弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
芦屋税務署長が平成17年6月29日付けでした原告の平成14年分所得税
の更正処分(以下「本件更正処分」という)のうち,所得税の確定申告書記。
載の総所得金額及び納付すべき金額(総所得金額1億2621万8000円,
還付金の額1623万4745円)を超える部分及び過少申告加算税の賦課決
定処分(以下「本件賦課決定処分」という)を取り消す。。
第2事案の概要
本件は,処分行政庁が,原告が株式を保有し,シンガポール共和国(以下
「シンガポール」という)において設立された外国法人が,租税特別措置法。
40条の4第1項の特定外国子会社等に該当し,同条3項の適用除外規定の適
用はないとして,同条1項に基づき,原告の平成14年分の所得について,当
該外国法人の課税対象留保金額を,原告の雑所得の金額の計算上,総収入金額
の額に算入して,原告に対し本件更正処分及び本件賦課決定処分(以下「本件
。。各処分」という)をしたことから,原告が,その取消しを求めた事案である
1法令の定め
(1)居住者の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例
ア居住者に係る特定外国子会社等の留保金額の総収入金額算入
租税特別措置法(平成14年法律第79号による改正前のもの。以下
「措置法」という)40条の4第1項は,その有する外国関係会社の直。
接及び間接保有の株式等の当該外国関係会社の発行済株式の総数又は出資
金額のうちに占める割合が100分の5以上である居住者(1号)等に係
る外国関係会社のうち,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域にお
けるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対し
て課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係
会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という)が,昭和53。
年4月1日以後に開始する各事業年度において,その未処分所得の金額か
ら留保したものとして,政令で定めるところにより,当該未処分所得の金
額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分
配の額に関する調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という)。
を有する場合には,その適用対象留保金額のうちその者の有する当該特定
外国子会社等の直接及び間接保有の株式等に対応するものとして政令で定
めるところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という)に。
相当する金額は,その者の雑所得に係る収入金額とみなして当該各事業年
度終了の日の翌日から2月を経過する日の属する年分のその者の雑所得の
金額の計算上,総収入金額に算入する旨規定している(以下,上記の規。
定に基づく税制を「タックス・ヘイブン対策税制」という)。
イ措置法40条の4第2項は「外国関係会社」とは,外国法人で,その,
発行済株式の総数又は出資金額のうちに居住者及び内国法人が有する直接
及び間接保有の株式等の総数又は合計額の占める割合が100分の50を
超えるものをいう旨(1号「未処分所得の金額」とは,特定外国子会),
社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき,法人税法及び措置法
による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基
準により計算した金額を基礎として政令で定めるところにより当該各事業
年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額
に係る調整を加えた金額をいう旨(2号,それぞれ規定している。)
ウ特定外国子会社等の範囲
租税特別措置法施行令(平成14年政令第271号による改正前のもの。
以下「措置法施行令」という)25条の19第1項は,措置法40条の。
4第1項に規定する政令で定める外国関係会社は,法人の所得に対して課
される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関
係会社(1号)又はその各事業年度の所得に対して課される租税の額が当
該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社(2号)である旨
規定しており,同条2項1号は,同条1項2号の所得の金額は,当該外国
関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき,その本店又
は主たる事務所の所在する国又は地域の外国法人税に関する法令の規定に
より計算した所得の金額に当該所得の金額に係る上記の法令により外国法
人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額を加算するなどした
金額とする旨規定している。
(2)適用除外規定
措置法40条の4第3項は,①特定外国子会社等のうち,株式(出資を含
む)若しくは債券の保有,工業所有権その他の技術に関する権利若しくは。
特別の技術による生産方式及びこれに準ずるもの若しくは著作権の提供又は
船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業とするものを除くものについて
(非持株会社等基準,②その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域)
において,その主たる事業を行うに必要と認められる事務所,店舗,工場そ
の他の固定施設を有すること(実体基準,③その事業の管理,支配及び運)
営を自ら行っていること(管理支配基準,④主たる事業が,卸売業,銀行)
業,信託業,証券業,保険業,水運業又は航空運送業である特定外国子会社
等にあっては,その事業を主として当該特定外国子会社等に係る関連者以外
の者との間で行っていること(非関連者基準,⑤主たる事業が④に掲げた)
事業以外の事業である特定外国子会社等にあっては,その事業を主として本
店又は主たる事務所の所在する国又は地域において行っていること(所在地
国基準)のいずれの要件にも該当する場合には,特定外国子会社等のその該
当する事業年度に係る適用対象留保金額について,措置法40条の4第1項
の規定を適用しない旨規定している(以下,措置法40条の4第3項を。
「適用除外規定」といい,上記の要件を「適用除外要件」という)。
(3)日星租税協定
所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国
政府とシンガポール共和国政府との間の協定(以下「日星租税協定」とい
う)7条1項は「一方の締約国の企業の利得に対しては,その企業が他。,
方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を
行わない限り,当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の
締約国内において事業を行う場合には,その企業の利得のうち当該恒久的施
設に帰せられる部分に対してのみ,当該他方の締約国において租税を課する
ことができる」と規定している。。
2争いのない事実
(1)P1社の設立に至る経緯等
アP2株式会社(以下「P2」という)は,鋼管の販売業を営む内国法。
人であり,原告は,昭和45年3月12日から平成17年7月26日まで
の間,P2の代表取締役の地位にあった者である。
イP2は,昭和54年,アメリカ合衆国アーカンソー州法に準拠し,10
0パーセント出資して鋼管の製造業及び卸売業を営むP3(以下「P3
社」という)を設立した。P3社の発行済株式の総数は,100万株で。
あった。
ウ原告及び原告が代表取締役を務めるP2は,平成8年3月20日,シン
ガポール法に準拠してP1.,.(以下「P1社」という)を設立PteLtd。
し,P1社の発行済株式総数の60パーセントを原告が保有し,40パー
セントをP2が保有した。P1社の設立以来,原告が,同社の最高経営責
任者(CEO)の地位にある。
エP2は,P1社の設立直後である平成8年4月15日及び同年9月5日
の2回にわたり,P1社に対しP2が保有するP3社の発行済株式100
万株すべてを総額23億円で売却した。
オP1社は,上記買受けに係るP3社の株式を担保としてP2の取引金融
機関のシンガポール支店から総額約31億円の融資を受け,そのうち23
億円をP3社の株式の購入代金としてP2に支払った。
カP1社は,上記融資に係る約31億円から,P2にP3社の株式の購入
代金23億円を支払った残額である約8億円のうち,約5億円を原資とし
て,ベトナム社会主義共和国法に準拠し,鋼管の製造を目的とするP4
.,.(以下「P4社」という)を設立し,P4社の発行済株式のうCoLtd。
ち,原告が,その82パーセントを保有し,P5.,.が,18パーCoLtd
