不当労働行為とならないとしているが,原告番号210
P10及び同261P11も停職6か月以上の処分を受けているから,
同様に扱われるべきである。
なお,当該基準に該当するものであっても,その後の改悛の情が著し
い者は,新会社にふさわしい者と考えられるから,そのような者を名簿
に記載したからといって何ら問題はない。
【一審原告らの当審における主張】
ア大量観察方式の妥当性の有無
紅屋商事事件についての最高裁判決(最高裁判所昭和61年1月24
日第二小法廷判決・労働判例467号6頁)は,不利益取扱いによる不
当労働行為についても大量観察方式を是認したものと解されているし,
不当労働行為審査手続における大量観察方式は,証拠が偏在する状況下
で労使双方に合理的に立証負担を負わせるというその趣旨からして,訴
訟における立証にあたっても当然に採用されるべきである。
国労と鉄産労は,集団的比較をするに十分なほどの集団をなしている
し,比較対象となる集団の鉄産労は国労とも等質といえる。そして,両
者間では採用候補者名簿に記載された所属組合員の比率に明確な差があ
り,また国鉄において組合嫌悪の意思も認められるのであるから,大量
観察方式をするだけの前提要件を具備しているというべきである。
イ名簿記載における差別の有無
一審被告は,国鉄分割民営化に賛成するか否かは,一審原告らの具体
的な勤務態度に反映されたのであり,一審原告らが劣位に評価されたの
は当然であると主張するが,これは,勤務態度ではなく一審原告らの思
想を差別したものである。
もともと,列車を毎日安全に運行させるという業務の基本はJRへの
移行後も何ら変化はないのであり,分割民営化への賛否と,日々の業務
とは無関係であって,分割民営化に反対していたからといって,一審原
告らがJRで業務をすることに何の支障はなかった。そして,国労組合
員は動労等の組合員と比較しても高い業務遂行能力を持っていたし,J
Rに採用された国労組合員は,差別に遭うなどしながらも誠実に業務を
遂行し,実績を上げているのであり,こういった事実は国労組合員がJ
Rに採用されるにふさわしい者であることを示している。
ところが,勤務態度評価の基礎資料となった職員管理調書は,具体的
な勤務態度ではなく,国鉄分割民営化に賛成するか否かという思想その
ものを評価する仕組みとなっており,その記載対象となる処分の該当年
度が,動労組合員が記載対象とならないよう動労がストを止めた後の昭
和58年以降の通告に限る形で設定されてもいた。また,国鉄は,早期
退職者が予想より多くなりすぎたために本州のJR会社に採用される見
込みの人数が計画を下回ることになったが,不足分につき国労組合員を
採用することに改革労協からの反発があったために,6か月以上の停職
処分を受けた者は採用候補者名簿に記載しないといった新たな採用基準
を設定したりもした。そして,実際の運用を見ても,職員が国労を脱退
するなどすればすぐに評価が変更され,重い労働処分を受けた者であっ
ても,国労を脱退すればJRに採用される一方,北海道においては,事
故や非違行為を起こしたり勤務態度が不良であるなど,不採用となった
者と比較して明らかに劣位におかれるべき者が動労組合員の中に多数含
まれていたにもかかわらず,同組合員は100パーセントJRに採用さ
れているのであって,その運用の実態からみても,思想差別が行われた
のは明らかである。
国鉄は,雇用確保という利益誘導をてこに動労等の労働組合を民営化
に協力させるという支配介入を行ったものであり,このような違法行為
と闘う国労等の労働組合の行為が不当視されるべきではない。一審原告
らはもともと職場での協調には配慮してきたところ,それが国鉄側の経
営姿勢の変化を前に闘わざるを得なくなってしまったものである。一審
被告は,一審原告らが既得権益にしがみついたかのような主張をするが,
労使の合意のもとに認められてきた時間内身体洗浄等を一方的に破棄す
るのが不当であることは明らかである。分割民営化に賛成する組合と反
対する組合がある場合において,反対するが故に当該組合を不利益取扱
いをすることは,過去の判例に照らしても許されない。もともと,国鉄
破綻の原因や再建方策については様々な見解があったのであり,分割民
営化は国是といえるようなものではなかったし,JR発足後の事故多発
等からしても分割民営化は成功であったと評価できるようなものではな
い。
一審被告は,一審原告らに懲戒処分を受けた者が多数含まれることを
もって,劣位の評価を受けた事情であると主張するが,職場規律問題の
是正が完了した後の分割民営化直前に一審原告らに対して処分を集中さ
せる理由はなかったのであり,懲戒処分は一審原告らをJRに不採用と
するための不当労働行為というべきである。
また,闘争の実態を見ても,国鉄全体から見れば現場での労働者の抵
抗はささやかなものであったし,職場を放棄しての抗議行動などはなか
った。ワッペン着用闘争は,職務専念義務にも服務規程にも違反したわ
けでもないし,順法闘争は業務の正常な運営を阻害する行為にはあたら
ず,一審原告らが行ったストライキも短時間で列車運行にほとんど影響
を与えなかった。そして,組合運動は組合の統制の下に行われるもので
あるから,これを個人の責任に帰着させるべきものではない。したがっ
て,これらを職員管理調書上不利益に評価することは違法である。また,
過去の処分を採用にあたって考慮することは二重処分にあたるし,労働
基準法22条4項は組合運動に関するブラックリストの作成を禁じてい
るところ,職員管理調書は労働処分歴を記載していたのであって,労働
基準法の脱法行為がされたというべきである。
さらに,採用の結果をみると,名簿不記載の基準に該当するにもかか
わらずJRに採用されている者もいるのであって,処分があったから採
用しないという基準の適用は恣意的というほかない。
ウ個別の一審原告らに係る事情
一審原告らのうち,JR東日本への採用を希望していた原告番号22
9P2,同231P4,同245P5は,6か月以上の停職処分を受け
たとして名簿不記載になったとされているが,中労委は,審理の上でこ
れらの者に不当に重い処分がされたことを認定しており,積極的な反証
もないのに当該処分を前提に同人らについての不採用を適法とした原判
決は不当である。国鉄の処分は私法上の行為と解されるところであり,
処分の取消訴訟によって取り消されない限りその効力があるということ
にはならない。
また,昭和61年度末において55歳未満の者しか採用候補者名簿に
記載しないとの基準は,国鉄における定年を一方的に引き下げるもので
合理性を欠くから,原告番号230P3も名簿記載と採用を求め得る立
場にあったというべきである。
3「争点3(本件不法行為による損害賠償の範囲,損害回復方法)について」
について,次のとおり付加する。
【一審原告らの当審における主張】
(1)不当労働行為と不採用の因果関係
原判決は,一審原告らが組合差別により名簿不記載となったことを認
めつつも,当該差別がなければ採用されたことの立証がないとして,一
審原告らに対する賃金相当額等の賠償を認めなかった。しかし,不当労
働行為救済制度による原状回復が原則であることからすれば,不当労働
行為がなければ採用されたであろうことが擬制されるべきであるし,一
審被告は,一審原告らが採用されなかったであろうことについて個別立
証ができたはずであるのにこれをせず,職員管理調書が存在しないなど
としてその立証を妨害しているから,立証妨害に関する民事訴訟法の規
定を類推して因果関係の存在を推定すべきである。また,本件が故意に
基づく不法行為であることからすれば,事実的因果関係のある損害すべ
てについて賠償が認められるべきであり,そうすると,賃金相当額等に
ついても賠償が認められるべきである。仮にそうでないとしても,差別
がなければ少なくとも一審原告らは平均的採用率程度の割合で名簿に記
載され,採用されていたはずであるから,確率的因果関係論に基づきそ
の割合に応じた賠償がされるべきである。
原判決は,公正な選考がされれば一審原告らが採用されたとまではい
えないとする事情の一つとして,一審原告らが国鉄分割民営化に一貫し
て反対し,違法なストライキを含む種々の運動を展開していたことを挙
げる。しかし,組合による強い反対運動があったことを踏まえた上で,
公正な職員採用を前提とする国鉄改革関連法が成立したという立法の経
緯,一審原告ら個々人の具体的行為についての立証がないこと,一審原
告らの中でのスト参加者が限られていたこと等に照らして,原判決指摘
の事情を考慮することは許されないというべきである。また,原判決が
不当労働行為と不採用との間に相当因果関係を認めなかったのは,JR
による採用が新規採用であるとの考えも前提にあると考えられるが,本
件は純然たる新規採用とは異なり,採用の自由は妥当しない。
(2)期待権と賠償額等
原判決は国鉄の不当労働行為による一審原告らの期待権侵害を認めた
が,期待権の侵害はこれまでも裁判実務上認められてきたものであり,
過去の裁判例に照らしても,本件では十分に認め得るものである。そし
て,本件では,国鉄改革関連8法についての国会審議において,1人も
路頭に迷わせないといった答弁が政府側からされており,同法成立にあ
たり,雇用と生活の安定を図るべきとの付帯決議もされていることや,
再就職対策期間を2年延長する旨の念書(甲18)があったことなどに
も照らせば,本件解雇についても,解雇回避に係る期待権侵害が認めら
れるべきである。
そして,期待権侵害に対する損害賠償額については,不当労働行為に
対する救済は原状回復が原則であるから,原状回復に匹敵するものとし
て賃金相当額等の損害まで賠償されるべきであり,仮にそこまでいかず
とも,確率的心証の考えを踏まえ,平均採用率に相当する程度の逸失利
益の賠償等が認められるべきである。また,この他に,採用差別以外の
不法行為による慰謝料も認められるべきであるし,団結権侵害に対する
回復措置として,謝罪文の交付やJR北海道等に対する採用要請まで命
じられるべきである。
(3)個別一審原告の損害
原判決は,第2志望のJR東日本への採用辞退をした原告番号104
P1には賠償を要するほどの損害が生じたとはいえないとした。しかし,
同一審原告については,むしろJR北海道採用候補者名簿に不記載であ
ったことそれ自体が差別であるから,賠償が認められるべきである。ま
た,一審被告は,一審原告らが追加的広域採用に応じればJR東日本等
に採用されたのに,これを活用しなかった以上自ら現在の状況を作り上
げたに等しく,賠償の必要性はないとか賠償額を減額すべきと主張する
が,一審原告らに追加的広域採用に応じるべき義務はない以上,減額す
べき事情とはならない。さらに,一審被告は,追加的広域採用に応募し,
採用されたにもかかわらずこれを辞退した者が一審原告らの中にいると
して,これらの者については,法的保護に値する損害はないなどと主張
するが,広域採用に応じなければならない義務があるわけではなかった
し,出向が条件となるなど労働条件等も曖昧なままであったから,これ
に応じなかったとしてもやむを得ないのであり,賠償の減額等をすべき
事情とはならない。
【一審被告の当審における主張】
(1)不当労働行為と不採用の因果関係
原判決は一審原告らが採用候補者名簿不記載により精神的損害を被っ
たとするが,原判決がいう精神的損害は,換言すれば,地元JR不採用
による損害と解さざるを得ない。原判決が,採用候補者名簿不記載と不
採用との間に因果関係がないとしているにもかかわらず,このような損
害につき賠償を認めたのは論理矛盾である。
(2)期待権と賠償額等
原判決は,正当な評価を受けるという期待権が侵害されたとする。し
かし,これまでの裁判実務上,期待権侵害が認められるのは,条件付権
利が侵害された場合,エストペルの法理を適用しうる場合及び医療過誤
の場合に限られており,これを認める事例が安易に拡大されるべきでな
いところ,本件においては以上のいずれの場合にも当たらないのであっ
て,期待権侵害が認められるとの判断は誤りである。一審原告らがいう
期待権は,合理的根拠のない主観的願望の域を出るものではない。
そもそも,本件では,JR北海道及び同九州のいずれにも採用定員枠
に厳しい限界があり,分割民営化に賛成していた職員でも希望どおりに
採用される状況にはなかった。勤務成績を劣位とする行動を繰り返して
いた一審原告らについては,仮に選考をやり直したとしても全員が採用
候補者名簿に記載されることはあり得ず,昭和62年4月時点における
名簿記載と同じような状況になっていたはずである。期待権侵害を強調
する原判決は,このような事情を無視し,JR北海道や同九州への採用
の期待を保護しようという誤りを犯すものである。
仮に期待権侵害を想定しうるとしても,以上の事情からすれば,原判
決が認容した500万円もの慰謝料は高額にすぎるものである。一審原
告らとしては,厳しい採用枠を直視して他のJRへの採用を希望すれば
採用される可能性はあったし,事業団職員についてはJR東日本等への
追加的広域採用の機会もあり,応募者は基本的に採用されるようにJR
側において対応していたにもかかわらず,一審原告らはJR北海道ない
し同九州への採用に固執して現在に至ったものである。多くの職員が家
庭の事情等を抱えながらも広域採用に応じていったのであり,広域採用
に応じられなかった事情をいう一審原告らの主張は身勝手で,真摯に再
就職を果たそうという姿勢に欠けていたとしかいい難い。このような一
審原告らに多額の慰謝料支払いを命じるのは不当である。また,原判決
は,JR東日本に採用されながらこれを辞退した原告番号104P1に
ついて賠償を認めていないが,結果的にJR北海道採用に固執した同一
審原告に対して賠償を認めない一方で,実質的にこれと同様の態度を取
る他の一審原告らに対して多額の賠償を認めるのは均衡を失するという
べきである。
(3)個別一審原告の損害
第二希望先に採用されながら辞退した者は,原判決が挙げる原告番号1
04P1以外にも,同13P7,同85P8及び同146P9の各一審原
告がいる。また,追加的広域採用に応募して,採用されたにもかかわらず
辞退した者として,同79P21,同106P22,同169P23,同
196P24,同203P25及び同238P26の各一審原告がいる。
これらの一審原告らには賠償に値するほどの損害はないというべきである。
4「争点4(時効消滅及びその援用の可否)について」について,次のとおり
