弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。
「1 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し金一二六万一九七
八円及びうち金二一万七八三〇円に対する昭和四八年一月二二日から、うち金四〇
万九一八一円に対する昭和四九年一月二二日から、うち金三九七八円に対する昭和
四九年二月二二日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求(当審における新たな請求を含む。)
を棄却する。」
三 訴訟の総費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人(附帯被控
訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
四 この判決二項括弧内1は仮に執行することができる。
       事   実
第一 申立
一 控訴事件
1 控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という。)
(一)原判決中控訴人敗訴部分を取消す。
(二)被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という。)の請求を棄却す
る。
(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文一項同旨。
二 附帯控訴事件
1 被控訴人
(一)原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す。
(二)控訴人は被控訴人に対し原審認容額のほか次の金員を支払え。
(1)金二一万七八三〇円に対する昭和四七年一二月二二日から昭和四九年七月一
五日まで年五分の割合による金員
(2)金四〇万九一八一円に対する昭和四八年一二月二二日から昭和四九年七月一
五日まで年五分の割合による金員
(3)三九七八円に対する昭和四九年一月二二日から昭和四九年七月一五日までの
年五分の割合による金員
(4)六六三万〇〇三〇円及びうち八八万二二四七円に対する昭和四七年一二月二
二日から、うち一七八万一三〇八円に対する昭和四八年一二月二二日から、うち五
万一四六〇円に対する昭和四九年一月二二日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割
合による金員。
(三)訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
(四)なお、仮執行の宣言を求める。
2 控訴人
本件附帯控訴を棄却する。
被控訴人の当審における新たな請求を棄却する。
第二 主張、証拠
当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事
実摘示と同一であるから、その記載を引用する。
一 被控訴人の主張
1 原判決添付別表(原判決三八枚目)を本判決添付別表のとおり改める。
2 原判決四枚目裏一行目「昭和四六年一〇月一四日」を「昭和四七年六月一日」
と改める。
3 同九枚目表七行目「九五八万一四八四円)を「七三四万七二〇五円」と改め
る。
4 同九枚目裏七行目「土曜日につき一二時間」を「土曜日につき四時間」と、同
八行目「休日につき一五時間三〇分」を「休日につき七時間三〇分」と改める。
5 同一〇枚目表五行目「のとおり」の次に「金四〇〇万一二〇一円」を加え、末
行「四四二万二五九一円」を「三三四万六〇〇四円」と改める。
6 同一〇枚目裏二行目「別表(ハ)欄内のE3欄記載」を「別表(ホ)欄記載」
と改め、九行目「九五八万一四八四円」を「三三四万六〇〇四円」と改める。
7 同一〇枚目裏一〇行目から一二枚目表八行目までを削除する。
8 同一六枚目表一行目から九行目までを削除する。
9 当審において、前記2のように請求期間を訂正し、昭和四六年一〇月から昭和
四七年五月までの分は請求しないこととし、その分請求の趣旨を減縮する。
 また、当審において、請求の趣旨を追加し、原審認容額のほか、前記附帯控訴の
趣旨のとおり請求をするものであるが、新請求のうち、附帯控訴の趣旨(二)