セントを保有した。
キP1社は,平成10年3月26日,同年7月6日及び平成11年2月2
3日の3回にわたり,同社が保有するP3社の株式のうち25万株を総額
1300万米ドルでP3(以下「PTheEmployees'StockOwnershipPlan
3社従業員持株会」という)に売却した(乙8の1ないし乙10の。。
2)
クP1社は,平成13年12月18日,同社が保有するP3社の株式75
万株をP6(以下「P6社」という)に1億3050万米ドルで売却し。
た。
(2)原告は,以下のとおり,措置法40条の4第1項及び2項が定める要件
(適用除外要件以外の要件)を満たす。
アP1社は,シンガポール法人であり,原告は,同社の平成13年(20
01年)1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成13
年事業年度」という)の終了の日に我が国の居住者であり,同社の発行。
済株式総数135万株のうち81万株(60パーセント)を保有していた
から,P1社は「外国関係会社(措置法40条の4第2項)に,原告,」
は「その有する外国関係会社の直接及び間接保有の株式等の数の当該外,
国関係会社の発行済株式又は出資の総数又は総額のうちに占める割合が1
00分の5以上である居住者(同条1項1号)にそれぞれ該当する。」
イP1社に対し,シンガポールにおいて平成13年事業年度に課された税
額は0であり,その事業年度の所得に対して課される租税の額が平成13
年事業年度の所得金額の100分の25以下(措置法施行令25条の19
第1項2号)であるから,P1社は「…外国関係会社のうち,本店又は,
主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税
の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著し
」,く低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの,すなわち
「特定外国子会社等(措置法40条の4第1項)に該当する。」
ウP1社の平成13年事業年度における適用対象留保金額は,1億144
1万7183シンガポールドルであり,これに原告が有したP1社の株式
の割合である60パーセントを乗じた課税対象留保金額は,6865万0
309.8シンガポールドル(50億2382万9671円)となる。
(3)本件に関する課税処分等の経緯は,別紙1記載のとおりである。
3本件各処分の適法性に関する被告の主張は,別紙2記載のとおりであり,原
告の雑所得の金額の計算上,総収入金額に課税対象留保金額を算入する部分を
除いて,計算の基礎となる金額及び計算方法に争いはない。
4争点
(1)措置法40条の4の規定が,日星租税協定7条1項に違反するか否か。
(争点1)
(2)P1社が,措置法40条の4第3項の適用除外要件のうち,非持株会社等
基準,実体基準及び管理支配基準をいずれも充足するか否か(適用除外要。
件のうち,非関連者基準及び所在地国基準を充足することは争いがない)。
(争点2)
(3)仮にP1社が適用除外要件を充足しないとしても,P1社がシンガポール
に所在することに経済合理性がある場合には,措置法40条の4第1項が適
用されないと解すべきであるか否か(争点3)。
5争点に関する当事者の主張
(1)争点1(措置法40条の4が日星租税協定7条1項に違反するか否か)。
について
(被告の主張)
ア日星租税協定7条1項は「一方の締約国の企業の利得に対しては,そ,
の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内に
おいて事業を行わない限り,当該一方の締約国においてのみ租税を課する
ことができる。……」と規定しており,同条項は,一方の締約国にある
「企業」に対して相手方締約国が租税を課す場合を規律したものであって,
この場合の課税対象者は相手国企業(本件では,シンガポール法人である
P1社)であり,措置法40条の4の規定における課税対象者は,あくま
で株主である我が国の居住者(本件では,原告)であって,両規定は,課
税対象者を異にしているから,措置法40条の4は,日星租税協定7条1
項に違反しないというべきである。
イまた,OECDモデル租税条約は,租税条約の内容が国によってまちま
ちになるのは好ましくないため,先進国間における二重課税防止のための
条約のひな形としてOECD(経済協力開発機構)が作成したものである
ところ,このモデル条約のコメンタリーは,法的拘束力をもつものではな
いが,OECD加盟国間のみならず,OECD加盟国と非加盟国との条約
交渉においても参考とされているから,日星租税協定についてもこのコメ
ンタリーに基づいて解釈すべきであるところ,モデル条約7条1項のコメ
ンタリーは「一方の国によって自国の居住者に対してこのように課され,
る租税は,他方の締約国の企業の利得を減少させず,それ故,当該利得に
対して課せられたとはいい得ない」ことから「本項(モデル条約7条1,
項)は,一方の締約国の,自国の国内法令の従属外国法人規定(タックス
・ヘイブン対策税制に相当する)に基づく自国の居住者に対する課税権。
を,…制限していない」と説明しており,これによれば,日星租税協定7
条1項によって,措置法40条の4による我が国の居住者に対する課税権
は制限されることにはならず,措置法40条の4は,日星租税協定7条1
項に違反しないというべきである。
ウ原告は,フランス国務院が,フランスの従属外国法人規定が,フランス
・スイス租税条約7条1項(日星租税協定7条1項に相当)に違反すると
の判決をしたことをもって,我が国の措置法40条の4が,日星租税協定
7条1項に違反することの根拠として主張しているが,原告が指摘するフ
ランス国務院判決は,フランス税制の特殊性を前提として理解しなければ
ならないものであり,他の国々が追随することは考えられない判決である
から,本件において参考とすることはできないというべきである。
(原告の主張)
。,ア条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という)によれば
条約は,用語の通常の意味に従って客観的に解釈しなければならないとさ
れているところ,日星租税協定7条1項は「一方の締約国の企業の利,
得」に課税できるとされ,シンガポールの「企業の利得」に対しては,そ
の企業が我が国にある恒久的施設を通じて我が国で事業を行わない限り,
シンガポールのみ課税できるのであって,このことについて,日星租税協
定上明文の例外はなく,条約法条約31条の黙示的例外も認められない。
他方において,措置法40条の4第1項は,株主である我が国の居住者
に係る特定外国子会社等であるシンガポール企業の留保所得を,当該企業
が我が国にある恒久的施設を通じて我が国で事業を行っていない場合にお
いても,当該企業の留保所得が株主である我が国の居住者に帰属するもの
として,当該居住者の所得に合算して課税することを認めるものであると
ころ,このような課税は,日星租税協定7条1項に違反するものである。
イOECDモデル租税条約のコメンタリーは,従属外国法人規定が,モデ
ル条約7条1項(日星租税協定7条1項に相当)に違反しない旨述べてい
るところ,このモデル条約のコメンタリーは,条約法条約によって解釈基
準として認められている「解釈の補足的手段(条約の準備作業及び条約」
の締結の際の事情)には該当しないから,日星租税協定の解釈基準とする
ことは許されない。また,モデル条約7条1項のコメンタリーは,その内
容に合理性が認められないばかりか,そもそも,シンガポールは,OEC
Dの加盟国ですらないのであるから,日星租税協定の解釈基準としてOE
CDモデル租税条約のコメンタリーを参照することは許されない。
ウフランス国務院は,2002年6月28日,フランス・スイス租税条約
7条1項(日星租税協定7条1項に相当)によりスイスに課税権があるス
イス子会社の利益と,フランスの従属外国法人規定によりフランスで課税
されるフランス親会社の利益は,本質的に同一であるなどとして,フラン
スの従属外国法人規定が,フランス・スイス租税条約7条1項に違反する
との判決をしており,このようなフランス国務院の考え方によれば,我が
国の措置法40条の4は,日星租税協定7条1項に違反するものである。
(2)争点2(P1社が,措置法40条の4第3項の適用除外要件のうち非持株
会社等基準,実体基準及び管理支配基準をいずれも充足するか否か)につ。
いて
(原告の主張)
ア非持株会社等基準について
措置法40条の4第3項は,非持株会社等基準に該当しない会社を「株
式…の保有…を主たる事業とするもの」と規定しており,かかる規定から
すれば,非持株会社等基準を充足しない会社とは,単に株式を保有してい
る会社でなく,それを独立した事業として,しかも,主たる事業として行
っている会社であることは,文言上明らかである。
しかるに,P1社は,同社が営む卸売業の鋼管の製造会社として,P4
社を設立したものであり,その結果として平成13年事業年度においてP
4社の株式を保有していたものであるから,P1社によるP4社の株式の
保有は,鋼管の卸売業に付随関連するものである。また,P1社設立の平
成8年当時,P2は,財務状況の極度の悪化に陥っていたが,国内で新規