付加する。なお,原判決44頁15行目の「継続中」を「係属中」に改める。
【一審被告の当審における主張】
(1)時効起算点
原判決が,一審原告らの国鉄又はこれから移行した事業団に対する本
件不法行為①に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の起算点を平成1
5年12月22日に本件最判が言い渡された時点としたのは,誤りであ
る。
原判決が慰謝料支払いの対象としたのは,採用候補者名簿に記載され
なかったことと当該名簿作成で差別を受けたことによる精神的損害であ
るところ,このような精神的損害は五感により体感して生じるものであ
る。そして,一審原告らが本件での精神的損害を知るに至ったのは,昭
和62年2月16日に設立委員からの採用通知を受けず,同年3月18
日以降に「再就職を必要とする職員に指定」された旨の事前通知を受け,
次いで同年4月1日には,その各希望する地元JRの各採用候補者名簿
に記載されなかったため,事業団職員となったことによってであり,こ
のことは事態の推移から明らかである。したがって,一審原告らのいず
れもが,上記の精神的損害を受けたこと及びその加害者なる者が国鉄で
あること並びに加害行為なるものが一審原告ら主張の不当労働行為であ
ることを知ったのは,遅くも事業団職員となった日というべきである。
なお,これらの精神的損害は,いずれも,JR北海道又は同九州に採用
される余地がなくなったことに伴う損害とは全く性質の異なる損害であ
るから,採用される余地がなくなったかどうかにつき裁判所の判断が出
ていなかったという事情は,消滅時効の起算点をどの時点とするかに影
響を与えるものではない。
一審原告らが採用候補者名簿に記載されなかったことが国鉄の不当労
働行為意思に基づくものであれば,それが一審原告らに対して不法行為
を構成することは明らかであり,上記のとおり一審原告らが損害を知っ
ていたことからすれば,一審原告らとしては直ちに国鉄ないし事業団に
対して損害賠償請求をすることが可能であった。従来の判例は,一貫し
て,民法724条にいう被害者が「損害及び加害者を知った」と認定す
るためには,確定判決等の公的判断を要しないとしているが,本件でも,
裁判所が改革法23条の解釈適用をすれば,本件最判のような結論に至
るであろうことは,当然に予想し得たところであり,また,予想すべき
であったものである。仮に公的判断がないと損害等を知ったといえなか
ったとしても,一審原告らは,遅くとも改革法について解釈した本件地
裁判決が出された平成10年5月28日当時においては,損害及び加害
者についての認識を確実に有するに至っていたものである。
一審原告らは,JR北海道又は同九州に対する不当労働行為責任を追
及していたから,一審原告らが国鉄又は事業団に対して本件不法行為①
に基づく損害賠償請求を行うことは法律上も事実上も困難であったとい
うが,JR北海道又は同九州に対する不当労働行為責任の追及と,国鉄
又は事業団に対する本件不法行為①に基づく損害賠償請求とを同時的に
行っても一向に差し支えなかったのであり,現に係る請求を行った例も
存在する。一審原告らは,JRに対する採用請求とJRに採用されなか
った場合に生じる一審被告に対する損害賠償請求を法律上両立して請求
し得るとはいえない旨主張するが,たとえ両請求が共に認容されるとい
う結果はあり得ないとしても,上記のように,未行使の請求権の消滅時
効の進行を阻止するためにこれに基づく訴えを提起することは何ら妨げ
られるものではない。一審原告らが自らの主張を根拠づけるものとして
援用する判例は,極めて特殊な事案について判断を示した判例であり,
その考えが本件において妥当するものではない。
(2)権利濫用等
原判決は,一審被告による時効の援用は信義則に反し,権利の濫用と
して許されないともいうが,これも誤りである。
判例の趣旨に照らせば,消滅時効の援用が信義則違反又は権利濫用に
当たるとされるのは,債務者が債権者による時効中断を妨害するなど時
効援用が社会的な許容の限界を超えた場合に限定されるべきである。と
ころが,原判決は,被害者において適時の権利行使又は時効中断を講ず
ることが不可能若しくは著しく困難にさせる客観的な事情が認められる
ような場合であれば,消滅時効の援用が信義則違反又は権利濫用に当た
るとしているのであり,これは上記のような判例の趣旨を逸脱するもの
であって不当である。また,上記(1)で述べたとおり,もともと本件
では権利行使が困難であったという事情も認められない。
【一審原告らの当審における主張】
(1)時効起算点
一審原告らが地元JR復帰を求めたのは,改革法の立法過程において,
採用候補者名簿を作成する国鉄は,設立委員の「補助者」「代行」ない
し「準委任」であるという政府からの説明がされ,この説明からは,当
然JRが労働組合法7条にいう使用者として責任を取るべき地位にある
と考えられたからである。そして,この点についての判断を示した最高
裁判決においても,3名の裁判官による多数意見はこの考えを否定した
ものの,2名の裁判官は,この考えを支持する反対意見を述べている。
つまり,原判決が述べるように,本件最判に至るまでは,JRの採用候
補者名簿に記載されなかった国労組合員について,JRに採用したもの
と扱えなどとする救済命令が是認される可能性が多分にあったというべ
きであり,そうである以上,JRに採用される余地がなくなったという
損害が現に発生し,国鉄を加害者としてその承継者である一審被告に賠
償を求める余地が生じたのは,同判決によってというべきである。実際
にも,前提となる争点等に係る別事件の判決の確定をもって時効の起算
点とする様々な判例が存在している。また,JRは,本来,一審原告ら
の採用についての再選考を命ずる中労委命令の公定力に基づき,これを
履行しなければならない行政上の義務があったから,本件の場合,これ
が取り消されるまでは一審原告らについて損害が発生していなかったと
法的にも評価できる。
なお,一審被告は,JRに対する関係での救済を求めることと,国鉄
又は事業団に対して損害賠償請求をすることは両立可能であり,この観
点から,消滅時効は一審原告らがJRに不採用となった時点から起算さ
れるべきである旨主張する。しかし,このような解釈は,消滅時効の起
算点については事実上の権利行使可能性があったかどうかという観点か
ら柔軟に判断するという従前判例が採ってきた姿勢と相反するものであ
る。すなわち,民法166条1項は,消滅時効の起算点の原則として
「権利を行使することができる時」と規定しているところ,その解釈と
して,判例は,単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだ
けではなく,さらに権利行使が現実に期待できるものであることを要す
ると判示している。そして,債権者が消滅時効に係る権利を行使しよう
とすると別件訴訟における自己の主張の撤回と解されるおそれがある場
合等には,権利行使を期待するのが難きを強いるものになるなどとして,
当該別件訴訟での判決の確定時から消滅時効が進行する旨判示している
判例もあるところであり,本件においても,一方でJRへの職場復帰を
求める訴訟を追行しながら,他方でJRに採用されないことを前提とす
る逸失利益の賠償請求を国鉄又は事業団に対して行うことは,職場復帰
を求める訴訟において相手方の主張を認めて自己の主張を撤回したもの
と解されるおそれがあるものであり,そのようなおそれのある権利行使
をするのは事実上不可能であったというべきである。
(2)権利濫用等
一審被告は,消滅時効の援用が権利の濫用となるのは,債務者におい
て,債権者の消滅時効中断措置の行使を妨害したような特別な場合に限
る旨主張するが,裁判例に照らすとそのように限定されるべきではない
し,仮にそうでないとしても,本件では,国鉄が,改革法23条という
JRの使用者責任を問うことを困難にする法律を意図的に立法させ,同
条に関して国会で運輸大臣らが国鉄による名簿作成を「代行」「準委
任」と答弁するに任せてその責任の所在を不明とするなどの二枚舌的行
為を行って原状回復を不可能にしたこと,事業団が,いわゆる「四党合
意」に係る協議,交渉等の過程で,国労を屈服・変質させて法的手段を
放棄させようとしてきたことなどからすれば,一審原告らが権利を行使
しなかったことについて国鉄ないし事業団に責むべき事由があるという
べきである。
第4争点に対する判断
1争点1(本件解雇の効力),争点2(本件不法行為④,⑤の成否)について
この点についての当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」の「第4争
点に対する判断」(以下「原判決『争点に対する判断』」という。)1記載の
とおりであるからこれを引用する。
上記争点に関する一審原告らの当審における主張は,実質的に原審における
主張を繰り返すものであり,これに対する当裁判所の判断は引用した原判決説
示のとおりである。付言すると,一審原告らは,種々の事情を挙げて,国鉄改
革関連法は憲法28条等に違反するなどと主張するが,最高裁判所による累次
の裁判の結果(乙259ないし263)等に照らし,採用できない。また,一
審原告らは不当労働行為によって採用候補者名簿に記載されなかったのである
から,このような立場の一審原告らが,再就職促進法にいう再就職必要職員に
指定されたことは無効であり,同職員にあたるとはいえないとか,本件解雇は
国鉄ないし事業団が行った一連の不当労働行為の完成行為であるなどとして,
解雇の無効を主張する。しかしながら,JRに応募しても同社に採用されなか
った職員については,国鉄が事業団に移行した後は,再就職必要職員に指定さ
れるものとされており,そのこと自体は憲法違反でも無効でもないところ,後
記説示のとおり,国鉄による不当労働行為がなかったと仮定しても,一審原告
らが希望する地元JRに採用されたはずであるとの証明がされていないのであ
り,国鉄による不当労働行為があったため,地元JRに採用されるべきところ
を再就職必要職員に指定されたということもできないから,国鉄の不当労働行
為の故に同指定が無効となるものではない。そして,一審原告らは,再就職必
要職員に指定され,当該職員として3年間事業団に勤務した後,事業団就業規
則22条4号に基づき解雇されたのであり,不当労働行為がなければ本件解雇
もなかったということはできないから,不当労働行為それ自体についての損害
賠償請求はともかく,解雇の無効に係る主張は前提を欠くというべきである。
一審原告らが自らの主張を根拠づけるものとして挙げる裁判例は本件と事案を
異にしており,以上の判断を左右しない。
2争点2及び4(本件不法行為①及びこれに基づく損害賠償請求権等の時効消
滅の成否)について
(1)認定事実等
争点2及び4に関する一審原告らの主張の概要及び本件不法行為①に関し
て当裁判所が認定する事実は,次のとおり付加訂正するほか,原判決「争点
に対する判断」2(1)及び(2)のとおりであるからこれを引用する。た
だし,同(2)キ(ウ)を次のとおり改める。
「(ウ)一審原告らの個別事情
a原告番号210P10
原告番号210P10は,昭和60年8月17日付で,同年7月1
8日,A勤務を失念かつ管理者の指示命令に服さず,当該勤務を欠務
し,また日常において職員として著しく不都合な行為があったことを
理由に停職8か月の処分を受けた。上記停職処分は,違法,不当等を
理由に取り消されていない(乙128,弁論の全趣旨)。
b原告番号229P2
原告番号229P2は,昭和58年8月1日付で,同年3月から同
年7月までの間,α駅において再三にわたり管理者の業務指示に従わ
ず,また,業務妨害等により職場規律を乱したことが職員として著し
く不都合であったとして,停職12か月の処分通告を受けた(なお,
懲戒の基準に関する協約に基づく弁明弁護手続が行われた結果,命令
発令日は同年11月24日となった。)。上記停職処分は,違法,不
当等を理由に取り消されていない(甲29,829の1及び2,乙1
29,弁論の全趣旨)。
c原告番号231P4
原告番号231P4は,昭和58年9月2日付で,同年6月23日
の業務命令拒否,点呼時における管理者に対する暴言及び脅迫,青年
部抗議行動の組織責任を理由に,停職6か月の処分を受けた。上記停
職処分は,違法,不当等を理由に取り消されていない(甲831の1,
乙130,弁論の全趣旨)。
d原告番号245P5
原告番号245P5は,昭和59年8月1日付で,同58年6月1
日,2日,3日,同年8月2日,同年9月7日,29日,同年10月
14日にβ保線区において職員として著しく不都合な行為があったこ
とを理由に,停職6か月の処分を受けた。上記停職処分は,違法,不
当等を理由に取り消されていない(甲141,142,845の1,
乙131,一審原告原田【1頁】,弁論の全趣旨)。
e原告番号261P11
原告番号261P11は,昭和62年3月31日付で,同年2月1
9日長崎市<以下略>において職員として著しく不都合な行為があっ
たことを理由に停職10か月の処分を受けた。上記停職処分は,違法,
不当等を理由に取り消されていない(乙132,弁論の全趣旨)。
f原告番号230P3
原告番号230P3は,昭和61年12月当時,57歳であった
(甲830,弁論の全趣旨)。
gそれ以外の一審原告ら
一審原告P10,同P2,同P4,同P5及び同P11を除く一審
原告らは,昭和58年4月以降,停職6か月以上又は停職2回分以上
の処分を受けていない(弁論の全趣旨)。」
(2)本件不法行為①の成否に関する当裁判所の判断
ア改革法23条は,承継法人の職員の採用手続について,設立委員が,国
鉄を通じ,労働条件及び採用基準を提示して職員の募集を行い(1項),
これを受けて,国鉄が,職員の意思を確認し,採用の基準に従い採用候補
者の選定及び採用候補者名簿の作成を行い(2項),設立委員が,採用候
補者名簿に記載された者の中から職員として採用すべき者を決定し,採用
する旨を通知する(3項)と規定している。そうだとすると,国鉄は,設
立委員が提示した採用基準に反しない限り,その職員のうち採用候補者名
簿に記載する者の選定について一定の裁量が認められていたといえる。も
っとも,使用者は,労働者が労働組合の組合員であること,労働組合の正
当な行為をしたことなどを理由にその労働者に対して不利益な取扱いをす
ることは許されない(労働組合法7条1項)から,裁量行為に藉口して,
