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平成15年10月3日判決言渡 
平成14年(ワ)第540号損害賠償請求事件
口頭弁論の終結の日 平成15年8月15日
           判         決
           主         文
 1 被告は,原告に対し,金27万円及び,うち金24万円に対する平成13年
3月3日から,うち金3万円に対する平成14年10月31日から各支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
 2 その余の原告の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とす
る。
           事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
  (1) 被告は,原告に対し,金61万9240円及び,うち金41万9240円
に対する平成13年3月3日から,うち金20万円に対する平成14年10月31
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 訴訟費用は,被告の負担とする。
 2 請求の趣旨に対する答弁
  (1) 原告の請求を棄却する。
  (2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,被告のパソコン講座を受講した原告が,厚生労働省の教育訓練給付
制度(以下「本件給付制度」という。)を利用して受講することを希望していた
が,被告の説明不足のために,同制度を利用することができなかったとして,被告
に対し,受講料相当の損害金及び弁護士費用並びに遅延損害金の支払を求めている
事案である。
 2 前提となる事実(争いのない事実,後記掲記の証拠及び弁論の全趣旨により
認められる事実)
  (1) 被告は,コンピューター技術教室,学習教室及び文化教室並びに英会話教
室の経営などを業とし,Aの名称でパソコン教室を運営している。
  (2) 原告は,平成13年2月28日被告の開講する講座「PC総合2級コー
ス」(以下「本件講座」という。)の「予約制」(以下「予約制」という。)を申
込み,同年3月2日までに受講料41万9240円を支払い,平成14年7月11
日受講を終了した。
  (3) 本件給付制度とは,働く者の主体的な能力開発の取組みを支援し,雇用の
安定と再就職の促進を図ることを目的とする雇用保険の給付制度であり,一定の条
件を満たす雇用保険の一般被保険者(在職者)又は一般被保険者であった者(離職
者)が,厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合,本人が教育訓練
施設に支払った教育訓練経費の80パーセントに相当する額(上限30万円)をハ
ローワーク(公共職業安定所,以下「ハローワーク」という。)から支給される制
度である。支給申請は,教育訓練を受講した者が,受講終了後,当該者の住所を管
轄するハローワークに対し,教育訓練給付金支給申請書,教育訓練修了証明書,教
育訓練施設長発行の教育訓練経費の領収書等,申請者の本人・住所確認書類及び雇
用保険被保険者証を提出して行う(乙1号証)。
 3 当事者の主張
  (1) 原告
   ア 被告の不法行為
    (ア) 原告は,本件給付制度を利用して被告の講座を受講しようと考え,
平成13年2月26日ころ,被告のB校に赴き,同校の従業員のCが,原告に応対
した。原告は,Cに本件給付制度を利用する旨伝えて受講の説明を求めたところ,
Cは,本件講座が適合するとの説明を行った。原告は,他にも受講を考えていたこ
とから,当日は受講の申込みをせずに帰宅した。
    (イ) 原告は,検討した結果,本件給付制度を利用して,本件講座を受講
することとし,同月28日B校に赴き,応対に出たCに本件講座の受講を申し出た
ところ,Cは,本件講座には,「定期制」(以下「定期制」という。)と予約制の
2種類の受講形態があること,原告が働いているのであれば,予約制の方が時間的
に融通が利くと説明して,予約制の受講を勧めた。Cは,その際,原告に対し,予