(1)(2)(3)は、原審認容額より附加金を除いた分の遅延損害金の始期を遡
らせて請求するものであり、同(二)(4)の六六三万〇〇三〇円中の一二〇万円
は、弁護士費用を請求するものである。
10 第一、第三給水場においては深夜も含めて一時間ごとに各種計器類による測
定(混和池、配水池の各水位、水圧の測定)、点検(配水流量、配水ポンプの作動
状況の点検)と、二、三時間おきの井戸の点検、運転日誌への記録が必要である。
運転時間の記録は現に保管されている。
11「労働時間」とは「労働している時間」ではなく、「労働日における労務提供
時間」「それに対して賃金を支払うべき時間」をいう。したがつて「手待時間」も
含まれる。判断の基準は「労働力を使用者の指揮下においたか否か」である。
控訴人の断続的労働である旨の主張は時機に後れた攻撃防禦方法であり、この主張
に対しては異議がある。
また、控訴人は労働基準法四一条三号所定の行政官庁の許可を受けていない。
12 弁護士費用
 本件時間外労働割増賃金の未払は違法性が高く、控訴人には損害発生につき故意
又は少なくとも過失があり、かつ、控訴人は不当に抗争しているものである。右の
事情に加えて本件事件が事実上及び法律上困難な問題を含む事案であり、訴訟を追
行するためには法律専門家の助力が不可欠であることなど諸般の事情を考慮すれ
ば、相当額の弁護士費用は本件債務不履行と相当因果関係あるものとして控訴人に
おいてこれを支払う義務がある。そして本件における相当額の弁護士費用は、日本
弁護士連合会報酬等基準に基づく標準額の約二倍である一二〇万円が相当である。
13 よつて、被控訴人は控訴人に対して労働基準法三七条に基づく超過労働及び
深夜労働割増賃金及び同法一一四条に基づく附加金の合計六六九万二〇〇八円に弁
護士費用金一二〇万円を加えた総計七八九万二〇〇八円から原審認容額一二六万一
九七八円を除いた六六三万〇〇三〇円並びに原審認容額一二六万一九七八円のうち
二一万七八三〇円に対する昭和四七年一二月二二日から昭和四九年七月一五日ま
で、四〇万九一八一円に対する昭和四八年一二月二二日から昭和四九年七月一五日
まで、三九七八円に対する昭和四九年一月二二日から昭和四九年七月一五日までそ
れぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金及び右六六三万〇〇三〇円のうち昭
和四七年分八八万二二四七円に対する最終弁済期の翌日である昭和四七年一二月二
二日から、うち昭和四八年分一七八万一三〇八円に対する最終弁済期の翌日である
昭和四八年一二月二二日から、うち昭和四九年分五万一四六〇円に対する最終弁済
期の翌日である昭和四九年一月二二日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分
の割合による遅延損害金の支払を求める。
14 後記控訴人の主張、抗弁はすべて争う。当初控訴人主張の体制では適法な交
替制勤務実施は不可能であつた。
二 控訴人の主張
1 同一三枚目裏末行から同一五枚目裏末行までを削除する。
2 第三給水場の規模及び機能は次のとおりであつて被控訴人主張のような二四時
間勤務の必要性は全くない。
第三給水場の敷地は縦約二〇・三メートル、横約三二・六メートルのほぼ長方形の
約六七五平方メートルの土地で、周囲は高さ約一・三メートルの金網で囲まれてい
る。その主要な設備は次のとおりである。
配水池 一池(容量八〇〇トン)
混和池 一池
配水ポンプ 四台(うち一台は予備)
濾水器 一基
深井戸 三本(うち一本のみが第三給水場敷地内にある)
配水能力 一日約四、〇〇〇トン
配水量 一日約三、〇〇〇トン
給水世帯 約二、〇〇〇戸
 すなわち、深井戸水源三か所(うち二か所は給水場外にある。)から揚水ポンプ
によつて自動的に汲み上げられた原水を導水管によつて混和池に入れ、塩素処理に
よつて濾水器で鉄、マンガン等を除去した後、配水池に貯水しておき、需要量に応
じて配水ポンプで各家庭へ送水するものである。揚水ポンプ及び濾水器はいずれも
自動運転であるが、住民の水使用量は時間帯により変化するので、需要量に応じて
配水ポンプの押ボタンを操作して運転、停止をする。その回数は日によつて多少の
違いはあるが、おおむね五回ないし六回程度の運転、停止をして三台のポンプによ
り送水量を調整する。