主として,一審原告らが国労組合員であったことや国労の指示に従い正当
な組合活動をしたことを嫌悪し,同不記載を行ったとすれば,同行為は不
利益取扱い禁止に反する違法な行為であり,不法行為に当たるというべき
である。
イこの点,まず,設立委員が国鉄に提示した本件採用基準自体は,昭和6
1年度末において年齢満55歳未満であること(本件採用基準①),国鉄
在職中の勤務の状況からみて,JR各社の業務にふさわしい者であること,
なお,勤務の状況については,職務に関する知識技能及び適性,日常の勤
務に関する実績等を国鉄における既存の資料に基づき,総合的かつ公正に
判断すること(本件採用基準③)を含め,組合差別を目的としたもの又は
これを容認したものであるとは認められず,上記国鉄改革に至る経緯に照
らして,いずれも合理的なものであったと認めるのが相当である。
ところで,国鉄は,本件採用基準③について,国鉄在職中の勤務の状況
からみて,JR各社の業務にふさわしい者との基準を具体化し,昭和58
年4月以降,非違行為により停職6か月以上の処分又は2回以上の停職処
分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として採用候
補者名簿に記載しないこととしたところ,上記引用に係る原判決「争点に
対する判断」2(2)ウのとおり,動労がストライキ等の闘争を実施した
のは,昭和57年12月までであり,同58年4月以降,同組合の指令に
よる組合活動で処分通告を受けた動労組合員はいなかったことに照らして
みると,かかる基準自体,国鉄の分割・民営化に賛成する組合の組合員を
有利に取り扱おうとしたものとみる余地もないではない。しかし,同基準
は,職場規律の総点検がある程度浸透してきた昭和58年4月の時点から
勤務態度を評価する形になることをも考慮すると,これをもって不合理で
あり,不当労働行為意思に基づくものと認めるだけの事情があるとはいえ
ない。そして,同基準自体は明確なものであり,同基準を適正かつ公平に
適用する限りでは合理性を有すると解するのが相当である。そうだとする
と,国鉄において,設立委員の示した本件採用基準に従い,昭和61年度
末において年齢満55歳以上の者及び昭和58年4月以降,非違行為によ
り停職6か月以上の処分又は2回以上の停職処分を受けた者を採用候補者
名簿に記載しないことは,上記停職処分が取り消された等の特段の事情が
ない限り,適法なものというべきである。
ウ以上の基準に照らし,本件をみてみるに,上記訂正後の2(2)キ
(ウ)のaないしeで認定したとおり,原告番号210P10,同229
P2,同231P4,同245P5及び同261P11は,いずれも昭和
58年4月以降,非違行為により停職6か月以上の処分を受け,当該処分
は取り消されていないことが認められ,本件全証拠を検討するも,特段の
事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。また,原告番号230P3は,
昭和61年12月当時既に57歳であったことが認められる。そうだとす
ると,これら一審原告6名を採用候補者名簿に記載しなかった国鉄の行為
は相当であったというべきであり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在し
ない。
なお,一審原告らは,原告番号210P10,同229P2,同231
P4,同245P5に対する処分は不当処分であり,同261P11の処
分は昭和62年2月の行為に係るものであるから名簿不記載の参考たり得
ないと主張するので付言すると,一審原告らの主張を考慮しても,前4者
に対する処分やこれを理由に名簿不記載としたことが不当であると認める
だけの事情があるとはいい難い。もっとも,昭和58年4月以降,非違行
為により停職6か月以上の処分又は2回以上の停職処分を受けた者は明ら
かに承継法人の業務にふさわしくない者として採用候補者名簿に記載しな
いとの基準が設けられたという一方で,そのような基準に該当する者であ
っても採用されている者がおり,例えばJR東日本においては同基準に該
当する者のうち9名は採用されていることが認められる(乙121)。そ
うすると,同基準該当者についてそのような扱いをしないまま名簿不記載
としたことについて裁量逸脱があれば,不法行為の成立する余地がないと
はいえない。しかしながら,同扱いの具体的状況は証拠上必ずしも判然と
せず,また,上記9名のうち3名は国労組合員であったと認められること
(乙121)からすると,同扱いについて所属組合による差別的取扱いが
あったとまでは直ちにいい難く,したがって,前4者が同扱いをされなか
ったことにつき,所属組合に着目した差別があったともいい難い。また,
後1者(原告番号261P11)が処分を受けたのは,昭和62年2月1
9日の行為についてであり,同人の名簿不記載に当たって当該処分は考慮
されていなかったと考えられるが,10か月もの停職処分を受けていたこ
とからすれば,仮に名簿に記載されていたとしても,同年4月時点でJR
に採用がされたとはにわかに考えがたいし,また中労委が命じたような採
用候補者の再選考がされたとしても採用されなかった可能性が非常に高い
というべきであるから,同人は賠償を求め得る立場にないというべきであ
る。
さらに,一審原告らは,原告番号230P3を名簿に記載しなかったこ
との違法をいうが,同一審原告については,昭和61年度末時点で55歳
未満の者しか名簿に記載しないという設立委員提示の基準に照らし,名簿
記載は困難であったというべきである。一審原告らは,そのような基準自
体が違法であるとも主張するところであるが,事業団に再就職のために最
長3年間勤務し得ることを参酌すれば,そのようにいえるか疑問であるの
みならず,当該基準策定の権限は設立委員にあるところであり,これに従
った国鉄に直ちに責任があるとすることもできない。
以上によれば,本件不法行為①については,原告番号210P10,同
229P2,同230P3,同231P4,同245P5,同261P1
1(以下,これらの者を合わせて「一審原告P2ら6名」という。)の各
請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がないというべきである
(なお,一審原告P2ら6名以外にも,賠償が認められない一審原告らが
いるが,これについては後に述べる。)。
エそこで次に,国鉄が,一審原告P2ら6名を除く一審原告らをJR北海
道,JR九州の採用候補者名簿に記載しなかった点につき検討する。一審
原告P2ら6名を除く一審原告らは,いずれも昭和61年12月時点では
年齢は55歳未満であり,昭和58年4月以降,非違行為により停職6か
月以上の処分又は2回以上の停職処分を受けていないところ,これらの一
審原告らをJR北海道,JR九州の各採用候補者名簿に記載しなかった国
鉄の行為は適法であったか,それとも違法であったかがここでの問題とな
る。この点に関し,一審原告らは,いずれも国労の組合員であったところ,
国鉄はこのことを嫌悪して,採用基準を恣意的に運用し,JR北海道又は
同九州の各採用候補者名簿に記載しなかったのであり,かかる行為は不当
労働行為であり違法であると主張し,一審被告はこれを否定するので,以
下,この点について判断する。
(ア)上記イのとおり,本件採用基準及び国鉄による本件選定基準は,一
応合理的なものと認められるところ,4月採用における北海道地区の所
属組合別の職員の採用率は,上記引用に係る原判決「争点に対する判
断」2(2)キ(ア)のとおり,承継法人全体でみれば,国鉄の分割・
民営化に賛成していた鉄道労連が99.4%,北海道鉄産労が79.1
%であったのに対し,これに反対していた国労は48.0%,同じく全
動労は28.1%であった。また,4月採用における九州地区の所属組
合別の職員の採用率は,承継法人全体でみれば,国鉄の分割・民営化に
賛成していた九州鉄産労が84.4%,鉄労が100%,動労が99.
9%であったのに対し,これに反対していた国労は43.1%,同じく
全動労は32%であった。このように4月採用においては,北海道,九
州いずれの地区においても国鉄の分割・民営化に賛成していた組合に所
属していた者とこれに反対していた組合に所属していた者との間で採用
率に顕著な差がみられる。
(イ)一審原告らはこのような差が生じていることが所属組合による差別
を裏付けるものである旨主張する一方,一審被告は,国鉄分割民営化に
反対し,当局の施策に非協力的であった一審原告らの勤務成績が劣位に
評価されたことを反映するにすぎない旨主張するところである。
そこで検討すると,上記イのとおり,本件採用基準は,国鉄在職中の
勤務の状況から見てJR各社の業務にふさわしい者を採用するというも
ので,これについては知識技能及び適性だけでなく日常の勤務に関する
実績等を基に判断するとされており,また,判断資料となった職員管理
調書の評価項目には,業務知識,技能といった職員の基本的な執務能力
に係る事項だけでなく,職場の規律維持,現状認識等に係る事項も含ま
れていた。そうすると,国鉄が,これを踏まえて採用候補者名簿作成へ
向けた職員の評価を実施するに当たり,分割民営化に対して国鉄が推し
進めていた施策に対する協力の度合いや,違法な争議行為への参加の有
無等,分割民営化への反対闘争の中で個々の職員が取った行動の如何が,
国鉄の当該職員に対する評価に影響することは十分あり得ることであり,
したがって,分割民営化反対を掲げて国鉄当局の施策への非協力姿勢を
鮮明にしていた国労に所属する組合員に対する評価が,JR採用の観点
からすれば,結果的に低いものになったであろうことは否定できない。
なお,一審原告らの主張の中には,このような評価手法それ自体が不
当労働行為を目的としたものであるとして,その公正性に疑問を呈する
部分もある。しかしながら,職員管理調書の評価項目は多岐にわたるも
ので,それ自体に不当な内容のものが含まれているとはいえないし,ま
た職場の規律維持や現状認識等に係る事項が相当程度含まれていること
については,臨調,再建監理委員会の答申やこれを受けた閣議決定によ
って定められた政府方針の中に,職場規律の確立や民間的経営の導入等
が唱われ,最終的には国会における国鉄改革関連8法の成立により分割
民営化が成るという一連の過程の中で,国鉄もこれに沿った形で施策を
進め,人事評価の観点もこの動きを踏まえたものになったと認められる
ところであり,上記の評価手法によったことそれ自体が不当であるとは
いえない。したがって,分割民営化に反対する組合とこれに協力する組
合のいずれに所属するかにより採用率に差が生じているからといって,
それが組合に着目した不利益取扱いを推認させると即断することはでき
ない。
もっとも,このようにいえるのは,評価があくまで個々の職員の勤務
状況等を踏まえ,公正かつ客観的に行われていることを当然の前提とす
るものであるから,実際の評価の運用において組合に着目した不利益取
扱いが紛れ込んでいると認められる場合には,上記のような格差につい
ての捉え方も自ずから違ったものになり得るものというべきである。そ
して,本件においては,職員管理調書の評価項目が,分割民営化に対す
る態度が相当程度反映し得るものとなっており,その運用の如何によれ
ば,個々の職員の勤務実態それ自体というよりも,所属する組合の如何
によって評定が相当程度左右されるような運用を許す余地がないともい
い難い。のみならず,同調書は分割民営化実施のわずか1年前に導入さ
れ,適正な運用の在り方が固まっていたとまではいい難く,また公正で
客観性のある運用を確保するためにどのような措置が執られていたのか
も明らかでない(例えば,一審被告の主張中には,分割民営化反対の態
度を取っていた職員につき,改悛の情が著しいのか,それとも非協力の
行動を取り続けるのかが重視されて名簿記載の結果が異なったという趣
旨の部分があるが,そういう二者択一的な観点が実際には大きな比重を
占めていたのだとすると,もともとの多岐にわたる評価項目等が実際は
どのように運用されていたのかが疑問にならざるを得ないし,さらにそ
のような観点の用いられ方如何によれば,それは分割民営化に反対する
組合に所属しているか否かが大きな比重を占めていたというのと実質的
に異ならないとされる余地も出てくるであろう。)。
このような事情をも踏まえると,本件で,個々の職員に対する評価及
びその結果である採用候補者名簿記載にあたり,所属組合に着目した不
利益取扱いが紛れ込んでいないかについて,具体的な運用の状況を検討
してみる必要がある。そこで以下,項を改めて順次検討する。
(ウ)名簿記載状況の検討
a脱退組合員
昭和61年半ばころから国労からの脱退者が顕著に増加し(原判決
別表2),鉄労や動労に加入したり,昭和62年1月には国労から脱
退した組合員によって北海道鉄産労や九州鉄産労が結成されたが,承
継法人全体で見た場合の国労の採用率が上記のとおり,43.1%な
いし48.0%であったのに対して,鉄労や動労はほぼ100%の採
用率となっており,鉄産労も79.1%ないし84.4%の採用とな
っている。このように,国労組合員が国労に残ったか,他の組合に移
ったかによって,その採用率には大きな差がついている。
このことは,特に組合役員クラスでは,より顕著である(上記引用
に係る原判決「争点に対する判断」2(2)キ(イ))。
すなわち,札幌地区においては,国労札幌地方本部在籍専従者であ
った7名のうち,昭和62年1月に北海道鉄産労に移った5名は,数
度にわたる処分を受けながら(うち3名は減給2回,戒告2回の各処
分歴があり,他も減給と戒告の双方の処分歴がある。減給の期間も6
か月や3か月などにわたる。),4月採用において全員JR北海道に
採用された。他方,国労に残った2名は,これらの5名よりも処分の
数も程度も軽かった(1名は戒告1回のみ,1名は減給1か月を1回
のみ)にもかかわらず,いずれも不採用となっている(甲154)。
また,国労門司地方本部の役員をしていた者で職員として在籍して
いた者のうち,昭和62年1月に国労を脱退して九州鉄産労に移った
者と引き続き国労に残った者の数及びそれぞれの中で採用された者の
数(後記括弧内)を比較してみると,①同地方本部で鉄産労に移った
者が3名(全員採用),国労に残った者が3名(全員不採用),以下
同じく,②北九州支部で鉄産労5名(全員採用),国労9名(全員不