約制が本件給付制度の対象でないことを説明しなかったこと,さらに,同月26日
の受講相談の際に,本件講座が本件給付制度の対象となっているとの説明をした
が,予約制が本件給付制度の対象になっていないとの説明を一切しなかったことか
ら,原告は予約制が本件給付制度の対象になっていると錯誤し,予約制の受講を申
し込んだ。
      なお,原告は,収入が毎月約15万円であり,本件講座の受講料が4
1万9240円もする高価な講座であるこることから,Cの説明によって,本件給
付制度を利用すれば,本件講座受講終了後に給付金(30万円)を受けることがで
きるとの予測のもとに,予約制を申し込んだものであって,本件給付制度を利用で
きないことを知っていれば,本件講座の受講を申し込むことはなかった。
 (ウ) 原告は,平成14年7月ころ,本件講座の受講を終了したので,被
告に対し,給付金を受け取るためハローワークに提出する修了証(以下「本件修了
証」という。)の交付を求めたが,被告から,予約制が本件給付制度の対象になっ
ていないので,本件修了証の交付ができないとの説明を受け,原告は,その後ハロ
ーワークに問い合わせて,被告の説明が正しいことを確認した。
    (エ) 民法1条によれば,契約当事者は,契約の付随的義務として,情報
提供義務を負うところ,事業者が消費者に対して商品・サービスを販売するとき
は,事業者は,消費者に対し,その商品・サービスの内容についての適切・正確な
情報を提供して消費者に損害を与えないようにしなければならない。
      また,消費者契約法1条は,消費者の利益の擁護を目的とし,同法3
条1項は,事業者の説明努力義務を規定しており,これらの規定からは,消費者が
損害を被る恐れがある場合には,事業者はその点について特に注意して説明をしな
ければならないことに帰結するものである。
    (オ) 被告は,原告から同年2月26日受講相談を受け,その際に本件給
付制度の利用を希望しているとの説明を受けたのであるから,被告が開講する本件
講座には,定期制と予約制があり,予約制が本件給付制度の対象でないことを説明
すべき義務があるのにこれを怠り,原告に説明をせず,Cにおいて原告に誤った説
明をして原告を誤解させ,予約制を受講させた。
      また,Cは,同月26日の原告からの受講相談の際に,本件給付制度
の利用を希望していると告げられ,その2日後である同月28日に講座申込みをし
に訪れた原告に対し,再び原告の受付を担当したのであり,わずか2日しか経過し
ていないことから,原告を2日前に訪れた人物と認識し,原告に本件給付制度を利
用する希望があるのか再確認し,予約制では,本件給付制度を利用することができ
ないことを告知すべきであるのに,これを怠り,原告から漫然と予約制の受講申込
みを受け付けたものである。
   イ 損害
    (ア) 原告は,被告の不法行為により平成13年3月2日までに予約制の
受講料41万9240円の支払を余儀なくされた。原告は,パソコン技術につき,
本件講座を受講しなくとも各ソフトのマニュアルや市販の書籍を読むなり,知人に
聞くなり,自分で試行錯誤するなどして習得が可能である。また,本件講座を受講
するとしても,原告が本件給付制度を利用できていれば,11万9240円の出捐
で済んだはずである。さらには,被告以外のパソコン教室に通えば,同じ技術を習
得するにも被告とは異なる受講料となる。また,そもそも,被告の説明が十分にな
されていたならば,原告は本件講座を受講していなかった可能性があったのである
から,受講料の支払自体を損害と見るべきである。  
    (イ) 原告は,被告に対し,電話や内容証明郵便で抗議して受講料の返還
を求め,滋賀県消費生活センターなどに相談したが,解決に至らず,本件訴えを提
起するに至ったものである。本件訴えにかかる弁護士費用は20万円が相当であ
る。
   ウ よって,原告は,被告の説明義務違反による不法行為に基づく損害賠償
請求権により,受講料41万9240円及び弁護士費用20万円の合計61万92
40円及び,内41万9240円に対する受講料支払日の翌日である平成13年3
月3日から,内20万円に対する本訴状送達の日の翌日である平成14年10月3