貸付けを受けられる状況でなかったため,P2の借入金の返済及びP1社
の事業資金の確保を目的として,P2が保有していたP3社の株式をP1
社に23億円で譲渡し,P1社がP3社の株式を担保として31億円の借
入れを行ったものであって,P1社によるP3社の株式の保有が,P2グ
ループの存続,ひいてはP1社の卸売業の存続を目的とし,鋼管の卸売業
に付随関連するものであることは明らかである。したがって,P1社は,
独立の事業として株式を保有していたということはできない。
また,仮にP1社が株式の保有を独立の事業として行っていたとしても,
複数の事業を営んでいる場合における主たる事業が何であるかの判定は,
事業が継続的なものである以上,当該事業年度のみではなく,その前後の
事業年度を通じて判断すべきであるとともに,当該特定外国子会社等が,
その事業から得た利益ないし所得の金額及び保有資産の多寡よりも,一般
に所得源泉(所得を生み出す素)として観念される人・機械設備・不動産
等の実物の生産要素の多寡によって決すべきである。
これを本件についてみると,人の多寡については,P1社は,平成8年
5月以降平成13年7月に現地事務所が閉鎖されるまで,同事務所に現地
取締役を1名,平成8年8月以降平成13年3月まで現地職員を1ないし
2名置いていたものであって,これらの者は,鋼管の卸売事業に関与して
いたのに対し,これらの者が、P3社及びP4社の株式の保有に係る業務
を行ったことはなかったものであり,また、機械設備については,鋼管の
卸売事業のため,平成13年7月に現地事務所を閉鎖するまでは,パソコ
ン,電話,ファックス,机及び椅子等の備品を保有し又はリースを受けて
いたのに対し,株式の保有のために必要な設備は特に存しなかったもので
あり,不動産については,鋼管の卸売事業のために現地事務所を賃借して
いたものの,株式の保有のために事務所を賃借したことはなかった。
以上によれば,P1社が,株式の保有事業よりも,鋼管の卸売事業によ
り多くの人,機械設備及び不動産を投入していたことは明らかであるから,
P1社の平成13年事業年度における主たる事業は,鋼管の卸売業であっ
たというべきである。よって,本件は非持株会社等基準を満たす。
イ実体基準について
実体基準は「主たる事業を行うに必要と認められる固定施設」を有し,
ているか否かを判断する基準であるところ,P1社は,平成13年事業年
度において,同年7月24日までの期間,鋼管の卸売業を営むために必要
な現地事務所をシンガポール国内に設置していたものであり,同年7月2
5日から平成14年3月までの期間は現地事務所を閉鎖していたものの,
当該閉鎖は,現地取締役の一身上の都合による辞任に基づくやむを得ない
事情による一時的な措置にすぎず,P1社の卸売業に係る業務については,
それが再開される平成14年7月までの期間は,P4社に移管することに
よって対応していたから,現地事務所の一時的な閉鎖をもって,P1社が
「主たる事業を行うに必要と認められる固定施設」を有していたことは何
ら否定されるものではない。よって,本件は,実体基準を満たす。
ウ管理支配基準について
管理支配基準は「…特定外国子会社等…が,…その事業の管理,支配,
及び運営を自ら行っているものである場合…」という基準であり,かかる
文言からすれば,管理,支配及び運営がされる対象は,当該特定外国子会
社等という法人自体ではなく「その事業」であることは明らかであり,,
しかも「事業」の内容が,前出の「その主たる事業」を引用しているこ,
とからすれば,管理支配基準は,特定外国子会社等の「主たる事業」との
関連で判断すべきである。
そして,P1社の「主たる事業」は,鋼管の卸売業であるから,管理支
配基準は,P1社が,卸売業の管理,支配及び運営を自ら行っていたか否
かという観点から判断すべきところ,P1社は,現地取締役及び現地職員
を主体として,現地において独自に営業活動を展開し,東南アジアの顧客
に対し自ら主体的に鋼管の卸売りを行い,人事等の卸売業に付随する業務
も現地で独自に行っていた。よって,本件は管理支配基準を満たす。
(被告の主張)
ア非持株会社等基準について
当該特定外国子会社等の事業が,株式(出資を含む)若しくは債券の。
保有等一定の事業である場合には,タックス・ヘイブン対策税制の適用除
外の対象とならないと規定する趣旨は,その事業の性格からして我が国に
おいても十分行い得るもので,その地に所在することについて積極的な経
済的合理性を見出すことが困難であるからである。そして,そもそも課税
要件の判断は,各事業年度ごとに行われるものである上,同条項は適用除
外要件となる業種につき「各事業年度においてその行う主たる事業が次,
の各号に掲げる事業のいずれに該当するか」によって判断すべきとしてい
ることからすれば,主たる事業についての判断時期は,当該事業年度に求
められるべきである。また,特定外国子会社等が複数の事業を営む場合,
そのいずれの事業が主たる事業であるかの判定は,前記の趣旨に鑑みれば,
その事業年度における,その事業活動の客観的結果として得る収入金額又
は所得金額の状況,使用人の数,固定施設の状況等の,具体的・客観的な
事業活動の内容を総合的に勘案して判定するべきである。
これを本件についてみるに,まず,各事業の収入金額及び所得金額(利
益)については,P1社の平成13年事業年度における株式の保有に係る
収入金額は1億1427万4501シンガポールドルであり,当該収入金
額が各事業の収入金額の合計額1億1479万5352シンガポールドル
に占める割合は,99.55パーセントである。また,株式の保有に係る
所得金額(差引利益)は,1億1362万9041シンガポールドルであ
り,当該所得金額が各事業の所得金額(差引利益)の合計額1億1386
万6312シンガポールドルに占める割合は,99.79パーセントであ
る。このように,P1社の平成13年事業年度における株式の保有に係る
収入金額及び所得金額(差引利益)の各事業の収入金額及び所得金額(差
引利益)の合計額に占める割合は,いずれも,99パーセントを超えるも
のであり,他方,金銭の貸付け及び鋼管の卸売に係るそれぞれの割合は1
パーセントにも満たない。
次に,各事業に係る保有資産については,P1社の平成13年事業年度
における株式の保有に係る保有資産の合計額は,1億1222万7856
シンガポールドルであり,各事業の保有資産の合計額1億1768万83
93シンガポールドルに占める割合は,95.36パーセントである。他
方,金銭の貸付け及び鋼管の卸売に係るその割合は,金銭の貸付けが3.
66パーセント,鋼管の卸売が0.98パーセントにすぎない。
さらに,固定施設及び使用人等の状況については,P1社の平成13年
事業年度において,現地役員及び従業員がシンガポールの現地事務所で仕
事に従事していたのは,最長でも同事務所閉鎖前の平成13年7月24日
までの期間であり,他方,P4株式の保有及び金銭の貸付けは,平成13
年事業年度を通じて継続的に行われていたものである。
以上によれば,P1社の平成13年事業年度における「主たる事業」は,
株式の保有であるから,本件は非持株会社等基準を満たさない。
イ実体基準について
実体基準とは,特定外国子会社等が,事業を行うに必要と認められる事
務所等の固定施設を,その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域に
おいて有することを要件とするものであり,特定外国子会社等が独立企業
としての実体を備え,かつ,その所在地国で事業活動を行うことにつき十
分な経済的合理性がある場合にまでタックス・ヘイブン対策税制を適用す
ることは,我が国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことに
なるので,これを避けるべく設けられたものであるから,特定外国子会社
等が独立企業としての実体を備えているというにふさわしい固定施設を有
しているか否かにより判断すべきであると解される。
これを本件についてみると,平成13年事業年度においてP1社のシン
ガポール現地事務所が平成13年7月25日以降閉鎖され,現地役員及び
従業員が不在となり,鋼管の卸売に係る事業実績もなかったのであるから,
同社が平成13年事業年度を通じて,独立企業としての実態を備えるとい
うにふさわしい固定施設を有していたとはいえず,平成14年7月にP1
社のシンガポール現地事務所が再開されたことは,平成13年事業年度に
おける実体基準を判断するに当たり考慮されるべきではないから,本件は
実体基準を満たさない。
ウ管理支配基準について
管理支配基準とは,特定外国子会社等が,その本店所在地国において,
その事業の管理,支配及び運営を自ら行っていることを要件とし,その趣
旨は,実体基準と同様に,タックス・ヘイブン対策税制の適用除外規定は,
特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え,かつ,その所在地国で
事業活動を行うことにつき十分な経済的合理性がある場合にまでタックス
・ヘイブン対策税制を適用することを避けることにある。したがって,そ
の要件の充足の有無については,当該外国子会社等の重要な意思決定機関
である株主総会及び取締役会の開催,役員の職務執行,会計帳簿の作成及