採用),③小倉工場支部で鉄産労2名(全員採用),国労2名(全員
不採用),なお車労6名(全員採用),④博多支部で鉄産労8名(全
員採用),国労2名(1名採用),⑤佐賀県支部で鉄産労0名,国労
11名(1名採用),⑥長崎県支部で鉄産労0名,国労9名(全員不
採用)と極端に採用率が異なることが認められるし,門司地方本部傘
下の分会役員だった者の採用状況についてみても,鉄産労ないし他の
組合に移籍した者の採用率が全体で9割程度であるのに対し,国労に
残った者のそれは1割程度と著しい差が生じていることが認められる
(以上,甲165)。
ところで,一般的にいって国労の役員はその闘争を中心的に担って
きた者であり,その意味で一審被告がいう職場規律の問題等について
は一般の組合員以上に責任を有していたはずの者であるから,勤務成
績の評価に当たってこの点がマイナス要因として考慮されたとすれば,
上記のように国労に残った役員の採用率が低い状況にあるのも,それ
なりに理解できないわけではない。しかしながら,名簿作成の直前ま
で,共に国労の闘争を中心的に担ってきており,その意味で国労に残
留した役員と同程度に評価されても良いはずであった(札幌地区につ
いては,処分歴から見て,より劣位に評価されてもおかしくなかっ
た)役員らが,国労を脱退して他の組合に入るや,むしろ,国労や鉄
産労所属の組合員の一般的採用率よりも高い割合で採用されていると
いうのは,以上の理解からはにわかに説明し難いものがある。また,
これらの役員が鉄産労に移ったのは昭和62年の1月であるが,その
時期は,国鉄が職員から出された意思確認書をとりまとめた上,選考
作業を行い,同年2月7日に設立委員に対して採用候補者名簿を提出
するまで1か月を切ろうかという,名簿記載が決定される直前の時期
である。もともと,設立委員から示された本件採用基準においては,
JR各社の業務にふさわしい者か否かについては国鉄在職中の勤務の
状況からみて判断するとされているところ,上記のように名簿記載決
定直前の時期に脱退し,その意味で一審被告のいう改悛の情を示した
役員らについて,その勤務状況を実際に判断するだけの状況にあった
のかについては疑問が残らざるを得ない。
以上の事情を考慮すると,国労に残った役員と脱退した役員との間
で採用率にここまで著しい差がついたのは,つまるところ,国労を脱
退したかどうかという点に決定的な原因があったものと推認するほか
ない。
b鉄労と動労の取扱い
先にも認定したとおり,設立委員が示したJRの採用基準は,「国
鉄在職中の勤務の状況からみて,JR各社の業務にふさわしい者」と
いうものであったが,ここにいう勤務の状況については,「職務に関
する知識技能及び適性,日常の勤務に関する実績等」を「総合的かつ
公正に判断すること」とされており,また,職務遂行に支障のない健
康状態であることも採用基準の一つとされていた。そして,職務に関
する知識技能及び適性,日常の勤務に関する実績等を判断する資料と
なった職員管理調書は,業務知識,技能等の職員の基本的な執務能力
に係る事項から職場の規律維持,服装の乱れ等に係る事項に至るまで
計20項目にわたる評価項目が列挙されてもいた。
ところで,数千人規模にのぼる多人数の職員の集団がある場合,そ
の平均的能力等は自ずから一定のレベルに収斂していくとは考えられ
るものの,当該集団における個々の職員について見れば,その能力や
執務態度,非違行為の有無等は一定程度の広がりのある範囲で分布す
るのが通常であって,その中には適切に業務を遂行するだけの能力や
態度が備わっていないと評価されたり,心身の健康状態が十分でない
などと評価されたりする者が含まれるのが,むしろ通常見受けられる
事態と考えられる。したがって,このような集団を対象として上記の
ような多岐にわたる評価項目を踏まえつつ個別的に職員を評価してい
った場合,当該評価の対象となる職員の中には,知識技能及び適性,
日常の勤務に関する実績等に照らして,JR各社の業務にふさわしい
とはいい難い者が含まれたり,あるいは健康状態に難のある者が含ま
れたりすることになるのが自然であろう。そうすると,これらの評価
項目によって劣位に評価された職員の中から,一定数の者が名簿に記
載されない結果となることも,通常は避けられないものと考えられる。
そこで本件における九州地区職員の採用率についてみると,承継法
人全体で見た場合,原判決別表4記載のとおり,鉄労所属の組合員は,
採用希望者が4540人であるのに対し採用者数も4540人であっ
て,100%,すなわちこれだけの人数の者が1人残らず採用されて
いることが認められ,また動労所属の組合員は,採用希望者が324
4人であるのに対し採用者数は3242人であって,わずか2名を除
いてはすべて採用されており,その割合は99.9%にのぼっている。
このように8000人にもなろうとする対象者について,上記のよう
な多角的かつ個別的な評価をした結果,採用基準の各観点から判断し
て,ほぼその全員がことごとくJRの業務にふさわしいとされて名簿
に記載され,採用されたというのは,鉄労や動労の所属組合員の中に
国鉄の政策に協力した者が多く,JR採用の観点からすれば,相対的
に成績が優位にあるとされた者が多かったであろうことを考慮に入れ
ても,首肯し難いものがある。しかも,国労を脱退して他の組合に移
籍した者も多数存在するところ,これらの者のうち,鉄労や動労に移
籍した者は上記のとおり100%(ないしほぼ100%)採用されて
いるのに対し,鉄産労に移籍した者の採用率は原判決別表4のとおり,
84.4%となっているのであって,同じ元国労組合員であっても移
籍後の組合によって採用率に差が生じるという結果となっている。こ
のような結果に加え,後に検討するように,国鉄当局が鉄労や動労と
は緊密な協力関係を築く一方で,鉄労や動労が採用候補者名簿記載に
際して自組合所属職員を有利に取り扱うよう国鉄に強く申し入れるな
どしていた経緯にも照らすと,鉄労や動労に所属する組合員について
は,設立委員の示した本件採用基準にもかかわらず,よほどの事情で
もない限り,基本的に全員を採用候補者名簿に記載するという運用が
されていたのではないかとの疑いを否定できないところである。そし
て,これは逆にいえば,国労に所属した者についてはそのような扱い
がされなかったということであり,国労所属の組合員にとっては不利
益取扱いになったということができる。
そして,以上の検討は,九州地区職員の採用状況を踏まえたもので
あるが,北海道地区職員についても,鉄労と動労を含む鉄道労連の承
継法人全体での採用率は,原判決別表3のとおり99.4%にのぼっ
ており,九州地区のように100%にまでは達していないものの,極
めて高率であるのは同様であって,九州地区職員の採用状況等を踏ま
えた上記のような疑問と同様の疑問が生じざるを得ない。
c全動労所属組合員の採用率との比較
一審被告は,国労に所属した組合員が,国労の闘争方針に従い,国
鉄当局の施策に協力せず,むしろこれを妨害する闘争をしていたが故
に,その勤務成績が劣位に評価されたものであると主張する。この主
張は,分割民営化に協力していた組合と反対していた組合とに所属す
る組合員の取扱いの差について説明するに当たっては,一応の説明と
なり得るものである。ところで,国鉄分割民営化に反対し,国鉄当局
の施策に非協力な態度を取り続けていたという点では,全動労もまた
国労と同様であるから,両組合間については,一審被告が主張するよ
うな採用率の差に係る説明は妥当しないものである。そこで,国労と
全動労との採用率を承継法人全体で見た場合,北海道地区の職員につ
いては,前者が48.0%,後者が28.1%,九州地区の職員につ
いては,前者が43.1%,後者が32.0%となっており,北海道
と九州のいずれにおいても前者と後者との間では採用率に相当程度の
差が生じている。
ところで,国労も全動労も,国鉄分割民営化について反対の立場を
取り,これに対する反対闘争を進めていた点では変わりがないだけで
なく,両者に所属する組合員は,昭和61年12月1日時点で,国労
が9万4435人,全動労が2085人(甲1425の15)と,い
ずれも相当大規模な組織であって,一般的な能力や勤務態度等におい
て後者の方が前者よりも劣位な職員によって構成された集団であると
評価するだけの事情も認められない。
そこでさらに,昭和58年以降の両組合の争議行為の状況をみると,
これらの各組合は,独自にあるいは共にスト等の争議行為を行い,所
属組合員が処分されるなどしてきたものであるが,順法闘争も含めれ
ば全動労よりも国労の方が争議行為の回数は多かったことが認められ
るし(甲1428),争議行為による影響については,昭和58年3
月の国労の順法闘争では329本の列車が運休し,同59年7月の国
労の順法闘争では312本の列車が運休している(甲1425の6,
9)のに対し,全動労の闘争によって列車の運休等が発生した事実は
認められないなど,国労の闘争の方がより影響は大きかったことが窺
える。また,両者が共に行った昭和60年8月5日のストライキに対
する処分についてみると,被処分者総数は,国労所属の者が6万41
26人,全動労所属の者が205人となっており,処分通告がされた
直前の同年10月1日時点での組合員数(国労18万5908人,全
動労2592人)と比較すると,処分された者が組合員中に占める割
合は国労の方が相当程度高かったことが認められる(甲1425の1
1,12)。さらに,ワッペン着用闘争についてみると,その中には,
両組合の組合員が処分されているものもある(甲1425の10)が,
昭和60年5月の闘争(被処分者2万9089人)や同61年4月の
闘争(被処分者2989人)など,国労組合員のみが処分されている
ものもある(甲1425の14,15)。以上の状況をみる限り,全
動労所属組合員の争議行為の方が,国労所属組合員のそれに比べて職
場規律に対しより悪影響を与えていたといえる事情はないように思わ
れる。
ところで,一審被告は,国鉄分割民営化に反対する組合が様々な違
法な争議行為を行い,多数の被処分者を出していることを挙げて,そ
のような行為を行ったり処分を受けたりした職員が低い評価を受ける
のは当然のことであると主張しており,一般論としてはそれは理解で
きるところである。しかし,以上のとおり,争議行為の態様や処分状
況等からして,全動労所属組合員の方が国労所属組合員よりも低く評
価されるべき事情があるともいい難いように考えられるにもかかわら
ず,現実の採用結果は,全動労所属組合員の方が国労所属組合員より
も明らかに採用率が低くなっている。加えて,全動労組合員らがJR
採用における不当労働行為を理由に損害賠償を求めている事件では,
それらの者の多くがストに参加していなかったことも窺われるところ
である(甲1448)。もちろん,個々の職員の評価に当たっては,
処分歴等だけでなく,能力や勤務態度等様々な事情を考慮に入れるも
のであろうが,一審被告自身が処分歴は重要な考慮要素である旨主張
している中で,以上のような処分の状況と実際の採用とに全体的に見
て乖離があることについては疑問が生じざるを得ず,また何故にこの
ような違いが生じているかを明らかにする証拠もない。そうすると,
このような差がついた理由としては,当局側にとって全動労が国労よ
りもより嫌悪すべき組合であって,これに所属する職員についてはそ
の評価が劣位になっていたのではないかとの疑いが拭いきれないとこ
ろである。
d小括
以上検討してきたところによれば,名簿記載を判断するにあたり,
個々の職員の勤務状況だけでなく,その所属する組合の如何が考慮さ
れたことを推認させ得る事情があるというべきであり,採用率につい
てこれだけ顕著な差がついた理由の一端は,個々の職員の成績だけで
なく所属組合による不利益扱いがあったことにあるのではないかと推
認し得るところである。
(エ)不当労働行為の意思
そこでさらに,国鉄当局が,国労に対して嫌悪感を抱き,その弱体化
を図る意図を持っていたと認め得るような事情があったかどうかについ
て検討すると,次の点を指摘することができる。
a国鉄と鉄労,動労との関係
先に認定したとおり,鉄労と動労は分割民営化に協力する姿勢を示
し,昭和61年7月には全施労等と共に改革労協を結成したが,その
直前に国鉄総裁をも招いて開催された鉄労全国大会における大会宣言
には,「不安におののく国労に所属する多くの真面目な職員について
も,『鉄労に入れば雇用が守れる』との理解を求める」とか「新事業
体移行までには国労組織を壊滅状況に追い込む」といった内容があり,
来賓として出席した動労や全施労等の委員長らも,国労打倒,国労崩
壊のために闘おうという趣旨の挨拶をしている。その前後に発行され
たこれらの組合の機関誌等には,国労に所属していては雇用は守れな
い,国労から組合員を脱退させ,自組合に加盟させようといった趣旨
の記事等が繰り返し掲載されている(甲477の1ないし33)。
また,国鉄も,先に認定したとおり,改革に協力的な鉄労,動労と
労使共同宣言や雇用安定協約を結んだり,動労に対しては202億円
の賠償を求める訴訟を取り下げただけでなく,総裁をはじめとする幹
部がこれらの組合の集会や懇親会等にしばしば顔を出して,激励の挨
拶をするなどしていたが,他方で,分割民営化に反対する国労,全動
労との間ではこのような対応は何ら執っていない。
そして,鉄労や動労等によって構成される改革労協は,国鉄の設立
委員に対する採用候補者名簿提出が目前に迫った昭和62年1月29
日,国鉄当局との間で労使協議会を開き,「何も努力しない者や,妨
害する者が居座れば職場は乱れる。」,「労使共同宣言にもとづき,
まじめに努力してきた正直者がバカをみるようなことが絶対にあって
はならない。」などと主張し,これに対して国鉄当局側は,「労使共
同宣言は労使関係の基本であり,国鉄改革の原動力である。鉄道労連
が新しい事業体の中核である。」,「共同宣言の精神に則って努力し
た職員は,当然報われる。」などと対応した(甲477の33)。
以上のとおり,国鉄が鉄労及び動労の協力を得る一方で,これらの
組合は協力に応じている以上自組合所属職員の有利な扱いをするよう
国鉄に対して求めていたものと認められるが,国鉄が分割民営化を実
現するためには鉄労や動労との協力関係を維持することが不可欠であ
ったことからすれば,国鉄当局においてはこれらの組合の上記のよう
な意向を正面から無視しにくい状況にあったと推認される。国鉄当局