1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め
る。
  (2) 被告
   ア 説明義務の不存在
    (ア) 本件給付制度は,厚生労働省が所管する雇用保険の一態様であっ
て,被告の商品でもなく,被告のサービスでもないこと,厚生労働省から各教育機
関に対し本件給付制度を営業に使用したり,教育機関から積極的に同制度の説明を
することを差し控えるよう指導があり,そのため被告は本件給付制度の利用方法等
を積極的・能動的に説明して利用を勧める立場にはなく,説明すべきではない。被
告に求められているのは,本件給付制度の存在を一般的に周知せしめるとともに,
受講生から特定の講座について本件給付制度の利用方法等を具体的に問われるのを
待って受動的に説明する点に限られる。
    (イ) 被告は,厚生労働省の指導に従い,本件給付制度の利用を希望する
受講希望者及び受講者に対し,厚生労働省発行のリーフレットを配布するととも
に,本件給付制度の詳細な説明を行っている。のみならず,本件給付制度がより広
く利用されるべく新聞広告,新聞折り込みチラシにおいて周知した上,本件給付制
度の案内書面を被告事務所に来校した者の人目につきやすい場所に掲示している。
このように,被告は,本件給付制度を広く知らしめ,希望者には説明を行ってい
る。
    (ウ) しかし,本件給付制度の利用を積極的に希望しない者に対してまで
本件給付制度の利用を勧めるべき法的義務はない。すなわち,本件給付制度は,厚
生労働省,都道府県労働局及びハローワーク(以下,3者を併せて「厚生労働省
等」という。)が,主体的に職業能力の開発に取り組む人に対して教育訓練を実施
し,もって雇用を安定させるとともに,再就職を促進するための制度である。た
だ,厚生労働省等は,教育の実施を本務としていないことから,本件給付制度の理
念を実現するために,教育訓練そのものは,厚生労働大臣の指定を受けた教育施設
が実施し,厚生労働省等は,所定の教育訓練を修了したと認められる者に対して事
後的に受講料の一定額を給付するという方法を採用したものである。したがって本
件給付制度の対象となる講座は,雇用保険の給付対象としての教育訓練と呼ぶに相
応しい内容すなわち一定の職業能力が習得できる講座であることが必要であり,保
険の給付期間に相当する訓練期間が重要な要素となる。したがって,職業能力を習
得するに必要な期間が予め定められていない講座や講座の受講期限が予め定められ
ておらず,適宜受講することができるといった講座は教育訓練と呼ぶこと
ができない。このことは本件給付制度そのものが内包する要請であり,本件給付制
度の利用を希望する者は,利用を希望する時点で当然認識していなくてはならず,
かかる基本的認識を欠いた状態のままで本件給付制度の利用を希望するということ
はあり得ない。
    (エ) そもそも,何らかの社会制度を利用しようとする者は,制度の内容
を理解したからこそ利用するのであって,本件給付制度に限らず,一定の制度を利
用する場合は,制度の内容を理解した上で利用者の責任において利用することが求
められる。利用希望者が制度を利用することによって利益を受けようとする場合に
はなおさらである。
    (オ) 本件給付制度を利用できるかどうかが重大な事項であったとするな
らば,原告は当然本件給付制度の内容や利用条件について十分な理解を得た上で利
用を希望した筈である。そして,本件給付制度の内容や利用条件は厚生労働省等に
問い合わせさえすれば,知り得るものであるから,予約制が本件給付制度の対象に
ならないことも容易に知り得たはずである。したがって,原告において予約制が本
件給付制度の対象にならないことも理解できたはずである。
    (カ) 以上のとおり,原告は,本件給付制度を利用する意思がなかったの
であるから,被告の説明義務の有無を論じるまでもない。
   イ 説明義務違反の不存在
    (ア) 本件給付制度を利用するためには,教育訓練の内実を有する講座を
受講しなければならず,受講予定者が本件給付制度の利用を希望した場合は,受講
予定の講座の確認が重要となり,受付が受講講座を確認しないまま本件給付制度の
利用方法についての相談に応ずることはありえない。いわば,本件給付制度の利用