び保管等が,本店所在地国で行われているかどうか,業務執行上の重要事
項を当該特定外国子会社等が自らの意思で決定しているかどうかなどの諸
事情を総合的に考慮し,当該特定外国子会社等がその本店所在地国におい
て親会社から独立した企業としての実体を備えて活動しているといえるか
どうかによって判断すべきものと解される。
これを本件についてみると,P1社は,平成13年事業年度において,
シンガポールの現地事務所を閉鎖した同年7月25日以降,鋼管の卸売に
係る事業実績がないこと,その間,単に会計事務所を連絡先として帳簿書
類を保管させていたにすぎないこと,現地事務所の閉鎖以降は現地役員等
は不在であること,P1社の平成13年事業年度に行われた株主総会及び
取締役会は,シンガポールの現地事務所において行われたものでないこと,
シンガポールの銀行口座のサイン権者であった原告の承認なしにP1社の
経済活動及びそれに伴う資金移動を行うことは事実上不可能であったこと,
現地事務所の賃貸借契約の締結についてすら現地取締役には決定権がなか
ったことを総合的に勘案すると,同社が,平成13年事業年度においてそ
の事業の管理,支配及び運営を自ら行っていたとはいえないから,本件は
管理支配基準を満たさない。
(3)争点3(仮にP1社が適用除外要件を充足しないとしても,P1社がシン
ガポールに所在することに経済合理性がある場合には,措置法40条の4第
1項が適用されないと解すべきであるか否か)について。
(被告の主張)
ア措置法40条の4第3項は,特定外国子会社等の事業が,株式の保有等
の事業である場合には,その事業の性格からして,我が国においても十分
行い得るものであり,タックス・ヘイブン国に当該特定外国子会社等が所
在することについて税負担軽減以外の積極的な経済的合理性を見出すこと
は困難であることから,かかる事業を主たる事業とするものについてはタ
ックス・ヘイブン対策税制の適用を除外しないとしたものであり,そこで
いう経済的合理性の有無は,措置法40条の4第1項の要件に該当するこ
とを前提として,同条3項の適用除外規定を通じて判断することが予定さ
れているものである。
原告の主張は,措置法40条の4第3項に基づく適用除外要件以外に,
条文上規定されていない「経済合理性」という新たな判断基準を付加する
ものであって,措置法の規定を無視した根拠のない独自の見解といわざる
を得ない。しかも,原告が主張するように,例えば,東南アジアへの鋼管
事業を展開する目的でシンガポールにP1社を設立したP2の事業戦略や,
P1社が果たしてきた役割などという主観的な事情をも加味して経済合理
性の有無を認定し,これによってタックス・ヘイブン対策税制の適用の有
無を判断することとなれば,課税の明確性及び法的安定性を損ない,法の
適正な執行を妨げるものというほかない。
イそして,原告は,P1社がシンガポールに所在することに経済合理性が
ある旨いうが,設立の目的及び経緯からみても,P1社は,持株会社とし
て設立され,さしたる鋼管卸売の事業実績もなく,平成13年事業年度に
おいても,設立時の定款は変更されておらず,財務内容にも大きな変更は
ないから,その主たる事業は,持株会社としての事業にほかならないとい
うべきであり,原告も,P1社が融資のためにP3社の株式を譲り受けた
こと,すなわち,P3社の株式を保有することがP1社を設立した一つの
理由であることを認めている。また,原告は,P1社の卸売事業が再開さ
れるまでの期間,同事業をベトナムに所在するP4社に移管することで継
続して事業活動を行っていた旨主張するが,この事実が仮にあったとすれ
ば,鋼管の卸売事業は必ずしもシンガポールのP1社において営む必要が
なかったことを意味するとともに,鋼管の卸売が規模的に見ても容易にシ
ンガポールからべトナムへと国境を越えて移せる程度のものであり,かえ
って,P1社がシンガポールに存在することに経済的合理性が乏しいこと
を示しているから,原告の主張は失当である。
(原告の主張)
アタックス・ヘイブン対策税制は,ペーパーカンパニーを通じた租税回避
行為による不当な税負担の軽減を封ずることを目的とする政策的な税制で
ある。そして,措置法40条の4第3項の適用除外規定は,このような租
税回避行為を類型化したものであるが,その趣旨は,かかる類型にそもそ
も該当しない場合には,そのことのみでタックス・ヘイブン対策税制を適
用しないとすることによって,課税当局の執行上の負担を軽減するととも
に,納税者の予測可能性を確保したものと解される。したがって,特定外
国子会社等が,形式的には,措置法40条の4第3項の適用除外要件を充
足しない場合であっても,実質的にみれば,当該特定外国子会社等がタッ
クス・ヘイブン国に所在することについて経済合理性がある場合には,タ
ックス・ヘイブン対策税制は適用はされないと解すべきである。
イこれを本件についてみると,P1社の設立は,鋼管事業の市場開拓の対
象となる地域に現地法人を先行して設立し,当該現地法人が調査活動,マ
ーケティング活動及び販売活動を行うというビジネスモデルに則ったもの
である上,その営業活動は,東南アジアにおける鋼管製造の拠点であるP
4社に近接したシンガポールのP1社が行うことが効率的であり,これら
のことは,平成13年事業年度の後にP1社が順調に鋼管の卸売業の業績
を伸ばしている事実からも裏付けられる。また,P1社がP3社の株式を
取得したことは,P1社が東南アジアにおける鋼管事業を開始するための
事業資金を捻出するためには必要不可欠だったものであり,さもなければ,
P1社は鋼管の卸売事業を開始できなかったのみならず,親会社であるP
2の財務状況は逼迫したままであった。さらに,P3社の株式を売却した
ことは,P1社の鋼管事業の継続及びP2の倒産を回避するためには必要
不可欠であった。以上によれば,P1社がシンガポールに所在することに
経済合理性があるということができるから,本件に措置法40条の4第1
項を適用することは許されない。
第3争点に対する判断
1争点1(措置法40条の4が日星租税協定7条1項に違反するか否か)に。
ついて
(1)ア日星租税協定7条1項は「一方の締約国の企業の利得に対しては,,
その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内
において事業を行わない限り,当該一方の締約国においてのみ租税を課す
ることができる。一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設
を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合には,その企業の利
得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ,当該他方の締約
国において租税を課することができる」と規定している。。
この規定は,一方締約国の「企業の利得」については,原則として,そ
の一方締約国のみが課税することができ,他方締約国は,その企業が,他
方締約国内にある恒久的施設を通じて事業を行っている場合に,その恒久
的施設に帰属する利得についてのみ課税することができるという内容を定
めたものである。
他方で,一方締約国の企業,例えば,シンガポールの企業が,他方締約
国に居住する同企業の株主,例えば,我が国の居住者たる株主に対して,
配当その他の方法によって利益移転を行った場合には,その移転された利
益に対しては,他方締約国である我が国において課税されることになるが,
それは,企業から株主へされた配当等の利益移転に対して課税がされるも
のであって「企業の利得」についての課税権限の分配を定めた上記規定,
に違反するものではないことは明らかである。
すなわち,上記規定が,我が国とシンガポールとの間での課税権限の分
配として規定しているのは「企業の利得」に対する課税,すなわち企業,
がその事業活動等を行うことによって得た利益に対する課税権限の分配で
あって,企業がその利益を配当等によって移転した場合に,それに対して
課税されることは,上記規定が対象とするものではないというべきである。
イところで,措置法40条の4は,1項において,株主である我が国の居
住者が,その所得に対する租税の負担がないか又は極端に低い,いわゆる
タックス・ヘイブンといわれる国に外国法人を設立して経済活動を行い,
当該外国法人に所得を留保することによって,我が国における租税の負担
を回避する場合に対処し,税負担の実質的な公平を図ることを目的とする
規定である。
そして,同条1項は,当該法人の所得に対して課される税の負担が,本
邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低い国又
は地域に所在する法人について,我が国の居住者が一定以上の株式を有す
るなどしている場合に,そのような特定外国子会社等が有する未処分所得
から留保されたものとされる適用対象留保金額のうち,株主である我が国
の居住者の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額を,
当該居住者の雑所得に係る収入金額とみなして,総収入金額に算入するこ
ととしている。
他方で,同条3項は,同条1項が適用されない場合として,①特定外国