内部においても,職員局が動労とのしがらみに足を取られているとの
評価が一部にあったこと(甲1083,164頁),昭和62年1月
の上記申入れが改革労協内で決定された直後に,国鉄当局内部におい
て,採用候補者名簿記載につき①改革労協,②共同宣言調印組合(改
革労協を除く。),③その他(国労を含む。)に大分けした上で,組
合種別の記載者数を報告するよう指示する書面が人事担当者宛に出さ
れていること(乙20,339頁,359頁)等もこのような推認に
沿う事情ということができる。
b幹部の言動
先に認定したとおり,国鉄の幹部は,分割民営化に協力的な鉄労,
動労の大会に参加して挨拶をするなどし,また,良い子と悪い子に職
場を二分化する必要があるいった内部書面を出したり,会議等におい
て,不当労働行為をやらないということはうまくやるということであ
るとか,国鉄分割民営化に協力的な組合に所属する職員からJRへの
採用者が多く生まれる可能性があるといった内容の発言をするなどし
ていた。また,P27職員局次長は,昭和62年1月20日付「○
○」のインタビュー記事で,「一つの企業体に一つの組合というもの
を目ざしていく方向であってほしいと思います。この期待感から見て
おりますと,流動化しそして組織の状況が急速に変動していく過程で,
一方は減っていくと共に,改革労組協は完全に多数派を握ったという
ことになります。」,「4月1日で(中略)会社との関係では一企業
一組合というのが実現される形になるということで,これは我々とし
ては朗報でありたいへん結構だと考えているところです。」などと発
言している(甲476)。
さらに,甲1083(P27職員局次長のJR東海会長就任後の著
作物)によれば,第二次労使共同宣言締結と動労に対する202億円
損害賠償訴訟の取下げについて,国鉄はこれを状況の主導権を引き続
き握るための最後の一手と位置づけ,国労が第二次労使共同宣言締結
に応じず迷走し,国労の組合員は失望して自律的に行動するようにな
るであろうと予想した上で行ったものであること,その実行方法は,
国鉄において,鉄労,動労,政府,与党の主要人物に対して秘密裏の
根回しをすべて終え,鉄労,動労らを含む改革労協との間で先に第二
次労使共同宣言を締結し,同宣言発表の記者会見も終えた上で,国労
に対して同宣言の締結を申し入れたというものであり,結局,国労は
これに応じられなかったことが認められる。また,同証拠によれば,
昭和61年12月,希望退職が計画数を上回っており,このまま希望
退職者が増加すると新会社が引き受ける要員枠との関係で当局が国労
を選別できなくなる旨国労が宣伝し始めるであろうから,希望退職募
集を打ち切り,少しでも国労排除の余地を残すべきではないかとの考
えを総裁が示すことがあったことも認められる(なお,P27証人は,
当該部分は総裁が外部の者からそのように言われて迷っていたという
ものである旨証言するが,甲1083の186頁はそのようには読め
ない。)。
以上のような国鉄幹部の言動を総合すれば,国鉄幹部においては国
労を嫌悪し,これを弱体化させる意思があった疑いが濃厚というほか
ない。そこで,さらに現場における管理者の言動等について検討する。
c現場における管理者の行動
中労委の救済命令では,駅長等の現場管理者が,国労にいては新会
社への採用は難しいとして国労所属の職員に対して同組合からの脱退
を勧める例が各地であった旨認定している(甲6,7,278等)。
これらは,主として国労組合員の審問結果等を基礎とするものと考え
られるところであり,それらの審問結果の客観的裏付けの程度や,こ
れらの動きが現場管理者個人の意向によってではなく,国鉄当局の意
向を踏まえたものであったと認定するだけの証拠があるのかについて
は,なお検討の余地がないではない。
しかしながら,当時,地方の鉄道管理局の部長を務めた人物が,国
労に所属していては新会社に採用されないと陰に陽に思わせることで
国労の地方組織を切り崩していった旨自認していること(甲1075
の1),国鉄職員局の職員が,昭和61年5月にいったん同局を出て
鉄労の幹部となり,国鉄のいわゆる若手キャリア職員の協力も得つつ
各地の国労組合員に対して脱退の働きかけを行うなどし,一定の成果
を上げた後,同年12月になって再び国鉄に復帰していること(甲1
446),先に認定したとおり,良い子と悪い子に職場を二分化する
必要があるという趣旨の書面が国鉄本社の課長から各機関区所長宛に
出ていたことがそれぞれ認められるところであり,これらの諸事情を
も考慮すると,細部まで救済命令で認定されたとおりであったかはと
もかくとして,各地の現場における管理者の言動中には,国労を脱退
すれば新会社に採用されるという趣旨のものがあったことは事実と認
められ,またそのような現場管理者の言動は個々の者が自己の信念に
基づいて勝手に行っていたというものではなく,国鉄当局の意を体し
て行っていたものと推認することができる。
d小括
以上検討したところによれば,国鉄当局は,国鉄分割民営化に協力
的な鉄労及び動労との間で良好な関係を保ちながら諸施策を展開し,
分割民営化実現後もこれらの組合を中心とした労使関係とすることで
分割民営化後の円滑な経営を目指していた一方,国労の解体と自組合
の組織拡大を目指すこれらの組合からは,採用においてこれらの組合
所属の組合員が有利な取扱いを受けるよう求められていたものであり,
国鉄の幹部も,国鉄分割民営化に反対して非協力を続ける国労に対し
て,その勢力の弱体化を目指すような言動をしていたことが本社レベ
ルでもまた現場レベルでも存在したというべきである。以上の状況を
みるならば,国鉄は,国労嫌悪ないし国労弱体化の意思を持っていた
ものと推認されるところであり,このような意思に基づくと考えられ
る行動を取りながら,採用候補者名簿作成の段になってはこのような
意思を一切働かせることなく選考をしたとは考えにくく,また実際に
も,採用状況を検討すると,先に見たとおり,選考にあたり所属組合
の如何を考慮したと推認し得る事情の存在が認められるところである。
このような事情を総合すると,国鉄には,採用候補者名簿記載者の選
考にあたり,不当労働行為の意思があったものと推認される。
(オ)まとめ
以上のとおり,本件の各組合毎の採用比率に顕著な格差があり,その
ような差がついた事情について,単に個々の職員の成績だけでは説明で
きず,むしろ職員の所属する組合が考慮されたことを推認させる事情が
あることに加えて,国鉄においては不当労働行為の意思を有していたと
推認されることからすれば,各組合毎の採用比率の違いには,職員の成
績だけではなく,国労所属それ自体が不利益に取り扱われていたことが
背景にあり,これもまた名簿記載者の選考に影響していたものと推認す
ることができるというべきである。
(カ)一審被告の主張について
ところで,一審被告は,いわゆる大量観察方式は本件には妥当せず,
不利益取扱いについては個別立証によるべきと主張するので,この点に
ついて付言する。
既に検討してきたところから明らかなとおり,当裁判所としては,国
労の所属組合員は,鉄労や動労の所属組合員に比して,一般的執務能力
等についてはともかく,国鉄の政策への協力を含む勤務状況等に照らし
た場合,JR採用の観点からみて低めに評価されていたであろうことを
否定するものではなく,したがって,国労所属の職員集団と鉄労や動労
所属の職員集団とが同質であることを前提として採用率を比較している
わけではない。しかしながら,採用状況を子細に検討した場合に一審被
告の主張からは十分に説明できず,むしろ所属組合に着目した取扱いが
あったことを窺わせる事情がある場合には,当該採用率の格差の少なく
とも一端は所属組合による不利益取扱いとして生じたものではないかと
推認することが可能というべきである。この場合,このような推認を否
定するための説明の負担を一審被告に求めることにはなるが,主張,立
証及び反証の必要性は事案の如何によっても変わるというべきであり,
既に述べた事実関係の下では,人事評価に関する資料を所持している一
審被告側に反証の必要性が生じ,反証が功を奏しない場合は,上記推認
のとおり事実認定されてもやむを得ないものであり,それが不当とはい
い難い。
もっとも,本件の一審原告それぞれについて,勤務成績や不利益取扱
いの程度がどのようなもので,公正な選考がされれば採用候補者名簿に
記載されていたか否かを個別的に明らかにするだけの立証は,これまで
検討してきたところからしても十分尽くされているとはいえず,これを
明らかにするためには,より個別的な事情についての立証が必要になる
のは一審被告主張のとおりである。しかしながら,そのような個別的事
情まで隈無く明らかにするのではなく,一審原告らの選考に当たって所
属組合に着目した不利益取扱いが一般的にされていたか否かということ
に立証の対象を絞るならば,それは必ずしも個別立証によるまでもなく
認定し得るというべきである。そして,そのような不利益取扱いがあっ
た場合,ことの性質上,そのような扱いは個々の組合員に着目してされ
るものではなく,所属組合の如何という当該組合に所属する者に共通し
た属性に着目してなされるものであるから,当該組合に所属した職員に
ついてはおしなべて選考にあたり所属組合の如何が考慮されたものと推
認することが可能である。本件では,先に検討したとおり,国鉄が国労
所属の事実を選考にあたり一般的に不利益に取り扱っていたと認められ
る以上,国労に所属していた一審原告らについてもそのような取扱いが
されたと推認し得るというべきである。なお,国労組合員からも少なか
らぬ者がJR北海道や同九州に採用されていることは事実であるが,こ
れらの者については,その勤務状況等を考慮した結果,所属組合が国労
であることによる不利益を考慮しても採用候補者名簿に記載してよいと
判断されたものと考えられるところであり,以上の推認を左右するもの
ではない。
(キ)以上の認定を踏まえた上で,次項において,消滅時効完成の有無に
ついて検討し,その後,後記4において損害の範囲等につき検討する。
(3)本件不法行為①に基づく損害賠償請求権等の時効消滅の成否
ア一審被告は,本件不採用は昭和62年4月1日に行われたところ,本件
訴えは,一審原告らが加害者及び損害を知った時から既に3年以上を経過
して提起されたものであることは明らかであるとして,一審原告らのJR
北海道,JR九州の各採用候補者名簿への不記載にかかる不法行為①に基
づく損害賠償請求権等は一審被告の時効援用により既に時効消滅している
と主張する。そこで,以下,この点について判断する。
イ消滅時効の起算点について検討するにあたっては,まず,本件において
賠償が認められる損害の内容を明らかにする必要があるところ,その詳細
は後記4で検討するとおり,本件においては,一審原告らが,国鉄による
不公正な選考に基づく採用候補者名簿不記載によって,採用手続上,4月
採用の可能性が断たれたことにつき,当該可能性侵害による精神的損害が
賠償の対象になるものというべきである。したがって,名簿不記載がいか
なる結果を招くのかについての認識の如何によって損害の認識の如何も左
右されることとなる。
なお,この点,一審被告は,名簿に記載されなかったことによる精神的
損害は,JR北海道等に採用される余地がなくなったことに伴う損害とは
性質の異なる損害であり,当該精神的損害は採用候補者名簿不記載が判明
したころに既に認識されていたから,その時点から消滅時効が進行する旨
主張する。しかし,当裁判所は,不採用を招くという結果と切り離された,
採用候補者名簿に記載されなかったことそれ自体による精神的損害につい
て賠償すべきと考えるものではない。仮に名簿に記載されなくても4月採
用の余地があったというのであれば,不記載について慰謝料の支払いを命
じるほどの精神的損害があったとは解されないのであるが,本件では,名
簿不記載により不採用という結果を制度上不可避的に招くからこそ,それ
により慰謝料支払いの対象となるほどの精神的損害が生じるというべきで
ある。そうすると,損害発生を認識するにあたっては,採用候補者名簿不
記載により不採用という結果が確定してしまうことの認識が当然に必要と
なるというべきであり,この点の認識如何とは関係なく消滅時効が進行を
開始するという一審被告の主張は採用できない。
ウしたがって,本件において,一審原告らが,一審被告に対する賠償請求
が事実上可能な状況の下に,その可能な程度に損害及び加害者を知った時
とはどの時点であったかについて判断するに当たっては,名簿不記載によ
り不採用という結果が確定してしまうという点の認識の如何が問題になる
というべきであるところ,本件では,これは改革法23条の解釈の如何と
関わることになる。そして,この点につき,本件では以下の事実が認めら
れる。
①改革法23条の解釈に関する国会答弁において,当時の運輸大臣等が,
国鉄当局が行う名簿の作成など新会社に移行する職員の選定は,国鉄が
設立委員の補助者として行う行為であり,その法律関係は準委任に近い
ものであるから,どちらかといえば代行と考えるべきであるなどと答弁
している(甲992,964の2)。
②国労が名簿不記載につき国鉄を被申立人として,不採用についてJR
を被申立人としてそれぞれ不当労働行為救済命令を申し立てたところ,
前者につき国労委は,改革法23条の解釈によれば国鉄が不当労働行為
の当事者ではないとしてその申立てを却下する一方で,後者につき各地
の地労委及び中労委は,いずれも同条の解釈によればJRが不当労働行
為の当事者であるとして,一審原告らについての選考やり直し等を命じ
たが,これにつき提起された救済命令取消訴訟において,同条に関しこ
れらと異なった解釈をした東京地方裁判所は,JRは労働組合法7条の
「使用者」にあたらないとの理由で当該救済命令を取り消し,平成15
年の本件最判でその判断が確定するに至った(これらの詳細は,原判決
「争点に対する判断」2(4)イ(ア)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。)。
③上記②の取消訴訟においては,中労委の救済命令を取り消す旨の地方
裁判所の結論が,高等裁判所及び最高裁判所の各段階でも維持されてい
るものではあるが,平成14年の東京高等裁判所の判決においては,一
審の結論を維持したものの,理由中においては,改革法23条を踏まえ
るとJRが労働組合法7条にいう「使用者」にあたるとの判断が示され