方法を説明することは受講講座を説明することに他ならない。したがって,原告が
本件給付制度の利用を希望したのであれば,B校の受付担当者が予約制が本件給付
制度の対象にならないことを説明しないまま予約制を受け付けるということ自体発
生することはない。
    (イ) 本件給付制度の対象となる講座が厚生労働省が訓練講座に指定した
講座に限られ,被告の講座の中では定期制のみが指定を受けている。そのため,被
告は,平成11年ころから,本件給付制度の利用を希望した受講生に対して定期制
以外のコースを案内したり,定期制以外のコースでの申込みを受け付けることがな
いよう企業全体の取り組みとして様々な方策を講じている。具体的には,本件給付
制度の利用を希望する者に対しては,一般の受講生と異なる専用の申込書とカリキ
ュラム表を用意し,定期制以外の受講を選択できないようにしている。また,申込
書やカリキュラム表の体裁も本件給付制度専用であることを示すように色別し,マ
ークを入れることで誰が見ても一般の申込書,カリキュラム表と一見して区別でき
るようにした。さらに,社内で本件給付制度に対応するためのマニュアルを作成
し,社員研修を実施するなど,本件給付制度の運営に協力するよう基盤整備を徹底
している。
   ウ 予約制の受講
     予約制は,受講者の管理・指導に相当程度の労力を要するため,受講者
に個別的な事情がある場合にのみ勧めており,被告は,通常は受講希望者に対し,
定期制の受講を推奨している。したがって,原告が予約制を申し込んだのは,原告
自らが予約制を希望したものである。 
  エ 損害の不存在
    (ア) 原告は,本件講座を受講し,本件講座が予定するパソコンの技能を
習得したばかりか,その成果の1つの顕れとして財団法人全日本情報学習振興協会
主催のパソコン技能検定Ⅱ種等の各種資格を習得している。このように,原告は出
捐に相応する反対利益を被告から享受しているのであるから,原告の損害はない。
    (イ) 仮に,損害があるとしても本件給付制度を利用した場合に支給され
る金額は,教育訓練経費(受講料)の80パーセントまでで,金額的にも30万円
が限度であるから,原告の損害も上記金額を限度とする。
 4 争点
  (1) 原告の本件講座申込みが,本件給付制度の利用を前提としていたものか否
か。
  (2) 本件給付制度の対象講座につき説明する義務の有無。 
  (3) 損害   
第3 裁判所の判断
 1 甲5,6ないし8,11,12号証,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨
によれば,次の事実が認められる。
  (1) 原告は,収入がさほど多くないことから,本件給付制度の利用に関心があ
り,本件給付制度の受給資格があるか,ハローワークに確認し,平成13年1月4
日,ハローワークから受給資格がある旨の回答を受けていた。
  (2) 原告は,本件給付制度が利用できる講座を色々探していたが,雑誌Dに掲
載されていたAの記事を見て,開設されている講座の内容及び本件給付制度が利用
できる旨の記載がなされていたので,講座の内容について説明を受けるためにB校
を訪れた。なお,原告は当初,簿記,ヘルパー関係の講座及びパソコンの講座の3
種類の講座の受講を検討していたが,仕事上パソコンを使用することが多く,Aの講
座の受講料が高額であったことから本件給付制度を利用するうまみがあると考えて
被告の講座を選択した。
  (3) 原告は,同年2月26日夕方ころ,B校を訪れ,応対に出たCに対し,本
件給付制度を利用したいと述べて,説明を求めたところ,Cは,原告に,一般的な
説明をした上で,本件講座が本件給付制度の対象になることを説明した。その際,
Cは,本件講座の受講形態には予約制と定期制があり,予約制では本件給付制度の
対象とならないとの説明を行わなかった。原告は,他所で行われている講座の受講
も併せて検討することにして,その日は,被告に講座の申込みをしなかった。
  (4) 原告は,同月28日再びB校を訪れ,本件講座を受講することを述べ,C
から仕事をしているか否かを問われ,仕事をしていると答えると,Cは,原告に,
予約制の方がいいと予約制を勧めたので,原告は,予約制を選択した。その際,C