子会社等が,株式若しくは債券の保有,工業所有権若しくは著作権の提供
又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業とするもの以外のものであ
ること(非持株会社等基準,②その本店又は主たる事務所の所在する国)
又は地域において,その主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の
固定施設を有すること(実体基準,③その事業の管理,支配及び運営を)
自ら行っているものであること(管理支配基準,④主たる事業が,卸売)
業,銀行業,信託業,証券業,保険業,水運業又は航空運送業である特定
外国子会社等にあっては,その事業を主として当該特定外国子会社等に係
る関連者以外の者との間で行っていること(非関連者基準,⑤主たる事)
業が非関連者基準に掲げた事業以外の事業である特定外国子会社等にあっ
ては,その事業を主として本店又は主たる事務所の所在する国又は地域に
おいて行っていること(所在地国基準,のいずれの要件をも充足する場)
合と定めている。
すなわち,措置法40条の4は,同条3項に定める非持株会社等基準,
実体基準,管理支配基準,非関連者基準及び所在地国基準を充足しない,
当該国において事業を行うことに経済的合理性が認められないような特定
外国子会社等に関しては,これを本邦における法人の所得に対して課され
る税の負担に比して著しく低い国又は地域に設け,そこに,本来法人の所
有者である株主に対して移転されるべきである利益を留保することによっ
て租税回避行為をしていると評価されることから,そのような場合には,
当該特定外国子会社等に留保された適用対象留保金額は,本来,株主にそ
の利益移転が行われるべきものであり,実際に配当等によって利益移転が
あったものとみなして課税することとしたものにほかならないと解される。
ウそうすると,措置法40条の4は,本来,特定外国子会社等から我が国
に居住する株主に利益移転がされるのが当然であると解される場合である
にもかかわらず,それがされていないときに,本来あるべき利益移転が実
際にあったものとみなして,そのあるべき利益移転によって株主である我
が国の居住者が得たとみなされる所得に対して課税するものであって,こ
れが,シンガポール法人が事業等によって得た利得,すなわち「企業の利
得」に対して課税するものではないことは明らかであり「企業の利得」,
についての課税権限の分配について定めた日星租税協定7条1項に反する
ものではないと解すべきである。
(2)アこれに対し,原告は,措置法40条の4は,シンガポールに課税権が
認められているシンガポール法人の所得を,我が国の株主に帰属させて課
税するものであるから,日星租税協定7条1項に抵触する旨主張する。
しかしながら,措置法40条の4は,特定外国子会社等が適用対象留保
金額を有する場合に,それが当該特定外国子会社等の株主である我が国の
居住者に帰属するものとして課税しているのではなく,上記のように一定
の要件を満たす場合には,株主である我が国の居住者の有する株式等に対
応するものとして算出された一定の金額は,株主に利益移転があったもの
とみなすべきであることから,そのあるべき利益移転に対して課税するた
めに,当該居住者の雑所得の金額の計算上,総収入金額に算入することと
したものであって,シンガポール法人の所得を株主である我が国の居住者
に帰属させるものではない。したがって,この点に関する原告の主張は採
用できない。
イまた,原告は,措置法40条の5第1項が,同法40条の4第1項によ
って株主である我が国の居住者に対する課税の対象とされた特定外国子会
社等の留保所得を原資として,特定外国子会社等が,現に株主たる当該居
住者に配当等を支払った場合には,既に課税対象とされた留保所得につい
ては当該居住者の配当所得又は雑所得の計算上,控除される旨規定してい
るところ,これは,措置法40条の4第1項が,実質的には特定外国子会
社等の所得に課税するものであることを前提として,そこに生じる二重課
税を排除しようとしたものにほかならない旨主張する。
しかしながら,そもそも,株主である我が国の居住者に対する課税の対
象とされたのは,前記のとおり,特定外国子会社等の所得ではなく,特定
外国子会社等から株主である我が国の居住者たる原告に対して当然にある
べきであるとされた利益の移転に対してであるから,原告の主張は,課税
の対象が特定外国子会社等の所得であるとする点で,前提において誤って
いるといわざるを得ない。そして,上記の措置法40条の5第1項は,同
法40条の4第1項が租税回避を防止するすることを目的とするにとどま
り,それを超えて重い税負担を課すことを目的とするものではないことか
ら,既に利益の移転とみなされて課税したものに対しては,その後,現に
利益の移転がされたときには課税しないこととするという当然の調整規定
を置いたにすぎないものと解され,このような調整規定が存在するからと
いって,措置法40条の4第1項が,特定外国子会社等の所得に実質的に
課税するものであるということはできない。したがって,この点に関する
原告の主張は採用できない。
ウさらに,原告は,フランス国務院は,フランスのタックス・ヘイブン対
策税制が,フランスとスイスとの間の租税条約が定める「恒久的施設なけ
れば課税なし」の原則を定めた条項に違反する旨の判決をしており,これ
は,同じく「恒久的施設なければ課税なし」の原則を定めた日星租税協定
7条1項の解釈についての参考にすべきである旨主張する。
しかしながら,証拠(乙40の2,乙43)によれば,当時のフランス
においては,法人税については,テリトリー基準(属地主義)に基づき,
国外所得非課税主義を採用し,原則として外国の子会社や支店から生じた
利益に対しては課税せず,タックス・ヘイブン国にある子会社の留保所得
に対しては,通常の法人税の一部としてではなく,分離してフランスの親
会社に直接に課税する(すなわち,親会社が,外国子会社の適用対象所得
について納税義務を負う)という特殊な法制度を有していたことが認め。
られ,このように,そもそも我が国とは前提を異にする制度の下における
フランス国務院の判決を,我が国の措置法40条の4の解釈の参考とする
ことは適当とはいい難く,上記のフランス国務院の判決が,前記(1)で示
した判断に影響を及ぼすものではない。したがって,原告のこの点に関す
る主張は採用できない。
エなお,原告は,OECDの加盟国でないシンガポールとの租税協定を解
釈するに当たり,OECDモデル租税条約7条1項のコメンタリーを解釈
基準とすることは許されない旨主張する。
しかしながら,そもそもOECDモデル租税条約7条1項のコメンタリ
ーの考え方をわざわざ援用するまでもなく,措置法40条の4が日星租税
協定7条1項に違反しないことは,前記(1)で説示したとおりである。
また,OECDモデル租税条約7条コメンタリー10.1(乙38)は,
「第1項の目的は,一方の締約国の,他方の締約国の居住者である企業の
事業所得に対する課税権の制限を規定することである。本項は,一方の締
約国の,自国の国内法令の従属外国法人規定に基づく自国の居住者に対す
る課税権を,これらの居住者に対して課せられる当該租税が,他方の締約
国に居住している企業の利得で,これらの居住者の当該企業への持分に帰
せられる部分に基づき算定されるのにもかかわらず,制限していない。一
方の国によって自国の居住者に対してこのように課される租税は,他方の
締約国の企業の利得を減少させず,それ故,当該利得に対して課せられた
とはいい得ない。…」との見解を示しているところ,これは,前記(1)の
説示に合致するものであり,日星租税協定7条1項の解釈としても正当で
あるから,いずれにしてもこの点に関する原告の主張は採用できない。
オ以上のとおりであって,措置法40条の4は,日星租税協定7条1項に
反するものではないというべきである。
2争点2(P1社が,措置法40条の4第3項の適用除外要件のうち非持株会
社等基準,実体基準及び管理支配基準をいずれも充足するか否か)について。
(1)措置法40条の4第3項は,特定外国子会社等のうち,株式若しくは債券
の保有,工業所有権若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の貸付け
を主たる事業とするもの以外のものであり(非持株会社等基準,その本店)
又は主たる事務所の所在する国又は地域において,その主たる事業を行うに
必要と認められる事務所等の固定施設を有すること(実体基準,その事業)
の管理,支配及び運営を自ら行っているものであること(管理支配基準,)
主たる事業が,卸売業,銀行業,信託業,証券業,保険業,水運業又は航空
運送業である特定外国子会社等にあっては,その事業を主として当該特定外
),国子会社等に係る関連者以外の者との間で行っていること(非関連者基準
主たる事業が非関連者基準に掲げた事業以外の事業である特定外国子会社等
にあっては,その事業を主として本店又は主たる事務所の所在する国又は地
域において行っていること(所在地国基準)のすべての要件を充足する場合
には,当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保金
額について,措置法40条の4第1項の規定を適用しない旨規定している。