(乙18),また本件最判においても,5人中2人の裁判官が同様の観
点から反対意見を述べている(甲997。ちなみに,本件最判は,国鉄
が採用候補者の選定等に当たり組合差別をした場合は,国鉄は使用者と
しての責任を免れないと判示する。)。
これらの事実からすると,仮に上記②の救済命令が維持されていたなら
ば,一審原告らには依然としてJRに採用される可能性があったこととな
るが,これが取り消された以上,名簿不記載により一審原告らが希望する
JR会社への採用可能性が絶たれたという法的効果は,民事実体法上,名
簿不記載になった時点で確定していたといわざるを得ない。しかし,一審
原告らにおいて当然にそのことを認識し得たかについてみると,改革法が
前例のない新たな立法であることに加え,上記のとおり,政府の同法23
条に関する国会答弁の内容がJRの使用者性を認めるものとも解釈可能で
あったこと,国労委及び労働委員会の判断が同条の解釈からしてJRには
労働組合法上の使用者性が認められると判断し,JRに対して選考やり直
し等を命じていること,これに対する取消訴訟においても,JRの使用者
性についての裁判所ないし裁判官の意見は必ずしも一致したものでなかっ
たことに照らして,改革法23条の解釈とこれを踏まえたJRの使用者性
判断が一義的に導かれ得るような容易なものであったとはいい難い。そう
すると,結果的に名簿不記載の時点で不採用の結果が確定していたことに
なるとしても,一審原告らにおいて当然にその旨を認識し得たとまではい
い難い。
もちろん,そのような場合であっても,消滅時効の進行を止めるために
一審原告らは別途国鉄又は事業団を相手に早い段階で訴訟を提起しておく
べきであったとの議論も成り立ち得ないではない。しかし,一審原告らの
所属する国労は,不当労働行為からの救済と所属組合員のJR採用を目指
して労働委員会に救済命令を申し立てており,その申立てを一定程度認容
する内容の救済命令が出た後は,JR側から提起された救済命令取消訴訟
で救済命令の維持を図るべく活動していたのであって,このように一審原
告らにおいて,まず労働委員会の救済命令による解決を考え,ことに国労
の申立てを認める救済命令が出された場合に,国労による訴訟活動を通じ
てその維持を図ろうとするのは,労働委員会が設けられた趣旨やその権限
等に照らすと自然な成り行きということができる。そして,このように救
済命令の維持を通してJRへの採用を求める訴訟を追行しながら,他方に
おいてJRに採用されないことを前提とする損害賠償請求を一審被告に対
して別途請求することは,相矛盾する態度を指摘されるなどして,最大の
目的であるJR採用を求める取消訴訟において,国労ひいては一審原告ら
に不利益を与えるおそれがあることも否定はできなかったというべきであ
る。このような事情に加えて,改革法23条についての解釈が簡単なもの
でなく,一審原告らの同条についての解釈にもそれなりの根拠があったこ
とをも考慮すると,救済命令が裁判所によって最終的に取り消される可能
性に備えて時効中断のための措置を執っておくべきことが,一審原告らに
当然に期待できたとまではいい難い。
以上検討してきたところによれば,平成15年の本件最判で救済命令の
取消が確定するまでは,一審原告らが,一審被告に対する損害賠償請求が
事実上可能な状況の下に,その可能な程度に損害及び加害者を知っていた
とはいい難いというべきである。
エなお,これについて,一審被告は,従来の判例は,一貫して,被害者が
損害及び加害者を知ったと認定するためには確定判決等の公的判断を要し
ないとしている旨主張するが,一審被告がその主張を裏付けるものとして
援用する判例(最高裁判所第一小法廷昭和43年6月27日判決・訟務月
報14巻9号1003頁)が,「不法行為であることは,被害者が加害行
為の行われた状況を認識することによって容易に知ることができる場合も
ありうるのであって,その行為の効力が別訴で争われている場合でも,別
訴の裁判所の判断を常に待たなければならないものではない」旨説示して
いることからしても,事情の如何によっては別訴の裁判所の判断がなされ
た時点から時効が進行する場合のあることは当然の前提となっているもの
というべきである。そして,具体的な事案において,別訴での判断確定後
に時効の進行を認めた裁判例(最高裁判所大法廷昭和45年7月15日判
決・民集24巻7号771頁,最高裁判所第二小法廷昭和58年11月1
1日判決・判例タイムズ515号124頁)に照らしても,本件の事実関
係の下では,平成15年の本件最判が言い渡された時点から,本件の不法
行為①に係る損害賠償請求についての時効が進行するものと解される。
また,一審被告は,一審原告らが本件最判前の時点で本件訴えを提起し
ていることや,国鉄にも不当労働行為責任がある旨国労が見解を示してい
たこと等を指摘して,一審原告らは早い段階から一審被告に対する損害賠
償請求が可能な程度に加害者及び損害を知っていた旨主張するところでも
あるが,これに対する当裁判所の判断は,既に説示したところに加えて,
原判決95頁15行目冒頭から25行目末尾まで及び同96頁1行目冒頭
から24行目末尾までに記載のとおりであるから,これを引用する。
オ以上検討したところによれば,一審被告の消滅時効の主張は理由がない。
したがって,消滅時効主張が権利濫用に該当するか否かについては判断し
ない。
3争点2及び4(本件不法行為②③及びこれらに基づく損害賠償請求権の時効
消滅の成否)について
これについての当裁判所の判断は,原判決「争点に対する判断」3に記載の
とおりであるから,これを引用する。一審原告らは,当審において,本件不法
行為②③に基づく損害賠償請求権は時効消滅していない旨種々主張するが,こ
れらの主張を考慮しても,上記引用に係る判断は左右されない。
4争点3(本件不法行為①と相当因果関係のある損害賠償の範囲,損害回復方
法)について
(1)賃金相当額等の損害賠償請求について
ア一審原告らは,国鉄から組合差別を受けることなくJR北海道,JR九
州の各採用候補者名簿に記載されていれば,前記JR各社に採用されてい
たはずであるとし,予備的請求として,別紙原告別損害賠償請求額一覧表
記載のとおり,これら一審原告らが前記JR各社に採用されていたら得ら
れたであろう定年まで働いた場合の賃金相当額等の支払を請求する。
イしかし,仮に,一審原告らについて,勤務評定を恣意的に低く行い不利
益に取り扱うという不当労働行為(本件加害行為)が行われなかったと仮
定しても,同原告ら全員が希望する地元JRであるJR北海道,JR九州
に採用されたはずであるとの証明はいまだされていないというべきである。
(ア)すなわち,一審原告らは,いずれもJR北海道又はJR九州への入
社を希望していたものであるが,両社においては,入社希望者が本件基
本計画に定められた要員数を大きく上回っており,一審原告ら全員の国
鉄在職中の勤務成績について正当な評価が行われたとしても,一審原告
ら全員が,入社希望者全体の中で上位に位置しJR各社の採用候補者名
簿に記載されるべきであったと認めるに足る証拠はない。このことは,
前記引用に係る原判決「争点に対する判断」2(2)キのとおり,国鉄
の分割・民営化に賛成していた労働組合所属の職員全員がJR各社の採
用候補者名簿に記載されたわけではなく,同2(2)アのとおり,国労
が一貫して国鉄の分割・民営化に反対し,違法なストライキを含む種々
の運動を展開していたことからも明らかである。
(イ)この点,一審原告らは,当審において,積極的因果関係として,自
らが採用候補者名簿に記載されるべき資質を有していたこと,及び消極
的因果関係として,JRに採用された職員の中には勤務成績不良の者が
いたこと,それ故に,一審原告らが採用候補者名簿に記載されるべきで
あったことを,実例を挙げて主張し,その証拠として,一審原告らの陳
述書(甲1101ないし1215,1217ないし1225,1227
ないし1365,1367ないし1390)等を提出する。しかしなが
ら,一審原告らの主張どおりの事実が認められたとしても,それらの事
実は断片的なものであって,これのみにより,一審原告らがJRに採用
された職員よりもはるかに優良であって,前認定の不当労働行為がなけ
れば,その職員の代わりに一審原告らが採用候補者名簿に記載されるべ
きであったということができない。この点,JRに採用された国労組合
員が職場で信頼を勝ち得ていることも立証するために一審原告らが申請
した証人P28の証言及び同証人の陳述書(甲1401)によれば,同
証人は,国労の所属組合員であるところ,追加採用によりJR東日本に
採用された後は,乗客の安全確認等に配慮しながら勤務していることが
認められるが,他方,同証言によれば,同証人は,同社が推奨する自己
啓発や業務改善のための少集団活動や増収活動には一切参加せず,また,
これに関する意見も提出していないことも認められる。一審原告らの主
張内容や本件証拠関係(証人P29の証言,乙105等)に照らすと,
採用候補者名簿作成当時の国労組合員の多くは,証人P28の証言から
窺われるのと同様の執務に対する姿勢を有していたものと推認されると
ころであるが,これは民間会社の職員としての執務姿勢をも求めるJR
側の観点からすれば望ましいものとはいえなかったであろうと考えられ
る。そうすると,一審原告らが採用候補者名簿に当然に記載され得たは
ずであるとはいえず,他に,一審原告らの上記主張を認めるに足りるべ
き証拠はなく,その主張には理由がない。
(ウ)なお,一審原告らは,本件で個別立証が可能であれば一審原告ら全
員が地元JRに採用されたことを証明し得るところ,一審被告がそれに
必要となる職員管理調書を証拠として提出せず,立証を妨害していると
して,民事訴訟法224条の趣旨を踏まえ,不利益取扱いがなければ地
元JRに採用されていたという一審原告らの主張を真実と認めるべきで
ある旨主張する。しかし,仮に同条についての一審原告らの主張を前提
にしたとしても,裁判所としては一審原告らの主張を真実と認めること
ができるかどうかについて裁量権を有するところ,本件において,一審
原告らの勤務成績が他の組合所属の職員と同等のレベルであると認める
だけの事情はなく,むしろ先にも述べたとおり,JR採用の観点からす
れば,平均的な勤務成績としては低めであった可能性が十分あると推測
されるのであり,一審原告らが主張するような認定をすることは相当で
ないというべきである。
また,一審原告らは,不当労働行為からの救済に当たっては原状回復
が原則であるから,不当労働行為がなければ一審原告らが希望するJR
会社に採用されたであろうことが擬制されるべきであるとか,故意に基
づく不法行為である以上,採用されたら得たであろう逸失利益等をも賠
償の対象とし得るなどと主張するが,損害賠償に係る民事実体法の解釈
としてそのように解する根拠があるとはいい難い。さらに,一審原告ら
は,いわゆる確率的心証ないし割合的因果関係論に基づき,本件におい
ても職員全体の平均的な採用率を乗じた形での逸失利益についての損害
賠償が認められるべきであるとも主張する。一審原告らのこの主張は,
個々の一審原告毎に確率的心証の程度を検討するというのではなく,一
審原告ら全体についていわば包括的な確率的心証を得た上で財産的損害
の一律割合での賠償を命じるべきという趣旨のものと解されるが,これ
は不法行為における相当因果関係論の考え方を大きく超えるものといわ
ざるを得ず,にわかにこのような考えを採用し得るとはいい難いし,そ
もそも採用可能性の確率が本件証拠上明らかであるともいえず,したが
って一審原告らのこの主張も採用できない。
ウよって,一審原告らがJR北海道又は同九州に採用されたであろうこと
を前提とする賃金相当額等の損害賠償請求は,いずれも理由がない。
(2)慰謝料請求について
ア以上のとおり,国鉄の不当労働行為とJR不採用との間に相当因果関係
があるとして賃金相当額等の損害賠償を認めることはできない。しかし,
本件の事実関係の下では,相当因果関係を認めるに足りるほど高いレベル
のものではなかったにせよ,公正な選考がされれば一審原告らが採用候補
者名簿に記載される可能性があったこともまた否定できない。このことは,
上記2(2)エで検討したとおり,様々な観点から見て,組合所属の如何
が名簿登載の結果に影響を与えていたと認められること,ことに採用候補
者名簿作成の直前になって国労を脱退し,JRに採用された者が相当程度
いたと認められることなどからも推認されるところである。したがって,
一審原告らには希望するJRに採用される相当程度の可能性はなおあった
というべきところ,本件では,不公正な選考に基づく採用候補者名簿不記
載により,そのような可能性が断たれたことになる。このような場合,不
公正な選考に基づく名簿不記載によって採用の可能性が侵害されたことに
ついて,一審原告らはその精神的損害の賠償を求めることができるという
べきである(最高裁判所第二小法廷平成12年9月22日判決・民集54
巻7号2574頁参照)。
この点,一審被告は,JR北海道及び同九州のいずれにも採用定員枠に
厳しい制限があり,仮に選考をやり直したとしても全員が採用候補者名簿
に記載されることはあり得ず,昭和62年2月時点における名簿記載と同
じような状況になっていたはずであり,いわゆる期待権侵害を強調するの
はこのような事情を無視したものであるとか,判例上,期待権侵害による
損害賠償が認められている類型は限られており,それ以外の場合に認めら
れるべきではないなどと主張するところである。しかし,前者については,
既に検討したところに照らしてその主張は採用できないし,また,後者に
ついては,①名簿記載の有無に生命等の重大な法益が関係するわけではな
いものの,それは,長年にわたり従事してきた地元での鉄道業務に引続き
従事できるかどうかという,一審原告らの人生設計や家族の生計等に直接
影響を与える事柄に関わるものであり,そこで問題となる法益は重要なも
のということができること,②一審原告らが採用候補者名簿に記載される
か否かは制度上もっぱら国鉄の判断に依存しており,一審原告らは地元J
Rに採用されるためには,まず国鉄による名簿記載を待つ以外に選択肢が
ない立場に置かれていたこと,③不当労働行為の形で不法行為が行われた
場合,それはことの性質上故意の不法行為というべきであり,それによる
精神的損害が生じているのが明らかなのに,結果との相当因果関係までは