から本件給付制度の利用について説明はなかった。原告も,前々日の同月26日に
Cに本件給付制度を利用して受講することを説明し,その際のCの説明から,本件
講座が本件給付制度対象講座と思いこんでいたため,特に予約制が本件給付制度の
対象になっているか否かを確認することはなかった。原告は,受講料として同年2
月28日1000円,同年3月2日に41万8240円を支払った。
  (5) その後,原告は,平成14年7月11日に本件講座の受講を修了し,本件
給付制度を利用するための手続を取るために,被告に対し,修了書の交付を求めた
ところ,被告から,予約制が本件給付制度の対象になっていないとの説明を受け,
更に他の講座を利用することを勧められ,初めて予約制が本件給付制度の対象にな
っていないことを知った。原告は,そこで,受講料を返還してもらう方法を考え,
消費者生活相談センター(以下「センター」という。)に問い合わせをして,滋賀
県E町の相談窓口(以下「相談所」という。)の紹介を受け,相談所で相談をし
た。原告は,被告に対し,内容証明郵便により受講料の返還を求め,他方,相談所
の担当者Fらも,被告と交渉をするも,埒があかなかったので,原告は,弁護士に
相談することなり,本件訴えを提起するに至った。
 2 争点1(原告の本件講座申込みが,本件給付制度の利用を前提としていたも
のか否か)について
  (1) 前記1の認定事実によれば,原告は,本件給付制度を利用することを前提
として本件講座を受講したことが認められる。したがって,予約制に本件給付制度
が適用されないことを予め知っていたならば,予約制を利用しなかったものと判断
するのが相当である。
  (2) 被告は,原告が本件給付制度を利用して被告の講座を受講したいと伝えた
ならば,Cは,予約制を勧めることはあり得なかったこと,原告が予約制を申し込
んだのは原告の希望による旨主張し,乙2号証のCからの聞き取り書には,Cは,
本件給付制度を利用することを申し出た場合には,必ず本件給付制度を説明すると
述べ,更に,原告が本件講座の受講申込み2日前に受付で本件給付制度を利用でき
る講座の説明を求めたならば,その2日後に来訪した原告を記憶しており,予約制
を勧めることがないこと,原告のように会社勤めをしている者には必ず給付制度の
説明をしていると述べ,また,証人Gは,予約制の場合には,スケジュール管理に
手間取ること,顧客にとって割高になるために,被告従業員が,予約制を顧客に勧
めることは一般的には少ないとし,Cが原告に本件給付制度を利用することを知り
ながら,予約制を勧めることはあり得ないと証言する。しかしながら,上記聞き取
り書は,被告の従業員であるGが聞き取ったものであって,Cの上記記憶が正しい
かが検証されていないこと,相談所の相談員からの問い合わせに対する被告従業員
のHの回答では,本件給付制度を利用することを申し出ない限り,本
件給付制度対象講座の説明は行わないと述べていること(甲9号証),原告が本件
講座の受講の申込みを行った際には,原告は,Cに対し,本件給付制度を利用して
本件講座を受講することを申し出ていないことから,Cが原告が本件給付制度を利
用しないで,本件講座を受講するものと判断して予約制を勧めた可能性も否定でき
ないこと,予約制が定期制に比べ受講料が割高になること(乙2号証),以上の事
実からは,原告が積極的に予約制を選択したとは考えがたく,むしろ前記1の認定
事実からは,Cが本件給付制度を利用しての被告の講座受講の説明の際に,原告
に,本件講座には,定期制と予約制があり,本件給付制度を利用できるのは,定期
制に限られるとの説明を行わなかった結果,原告が本件講座であれば,定期制であ
ろうと予約制であろうと特に問題がないと判断し,原告の意図を十分理解しないC
の勧めにより予約制を申し込んだものであると認められる。したがって,上記各証
拠部分はにわかに信用し難く,被告の上記主張を採用することはできない。
 3 争点2(被告の説明義務の違反の有無)について
  (1) 平成13年4月1日施行の消費者契約法1条は,「消費者と事業者との間
の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,事業者の一定の行為により消費