これらの適用除外要件は,特定外国子会社等に該当する場合であっても,
それが独立企業としての実体を備え,かつ,その所在地国で事業活動を行う
につき十分な経済的合理性がある場合にまでタックス・ヘイブン対策税制に
よる課税を行うことは,我が国の企業の正常な海外投資活動を阻害する結果
を招くことになることから,そのような事態を避けるべきであるとの趣旨で
設けられたものであり,特定外国子会社等が,適用除外要件のすべてを充足
している場合には,タックス・ヘイブン対策税制による課税は行われないと
いうことになる。
(2)アそこで,まず,適用除外要件のうち,P1社が非持株会社等基準を満
たしていたか否かについて検討する。
措置法40条4第3項が,特定外国子会社等の営む主たる業種が「株,
式…の保有…」である場合には,たとえタックス・ヘイブン国において実
体が存し,そこで事業活動が行われていたとしても,そもそも,タックス
・ヘイブン対策税制の適用除外の対象としない旨を規定している趣旨は,
当該特定外国子会社等の主たる業種が「株式の保有」である場合には,株
式の保有は,株式を保有又は運用することにより利益配当ないしキャピタ
ルゲインを得ることができるものであり,このような株式の保有に係る事
業の性格からすれば,そのような事業は,我が国においても十分行うこと
ができるものであって,このような事業を行う特定外国子会社等が,我が
国ではなくわざわざタックス・ヘイブン国に所在することについて,我が
国からの所得の移転による税負担の軽減以外の積極的な経済的合理性をお
よそ見出し難く,タックス・ヘイブン対策税制の適用除外とする必要性を
そもそも認めることができないからであると解される。
そして,特定外国子会社等が複数の事業を営む場合において,そのいず
れの事業が「主たる事業」であるかについての判定は,措置法40条の4
第3項の「…特定外国子会社等(株式(出資を含む)若しくは債券の保。
有…を主たる事業とするものを除く)が,…各事業年度においてその行。
う主たる事業が次の各号に掲げる事業のいずれかに該当するときは,…当
該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保金額につ
いては,適用しない」という文言からも明らかなように,特定外国子会。
社等に該当すれば,そのことだけで適用除外の対象とするものではなく,
あくまで特定外国子会社等の事業年度ごとの課税対象留保所得を株主たる
居住者の雑所得の計算上,総収入金額に算入しないというものであるから,
適用除外規定の適用の前提となる特定外国子会社等の主たる事業の判定は,
事業年度ごとに行われるということは当然である。また,外国関係会社が
複数の事業を営む場合,そのいずれの事業が「主たる事業」であるかの判
定は,そもそも課税要件事実は,事業年度ごとにその存否が確定される性
質のものであるから,結局のところ,課税要件事実である「主たる事業」
は,特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観
的な内容から判定するほかないというべきであって,当該特定外国子会社
等における,それぞれの事業活動の客観的な結果として得られた収入金額
又は所得金額,それぞれの事業活動に要する使用人の数,事務所,店舗,
工場その他の固定施設の状況等の具体的かつ客観的な事業活動の内容を総
合的に勘案して判定すべきである。
そして,課税要件事実は,上記のとおり事業年度ごとにその存否が確定
される性質のものである以上,特定外国子会社等の当該事業年度末(P1
社については,平成13年12月31日)以後における事情などの当該事
業年度においてそもそも判断が不可能な事情については,主たる事業の判
定に際して考慮することは許されないというべきである。
イこれに対し,原告は,主たる事業の判定は,事業が複数存在することが
前提となるところ,株式の保有は,純粋持株会社のように株式保有の事業
目的を有する場合でなければ独立の事業とはいえず,他の事業に付随して
株式が保有される場合は,株式の保有は事業とはいえないから,株式の保
有が主たる事業か否かの判定をそもそも要しない旨主張する。
しかしながら,たしかに,主たる事業を判定するに際し,特定外国子会
社等が複数の事業を営むことが前提となるものの,そもそも株式は,これ
を保有又は運用することにより投資所得を得ることができるものであり,
株式を保有することは,それが他の事業と関連するものであるか否かにか
かわらず,1つの事業になり得るというべきであるから,純粋持株会社の
ように株式保有の事業目的を有する場合でなければ独立の事業とはいえな
いとする原告の主張は,採用できない。
また,原告は,主たる事業とは,特定外国子会社等が所得源泉をより多
く投入している事業をいうと解すべきところ,所得源泉とは,人・機械設
備・不動産等の生産要素をいうから,主たる事業とは,このような生産要
素がより多く投入されている事業をいうと解すべきであり,主たる事業を
収入金額又は所得金額の多寡を基準として判定することは誤りである旨主
張する。
しかしながら,たしかに,主たる事業を判定するに際し,原告が主張す
るような生産要素を考慮要素とすべきであるものの,だからといって,事
業活動の客観的結果として得る収入金額又は所得金額の多寡を基準として
判定することが誤りであるということにはならないことはいうまでもない。
かえって原告の主張によれば,さしたる生産要素を要しない株式保有事業
と,相当規模の生産要素が投入された他の事業とを営む特定外国子会社等
については,いかに当該株式の保有を通じて多額の所得を得ていたとして
も,およそ株式の保有は主たる事業にはなり得ないという帰結を導くこと
になるものであって,このような結論が不合理であることは明らかであり,
また,株式の保有については,いかにタックス・ヘイブン国において実体
が存し,そこで事業が行われていたとしても,タックス・ヘイブン対策税
制の適用除外の対象としないとした措置法40条4第3項の前示の立法趣
旨に明らかに反する。したがって,原告のこの点に関する主張は,到底採
用できない。
(3)そこで,前記(2)アに判示した判断方法により非持株会社等基準の充足の
有無について検討すべきことになるが,その検討の基礎となる平成13年事
業年度におけるP1社の事業について,前記争いのない事実及び各項末尾に
掲記した証拠によれば,次の事実が認められる。
アP2は,平成12年5月1日から平成13年4月30日までの事業年度
の借入金残高が約100億円あり,金融機関及び取引先企業から財務状況
の改善を強く要求されていたことから,P2グループないしその中心的存
在であるP2の存続を図るため,P1社は,平成13年12月18日,同
社が保有するP3社の株式75万株をP6社に1億3050万米ドルで売
却した。また,P1社は,P6社に対する上記の売却代金の一部を,平成
13年事業年度終了の日現在8326万5841シンガポールドルの定期
預金として保有していた(甲6,45ないし53,乙11,弁論の全趣。
旨)
イ平成13年事業年度におけるP1社の鋼管の卸売実績は,平成13年1
月から同年7月までに行われた7件,その売上高約9万米ドルであり,同
月24日の現地事務所閉鎖後は,卸売実績がない(乙18及び19の各。
1,2)
なお,P1社は,その設立から,平成9年1月1日から同年12月31
日の事業年度までの間において,鋼管の卸売に係る事業実績はなく,平成
10年1月1日から同年12月31日までの事業年度から鋼管の卸売を開
始したものであり,平成10年及び平成11年の売上高は各約15万米ド
ル,平成12年の売上高は約20万米ドルであった(乙13ないし17。
の各1,2,弁論の全趣旨)
ウP1社の平成13年事業年度における収入金額には,株式の保有に係る
もの,金銭の貸付けに係るもの,鋼管の販売に係るものがあるところ,P
1社の平成13年事業年度における収入金額の合計は,1億1479万5
352シンガポールドル(約81億6424万5434円。平成13年事
業年度終了の日現在における円換算レートである71.12円/シンガポ
ールドルで計算したもの。以下同じ)であり,このうち株式の保有に係。
る収入金額は,1億1427万4051シンガポールドル(約81億27
17万0507円)で,全体の99.55パーセントを占める。
これに対し,金銭の貸付けに係る収入金額は,35万3838シンガポ
ールドル(約2516万4958円)で,全体の0.31パーセント,鋼
管の卸売に係る収入金額は,16万7013シンガポールドル(約118
7万7964円)で,全体の0.14パーセントにすぎない(乙18,。
弁論の全趣旨)
エP1社の平成13年事業年度における所得金額には,株式の保有に係る
もの,金銭の貸付けに係るもの,鋼管の販売に係るものがあるところ,P
1社の平成13年事業年度における所得金額(差引利益)の合計は,1億
1386万6312シンガポールドル(約80億9817万2109円)
であり,このうち株式の保有に係る収入金額は,1億1362万9041
シンガポールドル(約80億8129万7395円)で,全体の99.7
9パーセントを占めている。
これに対し,金銭の貸付けに係る所得金額(差引利益)は,23万24
98シンガポールドル(約1653万5257円)であって,全体の0.