 また濾水器は一日一回逆洗滌作業を行つて機械に付着した鉄、マンガン等を除去
する。
 そして被控訴人の一日の勤務内容は、おおむね次のとおりであつた。
(一)季節によつて多少異なるが、午前六時三〇分頃、午前九時から一〇時頃の
間、午後二時頃、午後四時から五時頃の間、午後九時から一〇時頃の間に各一回水
の使用量に応じて配水ポンプの押ボタンを操作して運転及び停止を行う。
(二)右のほか、午前八時三〇分から午後五時までの間の適当な時間において、一
日一回次の作業を行う。
残留塩素測定(塩素処理後の残留塩素分を調べる)
各機械器具の点検
配水量等の記録
濾水器の逆洗滌作業
(三)月に一、二回井戸の水位測定、点検を行う。
(四)週に一回自家発電機の運転を行う(停電時に使用する自家発電機の点検のた
め)
(五)週に一、二回程度塩素ボンベの取替を行う。
(六)随時構内の巡視、清掃を行う。
 自動化された給水装置は、ほとんど故障することはなく、ボタンを押すだけで水
量が規制され、機械が作動するのである。したがつて、午後九時頃から翌朝六時頃
まで就寝は可能である。
 一時間ごとの使用水量等の記録は交替勤務が確立した昭和四九年一月八日以降の
ことである。
3 昭和三九年当時の町長aが被控訴人に対して口頭で申渡した勤務の内容は、正
規の勤務時間である午前八時三〇分から午後五時までの間を除く時間について労働
基準法四一条三号所定の断続的労働に類する勤務を命じたものであつて、時間外勤
務を命じたものではない。
 時間外勤務とは上司の職務命令によつて行われた勤務のみをいい、時間を特定す
べきものである。
 断続的労働は時間外勤務とは異なるものであるから、宿日直手当支給の対象とは
なるが、時間外勤務手当は支給されるべくもない。たまたま断続的労働の一部とし
てなされた勤務が深夜に及んでも同様である。
 控訴人は、被控訴人の右労働に対して清瀬市職員の給与に関する条例一四条の二
に従い、他の職員の宿日直に対するのと同様(一)土曜日正午から午後五時までの
勤務に対して日直手当として日額五〇〇円、(二)日曜、休日の勤務に対して日直
手当として日額一、〇〇〇円、(三)泊込中の勤務に対する住込手当として月額
二、〇〇〇円を支払つたものである。
 もつとも、断続的労働について行政官庁の許可は受けていないが、本件の場合勤
務時間が定められており、行政官庁の許可は要しない。
 本件の場合、夜間は拘束時間であるが、労働時間ではない。
4 弁護士費用の主張は争う。弁護士費用の請求は、本件においては、債務者の予
見しうる損害ではない。
5 抗弁
 清瀬市には四か所の給水場があり、一か所の無人給水場を除き、ほぼ同様な勤務
に服していた。
 そして、昭和四七年八月八日応援職員一名を加え、第一、第四給水場で三名の交
替制勤務を実施、昭和四八年四月更に三名の職員を採用し六名で交替制勤務を実施
した。
 その際被控訴人にも交替制勤務への参加を申入れたが、被控訴人は機械室に居住
部分が接着しており、交替制勤務になると私生活が妨げられるとして参加を断つた
ものであり、昭和四九年一月七日に至つて漸く交替制勤務に従つたものである。
 すなわち、被控訴人は控訴人の施策に抵抗して従わず、自己の都合によつて住込
勤務を続けたもので、信義則の法理に照らして、本件請求のうち右期間にかかる被
控訴人の請求は失当である。
三 証拠(省略)
       理   由
一 被控訴人の超過労働及び深夜労働割増賃金請求についての当裁判所の判断は、
次のとおり訂正、削除するほかは、原判決の理由一(原判決一八枚目表三行目から
同三四枚目裏一行目まで)と同一であるから、その記載を引用する。
1 原判決一八枚目裏一行目「証人b、」を「原審及び当審証人b(当審第一
回)、」と改め、一行目から二行目にかけての「原告本人尋問の結果」を「原審及
び当審における被控訴人本人尋問の結果」(当審第一回)と改める。
2 同二〇枚目表七行目「証人b(但し」を「原審及び当審証人b(当審第一回、
但し」と改め、九行目「原告本人尋問の結果」を「原審及び当審における被控訴人
本人尋問の結果(当審第一回)」と改める。
3 同二二枚目表九行目「b」を「原審証人b」と改める。
4 同二二枚目裏三行目から二九枚目裏四行目までを次のとおり改める。
「3 そこで、被控訴人の超過労働及び深夜労働による割増賃金請求権の有無は、
