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裁判例


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       主   文
1 被告が平成11年8月27日付けでした亡Aの相続税に係る更正の請求に対す
る更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
本件は、平成9年9月9日に死亡したA(以下「A」という。)に係る相続税に関
し、平成11年7月9日、原告及びB(以下「B」という。)が、BがAから送金
を受けた金員を相続税の課税価格に算入していたのは誤りであった旨更正の請求を
したところ、被告(注 立川税務署長)は、平成11年8月27日、更正をすべき
理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をしたため、原告がそ
の取消しを求めるものである。
1 相続税法の定め
(1) 相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額
 相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に
係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者に
ついては、当該贈与により取得した財産(21条の2第1項から第3項まで(中
略)の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入
されるもの(中略)に限る。(以下略))の価額を相続税の課税価格に加算した価
額を相続税の課税価格とみなし、15条から18条までの規定を適用して算出した
金額(中略)をもって、その納付すべき相続税額とする(19条)。
(2) 贈与税の課税価格
 贈与により財産を取得した者がその年中における贈与による財産の取得について
1条の2第2号の規定に該当する者である場合においては、その者については、そ
の年中において贈与により取得した財産でこの法律の施行地にあるものの価額の合
計額をもって、贈与税の課税価格とする(21条の2第2項)。
(3) 贈与税の納税義務
 贈与により本邦にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時において本邦
に住所を有しないもの(以下「制限納税義務者」という。)は贈与税を納める義務
がある(1条の2第2号)。
(4) 贈与税の課税財産の範囲
 1条の2第2号の規定に該当する者については、その者が贈与により取得した財
産でこの法律の施行地にあるものに対し、贈与税を課する(2条の2第2項)。
(5) 財産の所在
 動産の所在地は、その所在により決める(10条1項1号)。
2 前提となる事実
(1) 原告及びBは、Aの子である。Bは、昭和61年3月19日、アメリカ合
衆国籍を取得し、平成3年5月1日以降は同国ジョージア州に住所を定めている
(甲2、弁論の全趣旨)。
(2) Aは、平成9年2月4日、北海道拓殖銀行国分寺支店から日本円に換算し
て1000万円を、同月7日、第一勧業銀行国分寺支店から1017万5275円
をアメリカ合衆国のWachovia Bank Of Georgia Eas
t Marietta BranchのB名義の預金口座に外国為替により電信送
金した(以下4日付けの送金を「本件送金1」、7日付けの送金を「本件送金
2」、両者を併せて「本件各送金」という。)。AとBとの間において、本件各送
金に係る贈与契約に関する書面は残されていない(甲3の6、8、9、10、弁論
の全趣旨)。
(3) Aは、平成9年9月9日、死亡した。同人の相続人は、原告及びBであっ
た(以下「原告ら」という。)(弁論の全趣旨)。
(4) 原告らは、平成10年7月7日、相続税の申告書を提出した(以下「本件
申告」という。)。同人らは、本件申告において、本件各送金に係る金員を被相続
人からの贈与による取得であるとして、相続税法19条に基づき、相続税の課税価
格に加算していた(甲2、3の4)。
(5) 原告らは、平成11年7月9日、被告に対し、本件各送金に係る金員を相
続税の課税価格に加算したことは誤りであるとして、更正の請求をした。被告は、
平成11年8月27日、更正をすべき理由がない旨通知する本件通知処分をした
(甲2、3の1ないし10)。
(6) 原告らは、平成11年10月27日、被告に対し、異議申立てをしたが、
被告は、平成12年3月2日、原告に対しては異議申立てを棄却、Bに対しては異
議申立てを却下する旨の決定をした(甲2)。
(7) 原告は、平成12年3月31日、東京国税不服審判所長に対し、審査請求