20パーセント,鋼管の卸売に係る所得金額(差引利益)は,4773シ
ンガポールドル(約33万9455円)で,全体の0.004パーセント
にすぎない(乙18,弁論の全趣旨)。
オP1社の平成13年事業年度における保有資産には,株式の保有に係る
もの,金銭の貸付けに係るもの,鋼管の販売に係るものがあるところ,P
1社の平成13年事業年度における保有資産の合計は,1億1768万8
393シンガポールドル(約83億6999万8510円)であり,この
うち株式の保有に係る保有資産は,1億1222万7856シンガポール
ドルであり,全体の95.36パーセントを占めている。
これに対し,金銭の貸付けに係る保有資産は,431万2350シンガ
ポールドル(約3億0669万4332円)で,全体の3.66パーセン
ト,鋼管の卸売に係る保有資産は,114万8187シンガポールドル
(約8165万9059円)で,全体の0.98パーセントにすぎない。
(乙18,弁論の全趣旨)
カP1社は,平成13年事業年度に係る決算書(乙18)において「当,
社の主な事業活動は,持株会社()としての業務であinvestmentholdings
る」と記載し,その主要な活動が投資持株会社としての活動であること。
を自認していたほか,同事業年度の監査を実施した監査法人も,P1社が
持株会社として機能しているとの認識を外部に示していた。また,それ以
前の事業年度においても,同様に,決算書にその主要な活動が投資持株会
。,社としての活動であることが記載されていた(乙13ないし18,28
29。)
キP1社では,平成13年事業年度当初はシンガポールの現地事務所にお
いて現地取締役であるP7及び従業員1名が勤務していたものの,平成1
3年3月に上記の従業員が退職し,同年7月には取締役であるP7が退職
したことから,現地事務所に勤務する者がいなくなった。そこで,同月2
4日の現地事務所の賃貸借契約の満了とともに,賃借していた現地事務所
を閉鎖し,シンガポールの会計事務所の住所に登録上の住所を移転した。
(甲32,33,乙21ないし24の各1,2)
(4)前記(3)で認定した事実によれば,P1社は,平成13年事業年度におい
て,鋼管の卸売,金銭の貸付け及び株式の保有という複数の事業を行ってい
たと認められるから,そのいずれが主たる事業であるかは,前示のとおり,
それぞれの事業活動の客観的な結果として得られた収入金額又は所得金額の
状況,使用人の数,事務所,店舗,工場その他の固定施設の状況等の具体的
かつ客観的な事業活動の内容を総合的に勘案して判定すべきであるところ,
同認定事実によれば,平成13年事業年度において,P1社の収入及び所得
において株式の保有によるものが占める割合は,いずれも99.5パーセン
トを超えており,P1社は,同事業年度の決算書において,その主要な事業
活動が投資持株会社であることを自認していたこと,P1社の総資産におい
て株式の保有によるもの(P3社の株式の売却代金を原資とする定期預金及
びP4株式等の合計)が占める割合は,99.5パーセントを超えていたこ
と,P1社の現地取締役が退任してシンガポールの現地事務所が閉鎖された
平成13年7月以降,鋼管の卸売事業はP4社に移管され,その後はP1社
としての卸売事業の実績はないこと,これに対してP1社は,P3社の株式
はこれを売却したときまで,P4社の株式は平成13年事業年度以降も,そ
れぞれ継続して保有していたことがそれぞれ認められるのであって,これら
の具体的かつ客観的な事業活動の内容をみれば,P1社の平成13年事業年
度における主たる事業は,株式の保有にあったと認めるほかないというべき
である。
(5)これに対し,原告は,P1社によるP3社の株式の保有は,P2及びP1
社が融資を受けるための担保とするためであり,また,P1社によるP4社
の株式の保有は,P1社は,東南アジアにおける事業展開の拠点とすること
をも目的として設立され,P4社から仕入れた鋼管を東南アジアの顧客に販
売する事業を営んでいたのであるから,P1社は,いずれの株式についても,
鋼管の卸売業に付随して保有していたにすぎないのであって,独立の事業と
して株式を保有していたものではない旨主張する。
しかしながら,前示のとおり,そもそも株式は,これを保有又は運用する
ことにより利益配当ないしキャピタルゲインを得ることができるものである
から,株式の保有は,それが他の事業と関連するものであろうとなかろうと,
1つの事業となり得るというべきであって,原告の上記主張は,平成13年
事業年度におけるP1社の主たる事業が株式の保有であったことを何ら否定
するものではない。
また,前示のとおり,特定外国子会社等が複数の事業を営む場合に,その
いずれの事業が「主たる事業」であるかの判定は,当該特定外国子会社等の
当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定するほか
ないというべきであるから,平成8年におけるP1社設立当時の目的が,仮
に原告の主張するように鋼管の卸売であったからといって,直ちに,平成1
3年事業年度におけるP1社の主たる事業が,鋼管の卸売であったというこ
とはできない。かえって,P1社の設立時の目的に関していうならば,証拠
(甲11,26,47ないし51,53,乙1ないし3,8ないし10)に
よれば,P2は,平成7年4月期に約111億円の借入金債務を負うに至る
ほど財務状況が極度に悪化し,平成8年4月期には,P2始まって以来の大
幅な赤字が予想され,P2グループ存続のために財務状況を改善する必要に
迫られていたこと,このため,P2は,シンガポールに持株会社を設立し,
当該持株会社にP2が保有していたP3社の株式を売却し,その売却代金を
P2の借入金の返済に充当することを計画していたこと,この計画に基づい
て,P2及び原告は,P1社を設立したものであること,当時のP2の社内
資料(P1社の事業計画書。甲28)には,P1社が,P2グループ海外関
連会社のホールディングカンパニーとしての位置付けが与えられていたこと
がそれぞれ認められるのであって,これらのことからすると,P1社の当初
の設立目的は,P2グループであるP2の極度の財務状況の悪化を緊急に改
善するための融資を受けるため,P3社の株式の譲渡先とするための持株会
社とするためであったと認めるべきであり,また,その後の経緯をみても,
原告が代表取締役を務めていたP2は,P1社が保有していたP3社の株式
の上場を計画していたが,この計画が頓挫したため,P3社の株式すべてを
売却してP2の借入金の返済に充てたことがそれぞれ認められるのであって,
これらの事実は,むしろ,平成13年事業年度におけるP1社の主たる事業
が,株式の保有であったことを推認させるものである。したがって,原告の
この点に関する主張は採用できない。
(6)以上によれば,P1社は,措置法40条の4第3項の適用除外要件のうち,
非持株会社等基準を満たさないことが明らかであるから,その余の基準を満
たすか否かを判断するまでもなく,措置法40条の4第3項の適用除外規定
の適用はない。
3争点3(仮にP1社が適用除外要件を充足しないとしても,P1社がシンガ
ポールに所在することに経済合理性がある場合には,措置法40条の4第1項
が適用されないと解すべきであるか否か)について。
(1)原告は,タックス・ヘイブン対策税制の適用に際し,我が国の企業の正常
な海外投資活動を阻害しないという趣旨に則して解釈する必要があり,その
ためには,措置法40条の4に規定する個別の要件のみに依拠することなく,
外国法人がタックス・ヘイブン国に所在することに「経済合理性」がある場
合には,タックス・ヘイブン対策税制を適用すべきでない旨主張する。
(2)そこで検討するに,証拠(甲75,85)によれば,タックス・ヘイブン
対策税制の立法過程においては,タックス・ヘイブン国に所在する外国法人
であっても,その地に所在することに十分な経済的合理性があれば,タック
ス・ヘイブン対策税制による課税の対象とされるべきではないとの立法方針
が示されていたことが認められるものの,このような外国法人がタックス・
ヘイブン国に所在することの経済的合理性を,その業種に即して具体化した
ものが措置法40条の4第3項の適用除外要件であると解されるから,特定
外国子会社等がタックス・ヘイブン国に所在することの経済的合理性の有無
は,措置法40条の4第1項の要件に該当することを前提に,同条3項の適
用除外要件の充足の有無を通じて判断することが予定されていると解するの
が相当である。
そして,本件における原告は,前示2のとおり適用除外要件の1つである
非持株会社等基準を充足しないと認められるところ,非持株会社等基準は,
当該特定外国子会社等の事業が,株式の保有等の事業である場合には,その
事業の性格からして,我が国においても十分行い得るものであり,タックス
・ヘイブン国に当該特定外国子会社等が所在することについて税負担軽減以
外の積極的な経済的合理性を見出すことがおよそ困難であることから,かか