認められないことを理由に行為者を無責とするのが衡平の見地から見て相
当とはいい難いと考えられること等を指摘でき,これらの事情を考慮する
と,本件においては上記のような採用可能性が侵害されたことについての
損害賠償が認められるというべきである。
イそこで次に損害額について検討する。
原判決は,当裁判所が上記アで検討したものと実質的には同様の考えの
もとに,一審原告1人あたり500万円の損害賠償を一審被告に対して命
じたものと解されるところ,これについて,一審被告は,一審原告らが地
元以外のJRへの採用を希望すれば4月採用で採用される可能性はあった
し,その後のJR東日本等への追加的広域採用に応募すれば基本的に採用
されていたはずであるにもかかわらず,一審原告らはJR北海道又は同九
州への採用に固執して現在に至っているが,多くの職員が家庭の事情等を
抱えながらも地元以外のJRに採用されていったことに照らして,その主
張は身勝手であり,慰謝料を命じる余地はないし,仮にそうでないとして
も原判決が命じた500万円もの慰謝料は高額にすぎる旨主張する。
そこで,まず,4月採用についてみると,一審原告らの大半はJR北海
道又は同九州への採用のみを希望していたところ,これらの会社では採用
枠を大幅に超える採用希望があったため不採用になる者が相当程度生じる
ことが予想される一方で,そのような事情がない本州のJR会社を希望す
ればより採用が認められ易かった可能性があることは否定できない。しか
しながら,分割民営化へ向けた動きが始まるまで,一部の幹部クラスの職
員はともかく,国鉄の職員一般において地元を遠く離れた全国的異動が行
われていたとは認められず,P27職員局次長自身,地域指向性が非常に
強いのが国鉄職員の特徴であると述べているところであり(甲474),
分割民営化実施前の時点で広域異動を申し込んだ職員のうち少なからぬ者
が家族の事情等から結果的に異動を辞退していること(乙41の2,25
8)にも照らすと,採用される可能性がより高いと予想される他地域のJ
R会社への採用を希望せず,あくまで地元のJR会社への採用を望んだと
しても,それが身勝手とまでいうことはできない。
また,昭和62年4月以降の追加的広域採用についてみると,昭和62
年5月から平成2年3月にかけてJR北海道と同九州以外のJR各社にお
いて4回にわたり追加的広域採用を募集し,初回の募集では,国鉄在職中
の勤務状況等から見て各社の業務にふさわしいことという条件が付されて
いたが,その後の募集からはこの条件が撤廃され,各社の指定する地域で
各社の指定する業務に就く意思のあること等が求められるだけとなってお
り(乙17の1ないし5),このような条件の下では,就業する地域や業
務等にこだわらなければ地元外のJR会社において勤務することが可能で
あって,実際にもこれに応募して採用された者も合計2300名いたこと
が認められる(乙17の6)。しかしながら,地元を離れやすいかどうか
は職員の個別的事情にもよるところであって,追加的広域採用に応じた者
が多数いたからといって一審原告らも同様に応じられたはずであるとも直
ちにはいい難いし,また,追加的広域採用に応じないことをもって賠償を
否定する事情とすることは,不公正な選考を受け入れた上でこれを前提と
した対応を一審原告らに求めることにつながりかねない。これに加えて,
その後取り消されたとはいえ,当時,各地の地労委において,不採用とな
った国労の組合員を地元のJRに採用したものとして取り扱うよう命じる
救済命令が出ていたこと(甲276ないし290等)をも考慮すると,一
審原告らが追加的広域採用に応じるなどしなかったからといって,これを
直ちに身勝手とまでいうことはできない。したがって,一審被告主張の事
情によって,慰謝料を認める程の損害がないとか,原判決が認めた額より
も減額すべきとはいえない。
他方,一審原告らは,慰謝料額を原判決認容額よりもさらに増額すべき
であるとも主張するが,上記の一審被告指摘に係る事情も含め,これまで
に検討した諸事情に照らすと,原判決認容額よりも慰謝料額を増額させる
べきともいい難い。このように,本件における諸事情を総合すれば,慰謝
料額としては一審原告P2ら6名を除く各一審原告につき(ただし後記
(3)の一審原告らを除く。),原判決どおり500万円とするのが相当
である。なお,一審原告らのうち日ごろの勤務状況からみて公正な選考が
されれば名簿に記載される可能性が高かった者と必ずしもそうでない者と
がいるとも考えられ,厳密にいえばそれぞれの程度に合わせて慰謝料額が
異なるのが相当と考える余地もあるが,仮にそうであるとしても,本件で
は一審原告ら個々人の成績に係る書証がほとんど提出されていないこと
(処分状況については証拠が出ているが,既に検討したとおり,実際の結
果をみると,処分の有無が名簿記載にあたりどの程度の比重を持つのか判
然としないところがあり,処分を受けた者を慰謝料額算定にあたり類型的
に劣位に扱うのも難しい。)及び各人の精神的損害にことの性質上さほど
の大小があるとも考えにくいことに照らすと,慰謝料額は各一審原告にお
いて同程度と考えるほかなく,また民事訴訟法248条によればそのよう
な判断も許されるものと解する。
ウ以上,一審原告らについて述べてきたところは,不当労働行為による不
法行為の成立及び消滅時効の未完成の点も含め,被控訴人P6についても
同様に妥当するものであり,同人も不当労働行為に対する慰謝料として5
00万円の支払いを求め得る立場にあるというべきである。
(3)第一希望でないJR会社に採用されていた一審原告ら及び追加的広域採
用に応募していた一審原告らの各損害について
ア原判決が,第一希望でないJR会社に採用されたにもかかわらずこれを
辞退した原告番号104P1につき賠償を認めなかったことについて,同
一審原告は,第一希望であったJR北海道に採用されなかったことが差別
であるなどとして賠償を認めるべき旨主張する。他方,一審被告は,この
点に関する原判決の判断を正当としつつ,第一希望以外のJR会社に採用
されたがこれを辞退した一審原告が他にもおり,これらの一審原告につい
ては賠償を要する損害がないと主張する。
また,一審被告は,一審原告らのうちの一部の者が,追加的広域採用に
応募して採用されていながらこれを辞退しているとして,これらの者につ
いては法的保護に値するほどの損害はないと主張し,これに対して一審原
告らは,追加的広域採用に応じる義務はないし,その採用を辞退したこと
にはやむを得ない理由があるから,これらの者についても損害賠償が認め
られるべきであると主張する。
イそこでまず,意思確認書においてJR北海道以外のJR会社でもよいと
の意思を示し,その結果当該JR会社に採用されながら,その採用を辞退
した一審原告について検討すると,これらの一審原告は,第一希望以外で
も応じる姿勢を示しながら(これが詐欺強迫等に基づくと認めるだけの事
情はない。),採用の段になって結局自らの意思で採用を断ったのである
から,JRに採用されなかったことによる不利益は自ら引き受けるのもや
むを得ないというべきである。これについて,一審原告らは,第一希望で
あったJR北海道に採用されなかったこと自体が所属組合に着目した不利
益取扱いであるから賠償を求め得る旨主張するのであるが,確かにJR北
海道に採用された人員の組合別状況(原判決別紙3)によれば国労所属職
員の同社採用率は鉄労や動労所属職員よりも顕著に低いから,そのような
主張にも根拠がないわけではないものの,他方で,JR北海道とそれ以外
のJRへの振分けがどのような事情を考慮して行われたのか,これについ
て国鉄がどのように関与したのか,上記組合別状況以外に不利益取扱いを
窺わせる事情としていかなるものがあるのか等については,本件証拠上必
ずしも明らかではない。そうすると,一審原告らのうちの一部の者が第一
希望であるJR北海道に採用されず,第二希望以下のJRに採用となった
ことが所属組合に着目した不利益取扱いであるとまで認定するのは困難で
ある。したがって,採用を辞退した者も損害賠償を求め得るという一審原
告らの主張は前提を欠き,採用し難いというほかない。
そして,一審原告P1ら4名はこれらに該当するものと認められる(甲
613の1,685,704の1,746)から,これらの一審原告につ
いては,損害賠償に値するほどの損害はないものというべきである。
ウ次に,追加的広域採用に応募しながら,結局これを辞退した一審原告ら
について検討する。追加的広域採用に応募して採用されれば,地元JRで
ないとはいえ,出向期間を経るなどしながらもJR会社で執務できること
になるのであるから,その意味では,第二希望を出してそのJR会社に採
用されたのと結果的には同様の地位を確保できるものといえる。そして,
追加的広域採用に応募して採用されつつ,これを辞退した一審原告らは,
このような地位を自ら一旦は確保しながら,結局は自らの意思でこれを放
棄したのであるから,このことによる不利益は自ら引き受けるべき側面が
あるのは否定できない。もっとも,これらの一審原告らは,上記イの一審
原告らとは異なり,4月採用において名簿に記載されなかったがゆえに,
それによる損害を回避するために追加的広域採用に応じたものの,家庭の
事情等から結局はこれを辞退することになったものと認められる(後記各
証拠)。このように,追加的広域採用に応募したこと自体,不公正な選考
に基づく採用候補者名簿不記載が背景にあることを考慮すると,自らの意
思で辞退したことを強調するあまり法的保護に値する精神的損害が全くな
いとするのも相当ではない。そして,以上の事情を総合すると,これらの
一審原告については,それぞれ250万円の慰謝料額とするのが相当であ
る。
原告番号79P21,同106P22,同169P23,同196P2
4,同203P25,同238P26はこれらに該当するものと認められ
る(甲48,679−1,706,769,796,803−1,838,
999)から,これらの一審原告については,それぞれ250万円の損害
賠償が認められるというべきである。
(4)弁護士費用及び遅延損害金について
一審原告らは,平成18年11月20日付け「控訴状訂正および請求原因
の変更申立書」により,予備的請求について慰謝料だけでなく弁護士費用を
もその損害費目として追加しているところ,認容すべき慰謝料額,本件訴訟
に至る経緯,法的困難性その他諸般の事情を斟酌すれば,上記(2)イのと
おり500万円の慰謝料が認められる一審原告らについては各50万円,上
記(3)ウのとおり250万円の慰謝料が認められる一審原告らについては
各25万円をもって,賠償されるべき弁護士費用と認める。
また,一審原告らは,平成20年12月4日付け「訴えの変更申立書」で,
予備的請求に係る損害賠償の遅延損害金起算時を平成2年4月1日から昭和
62年4月1日に変更しているところ,先に検討した本件不法行為①の時期
からすれば,これには理由があるというべきである。
(5)謝罪文,採用要請について
一審原告らは,本件不法行為①について,損害賠償を求めるほか,これに
より名誉を侵害ないし毀損されたとして,一審被告に対し,謝罪文の交付・
掲示及びJR北海道,JR九州に対する同一審原告らの採用要請を求める。
しかし,これまでの検討により損害賠償が認められない一審原告らについて
はその請求に理由はないし,また損害賠償が認められる一審原告らについて
も,その名誉の回復は,金銭による損害賠償を命ずることにより図られるも
のと認めるのが相当であり,一審被告に対し,金銭賠償に加え,謝罪文の交
付・掲示及びJR北海道,JR九州に対する一審原告らの採用要請まで命じ
なければその損害が回復できないとの証明はいまだされていないというべき
であって,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。よって,この点に関
する一審原告らの主張は採用することができない。
第5結論
1以上検討したところによれば,一審原告らの請求についての理由の有無は次
のとおりとなる。
(1)主位的請求関係については,一審原告らの請求にはいずれも理由がない。
(2)予備的請求関係については,次のとおりである。
ア停職処分の基準に該当する原告番号210,229,231,245,
261及び年齢基準に該当する230の各一審原告ら並びに第二希望に採
用されながらこれを辞退した原告番号13,85,104及び146の各
一審原告ら請求にはいずれも理由がない。
イ追加的広域採用に採用されながらこれを辞退した原告番号79,106,
169,196,203及び238の各一審原告らの請求は275万円及
びこれに対する昭和62年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金を求める限りにおいてそれぞれ理由がある。
ウ上記ア,イ以外の一審原告らの請求は,550万円及びこれに対する昭
和62年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損
害金を求める限りにおいてそれぞれ理由がある(ただし,相続人である一
審原告らについては,それぞれ法定相続分の割合によるもの。また,原告
番号126の被控訴人P6は,平成18年2月9日に控訴を取り下げてお
り,一審被告による控訴についてのみ当審における審理の対象となってい
るところ,原判決どおり,500万円及びこれに対する平成2年4月1日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限り
において,その請求には理由がある。)。
2そうすると,原告番号104,229,230,231及び245の各一審
原告の控訴(当審で請求を拡張した分を含む。)はいずれも理由がないから,
同一審原告らの控訴は棄却すべきである。また,一審被告の被控訴人P6に対
する控訴も理由がないから棄却すべきである。他方,その余の一審原告ら及び
一審被告の各控訴には,それぞれ一部理由があり,一審原告らが当審において
拡張した請求にも一部理由がある。また,一審原告らの一部には相続による訴
訟承継があるから,各承継人が法定相続分に基づき相続したことを前提とする
主文の変更を要することとなる。そして,原告番号13,85,146,21
0及び261の一審原告については,原判決において認められた請求のすべて
が認められないこととなり,また原告番号79,106,169,196,2