をした。東京国税不服審判所長は、平成13年5月29日、審査請求を棄却する旨
の裁決をした(甲2)。
3 争点
 本件の争点は、本件各送金に係る金員が相続税の課税価格に加算されるか否かで
ある。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 被告の主張
 本件送金2がされる以前である平成9年2月5日付けのAの変更遺言の中に、B
に対し相当額の生前贈与をした旨の記載があり、これが本件各送金を指すというべ
きであるから、本件各送金に係る贈与契約は、現金の贈与契約であり、変更遺言が
された平成9年2月5日以前に成立していたものであって、Aは、当該贈与契約に
基づいて同人が本邦において所持していた邦貨を外貨と交換し、北海道拓殖銀行又
は第一勧業銀行から外国為替による電信送金によってBに送金したものである。
 相続税法10条4項は、財産の所在の判定は、贈与により取得した時の現況によ
るとしているが、「贈与に因り取得した時」について定める法の規定はないため、
民法の贈与契約の規定により、書面によらないものであっても贈与契約成立の時と
解すべきである(民法549条)。したがって、本件における贈与契約成立の時
は、平成9年2月5日以前と思料され、その当時における本件各送金に係る金員の
現況は、本邦に所在する現金であって、電信送金自体は贈与契約の履行行為にすぎ
ないから、Bが贈与により取得した財産は、電信送金契約の法的性質のいかんにか
かわらず、相続税法の施行地である本邦にある財産として、相続税の課税価格に加
算すべきである。
(2) 原告の主張
 本件各送金は、外国為替による電信送金の方法によるものであるところ、電信送
金においては、送金依頼人と電信送金契約を締結した送金取組銀行(仕向銀行)
は、支払銀行に対して支払指図を行うが、支払銀行は、これに応じて直ちに受取人
に支払をなすものではなく、当該指図が真正であること、支払資金の決済が確実で
あること等を確認し、受取人に直接支払う場合又は支払銀行における受取人の預金
口座に入金する場合のいずれにおいても、支払の停止などがないか、支払を請求し
た受取人は正当な受取人かなどを確認した後に支払に応じ又は口座への入金手続を
行う。したがって、受取人が電信送金に係る金員を取得するのは、支払銀行におけ
る受取人の預金口座に入金する場合は、当該入金手続の完了時であり、そうでない
場合は、受取人が支払銀行に支払を請求し、実際に支払がされたときである。
 そして、電信送金は、送金された金員が受取人に支払われ、又は支払銀行の受取
人名義の預金口座に入金されるまでは、送金人は仕向銀行を通じて支払銀行に対し
支払を停止する旨指示できるとされていることからすると、贈与の履行が電信送金
によりされた場合の履行の終了は、支払銀行から受取人に金員が支払われたとき又
は支払銀行が受取人の預金口座に金員を入金したときである。
 以上からすると、Bが本件各送金により取得した財産は、支払銀行に対する預金
払戻請求権であり、本邦に所在する財産ではないから、相続税の課税価格に加算さ
れるべきではない。
 この点につき、被告は、Bは贈与契約成立時に本邦に所在する現金を取得した旨
主張する。しかし、AとBとの間に、本件各送金とは別に贈与契約が締結されたこ
とはなく、本件における贈与はいわゆる現実贈与であり、Aがその意思により、一
方的にBに送金したものである。したがって、本件各送金が現実にされる前に本邦
に所在するA所有の現金を取得した旨解する余地はない。仮に、本件各送金前にA
とBとの間で贈与契約が存在したとしても、金銭の所有権は原則として占有の移転
に従って移転するものであり、現実の占有を有しないBが本邦に所在する現金を取
得することはできないし、Aも、北海道拓殖銀行又は第一勧業銀行に対して預金払
戻請求権を有していたにすぎず、当該預金に相当する現金を所有していたわけでは
ない。したがって、被告の主張は失当である。
第3 争点に対する判断
1 前記第2・2・(1)のとおり、本件各送金がされた平成9年2月の時点にお
いて、Bは相続税法の施行地である本邦に住所を有していなかったから、BがAか
らの贈与によって得た財産が、取得した時点において、本邦に所在するものであっ
た場合に限り、同人は相続税法1条の2の定める納税義務を負うにすぎない。
2 この点につき、被告は、BがAからの贈与により取得した財産は、Aが本邦で
所有していた現金である旨主張する。しかるに、本件においては、受贈者であるB
は本邦に居住していなかったため、Aが本邦で所有していた現金がBに直接交付さ
れることはなく、同人に対して外国為替による海外送金がされたのであるから、A
からBに対し本邦に所在する現金が贈与されたといえるのは、本件各送金以前に、