る事業を主たる事業とするものについては,タックス・ヘイブン対策税制の
適用除外としないこととしたものであるから,非持株会社等基準を充足しな
いと認められる外国法人について,更に「経済合理性」を検討しなければな
らないとすることは,およそ不必要かつ不適当というべきであって,採るべ
き解釈とは到底いえない。
しかも,そもそも租税法は,侵害規範であり,納税者の予測可能性及び法
的安定性の要請が強く働くから,その解釈は原則として文理解釈によるべき
であり,その明確性及び法的安定性を重視すべきことは当然であるところ,
措置法40条の4第3項で定められた適用除外要件のほかに,条文上全く規
定されていない「経済合理性」というようなおよそ不明確な要件を付加し,
これにより同条1項の適用の可否を判断することは,タックス・ヘイブン対
策税制の適用についての明確性及び法的安定性を損なうことになることは明
らかであるから,適用除外要件を充足しない外国法人について,更に経済合
理性の検討を要するという考え方はおよそ採り得ない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。
4以上によれば,原告に対しては,措置法40条の4第1項が適用されること
になり,特定外国子会社等に該当するP1社の平成13年事業年度における課
税対象留保金額を,原告の平成14年分の雑所得の金額の計算上,総収入金額
に算入すべきことになる。
そして,原告に対する課税所得金額及び納付すべき税額は,別紙2(被告が
主張する課税所得金額及び納付すべき税額)記載の額と同額であり(本件の争
点に関する部分を除き,計算の基礎となる金額及び計算方法に争いがない,。)
本件更正処分における原告の平成14年分の所得税に係る課税所得金額及び納
付すべき税額と同額であるから,本件更正処分は適法である。
また,上記のとおり本件更正処分は適法であるところ,本件は,本件賦課決
定処分において過少申告加算税の対象とした税額の計算の基礎となった事実の
うちに本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて,
国税通則法65条4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場
合には当たらないから,本件賦課決定処分は適法である。
第4結論
したがって,本件各処分は適法であり,原告の請求はいずれも理由がないか
ら棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴
訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官定塚誠
裁判官谷口豊
裁判官工藤哲郎
(別紙2)
被告が主張する課税所得金額及び納付すべき税額
1被告が主張する原告の平成14年分の所得税額等は,以下のとおりである。
(1)総所得金額
51億5698万7538円
上記金額は,(2)アないしオの各所得の金額に所得税法69条1項及び措置
法31条5項2号を適用し,次のアないしウのとおり計算した後の金額である。
ア所得税法施行令198条1号に基づく損益通算後の金額(以下「経常所得
の金額」という)。
52億4620万5837円
上記金額は,次の(イ)及び(ウ)の各金額の合計額から(ア)の損失の金額を
控除した後の金額である。
(ア)不動産所得の損失の金額
△249万4179円
(なお,金額の前の△は損失の金額を表す。以下同じ)。
(イ)給与所得の金額
2億2341万3095円
(ウ)雑所得の金額
50億2528万6921円
イ所得税法施行令198条2号に基づく損益通算後の分離課税の長期譲渡所
得の損失の金額
△8921万8299円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の損失の金額を控除した後の金額で
ある。
(ア)一時所得の金額
2223万1066円
(イ)分離課税の長期譲渡所得の損失の金額
△1億1144万9365円
ウ所得税法施行令198条4号に基づく損益通算後の総所得金額
51億5698万7538円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)の損失の金額を控除した後の金額で
ある。
(ア)経常所得の金額
52億4620万5837円
(イ)措置法198条2号に基づく損益通算後の分離課税の長期譲渡所得の
損失の金額
△8921万8299円
(2)各所得の金額
原告の平成14年分の各所得の金額は次のとおりである。
ア不動産所得の金額
△249万4179円
上記金額は,原告が提出した平成14年分の所得税の確定申告書(以下
「本件申告書」という)に記載した不動産所得の金額と同額である。。
イ給与所得の金額
2億2341万3095円
上記金額は,原告が本件申告書に記載した給与所得の金額と同額である。
ウ雑所得の金額
50億2528万6921円
上記金額は,次の(ア)及び(イ)の各金額の合計額である。
(ア)申告額
145万7250円
上記金額は,原告が本件申告書に記載した雑所得の金額と同額である。
(イ)措置法40条の4第1項に基づき雑所得の総収入金額に算入すべき金

50億2382万9671円
上記金額は,P1社の平成13年事業年度に係る適用対象留保金額のう
ち,同社の発行済株式の総数における原告の保有する株式の総数の占める
割合に対応する課税対象留保金額として,原告の平成14年分の雑所得の
総収入金額に算入すべき金額である。
エ一時所得の金額
2223万1066円
上記金額は,本件申告書に記載された損益通算前の一時所得と同額である。
オ分離課税の長期譲渡所得の金額
△1億1144万9365円
上記金額は,原告が本件申告書の「分離課税の短期・長期譲渡所得に関す
る事項」の「差引金額」欄に記載した損失の金額と同額である。
(3)所得控除の額の合計額
693万9225円
上記金額は,原告が本件申告書に記載した所得控除の合計額と同額である。
(4)課税総所得金額
51億5004万8000円
上記金額は,総所得金額51億5698万7538円から所得控除の額の合
計額693万9225円を控除した後の金額(ただし,国税通則法118条1
項により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。。
(5)納付すべき税額
18億4258万2300円
上記金額は,次のアの金額からイないしエの各金額の差引後の金額(国税通
。。則法119条1項により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)である
ア課税総所得金額に対する税額
19億0302万7760円
上記金額は,課税総所得金額51億5004万8000円に所得税法89
条1項の税率(経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び法人
税の負担軽減措置に関する法律(平成17年法律第21号による改正前のも
の。以下「負担軽減措置法」という)4条を適用したもの)を乗じて算。。
出した金額である。
イ外国税額控除額
3321万2762円
上記金額は,原告が本件申告書に記載した外国税額控除額と同額である。
ウ定率減税額
25万円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項により算出した定率減税額である。
エ源泉徴収税額
2698万2643円
上記金額は,原告が本件申告書に記載した源泉徴収税額と同額である。
2本件更正処分の適法性
原告の平成14年分の所得税の納付すべき税額は18億4258万2300
円であるところ,本件更正処分に係る納付すべき税額と同額であるから,本件
更正処分は適法である。
3本件賦課決定処分の根拠及び適法性
(1)本件更正処分は適法であるところ,本件更正処分により新たに納付すべき
税額の計算の基礎となった事実のうち,本件更正処分前における税額の計算の
基礎とされなかったことについて国税通則法65条4項の正当な理由は認めら
れない。したがって,本件更正処分により原告が新たに納付すべきこととなっ
た税額を基礎として,次のとおり計算して行った本件賦課決定処分は適法であ
る。
(2)過少申告加算税
2億7662万3500円
上記金額は,本件更正処分による新たに納付すべき税額18億5881万円
(国税通則法118条3項により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。以
下同じ)を基礎とし,これに同法65条1項に基づき100分の10を乗じ。
た金額1億8588万1000円と,同条2項に基づき期限内申告税額に相当
する税額4396万0660円を超える部分に相当する金額18億1485万
円に100分の5の割合を乗じた金額9074万2500円との合計額である。
以上

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