被控訴人が請求期間内の各日において、正規の勤務時間以外、何時間給水機械の操
作、点検等を行い、また待機の態勢をとつていたかによつて決せられるので、次に
被控訴人の請求期間内における具体的な超過労働、深夜労働の事実について判断す
る。
(一)原判決事実摘示被控訴人の請求原因3(一)の事実は当事者間に争いがな
い。
(二)同3(二)(1)ないし(5)の事実のうち、被控訴人が第三給水場におい
て、混和地、配水池の各水位及び配水流量の点検、水圧の測定及び記録、配水ポン
プの作動状況の点検、残留塩素の測定、配水バルブの開閉、塩素流入量の調節、塩
素ポンプの取替、給水場施設の補修及び清掃、住民からの苦情の受付等の労働を行
つたことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、前掲甲第九号証、いず
れも成立に争いのない甲第七号証、第三一ないし第三三号証、乙第八号証の一ない
し二〇、昭和五〇年一一月四日当時の第三給水場の施設を撮影した写真であること
につき争いのない甲第一二号証の一ないし一九、原審における被控訴人本人尋問の
結果により成立を認める甲第九号証、第一一号証、当審証人cの証言によつて成立
を認める乙第九号証の一ないし七、原審及び当審証人b(当審第一回)、同c、同
d、原審証人e、同f、同g、同hの各証言、原審及び当審における被控訴人本人
尋問の結果(当審第一回)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ
る。
(1)第三給水場においては、三か所の井戸(昭和三八年当時は三号井一か所であ
つたが、その後同四〇年頃七号井が、同四四年頃一〇号井がそれぞれ新設され、現
在のように三か所となつた。なお、右三か所のうち一か所のみが本件給水場内にあ
り、他の二か所は本件給水場外にある。)から水中ポンプによつて汲み上げた地下
水を濾過用受水槽(この槽内の水位が混和池水位であり、右受水槽及び低圧受電室
に水位を示すメーターがある。)及び東洋濾水器を通して塩素処理によつて鉄、マ
ンガン及びその他の水の濁りを消すとともに滅菌したうえ(但し、濾過用受水槽と
東洋濾水器は昭和四七年に設けられたものであり、それ以前は薬剤を注入して水の
濁りを消していた。)、受水槽(この槽内の水位が配水池水位であり、右受水槽及
び低圧受電室に水位を示すメーターがある。)に貯水し、残留塩素を測定して、配
水ポンプ(四台設置されているが、そのうち一台は故障時に備えた予備である。ま
た三台がすべて常時作動しているわけではなく、配水流量に応じて作動台数を調節
する。夜間は、配水流量が少ないので、一台の作動ですむ場合が多い。)によつて
配水する仕組みになつており(右配水流量を測定、記録するのがベンチユリーメー
ターである。)、そのほか高圧受電室、自家発電機などが設置されていた。
(2)配水流量は、季節及び時間によつて異なるが、常時配水しなければならない
ので、前記各機械を二四時間連続して作動させ、水の需要量に応じて配水流量を調
節するため、おおむね一日五回ないし六回程度右三台の配水ポンプの押ボタンを押
し運転、停止の操作をして送水量を調節する必要があつた。
 また、受水槽の水位も配水流量に応じて刻々と変化するので、右水位を一定に保
つためには、水位の点検、井戸の水中ポンプの作動点検が必要であつた。
(3)被控訴人は、前示(1)(2)の作業内容に応じて、混和池・配水池の各水
位の点検、配水流量の点検、水圧の測定、記録、水中ポンプ及び配水ポンプの作動
状況の確認、塩素流入量の調節、残留塩素の測定、配水バルブの開閉の各労働を行
い、右各労働は昼間のみならず夜間にもわたつていたが、その回数、頻度は、配水
流量及びその変化が多い昼間は操作、点検の回数も多く、配水流量及びその変化が
少ない夜間は操作、点検の回数も少なかつた。記録についても夜間においては現在
におけるような一時間ごとの記録は要求されていなかつた。また、被控訴人は機械
の故障や停電などの事故に備えて、事務室又は管理室兼寝室において、機械の作動
音に注意しながら待機していた。
(4)被控訴人は、右の各労働のほか、機械その他の施設の修理、塩素ボンベの取
替、水が濁つたり水道管が破裂したなどの住民からの苦情の受付及びそれに対する
処置(簡単な応急修理ですむ場合には、出向いて被控訴人みずから修理することも