者が誤認し,又は困惑した場合について契約の申込み又はその承認の意思表示を取
り消すことができること・・により,消費者の利益の擁護を図り,もって国民生活
の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と,同法3条
は「事業者は,・・・消費者契約の締結について勧誘をするに際しては,消費者の
理解を深めるために,消費者の権利義務その他の消費契約の内容についての必要な
情報を提供するよう努めなければならない。」と各規定し,更に同法4条2項は,
「消費者は,事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し,当該消費者に
対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益に
なる旨を告げ,かつ,当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実を故意
に告げなかったことにより,当該事実が存在しないとの誤認をし,それによって当
該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは,これを取り消すこと
ができる。」と規定している。このような消費者契約法の趣旨(事業
者の情報の質及び量の絶対的な多さを考慮し,これに対する消費者の利益の擁護に
よる健全な取引の発展を目的とする趣旨)からは,事業者が,一般消費者と契約を
締結する際には,契約交渉段階において,相手方が意思決定をするにつき重要な意
義をもつ事実について,事業者として取引上の信義則により適切な告知・説明義務
を負い,故意又は過失により,これに反するような不適切な告知・説明を行い,相
手方を契約関係に入らしめ,その結果,相手方に損害を被らせた場合には,その損
害を賠償すべき義務があると解する。
  (2) これを本件について見るに,被告は,資本金3800万円の企業でAの名
称で全国305校もの多数のパソコン教室を有し,厚生労働省から指定を受けて,
教育訓練講座を運営しているが,新聞,雑誌及びインターネット等を通じてAの講
座を宣伝し,それら宣伝において,本件給付制度が利用できることを述べている
(甲3ないし5号証,証人Gの証言)。また,被告は,本件給付制度を利用すると
最大30万円の給付金が支給されるために,受講者の経済的な負担が少なくなり,
受講者の確保を容易にすることから,本件給付制度が利用できる旨宣伝に記載して
いるとしている(証人Gの証言)。
    このように,被告は本件給付制度を熟知していること,被告においては,
本件給付制度を利用して講座を受講することができることを宣伝して集客を行って
いることから,少なくとも本件給付制度の利用を前提として受講内容の問い合わせ
を行った者に対しては,本件給付制度の説明及びその対象講座について具体的かつ
正確に説明すべき義務があると判断するが相当である。
  (3) Cは,原告から平成13年2月26日に本件給付制度を利用して受講でき
る講座についての説明を求めたのであるから(前記1の認定事実),講座の内容だ
けでなく,予約制では本件給付制度を利用することができない旨の正確な説明をす
べき義務があり,この点の説明を怠ったCの行為には過失がある。
    よって,被告は,原告が予約制でも本件給付制度を利用できるものと思っ
て予約制の受講を申し込んだことによる損害について賠償すべき義務がある。
  (4) なお,被告は,本件給付制度を利用する者は,自らが,その制度の内容を
理解した上で,対象の教育訓練の内容を理解すべきであること,本件給付制度の内
容や利用条件は厚生労働省等に問い合わせさえすれば,知り得るものであるから,
予約制が本件給付制度の対象にならないことも容易に知り得たはずであるとして,
被告には,本件給付制度の説明義務はないと主張するが,被告は,本件給付制度の
内容を熟知しており,それを利用して営業を行っていること,被告の主張によれ
ば,被告においてはマニュアルを作成して本件給付制度利用に関する説明を行って
いるというのであるから,被告自身も説明を行うべきことを認識しているのであ
り,さらに,本件では,原告が具体的に本件給付制度対象講座の説明を求めていた