03及び238の一審原告については,原判決において認められた請求のうち
の一部が認められないことになるから,原判決に基づく仮執行によりこれらの
各一審原告が取得した金銭のうち当審において請求が一部理由がないとされた
部分に対応する額(仮執行により取得した金額から当審認容額〔遅延損害金に
ついては仮執行日までの分〕を控除した額。具体的には別紙原状回復目録記載
のとおり。)を,民事訴訟法260条2項の申立てにより,一審被告に返還す
べきこととなる。
よって,上記各控訴を棄却した一審原告ら及び被控訴人P6の請求に関する
部分を除き,原判決を主文のとおり変更することとし,一審被告の民事訴訟法
260条2項の申立てについては,その一部を認容することとして主文のとお
り判決する。
東京高等裁判所第17民事部
裁判長裁判官南敏文
裁判官安藤裕子
裁判官小林宏司
(別紙)
認容金額一覧表
(単位:円)(単位:円)
原告番号氏名認容金額原告番号氏名認容金額
5,500,0005,500,000原告1P30原告51P81
5,500,0005,500,000原告2P31原告52P82
5,500,0005,500,000原告3P32原告53P83
5,500,0005,500,000原告4P33原告54P84
5,500,0005,500,000原告5P34原告55P85
5,500,0005,500,000原告6P35原告56P86
5,500,0005,500,000原告7P36原告57P87
5,500,0005,500,000原告8P37原告58P88
5,500,0005,500,000原告9P38原告59P89
5,500,0005,500,000原告10P39原告60P90
5,500,0005,500,000原告11P40原告61P91
5,500,0005,500,000原告12P41原告62P92
5,500,0005,500,000原告14P42原告63P93
5,500,0005,500,000原告15P43原告64P94
5,500,0005,500,000原告16P44原告65P95
5,500,0005,500,000原告17P45原告66P96
5,500,0005,500,000原告18P46原告67P97
5,500,0005,500,000原告19P47原告68P98
5,500,0005,500,000原告20P48原告69P99
5,500,0005,500,000原告21P49原告70P100
5,500,0005,500,000原告22P50原告71P101
5,500,0005,500,000原告23P51原告72P102
5,500,0002,750,000原告24P52原告73−1P103
5,500,0001,375,000原告25P53原告73−2P104
5,500,0001,375,000原告26P54原告73−3P105
5,500,0005,500,000原告27P55原告74P106
5,500,0005,500,000原告28P56原告75P107
5,500,0005,500,000原告29P57原告76P108
5,500,0005,500,000原告30P58原告77P109
5,500,0005,500,000原告31P59原告78P110
5,500,0002,750,000原告32P60原告79P21
5,500,0005,500,000原告43P71原告91P121
5,500,0005,500,000原告44P72原告92P122
5,500,0005,500,000原告45P73原告93P123
5,500,0005,500,000原告46P74原告94P124
2,750,0005,500,000原告47−1P75原告95P125
1,375,0005,500,000原告47−2P76原告96P126
1,375,0005,500,000原告47−3P77原告97P127
5,500,0005,500,000原告48P78原告98P128
5,500,0005,500,000原告49P79原告99P129
5,500,0005,500,000原告50P80原告100P130
(別紙)
認容金額一覧表
(単位:円)(単位:円)
原告番号氏名認容金額原告番号氏名認容金額
5,500,0005,500,000原告101P131原告151P177
5,500,0005,500,000原告102P132原告152P178
5,500,0002,750,000原告103P133原告153−1P179
5,500,0001,375,000原告105P134原告153−2P180
2,750,0001,375,000原告106P22原告153−3P181
5,500,0005,500,000原告107P135原告154P182
5,500,0005,500,000原告108P136原告155P183
5,500,0005,500,000原告109P137原告156P184
5,500,0005,500,000原告110P138原告157P185
5,500,0005,500,000原告111P139原告158P186
5,500,0005,500,000原告112P140原告159P187
5,500,0005,500,000原告113P141原告160P188
5,500,0005,500,000原告114P142原告161P189
5,500,0005,500,000原告115P143原告162P190
5,500,0005,500,000原告117P144原告163P191
2,750,0005,500,000原告118−1P145原告164P192
2,750,0005,500,000原告118−2P146原告165P193
5,500,0005,500,000原告119P147原告166P194
5,500,0005,500,000原告120P148原告167P195
5,500,0002,750,000原告121P149原告168−1P196
5,500,0002,750,000原告122P150原告168−2P197
5,500,0002,750,000原告123P151原告169P23
5,500,0005,500,000原告124P152原告170P198
5,500,0005,500,000原告125P153原告171P199
5,500,0005,500,000原告127P154原告172P200
5,500,0005,500,000原告128P155原告173P201
5,500,0005,500,000原告129P156原告174P202
5,500,0005,500,000原告130P157原告175P203
5,500,0005,500,000原告131P158原告176P204
5,500,0005,500,000原告132P159原告177P205
5,500,0005,500,000原告133P160原告178P206
5,500,0005,500,000原告134P161原告179P207
5,500,0005,500,000原告135P162原告180P208
5,500,0005,500,000原告136P163原告181P209
5,500,0005,500,000原告137P164原告182P210
5,500,0005,500,000原告138P165原告183P211
5,500,0005,500,000原告139P166原告184P212
5,500,0005,500,000原告140P167原告185P213
5,500,0005,500,000原告141P168原告186P214
5,500,0005,500,000原告142P169原告187P215
5,500,0005,500,000原告143P170原告188P216
5,500,0005,500,000原告144P171原告189P217
5,500,0005,500,000原告145P172原告190P218
5,500,0005,500,000原告147P173原告191P219
5,500,0005,500,000原告148P174原告192P220
5,500,0005,500,000原告149P175原告193P221
5,500,0005,500,000原告150P176原告194P222
5,500,000原告195P223
2,750,000原告196P24
5,500,000原告197P224
5,500,000原告198P225
5,500,000原告199P226
5,500,000原告200P227
(別紙)
認容金額一覧表
(単位:円)(単位:円)
原告番号氏名認容金額原告番号氏名認容金額
5,500,0005,500,000原告201P228原告251P272
5,500,0005,500,000原告202P229原告252P273
2,750,0005,500,000原告203P25原告253P274
5,500,0005,500,000原告204P230原告254P275
5,500,0005,500,000原告205P231原告255P276
5,500,0005,500,000原告206P232原告256P277
5,500,0005,500,000原告207P233原告257P278
5,500,0005,500,000原告208P234原告258P279
5,500,0005,500,000原告209P235原告259P280
5,500,0005,500,000原告211P236原告260P281
5,500,0005,500,000原告212P237原告262P282
5,500,0005,500,000原告213P238原告263P283
5,500,0005,500,000原告214P239原告264P284
5,500,0005,500,000原告215P240原告265P285
5,500,0005,500,000原告216P241原告267P286
5,500,0005,500,000原告217P242原告268P287
5,500,0005,500,000原告218P243原告269P288
5,500,0005,500,000原告219P244原告270P289
5,500,0005,500,000原告220P245原告271P290
5,500,0005,500,000原告221P246原告272P291
5,500,0005,500,000原告222P247原告273P292
5,500,0005,500,000原告223P248原告274P293
5,500,0005,500,000原告224P249原告275P294
5,500,0005,500,000原告225P250原告276P295
5,500,0005,500,000原告226P251原告277P296
5,500,0005,500,000原告227P252原告278P297
5,500,0005,500,000原告228P253原告279P298
5,500,0002,750,000原告232P254原告280−1P299
5,500,000916,667原告233P255原告280−2P300
5,500,000916,667原告234P256原告280−3P301
5,500,000916,666原告235P257原告280−4P302
5,500,0005,500,000原告236P258原告281P303
5,500,0005,500,000原告237P259原告282P304
2,750,0005,500,000原告238P26原告283P305
5,500,0005,500,000原告239P260原告284P306
5,500,0005,500,000原告240P261原告285P307
5,500,0002,750,000原告241P262原告286−1P308
5,500,0001,375,000原告242P263原告286−2P309
5,500,0001,375,000原告243P264原告286−3P310
5,500,0002,750,000原告244P265原告287−1P311
5,500,0001,375,000原告246P266原告287−2P312
3,666,6671,375,000原告247−1P267原告287−3P313
1,833,3335,500,000原告247−2P268原告288P314
5,500,0005,500,000原告248P269原告289P315
5,500,0005,500,000原告249P270原告290P316
5,500,000原告250P271
(別紙)
原状回復目録
(単位:円)
原告番号氏名仮執行日において請求可能であった額返還金額
元本損害金執行費用合計
1300008,876,568P7
792,750,0002,538,66411,5005,300,1643,576,404P21
8500008,876,568P8
1062,750,0002,538,66411,5005,300,1643,576,404P22
14600008,876,568P9
1692,750,0002,538,66411,5005,300,1643,576,404P23
1962,750,0002,538,66411,5005,300,1643,576,404P24
2032,750,0002,538,66411,5005,300,1643,576,404P25
21000008,876,568P10
2382,750,0002,538,66411,5005,300,1643,576,404P26
26100008,876,568P11
(注)
①損害金の額は,元本に対する昭和62年4月1日から仮執行日である平成17年9月16日
までの間における年5パーセントの割合による金員である。
②執行費用は,執行官に対する手数料であり,元本と損害金との合計額が300万円を超え1
000万円以下の場合には,債権者1人当たり1万1500円とされている。
③返還金額は,仮執行に基づく強制執行のされた額から仮執行日において請求可能であった額
の合計額を差し引いた額である。

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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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