あつた。)なども行つた。また右各労働は、昼間のみならずいわゆる夜間に及ぶこ
とも時々あつた。なお、昭和四二年頃までは、第三給水場の近くにある都営住宅な
どの住民のため電話の取次をしていたが、同年に電話が自動制になつたときから、
右取次の仕事はなくなつた。
(5)被控訴人が住民からの前記苦情処理のために外出したり、夜間疲労のため眠
り込んでしまつた時には、被控訴人の妻が住民からの苦情を受付けたり、機械の操
作、点検などを被控訴人に代つて行つた。
(6)しかし右労働のうち最も主要なものは午前六時から六時三〇分頃を初回と
し、午後九時から一〇時頃を最終回とする配水ポンプの押ボタンによる操作であつ
て、これは毎日定時に五、六回行わなければならないが、その他の労働はおおむね
昼間の勤務時間(午前八時三〇分から午後五時まで)に行えば足りるものであつ
た。もつとも、苦情処理及びそれに対する処置の必要性は時間を構わずに起こる事
象であるが、これは時々ある程度で毎日起こる事象ではなかつた。
(7)被控訴人の第三給水場における前示労働は、平日も土曜日も休日も全く同じ
であり、従つて労働に従事した時間数は、平日、土曜日、休日で差違はなかつた。
その点から土曜日、休日においても平日と同程度の昼休みの休憩(四五分間)がと
られていたものである。
 成立に争いのない甲第三七号証の一ないし四三、乙第六号証の一ないし一六、第
七号証の一ないし一九、第一〇号証の一ないし一四、第一二号証の一、二並びに原
審及び当審証人dの各証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果(当審
第一回)中右認定に反する部分はにわかに採用できず、他に右認定を覆すに足りる
証拠はなく、請求原因3(二)(1)ないし(5)及び当審における被控訴人の主
張10のうち右認定事実を除くその余の事実を認めるに足りる証拠はない。
(8)以上の事実によれば、第三給水場においては午前六時前後から午後一〇時前
後までの労働とそれ以外の時間の労働とはその質において差異があるものと認めら
れる。
 したがつて、被控訴人の妻が代つて労働したという時間を含めて被控訴人の労働
時間は、操作の準備及び結果を見届ける時間を加えて午前五時から午後一一時まで
と認めるのが相当であり、その余の時間はいわゆる手待時間ではなく拘束時間と解
すべきものである。
(三)控訴人は本件勤務における労働は断続的労働に類するものであつて労働基準
法三七条にいういわゆる超過勤務ではないと主張する。
 被控訴人は右の主張は時機に後れた攻撃防禦方法であるとして却下を求めている
が、控訴人の右主張によつて本件訴訟の完結が遅延するものとは認められないから
右却下の申立を却下する。
 しかし、被控訴人の本件勤務の内容は水道事業の性格及び右に認定した現実の労
働内容からいつて、その労働の密度において監視又は断続的労働に類するものでは
ないと認めるのが相当である(なお、仮に被控訴人の本件勤務の内容が監視又は断
続的労働に該当するとしても、控訴人が労働基準法四一条三号に規定する行政官庁
の許可を受けていないことについては当事者間に争いがないから、控訴人は被控訴
人に対し同法の規定による超過労働割増賃金を支払う義務がある。)。
(四)そうすると控訴人及びその妻が請求期間内の各日において、超過労働及び深
夜労働に従事した時間数は、以下のとおりとなる。
(1)平日
 午前五時から午前八時三〇分までと午後五時から午後一一時までが超過労働に従
事した時間であり、そのうち午前五時から午前八時三〇分までと午後五時から午後
一〇時までが深夜労働にならない通常の超過労働の時間であり、午後一〇時から午
後一一時までが深夜労働に従事した時間である。
(2)土曜日
 土曜日における正規の勤務時間が三時間三〇分であることは当事者間に争いがな
く、被控訴人はさきに認定したとおり平日と同様に昼に四五分間の休憩をとつてい
たものであるから、土曜日における超過労働時間数は、午前五時から午前八時三〇
分までと午後〇時四五分から午後一一時までが超過労働に従事した時間であり、そ
のうち午前五時から午前八時三〇分までと午後〇時四五分から午後一〇時までが深
夜労働にならない通常の超過労働の時間であり、午後一〇時から午後一一時までが
深夜労働に従事した時間である。