という事情があったことから,被告が本件給付制度の対象講座について具体的かつ
正確な説明を行わなくてもいいとは到底いえない。
  (5) 次に,被告は,原告が予約制では本件給付制度を利用することができない
ことを知り得たと主張し,Gは,本件給付制度を利用する際には,対象講座が決ま
っており,講座修了証明書を発行するため,出席率等の基準があることから,被告
においては,受講受付の段階において,通常の入会の際にはない説明をし,本件給
付制度の利用の確認をするための覚書を受講生に書いてもらうこと,講座申込書も
他の受講生と区別するために異なる申込書を使用していることなど手続上明確に区
別していると証言する。しかしながら,本件給付制度の対象講座を受講している者
の受講申込用紙は,黄色の用紙で,それ以外の受講申込み用紙は白色の用紙と区別
され,カリキュラム表も色分けされ,同書面には本件給付制度対象コースであるこ
との記載がなされ,講座を受講する際には,各人の使用しているパソコンの横にカ
リキュラム表を置いていた(乙3ないし5)ものの,それら用紙は注意深く確認し
ない限り両者の区別ができず,まして原告の場合には,予約制を利用していること
から,常に本件給付制度の利用を前提として受講している者と同席して,それらカ
リキュラム表を見ていたとまで断定するに足りる証拠もない。
    したがって,被告の上記証拠は,前記(2)の判断を覆すものではない。
4 争点3(損害)について
  (1) 前記1の認定事実によれば,原告は,本件講座を受講し,平成13年3月
2日までに受講料として41万9240円を支払った。なお,原告は,本件給付制
度が利用できないのであれば,本件講座を受講することがなかったと述べる(原告
本人尋問の結果)。
  しかしながら,原告は,本件給付制度を利用することができれば,本件講
座を受講する希望を有していたのであり,本件講座の受講態様によっては,本件給
付制度を利用することが可能であったこと,本件講座を受講したことにより,本件
講座の内容を習得することができ,財団法人全日本情報学習振興協会主催のパソコ
ン技能検定Ⅱ種等の各種資格を習得できた(原告本人尋問の結果及び弁論の全趣
旨)ことから,その限りでは,原告に得るべきものがあったといえるのであるか
ら,本件給付制度を利用することができたであろう限りにおいて損害とするのが相
当である。よって,原告の損害は30万円であると判断する。
  (2) なお,原告は,13年2月28日B校でCに本件講座の受講を申し込む際
に,本件給付制度を利用して受講することを申し出ていない。したがって,少なく
とも原告が,本件講座の受講申込みの際に,本件給付制度を利用して本件講座を申
込むものであることを説明していたならば,Cが予約制を勧めることがなかった
(乙2号証,証人Gの証言)ことから,その点において消費者契約法3条2項の趣
旨及び公平の見地から過失相殺をするのが相当であり,本件説明義務の内容,損害
の回避可能性などからは原告の上記(1)の損害額から2割を控除するのが相当であ
る。従って,原告の損害は,24万円となる。
 (3) 原告が本件訴えを提起するにつき,同代理人として原告代理人弁護士に依
頼し,着手金として10万円及び実費として約1万円を支払った(原告本人尋問の
結果)。本件事案の内容及び損害額からは,弁護士費用としては損害額の約1割3
万円が相当である。
  (4) 以上,被告は,原告に対し,原告の損害合計27万円及びうち金24万円
に対する受講料を支払った日の翌日である平成13年3月3日から,うち3万円に
対する本訴状送達の日の翌日である平成14年10月31日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
 5 結論
   よって,原告の本件請求は,主文1項の限りで理由があるからこれを認容
し,その余を棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64
条本文を適用して主文のとおり判決する。
          大津地方裁判所民事部
                裁 判 官  山 口 芳 子 
 

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