AとBとの間で、本件各送金の原資に当たる邦貨に関する贈与契約が成立してお
り、その履行のために本件各送金手続が執られた場合に限られるというほかない
(このような場合以外には、送金がされても、外国為替による海外送金の性質上、
Bは仕向銀行に対する支払請求権を有するにすぎず、送金の対象となっている金員
について、直接所有権を取得するものではない。)。そこで、以下、贈与契約の成
立時期について検討する。
3 前記第2・2・(2)のとおり、本件各送金以前にAとBとの間の贈与契約に
関する書面は残されていないから、本件各送金以前に、AとBとの間で贈与契約が
成立していたとすれば、それは口頭によるものであったことになるが、被告は、A
とBとの間の贈与契約は、平成9年2月5日以前に成立していたものと思料される
旨主張するのみであって、それを裏付ける立証は何らできていない(なお、遺言
(一部取消・変更)公正証書(乙4)中には、その作成日である平成9年2月5日
以前にAがBに対し相当額の生前贈与をした旨の記載があるが、本件各送金が同証
書の作成前にされていること、及び同証書がAの一方的意思によって作成されたも
のであることに照らすと、上記記載から贈与契約自体の存在を推認することはでき
ない。また、本件各送金は、その金額が高額であることからして、仮にこれが親族
以外の者との間でされたものならば、事前に黙示的にせよ何らかの合意があったも
のと推認できないでもないが、本件のように親子間における財産分けのためにされ
たものであり、しかも子が外国に定住して外国籍まで取得している場合には、何ら
の話合いもなく親が子に対して一方的に送金することも不自然とはいい難く、上記
のような推認が働く余地はないし、送金が2日に分けられているものの、互いに近
接していることからして、2度目の送金のみに事前の合意を推認する余地もな
い。)。
 そうすると、前述のとおり、本件において、本件各送金に係る金員が相続税の課
税価格に加算されるためには、AとBとの間で本件各送金に係る贈与契約が本件各
送金以前に成立していたことが必要であり、本件各送金以前の贈与契約の成立は、
相続税の課税根拠事実に当たるというべきである。したがって、この点に関する主
張立証責任は被告が負担すると解すべきところ、前述のとおり、被告は自己の主張
を裏付ける立証ができていないのであるから、本件各送金の手段である外国為替に
よる電信送金の法律構成いかんにかかわらず、BがAから本件各送金により本邦に
所在する財産を取得したものと認めることはできないというべきである。
4 以上によれば、BがAから贈与を受けた財産は、取得した時点において本邦に
所在する財産であったとは認められず、相続税法19条により相続税の課税価格に
加算されるべきものではないことになり、原告及びBがした更正の請求には理由が
あるというべきであるから、これを更正すべき理由がないとした本件通知処分は違
法なものであって取り消されるべきである。
5 なお、以上のように解すると、本件とは異なり、日本国籍を有する者が、一時
的に外国に住所を移し、その間に被相続人たり得る者から生前贈与を受けることに
より、将来納付すべき相続税ばかりか当該贈与についての贈与税をも回避する行為
が頻発する事態が考えられないではない。しかし、そのような事案においては、本
件と異なり、住居移転及び送金の経緯などから事前の贈与契約の存在を推認し得る
場合が多いと思われる上、租税特別措置法等の一部を改正する法律(平成12年法
律13号)により改正された租税特別措置法69条2項において、「贈与(以下
略)により、相続税法の施行地外にある財産を取得した個人で当該財産を取得した
時において同法の施行地に住所を有しない者のうち日本国籍を有する者(その者又
は当該贈与に係る贈与者が当該贈与前5年以内において同法の施行地に住所を有し
たことがある場合に限る。)は、贈与税を納める義務があるものとする。」と規定
され、同条3項により、相続税法21条の2第2項の読替規定が設けられたことに
より、少なくとも、日本国籍を有する者については、原則として、本邦に住所を有
する者と同様に、その取得した財産のすべてを贈与税及び相続税の課税対象とする
ことができるようになった。このことは、従前の相続税法に立法上の不備があった
ことを意味すると同時に、少なくとも、日本国籍を有する者については、租税回避
行為を防止することができるようになったものと評価することができる。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につい
て行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 廣澤諭
裁判官 日暮直子

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