(3)休日
 休日においても被控訴人はさきに認定したとおり昼の四五分間の休憩をとつてい
たものであるから、午前五時から午後一一時までの一八時間から休憩時間四五分を
控除した時間だけ超過労働に従事していたものであり、そのうち午前五時から午後
一〇時までの一七時間から休憩時間四五分を控除した時間が深夜労働にならない通
常の超過労働の時間であり、午後一〇時から午後一一時までが深夜労働に従事した
時間である。
(五)控訴人は昭和四七年八月八日から交替制勤務を実施することとなり、被控訴
人に対してこれに参加するよう被控訴人に申入れたが、被控訴人はこれに応ぜず、
昭和四九年一月七日に至つて漸く交替制勤務に従つたもので、被控訴人は控訴人の
施策に抵抗して従わず、自己の都合によつて住込勤務を続けたもので、信義則の法
理に照らして昭和四七年八月八日から昭和四九年一月七日までの期間にかかる被控
訴人の請求は失当である旨主張する。
 原審及び当審証人b(当審第一、二回)、原審証人c、同hの各証言によれば、
控訴人から被控訴人に対して昭和四七年八月頃交替制勤務を実施するので参加する
ように申入れがあり、その後も数度申入れがあつたことが認められるが、被控訴人
は交替制勤務の前提として従前の手当の問題を解決すること、住居と勤務室が接着
していてプライバシーが侵害されるので住宅の提供を求めるとしてその申入れに応
じなかつたことが認められ、これに反する当審における被控訴人本尋問の結果(第
二回)はにわかに採用することができない。
 しかしながら、当審証人bの証言及び当審における被控訴人本人尋問の結果(第
二回)によれば、当初(昭和四七年八月)の交替制勤務は職員一名を加えただけで
計画されたもので完全な交替制をとるには人員不足であつたのであり、その提案が
本件通達による超過勤務命令の内容を変更したものと解することはできない。控訴
人は被控訴人に対する関係で優越的な地位にあり、適法に職務命令を発する権限を
有していたのであって、これをすることなく引続き被控訴人を従前どおりの勤務に
服せしめた以上、控訴人主張のような信義則違背の理由により、被控訴人の前記請
求権を否定することはできない。」
5 同三三枚目表二行目から三四枚目表八行目までを削除する。
二 被控訴人の附加金請求について
 本件において控訴人は被控訴人に対し金六三万〇九八九円の超過労働及び深夜労
働割増賃金の支払義務を負うものであることは前述のとおりである。そうすると、
特段の事情の認められない本件においては、控訴人に対し、右金額と同額の附加金
を被控訴人に支払うように命ずるべきである。
三 弁護士費用について
 本訴請求は金銭債務の履行を求めるものであり、不法行為による損害賠償を求め
るものではなく、また、本件全証拠によつても控訴人の本件応訴が不法行為に該当
するものは認められないから、被控訴人主張の本件の特殊性を斟酌しても、民法四
一九条に照らし、被控訴人の弁護士費用の請求は肯認することができない。
四 そうすると、被控訴人の本訴請求は、超過労働及び深夜労働割増賃金並びに附
加金の合計金一二六万一九七八円(別表(リ)欄末尾合計額欄記載)及び右金員の
うち超過労働及び深夜労働割増賃金中金二一万七八三〇円に対する昭和四七年分の
最終弁済期の翌日である昭和四八年一月二二日から、金四〇万九一八一円に対する
昭和四八年分の最終弁済期の翌日である昭和四九年一月二二日から、金三九七八円
に対する弁済期の翌日である昭和四九年二月二二日から、それぞれ支払ずみまで民
法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認
容し、その余の請求(当審における新たな請求を含む。)は失当として棄却すべ
く、したがつて、本件控訴は理由がなく、本件附帯控訴は一部理由がある。
 よつて本件控訴を棄却し、附帯控訴に基づき原判決を主文二項括弧内のとおり変
更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、仮執行の宣言に
つき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 川添萬夫 鎌田泰輝 相良甲子彦)

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